ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2022年12月

北無人機の韓国侵入が見せた近未来

 悲しい事実だが、人類はいつの時も戦争をしてきた。戦いも騎馬戦から歩兵戦に始まり、銃撃戦、砲撃戦、そして戦闘機が開発され、空中戦が展開されてきた。多くの犠牲者が出た。第2次世界大戦後、大量破壊兵器による核戦争はその寸前までいったことがあったが、幸いこれまで行われなかった。核の抑止力が全面戦争を回避させてきたわけだ。その代わりといっては可笑しいが、無人機による攻撃が頻繁に行われてきた。近未来のロボット戦への伏線かもしれない。

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▲大型無人機「ガザ」(IRIB通信社から)

 例えば、ウクライナ戦争では戦車、兵士などが大量に動員され、地上戦が行われ、その後はミサイル攻撃に移り、陸や海からミサイル攻撃が繰り返されてきた。そしてここにきて無人機による攻撃が報告されている。人的犠牲を最小限に防ぐために、無人機、ロボット兵器が今後、戦争で主要な役割を果たすことになるかもしれない。

 それでは、戦争で無人機、ロボット兵器が主要な戦争の武器となることで何が変わるだろうか。攻撃する側には人的被害を最小限に抑えられるメリットがある一方、生物・化学兵器、ダーティ爆弾が搭載できる無人機が出撃すれば、攻撃を受けた側に大きな被害をもたらす。地対空ミサイル防衛システムがより高性能となったとしても、数十機、数百機の無人機の集中攻撃を受けた場合、地対空ミサイルも限界だ。

 ウクライナ軍は「ロシアからの80発のミサイル攻撃中、70発余りを撃墜した」とその戦果を報告していたが、高価な攻撃ミサイルではなく、安価で小型の無人機、それも大量の無人機による攻撃を完全に防御することは難しく、撃墜率の低下は避けられない。

 北朝鮮の5機の小型無人機が26日、韓国領空に侵入したというニュースを聞いた。北朝鮮問題といえば、核トライアド(大陸間弾道 ミサイル、弾道ミサイル搭載潜水艦 、巡航ミサイル搭載戦略爆撃機の3つの核兵器)が主要テーマだったが、無人機が加わることで、北の軍事力、日韓への攻撃力は飛躍的に拡大することが予想される。

 韓国の首都ソウルに姿を現した北の無人機に対し、「なぜ撃墜しなかったのか」といった批判の声が上がっていると聞くが、韓国関係者によると、「戦闘機は無人機の撃墜を避けた」というのだ。その理由は「撃墜した場合、地上で民間人が犠牲になる危険性が考えられた。無人機に化学兵器が搭載されていたならば大惨事だ。そのため、韓国空軍パイロットはあえて撃墜しなかった」という。韓国筋によると、領空内に侵入してきた無人機の場合、撃墜するかはパイロットが自主的に判断する」という。時間が十分ないということもあるが、パイロット以上に無人機の様子を目撃できる立場の者はいないからだ。

 5年前、北の無人機が侵攻した時、韓国側は撃墜し、北の無人機を回収して調べたことがある。韓国側によると、「北の無人機は初歩的な技術で製造されていた」という。韓国側はその後、北の無人機を撃墜し、それを回収してチェックしたことはないから、北の無人機の性能を正確には掌握していない。

 ロシアは北朝鮮から武器や銃弾などを入手している、というニュースが流れたが、ロシア軍が現在使用している無人機はイラン製が多い。プーチン大統領は無人機の国内生産を急がせている。北朝鮮の無人機がロシア軍のウクライナ戦争で使用されているかは不明だが、完全には排除できない。明らかな点は、ウクライナ戦争がさらに長期化する一方、ウクライナ側が欧米製の最新武器を入手していくならば、ロシア側は自国産だけではなく、同盟国からの重火器入手、無人機の投入を検討することは間違いないだろう。

 例えば、イラン製無人機だ。「ガザ」と命名された大型無人機は監視用、戦闘用、偵察任務用と多様な目的に適し、連続飛行時間35時間、飛行距離2000km、13個の爆弾と500kg相当の偵察通信機材を運搬できるという。イスラエルはイラン側の軍事力の強化に脅威を感じると共に、パレスチナのガザ地区のイスラム過激派組織「ハマス」がイラン側の軍事支援を受けてその攻撃能力を強めることを警戒している。

 無人機が戦闘で大きな役割を担うことで、戦闘はこれまで以上にコンピューターのウォー・ゲームのようになっていく。ボタン一つで相手側のターゲットを破壊できる。攻撃する側は戦場を目撃しないこともあって、戦場で戦死する兵士の数は減少する一方、無人機による民間人などを含む犠牲者は増加することが予想される。

 日本は米国から地対空ミサイルシステム「パトリオット」を購入しているが、北から核弾頭ミサイルだけではなく、化学兵器などを搭載した無人機が大量に襲撃した場合のシナリオを検討しなければならない。北朝鮮からの無人機攻撃という新たな脅威が生まれてきたのだ。韓国領域内に侵入した北の無人機はその夜明けを告げるものだ。

 ちなみに、北側が5機の無人機を韓国領域内に侵攻させたのは、韓国側の領空防備体制を調べるという意味合いもあるが、それ以上に性能を向上させた北製無人機をロシアや関心を有する国にオファーするための一種のプレゼンテーションだったのではないか。敵国の領域内に入り、ターゲットを破壊できる高性能の無人機を大量生産する狙いがあるのではないか。

 無人機の場合、攻撃ミサイルとは違い撃墜はしやすいかもしれないが、生物化学兵器搭載の可能性がある無人機を容易には撃墜できないから、無人機防御システムは別の意味で難しいわけだ。今回の韓国側の対応をみれば、そのことが理解できる。

 無人機は本来、人が入り込めない地域や空間を観察し、撮影し、運送できる目的で開発されたが、全てはデュアル・ユースだ。人類のために貢献する一方、人類を破壊する目的のためにも利用できる。どちらを選択するかは人間の判断にかかっている。無人機の場合も同じだろう。いつものことだが、問題解決のカギは外ではなく、私たち一人ひとりの中にあるわけだ。


 2022年は過ぎ、明日から新しい2023年が始まる。「人は如何にしたら良くなるか」という大きなテーマを新年は読者の皆さんと共に考えていきたい。この一年、お付き合い下さりありがとうございました。どうぞ良き新年を迎えられますように。

コソボは米ロの代理紛争地に

 「民族の火薬庫」と恐れられてきたバルカンで再び、不穏な動きが見え出した。セルビアと同国から2008年2月に離脱して独立したコソボとの間で民族紛争の再発の動きが出てきた。オーストリア国営放送は「コソボとセルビアの間の状況は日に日に悪化してきた」と報じている。

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▲コソボ北部のセルビア系住民地域の道路封鎖(オーストリア国営放送のスクリーンショットから)

 セルビアのヴチッチ大統領は軍に厳戒態勢を敷くように命令する一方、コソボ国境近くのラシュカの町にある軍の兵舎を訪問した。そして訪問に関するInstagramの投稿で、同大統領は、「コソボのセルビア人を保護するためにセルビア軍はできる限りのことをする」と書いている。今月初めには、セルビアのアナ・ブルナビッチ首相は、コソボのアルビン・クルティ首相がコソボのセルビア人を危険にさらし、この地域の武力紛争を危機に陥れたと非難し、公然と警告している。一方、コソボ側はセルビアへの最大の国境検問所を閉鎖するなど、セルビア人少数民族の本拠地であるコソボ北部の緊張は12月以来、夜間の警察官への発砲、多数の道路封鎖などで懸念が高まってきた。

 セルビアとコソボ間の紛争がエスカレートしたきっかけは、車のナンバープレートをめぐる争いだ。コソボ政府は、国の領土内の交通を完全に制御するために、国の北部に住むセルビア人の少数派のメンバーに、セルビア人のナンバープレートをコソボのものに交換するよう強制した。欧州連合(EU)の調停を受け、コソボ政府が11月、EUへの加盟申請も視野に入れて、ナンバープレートの改革を断念し、延期したことで一応幕を閉じたかのようみえた。

 しかし、北部地域の何百人ものセルビア人の警察官、裁判官、その他の役人が、プリシュティナの政府に抗議し、セルビアの主要政党は、12月18日にコソボ北部のセルビア人が多数を占める地域で予定されていた地方選挙のボイコットを発表した。約2週間前から、セルビア人はコソボ北部の重要な田舎道にバリケードを築いた。これまで銃撃事件が3件発生している。ヴチッチ大統領はその直後、セルビア人の少数派に対する故意の差別についてクルティ政権を非難した。一方、コソボ政府は、ブチッチ大統領がコソボのセルビア人を扇動し、状況を不安定化させようとしていると反論した、といった具合だ。

 ただ、セルビアのヴチッチ大統領は29日、コソボとの紛争の契機となったコソボ北部でのセルビア系住民による道路封鎖を解除することでセルビア系住民との間で合意し、解除作業が同日にも開始するという。実行されるかは現時点では不明だ。

 セルビアとコソボの両政府は2013年、EUの仲介により正常化協定に合意したが、それ以来、これほど対立が激化したことはない。ベオグラードとプリシュティナの間の通信経路は現在、明らかにブロックされている。ただ、バルカンウオッチャーは、「プリシュティナの政府もベオグラードの政府も、状況が軍事的にエスカレートする危険を冒すことはないだろうが、現在の展開を非常に注意深く観察する必要がある」と受け取っている。北大西洋条約機構(NATO)の管轄下のコソボ治安維持部隊(Kfor)は現在、3400人の兵士がコソボに駐留し、紛争の防止に当たっている。

 コソボは90%以上がアルバニア系住民だが、同国北部には約5万人のセルビア人が住んでいる。セルビアは2008年に独立を宣言したコソボを認知せず、コソボを離脱領土と見なし、その領土の権利を主張してきた。

 EUはセルビアとコソボ両国に対し、関係の正常化をEU加盟の最大の条件としてヴチッチ大統領とコソボのアルビン・クルティ首相に圧力をかけてきた。具体的には、セルビアに対してはコソボの独立の認知、その見返りにEUからの財政支援だ。参考までに、コソボの主権認知をしている国は目下110カ国余りだ。ロシアや中国は拒否し、EU加盟国でも国内の少数問題もあって認知を拒否している国がある。

 米国はバルカン半島ではコソボを重視し、昨年からコソボ問題に通じた外交官、クリストファー・ヒル氏をベオグラードの米国大使に送っている。ヒル氏は1999年のコソボ交渉のコンタクト・グループのメンバーだった。

 一方、ロシアはセルビアとは伝統的な友好関係を維持してきている。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、「われわれは歴史的にも精神的にも、セルビアと同盟国として非常に緊密な関係を築いている。わが国はベオグラードがとる全ての措置を支持する」と述べている。それに対し、コソボ政府は「ロシアはセルビアに影響を与え、コソボの不安定化を図っている」と受け取っている。

 ヴチッチ大統領は12月初旬の西バルカン首脳会議で、ウクライナ戦争でロシアの味方だったという事実をきっぱりと否定し、「私たちはEUに対する義務を認識している。セルビアは独立国であり、国益を重視する。コソボ問題では、ロシアはセルビアにとって特に重要だ。拒否権を持つロシアは、コソボの国連加盟を阻止することができるからだ」と述べ、欧米とロシアの両陣営に対して国益重視の外交を強調している。

 セルビアは最大の貿易相手であるEUへの加盟を目指しているが、NATO加盟は望んでいない。NATO軍が1999年、コソボ戦争の時、ベオグラードなどを空爆した際に多くの被害を受けたトラウマが払しょくできないこともあって、セルビアはNATOに強い反発を有している。ただし、NATOの「平和のためのパートナーシップ」(PfP)プログラムには参加している。

 旧ソ連共産党時代からバルカンはロシアの勢力圏と受け取られてきた。ウクライナ戦争下のロシアはバルカンの盟主セルビアをロシア支持に留めておくためにプロパガンダ工作を増強し、コソボ問題では故意に火に油を注いでいる面がある。プーチン大統領は、EUとNATOによる西バルカン半島のさらなる統合を阻止するために緊張を高く保ちた狙いがある。その最前線がセルビアとコソボ間の紛争だ。ロシアは万一に備えてセルビアへの支援を既に約束している。

 セルビアとコソボ間の問題は米国とロシアの小さな代理紛争のような様相がある。そして米ロ間の狭間にあって、EUはセルビアとコソボに欧州統合というカードを駆使して両国関係の正常化を推し進めるために圧力を行使している、といった構図だろう。

プーチン氏とキリル1世は「サタン」?

 たとえその言動が気にくわないとしても、その人を「悪魔」(サタン)呼ばわりするのは賢明とはいえない。ウクライナ国家安全保障会議のオレクシー・ダニロフ書記官は28日、ウクライナ正教会指導部に対し、「モスクワから距離を置くように。ロシアと関係がないのならば、プーチン(大統領)を悪魔と呼ぶべきだ」と要求したのだ。ウクライナ正教会関係者との内々の話し合いの場で要求したのではなく、テレビのカメラの前でそのように主張したのだ。

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▲ドニエプル川から見たキーウ・ペチェールシク大修道院(洞窟修道院)ウィキペディアから、Norbert Aepli氏撮影

 話を進める前に、ウクライナ正教会の状況を簡単にまとめる。ウクライナ正教会は本来、ソ連共産党政権時代からロシア正教会の管轄下にあったが、2018年12月、ウクライナ正教会はロシア正教会から離脱し独立した。その後、ウクライナ正教会と独立正教会が統合して現在の「ウクライナ正教会」(OKU)が誕生した。

 ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、キーウ総主教庁に属する正教会聖職者(OKU)とモスクワ総主教庁に所属する聖職者(UOK)が「戦争反対」という点で結束してきた。ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)の首座主教であるキーウのオヌフリイ府主教は2月24日、ウクライナ国内の信者に向けたメッセージを発表し、ロシアのウクライナ侵攻を「悲劇」とし、「ロシア民族はもともと、キーウのドニエプル川周辺に起源を持つ同じ民族だ。われわれが互いに戦争をしていることは最大の恥」と指摘、人類最初の殺人、兄カインによる弟アベルの殺害を引き合いに出し、両国間の戦争を「カインの殺人だ」と呼び、大きな反響を呼んだ。

 その後、モスクワ総主教のキリル1世を依然支持するウクライナ正教会(UOK)は5月27日、全国評議会でモスクワ総主教区から独立を決定した。曰く「人を殺してはならないという教えを無視し、ウクライナ戦争を支援するモスクワ総主教のキリル1世の下にいることは出来ない」という理由だ。ロシア正教会は332年間管轄してきたウクライナ正教会を完全に失い、世界の正教会での影響力は低下、モスクワ総主教にとって大きな痛手となった。

 上記のダニロフ書記官が「プーチンを悪魔と呼ぶべきだ」と要求したウクライナ正教会はUOKだ。ウクライナ側は、UOKはロシア正教会から別れ、プーチン大統領のウクライナ侵略を非難してきたが、依然モスクワと協力している、との疑いを持ち続けている。そのため、UOK関連の施設をこれまで数回捜索してきた。そして今回、ダニロフ書記官はテレビの前でUOKに対し、プーチン大統領、そして大統領の戦争を支持するロシア正教会最高指導者キリル1世を「悪魔」と呼ぶべきだと要求したのだ。

 同書記官の要求は、世界的に有名なキーウ・ペチェールシク大修道院にある正教会の所在をめぐる論争の中から飛び出したものだ。ウクライナ指導部はUOKに対し、モスクワから距離を置くよう強く求めてきた。キエフの洞窟修道院に対する教会のリースは、年の変わり目に終了するのを受け、パヴェル・レベジ洞窟修道院長は、ウクライナのゼレンスキー大統領にリースの延期を求めてきた経緯がある。

 ウクライナ戦争では、ロシア軍によるマリウポリの廃墟化や“ブチャの虐殺”など多くの民間人が虐殺されてきた。ウクライナ国民にとって、ロシア軍、そしてその最高指導者プーチン大統領は悪魔のような存在だ。その戦争を支持する精神的指導者キリル1世に対しても同様だろう。主権国家に一方的に侵攻し、戦争犯罪を繰り返すロシア側は侵略者と呼ばれても弁解の余地はない。

 一方、キリル1世は低堕落の西側社会を「悪」と呼び、ロシアを正義として信者に「善悪の戦い」を呼び掛けてきた。キリル1世はロシアのプーチン大統領を支持し、「ウクライナに対するロシアの戦争は西洋の悪に対する善の形而上学的闘争だ」と強調し、西側社会の退廃文化を壊滅させなければならないと強調する。中途半端な勝利は許されないから、戦いには残虐性が出てくる。相手を壊滅しなければならないからだ。ロシア正教会から離脱したウクライナ正教会に対し、モスクワでは「サタン宗教」と呼ぶ声が聞かれるほどだ。

 ダニロフ書記官が今回、UOKに対し、ロシア側と同じ土俵に上がって「プーチン氏とキリル1世はサタン」と叱責したわけだが、賢明とはいえない。喜ぶのは、悪魔だけだ。紛争を不必要にエスカレートさせ、停戦の可能性を一層難しくさせてしまうからだ。それこそ悪魔の仕業だ。いずれにしても、ロシアの戦争犯罪行為は国際社会の法廷で裁くべきテーマだ。

コロナ・パンデミックは収束した

 ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)によると、Covid・19のパンデミックは収束したという。ウイルス学者の教授は26日、独日刊紙「ターゲスシュピーゲル」とのインタビューで、「ドイツで現在、多くの病原体が流行しているが、コロナ・ウイルスはマイナーな役割しか果たしていない。この冬は最初の風土病のCovidの波が来るだろう」と指摘している。

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▲ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(独日刊紙ターゲスシュピーゲル電子版12月26日から)

 同教授は、「今の冬が過ぎると、国民の集団的免疫は非常に広範で弾力性があり、ウイルスは来夏までその感染力を維持できない。唯一の制限はコロナ・ウイルスの変異だが、現時点ではそれも非現実的だ」というのだ。要するに、中国武漢発の新型コロナウイルスは3年後、その牙をを収め、通常の風土病になったというわけだ。ドロステン教授の警告解除表明といえるわけだ。

 コロナのパンデミック終了宣言はドロステン教授だけではない。編集ネットワークドイツ(RND)とのインタビューで、連邦政府のコロナ専門家評議会のメンバーで集中治療医のクリスチャン・カラギアニディス博士は、「小さな波はまだ来るだろうが、コロナのパンデミックは段階的に収束するだろう」と予測している。

 ドイツでは国民の免疫状況は堅調であり、集中治療室にいるCovid患者は大幅に減少している。常設ワクチン接種委員会(STIKO)のトーマス・メルテンス委員長は10月末に、「現在、コロナは風土病だ。パンデミックは主に、人々が免疫学的経験のない世界的に未知の病原体が集団に侵入するという事実によって定義されるが、それはもはや当てはまらない」と語っていた。

 ドロステン教授は今年1月初めに、「年末までにはパンデミックは収束を迎え、風土病的な状況(endemischen Zustand )に近づくだろう」と予測していたから、状況はその通りになってきたわけだ。教授は、「われわれはコロナウイルスを防ぐために全国民に長期的にワクチン接種を持続的に行うことは出来ない。ウイルスは最終的には全ての国民に感染するだろう。それを回避することは出来ない。Sars-Cov-2(新型コロナウイルスの正式名称)を完全に制御下に置くことができると考える人はいたが、それは間違いだ。一方、Sars-Cov-2が無害であると考え、ウイルスの感染による集団免疫説が正しかったという意味ではない」という。(「『パンデミック』から『風土病的状況』へ」2022年1月18日参考)。

 教授の説明によると、ワクチン接種を進めながら、コロナ感染の爆発をコントロールしていき、ワクチン接種率がある段階に到達すれば、ウイルスに感染の自由ハンドを与え、人間は免疫力を更新していく。そしてウイルスと人間が共存できる段階に入っていくというシナリオだろう。その段階になれば、コロナウイルスはパンデミックではなく、風土病的な状態に置かれるわけだ。

 ドロステン教授のコロナウイルスのパンデミック収束宣言を受け、ブッシュマン法相は、「コロナ規制の完全撤廃を実施すべきだ」と要求している。

 懸念材料は中国のコロナ感染状況だろう。12月7日、中国は習近平国家主席の「ゼロコロナ」政策から規制緩和に乗り出してきたが、ここで新規感染者が爆発的に急増してきていることだ。中国製ワクチンの効果を疑う声すら聞かれる。米国からワクチン提供の申し出もあったが、中国側はこれまでそれを断っている。

未確認の内部推計によると、中国での大規模な感染で今月最初の3週間に2億4800万人がコロナに感染した。それは人口の18%に当たる。中国南西部の四川省の8100万人の住民、首都北京の2100万人の住民の半分以上が感染しているという。病院は過密状態にあり、多くの火葬場では死体を十分に迅速に火葬することができなくなっているというのだ。専門家の予測によると、数十万人の死者が予想されている。中国当局は感染者数、死者数の公表を中止している。感染の爆発で全容を掌握することが難しくなってきたからだ。中国で数億人の感染者が出てくれば、ウイルスの変異株が生まれる可能性も完全には排除できないから、要注意だ。

 新型コロナウイルスの感染起源問題は感染から3年が過ぎた現在もまだ全容解明されていない。中国側が感染初期段階のウイルス・データを公表拒否していることが最大の理由だ。パンデミック3年目に入って、欧米ではパンデミック収束宣言が飛び出してきた一方、中国共産党政権はこれまで「ゼロコロナ」でコロナ根絶で成果を上げたと自負してきたが、感染者が爆発的に増加し、対応に苦慮している。

 ちなみに、ドロステン教授は中国の感染状況について、「中国の大きな過ちは、国民、特に高齢者の間でワクチン接種に対する意識がなかったことだ。一方、ドイツやヨーロッパでのワクチン接種キャンペーンは、パンデミックと戦うための決定的なステップだった」(ターゲスシュピーゲル紙)と述べている。

 コロナウイルス発生起源問題の全容解明には中国の協力が不可欠だ。ウイルス感染症の戦いは人類の戦いであり、国や体制の壁を越えて連帯しなければならない。これが、世界で27日現在、累計感染者数約6億5990万人、死者数668万8524人を出した中国発のコロナ・パンデミックの教訓だったはずだ。

メドベージェフ元大統領の変身

 ロシアのドミトリー・メドベージェフ元大統領の言動がここにきて活発となっている。メドベージェフ氏はロシアの官報「ロシースカヤ」に寄稿し、「ロシアの核戦力だけが西側がロシアに宣戦布告するのを防いでいる。実際の脅威が発生した場合、それに応じて行動する」と述べ、「西側諸国は、可能な限りロシアを辱め、侮辱し、解体し、全滅させたいという燃えるような願望と、核戦争という黙示録を避けたいという願望の間で揺れ動いている」と強調し、新しい軍縮協定は現在、非現実的で不必要だと書いている。

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▲メドベージェフ氏、習近平国家主席と会談(2022年12月21日、新華社日本語公式サイトから)

 今月中旬には、メドベージェフ氏は自身のテレグラムチャンネルで、ウクライナに大量の武器を供与する北大西洋条約機構(NATO)の加盟国を「ロシアへの攻撃を意味する。敵はキエフ県だけでなく、ロシア帝国に属していた今日のウクライナ全土に手を伸ばしてきた」としてNATO加盟国への攻撃を脅している。それだけではない。ロシア軍のウクライナの軍事および民間インフラ攻撃について、「ロシアと公式に戦争状態にある国、または敵の同盟国にある軍隊や民間のインフラを攻撃することは正当だ」と主張している。

 そのメドベージェフ元大統領は21日、突然訪中し、中国の習近平国家主席と北京の釣魚台迎賓館で会見した。中国側の発表によると、習近平主席はロシア前大統領で与党「統一ロシア」のトップで、安全保障会議の副議長であるメドベージェフ氏とウクライナ情勢について意見を交換し、「ウクライナ危機に関係するすべての人が自制を行使することを希望する」と表明している。一方、メドベージェフ氏はテレグラムのチャンネルで、「習近平氏との会談は非常に有益だった」と語り、プーチン大統領の親書を渡したことを明らかにしたが、会談内容は語っていない。

 57歳のメドベージェフ氏は大統領在任期間(2008年〜12年)、比較的リベラルで親欧米的な代表者と見なされてきたが、ここにきて自分自身を強硬派に見せようと腐心している。オブザーバーは、メドベージェフ氏の狙いは自身のイメージをチェンジすることで政治的影響力を増し、プーチン氏の後継者候補に再浮上することではないか、と分析する。その意味で、習近平主席との会見は彼にとって重要なアップグレードを意味したはずだ。明確な点は、ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、メドベージェフ氏の発言は過激化していることだ。

 プーチン大統領はほぼ23年間、ロシアで最も権力のある人物に君臨している。プーチン氏は現在70歳であり、2036年までロシアの大統領に留まることができる。そのプーチン氏が何らかの理由で職務履行不能となった場合、後継者問題が出てくる。

 ロシアの憲法によると、最高指導者は大統領、第2位はミハイル・ミシュスチン首相(56)、第3位は連邦議会のワレンチナ・マトヴィエンコ議長(73)、第4位は下院のヴャチェスラフ・ヴォロージン議長(58)だ。もちろん、プーチン氏のウクライナ戦争に不満をもつ一部の軍指導部のクーデターも完全には排除できない。同時に、メドベージェフ氏が軍指導部に担ぎ出され、カムバックするチャンスも十分に考えられる、同氏の最近の言動はその可能性を匂わせている。

 現憲法に従うならば、ミシュスチン首相が暫定大統領になり、その3カ月以内に選挙が行われ、そこで新大統領が選ばれる。誰が最終的にプーチン氏の後継者になるかは不明だ。プーチン氏自身、自身の後継者を決めていない。プーチン氏は自身の権力を継承する“皇太子”を不在にすることで、自身のトップの座を堅持してきたからだ。

 ロシア軍がウクライナに侵攻して今月24日で10カ月が過ぎた。プーチン大統領はここにきて停戦についてその可能性を示唆しているが、ロシア側からもウクライナ側からも実効性のある停戦案は聞かれない。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍が占領した全領土からの撤退を停戦の条件に挙げ、譲歩していない。ロシア軍の弱体化は歓迎すべきだが、ロシアとの全面的戦闘は回避したい米国側の狙いとはその意味で完全には一致していない。

 いずれにしても、戦争は始めるより、停戦するほうが難しいといわれている。ウクライナ戦争も同様だろう。ウクライナ戦争の動向次第では長期政権を誇ってきたプーチン大統領の地位も万全とはいえない。それだけに、2023年はゼレンスキー大統領が予想したように「大きな転機を迎える」ことはほぼ間違いないだろう。

クルド民族を考える

 パリ市内のクルド系コミュニテイで23日、69歳の白人主義者で外国人排斥主義者が銃を発砲して3人のクルド人を銃殺し、3人に重軽傷を負わせる事件が発生したというニュースに接して改めて「国を持たない最大の民族」と呼ばれるクルド人の運命を考えた。

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▲サンピエトロ大聖堂でクリスマスのメッセージを発表するフランシスコ教皇(2022年12月25日、バチカン・ニュースから)

 クルド人といってもシリア系、トルコ系、イラン系、イラク系など中東各地に住んでいる民族で、その総数は3000万人から4000万人を超えるともいわれる。クルド人の主要宗派はイスラム教スンニ派だが、それぞれ独自の民族的気質を有し、その政治信条も異なることが少なくない。フランスにはトルコ系のクルド人が多数住んでいるが、音楽の都ウィーンにはトルコ系だけではなく、シリア系、イラク系などのコミュニティが存在する。彼らはクルド系民族の国家建設を願っている点では一致しているが、その方向性、手段などで異なっており、時には対立して身内紛争を起こしている。

 クルド系社会を取材するためにウィーンのクルド系活動家に会ったことがあるが、その年の終わりごろ、ウィーン警察当局から突然、呼び出しを受けた。ザルツブルクで拘束されたクルド系活動家が当方の名刺を持っていた、という理由からだ。同活動家はクルド労働者党(PKK)に近いクルド人だったこともあって、警察はPKKと当方の関係などを疑った。当方が取材でその活動家に会う際、当方の名刺を渡したことは事実だが、あくまで取材活動で政治的な関係はないと説明し、疑いは解消したが、クルド系社会はテロ活動をするグループもあって治安関係者からマークされているのを痛感した。例えば、トルコはPKKをテロ組織と見なしている。

 冷戦終焉後、旧ソ連共産圏や旧ユーゴスラビア連邦に帰属してきた共和国が民族的、国家的アイデンティティを要求して次々と独立国家を宣言した。クルド系民族でも一時は中東全域に散らばった民族の統合、クルド人国家の建設をアピールする動きはあったが、シリア系クルド人、トルコ系クルド人、そしてイラク系クルド人などの間で民族のアイデンティティに相違が表面化し、統一クルド国家の建設は見果てぬ夢となっている。62万人余りの小国家モンテネグロが旧ユーゴスラビア連邦の解体を受け、独立国家となった一方、人口ではウクライナに匹敵するクルド系民族は国家を建設できないでいる。クルド人を悲しき民族と呼ばれる所以だ。

 話は少し哲学的となる。国連加盟国は創設時の1945年は51カ国だったが、現在は193カ国だ。オブザーバーなどを含めると200を超える国家、代表が所属している。加盟国数が増えるにつれ、国連は世界の平和実現といった目標から離れてきている。常任理事国の拒否権だけが問題ではない。加盟国が増え、各国がそのアイデンティティ、国益を主張するため、国連本来の機能が発揮できない。アイデンティティ文化の危機だ。 

 独週刊誌シュピーゲル(10月29日号)に啓蒙的なインタビュー記事が掲載されていた。イスラエルの哲学者オムリ・ベーム氏(現ニューヨーク社会調査ニュー・スクール教授)は新著「Radikaler Universalismus.Jenseits von Identitat」(過激な普遍主義、アイデンティティを越えて)の中で、アイデンティティに代わって、カントが主張した道徳法則を自身の義務と考える自由を有し、それゆえにわれわれは責任を担っているという普遍主義を主張している。

 権力と利益が中核となった“ポスト・トゥルース”の世界で、正義を取り戻すために、右派は伝統と民族的価値観の世界を追求し、その結果、権威主義的、独裁的な国家の温床となる危険性を内包している。一方、左派はジェンダーと民族のアイデンティティを重視している。そのような中、ベーム教授は、「プライベートなアイデンティティを最高の価値に置くのではなく、“わたしたちのアイデンティティ”の世界を越えたところにある法則、われわれは平等に創造された存在であるという絶対的な真理のもとで考えるべきだ。そうなれば、他国を支配したり、植民地化し、奴隷にするといったことはできない」という“過激な普遍主義”を提唱している。

 ベーム教授の主張は理想論かもしれないが、アイデンティティ論を考えるうえで教えられる。他民族や大国に支配されてきた少数民族や国家は、民族・国家のアイデンティティの回復を最優先とし、時に戦いを始める。それがこれまでの歴史だった。しかし、失った正義を取り戻すためにはそのアイデンティティを超克しなければならないのだ。

欧州で暗躍するロシアのスパイ活動

 ドイツで21日、首相直属機関の情報機関「連邦情報局(BND)」の上級職員が、ロシアに国家機密を漏らしたとして、反逆容疑で逮捕された。それに先立ち、今月19日、オーストリアで39歳のロシア系ギリシャ人が国家機密をロシアに流していたことが発覚したばかりだ。一見、両スパイ事件は発覚時期が近いだけで無関係のようだが、両スパイ事件には共通点がある。

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▲コンピューターのビッグ・データ分析(BND公式サイトから)

 BNDのカーステン・Lとオーストリアの39歳のスパイ容疑者は不法に入手した情報をロシアに流していた。前者はドイツ人であり、後者はロシア系のギリシャ人だ。

 まず、ドイツのケースを整理する。容疑者カーステン・LはBNDの上級職員だ。LはロシアにBNDの機密情報を流していた。LはBNDで同盟国の情報機関から得た最高機密に接することができる立場にあった。すなわち、ドイツの対外情報局の最高機密を取り扱う外国偵察分野の上級職員であり、BNDが世界中から集まってきた盗聴情報などを分析する責任をもっていたのだ。

 カーステン・Lは12月21日、ロシアのためにスパイをし、ロシアの諜報機関に情報を送信していた容疑で逮捕され、拘留されている。連邦検察庁は、彼の犯罪を「反逆罪の疑いがある」と呼んでいる。反逆罪とは、ドイツでは「刑法第93条の意味する国家機密」を不法に流すことでドイツ連邦共和国の対外安全保障に重大な損害を与えた事例を意味する。ブッシュマン法相は「警戒しなければならない犯罪だ」と述べている所以だ。

 Lが入手できた資料には、米国の国家安全保障局 (NSA) や英国の傍受サービス政府通信本部 (GCHQ) からの機密情報も含まれていたはずだ。それゆえに、Lを通じて友好的なシークレットサービスからの情報をロシアが入手していた可能性が出てくるわけだ。ハベック独経済相はこの事件を「特に心配している」と憂慮したのは当然だろう。例えば、産業スパイに対する防御に関連する情報もあるからだ。

 ブッシュマン独法相はBNDの今回の対応を評価し、「疑惑が確認されれば、ロシアのスパイ活動に対する重要な打撃となるはずだ」と述べている。この事件はロシアがドイツの政情を不安定にするために、スパイ活動をしていることを改めて明らかにした、と受け取られている。

 BNDのブルーノ・カール長官は事件に関し、「現時点でこれ以上の情報公開はできない。捜査内容の詳細を公にすれば、ドイツを傷つけようとする意図を持った敵国を利するからだ」と述べている。

 このコラム欄でも既に報告したが、数日前、隣国オーストリアでもロシアのスパイが発覚したばかりだ。オーストリアの対諜報機関によると、ロシア系の39歳のギリシャ人は、ロシアの秘密情報機関「 ロシア連邦軍参謀本部情報総局」(GRU) のために数年間スパイ活動を行い、オーストリアの国益を害した疑いが発覚したという。オーストリア内務省が19日、公表した。容疑者は現役時代に外交官としてドイツとオーストリアに駐留していた元ロシア諜報機関職員の息子だ。

 39歳の容疑者は、ロシアで特別な軍事訓練を受けた後、GRUで働いていた。彼はさまざまな国の外交官や情報当局者と接触していた。容疑者はほとんど収入がないのにもかかわらず、2018年から22年初頭までの期間に、合計65回、オーストリア国内外を旅行している。他のヨーロッパ諸国だけでなく、ロシア、ベラルーシ、トルコ、ジョージアにも投資し、ウィーン、ロシア、ギリシャでいくつかの不動産を取得しているという。

 なお、アンチ・テロ対策のコブラ部隊は今年3月、ウィーン市22区の容疑者の拠点を襲撃し、信号検出器、聴取装置、防護服、携帯電話、PC、タブレットなどを押収、そこから数百万件のファイルが見つかっている。

 ロシアのプーチン大統領は今月19日、治安部隊に対し、「外国の諜報機関の行動は直ちに鎮圧されなければならない。裏切り者、破壊工作員、スパイは捕まえなければならない」と強調し、スパイ活動の強化と共に外国スパイ活動の撲滅を命令している。プーチン氏の治安部隊への発言は、欧米情報機関の関連情報がLを通じて伝わっていることを強く示唆している。

 NSAと米中央情報局(CIA)の元局員エドワード・スノーデン氏を思い出してほしい。米国がスノーデン氏のモスクワ移住で最も懸念したことは米諜報機関のエージェント名、拠点、モスクワ内の支援者名がロシア側の手に落ちることだった。そのため、米国側はスノーデン氏のロシア移住直前に、海外のエージェントの再編成を実施したことは間違いないはずだ。

 ところで、排除できない点は、39歳の容疑者がドイツのBNDのLと接触していた可能性だ。ひょっとしたら、今年3月にオーストリ治安関係者から尋問を受けた容疑者はBND内のLの存在を漏らしたかもしれない。押収されたファイルから情報提供者としてのLの名前が浮かび上がったのかもしれない。警戒しなければならない点は、ロシア軍のウクライナ侵攻以後、ロシアの治安機関の活動が強化されていることだ。

 蛇足だが、欧州で暗躍するロシアのスパイ・エージェントの4人に1人はウィーンに拠点を置いているという。ロシアのスパイは、東西両欧州の中間に位置し、中立国であり、国際都市のウィーンを愛している。「会議は踊る」と揶揄されたことがあるウィーンでは、舞踏会のシーズンとなれば到る処からワルツが流れる。ウィーンっ子はモーツァルトやベートーヴェンの音楽よりも、ヨハン・シュトラウスのウィンナー・ワルツを愛する。そのワルツに乗ってスパイたちが息を潜めながら舞い続けている。

露で存在感増すワグナー・グループ

 ロシアのプーチン大統領はウクライナ戦争でワグナーの傭兵グループ(Wagner-Gruppe)に依存してきた。民間軍事請負会社(PMC)のワグナー・グループはウクライナ東部のドネツク地方での戦闘で重要な役割を担当し、時には正規のロシア軍を指揮下に置いているという。

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▲「新年の希望の木」チャリティーキャンペーンに参加したプーチン大統領(2022年12月22日、クレムリン公式サイトから)

 ウクライナへの攻撃において、オリガルヒのエフゲニー・プリゴジン氏はワグナー・グループに毎月1億ドル以上を投入しているという。ちなみに、プリゴジン氏は2014年にウクライナのドンバス戦争に戦闘員を派遣するために「ワグナー・グループ」を設立。中南米やアフリカ諸国にも傭兵を派遣するなど様々な軍事活動に関わってきた。プーチン氏の全面的支援を受けるプリゴジン氏はクレムリン内でもその存在感を強めている。

 ワグナー・グループは、ロシア国防省とは独立し、 「プーチン氏の私兵」と呼ばれる。ドンバスの戦いでは何カ月もの間、ロシア軍はワグナーの傭兵に頼ってきた。「ワグナーが、ロシア軍や他のロシア省庁にとってライバル的な勢力となってきた」と受け取られている。

 ワグナー・グループの傭兵軍は最大5万人規模と推定され、そのうちの1万人が戦闘経験のあるベテラン戦闘人。傭兵の4万人はロシアの刑務所からの囚人兵の新兵という。過去数週間、ワグナーの傭兵たちは主にドネツク地域に配備された。ウクライナの都市バフムットでの戦いでは、約1000人の傭兵を失う大きな損失を被っている。

 興味深い情報は、ワグナー・グループが使用する武器は北朝鮮からの装備だという。ドイツ民間ニュース専門局n-tvが22日報じた。米国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、「ロシアの傭兵グループは戦闘では北朝鮮からの武器を使用している」と指摘。それに先立ち、ロイター通信社はアメリカ政府高官の発言を引用して、「北朝鮮が先月、歩兵が使用するミサイルを提供した」と報じていたが、それを裏付けたものだ。

 米軍関係者によると、「北から輸送された軍事物資の量は、ウクライナの戦争の行方を左右するほどではないが、北朝鮮が今後もワグナーに多くの戦争物資を供給しようとしていることに懸念を抱いている」と報じた。カービー報道官は、「北朝鮮は明らかに国連の制裁に違反している」と批判した。

 米諜報機関は9月初め、「ロシアが北朝鮮から弾薬を購入している」と報じていた。具体的には「米当局者は短距離ミサイルと砲弾の疑いがある」という。西側軍事専門家はロシアが北朝鮮から武器を入手していることについて、.蹈轡軍の武器が不足してきたこと、対ロシアの制裁が効果をもたらしていること、と分析している。

 なお、北朝鮮が11月、ロシアに鉄道で軍需物質を輸送したという情報について、北朝鮮外務省報道官は22日、「荒唐無稽で、事実ではない」と完全否定し、「事実無根の朝露間の武器取引説より、ウクライナ軍に殺人武器を提供している米国の行動に関心を注ぐべきだ」と反論している。

 参考までに、ベラルーシの民主化活動家アレシ・ビャリャツキ氏やロシアの団体「メモリアル」と共に2022年ノーベル平和賞を受賞したウクライナの人権擁護団体「市民自由センター」のリーダー、オレクサンドラ・マトイチュク氏はn-tvとのインタビューで、「プーチン大統領はウクライナ侵攻の理由としてウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題を挙げていたが、プーチン大統領はNATOなど恐れてはいない。恐れているのは自由だ。ウクライナが民主化され、ウクライナ国民が自由を得ることを恐れてきたのだ」と述べ、「ウクライナ戦争は単にウクライナとロシア間の戦いではなく、全体主義的独裁国と世界の民主国との戦いだ」と指摘し、「ウクライナ戦争を止めることができなければ、プーチン・ロシアは他の地域でもその覇権を拡大していくだろう」と警告を発している。

 プーチン大統領がウクライナ戦争でワグナーの傭兵グループに頼り、北朝鮮からは弾薬や軍事物質を入手している、という情報が事実とすれば、軍事大国ロシアの名が廃る。

戦争勝利への「決意表明」

 ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、ロシアとの戦争が始まって以来、初めて外遊し、米国のホワイトハウスを訪問、バイデン大統領と会談した。バイデン大統領は会談後の記者会見で、「ウクライナへの軍事支援を今後も続けていく」と述べた。具体的には、総額18億5000万ドル(約2400億円)規模の追加軍事支援として、地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」などの供与を約束した。

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▲国防省理事会拡大会議で演説するロシアのプーチン大統領(中央)左セルゲイ・ショイグ国防相、右ロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長(2022年12月21日、クレムリン大統領府公式サイトから、写真タス通信)

 パトリオットは、ロシア軍のミサイル攻撃や無人機攻撃などに対抗する地対空ミサイルで、ゼレンスキー氏は、「ウクライナの防空能力を大幅に強化できる」と歓迎している。

 ゼレンスキー大統領は米連邦議会の上下両院合同会議で演説し、第2次大戦時の米大統領フランクリン・ルーズベルトやチャーチル英首相の有名な演説の一部を引用し、「ウクライナ国民は絶対的な勝利を勝ち取る」、「ウクライナは降伏しない」と決意表明した。ゼレンスキー氏は、「米国のウクライナへの支援は決して慈善ではなく、世界の平和と民主主義への投資だ」と強調している(時事通信のワシントン発参考)。

 同じ時期、モスクワ国防省で開催された同省理事会拡大会議でロシアのプーチン大統領は軍部指導者に向けて演説し、「ロシアはウクライナでの戦いで勝利すると確信している。一歩一歩、軍事目標を実現していく」と説明し、ウクライナ戦争勝利への決意を同じように表明した。プーチン氏の演説は戦争で亡くなった兵士たちへの1分間の黙祷から始まった。演説はTVで中継された。

 プーチン大統領は、「ウクライナ戦争はロシア軍にとって貴重な経験だ。ソ連軍が勝利した1812年のナポレオンに対する愛国戦争や、第1次および第2次世界大戦を思い出し、勝利のために前進しなければならない」と檄を飛ばし、「われわれは先端武器を導入し、軍の再軍備を急がなければならない、例えば、無人機の利用だ。また、核戦力の戦闘準備を進めていかなければならない」と主張、改めてウクライナで核兵器を使用する意思のあることを示唆している。同時に、軍リーダーたちに、その軍事的活動の改善を要求する一方、「軍隊は150万人に増やす。建設的な批判には注意を払うべきだ」と語っている。プーチン氏の演説は、ウクライナでの全ての軍事目標を達成するという強い意志を再確認したものと受け取られている。

 なお、核兵器について、プーチン氏は演説の中で「私たちは、核トライアド(大陸間弾道 ミサイル、弾道ミサイル搭載潜水艦 、巡航ミサイル搭載戦略爆撃機の3つの核兵器)の戦闘準備を維持し、改善し続けている。それは、私たちの主権と領土の完全性、戦略的平等、そして世界の力の全体的なバランスが維持されるための主な保障だ」と述べている。

 興味深い事実は、ゼレンスキー大統領の訪米とプーチン大統領の国防省での演説が同じ日に行われたことだ。多分、プーチン大統領はゼレンスキー大統領の訪米という極秘情報を入手し、米国側のパトリオット供与を聞き、ロシア側の決意をウクライナ、米国に向かって表明したのだろう。米国のパトリオット供与に対し、プーチン氏は無人機を駆使し、必要ならば核兵器の使用を示唆するなど、軍事分野でもウクライナと米国に対抗する姿勢を鮮明化したわけだ。

 参考までに、プーチン氏は米国を含む西側がウクライナ問題で突っ込んだ対策をした時には必ずその前後に返答している。例えば、ドイツ南部バイエルン州のエルマウで6月26日から3日間の日程で先進7カ国首脳会談(G7サミット)が開催され、ウクライナ支援問題が協議された時だ。プーチン大統領は、ウクライナに武器を供給するG7を含む西側に対して答えている。具体的には、6月25日、核搭載可能な弾道ミサイルのベラルーシへの供給を表明し、同月26日にはキーウ空爆を再開、27日にはウクライナ中部のショッピングモール空爆と、G7開催期間の3日間、ロシア軍は立て続けにウクライナ空爆を強化している。今回の国防省理事会拡大会議の内容もその流れからみれば明らかだ。

 ゼレンスキー大統領の訪米とプーチン大統領の国防省での演説から、ウクライナ戦争はここしばらくは停戦の可能性は少なく、2023年の新年に入っても継続する可能性が一段と現実味を帯びてきた。ゼレンスキー大統領は「来年が転機となる」と語り、ロシア軍との戦いが大きな山場を迎えるだろうと予想している。

 なお、プーチン大統領は戦局を打開するために新年早々にもベラルーシ軍とロシア軍の連携によるキーウ制圧を再度考えている、という憶測が流れている。プーチン大統領は12月19日、ベラルーシを訪問、ルカシェンコ大統領と会見し、両国の軍事協力の強化で一致している。

 プーチン大統領もゼレンスキー大統領もウクライナ戦争の勝利を誓って決意表明しているが、一方が勝利すれば、他方は敗北を意味する。しかし、戦争で敗者は確かに存在するが、勝利者はいるのだろうか。

W杯決勝を視なかったローマ教皇

 驚いた。アルゼンチン出身のフランシスコ教皇は18日に国際サッカー連盟(FIFA)主催のサッカー世界選手権(W杯)の決勝戦、フランス対アルゼンチン戦を観戦しなかったというのだ。最初は信じられなかったが、バチカンニュースがフェイクニュースを流すことはないだろうから、教皇は母国アルゼンチンが前回優勝国のフランスと争う決勝戦を本当に見なかったのだろう。

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▲バチカン杯で優勝した小児病院チーム(2022年12月14日、バチカンニュースから)

 でも、どうしてか。“ペテロの後継者”ローマ教皇も人間だ。突然、40度の高熱に襲われたのだろうか。サッカーのメッカの南米出身のローマ教皇だ。母国チームが36年ぶりのW杯獲得を目指しているのだから予定を変更してTVの前に座って試合を観戦したとしても神の怒りを呼ぶことはないだろう。

 過去の教皇の中には、自国の重要なサッカー試合をぜひとも観戦したいため、教皇庁のプロトコールを変更した教皇がいた。教皇として27年間の長期政権を担当したポーランド出身のヨハネ・パウロ2世だ。教皇に選任された1978年の10月22日、落ち着かなかった。その夜、ASローマとFCボローニヤのサッカー試合がテレビで中継されるからだ。どうしても観戦したかった。そこでパウロ2世はプロトコールを早め、夜テレビ中継が観戦できるように調整したという。大したものだ。ちなみに、同2世はクラクワの子供時代、サッカーが大好きで、ポジションはゴールキーパーだった。

 フランシスコ教皇の場合、教皇に選出された直後、新教皇がアルゼンチンのサッカークラブ、サン・ロレンソ(San Lorenzo)のファンだというニュースが流れてきた。クラブのトリコー(ユニフォーム)を抱えて笑うブエノスアイレス大司教(現フランシスコ教皇)の写真が掲載されたほどだ。大司教は単なるファンではなく、同クラブメンバーに登録していたのだ。クラブへの熱意は中途半端ではない。南米はサッカーの王国だ。サッカーを理解できずに人を牧会できない。

 そのフランシスコ教皇が母国代表のW杯決勝戦をなぜ観戦しなかったのか。アルゼンチンの新聞「ラ・ナシオン」のバチカン特派員エリザベッタ・ピケ氏の証言によれば、18日の夜、教皇は1990年に聖母マリアに「もうテレビを見ない」という約束をしたという。そして教皇はその約束をこれまで忠実に守り続けているというのだ。

 バチカン放送はフランシスコ教皇が聖母マリアになぜ「もうテレビを見ない」と約束したのかについては説明していない。ブエノスアイレス大司教だったフランシスコ教皇が当時、聖務を忘れてサッカー試合に熱中したため、聖母マリアからお叱りを受けたからだろうか。

 フランシスコ教皇はW杯決勝戦をライブでは観戦しなかったが、試合の数時間前に、決勝戦についてイタリアの放送局カナーレ5とのインタビューに応じ、勝利チームへのメッセージを送っている。曰く、「誰もが勝者を祝福します。彼らは勝利を謙虚に受け取るべきです。最大の価値は勝つことではなく、公正かつ適切にプレーすることにあるからです」と強調し、「両チームは握手する勇気も持つべきです。私たちはスポーツマンシップを確実に成長させなければなりません。このワールドカップが、人を高貴にするスポーツマンシップの精神を活性化するのに役立つことを願っています」と語り、締めくくっている。

 当方はこのコラム欄で「なぜ、神様はサッカーを愛するか」(2014年9月3日参考)という記事を書いた。そこで「世界サッカークラブのトップを走るドイツのブンデスリーグには欧州選手だけではなく、アフリカ、アジア、中東から、と文字通り世界各地の選手が集まっている。彼らはゴールを目指し、ボールを追う。そこでは民族、宗派の違いはテーマではない。神様がサッカーというスポーツを愛するのは、そのためだろう」と書いた。その思いは今も変わらない。実際、フランス代表には昔の植民地出身のサッカー選手が多くいることに気づく。

 サッカーはカタールのモダンなルサイル競技場だけではなく、ボール1個あればどこでも楽しむことができるスポーツだ。野原でボールを追いかけっこする子供たちの姿はサッカーのルーツだろう。実際、バチカンにもクレリクス・カップ(Clericus Cup)というサッカーリーグが存在する。リーグ戦には19歳から57歳までの神学生、神父たちが、出身国別ではなく、機関所属別に分かれ、バチカン近くにあるペトリアナピッチで試合が行われる。バチカンニュースによると、小児病院チームがドンバウヒュッテのファブリカチームとの最終戦を3−0で勝利し、2022年のリーグ優勝に輝いている。

 母国に戻ったアルゼンチン代表を歓迎する凱旋パレートが20日、首都ブエノスアイレスで行われ、400万人以上の国民が集まった、というニュースが報じられた。国民は自国に栄誉をもたらした代表たちを迎え、日ごろの苦労を忘れて喜び、その勝利を導いた神に感謝を捧げる。サッカー・ボール1個が国民を結束させ、人々は勝利に酔って歓喜の声を上げ祝い踊る。南米では「サッカーは宗教」といわれる所以だ。

 アルゼンチン代表の主将リオネル・メッシ(35)はインターネット交流サイト(SNS)に「失望がなければ成功はやってこない。さあ行こう、アルゼンチン」(時事通信)と国民を鼓舞したという。
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