ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2022年11月

「死海文書」は何を明らかにしたか

 ベドウィン(遊牧民族)の子供が迷子となったヤギを探している時、死海の北西岸にある洞窟で、謎のパピルスの破片が入った粘土の瓶を見つけた。その中に多くの古文書があった。1947年11月だ。「20世紀の最大の考古学的発見」と呼ばれた「死海文書」の発見である。今年はそれから75年が経過した。

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▲死海に近い洞窟で発掘作業する考古学者(バチカンニュース独語版公式サイトから、2022年11月27日から)

 「死海文書」の中にはヘブライ語で書かれた旧約聖書(イザヤ書)が見つかった。これまでの旧約聖書のヘブライ語写本としては最古だ。古文書が書かれた時期は、紀元前140のユダ王国のハスモン朝時代からローマ軍がエルサレムに侵入し、陥落させた紀元後69年までの期間とみられている。「死海文書」については、ユダヤ教の一分派のクムラン教団の中でも戒律が厳しいエッセネ派が記述したものではないか、という説が主流だ。ローマ軍の総攻撃を受けたクムラン教団は修道院にあった文書を死海のふもとの洞窟に隠したというのだ。ただし、考古学者の中には、「エッセネ派ではなく、サドカイ派によるものだ」と主張する学者もあるなど、「死海文書」が発見されて75年が経過したが、「死海文書』を巡る多くの謎は依然解明されていない。

 はっきりとしている点は、1947年11月29日、最初の4つのクムラン巻物がイスラエルの学者によって取得され、センセーショナルな発見に関する最初の報告は翌年4月12日のタイムズ紙に掲載された。考古学者による最初の発掘調査は1949年に入ってから始まった。1950年代の終わりまでに、テキストと断片が合計11の洞窟から回収された。現在までに、さらに多くの発見がなされている。

 「死海文書」でもっとも関心をひく点は、イエスと原始キリスト教会に関する関係だ。イエス時代のユダヤ教の事情やキリスト教発生時代の状況が分かると期待されたが、「死海文書」にはそれに該当する部分は見つかっていない。ただ、イエスが生きていた時代に記述された「死海文書」は考古学的にみて大発見であることは変わらない。

 「死海文書」は古代ユダヤ教と初期キリスト教の貴重な証言だ。「聖書の一部であるプリニウスなどの古代の著者によるテキストだけでなく、クムランに住んでいて「エッセネ派」として知られているユダヤ人コミュニティの非聖書的な宗教的テキスト。巨大なパズル約1000のドキュメント (約3万のフラグメント) は、ヘブライ語、アラム語、またはギリシャ語で、紀元前300年から紀元100年の間に遡る。聖書のイザヤ書のほぼ完全なコピーで、長さは7メートルを超える。このように、クムランスクロールは他のどの写本よりも聖書の起源に近い時期にさかのぼる」(バチカンニュース独語版11月27日)という。文書のほとんどは現在、イスラエルの博物館や研究機関に所蔵されている。

 興味深いことは、死海文書のDNA分析の結果、「当時この地域には家畜として山羊しかいなかったにもかかわらず、多くのテキストが羊の皮に書かれていることだ。このことから、全ての死海文書がクムラン教団で作成されたのではなく、エルサレムの学者によって作成されたものもあるはずだ」と結論付けられていることだ。

 コンピューターの分析とアルゴリズムの助けを借りて得られる洞察も刺激的だ。イザヤ書の巻物から、何人かの作家が働いていたことは明らかだ。後加工や修正の跡が多数ある。書き手は内容にも介入し、コンテンツに追加したり、文章全体を省略したりしていることも分かっている。死海文書はほとんどがヘブライ語で書かれてあったが、一部、アラム語文やギリシャ語文もあったという。

 「死海文書」が見つかった洞窟は当時、ヨルダンの領土に入っていたことから、ヨルダン政府は死海文書はヨルダンのものだと主張して、イスラエル側と対立。「死海文書」の発見場所は当時、イギリスの統治領土だった。また、「死海文書」関連の出版が遅れたのは、カトリック教会の教えと合致しない箇所があったからだ、といった「カトリック教会陰謀説」が流れたことがある。「死海文書」と呼ばれる断片には多くの偽物も含まれていた。これまで「死海文書」を巡り、多くの紛争や不祥事が起きている。

 世界の考古学者はこれまで発掘された多くの古文書を分析し、歴史的事実を実証してきた。例えば、イスラエルの統一王国時代のダビデの存在が実証された。ただ、旧約聖書が記述するような巨大な王国ではなく、地方の小さな部族だったことが明らかになった。エジプトから60万人のイスラエル人を率いて神の約束の地、カナンを目指した指導者モーセの実存は考古学的には今なお実証されていない。

 イエスの遺体を包んだ「聖骸布」が一般公開されて大きな話題を呼んだことがある。ただし、1988年に実施された放射性炭素年代測定では、「トリノの聖骸布」の製造時期は1260年から1390年の間という結果が出た。すなわち、イエスの遺体を包んだ布ではなく、中世時代の布というわけだ。モーセだけではない、イエスの墓も見つかっていない。

 このコラム欄で「考古学者は『神』を発見できるか」(2019年11月20参考)というタイトルのコラムを書いたことがある。「死海文書」は考古学者にとって宝物が詰まった古文書だろう。その文書が発見されて今年で75年目を迎えたが、考古学者は「死海文書」の中でイエスの足跡を見出すことができなかったのだろうか。

「デモ」し「ストライキ」する人々

 このような表現は適切ではないが、オーストリアで28日、鉄道労働者が久しぶりに24時間ストライキを行った。通勤する人や学生たちは鉄道がストのために出勤が遅れたり、他の交通機関に乗り換えるなど、朝から対応に追われた。

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▲24時間警告ストライキ中のウィーン中央駅風景(2022年11月28日、オーストリア国営放送公式サイトから)

 鉄道労組は高騰するインフレ率(10月は約11%)に見合う賃上げを要求、連邦鉄道(OBB)側は「労組の要求は余りにも非現実的だ」と一蹴、双方の交渉は時間切れとなって、労組はスト入りを決めたわけだ。
 
 鉄道のストに対し、国民からは「出勤で困るが、労働者の要求は分かる」という声が多い。エネルギー危機、物価の高騰でどの世帯も年末を控え、家計のやりくりで苦しんでいる。鉄道労働者のスト入りに対し国民はおおむね理解を示している。

 ところで、中国政府の「ゼロコロナ政策」に抗議するデモが行われているというニュースが入ってきた。厳しいコロナ規制下にある中国の国民は北京や上海など都市部で「ゼロコロナ」政策を批判し、「習近平(国家主席)打倒」といった声すら聞こえてくるという。中国で政府を批判すれば即拘束されるなか、多くの国民は治安当局の取り締りを恐れず路上に出て抗議デモをする、ということは通常ではない。それだけ、多くの中国国民が我慢ができなくなってきているということだ。コロナ感染が始まってすでに3年目に入っているにもかかわらず、中国で依然、厳しいコロナ規制、ロックダウン(都市閉鎖)が実施されている。デモ参加者は「PCR検査はもうたくさんだ。われわれに自由を与えよ」と訴えている。

 このコラム欄で、なぜ中国共産党政権は経済発展のブレーキとなるロックダウンなどを実施、「ゼロコロナ」政策に拘るのかについて書いたが、第20回中国共産党大会で3期目の任期を獲得した習近平主席はゼロコロナ政策の緩和に乗り出す姿勢は見せていない。

 「ゼロコロナ」政策は単に感染症対策というより、政治的な思惑とともに、新型コロナウイルスの発生問題で北京当局は何か隠ぺいしているのではないか、といった憶測すら沸いてくる。いずれにしても、中国のゼロコロナ政策はサプライチェーンを混乱させ、世界の経済発展にも大きな影響を与えている(「中国『ゼロコロナ』は何を意味するか」2022年10月16日参考)。

 抗議デモはイランでも行われている。「女性の権利」を含む人権の蹂躙に怒る国民がイラン各地でイスラム教聖職者の支配体制の打倒を求める抗議デモを展開。それに対し、治安当局は抗議デモ参加者に向け発砲、国際人権グループの発表によると、既に300人以上が射殺されたという。ジュネーブの国連人権理事会はイラン当局の人権弾圧を批判する決議を採択するなど、イランに対する国際社会の批判は高まってきている。

 抗議デモの発端は、22歳のクルド系女性アミニさんが9月13日、宗教警察官に頭のスカーフから髪がはみだしているとしてイスラム教の服装規則違反で逮捕され、警察署に連行され、尋問中に突然意識を失い病院に運ばれたが、同16日に死亡が確認されたことだ。同事件が報じられると、イラン全土で女性の抗議デモが広がっていった。

 女性の権利の回復から始まった抗議デモはイスラム聖職者支配体制の打倒を求める政治運動に展開、治安関係者は強権を駆使して取り締まりに乗り出しているが、抗議デモはイラン全土に拡大し、沈静化する気配は見られない。

 最高指導者ハメネイ師は、「抗議デモの背後には米国、イスラエル、そして海外居住の反体制派イラン人グループが暗躍している」と指摘、国民の要求に譲歩する姿勢を見せていない(「イランで治安部隊が抗議デモに発砲」2022年11月22日参考)。

 一方、ウクライナに軍を侵攻させたロシアではプーチン大統領が部分的動員令を発令した直後、戦争反対のデモがロシア各地で行われたが、治安当局によって直ぐに鎮圧された。プーチン大統領はロシア軍の不甲斐なさに苛立ちながら、国内の反プーチン勢力の動向には鋭い監視の目を向けている。プーチン大統領の政敵、ロシアの反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏は刑務所に収監中であり、著名な反体制派活動家レオニッド・ヴォルコフ氏や作家のドミトリー・グルホフスキー氏は海外に亡命した(「モスクワ版『1984年』の流刑地」2021年3月28日参考)。

 プーチン氏はウクライナ戦争の実態が国民に伝わらないように情報を統制してきたが、戦死する兵士が増え、もはや情報を管理できないことから、息子を戦死させた母親を招待して慰労するなど、ソフトとハードの両作戦を駆使して人心の掌握に乗り出している。プーチン氏が自身の戦争に国民の支持をどこまで維持できるかは不明だ。ダムが決壊したら、大量の水が一挙に流れ出すように、「プーチンの戦争」を快く思わない政治家、国民が結集し、反プーチンデモが行われるのは、そう遠くのことではないかもしれない。

 12月を控え、気温は下がってきた。オーストリアを含む西側の国では物価の高騰、エネルギー危機による生活苦を訴えた抗議デモやストライキが行われている。一方、中国、イラン、そしてロシアでは反政府デモが行われてきた。「沈黙は金」の時代は過ぎ去り、人々は路上に飛び出して声高らかに叫び出す。ただ、中国、ロシア、イランでは抗議デモは依然、命がけであり、デモ参加者は高い代価を払うことにもなる。

プーチン氏「冬将軍」の到来に期待?

 ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、首都キーウの電気が依然回復せず、全市が停電状況であることに苛立ち、キーウ市当局に、「もう少し能率的に仕事して早急に電力を回復してほしい」と厳しい注文をつけた。同大統領の注文はキーウ市のヴィタリー・クリチコ市長への批判とも受け取られた。ゼレンスキー大統領が国内の指導者や閣僚を公の場で批判することはこれまでなかった。それだけに、今回のキーウ市当局への批判はメディアでも大きく報道された。

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▲1932年〜33年のホロドモール(大飢饉)90年目の追悼式に参加したゼレンスキー大統領とオレナ夫人(2022年11月26日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

 クリチコ市長は元プロボクサーで世界ヘビー級チャンピオンとして有名な人物だ。年齢的にもゼレンスキー大統領とほぼ同世代の若手政治家だ。その市長に対して、「もう少し迅速に電力を回復をすべきだ」と批判とも受け取られる発言をしたわけだ。両者間に知名度でライバル意識がないわけではないが、最大の原因はロシア軍のインフラ破壊攻撃だ。マイナスの気温で停電し清潔な水もない状況下に置かれれば、普通の人間なら不満の一つや二つ飛び出すのはあたりまえだ。クリチコ市長は、「政治的紛争に巻き込まれてはならない」と慎重な姿勢を見せている。

 幸い、ロシアによる大規模な攻撃から4日後の27日、キーウのほぼ全域で電力が復旧した。電力、水、熱、モバイル ネットワークは回復した。ウクライナ軍当局は Telegram ニュース チャンネルで発表した。

 過去1カ月半にわたり、ロシアは発電所、変電所、水道インフラをドローンやロケット弾、巡航ミサイルで攻撃してきた。何十万もの世帯で、電気、暖房、水道が少なくとも一時的に停止状況に陥った。破壊の規模は甚大だ。修理は複雑で費用がかかるため、欧州委員会はすでに25億ユーロの援助をキーウに送金している。なお、ゼレンスキー大統領は攻撃を非難し、国連安保理でロシアを「人道に対する罪」と批判している。

 ロシア軍のインフラ攻撃はウクライナだけではなく、欧州の最貧国、隣国モルドバにも影響を与えている。ウクライナが停電すれば、モルドバの電力ネットワークも影響を受け、停電する。モルドバはロシア産の天然ガスに依存しているが、ロシア側はここにきて供給量を半減。ガス代はウクライナ戦争前の7倍に急騰し、電気代を払えない国民が急増。欧州連合(EU)はモルドバに対してこれまで2億5000万ユーロを緊急支援したが、モルドバ側はさらに4億5000万ユーロの緊急支援を要請しているところだ。  

 ちなみに、モルドバのマイア・サンドゥ大統領は今年3月3日、EU加盟申請書に署名し、それから3カ月後、ブリュッセルはモルドバの加盟候補国入りを認めた。急テンポだ。ただし、モルドバはウクライナのようには北大西洋条約機構(NATO)の加盟は願っていない。国内にロシア系少数民族が住んでいることから、プーチン大統領を刺激したくないという政治的判断が働いているものと推測される。

 ウクライナ南部に接するモルドバ東部のトランスニストリア地方の治安は不安定だ。5月6日夜には爆発事件が起きた。トランスニストリア地方はウクライナ南部のオデーサ地方と国境を接し、モルドバ全体の約12%を占める領土を有する。モルドバ人(ルーマニア人)、ロシア系、そしてウクライナ系住民の3民族が住んでいる。同地域にはまた、1200人から1500人のロシア兵士が駐在し、1万人から1万5000人のロシア系民兵が駐留。ロシア系分離主義者は自称「沿ドニエストル共和国」を宣言し、首都をティラスポリに設置し、独自の政治、経済体制を敷いている。状況はウクライナ東部に酷似しているわけだ。

 12月に入り、気温がさらに下がり、年末から年始にかけて冬将軍の到来となれば、ロシア軍に占領されていた東部の領土を奪い返すことに成功したウクライナ軍の快進撃にストップがかかるかもしれない。停電が頻繁に起き、水道も不通となる日々が続くと、ウクライナ国民の間でも戦争に対する不満の声が高まるかもしれない。同じことがウクライナを支援してきた欧州諸国でもいえる。エネルギー危機で電気代が高くなり、物価高騰してきた欧州社会でブラックアウトが生じれば、ウクライナへの支援に疑問を呈する国民が出てくるだろう。

 部分的動員で兵力強化を図ったが、期待するほどの成果がなかったプーチン大統領はナポレオン戦争やヒトラーのドイツ軍との戦い(独ソ戦)で敵軍を破ったロシアの冬将軍にウクライナ戦争と自身の命運をかけているのかもしれない。

難民殺到に苦悩するオーストリア

 まず、欧州連合(EU)の統計局「Eurostat」が25日、公表した加盟国の8月の難民申請件数を紹介する。EU全体で、難民申請件数は8月、前月の7月と比較して17%増加した。加盟国の中でドイツが最も多く、8月には1万6950件、EU全体の22%だ。それに次いでオーストリアは1万4030件で全体の18%、フランス1万1900件15%、スペイン8650件11%、イタリア5985件8%だった。上記のEU5カ国は、EU内の全亡命申請者数のほぼ4分の3を占める。ちなみに、今年8月に合計7万7595件の最初の申請があり、前年同月比で54%の増加だ。

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▲ブリュッセルでヨハンソン委員と難民対策で話し合うカーナー内相(2022年11月25日、オーストリア内務省公式サイトから)

 人口比でみると、オーストリアは人口100万人あたり1563人の申請者で最も多く、それを追って、キプロス(1482人)、クロアチア(351人)が続く。亡命申請数が最も少ないのはハンガリーだ。

 8月の難民申請者の出身国別をみる、第1がシリア難民で1万1860人、それに次いでアフガニスタン(1万0675人)、インド(4170人)、トルコ(4105人)、ベネズエラ(3565人)と続く。

 また、オーストリアは、保護者のいない未成年者難民件数でもEUのトップで、8月に1885件の申請があった。前月7月と比較して48%増。これにドイツ(585件、21%増)、オランダ(580件、29%増)と続く。

 EU本部ブリュッセルで25日、EU内相理事会が開催され、増加する不法移民問題が話し合われた。欧州委員会は西バルカンルートの行動計画を発表した。これはオーストリアの要求を受けたものだ。欧州委員会で移民担当のマルガリティス・スキナス副委員長は、「西バルカンルートに関する更なる行動計画を来月6日にアルバニアの首都ティラナて開催される西バルカン首脳会談で提示したい」と述べている。

 スキナス副委員長は、「移民と難民のための包括的で構造的なフレームワーク構築が求められる。一つの危機から他の危機へ、事件から事件へというその場凌ぎの対応ではなく、EUの法律、価値観、原則に基づいた枠組みが急務だ」と説明した。

 イルヴァ・ヨハンソン欧州委員(内務担当)は、「オーストリアは難民殺到で最も圧力を受けている国の1つだ。西バルカンルートへの対策に取り組むことが重要だ」と述べ、既に実施されている対策に言及し、「今後の課題」に対するアクションプランを提示したいという。

 オーストリアのカーナー内相はそれに先立ち、EU委員会に5つの要求項目を送っている。具体的には、。釘佞粒杏国境に接するEU加盟国での難民申請手続きのためのパイロットプロジェクト、個別の評価を必要としない強制送還に関する「ルフールマン指令」、0汰瓦並茖街颪任瞭駝運柔措蠡海、そ殿腓任覆と蛤瓩両豺腓任癲⊆蠡海指令に基づく保護ステータスの撤回の簡易化、ィ釘佞旅餠および第3国でのFrontex(欧州国境沿岸警備機関)に対するより多くのサポート、等々だ。

 カーナー内相は、「オーストリアは耐え難い状況にある。今年、国境で10万件以上の不法越境があったが、内陸国であるにもかかわらず、そのうち7万5000件が登録されていない。EUの移民対策のシステムが機能していないからだ」と述べた。同内相はシェンゲン協定の拡大に反対を表明し、「わが国に到着する大多数の難民はバルカン半島のルートを経由して入って来る。現時点ではシェンゲン拡大は想像することはできない」と述べている。EU内相は12月8日、シェンゲン拡大について話う予定だ。

 EU内相理事会に先立ち、セルビアの首都ベオグラードで16日、オーストリア、ハンガリー、セルビア3カ国の首脳会談が開催された。3国サミットの目的は、不法移民との戦いで強力な軸を形成し、国境保護のための措置を共同で講じることだった。

 オーストリアのカール・ネハンマー首相、セルビアのアレクサンダー・ヴチッチ大統領、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相の3首脳は3国間の移民対策で協力を強化することを目的とした「了解覚書」に署名した。その目的は、不法移民、テロ、組織犯罪と戦うことだ。また、難民と移民の明確な区別だ。

 ネハンマー首相は「EUの移民対策は失敗した」として、難民旅行者を拒否すべきであり、経済難民はジュネーブの難民条約に合致しないと主張。ハンガリーのオルバン首相も、「移民は管理すべきではなく、防止すべきだ。我々はセルビアと運命を共にしている」と指摘、「不法移民の阻止はわれわれが生き残るための問題のため、3国は協力が不可欠だ」と述べている。

 参考までに、難民対策では加盟国内でも対立が表面化している。例えば、フランスとイタリアの両国は難民受け入れを巡り、対立している。イタリアが最近、救助船の入港を拒否したため、パリ政府は激怒し、「救助船には最寄りの港に行く権利がある」と抗議。それに対し、イタリアは「難民対策における他のEU諸国の連帯が不十分だ」と批判している、といった具合だ。なお、スキナス副委員長はEU域外での難民受け入れセンターの設置案には懐疑的だ。

 バルカン半島は歴史的にロシアの影響圏に入る。同時に、ロシア正教会と繋がりのある国が多い。EUの西バルカンルートへの行動計画が難民殺到を阻止できるか否か不確かだ。「欧州に難民を殺到させ、欧州の政情を不安定にする」と豪語したロシアのプーチン大統領の脅迫がここにきて不気味さを増してきている。

“政治の風”が吹き荒れるカタールW杯

 国際サッカー連盟(FIFA)主催でカタールで開催中の第22回サッカー選手権(W杯)では砂嵐ではなく、“政治の風”が吹いている。砂嵐の場合、前方すら見えなくなってサッカー試合どころではなくなるが、近代的なサッカー競技場ではそのような心配は不要だ。“政治の風”の場合、ホスト国のカタールにとっても、参加国32カ国チームにとっても、不必要な雑音に悩まされ、試合に集中できなくなる、といった状況が出てくる。

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▲チームの最初のゴールを決めた後、チームメートから祝福される堂安律選手(2022年11月23日、撮影:Chris Brunskill/UPI)

 カタールW杯大会の最初の“政治の風”の犠牲者はドイツチームだろう。W杯で過去、4回優勝している強豪ドイツがFIFAランキングで24位の日本チームに逆転で敗北を喫したのだ。ドイツが日本に敗れると、ファンはショックを受けるとともに、「なぜ敗北したか」というテーマで議論が沸いている。

 ドイツのメディアによると、どうやら選手の不甲斐なさというより、選手たちは対日戦前、作戦を考えるより、性的少数派(LGBT)の権利を蹂躙し、女性の権利を認めないホスト国カタールへ抗議への印の腕章をつけて試合の臨むか否かを議論していたというのだ。すなわち、選手たちは肝心の試合に集中せずに、もっぱらLGBTの支援を意味する腕章をつけて試合に出るか否かに頭を悩ましていたわけだ。

 FIFA側はドイツチームの行動に対し、「ピッチで政治的言動をすることは許されない」と指摘、違反した場合、制裁金を科すと警告した。そこでドイツチームは、FIFAの警告を無視して「ワン・ラブ」の腕章をつけて試合に臨むかで、土壇場まで選手たちは話し合った結果、試合の当日、試合開始前の写真撮影の際、選手たちは口を手でふさぐことで、LGBTの権利要求の声を抑えるFIFAに抗議した。しかし、肝心の試合では1対2で日本に逆転されたのだ。勝利のために一丸となっていた日本チームに負けてしまったわけだ。

 ドイツのファンの1人は、「選手たちは何のためにカタールのW杯に参加しているかを忘れている。少なくとも、LGBT支援のためではない」と指摘している。多分、その意見は正しいだろう。参考までに、ドイツのフェーザー内相は23日、スタンドの貴賓席でレインボー腕章を着けてFIFAのジャンニ・インファンティノ会長の隣に座り、選手たちに代わってLGBT支援をアピールしていた。

 カタールの“政治の風”はドイツチームだけではない。国内で女性の権利が蹂躙され、多くの国民が治安部隊に拘束されているイランのチーム選手たちにも吹きつけている。イランの選手たちは試合開始前の国歌斉唱を拒否し、抗議デモに参加している国民に連帯を表明した。イラン選手の行動について、FIFAは不快感を吐露したが、欧米のメディアはおおむね好意的に受け取って報じた。ただ、イラン選手たちがテヘランに帰国した後、当局からの制裁が待っているのではないかと懸念されている。

 ちなみに、イランの有名なクライマー、エルナス・レカビさん(33)が韓国で開催されたアジア競技大会でヘッドスカーフを着用せずに出場。レカビさんが10月19日、韓国からテヘラン空港に戻った際、一時期行方が不明となった。レカビさんは公開されたインタビューの中で、スカーフを着用せずに競技をしたのは「うかつだった」と謝罪したが、それはイラン当局から謝罪を強要されたためと受け取られた。

 サッカーW杯大会は夏季冬季五輪大会、米国フットボールのスーパーボウルと共に、ファンの数、放映されるテレビ局の数からも世界的なスポーツ・イベントだ。競技結果、選手の一挙手一投足は世界に即発信される。その意味で、W杯で日頃の政治的信念を吐露したいと考える選手たちが出てくる。W杯が大きな政治的舞台ともなり得るからだ。中東初のW杯開催国となったカタールの場合、その典型的な実例だろう。スポーツの祭典、五輪大会の憲章には政治的、宗教的、人種的な意思表明を禁じている。FIFA主催のW杯大会も基本的に同じルールだ。

 なお、欧州連合(EU)欧州議会は24日、サッカーW杯の主催国カタールを巡り、性的少数者(LGBTなど)の人権が蹂躙されているという趣旨の非難決議を採択した。また、W杯開催用のスタジアム建設で数千人の移民労働者が死亡したとして、カタール政府とFIFAに補償するよう求めた。カタールのW杯開催を契機に、欧米のメディアはカタールの人権問題を大きく報道している。

 サッカーW杯は第一にスポーツイベントだ。その場で選手や関係者が自身の政治的信条や宗教的信仰を発信させることはやはり慎むべきだ。適した時と場所があるはずだ。ピッチや記者会見の場でアピールすることは避けるべきだ。参加する選手たちは試合に集中すべきだ。ドイツチームの対日戦の敗北はそのことをはっきりと教えている。それとも、ドイツチームは日本チームとの試合は作戦を考えなくても楽勝できる相手だ、と考えていたとすれば、ドイツチームは傲慢であり、それにゆえに罰せられたわけだ。

 ドイツチームのハンジ・フリック監督は24日、オンライン記者会見で、「もう猶予がない。次のスペイン戦(27日)のため集中することが重要だ」と述べている。“政治の風”に吹き飛ばされないために、繰り返すが、ドイツ選手たちは試合に集中すべきだ。

日本の「魔女狩り」の背景について

 日本では毎年、その年の社会的な状況を最も表した「流行語大賞」が選ばれる。それに先立ち、当方は「2022年の言葉」を選んだ。ズバリ「魔女狩り」だ。中世の欧州キリスト教社会で頻繁に生じた社会的現象を表現した言葉だが、キリスト教圏に入らない日本社会で今年、その「魔女狩り」という社会現象が見られるのだ。現代風に表現するならば、「バッシング」だ。

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▲閣僚辞任と支持率低下に直面する岸田文雄首相(2022年11月21日、首相官邸ホームページの動画のスクリーンショットから)

 安倍晋三元首相が7月8日、選挙応援のために訪れた奈良市で演説中、山上徹也容疑者に銃殺されるという事件が発生した。事件から早や4カ月以上が経過したが、事件の核心は依然闇の中だ。その一方、容疑者の母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者であり、高額献金で家が破産したことから、容疑者は旧統一教会を恨んでいたという供述だけが独り歩きし、左派系メディアは事件の核心をフォローするのではなく、旧統一教会叩きを始めた。旧統一教会、その関連団体と関係や接触のあった政治家、議員、団体、ひいては個人まで左派系メディアのバッシングの対象となっている。

 ここにきて、岸田自民党政権は閣僚辞任が続き、支持率を低下させている。そのため、政権延命手段として旧統一教会バッシングに加わってきた。すなわち、日本社会では左派メディアに政府が連携して旧統一教会への魔女狩りを展開しているわけだ。

 タイムリーというべきか、オーストリア国営放送のウェブサイト欄で23日、「何故人間は魔女や魔術を信じるか」というテーマで興味深い記事が掲載されていた。日本社会で現在進行中の「魔女狩り現象」を考えるうえで参考になると思ったので、その概要を紹介する。

 おとぎ話の世界では魔女は箒(ほうき)に乗って飛び、子供を呪ったり、有害な呪文を唱えたりするが、科学技術が急速に進展している21世紀、魔女や魔術を信じる人が少ないと思いきや、超自然的な力への信仰は予想以上に強いという。オーストリアのような西側諸国でさえ、1割近くの人が魔術を信じ、世界では国民の90%が信じている国すらあるという。

 近代以前、伝染病、自然災害、作物の不作などが生じると、その原因は通常、超自然的な力であると考えられてきた。神、悪魔だけでなく、魔法の能力を持つ魔女たちの仕業と受け取られてきた。魔女、魔術のルーツはおそらく石器時代に遡る。

 ヨーロッパでは、この魔女狩りは中世の16世紀にピークに達した。タンザニア、コンゴなどのアフリカやインド、南米などでは今日でも魔女狩りが行われ、魔女と呼ばれた人は拷問され、さらには殺されている。一部の地域では迫害が非常に深刻であるため、国連人権理事会は昨年、有害な慣行を非難する決議を発表したほどだ。

 ところで、エコノミスト、ボリス・ガーシュマン氏は専門誌「Plos One」の中で、啓蒙され、高度に発展した西側諸国でさえ、依然として多くの人々が魔女(の存在)、魔術を信じている、という研究結果を報告している。

 同氏の研究では2008年から17年の間にピュー・リサーチ・センターがインタビューで収集したデータが利用されている。そこでは、95カ国の14万人を超える人々からデータが集計されている(中国、インド、アフリカとアジアの一部の国は参加していない)。

 ガーシュマン氏によれば、回答者の40%以上が魔女の存在、魔術を信じている。ただし、国によって割合は大きく異なる。スウェーデンやデンマークなどの北欧諸国では、魔女信仰は約9%と最も低く、オーストリアではドイツと同様、約13%だ。アフリカのいくつかの国では魔女の信者が多く、チュニジアではほぼ90%という。

 ガーシュマン氏は、魔女信仰と相関する個人的および社会的要因を分析している。高等教育を受け、安全な経済基盤を持つ人々は、無宗教の人々と同様に、超自然的な力を信じることは少ない。その一方、社会レベルで魔女信仰を助長している要因として、国家の制度が弱く、社会の統制機能が不安定で、国民経済が停滞している、等々が挙げられている。また、個人や見知らぬ人への不信感が強い社会では不合理な信念をもつ人々が出てくる。一般的に、魔女を信じている国の人々は幸福感に欠け、人生に悲観的で自制心が少ない。経済発展やイノベーションは期待できない。近代的な生活様式と伝統的な生活様式が混合した社会では魔女信仰が見られやすいという。

 まとめると、国家が不安定で、社会制度が脆弱、経済発展は停滞し、人生に対して悲観的なムードが強い社会では、魔女、魔術信仰が見られやすいという。逆にいえば、社会が幸福感に包まれ、経済が順調に発展しているような社会、国家では魔女信仰は見られず、魔女狩りといった社会現象は少ないというわけだ。

 「あなたは魔女(の存在)や魔術を信じますか」と日本人に聞けば、大多数の日本人は侮辱されたような気分になり、「そんな原始的、非近代的な信仰は持ち合わしていない」と一蹴するだろう。その一方、社会の負の現象や経済的停滞感の犯人捜し(スケープゴート)を意識的、無意識的に始めている。そして2022年、その犯人は旧統一教会だというわけで、冷静に考えることなく、政府、メディアは総動員で旧統一教会バッシングを始めているわけだ。文字通り、魔女狩りだ。

 現代の日本社会は、魔女狩りが行われた欧州の中世時代のようだ。ただ、欧州の魔女信仰やそれに関連した魔女狩りには程度の差こそあれキリスト教の影響があったが、日本の場合、共産主義という“偽宗教”が魔女狩りをプッシュしている。魔女や魔術を信じない日本人が魔女狩りに乗り出すという風景は異様だ。

中東「砂漠の地」でW杯開催される時

 イエスは2000年前、イチジクの木を例に挙げて、「イチジクの木からこの譬(たとえ)を学びなさい。その枝が柔らかになり、葉が出るようになると、夏の近いことがわかる」(「マタイによる福音書」第24章)と語り、時の訪れを知れと諭した。宇宙、森羅万象の動きから季節の移り変わりを知ることが出来るように、歴史の「時」も分かるというのだ。

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▲第22回W杯開会式を告げるカタールのタミム・ビン・ハマド・サーニ首長(2022年11月20日、オーストリア国営放送の中継から撮影)

 中東では興味深い話を聞く。曰く「遊牧民が放浪生活を止め、定着し、砂漠の地に高い塔を建設する時、人類は終末を迎える」というのだ。中東のカタールで今、国際サッカー連盟(FIFA)主催の第22回サッカー世界選手権が開催中で、グループ戦が始っている。テレビで試合を観戦中、突然、その話を思い出した。

 大会3日目の22日、中東の盟主サウジアラビアのチームが世界の強豪アルゼンチンを2対1で破るという大ハプニングが起きた。ブックメーカーも困っただろう。先述した「砂漠の地で……」の話が俄然、生き生きとして思い出された。メッシはなぜサウジに敗北したのか合点がいかない戸惑いを見せていたが、サウジを代表とするイスラム圏の国民たちはこの時ばかりは国を超え、選手の勝利を喜び、まるで「イスラム国家圏の勝利」のように踊り出した。

 オーストリア国営放送でW杯を解説していた元サッカー選手は、「フランスのW杯の時、欧州で開催されているといった特別な感慨は選手たちにはなかったが、カタールW杯の場合、中東の人々はイスラム教国で初めてW杯が開催されたことに誇りを感じている」としみじみと語っていた。

 カタールのW杯開催が人類の終末の到来の徴(しるし)か否かは分からないが、カタールのW杯ほど西側メディアから批判され続けている大会は珍しい。開催前、カタールがW杯開催の誘致に成功すると「金で買った大会」と誹謗され、砂漠の地に新しい6つのサッカー競技場を建設すると、「外国人労働者が過酷な労働を強いられ、6500人以上の外国労働者が亡くなった」と言われ、国際人権グループから批判にさらされている。同時に、カタールでは女性の権利が蹂躙されていることで女性の権利擁護団体から厳しいお叱りを受け、カタールでは性的少数派が激しい迫害を受けているとして、LGBTグループから「カタールは石器時代の古い伝統にしがみついた国」と中傷されている、といった具合だ。

 W杯に参加した32カ国のチームの中にはドイツチームの選手たちがカタールの人権問題やLGBT差別に抗議する腕章をつけようとして、FIFAから「ピッチではそのような行為は認められていない」という理由で厳重注意を受けたばかりだ。また、イランでは女性の権利が迫害されているが、同国のチーム選手が試合開始前の国歌斉唱を拒否し、連帯を表明した。

 スポーツの祭典、五輪大会の憲章には政治的、宗教的、人種的な意思表明を禁じている。1968年メキシコシティ五輪大会で200m競走の覇者トミー・スミスと3位のジョン・カーロスがメダル授与の表彰台でブラックパワー・サリュート(拳を高く掲げ黒人差別に抗議する示威行為)をしたことは有名だ。両選手はその直後、処罰を受けている。

 サッカーの世界でも同じだ。ピッチでイスラム教徒の選手がゴールした時、アラーに感謝する仕草が見られたが、ピッチ上では本来、宗教的言動は禁止されている。キリスト教徒の選手でも同様だ。ブラジルのナショナルチームが勝利した時、多くの選手が十字架を切り、天を仰いで祈りを捧げる姿が過去、多く見られた。政治だけではなく、宗教的な言動も禁止されている。

 カタールのW杯について、看過できないニュースが流れてきた。イタリアの調査ジャーナリストグループ「IrpiMedia」によると、カタールとFIFAは「カタールW杯大会が気候中立な最初の大会」と宣言してきたが、事実はそうではないというのだ。

 衛星画像からカタールでは過去10年間にW杯用の新たなスタジアムを建設するために少なくとも800万平方メートルがアスファルトで舗装され、コンクリートが敷かれたことが明かになった。サッカー場1140面分に相当する。6つのスタジアムがコンクリートの表面にゼロから建設され、2つの既存のスタジアムが改装された。また、8つの会場間で人々を移動させるために、何千もの新しい道路と駐車場が建設された。ドーハ空港が拡張され、スタジアムを冷却するためなど、多数の補助的な建物が建設され、7つの取り外し可能なシェルターも建設された。淡水化プラントを使用する砂漠での水処理だけでもエネルギー集約的だ。カタールはほぼ化石燃料のみを使用している。FIFAとカタールは、建設段階から大会全体の解体までCO2換算で360万トンの温室効果ガスが大気中に放出されると計算していたが、実際ははるかに多いわけだ。

 話は最初に戻る。砂漠の地で多くの高層ビルが聳え、砂漠にはコンクリートが敷かれ、6つの新しい競技用スタジアムが建設された。カタールではラクダレースしか知らない昔の遊牧民がボールを必死に追いかけるサッカー試合を観て、なんと思うだろうか。終末だろうか、それとも中東の新しい夜明けだろうか。

摂氏−20度のウクライナに発電機を

 ロシア軍は11月から戦場での戦闘を避け、ミサイル攻撃でウクライナのインフラ攻撃を強めてきている。その狙いはウクライナ国内の電力供給網の破壊だ。ウクライナでは11月に入り、マイナスの気温だ。これから厳冬に入れば、マイナス20度にも下がる。ロシア軍がウクライナ侵攻する前だったら、大きな問題はない。気温が下がれば、暖房をつければいいのだ。しかし、その暖房のエネルギー供給先がロシア軍のロケット砲で次から次へと破壊されてきているのだ。

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▲北大西洋条約機構(NATO)の年次総会で演説するウクライナのゼレンスキー大統領(2022年11月21日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

 ウクライナは本来、人口約4400万人の大国だ。その国の電力を支援することは欧州連合(EU)加盟国にとっても容易ではない。プーチン大統領は欧州向けの天然ガス供給を完全にストップし、ロシア産の天然ガスに依存してきたドイツなど西側諸国のエネルギーをも危機に陥れてきている。そのような情況下でウクライナへの大規模な電力支援は難しい。ウクライナ国民としては早急に電力網の回復を期待する以外に対応がないわけだ。

 ちなみに、スペインのアルバレス外相は19日、ウクライナに発電機14台を供与したことを明らかにしている。同外相は、「ロシア軍のインフラ攻撃でウクライナは極めて厳しく困難な冬を迎える」と指摘、発電機支援を呼び掛けている。

 ロシアン軍の砲撃はウクライナ国内の電力インフラ、水道などを破壊する一方、病院など医療関係施設を破壊している。世界保健機構(WHO)によると、ロシア軍のウクライナ攻撃で既に700カ所の病院医療関係が破壊されたという。その結果、国民への医療供給は難しくなる。冬になれば、風邪が広がる。その治療する医療品、医師も少なくなっているというのだ。

 キーウを訪問したWHO地域担当事務局長ハンス・クルーゲ氏は21日、「ウクライナでの戦争の開始以来、国の医療インフラに対する700件を超える攻撃があった。これは国際人道法と戦争のルールに違反する」と指摘し、「燃料、水、電気の不足により、何百もの病院や医療施設が完全に機能しなくなっている。第2次世界大戦以来、ヨーロッパの医療に対する最大の攻撃だ」と強調した。

 クルーゲ氏はまた、「ウクライナ国民の前には生命を脅かす冬が控えている。数十万の家やアパート、学校、病院に暖房がない。1000万人が電気を利用できない状況下にある。冬には気温が摂氏マイナス20度に下がると考えれば、国民にとって健康上のリスクは大きい。寒い天候は致命的となる可能性がある」と警告を発している。

 冬は新型コロナウイルスなどの呼吸器感染症の脅威が高まる。ウクライナ国民の大部分が十分に免疫を持っていないと予想される。また、石炭や木材、または発電機を使用した代替暖房に頼ることになるため、子供、高齢者、呼吸器疾患や心血管疾患を持つ人々に有害物質による健康上のリスクが出てくるだけでなく、事故による火傷や怪我を引き起こす危険性が高まる。

 ウクライナのエネルギー供給業者によると、国民は来年3月末までは停電が生じることを覚悟しなければならないという。電力会社「ヤスノ」の責任者によると、技術者は、冬が本格化する前に送電網の損傷を修復するために奮闘中という。

 ウクライでの新型コロナウイルスの感染状況に関する正確なデータはないが、感染力のあるオミクロン株がこの冬、戦時下のウクライナで拡大する危険性が懸念されている。ウクライナ国民を対象としたPCR検査の実行は戦時下のウクライナでは難しい。一方、ロシア軍の攻撃を避け、本格的な冬の訪れの前にポーランドやバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)に避難する国民は再び増えるだろうが、コロナに感染した避難民が多数入国する状況が考えられる。そのため、ウクライナ避難民を迎え入れる側も大変だ。受入国でコロナ感染が拡大する状況になれば、ウクライナ避難民がスケープゴートとなって、「避難民の受け入れを制限すべきだ」という声が広がることが予想されるからだ。

【当方の嘆き】
 地球に迫る小惑星の軌道さえも変えることが出来る科学技術を有する21世紀に生きる人類で、摂氏マイナス20度の寒さに震える国民がいるという現状は何を意味するのか。戦争を始めたロシアのプーチン大統領の責任は明かだ。ただ、それだけではないように感じる。地の富と恵みが公正に人々に分配されていないという、人類が久しく直面してきた根本的な欠陥が依然、解決されていないのだ。同時に、個人、民族、国家のアイデンティティを超克する“普遍的な真理”を人類はまだ見出していないからではないか。

イランで治安部隊が抗議デモに発砲

 イランからの情報は混乱し、その真偽を確認する手段は少ないが、目撃者によると、イラン北西部のクルド人都市マハバードでの抗議行動が暴動に発展し、20日夜、警察と治安部隊が戦車で街に進行し、デモ参加者を無差別に撃ったという。市内の電気も一時停電。状況は悪化し、目撃者の報告によると、多数の住民が負傷したという。死亡者が出たかは不明だ。

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▲抗議デモ対策を協議するイランの閣僚会議(前方中央ライシ大統領)2022年11月20日、イラン大統領府公式サイトから

 政府寄りの通信社「タスニム」(Tasnim)によると、「武装テロリストが20日夜、民家や公共施設に放火し、市全体と住民をパニックに陥れた。しかし、地元の治安関係者はテロリストグループの指導者たちを拘束した」という。政府側にとって、抗議デモ参加者は一様にテロリストと呼ばれている。

 一方、ソーシャルネットワーク(SNS)で共有されている動画によると、通りを走る軍の車列が映っている。オスロに本拠を置くクルド系人権団体 Hengaw は、「ヘリコプターがクルド人の街の上空を旋回している」と報告。同じくノルウェーに本拠を置くイラン人権団体(IHR)は「市内で発砲と悲鳴が聞こえる」という。 IHRのマフムード・アミリー・モガダム議長は、「当局がマハバードの電気を遮断した。機関銃の発砲音が聞こえ、未確認だが、デモ参加者に死亡または負傷が出た模様だ」という。

 公開された映像には、マハバードの抗議者が通りに座ってバリケードを建てているのが見える。 Hengaw によると、この地域の事業者は20日にストライキを行い、警察の暴力に抗議したという。隣接するクルディスタン州のサナンダジ市からの映像によると、治安部隊に撃たれた女性が映っている。

 Hengawは、「政府軍は少なくとも3人の民間人を射殺した。クルディスタン州のディワンダレ市では19日、既に危機的な状況だった。ブカンやサケスなど、クルド人が多数を占める他の都市でも状況は同じだ」という。

 サケス市(Sakes)は マーサー・アミニさんの故郷だ。22歳のクルド系女性アミニさんは9月13日、宗教警察官に頭のスカーフから髪がはみだしているとしてイスラム教の服装規則違反で逮捕され、警察署に連行され、尋問中に突然意識を失い病院に運ばれたが、同16日に死亡が確認された。同事件が報じられると、イラン全土で女性の抗議デモが広がっていった。10月には、イラン北西部アルダビルで15歳の少女アスラ・パナヒさんが他の生徒と共に抗議デモでスローガンを叫んだ時、私服姿の女性警官に暴力を振るわれ、学校に戻って再び殴打され、搬送先の病院で死亡するという事件が発生し、抗議デモに参加する国民を一層、激怒させた(「イランはクレプトクラシー(盗賊政治)」2022年10月23日参考)。

 アミ二事件から2カ月が過ぎた。アミ二事件、15歳の少女の死、そしてイランの有名なクライマー、エルナス・レカビさん(33)が韓国で開催されたアジア競技大会でヘッドスカーフを着用せずに出場した問題は、いずれも女性がイスラム教の服装規定に反する、ないしはそれに抗議した理由から生じたが、イランで現在行われている抗議デモは女性のスカーフ問題、女性の人権といった範囲を超え、イスラム革命後から43年続くイスラム聖職者支配体制への抗議でもあり、国民経済の停滞への不満の爆発によるものだ。

 メディアの報道によると、イランの司法当局は、政治、映画、スポーツ界の著名人に対して捜査を開始した。具体的には、元国会議員2人、女優5人、サッカーのコーチ1人が尋問のために呼び出された。彼らは、SNS上で当局者に対して「挑発的で侮辱的な」発言をしたとして告発されている。8人が起訴された場合、長期の就労禁止に直面することになる。司法当局は、著名人がSNSを通じて抗議デモを支援することは「国家安全保障に対する脅威」と考えている。

 テヘランの革命裁判所は抗議デモ参加者に対し、有罪判決を下し、「混乱の中で、殺人、テロの拡散、社会の不安定化を意図してナイフを抜いた」として死刑判決を下した。ちなみに、抗議デモ参加者への死刑判決はこれまで6回下されている。

 イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、「わが国を混乱させている抗議デモの背後には、米国、イスラエル、そして海外居住の反体制派イラン人が暗躍している」と主張。強硬派のライシ大統領は先月16日、「バイデン米大統領がイランで混沌とテロと荒廃を扇動している」と非難している。また、イラン軍、革命防衛隊、警察の司令官はハメネイ師宛ての共同書簡の中で、「われわれは国内の抗議行動と戦う準備が出来ている」と戦闘意欲を誇示し、「イスラム共和国の敵の悪魔的な計画を破壊する」と檄を飛ばすなど、強権で抗議デモを鎮圧する姿勢を崩していない、といった状況だ。

 懸念材料は、イランがウクライナに軍事進攻するロシアのプーチン大統領を支援し、イラン製無人機(ドローン)をロシアで現地生産する方向で、イランとロシア両国が合意したということだ。イランは国内では民主化を要求する国民を強権で鎮圧し、対外的には軍事力でウクライナに侵攻するロシアとの関係を深めようとしている。一方、イランの核合意(米英独仏中露の6カ国とイランが2015年に合意した、イランの核をめぐる包括的共同作業計画)再建外交は進展していない。イスラエルの情報によると、イランの核兵器製造は差し迫っているという。イランがモスクワに無人機支援の見返りに、ロシアの支援を受けて核開発の最後のステップを踏み出す、というシナリオが現実味を帯びてきているのだ。

金正恩氏が「英王室」から学んだ事

 北朝鮮は18日、全米を射程内に置く新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射試験を行った。同国国営の「朝鮮中央通信」(KCNA)が19日報じた。ICBMは北海道渡島大島西方沖約200キロの日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。

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▲大陸間弾道ミサイル発射場を視察する金正恩総書記と長女(2022年11月18日、時事通信のKCNAの写真から)

 日韓の軍事関係者によると、ミサイルは最高高度6040キロまで上昇し、999・2キロの距離を約69分間飛行したという。KCNAによると、同ミサイル発射の現場には金正恩総書記が立ち合い、李雪主夫人と長女が同行していたという。

 金正恩総書記は、「わが国の核戦力はいかなる核の脅威にも抑止できる最強の能力を確保した。敵が脅威を与え続けるなら、核には核で、正面対決には正面対決で応えるだろう」と述べ、米国やその同盟国をけん制したという。

 「火星17は車軸が11軸ある移動式発射台で運ばれてきた。弾頭部も複数の核弾頭を搭載できる形状」という。なお、「火星17」は今月3日にも発射して2段目の分離に失敗したが、今回は成功した。北側のミサイル開発技術が短期間にアップしたことを裏付けている(以上、時事通信を参考)。

 ところで、北朝鮮メディアは金正恩総書記と同行する家族を写真で報じた。金正恩氏の娘「金ジュエ」の写真が公に報じられたのは今回が初めて、ということから、いつものようにさまざまな憶測が流れている。金正恩氏には3人の子供がいるといわれている。

 そこで、「なぜ金正恩氏は火星17の発射実験の場に妻ばかりか娘も同行させたのか」を読者と一緒に考えてみたい。

 家族一同の記念写真を大陸間弾頭ミサイルを背景に撮影する、といった発想は尋常ではない。金正恩氏は李夫人と家庭をもち始めた頃、夫人と共に綾羅人民遊園地の完成式に参加したり、平壌中央動物園を改修した。それだけではない。家族でウィンタースポーツを楽しむために馬息嶺スキー場まで作った。独裁者の金正恩氏は愛妻家であり、子煩悩であることはほぼ間違いない。

 しかし、今回の写真の書割は米国も恐れるICBMだ。たとえ、子供が「お父さんの自慢のミサイルを1度見たい」と願ったとしても簡単に「そうか」と快諾できない。危険が伴う上、子供にとってその轟音はあまりにも刺激的過ぎるからだ(「北の『遊園地と国民経済』の改革」2012年7月28日参考)。

 考えられるシナリオを羅列する。〔爾どうしてもミサイルを見たいと懇願したため(ひょっとしたら、娘の誕生日だったのかもしれない。父親金正恩氏は娘に何でもほしいものを言ってごらんと約束したのではないか)、△燭泙燭沺△修瞭、子供を世話する世話人が病気で見つからなかった。妊娠中の李夫人1人では大変だということで、金正恩氏はミサイル発射現場の視察に娘だけ同行させた、6眄飢源瓩鰐爾鮓にすることで金王朝が3代で終わらず、4代以降も続くことを国内外にデモンストレーションした、等々だ。

 興味深いシナリオはだ。当方の憶測だが、金正恩氏は多分、英国のエリザベス女王の葬儀の場面を観たのではないか。その葬儀では、ウィリアム皇太子の2人の子供ジョージ王子とシャーロット王女が同行していた。英国内では「葬儀の場に子供連れは良くない」といったコメントが見られたが、欧州王室に通じる専門家は、「そうではない。英国民から愛されたエリザベス女王の死後、チャールズ新国王、ウィリアム皇太子と英王室が続く。そしてジョージ王子とシャーロット王女を葬儀の場に同行させることで、英王室は永遠に続くことを公の場で見せる。世界の目が注がれるエリザベス女王の葬儀の場は、その意味で絶好の機会となるからだ」と解釈していた。

 ウィリアム皇太子が2人の子供を同行させる姿をみて、金正恩氏は、祖父金日成主席、金正日総書記、そして金正恩総書記の3代後も金ファミリーから金王朝を継承する人物が出てくることを国民と世界に向かって見せる機会を探っていたのではないか、そこで「火星17」の発射実験の場に子供を同行させる考えが浮かんできたのだろう。その意味で、金正恩氏はエリザベス女王の葬儀から王室継承のノウハウを学んだといえるわけだ。

 「火星17」が天に向かってその堂々とした雄姿を見せている。一方、その数十メートル離れたところで金正恩氏と娘が手をつないで歩きながら話している。そのシーンは映画の最高潮の場面を見ているような気分にさせる。「火星17」は金王朝を軍事的に支えるシンボルである一方、父親と娘は金王朝が永遠に続くことを示す。計算された演出とでもいえる。

 ちょっと気になる点は、李雪主夫人だ。「火星17」を背景とした場面には登場していない。夫金正恩氏の傍には娘だけだ。ひょっとしたら李夫人は現在、妊娠中ではないか。寒い外に長時間いるのは健康に良くない。そこで娘が家族の代表という大役を演じた。

 ちなみに、後継者問題では、実務派で行動力のある実妹の金与正党第1副部長の名前が久しく囁かれてきた。それを快く思わない李夫人は夫金正恩氏に、「後継者はあなた(金正恩氏)の直系から」と強く嘆願してきたのではないか。北朝鮮では後継者は直系の血縁者から、というのが重視される。李夫人と金与正さんの“女の戦い”がICBMの背後で展開していたのではないか、と考えられるのだ。

 いずれにしても、北朝鮮が今回発射したICBMは米国領土まで届くことが実証されたことで、金正恩氏は米国との交渉カードを獲得する一方、後継者問題では「俺が倒れても金王朝は不変だ」というメッセージを発信したわけだ(以上、当方の一方的憶測だ)。

 蛇足だが、北側がICBMを発射した日(18日)、ロシア軍は新しいICBM「サルマト」の発射実験に成功したと発表した。同ICBMは欧米のミサイル防衛(MD)網を突破できるほか、極超音速ミサイルシステムを搭載可能という。北の「火星17」とロシアの「サルマト」の発射に何らかの繋がりがあるのか、それとも、偶然、発射実験日が重なっただけだろうか。
 
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