ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2022年08月

世界が注目する安倍氏の「国葬」

 安倍晋三元首相が7月8日、奈良市での選挙演説中に銃撃された事件は日本国内ばかりか世界にも大きな衝撃を投じた。9月27日には日本武道館で、吉田茂元首相以来、55年ぶりの国葬が施行される。世界から多数の要人、政治家の参列が予定されているという。戦後最長の政権を担い、世界に向かって日本の役割、貢献度を発信してきた安倍氏の国葬が滞りなく行われることを願っている。

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▲安倍晋三元首相が銃撃された現場に献花に訪れ手を合わせる人たち =7月8日午後、奈良県奈良市(世界日報サイトから)

 岸田文雄首相は26日、国葬を全額国家負担として今年度の予備費から約2億5000万円を支出することを閣議決定している。会場費や参列者を運ぶ輸送バスの費用などが含まれているが、警備関連費は計算には入っていないから、実質的な費用はさらに膨らむことが予想される。なお、公式の参列者は約6000人と見積もられている。

 国葬の日が近づくにつれ、予想されたことだが「国葬反対」の声が出てきている。岸田首相は国内に国葬に反対する声があることを考慮し、弔旗の掲揚や黙とうによる弔意の表明を各府省に求めることを止めている。

 国のために歩んできた政治家を見送る「国葬」で国内の意見が分かれていることは残念だ。厳密にいうと、国葬反対を叫んでいる国民は現職時代から安倍氏を批判してきた根っからの「反安倍」勢力の人々だ。左派系活動家、左派系知識人、それを朝日新聞などの左派系メディアが反対を煽るといったいつものパターンだ。

 「国葬」に関連する情報を知りたければ朝日新聞を読めば分かる。もちろん、フィルターがかかった情報だが、朝日は連日、読者に「国葬が国民の総意に反している」といった印象を与えるために腐心している。そのために世論調査まで用意しながら、国葬が実施される日まで反対のラッパを吹きまくるだろう。

 朝日ら左派系メディアは、国葬が如何に巨額の公費が投入されるかを執拗に報道する。反対派の常とう手段だ。ドイツの哲学者クリストフ・トゥルケ氏は独週刊誌シュピーゲルのインタビュー記事(2015年5月16日号)の中で、「なぜ、人々は金の話となれば冷静に話せなくなるのか。それはお金の誕生には宗教的起源があるからだ」と強調し、「お金の宗教的ルーツ」について語っている。朝日新聞がいち早く国葬の費用を報道したのは、国民を反対側に引き付ける作戦だからだ。

 朝日は安倍氏の「国葬」に対する法的根拠や、同氏の政治的評価について言及するが、「宗教の話」と同様、「お金の話」が国民を分裂させるうえで最強手段となることを知っている。「生活が厳しい時、なぜ、そんな巨額の費用を国葬に投入しなければならないのか」と考え出す国民が増えるのを待っているのだ。思想に基づいた一部の「反安倍勢力」だけでは国葬反対で過半数の世論を味方に取れないから、「浮動票」獲得の手段として「お金」の話を頻繁に報道する、というわけだ(『献金』と神のオーナーシップ」2022年8月12日参考)。

 安倍氏の政治家としての実績、功績は明らかだ。安倍氏が銃殺されたというニュースが報じられた時、世界の多くの指導者は弔意を表明し、その歩みを称えている。国内では安倍氏が主導した選挙では常に自民党が勝利したという事実は国内でも過半数が安倍氏の政治を支持していたことになる。持病を抱えながら、憲政史上最長の8年8カ月、日本の首相という重責を担うことは容易ではないが、安倍氏は日本の安全保障を強固にし、世界に貢献できる国にしたいという願いで歩んでこられた。

 当方はこのコラム欄で「安倍氏は日本の『預言者』だったのか」(7月14日)という見出しの記事を書いた。「安倍氏は預言者のようだった。日本を取り巻く政治情勢を憂慮し、国防の強化を訴えた。現職時代、防衛庁を防衛省に引き上げ、集団的自衛権の行使容認や平和安全法制(安全保障関連法)を整備した。その度に、左翼的メディアから叩かれた。終戦から続いてきた平和憲法に眠ってきた日本人からは迎えられなかった。にもかかわらず、安倍氏は最後まで日本を真の独立国家とするために日本国民の覚醒を促し続けた。立派な預言者のような生き方だった」と述べた。

 21世紀初頭、日本に出現した愛国者への最後の別れを告げるという意味で、安倍氏の国葬はふさわしいセレモニーだ。願わくは、一人でも多くの国民が安倍氏に感謝の念を込めて見送ることができれば、安倍氏も喜ばれるだろう。いずれにしても、世界は安倍氏の「国葬」を注目している。「国葬」は安倍氏の最後の外交イベントともなるのだ。

埋葬された「神」が再び露出する時

 欧州は過去500年で最悪の干ばつに見舞われている。欧州連合(EU)の欧州委員会の「欧州干ばつ観測所」(EDO)の「8月報告書」によると、欧州大陸の47%が干ばつ「警告」対象の状態にあり、17%の地域が「警戒」状態にあるという。

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▲「神は死んだ」と豪語したニーチェ(ウィキぺディアから)

 干ばつは農作物の収穫に影響を与えているほか、水上輸送をする業者にとっても水位が低下するため運搬が危険になってくる。スイス・ヴォー州ではブルネ湖が干上がり、船が泥にはまって動けなくなったという。トウモロコシや大豆の農産物の収穫にも深刻な影響を与えている。水位が低くなったため、魚類は泳げず、口をパクパクしているシーンがTVニュースで放映されていた。干ばつは、生きるもの全てに水がいかに重要かを端的に教えてくれる。飲む水が不足する欧州の街も出てきた。

 24日付のBBCによると、欧州委員会のガブリエル委員は、「欧州で続く熱波と水不足によってEU全体の水量が前例のないほど圧迫されている。例年以上の頻度で山火事が発生し、作物の収穫に深刻な影響が出ている。気候変動は疑いようもなく、その影響は年を追うごとに顕著になっている」と述べるなど、危機感を吐露している。

 ところで、干ばつに襲われている人々に怒られるかもしれないが、干ばつが普段は隠されてきた水中世界の物体、事象を浮かび上がらせてくれている。忘れられてきた歴史的物件、歴史の遺産が突然出てくるというサプライズが各地で報道されている。干ばつがもたらした贈り物ともいえる。

 セルビア・プラホゾの近くのドナウ川で、第2次世界大戦中のナチス・ドイツ軍艦の一部が浮上してきた。スペイン西部の貯水池にあったストーンヘンジと呼ばれる紀元前5000年代の遺跡が水の中から姿を見せ、ローマではテヴェレ川の水位が下がり、紀元1世紀の皇帝ネロが建造を命じたとされる橋の遺跡が露出した、といった具合だ。

 当方が最も驚いたのは1億1300万年前の恐竜の足跡が見つかったというCNNのニュースだ。「米テキサス州のダイナソーバレー州立公園で、深刻な干ばつのため干上がった川の底から約1億1300万年前の恐竜の足跡が川の底から見つかった」というのだ。発見された足跡は、アクロカントサウルスのものだ。ほかにも、身長18メートル、体重約44トンにもなるサウロポセイドンの足跡が見つかっている。

 考古学者が洞穴を掘って発見したのではなく、地下の世界に潜んでいた恐竜の足跡が河川の水位が異常に低下したため、顔を出してきたのだ。考古学者インディアナ・ジョーンズでも何年もかかる採掘作業をひと夏の干ばつが掘り起こしたわけだ。中国では600年前の仏像が出てきたというニュースも流れている。

 歴史的干ばつとそれに関連して川の水底に沈んでいた歴史的遺物や遺産が再発見されるというのは決して偶然とは思えない。「イチジクの木からこの譬えを学びなさい」(「マタイによる福音書」第24章32節)とイエスが語ったが、干ばつとその歴史的遺物・遺産の発見などを聞くと、そこには何らかの時代の徴(サイン)が読み取れる。「隠れているもので、あらわにならないものはなく、秘められたもので、人に知られず、公にならないものはない」という聖句にもつながってくる。

 米国では干ばつで人工湖の水が引け、数体の遺体が見つかったというニュースを聞いた時、「神は死んだ」と語ったフリードリヒ・ニーチェ(1844〜1900年)のことが思い出された。「神が本当に死んだのならば、神の遺体はどこに埋葬されているのか」。
 参考までに、ニーチェは、「神は死んだ。われわれは皆殺人者だ」と本の中で書いているが、大学の哲学教授は新しい学期を迎える度、ニーチェに言及し、「ニーチェは『神は死んだ』といったが、実際に死んだのは神ではなくニーチェだった」といって学生たちを笑わせる。

 大学教授がいうように、神は死んでおらず、死んだのはニーチェだったとすれば、干上がった川底から露出する遺体は神ではなく、迷宮入りした殺人事件に関連した犠牲者かもしれない。そうなれば名探偵シャーロック・ホームズの登場が必要となる。

 いずれにしても、存在したが、久しく忘れられてきた恐竜が現れ、世界には飢餓、干ばつ、感染症、戦争が猛威を振るっている時、歴史の端っこに追いやられ、「死んだ」と揶揄されてきた「神」が再び露出するかもしれない、といった突飛な思いが沸いてくる。“21世紀のイチジクの木”はそのようなメッセージを私たちに伝えているように感じるのだ。

聖職者の性犯罪は教会組織の問題!

 世界各地のローマ・カトリック教会で数万件にもなる聖職者による未成年者への性的虐待事件が発生しているが、その犯罪は聖職者の個人的な犯行であって、教会側とは直接関係がないから、「カトリック教会の性犯罪を組織犯罪と呼ぶのは不適当だ」という声をこのコラム欄の読者から頂いた。そこで以下、世界に13億人以上の信者を誇るカトリック教会の性犯罪が教会という組織に深く結びついた犯罪であることを手短に説明したい。

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▲フランシスコ教皇、名誉教皇ベネディクト16世に枢機卿会議後、新枢機卿任命を報告(バチカンニュース2022年8月27日から)

 ローマ・カトリック教会では過去、アイルランド教会、オーストラリア教会、ドイツ教会、フランス教会を含む世界各地で聖職者による未成年者への性的犯罪が発生してきた。各国教会は世論の圧力に屈し過去の性犯罪を調査した報告書を公表してきた。詳細な件数、その内容を知りたい読者は当コラムのカテゴリ「カトリック」(889本)をクリックしてほしい。カトリック教会の「元聖職者の告白」から、聖職者の性犯罪の犠牲となった信者、修道女の告白まで様々なテーマを報告してきた(例・「同性愛者の元バチカン高官の『暴露』」2017年5月11日参考)。

 宗教団体の中で刑事訴訟を含む民事訴訟の件数からいうならば、カトリック教会は残念ながら断トツに多いだろう。民事訴訟は、教皇以外では最高位の枢機卿を含め、司教、神父、教会合唱隊の関係者、寄宿舎関係者などが直面している。「民事訴訟件数が多いからといっても、それは個々の聖職者の問題で、組織とは関係ない」という声があるが、カトリック教会の組織構造やその運営、歴史を少しでも理解すれば、そうとはいえなくなる。教会とその関連施設内での性犯罪は個人の犯罪というより、教会が生み出した犯罪という面が大きいのだ。米教会では聖職者の性犯罪への賠償問題で破産に追い込まれた教区も出てきている。

 カトリック教会の性犯罪問題では、未成年者へ性的虐待を犯した聖職者への批判よりも、その性犯罪を知りながら隠ぺいしてきた教会指導部への批判の声が大きい。教会上層部が聖職者の性犯罪を組織的に覆い隠し、性犯罪を犯した神父を他の教区に移動させ、そこで青少年の牧会を担当させていたといった話は少なくないからだ。例えば、今年1月20日公表された報告書によると、ベネディクト16世はミュンヘン・フライジング大司教時代、「少なくとも4件、聖職者の性犯罪を知りながら適切に指導しなかった」と批判されている。

 最新の報告書によると、ドイツ教会トリーア教区での性的暴力を調査してきた独立委員会(UAK)は今月25日、最初の中間報告を発表したが、それによると、聖職者の性犯罪の犠牲者は513人、容疑者または有罪判決を受けた加害者は195人だった。犯罪は1945年から2021年の間に発生した。そして、「容疑者または有罪判決を受けた加害者は教区の内外に移され、新しい場所で同じように若者や子供に虐待行為を繰り返してきた」と批判した。UAKは「トリーア教区のベルンハルト シュタイン元司教 は1967年から1980年までの任期中に聖職者による子供への性的虐待について知りながらその事実を隠蔽した」と非難している(バチカンニュース8月25日)。

 昨年10月5日、欧州のカトリック教国フランスで、1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたこと、教会関連内の施設での性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るという報告書が発表された。

 独立調査委員会(CIASE)のジャン=マルク・ソーヴェ委員長(元裁判官)は報告書の中で、教会の「告白の守秘義務」の緩和を要求している。なぜなら、守秘義務が真相究明の障害だからだ。教会上層部が性犯罪を犯した聖職者を「告白の守秘義務」という名目のもとで隠蔽してきた実態が明らかになってきたからだ。未成年者に対して性的虐待を犯した聖職者が上司の司教に罪の告白をした場合、告白を聞いた司教はその内容を第3者に絶対に口外してはならない。その結果、聖職者の性犯罪は隠蔽されることになる。「告解の守秘」はカトリック教会では13世紀から施行されてきた(「聖職者の性犯罪と『告白の守秘義務』」2021年10月18日参考)。

 「私たちの教会には何かが壊れている」。これは、イエズス会のアンスガー・ヴィーデンハウス氏が南ドイツ新聞とのインタビューで述べた言葉だ。聖職者の性犯罪、それを隠ぺいしてきた教会の指導者に対し、「このような教会に所属することは道徳的にも間違っているのではないか」といった罪悪感を抱く信者が増えてきているというのだ。

 性犯罪は確かに、個々の聖職者が犯すが、それを教会上層部が組織的に隠ぺいし、拡散してきたとすれば、カトリック教会はやはり立派な組織犯罪団体と言わざるを得ないのだ。「告白の守秘義務」、そして「聖職者の独身制」といった教義、伝統が聖職者の性犯罪の温床となっているのだ。

 過去、教会の刷新運動が行われ、特に聖職者の独身制の廃止が議論されてきたが、ローマ・カトリック教会の総本山バチカン教皇庁はそれを実施してこなかった。特に、独身制は教義(ドグマ)ではない。教会の慣習、伝統に過ぎない。聖職者が結婚し、家庭を築けば教会の財政的負担が増えるため、それを防ぐために聖職者の独身制が実施されてきた経緯がある。「イエスがそうであったように」といった曖昧な説明は説得力に欠けている。なお、フランシスコ教皇は教会の刷新、聖職者の性犯罪対策に乗り出してきているが、教会内の保守派聖職者の反対もあって実施できないでいるのが現状だ。

  2000年の歴史を誇るキリスト教会の歴史では多くの聖人、義人が生まれてきた。カトリック教会の慈善活動は多くの人々を救ってきたことは事実だが、聖職者の性犯罪問題では「カトリック教会は組織的に深く関わってきた」ことは間違いないのだ。

フィンランド首相「私も人間」

 スウェーデンのマグダレナ・アンデション首相らと共に並ぶフィンランドのサンナ・マリン首相の姿を憶えている。両国が北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した時だ。マリン首相は歴史的な瞬間を緊張しながらも静かに迎えていた。

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▲パーティー騒動で説明責任が問われるフィンランドのマリン首相(フィンランド首相府公式サイトから、2022年8月24日)

 ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻されて以来、ロシアと1300キロ余りの国境を接するフィンランドには、「わが国も第2のウクライナになるのではないか」という国防上の危機感が政治家、国民の間で急速に高まっていった。そして最終的には中立を放棄してNATOに加盟申請する決定が下された。

 ロシアのウクライナ侵攻以来、36歳の若いマリン首相は、眠れない日々を送ってきたと想像する。そのマリン首相は今、窮地に陥っている。ロシア軍の軍事的脅威が差し迫ってきたからではない。公務の合間で開かれたプライベートなパーティーで首相が興じる姿を撮影したビデオが外部に流れ、メディアで報道されたからだ。ビデオを観た人は、「首相はハイになっている」という疑いを持った。そこでマリン首相は直ぐに薬物検査を受けて身の潔白を証明したわけだ(テストの結果は22日、陰性だった)。

 最初のビデオはまだ無難だったが、2番目は少し羽目を外すマリン首相が1人の男性と抱擁するところが映っていた。「既婚者の女性が別の男性と…」といった批判の声が聞かれたが、ここまではまだ許容範囲だったかもしれない。しかし、3番目の写真はそう簡単ではなかった。首相官邸で開かれたパーティーに招待されていた2人の女性が上半身裸でキスをしているシーンがメディアで報じられたのだ。さすがにマリン首相も「これはまずい」と謝罪せざる得なくなったわけだ。

 欧州は2022年2月24日以降、戦時下にある、ロシア軍がウクライナで軍事攻撃をしている時だ。平和時だったら、公務を終えた後、リラックスするためにプライベートなパーティーに参加することなど問題にならないが、今は戦争中だ。緊急時に即対応が必要となる。だから、「国家の安全に支障も」と批判が出てきたわけだ。

 もちろん、パーティーが問題となって窮地に陥る政治家はマリン首相が初めてではない。最近では、ジョンソン英首相はコロナ規制中に官邸内でパーティーに参加していたことが知られ、辞任に追い込まれたばかりだ。国民がコロナ規制でパーティーなど開けないときに、首相がその規制を破ってパーティーに参加するとは何事かという批判だ。ジョンソン首相は常識を逸脱した言動で結構人気もあった。窮地を乗り越えることでは天才的と言われた彼も、パーティー騒動を乗り越えることはできなかった。

 日本では政治家の資金集めのパーティーや政党主催のパーティーがよく開かれると聞く。誰それが、どの議員のパーティーに参加したとか、何枚のパーティー券を購入した、といったゴシップのテーマが結構記事となる。

 ところで、「政治家とパーティーの歴史」は結構古い。19世紀の政治家も公務を終えると私的な集いを開いたり、舞踏会を開く伝統があった。欧州では楽聖ベートーヴェンの音楽よりワルツの王ヨハンシュトラウスが愛された。舞踏会にはワルツが欠かせられなかったからだ。

 例えば、ナポレオンの失脚後の欧州の秩序を話し合うために1814年からオーストリアの首都ウィーンで国際会議が開催された。会議のホスト国オーストリアは、参加国の親睦を深めるために舞踏会や宴会を頻繁に開いた。会議自体は参加国の思惑もあって進展しなかった。そこで「会議は踊る、されど進まず」と揶揄されたというエピソートはよく知られている。

 人間は政治家でなくても時にはリラックスして羽目を外すものだ。マリン首相は24日、自身の社会民主党の集会で、「私も人間です。暗雲の中、時には喜びや楽しみを求めることがある」(時事通信)と理解を求めたという。

  蛇足だが、当方は「誰がマリン首相のパーティーの様子を撮影し、それをメディアなど外部に流したか」という点に関心がいくが、フィンランドからはそれに関連したニュースが流れてこない。穿った見方だが、ひょっとしたらロシア情報機関が今回のマリン首相パーティー騒動の件で暗躍していたのではないか。なぜならば、フィンランドがNATOに加盟申請した時、プーチン氏は「わが国は必ず報復する」と声明していた。NATO加盟を表明したマリン首相が今回、そのターゲットとなったのではないか。旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏は、「人は私的なイベントでは脱線しやすい」ことを誰よりも知っているからだ。

南野森教授(憲法学)の抗議に答える

 8月23日の当コラム「旧統一教会は何を目指しているのか」では多くの読者から反響があった。その中には、コラムで発言を引用させてもらった九州大学法学部の南野森教授(憲法学)から、「そのような発言をしてはいない」という抗議のコメントをいただいた。本来ならば即返答すべき立場だったが、返答する前にいろいろなコメントが届き、南野森教授には失礼してしまった。

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▲インタビューに応じる九州大学の南野森教授(2022年8月20日、TBS報道特集会見のユーチューブからのスクリーンショット)

 当方が教授の発言を引用したのはTBS報道特集の発言内容を報じた日本の代表的言論プラットフォーム「アゴラ」編集部の情報からだ。ちなみに、当方は日ごろ、鋭い論評を報じる「アゴラ言論プラットフォーム」の報道内容には信頼性を置いている一人だ。

 そこでコラムで教授の発言内容を一部引用しながら、メディアが報道しない旧統一教会の実相について当方の考えを加え、教授の旧統一教会像に反論した。教授は当方の旧統一教会像に対する是非ではなく、教授自身が発信した発言内容が正しく受け取られていないと批判され、「動画も文字起こしもネットに公開されておりますので、ご批判いただくのであれば是非とも原文にあたってからそうなさってください」と主張された。当然の要求だ。そこでユーチューブでTBS報道番組での教授の会見内容をフォローしたので、このコラム欄で返答する。

 先ず、当方がこのテーマを重要と考えた理由は、ゝ貪一教会が本当に「反社会的団体で、普通の宗教団体ではないのか」、◆↓,正しいとすれば、「信教の自由」などを引き出して議論をする対象とはなり得ず、宗教法人法上の解散命令も考えられるのか、等々が提示されていたからだ。

 当方は2022年8月23日のウィ―ン発「コンフィデンシャル」で以下のように教授の発言を書いた。

 九州大学の南野森教授(憲法学)がTBSの番組の中で、『統一教会は反社会的だから解散命令を出すべきだ』と発言したという。そして、『反社会的な団体には信教の自由や言論の自由などを持ち出して議論をしてはならない。統一教会は暴力団体だからだ』という暴論を発した。

 「暴論を発した」という箇所は当方の主観的な評価だが、それ以外は先述した「アゴラ」からの情報を引用した。そして上記の文章に対して、教授は「そのようには発言していない」と抗議されたわけだ。そこでユーチューブで教授が発言されている動画を聞いてみた。

 正直にいえば、当方は当初、教授の反論をもらった時、歓迎していた。なぜなら、ひょっとしたら、教授は「旧統一教会は反社会的団体」とは考えず、憲法学者として「信教の自由」の重要性を理解している学者だから、当方のコラムに自身の名誉が毀損されたと受け取られたのかもしれない、と淡い期待をもっていたからだ。残念ながら、動画を見た結果、教授は旧統一教会を反社会的な団体と考え、宗教法人法上の解散命令への議論も必要と考えておられることが分かった。すなわち、当方のコラムでは一部の主観的な評価は別として、その内容には大きな間違いはなかったわけだ。

 教授がTBS番組の中で、「宗教法人法上の解散命令は、宗教否定ではなく、財産法上の優遇措置がなくなること。その優遇措置が無くなる不利益は、間接的な制約に過ぎず、信仰・信教の自由に対する直接的制約ではないから、解散させることに問題ないと最高裁が言ってる」と説明されていた。教授は宗教法人の解散命令を外面と内面に分けて議論すれば、信教の自由を脅かすものではないと説明していた。この説明は憲法学者として苦しい論理のように感じる(当方の主観)。ただ、この個所の議論は憲法学者に任せたい。

 動画では教授は「旧統一教会の政治への影響」に言及し、例として選択的夫婦別姓や同性婚の問題で「日本の議論は世界の流れから何周も遅れている」と指摘し、あたかも統一教会がその背後で政治家に影響を与えているかのような印象を与えている。教授の政治スタンスが明かになった発言だ。

 ただ、これまで面識のなかった教授とブログ上だが交流できたことはウィーンに住む一コラムニストとして幸甚だった。コラムでも書いたが、教授には統一教会への評価を急がず、その世界観、人生観について考えていただきたい。同時に、当方が想定できない世界、領域で教授が当方のコラムゆえに不当な迷惑を受けられたとすれば、謝罪したい。

 最後に、全ての誤解、早合点によるミスなどを回避するために、教授には当方の質問に直接答えていただければ幸いだ。当方はこのコラム欄で教授の返答を報告し、読者の皆様に伝えたいのだ。

 ゞ擬は旧統一教会を反社会的団体と考えておられるか。イエスとすれば、その主要な理由を簡明に説明して戴きたい。

 九州大学内にある旧統一教会関連の学生団体が過去、ゴミ掃除などの環境クリーンの奉仕活動で市から表彰されたが、安倍晋三元首相銃殺事件が報道された後、市がその表彰を撤回する旨を決定したというニュースが報じられた。この決定は正しいか、それとも旧統一教会に関わった関係者への魔女狩りか。

 ローマ・カトリック教会では聖職者の未成年者への性的虐待事件が発生し、世界で数万件の民事訴訟が起きている。教授の観点ではカトリック教会は反社会的団体であり、宗教法人をはく奪すべき危険な団体か。

日本は「冷戦」を体験したのか?

 共産主義は「恨み」から生まれてきた思想だ。哲学、歴史、経済といった学問的な枠組みを提示しているが、実際は、その核はきわめて宗教的だ。換言すれば、「愛されなかったこと」への恨み、憎しみが原動力であり、愛されている対象を見れば 、無性に怒りと憎悪がうずく宗教的な感情が思想の体裁をもって登場したのが共産主義だ。

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▲日本共産党に公開理論戦を要求(1972年)「国際勝共連盟」公式サイトから

 「宗教はアヘン」と罵倒したマルクス・レーニン主義者に、「あなたの思想、世界観は非常に宗教的ですね」といえば、侮辱されたと勘違いされ、激怒、ひょっとしたら殴打されるかもしれない。一部の裕福な資本家に対する搾取された側の労働者の怒りといえば、より理解できるかもしれない。選民ユダヤ人が終末の時、民族の解放者、救い主を迎え、神の国を築くと信じているように、革命を通じて資本主義体制を打破し、選民である労働者の天国を構築すると宣布してきたのが共産主義者だった。

 それで「労働者の世界」は実現できたのか。残念ながら共産主義者の独裁世界が生まれてきただけだ。旧ユーゴスラビア連邦時代のチトー大統領の側近だったミロヴァン・ジラスは1950年代に出版した著書「新しい階級」の中で「共産党は赤い貴族だ」と指摘している(「『赤い貴族』とスカーフの思い出」2015年2月9日参考)。

 欧州は冷戦時代を体験した。民主主義陣営と共産主義陣営との戦いで欧州は分断された。レーガン米大統領(当時)は両陣営の分断を「善と悪の戦い」と喝破し、善側の民主主義世界を勝利に導く主導的な役割を果たしたことはまだ記憶に新しい。

 地理的に東西両欧州の架け橋的な位置にある中立国・オーストリアにはソ連・東欧共産党政権の弾圧から逃れてきた亡命者が殺到した。オーストリア側の発表ではその数は200万人にもなるという。当方は冷戦時代、対チェコスロバキア国境に2人のチェコ兵士が亡命してきたというニュースを聞き、チェコ国境に向かって車を飛ばして取材したことがある。オーストリアとハンガリー間の“鉄のカーテン”が切断された時、多くの東独国民がその国境を通過して旧西独に亡命していった。欧州国民は共産主義という世界観、人生観が如何に非人道的で独裁的であるかを学んできた。理屈ではない。体験だ。

 それでは日本はその冷戦時代を体験したのだろうか。中国共産党政権、金王朝が支配する北朝鮮という国を隣国とする日本はその共産主義政権の脅威を肌で実感してきたのだろうか。

 北朝鮮が6回の核実験を実施し、中国共産党政権の覇権主義を目撃するようになった時、日本にも国防の強化を訴える安倍晋三政権が登場してきた。それでも日本は「スパイ防止法」すらまだ施行できないのだ。「日本は冷戦を本当に体験してきたのだろうか、ひょっとしたら米国の軍事力の守りの中で平和を享受してきただけではないか」といった思いが沸いてくる理由だ。

 例えば、オーストリアでは戦後から今日まで共産党が連邦レベルで議席を獲得したことがない。チェコでも前回の総選挙で、1968年の「プラハの春」で民主化運動を打倒した共産党は完全に議席を失った。共産党が如何なるプロパガンダを繰り出しても、国民は共産党政権がどんな政治体制かを目撃してきたからだ。日本で野党が選挙で共産党との連携を進めているといった情報を聞く度に、日本の政治家は共産主義が如何なるイデオロギーかをまだ学んでいないのではないかと感じる(「冷戦の生き残り『共産党』議席失う」2021年10月13日参考)。

 さて、共産主義の宗教性について少し考えたい。共産党は公平で平等な社会を築くとアピールする一方、「あなた方が幸せでないのは自民党政権が悪いからだ」と吹き込む。自分の心の中に恨み、憎しみを抱えていると、「そうだ、あいつが悪いのだ」という思いが生まれてくる。「私の生活が苦しいのは安倍政権が悪いからだ」と叫ぶ反安倍デモ集会を思い出してほしい。恨み、憎悪という感情は伝染しやすく、繁殖していく。

 少し聖書の世界に入る。神はカインとアベルに供え物をするように言った。そこで両兄弟は神に供え物を準備したが、神はカインの供えものを顧みず、アベルのそれを受け取った。自分のものを無視された憤りと悲しさでカインは神の前から去っていった。そしてカインは弟アベルを殺害した。人類の最初の殺人事件が発生した。聖書のこの部分の描写はかなり象徴的だが、「神から愛されなかった、見放された」という思いはカインの心深くまで刻み込まれていったはずだ。その心情世界を共産主義思想は見事なまでに継承していったのだ。

 1917年のロシア革命は人類史上初の社会主義革命だった。革命の主導者、ウラジーミル・レーニン自身はロシア人だったが、彼の側近にはユダヤ系出身者が多数を占めていた。レーニンも厳密にいえば、母親がドイツユダヤ系だからユダヤ系ロシア人だ、ともいわれている。カール・マルクスもユダヤ系出身者だったことは良く知られている。すなわち、マルクス・レーニン主義と呼ばれる社会主義思想はユダヤ系出身者によって構築されたわけだ。

 スターリンがその後、多くのユダヤ人指導者を粛清したのはユダヤ人の影響を抹殺する狙いがあったという。ノーベル文学賞受賞者のソルジェニーツィンは「200年生きて」という歴史書の中で、ボリシュヴィキ革命におけるユダヤ人の役割について書いている(200年とは1795年から1995年の間)。ひょっとしたら、ディアスポラのユダヤ人の中には「なぜあなたは私たちを見捨てたのか」という思いが恨みとなり、神を否定する思想を生み出す原動力になっていったのかもしれない(「ユダヤ民族とその『不愉快な事実』」2014年4月19日参考)。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連団体、「国際勝共連合」(1968年創設)は単なる反共主義を標榜している団体ではない。「勝共連合」の創設者文鮮明師は生前、北朝鮮の金日成主席やソ連共産党のミハイル・ゴルバチョフ書記長と会談している。カインとアベルの和解を歴史的に模索する試みだったといわれる。頑なカインの心を溶かす道は、武器によるものではなく、憎悪を凌駕する「神の愛」を実践する以外にないことを多分、同師はよく知っていたのだろう。

終わりが見えない「戦争」への焦燥感

 いつものように朝5時前、メトロ新聞を取りに地下鉄駅まで散歩しながら出かけた。周囲はまだ暗い。1カ月前までは4時過ぎには既に明るかったが、今は5時を迎えようとしていてもまだ暗い。メトロ新聞を取って帰る時、教会の時計を見た。「あれ、針が見えない」。教会の建物が暗く、教会の時計を照らしていたライトが消えていたので、遠くからは時間が分からない(当方は20年以上、腕時計をもたない。外で時間を知りたければ、近くにある教会の時計を見るか、建物内の壁に掛けてある時計で時間を知る癖がついてしまった)。

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▲独立記念日で演説するゼレンスキー大統領(ウクライナ大統領府公式サイトから、2022年8月24日)

 ドイツのローマ・カトリック教会のシンボル、ケルン大聖堂も節電のために夜のライトアップを止めたと聞いていたので、ウィーンの教会も節電しているのだろうか。蛇足だが、マルタの教会の時計は正しい時間を告げないことで知られていた。悪魔に教会のミサの時間を知らせないために、針は止まっているか、教会の時計は描いたもので本物ではなかったことが多かった(マルタの教会の時計が今もそうかは知らない)。ウィーンの教会の時計の場合、悪魔に礼拝時間を知らせないためではなく、ロシア産天然ガスが途絶える事態を想定した予行練習のような感じだ。要するに、長い冬の訪れを控え、エネルギーの節約だ。

 ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻させて24日で6カ月を迎えた。プーチン氏もウクライナ国民も戦争が半年以上続くとは考えていなかったが、半年を迎えた今日もまだ停戦の見通しすら立っていない。ウクライナだけではなく、ロシア側にも多くの犠牲者が出ている。ウィーン大学東欧史研究所のヴォルフガング・ミュラー教授は、「半年間のウクライナ戦争の犠牲者数は約8万人と推定される。3年間続いたボスニア紛争(1992年3月〜1995年11月)の時と同じ状況だ」という。ちなみに、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、600万人以上のウクライナ国民が国外に避難している。同時に、それ以上の国民が住み慣れた場所から追われ、域内難民となっている。

 参考までに、オーストリア国営放送のモスクワ特派員、パウル・クリサイ氏は、「ロシア側はウクライナ戦争での死者数を国家機密としている。正確な数は不明だが、戦死した兵士の家族には約8万3000ユーロと多額の保証金が支払われている。その代わり、家族は家人が戦死したことを第3者やメディアに流してはならないことになっている」と説明していた。

 兵隊と民間人の区別なく砲撃するロシア軍の無差別攻撃はよく知られている。マリウポリの廃墟化、ブジャの虐殺が報じられると、欧米諸国もショックを受けた。現在ロシア軍は、ウクライナ南東部の欧州最大のザポリージャ原子力発電所を占領し、ウクライナや世界に向けてチェルノブイリ原発事故の再現を脅すなど、目的を達成するためにあらゆる手段を駆使している。

 ロシアの右派思想家でプーチン氏に影響があるといわれるアレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリヤ氏が20日、モスクワ近郊で車の爆発で殺害された。ロシアの情報機関、連邦保安局(FSB)は22日、ウクライナの特殊機関による犯行と主張、ウクライナへの報復を示唆した。ウクライナの独立記念日(1991年8月24日)、ロシア軍がキーウを含むウクライナ全土のインフラや施設に激しいミサイル攻撃を仕掛けるのではないかという情報が流れてきた。ウクライナのセレンスキー大統領は国民にロシアのミサイル攻撃を警告し、独立記念日の集会開催を禁止し、夜間外出禁止令を出していた。

 欧米諸国の対ロシア制裁の効果については前日のコラムで書いた。ロシアは現在、戦争経済体制に入ってきた。一方、ウクライナは国際社会からの経済的、軍事的支援に大きく依存している状況に変化はない。ウクライナ領土の約20%をロシア側に占領されている。ゼレンスキー大統領は24日、独立記念日での演説で、併合されたクリミア半島や占領された領土の奪回まで戦いを続ける、と徹底抗戦を訴えた(「プーチン氏を喜ばした世論調査結果」2022年8月24日参考)。

 ゼレンスキー大統領は、「ミンスク合意」の失敗を繰り返すことを恐れている。同合意は2015年2月、ベラルーシの首都ミンスクでロシア、ウクライナにドイツとフランスが参加してまとめられ、ウクライナ東部紛争の停戦を実現させた。しかし、ウクライナ側は後日、東部の親ロシア支配地に「特別の地位」(自治権の拡大)を認めたことが失敗だったと受け取っている。ロシア軍は現在、南部と東部ドンバスで戦闘を激化させている。

 対ロシア制裁を実施する欧州諸国はエネルギー危機、物価高騰などに直面し、これまでのようにウクライナを全面的に支援できるか不透明になってきた。電気が消されたウィーンの「教会の時計」は欧州の近未来を映し出しているように感じる。

 一方、停戦の見通しのたたない状況下で、ウクライナ戦争は両国とも国力の消耗戦となってきた。「戦争は始めるより終わらせるほうが難しい」といわれる。ひょっとしたら、プーチン大統領は戦争を始めたことを後悔しているかもしれない。

プーチン氏を喜ばした世論調査結果

 ロシアのプーチン大統領が2月24日、ロシア軍をウクライナに侵攻させて以来、欧州連合(EU)は厳格な対ロシア制裁を実施してきた。制裁の中にはロシアのクリミア半島併合時にも実施されなかった国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済ネットワークからロシアの銀行の排除のほか、ロシア産天然ガス、原油禁輸制裁などの実施、ないしは実施予定であり、ロシアの国民経済は大きな影響を受けている。

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▲ロシア「国旗の日」で演説するプーチン大統領(2022年8月22日、クレムリン公式サイトから)

 プーチン大統領は5月、サンクトぺテルブルクで開催された「国際経済フォーラム」で、「欧米諸国の経済制裁は我が国の経済にダメージを与えていない」と表明した。欧米諸国側はプーチン氏の発言を強がりと受け取り、制裁の効果が間もなく出てくるだろうと期待してきた。

 ところで、制裁の効果を待ってきた欧州諸国でEUの対ロシア制裁を見直すべきではないか、といった声がまだ小さいが、聞かれ出してきたのだ。新型コロナウイルスの感染後、久しぶりの夏季休暇を楽しんできた欧州国民の間に、「ロシア産ガスの供給が途絶えれば、ひょっとしたらこの冬は暖房も入らない部屋で寒さを我慢しなければならない」という懸念が次第に現実味を帯びてきたのだ。ウクライナ戦争後、エネルギー価格の急騰、物価高が重なって欧州人の生活も次第に厳しくなってきたのだ。

 例えば、EU加盟国オーストリアで対ロシア制裁の見直しを求める声が高まってきている。オーバーエステライヒ州とチロル州の州知事が、「対ロシア制裁は戦争の和平実現に貢献しているか、それとも欧州にダメージを与えているだけか」と自問し、「制裁がロシアを停戦に導くより、欧州の国民経済に大きなダメージを与えている」と言い出したのだ。その発言がオーストリア通信(APA)を通じて発信されると、欧州議会のカラス副議長は21日、「対ロシア制裁の撤廃、ないしは緩和を主張する者は欧州の統合を弱体化するものだ、それは野蛮な拡張主義を展開させるプーチン氏の思う壺にはまることになる」と強く警告を発した。

 対ロシア制裁の見直し論に対し、オーストリアでは「緑の党」、リベラル政党「ネオス」などの政党は反対、極右政党「自由党」は国民投票を実施して、国民の意思を問うべきだと言い出している。見直しを支持するのは与党「国民党」の中に多い。そのため、対ロシア制裁見直し論争は与党国民党内の争いの様相を深めてきた。ネハンマー首相は22日、「わが国は現時点では対ロシア制裁の見直しを考えていない」と述べ、制裁見直し論がエスカレートしないように冷静を呼び掛けている。

 ちなみに、オーストリア日刊紙「エステライヒ」が22日、「EUの対ロシア制裁を緩和すべきか」という世論調査を複数のメディアと共同で実施した。それによると、「制裁維持」19%、「一層の強化」は20%であった一方、制裁の「完全撤廃」26%、「緩和」12%だった。未決定は23%だ。すなわち、対ロシア制裁の緩和、撤廃を願う国民は38%になり、維持、強化は39%とほぼ拮抗していることが明かになったのだ。

 モスクワのクレムリンでその世論調査結果を聞いたプーチン氏は、「そらみろ、自分が考えたように、欧州は我が国への制裁で2分してきた」と強調し、久しぶりに笑顔を見せたかもしれない。

 対ロシア制裁について、「効果があり」という意見と、欧米諸国がよりダメージを受けているという見方がある。経済学者でノーベル経済賞受賞者のポール・クルーグマン氏は今月2日付けの米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、「欧米側に物価の高騰や経済成長の後退リスクは見られるが、効果はみられる」という立場だ。どのような効果かというと、ロシアは欧州向けの天然ガス、原油の輸出が縮小したが、その分、トルコ、中国、インド向けに輸出しているから、ロシアの輸出はあまり変化はないが、輸入で大きな影響が出てきている。欧米側のハイテク工業製品が輸入できないので、自動車や飛行品の部品が手に入らないからロシアの工業生産量は減少し、停止に追い込まれてきているというのだ。その意味で、「効果あり」というわけだ。

 欧州の「脱ロシア」が今後も進展していくと、制裁措置とその実効性はさらに明らかになってくるわけだ。ただし、ロシアの銀行が国際決済網であるSWIFTから排除されたが、対象銀行が一部にとどまっているため、ロシアの貿易活動が急減するという事態はまだ見られない。

 問題は、ロシアの国民経済の行方というより、制裁する側の欧州の結束だろう。オーストリアの与党関係者の中に見られるような「制裁見直し」論がこれ以上高まってくるならば、対ロシア制裁はその効果が出る前に緩和される、といった状況も考えられる。

 ナポレオン1世が率いる軍隊は1812年、ロシア遠征の戦いで厳しい寒さに直面し、敗走を余儀なくされていった。ロシアとの戦いは常に冬が山場となる点では今も変わらないわけだ。

旧統一教会は何を目指しているのか

 九州大学の南野森教授(憲法学)がTBSの番組の中で、「統一教会は反社会的だから解散命令を出すべきだ」と発言したという。そして、「反社会的な団体には『信教の自由』や『言論の自由』などを持ち出して議論をしてはならない。統一教会は暴力団体だからだ」という暴論を発した。

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▲記者会見する世界平和統一家庭連合の田中富広会長(2022年8月10日、日本外国特派員協会ライブ配信より)

 同教授は「統一教会は普通の宗教団体ではない」と断言する。それでは「どの団体が普通の宗教団体か」と聞いてみたい。と同時に、絶好の機会だから教授に聞いておきたい。「統一教会が提示する教えを知っているのか」と。

 統一教会の教えは2000年の歴史を有するキリスト教の伝統的な教えを土台としている。旧約聖書と新約聖書66巻をその教えの土台としたキリスト教だ。だから現在の名称の前の統一教会は「世界基督教統一神霊協会」と呼ばれていたわけだ。

 南野森教授が「統一教会は普通の宗教団体ではない」と主張する以上、統一神学を知ったうえでの発言と考えていいだろう。統一神学の何かを理解し、教会の経典「原理講論」を最低一度は読破されたと考えるから、統一神学のどこが問題であり、普通ではないのか、を指摘するのが暴言を吐く前の義務だろう。統一神学のエッセンスを知らず、「あの宗教団体は普通ではない」という議論は憲法学者がするべき発言ではないからだ。

 教授が統一教会を反社会的と断定し、「宗教の自由」、「言論の自由」を享受できる資格のある団体ではないと判断する根拠の一つは、統一教会が過去、信者との間の献金問題があって、それに関連した民事訴訟件数が多かったことがあるのだろう。それに対し、統一教会側は2009年、「コンプライアンス宣言」を表明し、法の遵守を徹底し、強制的な献金集めを慎むように信者たちに求めていくと発表して以来、その訴訟件数は減少したという。その時の教会会長は引責辞任している。

 残念なことだが、宗教団体には民事、刑事訴訟を抱えている団体は少なくない。その代表格は13億人以上の信者を誇る世界最大のキリスト教会、ローマ・カトリック教会だろう。世界各地の教会で聖職者による未成年者への性的虐待事件が発生し、教会指導部がそれを隠ぺいしてきたことが明かになっている。聖職者の性犯罪件数は5桁、数万件にもなる。アイルランド、フランス、ドイツ、米国など世界のカトリック教会で聖職者の性犯罪が暴露され、裁判にもなっているのだ。

 南野森教授はその事実をご存じだろう。未成年者時代に聖職者に性的虐待を受けた犠牲者たちがその後の人生でどのようなトラウマに悩まされながら生きているか、癒されないために自身で人生を閉じた犠牲者も少なくないのだ。

 もちろん、どのような犯罪も容認されるべきではないが、不法な経済的活動より未成年者への性的虐待が重犯罪であることは間違いない。ローマ・カトリック教会こそ教授がいう「普通の宗教団体ではなく、組織犯罪グループ」であることはその訴訟件数からも認めざるを得ない。しかし、そのカトリック教会の宗教団体の解体を要求する声はほぼ皆無であり、その「信教の自由」は尊重されて今日に至っている。如何に多くの民事訴訟件数を抱えている宗教団体とはいえ、「信教の自由」は尊重しなければならないことは憲法学者ならばご存じだろう。

 聖職者の1人が、「性犯罪は教会だけで発生しているわけではない。教会内の聖職者による性犯罪発生率は社会のそれとほぼ同率で、教会だけが飛びぬけて多いわけではない」と立派な(?)弁解をしていた。これは事実だ。宗教団体の教会も社会の一員とすれば犯罪問題でも社会と同じ程度の犯罪が起きていると考えても不思議ではない。その意味で、社会は教会での聖職者による性犯罪に大きな憤りを感じながらも、宗教団体の解体を求める声は少数派に留まってきたわけだ。

 南野森教授を含む統一教会批判を繰り返す知識人、メディア関係者は統一教会の基本的な世界観について知るべきではないか。批判しながら、統一教会が何を目指しているのかを知らないとすれば、それは世論に迎合した批判に過ぎないと言われても仕方がない。統一教会の創設者文鮮明師は生前、「世界を救えるのなら、教会は要らない。これまで苦労された神を解放できればいいのだ」と述べている。

 若い青年、大学生が学業を途中で捨て教会に献身していったのはメディアが好んで使う「洗脳」の結果ではない。若い世代の心を揺り動かす世界観、人生観がそこにあったからだろう。欧州の統一教会では冷戦時代、文鮮明師は“ミッション・バタフライ”と呼ばれるソ連・東欧共産圏への宣教活動を始めている。選ばれた若い青年たちが共産圏に入り、地下活動をしながら神のみ言葉を伝道していった。彼らの中には拷問を受けて亡くなった者もいる。暗い牢獄に長くいたため足指を腐らせた信者もいた。彼らは無神論共産主義の過ちを伝え、その社会で苦しむ東欧の国民に神を伝えていった。たぶん、統一教会を批判する日本のメディア関係者は彼らの存在すら知らないだろう。統一教会にもコルべ神父がいたのだ。

 旧統一教会は社会から批判を受けた高額献金問題を迅速に解決する義務がある。高い理想を掲げながら、「反社会的団体」と見られ続けていたならば、神の威信がたたなくなるからだ。一方、容共左派知識人、メディア関係者は献金に関わる民事訴訟は司法にゆだね、統一教会が提示した世界観、人生観について少しは知るべきだろう。九大の憲法学者の暴言を読んで、日本での統一教会批判の程度の低さに驚いたことを最後に付け加えておきたい。

ロシア「スイスは中立国ではない」

 米国は北朝鮮とイラン両国とは国交を樹立していないから、平壌での米国の権益を保護する利益代表部は北欧のスウェーデンが務め、イランでは1980年以来、スイスが米国の利益代表部となっている。

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▲スイスのルガーノで開催された「ウクライナの復興に関する国際会議」(日本外務省公式サイトから)

 ところで、1815年のウィーン会議で永世中立を承認されて以来、200年以上の歴史を有するスイスの「中立」が揺れ出したのだ。スイス公共放送(SRF)が発信するウェブニュースによると、ロシア外務省は11日、「スイスがウクライナの権益を保護する利益代表部の役割を果たすことを認めない」という趣旨の声明を発表した。この声明は第一は敵国ウクライナへの対策だが、スイス側にとって「スイスを中立国とは見なさない」というロシア側の宣言と受け取れるからだ。実際、ロシア側は「スイスは違法な対ロシア制裁に加担している」と説明し、同国が中立主義を破り、欧米側に立っていると非難しているのだ。

 ロシアのプーチン大統領が今年2月24日、ロシア軍をウクライナに侵攻させて以来、欧州の政治情勢に大きな変化が出てきた。その一つは北欧の伝統的中立国スウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に加盟申請をしたことだ。1300キロ以上の対ロシア国境線を有するフィンランドは冷戦時代からのロシアへの融和政策を放棄し、NATO加盟を決定。同じように、スウェーデンもNATO加盟を決めたことで、欧州では中立主義を国是としている国はスイスとオーストリアの2カ国となった(スイスの場合、NATOばかりか、欧州連合(EU)にも未加盟)。

 そのスイスの中立主義はウクライナ戦争とそれに関連した欧州の対ロシア政策で揺れ出してきた。ロシア軍のウクライナ侵攻以来、「ウクライナ戦争では中立というポジションは本来、考えられない」として、欧米諸国はウクライナ支援で結束してきた。そのような中、スイスはウクライナ戦争勃発直後、欧米の対ロシア制裁を拒否してきたが、欧米諸国からの圧力もあって3月5日から、対ロシア制裁を実施した。

 スイス政府は当時、「ロシアが欧州の主権国を攻撃するという前例のない事態は、連邦内閣が従来の制裁方針を変える決め手となった。平和と安全保障を守り、国際法を順守することはスイスが民主国として欧州諸国と共有・支援する上での価値観だからだ」と述べ、「国際法の順守は中立主義の堅持より重要」という判断を下した。
 
 スイスは7月4日と5日の2日間、同国南部のルガーノで「ウクライナの復興に関する国際会議」を主催したばかりだ。同国のカシス大統領は5月のダボス会議で、「スイスは今後、協調的中立を目指す」と表明し、スイスがウクライナ問題では全面的に欧米諸国と歩調を合わせていく意向を明確にしている。

 それに対し、ロシアはスイスの外交政策の変化をいち早く見破り、同国外務省が今回、「スイスは中立国ではなくなったので、ウクライナの利益代表部を務めることはできない」と警告を発したわけだ。スイスが「永世中立」から「協調的中立」に衣替えをしたと表明しても、欧米の対ロシア政策に加担する以上、もはや中立ではないというわけだ。

 ロシア外務省の声明はスイスにとって大きな意味合いがある。スイスはジュネーブに国連の欧州本部を置き、世界の紛争の仲介、調停者的役割をこれまで果たしてきたが、今後はスイスはその役割から降りざるを得なくなることが予想されるからだ。

 蛇足だが、スイスが中立国ではないとなれば、中立主義に固執するオーストリアの仲介役としてのステイタスが高まる。国連都市ウィーンとジュネーブは過去、国際会議のホスト役争いを舞台裏で激しく競ってきた経緯があるだけに、ロシア外務省の今回の声明はオーストリアにとって願ってもないサポートだ。

 不思議なことは、オーストリアでは政府も国民もウクライナ戦争に直面しても中立主義を放棄するような動きはほとんど見られないことだ。一人の欧州外交官が、「オーストリアでは中立主義は宗教だ。だから、改宗することは難しいのだ」と解説していた。
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