ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2022年03月

プーチン氏の愛人はスイスにいない?

 ちょっと週刊誌的なテーマから始めたい。ロシアのプーチン大統領の愛人の行方だ。欧州のメディアではアルプスの中立国スイスにプーチン氏の愛人、アリーナ・カバエワ氏が生活していると報じられてきた。新体操の元五輪代表アリーナ・カバエワ氏は2015年、スイス南部のティチーノ州ルガーノ市で女児を出産したが、女児の父親はプーチン氏だというのだ。ただし、ロシア大統領府報道官はカバエワ氏のスイス居住説も女児の父親がプーチン大統領説も否定してきた。

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▲スイスの観光地ツェルマットから眺めるマッターホルン(スイス政府観光局から)

 スイスはさまざまな噂や情報が生まれる土壌がある国だ。スイスには安楽死を願う人々が世界から集まる一方、世界から逃げてきた人々が住み着く“逃れの国”と呼ばれる。ウラジーミル・レーニンはスイスに逃れ、革命を計画し、ジャン・カルヴァンはスイスに逃れて宗教改革を起こした。

 カバエワさんがメディアの目から逃れるためにモスクワを脱出、アルプスの山脈を眺めながら静かな日々を送るためにスイスに居住していても不思議ではない。スイス国民は逃げてきた人に対しては懐が深いところがある。ひょっとしたら、プーチン大統領もウクライナ侵攻がうまくいかなくなった場合、軍部のクーデター説が流れ出しているから、スイスに政治亡命する日が出てくるかもしれない(プーチン氏は戦争犯罪でハーグの国際刑事裁判所(ICC)から起訴される可能性のほうが現実的かもしれないが)。

 話はロシア軍のウクライナ侵攻問題に入る。31日で既に開戦36日目を迎えた。トルコのイスタンブールでロシアとウクライナの外交交渉が開催されたが、大きな成果はもたらされていない。ロシア軍が首都キエフから部隊を一部撤退させたといった情報が流れる一方、西側の軍事専門家は、「4月1日はロシアで新しい徴兵が行われる日だ。これまでの兵士は去り、新しい徴兵のもとスタートする。ロシア軍はウクライナに派遣できる契約兵士を可能な限り広く徴兵する予定だ。そして4月中旬には新たな攻撃を開始できる体制を整えるはずだ。それまではマリウポリとドンバスでの行動を除けば、ロシア軍は地盤を固め、再編成し、ロジスティクスを管理しようとするだろう」と予想している。

 ところで、ロシア軍のウクライナ侵攻以来、欧州の4カ国の中立国では中立主義の見直し、北大西洋条約機構(NATO)加盟問題が新たにホットな政治課題となってきている。その一国、アルプスの中立国スイスはロシアがウクライナに侵攻した直後、欧州連合(EU)の制裁に全面的に追随することに消極的だった。だが米国やEU、国内世論の圧力を受け、スイス連邦政府は2月28日、欧米の対ロシア制裁に参加を表明した。そのニュースが流れると、「中立国スイスの伝統にも変化の兆しが見られてきた」と報じられたほどだ(制裁実施や紛争地への武器供給が即、中立主義の放棄を意味しない)。

 スイスは3月4日にはロシアからの輸入を禁止し、ロシアの銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除するなど、金融活動に幅広い制限を課した。そして16日には、ロシアの個人や企業・団体に対する制裁対象を拡大し、ロシアとベラルーシのオリガルヒ(新興財閥)や著名な実業家を含む個人197人と9つの企業・団体がリストに追加された。ロシア人実業家のロマン・アブラモビッチ氏も含まれる。スイス・メディアによれば、新たに制裁対象となったロシア人のうち4人はスイスに住んでいる。

 スイスの首都ベルンで3月19日、ロシアのウクライナ侵攻に抗議するデモ集会があり、数千人が参加した。ウクライナのゼレンスキー大統領がキエフからライブストリーミングで演説し、スイスに対してはロシアのオリガルヒの資産と口座を凍結するように要求している。スイスのニュースサイト「スイス・インフォ」によれば、スイス国内の銀行が保有するロシア人顧客の資産は総額2000億フラン(約25兆円)に上るという。

 欧州の中立国の中でも、NATO加盟を模索し出した北欧のスウェーデンやフィンランドとは異なり、スイスは隣国オーストリアと同様、中立国の立場を放棄する考えはない。ロシア外務省から中立主義の堅持を要求されたオーストリアのネハンマー首相は、「わが国は軍事的には中立主義だが、政治的には中立ではない」として、ロシア軍のウクライナ侵攻を厳しく批判している。

メルケル氏はプーチン氏に騙された

 ロシア軍のウクライナ侵攻から30日で35日目を迎えた。軍事力で圧倒的に優位なロシア軍は祖国防衛で燃えるウクライナ政府軍、国民の激しい抵抗にあって苦戦を強いられている。

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▲メルケル氏とプーチン大統領の長い付き合い(英日刊紙「ザ・サン」のユーチューブ・チャンネルのスクリーンショットから、2021年8月20日、モスクワで)

 ウクライナ戦争が発生して以来、「ミンスク合意」関係国4カ国(独仏露ウクライナ)、トルコ、イスラエルなどが紛争の調停に乗り出したが、今日まで成果はなかった。その間、プーチン大統領と個人的に関係があるドイツのシュレーダー元首相(在任1998年〜2005年)の名前が調停者の1人として出てきた。元首相は実際、モスクワに飛んでプーチン氏と会ったが、プーチン氏の心を和平に向けて動かしたといった情報は流れてこない。プーチン氏とシュレーダー氏の関係は経済的結びつき(例・国営企業ロスネフチの監査役)が契機となっていたこともあって、同元首相にウクライナ危機の調停を期待するほうが間違いかもしれない。

 ところで、欧州連合(EU)の顔として16年間ドイツ政治を主導してきたメルケル前首相の名前も1度、紛争調停者として挙げられたが、本人が調停役を拒否したと報じられると、その後はメルケル氏の名前はメディアでは聞かれなくなった。

 メルケル氏は首相時代、プーチン氏とは良好な関係を築いてきた政治家だ。メルケル氏は過去16年間(在任2005年11月〜2021年12月)、対ロシア、対中国関係では政治的圧力を行使した強硬政策ではなく、経済関係を通じて関係を深めていく「関与政策」を実施してきた。ロシアや中国とは経済関係を深めていくことで両国の民主化を促進していくといったソフト外交だ。メルケル政権の対ロシア政策は「経済的パートナーとしてのロシア」と「政治的主体としてのロシア」の間に太い境界線を引いてきた。

 米国が中国と激しい貿易戦争を展開している最中、メルケル氏は16年間の在任中、12回、中国を訪問し、習近平国家主席とは友好関係を構築していった。ドイツは輸出大国であり、中国はドイツにとって最大の貿易相手国だ。例えば、ドイツの主要産業、自動車製造業ではドイツ車の3分の1が中国で販売されている。米国からの圧力にもかかわらず、メルケル氏は中国との貿易関係を重視し、人権外交には一定の距離を置いてきた。

 メルケル氏の任期が終わり、ショルツ現政権が誕生した直後、習近平主席は、「ドイツとの関係がメルケル政権時代と同じように友好関係が維持されることを願う」とポスト・メルケル政権にアピールしたほどだ。それほどメルケル氏と中国の関係は中国にとっては理想的だったわけだ。

 メルケル氏は対ロシア関係でもロシアの天然ガスを欧州に運送する「ノルド・ストリーム2」を積極的に推進してきた。ただ、計画当初からバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)やポーランドから「ロシアの政治的影響が強まる」といった懸念の声があったが、メルケル氏は「経済プロジェクトだ」と説明し続けた。ロシア軍のウクライナ侵攻が生じ、ショルツ現首相が中止するまで同計画は推し進められてきた経緯がある。

 ドイツ公共放送ARDのクリスチャン・フェルド記者は、「メルケル氏の過ち、シュレーダー氏の利益」という見出しの記事をターゲスシャウの電子版に掲載し、「プーチン氏のウクライナ侵攻はドイツ外交の敗北を意味する」と指摘し、「メルケル氏はエネルギー政策が外交でも大きな柱となるという警告を無視してきた」と指摘している。同パイプライン建設計画自身はシュレーダー政権が始めたが、メルケル政権の16年間、「ノルド・ストリーム2」計画を積極的に推進していったのはメルケル氏だからだ。

 ロシアが2014年、クリミア半島を併合した時、メルケル政権は対ロシア制裁に参加したものの、ロシアとの関係に決定的な変化はなかった。また、ベルリンで2019年8月、チェチェン反体制派勢力の指導者の殺人、ロシア反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件(2020年8月)などに直面し、メルケル氏の対ロシア政策の見直しを求める声は上がったが、メルケル政権が幕を閉じるまで決定的な変化はなかった。

 欧州議会がナワリヌイ氏の拘束に抗議して、「ノルド・ストリーム2」計画の即時中止を求める決議を賛成多数で採択したが、メルケル首相は当時、「ナワリヌイ氏の問題と『ノルド・ストリーム2』計画とは別問題だ」として、続行する意向を明らかにしている。

 参考までに、ドイツの対ロシア外交には、‖茖下\こβ臉錣任離淵船后Ε疋ぅ弔寮鐐菷蛤瓩悗僚い、▲疋ぅ弔虜禿一をロシアが容認したことへの感謝、といった特殊な事情が反映されている。また、旧東独の牧師家庭に育ったメルケル氏自身の人道主義的な世界観もあるだろう。プーチン氏はメルケル氏の関与政策を利用し、ドイツとの経済関係を深める一方、その政治的野望の実現に向けて静かに準備してきたわけだ。メルケル氏の最側近の1人、内相を長い間務めたトーマス・デメジエール氏は、「プーチンという男の攻撃性を見誤った」と認めている。

 ただし、メルケル政権の16年間、外相ポストは「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)は握らず、連立政権のパートナー、社会民主党(シュタインマイアー、ガブリエル、マース)が担当してきた(1度だけ「自由党」(ヴェスターヴェレ)が担当した)。その意味で、ドイツの対ロシア、対中国政策に左派社民党の影響があったことは無視できない。社会民主党は、ヴィリー・ブラント政権下、独自の東方外交を推進し、共産圏との関係正常化を推進させたこともあって、ロシアを批判することに長い間、消極的だった。

 「EUの顔」といわれたメルケル氏はロシア軍のウクライナ侵攻を目撃することで自身が進めてきた関与外交の敗北を痛感したかもしれない。そのメルケル氏にウクライナ戦争の調停を要請することはやはり少々酷なことだ。

プーチン氏の落日告げる「国民の僕」

 バイデン米大統領は26日、訪問先のポーランドの首都ワルシャワでウクライナ情勢について演説し、「プーチン大統領はその権力の座から辞任すべきだ」と語った内容が波紋を呼んでいる。

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▲「国民の僕」の主人公、ウクライナ大統領役を演じるゼレンスキー氏(「arte」のメディアテークから、「国民の僕」第1シーズン23話目の最後のシーン)

 米大統領の演説内容が報じられると、ロシアは「ロシアの体制転換を要求した」として厳しく批判。ホワイトハウス側は大統領の発言が少々行き過ぎと判断したのか、その直後、「大統領はロシアの政権交代を要求したのではない。ただ、プーチン氏が権力の座から降りるべきだと述べただけだ」と説明。中東訪問中のブリンケン国務長官も記者団の質問に答え、同様の説明をして、発言の鎮静化に努めた。ちなみに、大統領選中のフランスのマクロン大統領は、「ウクライナ戦争を解決するためには(関係者は)過激な言動は慎むべきだ」と苦言を呈している。

 バイデン大統領は昔から「失言のジョー」と呼ばれてきた政治家だ。それが災いして大統領候補を辞退したこともあった。ところで、ワルシャワでの発言は失言だろうか。その内容は失言ではなく、文字通りロシアの体制チェンジを求めている、と受け取って間違いない。モスクワが激しく反発したことをみても分かる。

 他国の政治体制、政権を外から変えろとはいえない。そのように言えるのはその国の国民だけだ。民主主義国の基本だ。ただし、ロシアの事情は明らかに異なる。プーチ氏が憲法を改正し、長期政権の座に君臨している。選挙は一応実施されるが、国民の総意が反映された民主的選挙からは程遠い。

 厳密に言えば、バイデン氏はロシアの体制転換までは直接言及しなかったが、強権で国民を管理するプーチン氏に「辞任」を求めることで、ロシア体制の民主化を求めたといえるだろう。

 モスクワ生まれの映画監督、イリヤ・フルジャノフスキー氏はオーストリアの日刊紙スタンダードとのインタビューの中で、「ミハイル・ゴルバチョフはソ連と呼ばれる巨大なドラゴンを殺し、多くの自由をもたらした。しかし、私たちが今見ているように、死骸は生きかえり、再び昇り始めているのだ。この戦争と国家の状態について、プーチンだけの責任として非難はできない。古いソビエト精神の構造から生まれてきたものだからだ。過去100年余り、多くの人々が追放され、投獄され、拷問され、殺された。その暴力的な支配の結果だ」と述べている。

 同氏の視点からいえば、「プーチン氏は長いロシア体制の一コマに登場してきた人物に過ぎないから、ロシアで今進行中の全ての悪行の責任をプーチン氏1人に背負わすことは不公平だ」という論理となる。

 バイデン氏が「プーチン氏辞任」と「ロシア体制の転換」を恣意的に識別して使い分けたのかは分からない。例を挙げる。中国の「習近平国家主席」と「中国人民」とは違う。ただ、中国共産党は「党」と「人民」は同じだという論理を振りかざして、その強権政治を正当化してきた。同じように「プーチン氏」と「ロシア国民」は異なると言われればモスクワは不快に思うだろう。

 バイデン氏自身、過去、「プーチン氏とロシア国民は別だ」と述べ、欧米社会のプーチン氏批判や制裁はロシア国民に向けられたものではないと説明したことがある。問題は、ロシア軍のウクライナ侵攻を理由に欧米社会が行った対ロシア制裁はモスクワの指導層に向けられているが、最大の被害は、ロシア国民が被るからだ。指導者の罪科の罰を国民が受けることになる。

 反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は現在、収監中だが、国民に向かって「プーチン大統領に抗議デモをするように」と呼び掛けている。最終的には、ロシア国民がプーチン氏とロシアが違うことを証明する以外に大国ロシアの体制チェンジは難しいのだ。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は大統領選に出馬するまでコメディアンだった。ウクライナ国営放送で放映された同氏が出演したヒットTV作品「国民の僕」は世界的に人気を呼んでいる。同TVシリーズは2015年から19年の間放送された。ゼレンスキー氏が大統領に就任する直前まで放映された。当方は同作品(全3シーズン)の第1シーズン(23話)を独仏共同出資のテレビ局「arte」の独語版で視た。

 その中で第1シーズン第23話の最後のシーンはとても印象的だったのでここでその箇所を紹介する。
 ・・・・・・・・・・・・

 ウクライナの外相「大統領、ロシアから電話が入りました」

 大統領は少し笑いながら「プーチン大統領からか」

 外相「違います。新しい大統領です」

 大統領は少し驚いた顔しながら電話を受け取る。

 大統領「ハロー、あなたは・・・」

 その台詞を残して第1シーズン最後の話が終わる。

 第1シーズンの最後は、プーチン氏がもはやロシア大統領でないことを示唆して終わっている。バイデン大統領が辞任要求する前に「国民の僕」の中ではロシアのプーチン大統領は既に大統領ではないのだ(第1シーズン終了の段階では)。

 歴史教師が偶然、大統領に選出された主人公役を演じたコメディアンのゼレンスキー氏はその直後、ウクライナの大統領に実際に選出された。それ自体、通常のことではない。ゼレンスキー氏が演じた「国民の僕」(独語「Diener des Volkes)は単なる喜劇番組ではない。時代を先行しているのだ。

プーチン氏は聖ウラジーミルの転生?

 プーチン氏は先月24日、ウクライナ侵攻への戦争宣言の中で、「ウクライナでのロシア系正教徒への宗教迫害を終わらせ、西側の世俗的価値観から守る」と述べ、聖戦の騎士のような高揚した使命感を漂わせた。ロシア軍のウクライナ侵攻から1カ月が過ぎたが、そのプーチン氏の命令で動くロシア軍がウクライナ内で正教会の建物だけではなく、カトリック教会の礼拝堂などあらゆる宗教関連施設を破壊していることが判明したのだ。

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▲モスクワのクレムリン広場で建立された「聖ウラジーミル像」 プーチン大統領(中央)とキリル1世(右3番目)が参加=2016年11月、ドイツ民間放送ntv電子版から(写真はDPA通信)

 キエフからの情報によると、ロシア軍はウクライナで少なくとも59カ所の宗教施設を攻撃して被害を与えている。正教会の建物が破壊され、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)、イスラム教寺院(モスク)、プロテスタントとカトリック教会の礼拝所も被害を受けている。その範囲はキエフだけではなく、ドネツク、ジトーミル、ザポリージャ、ルハンシク、スミー、ハリコフ、チェルニーヒウなどウクライナ全土に及ぶ。最近では、ウクライナ 最東部,ルガンスク州の都市セベロドネツクの正教会の天井が砲撃を受けて部分的に崩壊している。

 正教会関係者は、「クレムリンの宣伝家たちは正教会の信仰を守ると声明しているが、その裏に彼らの帝国主義的野心を隠している。ロシア軍による激しい攻撃で正教会や他の宗教施設が次々と台無しになっている」という。オンライン・データベースによると、モスクワ総主教区のウクライナ正教会の42カ所の建物が損傷を受けた。また、独立したウクライナ正教会とプロテスタント宗派のそれぞれ5カ所の教会、3カ所のイスラム教関連施設と同じく3カ所のユダヤ教関連施設、そしてハリコフのローマ・カトリック教会司教の家などがダメージを受けた。

 バチカンニュースが今月26日報じたところによると、ドイツのフランツ・ヨーゼフ・オーバーベック司教は、「プーチン大統領は、キエフでのルーシ族の歴史的な洗礼物語を引き出してウクライナの主権国家の権利を否定している」と指摘、歴史的正教の根源をウクライナ侵攻の正当化に利用していると非難した。同司教が「Publik-Forum」誌の最新号のインタビューで述べた。

 同司教は、「プーチン氏の使命感は思想化され、他の指摘や主張などに耳を貸さなくなっている。非常に危険だ」と指摘、「ロシア正教会の一部はその国家主義的な視点を信頼し、戦争を承認している。教会と国家がお互いを道具として利用しているのだ。ただし、世界中の正教会の大多数は戦争に反対している。モスクワ総主教キリル1世は例外だ」と主張した。

 モスクワの赤の広場前には聖ウラジミール像が建立されている。モスクワ生まれの映画監督、イリヤ・フルジャノフスキー氏はオーストリアの日刊紙スタンダードとのインタビューの中で、「ロシアは何でも起こりえる国だ。論理的な国ではないからだ。プーチンはクレムリン前にキエフ大公の聖ウラジミールの記念碑を建てた。聖ウラジーミルはロシアをキリスト教化した人物だ。クレムリンの前に聖ウラジミール像を建立するということは、ウクライナもロシアに属していることを意味するのだ。プーチンは自身を聖ウラジーミルの転生(生まれ変わり)と信じている。この論理は西洋では理解できないだろうが、ロシアでは普通だ」と説明している。フルジャノフスキー氏は、ナチスによるユダヤ人犠牲者を追悼するキエフのバビヤール記念館の芸術監督も務めている。

 同氏は、「ミハイル・ゴルバチョフはソ連と呼ばれる巨大なドラゴンを殺し、多くの自由をもたらした。しかし、私たちが今見ているように、死骸は生き続け、再び昇り始めているのだ。この戦争と国家の状態について、プーチンだけの責任として非難できない。古いソビエト精神の構造から生まれてきたものだからだ。過去100年余り、多くの人々が追放され、投獄され、拷問され、殺された。その暴力的な支配の結果だ。この広大な国では、目に見えないことがたくさん起きている」という。

 参考までに、ウクライナのゼレンスキー大統領はウクライナ語ではファーストネームは「ウォロディミル」だが、ロシア語では「ウラジーミル」と呼ぶことから、フルジャノフスキー氏は、「ウクライナ戦争は善と悪の2人のウラジーミルの争いだ」と語っている。

ああマリウポリ、マリウポリよ!

 米民間人工衛星が撮影したウクライナ南東部のマリウポリ市(Mariupol)の写真を見ると、市内はほぼ壊滅状況だ。ロシア軍の侵攻前は約43万人の都市だったが、ロシア軍の攻撃が開始され1カ月後、市の風景は完全に一変し、破壊された建物だらけだ。ロシア軍は住居から病院まで全て破壊した。水道、電気は不通で、食糧は不足している。同市民の一部はロシア側に強制連行されたというニュースが流れている。

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▲ロシア軍の攻撃で破壊されたマリウポリ市の風景(2022年3月24日、フランス24ユーチューブ・チャンネルから)

 ウクライナでは、マリウポリほどロシア軍に激しく攻撃されている都市はない。マリウポリの状況はチェチェンのグロズヌイやシリアのアレッポを思い出させる。いずれもロシア軍が完全に破壊した街だ。マリウポリ市から市民を避難させるために人道回廊が設置されたと聞いたが、ロシア軍は避難する市民に向け発砲するなど、実際は人道回廊は機能していない。同市から避難できた市民は車を持っている人だけで、車のない市民はロシア軍に包囲された市内に身を隠す以外にない。

 3月16日、ロシア軍は1000人以上の市民が避難していた劇場に空爆した。同市当局は25日、「300人以上が亡くなった」と発表したばかりだ。

 プーチン大統領はウクライナを兄弟国というが、その国の人々にどうして残忍な攻撃を繰り返すのか。なぜマリウポリ市に執拗に空爆し、攻撃を繰り返すのか。考えられる点は、マリウポリの東には親ロシアの分離主義者によって支配されているルガンスクとドネツクの「人民共和国」があり、西にはクリミアがある。マリウポリ市はドネツクとクリミア半島の間の陸橋を可能にするからだ。マリウポリは、ウクライナで最も重要な輸出港の1つだ。国の最も重要な輸出品の鉄鋼や穀物はここから輸送される。 マリウポリを失えば、ウクライナはアゾフ海にアクセスできなくなるわけだ。

 欧州対外関係評議会(ECFR)の上級政策フェローのグスタフ・グレッセル氏は22日、ドイツ民間放送NTVとのインタビューの中で、「マリウポリ市は象徴的に重要な都市だ。2014年に親ロシアの分離主義者の手に渡ったが、ウクライナ政府軍がその後、再び奪い返した都市だ。それ以来、同市はウクライナとロシアの最前線の都市であり、ドネツク州の代替首都でもあった。2014年以降、ジョン・マケイン米上院議員など外国の著名な人物が好んで訪ねてきた都市だ。マリウポリはウクライナの抵抗の象徴的な都市だからだ」と説明している。

 マリウポリを占領したとしても街全体を壊滅すれば、街の機能はなくなる。グレッセル氏は、「被害者(ウクライナ人)が犯人(ロシア人)を愛しておらず、被害者に自分を愛することを強要できないのを知った性犯罪人のような心理状態と比較できる。犯人はもはや合理的に思考できず、復讐に満ちた残忍さで被害者を襲い、殺害する。プーチン自身がウクライナについて言及するときにロシアのマフィア映画のフレーズを使用していたことを聞くと、このレイプ犯のイメージと重なる」と説明している。ロシア軍が侵攻した時、マリウポリ市が直ぐに降参しなかったことで、プーチン氏のプライドは傷つき、復讐劇が始まったというわけだ。独週刊誌シュピーゲル(2022年3月19日号)は「マリウポリの地獄」という見出しで同市の現状を報告していたほどだ。

 プーチン氏やロシア軍指導部はウクライナに侵攻したら、ウクライナ国民はロシア軍兵士を花束で歓迎してくれるだろうと想像していたが、ウクライナ国民の国防士気は高く、簡単に終結する予想は大きく外れた。マリウポリへの執拗な攻撃と破壊はロシア側の強い失望の反映ともいえるかもしれない。もちろん、マリウポリ市を集中的に破壊することで、敵の戦闘意欲を失わせ、病院や学校を攻撃することで、病棟、女性、子供すら守ることができないことを敵側に知らせる狙いがあるはずだ。ロシア軍はそれをシリア内戦でも行い、現在ウクライナでも繰り返しているわけだ。

 ロシア空軍は侵攻直後、迅速な空爆を実施できる準備がなかったが、ここにきて1日あたり300回の空爆を行ってきた。2機の飛行機で構成された300ユニットが、毎日離陸し、空爆を行っている。グレッセル氏は、「ロシア側は戦略を変えてくるだろう。4月1日はロシアで新しい徴兵が募られる日だ。これまでの徴兵は去り、新しい徴兵のもとスタートする。ロシア軍はウクライナに派遣できる契約兵士を可能な限り広く徴兵する予定だ。だから、ロシアは4月中旬には新たな攻撃を開始できる体制が整うわけだ。それまではマリウポリとドンバスでの行動を除けば、ロシア軍は地盤を固め、再編成し、ロジスティクスを管理しようとするだろう」と予想している。

 ウクライナへの軍事支援を拒否するハンガリーのオルバン首相に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「マリウポリで何が起きているのか知っているのか」と厳しく糾弾したという。ロシア軍に包囲されているマリウポリには、水、食糧、電気のない状況下で暗い地下などで身を隠している市民がまだ多数いる。ああマリウポリ、マリウポリよ!!

ウクライナ難民は人身売買の「標的」

 ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務局(UNODC)は22日、「ウクライナの紛争:人身売買と移民の密輸のリスクに関する重要な証拠」(CONFLICT IN UKRAINE: KEY EVIDENCE ON RISKS OF TRAFFICKING IN PERSONS AND SMUGGLING OF MIGRANTS)という調査報告を公表した。

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▲UNODC作成報告書「ウクライナの紛争:人身売買と移民の密輸のリスクに関する重要な証拠」(UNODC公式サイトから)

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▲2017年〜2020年の間の犠牲者ウクライナ人の人身売買先(UNODC報告書から)

 UNODCは国連システムの中で人身売買問題を扱う主要機関だ。ロシア軍のウクライナ侵攻から1カ月が過ぎたが、ウクライナ国内から何百万人もの人々、主に女性と子供たちが家を追われ、国内外に避難している。UNODCは、「戦争が長期化すれば、避難民が人身売買の犯罪ネットワークの標的となるリスクが高まる」と警告を発している。

 ウクライナから国外へと避難した難民の数が350万人を超えた。ウクライナのゼレンスキー大統領が18歳から60歳までの男性に対しては祖国の防衛に従事するように要請したこともあって、ウクライナ難民の9割は女性と子供だ。そういうこともあって、人身売買のターゲットになる危険性が指摘されている。ウクライナ難民の人数は24日時点で355万人。行き先はポーランドが最も多く、211万人を超えた。他にはルーマニアが約54万人、モルドバが約36万人、ハンガリーが約31万人となっている

 UNODCのガーター・ワーリー事務局長は、「犯罪者は戦争の混乱と被害者の絶望的な状況を利用する。危機は、困窮している人々、特に国内避難民などを搾取する機会を増やす一方、紛争から逃れた人々、特に女性と子供は、人身売買の危険にさらさられるわけだ」と説明する。

 UNODCが2006年以来収集してきた人身売買の事例に関するグローバル・データによると、女性が人身売買業者の主な標的であり、主に性的搾取にさらされている。同時に、人身売買の犠牲となる子供の数も増加している。少年と少女は現在、人身売買被害者の約3分の1を占めており、その割合は過去15年間で3倍に急増している。ウクライナ危機では、何千人もの子供たちが両親や保護者の同伴なしで避難していると推定されており、人身売買やその他の虐待のリスクが排除できない。

UNODCの人身売買防止の専門家によると、難民を受け入れる国は、人身売買グループのリスクを認識し、教育や育児などの重要なサービスや雇用の機会へのアクセスを提供する必要があると助言している。

 ウクライナ難民を受け入れる欧州は、中東・北アフリカから100万人以上の難民が殺到した2015年の時のように難民申請で時間を取らず、入国手続きを簡易化し、新しい身分証明書だけではなく、労働許可証まで発行している。例えば、オーストリアでは、就学年齢の子供には短期間の言語学習の後、地元の学校に通学できるように便宜を図っている。

 ちなみに、欧州連合(EU)の「ダブリン規則」によれば、亡命申請者は最初に到着したEU国で国際保護の申請を義務付けられているが、ウクライナ人には適用されない。EUに到着するウクライナ難民の法的枠組みは、他の非EU諸国からの難民、庇護申請者、および移民に適用される枠組みとは異なっている。ある意味で特別待遇だ。

 ただし、ウクライナ西部リヴィウなどに避難してきたウクライナ人(域内難民)がロシア軍の攻撃が激しくなってきたこともあって国外に避難する者が増えてきたため、国外避難民の数は今後も増えると予想される。彼らが適切にサポートされない場合、人身売買グループの手が伸びるわけだ。

 なお、ウクライナ人を狙った人身売買は今回のウクライナ戦争前から既にビジネス化されている。ウクライナとヨーロッパおよび中央アジアの国々との間で犯罪ネットワークが存在する。彼らはウクライナ人を国際ネットワークを利用して人身売買している。

  UNODCグローバルデータベースによると、2018年にウクライナの犠牲者が29カ国に人身売買されている。半分以上がロシア連邦で、4分の1がポーランドで確認されている。

「ブタペスト覚書」の無意味さ

 ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、イスラエルの国会(クネセト)でビデオ演説をした。9分余りの短いスピーチの中で、同大統領はロシア軍の激しい攻撃を受けているウクライナの状況をナチス・ドイツ軍のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)と比較して語った。それに対し、イスラエル国内ではウクライナの状況に同情しながらも「両者の比較は適切ではない」といった声が聞かれた。

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▲ウクライナ武力侵攻を宣言するプーチン大統領(2022年2月24日、クレムリン公式サイトから)

 自身もユダヤ人のゼレンスキー大統領はイスラエル政府の調停努力に感謝する一方、”雋錣魘ゝ襪靴覆ったこと、▲蹈轡△棒裁を課さなかったこと、ウクライナ難民を十分受け入れなかったことなど挙げてイスラエル側を非難した。そのうえで、ロシアの攻撃を受けているウクライナ情勢をホロコーストと比較し、ナチスがユダヤ民族の抹殺計画を「最終的解決」と呼んだように、ロシアは今、ウクライナへの侵略を「最終的解決」と考えていると主張した。

 イスラエル議員たちを不快にさせたのは、イスラエルへの非難ではなく、ウクライナ情勢とホロコーストを比較した部分だ。ヤド・ヴァシェムの「ホロコースト記念館」のダニダヤン館長は、「ゼレンスキー大統領はわれわれに謝罪すべきだ」と述べ、「ホロコーストとロシア軍の侵略を明確に区別すべきだ。ロシア軍がとった行動の多くは、常軌を逸しているが、両者を歴史的に同列視し、最終的解決といった内容まで言及することは許されない」と批判した。ただ、ナフタリ・ベネット首相は、「ホロコーストとの比較は適切ではなかったが、ゼレンスキー大統領の痛みは理解できる」と述べ、戦時中の若き大統領の立場に配慮している。

 イスラエル国民にとってウクライナといえばやはりナチス・ドイツ時代の迫害を想起する人が少なくないだろう。ロシア軍はここにきてウクライナ最大の湾岸都市オデッサ市へ攻撃を始めたが、オデッサ市には、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)前は米ニューヨーク、ポーランドのワルシャワに次いで世界3番目に大きいユダヤ人コミュニティがあった。同市だけで当時、40以上のシナゴークがあった。

 ウクライナのユダヤ人は波乱の歴史を体験してきた。帝政ロシア時代や第2次世界大戦前後のポグロム(ユダヤ人への殺戮・略奪・破壊・差別)を経験し、1930年代にウクライナに入ってきたナチス・ドイツ軍はユダヤ人コミュニティをほぼ壊滅させていった。独週刊誌シュピーゲル(3月5日号)によると、ナチス・ドイツ軍はウクライナ全土で100万人以上のユダヤ人をガス室に送ったり、飢餓死させたという。スターリン時代に入っても、多くのユダヤ人が粛清された。

 ゼレンスキー大統領がウクライナのユダヤ人の歴史にあえて触れ、「ホロコースト」、「最終的解決」といった表現をイスラエル国会での演説の中で言及したことは賢明であったかは微妙なところだ。エルサレムからの情報によると、ゼレンスキー大統領は21日、イスラエル側の調停交渉に重ねて感謝することで、前日のスピーチでもたらしたイスラエル側の反発、批判を和らげる努力をしている。

 ゼレンスキー大統領のクネセト演説後、ウクライナ問題に関連して「エルサレムポスト紙」にギル・トロイ記者の興味深い記事(3月22日)が掲載されていた。ウクライナが1994年、ソ連時代からの核弾頭(1700個)をロシア側に引き渡さなかったならば、現在のウクライナ危機は異なったものとなっていただろうという内容だ。

 1991年にソビエト連邦が崩壊した直後、ウクライナにはソ連の核兵器の3分の1があった。ウクライナは世界で3番目の核兵器保有国でもあったわけだ。しかし、「ブタペスト覚書」によって核弾頭を放棄した。同覚書は1994年12月5日、ハンガリーの首都ブダペストで開催された欧州安全保障協力機構(OSCE)会議において署名されたもので、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナが核不拡散条約(NPT)に加盟し、国内の核弾頭を放棄する代わり、協定署名国が3国に安全保障を提供するという内容だ。

 トロイ記者は、「もしウクライナが核弾頭を放棄しなかったならば」という「if」に基づいたストーリーを展開させている。果たして、プーチン氏は核保有国のウクライナに対し、非武装化、非ナチ化を掲げて侵攻できただろうか、といった問いかけだ。

 現実は、プーチン大統領は28年後、核を有さないウクライナにロシア軍を侵攻させ、「ブタペスト覚書」を反故にしたわけだ。記者は中東の和平交渉を意識しながら、国際社会の無力さと「ブタペスト覚書」のような政治的な約束の無意味さを指摘したわけだ。

 核拡散防止は国際社会の重要な課題だが、現実の世界では依然、核抑止は否定できない。第2次世界大戦後、人類が大きな戦争を回避できた最大の理由は核兵器の存在にあった、ともいえるからだ。

独放送「ロシア軍苦戦の6つの理由」

 ロシア軍がウクライナに侵攻して24日で1カ月目となる。ロシア軍がその規模、武器・軍備などあらゆる点でウクライナ政府軍を大きく凌いでいることから、短期戦で終わると予想されたが、ウクライナ軍の士気は高く、国民の抵抗も強く、1カ月を迎えても首都キエフを制圧できないでいる。アント二オ・グテーレス国連事務総長は22日、「ロシアはこの戦争には勝利できない」とはっきりと述べている。独公共放送「ドイチュラントフンク」(Dlf)は21日、ロシア軍が予想外に苦戦している6点の理由を挙げている。その概要を紹介する。

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▲ウクライナのゼレンスキー大統領が国会で演説(2022年3月23日、日本首相官邸公式サイトから)

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 ロシアの指導部は、短期間で戦争を決着できると考え、「重大な戦略ミス」を犯した。軍隊は長い戦争に備えていなかったので、補給も十分ではなかった。そのためロシア軍は再編成を強いられている。短期武力紛争の代わりに、「血なまぐさい消耗戦」が控えているわけだ。ウクライナ政府、兵士の士気の高さも予想外だったはずだ。


 ▲蹈轡空軍が十分に動員されていない

 空軍は戦争では地上軍を守る役割があるが、ロシア空軍は戦闘に加わらず、地上に留まっていた。ウクライナの対空防御は西側からの武器援助もあって予想よりも強力だったことがある。西側から調達したスティンガーミサイルとストレラミサイルを使用して、ウクライナ軍はいくつかのヘリコプターと戦闘機を撃墜している。ロシアの侵略戦争が始まる前に西側の軍事専門家が想定していたよりもロシア空軍は悪い状態にある。
 ロシア戦闘機が民間のGPSデバイスで飛行しているほどだ。また、ロシア空軍は空対地戦で重要な精密な弾薬が十分ではない。


 ロシアの通信とロジスティクスの欠陥

 ロシア軍には暗号化された無線機がない。場合によっては、兵士は通常の携帯電話を使用し、ウクライナ側に盗聴されている。軍用無線を介した無線トラフィックは、ウクライナのアマチュア無線家によって部分的に傍受されるという。ウクライナ侵攻開始から1カ月足らずで、ロシア軍の将官ら上級将校少なくとも5人がウクライナ軍の攻撃で死去した。ロシア軍の使用する通信システムが極めて旧式なため容易に傍受されていたからという。

 コミュニケーションだけでなく、ロジスティクスも行き詰まっている。ロシア軍は、必要な物資を前面に送るトラックが少ない。ロシアの部隊は莫大な量の燃料、弾薬、食糧と飲み物に依存しているが、長い輸送ルートを長期的に管理する準備がなかったため、燃料、弾薬が不足している。


 ぅΕライナ軍の士気が高いこと

 ロシア軍の士気は緊張下でますます低下、そのうえ十分な訓練を受けていない徴集兵が配備されている。一方、ウクライナ政府軍の兵士には国を守るといった強い意志がある。ウクライナ軍は2014年の時より準備が整っていた。


 ゥΕライナへの武器供給

 ドイツを含む多くの西側諸国がウクライナに武器を供給、特に、戦車に対して使用できる兵器はロシアの攻撃を撃退する上で重要な役割を果たしてきた。例えば、ジャベリン対戦車ミサイルやパンツァーファウスト3が含まれている。ウクライナ軍は、スティンガーミサイルとストレラミサイルでロシア軍のヘリコプターと数機の戦闘機を撃墜した。


 Ε蹈轡軍は部分的にしか近代化されていない
  
 ロシアは2008年以来、軍の近代化に乗り出し、戦争用のハイテク装備を開発してきたといわれているが、ウクライナ戦ではその近代化を見いだせない。ミュンヘンのブンデスヴェール大学政治学者のカルロ・マサラ氏は18日のポットキャスト「Sicherheitshalber」の中で、「率直に言って、多くは古いガラクタだ。ロシア軍が近代的な軍技術を隠しているのか、それとも想定されていたほど機能していないのかは不明。巡行ミサイルとロケットシステムは非常に機能している」という。

 以上、Dlfの記事の概要をまとめた。

 ロシア軍はこの1カ月で少なくとも2回、極超音速ミサイル(キンジャール)を発射し、ロシア軍の実力を欧米側に見せた。ここにきてロシアから化学兵器部隊がウクライナ入りしたという情報が流れている。プーチン大統領は状況次第では化学兵器を使用する意向と受け取られている。プーチン氏にとってウクライナ戦争は勝利しかない。プーチン氏は核兵器を使用することも辞さないだろう。

 ウクライナ南東部マリウポリ市ではロシア軍の無差別攻撃が繰り返され、多くの市民が犠牲となっている。戦争犯罪を繰り返すプーチン氏にはもはや平和な「戦争後」はない。ロシアの国民経済は停滞し、国民の抗議デモは今後大規模なものに発展していくことが予想される。プーチン氏を国家元首として赤じゅうたんを敷いて迎え入れる国はほぼ皆無となった。今最も恐ろしいことはプーチン氏の暴発だ。
 

ウクライナ戦争は「形而上学的闘争」?

 世界の正教会ではロシア正教会最高指導者モスクワ総主教キリル1世にロシア軍のウクライナ戦争に反対する声明を求める声が益々高まってきた。ワルシャワのポーランド正教会サワ府主教は先週末、キリル1世に書簡を送り、「ロシア軍のウクライナ戦争を中止するように声を上げてほしい。聖王子ウラジミールの同じ洗礼盤の子孫である2つのスラブ正教会の国がフラトリサイド戦争(兄弟戦争)を行っていることは理解できない。あなたの権威の力を知っているので、あなたが声を挙げれば多くの人々は耳を傾けると信じる」と書かれている。

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▲ロシア軍の攻撃を受けて破壊されたハリコフ(ウクライナ北東部)の学校(バチカンニュース2022年3月20日から、写真はイタリアのANSA通信)

 キリル1世はこれまで沈黙してきた。同1世は、「ウクライナに対するロシアの戦争は西洋の悪に対する善の形而上学的闘争だ」と主張し、プーチン大統領と思想的に一致していることを明らかにしている。

 それでは同1世のいう「西洋の悪」は何を意味するのだろうか。ウィーン大学組織神学研究所のクリスチャン・ストール氏とヤン・ハイナー・チューク氏はスイスの日刊紙「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」(NZZ)への寄稿(3月14日)で、「プーチンは、西側の退廃文化に対する防波堤の役割を演じ、近年、正教会の忠実な息子としての地位を誇示してきた」と記述している。一方、モスクワ総主教キリル1世は説教の中で、「プーチン大統領によって解き放たれた戦争は西側の同性愛者のパレードからロシアのクリスチャンたちを守る」と述べている。すなわち、プーチン氏とキリル1世は西側文化への拒否で一致しているわけだ。

 それだけではない。両者の同盟はロシアのキリスト教が西暦988年にキエフ大公国の洗礼によって誕生したという教会の歴史的物語に基づいている。ベラルーシ、ウクライナ、そしてロシアは、教会法の正規の領土を形成する。プーチン氏のネオ帝国主義的関心とほぼ一致しているわけだ。ロシア正教会の「宗教的神話」とプーチン大統領の「政治イデオロギー」が結合することで「宗教ナショナリズム」が生まれてくる。その宗教ナショナリズムは反西洋で一層強固となっていく、といった構造かもしれない。

 東方正教会の精神的指導者の立場にあるコンスタンチノーブル総主教庁(トルコのイスタンブール)が2018年10月11日、ロシア正教会の管轄下にあったウクライナ正教会の独立を承認した時、ウクライナのポロシェンコ大統領(当時)は、「悪に対する善の勝利だ」と称賛した。その直後から、プーチン大統領とキリル1世の「政教同盟」はウクライナ奪回で連帯を強めていったのではないか。 

 文明論考家の上野景文元駐バチカン大使は「東西間の文明的亀裂」と表現しているが、キリスト教会が東西に分かれて以来、西側ではカトリック教会やプロテスタント教会が、東側には正教会が広がっていく。歴史の進展の中で東西間に亀裂が生じ、対立、紛争が起きてきた。東西間の境界線は冷戦時代には政治的境界線となって“鉄のカーテン”が敷かれていったわけだ。

 ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)の首座主教であるキエフのオヌフリイ府主教は先月24日、ウクライナ国内の信者に向けたメッセージを発表し、ロシアのウクライナ侵攻を「悲劇」とし、「ロシア民族はもともと、キエフのドニエプル川周辺に起源を持つ同じ民族だ。われわれが互いに戦争をしていることは最大の恥」と指摘、創世記に人類最初の殺人として記されている兄カインによる弟アベルの殺害を引き合いに出し、両国間の戦争は「カインの殺人だ」と述べた。同内容はロシア、ウクライナ両国の正教会に大きな波紋を呼んだ。

 「カインの殺人」、「東西間の文明的亀裂」、そして「善悪の闘争」等はキリル1世の「形而上学的な闘争」のジャンルに入るかもしれない。ただ、ウクライナで現在、多くの人々が銃弾の犠牲となっているという現実は変わらない。

 イスラエルの気鋭の歴史学者ユバル・ノア・ハラリ氏は、「戦争は憎悪を植え付ける。そして後の世代がその収穫を刈り取らざるを得なくなる。過去に囚われず、われわれは前に思考を向けて生きるべきだ」と述べている。

ウクライナ人は欧州のディアスポラ!

 ドイツの難民問題専門家は、「2015年に中東・北アフリカから100万人以上の難民・移民が欧州に殺到して欧州連合(EU)はその対応で大混乱となったが、2022年のウクライナ難民問題と比べれば、ウオーミングアップに過ぎない。22年のウクライナ難民の殺到は戦後、最大規模の人間の移動だ」という。同専門家によれば、前者は1年間で100万人の難民が殺到したが、ウクライナからは毎週100万人の難民が欧州に避難しているという。

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▲隣国に行く列車で避難するウクライナの人々(UNHCR公式サイドから)

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▲ポーランドに到着したウクライナの避難民(UNHCR公式サイトから)

 ジュネーブに本部を置く国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が20日発表したところよると、ウクライナの避難民の数は既に1000万人を超えたという。ウクライナの人口は2021年の国家統計局によると4159万人だから、国民の4人に1人が避難していることになる。国外脱出者は19日現在約339万人、残りは国内避難民だ。国際移住機関(IOM)などによると、ウクライナ国内で家を追われて避難生活を送る人は17日時点で648万人に達している。

 2月24日から今月19日現在でウクライナ難民を受け入れている国の中ではポーランドが最大で約205万人だ。同国には欧州最大のウクライナ・コミュニティが存在するから、避難するウクライナ人の多くはポーランド国内に住む親族、知人に助けを求めるケースが多い。そのほか、ルーマニアに52万7000人、モルドバに36万2000人、ハンガリーに30万5000人、スロバキアに24万5000人と続く。参考までに、ロシアには今月17日現在で約18万4000人、ベラルーシに2548人がウクライナから避難している。

 海外に逃れてきたウクライナ人は主に、ウクライナの“ディアスポラ”が既に存在するポーランド、ドイツ、チェコ、ポルトガル、イタリア、スペインなどに一時避難するケースが多い。例えば、オーストリア内務省の発表によると同国では20日現在、約1万4000人のウクライナ人が入国したが、その80%はドイツやイタリアに行くとみられている。

 欧州はロシア軍がウクライナに侵攻して以来、ウクライナから避難する国民を温かく迎えてきた。2015年の難民殺到時に比べ、ウクライナ難民のほぼ90%が女性、子供であり、「ブロンドの髪と青い目」の難民で民族的、文化的に近いという理由があるからだ。

 ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア軍の侵攻直後、18歳から60歳の男性には国の防衛のために奉仕を要請した。だから、妻や子供を車に乗せてポーランド国境まで走り、家族を下ろすとウクライナに再び戻っていく男性の姿が多くみられた。

 ただ、ここにきてウクライナから避難してきた女性や子供を狙った人身売買の犯罪グループが国境近くで暗躍しているという情報が流れていおり、受け入れる立場の欧州側はウクライナからの避難民の安全のために警戒を強めている。

 難民を受け入れる欧州は2015年の時のように難民申請で時間を取らず、入国手続きを簡易化し、新しい身分証明書だけではなく、労働許可証まで発行する一方、就学年齢の子供には短期間の言語学習の後、地元の学校に通学できるように便宜を図っている。

 ただし、ロシア軍の攻撃は少なく、安全と思われてきたウクライナ西部リヴィウなどに避難してきたウクライナ人(域内難民)がロシア軍の攻撃が激しくなってきたこともあって国外に避難する者が増えてきたため、国外避難民の数は今後も増えることが予想されている。

 ブリュッセルの「難民政策研究所」(MPI)のハンネ・バイレンス所長は、「信じられないほどの数の難民が途方もないスピードで急増している」と語っている。短期間に多くの避難民を収容できる国はほとんどない。戦争が長期化すると、難民受け入れ側にも限界が出てくることが懸念されている。

 例えば、ルーマニアやモルドバは欧州最貧国に属する国だけに、多数の避難民が隣国から殺到した場合、その収容能力、経済力にも限界があるから、EUは経済支援に乗り出している。

 中長期的には、避難民を労働市場に統合させるための支援が必要となる。ウクライナ難民は経済難民ではなく、戦争難民であることから、その心理的影響、トラウマ対策など精神的ケアも大切となる。そこで欧州全般の避難民の状況、情報の交換などEUレベルのコーデイネーターの必要性が叫びだされてきた。

 2015年の難民には欧州に定着し、労働する道を模索する経済難民が多かったが、ウクライナの避難民の多くは「戦争が終わり次第、一刻も早くウクライナに戻りたい」と願っている。
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