ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2021年11月

「イラン核合意」救済最後のチャンス?

 イランの核協議が29日、ウィーンで再開する。同協議は今年6月、合意できずに休会して以来、5カ月ぶりの再開となる。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)では核合意締結国がイランの核合意復帰に向けて協議を重ねてきた。

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▲イラン核協議に参加する加盟国の国旗(IRNA通信から)

 アリ・バゲリ・カー二氏が率いるイラン代表団は27日ウィーンに到着すると、ロシアと中国の両国代表と早速予備交渉を行った。また、欧州連合(EU)のエンリケ・モラ主席調整官ら専門家レベルでの二国間および三国間協議は28日始まった。

 IAEA関係筋は、「今回のウィーン会合でブレークスルーすることは期待できない」と悲観的な見通しを述べる一方、「米国が対イラン制裁の一部を緩和、それに対し、イランが核開発の一部停止に応じるならば、暫定的な合意は可能かもしれない」と語った。その場合でも、「来年春からの本格的な交渉のための時間稼ぎの性格が強くなる」と説明している。

 イラン核協議は国連常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国とイランとの間で13年間続けられた末、2015年7月に包括的共同行動計画(JCPOA)が締結された。しかし、トランプ米大統領(当時)が2018年5月8日、「イランの核合意は不十分」として離脱を表明。それを受け、イラン側は濃縮ウラン活動を再開し、核合意の違反を繰り返してきた。

 バイデン米政権はイランがJCPOAに復帰することを願い、イランとの間接的な交渉を行ってきたが、イランで保守強硬派のライシ大統領が誕生し、イラン指導部で反米・反イスラエル路線が台頭してきているだけに、交渉は更に難しくなってきた。

 イランは核合意が無効になったとし、JCPOAの核合意を一つ一つ違反してきた。同国は19年5月以来、濃縮ウラン貯蔵量の上限を超え、ウラン濃縮度も4・5%を超えるなど、核合意に違反。19年11月に入り、ナタンツ以外でもフォルドウの地下施設で濃縮ウラン活動を開始。同年12月23日、アラク重水炉の再稼働体制に入った。昨年12月、ナタンツの地下核施設(FEP)でウラン濃縮用遠心分離機を従来の旧型「IR−1」に代わって、新型遠心分離機「IR−2m」に連結した3つのカスケードを設置する計画を明らかにした。そして、今年1月1日、同国中部のフォルドウのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げると通達。2月6日、中部イスファハンの核施設で金属ウランの製造を開始している。4月に入り、同国中部ナタンツの濃縮関連施設でウラン濃縮度が60%を超えていたことがIAEA報告書で明らかになっている。なお、イラン議会は昨年12月2日、核開発を加速することを政府に義務づけた新法を可決した。

 米国はウィーンの核合意への復帰条件として、.謄悒薀鵑粒乏発計画を停止し、核合意締結前に戻す、▲ぅ薀鵑涼翕戝楼茵淵轡螢◆▲ぅ┘瓮鵝▲ぅ薀、レバノンなど)でのテロ組織への軍事支援を中止させる―の2点だ。一方、イラン大統領選で当選した強硬派のライシ師は米国との軍事衝突を願っていない。目的は米国の対イラン制裁、金融制裁、原油輸出禁止など制裁の全面的解除を勝ち取ることだ。

 米政府の制裁再発動を受け、通貨リアルは米ドルに対し、その価値を大きく失う一方、国内では精神的指導者ハメネイ師への批判まで飛び出すなど、ホメイニ師主導のイラン革命以来、同国は最大の危機に陥っている。そこに中国発の新型コロナウイルスの感染が広がり、国民は医療品を手に入れることすら難しくなっている。国民の不満がいつ暴発してもおかしくない状況だ。大統領選で投票を棄権した多くの国民は政治に無関心になってきている。ライシ師が国民経済を早急に再生しない限り、イランの国力は衰退してしまう。

 米国は今年4月から6月の間​​にイランとの間接交渉を既に6回行った。強硬派で聖職者のエブラヒーム・ライシ師がイスラム共和制の大統領に選出された後、新しいイラン交渉団は、2017年以降に米国とEUによってイランに科された全ての制裁解除を要求。新たに核合意が実現した場合、「米政権が交代したとしても、その核合意が継続される保証」を求めている。

 なお、バイデン米政権はイスラエルの動向に神経を使っている。ベネット政権にとってもイランの核開発計画問題は最大の外交問題だ。イランの核開発はサウジアラビア、エジプトにも波及するから、イランの段階で核開発を止めない限り、中東には核開発を目指す国が続々と出てくる危険性がある。中東で唯一の核保有国イスラエルの軍事的優位性を維持するためにもイランの核開発は停止させなければならない。バイデン政権がイランの核開発計画をストップできないと分かれば、イスラエルは軍事力を行使して冒険に出る可能性も排除できない。そうなれば、イスラエルとイランの軍事衝突という最悪の事態が生じる。バイデン政権はイスラエル側の自制を得るためにも、イランとの交渉では中途半端な妥協はできないわけだ。(「サウジとイランが接近する時」2021年4月29日参考)。

 ただし、再選出馬の意欲を表明したバンデン大統領の米国内の支持率は低下、民主党も同様だ。バイデン氏としてはイラン核協議で合意して外交ポイントをあげたいところだろう。それだけに、イラン側に不要な譲歩をしないか、という別の懸念も排除できない。

欧州、新変異株でダブルパンチ?

 オーストリアでは今月22日から4回目のロックダウン(都市封鎖)が3週間の予定で実施されているが、27日の土曜日、オーストリアの第2都市グラーツ市はじめ、クラーゲンフルト市、サンクト・ぺルテン市、インスブルックでは政府のコロナ規制や来年2月1日実施予定のワクチン接種の義務化に反対する抗議デモ集会が行われた。

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▲バチカンのサン・ピエトロ広場で28メートルの高さのクリスマス・ツリーが立てられた(2021年11月23日、バチカンニュース独語版から、写真ANSA通信)

 先週末は首都ウィーンで約4万人の市民が抗議デモを行ったが、今回はグラーツ市で3万人余りの抗議デモ集会参加者があったという。プラカードには「我々の自由を奪うな」、「コロナ規制に反対」から、子供を「ワクチン接種から守れ」まで、さまざまな要求が書かれていた。デモ集会の参加者の多くはFFP2マスクを着用していなかったが、相対的に平和裏に行われた。警察側の発表によれば、27日のグラーツ市の抗議デモ集会は1945年以来、最大規模のデモ集会だったという。デモ集会の終わりには、手を挙げるヒトラーのあいさつをする参加者もいたという。クラーゲンフルト市では約3000人が参加。集会最後はケルンテン州政府建物前で行われ、クラーゲンフルト市の極右「自由党」代表が演説した。インスブルック市でも同様、1500人余りの市民が参加して集会が開かれた。

 オーストリア通信(APA)配信のコロナ規制反対の抗議デモ集会の記事を読みながら、「多くの新規感染者が出、死者も増えてきているのに、どうしてコロナ規制に反対し、ワクチン接種を拒否するのだろうか」と考えてしまった。今回は5歳から11歳までの子供にもファイザー製のワクチン接種が25日、欧州医薬品庁(EMA)から認可されたこともあって、抗議デモ集会では「子供をワクチン接種から守れ」と書かれたプラカードが多くみられた。

 コロナ問題のニュースとしては、オーストリアの野党、極右自由党のヘルベルト・キックル党首はコロナ感染から回復し、隔離期間から解放されたことが伝わってきた。同党首は15日、フェイスブックで、「残念ながらコロナウイルスに感染したので、自宅で養生する」と報告していた。同党首は議会内でのマスクの着用を拒否し、政府のコロナ規制に強く反対、ワクチン接種も拒否してきた政治家だ。「山登りをして新鮮な空気を吸い、ビタミンCを飲んでおれば、ワクチン接種は必要ない」と豪語したきた。その党首が感染したというニュースは大きな波紋を投じた。

 幸い、入院もせずに自宅治療で回復したわけだ。キックル党首はその直後、「シャレンベルク首相、ミュックシュタイ保健相よ、気をつけろよ」というメッセージを投じ、今後も政府のコロナ規制に強く反対していく意向を表明している。同党首の回復は朗報だが、「それ見ろ、コロナウイルスは風邪と同じだ。ワクチン接種など必要ない」と国民に向かって叫ぶようだと、ワクチン接種に消極的な国民に影響を与えることが懸念される。実際、キックル党首が隔離中、寄生虫退治用の薬を飲んでいるというニュースが流れると、多くの国民が薬局に行ってその薬を買う人が増えた。その中の1人は、薬を大量に飲んで亡くなっている。キックル党首の言動の影響は大きいだけに、感染回復後の同党首の言動は要注意だ。

 そうこうしている時、また新型コロナウイルスの変異株が見つかったというニュースが飛び込んできた。同変異株は「オミクロン」と呼ばれ、欧州でもベルギー、オランダ、英国、ドイツ、イタリア、チェコなどで既にアフリカから帰国した国民の間で感染者が出ている。世界保健機関(WHO)は26日、オミクロン株を最も警戒レベルの高い「懸念される変異株」に指定している。

 そのニュースが流れると、主要国の株価指数が軒並み大幅安となった。従来のワクチン接種の有効性が不明なうえ、年末年始にかけての経済活動に大きなブレーキがかかる懸念が出てきた。特に、ワクチンの接種を呼びかけてきた国としても、「従来のワクチンがオミクロンに効果があるか不明だ」として、多くの国民がワクチン接種を控えるかもしれないからだ。ワクチン学者によると、「オミクロン関連のデータを慎重に分析しない限り、現時点では何も言えない」と慎重な姿勢を崩していない。ワクチン製造側によると、「オミクロンにも有効なワクチンの製造には数週間かかる」という。mRNAワクチンの場合、短期間でオミクロンにも有効なワクチンを製造できるという。

 キリスト教社会の欧州では各都市で既にクリスマス・ツリーが飾られている。しかし、新規感染者が増加する欧州ではクリスマス市場も閉鎖されるなど、寂しいクリスマス・シーズンとなってきた。そのうえ、ウイルスの新たな変異株が広がるようならば、状況は最悪となる。欧州の国民はその懸念を薄々感じながらコロナ規制の解除の日を願っている。

誰かが“習近平落とし”を図っている

 中国の習近平国家主席は、第19期中央委員会第6回総会(6中総会)で「歴史的決議」が11月11日に採択されたことで、自身の立場を強化し、来年の第20回党大会で3期目の主席就任が確実視されている。対外的には、台湾統合を視野に入れ、南シナ海への覇権を広げてきている。国際社会からみたら、中国の覇権主義、大国主義は習主席の判断に基づくものと受け取られてきた。

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▲バーチャル形式で開催された「ASEAN-中国特別サミット」の議長を務めた中国の習近平国家主席(2021年11月22日 新華社)

 習主席は7月1日の党創建100周年を祝うイベントで、「誰であれ中国を刺激する妄想をするならば、14億中国人民が血と肉で築き上げた鋼鉄の長城の前に頭が割れ血を流すだろう」と激を飛ばし、「中国人民は他国の人民をだまし、圧迫し、奴隷として働かせなかった。過去にもしなかったし、現在もしておらず、将来にもない。同時に外部勢力がだまし、圧迫し、われわれを奴隷として働かせることを許さない」と強調した。習氏の発言は非常に戦闘的だ。中国を植民地化した過去の大国への恨み節を披露する一方、将来、世界の大国となっていくという決意表明となっている(「習近平『党創建百年演説』の怖い部分」2021年7月2日参考)。

 上記の演説トーンを聞けば、中国共産党政権の最近の脅迫外交、南シナ海への覇権主義的な軍事行動の張本人は習近平氏だと考えるだろう。しかし、どうしても腑に落ちない点がある。来年2月には北京冬季五輪大会が開催される。国際社会が中国に目を注ぐ時だ。その年を前に、軍事的冒険をするだろうか。考えられるシナリオはあくまでも北京五輪大会の後だ。しかし、中国は今年に入ってもその覇権主義的な言動を抑えていないし、台湾に対しても脅迫を繰り返している。国際的スポーツの祭典を国家の威信向上の手段と考えているとしたら、少々自家撞着な政策と言わざるを得ないのだ。

 普通に考えれば、北京五輪大会が終わるまで猫を被るだろう。中国共産党政権はそのような初歩的な外交配慮をせずに、攻撃的、軍事的な政策を展開させているのだ。なぜか?これが今回のテーマだ。

 中国共産党政治局常務委員会委員の1人だった張高麗前副首相と中国の女子テニスの世界チャンピオンとの不倫騒動が報じられ、その張本人の彭帥(ポン・シュアイ)さんがその後、行方不明となったことで、国際テニス界だけではなく、世界のメディアの関心を引いたばかりだ。このスキャンダルが飛び出した時期を考えると、首を傾げざるを得ない。政府関係者が関与して、火消しに走ったが、このような事件が容易に外部に漏れるという“中国の現状”に合点がいかない。換言すれば、誰かが習近平主席の顔に泥を塗ろうとしているのではないか、という憶測が生まれてくるのだ。

 もう少し憶測を深めると、台湾海峡、南シナ海での不法な軍事行動などはひょっとしたら反習近平グループが陰で主導しているのではないか。中国政府の最近の言動は慣例の「戦狼外交」というより、習主席を狙った嫌がらせではないかと考えるのだ。

 習主席は演説の中で台湾統合を堂々と述べ、強い指導者のイメージを内外に与えているが、北京五輪大会前には行動を控えたいと考えているはずだ。その時、反習近平勢力が台湾にちょっかいを出すなどして、米国などの怒りを恣意的に買っている。反習近平グループは小規模の軍事衝突をも辞さない決意で米国を怒らせ、そのツケを習主席に回しているのではないか。すなわち、“習近平落とし”を図っている可能性が考えられるのだ(「世界で恥を広げる中国の『戦狼外交』」2020年10月22日参考)。

 このコラム欄で「外遊できない国家元首の様々な理由」(2021年10月17日参考)の中で書いたが、68歳の習近平主席は過去2年間ほど外国訪問を避けている。その理由については、これまで様々な憶測が流れている。最もよく言われるのは、「習主席は暗殺を恐れているからだ」という説だ。海外中国メディア「大紀元」によると、習近平主席は2012年に国家元首に就任して以来10回余り、暗殺の危機があったという。

 代表的な反習近平グループは、江沢民派ではないかというが、定かではない。ハッキリしている点は、最近の中国共産党政権の言動には習近平主席の威信を傷つけ、その指導力に懐疑的になるような計らいが進行しているのを感じる。習近平氏が北京を留守できないのは当然かもしれない。

 「歴史的決議」は11月11日に採択されたが、全文が公表されたのは11月16日だ。5日後だ。「歴史的決議」はなぜ即公表できなかったのだろうか。習近平氏も認めているように、歴史的決議案は採択されるまで500カ所以上、修正されたという。このことは、中国共産党政権内に習近平氏に反対する勢力が依然いることを間接的だが証明している。

 参考までに、中国のファーストレディ、習主席夫人の彭麗媛女史(ポン・リーユアン)は中国の代表的歌手だった。ウィーンの国立歌劇場で「ムーラン」(Mulan)の主人公を演じたこともある。夫人にとって、音楽の都ウィーンの国立歌劇場は現役時代の最後の舞台だったという。その夫人が最近、中国メディアに頻繁に登場するなど、政治的影響力を強めてきているという。世界は女性指導者が台頭している時だ。北朝鮮では金正恩総書記の実妹・金与正さん(朝鮮労働党中央委員会第1副部長)の言動が頻繁に報じられてきた。中国でも女性指導者が出てきても不思議ではないかもしれない。

11分に1人の女性が家庭で殺された

 25日は「女性に対する暴力撤廃の国際デー」だった。来月10日の「人権デー」までの16日間、「UNiTE女性に対する暴力撤廃のキャンペーン」が始まった。今回のテーマは「政界をオレンジ色に、今すぐ女性に対する暴力を終わらせよう!」だ。アントニオ・グテーレス国連事務総長はビデオスピーチで、「女性と女児に対する暴力は、今日の世界で最も蔓延した、差し迫った人権問題であり続けている」と述べ、「私たちがともに一層の努力を重ね、2030年までに女性と女児に対する暴力を撲滅しなければならない」と語っている。

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▲女性に対する暴力の撤廃に向けて(UN WOMEN日本事務所公式サイトから)

 ウィーンの国連情報サービス(UNIS)が同日発表したデータによると、世界で昨年8万1000人の女性と少女が殺された。そのうち、約4万7000人(全体の58%)が親密なパートナーや家族の手によって犠牲となったという。これは11分に1人の女性が家庭内で殺されている計算になる。ウィーンに本部を置く国際薬物犯罪事務所(UNODC)が25日公表した調査報告書は親密なパートナーまたは家族によるジェンダー関連の女性と少女の殺害に関する95カ国のデータに基づいている。

 UNODCのガーダー・ワーリー(Ghada Waly)事務局長は、「女性と少女は世界各地で家庭内での致命的な暴力の主な被害者であり、親密なパートナーや他の家族による殺人の10人に6人を占めている 」と述べた。アジアは犠牲者数で最も多く、推定1万8600人。10万人あたりの犠牲者数ではアフリカが最も多く、2.7人。欧州は最も少ない地域で0・7人だった。同事務局長は、「UNODCの調査によると、致命的な暴力が減少した場所でさえ、過去10年間で状況は改善されていない。女性と女児に力を与えて保護し、ジェンダーに基づく暴力を防ぎ、命を救うためには、緊急かつ的を絞った行動が必要だ」と強調している。

 新型コロナウイルスによる封鎖が女性と少女のジェンダー関連の殺害に与える影響に関する世界的なデータは不十分だが、2019年から20年の間にジェンダー関連の殺害の数は西ヨーロッパで11%増、南ヨーロッパ5%増、北米8%増、中米3%増、南米5%増、北欧は変化なし、東欧マイナス5%と、2020年の新型コロナ関連の移動制限による女性と少女を取り巻く影響は少しはばらつきがあるが、全体的に悪化している。

 殺人被害者全体の5分の1しか占めていないにもかかわらず、親密な殺人と家族殺人の被害者の58%は女性と少女だ。同事務局長は「新型コロナのパンデミックは、女性と女性の権利をさらに後退させ、ジェンダーに基づく暴力に対して脆弱なままにし、本質的な支援とサービスへの依存を減らし、司法へのアクセスを制限した」と述べている。

 当方が住むオーストリアでも女性、少女への暴力は大きな社会問題となっている。このコラム欄で「急務となった『フェミサイド』対策」2021年5月3日)を書いたが、フェミサイド(Femicide=ジェンダーに基づく憎悪犯罪)と受け取られる女性殺人事件は増加傾向にある。11月25日もインスブルックの28歳の女性が同棲中の男性(34)によって殺害されたばかりだ。同国で今年に入って11月26日現在、29人の女性、少女が主に家庭内で相手の男性から殺されている。

 昨年、家庭内暴力の犠牲者2万0587人が「暴力保護センター」と「介入センター」によって保護されたが、約82%は女性と少女だ。オーストリアでは、15歳のときから5人に1人の女性が身体的および性的暴力を経験しており、3人に1人の女性がセクハラを経験している。実数はさらに多いと想定されている。

 ウィーン市ブリギッテナウで元夫(42)が元妻(35)の家に入り、拳銃で頭を撃って殺害した事件(4月30日)が起き、その数日前には、元パートナーが別れた女性が働いているタバコ店にガソリンで火をつけ、女性は顔などに火傷を負って病院に急送されたが、その数日後亡くなるという事件が起きている。事件はメディアでも大きく報道されるが、女性への暴力防止対策や具体的な対応は不十分だ。事件が家庭内で発生することもあって、警察側も事件発生までまったく知らなかった、というケースが多いからだ。

 オーストリアでは昨年1月、家庭内暴力防止法が施行されている。また、夫や父親から暴力を振るわれる女性や少女に対してはFrauenhaus(女性たちの家)と呼ばれる避難場所が設置されているし、24時間のホットラインが敷かれている。ちなみに、16日間の活動キャンペーン期間中、スーパーのレシートには暴力を受けている女性を救済するホットラインの番号が明記されている。被害を受けている女性がいつでも電話できるようにした配慮だ。

 社会学者ヴィースベック氏は、「家庭内の男性の暴力は些細な事として問題視しない傾向があるが、実際は安全問題だ」と強調する。例えば、家庭で女性に暴力を振るう男性は警察側が知っていても具体的な対策を取らないことがこれまで多かった。加害者の中には、元愛人や元妻が自分と別れ、他の男性の所に行くことに対し、「男としての自分の名誉が踏みにじられた」と受け取り、復讐のために殺害を決意するケースが報告されている。

 フェミサイドには過去の家父長制や歪んだ男尊女卑の残滓が色濃く反映しているケースが多いだけに、対策も容易ではない。結局は、「教育」が問われてくることになる。時間が少しかかっても「教育」を通じて女性の人権や家庭の意義などを幼い時から学んでいく以外にないだろう。

独次期政権「大麻の合法化」目指す

 ドイツの社会民主党(SPD)、「緑の党」、そして自由民主党(FDP)の3党は24日、先月21日から続けられてきた連立交渉で合意が成立したことを発表した。その結果、「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)主導のメルケル政権は16年間の幕を閉じ、SPDのオーラフ・ショルツ財務相を次期首相とした3党連立政権(通称・アンプル政権、SPD=赤、緑の党=緑、FDP=黄)が来月上旬にも発足する運びとなるが、SPDとFDPは党大会で連立協定を、「緑の党」は党員の投票でその是非を問うため、新政権の発足には10日間あまり時間がかかる。その後、連邦議会(下院)の承認を受け、ショルツ新政権が正式にスタートする。ドイツで3党連立政権は連邦レベルでは初めて。

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▲連立交渉で合意成立(中央ショルツ次期首相)2021年11月24日、ベルリンで、自由民主党公式サイトから

 9月26日の連邦議会選でSPDは第1党となり206議席を獲得、「緑の党」158議席、そしてFDPが92議席を獲得し、3党の総数456議席で下院の過半数(定数736議席)を占める。ちなみに、野党に下野するメルケル首相のCDU/CSUは197議席だ。

 新政権は15閣僚から構成され、SPDはショルツ氏(63)の首相ポストのほか6閣僚、「緑の党」はロベルト・ハーベック共同党首(52)の新設の「環境経済相」(副首相兼任)、アナレーナ・ベアボック共同党首(40)の外相など5閣僚を、FDPはクリスティアン・リントナー党首(42)が財務相に、そのほか運郵相、法務相 デジタル教育研究相の4閣僚ポストを得る予定だ。

 ベルリンで24日午後3時から開かれた3党代表記者会見で、次期首相に就任するショルツ財務相は新政権を「Koalition auf Augenhohe」(目の高さでの連合)と規定し、「異なる政治信条の3党が違いを乗り越え、結束し、わが国を刷新していきたい」と抱負を語った。

 一方、FDPのリントナー党首は、「3党で共通する点はわが国を近代化しなければならないという認識があることだ。わが国を発展させるためには民間のイニシアチブ、ノウハウ、資本を規制から解除し、社会のデジタル化、教育・研究の奨励が重要だ」と指摘する一方、コロナ禍で財政赤字が急増してきたことを受け、「2023年から債務ブレーキをかけ、財政の健全化を図る」と述べた。同党首はメディアから「3連立政権は左派政権」と呼ばれていることを意識し、「新政権は中道だ」と強調した。

 一方、ハーベック党首は、「連立交渉で合意した環境保護政策には満足している。新政権が国民の福祉向上と環境保護の一体化で歴史に名を残すことを願っている」と語り、ベアボック共同党首は、「新政権は重要な分野でパラダイムシフトをもたらすだろう」と述べた。

 3党が合意した連立協定(177頁)の見出しは「自由、正義、持続可能性の為の同盟」(Bundnis fur Freiheit, Gerechtigkeit und Nachhaltigkeit)だ。3党連立政権の重要な政策は再生可能なエネルギーの拡大、最低賃金12ユーロ(時給)の引き上げ、住宅建設の促進だ。その中でも環境保護はトップ課題だ。「2045年までに気候中立の目標は、再生可能エネルギーを拡大し、2030年までに石炭を段階的に廃止することで理想的に達成される」と記述している。なお、連合協定の中で懸念される点は、成人を対象に大麻の合法化を実施し、中絶の広告禁止撤回が明記されていることだ。

 メルケル政権を引き継ぐ次期政権の緊急課題はやはり新型コロナウイルスの感染対策だろう。コロナ感染は新政権発足まで待っていない。ショルツ氏は、「連邦首相府にコロナウイルス危機対策チームを常設する」と表明、ワクチン接種の義務化については、「特定の職者の義務化は当然だが、一般の義務化については検討しなければならない」という立場を明らかにした。

 参考までに、ドイツ国立感染症研究所「ロベルト・コッホ研究所」(RKI)が25日早朝(現地時間)明らかにしたところによると、過去24時間でドイツの新規感染者数は7万5961人、351人が死亡した。パンデミック以降の累計死者数は10万人を超えた。

 3党連立政権の発足について、野党となるCDU/CSUからは、「新政権の連合協定を見る限り、新しい出発というのは不十分だ。ただし、現在の危機を乗り越えるために協調できる面では支援を惜しまない」という声が聞かれる。また、極右政党「ドイツの為の選択肢」(AfD)は、「新政権は左派政権だ」と指摘し、新政権に対して厳しい姿勢で臨むことを明らかにしている。なお、記者会見ではメディアから、「SPDはメルケル政権のパートナー政党だった。その政党が新しい出発と信頼ある政権というのはおかしい」という辛辣な質問が飛び出した。

 3党の連立交渉は予想以上にスムーズに進展し、次期政権の発足が決まり、ショルツ氏が公約していたように、年内に新政権の誕生は問題なくなったが、SPD・「緑の党」とFDPの間では経済政策では大きな相違がある。それだけに、3党協調路線がいつまで継続するかは不確かだ。

地球接近の小惑星の軌道を変えよ!

 米航空宇宙局(NASA)は24日、地球に接近する小惑星の軌道を変更させることを目的とした「Dart」(ダーツ)と呼ばれるミッションをスタートさせた。未来の地球の安全を守るためにNASAと欧州宇宙機関(ESA)が結束して「地球防衛システム」を構築するため約3億3000万ドルを投入したビッグプロジェクトだ。ダーツ計画は、宇宙探査機(プローブ)を打ち上げ、目的の小惑星に衝突させ、小惑星の軌道の変動を観察する実験だ。

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▲DARTミッション(NASA提供)

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▲地球に接近する小惑星(欧州宇宙機関=ESA公式サイトから)

 DartはDouble Asteroid Redirection Test(二重小惑星方向転換試験)の略で小惑星の軌道を修正させる人類史初の実験だ。小惑星が地球に衝突する軌道上にあると判明した場合、その軌道を微調整することで地球に衝突する危険性を排除する試みで、地球が宇宙で今後も存続していくための危機管理ともいえる計画だ。

 NASAの説明によると、プローブは23日(現地時間)、ヴァンデンバーク空軍基地から民間宇宙会社スペースXのファルコン9ロケットの助けを受けて打ち上げられた。プローブはカメラを1台搭載し、約1年間飛び、来年10月には目的の直径約160mの2重小惑星ディディモスの月「ディモーフォス」に衝突。衝突後の小惑星の影響を監視し、測定する。質量610kgの探査機が秒速6・6kmで衝突することで、ディディモスを周回するディモルフォスの軌道に変化、具体的には、約12時間の小惑星の軌道を少なくとも73秒、最大10分間短くすると予想されている。

 NASAによると、太陽系には何十億の小惑星が存在し、地球から観測できる宇宙空間でも約2万7000個の小惑星が特定されている。近未来、小惑星が地球に衝突する可能性は少ないが、その「Xデー」に備えて、NASAはダーツ・ミッションを始めたわけだ。

 ちなみに、米映画界では1990年代、小惑星の地球衝突というシナリオの「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」がヒットしている。当方は先月、松本徹三氏のSF小説「2022年地軸大変動」を読んだ。異星人が地軸を勝手に変えたために地球の環境に大異変が生じるというプロットだが、ダーツ計画はプローブが地球に接近する小惑星に衝突し、その軌道を微調整するという人類の存続を賭けた試みだ。

 SFのように感じるが、小惑星が地球に衝突した例はある。約6600万年前、小惑星が地球に衝突し、地球の気候は激変し、その結果恐竜たちが絶滅したといわれている。恐竜の化石などの研究で分かっている。

 ESAは2019年7月16日、プレスブリーフィングで小惑星「2006QV89」が19年9月、地球に衝突する可能性があり、その確率は当時、1対7000だったと発表した。惑星の地球衝突リスクの確率が4桁内ということは非常に危険だったことを意味する。欧州レベルで行われる宝くじ(ロット)の当たる確率は1億4000万対1だ。当時の小惑星の場合、1対7000だった。我々は事前には知らされなかったが、小惑星が地球に衝突するリスクが非常に高かったことが分かる。

 ESAによると、小惑星「2006QV89」の大きさは20mから最大50m。同惑星が2年前、地球に衝突する危険性はなくなったが、23年に地球に接近する軌道に再び入るという。同小惑星が地球に衝突すれば、その爆発規模は広島級原爆の100倍にもなるという。

 13年2月15日、直径20m、1万6000tの小惑星が地球の大気圏に突入し、隕石がロシア連邦中南部のチェリャビンスク州へ落下、その衝撃波で火災など自然災害が発生したことはまだ記憶に新しい。約1500人が負傷し、多数の住居が被害を受けた。ESAによると、今後100年以内に地球に急接近が予測される870の小惑星をリストアップしている。

 17年9月初め、直径約4・8kgもある巨大小惑星「フローレンス」が地球から約700万kmの距離を通過した。同年10月12日午後には、小惑星(2012TC4)が地球に接近して通過した。この小惑星は直径10〜30m。地球から約4万3500kmまで接近した。地球と月の距離が約40万kmだから、4万3500kmはかなり近い、一時期、地球衝突説が流れた。

 直径10mの小惑星でも地球に衝突すれば、北朝鮮の6回目の核実験より大きな衝撃が地球全土に波及し、想像を絶した被害が出てくる。米地質学調査(USGS)によると、約4万9000年前、小惑星が地球に衝突し、米アリゾナ州に直径1・2kmのクレーター(バリンジャー・クレ−ター)を残した。

 国連の「地球近傍天体(Near Earth Objects =NEO)に関する作業会報告書」によると、NEOの動向は人類が完全には予測できない“Acts of God”(神の行為)と呼ばれてきた。ダーツ計画はその神の領域に関与し、小惑星の地球衝突を回避しようとする試みだ。神の祝福を得るか、それとも神の怒りを受けるかは不明だ。

ロックダウンの風景が変わってきた

 4回目となると、どんな鈍感な国民でも慣れてきて緊張感がなくなるものだ。オーストリア政府は22日から約3週間のロックダウン(都市封鎖)を実施した。ロックダウンといえば、国民の外出制限を意味し、国民経済活動が停滞することを意味し、新型コロナウイルス感染対策としては最強の手段と受け取られてきた。コロナ規制に反対する国民はロックダウンを目の敵のようにして、実施を阻止するために闘ってきた。

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▲4回目のロックダウンの初日風景(日刊紙エステライヒ11月23日付から)

 そのロックダウンが2年間で4回目となると事情が変わってくる。国民の間にも“ロックダウン慣れ”ともいえる現象がみられ、いい意味で平静心、少し批判的に表現すれば緊張感がなくなってきた。

 4回目のロックダウン初日の22日早朝、いつものように駅まで新聞を取りに行った。多分、多くの労働者はロックダウンで職を失うか、短期労働を強いられ、ホワイトカラー族はホームオフィスを強いられるから、駅周辺は静かだろうと考えていた。それが駅周辺はいつものように地下鉄や市電を待つ人々で賑わっているではないか。彼らはロックダウンが始まったことを知らないはずがない。不要不急の外出制限を無視したり、FFP2マスク着用義務に違反すると500ユーロ前後の罰金が科せられる。そんな危険を冒してまでコロナ規制を破る労働者は多くないはずだ。

 昨年春の最初のロックダウンを思い出す。市内から人の姿は消え、車の数も減少、自宅にいても外から部屋に入ってくる騒音は限りなく少なかった。街の鳩やカラスも人間社会の異変に気が付き、不安げになり、飼い主と散歩する犬も落ち着きを失ったものだ。

 そのロックダウン風景が回数を増やすにつれて変わってきた、というか、通常の日常生活の風景に接近してきた。テレビ放送は「ロックダウン、ロックダウン」と叫び、国民の日常生活が著しく制限されている、といった報道を流すが、多くの国民は別の国の話のように聞き流す。もちろん、22日は4回目のロックダウンの初日だ。国民も生活のリセットに時間がかかる。今週末頃になれば、国民はロックダウン・モードに入るのではないか、という人もいる。

 24時間外出制限下で、スーパー、薬局、公共の運輸機関、医療関係者は普通通りに働く。会社員はホームオフィスか、会社に行かなければならない場合は会社内でもFFP2マスクの着用が義務となる。それ以外の業種や職種に勤務してきた国民は自宅待機だ。レストラン、喫茶店、コンサート、劇場は閉鎖される。今月14日からオープンしたばかりのクリスマス市場は来月12日まで閉店だ。ちなみに、ウィーン市だけで約4万店が閉鎖し、約25万人の労働者が自宅に留まるという。

 一方、学校は基本的にはオープンだ。自宅でEラーニングするか、学校に行くかは各家庭が自主的に判断する。学校ではいつものように週2回から3回のPCR検査を受ける。4回目のロックダウン初日は子供たち(約110万人)の約75%が学校に行ったという。

 文部省はロックダウン前に「学校はオープン」と通知する一方、「誰も絶対に来なければならないことはない(Keiner soll kommen)」と親に連絡した。要するに、子供を学校に通わせるか否かは親任せというわけだ。親が仕事をし、家に誰もいない場合、子供は学校に来る。教師は22日、メディアのインタビューに答え、「ほとんど普通の日と変わらなかった」と語っていた。

 ロックダウンは国民経済に大きなダメージを与える。観光を国の看板としているオーストリアでは4回目のロックダウンで「もはや回復は出来なくなった」と叫び声をあげるホテル経営者も出てきた。ただ、チロルなどスキー場のリフト業者はロックダウンでも営業が許可されているから、他の業界から「不公平ではないか」と言った声も聞かれる。いずれにしても、ドイツ南部、チェコ、スロバキアなどオーストリア周辺地域でも新規感染者が増加しているから、近隣諸国からのゲストは期待できない。

 1回目、2回目のロックダウンは国民も緊張していた。今年春の3回目のロックダウンではワクチン接種が始まったこともあって、政府はワクチン接種を訴え、国民もコロナ禍からの脱出の日が近いと感じ出した。そして夏季休暇では海外で休日を楽しむ国民が増えた。しかし、秋からは昨年と同様、新規感染者が急増し、今月に入ると過去24時間で1万6000人余りの新規感染者が出てきた。過去2年間での最多記録を更新した。病院は入院患者が増え、集中治療室(ICU)のベッドも空きがなくなり、ザルツブルク州の州クリニックではトリアージ・チームができ、入院患者の振り分けが現実味を帯びてきた。慌てた政府は今月8日から2Gを導入、ワクチン未接種者を対象としたロックダウンを実行したが、ワクチン接種率は上がらない一方、新規感染者の増加にブレーキがかからなかった。そこで22日から4回目のロックダウンに踏み切ったわけだ。

 23日公表された過去24時間の新規感染者数は9513人と久しぶりに4桁台に減少した。ロックダウンの初日、オーストリア各地のワクチン接種会場には長い列ができた。来年2月1日からはワクチン接種が義務化される。ロックダウンが解除されてもワクチン未接種者は接種を受けない限り、レストランや喫茶店に行けない。これまでワクチン接種を拒否してきた国民の中にもまだ多くはないが接種を受ける人が出てきた。

 オーストリア国営放送は22日夜、ウイルス学者、専門分野の研究者、医療専門家を招き、ワクチン接種を拒否する国民の声に専門的に答えさせ、ICU患者で回復した男性の生の証言を放送していた。同時に、国営放送は22日から年末までワクチン宝くじをスタート、国民に接種を呼びかけるキャンペーンを始めた。国を挙げての“接種率アップ起こし”だ。23日の時点でワクチン接種率は1回接種70・2%、接種完了は65・7%だ。

 コロナ禍も2年が過ぎると、経済界も生き延びるためにいろいろな新しいビジネスや工夫を始めた。レストランなど飲食業界は出前に力を入れている。自宅まで運ぶ配達業者は大忙しだ。食品関係以外で閉店を余儀なくされた業者でもオンラインで注文を取り(クリック&コレクト)店の前で手渡すことが出来る。「通常の商売のような売り上げは期待できないが、店を閉めて国からの援助だけで生きて行けば、商魂がなくなる」と一人の店のオーナーが答えていた。

 ロックダウンも4回目となるとその風景が変わる。人気が消え、幽霊のような街になるような風景はもはや見られない。コロナ規制下でも国民は生きていかなければならないのでさまざまな知恵を出してきた。国民はロックダウンをもはや恐れなくなった。これを“ウィズコロナ時代”の夜明けというのだろうか。

中国ネットユーザーの心捉えた「曲」

 「壁」にはいろいろある。第2次世界大戦後、東西両欧州を分断してきた“鉄のカーテン”は1989年6月、ハンガリーのホルン外相とモック・オーストリア外相が両国間を分けてきた鉄条網を切断して落ちた。東西分断の象徴的な壁だった「ベルリンの壁」は32年前の今月9日崩壊し、東西両ドイツはその翌年、再統一を実現した。冷戦終焉後、「壁」のない世界が到来するだろうと考えられたが、2015年、中東・北アフリカから大量の難民が欧州に殺到すると、欧州各地の国境で新たな鉄条網が設置された。

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▲新曲「壁の外」を発表したネームウィーさん(ウィキぺディアから)

 歴史は面白い展開をする。オーストリアとハンガリーの“鉄のカーテン”の切断が、東西欧州の統合時代を告げる道案内役を果たしたが、その両国が2015年、今度はバルカン経由で殺到する難民の入国を防止する鉄条網をいち早く設置していったのだ。

 ソ連・東欧共産圏は民主化の嵐を受け、崩壊していったが、民主主義陣営と共産主義陣営で依然分断されている地域は朝鮮半島だ。38度線で北朝鮮と韓国両国がにらみ合っている。そして中国も目に見えない「壁」で分断された国家だというのだ。

 中華系マレーシア人歌手ネームウィー(Namewee、中国語名・黄明志)さんが作曲した新曲「壁の外」が中国国内のネットユーザーの中で大ヒットしているという。同曲は台湾の金門県観光局がネームウィーさんに要請して生まれたもので、中国共産党政権下で生きている多くの同胞に対し、連帯を呼びかけている。

 ネームウィーさんは中国国内で生きている同胞を「壁の内」と見、それ以外の華人、海外居住の華人を「壁の外」と考え、多くの華人が共産党政権下の「壁」で分断されて生きていることを描いた歌だ。中国人ネットユーザーばかりか、台湾人、華僑も感動しているという。

 海外中国メディア「大紀元」の動画「十字路口」の作者、唐浩さんはネームウィーさんの新曲「壁の外」を「分断されて生きている中華人の姿を温かみとやさしさを込めて歌っている」と高く評価し、「中国が作った壁を溶かす作品」と述べている。

 ネームウィーさんのミュージックビデオ(MV)では、男の子と女の子のやり取りが描かれている。男の子は青と緑を象徴した服装で台湾を示し、女の子は赤の服装で共産党政権下にある中国本土の国民を示唆している。一人は「壁の外」でもう一人は「壁の内」に住んでいる。同じ民族、同胞が「壁」で分かれ生きている中華人の現状をメルヘンタッチに描いている。ネームウィーさんは新曲を中国人歌手「小花」さんとデュエットしている。台湾を象徴するネームウィーさんと中国を代表する小花さんが歌うことで壁の内と外が一体化するという願いが込められているわけだ。

 ネームウィーさんは新曲「壁の外」の前には「ガラスのこころ」を作曲し大ヒットしたが、その曲は中国共産党政権を嘲笑するような内容であったために、検閲を受けたが、「壁の外」は中国の現状を象徴的に描き、「壁の内」の中国ネットユーザーの心を捉えているわけだ。興味深い点はネームウィーさんは新曲を三味線を弾きながら歌っていることだ。唐浩さんによると、「台湾が日本文化の影響を受けていることを示している」という。

 中国が「壁の内」と「壁の外」で分断されているといえば、第19期中央委員会第6回総会(6中総会)で採択した「歴史決議」で3期目の任期を確実とした習近平国家主席が聞けば激怒することは間違いないだろう。中国共産党は久しく、「中国共産党政権を批判することは、とりもなおさず中国を批判することだ」と主張し、「中国共産党」イコール「中国」と強調、現政権を批判する声には、“反中国”ジャーナリスト、知識人というレッテルを張ってきた(「習近平氏が恐れる『党と人民は別』論」2020年9月8日参考)。

 「ベルリンの壁」は可視的だから、誰の目にも見えたが、中国を分けている「壁」は目には見えないから、習近平氏のように「壁など存在しない」と言い張ることが出来るわけだ。そこで誰も見向きもしなくなり、机の引き出しにしまい込んでいたマルクス主義を取り出し、「中国は分断国家ではない」と詭弁を弄することになる。

 ちなみに、中国共産党内でも「壁の外」に憧れる党員が増えてきた。中国共産党幹部の中でマルクス・レーニン主義を今でも信じている者は少なく、極端にいえば、「中国共産党党員証」より「国営企業幹部の名刺」を自慢げに見せる党幹部が増えてきた。将来の政治異変(中国共産党政権の崩壊)に備え、財産を秘かに海外の銀行口座に移動させる一方、家族関係者には海外の国籍を獲得させるなど、中国脱出(エクソダス)計画を着実に進めている共産党幹部がいる。大金を払ってでもキプロス政府発行の「ゴールデンパスポート」を購入した共産党幹部が少なくないのだ(「中国高官の『ゴールデンパスポート』」2020年8月31日参考)。

 ネームウィーさんの新曲ファンの中には案外共産党幹部もいるかもしれない。「壁の外」のMVは、中国本土に生きている壁の内の多くの中国人が自由を得て、壁の外の同胞と自由に会える日が来ることを切望して終わっている。

ワクチン未接種者への「制裁」論

 「制裁」といえば、多くの場合、政治的意味合いを帯びる。最近では、ベラルーシのルカシェンコ大統領が中東から大量の難民を欧州連合(EU)の国境線に送り込み、ポーランドやリトアニアなどに政治圧力をかけていることに対し、EUは、ベラルーシの関係者に欧州渡航禁止や海外資産の凍結などの制裁を科している。古いところでは、国連安保理決議に違反して核開発を続ける北朝鮮やイランに対しても人的、物的な制裁が行われている。そればかりか、大国ロシアに対してもウクライナのクリミア自治共和国の併合などを理由に、欧米諸国は制裁を実施している。すなわち、21世紀の今日、「制裁」は非常にポピュラーな政治的手段となっているわけだ。

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▲ロックダウンとワクチン接種の義務化に反対する抗議デモ集会(2021年11月20日、ウィ―ン市の英雄広場周辺で、オーストリア民間放送「OE24TV」の中継から)

 ちなみに、外交の世界では、「制裁」といっても関係者の海外資産凍結や渡航禁止など、制裁の影響がその国の国民には悪影響を及ばないように配慮する「スマート・サンクション」や戦略的制裁まである。最近は、実質的な制裁というより、象徴的な意味合いが強い前者の制裁が主流だ。

 中国発新型コロナウイルスがパンデミックとなり、世界で多くの感染者、犠牲者を出している。幸い、コロナウイルスへのワクチンが製造され、ワクチン接種が世界各地で急速に進展してきているが、ワクチンの接種を拒否する人々が至る所で接種を強要する政府に対して抗議デモを展開、オランダのロッテルダムでは19日、デモ参加者がパトカーに火をつけ、暴動となった。欧州で最も感染が広がっているオーストリアのオーバーエステライヒ州ではワクチン接種を拒否する人々がコロナ感染者の治療を行っている病院前で抗議デモをしている。

 欧州ではコロナ規制が既に2年以上と長期化し、国民も落ち着きを失ってきている。抗議デモは次第に攻撃的になり、警察隊と衝突するケースが増えてきた。ウィーンでは20日午後、約4万人の市民が連邦首相府のある英雄広場周辺で抗議デモを行い、ワクチン接種を義務化する政府を「独裁者だ」と非難していた。オーストリアでは22日から4回目のロックダウンが約3週間の予定で始まった。

 一方、コロナ禍を早急に解決し、中断している国民経済の回復を模索する政府側も次第に冷静さを失い、ワクチン接種を拒否する国民に対して、単にワクチン接種を受けるようにとアピールするだけではなく、「制裁」に乗り出す動きを見せてきた。

 オーストリアのシャレンベルク首相は、「社会の少数派ともいうべきワクチン接種反対者が多数派の我々を人質にし、社会の安定を脅かしている。絶対に容認できない」と、珍しく強い口調で述べていた。同首相は4回目のロックダウンを表明した後、「ロックダウンは12月12日までで終わる。しかし、ワクチン未接種者を対象としてロックダウンはその後も続く」と表明し、ワクチン未接種者への「制裁」をにじませてきた。すなわち、政府の要請を無視してワクチン接種を拒み続ける国民に対して、「このままでは家族と集まってクリスマスを祝うことはできないぞ」という警告が含まれているわけだ。

 国民の間では、ワクチン接種反対の抗議デモに参加する国民の身元をチェックし、ワクチン未接種者がコロナに感染、病院で治療を受けた場合、治療費は全額自己負担とすべきだ、といった声すら出てきた。

 オーストリアでは来年2月1日からワクチン接種の義務化を実行する予定だ。義務に応じない国民に対して政府がいかなる「制裁」が可能かについて、同国憲法学者たちが中心になって検討している。「ワクチン接種の義務化は国民の自由を蹂躙する」として憲法違反と考える学者と、「社会の福祉と安定のためには国民にワクチン接種を強要しても自由の蹂躙にはならない」とする学者に分かれているが、主流は後者だ。

 ところで、聖書の世界から「制裁」について少し考えたい。神は戒めを破ったアダムとエバを「エデンの園」から追放した。そしてアダムには日々の糧を得るための労働が科せられ、エバには産みの苦しみが始まった。これも立派な制裁といえる。「制裁」はけっして20世紀、21世紀に入って考え出された手段ではない。「制裁」は長い歴史を持っている。その意味で、ワクチン接種拒否者への制裁論は決して突飛な考えではないのだ。

 問題はある。「制裁」で問題が解決できるかだ。ロシアや北朝鮮を例に挙げるまでもなく、国際社会から制裁を受けても自身の立場を変えないケースが少なくない。「制裁」を受けた側が「はい、分かりました」とは簡単にはいわない。とすれば、「制裁」を実施する意味が失われていく。「制裁」の効用問題だ。

 神はアダムとエバをエデンの園から追放し、戒めを破ったことへの制裁を行ったが、その目的はアダムとエバが自身の間違いを認めて、再び戻ってくるためにあったはずだ。アベルを殺害したカインに対し、神がその行く末を配慮する場面がある。神にとって、「制裁」、「追放」が目的ではなく、改心、悔い改めが目的だったからだ。

 具体的な世界に戻る。シャレンベルク首相はワクチン未接種者に対し、「今年はプレゼントの交換もできない寂しいクリスマスとなるだろう」と強い口調で語ったが、制裁でワクチン未接触者が接種を受けるようになるだろうか。政府側と未接種者の間の溝が益々深まるのではないか。

 政治の世界では「制裁」は時として重要な手段だ。ただ、相手が制裁の圧力に屈して立場を修正したとしても、それが即問題の解決とはならない。「強いられたから受け入れた」といった思いが修正側に付きまとうからだ。一方、「制裁」を実行した側は相手がその立場を修正したことで制裁の目的を一応達成するが、完全な勝利として祝うことは難しい。なぜなら、相手が恨みを持っていることを感じるからだ。「制裁」には一定の効用はあるが、同時にその限界もある。ワクチン未接種者への「制裁」論はそれゆえに慎重に検討すべきだ。

ワクチン接種問題が提示したテーマ

 オーストリアのシャレンベルク首相は19日、チロル州のリゾートホテルで開催された連邦・州代表合同会議後の記者会見で、今月22日から4回目となるロックダウンを実施し、来年2月1日からワクチン接種の義務化を実施すると表明した。新型コロナウイルスの感染が猛威を振るう欧州ではワクチン接種が勧められているが、接種の義務化はこれまでバチカン市国以外にない。フランスなど一部の国では医療・福祉関係者など特定の職種に従事する国民に対してはワクチン接種を義務化しているが、国民全てを対象とした義務化はこれまで行われていない。

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▲独ビオンテック社のコロナ・ワクチン(ビオンテックの公式サイトから)

 旧ソ連・東欧共産政権時代や新型コロナウイルスの発生地・中国ではワクチン接種を義務化することに大きな困難はないが、国民の自由を尊重する欧米社会ではワクチン接種の義務化は国民の抵抗もあって久しくタブー・テーマだった。このコラム欄で「コロナ規制で『自由』が障害となる時」(2021年11月12日参考)を書いた。人間の最も基本的権利と言うべき「自由の尊重」が新型コロナウイルスなどの感染症対策では大きな障害となっていることは事実だ。

 ドイツではワクチン接種に反対する人々が多い。1874年、天然痘へのワクチン接種義務が実行されたが、当時も接種反対運動が起き、反対者の雑誌も出版されたという(独週刊誌シュピーゲル11月13日号)。オーストリアでは1939年、ナチス併合政権下でワクチンの接種義務化を実施したが、それ以後、ワクチンの接種義務は行われていない。

 キリスト教社会の欧州では中世時代から宗教的な教えや慣習が支配的だったが、啓蒙思想が広がり、人本主義が台頭し、科学的真理が広がっていくにつれ、合理的、理性的な科学的真理が宗教的な教えを凌駕していった。

 興味深い点は、科学的真理が宗教的信条を打破し、宗教的な教えや慣習が後退し、宗教と科学の戦いは科学側の勝利に終わったと思われてきたが、新型コロナのワクチン接種問題では、科学者たちが英知をあげて製造したワクチンに対し、「遺伝子を変える危険性がある」などのフェイク情報が氾濫し、コロナウイルスが猛威を振るっていてもワクチン接種をしない人々が出てきたのだ。「科学」への不信だ。

 コロナ・ワクチンの場合、mRNAワクチンへの不信だ。従来のワクチン(不活化ワクチン、組換えタンパクワクチン、ペプチドワクチン)はウイルスの一部のタンパク質を人体に投与し、それに対して免疫が出来る仕組みだったが、。 mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンやウイルスベクターワクチンでは、ウイルスのタンパク質を作るもとになる遺伝情報の一部を注射。人の身体の中で、この情報をもとに、ウイルスのタンパク質の一部が作られ、それに対する抗体などが生まれ、免疫ができる仕組みだ。コロナワクチン接種に反対する人々は、新しい科学的成果、遺伝子操作を駆使したワクチンに抵抗感が払しょくできないわけだ(「『オーダー・メイドの薬』目指す生化学者」2021年9月26日参考)。

 宗教の科学への逆襲だろうか。それとも科学至上主義に走ってきた人類が科学の限界を感じ出したのだろうか。明確な点は、コロナウイルスのワクチン接種問題で科学の成果に対する評価が揺れてきていることだ。宗教に対して幻滅し、神を捨てた現代人は今、これまで全幅の信頼を寄せてきた科学的真理、成果に対しても完全には信じられなくなってきているのだろうか。

 この推測が正しいとすれば、人類は厳しい状況に陥る。現代人が残された選択は、ー里撞遒辰申ゞ気寮こΔ北瓩蝓∧棄した神と和解するか、科学的真理と宗教的な教えの和合を模索していくか、ニヒリズム(虚無主義)の世界に入る、等の3つの選択肢しか残されていないからだ。

 ただ、ワクチン接種に反対する人々は、「我々が反対しているのはワクチンではなく、ワクチン接種を強要する政治家たちに対してであり、ワクチンを急造して莫大な暴利を得る世界の製薬会社に対してだ」と反論する。要するには、ワクチン接種反対者は「科学的成果への不信」というより、「人間不信」に陥った人々の叫びだというわけだ。

 とすれば、ワクチン接種反対者は決して科学的真理を放棄した人々ではなく、人間不信に陥っている人々というべきかもしれない。ワクチン接種の効用を長々と説明してもあまり効果は期待できないことになる。むしろ、説明すればするほど、反発は大きくなるのではないか。なぜならば、ワクチン接種反対者への処方箋がはじめから間違っていたからだ。

 シャレンベルク首相は、「社会の少数派ともいうべきワクチン接種反対者が多数派の我々を人質にし、社会の安定を脅かしている。絶対に容認できない」と、珍しく強い口調で述べていた。感染力と致死率が高いコロナウイルスのパンデミック感染症から社会を守るという点で接種の義務化は急務だが、ワクチン接種反対者を説得するのは望み薄だろう。その問題は感染症対策ではないからだ。彼らはワクチンの有効性や安全性を問題にしているように装っているが、実際は人間不信と政治不信に陥った人々だからだ。その意味で、非常に古典的なテーマだ。

 「人間不信」に対する処方箋は残念ながらまだ見つかっていない。ひょっとしたら、宗教が再び人々に声をかけることができるチャンスとなるかもしれない。
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