ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2021年09月

国連機関「デュアルユース品目」拡散?

 イランで保守強硬派のライシ大統領が誕生したことを受け、イランと国連安保理常任理事国とドイツを加えた6カ国との間で開催されてきたイランの核協議が一層難航するのではないかと懸念されている。それを裏付けるように、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)が26日明らかにしたところによると、イランは同国の首都テヘラン近郊にある遠心分離機の部品製造工場の査察を拒否したという。また、未申請の3カ所の核関連施設の査察、そこで発見されたウラン粒子の起源などについてのIAEA側の質問に対してもイラン側は返答を拒んでいる。

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▲イラン最高指導者アリ・ハメネイ師(IRNA通信サイトから)

 バイデン米政権はトランプ前政権が離脱した2015年7月に締結したIAEAとイラン間の包括的共同行動計画(JCPOA)への復帰を視野にイランとの交渉を模索中だが、交渉は依然、大きな進展をもたらしていない。

 ところで、米FOXニュースは先月、イランはウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)から軍事・民間の両分野で利用可能なデュアル・ユース・アイテムを手に入れてきていると指摘し、UNIDOとイランの間で進められている11プロジェクト(1750万ドル相当)の監視を強化すべきだと訴えている。同ニュースによると、イラン外交官がUNIDO本部を訪れて会談していたという。

 イラン、北朝鮮、キューバなど国際社会の制裁下にある国が国連の専門機関を通じて資金、技術を巧みに手に入れてきたことは周知の事実だ。UNIDOは国連の専門機関で、開発途上国への物資支援、技術やノウハウの伝達などを提供し、工業開発を支援する機関だ。

 UNIDOはこれまで中国財務次官出身の李勇事務局長が率いてきたが、今年11月29日に開幕するUNIDO総会第19回会期で、UNIDO初の欧州出身事務局長にドイツ経済協力・開発相のゲルト・ミュラー氏が公式に承認される。FOXニュースはそのミュラー氏にイランとUNIDO間のプロジェクトの内容の監視を要請している。同時に、ドイツはイランの欧州最大の貿易国だ。ドイツ人のUNIDO事務局長がイランへの支援活動に厳しく対応できないのではないか、といった懸念の声も一部聞かれる。

 UNIDOの対イランプロジェクトには「通信技術の向上支援」「中小企業の育成支援」といったタイトルがついている。一見、単純な経済活動支援のように受け取られやすいが、その内容に対して厳重なチェックが必要というわけだ。もちろん、UNIDOにはイランから出向した職員が対イランプロジェクトを後押ししていることはいうまでもない。米国やイスラエルが最も恐れるのは、さまざまな名目で国連機関を通じて軍事使用可能なデュアルユース・アイテムがイラン側に流れ、核開発に利用されることだ。

 UNIDOは過去、北朝鮮、キューバ、ベネズエラなどに軍事利用でき、テロ活動にも利用できる資材、技術を提供してきた“前科”がある。

 例を挙げる。ドイツの化学者、ヤン・ガヨフスキー博士(Jan Gajowski)は「北朝鮮の化学物質の生産でUNIDOが機材や原料生産を支援してきた」と暴露し、警告を発した。同博士はUNIDOでモントリオール・プロジェクト(MP)を担当してきた。

 同博士によると、北には少なくとも5カ所、化学兵器を製造する施設がある。北朝鮮は過去、UNIDOから不法な化学兵器製造用の原料、機材を入手していたという。「北は4塩化炭素(CTC)がモントリオール議定書締結国の規制物質となっているため、その代替農薬生産のため、UNIDOに支援を要請。それを受け、UNIDOは2007年4月、CTCに代わる別の3種の殺虫剤を小規模生産できる関連機材購入のため入札を実施。受注したエジプトの化学製造会社が08年8月、有機リンとオキサゾール誘導体を製造できるリアクトルを北に輸出した。有機リンはサリン、タブン、ソマン、VX神経ガスと同一の化学グループに属する。北朝鮮が入手した化学用反応器はカズサホス12トン、土壌殺菌剤ハイメキサゾール20トン、クロルピリホスメチル16トンを年間製造できる能力を有する」というのだ。すなわち、UNIDOを通じて北朝鮮は化学兵器製造に利用できる原料を手に入れていたことになる。

 また、北の核兵器開発には核エネルギーの平和利用を奨励するIAEAが間接的だが支援してきた。IAEA本部には北朝鮮出身の査察官が10年間勤務していた。金石季(キム・ソッケ)氏だ。北の核開発問題が大きなテーマとなっていた時、IAEAの身中に北の核専門家が勤務していたことはメディアでは余り知られていない。

 同査察官は朝鮮人民軍幹部ファミリーの出身者だった。IAEA査察官としてパキスタンや西側諸国の最新型原発を査察できる立場にあった。カナダ型最新軽水炉についても「知っている」と述べていたほどだ。北の核開発を支援したのはパキスタンの原爆の父、アブドル・カディル・カーン博士だけではない。不本意だろうが、IAEAが北の開発を間接的に支援してきたのだ。

 李勇事務局長の退任後にUNIDOのトップに就任するミュラー新事務局長がUNIDOの過去の不正な活動に対して検証し、再発防止できるかは不明だ。FOXニュースは、「COVID-19と気候変動との戦いは、発展途上国に対する先進国のより大きなコミットメントを必要としている。私たちは、より多くの革新と投資、そしてグローバルな技術と知識の移転を必要としている」と述べたミュラー氏の7月の声明文を紹介している。

 国連は目下、持続可能な開発のための2030年のアジェンダを目標に歩んでいる。UNIDOは同アジェンダでは重要な役割を担っている。そのUNIDOは、デュアルユースの品目、技術を安易に制裁下にある国に流出させないよう注意が必要だ。

独CDU/CSUから「C」が抜ける日

 26日に実施されたドイツ連邦議会選挙(下院)の投票結果によれば、オーラフ・ショルツ財務相(副首相兼任)を次期首相候補に擁立した社会民主党(SPD)がメルケル首相の「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)を僅差ながら破り、第1党の地位を獲得した。ただし、SPD主導の新政権が誕生するまでにはまだ長い道のりが控えている。実際、第2党に後退したCDUのアルミン・ラシェット党首は27日、CDU幹部会で連立政権交渉を始めることを表明し、リベラル政党「自由民主党」(FDP)と連立政権の件で既に話し合っている。CDU筋によれば、その後、緑の党とも連立の件で会談を申し込むなど、SPDに先駆け、連立交渉を始めている。

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▲政党の看板が揺れるCDUのラシェット党首(CDU公式サイトから)

 SPDとCDU/CSUの両党は新政権をスタートするためには3党の連立政権以外に他の選択肢がないから、両党とも将来の連立パートナーの緑の党とFDPの2党へ熱い視線を投げかけている。独メディアは、政党のカラーから、SPD(赤)・緑の党・FDP(黄)の信号政権か、CDU/CSU(黒)・緑の党・FDP(黄)のジャマイカ連立政権の連立レースと報じている。もちろん、SPDとCDU/CSUの2大政党で安定政権に必要な過半数を占めることは出来るが、両党とも大連立政権の再現には消極的だ。メルケル首相の引退を受け、ポスト・メルケル時代のスタートとしては新鮮さに欠けると共に、国民も2大連立政権の継続を願っていないからだ。

 リントナーFDP党首は27日、「党幹部会はSPDとCDU/CSUとの連立を前提に緑の党と話し合うことを決めたが、緑の党との間には政策的には大きな相違がある」と語り、3連立政権の発足が容易ではないことを示唆している。

 ポスト・メルケル時代が信号連立政権となるか、ジャマイカ連立政権に落ち着くか、決着がつくまでまだ時間がかかる。SPDとCDU両党は、「遅くともクリスマス前までには新政権を発足させなければならない」と考えている。

 新政権誕生まで時間があるので、先の連邦議会選での有権者の投票の流れを分析した情報を紹介する。興味深い点は、CDU・CSUは「キリスト教」という名を党名に冠しているが、キリスト教信者がCDU/CSUには投票せず、左派政党のSPDに投じる有権者が増えてきたことだ。キリスト教信者のCDU/CSU離れは、政党名に「C」(キリスト教)を付けるCDU/CSUにとって、政党としての土台が揺れてきたことを意味する。CDU/CSUは26日の連邦議会選の得票率は24・1%で過去最低の結果だったのだ。

 以下、バチカンニュースが報じたカトリック教徒とプロテスタント信者の票の流れだ。同調査は26日の投票日、宗派別の投票状況を4万1373人の有権者を対象に聞いた結果である。

 CDU/CSUに投票したカトリック教徒は約35%だった。前回投票(2017年)では44%だったから9%急減したことになる。一方、プロテスタントの場合、24%で、前回比で9%減だ(前回33%)。カトリック教徒もプロテスタントもCDU/CSUに投票した有権者は減少したわけだ。

 逆に、カトリック教徒の23%がSPDに投票している。前回はその割合は18%だったから、5%増加した。プロテスタントの場合、30%で前回の24%より6%増加した。ショルツ財務相を次期首相候補に擁立したSPDはキリスト教信者の票を前回選挙より多く獲得したことになる。

 ちなみ、カトリック教徒の票は緑の党に13%、FDPに11%、極右党「ドイツのための選択肢」(AfD)に8%、左翼党に3%、それぞれ流れている。プロテスタントの場合、緑の党15%、FDP11%、AfD9%、左翼党4%だ。無宗派の有権者の場合、15%がCDU/CSUに、23%がSPDに、緑の党18%、FDP12%、AfD14%、左翼党8%だった。

 CDU/CSUの低迷はキリスト教、特に、ローマ・カトリック教会の衰退と同時進行している。例えば、ドイツの都市で4番目に人口の多いケルン市のカトリック教会大司教区が今、大揺れだ。信者たちの教会脱退が急増し、同大司教区の最高指導者ライナー・ヴェルキ大司教(枢機卿)の辞任要求が高まっている。

 ドイツでは、レーゲンスブルクの「レーゲンスブルク大聖堂少年聖歌隊」(Domspatzen)内で起きた性的暴行・虐待事件はドイツ国民に大きな衝撃を与えたことはまだ記憶に新しい。世界最古の少年合唱団として有名な同聖歌隊内で1953年から1992年の間、性的暴力、虐待事件が発生し、その総数は422件に及んだのだ。聖職者の未成年者への性的虐待事件は教会離れを加速する一方、キリスト教を政治信条に掲げるCDU/CSUにも大きな影響を与え、CDU/CSU離れとなって表面化しているわけだ。CDU/CSUの政党の看板から「C」が抜ける日は案外近いかもしれない。

オーストリア第2都市で共産党市長誕生

 9月26日は「選挙の日」となった。ドイツ連邦議会選(下院)の投開票が行われたほか、スイスでは同性婚合法化を問う国民投票、オーストリアのオーバーエステライヒ州議会選が実施された。それぞれの投票結果は既に報じられているのでここでは省略する。

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▲グラーツ市共産党を第1党に躍進させたカール党首(左)、市民の声を聞く=オーストリア共産党公式サイトから

 ところで、上記の選挙のほか26日にはもう一つの投票が行われた。その選挙結果が世界的なニュースとして発信された。オーストリア第2の都市グラーツ(人口約25万人)の市議会選で共産党が第1党となり、中道右派政党「国民党」の現市長に代わって市長のポストを手にしたのだ。少なくとも、オーストリアにとって初めのことだ。

 オーストリアではグラーツ市は共産党が議席を有する唯一の都市だが、第1党に大躍進し、市長のポストを獲得するとは誰も考えていなかった。文字通り、青天の霹靂(へきれき)だ。思想的に共産主義は間違いと考えている当方はドイツ連邦議会選の結果より驚いてしまった。

 当方は1980年、約半年間、グラーツに住んでいた。シュタイアーマルク州の州都であり、州民はシュタイアーリッシュと呼ばれる癖のあるドイツ語を話す。そこで半年間、ドイツ語を初めて学び出した当方は今なおその方言から抜け出せていない。グラーツ市は“美し南の都市”だが、独語の学習としては決して理想的な都市ではない。ちなみに、グラーツ生まれで日本でも良く知られた人物としては、俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏がいる。

 テーマに戻る。冷戦時代、東西両欧州の架け橋的な地位にあったオーストリアではソ連・東欧共産圏から200万人以上の亡命者が殺到してきた。国民は共産政権が如何に非人道的な政権であるかを思想ではなく、実生活を通じて肌で感じてきた。隣国の「ハンガリー動乱」(1956年)や「プラハの春」(1968年)を身近に目撃してきたオーストリア国民は共産党には警戒心が強い。だから、共産党が連邦レベルで議席を獲得するチャンスはこれまでなかった。唯一、例外はグラーツだ。同党は過去16年間、市議会で議席を獲得してきた、その共産党は今回第1党に大躍進したのだ。

 先ず、投票結果を見る。与党国民党は得票率25・7%、社会民主党9・6%、極右政党「自由党」10・9%、緑の党17・3%、共産党28・9%だ。共産党は前回比で8・6%得票率を伸ばした。グラーツのシーグフリード・ナーグル市長(国民党)は投票日の26日、得票率12・1%減となった責任をとって辞任を表明した。それに代わって、グラーツ市共産党のエルケ・カール(Elke Kahr)党首が市長のポストの座に就く可能性が出てきた。

 カール党首は2013年以後、その政治活動が注目されてきた。同党の社会活動は良く知られ、勤勉、謙虚をモットーに、給料の一部を困窮者に献金するなど、救済活動を積極的に行ってきた。同党は弱者救済としてソーシャルカードや預金フォンドの設置などを主張してきた。連邦レベルの選挙では保守系を支持する有権者が「思想が問題ではない。政党としての活動内容だ。市議会選では共産党に投票する」と語っていたのは印象的だった。

 カール党首は「誠実で、気さくで、献身的で、社会および住宅問題において有能な政治家」と市民には好意的に受け取られてきた。最近はグラーツの交通状況を改善するために努力している。住宅政策では数十年にわたって共産党が政策的にリードしてきた。

 ただし、グラーツ共産党の成功は他の州選挙、市議会選挙にインパクトを与えることはなかった。前回の国民議会選挙では、共産党は0・7%と1%にも届かなかった。ウィーン市議会選では他の同盟と連携して2%を獲得したが、チロル州やフォアアールベルク州では共産党は選挙に参加していない。

 オーストリアの著名な政治アドバイザーのトーマス・ホーファー氏は、「共産党の躍進は思想の問題ではない。共産党の躍進はあくまでも地域的現象だ。ソーシャルファンドなどは典型的な左派のポピュリズムで新しくはない。ただし、グラーツ共産党はそれらを倦むことなく実践して市民から信頼を勝ち得てきた」と冷静に受け取っている(「『共産党』を誤解している野党議員へ」2019年12月30日参考)。

 政党である以上、政治信条、世界観、経済・外交について明確な政策が問われる。国民は政党の良し悪しを公約ではなく、実践を見て判断する。公約を乱発するだけで、実行力の乏しい政治家を見て、多くの国民は政治に失望してきた。オーストリア南部シュタイアーマルク州の州都グラーツの共産党の飛躍は政治に何が大切かを改めて明らかにした。共産党とはいえ、その点は公平に評価すべきだろう。

「ワクチン接種していない証明書」登場

 欧州各地でコロナ・ワクチンの接種義務化に抗議するデモ集会が開かれている。マスクの着用を求めたガソリンスタンドの若い店員を中年男性が射殺するという事件が起きたばかりだ。デルタ変異株の感染拡大に対応するために欧州各国政府は国民にワクチンの接種を強く求めているが、どの国でも20%前後の国民はワクチン接種を拒んできた。

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▲ワクチンを接種していないことを懸命に証明するキックル党首(オーストリア自由党の公式サイトから)

 そのような中、オーストリアの野党、極右政党「自由党」のヘルベルト・キックル党首は24日、記者会見を招集し、自分はワクチンを接種していないということを証明する医者からの診断書を掲げ、「見ろ、私はコロナ・ワクチンを接種していない」と記者たちの前で声高く語る姿を見た。「ワクチン接種証明書」ならば理解できるが、キックル党首は「ワクチン接種していない証明書」を見せて、誇示しているのだ。

 時代は「3G」から「2G」、最終的には「1G」時代に突入しようとしている。「3G」とは、ワクチン接種証明書(Impfzertifikat)、過去6カ月以内にコロナウイルスに感染し、回復したことを証明する医者からの診断書(Genesenenzertifikat)、そしてコロナ検査での陰性証明書(Testzertifikat)だ。ドイツ語で「Geimpft」 「Genessen」,そして「Getestet」と呼ぶことから、その頭文字の「G」を取って「3G」と呼ばれてきた。

 新規感染者が日に2000人前後に増えているオーストリアでは「2G」に入ろうとしている。近い将来、ワクチン接種証明書と回復診断書の「2G」だけとなり、最後はワクチン接種証明書だけがレストラン、劇場、コンサートなどに同席するために有効となる「1G」の時代に突入する雲行だ。

 キックル党首が24日、テレビのカメラを前にして、「私はワクチンを決して接種していない」と述べ、知り合いの医師の診断を受け、血液検査を通じて、「僕の体には抗体は存在しないことが明らかになった」というのだ。キックル党首はワクチン接種証明書ではなく、これまでにワクチンを接種していないことをカメラの前で懸命に語っているのだ。コロナ時代の狂気がもたらした政治劇といえはそれだけだが、笑っている傍で涙がこぼれてくるシーンだ。

 しかし、キックル党首にはそれなりの理由はある。与党国民党系ロビイストがテレビで、「キックル党首はワクチン接種を批判しながら、秘かにワクチンを受けていた」と語り、その情報が広がってしまったからだ。キックル党首は、「それが事実だったら、私への信頼は完全になくなってしまうから、ワクチンを接種していないことを証明せざるを得なくなった」というのだ。

 自由党はコロナ・ウイルスの感染が拡大し出した時から、マスク着用を拒否し、コロナ・ウイルスなどは存在しないと豪語し、コロナ規制には常に反対してきた。国民議会では基本的には議員はマスクの着用を求められているが、マスクの着用を拒否。その結果と言えば可笑しいが、自由党幹部のクリスティアン・ハーフェネッカー議員がコロナに感染。オーバーエステライヒ州の自由党ハイムブフナー党首はコロナに感染し、集中治療室にお世話になってしまった。

 ただし、デルタ変異株の感染拡大を受け、自由党内でもマスク着用、秘かにワクチン接種をする政治家が出てきた。キックル党首は、「ワクチンを接種するかどうかは個々が判断する問題だ。党は党員に強制する考えはない」と説明、党員の中にワクチン接種者が出てきても全く個人の問題と受け取ってきた。

 そのような時、メディアで「キックル党首は秘かにワクチンを接種している」という情報が流れたのだ。キックル党首は素早く、その情報を流した人間を告訴する一方、医師に血液検査を通じて「自分にはコロナ・ウイルスへの抗体がない」ことを医学的にも証明しようとしたわけだ。

 キックル党首は記者会見で無抗体証明書を示し、「自分の個人の健康に関するデータが記述されている。コピーするから誰でも見ることができる」と証明書を掲げて、自身満々に語りかけた。

 キックル党首はこの日、どうしたらコロナ感染を防げるか、コロナ禍下の国民経済の回復策など、国民が直面している問題には全く言及せず、自分が決して隠れてワクチンなど接種していないということの証明に躍起となっていた。

 2015年、欧州に中東・北アフリカから大量の難民が殺到した時、自由党はキリスト教社会の欧州をイスラム教徒の北上を阻止する騎士のように難民受け入れに反対し、国民の支持を受け、勢力を拡大していった。当時は、自由党にもそれなりの「大義」があったが、キックル党首の非ワクチン接種証明書を手に持って声高く叫ぶ姿には残念ながら如何なる「大義」もなく、ただ自分は隠れてワクチンなど接種していないということを懸命に訴えているだけだ。

 免疫学者やウイルス学者は、「ワクチンを接種する以外に現時点ではコロナ・ウイルスに対抗できない」と繰り返し語り、ワクチン接種を強くアピールしている。病院に運ばれる若い患者が増え、多くはワクチン接種を拒んできた人か、基礎疾患がある国民だ。キックル党首はワクチンは必要ないと主張するが、それを鵜呑みにした国民がワクチン接種を拒み、感染した場合、キックル党首はどのように償いできるだろうか。野党の党首とはいえ、政治家である以上公人だ。自身の発言が若い世代にどのような影響をもたらすかを考えるべきだろう。

「オーダーメイドの薬」目指す生化学者

 世界でも最も利用されているコロナウイルス・ワクチンといえば、米ファイザー社と独バイオ医薬品企業ビオンテック社が製造したワクチンだ。

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▲mRNA開発者カタリン・カリコ―博士(ウィキぺディアから)

 同ワクチンはビオンテック社が開発製造したもので、「mRNAワクチン」(メッセンジャーRNA)と呼ばれ、遺伝子治療の最新技術を駆使し、筋肉注射を通じて細胞内で免疫のあるタンパク質を効率的に作り出す。ウイルスを利用せずにワクチンを作ることができることから、短期間で大量生産が出来るメリットがある。ビオンテック社のワクチンは最新医薬技術を切り拓いたといわれている。

 同社は今日、コロナ・ワクチンの製造で世界的な製薬会社の仲間入りをしてきた。このmRNA技術を開発したハンガリー出身のカタリン・カリコ−博士(66)がこのほど権威のある医学賞「パウル・エールリヒ賞」をビオンテック社創設者ウグル・シャヒン博士とエズレム・テュレジ博士夫妻の2人の博士と共に受賞した。パウル・エールリヒは1854年生まれのドイツの細胞学者、生化学者で、ノーベル生理学・医学賞受賞者だ。

 同受賞を報じたドイツ放送によると、カリコー博士は生物医学者で他の学者が取り組まず、他の学者を説得できない分野に長い間取り組んできた。政府からの助成金もなく、厳しい環境下で開発研究してきた学者だという。以下、同放送のミヒャエル・ランゲ記者の記事(9月21日)の概要を紹介する。

 受賞の知らせを受けた同博士(ビオンテック社上席副社長)は、「ビオンテック社の両博士と共に自分も同じ賞を受けるとは考えてもいなかった。大きな衝撃を受けた」と率直に喜びを表している。

カリコー博士は、「mRNAワクチンの母」と呼ばれている。同博士が開発したmRNAがなければ、ビオンテック社やモデルナ社のワクチンは存在しなかったといわれる。

 同博士はハンガリーの研究時代から遺伝子分子DNAの妹と呼ばれている生体分子の研究に取り組んできた。同博士は当時から「mRNAは理想的な薬だ」と考えてきたという。

 カリコー博士は、「冷蔵庫にmRNAを保管している人が足に水ぶくれがが生じた時、それを取り出して皮膚に塗って治療できるといった思いがあった」というのだ。何か新しい科学技術なりを開発する学者には常にビジョンが頭の中であるといわれる。そのビジョンを実現するためにこれまで研究してきたわけだ。

 mRNAはメッセンジャーリボ核酸の略だ。この分子は、細胞核内の遺伝性分子DNAから細胞のタンパク質工場であるリボソームに遺伝情報を運ぶ。そして遺伝情報が生物活性に変わっていくわけだ。

 しかし、1990年に入ると、mRNAは遺伝性分子DNAによって影が薄くなり、多くの生物科学者はDNA研究開発に専心し、何十億ドルもの助成金を受け取ってきた。

 そのような中でもカリコー博士はmRNA研究を米ペンシルバニア大学で続けてきた。同博士は、「40年間余り、研究開発費の助成金を申請してきたが、もらえなかった」という。

 研究でもいろいろな試練があった。「mRNAは薬としては不適切であるように見えた。それはレシピエントの免疫系が外部から入ってきたmRNAを不審なものと認識して、それを駆逐しようとするからだ」という。

 しかし、2005年、米国の生物学者ドリュー・ワイスマン博士との共同研究の中で、カリコー博士は自身のアイデアで何が問題かを分析し、アイデアの弱点を発見し、RNAを再構築した。天然のRNAビルディングブロックウリジンを合成シュードウリジンに置き換えることで、RNAは体内で外来者として攻撃されず、メッセージを伝えることができたのだ。

 カリコー博士はmRNA療法を具体的な医療の場で現実化するために、2013年、ドイツのマインツのビオンテック社にきた。ビオンテック社は当初、mRNAをガン治療に投入することを目標としていたが、2020年、新型コロナウイルスの感染が欧州でも拡大したため、急遽、カリコー博士が開発した技術を利用してコロナ・ワクチンを製造したわけだ。

 カリコー博士の家庭では彼女の娘のジュジャンナさんが唯一のスターだった。娘はボート競技で2つのオリンピックの金メダルと5つの世界選手権のタイトルを獲得した著名なスポーツ選手だ。母親は今回有名な賞を受賞したことで科学界のスター入りしたわけだ。なお、カリコ―博士はワイスマン博士と共にノーベル生理学・医学賞の有力候補者に挙げられている。

 COVID-19に対するワクチンは、カリコー博士のゴールではない。彼女の目標は「mRNAががんだけでなく遺伝性疾患に対しても新しい治療法の基礎になることを望んでいる。さまざまな病気に合わせたオーダーメイドの薬の開発だ」という。

26日に欧州の3国で「投票」が実施

 26日はドイツ連邦議会(下院)選挙が実施されるが、同日、スイスでは同性婚合法化を問う国民投票が行われる。それだけではない。オーストリアのオーバーエステライヒ州議会選挙もある。当方が取材対象としている3国で選挙ないしは国民投票が行われるわけだ。ヒマよりいいが、26日は忙しい日となりそうだ。

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▲CDUのアルミン・ラシェット党首(CDU公式サイトから)

 そこで3国の選挙ないしは国民投票の注目点、政治的インパクトなどについて簡単にまとめた。独連邦議会選が26日の最大イベントであることは間違いない。それに次いでスイスの国民投票、そしてオーバーエステライヒ州議会選の順で紹介する。

 ‘範∨議会選

 欧州の盟主ドイツの総選挙であり、16年間政権を維持してきたメルケル首相時代が終わり、ポスト・メルケル時代の夜明けを告げる選挙だ。ドイツばかりか世界でもその行方に関心が注がれている。

 ドイツ国内のメディアによると、メルケル首相の率いる与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が社会民主党(SPD)にトップの座を奪われる可能性が出てきた。ただし、どの政党も1党では議会の過半数を占めることができないので、2党、ないしは3党による連立政権が選挙後、発足する予定だ。その際、SPDと「緑の党」が連立を組む可能性は高いが、2党では過半数に満たないため、リベラルな政党「自由民主党」(FDP)が加わることが考えられる。

 ただし、FDPはCDU/CSUとの連立に関心が強いから、CDU/CSUと「緑の党」、FDPのジャマイカ連立政権が生まれる可能性も排除できない。明確な点はSPDとCDU/CSUは極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)との連立は拒否していること、SPDは「緑の党」に「左翼党」の3党左派主導政権には慎重な姿勢を崩していないことだ。いずれにしても、ドイツ議会選では、投票後,どの政党がどの政党と連立を組むかが重要となる。

 ▲好ぅ垢瞭雲婚合法化を問う国民投票

 アルプスの小国スイスで26日、同性婚合法化に関する国民投票が実施される。世界でオランダが2001年4月1日、同性婚を最初に合法化した後、欧州を中心に同性婚を認知する国が増え、現在、29カ国が同性婚を認めている。欧州で同性愛者の婚姻を認めていない国は4カ国しかない。イタリア、ギリシャ、リヒテンシュタイン、そしてスイスだ。

 スイス連邦議会は昨年12月、同性婚合法化を盛り込んだ民法典改正案「全ての人に結婚の自由を」を可決した。同案が可決された直後、保守系政党「スイス民主同盟」(EDU/UDF)や「スイス国民党」らを中心に反対の声が上がり、国民投票が実施される運びとなった経緯がある。

 反対派は、「同性婚合法化は、社会的・政治的な亀裂を生み、男性と女性の間に築かれる永続的な関係としての婚姻の歴史的な定義を覆す」と指摘し、「婚姻は男性と女性の自然な関係であり、今後も保護されるべきである」(反対派の「国民投票委員会」の声明文)と強調。また、「同性婚合法化が認められれば、女性への生殖補助医療の道が開かれ、近い将来代理出産の道が認められるようになる」と懸念している(スイス公共放送協会のウェブサイト「スイスインフォ」日本語版)。

 同国の同性婚支持グループ「ピンク・クロス」が2020年実施した世論調査では、国民の約80%が同性婚合法化を支持している。

 なお、宗教界では、スイス福音教会連盟が2019年11月、同性婚の合法化に賛成を表明した。一方、スイスのカトリック教会司教会議やスイス福音ネットワークは同性婚合法化に反対している。

 スイスではこれまで同性愛のカップルは「パートナーシップ制度」に登録できる。毎年約700組がこの制度を利用している。

 オーバーエステライヒ州議会選
 
 同州人口は約140万人、州都はリンツ市。オーストリア連邦議会ではクルツ首相が率いる国民党と「緑の党」の連立政権だが、オーバーエステライヒ州議会は国民党と極右政党「自由党」の連立政権だ。世論調査によると、国民党(トーマス・ステルツァー党首)の第1党は間違いない一方、前回の選挙(2015年)で第2党に躍進した自由党が得票率(前回30%)を大きく失うことが予想されている。自由党は難民問題が大きな政治的課題だった前回選挙では支持を伸ばしたが、新型コロナウイルスの感染後、マスク着用反対、ワクチン接種拒否を主張する自由党に対し、有権者(約110万人)がどのような審判を下すか注目される。

 「自由党」の元党首ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ氏が8月27日、ウィーン地方裁判所で汚職などの罪で懲役15カ月の執行猶予付き有罪判決を受けるなど、自由党を取り巻く政治環境は厳しさを増している。同党のオーバーエスターライヒ州のハイムブフナー党首がコロナに感染し、集中治療室にお世話になったばかりだ。低迷が予想される自由党に対し、社会民主党が伸びる可能性が予測されている。

 なお、同州選挙はオーストリアにとっては今年最初の選挙であるだけに、クルツ政権のコロナ対策に対する有権者の評価がどう出るか注目される。参考までに、州内にはアドルフ・ヒトラーが生まれたブラウナウ市が含まれる。同市はコロナ・ワクチン接種率がオーストリアの中でも最も低い。

ノアやハンナがドイツの街を歩く

 人類の始祖アダムとエバの最初の仕事は対象に名前をつけることだった。「この花をチューリップとしょう」「これは鳩と呼ぶよ」といった具合だ。名前を付けることで人はその対象に情が注がれるから、ここに関係が生まれてくる。

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▲ハンブルク市内風景(ドイツ観光局公式サイトから)

 対象に呼称がない世界を考えてほしい。「Aはあちらに行って」「Bよ、この箱を運んでくれたまえ」といった世界では両者間に関係が成立しにくくなる。だから、Bはダビデ、Aはサラと呼ぶことにしようということになるわけだ。匿名の社会では正常な人間関係が築きにくくなり、相手への信頼が生まれてこないのは当然だろう。

 ドイツ語協会は毎年、ドイツでどのファーストネームが最も多いかを調査してきたが、2018年、男の子の名前の中で最も人気があったのは「ベン」だった。ドイツの両親は自分の子供にその他、ノア、ヤコブ、ラファエル、ミリアム、ハンナ、サラという名前を好んでつけるという。ヘブライ語聖書(旧約聖書)を読まれた読者ならば直ぐに彼らの名前が聖書の登場人物のものであることに気が付くだろう。その通りだ。ドイツで近年、ヘブライ語聖書から取った名前が常にトップ10には入るという。男の子の場合、トップ10のうち4つ、女の子の場合、5つはヘブライ語に由来した名前というのだ。

 ドイツ放送のユダヤ世界の欄でクリスチャン・レーター記者は2019年3月、「ユダヤ系名前のトレンド」という記事を書いている。同記者は、「ナチス・ドイツ政権下でユダヤ人は迫害され,殺害されてきたが、その国で戦後、ユダヤ系名前を自分の子供につけるドイツ人両親が増えている」というのだ。

 ドイツ人の両親がヘブライ語聖書の登場人物の名前をわざわざ選んで付けるのは確かに奇妙な現象だ。同記者によると、ドイツでは戦後、ヘブライ語名の名前をもった子供が次第に増えてきたが、その傾向は1970年以後から顕著になってきたという。
 一方、ユダヤ人の家庭ならば自分の子供にヘブライ語の名前を付けるのは当然と思われるが、そうではない時代があった。ナチス政権は、ユダヤ人両親に対して、「子供には典型的なヘブライ語の名前、例えば、女の子にはサラ(アブラハムの妻の名前)を付けるように」と強要したことがあった。名前でユダヤ人か非ユダヤ人かを直ぐに識別できるからだ。

 だから、ドイツに住むユダヤ人の家族は生れてくる子供には可能な限りヘブライ語の名前を付けるのを避ける傾向があった。子供がユダヤ人家庭の子だと分かるとさまざまな危険や不祥事が生じるからだ。そのため、ユダヤ人の家庭ではノア、ヤコブといった典型的なユダヤ人の名前を避けて、逆に典型的なドイツ語系の名前、マックスやジークフレットを好んで付けた。同じことが、ロシア系ユダヤ人の社会でもみられたという。ソ連共産党政権下ではユダヤ人は2等国民のような立場だったので、親は子供のファーストネームにユダヤ人だと分かる名前を避けた。

 反ユダヤ主義傾向が強い国や社会からきたユダヤ人には同じ体験をしてきた人が少なくない。反ユダヤ主義傾向が見られる欧州ではユダヤ人は身辺の安全のために男性はキッパー(帽子)を付けないで外出するという人が増えてきている。ユダヤ民族のアイデンティティを隠して生きて行かなければならないから、自分の子供も将来、いろいろな迫害を受けないように生まれた時からヘブライ語系の名前を避けるわけだ。

 興味深い点は、レーター記者はユダヤ系の名前を付けたドイツ人両親に取材して、その動機を聞いているが、自分の子供のファーストネームがユダヤ系の名前だと知らなかった両親が結構多かったという。それではなぜマックスではなく、ノアという名前を選ぶのかというと、「その言葉の響きがいいからだ」というのだ。分かりやすく言えば、格好いいからだ。

 社会学者の中には「ナチス・ドイツ時代に迫害してきたユダヤ民族への償いといった思いが潜在的に働いているからではないか」とみる人もいるが、名前の起源や意味よりもヘブライ語の名前の響きが耳に快い、という理由から選ばれていると受け取るほうが説得力がある。人間は言語を通じてコミュニケーションをするが、言葉がもつ響き(独語Klang)が人間の脳内言語中枢に大きな影響を与え、快く感じたり、不快感を誘発するからだ。

 ちょっと脱線するが、日本語に関心のあるドイツ人が「『S』から始まる日本語は耳に快く響く」と言っていたことを思い出す。日本語を学び出したばかりの欧州人が覚えたての「さようなら」を会ったばかりの日本人に言ってしまった、というエピソートを聞く。欧州人の耳には「S」で始まる日本語が快いKlangをもって耳に響くわけだ。言葉には民族や言語の区別なく、一種の言霊があるという。響きはその言霊を意味するのかもしれない。同時に、「言語の統一」が、たとえ長い時間がかかったとしても、可能だという理由ともなってくる。

 ドイツで起きている事や現象はしばらく時間が経過すれば、同じドイツ語圏の隣国オーストリアにも見られる、といわれてきた。実際、当方の周囲にはノアがいるし、ラファエル、サラといった名前のオーストリア人がいる。おそらくその名前の起源やヘブライ語の意味について考えてはいないだろう。明らかなことは、言語的に快いKlangを持つヘブライ語系名前が増えてきていることだ。

誰がローマ教皇の死を願っていたか

 南米出身でイタリア系の血が流れているローマ教皇フランシスコはドイツ人で学者タイプの前教皇ベネディクト16世とは全く違ったキャラクターの持ち主で、冗談が好きだ。だからメディア関係者にとっても話題は尽きないが、時には冗談が現実味を帯びてくる場合がある。今回の冗談もその一つだろう。

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▲フランシスコ教皇「私はまだ生きているよ」(バチカンニュース2021年9月19日から)

 ローマ教皇フランシスコ(84)は7月4日、ローマのアゴスチノ・ゲメリ・クリニックでセルジオ・アルフィエリ医師の執刀による結腸の憩室狭窄の手術を受けた。予定より長く10日間、入院した後、バチカンに戻った。そして今月12日から15日にかけ、中欧のハンガリーの首都ブタペストとスロバキアを訪問した。教皇にとって43回目の外遊となったブタペストの英雄広場での国際聖体大会では記念礼拝をするほか、スロバキアでは地元のカトリック教会関係者と会合し、他宗派の指導者と超教派活動で話し合った。すなわち、手術後、初の外遊はストレスが少ない日程だった。

 フランシスコ教皇は12日、スロバキアのイエズス会関係者との会合で手術後の体調を聞かれ、「わたしはまだ生きているよ。ただ、私の死を願っている人々もいたようだがね」と述べ、「(私が死んだら後継者の教皇選出のために直ぐにコンクラーベを開催しなければならないから)、コンクラーベの開催準備をしていたということも知っている」と語ったのだ。

 フランシスコ教皇は自身が所属していたイエズス会の会合ということもあって気が緩んだのだろう、冗談の一つぐらいは言わないと悪い、という生来のサービス精神が働き、今回の冗談となったのだろう。その冗談の内容がイエズス会の機関紙ラ・チビルタ・カットリカで掲載されたので、一般のメディアが21日、一斉に報じたので、話題を呼んだというわけだ。

 フランシスコ教皇は、2015年1月20日、訪問先のフィリピンから帰国する機内で記者団に対し、人工的な避妊を禁じるカトリック教会の教えを擁護する一方、「ウサギのように子供を産まなくてもいい」と多産を戒めるような発言をして物議をかもしたことがあった。「ウサギのように」と言われたフィリピンの女性たちは不快となっただろう。今回の教皇の冗談は少々、次元が違う。「自分の死を願っている人々がいた」、「次期法王の選出のためにコンクラーベ開催の準備をしていた」という冗談は高齢の教皇の命に直接に関係する内容だけに、現実味を帯びてくることは避けられなくなる。Netflix配信の犯罪番組のファンでなくても、どうしてもさまざま憶測が生まれてくるからだ。

 フランシスコ教皇は“自分の死を願っている”高位聖職者を知っているのだろうか。それともイタリアのメディアが頻繁に報じてきた数多くの憶測情報をつまみ上げて語っただけに過ぎなかったのだろうか。「コンクラーベの開催準備に動き出した人」という部分は明らかに教皇の自作だろう。それとも、バチカン内の高位聖職者の動きを逐次監視し、不審な言動があれば教皇の耳に入るホットラインがあるとでもいうのだろうか。

 高齢の教皇が手術をすれば、手術の経過如何では命の危険が出てくることは十分考えられる。だから、バチカン関係者がコンクラーベの準備に入っていたとしても通常の危機管理の枠内のことだ。冗談好きな教皇はそれをユーモラスに語って、笑いを誘っただけかもしれない。

 それでは教皇の発言を単に冗談として済ましていいだろうか。残念ながら「教皇の死」を願う人々はバチカン内の高位聖職者の中だけではなく、外部にもいることは間違いない。故ヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月〜2005年4月)は1981年5月13日、バチカンのサン・ピエトロ広場でトルコ人、メフメト・アリ・アジャに銃撃された暗殺未遂事件を思う出すまでもない。今年8月、銃弾が入った封筒が教皇宛てに届けられたことがあった。封筒の送り人はマフィア関係者ではないか、といった憶測が一時流れた。

 歴代の教皇の中にはヨハネ・パウロ1世(在位1978年8月26日〜9月28日)は教皇に就任して33日間後に亡くなったために、「33日間の教皇」と呼ばれている。ベットで突然死したパウロ1世の死因については、急性心筋梗塞説から暗殺・毒殺説、そして予定説までさまざまな情報が流れた。バチカンでは何が起きても驚くことはないともいわれる。ペテロの後継者、ローマ教皇が住むからだ。バチカンは昔かfら「秘密の宝庫」と呼ばれてきた。

 フランシスコ教皇は「わたしはまだ生きている」と表明したが、84歳の教皇には本人の意向とは関係なく、今後もさまざま死亡説が流れてくるだろう。その点、北朝鮮の独裁者の運命と酷似している。金日成主席や金正日総書記には本当に亡くなるまで何回も死亡説が流れたものだ。

共産主義とクトゥブ主義は同根だ

 少し時間が経過し、忘れられた読者もいるかもしれないが、加藤勝信官房長官が14日の記者会見で、「政府は、共産党が(「敵の出方論」)に立った暴力革命の方針を依然破棄していない、と考えている」と述べ、17日の会見では、「公安当局が共産党発行の各種文献を調査した結果に基づく判断だ」と説明したという。

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▲ムスリム同胞団の思想指導者・クトゥブ(ウィキぺディアから)

 当方は「共産主義は悪魔の思想」と考えているから、加藤官房長官の説明には物足りなさを感じるが、共産主義が暴力革命を放棄していないことは理論だけではなく、その出自から判断しても明らかなことだ。

 共産主義はキリスト教の衰退から生まれてきた思想だ。その思想体系もキリスト教の世界観に似ている。救い主は共産党であり、労働者、共産党員は選民だ。キリスト信者たちが「天国の建設」を叫ぶように、共産主義者は、労働者を搾取する資本主義社会を打倒し、「労働者の天国」、格差のない階級なき社会の建設を訴える。終末になれば、救い主が降臨し、地上に神の世界を宣布するように、共産主義者は時が来たならば「革命」が不可欠と考える。旧チェコスロバキアの「ビロード革命」のような非暴力による政権交代は考えられないのだ。

 「敵の出方論」は一種の方便に過ぎず、スターリン・ソ連共産党や毛沢東中国共産党をみても、暴力革命、粛正の嵐が吹き荒れた。中国共産党は数千万人の同胞を粛正した。多分、温かい書斎でコーヒーを飲みながら共産主義思想を学んできた日本共産党現指導部は「われわれは違う」と否定するだろうが、共産主義の看板を掲げている以上、日本共産党のルーツは変わらない。日本共産党は2004年、党綱領を改定したが、その中身は何も変わっていない(「『共産党』を“誤解”している友へ」2015年11月8日参考)。

 公平を期していうならば、共産主義思想が出現したのはキリスト教がその使命を果たせなかったからだ。その意味でで「責任」がある。神を親として、全てが兄弟姉妹と叫んできたが、実際のキリスト教社会には人種差別があり、性犯罪、淪落が絶えない。豊かな者は更に豊かになり、貧しい者は更に貧しくなる。そのような社会に神はいないという声が飛び出してきたとしても不思議ではない。

 共産主義は悪魔の思想だ。悪魔はその声を聞き、「その通りだ、神はいない」と囁き、神なき世界、無神論唯物主義を広げていった。冷戦時代の初期、共産主義が若い世代に広がっていくのをキリスト教会はただ見つめているだけで、代案を提案できなかった(キリスト教会の中には新しい宗教刷新運動が起きたが、流れを変えるほどのパワーはなかった)。

 興味深い点は、共産主義はキリスト教社会の腐敗へのアンチテーゼとして生れたが、その背後にキリスト教の母体となったユダヤ教が共産主義思想の構築に大きな影響を与えていたという事実だ。

 1917年のロシア革命は人類史上初の社会主義革命だった。その革命の主導者、ウラジーミル・レーニン自身はロシア人だったが、彼の側近にはユダヤ系出身者が多数を占めていた。レーニンも厳密にいえば、母親がドイツユダヤ系だからユダヤ系ロシア人だ、ともいわれている。カール・マルクスもユダヤ系出身者だったことは良く知られている。すなわち、マルクス・レーニン主義と呼ばれる社会主義思想はユダヤ系出身者によって構築されたわけだ。スターリンがその後、多くのユダヤ人指導者を粛清したのはユダヤ人の影響を抹殺する狙いがあったという(「ユダヤ民族とその『不愉快な事実』」2014年4月19日参考)。

 ソ連・東欧共産党政権は1989年以降、次々と崩壊していった。欧米社会が共産主義世界の崩壊に喜々となっていた時、悪魔はイスラム過激主義に手を伸ばしていたのだ。具体的には、エジプトに発生した「ムスリム同胞団」だ。中東問題専門家アミール・ベアティ氏は、「北アフリカ・中東諸国のテログループからアフガニスタン、パキスタンのイスラム過激派までその思想的母体はエジプトのムスリム同胞団だ」と述べている。

 その思想を構築した理論的指導者はサイイド・クトゥブ(Sayyid Qutb)だ。クトゥブは1906月10月、エジプトのアシュート・ムーシャ村に生まれた。父親は地元の地主だった。1929年、カイロの高等師範学校に通い、39年に教育省に入省、役人生活に入る。クトゥブの思想に大きな影響を与えたのは1948年の訪米体験といわれる。米コロラド州立教育大学などで学びながら、米国の文化を視察していく。「私が見たアメリカ」という著書の中で米国文化が物質主義であり、個人主義、人種差別などが席巻していると批判的に記述している。帰国後、教育省を辞職。そして「ムスリム同胞団」に入り、機関紙の編集長などを歴任し、まもなく理論的指導者として頭角を現す。「ムスリム同胞団」が54年、ナセル大統領暗殺未遂事件を起こし、クトゥブも逮捕される。一時釈放されたが、66年8月29日、処刑され、還暦を迎える直前に生涯を閉じた。

 クトゥブはコーランを独自の視点から解釈し、アラーは如何なる主権、民主主義より上位に位置する絶対的な主体者と見る。そして、全ての権威は神から起因する。だから、その教えの行き着く先はシャリア(イスラム法)だ。彼の思想はイスラム教のユートピアであり、ロマン主義的社会主義、ネオ清教徒イスラム教だと評されている。同時に、クトゥブの思想には反ユダヤ主義が深く刻み込まれていることから、イスラム教世界の反ユダヤ主義に大きな影響を与えている。

 クトゥブは欧米キリスト教社会の腐敗を目撃したことが契機となり、イスラム教の教えをもとにした公正な社会を構築しようとした。その際、キリスト教の母体のユダヤ教に対しても憎悪心を強めている。多くの若いイスラム教徒が「ムスリム同胞団」に入って献身的な歩みをする姿は、共産主義の台頭初期に多くの若者がその思想に惹かれていった姿と重なるわけだ。

 クトゥブの思想はアルカイダの創始者ウサーマ・ビン・ラーディンやアイマン・ザワヒリ、ナイジェリアの「ボコ・ハラム」、ソマリアのアル・シャハブ、フィリピンのモロ・イスラム解放戦線(MILF)など世界のイスラム過激テログループに影響を与えている。そればかりか、シーア派のイランのホメイニ師もスンニ派のクトゥブの著書を高く評価していた(「イスラム世界の『クトゥブ主義』」2013年7月14日参考)。

 共産主義はキリスト教を温床にして生まれ、冷戦後はキリスト教社会の中心米国へのアンチテーゼとしてクトゥブ主義が台頭し、ジャーヒリーヤ(イスラムへの無知)社会に対して聖戦を展開している。共産主義は唯物的無神論を掲げ、クトゥブ主義は神の国シャリアを掲げ、神の名を悪用してイスラム過激主義を広げているわけだ。

経済相の「回答」に欠けていた視点

 アルプスの小国オーストリアでもデルタ株コロナ感染が広がり、最近7日間で1日平均2000人の新規感染者が出てきた。夏季休暇明け、新学期のスタートということもあって今後も増加するのではないかと懸念されている。

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▲シュランベック経済相(デジタル経済省公式サイトから)

 オーストリアでは15日からコロナ規制の一部強化が実施された。具体的には、店舗などの他、博物館や図書館でもコロナ・ワクチンを接種していない人はFFP2マスクの着用が必要となり、ワクチン接種済みの人は通常のマスクでもいいということになった。ワクチン接種者と非接種者間の差別的対応ということで、予想されたことだが野党などから反対の声が上がっている。

 そこまではまだ想定内の展開だったが、問題が生じた。人がショッピングモールで買物する時、その人がFFP2マスクではなく、通常のマスクで店の中に入ってきた場合、この顧客はワクチン接種済みかそうではないのかを誰が識別するか、誰がそのゲストにワクチン接種済みの証明書の提示を要求するかで関係者の間で議論が出てきた。関係者とは、主に店舗側と警察当局だ。

 店舗オーナーは、「われわれはゲストにいちいち『あなたはワクチン接種済みですか』と聞けない」と主張する。一方、警察官担当の内務省は、「警察官は忙しく、多くの店舗の前に立って入ってくる人にワクチン接種済みの証明書の提示を要求できない」という。それぞれ一理ある。特に、後者にとって、「犯罪が急増している時、店前で1日中、立って証明書のコントロールをする時間はない」というわけだ。

 本来、15日から、一律買い物の際にはFFP2マスクの着用の義務を課したならば、このような混乱はなかったが、クルツ政権としてはワクチン接種者と非接種者の間で目に見える区別をすることで、ワクチン接種を拒む国民を接種に誘導したいという思惑があったのだろう。

 数日間の混乱後、マルガレーテ・シュランベック経済相(デジタル担当)が記者会見で、「店舗側はコントロールできるが、コントロールをしなければならないわけではない」と名回答した。店舗側が通常のマスクで店に入ってきたゲストにやんわりと、「ワクチン接種は終わったのですね」と聞ける。従業員の数が少ない場合、大変だが可能だ。しかし、ゲストに聞かなければならない義務はない、というわけだ。独語で表現すれば、その区別はひょっとしたらより明らかになるだろう。すなわち、「Konnen」だが、「Mussen」ではないというわけだ。換言すれば、「能力」と「義務」の違いだ。あなたは聞く能力はあるが、絶対に聞かなければならない義務はない、という論理だ。

 記者会見を放映していたTVアナウンサーは、「シュランベック経済相が今回、はっきりと答えてくれましたから、皆さんは理解できたと思います」と少し茶化しながら語っていた。経済相のこの回答で店舗側も警察側も納得できたか否かは分からないが、ワクチン接種者と非接種者間のマスクの違い議論は峠を越えた、というか、ばかばかしくなってきたのか、メディアは報じなくなった。

 経済相の記者会見をTVで観ていた時、「経済相は第3の解決策に言及していない」と感じた。独語で「Wollen」 だ。願いであり、願望だ。すなわち、あなたはゲストに対してワクチン接種証明書の提示を要求できるが、それは義務ではない、では終わらないのだ。「あなたは来客に対し、店と周囲の人のため、感染防止という目的のためにワクチン接種証明書の提示を要求したいですか」という点だ。

 ,蓮崘塾蓮廚髻↓△蓮峙遡魁廚髻△修靴騰は「願望」だ。そして,鉢△砲弔い討藁匹議論されるが、については案外無視されてきた。ワクチン接種問題を離れて一般論でいえば、「あなたは何をしたいのか」というテーゼだ。決して「あなたは何が出来るか」とか、「何をしなければならないか」ではない。「あなたは今、何を願い、したいのか」という点だ。

 このように考えていくと、ワクチン接種者と非接種者間のマスク問題も解決の道が見えてくる。「あなたは感染防止のために手間をとってもコントロールをしたいか」という問いだ。各自がその問いかけに応じて、対応すれば問題は解決できる。繰り返すが、「能力」でも法的な「義務」でもない。あなたの「願い」がどこにあるか、という問題だからだ。

 まとめる。シュランベック経済相は本来、「わたしはゲストにワクチン接種証明書の提示を要求できるが、義務だからそうするのではない。コロナ感染を少しでも防止するために証明書の提示を願うのだ」と回答すれば、全てOKだったはずだ。

 Netflixで今、人気を博しているTV番組「メシア」の中で、「何を貴方のために出来ますか」と聞く牧師に対し、主人公は「あなたは何をしたいのか」と聞き返す場面がある。「能力」や「義務」からではなく、「わたしは今、何をしたいか」と、胸に手を当てて考えるべき時かもしれない。
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