ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2021年08月

タリバンとアヘン生産の密接な関係

 イスラム原理主義勢力タリバンが不法なアヘン生産と密売で巨額の資金を獲得してきたことは周知のことだ。ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務局(UNODC)によると、アフガニスタン産アヘンは2020年の世界の85%を占めている。そのアヘンやヘロインはトルコやバルカンルートを経由して欧米全土に密輸されている。麻薬取引で得る収益はタリバンの最大の収入源となっている。アフガンのアヘン生産は昨年、新型コロナウイルスのパンデミックにもかかわらず、前年度比で37%増、栽培面積は22万4000ヘクタールと推定されている。

erum_2021_G3
▲アヘンはケシの実から採取した果汁を乾燥して生産する(ウィキぺディアから)

 ところで、タリバンは15日、首都カブールを占領し、アフガン全土を掌握した直後、タリバンのムジャヒド報道担当者は17日の記者会見で、「アヘンの生産を禁止する」と述べた時、世界は決して驚かなかった。タリバンは過去にも同様の宣言をしたことがあったからだ。タリバンは1996年から2001年まで国を統治していた。タリバンは政権に就くなりアヘン栽培を禁止した。タリバンは当時、極度の国際的圧力にさらされており、緊急に国際的な支援を必要としていたからだ。しかし、禁止はほとんど意味がなかった。倉庫には大量のアヘンの在庫があったからだ。タリバンが今回も「アフガンをアヘン・フリーにする」と表明、アヘン栽培を禁止すると述べたとしても、その実効性は疑わしいわけだ。

 国家の運営にはしっかりとした財政的基盤がないと難しい。アフガンには豊かな地下資源があるから、それを開発すれば一定の収益を得る。例えば、アフガンには最大3兆ドル規模のレアアースが埋蔵されていると推定されている。レアアースは半導体やバッテリーなどの先端産業と軍事産業に広く利用されている。中国はその地下資源を得るためにタリバンに触手を伸ばしている(「『帝国の墓場』アフガンと中国の関係」2021年8月20日参考)。

 その一方、タリバン前も後もアフガンではアヘンを栽培し、それを密輸して巨額の外貨を稼ぐ業者や農家が少なくなかった。国際社会からの圧力で政府がアヘン栽培の禁止、アヘンに代わる代替栽培を推進したことがあったが、多くの農家はアヘン生産で生活をしてきた。収入が違うからだ。

 アフガンは34州から構成されている。アフガン政府といっても州を管理する部族がパワーを有している社会だ。州によってはアヘン生産を根絶した所がある一方、アフガン南部ヘルマンド州ではアヘン生産に従事する農家が多い。同州の農地の22%がケシ栽培に使われている。アフガンの過去最大の生産量は2017年で9900トンだ。総売り上げ額は14億ドル。タリバンは不法麻薬取引からの収益の半分をその懐に入れていると受け取られてきた。国連安保理によると、タリバンは麻薬密輸で年間4憶ドルの収益があると推定されている。具体的には、イスラム法に基づき、通称、ウシュル(Ushr)と呼ばれる税を密輸業者、栽培者から押収する。鉱山開発業者に対しても同様だ。売上の10%の税を払わないと、タリバンは活動をストップさせる。

 タリバン第2次政権が発足したとしても、その財政基盤は厳しい。アフガンをこれまで支援してきた世界銀行(WB)や国際通貨基金(IMF)、そして英国、スウェーデンやドイツはタリバンのテロ、人権弾圧、女性蔑視政策を懸念し、タリバンがアフガンを占領した直後、財政支援をストップすると表明したばかりだ。世界銀行によると、2020年のアフガンの国内総生産(GDP)は約198憶1000万ドルだったが、その43%は国際社会の財政支援だ。アフガンのガニ政権が崩壊した今日、欧米諸国からのタリバンへの経済支援は期待できない。海外に避難したアフガン中央銀行のトップ、アジュマル・アフマディ氏によれば、アフガンの保有外貨は約90憶ドルだが、大部分は海外に保管されている。

 ちなみに、タリバンの精神的指導者である故モハマド・オマールの息子であるモハマド・ヤクーブは、昨年の報告書でタリバンの財政状態を明らかにした。それによると、2020年3月期の収益は約16億ドルに上るという。アフガニスタン政府は同期間の歳入は約56億ドルだった、また、タリバンはサウジアラビア、パキスタン、イランなどの国からも活動資金を受け取ってきたという。

 タリバンにとって巨額な外貨が手に入るアヘン生産を禁止することは容易なことではないわけだ。タリバンが農民に経済的な代替手段を提供できない場合、農家からの抵抗が強まる。タリバンは遅かれ早かれアヘン生産を認めざるを得なくなるというわけだ。

 ウィーンに本部を置く国際麻薬統制委員会(INCB)はタリバンの政権奪還前、今年3月、「2020年年次報告」を発表したが、その中で「アフガンでの違法な麻薬栽培、生産、麻薬密売、麻薬使用などの問題に対して包括的に対応しなければ、アフガンの持続可能な開発、繁栄、平和が実現される可能性は低くなる」と述べている。アフガン政府はこれまでケシ栽培根絶プロジェクトを進める一方、INCBはケシ栽培する農業にケシに変わる栽培を支援してきた。

 アヘン生産やケシ栽培はこれまで国家権力が届かない、主にタリバンが支配してきた地域で行われてきたが、タリバンが全土を支配下に置けば、アフガン全土でアヘン生産がおこなわれる可能性が出てくるわけだ。

 興味深い点は、ロシアがタリバンと頻繁に接触しているが、その理由の一つはアフガン産のアヘンが中央アジア経由でロシアに密輸されるケースが増えているため、タリバンにその対策を強く要請するためだというのだ。中央アジア経由で入る不法な麻薬を摂取するロシア人、特に若い世代が急増し、大きな社会問題となっているからだ。

99・4%の支持で再選された党首

 イザヤ・ベンダサンの著書だったと記憶するが、ユダヤ人は会議で100%の支持を受けた提案に対し、「良くないことだ」として再考するという。すなわち、人間が全て同じ意見であることは有り得ないし、危険だという考えがその根底にあるわけだ。

dy03_a
▲99・4%の支持を得て党首に再選されたクルツ首相(中央)オーストリア国営放送公式サイドから、写真オーストリア通信

 オーストリアのセバスティアン・クルツ首相(与党「国民党」党首)は28日、ニーダーエストライヒ州の州都サンクト・ペルテン市で開催された第39回国民党大会で99・4%の支持を受けて再選された。党大会前から再選は間違いないと考えられてきたが、どれだけの支持を得るかに関心が注がれてきた。結果は、536人の党代表のうち533人がクルツ党首を支持したのだ。すなわち、99・4%の支持率だ。100%に限りなく近いが100%ではない。クルツ党首にとっては理想的な再選となったわけだ

 投票結果が公表されると、クルツ党首は顔を紅潮させながら、「ありがとう。あなた方の支持はこれからの政治活動の支えとなる」と党代表たちに感謝した。それにしても、党大会前日の27日に35歳になったばかりのクルツ党首がこれだけの信頼を得て、しかもオーストリアでもっとも人気がある政治家というのも凄い。2017年の総選挙、欧州議会選、州議会選、早期総選挙とクルツ党首が率いる国民党は全戦全勝だ。クルツ党首前の国民党を知っている国民には考えられないことだ。

 オーストリアでは戦後から社会民主党が常に第1党であり、保守派政党「国民党」はいつも第2党としてジュニア政党の立場に甘んじてきた。それがクルツ氏が登場してから国民党は社民党を抜き、第1党の地位を確立してきたのだ。党首の責任は選挙に強く、有権者の支持をより多く獲得することだが、クルツ氏はその正道を歩み、党内で絶大な支持を得てきた。前回の党大会(2017年)ではクルツ氏は98・7%の支持率を得て党の舵取りを任されたが、今回はその結果を上回ったのだ(党首のほか、4人の副党首が同じように再選された)。

 少し、脱線するが、99・4%という意味は0・6%の党代表はクルツ党首を支持していないということになる。具体的には、536人の党代表の3人がクルツ党首のリーダーシップに反対したわけだ。無記名投票だから、誰が反対したかは不明だが、この3人の反対者が党大会での党首選出の正当性を与えたことにもなる。

 同氏の人気は高く、現時点では不動だ。党総裁選の度に、どのような結果となるか分からない日本の与党自由民主党の総裁選とは全く異なる世界といえるだろう。参考までにオーストリアの他の政党の党首支持率を紹介する。第2党の社民党のパメラ・レンディ・ヴァーグナー党首は党大会で75%の支持率しか獲得できずに再選された。社民党内で反党首グループが強く、党の結束を損なっていることが分かる。極右派政党「自由党」のキックル氏は88・24%の支持でホーファー党首の後継者選で当選している。

 クルツ党首は党首選前の演説でパンデミック対策の現状を説明する一方、野党側の国民党への批判の声が高まってきていると指摘、「彼らは政策批判ではなく、個人への中傷を繰返している」と反撃。移民問題ではアフガンからの難民受け入れを拒否するクルツ氏に対し、社民党が「非情な政策」と非難を繰り返しているが、「わが国は欧州でも過去、最も多くのアフガン難民を受け入れてきた」と強調、「不法移民や移民・難民を欧州に運ぶ犯罪グループへの対策はこれからも継続していく。重要な点は現地での支援だ」と従来の主張を繰り返した。ただし、移民・難民問題では国民党と立場が異なる連立政権のパートナー「緑の党」対しては直接の批判を避けている。

 クルツ党首はオーストリアにとって今後重要となる5つの分野を挙げた。国民の負担軽減(税対策)、雇用の拡大、環境の緑化、社会全般のデジタル化、そして移民対策だ。特に、移民・難民政策では政権パートナーの「緑の党」と対立するケースが増えてきた。特に、アフガン出身の少女の強制送還では「緑の党」から強い反発が出てきて、一時は「国民党・緑の党」の連立政権は崩壊の危機に直面した。

 クルツ政権から「緑の党」が離脱した場合、遅かれ早かれ早期総選挙の実施となる。選挙となれば、「国民党」は更に得票率を増やす一方、「緑の党」は社民党、自由党に抜かれ第4党に後退する可能性が高い。そこで「緑の党」側で国民党批判を自制する動きが出てきたところだ。国民党としても「緑の党」との連立以外に政権を組める政党は社民党しかいないが、クルツ氏は社民党との連立には強い抵抗感がある。そのため、国民党も「緑の党」も政権維持の方向に傾いているわけだ。現連立政権が任期(5年間)を全うするか否かは不明だが、クルツ党首の人気はここしばらくは変わらないだろう。

極右党「自由党」元党首に有罪判決

 オーストリアの極右派政党「自由党」の元党首ハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ氏が27日、ウィーン地方裁判所で汚職などの罪で懲役15カ月の執行猶予付き有罪判決を受けた。同氏は即、控訴した。

20190518_121619
▲副首相と自由党党首のポストの辞任を表明するシュトラーヒェ氏(オーストリア国営放送から、2019年5月18日)

 事件は、シュトラーヒェ氏が病院経営者グルーブミュラー氏(Walter Grubmuller)から2回、2016年10月、そして17年8月、自由党への献金(合わせて1万2000ユーロ)を受け取った代わりに、(党首だったシュトラーヒェ氏は)自由党議員に民間病院融資基金(PRIKRAF)の改正案を議会に提出させたというのだ。

 同改正案でグルーブミュラー氏のヴェーリング私立クリニークがPRIKRAFに加入できるように便宜を図ったとして、裁判官は、「改正案は明らかにグリーブミュラー氏の病院にとって利益があるが、オーストリアの民間病院の利益を考えたものではなかった」と判断、党献金と改正案提出には密接な関連があったとして今回の判決となったと説明した。

 シュトラーヒェ氏は、「裁判所の判決には非常に驚いた。裁判官は党献金と自分の行動を恣意的にリンクさせている」と不服を表明。シュトラーヒェ氏の弁護士のヨハン・パウアー氏は、「ウィーン高等地方裁判所(OLG)は、第1裁判所の法的な見解が正しいかを判断するだろう」と述べている。グルーブミュラー氏も懲役1年の執行猶予付き有罪判決に失望し、控訴を表明した。

 一方、国際反汚職アカデミーのマーテイン・クロイトナー前会長は、「政治家の汚職問題に対する画期的な決定だ。ただし、今回の判決は始まりに過ぎない」と指摘し、「賄賂と汚職は、政治、行政、法の支配に対する国民の信頼を損なう。すべてのコミュニティにとって毒だ。この点で、この信頼の一部が今日回復したことを嬉しく思う。政治家が特権を乱用し、賄賂を受け取ったり、汚職した場合、有罪判決を受けるという警告だ」と強調している。

 また、元監査院会長のフランツ・フィードラー氏はオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「判決内容については語れないが、法執行機関関係者が被告の社会的立場に配慮することなく裁判を実行することは過去は容易ではなかった」と述べ、検察庁や法廷関係者がその仕事を貫徹したことを評価している(オーストリア国営放送サイトから)。

 また、野党の社会民主党のイビザ調査委員会メンバー、ヤン・クライナー議員は、「国民党と自由党の連立政権が如何に法を売ってきたかを証明した」と述べ、「国民党と自由党の連立政権は政権の席に着くか、被告の席に着くしかない」と指摘、国民党の前財務相ハルトヴィック・レーガー氏や現財務相のゲルノート・ブリューメル氏への容疑問題を示唆している。

 シュトラーヒェ氏は14年間余り、自由党党首に君臨(2005〜19年)、同党を飛躍させ、クルツ首相が率いる国民党と連立政権を構築、副首相を歴任するなど、欧州の極右政党の中心的存在として活躍してきた。

 シュトラーヒェ氏の政治人生は順調だったが、それが急降下したのは通称イビザ騒動だ。シュトラーヒェ党首は2017年7月、イビザ島で自称「ロシア新興財閥(オリガルヒ)の姪」という女性と会合し、そこで党献金と引き換えに公共事業の受注を与えると約束する一方、オーストリア最大日刊紙クローネンの買収を持ち掛け、国内世論の操作をうそぶくなど暴言を連発。その現場を隠し撮りしたビデオの内容が2年後の19年5月17日、独週刊誌シュピーゲルと南ドイツ新聞で報じられたことから、国民党と「自由党」の連立政権は危機に陥り、最終的にはシュトラーヒェ党首(当時副首相)が責任を取って辞任した。

 国会内でイビザ調査委員会が設置され、同氏は説明責任を問われる一方、病院経営者から党献金を受け取る代わりに、私立病院の経営を容易にする法の改正案を議会に提出するなど、政治家としての特権を利用した汚職容疑が浮かび上がり、今回の判決となったわけだ。同氏は今回、判決を覆すことが出来なかった場合、政治家としての道は完全に閉ざされることになる。

 オーストリアでは政治家の腐敗、汚職は絶えない。特に、戦後から長期間政権に君臨してきた社会民主党には過去、数多くの汚職問題が起きた。最近では、新しい病院がウィーンで建設され、医療器材が独シーメンス社から購入されたが、当時病院建設を担当した社民党政治家はその直後、シーメンス社の幹部の職を得ている、といった具合だ。また、国民党の欧州議会議員エルンスト・シュトラッサー欧州議員(元内相)がロビイストを装った英ジャーナリストから欧州議会に法案提出を要請された。英ジャーナリストのおとり取材とは知らない議員は報酬10万ドルを要求し、法案提出を約束した。そのやり取りはビデオで録音されていたため、後日、同議員の犯罪行為(収賄)が暴露され、欧州議員のポストを失うだけでなく、腐敗政治家として裁判を受ける身となった。同氏は2014年3年の有罪判決を受けている(「誰が極右党首を罠にはめたのか」2019年5月21日参考)。

 政治家は特権を享受するだけに、汚職、賄賂などの腐敗問題が生じやすい。清貧な政治家という言葉は久しく忘れ去られた。与野党の区別なく、政治家の汚職は国民の政治への信頼を失わせ、民主主義政治の土台を震撼させる深刻な問題だ。

独連邦議会選まで1カ月を切った

 ドイツ連邦議会(下院)選挙の投票日まであと1カ月を切った。マラソンでいえば、いよいよゴールを視野に入れ最後の力を振り絞る時だ。独の世論調査も忙しい。毎週、新しい調査結果が報じられるが、第1党と予想される政党が頻繁に変わるのだ。好意的に表現すれば、激しい疾走ゲームを展開しているといえるが、穿った見方をみれば、政党も有権者も右に左に揺れ、その時々の出来事に振り回されているというべきかもしれない。

ggx800
▲社会民主党の次期首相候補者シュルツ財務相(SPD公式サイドから)

 議会選直前に社会民主党(SPD)がたとえ世論調査とはいえ、トップに躍り出ると予想した国民がいただろうか。その社民党が先日実施された世論調査で遂に与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)を抜いて第1党に躍り出たのだ。驚いたのは他の政党だけではない。SPD関係者自身も何が起きたのか暫くは理解できなかったのではないか。

 独の世論調査会社INSAが「ビルド日曜版」(8月22日)のために実施した調査によると、CDU/CSUが先週比で3ポイント失い、支持率22%となった一方、社民党は2ポイント増で支持率は22%となり、SPDがCDU/CSUと世論調査で同列となったのだ。2017年4月以来のことだ。それだけでは終わらない。調査機関フォルサが24日発表した調査結果によると、SPDが15年ぶりにCDU/CSUを抜いてトップに躍り出たのだ。

 ちなみに、INSA世論調査では野党「緑の党」は1ポイント減で17%。自由民主党(FDP)13%、極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)12%で両党は1ポイント増だ。その他、「左翼党」7%だ。

 ここでは世論調査の正確度、調査方法を比較するつもりはない。ドイツの政党支持率が安定さを失い、上がったり下がったりしているという現実があるのだ。もちろん、党への支持率のアップダウンにはそれなりの理由はある。

 最近では、CDUの首相候補者アルミン・ラシェット党首(ノルトライン=ヴェストファーレン州首相)は7月17日、シュタインマイヤー大統領と大洪水の被害に遭った被災地を訪ねたが、大統領が話している時、その後ろで現地視察の付き添い関係者と話しながら面白可笑しく笑っている姿がカメラに撮られたことから、他政党から「不謹慎だ」と糾弾され、謝罪に追い込まれるという事態となった。悪気があったわけではなかったが、会話の際に笑顔がこぼれたわけだ。大洪水で家屋を失い、家人も失った犠牲者たちの前で笑顔を見せたのは政治家でなくてもアウトだ。ドイツ16州のうち人口で最大州の首相を務めるベテラン政治家としては大失策だといわざるを得ない。その直後の世論調査でCDUは支持率を落とした。

 今年に入り、独メディアは次期連邦議会選では「緑の党」が第1党になって、アンアレーナ・ベアボック共同党首が次期首相候補となると予想していた。しかし、同党首が公表してきた自身の学歴で問題があったとしてメディアで大きく叩かれ、支持率を急速に落とした。ベアボック党首は今年5月段階で43%が「首相の資格がある」と評価されていたが、6月に入り28%に急落している。

 CDU党首、「緑の党」党首は選挙戦の中で自身の失点から有権者の支持を失っていったが、SPDのオーラフ・ショルツ財務相は大きな得点こそないものの、先の両党首のような失点はなく、次期首相候補者の中では支持率は48%とトップ、ここにきてSPDがCDU/CSUと支持率で並び、追い抜く勢いを見せてきたのだ。

 社民党は昨年8月10日、連邦議会選挙の党筆頭首相候補者にショルツ財務相を選出した。多くのドイツ国民は16年余り続いてきたメルケル政治に倦怠感を覚える一方、党内で路線争いを繰返すSPDに愛想を尽かしてきた。社会の多様化と次々と飛び出す地球レベルの諸問題(新型コロナ感染対策、地球温暖化対策、移民問題など)に対し、ビジョンを持って果敢に立ち向かう新しい世代の台頭が願われている中、SPDは政権奪回の夢をベテラン政治家、ショルツ財務相に託したのだ。シュルツ氏は華やかさには欠けるが、安定している。コロナ禍で苦悩してきたドイツ国民は失った安定を探し求めてきたのかもしれない。ショルツ氏は知名度と実務体験で有権者に知られている。

 ショルツ氏が党次期首相候補者に選ばれた時のSPDの支持率はCDU/CSU、「緑の党」の後塵を拝し、15%だった。それがINSA世論調査では22%と1年間で7%の支持率をアップさせたことになる。

 SPDは過去、CDUより深刻だった。SPDは2017年3月19日、ベルリンで臨時党大会を開き、前欧州議会議長のシュルツ氏を全党員の支持(有効投票数605票)でガブリエル党首の後任に選出し、メルケル首相の4選阻止を目標に再出発したが、その後の3つの州議会選挙(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)でことごとく敗北を喫し、本番の2017年9月24日の連邦議会選ではSPD歴史上、最悪の得票率(20・5%)に終わった。

 シュルツ党首に代わり、SPD初の女性党首としてアンドレア・ナーレス氏が昨年4月、就任したが、ナーレスSPDも前任者と同じように選挙の度に支持率を失った。SPDは2018年10月14日のバイエル州議会選では第5党となり、AfDの後塵を拝した。同年5月26日の欧州議会選ではSPDは15・8%と前回(2014年)比で11・5%減と大幅に得票率を失った。その結果、ナーレス党首は2019年6月2日、責任を取って党首と連邦議会(下院)の会派代表のポスト辞任を表明した。

 そして19年11月末に実施されたSPDの党員選挙の結果、党内左派のサスキア・エスケン連邦議員とノルベルト・ワルターボルヤンス・ノルトライン=ヴェストファーレン州元財務相の2人組が共同党首に選出された。過去4年間で党首が3回変わったのだ。そのSPDが今日、CDU/CSU、「緑の党」を破り、第1党に躍り出る可能性が出てきたのだ。少なくとも独の世論調査によればだ。ただし、来週の世論調査でSPDの支持率が急落した、としても驚かない。

 16年間の政権を運営してきたメルケル首相は引退する。次期連邦議会選はポスト・メルケル時代の幕開けだ。新型コロナウイルスの感染対策、環境問題、移民問題などが控えている。ドイツ有権者はどの政党にポスト・メルケル時代の舵取りを委ねるかで、依然、揺れ動いている。

都市封鎖のホーチミンからの報告

 知人が先月、日本からベトナムに向かった。ホーチミン市の現地会社に着任するためだ。奥さんはベトナム女性。その奥さんの故郷の国で仕事をし、基盤を作るためにホーチミンに向かったが、ベトナムでは新型コロナウイルスの感染が再び拡大し出したため、入国も予定より延期、やっと到着すると2週間、即ホテルで隔離されたという。フェイスブック欄で掲載された数枚の現地写真を、本人の許可があったのでコラム欄で転載する。

Vietnam 1


Vietnam 2


Vietnam 3
a▲軍が出動し、市民の移動を監視、市内には市民の姿がほとんど見られない(写真はホーチミン駐在の邦人から提供)

 知人はフェイスブックの中で、「8月23日午前0時〜9月6日(時間不明)まで、ホーチミン市における社会隔離措置の一部がさらに強化され、外出等に対して、より一層厳しい制限が課される事となった。軍も本格的に投入され、これまでにない物々しい雰囲気である。当初の予定では、入国後の隔離(ホテル+自宅)は8月25日で終了、翌日26日から出社予定であったが、難しくなった。出社は早くて9月6日か7日までずれ込む事が確定。引き続き自宅隔離状態となる」という。

 ロイター通信は、「ベトナム政府は23日、新型コロナウイルス流行の震源地となっている最大都市ホーチミン市で厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施するため、軍隊を派遣した」と報じていた。知人はそれを追認していた。

 それに先立ち、ホーチミン市Covid-19対策指導委員会は8月20日、感染防止の隔離措置を公表している。在ホーチミン日本国総領事館が通達した内容を以下に紹介する。ちょっと長いがホーチミン市のコロナ対策の深刻さ、徹底さが理解できる。

 「8月6日付政府議決第86/NQ−CP号に従った市Covid-19対策指導委員会の8月15日付計画第2715/KH−BCD号に基づき、9月15日までに市内の感染状況を抑え込むという目標の実現のため、市は首相指示第16/CT−TTg号の精神に則り、社会隔離措置の一部措置の実施を8月23日0時から9月6日まで強化する」

 1 社会隔離の徹底的実施について

(1)各家庭、各町内、各坊、各村等の地域単位での厳格な隔離を実施する。各地区単位で特別対策チームを設立する(特にオレンジ/レッドゾーン)。その任務は、社会隔離措置の実施状況確認、住民への呼びかけ、広報等(その他省略)。住民向けの市場への買い出し、社会安生の実現。

(2)交通参加が可能な対象の点検及び縮小
 ア、引き続き市民の移動を管理する(時間帯、対象等)。公的機関の職員の携行する証明書等の確認をガイダンスする(省略)。(公安局が実施に向け調整する)
 イ、公的機関職員を在宅勤務とする方式を適用する。感染防止対策に参加、又は、緊急の業務の解決を行う場合に限り、「3つの現場(勤務、飲食、宿泊)」若しくは交代勤務制を適用する。(内務局が実施に向け調整する)
 ウ、各家庭への商品の配達業務において配達員(シッパー)の活動の管理を行う。(商工局が実施に向け調整する)
 エ、トゥードゥック市及び各区郡人民委員長は、(グリーンゾーンの)住民が週に1回市場に いけるよう調整を行う。

2 社会安生への適切な配慮

(1)2回目の支援物資の給付以降も困窮する対象に対し、十分な補充支援を行い、世帯主への支援措置を実施する(電気水道料金の免除、減額等)。(労働傷病兵社会問題局が実施に向け 調整する)

(2)200万セットの支援物資を準備し、困窮者を取り残さないという原則を保証する。栄養のある食事を困窮するFO患者に提供する。(商品の受領 支援センターが実施に向け調整する)

3 感染症の抑制 制圧、死亡者の最小化のための措置の強化について

(1)検査業務  8月15日付市人民委員会の計画第2716/KH−UBND号に従った市内における検査業務の実施に関し、保健局はトゥードゥック市及び各区郡人民委員会と連携し以下の内容を強化する。
 ア、レッドゾーンの全ての住民に対し、クイックテストをプール方式で実施する。
 イ、以下の一部対象に対する検査(7日に1回)を追加する。スーパーマーケットの店員、物資輸送のドライバー、薬局店員、都市環境会社ゴミ収集業者等公益業務に携わる社員、検問所で勤務する者、感染防止業務に携わる者、ガソリンスタンドで勤務する者。

(2)ワクチン接種
 ア、ワクチン接種を加速する(以下省略)
 イ、ワクチン接種に対する社会世論を方向付けるべく広報 宣伝する(以下省略)

(3)FO患者の自宅隔離
 ア、400の移動診療所を設立する(以下省略)
 イ、10万袋の薬品キットを自宅療養中のFOのために準備する

 4 商品の供給
 商工局は、市の既存の配給システムに基づき、商工省の特別チームと連携し、十分な商品の提供を保証するよう調整し、特に市にとって必需品となる物資を確保する。

 5 企業の活動
 引き続き企業を監督 検査し、8月15日付市Covid-19対策指導委員会計画第2715/KH−BCD号の要求を担保できる場合のみ(企業は)活動を許可される。(商工局に委任する)。


 知人は、「 今回の危機を乗り越えるために、ベトナムがいかに国を挙げて懸命に取り組んでいるか、少しは伝わると思う」と述べている。

 ウイーンに住んで3回のロックダウンを経験した立場から見て、上記の措置は詳細できめ細かい。ホーチミンはベトナム南部の最大の経済拠点だ。人口は2019年の段階で900万人。オーストリアの総人口に当たる。その大都市のロックダウンを問題が生じないように慎重に実施することは大変なことだ。

 ハノイ発ロイター通信23日によると、ベトナムの累計感染者は34万8000人、死者は少なくとも8277人。ホーチミン市とその周辺の工業地帯では、4月下旬以降、デルタ株の流行で感染が急増している。保健省によると、ホーチミンの累計感染者は17万6000人、死者は6670人で、感染者は国内全体の50%、死者は80%を占めている。同国でワクチン接種を完了した人は、人口の1・8%に留まっている。

 ベトナム政府は7月初旬にホーチミンに移動制限を導入したが、感染拡大に歯止めがかからず、制限措置の施行が不十分との見解を示していた。政府は今月20日、同23日からロックダウンを厳格化すると発表し、食料の購入も含めて外出を禁止、軍が市民を支援すると説明していた。

 政府は20日、国家備蓄から13万トンのコメを放出し、兵士たちが23日、ホーチミン市民にコメ、肉、魚、野菜など食料を届けているという。政府は、医療体制の逼迫を緩和するため、ここ数週間で医師・看護師1万4600人をホーチミンと近隣の州に追加派遣。軽度か無症状の患者は自宅隔離を求められている。

 以上、知人の情報とロイター通信の報道をまとめた。知人からの3枚の写真を見ると、軍が市内の至る所で監視し、市民の姿がほとんど見られない。

パラリンピックで「ドラマ」が広がる

 第16回パラリンピック東京大会が24日、国立競技場で天皇閣下をお迎え、開会した。世界161の国と地域から4403人のアスリートが参加し、競泳、卓球など22競技539種目で競う。東京夏季五輪大会と同様、競技は無観客で行われる。東京のパラリンピック開催は1964年以来で2度目。夏季パラリンピック大会を2回開催した都市は東京が初めて。東京はそれを誇ることができるだろう。

P8242354 (2)
▲第16回パラリンピック東京大会の開会式(2021年8月24日、オーストリア国営放送の中継から)

P8242390 (2)
▲聖火点火式(2021年8月24日、オーストリア国営放送の中継から)

 当方は夏季五輪大会と同様、オーストリア国営放送の中継で式典を追った。五輪組織委員会の橋本会長の開会あいさつ後、国際パラリンピック委員会のパーソンズ会長は力強いメッセージを投げかけていた。ホスト国日本に感謝して、「ありがとう」と日本語で挨拶、そして選手団に対しては「次は君たちが日頃の成果を力いっぱい発揮する番だ」と呼びかけ、選手たちを激励した。長くもなく、適切なメッセ―ジだった。

 パラリンピックは、1948年7月28日、ロンドンオリンピック開会式と同日に、イギリスのストーク・マンデビル病院で行われた競技大会が初めてという。大会は戦争で負傷した兵士のリハビリテーションが目的だった。バチカンニュースによると、バチカンは1905年から1908年にかけ、障害者のスポーツ選手が参加した大会を開催している。バチカンがパラリンピックを最初に開催したという。

 さて、新型コロナウイルス感染が世界的に広がっている時、パラリンピックを開催することで様々な意見も聞かれたが、開幕した以上、感染が拡散しないように最善の対応が願われる。関係者の一層の努力を期待したい。

 開会式を中継していた放送記者が「世界人口の15%は身体障害者だ」、「障害者を支える『We The 15』という運動がある」という。生まれた時から身体傷害者である人から事故や戦争で体の一部を失った人もいる。さまざまな理由で不十な体となった人が世界人口の15%もいるとは知らなかった。そのハンディを克服しながらスポーツに取り組むわけだ。それだけでも大変だ。

 ところで、当方が住むオーストリアからは24選手が今回参加する。メダルの獲得が期待されている選手もいて、国民の関心も高い。24選手のうち10人は過去の大会でメダルを獲得済みだ。11人は今回の東京大会がデビューとなる。

 オーストリアは先の東京夏季五輪大会で7個のメダル(金1、銀1、銅5)を獲得したが、同国パラリンピック委員会(OPC)はマリア・ラウフ・カラト会長は、「メダル獲得のチャンスはある。コロナ感染で厳しい状況だったが、選手たちは十分訓練を重ねてきた」と期待している。前回リオ大会(2016年)では9個のメダル(金1、銀4、銅4)を獲得した。

 バチカン日刊紙「オッセルヴァトーレ・ロマーノ」記者は、「パラリンピックは今日、障害者に対する全く異なった認識を広げる上で貢献している」と報じ、パラリンピックの目的については、「単に大会を祝うことではなく、深刻な障害を抱えるアスリートが命がけで取り組めば何が達成できるかを示す機会だ。これはスポーツの世界だけではなく、全ての人生にも当てはまる」と強調している。

 フランシスコ教皇は1月2日のイタリアのスポーツ新聞「ガゼッタデロスポーツ」のインタビューで、「パラリンピックに語るべきドラマあるとは誰も思わなかったが、参加したアスリートたちは生き生きとしたドラマを持っていてそれを表現していることに感動した」と語っている。

 第32回東京夏季五輪大会では女子自転車競技ロードレースでアンナ・キーゼンホファー選手がオーストリアに2004年のアテネ大会ぶりの金メダルをもたらした。オーストリア国民は大喜びとなった。同選手はプロの自転車競走選手ではなく、大学で数学を教えている学者であり、他の選手からはノーマークだった。その彼女が総距離137kmのロードレースで他のプロ選手を圧倒し、大差をつけてゴールしたのだ。米CNNも同選手の活躍を大きく報じていた。第16回東京パラリンピック大会でも同じような「ドラマ」が多数誕生することを期待したい。

「3G」から「1G」時代へ

 オーストリアではこれまでレストラン、劇場、ディスコに入るためには「3G」と呼ばれる証明書の一つを提示することが求められてきた。「3G」とは、ワクチン接種証明書(Impfzertifikat)、過去6カ月以内にコロナウイルスに感染し、回復したことを証明する医者からの診断書(Genesenenzertifikat)、そしてコロナ検査での陰性証明書(Testzertifikat)だ。ドイツ語で「Geimpft」 「Genessen」,そして「Getestet」と呼ぶことから、その頭文字の「G」を取って「3G」と呼ばれてきた。

IMG_20210824_090118 (2)
▲「1G」の到来を告げるオーストリア日刊紙「oe24」の記事(2021年8月24日付)

 ところで、ここにきて新規感染者数が連日1000人以上を記録。昨年の夏季休暇明け、同国では感染者数が急増し、第3のロックダウンをもたらしたが、今年の新規感染者の増加は昨年同期より1カ月ほど早いテンポだ。このまま続けば、今秋は新規感染者が急増し、第4ロックダウンは避けられなくなる。そこでワクチン接種を更に加速させなければならないが、ワクチン接種への希望者は停滞してきた。8月中旬段階で6月比で85%減少だ。

 ワクチン接種拒否者を接種するように如何に説得するかで政府関係者は頭を痛めている。首都ウィーンでは「ワクチン・バス」を運行して市民が集まる場所でワクチン接種を行っている。また、スーパー内で顧客にワクチン接種を勧めるなど、さまざまなアイデアが実行されてきたが、接種率は停滞したままだ。

 同国保健省の公式発表によると、23日現在、ワクチン接種を1回終わった人は約544万人で国民人口の約60・91%、2回接種を完了した国民は約512万人で国民の57・35%だ。ちなみに、欧州連合(EU)ではマルタが接種率約92%でトップ、ポルトガル78%、デンマーク75%のベスト3だ。オーストリアは接種率がかなり低い。イタリア(68%)は23日、9月15日までに接種率が80%に達しない場合、ワクチン接種を義務化すると警告を発しているほどだ。

 そこでクルツ首相やミュックシュタイン保健相の間では、新規感染者が9月末まで増加が続いた場合、10月から「3G」から「1G」に移行する以外にないという方針を固めてきている。同時に、これまで無料で実施してきたコロナ検査を有料化し、国民をワクチン接種に向かわすというのだ。

 「1G」とは、コロナ検査の陰性証明書と回復証明書ではなく、ワクチン接種証明書だけがレストランや劇場に入る時有効となるという意味だ。レストランで家族と食事する時、劇場やコンサートを鑑賞する時、もはや他の「2G」の証明書では十分ではない。そうなれば、ワクチンの接種を拒否してきた国民は考え直して接種する可能性が出てくるというわけだ。政府は国民にワクチン接種を強要することは出来ない。国民の選択権、自由を無視できないからだ。そこで「1G」を施行し、ワクチン拒否者を接種に導こうという作戦だ。

 オーストリア日刊紙「oe24」によると、国民の約57%が、非接種者は飲食店などに入場できなくなる「1G」導入を支持しているという。ウィーンの大手飲食業界関係者も、「第4ロックダウンより『1G』のほうがいい」という方向に傾いてきている。一方、ナイトクラブやデイスコの経営者は「ゲストの4人に1人しか2回のワクチン接種を完了していない。大多数のゲストはワクチン接種を拒否している。だから、『1G』になれば、ゲストはクラブやディスコに来ることが出来なくなる。経営者としては破産宣告と同じだ」と述べ、「1G」の施行には強く反対している。すなわち、業者によって異なるが、「1G」については国民の間でまだコンセンサスは出来上がっていない状況だ。

 コロナ規制に反対し、マスク着用にも反対してきた野党「自由党」のキックル党首は、「『1G』はワクチン接種の義務化を意味し、国民の自由を制限する」と、早速反対の声を上げている。また、オーストリア商工会議所は、「国民経済の回復が重要だ。『1G』導入は国民の消費を抑えることになる」と懸念している。

 免疫学者たちは、「ワクチン接種で100%、感染が回避されるわけではないが、感染しても重症化するケースは少ない。現時点ではワクチン接種が唯一の対策だ」と指摘し、接種拒否者に、「自身とその周辺の人の為にも接種してほしい」と呼び掛けている。

 メディアの影響も無視できない。ワクチン接種によるネガティブな影響が報じられるため、多くの国民は接種に懐疑的になるというわけだ。オーストリア国営放送(ORF)は保健省と連携して、国民にワクチン接種を呼び掛けるスポットを流している。高齢者層の接種率は高いが、若い世代でワクチン接種に懐疑的な傾向が見られる。

 オーストリアでは5月19日、ロックダウンを解除し、「3G」の国民は晴れてレストランや劇場を享受できるようになったばかりだ。ワクチン接種の効果もあってコロナ規制も段階的に解除されてきた後、デルタ株が急速に感染拡大し、夏季休暇の影響もあって新規感染者が再び増加してきた。そして今、「3G」ではなく、ワクチン接種証明書だけが有効な「1G」時代に突入しようとしている。

独軍兵士「何のために戦ってきたか」

 米軍の撤退直後、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンが15日、首都カブールを占領、全土をほぼ掌握した。アフガン政府軍は応戦することなく敗走。タリバン勢力が侵攻を開始して9日間で首都カブールがタリバンの手に落ちた。20年前のタリバン政権下の蛮行を知っている多くの国民はカブールの空港に殺到、空港周辺は国外脱出を願う人々で大混乱している。

hkent
▲アフガンから避難する人々を支援する独連邦軍(独国防省公式サイトから)

 アフガンの急変に対し、20年間の駐留後、米軍撤退を決定したバイデン米政権は、「撤退時期が間違いだった」という批判を国内外から受けている。米情報機関は、「米軍撤退後も少なくとも3カ月はカブール政権は持ち続けるだろう」と予想していたが、その期待はあっさり破られた。

 一方、米軍と共に北大西洋条約機構(NATO)加盟国ドイツは連邦軍をアフガンに派遣してきた。ドイツは過去20年間で総数16万人の兵士をアフガンに投入してきた。その間、少なくとも59人が犠牲となり、多くの兵士は悪夢に悩まされてきた。その独連邦軍の元兵士は今、アフガン政権の崩壊、タリバンの政権奪還に直面し、「自分たちは何のために戦ってきたのか」と考え出している。

 独連邦軍退役軍事協会のダビット・ハルバウアー副会長は独日刊紙「南ドイツ新聞」(8月21日付)の取材に対し、「タリバンの政権奪還はアフガンに駐留してきた独連邦軍元兵士に精神的ダメージを与えている。多くの兵士は長い間、厳しい戦いを繰返し、死の不安にも直面してきた。そのアフガンがタリバンの一撃であっさりと倒れた。家族を犠牲にしてまで何のために戦ってきたのか、と考えだす兵士が出てきても不思議ではない」と説明、元兵士から相談を受ける件数が増えてきたという。

 また、独週刊誌シュピーゲル(8月7日号)は、2011年にアフガン北部クンドゥーズで戦闘部隊司令官だったマーセル・ボーネルト氏の寄稿を掲載している。「独連邦軍のアフガン派遣はわが国にとって戦後初めての大きな任務だった」とし、同氏は、「わが国では外国に派遣された連邦軍の兵士に対して評価が低い」と言った。第2次世界大戦の敗北後、ドイツは軍事活動には消極的な姿勢を崩さなかった。その点、同じ敗戦国の日本の事情に似ているかもしれない。軍事問題には距離を置き、もっぱら国民経済の発展に腐心してきたわけだ。

 駐ベトナム、駐イラクの米軍兵士が帰国後、社会に再統合できず、さまざまな困難に直面する「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)が大きな米国社会の問題となったが、駐アフガン独連邦軍元兵士の間でも同じような現象が見られ出している。

 スイスのアフガン問題専門家、民族学者のピエール・ソンリーヴル氏はスイス公共放送協会のウェブサイト「スイスインフォ」のインタビュー(8月19日)の中で、「米国とNATOの目的は明確ではなかった。テロとの戦いだったのか、ビンラディン容疑者を捕らえることだったのか、あるいは憲法を制定して民主的な国家を建設することだったのか。アフガン介入はこれらの異なる性質のものをごちゃ混ぜにしたものだった」と指摘している。

 ソンリーヴル氏は、「ガニ政権内にも抗争があり、不和と腐敗が蔓延していた。一方、政府軍の中では同じイスラム教の信仰を有するタリバンと戦闘することに消極的な兵士が多かった」という。

 アフガンにはタリバン以外にもイスラム過激派がいる。彼らはチャンスがあればタリバンと衝突するかもしれない。タリバン内も決して一枚岩ではない。そのような現状で、今後、タリバン政権がシャリア(イスラム法)に基づく国家建設に向かうかどうかは不明だ。イスラム過激派の国内流入を恐れるタジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンらの周辺国、スンニ派のタリバンに対してシーア派のイランの出方、そして中国の野望といったさまざまな要因が絡むアフガンの状況はここ暫くは流動的だろう。

 米同時多発テロ事件20年目(9月11日)を迎える前に米軍撤収を完了したいと計画していたバイデン大統領は22日、米軍撤収などの期限延期などを含む対策の検討に入っていることを明らかにしている。

 国の指導者の意向でコマのように右に左に動かされる兵士は、不透明な戦略と目標の中で、「なぜ戦わなければならないのか」という基本的な問い(大義)に答えを見いだせずに苦しむ。それは米軍兵士、独連邦軍兵士、そしてアフガン政府軍兵士にとっても同じなのかもしれない。

ユダヤ民族と「イザヤ書53章」の話

 ヘブライ聖書といえば、通称旧約聖書のことだが、その聖書には「禁止された聖句」があることは余り知られていない。「イザヤ書53章」だ。イザヤは紀元前8世紀の預言者の1人だ。ユダヤ教ラビはイザヤが語ったといわれる53章の聖句を信者には敢えて語らないし、省略されるケースがほとんどだ。なぜ、ユダヤ教は「イザヤ書53章」を追放したのか。これが今回のテーマだ。

Israel-Western_Wall
▲ヘロデ王時代の神殿の壁「嘆きの壁」(ウィキペディアより)

 考えていく前に「禁止された聖句」「イザヤ書53章」に何が書かれているのかを見る。ユダヤ人は久しく民族の救い主メシアの降臨を待ってきた。その来るべき救い主の運命について記述されているのだ。問題は、救い主が民から迫害され、捨てられ、最後は「われわれの罪を背負って殺される」と書いてあるのだ。ちょっと長いが「イザヤ章53章」を紹介する。

 「だれがわれわれの聞いたことを信じ得たか。主の腕は、だれにあらわれたか。彼は主の前に若木のように、かわいた土から出る根のように育った。彼にはわれわれの見るべき姿がなく、威厳もなく、われわれの慕うべき美しさもない。彼は侮られて人に捨てられ、悲しみの人で、病を知っていた。また顔をおおって忌みきらわれる者のように、彼は侮られた。われわれも彼を尊ばなかった。まことに彼はわれわれの病を負い、われわれの悲しみをになった。しかるに、われわれは思った、彼は打たれ、神にたたかれ、苦しめられたのだと。しかし彼はわれわれのとがのために傷つけられ、われわれの不義のために砕かれたのだ。彼はみずから懲らしめをうけて、われわれに平安を与え、その打たれた傷によって、われわれはいやされたのだ。われわれはみな羊のように迷って、おのおの自分の道に向かって行った。主はわれわれすべての者の不義を、彼の上におかれた。彼はしいたげられ、苦しめられたけれども、口を開かなかった。ほふり場にひかれて行く小羊のように、また毛を切る者の前に黙っている羊のように、口を開かなかった。彼は暴虐なさばきによって取り去られた。その代の人のうち、だれが思ったであろうか、彼はわが民のとがのために打たれて、生けるものの地から断たれたのだと。彼は暴虐を行わず、その口には偽りがなかったけれども、その墓は悪しき者と共に設けられ、その塚は悪をなす者と共にあった。しかも彼を砕くことは主のみ旨であり、主は彼を悩まされた。彼が自分を、とがの供え物となすとき、その子孫を見ることができ、その命をながくすることができる。かつ主のみ旨が彼の手によって栄える。彼は自分の魂の苦しみにより光を見て満足する。義なるわがしもべはその知識によって、多くの人を義とし、また彼らの不義を負う。それゆえ、わたしは彼に大いなる者と共に物を分かち取らせる。彼は強い者と共に獲物を分かち取る。これは彼が死にいたるまで、自分の魂をそそぎだし、とがある者と共に数えられたからである。しかも彼は多くの人の罪を負い、とがある者のためにとりなしをした」

 「イザヤ章53章」を読めば、イザヤは来るべき救い主の運命について預言していることが薄々理解できるだろう。敬虔なキリスト信者ならば、直ぐにイエスの降臨と十字架への処刑が預言された箇所と考えるだろう。一方、ユダヤ教徒は「この人物は我々の罪を背負って亡くなったのか」とため息をつくが、それが「イエスだった」と答える信者は多くいない。なぜならば、ユダヤ教徒は「イザヤ書53章」について全く教えられていないからだ。

 イスラエルの「Tree of Life ministries」というキリスト教団体の青年がエルサレム市民に「イザヤ書53章」の内容を知っているかと質問すると、1人のラビ以外、知らなかった。誰を思い浮かべるかとの問いに「イエスのこと」と答えたのは1人の市民だけだった。当然かもしれない。先述したように、学校やシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)で「イザヤ書53章」については何も教えていないからだ。イザヤ書53章は「禁止された聖句」だからだ。

 「彼はみずから懲らしめをうけて、われわれに平安を与え、その打たれた傷によって、われわれはいやされたのだ」という聖句は文字通り、「イエスがユダヤ人の罪を背負って十字架にかかり、それを信じる者が救われる」というキリスト教の中核の教えに通じる内容だが、ユダヤ教ではイエスの十字架の救済も復活の話も余り教えられない。なぜなら、イエスを虐げ、嘲笑し、鞭打って十字架に追いやったのは、イエスが生きていた時代のユダヤ人だったからだ。

 そのユダヤ民族が、「われわれが虐げ、迫害した者の死によって救いの道が開かれた」という内容を後孫に教えることはできない。だから、イエスの降臨とその後の運命について言及した「イザヤ章53章」は久しく「禁止された聖句」と受け取られてきたわけだ。

 ユダヤ人たちはイエスが自分たちが待ってきたキリストであり、神が降臨させた救い主だったとは信じていない。イエスがメシアだったならば、ユダヤ人がメシアを殺害したりしないだろう。「イエスはキリストだった」という教えはキリスト教会にとっては信仰の中心だが、ユダヤ教にとっては異教の教えと受け取ってきたからだ。

 興味深い点は、「イザヤ書9章」には来るべき救い主の運命について、「イザヤ書53章」とは全く異なった内容の預言が記述されていることだ。

 「ひとりのみどりごがわれわれのために生れた、ひとりの男の子がわれわれに与えられた。まつりごとはその肩にあり、その名は、『霊妙なる議士、大能の神、とこしえの父、平和の君』ととなえられる」。

 すなわち、イザヤは53章では「迫害され、虐げられる」というイエス像を記述する一方、9章では「栄光の王として降臨する」と述べている。

この難問を解くカギは、メシアを迎えるべきユダヤ人がキリストが降臨した場合、彼を受け入れるか、それとも迫害し、殺害するかで決定するからだ。預言者イザヤはそのため2通りの預言を語らざるを得なかったわけだ。実際は、「イザヤ書53章」の預言が成就され、「イザヤ書9章」の内容は再臨時まで待たなければならなくなったわけだ(イザヤ書は複数の書き手がいた、という説がある)。

 それ以降、ユダヤ教には「イザヤ書53章」が削除されたのだ。ユダヤ教徒はイエスがユダヤ人が待っていた民族の救い主だったとは考えないが、同時に、ひょっとしたらイエスは救い主であったのかもしれない、という苦い思いと後悔が払しょくできずに苦慮していたのかもしれない。

 ローマ・カトリック教会の総本山バチカンはユダヤ教との対話を通じ、ユダヤ教徒にメシア殺害の咎を押し付けないことで合意している。ただ、キリスト教根本主義グループは依然、ユダヤ民族を「メシア殺人」として酷評してきた。

 参考までに、ペルシャのクロス王はBC583年、捕囚されていたユダヤ人を解放し、エルサレムに帰還することを助けている。クロス王の助けを受けて、ユダヤ教はその後、発展していった。「神が選んだ人物」という意味から、ペルシャ王クロスは神が準備したメシアだったと受け取るユダヤ人もいるという(「ユダヤ教を発展させたペルシャ王」2017年11月18日参考)。

 ユダヤ民族は神が選んだ民族ゆえに、その責任は大きかった。ユダヤ民族はディアスポラ(離散)として人類の罪を背負って多くの迫害を受けてきた。イエス以後のユダヤ人の苦難はメシア殺害の罪を償うためだったというより、人類の救済を一歩でも前進させるために払わざるを得なかった犠牲と受け取るべきだろう。

 いずれにしても、「彼はわが民のとがのために打たれて、生けるものの地から断たれたのだ」という預言の聖句は救い主を待ち望むユダヤ民族の嘆きとも重なって一層心を痛める箇所だ。

WHO調査団長エンバレク氏の証言

 世界保健機関(WHO)の武漢ウイルス調査団の団長を務めたデンマーク人の食品安全問題専門家ぺーター・ベン・エンバレク氏(Peter・Ben・ Embarek)は今月12日、デンマーク公共テレビ局TV2の「ウイルスの謎」というドキュメンタリー番組の中で、WHOが2月9日の記者会見で発表した調査報告が中国側からの圧力もあって強要された内容となった経緯を明らかにした。

db7e3948-8a88-480d-a637-a9fa27d17566 (1)
▲最初のコロナ患者を扱った武漢の病院を視察したWHO調査団一行(デンマーク公共テレビ局TV2の中継から)

 デンマーク公共テレビ局TV2はエンバレク氏が武漢で撮影したビデオと、同氏との長時間にわたるインタビューをもとに今回のドキュメンタリーを編集した。
https://nyheder.tv2.dk/udland/2021-08-12-dansker-var-chef-for-WHOs-mission-til-wuhan-maaske-er-nogen-slet-ikke-interesseret

 エンべレク氏は、「WHO調査団の使命は難題だった。ひょっとしたらCovid-19の発生源を掴めないかもしれないといった懸念があったからだ。しかし、人類がCovid-21、Covid-23、Covid-25に直面しないためにも発生源を明らかにしなければならないと考えていた」という。

 同氏によるとWHOは調査団派遣前に多くの問題に直面した。派遣問題が政治問題化されたからだという。「発生源の解明に関心を持つ人(国)とそれにはまったく関心がないばかりか、誤導しようとする人(国)で混乱していたからだ」と証言している。

 中国側は調査団の査証(ビザ)発行を一時、拒否した。中国指導部内に発生源を隠蔽したい勢力がいることを物語っていた。WHO調査団を迎え入れる中国科学者チームは17人構成だ。彼らは中国政府からの特別許可なくしてWHO関係者と接触することは禁止されていた。WHO調査団は武漢に到着後、14日間、ホテルで隔離された。そこではコロナ検査を受ける一方、オンラインで中国科学者と会合を重ねた。

 2週間の隔離後、WHO調査団は新型コロナに最初に感染したといわれる人物と会合した。中国側の発表では2019年12月8日、コロナウイルスの感染症状が出たことになっている。明確な点は、この人物は武漢海鮮市場を訪れていないことだ。エンバレク氏は「新型コロナ感染は2019年には我々が考えていたより拡がっていたことを感じた」という。

 武漢の血液バンクには20万本の血液サンプルが保管されていたが、血液テストは実施されていなかった。中国側の説明では、個人情報を遵守しなければならない法に基づいてテストは行われなかったという。ちなみに、武漢では2019年10月、第7回世界軍人運動会(武漢軍運動会)が開催された際、9000回のドーピング検査が実施されたが、コロナ検査に関する調査は行われなかったという。

 WHO調査団は2月9日の記者会見で、武漢ウイルス研究所(WIV)からのウイルス流出説については「その可能性はかなり低く、新たな調査は必要はない」とほぼ否定する一方、ウイルスがヒトからヒトに感染した、ウイルスが他の動物の宿主を通じてヒトに感染した、ないしは冷凍食品からの感染について今後調査が必要だと述べた。エンバレク氏は、「中国共産党は武漢海鮮市場からヒトへの感染説を主張し、WIV漏洩説はその可能性は皆無だという立場を強調した。WIV漏洩説を報告書に記載するか否かで長い議論があった」と説明。最終的には、中国側は「漏洩説」に言及することを受け入れる一方、今後の調査は必要ないという言質を取った。

 WHOも中国側もコロナウイルスはコウモリから感染したという点で一致していたが、そのウイルスを有するホースシューバット(コウモリの種類)は武漢から1500km離れた山岳にいる。そのコウモリのウイルスがどうして武漢に広がったのかは不明だ、

 海鮮市場は約5万平方メートルの広さだ。新型コロナウイルスの発生源と言われていたが、WHO調査団が武漢を訪問した時は市場には人は誰もいなく、中国当局は市場を消毒して全ての痕跡は消滅していた(海鮮市場から感染が始まったという証拠はまったくない)。

 興味深い事実は、WHO報告書が公表された後、WHOテドロス事務局長は7月15日の記者会見で、これまでの中国寄りのスタンスを修正し、WIV漏洩説についても調査が必要だと表明するなど、軌道修正を行い、中国側に2回目の調査を要請している。その背後には、WHOの調査報告書が中国共産党政権の圧力に屈したもので、WHOの信頼を失う危険性があるという懸念があったからだと推測される。

 コロナ発生源調査では、WIVにあるバイオセーフティレベル(BSL)の「病原体レベル2(P2)実験室」についてもっと注視する必要があるだろう。そこは武漢海鮮市場から近い所にある、同市場は中国側が2019年12月に公表した最初のコロナ感染者が出たところだ。「コウモリ女」と呼ばれる石正麗氏はコウモリの遺伝子操作を「BSL‐2」のP2実験室で実施していたことが判明している。すなわち、石正麗氏はBSL−4の実験室(P4)ではなく、BSLの低いP2の実験室でウイルスの機能獲得研究を実施していたのだ。WIVにはBSL−4(P4)実験室の他、2つのBSL−3(P3)、そして多数のBSLー2(P2)実験室がある。

 エンバレク氏によると、WHO調査団はWIVの研究員との突っ込んだ協議もできず、コウモリ研究をしている2カ所の実験室のデータへのアクセスも認められなかったが、WIVのP2施設が2019年12月2日に移転したことをWIVの研究員から聞いたという。移転時期は新型コロナウイルスが発生した直後に当たるため、同施設の移転とコロナ感染勃発とに何らかの関係があるという推測が出てきているという。なぜならば、研究所の移転は決して容易なことではないからだ。中国側が何かを隠蔽するために必要となったと考えられるからだ。

 中国は実験室の研究者の抗体検査を実施、陽性反応者は1人だけだったという。その1人は家庭クラスターで感染したと説明していたが、血液サンプルは取っていない。ひょっとしたら、その1人が新型コロナの最初の感染者であった可能性があるが、その人物が今どこにいるのかなどについては中国側は何も明らかにしていない。

 武漢にはWIVの他、中国疾病対策予防センター(CDC)所属の実験室がある。そこでもコウモリ研究が行われている。WIVレベルの研究ではないが、海鮮市場から数百メートルしか離れていない。そこには2カ所の実験室があるが、2019年12月に移転してきたというのだ。

 デンマークのドキュメンタリーで興味深い点は、エンバレク氏を含むWHO調査団の多くは武漢調査前には「WIV流出悦」に懐疑的だったが、調査後、WIVからの流出問題について真剣に考え出していることだ。中国共産党政権がWHOの第2回調査団派遣を拒否するのは当然かもしれない。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ