ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2021年05月

「武漢ウイルス研究所」流出説強まる

 英語で「パンダハガー」という言葉がある。その意味は「媚中派」だ。親中派というより、中国共産党政権に買われた人々を意味する。「パンダハガー」(Panda Hugger)のパンダは中国が世界の動物園に送っている動物の名前だ。米国をはじめ、世界中にパンダハガーがいるのだ。

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▲科学技術の自己強化を訴える習近平国家主席(2021年5月28日、新華社通信)

 具体的に説明すると、中国共産党政権は海外ハイレベル人材招致プログラム「千人計画」を推進中だ。大学教授や研究者に対し、研究費支援、贅沢三昧の中国への旅、ハニートラップなど「甘い汁」を与える。禁断の実の味を知った大学教授たちはそれを忘れることができなくなるから、最終的には中国共産党の言いなりになってしまう。そして立派なパンダハガーとなっていく。米ハーバード大教授が昨年、その「千人計画」に引っかかっていることが大きく報じられた。

 中国共産党政権が「甘い汁」として提供するものは金銭、高級品、贅沢な接待などだ。中国共産党は人間の弱さがどこにあるかを熟知しているから、物欲、性欲を刺激するものを「甘い汁」としてちらつかせるわけだ。民主党の米下院議員がスパイ工作員だった中国人女性に騙されるなど被害が出ている(「トランプ政権の『パンダハガー』対策」2020年8月1日参考)。

 前口上が長くなったが、スパイ活動で欧米の知的財産を入手してきた中国共産党政権は今、欧米情報機関の反撃を受けて怯えだしている。直接の契機は、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所(WIV)から流出したことを裏付ける機密情報がどうやら米国情報機関の手に渡った可能性が出てきたからだ。バイデン氏は5月26日、国家安全保障担当補佐官を通じて情報機関にコロナウイルスの発生源について詳細な追加調査を報告するように指示を出したばかりだ。

 米紙ウオール・ストリート・ジャーナルは5月23日、情報機関筋として「武漢ウイルス研究所の3人の研究者が昨年11月に体調不良で病院で治療を受けていた」と報じ、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から流出した可能性が高まってきていると報じてたばかりだ。トランプ政権時代、WIV流出説は憶測情報に過ぎないとして一蹴してきた米メディアがここにきて流出説に強い関心を注ぎだしている。中国側が慌てだすのは当然だろう。

 新型コロナウイルスの発生源問題ではジュネーブに本部を置く世界保健機関(WHO)が今年1月末、国際調査団を武漢に派遣したばかりだ。調査結果によると、新型コロナウイルスは“動物から宿主を通じて人間に感染した”説が高まる一方、米国らが主張してきた「武漢ウイルス研究所流出説」の可能性は少なくなってきたという。その報告内容は中国側の主張を裏付ける一方、米国の“流出説”を否定する内容だった。

 そのWHOのテドロス事務局長がここにきて突然、WIV流出説に対しても「無視できない」と受け取り出してきているのだ。中国武漢発の新型コロナが感染拡散した直後、テドロス事務局長は昨年1月28日、中国北京を訪問し、習近平国家主席と会談、中国の新型コロナ感染への対応を評価し、称賛した。親中国寄りの事務局長の姿勢に批判の声が高まったことはまだ記憶に新しい。その親中派と受け取られてきた事務局長の突然の変身に驚いたのはもちろん中国側だ。

 西側情報機関は、「テドロス事務局長は米国ら情報機関から信頼ある情報を入手したのだろう。自身の名誉を守るためにこれまで一蹴してきた武漢ウイルス研究所流出説に対して一定の評価を下したのだろう」と受け取っている。

 変身したのはテドロス事務局長だけではない。米国の感染病の第一人者、米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長も動物から人間に感染した自然説から研究所流出説に傾いてきているのだ。彼はこれまでWIV流出説を憶測にすぎないと公の場でも繰り返し主張してきた。何が起きたのだろうか。考えられるシナリオはただ一つ、研究所から流出したことを裏付けた情報を最近入手したからだ。興味深い事には、英日曜紙サンデー・タイムズによると、「(米情報機関と密接な連携がある)英国情報機関もここにきて流出説を支持してきている」というのだ。

 テドロス事務局長、ファウチ所長、そして英国情報機関と次々と「自然発生説」から「研究所流出説」に鞍替えしようとしているのだ。それだけではない。「COVID-19は人工的に作られた」という趣旨の投稿を削減してきた米フェイスブックは5月26日、「COVID-19は人工的に作られたと主張する投稿を、同プラットフォーム上で許可する」と発表し、方針を転換しているのだ。

 ジュネーブで開催中のWHO総会(5月24日〜6月1日)では「WHOの改革」が大きな議題だが、そこでは「感染症初期における情報の共有の改善」が大きなテーマだ。WHO独立委員会が1月に公表した報告書によると、「情報共有の円滑化こそ急務」という結論が出ている。中国がCOVID-19関連情報の共有を拒否していることへの批判だ。

 感染症の場合、発生源の検証と共に、重要な問題は感染初期時期の検証だ。中国当局は昨年1月20日、ヒトからヒトへの感染を認め、同23日に武漢市でロックダウン(都市封鎖)を実施し、初の感染確認は2019年12月8日と主張してきたが、欧米側の情報によると、2019年秋に新型コロナが既に発生していたという報告が多数ある。

 イタリア高等衛生研究所によると、同国北部の2都市に新型コロナウイルスが2019年12月に存在していたことが、同研究所が行った下水調査で判明した。ミラノやトリノの下水から2019年12月18日に採取されたサンプルに新型コロナウイルス「Sars-Cov-2」の遺伝子の痕跡が発見されたからだ。イタリア北部ロンバルディア州で新型コロナが爆発的に感染する数カ月前に“同国で新型コロナが広がっていた”ことになる。中国側が感染症の初期感染に関連する情報を隠蔽してきたことになる。そうなれば中国共産党政権がパンデミック(世界的大流行)の第一責任者となり、世界から批判を受けざるを得なくなるわけだ。

 バイデン氏は情報機関からの報告書を受け取り、WIV流出説に傾いてきているが、それではなぜ入手した情報を全て明らかにしないのか、という疑問が出てくる。例えば、COVID-19に感染した可能性のある3人の研究員の「その後の状況」に関しては何も明らかにされていない。その答えの一つは、情報源の保護があるだろう。全てを公表すれば誰がその情報を米国側に渡したかが分かる危険性が出てくるからだ。そしてそれ以上に、「米国が情報を握った」というサインを北京側に伝えることで、中国側の反応を見守る狙いがあるのではないか。すなわち、中国との今後の外交交渉に利用するために、入手した全ての情報を現時点では明らかにしない方針だろう。

 パンダハガー、「千人計画」で欧米から情報を入手してきた中国共産党政権は今、欧米情報機関に国家機密というべきCOVID-19の発生源に関する情報を握られてしまった可能性が考えられるのだ。それが事実とすれば、習近平・中国共産党政権は最大の危機に直面していることになる。

再考「正常化とは、自由とは何か」

 オーストリアで来月10日を期して中国発新型コロナウイルスの感染前の状況に限りなく近づくことになる。クルツ首相ら政治家はそれを「正常に戻る」と表現する。どのような状況が正常かという問題にはあまり深く追及しない。なぜならば、人それぞれ、正常の意味が違うからだ。はっきりとしていることはコロナ感染予防の規制措置を限りなく撤廃していくことだからだ。

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▲オーストリアでは19日から多くの営業活動は「正常」(New Normal)オーストリア商業事業者団体公式サイトから

 クルツ首相は28日の記者会見で「6月10日」を期してこれまで実施してきたコロナ規制を撤廃、ないしは緩和すると発表した。オーストリアで今月19日、新型コロナウイルス感染防止のロックダウン(都市封鎖)が解除されたばかりだ。レストラン、喫茶店、映画館、フィットネスセンター、博物館、劇場、ホテル業など、ほぼ全分野が営業を再開した。その緩和テンポをさらに加速するわけだ。例えば、ソーシャルディスタンスは2mから1mに短縮する。営業時間は午後22時までから24時まで。レストランではこれまで1テーブルで4人のゲストに制限されていたが、それを8人までに拡大。劇場やイベントも室内は1500人、野外3000人にまで認められる。

 もちろん、レストランや劇場に入るためには通称「3G」の証明書を提示する義務がある。「3G」とは、ワクチン接種証明書((Impfzertifikat))、過去6カ月以内にコロナウイルスに感染し、回復したことを証明する医者からの診断書(Genesenenzertifikat)、そしてコロナ検査での陰性証明書(Testzertifikat)のいずれかをレストランや喫茶店に入る前に提示しなければならない。3種類の証明書を所持している国民はgeimpft(接種した)、genesen(回復した)、getestet(検査した)国民ということから、頭文字の「G」をとって「3G」と呼ぶ。一種の通行証明書だ。

 問題はマスクの着用だ。クルツ政権でもウイルス学者らとの間で最後まで議論があった。廃止論と継続論だ。最終的には地下鉄などの公共場所やスーパーではマスク(FFP2)を引き続き着用するが、野外などではマスク着用は廃止していく。

 クルツ首相は、「FFP2の着用義務化はウイルスの感染防止に大きく貢献した」と述べ、マスクの効用を評価している一人だ。家庭医出身のミュックシュタイン保健相は、「マスクの着用は重要だ」という姿勢を崩していない。クルツ政権で経済界を支持基盤とする国民党はコロナ規制の緩和を、ジュニア政党の「緑の党」は国民の健康維持の立場をそれぞれ強調し、コロナ規制の緩和問題で両党が対立してきたことは周知のことだ。

 コロナ禍が1年半以上と長期化したこともあって、国民の間でコロナ疲れが見られてきたが、ワクチン接種が進み、「今年の夏は家族と一緒に旅行できる」といった希望を感じる国民が増えてきた。飲食業、ホテル、博物館などが再開してきたことを受け、国民の経済活動も次第に活発化し、雇用市場でも一時期約50万人の失業者、時短労働者の数も減少傾向が見られだした。

 クルツ首相は、「コロナ規制のために結婚式を出来なかった若い世代も6月10日以降はゲストを招いて結婚式が挙行できるようになる」と発表し、若いカップルにエールを送っていた。ちなみに、オーストリアで昨年、3万9662組が結婚式を挙げた、前年度比で14%減だ。参考までに、昨年1万4870組が離婚している。前年度比でこれまた8・9%少ない。離婚理由は48%が男性側に責任があった。女性側の責任は29・7%という。

 コロナ禍の下で夫婦が顔を見合わせる機会が増え、いがみ合い、意見の対立が表面化したり、経済的な理由も持ち上がってきたことが考えられる。婚姻、離婚とも前年度比で減少したのは、コロナ禍で婚姻届け、離婚届などの手続きが停滞し、関係者が迅速に対応できなかったことが主因だろう。「今秋に入れば、離婚件数が急増する可能性が予測できる」という声も聞かれる。

 オーストリアでは過去1週間の新規感染者数は人口10万人当たり50人を割った。コロナ・アンプルもレッド(感染危険が高い)地帯はなくなり、入院患者数も減少、集中治療患者も減少し、医療関係者をホッとさせている。同時に、ワクチン接種も一回分の接種者数は400万人を超え、2回接種者数は130万人を超えるなど、順調に増加してきた。12歳から15歳までのワクチン接種も計画されている。

 同国では昨年、夏季休暇前、新規感染者数が急減し、それを受けてコロナ規制が緩和されたが、秋に入り新規感染者が急増し、第2ロックダウンを余儀なくされた苦い経験がある。クルツ首相も、「コロナウイルスは消滅していない」と警告し、国民一人一人に感染防止のために自制を呼びかけている。

 新規感染者が突然、急増し、集中治療患者が増えない限り、オーストリア国民はこの夏、休暇を家族や友人たちと共に楽しむことができるだろう。ところで、「正常化とは何を意味するのか」、「再び獲得する自由をどのように享受すべきか」といった少々哲学的な思いにとらわれる国民も少なくない。外で1杯のコーヒ―を飲むことが正常化であり、自由を意味するのか。家族と一緒にレストランに行き、博物館を訪ねることが正常化なのか。そのために1年半以上も我々は耐えてきたとすれば、少々苦い思いが湧いてくる。多分、1杯のコーヒーを楽しむことは日常生活の正常化を意味するが、それだけならば少々空しくなるだろう。

 近代の精神分析学の道を開いたジークムント・フロイト(1856〜1939年)は愛娘ソフィーをスペイン風邪で亡くした時、その苦悩を後日、「運命の意味のない野蛮な行為」と評した。それでは私たちにコロナ禍は何をもたらし、何を強いてきたのか。ドイツの社会学者エーリッヒ・フロム流に表現すれば、「(コロナ禍)…からの自由」だけではなく、「…への自由」についても真剣に考えていきたいものだ。

バチカンは未成年者に危険な場所か

 世界のローマ・カトリック教会では聖職者による未成年者への性的虐待問題が多発し、教会への信頼は大揺れ、多数の信者たちが教会から脱会している。カトリック教会の総本山、バチカン内でも予備神学校の寮内で未成年者への性的問題が発生し、バチカン司法裁判所は昨年10月14日、2人の聖職者の性犯罪容疑について公判を始めたばかりだ。

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▲バチカンの敷地内にある「聖ピウス10世予備神学校」(2021年5月25日、バチカンニュースから)

 ところでバチカンニュースは25日、「聖ピウス10世予備神学校」(Das Knabenseminar San Pio X)の寄宿舎を「バチカンの敷地外に移転する」と報じた。それもフランシスコ教皇自らのプッシュがあったという。なぜフランシスコ教皇は裁判の進展を待たず、焦るように予備神学校の移転を決めたのだろうか。

 バチカンニュースによると、「聖ピウス10世予備神学校」をバチカンの敷地から離れた場所に移転する理由として、「学生たちが授業の場所に近く、自由時間を有効に利用できるために」という。同セミナーの移転話は久しくあったという。

 フランシスコ教皇は同神学校がこれまで若い男子の教育に貢献したことに感謝する一方、予備神学校の学生たちがサン・ピエトロ大聖堂の奉仕人の役割を今後も果たしていってほしいと述べている。

 「聖ピウス10世予備神学校」は1956年にバチカン内で11歳から14歳の男子を対象に創設され、サン・ピエトロ大聖堂の奉仕人の任務を担い、将来神父の道に行く若者たちが集まっている。同神学校は、バチカン内で未成年者の男子が寄宿舎で学ぶ唯一の教育機関の施設だ。

 バチカンニュースは報じなかったが、同施設の移転がここにきて急遽決定した背景には、同施設で未成年者への性的虐待問題が浮上したからだ。ガブリエーレ・マルティネッリ被告は神父になる前、「聖ピウス10世予備神学校」のバチカン寮で下級生に性的行為を働いたという疑いがもたれている。また、2002年から14年まで同施設の校長だったエンリコ・ラディチェ被告は性的虐待問題の調査を妨害した疑いが出てきている。犠牲者への聴取は今年3月に行われた。なお、バチカン側は13年に「聖ピウス10世予備神学校」で性的犯罪があったという情報を受け取っていたが、証明するものは当時、見つからなかったという。

 事件自体は古いが、多くの証人がここにきて聴取され、質問を受けている。マルティネッリ被告(28)は2017年、神父としてコモ教区に勤務している。彼は容疑をこれまで否定している。事件調査のためコモ教区のオスカー・カントニ司教は裁判に呼ばれ、質問を受けている。同司教は2016年10月以来、同教区の司教だ。前任者ディゴ・コレティ氏は容疑が起きた時の教区司教だった。同司教は認知障害のため難しいという医者の診断書を提出し、裁判を欠席している。

 カントニ司教はマルティネッリ神父が2006年9月から12年6月の間、性的な行いをしていたと裁判で追認している。ただし、被告は犯行当時、まだ聖職者ではなかった。神父になる前の心理的審査ではいかなる問題もなかったという。

 事件は教会内や教会関連施設ではなく、バチカン内にある未成年者を対象とした神学校寄宿舎内で起きたことを重視し、フランシスコ教皇は裁判の進展を待つことなく、予備神学校の寮を「バチカンの敷地外」に移転するように強く要請したのではないか。

 独南部レーゲンスブルクの「レーゲンスブルク大聖堂少年聖歌隊」(Domspatzen)内で起きた性的暴行・虐待事件を思い出す。世界最古の少年合唱団として有名な同聖歌隊内で1945年以来、547人の少年聖歌隊員が暴力、性的虐待の犠牲となった。具体的には、500人は暴力、67人は性的虐待の犠牲者だった。49人の容疑者が起訴された。

 公表された報告書によると、犠牲者の1人は「合唱隊は刑務所であり、地獄のような場所だった」と証言した。性犯罪が多発した時期は1960年代から70年代。1992年まで暴行事件が起きている(「独教会の『少年聖歌隊』内の性的虐待」2016年10月16日参考)。

 性犯罪件数、容疑者、犠牲者の数はレーゲンスブルク大聖堂少年聖歌隊のケースが圧倒的に多いが、「聖ピウス10世予備神学校」内での性的問題はローマ教皇が居住するバチカンの敷地内で起きた事件だ。寮の移転は、バチカン内の未成年者を性犯罪から守るというより、バチカン内の聖職者を性犯罪の誘惑から守る狙いがあるのではないか、という勘ぐった意見すら聞かれる。

 バチカン内と言っても聖職者の性犯罪という点で世界の教会と大きくは変わらない。フランシスコ教皇は2013年6月6日、南米・カリブ海諸国修道院団体(CLAR)関係者との会談の中で、「バチカンには聖なる者もいるが、腐敗した人間もいる。同性愛ロビイストたちだ」と述べている(「バチカンに同性愛ロビイスト存在」2013年6月14日参考)。

 バチカン法王庁の中核、“カトリック教理の番人”と呼ばれる教理省(前身・異端裁判所)に従事していたポーランド出身のハラムサ元神父は2015年10月3日、自分は同性愛者だと告白し、「最初の石」(独語訳)というタイトルの本を出版。同神父は「ペドフィリア(小児性愛)や未成年者への虐待事件は教会のメンタリティから組織的に発生してくる現象だ。そして教会側はそれを部外に漏らさないように隠してきた。一種のマフィアのオメルタの掟(沈黙の掟)が支配している」と説明している(「同性愛者の元バチカン高官の『暴露』」2017年5月11日参考)。

 フランシスコ教皇が予備神学校をバチカンの敷地外に移転するように要請したというニュースは、教皇自身が「バチカンは未成年者にとって安全な場所ではない」と考えているからではないか。

バイデン「人権外交」の最初の試練

 バイデン米大統領は25日、ロシアの天然ガスをバルト海底経由でドイツに運ぶ「ノルド・ストリーム2」の海底パイプライン建設で米国が関連事業会社への制裁を見送った理由として、‘鰻設は今年1月の段階でほぼ完了していること、▲肇薀鵐彖粟権時代に悪化した欧州諸国との関係正常化を重視するため、の2点を挙げて弁明した。

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▲人権外交で揺れるバイデン大統領(2021年1月20日、 ホワイトハウス公式サイトから)

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▲「ノルド・ストリーム2」のルート図(ガスプロム公式サイトから)

 もっともらしい説明だが、バイデン大統領が忘れていることがある。欧州議会が今年1月21日、ロシアの反体制派活動家ナワリヌイ氏の拘束に抗議して、「ノルド・ストリーム2」の建設即時中止などを加盟国に要請した決議案を賛成多数で採択していることだ。すなわち、欧州議会は反体制派活動家の拘束を重大な人権蹂躙として加盟国が賛成多数でロシアを批判し、「ノルド・ストリーム2」の建設中止を要求したという事だ(「国際社会はナワリヌイ氏に連帯を!」2021年1月25日参考)。

 同プロジェクトはロシアの天然ガス独占企業「ガスプロム」とドイツやフランスなどの欧州企業との間で2005年、締結され、第1パイプラインは2011年11月8日に完成し、操業を開始した。2本目のパイプライン建設「ノルド・ストリーム2」は計画では2019年に完工する予定だったが、トランプ前政権は、「ドイツはロシアのエネルギーへの依存を高める結果となる。ひいては欧州の安全問題にも深刻な影響が出てくる」と強く反対してきた。

 米国は昨年12月、「ノルド・ストリーム2」の建設に西側企業が参加することを禁じる制裁を発動した。そして超党派の米上院議員グループは「ノルド・ストリーム2」に絡む現行制裁措置の拡大法案を提出した。

 ポンペオ前米国務長官は当時、「ノルド・ストリーム2」について、「欧州の安全を守るために米国はあらゆる措置を講じる」と強調した。2017年の新制裁法「制裁による米国敵性国家対抗法」(CAATSA)の拡大適用だ。具体的には、「パイプライン建設から手をひけ、さもなければ痛い目に合うぞ」といったカウボーイ的な警告を発したほどだ。米国の制裁警告を受け、スイスのオールシーズはパイプ敷設作業を停止している。

 欧州でもバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やポーランドは「ノルド・ストリーム2」の建設中止を強く要求してきた。ナワリヌイ氏拘束問題で欧州は結束してロシアの人権蹂躙を厳しく批判した。ただ、欧州の盟主ドイツのメルケル首相はロシアの人権弾圧を批判する一方、「ノルド・ストリーム2」と人権問題は全く別問題として、同パイプライン建設の推進を支持してきた。

 「ノルド・ストリーム2」計画によれば、全長約1200キロメートルで、最大流動550億立法メートル、パイプラインはロシアのレニングラード州のヴィボルグを起点とし、終点はドイツのグライフスヴァルト。パイプラインが完成すれば、ドイツは全電力の3割をカバーできる。

 ドイツは脱原発を目指しているため、天然ガスの供給は不可欠だ。「ノルド・ストリーム2」計画が完了すれば、ドイツはロシアから安価なガスをこれまでの2倍確保できる。だから、バイデン氏の「制裁しない」という発言はドイツ側を喜ばしているわけだ。

 バイデン氏は対中政策では少数民族ウイグル人への人権弾圧を厳しく批判する「人権外交」を推進している一方、ロシアの人権問題に対しては沈黙し、制裁を見送れば、「人権問題で対中と対ロシアでダブルスタンダードだ」という批判を受けることになる。中国側が強く反発するだろう。

 バイデン氏はその批判を敢えて甘受しても、米メディアとのインタビューの中で「殺人者」と酷評したロシアのプーチン大統領と来月16日、ジュネーブで開催する米ロ首脳会談を配慮し、プーチン氏に融和のシグナルを送りたいのだろうか。それとも、高齢で認知症傾向があるといわれるバイデン氏は欧州議会がロシアの人権蹂躙を理由に対ロシア決議案を採決したという事実を忘れていたのだろうか。欧州はナワリヌイ氏拘束問題を忘れていないのだ。

「ノルド・ストリーム2」はバイデン氏が言うようにほぼ完了している。だから、いまさら前政権の制裁を継承してロシアとドイツら欧州諸国に制裁をしても余り効果がない、それよりドイツとの関係修復の機会に利用したほうが得策といった外交的判断が働いたのだろう。また、ロシアとは軍縮問題からイランの核問題まで多くの難問を協議しなければならない。ロシアとの関係正常化はバイデン氏も重要課題として取り扱わなければならない。そのように考えると、バイデン氏の「ノルド・ストリーム2」プロジェクトへの制裁の回避は多分、正しいだろう。

 しかし、バイデン氏の外交判断は同盟国に一抹の不安を与えることにもなる。バイデン氏の「人権外交」への懸念だ。対中で人権外交を前面に出して北京に圧力を行使するバイデン政権がある日突然、「制裁に効果がない。対中関係の正常化のほうが重要だ」と対中政策で軌道修正する可能性が考えられるからだ。同盟国にも動揺が起きるだろう。状況次第でバイデン氏はその政策を変更、修正するのではないか、といった懸念が強まれば、欧米諸国の結束にひびが入る。

 「外交の世界ではどの国も最終的には国益重視に走る。バイデン米国も例外ではない」といわれれば、その通りだが、バイデン米政権が「米国ファースト」から「世界の指導国家」として世界の諸問題に積極的に関与していく姿勢を見せているだけに、バイデン氏の「人権外交」の揺れは、米国と同盟諸国の関係に致命的なダメージを与え、国際社会の米国への信頼感を損なうことにもなる。

韓国が直面する「もう一つの試練」

 韓国の文在寅大統領の任期が1年を切った。同大統領が願っている米朝、南北首脳会談の再現の可能性は限りなくゼロに近い一方、国内の政治・経済状況は限りなく厳しい。米韓首脳会談では北朝鮮の核問題への両国間の連携を確認したが、文大統領の本来の願いは米朝首脳会談の調整役を演じることで、任期満了、退任前にもう一度花を咲かせることだが、現時点ではそれも難しくなった。バイデン大統領はトランプ前大統領とは明らかに政治スタイルが異なる。バイデン氏は外交と対話を通じてじっくりと取り組む姿勢を見せている。

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▲バイデン米大統領との共同記者会見に臨む文在寅大統領(2021年5月22日、韓国大統領府公式サイトから)

 一方、バイデン大統領は文大統領から対中包囲網の一員であるという言質を取れば、米韓首脳会談の成功と考えていたはずだ。首脳会談後公表された共同声明の中に「台湾海峡の安定」や「クアッド(日米豪印4カ国の枠組み)の重要性」などが盛り込まれていることから、バイデン氏にとって及第点を付けることが出来る首脳会談となったはずだ。

 文政権は就任当初から「反日」路線を突っ走り、その結果、日韓関係は戦後最悪の状況に陥った。対中政策では揺れが大きい。文大統領は今回、台湾海峡の安定を明記した米韓首脳共同声明文を承認したことで、韓国が対中包囲網の一員であることを米国側にアピールしたが、文政権の路線変更というより、その場しのぎ、といった印象が強い。中国側は韓国が対中包囲網に入ることを黙認しないだろうから、これから様々な外交、経済ルートを通じて韓国に圧力をかけてくることは間違いない。その時、韓国側が対中政策で日米の一員として留まることが出来るだろうか。文政権にとって大きな試練だ。

 ところで、文政権は今、もう一つの試練に直面している。韓国ソウルで21日、中国の情報工作機関「孔子学院」を暴露したドキュメンタリー映画『In the Name of Confucius (仮邦題:偽りの儒教)』の初上映会が開催されたのだ。映画では「孔子学院」の実態が暴露されている。中国側が映画上演を歓迎することはないだろう。

 「孔子学院」は、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関だ。2004年に設立された「孔子学院」は中国政府教育部(文部科学省)の下部組織・国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)が管轄し、海外の大学や教育機関と提携して、中国語や中国文化の普及、中国との友好関係醸成を目的としているといわれているが、実際は中国共産党政権の情報機関の役割を果たしてきた。「孔子学院」は昨年6月の時点で世界154カ国と地域に支部を持ち、トータル5448の「孔子学院」(大学やカレッジ向け)と1193の「孔子課堂」(初中高等教育向け)を有している。

 驚いたことは、海外中国メディア「大紀元」によると、「孔子学院は2004年、ソウル市に世界で初めて設立された。これ以降、韓国の大学や教育機関など28カ所で運営されており、その数はアジアの中で最も多い」というのだ。

 「大紀元」の説明によると、映画はカナダの「孔子学院の元教師で法輪功学習者のソニア・ジャオ(Sonia Zhao)氏の体験をもとに制作されたドキュメンタリーだ。孔子学院には教師に対して特定の信条を禁止する中国共産党の規定がある。これは、カナダが保障する思想の自由への侵害にあたるとして、ソニア氏は2011年、人権裁判所に異議申し立てを行った。その結果、孔子学院による問題がカナダ社会全体の懸案として浮上。13年7月、マックマスター大学は世界で初めて孔子学院との契約破棄を決定した。映画は、カナダ・トロント教育委員会の聴聞会などを通じて、孔子学院の閉鎖にいたった過程を描いている」という。

 映画の狙いは明らかだ。「孔子学院」の実態を暴露し、韓国国民に中国共産党の情報工作に対して警戒心を強め、大学に設置された孔子学院を閉鎖に追い込むことだ。欧米では既に多数の「孔子学院が」が閉鎖されている。それに続けというわけだ。

 もちろん、中国共産党政権は韓国の「孔子学院」閉鎖への動きを静観しないだろう。その時、文大統領の対応が注目されるわけだ。習近平国家主席は2014年7月、韓国を公式訪問し、韓国を「親戚の家」と表現している。反日外交を推進する朴槿恵大統領(当時)を支援する目的で、初代韓国統監だった伊藤博文を暗殺した独立運動家の安重根の記念館を2014年1月、中国のハルビン駅に開館させている。中国は韓国を米国の対中包囲網突破の先兵に利用してきた(「中韓の『記念碑』と『記念館』の違い」2014年1月22日参考)。

 その韓国が米国主導の対中包囲網に参加するようになれば、中国はあらゆる手段を駆使して圧力を行使することは目に見えている。必要ならば、土足で親戚の家(韓国)に入ってくるかもしれない。「孔子学院」問題は、文政権にとって「台湾問題」、「クアッドの連携問題」とは違った、もう一つのハードル(試練)となるかもしれない。

北「青年同盟」の改称理由が分かった

 北朝鮮中央放送は先月30日、「金正恩国務委員長(朝鮮労働党総書記)は4月29日、朝鮮労働党外郭の青年団体『金日成・金正日主義青年同盟』の第10回大会に書簡(「革命の新しい勝利を目指す歴史的進軍で社会主義愛国青年同盟の威力を遺憾なく発揮せよ」)を送り、青年同盟の名称を『社会主義愛国青年同盟』に改称する重大な決定が採択された」と報じた。そのニュースを韓国の聯合ニュースで読んだ時、もう一つ合点がいかなかった。如何なる組織でも、その呼称から金日成主席、金正日総書記の名前を外すという事は少なくとも北では考えられないからだ。

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▲北朝鮮「社会主義愛国青年同盟」第10回大会風景(朝鮮新報2021年5月7日から)

 聯合ニュースによると、北朝鮮は2016年の第9回大会で「金日成社会主義青年同盟」から社会主義をなくし、「金日成・金正日主義」に改称したばかりだが、5年ぶりに「社会主義」を復活させる代わりに、北朝鮮の建国の父・金日成主席ばかりか、金正恩氏の父親・金正日の名前を削除したわけだ。3代の世襲国家の北朝鮮が初代、2代目の名称を削除して「社会主義」という名目を導入しなければならない理由が金正恩氏にあったのだろうか。

 「青年同盟」は党員以外の14歳から30歳までの青年が加入しなければならない政権の土台ともいうべき団体だ。スポーツ団体や文化組織の呼称ではない。約500万人のメンバーをかかえる団体の名前だ。その団体の名前から金日成、金正日の名称を消したのだ。何かあったと考えざるを得ないのだ。

 その謎が解けた。米政府系放送局「自由アジア放送(RFA)」は5月17日、平壌の高層ビル・マンション街で金正恩体制を批判するビラが大量に散布されたと報じたのだ。そのビラには「3代長期独裁政権にわれわれ人民は騙され、アジアの最貧国に落ちている。われわれ人民が総決起して金正恩独裁者を倒すべきだ」と書かれていたというのだ。そして、大量の体制批判ビラ散布は金日成大学理工学部の学生が中心だったというから、反金正恩ビラを配った学生は「青年同盟」のメンバーであったはずだ。

 ここまでくると、金正恩氏が「青年同盟」の名称を改名した理由が浮かび上がってくる。反金正恩ビラ事件は「青年同盟」の改名前に起きた出来事ではなかったか(ビラ事件が「青年同盟」の改名後としても事情は大きくは変わらない)。金正恩氏は先の書簡の中で「青年期の世代が栄達と享楽のみを追求している今の世界で、苦労と試練を楽として、祖国の呼び掛けに忠実で、社会と集団に誠実であり、未来のために献身する革命的な青年はわれわれの青年しかいません」と称賛しているが、彼らの多くが金正恩体制の崩壊を願っているのだ。

 反体制ビラは北朝鮮でも過去、数回報告されているが、今回のビラは「青年同盟」のメンバーが配り、内容は過激な体制転覆を呼び掛けるものだ。金正恩氏はショックを受けたに違いない。金正恩氏はその直後、「金日成・金正日主義青年同盟」から「社会主義愛国青年同盟」と急遽変えることを決めたのでないか。この解釈が正しければ、金正恩氏は政敵、反体制派を片っ端から粛正した政権就任直後のような勢い(モメンタム)を失っている。簡単に言えば、自信をなくしてきているのではないか、という推理が出来るのだ。

 元韓国国防省の高永抻瓩論こζ報で「脅かされる金正恩体制」(5月24日付)というタイトルの記事を寄稿している。同氏は「金日成親子孫の別荘は全国に24カ所も散在しており、特閣と呼ばれる別荘は超豪華施設であると知られている。一般人民は1990年代半ばの『苦難の行軍』時に150万人以上が餓死したのに、指導者は贅沢三昧の生活をしている。鋭い感受性を持つ青年学生たちには、到底受け入れられない常識外れなのである」と述べている。

 「指導者は贅沢三昧の生活をしている」ことは北朝鮮国民ならば皆知っている。他言すれば粛正されるから口に出さないだけだ。青年たちは海外の情報にもアクセスがあるから、「わが国は最貧国だ」という事実を知っている。彼らに核兵器の小型化や米本土にまで届くミサイル開発を誇示したとしても、もはや感動はしない。核兵器やミサイルでは空腹を満たすことができないからだ。

 金正恩氏はビラの内容を読み、そのビラを配った人間を見つけ出すように指令を飛ばしたはずだ。その一方、「青年同盟」の名称から祖父と父親の名前を外すことで、改革の意思を背年たちにアピールしたのではないか。金正恩氏は書簡の中で、「青年同盟の名称を改めたからといって、全同盟の金日成 ・金正日主義化を総体的目標、総体的闘争課題としているわれわれの青年組織の本態が変わるのではありません。社会主義と愛国は、金日成同志と金正日同志の不滅の革命思想と業績を象徴しています」と弁明する一方、「今の青年世代は国が試練を経ていた苦難の時期に生まれ育ったため、朝鮮式社会主義の真の優越性に対する実際の体験やイメージに欠けており、はなはだしくは一部間違った認識まで持っています」と苦言を呈している。この後半の箇所は金正恩氏の本音だろう。

 「青年同盟」の名称変更は、金正恩氏自身が、ゞ温伽治スタイルに限界がきたこと、国内経済の破綻、食糧不足が深刻化していること、等を理解していることを示唆している。それは同時に、金正恩氏にはまだ政権の立て直しのチャンスが僅かばかりだが残されていることを意味する。

 注:金正恩氏の書簡の内容は、在日本朝鮮人総聨合会機関紙「朝鮮新報」から引用しました。

中国上海の「アジアの聖母」への祈り

 23日は「聖霊降臨祭」(ペンテコステ、独Pfingsten)だった。そして24日は「聖霊降臨祭マンデー」(pfingstmontag)で祝日だ。キリスト教の最大の祝日の一つ、「復活祭」(イースター)は今年は4月4日だった。その翌日4月5日は「イースター・マンデー」と呼ばれ、オーストリアなど欧州のカトリック教国では祝日で休みだ。同じように、「聖霊降臨祭マンデー」もオーストリアやドイツでは休みだ。日本では24日は月曜日で新しい一週間の始まりだが、オーストリアは休日で静かな朝を迎えている。当方は、近くの教会の鐘を聞きながら、このコラムを書き出している。

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▲中国上海の「余山の聖母像」(バチカンニュース2021年5月23日から)

 国連で取材活動に専心していた時、国連カレンダーと通常のカレンダーで祝日が異なっているケースがある。国連カレンダーではイスラム教の祭日も休日に入っているから当然かもしれない。オーストリア社会が平日で、国連カレンダーで祝日の日など、当方はのんびりと市内を散策し、チボなどのコーヒー店で1杯のメランジェを飲むのが好きだった。働いている人々を見て優越感に浸るためではない。普段は落ち着いて市内を歩くこともないので、店がオープンしている日で国連カレンダーの休日の日などは絶好のチャンスだから、直ぐに外に散策に出かける。ロックダウン(都市封鎖)が19日、7カ月ぶりに解除されたとはいえ、不必要な外出は控えるようにしている。

 さて、「聖霊降臨祭」だが、新約聖書「使徒行伝」2章を読むと、「イエスキリストの十字架の死後、イエスは復活して40日間弟子たちに現れて神の国のことを語られた。弟子たちに、エルサレムから離れないように、そして彼らが聖霊によって、バプテスマを授けられるだろうと諭し、彼らの見ている前で天に上げられた。五旬節の日に120人の信徒たちが集まって祈っていると、神から聖霊が降りて、一同は聖霊に満たされ、いろいろな他国の言葉で語りだした」という。そしていままで信仰の乏しかった弟子たちも生き生きして、殉教をも恐れない強い弟子としてイエスの教えを世界に述べ伝えていくわけだ。「クリスマス」、「復活祭」、そして「聖霊降臨祭」はキリスト教の3大祝日といわれている。

 キリスト教信者ではない人にとって「聖霊」といっても理解しにくいだろう。悪魔の存在と同様、聖霊の働きも現実的なものだ。イエスは「聖霊の働きがなければ真理が理解できない」といっている。無数の知識や情報が錯乱する現代社会に生きている者にとって、聖霊は何が真理かを示してくれる羅針盤のような働きをする。聖霊の働きは、具体的には愛、喜び、平和などとなって表れる。

 「聖霊降臨祭マンデー」の日、バチカンニュースを読んでいると、ローマ教皇フランシスコは厳しい環境圏にある中国のキリスト信者のために祈り捧げるようにアピールしている。バチカンと中国は依然、外交関係を樹立していない。両国は司教の任命問題で妥協したが、中国国内の信者たちの信仰の自由は厳しく管理、制限されている。フランシスコン教皇は前任者ベネディクト16世と同様、中国上海市松江区の余山(シェシャン)の聖母マリアへ祈りを捧げている。余山の聖母マリアは「アジアの聖母」と呼ばれ、中国カトリック教会の有名な聖母巡礼地だ。

 ちなみに、ベネディクト16世は2008年5月16日、「余山の聖母への祈り」の中で、「余山の聖母よ、 イエスについて語るのを決して恐れることのないよう、中国にあって毎日の苦労の中でも信じ、希望し、愛し続けているすべての人々の努力を支えてください。 余山の聖母巡礼聖堂にあるあなたのご像は、愛を込めて大きく両手を広げ、御子を世界に示すべく天に高く掲げています。教会の礎聖ペトロの岩にしっかりと一致し、常にこの愛の信じうる証人となれるよう、中国のカトリック信者たちを助けてください。中国の聖母、アジアの聖母よ、いつも私たちのためにお祈りください」と祈っている。

 習近平国家主席はベネディクト16世やフランシスコ教皇の「余山の聖母への祈り」を聞いたならば、怒り出すかもしれない。「宗教の中国化」に邁進する同主席は、「内政干渉もいいところだ」と撥ねつけるだろう。

 ところで、世界の共産党政権は70年台を超えて発展できない。ソ連共産党しかり、そして中国共産党政権も同様だろう。マルクス・レーニン主義を掲げたソビエト連邦共産党政権は1922年12月30日から1991年12月26日まで、69年で幕を閉じた。中国共産党政権は1949年10月1日に発足、今年で72年目だ。中国共産党政権は現在、米中冷戦下に直面している。

 世界の共産主義は、政権発足から70年を突破し、それ以上長期存続できず終焉を迎えるという「歴史の法則」があるとすれば、中国共産党政権は習近平主席が最後の国家主席となって幕を閉じる日が案外近いかもしれない。それ故に、と言ってはおかしいが、習近平・中国共産党政権の強権政治が強まってきている。

イラン問題は核合意だけではない

 ロシアのモスクワに拠点を置くニュース専門局「ロシア・トゥデイ」(RT)が22日、興味深いニュースを報じていた。イランの最新軍事情報についてだ。米国とイスラエルの軍事的脅威に対抗するために、イラン革命防衛隊(IRGC)は21日、迅速な移動や配備・定着能力を持つレーダーシステム「ゴッツ」(Quds)、敵側の戦闘機、巡航ミサイル、無人航空機に対し近距離で迎撃できる地対空ミサイルシステム「9th DEY」、そして無人機などを初公開した。

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▲大型無人機「ガザ」(IRIB通信社から)

 「ガザ」と命名された大型無人機は監視用、戦闘用、偵察任務用と多様な目的に適し、連続飛行時間35時間、飛行距離2000km、13個の爆弾と500kg相当の偵察通信機材を運搬できるという。イスラエルはイラン側の軍事力の強化に脅威を感じると共に、パレスチナのガザ地区のイスラム過激派組織「ハマス」がイラン側の軍事支援を受けてその攻撃能力を強めることを警戒している。

 イラン問題と言えば、核問題を即考えるが、イランのミサイル開発、そして通常武器体制の急速な近代化、高性能化が中東地域の安定を脅かす懸念材料となっている。6月の大統領選を前に、イラン革命防衛隊が今回最新の武器システムを公表したのには様々な思惑があるはずだ。

 トランプ米大統領(当時)は2018年5月、国連安保常任理事国(米英仏ロ中)にドイツを加えた6カ国とイランの間で13年間の外交交渉の末に締結した包括的共同行動計画(JCPOA)から離脱を表明した。トランプ氏は「核合意は不十分であり、イランの大量破壊兵器製造をストップできない」と説明した。具体的には、ヽ乏発計画、▲潺汽ぅ覲発など軍事力強化、世界各地でテロ勢力を支援していることなどだ。

 ハマスが今回イスラエル側に数千発のミサイルを発射したが、ミサイル開発ではイラン側の支援があったことは間違いない。イランはシリア内戦では守勢だったアサド政権をロシアと共に支え、反体制派勢力やイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)を駆逐し、奪われた領土の奪還に成功。イエメンではイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」を支援し、親サウジ政権の打倒を図る一方、モザイク国家と呼ばれ、キリスト教マロン派、スンニ派、シーア派3宗派が共存してきたレバノンでは、イランの軍事支援を受けたシーア派武装組織ヒズボラが躍進してきた。イラクではシーア派主導政府に大きな影響力を行使してきたことは周知の事実だ。

 米情報機関は年次報告書の中で、「イランは中東地域で米国の国益を阻む最大の競争国だ」と記述している。ちなみに、米軍の無人機(ドローン)が昨年1月3日、イラクのバクダッドでイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を殺害したことを受け、イランは米国に報復攻撃を宣言。同年1月8日、駐イラクの米軍関連施設を弾道ミサイル攻撃している。

 2015年7月のイラン核合意では、イランは濃縮ウラン活動を25年間制限し、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置く、遠心分離機数は1万9000基から約6000基に減少させ、ウラン濃縮度は3・67%までとし(核兵器用には90%のウラン濃縮が必要)、濃縮済みウラン量を15年間で1万kgから300kgに減少などが明記されていた。

 しかし、米国の核合意離脱後、イランは、「欧州連合(EU)の欧州3国がイランの利益を守るならば核合意を維持するが、それが難しい場合、わが国は核開発計画を再開する」と主張。イラン核合意を堅持したい英仏独は米国のイラン制裁で被る損害を可能な限り補填する「特別目的事業体」(SPV)を設立し、イランに投資する西側企業を支援する政策を実行してきたが、米国企業との取引を懸念する西側企業はイラン市場から撤退。

 それを受けて、イラン側は核合意の内容を一つ一つ無効にし、最新の遠心分離機の導入(「IR一2m」)などを実施。濃縮ウラン貯蔵量の上限を超え、ウラン濃縮度も4・5%を超えるなど、核合意に違反。昨年11月には、フォルドウの地下施設でも濃縮ウラン活動を開始し、同年12月23日、アラク重水炉の再稼働体制に入った。

 そして今年1月1日、同国中部のフォルドゥのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げるとIAEA側に通達した。2月6日、中部イスファハンの核施設で金属ウランの製造を開始している。欧米の核専門家は、「濃縮度20%を達成できれば、核兵器用のウラン濃縮度90%はもはや時間の問題となる」と指摘、イラン側が核兵器製造を視野に入れたものと警戒している。そしてイランは2月23日を期してIAEAの抜き打ち査察を停止したが、「最長3カ月間、必要な査察、監視は受け入れる」と表明して、IAEAとの完全な決裂を回避してきた。その3カ月間の期限は今月23日で終わった。

イラン国会のモハンマド=バーゲル・ガーリーバーフ議長は23日、「IAEAは今後、核関連施設で撮影された如何なる写真へのアクセスも認められない」と強調。それに対し、IAEAのグロッシ事務局長は同日、査察期間の延長についてイラン側と話し合うという。

 イランの狙いは圧力を最大限に高めて米国の対イラン制裁の全面的解除を獲得することだ。特に、原油禁輸の解除と金融機関への制裁解除は大きなテーマだ。一方、バイデン政権はイラン核合意に復帰するためには、イラン側がJCPOAへの完全履行復帰が前提、という立場を崩していない。

 バイデン氏はトランプ前大統領のイラン核合意からの離脱を「失敗」と断言し、イラン核合意への復帰を公約してきたが、核合意への早期復帰を焦るあまり、イラン側に大幅な譲歩をすれば、問題を先送りにするだけだ。一方、米国が対イラン経済制裁を解除しない場合、イランの保守派勢力は核開発へと邁進するだろう。イランでは6月に大統領選が実施されるが、強硬派候補者が台頭する可能性も出てくる。イランの核問題はバイデン新政権にとって最初の重大な外交交渉となるだけに、バイデン大統領がどのような主導力を発揮するか注目される。

「アーメン」から「アージュ」時代に

 「アーメン」という言葉を最近よく耳にするようになった。キリスト教会内での話ではない。通常の生活の場やテレビ番組などでだ。欧州社会は基本的にはキリスト教社会だが、久しく世俗化の洗礼を受け、教会はがら空きだ。新型コロナウイルスの感染予防のため制限された結果ではない。教会離れが加速してきているのだ。

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▲ゲッセマネの園で祈るイエス(ポール・ゴーギャン作、ウィキぺディアから)

 にもかかわらず、といっては可笑しいが、「アーメン」という言葉が聞こえてくるのだ。当方が歳をとったからではない。変な表現になるが、社会に「アーメン」が広がってきているのだ。

 「アーメン」はヘブライ語で「しかり、その通りです」という意味だ。神父や牧師、そして信者たちが祈りの最後に「アーメン」と言って、祈りを終える。「今祈った内容は心からのものです、しかり」といった意味合いが含まれる。

 当方は米ロックバンド「パニック・アット・ザ・デイスコ」のヒット曲「ハイ・ホープス」を時たま聞く。青年の心の世界が軽快なテンポで歌われる。同バンドの曲には「Say Amen (Saturday night)」「ハレルヤ」といった題名が付いている。リードボーカルのブレンドン・ユーリーはモルモン教の家庭出身だ。今はモルモン教徒ではないというが、歌詞には「神」の話、そして「アーメン」という言葉がよく出てくる。

 第65回ユーロビジョン・ソング・コンテストの決勝が22日、オランダのアホイ・ロッテルダムで開かれたが、準決勝(5月18日と20日開催)では2人の歌手が「アーメン」(Amen)というタイトルの歌を歌った。その1人はオーストリア出身のヴィンセント・ブエノだ。熱唱したが、決勝には進出できなかった。

 欧州社会は今、コロナ禍にある。ワクチン接種が進み、国民も次第にポスト・コロナへの希望を感じ出している。その中、教会以外で「アーメン」という言葉が巷に広がってきたのは、多分、偶然だろう。全ての問題に批判的で、懐疑的になりやすい現代人にとって、「しかり」を意味する「アーメン」は本来、相応しい表現とはいえないはずだ。深読みすると、それゆえに逆に「アーメン」を叫んでみたい気分になるのかもしれない。現代人には「その通りだ」と心の底から叫ぶ機会が乏しいのかもしれない。それが最近の「アーメン」現象の背景ではないか。

 このコラム欄で米保守派論客ベン・シャピ―ロ氏(Ben Shapiro)のYou Tube番組「ベン・シャピ―ロ・ショー」(Ben Shapiro Show)での話題を紹介したばかりだ。ジェンダーフリーを支持する聖職者が祈りの最後に「アーメン」という言葉に「アーウーメン」を付け加えて祈ったという笑い話のような内容だ。「アーメン」がジェンダーフリー時代の洗礼を受けて少々脱線したケースだ。

 興味深い事を聞いた。「アーメン」でなく、「アージュ」と言って祈りを結ぶキリスト信者の群れがいる。韓国で生まれた世界基督教統一神霊協会(通称「統一教会」)の創設者文鮮明師は2006年9月14日、「今後、『アーメン』ではなく、『アージュ』と言って祈りを結ぼう」と指示したという。「アージュ」は漢字で表示すれば「我住」となる。すなわち、「神は、祈っている人の中に住む」という意味だ。神が定着する時代圏の到来というわけだ。

 ところで、「アージュ」の意味する内容はかなり革命的だ。神が一人一人の中に住み着き、定着すれば、教会や組織は必要ではなくなる。それだけではない。宗教自体が閉鎖に追い込まれる。神はその信者の中に住むから、教会に通う必要はないからだ。教会や組織は神と信者間の懸け橋的な役割を失い、せいぜい信者間の情報連絡フォーラムに過ぎなくなる。

 文鮮明師は生前、「将来、教会は要らなくなる、宗教も存在する必要がなくなるだろう」と予言している。当方は、聖職者の性犯罪の多発や不正財政問題などで教会の信頼が地に落ち、信者たちの教会離れが加速する結果、教会は消滅していくと考えてきたが、文師は神が人の中に住むようになれば、教会は自動的に不必要になると受け取っていたことが分かる。

 旧約聖書「ゼカリヤ書」2章10、11節には、「主は言われる。シオンの娘よ、喜び歌え、私が来てあなたの中に住むからである。その日には多くの国民が連なって私の民となる。私はあなたの中に住む」と記述されている。その内容は「我住」(アージュ)だ。

 人類の始祖アダムとエバが天使ルシファーに騙されて神の戒めを破り、「エデンの園」から追放された。人間はまだ神と対話できたが、次第にできなくなり、神との関係は途絶えていった。人間は祈りを通じて神とのコミュニケーションを求めた。同時に、宗教が生れ、神との対話は、教会、ローマ・カトリック教会の場合はローマ教皇庁を通じて行われ、中世に入ると聖書を通じて神の言葉を直接学ぶ新教が生まれてきた。そして今、神は人間の中に住む定着時代圏に入ってきたとすれば、神を探し求める必要はなく、心を静めて自身に住む神の声に耳を傾けるだけでいいわけだ。良き知らせだ。アーメン、そしてアージュ。

ユダヤ人が嫌われる「2つの理由」

 オーストリアの精神分析学の創設者ジークムント・フロイト(1875〜1939年)はスイス出身のカール・グスタフ・ユング(1875〜1961年)が台頭してきた時、「これでユダヤ人以外の精神分析学者が出てきた」と歓迎したという。学者の世界では精神分析学は「ユダヤ人の学問」と久しく呼ばれていたから、ユダヤ人以外で優秀な学者ユングが出て活躍する姿を喜んだというわけだ。

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▲精神分析学の創設者フロイト(ウィキぺディアから)

 ユングは1907年、フロイトと知り合いとなり、親交を深めていったが、その後、理論的な違いなどからフロイトと袂を分かつた。国際精神分析協会が1911年に創設された時、その初代会長はフロイトではなく、ユングだった。その理由はユダヤ人以外から会長を選ぶことが願われていたからだといわれている。

 ところで、フロイトが生涯考え続けてきたテーマは「なぜユダヤ人は嫌われ、常に迫害され続けるのか」という問題だった。彼が最も関心を持っていた聖書の人物はモーセだ。60万人のイスラエル人を奴隷として苦役されていたエジプトから“神の約束の地”カナンに導いていった人物だ。旧約聖書「出エジプト記」の主人公だ。

 フロイト自身は1938年、ナチス・ドイツ軍の迫害を逃れ、英国に移住、その1年後、末期ガンのため亡くなった。彼が自身のライフ・テーマの答えを見つけたのか否かは知らないし、それに関連した著作は聞かない。ユダヤ人のフロイトは死ぬ時まで「なぜユダヤ人は……」と考え続けていたのだろう。

 彼の精神分析学はそのテーマを追求するために始まったのではないか。彼の精神分析学は人間が無意識の世界で考えている内容を引き出すことで精神的な病を癒していく。その一つは「夢判断」だ。夢の世界に含まれる人間の本源の願い、声を引き出すことで、患者の無意識の世界を分析していく。夢はそのための絶好の材料となるわけだ。

 参考までに、当方はこのコラム欄で不思議な夢の解釈を試みた話を書いた。一つの夢ではポップ界の王(King of Pop)マイケル・ジャクソンが登場し、当方はネバーランドにいるという設定で始まる(「ちょっとフロイト流の『夢判断』」2012年10月22日参考)、もう一つの夢は「レオポルト1世が現れた」2013年6月29日参考)だ。当方はマイケル・ジャクソンのファンではない。彼が急死した時(2009年6月25日)、メディア報道を通じてその存在を知った程度だ。レオポルト1世の場合、夢に出てきて初めてその存在を知った。夢の中では誰から説明を受けなくても、彼がマイケルであり、レオポルト1世だと知っているのだ。「夢の世界」には独自のルールと法則が支配しているのを感じる。

 話をフロイトのライフ・テーマに戻す。興味深い指摘を聞いた。ユダヤ人を約束の地カナンに導いたヤハウェ(神)はモーセに絶対的信仰を求め、異教の神への敵愾心を露わにした。すなわち、唯一神教はモーセ時代に生まれたわけだ。同時に、ユダヤ人への迫害が始まった。換言すれば、ユダヤ民族の唯一神信仰が多神教や異教の神を信じる他の多くの民族から迫害される結果をもたらしたというのだ。ユダヤ人が世界の金融界を支配しているからだとか、金銭問題で汚いといった中傷誹謗はフェイクとして大袈裟に後日生まれてきたもので、その発端はユダヤ人の唯一神信仰にあった。それ故に、フロイトはモーセとその時代に強い関心を持ったのだろう。

 ユダヤ人の神は『妬む神』と呼ばれる。バアルなどの異教の神を嫌い、異教徒を絶対に受け入れない。旧約聖書の話はユダヤの神と他民族の神との戦いの記録だ。ソロモン王も結局、異教の神を信じる異国の妻たちの影響もあって異教の神を受け入れていった。その結果、ソロモン王の死後、王国は分断されていったわけだ。

 世界の民族はそれぞれ独自の神、独自の信仰を有している。ユダヤ人はエジプトの奴隷生活から解放してくれたヤハウェ(唯一神)を信じ、他の神を排斥してきたことから、他の神を信じる多くの民族はユダヤ人の神に対し憎しみ、恨みを抱き、歴史を通じてユダヤ人迫害の土壌を広げていったのではないか、という解釈だ。実際、ユダヤ民族は常に少数派であり、ユダヤ人の唯一神を嫌う民族は多数派で世界を覆っているから、ユダヤ人は他民族、他宗派から迫害される運命を避けられなくなったのだ。

 アブラハムを“信仰の祖”とするユダヤ教、キリスト教、イスラム教は唯一神を拝する宗教だ。その「神」はいずれも「妬む神」だ。神学者ヤン・アスマン教授は、「唯一の神への信仰( Monotheismus) には潜在的な暴力性が内包されている。絶対的に唯一の神を信じる者は他の唯一神教を信じる者を容認できない。そこで暴力で打ち負かそうとする」と説明する。そして、「イスラム教に見られる暴力性はその教えの非政治化(政治と宗教の分離)が遅れているからだ。他の唯一神教のユダヤ教やキリスト教は久しく非政治化を実施してきた」と指摘し、イスラム教の暴力性を排除するためには抜本的な非政治化コンセプトの確立が急務と主張している(「『妬む神』を拝する唯一神教の問題点」2014年8月12日参考)。

 アスマン教授は、「唯一神教は『妬む神』を信仰し、他宗派に対し排他的で、攻撃的である」と説いているが、唯一神教の中でユダヤ教だけが久しく迫害される理由については言及していない。ユダヤ教に内包され、キリスト教とイスラム教にはあまり見られない、他宗教、他民族から嫌われる理由は何だろうか。

 キリスト教、イスラム教は積極的にその教義(イエスの福音、ムハンマドのコーランの教え)を広げるために伝道活動するが、ユダヤ教は宣教しない。そして母親がユダヤ人でない場合、生粋のユダヤ人とは見なされない。血統と伝統を重視する民族で、神が選んだ民族という選民意識が強い。アーリア人種の優位性を主張してきたヒトラーが、血統重視主義を貫くユダヤ民族に敵意を向けたのも決して偶然ではなかったわけだ。

 ユダヤ民族が迫害され、ディアスポラ(離散)となった最大の理由がそのユダヤ人の唯一神教への信仰であり、血統重視にあったとすれば、ユダヤ人は「この世の神」(多数の異教の神々)に迎えられるために信仰を捨てることは絶対にないだろう。それ故に、ユダヤ人への迫害は今後とも続くと予想せざるを得ないのだ。
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