ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2021年04月

ハンガリーで中国復旦大学の姉妹校

ハンガリー国家イノベーション庁は27日、中国上海の復旦大学とオンライン会合で協議し、同大学の姉妹校をブタペスト市に開校することで合意したという。ハンガリーのメディアによれば、新校は6000人から8000人の学生を収容し、教授陣は500人。同校は早くて2024年に開校し、人文、社会学、自然科学、技術・医科関連の授業が行われる予定だ。

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▲中国に傾斜するハンガリーのオルバン首相(フィデス公式サイトから、2021年3月26日)

 ただし、中国の大学姉妹校の開校について、ハンガリーのアカデミーや学校関係者からは、「復旦大学は名門エリート大学だが、同時に、中国共産党の管理下にある。学校キャンパスで中国共産党がその無神論的世界観を広げるのではないか」といった不安の声が聞かれる。

 学校では中国の少数民族ウイグル人の再教育収容所の実態や香港の民主化運動など中国の人権状況についてはタブーとなり、人工知能の国民監視プログラムなどについても同様の扱いになると受け取られているからだ。学校の自治権が蹂躙される、といった懸念だ。

 新校の建設費、設備費などは不明だ。ハンガリーのオルバン首相は中国共産党指導部との間で、ハンガリー側が15億ユーロの建設費を支払うことで合意しているという。そのために、中国国家開発銀行から資金を受けるというのだ。

 オルバン政権は4年前、国民議会で採択した高等学校法の改正案に基づきブタペストに拠点があった著名な米国のエリート大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)を閉鎖に追い込んでいる。CEUは、ハンガリーのブタペスト出身のユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、故郷のブタペストに創設した大学だ(CEUは現在ウィーンに移転)。その数年後、今度は中国の復旦大学の姉妹学校を開設させようとしているわけだ(「米投資家ソロス氏対オルバン首相」2017年4月6日参考)。

 ちなみに、国民議会で採決された改正案によれば、外国人が開校した学校はハンガリー国内の学校と共に出身国にも同様の学校を開校していなければならなくなる。その条件を満たさない外国大学は学生を受け入れることはできなくなる。ソロス氏は当時、「オルバン政権の政策は欧州連合(EU)の価値観に反する」と批判している。ソロス氏自身、ハンガリー出身だ。

 ここまで紹介すると、ハンガリーの中国傾斜が尋常ではないことに気が付く。オルバン首相はハンガリー国民議会で過半数を占める与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」を土台に、野党を骨抜きにし、批判的なメディアを撲滅し、司法、言論を支配下に置いてきた。ブリュッセル(EU本部)からの批判をものともせず、難民対策ではハンガリー・ファーストを実行。その一方、習近平中国国家主席が提唱した「一帯一路」には積極的に参加し、ロシアにも急接近、EUの対ロシア制裁の解除を要求するなど、独自の外交路線を走ってきた。

 例えば、ハンガリーは首都ブタペストとセルビアのベオグラード間を結ぶ高速鉄道の建設を進めているが、ここでも中国側の経済支援を受けている。中国側が建設資金の85%を融資し、残りの15%をハンガリー側が出すといった内容だ。

 中国は、習主席が提唱した新マルコポーロ「一帯一路」構想に基づき、アジアやアフリカで積極的にインフラ整備事業を進めているが、中国から巨額の融資を受けたアフリカ諸国が中国側の政治的影響の拡大に困惑する一方、一部では債務返済が難しくなった国が出ている。国際通貨基金(IMF)は国の経済規模を超えた融資により、デフォルトになる危険が高まると警鐘を鳴らしているほどだ。オルバン政権は新型コロナウイルスのワクチンではいち早くロシアと中国からワクチンの供給を受けている、といった具合だ(「ハンガリーの中国傾斜は危険水域」2020年4月30日参考)。

 中国の復旦大学の姉妹校の開校を聞くと、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関「孔子学院」のことを思い出す。2004年に設立された「孔子学院」は中国政府教育部(文部科学省)の下部組織・国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)が管轄し、海外の大学や教育機関と提携して、中国語や中国文化の普及、中国との友好関係醸成を目的としているというが、実際は中国共産党政権の情報機関の役割を果たしてきた。「孔子学院」は昨年6月の時点で世界154カ国と地域に支部を持ち、トータル5448の「孔子学院」(大学やカレッジ向け)と1193の「孔子課堂」(初中高等教育向け)を有している。世界の大学を網羅するネットワークだ。欧米では「孔子学院」は儒教思想の普及や研究とは関係なく、中国共産党のソフトパワーを広める道具と受け取られ出し、「孔子学院」は「トロイの木馬」であり、欧州人の「中国脅威論」を払しょくするための狙いがあるという声が高まってきている(「『孔子学院』は中国の対外宣伝機関」2013年9月26日参考)。

 「孔子学院」について調査報告を発表した全米学識者協会のディレクター、レイチェル・ピーターソン氏によると、「孔子学院」の教材には、中国共産党が敏感話題と位置付ける事件や事案については取り上げない。1989年の天安門事件や、迫害政策に置かれる法輪功などは明記がない。また、台湾や香港の主権的問題やチベット、新疆ウイグル地域における抑圧についても、共産党政権の政策を正当化する記述となっている。 ハンガリーの学校関係者の懸念は当然なわけだ。

 トランプ前米政権が「孔子学院」が中国共産党の情報機関であると暴露したこともあって、欧米に開かれていた孔子学院は次々と閉鎖された。中国共産党政権は欧米の「孔子学院」が閉鎖に追い込まれてきたことを受け、「孔子学院」の名称の変更などを画策する一方、欧州の親中国家ハンガリーで復旦大学の姉妹校を建設することで、宣言活動を拡散する道を模索してきているわけだ。ハンガリーはその意味でパイオニア的役割を果たしているわけだ(「米大学で『孔子学院』閉鎖の動き」2018年4月13日参考)。

 なお、ハンガリーでは、ELTE大学(エトヴェシュ・ロラーンド大学)を始めハンガリー全土5つの大学に「孔子学院」が設置されている。復旦大学や精華大学といった中国名門校との協力に力を入れている。直近では、復旦大学の姉妹校以外では、中国の出資により、センメルワイス医科大学に伝統中国医療学科を設立することが発表されている。

 蛇足だが、ハンガリーのオルバン政権の中国寄り路線をフォローしていると、1989年10月2日、ハンガリー社会主義労働者党(共産党)政権の最後の首相、ミクローシュ・ネーメト首相とブタペストの国民議会首相執務室で単独会見をした時を思い出す。ハンガリー共産党は当時、臨時党大会を控えていた。ネーメト首相は会見で、「党大会では保守派とは妥協しない。必要ならば新党を結成、わが国の民主化を前進させたい」と決意を表明し、「新生した党は共産主義イデオロギーから完全に決別し、議会民主主義に適応した真の政党づくりを目指す」と強調、旧東欧共産党政権で初めて共産主義からの決別を宣言した。そのハンガリーが32年後、中国共産党政権にすり寄っているのを見ると、ハンガリーの時計の針がいつから逆回りし出したのか、と当惑を覚えるのだ(「『ベルリンの壁』崩壊とハンガリー」2014年11月9日参考)。

サウジとイランが接近する時

 サウジアラビアとイスラエルが2017年、急接近した時、驚かされたが、今度はサウジとイランが接近してきているという情報が流れてきた。独週刊誌シュピーゲル最新号(4月24日号)によると、サウジの情報機関の責任者ハーリド・ビン・アリー・アル=フメイダーン氏(Khalid bin Ali AL Humaidan)と「イスラム革命防衛隊」 (IRGC)のイシマエル・クアー二氏(Ismail Qaani)が4月9日、イラクのバグダッドで会合したというのだ。会合の内容は発表されていないが、2016年以来、関係が悪化してきた両国間の会合自体が大きなニュースだ。

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▲イランの精神的最高指導者ハメネイ師(イランのIRAN通信から)

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▲サウジのムハンマド皇太子(ウィキぺディアから)

 サウジといえば、イスラム教スンニ派の盟主を自認し、イランはイスラム教シーア派の代表格だ。両国間で「どちらが本当のイスラム教か」といった争いを1300年間、中東・アラブ諸国間で繰り広げてきたライバル関係だ。その両国がここにきて接近してきたとすれば、両国に何が起きているのだろうか。

 イランはシリア内戦では守勢だったアサド政権をロシアと共に支え、反体制派勢力やイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)を駆逐し、奪われた領土の奪還に成功。イエメンではイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」を支援し、親サウジ政権の打倒を図る一方、モザイク国家と呼ばれ、キリスト教マロン派、スンニ派、シーア派3宗派が共存してきたレバノンでは、イランの軍事支援を受けたシーア派武装組織ヒズボラが躍進してきた。イラクではシーア派主導政府に大きな影響力を行使してきたことは周知の事実だ。

 それに対し、サウジは、シリア、レバノン、イエメンの3紛争地の背後にイランのプレゼンスがあるとして警戒を強めてきた。イランが中東の覇権を奪い、ペルシャ湾から紅海までその勢力圏に入れるのではないか、といった不安だ。サウジのムハンマド皇太子は米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューの中で、イランへの融和政策の危険性を警告し、イランの精神的指導者ハメネイ師を「中東の新しいヒトラー」と呼び、「イランの影響の拡大を阻止しなければならない。中東の新しいヒトラーが、かつて欧州でやったことを繰り返すことを願わない」と指摘しているほどだ。

 その両国が接近してきた。考えられるシナリオは、.汽Ε犬鮖抉腓掘⊃謄ぅ好薀┘誅線を邁進してきたトランプ前米政権が終わり、バイデン新政権が発足したこと、∧胴颪イラン核合意の復帰を視野に入れ、イランに何らかの譲歩をする可能性が出てきた、新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済は停滞、原油輸出国はいずれも大きな経済的ダメージを受けていること、ぅ汽Ε犬魯ぅ┘瓮鵑任離ぅ薀鵑箸隆屬梁緲戦争を早急に停止したい、等々だ。

 トランプ前米政権時代、イスラエルはトランプ大統領の個人的な支援を受け、アラブ湾岸諸国・イスラム諸国との関係を急速に改善していった。中東でアラブ・イスラム教国に取り囲まれているイスラエルは過去、エジプト(1979年)とヨルダン(1994年)との外交関係しかなかったが、トランプ政権に入って昨年9月15日、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレン、そして同年10月23日、スーダンとの外交関係を樹立。同年12月に入ると、モロッコと国交正常化に合意するなど、アラブ・イスラム諸国との関係を急速に深めていった。

 イスラエルと中東アラブ諸国の関係が急速に改善の兆しが見える中、中東ウオッチャーは「次はサウジとイスラエルの国交正常化だろう」と予想してきたが、サウジはまだ動いていない。ちなみに、イランのロウハ二大統領は、「イスラエルを我々の地域に侵入させてはならない。イスラエルの言動は国際的規律から大きく離れている。イスラム諸国が米国、イスラエルと関係を結べば、安全と経済的繁栄をもたらすと考えるのは大きな誤りだ」と強調。UAEに対しては「パレスチナ人への裏切りだ」と厳しく批判した経緯がある(イラン国営IRAN通信)。

 サウジはイランの侵攻に対抗するため軍事的、経済的大国のイスラエルに接近した。両国には、“共通の敵”イランの存在があったからだ。イスラエル軍のガディ・エイゼンコット参謀総長はサウジの通信社 Elaph とのインタビューに応じ、「イスラエルはサウジと機密情報を交換する用意がある。両国は多くの共通利益がある」と述べたことがある。

 そのサウジがここにきてイランに接近してきた背景には、バイデン米政権がトランプ前政権とは違い、イスラエル、サウジといった親米国家との関係に対して一定の距離を置く一方、イランとの核合意を重視し、核合意に復帰するためにテヘランとの関係改善に動く気配が見えだしたことがある。その結果、サウジはイランとのチャンネルを構築する必要が出てきた。具体的には、イエメンでのイラン武装勢力の撤退を掲げ、テヘランとの外交交渉に乗り出してきたのではないか。なお、バイデン政権は、2018年10月、トルコのイスタンブールのサウジ総領事部内で起きた反体制派ジャーナリストのジャマル・カショギ氏殺害事件を重視、人権蹂躙事件として関係者の制裁を実施したが、ムハンマド皇太子はその制裁リストから外している(「サウジが直面する“第2の国難”」2018年10月27日参考)。

 一方、イランは軍事的、外交的に成果を上げているが、国内は安定しているとはいえない。1979年のイラン革命前までは近代国家だったが、ホメイニ師主導の革命以来、イラン社会は神権国家か世俗国家かの選択に揺れ、国民も社会も分裂している。その上、新型コロナ感染が世界的に拡大し、原油価格が下落してきた現在、国はこれまでのように国民を養うことができなくなってきた。そのため国民の間で指導層への不満、批判の声が出てきている。イラン国民の平均年齢は30歳以下だ。彼らの多くは失業している。若い世代の閉塞感がイランの政情を不安定にする大きな要因となっている(「イラン当局が解決できない国内事情」2020年12月2日参考)。

 サウジのイラン接近にイスラエルは警戒の目で監視し続けるだろう。バイデン米政権がイラン核合意に復帰し、サウジがイランに接近していくというシナリオはイスラエルにとって悪夢だ。イランの核関連施設への軍事攻撃やイラン核物理学者への暗殺などの選択肢はあるが、外交的にはイスラエルが追い込まれる。サウジにとっては、イスラエルとの国交正常化を推進する上で、イラン接近が外交カードになるという判断が働いているかもしれない。

ドイツで「緑の党」が政権を担う時

 ドイツで今年9月26日、連邦議会選挙(下院)が行われるが、投票日を5カ月後に控えた時点でメルケル首相の与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が野党「緑の党」に抜かれて第2党に後退するという世論調査結果がこのほど明らかになった。ドイツのビルド日曜版が世論調査機関カンター に依頼した調査結果によると、「緑の党」は28ポイントでCDU/CSUの27ポイントを抜いて第一党に躍進しているのだ。

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▲次期連邦議会選の台風の目、「緑の党」次期首相候補者、ベアボック党首を表紙に飾る独週刊誌シュピーゲル最新号

 CDU/CSUの後退と「緑の党」の躍進は予想されてきたが、世論調査の結果はそれを裏付けているわけだ。CDU/CSUの後退は今始まったわけではないが、連邦議員のスキャンダル、マスク購入での腐敗問題などが浮上し、国民の印象を悪くしたこと、首相候補者選出のゴタゴタ劇などがマイナスとなって反映したのだろう。CDU/CSUは前回の議会選(2017年)では32・9%を獲得して第一党を獲得したが、その4年後の次期選挙では30%割れはもはや防ぎようがないとみられている。

 与党CDUとCSUの同盟の間で一週間余り、誰を連邦議会選の首相候補者にするかで戦いがあったが、結果は多数党のCDUのアルミン・ラシェット党首(ドイツの最大州ノルトライン・ウエストファーレン州首相)がバイエルン州地域政党のCSUが推すマルクス・ゼーダー党首を押さえてCDU/CSUが擁立する統一首相候補者に選出されたばかりだ。通常はCDU党首がCDU/CSU会派の統一首相候補者となり、選挙で第1党を確保すれば自動的に次期首相に就任するというのがこれまでのプロセスだったが、この公式はもはや現実的でなくなってきたのだ。ラシュット党首も次期首相ポストが保証されたとは考えていないだろう。ビルド日曜版はその懸念を裏付けたわけだ。実際、次期首相候補者選出前の世論調査結果よりCDU/CSUの支持率は2ポイント失っているのだ。

 CDU/CSUの後退の最大の理由は、簡単に言えば、メルケル政権が長すぎたことだ。15年間の長期政権に有権者は飽きたのだ。それを加速したのは新型コロナウイルスの感染とその予防対策、コロナ規制の強化だ。もちろん、誰が政権を握っていても難しいが、多くの国民は新鮮味のかけらもないメルケル政権にコロナ規制による不満や反発をぶっつけている。

 2015年の100万人を超える中東・北アフリカからの難民の殺到時は難民反対、外国人排斥運動の新党極右「ドイツのための選択肢」(AfD)がその国民の不満を吸収して2017年の総選挙では一躍第3党に大躍進した。その6年後の今日、AfDはコロナ問題では単なる批判政党に陥り、建設的なコロナ対策を提示できない政党であることが露呈し、有権者の支持を失っている。ドイツの世論調査によると、2大政党のCDU/CSUと社会民主党(SPD)の後退は織り込み済みだが、AfDの低迷も予想されてきた(「ドイツ極右党に陰りが見え出した」2021年3月26日参考)。

 それに対し、環境政党「緑の党」が躍進してきた。バイデン米政権のパリ協定(地球温暖化対策の国際的枠組み)復帰も追い風となっているだろう。「緑の党」は今月19日、40歳のアンナレーナ・ベアボック共同党首を次期総選挙の首相候補者に選出し、CDU/CSUに挑戦状を突きつけている。その効果は明らかだ。先の世論調査では6ポイント増で28ポイントでトップに躍進した。

 ドイツ政界は久しくCDU/CSUとSPD(ドイツ社会民主党)の2大政党が交代に政権を担当する時代が続いてきたが、2大連立政権時代は既に過去のものとなった。社民党は選挙の度に得票率を落とし、党首交代を繰り返し、現在は2人党首制を敷いている。社民党は先の世論調査では2ポイント減で13ポイントだ。落ちるところまで落ちた、といった印象が強い。

 今年1月16日に開催された第33回CDU党大会で党首に選出されたラシェット新党首はデビュー戦ともいうべき3月14日に実施されたラインラント=プファルツ州とバーデン=ヴュルテンベルク州の両州議会選で敗北した。それだけに党の立て直しが急務となってきている。

 同党首は、「官僚主義の克服、国民へのサービス志向の向上、デジタル化の促進」を訴え、15年間のメルケル政権との違いを強調する一方、ライバル政党「緑の党」の移民政策に対しては、「経済移民が増えるだけだ。ドイツ経済に必要なのは専門教育や高等教育を受けた移民だ」と指摘している。CDU/CSUは選挙戦では「緑の党」の政権能力を国民に問いかける一方、メルケル色を脱皮し、迅速で効果的な政策を打ち出せる政党に刷新していく方針だ。

 一方、「緑の党」は党初の女性首相候補者を担ぎ出し、メルケル首相とは違い、若く、ダイナミックな首相候補として有権者にアピールしていくだろう。独週刊誌シュピーゲル最新号(4月24日号)は表紙にベアボック党首を大きく載せている。ベアボック党首の懸念材料は首相や閣僚経験のないことだ。

 シュピーゲル誌は、「べアボック党首は今後、政策の具体化が必要となる。例えば、2030年までに温室効果ガスを70%減少すると宣言しているが、どのように実行するのか、(ドイツ経済を支えてきた)自動車メーカーは今後どうなるのか、財産税を導入するのか、など具体的な政策にまだ何も言及していない」と指摘、「同党首への期待は直ぐに吹っ飛んでしまう可能性もある」と予想している。

 なお、次期首相支持率では「緑の党」のベアボック党首がトップで30ポイント、社民党のショルツ財務相が20ポイント、そしてCDU/CSUのラシェット党首は18ポイントと第3位に甘んじている。

 「緑の党」が第一党に躍り出た場合、次期政権としては、「緑の党」とCDU/CSUの2政党連立が最も現実的だが、「緑の党」、SPD、自由民主党(FDP)の3連立政権の発足も十分考えられる。

 5カ月間の選挙戦で何が起きるか予想できない時代だ。特に、新型コロナウイルスの予防策であるワクチン接種が加速化し、ドイツ社会が集団免疫状況を実現できるならば、国民も余裕が出てきて、選挙の争点も現政権批判のオンパレート合戦ではなく、政策論争が展開するかもしれない。いずれにしても、15年間のメルケル政権は終わる。安定と経済的繁栄の時代は過ぎ、コロナ禍で未来への見通しが確かではない時代圏に突入している。それだけにドイツ政界で想定外のサプライズが起きる可能性はまだ排除できない。

キリスト像の「高さ」を競う時代

 クリスチャン・トゥデイ(Christian Today)を久しぶりに読んで気が付いたことがある。世界各地でキリスト像が建立されているという記事が多いのだ。世界は新型コロナウイルスの感染拡大(パンデミー)でその対応に追われている中、コロナ感染の予防とはならないと思うが、キリスト像の建設が一種のブームなのだ。キリスト教のリバイバルか、それとも一部の篤志家たちの一過性の熱意に過ぎないのだろうか。

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▲リオデジャネイロの「コルコバードのキリスト像」(ウィキぺディアから)

 キリスト像といえば、ブラジルのリオデジャネイロの像を直ぐに思い出す人が多いだろう。コルコバードの丘から街を俯瞰しながら手をひろげ、人々を抱擁するキリスト像は素晴らしい。ブラジルを訪問した観光客はその像を一度は訪ねるだろう。約90年前に建てられた「コルコバードのキリスト像」は観光客を惹き寄せているのだ。

 ところで、どの世界でもそうだが、リオデジャネイロのキリスト像より高い像を建設して観光地にしたいと考える政治家、経済人、著名人が出てきても不思議ではない。クリスチャン・トゥデー(4月22日)によると、ブラジル南部リオグランデ・ド・スル州エンカンタドでリオデジャネイロのキリスト像より大きな像の建設が2019年から進められているというのだ。

 リオデジャネイロのキリスト像は土台を入れて高さは約38m、両手の幅は約28mだが、建設中のキリスト像はそれより約5m高い43m、両手の幅は36mという。コルコバードのキリスト像より一回り大きい。それだけではない。像の内部にはエレベーターが設置されて、像の頂上まで上がれるという。筆者は40年前、米国のニューヨークで「自由の女神」像を訪問し、像の内部の狭いらせん階段を登って展望台まで上がったことがある。

 新キリスト像の建設工費は約35万ドルで、全額寄付で賄われるという。新キリスト像は今年中に完成予定で、完成すればポーランド西部シフィエボジンのキリスト像「クライスト・ザ・キング」(高さ52m)、そしてインドネシアのスラウェシ島のキリスト像に次いで、世界3番目に高いキリスト像となる。

 不思議に思ったのは、ブラジル人がどうして世界一高いキリスト像ではなく、世界3位のキリスト像の建設で満足しているのかということだ。キリスト像の建設は決して高さの競争ではないが、この点、少ししっくりこないと考えた時、メキシコの人気俳優であり敬虔なカトリック信者であるエドゥアルド・ベラステーギ氏が、同国東部タマウリパス州シウダービクトリアに、巨大なキリスト像を建設する計画という。殺人事件が多発する同地に「平和のキリスト」と命名する像を建設するというのだ。像の高さは76・8mだ。明らかにポーランドのキリスト像の高さを凌ぐ世界一高いキリスト像となるという構想だ。

 クリスチャン・トゥデイは、「メキシコ・ニュース・デイリーによると、地元の土地開発業者らは、建設予定地一帯を特別イベントなどで最大1万人動員可能な観光スポットにしようと計画している。予定地周辺には、教会やレストラン、商店街やコンベンションセンター、巡礼者用の休憩所、ホテル、円形劇場、手芸品市場、駅、住宅街などの建設も構想されている」と伝えている。取らぬ狸の皮算用の感じはするが、世界一のキリスト像がいつ完成するかの情報はまだ聞かない。

 同紙2019年1月24日付によると、世界にある有名なキリスト像としては、シリアの山上に平和の象徴として建てられたブロンズ製のキリスト像(高さ約32m)、ボリビアの平和のキリスト像(高さ34m)、イタリアのマラテアにある「クリスト・レデントール」(救世主キリスト)、ベトナムのブンタウに立つ「ブンタウのキリスト」、スペインのバレンシアの「クリスト・デル・オテロ」、ナイジェリアの「ジーザス・デ・グレイテスト」(高さ約8・5m)などだ。ここでは紹介されていないが、世界各地で無数の大小のキリスト像が建立されているだろう。

 それぞれのキリスト像はその地域の信者たちを守護し、信仰を鼓舞する一方、紛争・犯罪の終焉を祈願して建立されたものが多いが、同時に非常に人間的な業だが、「キリスト像の高さ」が競われているわけだ。

 人は現状に満足せず、常に向上し、発展を願い、そのために競争もする。キリスト像を建設する時も多くの関係者、建築家は世界一のキリスト像を建立したいという野心を抱くものだ。天にまで届く高い塔を建設するという旧約聖書創世記(11章)の「バベルの塔」の話を思い出す。

 キリスト教会の最大の祝日「復活祭」が終わり、来月23日は「聖霊降誕祭」(ペンテコステ)を迎える。イエスはこの地上のキリスト像の高さ競争を見てどのように感じるだろうか。キリスト像建立は「より速く、より高く、より強く」のオリンピックのスポーツ競争ではない。また、旧約聖書の預言者ゼカリヤは「私をつかわされた主は、“私はあなたの中に住む”と言われる」(ゼカリヤ書2章)と語っている。すなわち、神を崇拝するのに教会や像は必要ではないというのだ。その一方、キリスト像を建立する人々を擁護するつもりはないが、イエス像、聖母マリア像、聖画のように、目に見えて仰ぐ対象は信仰生活では必要かもしれない。少なくとも、神が私たちの中に引っ越して住まわれるまではだ。

揺れる「カトリック教国」の看板

 欧州社会はキリスト教文化圏に属するが、カトリック教国を自認してきた国で聖職者の未成年者への性的虐待問題が浮上し、国民、信者たちの教会離れが進むなど、「カトリック教国」の看板が大きく揺れ出している。

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▲公判の延期で裁判所から出るプレナ被告(2020年1月13日、バチカンニュースから)

 カトリック教国の落日を強く印象付けたのはアイルランド教会だ。同国ダブリン大司教区聖職者の性犯罪を調査してきた政府調査委員会が2009年12月、調査内容を公表し、大きな衝撃を与えた。同国のダーモット・アハーン法相(当時)は「性犯罪に関与した聖職者は刑罰を逃れることはできない」と指摘、調査が進めば、聖職者の中に逮捕者が出ることもあり得ると述べた。調査対象は1975年から2004年の間で生じた聖職者の性犯罪で、数百人の聖職者が性犯罪に関わっていたことが明らかになった。

 それだけではない。アイルランドで2018年5月25日、人工妊娠中絶を禁止してきた憲法条項(1983年施行)の撤廃の是非を問う国民投票が実施され、賛成66・4%、反対33・6%で人工妊娠中絶を禁止した憲法条項の撤廃が賛成多数で支持されたのだ。人工妊娠中絶の禁止を主張してきたアイルランドのローマ・カトリック教会にとって「歴史的敗北の日」となった。バチカンニュースはその翌日の26日、「かつてはカトリック国だったアイルランドで最後のタブーの一つが落ちた」と報じたほどだ(「アイルランド社会のダムが崩れた!」2018年5月29日参考)。

 そしてヨハネ・パウロ2世を輩出したポーランド教会でも聖職者の性犯罪が暴露され、国民の教会への信頼は大揺れだ。冷戦時代にヨハネ・パウロ2世を輩出したポーランド教会は欧米キリスト教会でも中心的な地位を誇ってきた。その国で聖職者の未成年者への性的虐待事件が頻繁に行われ、教会側がその事実を隠蔽してきたことが発覚したのだ。

 冷戦時代を思い出してほしい。ポーランド統一労働者党(共産党)の最高指導者ウォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領は当時、「わが国は共産国(ポーランド統一労働者党)だが、その精神はカトリック教国に入る」と述べ、ポーランドがカトリック教国だと認めざるを得なかった。その国でカトリック教会への信頼は急落してきているのだ。同国の日刊紙デジニック・ガゼッタ・プラウナとラジオRMFが報じたところによると、ポーランド国民の65・7%が「カトリック教会の社会での役割」に批判的な評価を下し、評価している国民は27・4%に過ぎないことが判明している。

 ポーランド教会では聖職者の性犯罪があったという報告はこれまで1度も正式に公表されなかった。聖職者の性犯罪が生じなかったのではなく、教会側がその事実を隠蔽してきたからだ。沈黙の壁を破ったのは 聖職者の性犯罪を描いた映画「聖職者」(Kler)だ。同国の著名な映画監督ヴォイチェフ・スマジョフスキ氏の最新映画だ。小児性愛(ペドフィリア)の神父が侵す性犯罪を描いた映画は2018年9月に上演されて以来、500万人以上を動員した大ヒットとなった(「ポーランドのカトリック主義の『落日』」2020年11月7日参考)。

 そして欧州の代表的カトリック教国フランスでも同様の傾向が見られる。バチカンニュースが今月22日報じたところによると、フランス教会の司教たちは聖職者の未成年者への性的虐待問題への解決に対する決意表明というべき全信者宛ての公開書簡を発表している。司教たちはその書簡の中で「当惑と同時に、恥ずかしさを感じる」と吐露している。教会が聖職者の性犯罪問題に理解不足、無関心であったことに「謙虚な許しを乞う」と強調、「教会は未成年者にとって常に安全な場所とはなり得なかった」と記述している。

 同国教会を震撼させた事件は通称「プレナ神父事件」とよばれる聖職者の性犯罪事件が発覚したことだ。元神父のプレナ被告は1971年から91年の間、未成年者のボーイスカウトの少年たちに性的虐待をした容疑で起訴された。元神父は罪状を認めたことから、教会法に基づき聖職をはく奪された。公判では元神父に性的虐待を受けた犠牲者たち(当時7歳から10歳)が生々しい証言をした後、元神父は「良くないことだと分かっていたが、衝動を抑えることができなかった。上司の聖職者に相談したが、適切な指導を受けなかった」と説明した。

 もっと衝撃だったことは、同元神父が公判で「自分も少年時代、同じように聖職者から性的虐待を受けたことがあった」と告白したことだ。世界に約46万人の聖職者(教区神父、修道僧、助祭など)がいるが、プレナ被告の例は、本人自身が聖職者の性犯罪の被害者であり、同時に犠牲者でもあったという点で特異なケースだ。プレナ被告の場合、教会指導部の責任は大きい。ゞ飢饂愼撹瑤聖職者の性犯罪の報告を犠牲者から聞きながら、対応しなかった、▲廛譽僻鏐陲性衝動に苦しんでいることを知りながら、彼を神父にした、の2点が挙げられる。「プレナ神父事件」はフランソワ・オゾン監督により映画化「グレース・オブ・ゴッド」(2018年制作、フランス・ベルギー映画)されている(「元神父は性犯罪の犠牲者でもあった」2020年1月23日参考)。

 フランスではまた、駐仏のバチカン大使、ルイジ・ベントゥ―ラ大司教(75)が2人の男性に性的行為をした容疑でフランス検察当局に調査を受けている(フランシスコ教皇は2019年12月17日、同大司教の辞任を受理)。また、リヨン大司教区のフィリップ・バルバラン枢機卿(68)は2019年3月7日、聖職者の未成年者への性的虐待事件を隠蔽したとして執行猶予付き禁固6カ月の有罪判決を受けた、といった具合だ。

 フランス教会司教会議は先月開催した春季総会で聖職者の性犯罪対策の改善のため11項目からなる決議案を採択している。なお、ローマ法王庁は2019年12月に教会法を改定し、13世紀から施行されていた聖職者の「告解の守秘義務」を撤回している。

 バチカンニュースは「フランスだけでも350万人の人々が未成年時代、性的虐待の被害を受けている。加害者は父親、兄弟、家族関係者、トレーナー、神父、教師たちである」と報じている。

「封鎖解除」表明への反応いろいろ

 ウィーンの世界博物館で23日、クルツ首相は記者会見を開き、新型コロナウイルス感染予防のために実施してきたロックダウン(都市封鎖)を来月19日を期して解除する計画を表明した。クルツ首相ら政権関係者は重要なコロナ関連の決定を表明する記者会見を連邦首相官邸内で開いてきたが、今回は国立図書館横にある世界博物館で開催した(筆者の一方的な憶測だが、ロックダウンの解除を国民に向かって発表する舞台装置として、華やかな世界博物館の書割が好ましかったのだろう)。

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▲封鎖解除計画を表明するクルツ首相(左から2番目)(2021年4月23日、連邦首相府公式サイトから)

 どの国でも同じだが、コロナ禍が1年半以上長期化し、コロナ規制への国民の不満、批判が高まっているだけに、ロックダウンの解除は国民が等しく願ってきたことだ。しかし、クルツ首相がロックダウン解除を表明するまでにはさまざまな闘いがあったのだろう。実際、記者会見は最初は同日午後2時の予定だったが、午後3時半に遅らされたのだ。ロックダウンの解除表明に対して政権内外で土壇場まで賛否両論があったことが窺える。

 クルツ首相は記者会見で「長いトンネルの先に光が見えてきた」と封鎖解除計画を称賛する一方、「もちろん、慎重に対応しなければならないが、ワクチン接種テンポが加速され、正常化へ大きく前進してきた」と説明、「コロナ規制を遵守しながら慎重な封鎖解除だ。コロナ検査、ワクチン接種、コロナ回復者はエントリーへの許可書、グリーン・パスだ」と述べている。

 ロックダウン解除表明を歓迎する側は第一に経済界だ。同国では感染症予防対策は連邦政府ではなく、州の管轄だ。その州責任者の多くは封鎖解除を支持してきた。野党の中には慎重派、歓迎派と様々だ。慎重派はウイルス学者、免疫学者ら専門家に多い、と色分けできるだろう。そのような中でクルツ首相は今回のロックダウンの全面的解除計画を明らかにしたわけだ。ロックダウン解除はコンセンサスで決定されたというより、クルツ政権主導の冒険的決定という面も否定できない。

 クルツ首相が発表したロックダウン解除計画の内容を簡単に紹介する。

 2020年4月の最初のロックダウンから営業閉鎖に追い込まれてきたレストランなど飲食業界や観光業界、イベント業界、博物館、劇場、文化、スポーツ分野は来月19日を期して再開するという。それに先立ち5月17日から学校を全面的に開く。

 全ての解除措置はコロナ規制(FFP2マスク直用、ソーシャルディスタンスなど)を遵守することが前提で、コロナ検査の陰性証明書、ワクチン接種パスの提示などとリンクされている。文化イベントでは室内(最大1500人)と屋外(最大3000人)で参加者数の制限がある。飲酒業界では室内は1テーブルに子供を除き4人まで、室外は最大10人。営業時間は夜10時までだ。劇場や映画館では席と席の間を2mの間隔を取る。11人以上のイベントの場合(国際会議など)、通達義務があり、51人以上の場合、保健省の認可が必要となる。室内スポーツでは1人当たり20平方メートルの空間を必要とし、スポーツをしている時はマスク着用義務はない。

 今回の封鎖解除は州レベルではなく、連邦レベルで同時期、一斉に実施することになっている。ただし、州によっては来月19日から全面的解除を実施しない場合も考えられる。例えば、ウィーン市(特別州)は5月19日からの封鎖解除には慎重な姿勢を崩していない。ルドヴィク市長(社民党出身)は、「コロナ感染状況をみれば、新規感染者が増加し、病院の集中治療ベットの空きが減少している時、封鎖解除は危険だ」という。

 オーストリアは9州から構成されているが、封鎖解除歓迎派はニーダーエースターライヒ州、オーバーエスターライヒ州、シュタイアーマルク州、ザルツブルク州、そしてチロル州だ。慎重派はウィーン市、ケルンテン州といった色分けだ。換言すれば、中道右派のクルツ首相の与党国民党が率いる州は封鎖解除を歓迎する一方、社民党が主導するウィーン市、ケルンテン州は慎重派の陣営に入る。

 政党では、極右政党「自由党」は「FFP2マスク着用やコロナ検査の強要はコロナ・アパルトヘイト政策だ」と批判。同党のキッケル院内総務は議会内でもマスクの着用を拒否している確信犯だ。同党はクルツ政権が導入を計画しているグリーン・パスの導入には反対だ。リベラル政党「ネオス」は「ロックダウンで損失した分を日曜日の営業許可で補填すべきだ」と述べている。

 商工会議所のハラルド・マーラー会長は封鎖解除、営業再開を歓迎し、「全ての業界が公平に再開できる今回の封鎖解除は国民全てに良きシグナルを送ることになる」と評価している。教育界も封鎖解除には歓迎する一方、教師へのワクチン接種の実施を要求している。

 ワクチン学者の中にもノルベルト・ノヴォト二イ氏は「新規感染者が増加し、ウイルスの変異株が拡大している時、室内のイベント開催の許可など非常に大胆な決定だ」と受け取っている。

 なお、23日の記者会見で最も印象深かったのはエリザベト・ケスティンガー観光相の笑顔だ。同相は、「これでレストランなど飲食業界や観光業界の営業が再開できる。関係者はこの時を首を長くして待ってきた。これで美しいサマー・シーズンを迎えることができる」と喜んでいた。

 ミュクシュタイン新保健相は、「コロナウイルスはまだ終焉していない。新規感染者が増加したり、変異株が登場して猛威を振れば、追加対応が必要となる」と警告を発する一方、「学校の再開は良きステップだ」と指摘した。若い世代にロング・コビッド症候群が広がり、精神的に悩む学生、生徒たちが増えてきているからだ。同国では小学校は週5日間授業だが、それ以外の学校の生徒は週交代制で授業を受ける。

 オーストリアの新型コロナ感染状況(2021年4月24日午前8時現在)
        累積感染者数・・・60万3489人
        回復者数・・・・・56万8213人
        死者数・・・・・・・1万0055人
        入院患者数・・・・・・・1866人
        集中治療患者・・・・・・・517人
       
 オーストリアで昨年12月27日、基礎疾患のある80歳以上の高齢者が国内で最初にワクチンの接種を受けた。4カ月が経過する4月23日現在、オーストリアで1回目のワクチン接種者数は193万0800人で全体の21・69%、2回のワクチン接種を完了した国民は76万2975人で全体の8・57%だ。同国ではワクチン接種を受けられる16歳以上の国民の総数は753万1239人。

チェコ・ロシア両国の外交関係悪化

 チェコとロシア両国関係が急速に険悪化してきた。接の契機は、チェコ政府が17日、ロシアの2人の軍参謀本部情報総局(GRU)員が2014年、チェコのヴルビェティチにある弾薬庫を破壊したとして、在プラハの18人のロシア外交官の国外追放を指令したことだ。それに対し、モスクワは18日、在モスクワの20人のチェコ外交官の国外追放で報復に出た。チェコ政府は21日、ロシア側に在モスクワのチェコ外交官追放処分の撤回を要求。ロシアが拒否したことを受け、チェコ外務省は22日、「5月末までに在プラハのロシア外交官の数をモスクワ駐在のチェコ外交官数と同規模に落とすべきだ」と最後通告を発した。具体的には60人以上のロシア外交官の追放となる。

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▲ロシアの弾薬庫爆発事件の詳細を明らかにするチェコのクルハネク外相(2021年4月22日、チェコ外務省公式サイトから)

 チェコ南東部のヴルビェティチ弾薬庫爆発はロシアの2人の工作員の仕業であることは判明しているが、モスクワはチェコ側の批判を一蹴してきた。なお、ロシア工作員が破壊した爆弾倉庫にはウクライナ向けの弾薬が保管されていたことから、ロシア側が弾薬庫の破壊工作を実施したと受け取られている。同事件で2人の犠牲者が出ている。チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長は「ロシアの国家テロ事件だ」と非難している。

 ちなみに、プラハには94人のロシア外交官が駐在している一方、モスクワにはチェコ外交官は24人だ。そのうち、20人が既に国外退去を受けているため、チェコ側は「モスクワでの通常な外交活動が難しくなったきた」という。

 チェコ政府の最後通告に対し、モスクワ外務省は「ヒステリーだ」と批判。それに対し、チェコのクルハネク新外相は、「外交関係に関するウィーン条約第11条に基づく通常の反応に過ぎない」と説明している。同時に、「わが国はロシア外交官の国外退去に対し48時間の猶予を与えたが、ロシア側はわが国の外交官に24時間以内の国外退去を命じた」と不快を表明している。ロシア外務省報道官は、「チェコはわが国との関係を破壊しようとしている。わが国も報復処置を取らざるを得ない」と強硬姿勢を崩していない、といった具合だ。

 チェコ側の反応で興味深い点は、ゼマン大統領の姿勢だ。同大統領は今回のチェコ・ロシア関係の関係悪化に対して何も語っていない。チェコのバビシュ首相は記者会見で、「今回の処置は決して好ましくないが、わが国は主権国家だ。ロシアとの関係悪化がエスカレートしないことを願う。ロシア側がわが国の対応を認識することを期待する」と述べているが、ゼマン大統領は沈黙し、ロシアに対して一言も批判をしていないのだ。

 ゼマン大統領が親ロシア派、親中国派の政治家であることは周知の事実だが、国が大国ロシアの圧力を受けている時、大統領が沈黙し、ロシアに対して苦情をいわないのでは問題だ。プラハからの情報によると、ゼマン大統領は25日、今回の件で公式表明する予定という。

 蛇足だが、チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長が昨年8月末から9月5日にかけ台湾を訪問し、中国から激しい批判を受け、それだけではなく経済制裁まで受けた。台湾から招請されたヤロスラフ・クベラ前上院議長が不審な急死を遂げ、事件の背景についてメディアでも大きく報道された。その時もゼマン大統領は中国批判を控えるなど、その政治姿勢は親ロシア、親中国色が明らかだ(「中欧チェコの毅然とした対中政策」2020年8月10日参考)。

 ゼマン大統領から支援はないが、大国ロシアと対峙するチェコに対し、欧州連合(EU)加盟国から連帯支援の声が高まっている。隣国スロバキアは、「わが国はチェコ政府の対応を支持する」と表明し、エドワード・へゲル首相は、「わが国も在ブラチスラバの3人のロシア外交官に対し、7日間以内に国外退去することを命令する」と述べている。同国のヤロスラフ・ナエ国防相は、「わが国の情報機関と同盟国からの情報に基づいた対応だ」と説明。

 ドイツのハイコ・マース外相はチェコ外相との電話会談でチェコ側の対応を支持し、(外交官が急減した)在モスクワのチェコの外交活動を応援すると約束。メルケル独首相はバビシュ首相と電話会見で同じように支持を伝えている。

 また、ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)は22日、チェコとロシアの関係悪化について懸念を表明する声明文を発表するとともに、チェコの対応に連帯表明している。

 「まさかの時の友こそ真の友」と言われるが、EU、NATOの加盟国チェコは身内には親ロ、親中国派の大統領を抱えているが、幸い多くの友を持っている。ワルシャワ条約機構軍(当時)がプラハの民主化路線を粉砕したプラハの春(1968年)の再現はもはや考えられないわけだ。

世界62カ国で「宗教の自由」が蹂躙

 世界の「宗教の自由」を監視する「キルへェ・イン・ノート」(1947年創設、国際カトリック支援団体)は20日、ローマで「2021年報告書」を発表した。それによると、世界196カ国中、62カ国(約31・6%、人口52億人)で「宗教の自由」が蹂躙、ないしは制限されている。その中には中国、インド、パキスタン、ナイジェリアなど人口大国が含まれる。

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▲2021年「宗教の自由」報告書(Kirche in Not公式サイトから)

 報告書によれば、 ナイジェリアでキリスト教会の建物が破壊され、中国新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人(主にイスラム教徒)が集団収容所に隔離され、中国共産党政権による同化政策を強いられ、西アフリカのブルキナファソでは数十万人がイスラム過激派による迫害を受けている。

 宗教者の中で最も迫害されているのはキリスト教徒という。同時に、中国とミャンマーでは3000万人以上のイスラム教徒が弾圧されている。ちなみに、迫害されているキリスト教徒を支援する超教派の宣教団体「オープン・ドアーズ」(Open Doors)によれば、世界で3億4000万人のキリスト信者が迫害され、「宗教弾圧国」インデックスは2021年も北朝鮮がトップだ。

 また、新型コロナウイルスのパンデミック(世界流行)下で、イスラム過激派は「コロナ禍は神の刑罰、西側頽落文化への刑罰だ」とプロパガンダし、宗教者を見せしめのために迫害するケースが増えてきた。例えば、エジプト、トルコ、ニジェール、中国でキリスト教徒が、インドではイスラム教徒がスケープゴートとなり、インターンネットの世界ではユダヤ教徒がコロナ禍の憶測情報で批判されている、といった具合だ。「宗教の自由」蹂躙への主要原因として、独裁主義、イスラム過激主義、民族的・宗教的愛国主義が指摘されている。

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▲「宗教の自由」状況を示す世界地図(Kirche in Not公式サイトから)

 報告書では、「宗教の自由」状況を表示した世界地図が色別に分けて作成されている。そこでは「赤」は「宗教の自由」が著しく蹂躙されている国。「赤」カテゴリーに属する国は26カ国、総人口39億人で世界人口の半分(51%)を超える。12カ国はアフリカ大陸、それにインド、イラン、中国、ミャンマーが含まれる。

 次に「オレンジ」は宗教者への社会的差別が行われている国。それに該当する国は36カ国、12億4000千万人。そのカテゴリーに入る国で9カ国は改善傾向が見られる一方、20カ国は状況は悪化している。そして「監視下」の国だ。これは新しいカテゴリーで、潜在的に「宗教の自由」が蹂躙される危険性がある国だ。例としてロシア、チリが挙げられている。

 そして問題は、「赤」に分類される国で宗教者への迫害、弾圧が強まっていることだ。例えば、中国では習近平主席が政権を掌握して以来、宗教への弾圧は強められてきた。宗教を抹殺できないことを知った習主席は「宗教の中国化」を実施してきている。その実例は新疆ウイグル自治区(イスラム教)で実行中だ。また、キリスト教会に対しては官製聖職者組織「愛国協会」を通じて、キリスト教会の中国化を進めている。習主席は、「共産党員は不屈のマルクス主義無神論者でなければならない。外部からの影響を退けなければならない」と強調する一方、「宗教者は共産党政権の指令に忠実であるべきだ」と警告している(「習近平主席の狙いは『宗教の中国化』」2020年6月12日参考)。

 「キルへェ・イン・ノート」によれば、中国中部の江西省では昨年末現在、キリスト教会や仏教寺院に200以上の顔面認識カメラが設置され、社会信用システムが導入され、教会訪問者は危険人物として飛行機チケットの購入が出来ないといった不公平な扱いを受けている。

 報告書はまた、イスラム過激テロ組織の他宗教の迫害を指摘している。多国籍のジハード主義者ネットワークは赤道を超えて拡大し、超大陸カリフ制の確立を目指している。イスラム過激テロ組織「イスラム国」(IIS)と国際テロ組織「アルカイダ」は中東からイデオロギー的、物資的支援を受け、武装化した集団を率いて「カリフ地帯」を構築するために連携している。ジハード主義は西アフリカのマリ、モザンビーク、チャド、カメルーン、そしてインド洋のコモロ、南シナ海のフィリピンまでその勢力を拡大している。

グローバルに展開する“サイバー・カリフ”は西側諸国でオンライン・リクルートを進め、ユーロ・イスラムの過激化を秘かに広げている。イスラム過激テロリストのオンライ攻勢に対し、西側テロ対策関係者は効率的な対応が出来ず、苦戦している。

オーストリアで「地震」が発生した日

 コラムのタイトルを見て、「ふーん、ニュースになるほどの地震がオーストリアで発生したのか」と首を傾げ、前日のニュースを振り返った読者もおられるかもしれない。フェイクニュースではなく、“立派な”地震がウィーン南部のニーダーエスターライヒ州ノインキルヒェン郡(Neunkirchen)周辺で20日未明発生している。

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▲独人文学者ハルトマン・シェーデル「ニュルンベルク年代記」1493年出版、歴史的地震の状況(ZAMG公式サイトから)

 日本のメディアは多分、何も報じていないだろうが、地元のオーストリアではトップニュースで報じられた。日本のメディアが怠慢だからではない。マグニチュード(M)4・4の地震だったからだ。負傷者はなく、「建物倒壊」の報告はない。地震報道に慣れている日本メディア関係者には「音楽の都」ウィーン南部のM4・4の地震は地震のカテゴリーに入らず、記事になるほどの価値がないからだ。俗にいう、ニュース・ヴァリューの問題だ。

 それではなぜ、M4・4の地震がオーストリアではトップニュースとなったかだ。その答えはシンプルだ。オーストリアは日本のように地震大国ではなく、日本人には考えられないことだが、「地震が珍しい」のだ。本格的な地震を体験した国民は少ないから、M4・4の地震でビックリ、寝ている人はベットから飛び出し、起きていた人は不安に襲われる。だから、地元ではトップニュースの資格は十分あるわけだ(筆者はオーストリアに40年余りお世話になっているが、日本人が考えるような「地震」に遭遇したことがない)。

 20日未明のM4・4の地震はオーストリア国民、ウィーン市民にとって大きな出来事だ。夜のニュース番組でも大きく報道し、翌日の新聞ではウィーンのメトロ新聞は1面で報じていた。地震に慣れた日本の読者ならば「世界にはそんな国があるのか」と受け取られるかもしれない。

 一つのエピソードを紹介する。ウィーンから日本を訪問した娘が知人の家に厄介になった。その日の夜、地震が起きた。娘はビックリ仰天。直ぐに傍に寝ていた知人の娘さんを見たら、いびきをかいて寝ている。何も感じていないのだ。起こすのは悪いと思い、揺れが収まったので再びベットに入って寝ようとしたが、なかなか眠れなかったという。

 翌日の朝、娘は早速夜の地震のことを話したが、「誰も気が付かなかった」という。娘はインターネットで昨夜の地震を探索したら、昨夜、震度4・5の地震が起きた、というニュース記事を見つけた。娘は夢を見ていたのではなく、地震は実際、起きていたのだ。

 娘曰く、「地震大国に住む日本人にとって、M4程度の地震で驚いていたら、生きていけない。M5以上の地震でなければ、安眠を妨害されないように体が自己管理しているのではないか」という。ちなみに、20日の深夜、娘は机に座り、本を読んでいたら、突然、椅子が飛びあがるような衝撃を受けたという。オーストリア気象地球物理学研究所(ZAMG)によると、20日未明の地震で国民から1万4000件以上の知覚報告が届いている。

 参考までに、アルプスの国オーストリアでの地震情報をまとめておく。

 同国では過去、地震は起きている。ZAMGは「過去20年間、年平均、48回の地震がオーストリアで起きている。地震の多発傾向は現時点ではみられない。2002年は13回、20年には73回の地震が観測された。体感できない地震回数は年700回から1400回だ。今年に入り、4月20日現在で約500回の地震が測定されているが、人間が感じる地震は約40回程度」という。

 地震学者によると、3月末と今月20日の震源地ノイエキルヒェン周辺はゼンメリング地帯と南部ウィーン盆地に属し、地震ハザード地として知られている。アルプス地帯ではアドリアの構造プレートが北側に動き、ユーラシア・プレートと衝突することで地震が生じるという。

 同国では先月30日、M4・7の地震が起きたばかりだ。2000年以来、最大の地震だった。20日未明の地震は震源地が同じだから余震ともいえるかもしれない。国民の中には大地震が起きる前兆ではないか、といったホラー・シナリオを描いて不安がる人もいる。実際、バルカン半島のクロアチアでは昨年12月29日、M6・3の地震が起き、5人が死去し、建物が一部倒壊している。オーストリアの建物は耐震用に作られていないところが多いから、M6以上の地震が起きたら、多くの建物が倒壊する危険性が出てくる。地震対策ではオーストリア国民は日本から多くの点を学べるだろう。

第2次冷戦は北京冬季五輪後に山場

 新たな冷戦時代に本格的に突入してきた。第1次冷戦時代は欧米民主諸国と旧ソ連・東欧共産圏との対立で、後者が崩壊することで一応決着したが、それも束の間、新たな第2次冷戦時代が始まってきた。第2次冷戦では欧米民主側の顔ぶれに大きな変化はないが、それに対峙する側はロシアと中国の両国だ。

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▲習近平国家主席、清華大学創設100年を記念して「国家に奉仕する世界級クラスの大学養成」を強調(2021年4月19日、中華人民共和国国務院公式サイトから)

 ここで看過できない点はロシアと中国が一層連携を強めてきたことだ。ロシアは情報機関やスパイ機関を駆使し、国内外の反体制派への締め付けを強化する一方、ウクライナ東部への軍事活動を展開してきた。中国は米国と正面衝突を回避する一方、隣国アジア諸国への関与を深め、その軍事力の強化、拡大に乗り出している。反中包囲網に対しては「マスク外交」、「ワクチン外交」を展開する一方、反中言動に対しては「戦狼外交」で反撃してきた(「世界で恥を広げる中国の『戦狼外交』」2020年10月22日参考)。

 米ロ関係はバイデン政権が発足した直後、既に激しい非難合戦が始まった。バイデン氏はプーチン大統領を「殺人者」と呼び、ロシアが昨年の米大統領選でサイバー攻撃を仕掛けてきたと糾弾。最近では、ロシアとチェコ両国関係が険悪化してきている。チェコ政府は、ロシアの2人の軍参謀本部情報総局(GRU)員が2014年、チェコ国内の弾薬庫を破壊したとして、最近、駐プラハ18人のロシア外交官の国外追放を行ったばかりだ。同弾薬庫はウクライナ向けの弾薬が保管されていた。

 チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長は「ロシアの国家テロ事件だ」と呼んでいる。それに対し、ロシア側は今月18日、20人のチェコ外交官の追放を決めるなど、報復に出てきている。またポーランドとの関係でもポーランド外交官を国外追放処分するなど、旧東欧諸国との関係を険悪化させている、といった有様だ。

 また、ロシアの反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏への毒殺未遂事件はロシアと欧米諸国との関係を一層悪化させている。ナワリヌイ氏が療養先のベルリンからモスクワに帰国直後、逮捕され、有罪判決を受けた件で、欧州連合(EU)はロシアへの制裁を決定している(「モスクワ版『1984年』の流刑地」2021年3月28日参考)。

 ロシアはナワリヌイ氏毒殺未遂事件の前、英国で2018年3月4日、亡命中の元GRUのスクリパリ大佐と娘への毒殺計画を実行。事件は未遂に終わったが、英国はロシアの仕業として外交官を追放するなどの制裁を実施、他の欧州諸国もこの制裁に同調した。

 米国はここにきて独とロシア間で締結した天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」の建設中止を求めている。ロシアの天然ガス独占企業「ガスプロム」とドイツやフランスなどの欧州企業との間で締結されたもので、ロシア産天然ガスを欧州に供給する目的だ。米国は「ロシアが欧州のエネルギー源を握ることになり、戦時の際にはマイナスだ」として「ノルド・ストリーム2」の即中止を求め、同計画に関与している西側企業への制裁を実施中だ。

 ちなみに、独ロ間の「ノルド・ストリーム2」は軍事協定「ヒトラー・スターリン協定」の再現だ、といった声がバルト3国やポーランドから聞かれる(「『ノルト・ストリーム2』完成できるか」2020年8月6日参考)。

 一方、バイデン政権は対中政策では中国の覇権主義、軍事拡張、香港問題から少数民族ウイグル人への人権問題を批判する一方、米・日本、韓国、オーストラリアらと中国包囲網を構築して北京政府に圧力を加えている。それに対し、中国共産党政権はその経済力を駆使して欧米諸国の結束にくさびを打ってきた。ドイツでは2016年、中国の「美的集団」が、1898年にアウグスブルクで創設された産業用ロボットメーカー、クーカ社(Kuka)を買収。また、ギリシャは2016年4月、同国最大の湾岸都市ピレウスのコンテナ権益を中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)に売却している。中国の欧州市場進出は計画的、組織的だ(「独諜報機関『中国のスパイ活動』警告」2020年7月12日参考)。

 2012年に政権に就いた習近平国家主席は新マルコポーロ構想と呼ばれる「一帯一路」計画を提示、アジア、アフリカ諸国だけではなく欧州、中東諸国までその覇権の手を伸ばしている。中国側の巨額なインフラ建設計画への投資オファーに乗った国々はいずれもその債務返済に苦しんでいる。最近では、バルカン半島のモンテネグロはセルビアに通じる全長165kmの高速道路建設で中国から巨額の融資を受けたが、債務返済不能状況に陥っている。

 中国は米国との正面衝突を回避する一方、アジア地域では、軍事力を直実に増強している。台湾の併合を画策しつつ、香港の民主化を完全に抑圧させる強硬政策を次々と実施。米国の軍事専門家によると、中国は中距離弾道ミサイル「東風26」を増強配置する一方、長距離巡航ミサイルの開発に力を入れている。中国は既にグアムだけではなく、米本土攻撃に十分な軍事力を有している。「東風26」は核、通常どちらの弾頭も搭載可能で、移動式のため攻撃を受けにくい。

 中国国営新華社通信によると、習主席は20日、「如何なる形式の冷戦にも反対だ」と表明したという。反中包囲網を構築する米国らへの警告だろう。習主席は中国共産党創立100年目の今年7月を大々的に祝い、翌年の北京冬季五輪大会(2022年2月4日開幕)を成功させたい考えだ。そのため、北京五輪大会が終わるまでは軍事力を駆使することは控えるだろう。

 問題は「その後」だ。中国は北京冬季五輪大会後、欧米との軍事衝突も辞さない強硬路線を邁進する危険性が考えられる。その際、中国はロシアを陣営に引き入れ、北朝鮮、イランも同盟に加えるだろう。欧米諸国はそれまでに強固な反中、反ロシア包囲網を構築し、北京とモスクワが軍事的冒険に乗り出さないように牽制しなければならない。
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