ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2021年03月

モーツァルト音楽は植民地主義的?

 今回のコラムにべートーヴェン(1770〜1827年)とモーツァルト(1756〜91年)登場をお願いした。ここでは前者がボン出身のドイツ人であり、後者はザルツブルク出身のオーストリア人といった彼らの出自を確認するつもりはない。音楽の世界に大きな足跡を残した2人の天才作曲家がいなかったならば、音楽の世界はどれだけ寂しいものとなっていただろうか。彼らのいないクラシックの世界は考えられないだろう。しかし、その2人の作曲家を音楽の歴史から追放すべきだと主張する人が出てきたのだ。

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▲ザルツブルクのモーツァルトの生家(ザルツブルク市観光局公式サイトから)

 そのような暴言を吐くのが音楽の世界に疎い素人ならばその無知を笑って聞き流しておけばいいが、英国の名門オックスフォード大学の音楽教授陣の中から、そのような主張が聞かれるのだ。彼らによると、両作曲家とその音楽は奴隷制度時代の世界から生まれたもので、だから大学のカリキュラムを変えるべきだと主張している。英語でいえば、decolonise the Syllabus(授業計画の非植民地主義化)だ。

 ベートーヴェンとモーツァルトの音楽を今更説明する必要はないだろう。問題は、両作曲家とその音楽のどこが“植民地主義的”かについて、当方は説明できない。彼らが生きていた時代、欧州の列強はアフリカ大陸やアジアに進出し、地下資源など富を奪うだけではなく、現地人を奴隷として酷使してきた植民地時代に突入することは事実だ。

 オックスフォード大学音楽部教授の中には「ベートーヴェンもモーツァルトの音楽も白人支配の植民地時代(White hegemony)から生まれてきた音楽だ。その音名・階名表記や楽譜は植民地主義的だ。その音楽を教える教師たちは学生たちに白人支配の植民地主義的、人種差別的世界を教えることになる」と考え、その変更を提案する学者がいる。

 次の点は少々、理解に苦しむ。「ベートーヴェンとモーツァルトの白人音楽を聞けば,、有色系学生は過去の辛い時代を思い出して苦しくなる」というのだ。ベートーヴェンとモーツァルトの音楽を聴いて、心理的、精神的ストレスを感じて苦しんだ、という黒人音楽学生の証を聞いたことはない。植民地時代の祖先の痛み、苦悩が心的外傷後ストレス障害(PTSD)となってその有色系音楽学生を苦しめてきた、という話も聞かない。

 音楽学の学者たちがいうように、黒人音楽学生が植民地時代を思い出してモーツァルトの音楽を聴きながら怒りが湧いてきたという証言を聞いたことがあるだろうか。ベートーヴェンもモーツァルトも少々奇人であり、隣人との付き合いはうまくなく、常に引っ越しを繰返してきたが、彼らの音楽を聴いて精神的に苦しんだ隣人がいたとは聞いたことがない。

 音楽教授の主張を報じた英紙デイリー・テレグラフ(3月27日付)によると、「ベートーヴェンとモーツァルトの音楽に代わってポップミュージックを教えるべきだ」と提案しているという。もちろん、このような主張を展開する教授陣は一部かもしれないが、その考えは滑稽さを超えて、少々パラノイアだ。

 音楽の効用は誰も否定できない。その音楽が素晴らしければ、それを聴く人にいい影響を与える。妊婦はモーツァルトの音楽を聴けば胎児教育にいいといわれてきた。南米出身のローマ教皇フランシスコは心が沈む時、バッハの音楽を聴けば癒されるという話をこのコラム欄でも紹介した。ベートーヴェンの交響曲第9番の「歓喜の歌」を聞いて涙を流す人をみたことがある。一方、名門大学の音楽学の教授らはそうではなく、「暗い植民地時代を思い出し、苦しくなる」というのだ。人にはそれぞれ独自の感受性があるから、それらを尊重しなければならないが、そのような受け取り方は通常の理解を超えている。

 米ミネソタ州のミネアポリス近郊で昨年5月25日、警察官に窒息死させられたアフリカ系米人、ジョージ・フロイドさん(46)の事件に誘発され、米国各地で人種差別抗議デモが行われたが、それを契機として、米国の建国史の見直し論争が出てきた。米国の歴史は「清教徒の約束の地への建国」から始まったのではなく、その150年前、アフリカから連れてきた奴隷が米国に到着した時、1619年から幕開けする」と主張するメディアや学者が出てきたことはこのコラム欄でも紹介した(「米国の『不名誉な歴史の見直し』論争」2020年6月24日参考)」。

 米国の影響を受けて、欧州でも過去の歴史の見直しを叫ぶ声が出てきた。具体的には「植民地占領時代」の見直しだ。特に、フランス、英国、ベルギーなど植民地大国だった国では、過去の植民地時代の見直しを叫ぶ歴史学者、メディアが出てきた。

 イギリス西部の湾岸都市ブリストルでは奴隷取引業者、エドワード・コルストン(1636〜1721年)の像が倒され、ベルギーのアントウェルペンではベルギーの国王、レオポルト2世(1835〜1909年)の静止画が剥がされた。同国王はアフリカのコンゴでの植民地政策が糾弾された。植民地化時代では後進国だったドイツでも「鉄血宰相」いう異名を誇ったオットー・フォン・ビスマスク(1815〜1898年)の植民地政策の再考が求められ、ビスマルク像を倒すべきかで議論が出てきている有様だ(独週刊誌シュピーゲル2020年6月20日号)。

 「歴史の見直し」と言えば、響はいいが、実際は過去の歴史を全て否定することになる。21世紀の立場から過去の歴史を見れば、いろいろな問題点は浮かび上がることは当然だろう。しかし、当時の歴史が21世紀の世界観、歴史観に一致しないからといって否定すれば、歴史の多くの事例はその検閲に耐えられないだろう。

 どの民族の歴史にも栄華の時と共に多くの負の遺産があるものだ。それらの長い歴史を経て21世紀の現在が生まれてきたわけだ。過去の負の遺産が気に食わないとして消却すれば、歴史書はきっと薄っぺらい本になってしまうだろう。歴史の年代を暗記しなければならない受験生にとっては助かるかもしれないが、薄くなった歴史はもはや歴史ではなくなってしまう。

 ベートーヴェン、モーツアルトの音楽を音楽史から追放すれば、それだけ音楽の文化遺産は乏しくなる。同じように、一時代の歴史観でもって歴史の事例を削除すれば、人類歴史の全容を掌握するチャンスを失うことにもなる。大切な点は、「歴史を審判する」ことより「歴史を直視する」ことではないだろうか。

高齢者に薬物中毒・依存傾向が拡大

 中国発の新型コロナウイルスの感染拡散で政治、経済、文化、そしてスポーツなど全分野で大きな変化をもたらしているが、犯罪分野でも伝統的な犯罪、家宅侵入窃盗事件やスリなどが激減する一方、不法なオンラインビジネス、詐欺事件が増加してきたことは、このコラム欄でも紹介した。

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▲INCB「2020年の年次報告書」

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▲米国の65歳以上の高齢者による不法薬物乱用(2918年と2019年)

 ところで、ウィーンに事務局を置く国際麻薬統制委員会(INCB)は今月25日に公表した2020年「年次報告書」の中で、不法薬物の乱用、依存が高齢者層(65歳以上)で増加してきたことに警鐘を鳴らす一方、麻薬中毒による死者の増加、オンラインを利用した不法麻薬取引の拡散を指摘。また、医療目的ではないカンナビス(大麻)の合法化の動きに警告を発している。

 プレスリリースによると、報告書は、1)高齢者の間で不法薬物の乱用が流行、2)COVID-19は医療目的の麻薬供給、予防、治療サービス分野、そして不法麻薬市場に影響を与えている、3)メタンフェタミン類や合成オピオイド(鎮痛薬)など薬物過剰摂取による中毒死の増加、医療目的外のカンナビスの乱用傾向に懸念を表明、4)アフガニスタンでのアヘン生産への懸念(2019年度世界アヘン生産の約84%を占める)、5)麻薬関連犯罪に対して法のルールと人権に合致した対応を要求、6)「麻薬一般に関する憲章」(1961年)60周年、「同修正条約」(71年)50周年を迎え、その成果などを特集し、国際条約の普遍的な履行を強調している。

 コロナ感染が1年以上続き、コロナ規制で人々は疲れを覚え、精神的にストレスを受け、さまざまな心理的症状を呈する若者たちが増え、日本でも自殺件数で増加傾向が見られる。INCBの年次報告書は高齢者の間での不法薬物乱用問題を取り上げている。報告書は「高齢者の薬物乱用傾向は以前も見られたが、コロナ禍で合法的な医薬品への需要が拡大してきた。高齢者層の隠れた薬物乱用、依存傾向は高齢者の健康、福祉を損なっている」と警告を発し、この流れをストップさせるために加盟国に統合したサポートを呼び掛けている。

 高齢者が乱用する薬物としては、鎮痛剤、精神安定剤、ベンゾジアゼピンなどだ。ちなみに、世界では2019年時点で65歳以上は約7億人、全人口の9%を占める。2050年にはその割合は16%に増加し、6人に1人が高齢者グループに入ると予想されている。社会の高齢化に伴い、高齢者の薬物中毒・依存は大きな問題だ。

 また、コロナ感染の拡大で医療品のグローバルな供給網にネガティブな影響が見られること、コロナ感染者への治療増加で他の疾患を抱えている患者の治療にも影響が出てきていることなどを指摘し、「加盟国に医療薬の不足が拡大しないように対策を取るべきだ」と要請。特に、コロナ規制で外出移動の制限、隔離措置などで多くの人々が精神的、心理的な病に陥り、薬物乱用などの傾向が増加してきたという。

 コロナ規制で海外旅行は禁止され、ソーシャルディスタンスで人と人の接触が厳しく規制されている。その影響は路上での不法麻薬取引、不法麻薬市場に影響を与えている。麻薬類によっては供給不足が見られ、価格を引き上げている。麻薬犯罪グループはオンライン取引、ダークネットを活用してきている。

 INCBが懸念している点は、麻薬中毒死の増加だ。特に、麻酔や鎮痛、疼痛緩和に利用される合成オピオイドのフェンタニルやメタンフェタミンの乱用に関連した中毒死が増えてきた。

 INCBは年次報告書でカンナビスの合法化には厳しく警告を発している。麻薬類をソフト・ドラックとハード・ドラックに分類し、前者の合法化に乗り出す加盟国が増えてきたからだ。

 ニューヨーク発の時事電によると、ニューヨーク州は嗜好用大麻の合法化を決めている。「解禁により、年間3億5000万ドル(約380億円)の税収確保と最大6万人の雇用創出につながる可能性がある」という。合法化の対象は21歳以上。大麻を担当する規制当局を設立するほか、外出時に3オンス(約85グラム)までの所持などが認められるという。米国ではカリフォルニア州を含む14州で既に合法化されている。

 合法化支持派は 「カンナビス禁止は歴史的にみても無理だ。人類の歴史で麻薬が摂取されなかった時代はなかった。この事実を受け入れる以外にないだろう。現行の麻薬関連法は多くの国民を犯罪人にし、新たに犯罪を生み出すだけだ。だから、強権で取り締まる麻薬対策は限界にきている」というわけだ。それに対し、INCBは「大麻の自由化は若い世代に間違ったシグナルを送り、麻薬の拡大を助長させる危険性がある」と警告し、「麻薬をソフト・ドラックとハード・ドラックに分類すること自体が間違いで、大麻には非常に危険な化学成分(カンナビノイド)、例えば、テトラビドロカンナビノール(THC)が含まれている」と指摘し、大麻の自由化は危険だと説明する。

「神の祝福」を失った教会の内紛

 ローマ・カトリック教会の総本山、バチカン法王庁教理省が15日、「同性婚には神の祝福を与えることを禁止する」という法令を発布したが、同性婚者ばかりか、カトリック教会内でも大きな波紋を呼び起こしている。その点についてこのコラム欄でも紹介済みだが、見逃していた点を見つけた。「神の祝福」とは何か、同性愛者が本当に教会の「神の祝福」を願っているのか、といった問題の出発点についてよく吟味していなかったことに気が付いたのだ。

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▲フランシスコ教皇、昨年の復活祭は信者のいないサンピエトロ大聖堂で記念礼拝をした(2020年4月12日、バチカンニュースから)

 カトリック教義は同性婚を認めていない。その教会から「神の祝福」を願う同性愛者がいるとすれば、教会の教えへの無知か、それとも教会に喧嘩を売っていることになる。同性婚者が本当に「神の祝福」を願うのならば、同性婚を認知しているプロテスタント教会に所属し、そこで「神の祝福」を受けたほうが手っ取り早い。同性婚を認める教会を探せば、事は解決する。同性婚者が世界最大キリスト教会であるカトリック教会の「神の祝福」を社会的認知と考え、「神の祝福」を要求するのであれば、それは教会側の混乱を目論む政治的活動というべきだろう。

 多分、大多数の同性婚者はカトリック教会の「神の祝福」など願っていないはずだ。「神の祝福」を与えるか否かで喧々諤々の議論をしているのはカトリック教会内の聖職者だけだろう。バチカン教理省が公布した「同性婚者に神の祝福を与えない」という内容は聖職者への内部通達であって、同性婚者への最後通牒でもないからだ。

 問題の焦点が絞られてくる。聖職者の中で同性婚者に「神の祝福」を与えるべきだと主張し、教理省の公布を批判する場合、その動機が「イエスの福音を性的指向に関係なく伝達したい」という宣教魂から出たものなら評価すべきかもしれない。しかし、教会の教理が認知しない同性婚に対して「神の祝福」を与えるということは教理を修正しない限り難しいという認識が欠けているのではないか。同性婚に「神の祝福」を与えよと主張する聖職者は聖典としてきた聖書66巻を書き直すか、捨てる以外にないことを自覚しているだろうか。単に寛容な姿勢を見せて、信者受けを狙っているとすれば、大衆迎合政治家と同じだ。

 同性婚が願う「神の祝福」とは、教会側が同性婚者の婚姻を認知することを意味する。しかし、聖書を聖典とするカトリック教会では教義的にも認知出来ない問題だ。これは性差の差別といった問題ではない。カトリック教会の教えに基づくもので、教会側は本来、他の選択肢がないのだ。

 聖職者と一部の同性婚者が拘る「神の祝福」とは何だろうか。神はアダムとエバを創造した後、「生めよ、ふえよ、地に満ちよ」(「創世記」第1章)と祝福している。同性婚では生物学的に難しい「生めよ、ふえよ」といった内容だ。この点でも「神の祝福」は同性婚を前提としたものではなかったことが分かる。

 興味深い点は、旧約聖書に登場する人物は「神の祝福」を奪いあっている。イサクの妻リベカは、本来はエソウが得る神の祝福をヤコブに与えるためにヤコブを助けている。ぺレツとゼラの時は胎内の時から「神の祝福」を奪い合っている。そして旧約聖書の世界では、神の祝福を得るのは長男ではなく、次男だという点だ。人類の始祖アダムとエバの長男カインが次男のアベルを殺害して以来、そのルールが継続されていることに気が付く。

 「神の祝福」を与えるのは聖職者だが、誰を祝福し、誰を祝福しないかは本来、神の権限に属する。一方、同性婚者にも「神の祝福」を与えるべきだと考える聖職者は「性差に関係なく、平等に与えるべきだ」という民主主義社会のルールを重視する場合が多い。「寛容」はその表現だろう。すなわち、人権尊重がその動機にある。

 「カイザルのものはカイザルに返し、神のものは神に返せ」(「マタイによる福音書」第22章)という聖句を思い出す。「神の祝福」を神の権限から切り離し、この世のルールに従って取り扱おうとすることから混乱が生まれてくるわけだ。「わたしは自分のあわれもうとする者をあわれみ、いつくしもうとする者を、いつくしむ」(「ローマ人への手紙」第9章)という聖句に神の権能と特権が記述されている。

 同性婚者の責任ではない。聖職者の問題だ。深刻な点は、「神の祝福」を人権擁護の思想を振りかざして安売りする聖職者が少なくないことだ(「『同性婚への祝福禁止』に反旗続々」2021年3月25日参考)。

 蛇足だが、神が弟アベルの供え物を受け取り、自分の供え物は受け取られなかったことを知った兄カインは失望し、激怒した。怒りを抑えきれなかったカインは弟アベルを殺害する。人類最初の殺人は、神から認知されなかった、という怒りと恨みが犯行動機となって生じた。人類の歴史は、「神の祝福」を得た者とそれを受けられなかった者との間の、悲しいまでの争いの繰り返しだったといえるわけだ。

 最後に、そもそも聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発し、財政不正問題が表面化するなど、信者たちの信頼を失ったローマ・カトリック教会に「神の祝福」を与える資格があるだろうか、という問題が残る。同性婚への神の祝福云々で議論する前に、教会が「神の祝福」を失ってしまったのではないか、という問題について、深刻に悩むべき時ではないか。

モスクワ版「1984年」の流刑地

 ロシアの反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏は現在、モスクワから東部100km離れたウラジーミル州ポクロフ(Pokrow)にある流刑地(IK−2)に収監されている。独週刊誌シュピーゲル(2021年3月20日号)は同氏の近況を報告する「レット・エリアで」(In der roten Zone)という見出しの記事を掲載している。

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▲ロシア連邦安全保障理事会にビデオ参加するロシアのプーチン大統領(ロシア大統領府公式サイトから、3月26日)

 ナワリヌイ氏によると、同刑務所では囚人への暴力など物理的な圧迫はない代わりに、囚人に対して徹底した監視と、心理的、精神的暴力がまかり通っているという。同氏は「モスクワ近郊にこのような強制収容所が存在するとは考えたこともなかった」と証言している。

 ナワリヌイ氏は昨年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちにモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談。そして同月20日、モスクワに帰る途上、機内で突然気分が悪化し意識不明となった。飛行機はオムスクに緊急着陸後、同氏は地元の病院に運ばれた。症状からは毒を盛られた疑いがあったため、交渉の末、同月22日、独ベルリンのシャリティ大学病院に運ばれ、そこで治療を受けてきた。

 ベルリンのシャリティ病院はナワリヌイ氏の体内からノビチョク(ロシアが開発した神経剤の一種)を検出し、何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けた。英国、フランス、そしてオランダ・ハーグの国際機関「化学兵器禁止機関」(OPCW)はベルリンの診断を追認した。一方、ロシア側は毒殺未遂事件への関与を否定してきた。ベルリンで療養生活を5カ月余り過ごした後、モスクワへ戻り、即、拘留されたわけだ。理由は「執行猶予期間の出頭義務を怠った」というもので、禁固2年半余りの実刑判決が言い渡された。

 ロシア当局を激怒させたのは、.淵錺螢魅せ瓩昨年12月21日、ロシアの安全保障当局者になりすましてベルリンから電話し、自身を殺害しようとしたロシア連邦保安庁(FSB)工作員から犯行告白を聞き出し、その内容を公表したこと、同氏のグループがプーチン大統領の豪華な宮殿(推定1000億ルーブル)を撮影した動画を公表し、プーチン氏の汚職腐敗の実態を暴露したことだろう。

 シュピーゲル誌はナワリヌイ氏の刑務所(収容能力約800人)から出たばかりの元囚人に取材して刑務所の生活について聞いている。先述したように、囚人への物理的暴力はほとんどないが、心理的な暴力が強いという。テレビを長時間見るように言われ、その間目を閉じてはならない。毎朝、長時間外に立たされ、監視員の指令を受ける。全ての行動は監視され、至る所で監視カメラがフィルムを撮っている。ナワリヌイ氏は夜、何度も起こされる。目を覚ますと監視員が傍にいてチェックしているという。

 同刑務所の話を聞いていると、イギリスの小説家ジョージ・オーウェルの小説「1984年」を思い出す。ビック・ブラザーと呼ばれる人物から監視され、目の動き一つでも不信な動きがあったら即尋問される。何を考えているのか、何を感じたかなどを詰問される世界だ。そこでの合言葉は「ビック・ブラザー・イズ・ウオッチング・ユー」だ。

 人は嘘をつく時、表情、眼球、口周辺の筋肉に通常ではない動きが出てくる。それを見つけ出し、嘘を言っているのか、本当かを推理していく。その微妙な動き、表情を専門家たちは「マイクロ・エクスプレッション」(微表情)と呼んでいる。FoxTV番組「Lie to me」(嘘を言ってごらん)の世界がモスクワ近郊の刑務所で実行されているというのだ。

 そこでは思想警察(Thought Police)と呼ばれる監視員がいる。その任務は党のドクトリンに反する人間を監視することにある。例えば、党のドクトリンには「2+2=5」と書かれている。その計算が正しいと教えられる、それを受け入れず、拒否すれば射殺される。自由とは奴隷を意味し、戦争を扱う「平和省」と呼ばれる部門があり、「愛情省」は憎悪を扱う部門といった具合で、全ては180度意味が違う。言葉に別の意味を与えてロゴスを支配する。

 カナダのトロント大学心理学者ジョーダン・ ピーターソン教授は、「これを言ってはならない」といわれる以上に、「これを言わなけれならない」と強いられるほうが人間の心理に大きな圧迫を与える」と述べている(「J・ピーターソン『宗教抜きの倫理・道徳はない』」2018年2月23日参考)。

 そして最後は、殴打されて潰れた顔で裸になって鏡の前に立たされ、「自分の姿を見ろ」と命令される。惨めな自分の姿をみて、残されていた全ての誇りをも崩れ落ちる。そして党の教えを受け入れる。それから射殺されるのだ。「1984年」の世界では自身の世界観、信仰を信じて、それに殉教することは絶対に許されないのだ。アウシュヴィッツの強制収容所で他の囚人のために自ら亡くなったコルベ神父のような殉教者は出てこないのだ。

 ナワリヌイ氏が収容されているIK−2(第2刑務所)の収容所はオーウェルが描いた「ディストピア」の世界に近いのではないか。囚人は他の囚人と会話できない。そして頭の中で考えている世界まで監視の手が届く。KGB(ソ連国家保安委員会)出身のプーチン大統領は自身の支配体制に障害となる政治犯をIK−2に送り、そこで囚人の人格を根底から抹殺しているのではないか。

 中国共産党政権は少数民族ウイグル人を再教育施設、職業訓練所という名目の強制収容所に集め、同化政策を実行している。一方、ロシアのプーチン氏はIK−2という心理的暴力を駆使した流刑地で政治犯を収容し、そこで人格改造を行っている。モスクワ版「1984年」の世界に収容されているナワリヌイ氏の身が案じられる。

葬儀屋はなぜヒーローになれないか

 スイス放送協会のウエブサイト「スイス・インフォ」からニュースレター(3月10日付)が届いた。その中にコロナ禍で遺体を運び、埋葬、火葬する葬儀屋の現況を報道した記事があった。コロナ禍で自身の感染リスクも顧みず、患者をケアする医師や看護師は英雄と称えられ、他の営業が閉鎖されている時も国民の食糧や日用品を販売しているスーパーの従業員に対しても感謝の声が聞かれるが、コロナ感染で亡くなった患者を運び、埋葬する葬儀屋さんに対しては感謝の声は聞かれない。スイス・インフォの記事は「葬儀屋はコロナ禍でなぜ英雄でないのか」を問いかけているのだ。

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▲スイスの葬儀屋さん(スイス・インフォ公式サイトから)

 欧州で最初に感染が拡大したイタリア北部ロンバルディア州のことを思い出す。コロナウイルスが猛威を振るい、多くの死者が連日、病院から葬儀場に秘かに運ばれていく。死者の数が多く、埋葬の場所がない。軍トラックで他の州に転送される写真が掲載されていた。医療は崩壊し、集中治療用ベッドもなくなり、どの患者に酸素呼吸器を提供するかを決定しなければならない医師たちは苦悩し、若い医師が病院のフロアに崩れ落ちて涙を流すシーンを撮った写真を見た。

 新型コロナは感染病だから、遺族関係者は亡くなった家人との一切のコンタクトが厳禁される。新型コロナの場合、妥協を許さないほど非常に厳格だ。新型コロナ患者は重症化した場合、集中治療室で人工呼吸器のお世話になる。不幸にも亡くなった患者は、家族、友人、知人に「さようなら」をいう時間すら与えられず、素早く火葬され、埋葬される。

 葬儀には、社会・地域で長い歴史を通じて培われた文化的内容が刻印されている。死者は厳粛な葬儀の洗礼を受けて旅立つ。しかし、中国武漢市で発生した新型コロナウイルスは新しい「死」を生み出したわけではないが、「死」を迎えた人と生きて送る人との別れの時を奪い取ってしまった。酷な業だ。

 オーストリア代表紙プレッセの科学欄(昨年4月25日付)は「新型コロナはウィルスで人を殺すだけではなく、残された遺族関係者には心的外傷後ストレス障害(PTSD)を与える」と述べている。PTSDはベトナム戦争やイラク戦争帰りの米軍兵士によく見られたが、新型コロナの場合にも遺族が死者との関係を断ち切られることで、消すことが出来ない精神的ダメージを受ける(「新型コロナは『人と死者』の関係断つ」2020年4月29日参考)。

 そのような状況下で、葬儀屋は感染リスクを顧みず、埋葬、火葬の責任を担当してきた。スイス・インフォは「葬儀屋は感染リスクに晒されながら最前線で貢献してきた。コロナ危機発生から1年経った今も、市民から拍手が送られたり、公に感謝の意を表されたりすることはない。一体なぜなのか?」と問いかける。その問いかけは決して僻みでも不平不満でもなく、葬儀屋さんの偽りのない現状だというのだ。

 「本来であれば遺族にしてあげられるはずのサポートを提供できないことが、葬儀屋自身をも不安にさせる。コロナ禍で公的に英雄視されないこと以上に、遺族関係者に対し葬儀のプロは負債感を持っている」という箇所を読んだ時、心が痛くなった。

 スイスの歴史学者ニック・ウルミ氏は、「この仕事で一番苦労するのは遺体の準備や埋葬・火葬ではない。遺体に触ることにはすぐ慣れるが、痛みや悲しみに慣れることはない。これはこの仕事をする限りつきまとう課題だ。葬儀屋の従業員は、皆口を揃えてそう言う」と証言している。

 欧州では感染リスクの職種に従事している国民が優先的にワクチン接種を受けるが、スイス連邦内務省保健庁(BAG/OFSP)はCOVID-19のワクチン接種優先グループから葬儀屋を外したという。それに対し、スイス葬祭業協会(SVB)のフィリップ・メッサ会長は、「我々は感染のリスクに晒されている。非常に残念だ」と嘆いている。この決定はコロナ禍で従事する葬儀屋さんの仕事が社会の認知を受けていないことを意味するだけに、辛いだろう。

 そこで今回のコラムのテーマだ。なぜ葬儀屋さんは社会的認知を受けないのだろうか。人間は死ぬ存在だ。だれにも等しく死が訪れてくる。その一方、死は久しくタブーの世界に追いやられてきた。だから、死を取り扱う葬儀屋さんの存在もあたかも存在しないかのように受け取られてきたのではないか。葬儀屋さんの職務が公の場で感謝されたり、英雄扱いされることは本来、考えられないのかもしれない。それ故に、といったらおかしいが、スイス・インフォの今回の記事は葬儀屋さんの現状を伝える貴重な証言だ。

 読者の中には日本の映画「おくりびと」(2008年、滝川洋二郎監督)を観られた方も多いだろう。そこでは納棺師の苦悩や日々が描かれ、多数の映画賞を獲得した作品だ。日本の納棺師とスイスの葬儀屋さんには文化、風習の違いがあるが、共通点もあるはずだ。ちなみに、同映画は第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞している。

ドイツ極右党に陰りが見え出した

 ドイツで今月14日、2州の議会選挙が実施され、メルケル首相の与党「キリスト教民主党」(CDU)はいずれも得票率を落とし、メディアでは「CDUの惨敗」という見出しで報じられたばかりだが、同州議会選の結果で見落としてはならないトレンドは、これまで躍進し続けてきた極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)に明らかに下降傾向が見られ出したことだ。連邦議会選を含む過去の選挙戦では連戦連勝で、前回の連邦議会選(2017年9月24日)では得票率12・6%を獲得し、第1野党の地位を確保してきた。そのAfDがここにきて勢いを失ってきたのだ。

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▲メルケル政権のコロナ規制を「無計画なものだ」と批判するAfDのイェルク・モイテン党首(AfD公式サイトから、2021年3月24日)

 AfDは2013年2月に結党した新しい党でまだ10年もたっていない。その新党の飛躍の理由ははっきりとしている。同党は欧州連合(EU)からの離脱を訴え、2015年の中東・北アフリカからの難民殺到時には難民受け入れに強く反対してきたからだ。特に、100万人余りの難民殺到に直面し、多くのドイツ国民はメルケル首相の“難民ウエルカム政策”に不満を持っていた。AfDは難民殺到に不安と懸念を有する国民や、外国人排斥運動の受け皿となった。AfDはドイツ国民の不安、懸念を煽ることで支持を得て、州議会選で得票率を大きく伸ばした。シンプルに表現すれば、難民がAfDを躍進させ、結党4年目に過ぎなかったAfDを連邦議会で第3党に押し上げた原動力だったわけだ。

 そして今年9月には連邦議会(下院)選を迎える。ドイツの世論調査によると、2大政党のCDU・CSUと社会民主党(SPD)の後退は織り込み済みだが、AfDの低迷も予想されているのだ。ズバリ、新型コロナウイルスの感染問題でAfDは信頼を失った、というのだ(躍進が予想される政党は「同盟90/緑の党」)。

 先ず、3月に実施された2州の議会選の結果を見てみよう。ドイツ16連邦州では人口で3番目(約1073万人)に大きいバーデン=ヴュルテンベルク州では、クレッチマン首相が率いる「緑の党」が同党最高得票率約32・4%を獲得し、楽々と第1党を維持したが、AfDは前回比で得票率5%減と大きく後退し、10・4%の自由民主党(FDP)に抜かれ第5党に後退した。ラインラント=プファルツ州ではドライヤー首相のSPDが約36%を獲得して第1党をキープ、AfDは前回比3・5%減で9・1%に落ちた。

 選挙のスーパー・イヤーの開幕戦だった同2州議会選の直前、与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSD)に所属する2人の連邦議員が新型コロナウイルス感染防止用マスクの調達で賄賂を受け取っていた疑いが浮上し、メディアで大きく報じられてきた。与党がスキャンダルで苦しんでいる時、本来は野党第1党のAfDのチャンスだったのだ。

 ドイツでも英国発の新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るってきた。新規感染者も増加傾向にある。それを受け、メルケル政権はコロナ規制の強化策を打ち出した。同時に、コロナ禍が1年以上継続し、国民の間でコロナ疲れが見えだし、コロナ規制への不満が高まってきている。本来、野党第1党のAfDのチャンスだが、今月の2州議会選の結果や世論調査を見る限り、AfDは支持率を落としている(同2州は旧西独に所属する州だ。旧東独での州議会選の結果をみないかぎり、AfDの現時点の勢いを正確には予測できないが)。

 AfDの躍進は昨年の2020年2月5日に実施されたテューリンゲン州の州首相選までで、その後は下降してきた。AfDに陰りが出てきたのは、中国発の新型コロナウイルスの感染が欧州全土に拡散し、多くの感染者、犠牲者が出てきた頃からだ。コロナ対策で政党としてAfDの限界を吐露したのだ。メルケル政権のコロナ対策を批判する一方、コロナ禍の深刻さを過小評価し、コロナ規制に反対し、マスクの着用にも抵抗を示してきた。その間、コロナ感染で感染者が増え、死者も増加していった。

 AfDだけではない。隣国オーストリアでも極右「自由党」の支持率は落ちている。中道右派「国民党」と連合政権を発足していた時のような勢いはまったくなくなった。シュトラーヒェー党首のスキャンダルと同党首の解任劇(2019年5月)も影響したが、やはりコロナ政策で自由党は躓いている。同党ナンバー2のキッケル院内総務は3月、コロナ規制反対のデモ集会にマスクなしで参加し、クルツ政権のコロナ規制を厳しく批判している。その間にも同国では新規感染者数が3000人台に突入し、病院の集中治療室のベッドで空きが激減してきたのだ。

 多くの国民の間には政府のコロナ規制に不満があったとしても、感染予防ではマスク着用、2mのソーシャルディスタンスが大切だというコンセンサスがある。そのような時、AfDや自由党のコロナ対策は無責任で、批判するだけの政党と受け取られてきた。問題解決の具体的な実務能力に疑問が呈されたわけだ。

 シュピーゲル誌(2020年8月14日号)で興味深い統計が掲載されていた。ドイツでは極右派政党支持者はショッピングや公共運輸機関の利用の際のマスク着用には「他の政党支持者より強い抵抗がある」というデータだ。調査の結果によると、「同盟90/緑の党」と与党CDU/CSUの支持者はマスク着用に87%が「慣れた」と答え、SPD支持者は86%だ。AfDの場合、55%と低い(「極右派はアンチ・マスク傾向が強い?」2020年8月18日参考)。

 ドイツでは過去、極右派テロ事件が頻繁に発生してきた。その度にAfDは批判のやり玉に挙げられてきたが、マイナスの影響を最小限度に抑え、選挙では支持を伸ばしてきた。ちなみに、独連邦憲法擁護庁は今月3日、AfDを「監視対象」とすることを決めたが、ケルン市の行政裁判所は「政党の活動を制限するためには十分な議論がなされていない」として、監視の差し止めを要請している(「なぜ極右過激テロ事件が増えるのか」2020年2月25日参考)。

 AfDは2015年の難民殺到で大躍進し、2020年以降はコロナ感染問題で支持を失ってきたということになる。今年9月末の次期連邦議会選までにAfDが勢いを回復できるかは、国内のコロナ禍の状況で左右されるだろう。

 気になるニュースが飛び込んできた。北アフリカのリビアで多くの若者たちが欧州に殺到する動きが見られるというのだ。地中海を超え、欧州、ドイツを目指すリビアからの難民が増加すれば、難民対策が欧州の主要テーマにカムバックする。AfDはその機会を逃さないだろう。

「同性婚への祝福禁止」に反旗続々

 バチカン教理省が発表した「同性婚には神の祝福を禁止」という声明は、欧州のカトリック教会で大きな反発と批判を呼び起こしている。独日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)23日付によると、神父、神学者、修道院関係者、教会活動家ら2000人以上がバチカンの表明に異議を唱え、組織的な抵抗運動を呼び掛けている。同運動はローマ教皇フランシスコへの「不従順宣言」と受け取られるだけに大きな波紋を呼ぶことは必至だ。

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▲LGBTの社会運動のシンボル旗レインボーフラッグ(ウィキぺディアから)

 カトリック教義の番人、バチカン教理省(前身・異端裁判所)は15日、「同性婚者への神の祝福を与えることは出来ない。これは同性愛者への差別でもないし、審判でもない」という内容の声明文を公表した。声明文には教理省長官ルイス・ラダリア枢機卿と次官のジャコモ・モランディ大司教が署名している。もちろん、フランシスコ教皇の承認のもとで公表されたものだ。

 声明文によると、「教会は同性愛に基づく婚姻に対し、神の祝福を与える権限を有していない。同性愛者のカップルに対し、神父はその婚姻に如何なる宗教的な認知を与えることも禁止される」と述べている。教理省の表明内容は決して新しくない。カトリック教会は同性婚問題ではこれまでも反対してきた。新しい点は同性婚問題で曖昧な態度を取ってきたフランシスコ教皇が「同性婚は神の計画ではない」とはっきりノーと答えたことだ。南米出身のローマ教皇に期待してきたリベラルな聖職者、神学者、信者たちは今回のバチカン教理省の声明に失望を超え、ショックを受けたわけだ。

 独教会では過去、平信者グループや聖職者グループ、神学者たちがバチカンの方針に異議を唱え、衝突するケースがあったが、今回の同性婚への神の祝福禁止令でバチカンとの関係が更に険悪化するのではないかと懸念されている。

 バイエルン州のバンベルク大司教区のルドヴィック・シック大司教 は21日、「神の祝福が既婚者、シングルマザー、他の生活様式で生きている人にもありますように」と説教の中で語っている。 エッセン司教区フランツ・ジョセフ・オバーベック司教は全教区宛てに書簡を送り、同性愛者に対し、その生き方を真摯に評価する旨を表明している。同じようなトーンはドレスデン教区やオスナブリュック教区の司教たちからも聞かれる。それだけではない。ミュンスター大学では200人以上の神学教授が声明文を公表し、「バチカンの声明には神学的な深みが欠けている」と指摘している。

 その一方、バチカンの声明を歓迎する声もある。レーゲンスブルク教区やパッサウ教区の司教たちは、「バチカンの声明は同性婚問題で明確な路線を提示した」と評価。聖職者の未成年者への性的虐待事件を隠蔽した容疑問題で大きな衝撃を与えた独教会ケルン大司教区のライナー・ヴェルキ大司教は、「カトリック教会の婚姻観と家庭観を明確にするものだ」として歓迎する一方、「如何なる性的指向とは関係なく、全ての人に寛容に接することは教会の基本姿勢だ」と説明している。

 バチカンの「同性婚への神の祝福禁止」は独教会だけではなく、隣国ベルギーやオーストリア教会にも大きな波紋を投じている。今月19日にはウィーンの教会で性的少数派のシンボル、レインボーフラッグが教会の建物から垂らされ、バチカンへの抗議意思を表明している。「不従順への呼びかけ2・0」運動はバチカンの祝福禁止に対して強く反対している。同運動には380人の神父、助祭が参加している。また、ベルギーではアントウェルペン司教区のヨハン・ボニー司教は、「バチカンの決定を恥ずかしく思う」と述べている、といった具合だ。

 ところで、欧米社会では同性愛を含むLGBT(性的少数派)を擁護する人々が増えてきている。それを社会の多様性の現れと受け取る人々も出てきた。その多様性を支えているのは「寛容」という言葉だ。誰もが他者に対して寛容でありたいと願う。性的少数派に対しても同様というわけだ。

 それに対し、現代の代表的思想家の一人、ポーランド出身の社会学者ジグムント・バウマン氏は、「寛容は無関心の別の表現の場合が多い。自分に直接関係ない限り、どうぞご自由に、といった姿勢が隠れている」と指摘し、現代人の「寛容」には無関心さが潜んでいると喝破している。同時に、「寛容」を叫ぶ人々には自分の弱さも認めてほしいという願望が潜んでいるというのだ。独週刊誌シュピーゲルとのインタビューの中で答えている。

 バウマン氏は、「リベラルな社会では個人の利益が最優先され、人間の相互援助の精神は次第に失われていく。社会的連帯は個人の自己責任に代わり、人間同士の繋がりは失われていく。現代人が自己のアイデンテイテイに拘るのは共同体意識が失われた結果だ」というわけだ。

 多くの現代人にとって同性愛やLGBTも自分に悪影響を及ぼさない限り、どうでもいいことだ。しかし、「多様性」と「寛容」が時代の用語となっている今日、表立って異をとなえれば、「寛容のない人」というレッテルを張られてしまう。その一方、「同性愛やLGBTは間違っている」と主張する人が出てくれば、それに反論することで「寛容の実証」を求められる知識人も出てくるわけだ。いずれにしても、性的少数派は現代社会の「寛容」エールを「認知された」と受け取らないほうがいいだろう。

教皇「人種差別は憎悪ウイルスだ」

 欧州では目下、新型コロナウイルスの変異株、特に英国発のウイルス変異株(B.1.1.7)が猛威を振るっている。中国武漢から発生した新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の感染が広がって1年が経過した。世界各地でさまざまな変異株が生まれている。ウイルス学者によると、英国発のほか、南アフリカ発、そしてブラジル発のウイルス変異株などが明らかになっている。

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▲新型コロナウイルス(covid-19)=AGES公式サイトから 

 ところで、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は国連の「国際人種差別撤廃デー」の21日、米南部ジョージア州で今月16日発生したアジア系米人を含む8人が襲撃された事件に言及し、「人種差別は至る所に潜んでいる。危険なウイルスだ」と指摘し、「そのウイルスからさまざまな変異株が生まれている」と警告を発した。アトランタのアジア系女性襲撃事件の背後に、アジア人憎悪がその根底にあるという。フランシスコ教皇はそれを「憎悪は“変異”する」と今どきの表現で語っている(アトランタ襲撃事件の犯人の動機は性的嗜好からで、アジア人への人種差別ではなかったという情報もある)。

 アトランタの銃撃事件前にアジア系米人への差別はなかったか、といえば、あった。黒人への差別ほどではないが、アジア系への憎悪犯罪はあったし、今も米国だけではなく、欧州でも見られる。例えば、フランスのパリで2月10日、日本人が強酸性の液体による攻撃を受けたことが判明している。 在フランス日本国大使館によると同日夕方、パリ17区を3人の邦人がいたところに、フードをかぶり下を向いて歩いてきた3人組(男女の別不明)に日本人の1人がいきなり顔に向けて液体をかけられるという被害にあった。フランスではアジア人を対象にした暴力行為「アジア人狩り」が見られる。フランスでは人種差別ウイルスの変異株、アジア嫌悪ウイルスが潜んでいるわけだ。

 世界保健機関(WHO)は先月、新型コロナウイルスの発生源、中国武漢市で現地調査を行った。新型コロナウイルスの起源を調べることが目的だった。同じように、アジア系憎悪への人種差別を理解するために、米国の黒人人種差別の発生源を知ることが重要となる。

 米国では黒人への襲撃事件が発生する度に人種差別に抗議するデモ集会が開催されてきた。米ミネソタ州のミネアポリス近郊で2020年5月25日、警察官に窒息死させられたアフリカ系米人、ジョージ・フロイドさん(46)の事件を契機に米国全土で人種差別抗議デモが再熱し、多くの若者が路上デモに参加した。ブラック・ライブス・マター運動(BLM)が米国ばかりか世界的に拡がっていった。

 アトランタでのアジア系米人への襲撃事件でも人種差別に抗議するデモ集会が開催された。バイデン大統領は19日、アトランタを訪問し、アジア系市民への憎悪犯罪について「沈黙すれば共犯だ。行動しなければならない」と述べ、人種差別の撲滅を訴えたばかりだ。

 問題が浮かび上がる。黒人への人種差別事件が発生する度にメディアで大きく報じられ、政治家たちの批判の声が出てくるが、黒人への人種差別に基づく憎悪犯罪は減少するどころか、増加傾向にあるのだ。

 米国の黒人女性活動家キャンディス・オーエンスさん(Candace Owens)は「民主党は黒人に対し、『君たちは人種差別の犠牲者だ』と洗脳し、黒人が犠牲者メンタリティから抜け出すことを妨げている」と警告している。保守派ラジオ放送の黒人パーソナリティのラリー・エルダー氏は、「黒人は75%が父親がいない家庭で成長してきている。すなわち、家庭の崩壊だ。だから、人種差別が問題というより、家庭の崩壊が大きな問題だ」と指摘、家庭崩壊を助長するようなリベラルな政治を推進する民主党を批判している。黒人人種差別の背後に、民主党の責任があるというのだ。民主党は支持基盤である黒人が自立し、彼ら自身が犠牲者と考えなくなることを恐れている、という。

 犠牲者メンタリティを植え付けられた黒人は「われわれは多数派によって迫害され、虐待されてきた。全ての責任は相手側にある」という思考パターンが強い。フェミニズム、ミートゥー運動もその点、同じだ。しかし、それが行き過ぎると、弱者、少数派の横暴となる一方、強者=悪者説が広がり、強者は守勢を強いられる。社会は活力を失い、健全な社会発展にもブレーキがかかる、といった悪循環が生まれてくる(「成長を妨げる犠牲者メンタリテイ」2019年2月24日参考)。       

 一方、アジア系米人には黒人に見られる犠牲者メンタリテイは少ない。ハンディを自力の努力で克服しようとする傾向が強いうえに、差別や迫害に声をあげて訴えることは少なかった。民主党もアジア系米人への差別事件にはあまり関心を注がなかった。すなわち、犠牲者メンタリティの有無が黒人への人種差別とアジア系への人種差別に対して、その後の動向の相違となって表れてきたわけだ。黒人人種差別の場合には声を大にして叫ぶ左派グループも、アジア系米人差別事件に対しては沈黙してきた。今回のアトランタのアジア系米人の襲撃事件では民主党系の左派グループが抗議のデモを行ったが、それは犯人が白人だったからだ、といわれる。

 人種差別の憎悪ウイルスは久しく黒人差別ウイルスと受け取られてきたが、黒人差別ウイルスもアジア人差別ウイルスと同様、憎悪ウイルスの変異株だ。両ウイルスの違いは、遺伝情報としての犠牲者メンタリテイの有無だ。アジア人差別ウイルスは憎悪ウイルスの“変異株”ではなく、“変異種”と考えるべきかもしれない。

 蛇足だが、人種差別への抗議運動や啓蒙活動などで憎悪ウイルスへの風当たりが強まってきたことを受け、憎悪ウイルスも何らかの対応が必要となってくるはずだ。ワクチンが出てくれば、ウイルスはそのハードルを越えるために変異するようにだ。

 国連の「国際人種差別撤廃デー」は1966年、国連総会で制定された記念日だ。1960年3月21日、南アフリカのアパルトヘイト(黒人人種隔離政策)に抗議するデモ集会が治安部隊に弾圧された日を想起するために制定された。同デーが制定されてから40年以上が経過した。人種差別の憎悪ウイルスは今日、中国武漢発ウイルスの発生を契機にさまざま変異株(変異種を含む)を生み出してきている。

「スプートニク后廚呂覆七われるか

 欧州連合(EU)域内市場担当のティエリー・ブルトン委員(仏)は21日、「EUは7月中旬までには新型コロナウイルス(SARS-Co坑押砲悗僚乎通髪屐米Herdenimmunitat)を実現するだろう」と、フランス民間テレビ放送TF1とのインタビューの中で語った。コロナウイルス感染に怯えてきた欧州諸国にとって朗報だ。

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▲7月中旬までにEU域内の集団免疫が実現すると主張するブルトン域内市場問題担当委員(EU委員会公式サイトから)

 ブルトン委員によると、3月から6月にかけ3億〜3億5000万回分のワクチンが加盟国に供給される予定という。そして「EUはロシア製ワクチン、スプートニク垢悗亮要はまったくない」と付け加えた。加盟国の中にはブリュッセルからのワクチン供給が遅れているため、スプ―トニク垢簔羚餽餡醗緻集団「シノファーム」(Sinopharm)のワクチンを輸入する動きが見られる。ブルトン委員の発言は「心配しなくても大丈夫だ」というシグナルを加盟国に発信する狙いがあったのだろう。

 同委員の説明によると、EU域内で3月で6000万回分、4月には1億回分、そして5月には1億2000万回分が供給される。EU域内で現在、55カ所でワクチンが製造されているという。もちろん、この数字はブリュッセルがワクチン製造メーカーに発注した量だ。具体的に供給できるかは別問題としても、数字だけを見る限り、EUの集団免疫は今年上半期にはほぼ実現できるということになる。

 ところで、今回のコラムのテーマはその後の同委員の発言だ。「スプ―トニク垢浪そでは不必要だ」という部分だ。ロシア製ワクチンはプーチン大統領が世界最初のワクチンとして大々的に宣伝したもので、世界で15カ国以上で既に接種されているが、欧州医薬品庁(EMA)はまだ認可していない。ただし、欧州でも新規感染者が急増するハンガリー、チェコ、イタリアでは、ブリュッセルからのワクチン供給を待っている余裕がないとして、ロシア製ワクチンを発注したり、既に接種を実施している。

 オーストリアのクルツ首相はロシア製ワクチンへの抵抗が少ない指導者の一人だ。同首相は国内でスプ―トニク垢寮渋い硫椎柔を模索している、というニュースが流れてきたばかりだ。国民の反応は別として、クルツ首相としてはワクチン接種の遅れを何とか解決したいという思いが強いのだろう。実際に、ロシア製ワクチンを国内で生産するというより、ワクチン供給の遅れの原因であるEU本部ブリュッセルへの当てこすりの意味合いも含まれているはずだ。

 イタリアでは国内の感染病専門病院「ラザロ・スパランツァーニ」で既にスプートニク浩楴錣試験的に始められている。将来の国内生産を視野に入れた試みという。ハンガリーは欧州諸国で先駆けてスプートニク垢寮楴錣鮖呂瓩森颪澄スロバキアではロシア製ワクチンの発注問題でマトヴィチ政権内で争いが起きている。

 ロシアのワクチン製造は長い歴史を誇る。実際、スプ―トニク垢陵効性は91・6%だ。その数字は、米製薬大手ファイザーと独バイオ医薬品企業ビオンテックが共同開発したワクチンやモデルナ(共にmRNAワクチン)と同じ水準であり、英製薬大手アストラゼネカのワクチン(ウイルスベクターワクチン)より数段高い。また、少なくとも副作用のケースは西側では余り報告されていない。アストラゼネカのワクチンは今月、接種後に副作用の疑いがあるとして一時的に接種が停止されたばかりだ(今は再開)。

 いずれにしても、欧米諸国ではロシア製ワクチンに対する評価は低いというか、敬遠される傾向がある。「ロシア製ワクチンを接種することは、ロシアン・ルーレットだ」と口悪くいう者もいるほどだ。

 伝統的に親ロシア国のセルビアなど一部の国を除くと、欧州ではロシア製ワクチンに対しては中国製ワクチンより抵抗が強い。後者は安価で迅速な供給能力が最大のセールスポイントだ。欧州諸国には冷戦時代から積み重ねられてきたロシア〈旧ソ連)との苦い体験が払しょくできない面があるのだろう。その点、欧州は過去、中国と直接軍事衝突したことがなかった。この違いは大きい。 

 ロシア製ワクチン「お断り」はロシアへの偏見だろうか、それとも品質面で欧米製品より実際劣っているからだろうか。この問題はロシアが今後、国民経済を発展させるうえで看過できないテーマだ。単なる風評か、事実か。現代風に言えば、フェイクかファクトかだ。

 話は飛ぶが、失言癖が多いことで知られるバイデン米大統領は17日に放送されたABC放送とのインタビューの中で、「プーチン大統領は殺人者だ」と答えて物議をかもしている。AFP通信によると、プーチン氏自身は18日、「お互いさまだ」と述べ、極力平静を保っているが、ロシア国内では強い反発が出てきている。

 バイデン氏の発言は外交表現としては不味いが、厳密に言えば「プーチン氏は殺人者だ」という発言は根拠のない暴言ではない。ロシアの反体制派活動家ナワリヌイ氏が昨年8月、シベリア西部のトムスクを訪問後、モスクワに帰る途上、機内で突然気分が悪化し意識不明となった毒殺未遂事件が生じたばかりだ。ドイツ、英国、フランス、そしてオランダ・ハーグの国際機関「化学兵器禁止機関」(OPCW)は旧ソ連の毒薬ノビチョクが検出されたと証言している。英国では2018年3月4日、亡命中の元GRUのスクリパリ大佐と娘が、英国ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見され、調査の結果、毒性の強い神経剤が犯行に使用されたことが判明している、といった具合だ。ロシアが関与した、この種の犯罪事例は少なくない(「独ロ『戦略パートナー』関係の終焉か」2020年9月3日参考)。

 まとめる。スプ―トニク垢任澆蕕譴襯蹈轡∪修悗侶找心、そしてバイデン氏の「プーチン氏は殺人者」発言を考える時、ロシアの近未来に対して少々暗くならざるを得ない。ロシア経済の発展や民主化までにはまだまだ長い道のりが控えている、という結論になるからだ。

神父の性犯罪問題と「死人に口なし」

 独ローマ・カトリック教会のケルン大司教区で18日、同大司教区内で発生した聖職者による未成年者への性的虐待事件の調査報告書が発表された。同報告書は初めてではない。同大司教区の騒動は、最高指導者ライナー・ヴェルキ大司教(枢機卿)が2017年に実施した調査報告書が「調査方法が十分だ」として公表を避けたことが原因で、同大司教の辞任要求が起き、教会脱会者も急増した。それを受けて、同大司教は自身が任命した刑事弁護士ビヨルン・ゲルケ氏に調査を依頼した。今回、その調査報告書(約800頁)が公表されたわけだ。

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▲第2の調査報告書で聖職者の性犯罪を隠ぺいした責任を追及された故マイスナー枢機卿(独ケルン大司教区の公式サイトから)

 結論から説明すると、同大司教区で1975年から2018年の間に発生した聖職者の性犯罪を隠ぺいしてきた責任者は3人、1人は元ケルン大司教区で従事した後、ハンブルク大司教に栄転したシュテファン・ヘッセ大司教、そして1987年に亡くなったジョセフ・ヘフナー枢機卿と 2017年7月、83歳で死去したマイスナー枢機卿だという。

 ヘッセ大司教は報告書が公表された直後、大司教の地位から辞任する旨をフランシスコ教皇に申し出ている。調査書では独教会の保守派論客として知られてきたヨアンヒム・マイスナー枢機卿の責任が厳しく追及されている。同枢機卿は89年2月、ケルン大司教区の大司教に就任して以来、25年間、ケルン大司教区を主導してきた人物だ。同枢機卿は75歳を迎えた時、教会法に従って辞職を申し出たが、当時のローマ教皇ベネディクト16世の要請で職務を継続してきた経緯がある。

 その一方、最初の調査報告書の公表を控えたヴェルキ大司教は聖職者の性犯罪を隠ぺいしてきたという疑惑から一応解放されたかたちだ。ヴェルキ大司教は2014年、マイスナー大司教が高齢を理由に辞職したのを受け、ケルン大司教区の責任者に就任した。当時、多くの信者たちから新大司教の下で教会の刷新が行われるだろうと期待されていた指導者だ。

 これでドイツ教会を震撼させてきたケルン大司教区の騒動は幕を閉じるのだろうか。調査報告書では、ケルン大司教区で神父がカトリック系寄宿舎で未成年者に性的虐待を行ったが、大司教区はその事実を隠ぺいするばかりか、不祥事を犯した神父の聖職をはく奪することなく、聖職に従事させていたことが明らかになった。そしてヘッセ大司教を除けば、既に死去した2人の枢機卿が聖職者の性犯罪隠ぺい責任を引き受けることになったわけだ。もちろん、2人の枢機卿は自身への容疑に対して反論できない。「教会にとって理想的な解決方法だ」といった少々皮肉交じりの声が聞かれる。いわゆる「死人に口なし」だ。

 独週刊誌シュピーゲル(2月20日号)は「聖職者の性犯罪、それを組織的に隠ぺいしてきた“マイスナー・システム”から“ヴェルキ・システム”に移行しただけで、聖職者の性犯罪の全容解明は行われず、教会は隠ぺいし、何もなかったように装ってきた」と報じた。同誌によると、調査対象は300件以上で、犠牲者数は300人を超え、容疑者は200人以上がリストアップされている。ケルン大司教区では信者、神学者、関係者がヴェルキ枢機卿の辞任を要求してきた。同時に、教会から脱退する信者が増加。昨年1年間だけで約7000件の教会脱退が登録されている。

 第2の調査報告書が発表され、聖職者の性犯罪を隠ぺいしてきたと指摘されたヘッセ大司教は18日、「大司教の職務とハンブルク大司教区の障害となることを回避するために自身の聖職から解任されることをフランシスコ教皇に申し出た」と述べている。報告書では、ヘッセ大司教がケルン大司教区の人事責任者の時、聖職者の性犯罪を通知する義務違反など11件の容疑が浮かび上がっている。同大司教は2015年3月14日、ケルン大司教区からハンブルク大司教区に人事されている。隠ぺい容疑に対しては、「自分は聖職者の性犯罪で隠ぺいに関与していない」と容疑を否定する一方、「教会システムの欠陥で生じた問題の責任を担う用意はある」と強調してきた。

 調査を実施した刑事弁護士は、「教会では長い間、聖職者の性犯罪を通知するといったことは行われなかった」と批判している。一方、ヴェルキ枢機卿は大司教区に従事する2人、大司教区の元司教総代理の補佐司教と教会司法担当者を解任した。前者は 自身の補佐司教職の辞任をバチカンに申し出ている。その他、1件、通知義務に違反したと指摘されたアンスガー・プーフ司教補佐も19日、調査の全容が解明されるまで停職を申し出ている。

 第1回目の調査報告書が公表されなかったために、大司教区内で大きな不信の声が高まったが、その責任者のヴェルキ大司教は今回の報告書では隠ぺいの容疑も見つからず、無罪の判決を受けたような立場となった。同大司教はドイツ公共放送ARDとのインタビューの中で、「聖職者の性犯罪の隠ぺい問題を解明することは重大だった。新たに調査を要請した調査結果には満足している」と述べ、「調査報告書が出た今日、われわれはそれをもとに問題の解決に全力を投入していかなければならない」と語っている。

 事件の容疑者の名前は明らかになった。メディアが隠ぺい容疑をかけ、被告席に座ってきたヴェルキ枢機卿は一応、疑いから解放された。これでケルン大司教区の騒動は幕を閉じるが、同騒動で失われた信者たちの信頼をどのようにして回復するのだろうか。誰も自信をもって答える者はいない。ただ、ヴェルキ枢機卿は聖職者の性犯罪を解明する独立委員会の設置を明らかにしているだけだ。
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