ドイツのメルケル連立政権に参加する社会民主党(SPD)は10日、来年秋に実施予定の連邦議会(下院)選挙の党筆頭首相候補者にオーラフ・ショルツ財務相(62)を選出した。サスキア・エスケン氏とノルベルト・ワルターボルヤンス氏の共同党首が同日公表した。

▲独SPDの筆頭首相候補者にショルツ財務相(中央)を選出(ショルツ財務相の公式サイドから)
ドイツでは新型コロナウイルスの感染防止に関心が集中し、SPDの筆頭首相候補者選出には余りメディアの関心が集まらなかったが、ドイツ政界はメルケル首相が来年秋、任期満了後は政界から引退することを受け、ポスト・メルケル時代の到来を迎える。その後継者ポストにSPDからショルツ財務相が早々と名乗り出たわけだ。
ショルツ財務相は、「SPDは次期選挙で首相を擁立できる政党となる」と決意を語った。党内では同財務相が知名度と実務体験から党の次期首相筆頭候補者であることではほぼコンセンサスがあるという。
ショルツ氏は独週刊誌シュピーゲル(8月14日号)とのインタビューで、「欧州ではスウェーデン、フィンランド、デンマークでSPD主導の政権が発足している。28%の得票率を獲得できれば、ドイツでも実現できる」と指摘、SPDがポスト・メルケル時代を先導していくと主張している。
ドイツの複数の世論調査ではSPDは「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)、そして「同盟90/緑の党」の後塵を拝し、支持率15%前後だ。そのSPDが次回の総選挙で25%前後の得票率を獲得できればという前提条件のもと、「緑の党」と左翼党の赤・赤・緑の3政党連立政権の擁立が可能だというわけだ。
SPDが党筆頭首相候補者の選出を総選挙まで1年以上もあるこの時期に実施したのは、CDUが党内の路線対立でゴタゴタしているのを受け、先手を打って出るという狙いがあったのかもしれない。
CDUはクランプ=カレンバウアー党首が今年2月10日、党首辞任を表明し、国防相に専念するため、新たな党首の選出が求められるが、党内でコンセンサスがない。メルケル首相が抜けた後のCDUがどれだけの支持率を獲得できるかは不明だ。
100万人を超える中東・北アフリカからの難民の殺到に対し、ドイツ国民から強い抵抗が出てきたが、メルケル首相は難民受け入れ政策を堅持。CDU内でも国境警備の強化などの強硬政策を主張する声が高まった。そしてCDU内の路線対立は、その後の連邦議会選、欧州議会選、州議会選で得票率の減少という結果をもたらした。CDUは現在、党本来の保守路線に戻るべきだと主張する声と、党のリベラル化、「緑の党」化を支持する声が聞かれる。
党内のゴタゴタといえば、SPDは過去、CDUより深刻だった。SPDは2017年3月19日、ベルリンで臨時党大会を開き、前欧州議会議長のマルティン・シュルツ氏を全党員の支持(有効投票数605票)でガブリエル党首の後任に選出し、メルケル首相の4選阻止を目標に再出発したが、その後の3つの州議会選挙(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)でことごとく敗北を喫し、本番の2017年9月24日の連邦議会選ではSPD歴史上、最悪の得票率(20・5%)に終わった。
マルティン・シュルツ党首に代わり、SPD初の女性党首としてアンドレア・ナーレス氏が昨年4月、就任したが、ナーレスSPDも前任者と同じように選挙の度に支持率を失った。SPDは2018年10月14日のバイエル州議会選では第5党となり、AfDの後塵を拝した。同年5月26日の欧州議会選ではSPDは15・8%と前回(2014年)比で11・5%減と大幅に得票率を失った、その結果、ナーレス党首は2019年6月2日、責任を取って党首と連邦議会(下院)の会派代表のポストを辞任表明した。
そして昨年11月末に実施されたSPDの党員選挙の結果、党内左派のサスキア・エスケン連邦議員とノルベルト・ワルターボルヤンス・ノルトライン・ウエストファーレン州元財務相の2人組が決選投票で53・06%の支持を得て、前評判が高かったオーラフ・ショルツ財務相とブランデンブルク州のクララ・ゲイウィッツ議員組を破り、次期党首ペアに選ばれた経緯がある(「元気のいい『左派政党』の登場を願う」2019年12月2日参考)。
ドイツの場合、中道右派のCDU/CSUと左派「社会民主党」の2大政党が政界をリードしてきた時代は終わった。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が急台頭し、リベラル派「自由民主党」、「同盟90/緑の党」、そして「左翼党」が存在する。
多くのドイツ国民は14年余り続いてきたメルケル政治に倦怠感を覚える一方、党内で路線争いを繰返すSPDに愛想を尽かしている。社会の多様化と次々と飛び出す地球レベルの諸問題(新型コロナ感染対策、地球温暖化対策、移民問題など)に対し、ビジョンを持って果敢に立ち向かう新しい世代の台頭が願われている。そのような中、SPDは政権奪回の夢をベテラン政治家、ショルツ財務相に託したが、その選出が吉と出るか凶となるか、と問われれば、後者の可能性が現時点では濃厚だ。
いずれにしても、来年秋と言えば、新型コロナ感染問題でワクチンが市場に出ている時期だろうから、ドイツの国民経済に回復が見られ、国民にも活気が戻っているだろう。そうなれば、ポスト・メルケル時代を決める次期総選挙はドイツの新しい出発を飾る最初の政治イベントとなるわけだ。

▲独SPDの筆頭首相候補者にショルツ財務相(中央)を選出(ショルツ財務相の公式サイドから)
ドイツでは新型コロナウイルスの感染防止に関心が集中し、SPDの筆頭首相候補者選出には余りメディアの関心が集まらなかったが、ドイツ政界はメルケル首相が来年秋、任期満了後は政界から引退することを受け、ポスト・メルケル時代の到来を迎える。その後継者ポストにSPDからショルツ財務相が早々と名乗り出たわけだ。
ショルツ財務相は、「SPDは次期選挙で首相を擁立できる政党となる」と決意を語った。党内では同財務相が知名度と実務体験から党の次期首相筆頭候補者であることではほぼコンセンサスがあるという。
ショルツ氏は独週刊誌シュピーゲル(8月14日号)とのインタビューで、「欧州ではスウェーデン、フィンランド、デンマークでSPD主導の政権が発足している。28%の得票率を獲得できれば、ドイツでも実現できる」と指摘、SPDがポスト・メルケル時代を先導していくと主張している。
ドイツの複数の世論調査ではSPDは「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)、そして「同盟90/緑の党」の後塵を拝し、支持率15%前後だ。そのSPDが次回の総選挙で25%前後の得票率を獲得できればという前提条件のもと、「緑の党」と左翼党の赤・赤・緑の3政党連立政権の擁立が可能だというわけだ。
SPDが党筆頭首相候補者の選出を総選挙まで1年以上もあるこの時期に実施したのは、CDUが党内の路線対立でゴタゴタしているのを受け、先手を打って出るという狙いがあったのかもしれない。
CDUはクランプ=カレンバウアー党首が今年2月10日、党首辞任を表明し、国防相に専念するため、新たな党首の選出が求められるが、党内でコンセンサスがない。メルケル首相が抜けた後のCDUがどれだけの支持率を獲得できるかは不明だ。
100万人を超える中東・北アフリカからの難民の殺到に対し、ドイツ国民から強い抵抗が出てきたが、メルケル首相は難民受け入れ政策を堅持。CDU内でも国境警備の強化などの強硬政策を主張する声が高まった。そしてCDU内の路線対立は、その後の連邦議会選、欧州議会選、州議会選で得票率の減少という結果をもたらした。CDUは現在、党本来の保守路線に戻るべきだと主張する声と、党のリベラル化、「緑の党」化を支持する声が聞かれる。
党内のゴタゴタといえば、SPDは過去、CDUより深刻だった。SPDは2017年3月19日、ベルリンで臨時党大会を開き、前欧州議会議長のマルティン・シュルツ氏を全党員の支持(有効投票数605票)でガブリエル党首の後任に選出し、メルケル首相の4選阻止を目標に再出発したが、その後の3つの州議会選挙(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)でことごとく敗北を喫し、本番の2017年9月24日の連邦議会選ではSPD歴史上、最悪の得票率(20・5%)に終わった。
マルティン・シュルツ党首に代わり、SPD初の女性党首としてアンドレア・ナーレス氏が昨年4月、就任したが、ナーレスSPDも前任者と同じように選挙の度に支持率を失った。SPDは2018年10月14日のバイエル州議会選では第5党となり、AfDの後塵を拝した。同年5月26日の欧州議会選ではSPDは15・8%と前回(2014年)比で11・5%減と大幅に得票率を失った、その結果、ナーレス党首は2019年6月2日、責任を取って党首と連邦議会(下院)の会派代表のポストを辞任表明した。
そして昨年11月末に実施されたSPDの党員選挙の結果、党内左派のサスキア・エスケン連邦議員とノルベルト・ワルターボルヤンス・ノルトライン・ウエストファーレン州元財務相の2人組が決選投票で53・06%の支持を得て、前評判が高かったオーラフ・ショルツ財務相とブランデンブルク州のクララ・ゲイウィッツ議員組を破り、次期党首ペアに選ばれた経緯がある(「元気のいい『左派政党』の登場を願う」2019年12月2日参考)。
ドイツの場合、中道右派のCDU/CSUと左派「社会民主党」の2大政党が政界をリードしてきた時代は終わった。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が急台頭し、リベラル派「自由民主党」、「同盟90/緑の党」、そして「左翼党」が存在する。
多くのドイツ国民は14年余り続いてきたメルケル政治に倦怠感を覚える一方、党内で路線争いを繰返すSPDに愛想を尽かしている。社会の多様化と次々と飛び出す地球レベルの諸問題(新型コロナ感染対策、地球温暖化対策、移民問題など)に対し、ビジョンを持って果敢に立ち向かう新しい世代の台頭が願われている。そのような中、SPDは政権奪回の夢をベテラン政治家、ショルツ財務相に託したが、その選出が吉と出るか凶となるか、と問われれば、後者の可能性が現時点では濃厚だ。
いずれにしても、来年秋と言えば、新型コロナ感染問題でワクチンが市場に出ている時期だろうから、ドイツの国民経済に回復が見られ、国民にも活気が戻っているだろう。そうなれば、ポスト・メルケル時代を決める次期総選挙はドイツの新しい出発を飾る最初の政治イベントとなるわけだ。