ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2020年06月

「白人イエス」像は白人支配の象徴?

 2000年前のイエスの肌は白色だったか、褐色だったか、それとも黒色だったか。救世主イエスの肌の色はどのような意味合いがあったか。もう少し哲学的に表現すれば、「イエスのアイデンティティは肌の色とどのような関りがあったか」だ。

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▲「十字架のイエス」(2013年3月31日、バチカンの復活祭)

 新型コロナウイルスの感染で頭を痛めている時に、なぜ緊急とは思えないテーマを取り上げるのか、といわれるかもしれない。緊急テーマではないことは明らかだが、重要なテーマでないとはいえない。イエス・キリストはとにかく人類の救いのために降臨し、人類の罪を背負って十字架にかかった人物だ。そのイエスの肌の色はサイドテーマとはいえ、無視できない。

 多分、「 Black Lives Matter 」(黒人の命は大切)運動を支援する米国の作家、政治活動家ショーン・キング氏(Shaun King)もそのように考えているのではないか。一時、牧師でもあった同氏(40)は白人欧州人のイエス像に挑戦状を突きつけ、教会で白人イエスの像、絵画、ステンドグラス画があれば、取り外すべきだと主張し、多くの反響を呼んでいる。

 奇妙なことに、同氏自身は白人のようだが、「自分の父親は白人ではない」と白人であることを忌み嫌っていた人物だ。同氏曰く「キリスト教の白人は常に危険だった」と述べている。過去の白人の蛮行への贖罪意識がキング氏を白人嫌いにさせているのだろうか。同氏は社会運動に積極的であり、大統領選ではバーニー・サンダース上院議員を支持してきた。

 同氏はツイッターで、「イエスを白人欧州人と表現した像、絵画、ステンドグラスは外すべきだ。それらは白人支配のシンボルだからだ」と発信し、白人欧州人のイエスのアイデンティに疑いを呈している。

 それなりの理由はある。イエスの家族ヨセフとマリアは赤子イエスを抱え、エジプトにいき、そこで身を隠した。イエスは白人社会の、たとえば、デンマークに逃避してはいない。すなわち、身を隠すためには自分と同じ肌のエジプト人社会のほうがいいからだ。デンマークに逃げれば、肌の色から直ぐに逃亡者だと分かる危険性が出てくる。だから、イエスは白人ではなく、エジプト人と同様、褐色だったと考えるべきだ。それをイエスは白人イエスだったと主張し、その像や絵画を飾ることは明らかにプロパガンダだというわけだ。

 同氏の主張に対し、「イエスは人種、民族、国家の枠を超えた存在だ。イエスは過去、黒人イエス、白人イエス、黄色イエスといった様々な肌のカラーで描かれてきた。それを白人イエスは白人支配のシンボルだから排除すべきだというのは人種差別を意味する」と反論する声が聞かれる。

 当方は昔、「イエスの血液型はB型だった」(「イエスの血液型は『B型』だ」(2015年4月8日参考)と書き、多くの反発を受けた苦い経験があるので、イエスの肌の色については慎重にならざるを得ない。というより、イエスが黒人であろうが、白人であろうが、どうでもいい。人間としてベツレヘムで生まれた以上、イエスの肌はその周辺の民族の肌の色だったと考えるのが自然だ。だからといって、「白人イエス」は事実ではないとキング牧師のように声を大にして叫ぶ必要があるだろうか。

 参考までに、当方は過去、白人イエス像ではなく、イエスを十字架から解放しなければならないと主張した。キング氏とは別の理由だ。「イエスを十字架から降ろすべきだ」というテーマはイエスの十字架による救済論と関係がある。換言すれば、イエスの十字架信仰で「果たして人々は罪から解放され、救われたのか」という実証的な問いかけだ。もちろん、「なぜイエスは再び降臨すると約束されたか」というイエス再臨問題も出てくる。

 キリスト教関係者にとって、このテーマは信仰の核に触れるだけに、「イエスを十字架から解放すべきだ」と主張すれば、十字架信仰が完全に否定されたように感じ、敬虔な信者なら怒りが飛び出すのは必至だ。このテーマに関心がある読者は「イエスを十字架から降ろそう」(2017年12月14日参考)を再読して頂きたい。

 キング氏の「白人イエス像」の否定について、もう少し考えたい。旧約聖書の創世記を開いてほしい。「神は自身の似姿に人を作った。すなわち、男と女を創造した」という。神が男性と女性の2性を有する存在であることが分かる。同時に、神は人間を白人、褐色人、黒人とわけて創造したとは記述されていないところを見ると、神は創造の段階では人間の肌の色には余り拘っていないことが分かる。それに拘り出したのは、「エデンの園」から追放された人類であって、神は一度として肌の色ゆえに、何かを決めたとか、したということはない。

 だから、欧州の白人イエス像は事実ではないと批判するより、なぜイエスは十字架に架かって33歳の若さで亡くなったかを考えるほうが賢明ではないか。キング氏の白人イエス像否定論は神が拘っていない人間の肌の色に拘り過ぎている。

 白人のイエス像は受け入れないという論理は、これまで黒人を社会から排除してきた欧米社会と同じ論理、肌の色で人を判断する危険思想にも通じる。グロバリゼーションを支持し、社会の多様性を称賛する一方、なぜ肌の色の多様性を当然のこととして受け入れないのだろうか。

なぜ「黒人薬局」の店名ではダメ?

 音楽の都ウィーンの由緒ある薬局「黒人薬局」(Mohren Apotheke)の名前が人種差別の響きがあるとして改名を求められているという。「Mohr」は古ドイツ語で「肌の黒い人間」を意味する。すなわち、黒人だ。その黒人という呼称をつけた薬局は黒人を中傷し、人種差別を助長させるというのだ。

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▲ウィーン市1区にあるモーレン薬局(モーレン薬局の公式サイトから)

 ウィーン市1区にある「黒人薬局」は1350年に開業された、ウィーンでも最古の薬局の1つだ。これまで何の問題もなく営業してきた「黒人薬局」に対し、「なぜ今になって」と考えていくと、「なぜ」は直ぐに答えが見つかる。米国で先月25日、ミネソタ州近郊で1人のアフリカ系米人、ジョージ・フロイト氏(46)が警察官によって窒息死させられた事件を受け、米国内で人種差別抗議が行われると共に、奴隷制の見直しなど、米国の建国史の書き直しが進められてきたが、その影響が欧州にも及んできた結果、といえるからだ。 

 欧州の場合、米国とは違い長い歴史を有する民族、国家が多い。だから歴史の負の面も少なくない。例えば、ドイツやオーストリアは戦後、ナチス・ドイツ政権との関連から、反ユダヤ主義問題が常に問題視されてきた経緯がある。

 オーストリアではユダヤ人を中傷し、反ユダヤ主義を鼓舞した政治家、学者の名前を付けた建物、道路名などが至る所にあったが、それらの呼称は戦後、次々と削除され、改名されていった。

 最近では、ウィーンの文化評議会は2012年4月19日、市内1区、議会から大学までのストリートを Dr.-Karl-Lueger-Ring(ドクター・カール・ルエガー・リンク)からUniversitatsring(大学リンク)に改名することを決めている。その理由は、ルエガー(1844年〜1910年)は1897年から1910年までウィーン市長を務めた政治家だが、反ユダヤ主義者としても有名で、「ウィーンから全てのユダヤ人が出て行けば幸せだ」と発言した人物として知られてきた。反ユダヤ主義者の名前をつけた道路をそのままにしてはおくことはウィーンの名誉を傷つけるというわけだ。

 ただし、今回のように、黒人への人種差別を理由に薬局の改名が要求されたケースはウィーンではこれまでなかった。今回の薬局名の改名要求は明らかに米国から吹き寄せる人種差別抗議デモの風を受けたものだ(「反ユダヤ主義者を街から追放せよ」2012年4月22日参考)。

 「Mohren Apotheke」の改名を求めたオンライの署名集めが進められている。目標は2500人だが、現在1600人の署名が集まったという。店側の主人は改名要求に対しては理解を示しているという。ウィーンのメトロ新聞「ホイテ」が6月24日、写真付きで署名運動を報道した。

 ここでは「黒人薬局」という名前の由来を紹介すべきだろう。中世時代、医学の世界ではアフリカやオリエントが治療薬の開発では欧州より進んでいた。治療薬の多くはアフリカやオリエントから持ち込まれていた。だから「黒人薬局」という呼称は当時、医学分野で進んだ地域からの治療薬という意味が含まれ、価値がそれだけ付加されていた。だから、欧州の薬局では「黒人の……」という名前が付いた薬局は多かった。黒人の薬屋さんと言えば、それだけ信頼できる高品質の治療薬があるという意味があったわけだ。

 しかし、時代が進み、欧州のキリスト教社会でも医学が発展していった。医薬メーカーなどは当時、存在していない。欧州ではカトリック教会側が修道院で薬草を調合して、病気の信者たちに与えていた。薬局は修道院内の薬草保存場所を意味した。だから、その伝統を受けて店名を呼称する薬局が多い。

 オーストリアの薬局名を見ると、「慈悲深い兄弟の薬局」、「聖母の薬局」、「神のまなざしの薬局」、「3位1体の薬局」など、キリスト教と密接な関係のある薬局名が多い。当方が以前住んでいた家の近くには、「神の摂理のための薬局」という意味深長な名前がついた薬局もあった。キリスト教社会では、「健康」も「病気」も、そして「癒し」も、神と無関係ではあり得ないわけだ(「薬局の日」2006年10月11日参考)。

 まとめると、オーストリアでは反ユダヤ主義の疑いのある政治家の名や呼称の記念碑は次々と排除、削除されてきたが、米国の人種差別抗議デモの影響を受け、今度は14世紀に作られたウィーン最古の薬局の改名を求める声が生まれてきたわけだ。

 「黒人薬局」の呼称の由来を知れば、「黒人の…」という店名は人種差別を意味するどころか、むしろ当時の黒人社会の製薬のレベルの高さを証明するものだ、ということが理解できる。しかし、米国発の人種差別抗議の運動はそんな歴史は一瞥もせず、人種差別反対、「黒人の命を大切に」と叫んでいることになる。

市長!約束は約束ですからね

 オーストリア出身の映画俳優アーノルド・シュワルツェネッガ―主演のクリスマスシーズン向けの映画「ジングル・オール・ザ・ウェイ」(1996年公開)があるが、その映画の独語版題名「約束は約束」だ。この台詞をウィーンのミヒャエル・ルドヴィク市長に贈りたい。以下、それを説明する

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▲ウィーン市のルドヴィク市長(ウィキぺディアから)

 「約束は約束」の主人公は息子にクリスマスプレゼントとしてTurbo Man(架空のキャラクター)の人形を約束したが、それを買いに行ったスーパーでは売り切れだった。そこで主人公の父親はそれを探しに店回りする話だ。父親は息子に「買う」と約束した以上、買わないとメンツだけではなく、息子との関係が難しくなる。深刻な思いで店を回る主人公の滑稽なシーンがこの映画の面白さだ。

 ところで、ウィーン市のミヒャエル・ルドヴィク市長は新型コロナ感染でレストランや喫茶店など飲食業者が休業に追い込まれ、営業が厳しくなったことを受け、飲食業界を支援するという意味でウィーン市約9万5000世帯に1世帯シングルの場合25ユーロ、複数の場合50ユーロの飲食業界用の食事券をプレゼントすると発表した。発表当時は「10月11日のウィーン市議会選挙のための選挙運動だろう」と受けとった市民も少なくなかったが、25ユーロ、50ユーロの食事券は魅力がある。家族で一緒に1回はレストランで昼食がとれる。当方を含む多くの市民はいつ食事券がわが家の郵便受けに入っているかを心待ちにしてきた(「ウィーン市長の“粋なコロナ救援策”」2020年5月16日参考)。

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▲ウィーン市庁舎(2013年4月26日撮影)

 「どうやら多くの市区では既に食事券が郵送されたらしい」というニュースが流れてきた。メディアによると、一部の市内の郵便受け(ポスト)が壊され、中にあった食事券が盗まれたというのだ。例えば、50ユーロ、世帯20世帯の市営住宅のポストだけでも1000ユーロの食糧券となる。それも銀行払いでもなく、簡単なナンバーが記入されているだけだから、誰でもその気になれば盗むことが出来る。現地のメディアによると、50ユーロの食糧券を40ユーロで、オンラインで取引きする市民も出てきているというのだ。

 郵送したというニュースが流れた後もポストに食事券が入っていない市民の間から市当局に「わが家の食事券が盗まれた可能性がある」という問い合わせが殺到、市当局は「盗まれた可能性がある場合、再送する」と説明するが、その確認作業は大変だ。新型コロナ対策で明け暮れる市当局関係者も想定外の事態に困惑気味だ。

 日刊紙の「読者の声」欄には「ウィーン市長が市民に約束した以上、全市民に食事券が届くまで努力すべきだ」という市民の声が掲載されていた。そこでオーストリア出身のシュヴァルツェネッガ―氏の「約束は約束」という映画の話が出てくるわけ。映画の主人公が息子に約束したTurbo Man の人形を探しに市内を駆け巡ったように、市長は郵送したはずの食事券がどこに消えたのか、配達プロセスで不正があったかなどを調査し、市民に食事券の郵送が遅れている理由などを記者会見で説明していただきたいというわけだ。

 飲食店の支援のための食事券プレゼント話が出た当時、「市長の選挙戦だ」と斜に構えて批判してきた市民も、それがまだ自分のポストに入っていないと、「わが家の食事券はどこに消えたのか」と言い出す。新型コロナで職業を失った人も多く出てきているし、短時間労働になった市民も多数いる。25ユーロ、50ユーロの食事券の価値はここにきて上昇してきた。食事券サービスで飲食業界を支援する一方、市民に喜んでもらうというアイデアまでは良かったが、その食事券を市民に届ける段階で困難に遭遇しているわけだ。

 蛇足だが、日本では一世代10万円の新型コロナ救援金が支給されることになったが、完全に国民全てに届くまでには大変な労力と時間が必要となる。25ユーロの食事券でも全市民の手に無事届くことは難しいのだ。盗まれたり、郵送先で問題が生じたり、100%の仕事は容易ではない。

 「布マスクの郵送が完了した」というニュースを聞いた時、やはり日本人はスゴイと感動した。布マスクを全世帯に郵送する作業は大変だ。布マスクで安倍政権を批判してきた国民はウィーン市の食事券のゴタゴタをみて、安倍政権の苦労をもう少しは見直してもいいのではないだろうか。

 市長の食事券支援を批判しながらも、届いたチケットで美味しいシュ二ッツェル(代表的な肉料理)に舌鼓を打っている市民がいれば、食事券が届くのを首を長くして待っている市民がいる。たかが食事券サービスでもこのように不公平な事態が生まれてくるわけだ。

 ところで、ルドヴィク市長、わが家の食事券はいつ届くのですか。約束は約束ですからね。

「ビスマルクの像」を壊すべきか

 「歴史は繰り返す」という。同じような出来事、紛争が何度も繰り返して現れてくる。当たり前かもしれない。歴史の主役を演じるのが人間である限り、その人間が織りなす歴史はどうしても同じ内容、出来事の繰返しとなる。イエスが登場した2000年前の人間も、21世紀の現代人も、同じようにいがみ合い戦っている。歴史は悲しいほど同じことを繰返しているわけだ。

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▲ハンブルク市にあるビスマルク像(ウィキぺディアから)

 その繰返す歴史に飽きた人が「歴史の見直し」を叫び、歴史の再考を試みようとする。米ミネソタ州のミネアポリス近郊で先月25日、警察官に窒息死させられたアフリカ系米人、ジョージ・フロイドさん(46)の事件に誘発され、米国各地で人種差別抗議デモが行われているが、それを契機として、米国の建国史の見直し論争が出てきた。米国の歴史は「清教徒の約束の地への建国」から始まったのではなく、その150年前、アフリカから連れてきた奴隷が米国に到着した時、1619年から幕開けすると主張するメディアや学者が出てきたことはこのコラム欄でも紹介した。もちろん、1776年の建国を信じる大多数の米国民は突然現れた新しい建国話に首を傾げ、困惑している(「米国の『不名誉な歴史の見直し』論争」2020年6月24日参考)。

 米国の影響を受けて、欧州でも過去の歴史の見直しを叫ぶ声が出てきた。具体的には「植民地占領時代」の見直しだ。特に、フランス、英国、ベルギーなど植民地大国だった国では、過去の植民地時代の見直しを叫ぶ歴史学者、メディアが出てきた。

 イギリス西部の湾岸都市ブリストルでは奴隷取引業者、エドワード・コルストン(1636〜1721年)の像が倒され、ベルギーのアントウェルペンではベルギーの国王、レオポルト2世(1835〜1909年)の静止画が剥がされた。同国王はアフリカのコンゴでの植民地政策が糾弾された。植民地化時代では後進国だったドイツでも「鉄血宰相」いう異名を誇ったオットー・フォン・ビスマスク(1815〜1898年)の植民地政策の再考が求められ、ビスマルク像を倒すべきかで議論が出てきている有様だ(独週刊誌シュピーゲル6月20日号)。

 今年は朝鮮動乱(1950年6月25日開戦)70年目を迎えた。北朝鮮外務省のシンクタンク軍縮平和研究所は25日、70年目の動乱に言及しながら、報告書で「1950年代に米国が起こした朝鮮戦争の真相を天下に告発する」と表明し、朝鮮戦争は米国による北朝鮮への侵略との主張を繰り返していた(韓国聯合ニュース6月26日)。

 日本を含む西側では朝鮮動乱は故金日成主席が中国の支援を受けて始めた侵略戦争と教えられているが、北朝鮮では米国が仕掛けた戦争と主張し、国民にもそのように教えてきた。

 当方は朝鮮動乱について駐オーストリアの北朝鮮外交官と話し合ったことがある。当方が「動乱は北が始めた」というと、日頃は冷静な北外交官は顔を真っ赤にして「何を言うか。動乱は韓国と米国が始めたものだ」と主張し、お前とはもう話さないという。当方は北外交官の豹変ぶりに驚いたことを覚えている。

 戦争の歴史はその戦争が終わった後も、その歴史の関係国、関係者の後孫が言い争う。韓国文在寅大統領の「反日政策」、「正しい歴史認識」はその典型的な例だろう。戦争の歴史は一度だけではなく、戦争が終わってからも続く。どのような戦争も完全に歴史書に定着し、その後再考、見直しの洗礼を受けなかった例は少ないはずだ。

 ロシアのモスクワで24日、旧ソ連の対ドイツ戦勝75年記念行事が行われ、「赤の広場」で軍事パレードが開催された。ロシアが誇る軍事パワーが披露され、戦闘機は上空を旋回。モスクワ市民は「わが国はスゴイ」と感動するシーンがニュースで放映された。

 プーチン氏は25日、国民の愛国心を高揚した直後、自身の大統領任期をさらに延長できる憲法改正を問う国民投票を実施している。歴史を自身の政治的野心に利用するのはプーチン氏だけではない。世界の独裁者や指導者は歴史を自分好みに書き換え、権力維持の道具とするものだ。

 歴史の主人公たちは時代の経過と共に、その評価が変わるケースが多い。歴史的人物の像が「国の裏切り者」として後日、破壊される、といったことは珍しくはない。ソ連・東欧共産圏が崩壊した直後、スターリン像は破壊された。イラクではフセイン像の首が切り落とされた。北朝鮮の金日成・金正日の像だって、3代目の独裁者・金正恩氏が倒れれば、国民によって潰される運命にあるだろう。

 人類は巨額の資金を投入して英雄像を建立するが、時が変われば、その像は破壊され、その際、時には血を流す。繰り返しになるが、如何なる歴史的出来事(人物)もその一回で完結することは珍しく、後世の人々によって尾びれ背びれがつき、時には全く異なった史実として定着していく。

駐独米軍の縮小に前米大使の「影」

 トランプ米大統領はドイツ駐留の米軍の縮小を進めている。その理由は、「ドイツはその国力に相応しい軍事費を支払わないからだ」というものだ。どこかで聞いたことがある内容だ。そうだ。在韓米軍の軍事費負担交渉で今、ワシントンとソウルの間で激しい外交戦が繰り広げられている。トランプ氏は次期大統領選で再選するために努力する一方、世界の同盟国に対し、「もっと軍事費を払え」と外交攻勢をかけているわけだ。

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▲NATO軍事演習(2020年6月11日、NATO公式サイトから)

 米軍は現在、約3万4500人の兵力をドイツに駐留させているが、9500人減らし、2万5000人とするというものだ。トランプ大統領は今月24日、その一部をポーランドに再配置する意向を明らかにしている。ドゥダ・ポーランド大統領と会談後の共同記者会見で語った。

 軍事費の増額や欧州の自力防備の強化を要求するのはトランプ大統領が初めてではない。米国はジョン・F・ケネディ大統領時代(任期1961〜63年11月)に既にドイツ側に要求してきたものだ。第2次世界大戦で荒廃した欧州の再建に関わってきた米国はその後、欧州の復興に伴い欧州側の軍事負担を求めてきた。ソ連共産陣営との対立の激化で米国は欧州の安全を守る立場でこれまで駐留してきたが、冷戦が終焉した今日、米国が欧州に自力防衛の強化を訴えるのは当然の流れだろう。

 ドイツ駐留の米軍の撤退問題がここにきて急展開してきたのは、トランプ氏が2018年5月、駐ドイツ大使として派遣したリチャード・グレネル氏(53)とベルリンのメルケル政権との気まずい関係の後遺症が噴き出てきたからではないか。

 グレネル米大使は6月1日、大使職を終え、離任した。ドイツではこれまで米大使の帰国の際には慰労のバイバイ・パーティを大々的に開催するのが慣例だったが、新型コロナ感染の予防ということもあって今回は開かれなかったと聞く。グレネル大使はベルリン政界では人気がなかった、というより嫌われてきたから、というのが真相のようだ。同大使の帰国が伝わると、ドイツの政治関係者は「うるさい大使がいなくなった」と喜んだといわれるぐらいだ。

 グレネル氏はベルリン政界では米国の“カーボーイ大使”、“ミニ・トランプ”と受け取られ、欧州の右派勢力を鼓舞するなど、言動に対して批判の声が絶えなかった。その大使がワシントンに帰国した直後から、トランプ氏の駐独米軍の撤退話が急速に展開してきたことから、「陰で前大使がトランプ氏を突っついている」といった囁きすら聞かれた出した。要するに、「グレネル前大使の仕返し」というわけだ。なお、グレネル氏は2月、マグワイア国家情報長官代行に任命され、6月1日まで代行を務めている。

 ロイター通信によると、米下院の共和党議員6人は23日、トランプ大統領に対し、ドイツに駐留している米軍を削減する計画の再考を要請する書簡を送っている。与党の共和党内でも駐独米軍の一部縮小には批判の声があることが分かる。トランプ氏の駐独米軍縮小は政権内や与党関係者の間で良く話し合った結果ではないことが推測できるわけだ。

 下院外交委員会のマイケル・マコール議員ら6人の共和党議員は、「駐独米軍は欧州だけではなく、ロシアや中国の影響が強くなってきた中東、アフリカに対し、米国の戦略上の利益に資する。駐独米軍の規模縮小はロシアへの抑止力を弱め、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が集団安全保障に対する米国のコミットに疑いを持つ契機ともなる」と懸念を表明し、「駐独米軍の一部撤退は米国の安全にもかかわる問題だ」と主張している。

 トランプ大統領は、「ドイツはロシアから天然ガスを購入するために数十億ドルを支出し、エネルギー供給をロシアに依存している一方、対ロシア防衛のためには米国の資金に依存している」と指摘、ドイツを“ロシアに捕囚されている”と批判し、「ドイツは経済大国だ。即刻、防衛支出を増額できるはずだ」と述べてきた。それに対しメルケル首相は、「ドイツ軍はアフガニスタンでは米軍を支援している。わが国はアフガン派遣では米軍に次いで2番目だ。わが国は米国の利益も守っていることになる」と強調するとともに、「わが国はドイツ再統一ではNATOに助けられたが、今日、ドイツはNATOの為に貢献している」と反論している(「欧米間に新しい『戦線』が拡大」2018年7月13日参考)。

 ちなみに、NATO加盟国は2014年、軍事支出では国内総生産(GDP)比で2%を超えることを目標としたが、それをクリアしているのは現在、米国の3・5%を筆頭に、ギリシャ2・27%、エストニア2・14%、英国2・10%だけで、その他の加盟国は2%以下だ。ドイツの場合、防衛費は年々増加しているが、昨年はGDP比で1・38%に留まっている。

 米共和党はNATOの防衛費の公正な負担を求めるトランプ氏の主張を基本的には支持している。米大統領は軍の撤退を実施できるが、そのための経費獲得には下院の認可が求められるから、下院が駐独米軍の一部削減にストップをかけるケースも完全には排除できない。

 トランプ大統領とメルケル首相の関係は特別悪いということはないが、友好的な関係からは程遠い。移民・難民問題でも壁を建設するトランプ大統領に対し、メルケル首相は難民歓迎政策を実施するなど、両者の間には政策でかなり違いがある。

 ヴォルフガング・ショイブレ連邦議会議長(独与党「キリスト教民主同盟」CDU)は独週刊誌シュピーゲルとのインタビュー(6月13日号)の中で、「ドイツは防衛費でこれまで以上に負担すべきだ。NATOとの公約を実行すべきだ。わが国は長い間、有利な状況を享受し、経済的繁栄を成し遂げることができた一方、防衛では他国(米国)の世話になってきた」と述べている。

独の2人の女性指導者の出番だ!

 欧州連合(EU)はここ数年、想定外の出来事に次々と直面してきた。米国、中国に次ぐ第3の核として世界の政治、外交に大きな影響を与える計画だったが、その夢の実現に前進するどころか、EUの存続すら疑われる事態に陥っている。

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▲フォン・デア・ライエン委員長(左)とメルケル独首相(いずれもウィキぺディアから)

 そのような危機に瀕しているEUは今年下半期(2020年7月1日から12月31日)、2人のドイツ人女性指導者を迎え、沈みかかった船のかじ取りを委ねる。1人はジャン=クロード・ユンケル氏の後継者に選出されたフォン・デア・ライエンEU委員長だ。もう1人は、政界引退表明で政治的影響力を失ったと受け取られてきたドイツのメルケル首相だ。

 ドイツは今年下半期のEU理事国で、議長はメルケル首相が務める。すなわち、EU委員会のトップ、フォン・デア・ライエン委員長と理事国議長のメルケル首相という2人のドイツ人女性指導者がEUの再生に取り掛かるわけだ。

 2人はドイツでは政治的子弟関係と受け取られてきた。メルケル首相は過去15年間の政権下において、医師出身で7人の子供の母親でもあるフォン・デア・ライエン委員長をさまざまな閣僚ポスト(家庭相、労働相、国防相)に抜擢してきた。同委員長はポスト・メルケルの最有力候補者とみられてきた時期があったほどだ。メルケル首相は65歳、委員長は61歳で年齢差はほとんどないこともあって、相互の理解で大きな困難はない。

 マクロン仏大統領がフォン・デア・ライエン女史を委員長に推薦した時、メルケル首相には大きな抵抗はなかった。幼少時代13年間、ブリュッセルで過ごしたフォン・デア・ライエン委員長は委員長に就任が決まった時、「故郷に戻ったような気分だ」と述べ、EU委員長ポストを喜んだという話が伝わっている。

 一方、「EUの顔」と久しくいわれてきたメルケル首相の過去15年間は山あり谷ありで、決して平坦な道ではなかった。特に、社会民主党(SPD)との第4次連立政権が発足するまでは大変だった。その後は外国首脳を迎えた歓迎式典で体が震えるなど、積み重なった精神的ストレスから生じる身体の不調問題が浮上した。そして2018年10月、与党「キリスト教民主同盟」(CDU)党首と連邦首相の兼任をやめ、党首職をクランプ=カレンバウアー氏(現国防相)に譲り、首相ポストを2021年の任期満了まで務めた後、政界から引退する意向を明らかにした。その結果、メルケル首相の政治力は急速に失われていった。

 そのメルケル首相を甦えらせたのは、中国発の新型コロナウイルスの欧州感染という想定外の危機だった。“死に体”と思われたメルケル首相は国内では7500億ユーロ超の新型コロナ対策を打ち出し、新型コロナの影響を受けている労働者や企業の支援に約100億ユーロを拠出するなど、国民経済の救済に積極的に乗り出す一方、新型コロナ感染でダメージを受けた加盟国への「復興基金」の創設で大きな役割を果たし、EUの舞台でも久しぶりに存在感を発揮してきた。幸い、ドイツの新型コロナの感染はイタリア、フランス、スぺインのような大感染とならずに済んでいることもあって、メルケル首相の政治力は域内外で評価されてきた経緯がある(「新型コロナがメルケル氏を蘇らさせた」2020年4月27日参考)。

 その2人のドイツ人女性が舞台をブリュッセルに移し、存続の危機にあるEUのかじ取りにいよいよ乗り出す。そこでEUの状況を簡単に振り返ってみた。

 EUは2015年、中東・北アフリカから100万人を超える難民が殺到した時、受け入れをめぐって加盟国間で対立が表面化した。ハンガリーやポーランドの旧東欧加盟国はブリュッセル主導の難民分担枠を拒否する一方、外交面でロシア、中国に傾斜するなど、EUは政治、外交面で分裂が加速した。

 そして今年に入り、中国武漢発の新型コロナウイルスが欧州内に侵入、イタリアで大感染し、世界を震撼させたばかりだ。オーストリアなど加盟国はブリュッセルとの協議もなく一方的に国境を閉鎖していった。「欧州の統合」を掲げ、前進してきたEUは難民の殺到、そして新型コロナ感染で国境を閉じなければならなかったわけだ。これはEUの理想の放棄を意味すると受け取られたとしても無理はない。

 それだけではない。経済大国・英国のEU離脱(ブレグジット)でEUは、創設後初めて加盟国を失った。バルト3国の加盟国はロシアから軍事的圧力を受ける一方、EU域内への中国の影響力拡大、同盟国・米国との関係悪化など、EUは創設後最大の難問に直面している。

 フォン・デア・ライエン委員長とメルケル首相の“ドイツ姉妹”が果たしてEUの課題を克服し、再生することに成功するだろうか。両女性指導者間には意思疎通では大きな問題はない。メルケル首相はフォン・デア・ライエン委員長に、「何事も先ず、ドイツに相談することを忘れないように」(独週刊誌シュピーゲル6月13日号)と釘を刺したという。それに対し、委員長がどのように答えたかは不明だが、ドイツ抜きでEUの諸問題は解決できないことを委員長自身が最もよく知っているはずだ。

 「危機」は常にチャンスともなる、という言葉をよく聞く。2人のドイツ人女性指導者はEUの再生に向かってどのような連携を見せて取り組んでいくか、興味津々だ。

米国の「不名誉な歴史の見直し」論争

 歴史の短い米国で歴史論争が展開されているという。米国の建国を1776年と見なす従来の歴史観に対し、米リベラルなメディアを代表とするニューヨーク・タイムズ紙(NYT)が特集企画を組み、「米国の歴史は奴隷制維持のためにスタートした。黒人奴隷が米国に初めて運ばれた1619年こそが米国の建国年だった」という主張を展開し、「1619年プロジェクト」と名付けているという。

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▲ニューヨーク・タイムズ紙の本社が入っている「ニューヨーク・タイムズ・ビルディング」(ウィキぺディアから)

 どの国にも民族の誇りを高揚する建国話や神話がある。しかし、米国で展開中の「にわか歴史論争」はちょっと趣が違うのだ。米国は奴隷制を維持する目的で建国されたというのだ。この歴史観で米国の歴史は150年余り長くなるが、奴隷制と建国がリンクされることで不名誉な建国話となってしまうことから、米国内の保守派からも強い反発があるという。当然だろう。

 日本では戦後、通称、自虐歴史観といわれる歴史観が学者の間で主張された。日本は戦争し、隣国の人々を抹殺してきた民族だ、というのが戦後の日本の歴史教育だった。米国の「1619年建国説」は多分、同じカテゴリーに入る一種の自虐歴史観だろう。米国の建国は奴隷制と密接な関係があるというのだ。

 NYT紙が突然、米国の歴史に関心を持ち出した背景には、米ミネソタ州のミネアポリス近郊で先月25日、警察官に窒息死させられたアフリカ系米人、ジョージ・フロイドさん(46)の事件に誘発された人種差別抗議デモが行われ、多くの若者が路上デモに参加している社会現象がある。

 新しい建国話は「黒人は米国の歴史では常に犠牲者だった」という話から奴隷制へと繋がってくる。それらのストーリーは今年11月に実施予定の大統領選挙と関わってくる。換言すれば、“トランプ大統領落とし”の選挙キャンペーンというわけだ。だから、そのにわか歴史論争に真摯な歴史観の再考といったことは期待できないわけだ。すなわち、奴隷制の最大の犠牲者は黒人だ。その黒人が路上で警察官によって殺害された。人種差別抗議に警察官の強権を動員させて鎮圧しようとしたトランプ氏は奴隷制堅持の建国の歴史の継承者だ、という論理展開になるわけだ。

 どの時代、どの国にも奴隷が存在した。それを「奴隷」と呼ぶか、「召使い」、「しもべ(僕)」と呼ぶかはその時々、その地域の社会情勢や習慣・生活文化等で変わってくるが、支配者階級が被支配階級を強権で管理するシステムだ。弱肉強食の人類歴史ではそれゆえに強国、大国が程度の差こそあれ常に奴隷を抱えていた。

 人類歴史でニューカマー、米国もその歴史を継承していたことは間違いないが、奴隷制維持のため建国されたという話は、米国に渡った清教徒たちの高尚な建国神話を、歴史の見直しという名目で破壊させるだけだ。どの民族にも誇りが必要だが、その民族の誇りを恣意的に破壊する試みからは何も生産的なものは生まれてこない。民族の誇りを失い、民族の神話を失った国はそれだけ文化的には貧しくなるだけだ。

 奴隷制を考える時、「神の選民」を誇ってきたユダヤ民族の歴史を思い出す。米国の黒人を奴隷の代表のように見るのは間違っている。ユダヤ民族は歴史の中で何度も奴隷の身になっている。エジプトのパロ王のもと400年間余り奴隷だった。その後、バビロンなどに奴隷として連れていかれた。

 ユダヤ民族は神の導きもあって奴隷の身から解放されていった。モーセという屈指の民族指導者が現れ、ユダヤ民族をエジプトから解放させ、ペルシャのクロス王には神のお告げが降り、ユダヤ人は奴隷の身から解放され、エルサレムに戻っていった。

 米国の黒人の場合、神はエイブラハム・リンカーン大統領(1809〜65年)を通じて奴隷解放をさせ、近代ではマーティン・ルーサー・キング牧師(1929〜68年)の公民権運動を通じ、黒人の地位は向上していった。ここまではユダヤ民族と酷似しているが、黒人に「君たちは常に犠牲者だ」と植え付ける政治家たちが現れてきた。黒人を最大の支持基盤とする米民主党だ。その結果、多くの黒人は「自分たちは犠牲者だ」と信じ出した。「自分はあなたよりもっと犠牲となった」と、犠牲者争いのような状況すらみられる。米民主党は自身の支持基盤である黒人が自立し、犠牲者と考えなくなることを恐れているのだ。

 米国のテレビ俳優ジャシー・スモレット(Jussie Smollett)が2人の男に襲撃され、負傷するという事件が起きたが、捜査が進むにつれて、スモレット襲撃事件は本人の作り話だったことが明らかになった。スモレットは「自分は黒人であり、ゲイ(スモレットは同性愛者)だ。その自分が社会の多数派の白人、それもトランプ支持者に襲撃されたというニュースが流れれば、話題となり、自分の名前は一躍有名になり、ギャラもアップするだろう」と考えたというのだ。「スモレット事件」と呼ばれているこの事件は、黒人が持つ犠牲者メンタリティを浮かび上がらせている(「成長を妨げる『犠牲者メンタリティ』」2019年2月24日)。

 米国の黒人女性活動家キャンディス・オーエンスさんは、「民主党は黒人に対し、『君たちは人種差別の犠牲者だ』と洗脳し、黒人が犠牲者メンタリティから抜け出すことを妨げている」と警告している。犠牲者メンタリティは「われわれは多数派によって迫害され、虐待されてきた。全ての責任は相手側にある」という思考パターンだ。フェミニズム、ミートゥー運動もその点、同じだ。しかし、それが行き過ぎると、弱者、少数派の横暴となる一方、強者=悪者説が広がり、強者は守勢を強いられることから、社会は活力を失い、健全な社会発展にブレーキがかかる。

 歴史を通じて多くの迫害を体験してきたユダヤ民族の中にも「犠牲者メンタリティ」が見られることがあるが、ユダヤ民族にはそれ以上に「神の選民」という民族の誇りが強い。その上、米国の黒人の場合のように、「君たちは犠牲者だ」と洗脳する米民主党のような政治家集団が周囲にいなかったことは幸いだった。

ドイツ若者たちの“理由なき反抗”

 ドイツ南部バーデン=ヴュルテンベルク州の州都シュトゥットガルトで20日深夜から翌日未明にかけ、500人余りの若者たちが暴動を起こし、警察隊と衝突、市内の店を襲撃し、略奪などを繰返した。地元警察は衝突の規模の大きさに困惑し、「このような暴動がシュトゥットガルト市で過去起きたことがない」と唖然としている。

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▲ シュトゥットガㇽト市の暴動を報じる独メディア「ディ・ヴェルト」電子版から

 暴動の直接の契機はパトロール中の警察官が麻薬取締りをしている時、警察の職質に抵抗する若者(17歳、ドイツ人)に他の若者たちが同調、便乗して、警察官に抵抗。パーティ・イベントで集まっていた若者たちがそれに加わり、暴れ出した。暴動者の数がどんどん増えて対応しきれない地元警察は連邦警察に救援を要請、暴動は21日早朝3時頃になってようやく沈静化した。約40店舗が破壊され、一部略奪され、駐車していた自動車の窓が壊されたりしたという。

 ドイツ第6番目の都市(人口約62万人)であり、ドイツを代表とするダイムラーやポルシェの本社がある同市でこのような大規模な暴動は過去、発生したことはない。フランツ・ルッツ市警察長官は21日、「現時点では暴動の背後にはいかなる政治的動機も見当たらない」と説明、「これまでになかった規模で、警察隊への暴行と略奪が起きた」と語っている。同長官によると、19人の警察官が負傷し、24人(12人ドイツ人、12人外国人)が拘束されたという。警察側は、暴動を撮影したビデオなどがあれば、警察側に提供してほしいと呼びかけている。

 ドイツでは、極右過激派や極左グループによる暴動や破壊行為が絶えない。例えば、ドイツ中部ヘッセン州カッセル県では昨年6月2日、ワルター・リュブケ県知事が自宅で頭を撃たれて殺害される事件が起き、ドイツ国民に大きな衝撃を与えたばかりだ(「極右過激派殺人事件に揺れるドイツ」2019年6月28日参考)。

 極右過激派や極左過激派の動向は連邦警察や憲法擁護庁がマークし、監視しているが、今回のような政治的目的のない、大規模な暴動は警察側にとって想定外の出来事だ。

 それでは、なぜ500人余りの若者が集まり、暴動を起こしたのだろうか。暴動を事前に計画した者はなく、突発的に生じたものとすれば、なぜ多くの若者は警察官に向かって石を投げたり、襲撃したのか。警察官から取り締まりを受けた1人の若者への同調だけでは理解できない。

 以下、暴動の背景を少し考えてみた。

 〆Gに入り、中国湖北省武漢から発生した新型コロナウイルスが欧州でも大暴れし、多数の感染者、死者を出してきた。欧州各国は外出規制、経済活動の停止などを実施する一方、スポーツ・文化イベントの開催中止に追い込まれてきた。同時に、短時間労働制の施行などで労働者の雇用確保に努力してきたが、多数の労働者は職を失った。すなわち、欧州では多くの国民が新型コロナの感染に「不安」を感じる一方、生活維持のためには、欲しいもの、やりたいことを我慢し、節約しなければならなくなった。6月に入り、外出規制・渡航禁止は解除され、夏季休暇で旅行できる道が段階的ながら開いてきたが、例年のように海外旅行を楽しむには経済的に厳しい人々が増えてきた(ドイツを含む欧州の社会事情)。

 ∧胴餝特呂任聾什漾∧謄潺優愁申のミネアポリス近郊で警察官に窒息死させられたアフリカ系米人、ジョージ・フロイドさん(46)の事件(5月25日)に誘発された人種差別抗議デモが行われ、多くの若者が路上デモに参加している。一部では警察側と衝突し、暴動、略奪も起き、逮捕者、負傷者も出てきた(米国の人種差別抗議デモの影響)。

 ドイツの今回の暴動ではパーティ・イベントに参加していた多くの若者が加わっている。若者たちは「不安」と「閉塞感」の中にあって、自身の溢れるエネルギーをぶつける対象を見いだせずにいる。だから、なんらかの切っ掛けさえあれば、それは容易に暴発することを今回の出来事は端的に示している。

 与党「キリスト教民主同盟」(CDU)のクランプ=カレンバウアー党首は、「警察官の保護を強化する一方、暴動に対しては毅然とした態度で対応しなければならない」と述べている。ドイツでも警察官への尊敬心が失われ、警察官への暴行、襲撃が増えてきている。昔は警察官のユニホームに憧れる若者がいたが、現在では警察官の制服は怒りをぶっつける対象となってきた。

 シュトゥットガㇽト市内の暴動には政治的動機が見当たらない、ということもあって、メディアの扱いはあまり大きくないが、暴動に走るドイツの若者たちの怒りや苛立ちを過小評価してはならないだろう。家庭の崩壊が進む欧州社会では、多くの若者は自身の怒りをぶつける父親が不在のため、社会の「権威」を代行する警察官に投石するケースが出てくるのだろう。

 ジェームズ・ディ―ン主演の映画「理由なき反抗」( Rebel Without a Cause、1955年公開)は今なお多くの映画ファンの心を捉えているが、ドイツの「理由なき暴動」は今後、欧州各地の都市にも波及する危険性がある。

新型コロナの感染時期で新たな発見

 現代のシャーロックホームズはもはや虫眼鏡を持参して事件現場を捜査することはなく、都会の下水路を散策し、そこから採集した下水のサンプルから新型コロナウィルスのリボ核酸を見つけ、新型コロナが中国側の公式発表である「昨年12月末」前にイタリアでウイルスが広がっていた事実を突き止めた。

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▲新型コロナ感染者をケアするイタリアの医師と集中治療室(2020年3月19日、イタリアANSA通信)

 具体的には、イタリア国立衛生研究所(ISS)は今月18日、昨年10月から今年2月にかけて採集したロンバルディア州のミランとピエモンテ州の州都トリノ市の下水のサンプルを調査したところ、昨年12月18日に採集した下水から新型コロナウイルスのリボ核酸を見つけたというのだ。ただし、10月から11月に採集した下水からは見つからなかったという。

 この調査結果が私たちに教えてくれている点は、|羚餠産党政権が昨年12月末に発表した新型コロナ感染報告が全くの嘘だったことが明らかになったこと、▲ぅ織螢∨棉凜蹈鵐丱襯妊ア州で新型コロナ大感染が起きる数カ月前にウイルスが同州に広がっていた、という2点だ。ちなみに、ロンバルディア州で今年2月21日、新型コロナの初の集団感染が報告された。ISSのこの発見は新型コロナの発生時期を知る上で大きな情報となることは間違いない。

 現代のシャーロックホームズは「骨」を分析し、事件発生の時期、性別、当時の状況などを解明する一方、その人間の歴史を覚えている「細胞」を解析する。そして今日、人間が日々消費し、排出する物や廃水が溜まる下水からも貴重な情報を収集できることが分かってきた(「『骨』がその人の歴史を語り出す時」2018年12月18日参考)。

 例えば、ドナウ川の水質を調査していた学者によると、ドナウ川の水質が最近、悪化してきたことだけではなく、その水に麻薬類の痕跡が見つかることが多いという。川の水を調査することで、その河川沿いにある都市の麻薬摂取状況がデータとして出てくるというわけだ。

 最近では、新型コロナの発生地、中国湖北省武漢市の中央病院周辺の駐車状況を撮った人工衛星の写真を分析した米ハーバード大学医学部のチームによると、昨年10月ごろ、武漢市の病院周辺で車の数が急増していたことだ。その情報から、中国共産党政権の「昨年12月末」ではなく、ひょっとしたら昨年10月には武漢市で新型コロナの感染が広がっていたのではないか、という推論が出てくるわけだ。中国政府は7日に公表した「新型コロナウイルス白書」によると、「武漢市で昨年12月27日に『原因不明の肺炎』を確認し、今年1月3日に世界保健機関に報告した」ということになっている。

 話をロンバルディア州の新型コロナ感染問題に戻す。先述したように、中国側の12月27日説ではイタリアの新型コロナ大感染の謎は解明できない。武漢市は2月23日にロックダウンを実施している。その数日前の同月21日にロンバルディア州で新型コロナの初の集団感染が出ている。ということは、イタリアではその数カ月前に新型コロナの感染が広がっていたと考えるほうが理にかなっているわけだ。

 武漢市のロックダウン前に多くの感染した中国人がロンバルディア州周辺で中国本土と同州の間を自由に行き来していた。換言すれば、中国企業が定着し、多くの中国人の行き来があったロンバルディア州には昨年12月初めには新型コロナウイルスが侵入していた可能性が考えられるわけだ。

 同じことがドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州(NRW)で感染が拡大した背景には、中国経済との密接なつながりがあったからだ、という指摘がある。同州には多数の中国企業が進出し、多くの中国人コミュニティが存在する(「『武漢肺炎』と独伊『感染自治体』の関係」2020年3月20日参考)。

 それだけではない。フランスで昨年12月、肺炎と診断された患者は実は新型コロナに感染していたことが明らかになった。BBCが5月5日報じたところによると、フランスで新型コロナ感染が初めて確認されたのは今年1月24日、3人の男性感染者といわれてきたが、実際は同国で1カ月前に感染者が出ていたことになる。ちなみに、欧州で最初に新型コロナの確認感染者は1月19日、ドイツ人男性となっている。

 中国共産党政権は新型コロナの発生源や発生時期について偽情報を流し、事実を隠蔽する一方、武漢市のウイルス感染者の病状に関する情報提供を求める米国らの要求を拒否。その裏では、治療薬とワクチンの製造に腐心し、新型コロナ用ワクチンをいち早く開発して世界での影響力の拡大に躍起となっている有様だ。

 人工衛星の写真分析や下水からの廃水分析から、「事件の核心」は次第に明らかになろうとしている。特に、ISSの今回の報告は、「新型コロナウイルスがいつロンバルディア州に侵入してきたか」という謎の解明に一歩近づく。そして新たに浮かび上がってきた情報は中国側の主張とは一致しない。欧米社会は中国共産党政権の正体を曖昧にしたままで中国との経済関係を深めていけば、もはや非道徳的と糾弾されても仕方がないだろう。

コロナ禍でのビデオ会議の「明暗」

 新型コロナウイルスの感染問題でダメージを受けた欧州経済の再建を話し合う欧州連合(EU)首脳会談は予想されたことだが合意に至らず、19日閉幕した。同首脳会談はフォンデアライエン委員長が提案した7500億ユーロ規模(約90兆円)の復興基金について27カ国の首脳が話し合うものだが、新型コロナ時代では通常となったビデオ会議で行われた。決まったことは来月中旬に開催する次期首脳会談で合意を図る、ということだけだ。

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▲EU首脳会議のビデオ会議風景(2020年6月19日、EU理事会公式サイドから)

 ミシェルEU大統領は、「今回の会議で各国の立場が明確になった。次回はそれを土台にコンセンサスを実現したい。いずれにしても、次回の首脳会談はブリュッセルに結集して話し合うことになる」と強調し、首脳がブリュッセルに集まり、実体での会議となれば、解決への突破口が開かれるという期待を滲ませた。

 ビデオ会議の会議様式は新型コロナ時代の様式として定着してきたが、新型コロナの感染ピークが過ぎ、実際に顔を見ながら話せば、ひょっとしたら突破口も見えてくる……という期待だ。今年下半期のEU議長国ドイツのメルケル首相は「来月の“対面での合意”を目指す」と述べている。

 21世紀の今日、インターネット時代を迎え、通信情報世界では5G時代(第5世代移動通信システム)に入り、本格的なIoT(モノのインターネット)が現実化している。その意味でインターネットを利用したホームスクーリングやテレワーク(ホームオフィス)は新型コロナの感染を契機にポピュラーになった。時代は既にそのような環境圏に入っているわけだ。

 新型コロナの感染拡大を受け、様々なサミット会議や国際会議は延期される一方、ビデオ会議、Zoomを利用した会議が広がっていった。新型コロナの感染はインターネットを利用した会議方式の実施テンポをより早めたといえるだろう。

 それでは、EU大統領の発言「実際、同じテーブルで話し合えば、より理解でき、合意の道も開かれる」という表明は時代の潮流に乗り切れない古い世代の嘆きに過ぎないか、それともやはり真理の一面を表現したものだろうか。

 実際に顔や表情を見ながら話せば、その発言内容ばかりか、言葉の背後に隠れている本音が見えてくることがある。その点、ビデオ会議の場合、限界がある。如何にカメラの画像能力が向上しても対面会合のようにはいかないだろう。

 このコラム欄で「『嘘』を言ってごらん」(2020年2月18日参考)を書いた。人間の表情、仕草を観察し、そこからその人が何を考えているかを分析する精神行動分析学者カル・ライトマン(ティム・ロス主演)のドラマだ。人は嘘を言う時、その表情、眼球、口周辺の筋肉に通常ではない動きが出てくる。それを見つけ出し、嘘を言っているのか、本当かを推理していく。その微妙な動き、表情を専門家たちは「マイクロ・エクスプレッション」(微表情)と呼んでいる。ビデオ会議やzoom会議ではそのマイクロ・エクスプレッションを感知できない可能性がある。もちろん、会議の参加者(政治家)は“嘘を言う存在”という前提で述べているわけではないが、ビデオ会議の限界を考えざるを得ないのだ。

 単純な連絡事項や事務通達の場合、ビデオ会議で十分かもしれないが、政治や会社の命運や未来を賭けた問題では時間の制限がない限り、やはり関係者の実際の参加が必要だろう。その意味で当方にとっては、EU大統領の期待は当然だと思う。

 もちろん、EU首脳がブリュッセルのEU本部のテーブルに座った途端、政策が変わるということはない。マクロン仏大統領やメルケル首相の顔を見たからと言って、政策に変化が出てくるわけではないが、実際に会って話し合う場合と、カメラの画像を見ながら話しあうのでは印象が異なってくる。そして人はその相手の雰囲気、様子でも一定の印象を受けるものだ。例えば、「あの人は厳しいと思っていたが、優しい面がある」といった印象だ。そのマイクロ・エクスプレッションが政策を決め、国の方針にも影響を与えたとしても不思議ではない。その点、人工知能の世界とは異なる。生の人間の会議だからだ。

 新型コロナの感染防止のために、人は濃厚接触を禁止され、握手も接近もしないように注意しなければならない日々を送ってきた。その間、Zoom会議、ビデオ会議がブームとなったが、人はやはり関係存在であり、接触存在であるという事実は無視できないだろう。

 最後に、友人から聞いた話を紹介する。彼は現地雇いの会社員だった。ある日「会社の方針もあって、君は辞めてもらうことになった」という連絡を受けた。友人は会社訪問の途中だったが、その電話を受け取ると会社訪問を止め、考えてしまったという。「俺は何のために頑張ってきたのか。電話一本で解雇か」と呟いた。友人はその後、別の仕事を始めたが、「事務通達のように電話一本で解雇され、解雇書類すら送られてこなかったよ」と今では笑いながら話す友人のマイクロ・エクスプレッションを見た。友人は確実に傷ついていたのだ。

 IT技術の急速な発達で会議も事務仕事も効率的に行われるようになったが、情報交換、通達、会合では人間の生身が発信するマイクロな表情、意思表示が益々重要になってくるのではないか。 ミシェルEU大統領の「ブリュッセルに集まれば…」という発言を聞きながら、そのように考えた次第だ。
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