ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2020年05月

韓国が中国の香港政策に沈黙する時

 北京で開催された第13期全国人民代表大会(全人代)第3回会議で28日、反体制活動を厳しく取り締まる「国家安全法」を香港にも適応する方針が採択された。外電によると、同法導入に賛成票は99.7%だった。

 予想されたことだが、「国家安全法」の導入決定が伝わると、欧米諸国から北京政府へ厳しい批判が飛び出した。曰く、「香港での言論の自由が完全に蹂躙され、高度の自治が保証されてきた『一国二制度』が形骸化し、香港の自治が崩壊する」というものだ。香港では2047年まで「一国二制度」の高度な自治が保証されることになっている。それに対し、北京は香港内の民主勢力を駆逐するために、北京に有利な選挙制度などを実施してきたが、香港内の民主化運動は静まっていない。

 「国家安全法」の導入採択に対して、米英豪カナダの4カ国は共同声明を出して、「香港国民の自由をはく奪する」と非難。トランプ米大統領は26日の段階で「厳しい対抗措置を取る」と警告を発してきた。それに先立ち、欧州連合(EU)は22日、ジョセップ・ボレル外交安保政策上級代表名義で中国を非難する声明を発表した。中国の動向には慎重な立場をキープする日本政府は28日、「国際社会や香港市民が強く懸念する中で議決がなされたことを深く憂慮している」(菅義偉官房長官)と表明し、欧米と歩調を合わせている。日本政府の今回の反応は珍しく迅速だ。

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▲第27回閣僚会議で冒頭スピーチをする文在寅大統領(韓国大統領府公式サイドから、2020年5月26日)

 その中で韓国政府の沈黙が目立つ。韓国の文在寅政権は29日現在、何も声明を公表していない。世界の外交で「沈黙」は「同意」を意味すると取られる。批判や支持表明が遅れた場合、様々な憶測が流れるのが常だ。韓国側は「国家安全法」導入への「影響は制限的」と判断し、批判を避けたのだろうか。駐日中国大使を呼び、遺憾の意を素早く表明した日本政府とは今回は好対照だ。

 韓国メディアを読むと、米中両国は韓国を説得する外交を舞台裏で展開させている。韓国最大手紙「朝鮮日報」は「中国は駐韓国大使館を通じて韓国外務省に『国家安全法』について詳細なブリーフィングを行った」と報じている。

 中国メディアによると、ソウル駐在の邢海明・中国大使は24日、中国国営中央テレビ(CCTV)とのインタビューで、「中韓は友好的な隣国として核心問題に対する互いの立場を尊重してきた。香港問題も例外ではない」、「韓国側の理解と支持が得られると信じている」と述べている。

 一方、米政府は先日、ワシントンで韓国など同盟国の外交当局者を呼び、中国の狙いを詳細に説明し、米国の立場と歩調を合わすように圧力を行使している。米国はこれまで同盟国に対し、.侫 璽ΕДだ宿覆離椒ぅ灰奪函↓反中国経済ブロック(EPN)への参加、「国家安全法」導入反対の3戦線を挙げ、中国包囲網を構築するように呼び掛けてきた。

 朝鮮日報は、「国家安全法の香港導入問題はファーウエイやEPNなど経済的な問題ではなく、民主主義の核心に触れる問題だ。韓国政府がその問題で中国寄り、ないしは静観した場合、韓国の民主主義の成熟度が疑われることにもなりかねない」と懸念を表明している。正論だ。

 大統領就任以来、南北融和路線を推進している文在寅政権が特別、親中派というわけではない。地理的、歴史的に見ても韓国は常に隣りの大国、中国の動きに神経を使ってきた。韓国が2016年7月、対北ミサイル防衛のために米国の新型迎撃ミサイル「サード」(THAAD、高高度防衛ミサイル)の国内配置を決定した時、中国は猛烈な報復に出てきた。サムソンのスマートフォンや韓国製自動車の売り上げは急減し、民間レベルでも中国人の韓国旅行は前年比で激減し、韓国ロッテグループの店舗建設は中止に追い込まれ、最終的にはロッテは中国市場から追放されたことはまだ記憶に新しい。

 中国共産党政権は韓国を自国の勢力圏に加えるためアメとムチの両面政策を実施してきた。中国黒竜江省のハルビン駅で2014年1月20日、「安重根義士記念館」が一般公開された(安重根は1909年10月26日、ハルビン駅で伊藤博文初代韓国総監を射殺し、その場で逮捕され、10年3月26日に処刑された)。安重根記念館の話は 韓国の朴槿恵大統領が2013年6月に訪中した際に、習近平国家主席に提案したものだ。習主席は韓国側の要望に応え、ソウルを喜ばした(「中韓の『記念碑』と『記念館』の違い」2014年1月22日参考)。

 韓国国防部と在韓米軍は28日夜から29日朝にかけ、サードが配備されている韓国南部・慶尚北道星州郡の基地に迎撃ミサイルなどの軍事装備を搬入したが、韓国側は事前に中国側に連絡している。新型コロナウイルスの影響で国民経済も厳しい時だけに、中国を敵に回すことは出来ない。一方、トランプ米政権からは対中政策で歩調を合わすように圧力が高まっている。韓国は米中間の大国の狭間に立って、両者の顔色をうかがう政策を取らざるを得ない。

 看過できない点は、中国共産党政権が国際社会から強い抵抗が予想される「国家安全法」の香港導入を決定したのは、新型コロナ問題で世界から中国批判の声が高まり、米国との対立は益々激化、香港を失う危険性すら感じ、焦り出しているからだ。

 中国共産党政権が対外的に強い姿勢を誇示する時、国内では困難に直面し、動揺している時が多い。中国は新型コロナ問題で内外で守勢を強いられている、と受け取っても間違いはないだろう。

 文在寅大統領は新型コロナ対策での成果を誇示して、世界にアピール、4月の総選挙では革新系与党「共に民主党」が大勝し、大統領の支持率は65%を超えている。そこに中国の「国家安全法」の香港導入問題が出てきた。文政権はいつまでも態度を曖昧にできない。中国を支持するか、欧米日の同盟国に加わるか、態度を明確にしなければならない。

 韓国側が忘れてはならない点は、中国が北朝鮮と同様、一党独裁国家であり、民主主義とは程遠く、実際は人権蹂躙国という事実だ。韓国は本来、どちらを選択すべきかで悩む問題ではない。選択を難しくさせ、沈黙の壁に隠れざるを得ないのは、文在寅大統領自身の政治信条が反米、親北に凝り固まっているからだ(「韓国は全て失う危機に陥っている」2019年6月9日参考)。

ポストコロナ時代の「自由」の再発見

 新型コロナウイルスの感染がピークアウトしたのを受け、欧州では段階的な規制緩和が進められてきた。欧州で最初の感染地となったイタリア北部ロンバルディアでもようやくロックダウン(都市封鎖)から規制緩和へとコマが進められてきた。コンテ首相はコロナ禍でダメージを受けた国民経済救済のために7項目計画を公表したばかりだ。

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▲フランス7月革命をテーマとした絵画、ウジェーヌ・ドラクロワ作「民衆を導く自由の女神」(ウィキぺディアから)

 ところで、規制緩和では外出自粛の緩和、シッピングモールの再開、学校の再開などが打ち出されてきたが、コンサート、劇場など芸術イベントの再開にはどの国も慎重な立場をキープしている。クラスター(集団感染)を恐れることもあるが、新型コロナ対策の主要な規律、ソーシャルコンタクトの自制、他者との距離(1mから2m)を取るといった措置が難しく、多くの人が限られた空間に集まり、濃縮接触も避けられない分野、という事情があるからだろう。

 観光立国のオーストリアでは観光業が再開し、ホテル業界も再開にゴーサインが出たが、芸術家、音楽家、文化イベント開催者らは芸術分野への対応が遅れているとして政府に抗議し、デモも行ってきた。芸術の自由を重視すべきだ、というのが彼らの主張だ。

 新型コロナの感染防止のためにロックダウンが実施され、外出もままならない時、国民の自由を蹂躙しているとの批判の声も一部聞かれた。興味深い点は、最大の感染国となったイタリアの国立統計研究所(ISTAT)が25日公表した調査結果だ。ロイター通信によると、国民の大半が新型コロナウイルス感染拡大防止に向けて政府が実施したロックダウン措置を支持している。調査は4月5〜21日、同国での新型コロナ流行のピーク時に実施。ロックダウンが非常に有益、もしくはかなり有益だったとの回答は91%に達した。一方、あまり有益でない、全く有益でないとの回答は9%だった。

 イタリアでは当時、政府のロックダウン措置に抗議する声はなかった。「自由」より国民の健康を守るため感染防止が明らかに優先されたからだ。国民に明確なコンセンサスがあった。それほど新型コロナの感染への恐怖は当時、全てのイタリア国民にとってリアルであり、他の選択肢は考えられなかったわけだ。

 ここで「自由」について少し考えてみたい。自由を得るために人々は歴史を通じて命がけで戦ってきた。冷戦時代、ソ連・東欧共産政権から西側自由世界に逃げてきた数多くの人がいたことはまだ記憶に新しい。現在では、香港で多くの若者が自由のために戦っている。命を失うリスクを冒してまで自由を獲得するために戦ってきた数多くの人々が過去、そして現在もいる。

 人は自由を求める存在だ。取り巻く環境、社会が自由を制限するならば、その障害を突破して自由を獲得しようと腐心する。中世時代からカトリック教会の伝統や慣習に縛られていたフランス国民が起こした革命はその代表的な例だ。神の支配から脱して、人間本来の自由の謳歌を求めたルネッサンス運動は当時のフランスに影響を与えていた啓蒙思想と結びついて1789年、フランス革命を引き起こした。

 その一方、無制限の自由は考えられない。社会的存在としての人間にとって、自由には常に一定の「規制」が伴う。さもなければ、社会、国家の秩序が維持できなくなるからだ。すなわち、自由には無制限ではなく、一定のルールが必要なわけだ。

 自由と「責任」は表裏一体だ。オーストリアのクルツ首相は規制緩和後、「国民は自由を得るが、それには責任が伴う。他者への感染を防止するためにマスクを着用するなどの遵守はその一つだ」と述べていた。責任のない自由はないわけだ。

 同時に、自由を享受するためには、自由が維持されるだけの結果がなければ難しい。個人個人が好き勝手に自由を使えば混乱する。国にとってもよい結果(実績)が必要だ。規制緩和に乗り出した国は国民が規制を遵守し、感染者数が減少した結果のもとに、段階的に緩和を実施する。国民が規制ルールを守らず、感染者数が増加すれば、緩和は実施できない。

 新型コロナ感染問題で現代人は、感染防止という国民全員の命を守る目的のために個々の自由、外出、経済活動、スポーツ、イベントなどを断念せざるを得ない状況下に置かれた。戦争体験の世代がほとんどいない21世紀の現代、多くの人々は当たり前に思ってきた“自由”が制限されるという初めての体験をした。自由に買い物をし、家族や友人と歓談し、スポーツやイベントを楽しむという普通の生活がどれだけ貴重なのか身をもって知ったわけだ。

 また、感染リスクを冒しても社会の機能を維持するために働く人々や医療関係者への感謝の思いが強まった。自分が生きて行くうえで多くの人々が陰で支えていることも理屈ではなく、目撃し、体験できたからだ。

 それではポスト・コロナでの「新しい生活」、「新しい生き方」とはいかなる内容だろうか。人は自由を求める一方、強い指導者のもとで自由の制限を喜んで甘受する場合もある。自主的に判断して選択しなければならない「自由」を持つのを恐れる人々がいる。ドイツの社会心理学者エーリッヒ・フロムはそれを「自由からの逃避」と名付けた。ポスト・コロナでの新しい生活は、「……からの自由」でも「自由からの逃避」でもない。自由を希求する自分と社会への感謝との共存を忘れない生き方ではないか。自由の再発見だ。

人工知能(AI)が「神」を発見する時

 フランスの哲学者ブレーズ・パスカルは、「人間は、自然の中で最も弱い葦の一本に過ぎないが、それは考える葦である」と述べ、人間の偉大さがどこにあるのかを表現した。当方には、その人間の偉大さが今、大きく揺り動かされているのを感じるのだ。考えているのは人間だけはでなく、植物も動物も考えていることが分かったからではない。

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▲新型コロナウイルス(covid-19)=WHO公式情報特設ページの公式サイトから

 少なくとも21世紀に入って2件、人間の偉大さが決定的に揺さぶられる出来事が起きている。直径100nm(ナノメートル)から200nmの新型ウイルスが世界の政治、経済、文化を根底から破壊してきた。そして人間が開発してきた人工知能(AI)が世界最強の囲碁棋士との戦いで圧勝したことだ。

 前者は今、世界が目撃し体験している。中国は世界に原子爆弾を落としたわけではない。ひょっとしたら、中国共産党政権も事態を過小評価していたのかもしれない。同国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスは27日現在、世界各地で565万人以上の人間に感染し、35万人以上の死者を出している。新型コロナウイルスの襲撃に対し、感染防止のために都市封鎖、外出規制、経済活動の停止を余儀なくされてきた。感染がピークアウトしたこともあって、欧州では国境制限を解除し、段階的な封鎖解除に乗り出そうとしているところだ。

 世界に莫大な被害と犠牲をもたらしたのは直径100nmのウイルスだ。そのウイルスが動物からひとに感染するようになった背後には、人間の関与があったことは否定できないが、生物でもない非生物のウイルスが世界を短期間に激変させたのだ。

 昨年、現在のような世界を予想した人がいただろうか。「考える葦」の人間の偉大さを秘かに誇ってきた人々は人間の弱さを痛いほど感じているだろう。パスカルの「自然の中で最も弱い葦の一本に過ぎない」という箇所には痛感せざるを得なくなった一方、誇るべき「考える葦」は治療薬、ワクチン製造で自国ファーストの争いを展開している(「人は考え、過ちを犯す葦だ」2015年12月9日参考)。

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▲人工知能の父、チューリングの16歳の時の写真(ウィキぺディアから)

 もう一つの出来事はAIアルファ棋士が世界最強の棋士をあっさりと破ったことだ。この出来事は囲碁の世界に留まらず、世界に衝撃を投じた。AIの棋士「アルファ碁」と世界最高峰の韓国棋士、李セドル氏との5番勝負が行われ、4勝1敗でアルファ碁が圧勝した。李氏が2016年3月13日、第4戦目で「アルファ碁」に白番中押しで雪辱を果たした時、世界のメディアは速報を流した。それほどグーグル傘下のディープマインド社が開発した「アルファ碁」は強かったのだ。李セドル氏は第2戦で敗北した直後、「ミスがなかったのに負けてしまった」と吐露した時、「アルファ碁」に対して恐ろしさすら感じた囲碁ファンも多数いた(「人類は人工知能より優れているか」2016年3月15日参考)。

 日進月歩で科学は進展する。同時に、AIの機能も急速に改良されるだろう。10年後、30年後、50年後のAIを考えてみてほしい。一方、人間はどうだろうか。日進月歩で発展するだろうか。知識量は確実に増えるかもしれないが、人間を人間としている内容に残念ながら急速な発展は期待できない。すなわち、時間はAIに有利だというわけだ。

 非生物的存在の「新型コロナウィルス」と人間の英知を集めて開発した「人工知能」に人類は敗北を喫してきた。もはや人類は「考える葦」と豪語してはいられなくなってきたのだ。現代人が薄々感じ出してきた自信喪失、憂鬱感はこれまで万物の霊長として「考える葦」を誇ってきた人間の落日を物語っているのではないか。
 医者で神学者のベストセラー作家、ヨハネス・フーバー氏(73)は昨年、「運命の解剖学」(Die Anatomie des Schicksals)という新書を出したが、その中で「現代は進化発展生物学(Evodevo)の時代だ。進化は神の業だ」と述べている。そして科学者が答えることが出来ない2つの問いがあるという。一つは「宇宙にある自然法はどこからくるのか」、そして2つ目は「宇宙形成の最初の条件はどこからくるのか」だ。

 AIが近い将来、この2つの難解な宇宙の問題に対して答えを見つけ出すとすればどうか。換言すれば、宇宙の観測性の背後に神の創造があったという結論を下した場合、人類はAIが発見した神にどのように対峙すべきか戸惑うのではないか。AIが人類に先駆けて神を発見した場合、「考える葦」というタイトルを人類は決定的に失うことになるからだ。

 上記のシナリオは決して夢物語ではない。なぜならば、AIは、人類の有神論と無神論といった哲学論争には全く関与せず、ビッグデータ、世界の森羅万象の事実を総合的に解明した結果として「神」を見つけ出すからだ。

ジョンソン首相「親中路線」見直しか

 当方はこのコラム欄で「ジョンソン首相と太永浩氏に注目」(2020年4月19日参考)を書き、ジョンソン首相に対しては、中国発新型コロナウイルスに感染して入院、集中治療室での治療から回復体験した首相がその後の対中政策にどのような変化を見せるか注目したいと述べた。

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▲新型コロナ問題に言及するジョンソン首相(英首相府ダウニング街10番公式サイトから、2020年5月10日)

 欧州連合(EU)離脱交渉で躓いたテリーザ・メイ首相の後継として、昨年夏に就任したボリス・ジョンソン首相(55)は新型コロナに対しては当初、トランプ米大統領と同じく楽観的な受け取り方をしていたが、新型コロナが欧州で猛威を振るい、首相自身が感染して入院する羽目になった。退院後の発言などから、ジョンソン首相はかなり重症で集中治療室(ICU)に入り、命の危険もあったことが判明した。

 首相は4月12日に退院すると、官邸のダウニング街10番地には戻らずロンドン北西にある首相公式別荘「チェッカーズ」で静養を続け、その数週間後、日常の政治活動を再開した経緯がある。

当方の関心はロンドン市長時代から親中派だったジョンソン首相が新型コロナに感染し、生命の危機を体験したことでその政治路線が変わるだろうかにあった。サウロがパウロに変わった話は有名だが、人は大きな体験をすれば「その後」必ず変わるものだ。ジョンソン首相も例外ではないと考えたからだ。そして、その予想はどうやら当たりそうなのだ。 

 英紙ガ―ディアンが24日報じたところによると、ジョンソン首相は2023年まで3年以内に中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を英国の第5世代移動通信システム(5G)網から完全に排除する計画だという。

 トランプ米大統領はファーウェイが国家の安全を脅かす危険性があるとして市場からの排斥を進めてきたが、米国と親密な同盟国の英国ジョンソン首相は今年1月28日、国内5G網整備について、「コア部分を除き、その他周辺機器については中国の華為技術の参入を容認する」と決定し、トランプ政権を少しがっかりさせた。英国与党・保守党議員からもジョンソン首相の決定に反対する議員がファーウェイ排除の法案を提出したが、否決されている。それから4カ月後「今後3年の間にファーウェイの5G網の関与を完全に排除する」と方針を変えたわけだ。

 ジョンソン首相の親中路線に変化が見えたのは、新型コロナ感染体験があったからではないか。ガ―ディアンは「英国家サイバーセキュリティ・センター(NCSC)が24日、ファーウエイの脅威に対して見直しを実施した結果」と説明していたが、その背後には、ジョンソン首相の中国共産党政権への見直しがあったのだろう。

 中国発ウイルスで英国でも多数の感染者、死者数が出てきている。同時に、新型ウイルスの実態を隠蔽してきた中国共産党政権に対して国内で批判的な声が高まってきている。そして今、ジョンソン首相は中国傾斜路線の見直しを示唆したわけだ。

 ジョンソン首相はロンドン市長時代から中国寄りだった。習近平国家主席が推進する新しいシルクロード「一帯一路」を高く評価してきた。その中で、ファーウエイは昨年、「人工知能研究センター」、そして「5Gイノベーション&エクスペリエンスセンター」を開設するなど、ロンドンを拠点として着実に基盤を構築してきている。

 ジョンソン首相はEU離脱(ブレグジット)後の国民経済の活路を中国市場に見出し、中国企業との関係を強化してきた。ロンドン市長時代(在任期間2008〜16年)には、ロンドンと上海の2大金融拠点の連携を強化、その結果、昨年年6月17日、上海・ロンドン株式相互接続(ストック・コネクト)が正式に始まっている。ちなみに、昨年1〜8月にかけて、中国企業に買収されたイギリス企業は15社、買収価格は83億ドルに上る。

 ガ―ディアンによれば、ジョンソン首相の親族関係者には中国と関係が深い人物が多い。ジョンソン首相の父親スタンリー・ジョンソン氏は駐ロンドン中国大使と面識があり、首相の弟ジョー・ジョンソン氏は大学担当大臣在任中、イギリスの大学代表団を率いて中国視察ツアーを行い、中国の教育大臣らと対談し、レディング大学と南京情報科学技術大学(NUIST)との提携を取り付けた。首相の異母弟、マックス・ジョンソン氏は北京大学でMBAを取得した後、香港のゴールドマン・サックスに入社。現在は中国向けに製品を販売する企業を対象とした投資会社を運営している、といった具合だ(海外中国メディア「大紀元」4月20日参考)。

 ジョンソン首相は欧米指導者の中で唯一、新型コロナを自分の身体で体験している。その首相がこれまでの親中政策から決別すれば、北京にも大きな影響を与えるだろう。ジョンソン首相の親中路線の見直しがうまくいくかどうかは現時点では不確かだが、注目すべき変化だ。

「緊急事態宣言」解除と日本モデル

 日本で緊急事態宣言が解除されたというニュースが流れてきた。日本の感染者数、死者数は人口比で見ても新型コロナウイルス対策で優秀国に入る実績だ。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長も25日、「日本は成功している」と評価した。本来ならば、その実績を上げた政府、この場合、安倍晋三首相の支持率が上がってもいいと思うのだが、時事通信26日報道によれば、政権維持の危険水域といわれる支持率30%を割ったという。日本の政治は欧州に住んでいると分からなくなる。

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▲「緊急事態宣言」の解除を表明する安倍晋三首相(2020年5月26日、首相官邸ホームページから)

 緊急事態宣言の発令中、黒川弘務・東京高検検事長の賭け麻雀問題がメディアで報道され、同検事長が辞任に追いこまれたことを受け、首相への責任問題と絡んで支持率が低下したという。それなりの理由は報じられている。

 国の指導者は常に厳しい目で見られる。権力への監視という観点から言えば、それは大切だが、問題には「最重要」、「重要」、「普通」、「あまり重要ではない」、そして「全く重要ではないテーマ」と分類すると、新型コロナ対策は「最重要」であり、黒川検事長の賭け麻雀問題は「全く重要ではない」とはいわないが、与野党が緊急に取り組むべき問題とはどうしても思えないのだ。あくまで問題を起こした個人の責任であり、その個人が公職の人間ならば、その進退を自身で決めれば一件落着だ。野党は黒川検事長賭け麻雀問題を契機に、打倒安倍政権に乗りだす動きを見せているという。そして批判の矛先は、黒川前検事長ではなく、安倍首相に向けられている。

 オーストリアでファン・デア・ベレン大統領は先日、新型コロナ対策の規制緩和を受けレストランが再開されたので、奥さんを連れて久しぶりに外食した。大統領夫妻はレストランの営業は夜11時までと決められていたにもかかわらず、夜12時過ぎまでレストランの外の席で談笑していたことが発覚し、「国民が規制措置を遵守している時、大統領夫妻が、新型コロナ規制を無視すれば、国民に示しが付かない」といった批判が飛び出した。批判は正しい。しかし、それゆえに大統領の辞任を要求する人はいない。現政権の実権を握るクルツ首相の責任を追及する声は流石に聞かない。

 コロナ対策の実施下で、大統領がその規制措置を破った事実は批判すべきとしても、それ以上は追及しない。ましてやクルツ首相の責任追及といった動きはない。バン・デア・ベレン大統領夫妻の責任問題であり、大統領は「話が弾んでつい時間を忘れてしまった」と後で詫びたので、それ以上、問題にする必要はない、という判断が働いているのだろう。

 安倍首相は本来、新型コロナ対策の実績を誇示し、批判に反論すればいいのだが、「新型コロナ対策の成果は安倍政権が実施してきた自粛路線の成果ではなく、日本民族の持っている特殊要因が大きい」という声が支配的だ。日本を批判してきた欧米メディアでは、新型コロナ対策で飛びぬけた成果を挙げている安倍政権の政策を評価するより、納豆など日本国民の健康食の効用論など、その原因を探す記事を載せている有様だ。

 安倍政権が新型コロナ対策で内外で評価を受けていたならば、野党側から辞任といった発想は飛び出さないだろう。自身の首をくくるようなことになるからだ。しかし、安倍政権は新型コロナ対策の成果(日本モデル)について、海外メディアと同様、説得力をもって説明できないでいる状況だ。

 安倍首相の低支持率は、最重要問題の成果を内外に説明して、その評価を受けるというプロセスに支障が生じている結果だ。稀な現象だ。隣国の韓国では文在寅大統領は欧米メディアから新型コロナ対策で評価され、それに呼応して支持率は約65%を超えている(韓国聯合ニュース5月22日)。これこそ本来普通の動きだが、安倍政権は政権の実績を誰もが納得できるように説明できないために、あまり重要ではない問題(黒川前検事長賭け麻雀問題)で失点し、支持率を大きく落としているわけだ。

 政権を批判する時、批判できる問題は大小山ほどあるが、国民も問題の軽重をわきまえ、国の運命に関わる最重要問題での実績を重視し、評価するべきだろう。さもなければ、あまり重要ではない問題で、政権は次から次へと交代に追い込まれ、その結果、政情は不安定化し、国運を失うことになるからだ。

 もちろん、誰が問題の軽重を決めるのかだ。「国民が主権」という民主国家の論理に従えば、国民が問題の軽重を最終的に決めることになる。多分、それは基本的には正しいが、問題の軽重を決める際の「設問の仕方」が大切となる。「新型コロナ対策で国民の健康を守る」ことと「検事長とメディア関係者との賭け麻雀問題」ではどちらが国にとって重要かと問うならば、答えは多分、明確だ。しかし、設定の仕方次第では、逆の答えも可能となる。

 問題の設定はメディアが主に行う。そのメディアが「緊急事態宣言を実施し、国民経済を停滞させた安倍政権の政治をどのように評価するか」と聞けば、国民から様々な批判が飛び出すのは当然だ。メディアは問題の軽重を恣意的にコントロールし、話題としたいテーマを前面に出して、読者を扇動することに長けている。

 欧州に住む日本人の一人として、日本は緊急事態宣言解除後のこれからも新型コロナ対策を最重要課題とし、政府と国民が結束し取り組むことが大切だと考えている。新型コロナに対しては、やはり「正しく恐れる」(安倍首相)ことが必要だ。

 当方には、新型コロナの大襲撃で悲惨な状況を呈したイタリアのべルガモの悪夢が蘇り、新型コロナを侮ってはならないという思いがどうしても強まってくる。日本の感染者数、死者数が非常に少ないことに、当方は驚きより、感謝の思いが先行するのだ。

コロナ禍と「ペンテコステ」

 新約聖書を読む限り、イエスの時代には多くの奇跡があった。目が見えない人が目が見えるようになったり、死んだと思われた人が息を吹き返した。イエス自身、十字架上で死んで3日後、復活し、キリスト教をスタートさせた。21世紀の現代、なぜ2000年前のように奇跡が起きないのだろうか。

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▲サン・ピエトロ大聖堂の頂点に雷が落下(バチカン放送独語電子版から)

 世界の宗教には多数の奇跡話や証がある。奇跡話のない宗教は存在しないほどだ。21世紀の現代人の目には宗教が言う奇跡は非科学的な迷信や単なる信仰告白に過ぎなくなってきたのだろうか。ひょっとしたら奇跡は21世紀にも起きているが、それを科学的に解釈しようとするあまり、奇跡は方程式の枠組みに押し込まれて、本来の輝きを失ってきたのだろうか。

 確かなことは、21世紀になっても多くの人々は奇跡の地を訪れ、聖者の奇跡を求めて巡礼地を訪ねていることだ。その数は年々増えている。ポルトガルのファテイマ、フランス南西部の小村ルルドは有名な巡礼地だが、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ西約50キロのメジュゴリエで1981年6月、当時15歳と16歳の少女に聖母マリアが降臨し、3歳の不具の幼児が完全に癒されるなど、数多くの奇跡が起き、これまでに1000万人以上の巡礼者が訪れている。奇跡への需要は年々、広がってきているのだ(「『聖人』と奇跡を願う人々」2013年10月2日参考)。

 今月21日は復活イエスが40日後、昇天された日を祝う「キリスト昇天日」の祝日だった。イエスは十字架上で死んで3日後、弟子たちの前に復活し、彼らにみ言葉を語り、40日後に昇天した。40日の間、イエスは意気消沈していた弟子たちを鼓舞し、イエスの福音を世界に伝えるように導いた。そして今月31日には聖霊降臨祭(ペンテコステ)を迎える。イエスの復活から始まったキリスト教は、世界宗教へ発展していく。イエスを3度否認したペテロがその後、逆さ十字架さえも恐れない強い信仰者に生まれかわっていく。ペンテコステは「教会が誕生した日」と受け取られている。

 イエスが昇天された後、5旬節の日に弟子たちが集まっていると聖霊が天から降り、様々な奇跡や現象が現れる。弟子たちは学んだこともない異国の言葉を話す。それをみた異教徒は弟子たちが各国の言葉で神の働きを述べるのに驚いた。「彼らは新しい酒で酔っているのだ」と嘲笑った。奇跡は昔からそれに直接関わらなかった人々には理解できないのだ。「使徒行伝」2章にはペンテコステの内容が記述されている。

 「奇跡が起きれば、歴史に穴が開く」と説明した宗教家がいた。にもかかわらず、多くの人々は奇跡に心が魅かれ、その背後に関心を注ぐ。そして奇跡と共に徴(しるし)を探り出そうとする。ちょうど、歴史の穴を覗くように。人は本来、天からの徴を懸命に求めているのではないか。

 一つの徴を紹介する。大昔の話ではない。

 第265代ローマ教皇ベネディクト16世は2013年2月28日、ローマ・カトリック教会史上、719年ぶりに生前退位した。在位期間は約8年間だった。ベネディクト16世は2月の教皇辞任表明の背景について、「神が退位するように言われたからだ」と明らかにしている。カトリック系ニュース通信社「Zenit」(ゼニット)がベネディクト16世を訪れたゲスト(匿名)から聞いた話として報じた。

 在位27年間を務めたヨハネ・パウロ2世後、ローマ教皇に選出されたベネディクト16世の8年間の在位期間はまさに波乱万丈だった。聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、その対応に追われる一方、教皇の執事(当時)がべネディクト16世の執務室や教皇の私設秘書、ゲオルグ・ゲンスヴァイン氏の部屋から教皇宛の個人書簡や内部文書などを盗み出し、ジャーナリストに流していた通称「バチリークス」事件が発生。同時に、バチカン銀行の不正問題やマネーロンダリングが暴露されるなど、不祥事が次から次と起きた。
 
 報道によると、「神が教皇の心に直接話しかけてきた」というのだ。教皇はその願いに従い、生前退位を決定した。「一種の“神秘的体験”だ」というわけだ。ゼニットの報道が事実とすれば、神はモーセに語り掛けたように、べネディクト16世にメッセージを発信し、退位を促したわけだ(「神話の復活」2013年8月25日参考)。

 興味深い事実は、べネディクト16世が2013年2月11日、退位表明した直後、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂の頂点に雷が落ちたことだ。イタリア通信ANSAの写真記者が雷の落ちた瞬間を撮影することに成功している。イタリアのメディアは当時、「神からの徴か」と報じたほどだ。

 もう一つ、最近起きた「徴」を加える。海外中国メディア「大紀元」が報じていた「徴」だ。中国共産党政権の全国人民政治協商会議(政協)の第13期全国委員会第3回会議が5月21日、北京で開催されたが、海外中国メディア大紀元は「午後3時に政協会議が始まると、北京市の上空が急に夜のように暗くなり、強風や雷とともに豪雨が降り始めた。一部の地区では雹が降った」と報じた。そして「ネットユーザーの多くは、『神は、異常な天気を通して、これから必ず大きな事が起きると警告している。何か災害の可能性が大きい』と不安視した」という。22日には、北京で全国人民代表大会(全人代)を開幕している。

 中国湖北省武漢市で発生した「新型コロナウイルス」は短期間で世界の政治、経済、文化、社会を土台から揺り動かす世界的流行(パンデミック)となった。「第2次世界大戦後、最大の人類への挑戦」と呼ばれ、歴史的、地球レベルで大きな影響を与えている。とすれば、神は必ず新型コロナ時代の前、後には様々な徴を示し、警告を発しているはずだ。
 「まことに主なる神は、そのしもべである預言者にその隠れた事を示さないでは、何事をもなされない」(アモス書3章7節)という聖句が蘇る。

 蛇足だが、神の宇宙創造説によれば、歴史は善悪闘争史だ。そして「悪」は常に「善」に先行して現れるという公式がある。

コロナ禍の欧州で「納豆」効果が注目

 欧州では日本食の好きな人が結構多い。彼らが好む日本食といえば、やはり寿司だ。欧州では日本レストランばかりか、中国や韓国レストランでも寿司にお目にかかる。生魚は嫌いと言っていた欧州人も寿司は好き、という人が出てきた。ウィーンでは通常のスーパーでもパック入り寿司セットが売られている。寿司は欧州人の食生活に完全に定着している。

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▲新型コロナ時代、見直される納豆の効果(写真・ウィキぺディアから)

 欧州人が日本の寿司に関心を注いだ最初のきっかけは、寿司がおいしいというより、「日本人は世界で最も寿命が長い国民だ。その最大の要因は魚や野菜を主食にした日本食に秘密があるらしい」ということから始まったのではないか。寿司の他に、豆腐も人気がある。日本人が食べる全ての食事は健康にいい、と考える欧州人が着実に増えてきているわけだ。

 話は中国発新型コロナウイルスに関連する。欧州で3月ごろから新型コロナウイルスが拡大し、多くの感染者、死者が出ている。感染拡大当初は欧州では韓国の新型コロナ対策に関心を注ぐ傾向があった。文在寅大統領も、「わが国は新型コロナ対策で世界の基準となった」と豪語した。オーストリアのクルツ首相はウィーンからわざわざソウルに電話をかけ、新型コロナ対策のノウハウを訊ねた、という話さえ報じられたものだ。

 しかし、ここにきて風向きが変わってきた。人口比で感染者数、死者数が圧倒的に少ない日本の新型コロナ対策について、関心が注がれ出したのだ。「新型コロナ検査数が少ない、今後急増するだろう」、「日本の感染者数は政府公表より10倍ほどの可能性がある」といった勝手な解釈をつけ、無視する傾向があった欧州メディアで「なぜ日本の新型コロナ対策は成功したのか」を探る記事が出てきたのだ。

 英日刊紙ガ―ディアン電子版(5月22日)は日本の安倍晋三政権の新型コロナ対策をこれまで批判してきたが、日本の感染者数、死者数が人口比で圧倒的に少ないという事実を挙げ、「From near disaster to success story:how Japan has tackled coronavirus」という見出しの記事を掲載していた。

 問題は、日本が成功したのは「なぜか」という肝心の質問にガ―ディアン紙もやはり答えられないことだ。その戸惑いは日本のメディアでも見られる。だから、風呂好きで、清潔好きな国民性、靴をぬいで家に入る習慣、マスクの着用に抵抗がないことなどの様々な理由が挙げられている。

 ガ―ディアン紙は「奇抜な説としては、日本人が好んで食べる納豆が新型コロナ対策に大きな効果を挙げているという。納豆には免疫力を強める栄養素が豊富に含まれている」と説明、日本人の新型コロナで死者数が少ない理由の一つとして「納豆効果説」を紹介していた。

 ところで、日本食が好きな欧州人でも過去、納豆を好んで食べる人は少なかった。ねばねばしていて、匂いも口触りも少し変わっている。見た目にもあまり良くない。その欧州人の納豆観を変えたのは中国発新型コロナ感染への予防食という意味合いが強まってきたからだろう。

 納豆は大豆を納豆菌で発酵させた食品。納豆特有の「ねばねば」は納豆菌がタンパク質を分解するとき生成される「グルタミン酸」と「フラクタン」という糖質によるものだ。

 当方はオーストリア人が作るキムチの話をコラムに書いたことがあるが、オーストリア人が作る納豆があるとは知らなかった。納豆が食べたければ、ウィーンにある唯一の「日本屋」さんに買いに出かけたが、この時期、人の込み合う店に買い出しに行けない。その時、野菜、果物などを配達してくれる店のホームページでオーストリア産バイオ納豆をみつけ、玄関前まで運んでもらえることを知った。大きな発見だった。

 オーストリア人の、オーストリア人による、オーストリア人のための「納豆」が音楽の都ウィーンにあったのだ。新型コロナの感染という異常事態がなければ多分、当方は知らずに終わっただろう。

 オーストリア製納豆は小瓶入りで4・5ユーロ(約530円)だ。辛子やしょうゆ袋はついていない。オーストリア製納豆は日本製納豆に負けないねばねばがあり、おいしい。瓶入りの納豆だから、衛生的だ。値段は少し高いかもしれないが、バイオなので健康的で味もいい。

 オーストリア製納豆は新型コロナ前から結構人気があったという。新型コロナ感染を予防するという意味合いが加わり、ここにきて需要が伸びてきた。当方が納豆を再び注文した時、バイオ納豆は売り切れていた。納豆を食べる人が着実に増えてきているのだ。

 クルツ首相は口癖のように、「新型コロナ後とその前では私たちの日常生活は変わらなければならない」と説教してきた。ポスト・コロナのオーストリア人の食卓に納豆が登場すれば、同国の食文化は新型コロナ前より豊かになるだろう。納豆が欧州で市民権を得るのはもはや時間の問題だ。

「日本の予言者」小松左京の警鐘

 中国発新型コロナウイルスの感染防止のため、ここ数週間、ゴミ捨てと新聞取り以外はほとんど家にいて、ネットフリックス(Netflix)で好きな米映画を見る傍ら、コラムを書く日々を過ごしている。国連報道部からは時たまニュースレターが配信されてくるが、記者会見もここしばらく開催されない様子だ。新型コロナの感染防止のためにウィーンの国連機関でも会合は主にビデオ会議で、職員はホームオフィスで職務をこなしているだけで、外交官や国連職員の活発な動きはまだ見られない。

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▲日本の代表的SF作家、現代の予言者・小松左京(小松左京事務所「株式会社イオ」公式サイトから)

 時間があるので家人が以前、知人からもらった月刊誌「文藝春秋」を読みだしたが、とても感動する記事、片山杜秀・慶応義塾大学教授と作家小松左京の次男、小松実盛氏との対談が掲載されていた。タイトルは、「『日本沈没』小松左京の警鐘が蘇る」だ。

 断っておくが、当方が読んだ月刊誌「文藝春秋」は2017年11月号だ。2年半前の月刊誌だ。当方が日本を去り、欧州に住んでいる時、日本に小松左京というSF作家が活躍し、日本の国民、世界、人類に向かって様々な警鐘を鳴らしていたことがわかった。

 もちろん、小松左京というSF作家の名前は知っていたが、その人物や作品については全く無知だった。小松は大ベストセラーとなった「日本沈没」で有名だが、未来の出来事を予言し、警告を発する「予言者」とも呼ばわれていたことを知った。そして単にカタストロフィーを描くだけではなく、それを通じて日本国民、人類が試練に総力戦で戦い、乗り越えてほしいという思いが込められているというのだ。

 片山教授と小松氏の対談を読んでいると、「2017年11月号」ではなく、「2020年5月号」の文藝春秋の記事を読んでいるのではないか、といった錯覚を覚えた。その内容は世界が中国発新型コロナウイルスの侵略に怯えている2020年のことを語っているように思えるからだ。

 小松は1977年、「アメリカの壁」でアメリカ・ファーストを唱えるトランプ大統領の出現を予言し、「復活の日」では「新型ウイルスが世界に流行したら」というテーマを描いている。特に、後者は小松自身が2020年の現在に生きていたらびっくりするのではないだろうか。小松は近未来の出来事、危機をリアルに予知し、それを描くことが出来た稀な作家だったわけだ。

 対談で心魅かれた部分を少し長いが引用する。小松ファンを自称する片山教授の発言だ。

 「小松左京とは『予言者』ではなく、『警醒』の人だと思います。これから起こりうる危機を科学的知識をもとに検証し、それが起こった場合に、人々がとりうる行動を予測する。そして、いざ危機が起こったときに人は、どのように振舞うべきかを常に考えておこうと、警鐘を鳴らし、呼びかけてきました。……小松さんは日本だけではなく人類に『天国』に昇ってほしいと願っていたのですから」

 話を2020年5月に戻す。新型コロナウイルスで多くの犠牲者が出た欧州では5月に入り、感染者数がピークアウトした国は封鎖を段階的に解除し、国民の夏季休暇を救済するためにさまざまな対策に乗り出してきた。欧州メディアの中には「ポスト・コロナ」という表現も現れ、「日常生活への段階的復帰」がテーマとなってきた。

 小松が生きていたならば、「人類は次のウイルスの侵略に備え、地球規模の準備態勢を敷くべきだ」と警告を発したのではないか。残念ながら、世界の主要国家間でワクチン製造での独占権争いが展開されてきているからだ。

 小松は人類の危機に対して「総力戦」、「全力戦」という表現を好んで使ったという。地球の危機に直面した人類が生き延びていくためには民族、国家の壁を越え総力戦で臨まなければ勝てないことを知っていたわけだ。

 喉元過ぎれば熱さを忘れる、であってはならない。危機から学び、次の危機に対応する準備が欠かせられない。小松はSFという書割を通じて、ポスト危機の生き方を自然災害の大国・日本の読者に伝えたかったのだろう。

 新型コロナの感染ピークは過ぎようとしているかもしれないが、人類はそこから教訓を引き出すべきだろう。感染の第2波、第3波を恐れるからではない。もっと悪質なウイルスが人類を襲撃するかもしれないからだ。

「中国ウイルス」発生源の「嘘」の深読み

 当方は嘘に関心がある。人は生まれてから死ぬまで嘘を言わずに生涯を全うした人はいないだろう。2000年前のイエスだって本当のことをいえば弟子たちがついてこれなくなるので、様々な方便を駆使しているほどだ。ひょっとしたら、嘘はそれほど非道徳的ではないのかもしれない。

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▲ポスト・コロナの国民経済を話し合う中国人民政治協商会議(政協)第13期全国委員会第3回会議が北京の人民大会堂で開幕(2020年5月21日、新華社公式サイトから)

 「嘘賛美」のコラムを書くつもりはない。当方は嘘が飛び出した背景に興味があるだけだ。米Foxの心理サスペンス番組「Lie to me」(邦題「ライ・トゥ・ミー」嘘は真実を語る)の主人公、精神行動分析学者カル・ライトマン(ティム・ロス主演)の話をもとに「嘘を言ってごらん」(2020年2月18日参考)というコラムを書いたが、嘘の背景やそのルーツを模索するプロセスは冒険的であり、とても刺激的だ。

 前口上はここまでにして、今回テーマにする「嘘」は新型コロナウイルスの発生源について中国共産党政権が発した嘘だ。曰く、「米軍(時には米中央情報局CIA)が中国を陥れるためにウィルスをもたらした」(後日、一部修正)という嘘だ。当方は当初、中国側の苦しさ紛れで飛び出した嘘と思ったが、同時に「プロパガンダやフェイクニュースに長けた中国側としては、かなり初歩的な嘘だ」と、内心小馬鹿にしていた。

 中国側の嘘は、米国が「新型コロナウイルスは中国湖北省武漢市のウイルス研究所で作られ、それが外部に漏れたものだ」と主張したことへの反論として飛び出してきた。それにしても、なぜ中国側は直ぐに嘘と分かる初歩的な嘘をいったのだろうか。「米軍がもたらした……」と主張するより、海外の反中国勢力がわが国の国際的威信を落とすために図った犯罪だ、と弁明するほうが少しは説得力があったのではないか。

 ウイルスの発見やその発生源問題では過去、今回の「武漢発新型コロナ発生源」論争のようなケースがあった。冷戦時代の1980年代、エイズウイルスが広がり出した時、「米国防総省の生物兵器研究所が人工的に合成したもの」というニュースが流れた。実際は、エイズウイルスはその前から存在しているから、人工的に合成したという主張は明らかに嘘情報だ。

 ただし、新型コロナウイルスの「武漢ウイルス研究所流出説」とエイズウイルスの「米国防総省陸軍研究所製造説」とはよく似ている。ちなみに、米トランプ政権はここにきて「新型コロナ発生源は武漢ウイルス研究所から流出という点で変わらないが、生物兵器として人工的に編集されたかは不明」と、一部発言を修正している。

 エイズウイルスが生物兵器として米軍が人工編集したという情報が後日、旧ソ連、東独情報機関らのフェイクニュースであったことが判明したが、米国は新型コロナウイルスの発生源論争ではいち早く「中国側が生物兵器として製造した」という部分をカットしている。

 興味深い点は、エイズウイルスの発見者として2008年、ノーベル生理学・医学賞を受賞したリュック・モンタニエ博士が仏ニュース番組のインタビューに応じ、そこで「新型コロナウイルスはHIVウイルスの遺伝子が人工的に挿入されて作られている」と発言し、注目された。同博士は「人工的に編集された痕跡が見つかった」と強調し、そのウイルスがなんらかの事故で外部に流出されたと考えている。独週刊誌シュピーゲル(5月9日号)は同博士の主張を紹介しているが、博士の主張にはやや否定的だ。

 ところで、中国が主張する「米軍がもたらした」という嘘は、過去のエイズウイルスでの発生源論争を否が応にも想起させる、高度な反論だったのかもしれない。エイズウイルスと米国防総省の生物兵器説を思い出させ、米国側の主張に反論するとともに、警告を発する意図があったのではないか。

 もう少し深読みすれば、エイズウイルスの米国防総省の生物兵器説を踏まえ、「米軍がもたらした…」という中国側の反論は「コロナウイルスにエイズウイルスを人工的に編集して作り上げた」というモンタニエ博士の説にも繋がってくるのだ。すなわち、中国側の「嘘」は両ウイルスの関与を連想させる契機を提供しているわけだ。

 中国側が「米軍が…」という発言をしなければ、新型コロナウイルスとエイズウイルスの繋がりが浮かび上がらずに終わったかもしれない。中国側が「米軍……」と言って反論した結果、真実が浮かび上がる結果となったのではないか。犯罪人はどこかで犯行を示唆する信号、言葉を発するものだ。

 中国が「武漢ウイルス研究所」説を主張する米国の批判に対し、「米国よ、お前は知らないだろうが、新型コロナウイルスは欧米で広がったエイズウイルスの人工的な編集で生まれてきたものだ。米国産でもあるのだ」という思いを込め、「米軍がもたらした」という嘘発言になったと考えられるわけだ。

 ところで、「中国科学院武漢ウイルス研究所」付属施設「P4実験室」(武漢P4ラボ)はフランスのウイルス専門家たちの支援を受け、2015年1月に完成し、18年1月から操業を始めている。エイズウイルスの発見者はフランス人の生物医学博士だ。すなわち、「第2次世界大戦後、最大の人類への挑戦」といわれるドラマ「中国ウイルス」には、中国だけではなく、米国もフランスも一定の役割を演じている。「中国の嘘」は決してシンプルな嘘ではなかった、という結論になるわけだ。

EU「国民の夏季休暇プランを救え」

 なぜ人は山を登るのか、そこに山があるからだ、という問答は良く知られているが、それでは「なぜ夏になると、欧州の人々は旅に出かけるのか」。欧州では通常の場合、3週間から5週間余りの有給休暇が保証されているから、時間と金があれば旅行カバンを出して荷物を急いで積んで旅に出かけようとするからだ。

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▲欧州の夏季休暇を可能とするために努力するマース独外相(2020年5月18日、独連邦外務省公式サイトから)

 しかし、今年の夏は「第2次世界大戦後、最大の人類への挑戦」といわれる中国発新型コロナウイルスが欧州を席巻し、多くの犠牲者が出たことを受け、欧州諸国は新型コロナ感染防止のため国境を閉鎖、あるいは制限し、国民には外国への渡航を見直すように要請したため、多くの欧州人の夏季休暇プランはおじゃんになるか、延期せざるを得なくなってきた。

 それでも初夏の香りを感じる5月に入ると、欧州国民の心は落ち着きがなくなる。外出禁止、マスク着用などの感染防止を国民に呼びかけてきた政治家も国民の動揺が伝わってくるから、この夏の休暇プランを少しでも救おうという動きを見せてきた。具体的には、3月ごろから施行してきた外出制限、渡航制限などの解除だ。幸い、各国の感染者データを見る限り、新型コロナ感染時期のピークは過ぎたと受け取られ出した。

 観光業界を救済するか否かは欧州諸国、特に、ギリシャ、スペイン、クロアチア、フランス、イタリア、オーストリアなど観光国にとっては死活問題だ。数百万人の雇用の行方がかかっているからだ(「新型コロナが破壊する『観光』」2020年4月24日参考)。

 そこで欧州連合(EU)の観光相ビデオ会議が20日、開催された。議長国クロアチアのガリ・カぺリ観光相によると、新型コロナの感染状況は加盟国で相違があるため、EU統一の域内境界線の制限解除を決めることは難しい。そのため、コロナ対策で同程度の成果がある国同士の2カ国間での国境制限の解除を進めることで、ホテル業界、観光業界の救済に乗り出すことになった。

 欧州では、ひと、もの、カネの自由な移動が保障されたシェンゲン協定は2015年の中東・北アフリカからの大量難民の殺到を受けて、多くの欧州諸国が国境を閉鎖、ないしは制限したため、協定は一時停止される状況が生まれた。そして今年、新型コロナの感染防止のために国境閉鎖、制限が行われてきた。EUでは感染防止で同じ程度の成果がある加盟国同士で国境制限を緩和させる方向になったわけだ。従来のシェンゲン協定ではなく、ミニ・シェンゲン協定、ないしは「コロナ・シェンゲン協定」とメディアでは呼ばれている。

 欧州の観光国ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は20日、夏バケーション・シーズンのオープンを宣言し、来月16日からホテル業務を再開し、国際線飛行は7月1日から段階的に再開すると表明。欧州の新型コロナ感染で多くの犠牲者を出したイタリアも6月3日から旅行者を受け入れ、空港業務を再開するという。

 オーストリアは6月15日からドイツ、スイス、リヒテンシュタインとの間の国境制限を解除し、両国間の旅行者の行き来を再開する予定だ。オーストリアはチェコ、スロバキア、ハンガリーとも同じ合意を目指している。オランダは7月1日からキャンプ場の再開、欧州諸国の中でも旅行が最も好きな国民といわれているドイツでは、6月中旬には国民に通達してきた一般的外国渡航警告を解除し、渡航先ごとに制限を解除していく計画だ。興味深い試みとしては、スロバニアは国民に200ユーロの商品券(未成年者には50ユーロ)を与え、海外旅行ではなく、国内旅行を奨励している。

 オーストリア日刊紙クローネ(5月20日)によると、同国のシャレンベルク外相は「国境解除は慎重に、段階的に進めていかなければならない」と強調、国境制限を解除するための基本ルールとして、「国民の健康、安全を最優先し、そして自由な移動を保証する」の3点を挙げている。同外相は「明らかな点は今夏の旅行は昨年のそれとは違うということだ」と説明することを忘れていない。

 例えば、オーストリアはクロアチアとの国境制限解除には慎重だ。なぜならば、クロアチアがイタリアとの国境制限を解除する予定のため、クロアチアに旅行したオーストリア旅行者がイタリアからの旅行者と接触することを通じて、新型コロナの感染の恐れが出てくるからだ。

 ドイツのハイコ・マース外相は、「われわれは観光業の再開で欧州各国と競争する考えはない」と述べ、各国間の国境制限の解除問題でも透明性と新型コロナの感染状況を考慮した上で慎重に実施しなければならないと釘を刺している。

 なお、EU域内市場担当のティエリー・ブルトン委員は、「欧州経済にとって観光業は全体の10%を占める重要なブランチだ。その業界には数百万人が働いている」と強調し、新型コロナで大ダメージを受けた観光業の回復を積極的に支援すると表明している。

 欧州の人々が夏季休暇に拘る姿は多分、働き者の多い日本人には理解しにくいかもしれない。欧州人の多くは夏季休暇を楽しむために働いている。どのような理由があるとしても、その夏季休暇が実現されないとなれば、どうだろうか。“革命”とまではいわないが、大きな社会的動揺が生じるだろう。欧州の政治家が懸命に夏季休暇救済のために腐心するのはある意味で当然のことなのだ。
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