ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2020年04月

ハンガリーの中国傾斜は危険水域に

 中国側が建設資金の85%を融資し、ハンガリーが残りの15%を出して同国首都ブタペストとセルビアの首都ベオグラードを結ぶ高速鉄道を建設することで合意した。ロイター通信が24日、ハンガリーのバルガ財務相の発言として報じた。

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▲ハンガリーのオルバン首相(右)、新型コロナ対策でセルビアのヴチッチ大統領と会見(2020年3月22日、ブタペストで、オルバン首相公式サイドから)

 両国間の融資条件が明らかにされていないので正確な点は不明だ。固定金利というが、総額21億ドルの鉄道建設プランの契約内容は両国間で機密扱いとなっている。ロイター通信によると、ハンガリーでは今月、鉄道建設事業を巡る契約に含まれるすべてのデータを10年間機密扱いとする法案が策定されている。

 バルガ財務相は「わが国に有利な内容だ」と語っている。総距離370キロに及ぶ高速鉄道建設計画は中国、ハンガリー、セルビアの3カ国が2014年に覚書を交わしていたが、これまで計画の実行が遅れていた。

 中国は、習近平国家主席が提唱した新マルコポーロ「一帯一路」構想に基づき、アジアやアフリカで積極的にインフラ整備事業を進めているが、中国から巨額の融資を受けたアフリカ諸国が中国側の政治的影響の拡大に困惑する一方、一部では債務返済が難しくなった国が出ている。国際通貨基金(IMF)は国の経済規模を超えた融資により、デフォルトになる危険が高まると警鐘を鳴らしているほどだ。

 ハンガリーとセルビア間の鉄道建設案を聞いた時、ケニアと中国間で締結された標準軌鉄道(SGR)のことを思い出した。2017年5月に開通したモンバサ〜ナイロビ間358キロの建設のため、ケニア政府は約36億ドルを中国から借りた。この時もケニアは契約内容の開示を禁止された。中国側には、契約内容、融資条件などが公表されればマズい、という判断が働いているわけだ。

 中国の「債務トラップ外交」を警戒して、中国からの提案を拒否している国も過去出てきた。

 .轡┘薀譽ネ政府は2018年10月10日、中国から4億ドルの融資を受けて空港を建設する予定だったが、空港プロジェクトを破棄している。現地紙シエラレオネ・テレグラフによると、空港建設の資金はすべて中国が融資し、中国企業が建設し、空港管理権限も中国側が担うことになっていた。まさに“中国の、中国人による、中国のための”空港建設といえるわけだ。中国の同空港建設が中国人民軍のアフリカの軍事拠点と受け取られても不思議ではない。

 ■横娃隠固8月、マレーシアのマハティール・モハマド首相は220億ドル相当の中国支援のインフラ計画を中止させている。

 欧州連合(EU)加盟国でもあるハンガリーや加盟候補国セルビアが中国の戦略に乗せられて同じような条件で契約を締結していることに驚きと懸念すら感じる。また、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス(covid-19)が欧州全土に拡大し、多数の感染者、死者が出ている時だけに、このタイミングにも首を傾げたくなる。

 欧州諸国の中で親中派のボリス・ジョンソン英首相は自身が新型コロナに感染し、重症化したこともあって、ここにきて中国との関係に懐疑的になっている。ちなみに、昨年1〜8月にかけて、中国企業に買収されたイギリス企業は15社、買収価格は83億ドルに上る。

 また、中国から人道的支援という名目で欧州諸国に送られてきたマスクの多くが不良品で、返品を余儀なくされている。新型コロナの影響もあって、欧州での「中国株」は大きく落ちている時だ(「なぜ中国製マスクに不良品が多いか」2020年4月15日参考)。

 新型コロナ対策では、他の欧州諸国とは異なり、封鎖政策は取らず、厳格な対策には距離を置いてきたスウェーデンでも、中国との関係見直しが見られる。例えば、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関「孔子学院」の閉鎖の動きと共に、中国の都市との姉妹関係を破棄する地方都市が出てきているのだ(海外中国メディア「大紀元」)。

 ハンガリーのオルバン政権は新型肺炎の感染を受け、非常事態宣言を発表したが、今後、議会での協議をせずに新しい法令を発令できる法案を採択したばかりだ。

 オルバン首相はハンガリー国民議会で過半数を占める与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」を土台に、野党を骨抜きにし、批判的なメディアを撲滅し、司法、言論を支配下に置いてきた。ブリュッセル(EU本部)からの批判をものともせず、難民対策ではハンガリー・ファーストを実行。その一方、習近平中国国家主席が提唱した「一帯一路」には積極的に参加し、ロシアにも急接近、EUの対ロシア制裁の解除を要求するなど、独自の外交路線を走ってきた(「『新型コロナ』は独裁者を生み出す?」2020年3月25日参考)。

 新型コロナの感染で欧州の各地でロックダウンなどの封鎖措置を実施せざるを得ない中、欧州の中国観にも変化が生じてきた。歓迎ではなく警戒心が高まってきたのだ。その中で、EU加盟国のハンガリーのオルバン政権は中国共産党政権にとって砂漠のオアシスのような存在だろう。EUだけではなく、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもあるハンガリーの中国傾斜は危険水域に入ってきた。

 ちなみに、ハンガリーのバルガ財務相は昨年4月、「中国の通信技術大手、華為技術「(ファーウェイ)はハンガリーのITの戦略的パートナーだ」と述べている。

新型コロナは「人と死者」の関係断つ

 人は生まれた以上、必ず「死」の時を迎える。健康体を誇った人も生来病持ちで脆弱だった人もその点では公平だ。早く死ぬか、100歳の大台まで生きるかは自身では決められない点でもやはり平等だ。

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▲ウィーン市内のカトリック教会の風景(2020年4月20日、撮影)

 そして公平で平等の「死」を迎えた人を彼岸の世界に送り出す役割は生きている家族、遺族関係者が担う。「千の風になって」の歌詞にもあるように、死者は本来、墓場にはいない。しかし、人は死者を彼岸の世界に無事送り出すために葬儀を始める。

 その葬儀(独Trauerritual)には、社会・地域で長い歴史を通じて培われた文化的内容が刻印されている。死者は厳粛な葬儀の洗礼を受けて旅立つ。しかし、中国武漢市で発生した新型コロナウイルスは新しい「死」を生み出したわけではないが、「死」を迎えた人と生きて送る人との別れの時を奪い取ってしまった。

 新型コロナは感染病だから、遺族関係者は亡くなった家人との一切のコンタクトが厳禁される。不可視の新型コロナウイルスの場合、妥協を許さないほど非常に厳格に行われている。新型コロナ患者は重症化した場合、集中治療室で人工呼吸器のお世話になる。不幸にも亡くなった患者は、家族、友人、知人に「さようなら」をいう時すら与えられず、素早く火葬され、埋葬されていく。

 人間社会では亡くなった人との別れ方に関して、歴史を通じて一定の儀式が編み出されてきた。一周忌、三回忌には特別の儀式をし、亡くなった人を思い出し、13回忌を過ぎる頃、遺族は死者と別れの時を迎える(33回忌まで儀式を行うところもある)。仏教では、遺族関係者は死んだ家人が成仏するまで責任を果たす。

 しかし、中国発の新型コロナは遺族関係者に、葬儀文化を無視するよう強いる。人の情を顧みない恐ろしさを持っている。新型コロナは、生きている人と亡くなった人の間にはソーシャルディスタンスのように、一定の距離を置くよう強要する。新型コロナは亡くなった人がもともと存在していなかったように振舞うことを遺族関係者に強いるのだ。それほど酷な業はないだろう。

 新型コロナが欧州に広がっていた時、イタリア北部ロンバルディアで多くの人々が毎日亡くなった。寄り添って祈る時間は遺族側に与えられないし、遺体を埋葬することすら許されなくなった。ミラノ市近郊の小都市ベルガモ市では連日、死者が出、軍が動員されるほど、次から次と遺体が運ばれ、埋葬されたり、他の州に運ばれた。

 ベルガモの病院では人工呼吸器の数が限られていたこともあって、医師は誰に人工呼吸器を装着するか、しないかを決定しなければならなかった。医師にとって厳しい選択を強いられたわけだ。生死の選択権を委ねられた若い医師たちは苦しむ。特には欝に陥る。

 人種のるつぼといわれる米ニューヨークでは遺体を埋葬する場所もないので大きな広場に遺体を並べて埋葬する光景が見られた。世界の富みを誇る米国でも遺体を伝統的なプロセスで葬ることができなくなった。

 デンマーク王子のハムレットが嘆いたように、彼岸の世界から戻ってきたものは誰もいない。だから、死んだ人が「彼岸への儀式」もなく葬られた場合、どのような思いを持つだろうか。一方、遺族は亡くなった家人に対してどのような事情があるとしても無念の思いが残る。

 オーストリア代表紙「プレッセ」科学欄(4月25日付)で、「死は普通見られる出来事だが、不可視だ」という見出しで、「新型コロナはウィルスで人を殺すだけではなく、残された遺族関係者には心的外傷後ストレス障害(PTSD)を与える」と述べている。PTSDはベトナム戦争やイラク戦争帰りの米軍兵士によく見られたが、新型コロナの場合にも遺族が死者との関係を断ち切られることで、消すことが出来ない精神的ダメージを受けるというのだ。

 ちなみに、「無意識の世界」を探求し、近代の精神分析学の道を開いたジークムント・フロイト(1856〜1939年)は愛娘ソフィーを伝染病のスペイン風邪で亡くしている。その時の体験、苦悩を後日、「運命の、意味のない野蛮な行為」と評している。

 愛する人、家族と最後の別れを告げることが出来なかったという後悔と痛みは、遺族側に生涯、消すことが出来ない刻印を残す。中国武漢発の新型コロナが「悪魔のような存在」といわれる所以でもある。

コロナは国民の消費志向をも変えた

 スイス公共放送協会のウェブサイト「スイスインフォ」からニュース・レター(4月22日)が配信されてきた。その中で興味深かった記事は、新型コロナでスイス国民の消費傾向が変わったことだ。ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング (NZZ)日曜日版が報じた内容だ。

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▲新型コロナ危機でスイスインフォもテレワークを導入(2020年4月26日、スイスインフォ公式サイトから)

 スイス国民が消費生活でより多様性、グローバル化を求めた結果、というのならば分かるが、現実は、新型コロナに強制されて日常の消費生活を変えざるを得なくなったのだ。その点、スイスだけではなく、当方が住むオーストリアでも同じだ。

 NZZの調査記事に戻る。スイス郵便の貯金部門ポストファイナンスが調査を実施したもので、2019/2020年の消費行動を比較したもの。期間はいずれも3月16日から4月14日の間。

 営業活動が禁止、ないしは制限された3月中旬から、例えば、衛生用品・化粧品への支出は前年同期比で53%減少。外出が制限されているので化粧品への需要が減少するのは当然だ。同時に、「被服費は5割以上減少し、靴への支出は80%以上減少した一方、食品への支出は18・6%増加した」という。新型コロナの感染拡大で国民の外食が減り(80・1%減)、床屋、美容院に行く人が減った。

 それだけではない。現金払いに拘るスイス国民も小銭や紙幣にはウイルスが付着しやすいという理由からキャッシュレス化が進んだことだ(NZZによると、現金引き出しはマイナス48・4%と急減)。店舗側は従業員への感染防止のため「カードで支払いをお願いします」と呼び掛けている。また、デリバリー(配達)を利用する消費者が増えたという。

 高齢者は感染危険の高い年齢ということで、外出を控えるように政府から呼びかけられている。だから買物もデリバリーで済ます高齢者が増えた。配達人が買物をドアの前まで運ぶ。顧客はドアを開けず、返事すれば届けたことを確認した配達人は帰る。支払いは基本的にはオンラインで済ます。現金のやり取りはその間一切ないうえ、配達人と顧客との接触も基本的にない。ソーシャル・コンタクトのない社会がこのようにして誕生するわけだ。

 スイスの調査結果はサプライズではない。オーストリアでも、外出自粛が呼び掛けられ、職場からホームオフィスが奨励され、家庭で時間を過ごす人が急増した。同時に、近くの日常品店が閉店されたこともあって、多くの人々は大規模スーパーに駆け込み、日用品、パン、ライス、スパゲティー、保存用ミルクから、トイレットペーパー、消毒剤、洗剤まで買い込む人々で溢れた。感染防止に不可欠のマスクは薬局から消えて久しい、といった具合だ。

 制限措置の一部解除で、スーパーでの買い占め減少は減ったが、人が普段好んで消費してきた商品、食糧はやはり手に入れるのが難しい。当方にとっては、ライスだ。驚いたことは、胚芽(イースト菌)が店舗で直ぐに売り切れてしまうのだ。多くの人々が自宅でパンを作り出したからだ。小麦粉に胚芽があれば簡単なパンは作れる。その意味で、胚芽は新型コロナが生み出したヒット商品となったわけだ。

 ちなみに、オーストリアでは買物時や地下鉄、バスに乗る時はマスク着用が義務化された。しかし、薬局店には久しくマスクはない。その結果、ネットなどでマスクの手作りを学び、家庭でマスクを手作りする人が増えてきた。我が家も簡単手作りマスクだ。マスクを求めて市内を彷徨う必要もなくなったので、感謝している。

 オーストリアのクルツ首相(33)は欧州でもマスク着用を最初に義務化した政治家だ。同首相は、「マスクの着用は欧州の文化ではないが、相手に新型コロナウイルスを感染させないためにも大切だ」と説明し、アジアから学ぼうと国民に呼びかけている。消費傾向だけではなく、文化さえも変わってきているのだ。

 このコラム欄で「新型肺炎と“Stay at home”ビジネス」(2020年3月10日参考)という記事を書いたが、世界経済が苦境の時にも営業業績を伸ばしている企業がある。感染防止用のマスクの製造業者や消毒液メーカーだけではない。英紙ガ―ディアンによると、米国の大手通信販売アマゾン(Amazon)とオンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信会社ネットフリックス(Netflix)だ。CNNビジネス電子版は2日、「Coronavirus is helping Netflix, Amazon and other “stay at home” Stocks.」と報じている。スイスでも、マルチメディアの利用が前年同期比で26・2%増えている。

 コンサートや映画館が閉鎖され、サッカー試合は中止されるなど、イベントや娯楽が少なくなる一方、学校や大学は休校となるので、高齢者ばかりか、若者も自宅にいる時間が急増した。その結果、アマゾンやネットフリックスが配信する最新米国映画、シリーズものを見る機会は増える。「風が吹けば、桶屋が儲かる」といった論理ではなく、非常に現実的な展開だ。

 新聞業界にとって朗報は、新聞を読まなくなった人々が新聞に目を通すようになってきたことだ。NZZによれば、新聞(雑誌を含む)の購読者が前年同期比で4%と僅かだが増えている。ネットだけではなく、紙メディア媒体へのニーズが出てきているのだ。

 新聞業界はこの機会を大切にしなければならない。国民は新型コロナ関連の情報を求めている。新型コロナは「第2次世界大戦後、最大の人類への挑戦」といわれている。新聞業界は正確で客観的な報道を提供するメディアとして、底力を発揮できる絶好のチャンスを迎えているのだ。

新型コロナがメルケル氏を蘇らせた

 メルケル独首相がここにきて活発な動きを見せている。せっかちな独メディアの中には「メルケル首相が政治の表舞台にカムバック」といった記事さえ報じている。オーストリア代表紙プレッセ(4月24日付)は、「ウイルスがアンゲラ・メルケル(首相)をどのように変えているか」という見出しの記事を掲載していたほどだ。

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▲連邦議会で新型コロナ対策で演説するメルケル首相(2020年4月23日、連邦首相府公式サイトから)

 メルケル首相は連邦首相職を既に14年間務め、15年目に入っている。その期間、山あり谷ありで、決して平坦な道ではなかったことは周知の事実だ。特に、社会民主党(SPD)との第4次連立政権が発足するまでは大変だったし、その後は外国首脳を迎えた歓迎式典で体が震えるなど、積み重なった精神的ストレスから生じる体の不調問題が浮上した。

 賢明なメルケル首相は自身の政治生命が終わりに近いことを悟ったのだろう。2018年10月、メルケル氏は与党「キリスト教民主同盟」(CDU)党首と連邦首相の兼任を止め、党首職をクランプ=カレンバウアー氏(現国防相)に譲り、首相ポストを2021年の任期満了まで務めた後、政界から引退する意向を明らかにした。

 どの国でも政治指導者が自身の退陣時期を表明すれば、その瞬間から政治的影響力を失っていく。メルケル首相の場合も例外ではなかった。その後、メルケル首相の政治的影響力は減少し、体の不調もあって「21年とは言わず、その前に政界から引退したらどうか」という声がCDU内でも高まっていった。

 メルケル氏の人生計画が変わってきたのは、昨年末、中国湖北省武漢市で新型コロナウイルス(covid-19)が発生し、それが今年に入り、欧州全土に広がり、イタリア、スペイン、フランスなどで猛威を振い、最近はイギリスにまで広がってきた頃からだ。メルケル首相の動きが活発化してきた、というか、首相の発言がメディアで報じられる機会が増えていったのだ。

 先ず、なぜ政治的には「死に体」と思われてきたメルケル首相がここにきて復活してきたかだ。考えられる理由は3つだ。〕薪泯達庁佞メルケル首相の後継者選出問題に没頭し、党内は路線対立を繰り返してきたうえ、クランプ=カレンバウアー党首が党首ポストから降りることを表明、第4次連立政権のジュニアパートナー、SPDはCDU以上に党内は不一致、ナーレス党首が昨年6月辞任表明した後、同年11月30日、2人党首の指導体制(サスキア・エスケン氏とノルベルト・ワルターボルヤンス氏)で再出発したが、対外的にアピールできるカリスマ性のある政治家はいない。その上、労働者の政党を誇示してきたSPDは党のアイデンティティを失ってきた、新型コロナ対策は連邦政府ではなく州政府の所管。メルケル首相はイニシャチブを取る必要はなく、16州の新型コロナ対策を調停すればいいだけだ。新型コロナ対策での厄介な問題は州責任者に委ねられている。

 まとめる。CDUとSPDの政権政党が党内問題に拘り指導力を発揮できないこと、新型コロナ対策ではメルケル首相に各州の調停役が求められてきたことだ。特に、新型コロナ対策では制限措置の解除時期で各州の間に不協和音がある。経済活動を早急に再開したいノルトライン・ベストファーレン州(NRW)のアルミン・ラシェット州首相を筆頭とした制限措置解除派が発言力を強めてきた一方、ドイツで最大の感染者数を出しているバイエルン州やバーデン=ヴュルテンベルク州は早期解除には警戒心が強い。バイエルン州のマルクス・ゼーダー州首相は21日、世界的に有名なビールの祭典「オクトーバーフェスト」の開催すら早々と中止を表明している、といった具合だ。

 ちなみに、ドイツ政府の国立感染症研究機関であるロベルト・コッホ研究所(RKI)は新型コロナウイルスの感染拡大抑制策の緩和には、「新たに確認される感染者の数が1日当たり数百人まで減る必要がある」という条件を挙げている。

 もちろん、メルケル首相が政治的カムバックした最大の背景には、ドイツが隣国フランス、イタリア、スぺイン、スイス、そして英国のように新型コロナが爆発的に感染拡大していないからだ。RKIによると、ドイツの感染者総数は24日現在15万0383人、死者数5321人で人口比からみても感染の拡大は抑えられている。
 
 その一方、メルケル連立政権は7500億ユーロ超の新型コロナ対策を打ち出し、23日には追加対策として、新型コロナの影響を受けている労働者や企業の支援に約100億ユーロを拠出するなど、新型コロナでダメージを受けた国民経済の救済に積極的に乗り出していることだ。

 感染者の増加が抑えられてきたことを受け、メルケル政権は感染拡大抑制策を段階的に緩和していく方針を発表した。具体的には、20日から床面積が800平方メートル以下の小売店のほか、自動車ディーラー、本屋などの営業再開。学校は来月4日以降、順次再開するほか、美容院なども同日から営業を再開する予定だ。ただし、人と人の距離を取る制限は5月3日まで続ける。

 メルケル首相は23日、欧州連合(EU)の首脳会談では新型コロナ感染でダメージを受けた加盟国への「復興基金」の創設で大きな役割を果たすなど、国内ばかりか、EUの舞台でも久しぶりにその存在感を発揮している。

 メルケル首相は2015年、中東・北アフリカ諸国からの難民殺到時、難民歓迎政策を実施し、国民からの批判を受け、ドイツ・ファーストを標榜、反難民政策を掲げる極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の躍進を許してしまった。その結果、難民歓迎政策を引っ込め、国境閉鎖などの厳格な難民政策を実施せざるを得なくなった経緯がある。同時に、メルケル首相の支持率は低下した。

 しかし、新型コロナはメルケル首相を生き返らせてきたのだ。ZDFの政治バロメーターによると、メルケル氏の与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)の支持率は2週間前より4%増で約39%。連立パートナーのSPD(16%)、「同盟90/緑の党」(18%)、AfD(9%)はいずれも支持率を落としているのとは好対照だ。

 メルケル首相は4月30日に各州首脳と再度協議し、5月6日には新たな制限措置の緩和を明らかにする予定だ。「政治生命は終わった」とみられてきたメルケル首相の復活は、欧州政界では歓迎されている。メルケル首相は、新型コロナで動揺する前の、「安定」していた欧州のシンボルだからだ。

「スペイン風邪」が提示した教訓は

 学校で世界史を学ぶ時、近代史では第1次、第2次世界大戦が大きな山場となる。人類史上はじめて、地域紛争から世界全土を巻き込んだ戦争が展開された最初の出来事だったからだ。ところで、第1次世界大戦よりも多くの犠牲者が出たが、世界史では余り言及されない出来事があった。1918年の「スペイン風邪」だ。その感染病で5000万人以上が亡くなったが、第1次大戦終焉直後という事情も重なって、「スペイン風邪」は世界史では余り知られなくなった。

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▲ラウラ・スピ二イ女史の著書の独語版「1918 Die Welt im Fieber」

 なぜだろうか。それが在仏の英国サイエンス・ジャーナリスト、ラウラ・スピ二ィさん(48)の疑問だった。独週刊誌シュピーゲル(2020年4月11日号)は同女史の著書でベストセラー入りした「1918、インフルエンザ・パンデミック」(「Pale Rider:The Spanish Flue of 1918」)の話を紹介している。中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスに世界が苦戦している時だけに、100年前の「スペイン風邪」についての同女史の著書は非常に参考になる。

 女史は「スペイン風邪」の状況を知りたいと考え、「スペイン風邪」で多くの犠牲が出た地域、ニューヨーク市、リオデジャネイロ、インドのグジャラート州などを現地取材している。スペイン風邪から100年余りの年月が経過しているから、もはや生存者はいない。そこで地域の図書館や歴史家たちを訪ねて、情報を収集した。その内容をまとめた本が2017年に英国で出版された。

 女史自身も述べているが、出版当時はスペイン風邪といっても余り関心を持つ読者はいなかった。それが2019年末、中国で「第2次世界大戦後、人類への最大の挑戦」といわれる新型コロナウイルス(covid-19)が発生した後、状況は激変した。多くの人々が1918年に発生した「スペイン風邪」の時の状況に関心を持ち出し、女史の著書はシュピーゲル誌の専門著書ベスト19に入るほど反響を呼んだ。フランスのアルベール・カミュの小説「ペスト」が日本でもベストセラーになったのと同じ現象だろう。感染病に対する関心が高まり、その時代に生きた人々の反応から何かを学ぼうとする人々が増えたわけだ。

 第1次世界大戦より多くの人々が亡くなった「スペイン風邪」がなぜ多くの人々の記憶から消えていったのか。それに対する著者の最初の答えは「スペイン風邪」のウイルスが新型コロナと同様、不可視の存在であるという点だ。第1次、第2次大戦の場合、「誰」と戦っているのか、「なぜ」戦っているのかを人々は理解していた。一方、多くの人々に感染し、瞬く間に死亡させた感染病は掴みようのない存在と受け取られたからだ。

 著者は、「人が記憶するのは明確な原因や敵が分かっている時だが、敵が不明な時、その戦いは時間の経過と共に記憶から消えていく」という。通常の歴史の話は始めと終わり、起承転結があるが、偶然で無秩序に発生した「スぺイン風邪」のような感染症はそのような筋書きがないから、歴史書に記述されることも少なくなるわけだ。

 トランプ米大統領は中国発の新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼び、マイク・ポンぺオ国務長官は「武漢ウイルス」と呼んで、世界に多くの犠牲者を出しているウイルスの発生地を明確にしている。歴史の中で犠牲となった人々を記憶する上で、「誰が」、「なぜ」を明確にすることが追悼の前提となる、という政治的な配慮と論理がその根底にあるのだろう。

 中国共産党政権は武漢発の新型コロナを一刻も早く忘却の彼方に送り、経済活動を再開したいと考えているから、米国の「中国ウイルス」、「武漢ウイルス」という呼称に強く反発する。彼らには感染病の犠牲者を追悼する考えが基本的にないから、事実を隠蔽することに躊躇しない。

 「スペイン風邪」と呼ばれているが、インフルエンザがスペインで発生したわけではない。世界各地でさまざまな呼称で呼ばれている。セネガル人では「ブラジル風邪」と呼び、ブラジル人は「ドイツ風邪」と呼んだ。ポーランド人は「ボルシェヴィキ病」と呼び、ペルシャ人(イラン)は英国の仕業と批判し、デンマーク人は特定の国名をつけず「南からきた」と受け取っていた、という有様だ。

 「スペイン風邪」が欧州全土に吹き荒れていた時、手を洗うように、マスクを着用するように、部屋を密封しないように、といったキャンペーンが進められた。新型コロナとその点では変わらない。衛生管理の徹底とソーシャルコンタクトの自粛に関するアドバイスだ。

 ちなみに、トランプ米大統領の祖父は「スパイン風邪」で亡くなっている。その孫に当たるドナルド・トランプ大統領は第45代大統領に就任したが、新型コロナが発生した直後、危険な感染症とは受け取らず、警戒しなかった。ニューヨーク市などで感染者が広がり、死者が増える段階になって新型コロナが非常に危険な感染病と分かって、その発生地の中国を批判し、「中国ウイルス」という呼称をつけたわけだ。

 ちなみに、「トランプ氏がもう少し早い段階で新型コロナの危険性を理解していたら、多くの犠牲者は出なかった」とニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事などは批判している。

 いずれにしても、始まりと終わりが不明で、実態が掴めない場合、人はそれらが提示する「意味」や「課題」を見いだせなくなり、落ち着きを失う。新型コロナの場合も同じだろう。北京政府は「中国ウイルス」と呼ばれることに激怒しているが、新型コロナの「始まり」について、世界はもっと関心を払い、解明する努力を払うべきだろう。2019年から20年にかけて猛威を振るった感染病「新型コロナ」が歴史の中で埋没されないためにも。
 

新型コロナ時代には人は「夢」を見る

 当方は不思議な夢をよく見る。このコラム欄でも当方の夢の話を書いたことがある。例えば、「ちょっとフロイト流の『夢判断』」2012年10月22日参考)、「レオポルト1世が現れた」2013年6月29日参考)だ。当方は夢に登場する人物とは全く面識がない。前者の場合、ポップ界の王(King of Pop)マイケル・ジャクソンのネバーランドに当方が舞い込んでしまったのだ。どうしてか、は聞かないでほしい。当方も分からないからだ。当方はマイケル・ジャクソンのファンではない。彼が急死した時(2009年6月25日)、メディア報道を通じてその存在を知った程度だ。レオポルト1世の場合、夢に出てきて初めてその存在を知った。夢の中では誰から説明を受けなくても、彼がマイケルであり、レオポルト1世だと知っているのだ。

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▲新型コロナウイルス(covid-19)=WHO公式情報特設ページの公式サイトから

 多分、読者の皆さんもさまざまな夢を見られているだろう。興味深い点は、英紙ガ―ディアンなどが報じていたが、新型コロナウイルスが欧州に侵入した頃から、「多くの人が頻繁に夢を見るようになった。それも鮮明で生き生きした夢だ」というのだ。

 多くの人は睡眠中、夢を見ているが、起床するとその夢の内容は消え失せ、何を見たか記憶していないケースが多い。新型コロナ時代の夢は漠然としたものではなく、不気味なほど鮮明に覚えているというのだ。すなわち、新型コロナは人間の夢の質をも激変させたのだ。

 その報道に対し、心理学的に解釈を試みる。

 「新型コロナの感染対策でホームオフィスで仕事をする人が増えた。会社に行くために目覚まし時計をかけることはなくなり、ストレスがなくなったので人はゆったりとした気分で深く眠るようになる」(睡眠を取り巻く環境が変わった)。

 「不可視の新型コロナに感染するのではないか、といった不安が頭から払しょくできない。ウイルスが至る所でうごめいているのを感じる、テレビを見ても新聞を読んでも新型コロナ関連のニュースで溢れている。人によっては日中インプットされた情報がトラウマ化する。その記憶が睡眠中に大脳皮質に影響を与え、人は夢を見る。その夢の内容は漠然としたものではなく、鮮明なイメージを伴う」

 睡眠は通常「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類に分類される、前者は身体は休んでいるが大脳皮質は働いている状況で、後者は体も脳も休んでいる状況で深い眠りだ。通常、人は一晩で前者と後者の睡眠を繰返す。学者によると90分間隔という。

 興味深い点は、両睡眠とも夢を見るが、前者の夢は内容が明確でリアルで、記憶に残る。目を覚ましても記憶している夢は多くはレム睡眠中の最後の夢だ。後者はあまり意味のない内容が多く、記憶に残らない。

 まとめると、新型コロナ時代に人が見る夢は「レム睡眠中の夢」という結論になる。問題は「新型コロナ」と「レム睡眠中の夢」の関係だろう。体はベットにあるが、頭は休んでいない。日中体験した内容やテレビや新聞から聞いた内容が夢の中でうごめく。

 新型コロナ時代には新型コロナに関連した夢が増えるのは当然だから、新型コロナへの恐怖、不安が夢の中でさまざまな書割をもって登場する。大脳皮質に刻印された新型コロナへの不安、恐怖から心は必死に解放を願う。すなわち、新型コロナが与えるインパクトは起きている時も睡眠中も人に働きかけているわけだ。

 人と人の接触が制限され、外出自粛、スポーツや文化イベントは中止、ないしは延期される。ソーシャルコンタクトを制限された現代人は新型コロナ前の日常生活に早く戻りたい、といった強烈な思いがあるだろう。それだけに、夢はリアルで生き生きとした内容となる。

 「終わりの時には、わたしの霊を全ての人に注ごう。そして、あなた方のむすこ娘は預言をし、若者たちは幻を見、老人たちは夢を見るであろう」と新約聖書「使徒行伝」2章17節には記述されている。

 それに倣っていうならば、「新型コロナの時には、不安と恐怖にとらわれる現代人は夢を見る。それも鮮明で生々しい夢を頻繁に見る」といえるわけだ。人生の3分の1は人間は睡眠している。その時間に見る夢は人生を生きていくうえで重要な役割を果たしているとみて間違いがないだろう。

 欧州連合(EU)欧州員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長はドイツ国防相時代、「政治家になってから睡眠中に夢を見なくなった」と語ったことがある。もちろん、ここでいう「夢」はあのマーティン・ルーサー・キング牧師の有名な演説で登場する「夢」ではなく、むしろ昨日の出来事、個人や友人が登場する普通の夢を意味する。その夢を見なくなったというのを聞いて、夢に強い関心がある当方は驚いたことを覚えている。フォン・デア・ライエン委員長は新型コロナ時代でも同じだろうか、それとも夢を見始めただろうか。

 新型コロナは「第2次世界大戦後、最大の人類への挑戦」といわれているが、危機管理の一貫として、睡眠の危機管理が考えられる。1日1回、長時間睡眠する「単相性睡眠」と1日何度かに分けて短い時間睡眠をとる「多相性睡眠」の2通りの睡眠の仕方がある。どちらがいいかは人によって違う。後者は睡眠時間を短縮できるメリットがある。

 いずれにしても、直径100ナノメートル(nm)の新型コロナウイルスは、私たちの人間関係、日常生活を根底から変えた。それだけではない。日中の仕事を終えて休む時ですら睡眠の中に侵入して心を乱すのだ。covid-19は悪魔のような存在だ。

新型コロナが破壊する「観光」

 地球温暖化は人類存続に危機をもたらすと警告されてきたが、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス(covid-19)は世界の観光業界に致命的なダメージを与えている。スウェーデンの環境擁護活動家グレタ・トゥンベリさんが始めた地球温暖化に対する抗議集会はコロナゆえにできなくなったが、新型コロナがグローバル化をストップさせ、環境汚染から守っているのは皮肉だ。飛行機は飛ばず、外出は規制され車も少なくなった。CO2は減って中国の空気もきれいになった。しかし、コロナはきれいになった美しい観光地を人が自由に旅行することも、自然の中で家族や友人たちと集まることもできなくさせてしまったのだ。

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▲ワッハウ渓谷世界遺産のドナウ川の真珠(オーストリア政府観光局公式サイトから)

 当方は40年前、米国を旅行していた時、1人の賢人から「観光は神の創造の光を観ることだ」といわれた、「観光」という言葉はそこから生まれてきたというのだ。当方は当時、「うまく説明するものだな」と関心したが、年を取るにつれて「その通りだ」と納得してきた。

 世界最大級の峡谷グランドキャ二オンをセスナ機で飛んだ時のなんともいえない爽快な気分は今でも思い出す。車で走っても走っても景色が変わらない米国の風景の大きさに感動したことを覚えている。普通30分も飛ばせば、風景は変わるが、米国では同じ風景が延々と続くのだ。

 地球には美しい風景や地域が溢れているが、その観光、旅行が今年は難しくなった。原因は中国発新型コロナだ。旅行に欠かせられない飛行機が飛ばない。外国を訪問するにも国境が閉鎖された。旅券より、最新の健康証明書が求められる。入国したとしても、2週間の隔離生活を強いられる。これでは旅行も観光もできない、その最大の被害者は世界の航空産業であり、ホテル業界、それに関連した観光地のレストラン業界やお土産店だろう。

 欧州では復活祭が過ぎれば夏の大型休日の過ごし方が話題となるが、中国武漢市から発生した新型コロナウイルスの感染拡大で夏季休暇の計画は全ておじゃんとなってしまった。5月の連休を海外で過ごそうと計画していた多くの日本人も多分、同じ思いだろう。

 「欧州の人々は休日を楽しむために働く」といわれる。その最大のハイライトは2週間から3週間の夏季休暇だ。それが実現できないとなれば、生きている目的がなくなる。新型コロナの世界最大の感染地域となった欧州ではデプレッション(意気消沈)が広がっているといわれる。希望がないからだ。オーストリアの場合、うつなどの精神的病に悩む国民のためにホットラインが準備されているが、連日多くの相談が飛び込んでいるという。

 オーストリアは観光立国だ。音楽の都ウィーンには世界からクラシック音楽ファンがベートーベンやモーツアルトの足跡を求めてやってくる。冬になれば、スキーのメッカ、チロルでスキーなどウインタースポーツを楽しむ人々で溢れる。 

 オーストリアにモーツアルトが生れなかったならば、同国の国民経済は既に破産していただろう。アルプスの小国オーストリアはあの天才作曲家モーツアルトに感謝しなければならないが、彼が生きていた時はそうではなかった。モーツアルトの才能を最も早く発見し、歓迎したのはウィーンの貴族たちではなく、チェコのプラハ市民だった。そのモーツアルトも新型コロナには勝てない。観光客がオーストリアに入国できないうえ、モーツアルトハウスは閉鎖されているから、ゆっくりとモーツアルトを偲ぶといったことはできないのだ。

 オーストリアは観光業から入る収入で国庫の財政をやりくりしてきた。その観光業が新型コロナでホテルは閉鎖され、レストランは営業できない。オペラ座をはじめ、コンサートハウス、博物館や美術館は休館。5月に入り、再開されたとしても人と人の距離を1メートル以上取らなければならない。これではゆっくりと見学はできない。

 クルツ政権は新型コロナ対策では迅速に対応した。対イタリア国境を即閉鎖する一方、国民には外出自粛、経済活動の縮小などを実施してきた。その結果、新型コロナの爆発的な感染拡大は阻止できたが、戦後最大となる約50万人の失業者が生れてきた。彼らに3カ月間の短期労働計画で雇用を保証したが、肝心の観光業は休業状況。オーストリアの国民経済は今年マイナス成長といわれる。

 新型コロナがいつまで続く分からないが、国民経済の再開を要求する声が出てきた。オーストリアの場合、そのカギを握っているのが観光業だ。世界からゲストを集め、彼らが落とす資金で国民経済をやりくりしてきたからだ。

 ウィーンは観光都市であり、欧州一の国際会議開催地だ。医学界の総会などが毎年開催されてきた。ウィーンには30を超える国際機関の本部、事務局がある。しかし、あれもこれも、新型コロナで全てダメになったのだ。

 クルツ政権は5月には経済活動の制限を徐々に緩和する方針を表明。同国のエリーザべト・ケスティンガ―観光相は記者会見で、「ホテルやレストランなどの観光業界を徐々に再開したい」と表明、ドイツやチェコなど新型コロナ対策で成果がある国との間では観光客の行き交いを認めていきたい方針を明らかにした。それに対し、オーストリアと国境を接するドイツのバイエルン州は「国境の再開は時期尚早だ」として、隣国オーストリア側の申し出には消極的だ。

 クルツ政権は迅速な国境閉鎖や外出自粛などを打ち出し、欧州では感染防止で模範国に挙げられているが、閉鎖した国境をいつオープンするか、経済活動をいつから認めるかなどの厄介な課題に直面している。「閉鎖する」より、それを「再開する」ほうが数段、難しいことを33歳のクルツ首相は今、実感していることだろう。

新型コロナが進める「宗教改革」

 世界のイスラム教徒は23日、ないしは24日からラマダン(断食の月)に入る。1カ月余り続くラマダンはイスラム教徒の信仰生活では重要な5行(信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼)の一つだが、新型コロナウイルス(covid-19)が世界的に感染している今日、断食明けをイスラム寺院で迎えることは出来なくなった。

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▲イラン保健省キアヌーシュ・ジャハンプール報道官が新型コロナの感染状況を報告(IRNA通信から、2020年4月20日)

 新型コロナはイスラム教ばかりか、世界の宗教界を激変させている。4月は、信仰の祖アブラハムから派生した3大唯一神教、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教で重要な宗教儀式が続いてきた。キリスト教では12日、ローマ・カトリック教会やプロテスタント教会が、19日には正教会がイエスの「復活」を祝うイースターを迎えたばかりだ。ユダヤ教では8日から約1週間、奴隷生活を強いられたエジプトから出て、神の約束の地カナンに出発した日を祝う「過ぎ越しの祭り」(ぺサハ)を祝った。そして23日にはイスラム教徒はラマダンに入るわけだ。

 キリスト教会やイスラム教は毎年、教会や寺院に信者を集めて盛大に祭日を祝うが、今年は新型コロナの感染防止のため、信者を集めて宗教施設内で儀式を開くことができなくなった。そのため、さまざまな代案が提案され、実施されてきた。

 バチカンの2020年の復活祭は「信者のいない復活祭」となったことはこのコラム欄でも報道済みだ。バチカンでは毎年、サンピエトロ広場に信者を迎えて記念礼拝が行われ、ローマ教皇が世界に向かって「ウルビ・エト・オルビ」の祝福を発する。今年はローマ教皇がサンピエトロ大聖堂内で儀典長グイド・マリーニ神父や数人の枢機卿、司教だけが参加した中で行った。もちろん、初めてのことだ。バチカン広報担当関係者が大聖堂内の復活祭の様子をビデオで撮り、それを世界の信者たちに配信した。

 新教会でも程度の差こそあれ、ビデオ礼拝で挙行するところが多かった。一方、正教会では教会内で復活祭を開くところも一部あったが、教会内には限られた数の信者たちしか参加できない点では同じだ。ほとんどがインターネットやビデオで礼拝をフォローした。外電によると、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、「私は教会に行く道を閉ざす者らをよしとしない」と述べ、正教会内の復活祭開催に拘る指導者もいた。

 ユダヤ教ではシナゴークで集会を開催することを中止。イスラエルでは「過ぎ越しの祭り(ペサハ)」は例年家族や親戚、友人が集い、「セデル」と呼ばれる夕食の儀式が行われるが、今年は各家庭で祝うケースが増えた。政府は感染拡散防止の措置として祭りの前日から国民の移動を禁じ、祭り初日の夜と最終日の夜は完全な外出禁止となったという。

 一方、ラマダンはイスラム教徒が実施しなければならない5行のひとつだ。断食は日の出から日の入りまで食を断つもので、病気や特別の理由がない限り、全てのイスラム教徒が行うことになっている。日が沈むと、多くの信者たちは寺院に集まって断食明けの食事を一緒にするか、友人や知人を家に招いて断食明けの食事をする。今年はそうはいかない。家庭だけで断食明けする。

 中東でも感染者が増加してきた。特にイランでは厳しい状況で、国際社会の制裁下にあるため医療物資の不足が深刻だ。同国保健省報道官が発表した18日現在、確認された感染者数は累計8万0868人、累計死者数は5031人だ。

 イランの最高指導者ハメネイ師は、「断食はイスラム法の中核。守らないことは赦されない」と強調する一方、「新型コロナ感染拡大のため公の場での集会が禁止される公算が大きい」として、家庭内でラマダンの意識を高めるように呼びかけている。

 3大唯一神教を含む宗教界では、重要な儀式やイベントは「教会」、「寺院」、「シナゴーク」(会堂)など宗教施設内で信者たちを集めて挙行されてきた。宗教団体が過去、華やかで豪華な教会や寺院を建設するのは信者たちに見せるために必要だからだ。しかし、今年に入り、事情が激変した。新型コロナの感染拡大を受け、外出禁止、ソーシャルコンタクトの縮小など要請されてきたため、集会開催は基本的には禁止されている。

 そこでビデオ集会、TV礼拝の開催となってきたわけだ。同時に、家庭で礼拝を開くケースが増えてきた。俗にいう「家庭チャーチ」だ。家庭で父母が礼拝を司り、子供たちと共に聖歌や讃美歌を歌い聖典を読む。新型コロナ感染期間が長引けば、キリスト教会やイスラム教会では家庭礼拝が信者たちの間で定着するだろう。

 宗教改革者マルチン・ルターがバチカンのローマ教皇が支配するキリスト教会から「聖書に戻れ」と叫んで教会の刷新に乗り出したように、21世紀の今日、教会や宗教機関・組織( institution,organization)が主導してきた信仰生活から、家庭に神を迎える「家庭チャーチ」がビデオ礼拝、インターネット集会と共に新しい信仰形態となっていくかもしれない。

 興味深い点は、新型コロナは人と人のコンタクトを制限する一方、社会の最小単位の家庭で神との対話の機会を与えようとしていることだ。

愛煙家の金正恩氏はやはり危ない!

 世界の独裁者は実際に亡くなるまでメディアなどで何度も自分の「死亡説」を聞く。独裁者の死を期待する声が多いからだけではない。独裁者は常に自身の死亡(殺害)説と向かい合って生きているからだ。それゆえに、というか、独裁者はその運命に抗するために一層、強権を振るうことになる。

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▲ヘビー・スモーカーの金正恩氏、米朝首脳会談の休憩時間にもタバコ一服(CNNの放送中継から)

 「誰」のことを書いているのか、といえば、今年1月に36歳になったばかりの朝鮮労働党委員長の金正恩氏のことだ。33歳のイエスが十字架にかけられた年齢は過ぎたが、死亡説が流れるにはやはり早すぎる年齢だ。もちろん、金正恩氏の圧政に苦しむ国民にとって1年でも長すぎるが、一般的にいうと、36歳はまだ若い。その金正恩氏がひょっとしたら今、重症のベッドにあるかもしれないのだ。ちなみに、韓国大統領府は21日、「金正恩氏の身辺に特異動向は見当たらない」と、重症説を否定している。以下、少し、情報を整理したい。

 CNNは20日、米情報機関筋の情報として、金正恩氏は12日に心臓の手術を受けたが、術後、容態が悪化したという。一方、北朝鮮情報では最も多くの内部情報網を有する北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNK」によると、金正恩氏は心血菅の手術を受けたが、今は少し回復して、別荘で療養中という。両者の情報で共通点は、金正恩氏が心臓関連の手術を受けたという点で、相違点は一方は「重症説」、他方は「回復説」だ。

 次は、なぜここにきて金正恩氏の健康問題が報じられるのかだ。祖父の故金日成主席の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿を太陽節の4月15日に参拝するのがこれまで慣例だったが、金正恩氏は2012年4月に政権を掌握して以来続けてきた参拝が今年は確認されていない。初めてのことだ。その直前の11日、朝鮮中央通信(KCNA)によると、平壌の党中央委員会本部で開かれた党政治局会議に金正恩氏は出席していたから、それらが全て事実とすれば、金正恩氏は12日に、健康が悪化し、15日は“ベッドの上の人”となったという筋書きが浮かぶ。新型コロナの潜伏期間を思い出してほしい。

 「重症説」を取るか、「回復説」を支持するかは別としても、身長170センチ弱、体重130キロの金正恩氏の健康状態が悪化し、フィットな状況からは程遠いことはほぼ間違いないだろう。

 看過できない点は、金正恩氏がヘビースモーカーだという事実だ。だから、金正恩氏は中国武漢市で発生した新型コロナウイルス(covid-19)に感染し、肺器官をやられたのではないか、という憶測も可能だ。新型コロナの重症者はいずれも肺機能がやられ、呼吸困難状況に陥り、人工呼吸器が設置された集中治療室に運び込まれるケースが多い。

 ハノイで開催された第2回米朝首脳会談(2019年2月27、28日)でCNNは休憩時間にタバコを吸う金正恩氏を撮影している。金正恩氏はチェコのバスラフ・ハベル氏(反体制派活動家で後日、同国初代大統領)や、中国の著名な反体制派活動家の魏京生氏に負けないヘビー・スモーカーだ。新型コロナが拡大している時、年齢的には若いが、愛煙家は新型コロナ感染の危険グループに入る。病状が軽いと判断して党政治局会議に参加したが、その夜、容態が急変し、重症に陥った、というシナリオが十分考えられるわけだ。

 当方はこのコラム欄で「新型肺炎は金正恩氏を哲学者にする」(2020年2月26日参考)を書いたが、新型コロナウイルスが金正恩氏を哲学者にする前に、重症感染者にした可能性は排除できない。

 金正恩氏にとって不幸なことは、心臓外科の専門医をフランスから呼ぶことができないことだ。金日成、金正日と続いてきた金王朝は過去、中国の軍人病院かフランスから医師を平壌に呼んで、手術を受けることが多かった。故金日成主席の場合はフランスのリヨン大学附属病院の心臓外科医が平壌に呼ばれている。しかし、新型コロナの感染拡大後、欧州の航空会社は飛行機を飛ばしていないから、平壌まで行くことが出来ない、その結果、今回は「金正恩氏の担当専門医が執刀した」(デイリーNK)というわけだろう。

 昨年後半から金正恩氏の妹・金与正氏が金正恩氏の後継者に任命されたといった情報が流れてきた。金与正氏は金正恩氏が最も信頼する側近でもあり、南北首脳会談、米朝首脳会談では常に兄・金正恩氏の近くに待機し、ケアをしてきた。

 問題は、幼い子供の母親でもある金与正氏が金正恩氏の職務を継続できるだろうかだ。このコラム欄でも「北の金王朝で『金与正』時代は来るか」2020年2月24日参考)を書いたが、金与正氏はヒロポン中毒だ。メタンフェタミン類の覚せい剤で中毒性は強い。それだけではない。人民軍幹部の支援がなくして金正恩氏がいない北朝鮮を導くことは難しい。金正恩氏の療養期間、その代役を務めることは可能だが、最高指導者としての役割を担うのは難しいだろう。

 北朝鮮の朝鮮人民軍が3月2日、金正恩氏の指導の下で火力打撃訓練場で飛翔体を発射させたが、韓国大統領府(青瓦台)が異例の強い遺憾を表明し、即刻中断を要求した。それに対し、金与正党中央委員会第1副部長は3日、青瓦台を「不信と憎悪、軽蔑だけをいっそう増幅させる」(韓国聯合ニュース)と非難する談話を発表した。金与正氏名義の談話発表は初めてだった。金与正さんの批判のトーンが余りにも厳しかったため、韓国側も驚いたという。

 ちなみに、米メディアによると、トランプ大統領は「金正恩氏から美しい手紙をもらった」と語ったという。それに対し、北側は19日、「最近わが最高指導部は米大統領にいかなる手紙も送っていない」と否定している。トランプ氏の認知症初期症状だろうか。それとも金正恩氏の死後、誰が平壌の権力を掌握するかを伺うために恣意的にフェイクニュースを流したのだろうか。

 ひょっとしたら、トランプ氏は金正恩氏からではなく、金与正氏から「美しい手紙」をもらったのではないか。ただ、トランプ氏にはよくあることだが、金正恩氏と金与正さんを言い間違えただけではないか。

「新型コロナ」vs「聖コロナ」

 中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス(covid-19)は19日現在、感染者数240万人を超え、死者は約16万5000人を出すなど世界で大暴れだ。その新型コロナウイルスの「コロナ」の語源はラテン語から由来し、花冠、輪、王冠を意味することはよく知られているが、アルプスの小国のローマ・カトリック教国オーストリアやドイツでは「聖コロナ」の名前を付けた地名や教会がある。オーストリアのニーダーエステライヒ州のサンクト・コロナ・アム・ヴェグゼルもその一つだ。同国日刊紙「クローネ」日曜版(4月19日)で文化学者、ローランド・ギルトラー教授が「聖コロナ」(ギリシャ語では Stephana)の由来について報じていた。以下、その内容を紹介する。

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▲サンクト・コロナ・アム・ヴェクゼルの教会の「聖コロナ像」(「聖人辞典」から)

 「聖コロナ」(Corona)についてコプト派教会の伝説とシリア正教では少し異なっているが、「聖コロナ」と呼ばれるようになった女性は西暦177年頃、キリスト教徒となった若いローマ帝国の兵士が仲間からその信仰ゆえに虐待されている姿を見て、兵士を慰め、鼓舞した。それをローマ軍の拷問官が気が付き、コロナを捕まえ、同じように拷問した。彼女は激しい弾圧にもかかわらず、キリスト教徒の信仰を失わず、殺害されるまで信仰を貫いた。コロナは当時、16歳だったという。

 そして西暦313年、ローマ帝国の西方帝コンスタンティヌス 1 世と東方帝リキニウスが連名で、信仰の自由を保障するミラノ勅令を公布した結果、キリスト教は公認された。キリスト教の初期時代、迫害に屈しなかったコロナの信仰が称えられ、多くのキリスト者たちは後日、「聖コロナ」を称え、サンクト・コロナ・アム・ヴェクゼルを巡礼するようになったわけだ。

 シェーナ(イタリアのトスカーナ州中部の都市)出身のヴィトレ(Vittore)と呼ばれていたローマ兵士と「聖コロナ」を描いた絵画が小村サンクト・コロナ・アム・ヴェクゼルの聖コロナ教会に飾ってあるという。
     
 ところで、「聖コロナ」は農家たちの保護者と受け取られ、飼育動物の保護、そして感染病、流行病から守ってくれる聖人と見なされていった。なぜ、感染病から人間や動物を守ってくる守護神となったかは、ギルトラー教授も「明確な理由は分からない」という。

 ちなみに、カトリック教会には多くの聖人がいる。そして各聖人は自身の得意の領域をもち、その領域に働く信者たちを保護する役割を持っている。例えば、ウィーン市14区の地下鉄構内に「聖バーバラ像」が置いてある。「聖バーバラ」は地下鉄工事やトンネル建設に従事する労働者の安全を守る聖人といわれている、といった具合だ。

 同じことが「聖コロナ」にも当てはまる。「聖コロナ」は農業に従事する人々の保護者(パトロン)だが、同時に、宝石探しの人々など金銭に関連する職業の人々のパトロンでもあるという。例えば、「聖コロナ」が物乞いにお金を与えるところを描いた絵画もある。ドイツ・コロナと呼ばれた通貨があったし、1892年から1925年にかけオーストリア・ハンガリー帝国時代にはドイツ・コロナの他、ハンガリー・クローネと呼ばれる通貨があった。17世紀、18世紀には、教会では「コロナ祈祷」と呼ばれる特別な祈りもあったという。ちなみに、カトリック教会の祭日カレンダーによれば、「聖コロナ」の祝日は5月14日だ。

 バチカンニュースによると、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は毎日、新型コロナの感染に苦しむ信者たちのために祈りを捧げているという。信者のいないサンピエトロ大聖堂で挙行された今年のバチカンの復活祭(4月12日)でも、フランシスコ教皇は新型コロナが早く終息するように祈っている。フランシスコ教皇は聖コロナの名を挙げて祈っているのかもしれない。

 カトリック信者だけではない。世界の全ての人々が新型コロナの早期終息を祈り、治療薬やワクチンが出来る日を待っている。約1850年前、16歳で殉教した少女「聖コロナ」が21世紀の中国で発生した「新型コロナ」を克服するために立ち上がってくれることを願う。
 
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