ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2020年03月

新型コロナ感染と北のミサイル発射

 世界は中国武漢市から発生した新型コロナウイルス(covid-19)対策に奔走中だ。新型コロナが発生した当初、「対岸の火事」とみてきたトランプ米統領の米国は現在、世界最大の感染地となっている。一方、欧州でも英仏海峡を挟んで他人事のように暢気に構えてきた英国では、ボリス・ジョンソン首相やハンコック保健相が感染し、自宅隔離されるなど、新型コロナは大陸や為政者の政治信条とは関係なく猛威を発揮している。

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▲板門店でトランプ大統領、金正恩委員長、文在寅大統領の米朝韓3国首脳が結集(2019年6月30日、韓国大統領府公式サイトから)

 世界が新型コロナ対策であたふたしている時、北朝鮮は3月に入り、29日までに4回、さまざまな短距離弾道ミサイル(ロケット砲)を発射し、意気揚々としている。少なくともそのように振る舞っている。北朝鮮は国際社会から孤立した独裁国家と受け取られているが、同国の時計の針は世界の時計とは無関係に回っている、といった印象さえ感じられる。

 先ず、3月の北のミサイル発射をまとめる。

 3月2日 今年初めてミサイルを2発発射、北朝鮮は超大型放射砲という
   9日 同じように超大型放射砲を発射した
  21日 北朝鮮版ATACMSと呼ばれる戦術的地対地ミサイルを発射
  29日 短距離弾道ミサイル(超大型放射砲)を発射、飛行距離は約230キロ、高度は約30キロ

 北が今月に入り4回、ミサイルを発射したという事実は何を物語っているのか。�ゞ眄飢枯�働党委員長は父親・金正日総書記が残した「先軍政治」に凝り固まった指導者。世界が新型コロナ対策に奔走していることを絶好の機会と判断し、ミサイルの性能、威力の向上に腐心。�▲肇薀鵐彿涜臈�領との米朝首脳会談を再開するための誘い水。�K鳴�鮮の国内で新型コロナが感染し、人民軍兵士の中にも感染者、死者が出てきた。その一方、中国からの経済支援は途絶え、兵士を含め国民は厳しい食糧不足下にある。特に、軍内部の意気が沈んできたので、花火を挙げるような気分で、意気消沈した軍に活をいれるためミサイルを発射、等の3つのシナリオが先ず浮かび上がる。

 北でも新型コロナが猛威を振るっている。医療水準が低いうえ、医薬品が欠乏し、防御服、消毒剤、マスクなどがないから、一旦、感染が広がれば、瞬く間に全土を席巻していくだろう。

 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は既に1月29日、新型コロナウイルスによる肺炎の感染防止を「国家の存亡に関する重大な政治的問題とみなし、政治事業を強化すべきだ」と強調している。それに先立ち、北朝鮮は中国人観光客の入国を禁止し、中国経由で入国する全外国人に対しては1カ月間の隔離と医療観察措置の義務化を決めるなど、新型コロナウイルスの流入阻止に総力を挙げてきた。

 そして同紙は3月26日付の記事で、大勢が集まる場所で接触して感染が拡大している外国の状況を踏まえ、サービス提供機関も防疫をおろそかにしてはならないと警告を発している、といった具合だ。

 ちなみに、朝鮮中央通信は金正恩氏の実妹、金与正党第1副部長は3月22日、米トランプ大統領が金委員長に親書を送り、米朝関係改善のための構想を説明するとともに新型コロナの防疫で協力する意向があると伝えてきたと報じている。

 当方は過去、北朝鮮と新型コロナ感染に関連して、「新型肺炎報道で露呈した北の『実力』」2020年2月1日参考)と「新型肺炎は金正恩氏を哲学者にする」(2020年2月26日参考)の2本のコラムを書いた。特に、後者のコラムでは核兵器保有国入りにまい進する金正恩氏が直径100nm(ナノメートル)の新型コロナの恐ろしさを知って、核兵器保有にまい進する自身に対し懐疑的(哲学的)になっている可能性を示唆した。

 金正恩氏が3月に入り、4回、国連安保理決議に反して短距離弾道ミサイルを発射したのは、ひょっとしたら自暴自棄に陥った結果かもしれない。トランプ氏との米朝会議の再開を狙った誘い水といってもトランプ氏は現在、米国内で拡大してきた新型コロナ対策に追われ、36歳の金正恩氏を相手に非現実的な朝鮮半島の非核化について交渉する時間はないだろう。血の同盟国・中国も同様だ。武漢市で発生した新型コロナで失った国際社会でのイメージの回復で忙しく、習近平国家主席も金正恩氏を相手にする時間がないだろう。

 一方、米朝首脳会談を大きく報道し、短距離弾道ミサイルを発射する度に大きく報道してきた日米韓メディアは、今回の北の一連のミサイル発射について韓国以外は通信社の配信記事で終わらせている。すなわち、世界の指導者、メディアは新型コロナ問題で忙しく、朝鮮半島の独裁国家・北朝鮮の若き指導者の言動に関心がいかなくなっているわけだ。

 金正恩氏は自暴自棄になり、あるいは欝的になっているかもしれない。健康上の問題もあって、金正恩氏はやけっぱちになって暴走に走る危険性すら考えられる。金与正氏への権力移譲説は恣意的なプロパガンダの域を超えないが、金正恩氏が新型コロナ感染拡大後、内外の大きな試練に直面していることは間違いないだろう。

 以上から、��のシナリオが現時点では事実に近いのではないか。

 朝鮮中央通信は3月21日、最高人民会議(国会に相当)が4月10日に平壌で開かれると報じた。同会議が実際開催されるかどうかは、北朝鮮の新型コロナの感染状況ばかりか、金正恩氏の心身の健康を占う上でも重要なテーマだ。

教皇「主よ、目を覚まして下さい」

 バチカンのサンピエトロ広場は雨が降っていた。広場には信者たちの姿はなかった。広場の中央に設置された祭壇が薄い闇の中に浮かび上がった。フランシスコ教皇は儀典長グイド・マリー二神父の助けを受け、祭壇に上がり、祈った。2020年3月27日午後6時(現地時間)、世界の信者たちと一緒に新型コロナウイルスの終息を祈った。

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▲サンピエトロ広場で新型コロナの終息を祈るフランシスコ教皇(2020年3月27日、バチカンニュース公式サイトから)

 当方はドイツ公営放送(ZDF)のライブ中継を追った。広場の祭壇では教皇の第一声が涙声になったのを感じた。広場には信者たちはいない。27日はイタリアで969人が新型コロナで死去した。死者数では最も多い日だった。ペテロの後継者、83歳の教皇の心に中には新型コロナの犠牲者とその家族のことがあったのだろうか。それとも信者がいない広場の異様な雰囲気に圧倒され、思わず涙が出てきたのだろうか。新型コロナに襲われた羊たち(信者たち)はどこへ行ったのか、彼らは大丈夫だろうか。羊飼い(教皇)は祈った。

 フランシスコ教皇はその祈りの中で、パンデミックに直面する人類に向かって、隣人愛と人生で何を最も優先すべきかことかを理解するように求めた。そして新型コロナの襲撃は、「神の審判」の時ではなく、「私たちの審判」の時であると強調した。

 教皇は、「人生のコースを神と隣人に向ける時だ」と静かに語りかけた。そして、「多くの人々は物質的なことに価値を置き、自己の欲望の充足を求めてきた」と指摘し、新約聖書「マルコによる福音書」第4章35節から41節の聖句を引用する。

 「主よ(イエス)、目を覚ましてください、海は荒れ、船が沈みそうです」と叫ぶイエスの弟子たちに対し、イエスは「なぜ、そんなに怖がるのか。どうして信仰がないのか」と諭したという内容だ。

 「お前たちは信仰を失ったのか」というイエスの問いかけを繰り返しながら、必死に祈る教皇の姿はこれまで見た教皇の中でも最も印象的だった。フランシスコ教皇は世界で3万人以上の犠牲者を出し、60万人以上の感染者を出している新型コロナに対し、神に「終息してください」と祈ったのか。それとも、あの貧者の修道女、マザー・テレサのように、「なぜあなたは苦しむ子供たちを救わないのか」と辛く、重い問いかけをしたのだろうか。

 教皇は聖母子画「サルス・ポプリ・ロマーニ(ローマ人の救い)」と聖マルチェロ教会から運び込まれた、ローマを大ペストから守った「キリストの磔刑像」の前で祈った。そして大聖堂のアトリウムで聖体降福式と「ウルビ・エト・オルビ」の祝福を行った。

 「ウルビ・エト・オルビ」は基本的には復活祭とクリスマスの時だけだが、新しい教皇が選出された時など特別な時にも行われれる。ラテン語で「ローマから全世界へ」という意味の内容で、ローマ教区の教皇は世界に向かって祝福を送る。

 バチカンニュースは27日、「フランシスコ教皇は誰もいないサンピエトロ広場で新型コロナの早急な終息のために祈りを捧げた」と見出しで大きく報道していた。ちなみに、新型コロナの感染を防止するために4月12日の復活祭の記念礼拝など聖週間の一連の行事は今回と同様、サンピエトロ広場で信者がいない中で挙行することになったという。

 心の底からの真摯な「祈り」は人の心を変えるばかりか、神ですら動かすことが出来るといわれてきた。幸いにも、「祈り」はキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、仏教徒らの宗教者の専売特許ではない。人は自身の力を超えた存在に向かって、祈り、時には語り掛けるからだ。

 新型コロナのパンデミックは国境、民族を超えて人が結束し、連携しない限り、克服することは難しい。教皇は、「人は一人では自身をも救うことが出来ない」と祈っていた。新型コロナの危機が、私たちが忘れていた「祈り」の力を思い出す契機となることを願う。

新型コロナが変えた欧州の「犯罪図」

 オランダのハーグに本部を置く欧州刑事警察機構(ユーロポール)は27日、「欧州に新型コロナウイルスの感染が拡大し、多くの犠牲者が出てきて以降、新型コロナへの国民の不安、恐れを悪用した犯罪が急増してきた」と警告する報告書を公表した。

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▲ユーロポール報告書「組織犯罪グループは新型コロナ(covid-19)危機を利用してどのように利益を得ているか」

 報告書は「組織犯罪グループは新型コロナ(covid-19)危機を利用してどのように利益を得ているか」というタイトルで、新型コロナが欧州で感染を広げ、多くの犠牲者が出てきてから、通常の犯罪件数が急減する一方、新型肺炎に効果的という宣伝文句で治療薬、薬品の偽造品取引、サイバー犯罪が増えてきたという。

 中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスが3月に入り、イタリア、スペイン、フランス、ドイツなどで猛威を振い、欧州国民は新型コロナへの不安と恐怖を感じ出してきた。加盟国は次々と出入国を制限する一方、国民には外出禁止を要請し、多くの人々が集まるイベントを中止、ないしは延期してきた。すなわち、欧州域内の人とモノの自由な移動は著しく制限されてきたわけだ。その結果、域内で暗躍してきた組織犯罪グループの犯罪にも大きな変化が生じてきたというわけだ。

 例を挙げて説明する。新型肺炎が拡大する前は、人々は自由に外出し、イベントを享受し、家を留守にする機会が多くあったので、犯罪統計の中でも住居侵入窃盗件数はどの国でも最も多い犯罪だった。それが、新型肺炎の拡大後、外出が禁止される一方、ホームオフィス、在宅勤務に従事する人々が増え、自宅にいる機会、時間が急増した。その結果、経験豊富な窃盗犯罪人も人が住み、働いている住居に侵入して窃盗する勇気(?)がなくなってきたわけだ。

 欧州の最大の感染国・イタリアでは3月1日から22日の間、前年同期比で64%、犯罪件数が急減したという。イタリア内務省によると、同期間の犯罪総件数は約5万3000件だが、麻薬犯罪、児童虐待、性犯罪はいずれも急減した。同じ傾向はスぺインでも見られる。性犯罪は前年比で69%減、住居侵入窃盗件数72%と急減。もちろん、路上犯罪も急減している。

 新型コロナの感染拡大後、欧州国民の生活スタイルは急変した。それを受け、犯罪グループが新しい情勢にマッチした犯罪に力を入れ出したとしても不思議ではない。具体的には、詐欺、サイバー犯罪、偽造犯罪が急増してきたわけだ。

 それでは、なぜ、詐欺や偽造犯罪が増えてきたのか。新型ウイルスが拡散し、感染者が急増することで、欧州の国民は不安と恐れを感じ、コロナウイルス感染を防ぐ防御服、特定の医療品、消毒液、マスクへの需要が急増していった。報告書によると、偽造の防御服、医薬品の売買が急増し、域内で3月、3万4000個の医療用偽造マスクが押収されている。新型コロナウイルス対策に効果的ということで、 抗ウイルス薬、マラリア治療用クロロキン、ビタミンプレパラートの偽造品が売り出されている、といった具合だ。

 ユーロポールによると、欧州の企業が660万ユーロ相当の防御服と消毒剤をシンガポールの会社に注文し、代金も支払ったが、商品は送られてこなかった、という犯罪があった。欧州の薬局協会や医薬品メーカーは企業に偽の医療品には注意するよう緊急アピールをしている。

 組織犯罪グループはオンラインを通じて潜在的顧客を探し出し、偽造医療薬品などを密売する一方、さまざまなトリックを駆使して詐欺犯罪を行っている。多くの人々が自宅で仕事をするが、その際、安全対策が十分ではないコンピューターを利用することもあって、サイバー犯罪の犠牲となる機会が増えてきた。

 ちなみに、新型肺炎が拡大した後、フェイクニュースが増加してきた。人々の不安を煽る一方、政府の新型肺炎対策の内容をミスリードするなどが増えてきた。オーストリアのネーハマー内相は、「新型肺炎ではソーシャルネットワーク(SNS)で国民を扇動するニュースが流されている。国民は冷静になって、それらのフェイクニュースに騙されないように」と繰り返し警告を発し、フェイクニュースを流した人間は厳罰に処すると発表している。オーストリア通信は15日、フェイクニュースを意図的に流した2人が逮捕されたと報じた。

新型コロナを「中共ウイルス」と呼ぶ

 中国共産党政権はトランプ米大統領が中国湖北省武漢で発生した新型コロナウイルス(covid-19)を「中国ウイルス」と呼ぶことに激怒し、何度も訂正を要求してきた。ポンぺオ国務長官は「武漢ウイルス」という呼称を記者会見などで連発し、中国共産党政権をイライラさせている。

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▲「中国共産党の党旗」(中国共産党公式サイトから)

 米国側の「中国ウイルス」や「武漢ウイルス」は、世界に2万人以上の死者を出している新型肺炎の発生地が「中国」であること、湖北省の「武漢市」であったという事実を忘れないため、という狙いがあるだろう。一方、その呼称に激怒している中国共産党政権側は、「世界を大混乱に貶めた新型コロナが中国から発生した」という事実を出来れば隠蔽したいため、「わが国のイメージダウンをもくろんだプロパガンダ」と反論している。米国がそれでも応じないので、「武漢発の新型肺炎は米中央情報局(CIA)がわが国を陥れるためにやった」というフェイクニュースを流し始めてきたわけだ。

 ちなみに、怒るという心的作用は、その内容が見当はずれの場合は出てこない。笑うか、無視するだけだ。中国共産党政権が本気になって怒っているところをみると、「中国ウイルス」、「武漢ウイルス」という呼称が核心を突いているからだろう。

 当方はこのコラム欄では「武漢肺炎」、「武漢ウイルス」という呼称を使用してきた。米中間の新型肺炎の呼称で対立しているのを見て、考え直すべきだと思っている。ズバリ、「武漢肺炎」では武漢市民にとって気分が悪いだろうし、「武漢ウイルス」でも同様だ。ひょっとしたら、風評で経済的、精神的ダメージを受けるかもしれない。だから「中国ウイルス」と呼ぶトランプ氏の呼称のほうがベターかもしれないが、「中国ウイルス」では十数億人の中国人を傷つける結果とならないだろうか。

 当方はこのコラム欄で「『中国共産党』と『中国』は全く別だ!」(2018年9月9日参考)というタイトルの記事を書いた。中国共産党は久しく、「中国共産党政権を批判することはとりもなおさず中国を批判することだ」と主張し、「中国共産党」イコール「中国」と強調、現政権を批判する声には、“反中国”ジャーナリスト、知識人というレッテルを貼ってきた。中国共産党は長年「中国と中国共産党は同一の存在だ」と嘘、偽りを発信し続け、中国国民を欺き、全世界を騙してきたわけだ。

 中国国内でみられる人権弾圧、少数民族の弾圧は中国共産党政権が行っていることだ。大多数の中国国民は共産党政権の強権政治の犠牲者だ。だから、中国を批判する場合、単に「中国」とは書かず、「中国共産党政権」と明記し、その責任の所在を明らかにしなければならない。

 東日本大震災(2011年3月)から今年で9年が過ぎたが、福島第一原発事故と関連し、福島産の野菜などが原発事故で放出された放射能に汚染されている、といった風評を受け、農業者を悩ませている。同じように、「チェルノブイリ原発事故(1986年)後、ウクライナといえば、世界の人々はチェルノブイリの名前しか浮かび上がらなくなった」と、ウィーン大学で教鞭を取っていたウクライナ人教授が嘆いていた、と聞いた。

 「武漢ウイルス」という呼称が新型肺炎の終息後も定着すれば、同市のイメージは傷つき、市民も気分が悪いだけではなく、経済的なダメージを受けることにもなる。そこで考え出した呼称は、「中共ウイルス」だ。新型肺炎が発生したのは中国であるという事実を意味する「中」と、新型肺炎の発生を隠蔽してきたのは武漢市共産党、ひいては北京の中国共産党政権だったという意味から共産党の「共」と結びつけ、「中共ウイルス」という呼称が生まれてくるわけだ。

 「中共ウイルス」と呼ぶべきだという主張は海外中国メディア「大紀元」(3月19日)も同じだ。「新型コロナウイルスを『中共ウイルス』と呼ぶ理由は、中国国民、湖北省の住民、武漢市民を中国共産党と区別するためである」と説明している。中国国民、武漢市民は今回のパンデミックの被害者である一方、中国共産党は世界各国を未曾有の大災難に陥らせた加害者だというわけだ。正論だ。

 中国共産党政権はトランプ大統領の「中国ウイルス」という呼称に怒ってきたが、「中共ウイルス」という呼称が世界のメディアで定着すれば、それどころでは済まないだろう。大声をあげて世界に向かって米国批判を強めるかもしれない。

 「中共ウイルス」という呼び名は新型肺炎の責任の所在地を明確に表示している。新型肺炎が世界的大流行(パンデミック)となって多くの死者が出た最大の責任は中国国民にあるのではなく、中国共産党政権にあることを改めて確認したい。

新型肺炎で死去した聖職者は殉教者?

 バチカンニュースが24日、報じたところによると、ローマ・カトリック教会総本山、バチカン市国で4人の新型コロナウイルス感染確認者がいる。バチカン博物館の2人の職員などが含まれている。その一方、フランス通信(AFP)によると、イタリアではこれまで67人のカトリック聖職者が中国湖北省武漢で発生した新型コロナウイルス(covid-19)に感染して死去したという。そのうち、22人はベルガモ教区の聖職者だ。

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▲「新型コロナの伝染病を終わらせてください」と、祈るフランシスコ教皇(イタリア放送協会公式サイトから、2020年3月21日)

 そのニュースを読んだときは驚いたが、世界でも稀に見る高齢者集団、カトリック教会関係者に新型肺炎で亡くなるケースが多いことは理解できる。65歳以上の高齢者で基礎疾患のある人が新型コロナでは最も致死率が高いリスクグループに属するからだ。

 南米出身のフランシスコ教皇は83歳だ。生前退位した前教皇べネディクト16世は92歳だ。前現教皇とも幸い、重い病の持ち主ではないが、健康体からは程遠い。日常の聖職と教会運営によるストレスが重なり、表現が不適格かもしれないが、いつ倒れも不思議ではない状況だ。

 ここで問題とするのは、なぜイタリア人に新型肺炎による死者が多いかではなく、なぜ聖職者に死者が多いかだ。バチカン・ニュースを毎日、フォローしてきたが、AFP通信が報じるように多くの聖職者が犠牲となっていたとは知らなかった。

 同通信の記事によると、フランシスコ教皇が新型コロナの感染者を訪問し、激励しなさいと語ったというのだ。その記事の内容が事実とすれば、フランシスコ教皇は聖職者の死に責任が出てくる。新型コロナの感染源は、接触感染と飛翔感染が最も多い。聖職者が新型コロナに既に感染した信者たちを訪問すれば、その動機が如何に素晴らしくても新型コロナウイルスはお構いなしに聖職者の肢体に侵入しようとするだろう。

 イスラム教世界でも感染の危険が高い金曜礼拝(サラート)のためにイスラム寺院に集まるべきではない、という声が聞かれる。もちろん、イマーンの中には礼拝はイスラム教徒の聖なる5行の一つだから、いかなる場合でもそれを実践すべきだと主張するイマーンもいる。直径100nm(ナノメートル)から最大200nmの新型コロナウイルスを恐れて聖業を中止できない、という聖職者としての威信も理解できるが、やはり危険な冒険といわざるを得ない。

 一方、ユダヤ大ラビが、「信者がシナゴーグに集まらなないように」閉鎖したというニュースが流れていた。安全問題を体の細胞一つ一つにまで体験してきたユダヤ民族の指導者らしいアドバイスだと、感動した。

 問題は、世界のカトリック教会最高指導者フランシスコ教皇の檄を受け、新型コロナ感染者を見舞い、その結果、自身も感染し、最終的に死去した聖職者は果たして教会でいう「殉教者」といえるだろうかだ。亡くなった聖職者は教皇の言葉に従った結果、不幸にも犠牲となった。教皇や教会の方針を無視した謀反の結果ではない。批判を受ける立場ではないが、果たして殉教者といえるだろうか。

 カトリック教会だけではなく、新教徒の中にも多くの殉教者がいる、ローマ教皇が腐敗、堕落していた時も、イエスの教えに従い、殉死した聖職者は少なくなかった。アウシュヴィッツ収容所で他のユダヤ人に代わって亡くなったマキシミリアノ・コルベ神父もその中の1人だ。

 最近では、イスラム過激派テロリストに2016年に殺害されたフランス教会北部のサンテティエンヌ・デュルブレのカトリック教会のジャック・アメル神父はその1年後、フランシスコ教皇に聖人に拝された。イエスの教えを殺される直前まで遵守した聖職者の場合、「奇跡の証」の審査はなく、即聖人になれる。それほど、教会ではイエスの教えのために犠牲となった聖職者は評価されるわけだ。

 上記の設問に戻る。67人の聖職者は殉教者だろうか。残念ながら、犠牲者であることは間違いないが、殉教者とはいいにくい。病人を慰め、神の教え伝え、終油を注ぐ行為は通常の場合は聖業だが、新型コロナが席巻している今日、教会が最も避けなければならない信者との直接接触を犯してしまったという意味で、無謀な冒険だ。

 67人の聖職者を殉教者と見ないほうが賢明かもしれない。67人が殉教者となれば、他の聖職者にも殉教の道を選ぶ者が出てくるからだ。自殺防止という観点でも、67人は殉教者ではなく、犠牲者と受け取るべきだ。

 フランシスコ教皇は第266代教皇に就任して以来、悪魔について頻繁に語ってきた。「悪魔に近づくな」、「悪魔は君より頭がいいから、気をつけろ」と語ってきた。なぜならば、悪魔は不可視の存在であり、知恵があり、人間を巧みに惑わすからだ。フランシスコ教皇は長い信仰生活を通じて悪魔の恐ろしさを身にしみて体験してきたのだろう。

 そのフランシスコ教皇は、残念ながら、中国武漢発の新型コロナウイルスの恐ろしさ、感染力を過小評価しているのではないか。悪魔と同様、新型コロナウイルスは肉眼ではキャッチできないし、感染力は悪魔を凌ぐほどだ。昨年11月末に発生してからまだ4カ月余りしか経過していないが、世界120カ国以上にウイルスをまき散らしている、パワーは悪魔もタジタジだろう。

 繰返すが、フランシスコ教皇は聖職者に、「新型コロナに近づくな」とアドバイスするべきだ。時には、英雄的な行為も必要だが、新型コロナウイルスに近づく行為は本人ばかりか、周囲の人々にとっても危険だからだ。

 参考までに、67人の聖職者の中で、ベルガモ教区の神父は信者が彼のために用意してくれた人工呼吸器を、「私の人工呼吸器を自分より若い他の患者に使ってほしい」と述べたという。コルベ神父を想起させる行為であり、苦境下のベルガモ市民を感動させた。

新型肺炎の治療に取り組む医師たち

 イタリア北部ロンバルディア州は今、中国武漢発の新型コロナウイルスの最大感染地となっている。感染者が殺到する同州の病院は患者で溢れ、医療は崩壊し、重症者を収容するベッドはない。感染者がまだ少ない南部州に転送するなど、イタリア保健当局は対応に苦しんでいる。

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▲「イタリア北部ロンバルディア州で新型肺炎の感染者が多いのはなぜか」を報じるオーストリア代表紙プレッセ3月24日

 同州でも感染者が多いベルガモ市の病院に勤務する医師がソーシャルネットワーク(SNS)を通じて緊急支援のアピールを発信し、イタリア全土ばかりか、欧州でも大きな反響を呼んだ。医師は、「患者の急増で病院では医師が使える防御服は限られ、重症患者用の人工呼吸器が不足している」と訴えた。イタリアでは医師不足を補うために、大学で勉強を終えたばかりの医学生を病院の現場に送っているほどだ。

 オーストリア代表紙プレッセに新型コロナの治療のために戦うロンバルディア州の病院の風景を報じ、1枚の写真を掲載していた。病院のフロアに1人の若い医師が頭を抱えて座り込んでいる。そこに先輩の医師が声をかけている。多分、若い医師を慰めているのだろう。

 フランス通信(AFP)の写真記者が撮影した写真は大きな反響を呼び、多くの欧米メディアで掲載されたほどだ。新型コロナ対策のために戦っている医師が疲労困憊で座り込んでいるとも解釈できるが、当方はそれ以上にもっと深刻なシーンではないかと考えた。若い医師は集中治療室のベットは限られ、人工呼吸器は不足している中、どの患者を優先して治癒し、どの患者を後回しにせざるを得ないかの選択(トリアージ)を強いられてきたのではないか。すなわち、患者の生死を自分が決定しなればならない現場の重い選択に悩み、体力的にも精神的にも疲れ切ってしまったのではないだろうか。

 医師になる以上、人命の救助が目標だ。その医療で多くの重病患者を救いたいと願って医学の道を歩みだした医師が多いはずだ。米TV番組「Good Doctor」を思い出す。オリジナルは韓国のドラマだが、番組では舞台を米カリフォルニア州の聖ボナベントゥラ病院に移し、そこで勤務する自閉症でサヴァン症候群で特殊能力を持つ外科研究医のショーン・マーフィー(主人公)の歩みを描いている。

 病院側はマーフィーを勤務させるかどうかで議論が分かれた。病院関係者の前で「なぜ医師となったか」を問われたマーフィーは「弟とウサギが亡くなった。自分は彼らを助けたかった」と淡々と語ると、病院のお歴々の心を動かした。マーフィーは同病院で働くことができるようになった。

 マーフィーは難しい話をしたのではない。人を助けたい、という医師として当然の思いを吐露しただけだ。しかし、医師の世界でも長く働いていると、名誉や地位を優先することが多くなる。マーフィーの話を聞いた医師たちは忘れかけていた医師としての原点を思い出したわけだ。

 中国湖北省武漢市中心病院の眼科医、李文亮氏(33)は昨年12月の段階で通常ではないウイルスが広がってきたことを発見、地元当局に警告を発する一方、対策を訴えたが、そのアピールは無視され、新型コロナウイルスの発生の事実はその後も隠蔽された。医師はSNSなどを通じて新型肺炎を警告したため、当局から一時拘束される。最終的には、本人も感染して2月7日、死去した。この話が世界に報じられると、李文亮氏は一躍英雄となった。その一方、中国共産党政権が新型コロナの発生を隠蔽してきたために、多くの感染者が出ることになったとして、批判の声が出てきた。

 中国武漢市では多くの医師たちが患者から感染し、死去した。休むこともできず、多くの患者の治療に走り回ってきた中国の数多くの医師たち、そして今、欧州各地で発生不明の新型コロナ対策のために自身の命を危険にさらしなが救命活動に従事する医療者たち。彼らの献身的な歩みが必ず実を結ぶことを祈りたい。欧州では新型コロナ患者を治療する医師,看護師たちの労を称えるため、自宅のバルコニーから拍手を送る人々が出てきている。

 世界のウイルス専門学者は新型コロナ肺炎の治療薬、ワクチン製造のために研究開発を始めている。まさに、時間との闘いだ。官民が一体となって新型コロナ治療薬製造で連携してきた。評価するにはまだ時期尚早からもしれないが、世界の指導者、政治家にも新型コロナ対策で連帯の動きが見られてきた。

 3月20日の「春分の日」が過ぎた。日毎、太陽が昇る時間は早まり、日が長くなる。新型コロナとの決死の戦いを展開している世界の医師たちに、改めて拍手を送りたい。

「新型コロナ」は独裁者を生み出す?

 どの時代、どの世界でも、自身の野望を実現するためならば死体の山も踏み越えて突進していこうとする政治家はいるものだ。彼らは利用できるものならば、なんでも巧みに操ろうとする。中国湖北省武漢市で発生し、世界的流行(パンデミック)となった新型コロナウイルス(covid-19)の場合でも同じだ。多くの犠牲者が出ているが、野望を心に秘める政治家はその新型コロナがもたらすカオス状況を自身の政治的野望を実現するチャンスにしてしまう。

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▲新型コロナウイルス(covid-19)=WHO公式情報特設ページの公式サイトから

 ロシアのプーチン大統領は1月15日、年次教書演説の中で同国憲法を改正する意向を表明した。プーチン氏が提案した改憲案では、�々餡班承腸颪龍�化と権限拡大、��大統領任期を「2期」制限案が目を引いた。そのため、プーチン氏は2回目の「連続2期」の任期が終わる2024年には国家評議会に移動し、そこで「院政」を敷くのではないかと予想された。

 プーチン氏は過去、「24年後は大統領ポストにしがみつくことはない」と述べてきたが、野心家で戦略家の同氏があっさりとクレムリン宮殿を去るとは考えられないから、24年後もモスクワの主人の座に座り続ける意向を示唆したとしてもサプライズではない。

 問題は「なぜここにきてプーチン氏は前言を翻して独裁者の道を歩むことを決意したか」だ。答えは案外、簡単かもしれない。新型コロナがプーチン氏の心底に隠れていた野望を目覚めさせたのではないか。同氏は10日、5選出馬を可能とする改憲法案を出すと、同案は上下両院をあっさりと通過。プーチン氏は新憲法のもと新たな2期12年間の大統領ポストを目指す考えを示唆しているのだ。

 世界は新型肺炎対策で明け暮れている。新型肺炎をインフルエンザと変わらないと軽く見てきたトランプ大統領ですら、ここにきて国家の危機と受け取ってきた。欧州は既に感染者数、死者数で中国本土のそれを大きく上回っている。そんな時、プーチン氏が24年以降も大統領職を継続する憲法改正を実施したとしてもあまり関心を呼ばないだろう……、これこそプーチン氏自身の読みではないか。

 ロシア国民は欧米社会の新型コロナ感染状況を目撃し、新型肺炎を恐れだした。プーチン氏の政治的野望を表立って批判する余裕がなくなってきた。プーチン氏はこの絶好の機会を逃さず、自身の5選を可能とする改憲案を出した。プーチン氏は国内外で大きな批判や抵抗に直面することなく、終身大統領の道を歩きだすことができる、という計算だ(「プーチン氏『習近平主席の道を行く』」2020年1月25日参考)。

 新型コロナ旋風が吹き上げているこの時、ハンガリーのオルバン首相もロシアのプーチン氏に倣って、独裁者の道を歩みだしてきた。

 オルバン首相はハンガリー国民議会で過半数を占める与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」を土台に、野党を骨抜きにし、批判的なメディアを撲滅し、司法、言論を支配下に置いてきた。ブリュッセル(欧州連合=EU)からの批判をものともせず、難民対策ではハンガリー・ファーストを実行。その一方、習近平中国国家主席が提唱した「一帯一路」には積極的に参加し、ロシアにも急接近、EUの対ロシア制裁の解除を要求するなど、独自の外交路線を走ってきた。

 オルバン首相は11日、新型コロナ感染の危機に対し「非常事態宣言」を表明、必要ならば国民の人権や自由を議会の承認なしに制限できる改正案を模索。23日に実施された議会では同改正案の審議は暗礁に乗り上げたが、今月末には再び提出し、採択できる道を探っている。

 ハンガリー国内では一部の学者、知識人、人権擁護グループ、「国際新聞編集者協会」(IPI)がオルバン政権の横暴を批判しているが、その声は大きくない。多くの国民はオルバン首相の強権政治を批判することより、身近に迫ってきた新型コロナウイルスの感染拡大防止に大きな関心があるからだ。

 参考までに、プーチン氏やオルバン氏が夢見ている独裁者の道を既に歩み出した中国の習近平氏は武漢肺炎が発生した直後、対策の遅れなどで共産党内の批判に直面し、一時危機説も流れたが、世界保健機関(WHO)に武漢肺炎をパンデミックと表明させ、新型肺炎が「中国ウイルス」ではないことをプロパガンダする戦略を進める一方、イタリアなどの感染国に医療物資を支援し、大国・中国の威信挽回に乗り出している。

 独裁国・北朝鮮では21日、今年3回目の短距離弾道ミサイルが発射されたが、トランプ大統領をはじめ世界は目下、新型肺炎対策に没頭中で、北側の挑発行為に対しあまり関心を払っていない。一部の北朝鮮ウォッチャーだけが、�,海了�のミサイル発射の狙いはどこか、��金正恩氏の実妹・与正氏の政治動向、�6眄飢源瓩侶鮃�悪化説などで憶測を流している。短距離弾道ミサイルの発射と新型コロナの感染拡大の関係は不明だが、北朝鮮では国民ばかりか人民軍兵士の中にも感染が広がってきた。食糧不足は依然、深刻だ。同国の情勢は、新型コロナの感染拡大で一層危機的とみて間違いないだろう。

 イランのハメネイ師にも言及せざるを得ない。同師はイランのシーア派の精神的指導者だが、支配スタイルは独裁者と余り変わらない。ローハ二大統領もハメネイ師の意向を無視できない。

 そのハメネイ師は新型コロナ問題で大きなミスを犯している。イランが新型コロナ感染で苦境に陥っていることを受け、米国は医療支援を申し出たが、ハメネイ師はその申し出を拒否したのだ。

 イランは目下、イタリアに次いで新型コロナの死者が多い(21日時点、感染者数2万610人、死者1556人)。核問題で国際制裁下のイランではマスク、消毒液、人工呼吸器の不足が深刻だ。多くの患者が命を失っている。国民の苦境を理解していたならば、ハメネイ師は宿敵・米国からとはいえ、支援申し出を受け入れただろう。

 イラン国民は、ハメネイ師が国の威信、政治的計算などを優先し、国民の健康を犠牲にしたという事実を忘れないだろう。精神的指導者のハメネイ師は自身の権威、影響力を大きく損なったことになる。ハメネイ師が「国民の健康のため」と判断し、米国の支援の申し出を潔く受け取っていれば、イラン国民の間で同師の権威は一層高まったに違いない。その意味で、同師は新型肺炎に絡む国内情勢を読み違えたわけだ。

中国の医療器材支援に感謝すべきか

 中国湖北省武漢から発生した新型コロナウイルス(covid-19)は今日、世界全域でその猛威をふるい、多数の感染者、犠牲者が出ている。新型肺炎の死者数では欧州のイタリアは中国のそれを大きく上回り、世界最大の感染地となってしまった。

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▲新型コロナウイルス対策に奔走するコンテ伊首相(イタリア首相府公式サイトから)

 同国北部ロンバルディア州では感染者の急増で医療機関は崩壊寸前。感染防御服、消毒液、マスク、人工呼吸器などの不足は深刻で、ベルガモ病院の医者はソーシャルネットワーク(SNS)を通じて「助けてほしい」と緊急アピールしたばかりだ。

 そのアピールに対し、新型コロナ感染当初、単なる「季節性伝染病のインフルエンザ」と同様に受け取ってきた欧州各国は入国を制限、禁止し、国民に外出禁止を発令するなど対応に乗り出してきた。感染当初、ドイツやフランスは新型肺炎の感染拡大で市場に不足してきたマスクや人工呼吸器の輸出を禁止し、“自国ファースト”を実行したが、ドイツ政府は医療器材の輸出禁止を撤回し、連帯感を示すなど、欧州連合(EU)域内のイタリア支援がここにきて動き出してきた。

 それとは別に、ロシアのプーチン大統領はマスクや移動消毒液散布器、医師団の派遣を決定した。そして中国から先日、大量の防御服、マスクなど約30トンの医療物質がイタリアに送られてきた。欧州メディアも中国のイタリア支援を大きく報道した。医療器材の不足に悩んできたコンテ政府は、「困った時の支援こそ本当の連帯だ」と感動し、中国側の救援物資に感謝を表明している。

 大震災などで大きなダメージを受けた国が救援物資や経済支援を受けた場合、ありがたく感じるのは当然であり、イタリア政府が中国からの救済物資に感謝したことに異議を唱える考えはまったくない。

 本題に入る前に、余談だが、武漢肺炎が猛威を発揮してきた直後、日本政府はいち早く100万枚のマスクを中国に緊急支援した。それを受け取った中国が感謝を表明したことはメディアでも大きく報道された。韓国もその時、ひょっとしてもっと多くのマスクを支援したかもしれないが、中国政府の韓国への感謝が届かなかったのか、遅かったのか、ソウル側は、「中国は日本へは感謝したが、わが国には……」と呟いたという記事が配信されてきた。それを読んで、「謝罪」を何時も相手に求める国は「感謝」も要求するものだ、と感じさせられた。

 今回のコラムのテーマは、中国の救済支援にコンテ政府のようにもろ手を挙げて感謝すべきかどうかだ。「感謝」は不満や批判ではないので、多すぎて困るということはないが、�/祁診抉蠅寮こε�流行(パンデミック)は中国の武漢から発生したこと、�△修良埔融�を中国共産党政権は隠蔽しようとした、この事実の2点から、中国側の支援を無条件に感謝するわけにはいかないのだ。相手を傷つけ、流血させた側が血止め用絆創膏を提供したとしても、血を流す相手は素直に「ありがとう」といえるだろうか。

 中国の救援物質について、�”雋素抉蠅妊ぅ瓠璽犬魄�化させたので、イメージ回復の狙いがある。�■釘媾�国が新型肺炎対策で不協和音が聞かれる時だけに、親中派のイタリアを支援し、欧州の中国の政治的影響力を誇示する、といった憶測分析が聞かれる。

 それだけではない。武漢肺炎はたまたま中国で発生したが、新型コロナウイルスは中国を含む“世界の感染病”だというプロパガンダだろう。中国共産党政権は、「わが国は過去数カ月間でその感染病を抑えることに成功した。成功談と体験を欧州にも提供する」といった思惑すら見え隠れする。一方、欧州側は感染防止に忙しく、この新型肺炎がどこから来たのか、といったテーマはどうしても後回しになってしまうのだ。

 支援しているのに、文句を言われ、中国側は気分は悪いだろうが、共産党政権の独裁国家の中国の場合、そうはいかないのだ。国民を弾圧し、チベット系、ウイグル人ら少数民族を迫害し、キリスト者ら宗教者を弾圧している中国はやはり批判を受けるべき国だからだ。法輪功の青年の臓器を生きたまま取り出し、共産党幹部やその家族に移植。臓器が取られた遺体は埋葬されることなく、捨てられる。そのような国に対し、どうして寛容であることができるだろうか。

 中国共産党政権のイタリア支援の場合、中国側は多くの犠牲者を出したイタリア国民に対し、先ず謝罪を表明すべきだろう。そして救援物質がその償い品であることを明確に説明すべきだ。

 イタリアは人工呼吸器、防御服が緊急に必要だ。だから、それらの機材が中国から届こうが、ブリュッセルから提供されようが、緊急テーマではないが、支援国と受け手側の双方にとって事がスムーズに進むためには、やはり事の経緯を無視すべきではない。中国共産党政権は恣意的にその経緯をぼかし、支援したという既成事実を積み重ねていくことで、「事件の核心」をここでも隠蔽しようとしているからだ。

新型コロナウイルスと「神」の行方

 南欧イタリアで21日、793人が新型コロナウイルス(covid-19)が原因で死去した。欧州の地で、戦争時でもない時、このように多くの国民が1日で亡くなったことは戦後では初めてのことだ。それだけに、イタリア国民だけではなく、欧州全土で大きな衝撃と不安を呼び起こしている。

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▲ウィーンの夜明けの風景(2015年11月、ウィーンの自宅から撮影)

 欧州のファッションのメッカ、イタリア北部ロンバルディア州の州都ミラノやベルガモ市で多くの人が亡くなっている。中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスの猛威に恐れを感じる国民が増えてきた。

 中東や北アフリカ諸国では内戦、飢餓、テロなどで毎日多くの人が亡くなってきたが、バルカン諸国のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争後、欧州の地で連日多くの犠牲者がメディアで報じられるといった事態はこれまでなかった。少し変な表現だが、欧州国民は大量の死者が出る出来事に慣れていない。だから、イタリアから連日発信される新型肺炎の犠牲者の訃報は、ボデーブローの連打を受けたボクサーのように、欧州人の精神世界に致命的な痛みを与えてきている。

 欧州社会は本来、キリスト教社会に属し、キリスト教文化を築いてきた。至る所に教会の建物があり、朝はミサの時を告げる教会の鐘の音が響き渡る社会だ。自然災害やスペイン風邪などが発生すれば、欧州の人々は自然に神に向かい、その救いを求めてきた。 

 例えば、ポルトガルの首都リスボンで1755年11月1日、マグニチュード8・5から9の巨大地震が発生し、同市だけで総数30万人が被災した。文字通り、欧州最大の大震災だった。その結果、欧州全土は経済ばかりか、社会的、文化的にも大きなダメージを受けた(「大震災の文化・思想的挑戦」2011年3月24日参照)。欧州でペストが猛威を振るった時もしかり、人々は神に救いを求める一方、神の不在を嘆く声が聞かれた。第1次、第2次世界大戦時までそうだった。

 第2次世界大戦後、欧州のキリスト教社会は急速に世俗化し、教会の権威は多発する聖職者の未成年者への性的虐待事件で地に落ちた。信者の数だけではなく、神父の数も年々減り、日曜日の礼拝すら開くことが出来ない教区が出てきた。キリスト教の教え(福音)はせいぜい「伝統」に留まり、「信仰」として定着することはなくなってきた。

 欧州で神を見失う国民が増える一方、神から離れていく教会、聖職者が出てきた。そのような時、中国武漢発の新型コロナが欧州の地に侵入し、猛威を振るいだした。欧州では当初、新型コロナウイルスの脅威を軽く見ていた。インフルエンザと同様、季節性の伝染病であり、今年の復活祭を迎える4月までには感染のピークは過ぎるだろうと楽観視してきた。

 世界のウイルス専門家たちは新型コロナを治癒する薬品の開発に乗り出しているが、「治療薬、ワクチンが実際、患者に投与できるまでには早くて1年から1年半の時間はかかる」という。悲観的な専門家は、「新型コロナ回復者が再発している現象をみると、新型コロナ回復者に抗体がない場合が考えられる」と指摘、感染回復後も人体に抗体ができない全く新しいウイルスではないか」と受け取っている。

 欧州の各国政府は新型コロナ感染防止のため、手を洗うこと、人と人の間は1mから2mの距離を取り、5人以上の人々が集まることを止めるように、国民にアピールしている。一方、欧州国民の中にはマスク、消毒液、トイレットペーパーの買い出しでスーパーに殺到する姿が見られた。

 欧州キリスト教会は、新型コロナの感染防止のため、礼拝をビデオ礼拝に変え、信者たちの交流を控える対策に乗り出した。すなわち、羊飼い(聖職者)は羊たち(信者たち)に「飼葉納屋に留まり、外に出てこないように」と説明。教会入口は閉鎖され、神父は信者との接触を避ける。そして信者には「神父に直接罪を告白しなくても、罪は許される」と説明し、信者を説き伏せている。

 バチカン・ニュースが18日報じたところによると、世界に13億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会の最高指導者フランシスコ教皇はイタリア日刊紙ラ・レプッブリカとのインタビューの中で、新型肺炎で苦しむイタリア国民への連帯と隣人愛を説き、「私は主に、この伝染病を一刻も早く終わらせてくださいと祈った」と述べている。

 リスボン大震災時で多くの欧州国民が犠牲となった時、彼らは神に「あなたはその時、どこにおられたのか」と問いかけた。600万人の同胞を失ったユダヤ人の中には同じように「アウシュビッツの時、あなたは何をしていたのか」と問いかけた人々もいた。しかし、フランシスコ教皇は「なぜ新型コロナウイルスで多くの人々が亡くなるのですか」、「主よ、なぜ新型コロナウイルスを終息させないのですか」とは祈らない。ペテロの後継者、ローマ教皇は神に負担となる問いかけを常に避けてきた。

 貧者の修道女、マザー・テレサは私的な書簡の中で「あなたはいずこに?」とイエスに問いかけていたことが報じられ、多くの教会関係者や信者を驚かせた。修道女テレサが生前、「私はイエスを探すが見出せず、イエスの声を聞きたいが聞けない」「自分の中の神は空だ」「神は自分を望んでいない」といった苦悶を告白し、「孤独で暗闇の中に生きている」と嘆いた。テレサには、「なぜ、神は彼らを見捨てるのか」「なぜ、全能な神は苦しむ人々を救わないのか」等の問い掛けがあったのだろう(「マザー・テレザの苦悩」2007年8月28日参考)。

 21世紀の欧州キリスト信者はリスボン大震災や第2次大戦後のユダヤ人のように神に問いかけ、その不在を嘆いたとは余り聞かなくなった。21世紀のキリスト信者の神への信仰がより深まった結果というより、神の不在を嘆くことの空しさが先行し、神に問うことをしなくなったからではないか。

 「神の不在」にはまだ余裕があった。神は必ず再び戻ってくる、という確信があったからだ。その神が去ったとすれば、その後の世界はどうなるのか。主人公が突然、舞台から姿を消したならば、その後の劇の運びはどうなるのか。米TV番組「スーパーナチュラル」で天使カスティエル(Castiel)が「天国にはもはや誰もいない」と嘆く場面がある。現代のキリスト者は「神の不在」ではなく、神が「行方不明」となったと感じているのではないか(「行方不明となった『神』を探せ」2018年6月17日参考)。

 武漢肺炎が世界的流行(パンデミック)となった今日、「私たちは運命共同体」という現実が理解できる。キリスト教会でいう「兄弟姉妹だ」というわけだ。その指摘する内容が正しいとすれば、その兄弟姉妹をまとめる「親」はどこにいるのか、という問いが自然に出てくる。

 人が変わるのは想定外の出来事に遭遇した時だ。新型コロナの侵入は欧州キリスト教社会にとっても想定外の出来事だったはずだ。その意味で、新型肺炎の感染は欧州のキリスト者が変わることができるチャンスともなるだろう(「どのような出来事が人を変えるか」2016年3月13日参考)。

 不可視の直径100nm(ナノメートル)の新型コロナウイルスは、われわれがこれまで気が付かずにきた大切なものがどこにあるのかを見えるようにしてくれるかもしれない。

新型肺炎をEU再結束の機会に

 ウィーンの国連情報サービス(UNIS)から20日、緊急メッセージが配信されてきた。ウィーンの国連機関の対新型肺炎対策は復活祭明けの月曜日(4月13日)まで継続されるという。この措置はウィーン国連のホスト国オーストリア政府が同日、外出禁止や営業閉鎖などの特別措置期間の延期を発表したことを受け、国連側も対策期間をこれまでの4月3日から13日までに延期を決めたわけだ。

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▲「新型コロナの伝染病を終わらせてください」と、祈るフランシスコ教皇(イタリア放送協会公式サイトから、2020年3月21日)

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▲「イタリアの新型コロナ感染者をケアする医者と集中治療室」(イタリアの「ANSA通信」から、3月19日)

 ウィーンの国連(国連職員数約5000人)には国連薬物犯罪事務所(UNODC)、国際原子力機関(IAEA)、国連工業開発機関(UNIDO)、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)などの本部、事務所があるが、UNISの報告では、国連業務の95%以上は現在、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため自宅などで行われている。国連では大きな会議は中止、ないしはビデオ会議で行われ、記者会見は開催されなくなった。

 20日のUNISのメールによると、今月13日には1人のIAEA職員の新型コロナの感染が判明したという。同職員は自宅隔離された。いずれにしても、ニューヨーク国連本部を別として、ウィーンに拠点を置く国連機関は復活祭の終わる4月13日まで実質的には休業状況となる。

 イランの核問題や北朝鮮の核検証問題などを抱えるIAEAにとって重要な決定が難しくなる。ラファエル・グロッシ事務局長は先月、イランの核問題に対する最新の報告書を公表した。それによると、イランは先月19日の時点で濃縮ウラン(六フッ化ウラン)を1510キロ有している。核合意では300キロに制限されていた。同時に、濃縮度は3・67%から4・5%に引き上げている。また、テヘランの未申告施設でウラン粒子が見つかり、イランが不法な核関連活動をしている疑惑が再び浮上してきた。イランとの間で締結された核合意が崩壊してきただけに、IAEA関係者には焦るような思いがある。

 ただし、イランは核開発問題より国内の新型コロナの拡大防止対策が急務となってきた。死者数はイタリア、中国に次いで3番目に多く、1000人を超えた。同国では、国際社会の経済制裁下で医療機材、薬品の不足が深刻だ。国際社会からの支援を考えた場合、核開発計画をこれ以上スピードアップできない事情がある。

 一方、欧州連合(EU)の新型コロナ対策はどうだろうか。中国湖北省武漢市から発生した新型コロナウイルス(covid-19)は今日、欧州が最大の感染地となってきた。特に、イタリアでは20日、死者は4000人を超え、感染者数は4万7000人だ。スペインでも同日、死者数が1000人を超えている。

 欧州員会のフォンデアライエン委員長は13日、新型コロナウイルス感染拡大による経済への影響緩和措置として、総額370億ユーロの投資促進策を導入すると発表。16日には新型コロナの感染防止のために EU域外から域内への不要不急な入域を30日間禁止する案を提示した。一方、EU域内でも加盟国間の国境は次々と封鎖、入国制限が実施されてきた。そして19日、ミシェルEU大統領は、26日にEU首脳会談をテレビ会議方式で開催し、そこで新型コロナ対策を協議する意向を表明した。

 フォンデアライン委員長は委員長就任直後、地球温暖化対策を最優先課題として取り組む意向を表明したが、新型コロナの感染が欧州全域に拡大し、欧州加盟国の国民経済が急速に失速してきたことを受け、新型コロナ感染拡散の防止、経済的ダメージの抑制が最優先課題となったきたわけだ。

 2015年、中東・北アフリカ諸国から100万人を超える難民が欧州に殺到して以来、欧州の主要アジェンダは難民対策一色となったが、新型コロナの感染後は、難民対策は後退し、地球温暖化対策も主要アジェンダから外れてきた。EUは15年以来、想定外の大事件に振り回されている。

 難民問題では加盟国の間で難民受け入れ枠を拒否、国境閉鎖など対応する国と難民受け入れを実施する国で分裂し、統一した難民対応は難しかった。トルコとの間でシリア難民の殺到を抑える代わりに、EUが巨額の経済支援をアンカラに提供することで一応合意し、大量難民の欧州殺到の悪夢を回避してきた経緯がある。

 新型コロナ対策でも加盟国の対応で不統一が目立った。ドイツでマスクの輸出ストップが実施されるなど、自国ファーストの対策を実施する加盟国が出てきた。人、モノの自由な移動は新型コロナ感染によって完全にストップされてきたわけだ。

 スペイン、フランス、ベルギー、オランダ、オーストリア、ドイツなどは非常事態宣言をし、外出禁止、レストラン、映画館、劇場を閉鎖するなど、強硬策を実施中だ。同時に、新型コロナのためにダメージを受ける国民経済を支えるため支援策を打ち出してきた。例えば、スペインのサンチェス首相は12日、180億ユーロ規模の経済対策、オーストリアのクルツ首相は18日、最大380億ユーロの経済支援策を公表したばかりだ。

 英国が1月末、EU離脱(ブレグジット)したことを受け、EUは28カ国体制から27カ国となった。イタリアやスペインで数千人の国民が死去する事態に直面し、ブリュッセルでは加盟国間の結束、連帯を求める声が高まってきた。マクロン仏大統領は16日の国民向け演説で、「我々は戦争状況下にある」と述べている。

 EUが結束して新型コロナに立ち向かうことに成功すれば、難民問題で失った「統合された欧州」を再び掲げることが出来るかもしれない。難民対策で見せたように自国ファーストを優先し、不統一な政策を続けていけば、EUは存続の意義を完全に失い、EUの解体テンポが速まるだろう。その意味で、新型コロナ対策は単にEU国民を感染から救うだけではなく、共同体としてのEUを救済するチャンスでもあるわけだ。
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