ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2020年02月

イラン発新型肺炎の予想外の波紋

 中国湖北省武漢発の新型肺炎は中国ばかりか、韓国、日本、そして欧州にも拡大してきたが、イタリアと共にイランが新型肺炎の感染拠点となってきた。イタリアの場合、欧州でもいち早く中国からの旅行者をストップさせるなど対応に乗り出したが、第3国経由でイタリアに入る新型コロナウイルスの感染対策が遅れたこともあって、潜伏期間が過ぎた肺炎ウイルスがここにきて大暴れを始めたといった感じだ。

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▲イランのロウハ二大統領と会談するオーストリアのシャレンベルク外相(2020年2月23日、オーストリア外務省公式サイトから)

 今回はイラン発新型肺炎の拡大について報告する。27日現在、245人が感染確認され、死亡者は26人だ。死者数では中国に次いで多い。核開発問題で米国らの厳しい制裁を受けているイランでは外貨獲得源の原油輸出が止まる一方、医療品の不足が深刻となっている。

 イランの場合、国民だけではなく、政府関係者に感染確認者が出ている。同国保健省のイラジ・ハリルチ次官は24日、記者会見では汗を拭きながら会見していた。同次官の体調が悪いことは誰の目にも明らかだった。その直後、同次官の感染が確認された。同記者会見に参加したメディア関係者への感染も懸念され出している。

 それだけではない。27日には同国のエブテカール副大統領(女性・家族問題担当)の感染が確認された、というニュースが入ってきた。イランでは中国では見られなかった現象だが、副大統領、次官といった政府高官に新型感染が広がっているのだ。ウイルスは人を選ばない。社会的地位、学歴などとは関係なく、その毒牙をちらつかせ、チャンスがあれば侵入する。

 国連安保保障理事会は20日付で新型コロナウイルス対策の一貫として、医療不足が深刻な北朝鮮への医療支援を制裁外とする例外措置を認めたが、イランに対しても同様の対応が必要だ。対イラン制裁の一部緩和を即実施すべきだ。

 ところで、オーストリア外務省は今、頭を痛めている。問題は、同国のアレクサンダー・シャレンベルク外相のイラン訪問後に飛び出してきた。イランの保健省次官の感染が明らかになる直前、シャレンベルク外相はテヘランを訪問し、23日にロウハ二大統領やザリフ外相らと会見している。

 ロウハ二大統領は新型感染問題でハリルチ保健省次官やエブテカール副大統領らとの閣僚会議をしただろうから、ロウハ二大統領が彼らから感染している可能性が考えられる。ロウハ二大統領は同国最高指導者ハメネイ師とも話し合ったはずだ。ハメネイ師まで感染が広がっているかもしれない。イランの政府関係者は高齢者が多く、何らかの持病を抱えている場合が少なくないから、感染を軽くみていたら命とりとなる。

 オーストリアにとって問題は、シャレンベルク外相がイランの政府関係者から感染した場合だ。オーストリア日刊紙エステライヒは28日、同外相に随伴した記者団の中で1人のジャーナリストが新型肺炎の感染の疑いで隔離されていると報じている。クルツ首相は、「外相も他の国民と同様、早急に検査を受けるべきだ」と忠告したという。

 シャレンベルク外相の場合、感染したとしても、そのウイルスは現在は潜伏期間中だから、最低でも2週間は隔離されなければならない。その結果、オーストリアの外交は支障をきたすことになる。

 シャレンベルク外相の新型肺炎感染の懸念が報じられると、「欧米諸国が核開発問題で制裁下にあるイラン訪問を避けている時、なぜオーストリアの政治家は好んでイランを訪問するのか」といった素朴な疑問がでている。

 実際、オーストリアは2018年7月、ロウハ二大統領の公式訪問を歓迎するなど、欧州連合(EU)加盟国の中で独自の対イラン外交を展開させてきた。その独自外交が中立国オーストリアの調停外交だとこれまで言われてきたものだ。

 ちなみに、シャレンベルク外相の父親は外務省事務局長を務めた有名な外交官だった。外相になることが夢だったが、その機会なく退職した。その息子がクルツ政権で外相に選出されたことが伝わると、父親は自分の夢を果たしてくれたといわんばかりに喜んだ、といわれている。

 父親の期待を背負ってシャレンベルク外相は就任以来、世界を飛び歩き、オーストリア外交をアピールしてきた。テヘラン訪問はその一環だったが、やはりタイミングが悪かった。新型肺炎のウイルスの洗礼を受けたかもしれないのだ。


 注:オーストリア外務省が28日明らかにしたところによると、シャレンベルク外相は新型肺炎のウイルス検査を受けたが、結果は陰性だった。そのため、同外相は通常の職務を継続するという。ウイルスの潜伏期間の隔離措置などについては言及はない。

新型肺炎が提示する現代人への教訓

 中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスが発生して11週間が過ぎた。予想されたことだが、新型肺炎は欧州全土にも広がってきた。フランスを皮切りに、ドイツ、イタリア、スぺイン、オーストリア、クロアチア、ルーマニア、ギリシャなどで感染者が確認されている。その中でもイタリアは最大の感染地となってきた。26日現在、374人の感染者が出て、12人が亡くなっている。フランスでも2人目の犠牲者が出た。

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▲国民にパニックにならないように警告するオーストリアのネーハマ内相(2020年2月23日、オーストリア内務省公式サイトから)

 27日朝、いつものように家人と朝食を共にした。話題はやはり新型肺炎になった。オーストリアでも25日、チロル州で新型コロナウイルスの感染者2人が見つかったこともあって、話す内容は前日より深刻となってきた(音楽の都ウィーンで27日、新型肺炎の初の感染確認者が出た。72歳の男性)。

 妻によると、近くのスーパーでも水や缶詰類が良く売れ、トイレットペーパーなどは品切れのところもあるという。妻曰く、「人は水があって、魚の缶詰でもあれば何とやっていける。新型コロナウイルスが来る前は、ショッピングモールで必要以上の買い物、おいしい食べ物、グルメなどに人が集まり、人は結構贅沢な暮らしをしてきたが、今回のようなことがあれば、人は生きていくためには水とわずかな食べ物で十分だということが分かる」という。そして、「人々が不必要な外出を控え、家で留まる時間が増えたこともいい。本を読んだり、家人と話したり、食事ができる喜びを改めて発見できる」というのだ。

 妻は多くの犠牲者が出ている新型コロナウイルスに感謝とまではいわなかったが、どんな嫌な出来事も全てが悪いのではなく、受け取り方次第ではいい面も見つかる、という普遍的な事実を強調したかったのだろう。家人の意見だからいうのではないが、正論だ。

 全てのもの、事象にはマイナスの面だけではなく、プラスもある。逆に、全てがマイナスだけだ、ということもない。デュアル・ユースだ。新型コロナウイルスの場合も考え方次第では何かプラスの側面が見つかるのではないか。

 ビートルズ後の最大のBritpopの「オアシス」メンバーだったリアム・ギャラガーがウィーンでコンサートを開いたばかりだ。リアムのファンにとってラッキーだった。新型コロナウイルスが欧州で急速に拡大した今だったら、リアムのコンサートはキャンセルになっていたかもしれないからだ。実際、最近はコンサートは中止になり、サッカー試合も観客なしで行われることが多くなった。ファンにとっては寂しいことだ。

 欧州のキリスト教会では信者が集まる礼拝やイベントを中止したり、入口にある聖水を置かないところも出てきた。まもなく復活祭(イースター)を迎える。世界のキリスト教信者にとって最大の宗教イベントだが、無事開催されるか現時点では分からなくなったきた。

 多くの信者が集まる教会の礼拝は新型コロナウイルスにとって最高の感染拡大チャンスだ。韓国で新興宗教団体の集会が開催され、そこで多くの信者が新型コロナウイルスに感染したばかりだ。同じことが欧州の教会でも起きるかもしれない。

 イタリアで新型コロナウイルスの拡大が止まらない場合、バチカンのサンピエトロ広場のイースター記念礼拝は中止され、教会内で細々と開催することになるかもしれない。カトリック教会史でもなかった事態だ。中国政府のウイルス専門家たちは、「4月末までに新型コロナウイルスを基本的に制御できる自信がある」と表明した。それが事実となることを願うが、そうならない場合のシナリオを考えておかなければならない時だろう。

 83歳の高齢のフランシスコ教皇も多くの信者が集まるイースターで感染でもすれば、年齢が年齢だけに命とりになる危険性がある。中国の感染者データによれば、80歳以上の人間の致死率は他の年齢層より高いのだ(「データが示す新型肺炎患者の特徴」2020年2月22日参考)。

 リスボン大地震(1755年11月)、スペイン風邪(1918〜20年)で多くの欧州人が犠牲となった。当時の欧州知識人たちは、「神は何処にいましたもうたのか」と問いかけ、神の不在を嘆いた(「大震災の文化・思想的挑戦」2011年3月24日参考)。

 人は逆境に陥らない限り、喧噪な日々の生活で忘れていた大切なもの、自分の生き方を深く考えることは少ない。新型コロナウイルスはそんな現代人にもう一度、原点に帰る機会を提供しているのではないか。

 地球温暖化、新型コロナウイルスの拡大、いずれも取り組まなければならない課題は地球レベルとなってきた。私たちは思考の飛躍を願われているのかもしれない。現時点では、新型コロウイルスへのワクチンが一刻も早く造られ、感染が抑えられることを願うだけだ。

新型肺炎患者の感染ルートを割出せ

 アルプスの小国オーストリア西部チロル州で25日、2人のイタリア人が新型コロナウイルス(covid-19)に感染していることが確認された。同国では初のケース。オーストリアの隣国イタリアで新型肺炎感染者が急増していることもあって、オーストリア側も警戒してきた。特に、イタリアと国境を接するチロル州では感染者発生を想定して受け入れ態勢を検討していた矢先だった。新型コロナウイルスの感染力が如何に凄いかを改めて証明した。

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▲新型肺炎患者が出たことを受け、オーストリア内務省は緊急会議を開催(2020年2月25日、オーストリア内務省公式サイトから)

 2人は24歳の同年齢のカップルで、イタリアで新型肺炎発生の拠点となってい同国北部ロンバルディア州出身者。女性はインスブルック市内のホテルで働いている。2人が体調が良くないうえ、熱が出たことから、市内の緊急連絡所に電話。検査したところ新型肺炎と分かり、即隔離された。インスブルック大学病院の話によると、25日午後、2人の体調は回復し、熱も下がったが、隔離を続けるという。

 「オーストリアで新型肺炎感染者が出た」というニュースは同国のトップ記事で報道された。国民は「肺炎ウイルスがやって来たか」といった感じで受け取っている。サプライズではなく、時間の問題だったからだ。オーストリア政府はイタリア側とは肺炎対策で連携を強化する一方、両国の国境ブレンナー(Brenner)での監視強化を始めている。

 オーストリアでは先月26日、新型肺炎の最初の疑い患者が見つかったが、検査の結果、陰性。2月初旬には中国湖北省武漢市にいる同国国民を帰国させるなど、対応に乗り出してきた。

 イタリアで25日現在、283人の感染者、11人が死亡したことから、オーストリア政府は緊急対策会議を開き、内務省、厚生省など関係省の連携を強化し、同国全土で59カ所の病院で感染者受け入れ隔離態勢を敷いている。

 25日夜、オーストリア国営放送は新型肺炎に関する特別番組を放映した。ウイルス専門家、欧州消費者協会代表、労働法専門家、そして内科医が新型肺炎対策に関連する情報を国民に伝えていた。非常に啓蒙的な番組だった。

 新型ウイルスが従来のインフルエンザとどこが違うか、イースター(復活祭)休暇でイタリア旅行を計画していたが、肺炎の拡大で旅行をキャンセルした場合はどうなるか、肺炎感染者が出た場合、感染が怖いので会社を休みたいが、それは可能かなどを各専門家に聞いていた。

 以下、日本の読者にも役立つ情報を2、3紹介する。

 A:肺炎の感染を防止するためにマスクを購入する人が増え、薬局店からマスクが売れ切れたというニュースが流れているが、ウイルス専門家は「市場で売られているマスクは感染者がそのウイルスを外にばらまかないという意味で少しは役立つが、ウイルス感染防止にはならない。ちなみに、新型肺炎の感染としては、\椰┫鏡、飛翔感染、L祇椰┫鏡(エアロゾル感染)が考えられる。

 B:体調を崩し、新型コロナウイルスの疑いが出た場合、タクシーや公共交通機関で病院には行ってはならない。感染していた場合、ウイルスがその途上で拡大する危険性が出てくるからだ。オーストリアの場合、「1450」の緊急健康専門家ホットラインに電話し、様態を報告。新型肺炎の感染の疑いがあるとなれば、救急車が自宅にきて検査し、感染が確認されれば、即隔離する体制を敷いている。

 感染者が見つかった場合、医者はどこから感染したかを、患者にインタビューし、患者が接触した場所、人の割り出しに乗り出す。名探偵シャーロック・ホームズのような仕事が待っているわけだ。

 参考までに、中国共産党政権は2014年、「社会信用システム構築の計画概要」を発表し、国民の個人情報をデーターベース化し、国民の信用ランクを作成、共産党政権を批判した言動の有無、反体制デモの参加有無、違法行為の有無などをスコア化し、国民を「危険分子」「反体制分子」などに分類していることは良く知られている。

 中国共産党政権は「社会信用スコア」と顔認証システム、全土に張り巡らした数億台の監視カメラを連携させ、そこから集まるビッグデータを駆使して、新型肺炎の感染ルートの割り出しに利用している(「中国の監視社会と『社会信用スコア』」2019年3月10日参考)。中国では、シャーロック・ホームズの役割を共産党が演じているわけだ。この分野では中国は世界で最も先端を走っている。

 注:オーストリア通信(APA)が26日報じたところによると、新型肺炎が見つかった24歳のイタリア人女性が勤務していたホテルの関係者など62人が検査され、そのうち9人が感染の疑いが排除できないとして隔離されたという。また、ケルンテン州で同日午前、イタリアからきた旅行者(女性、56歳)が死亡した件で、同州では新型肺炎との関連を調べている。

新型肺炎は金正恩氏を哲学者にする

 中国湖北省武漢市から発生した新型コロナウイルスは発生11週間が過ぎた今日、世界保健機関(WHO)が恐れていた世界的流行(パンデミック)の兆候が出てきた。「中国のシカゴ」といわれてきた工業都市の武漢市は先月23日後、外部世界から隔離され、中国の国民経済を支えてきた都市としての輝きを完全に失ってしまった。

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▲米朝首脳会談前にタバコを吸う金正恩委員長(CNN中継から)

 オーストリア日刊紙クローネ日曜版(2月23日付)は武漢市の市民とビデオ・インタビューしたが、市民は隔離され、2カ月前まで大都市の活気ある社会は突然襲ってきたウイルスの侵入に怯え、困窮下で生きている。「自分の母親が感染したとして,アパートの窓から助けを求める若い女性の声がガランとした市内の路上に響き渡っていた」という。

 中国からの経済支援で生き延びてきた隣国・北朝鮮は感染拡大の一報が伝わると対中国境や鉄道など陸路、そして空路を素早く閉鎖した。金正恩朝鮮労働党委員長の危機管理は中国の習近平国家主席も学ばなければならない点がある。日頃お世話になっている大国・中国との接触を断つという決断は北側にとって大きな打撃であることは間違いないが、それを即実行する一方、習近平主席宛てに書簡を送り、その労を癒す内容のメッセージを伝えているのだ。

 金正恩氏は感染の国内侵入を恐れ、父親金正日総書記の生誕日の2月16日も公的な記念行事を控え、平壌マラソンも早々と中止を決めるなど、可能な対策は果敢にとっている。朝鮮中央放送によると、24日現在、北では新型肺炎の感染者が出ていない。

 韓国の文在寅大統領や日本の安倍晋三首相が中国への配慮を優先して、対中国境閉鎖や中国人の入国禁止などの措置を躊躇した結果、国内で多数の感染者が出たのとは好対照だ。独裁国家は災害対策ではトップダウンで決断できるメリットがある。36歳の金正恩氏の決断力は評価すべきだろう。

 さて、武漢肺炎は長期戦となる様相を深めてきた。北は迅速な危機管理に乗り出したが、中国からの物品が途絶える一方、医療品不足などが深刻さを深めてきた。国際社会から制裁下にある北朝鮮は中国の支援がなければ国家存亡の危機を迎える。国民には自給自足を訴え、叱咤激励しているが、それもいつまでも続かない。限界はくる。

 以下は、当方の勝手な推測だが、金正恩氏は今、父親に倣い「先軍政治」を推進し、核兵器、弾道ミサイルの開発に専心、一応成果は出たが、それは何のためだったのか、というかなり哲学的な問いかけに直面しているのではないか。核兵器、大陸間弾道ミサイルの開発は国民経済、発展には何も寄与していないという事実を目の当たりにしているはずだ。「使用できない大量破壊兵器」(コリン・パウエル米元国務長官)を大量に抱えた結果、国際社会から制裁を受け、孤立化した。国民の生活は改善されるどころか、日々、悪化している。

 そして世界は今、武漢発の新型コロナウイルスを恐れ、国境を次々と閉鎖してきた。グロバリゼーションといった掛け声は静まり、ウイルスだけがそのグロバリゼーションを利用して世界に広がっている。

 北が頼る中国の習近平主席はウイルス対策で守勢を強いられ、「一帯一路」や「中国製品2025」といった掛け声が空しく響く。中国は米国の軍事力を恐れているのではなく、100nm(ナノメートル)に過ぎないウイルスの拡大に怯え、国民はマスクを買い漁っている。

 中国の現状を目撃し、金正恩氏は哲学的にならざるを得ないだろう。なぜ、国際社会から圧力を受けながらも核兵器を製造し、大陸間弾道ミサイルの開発に狂気のように乗り出してきたのか。中国は270個以上の核兵器を保有し、米国やロシアと並んで軍事大国となったが、その中国が新型コロナウイルスの侵攻に翻弄されているのだ。

 金正恩氏は、「核兵器も弾道ミサイルもわが国の存続を保証するものではないとすれば、何をすべきか」とハムレットのように悩み苦しみ出したのではないか。独裁者は「核兵器を使用したならば、世界からバッシングを受け、戦争犯罪国としてあらゆる制裁を受けるだろう。持つだけで使用できない核兵器に意味があるのか、相手を威圧できても、相手も使用できないことを知っているので、その威圧にも限界が伴う」といった思索に苦しむ。

 金日成主席、金正日総書記、そして3代目の金王朝の主人、金正恩氏は祖父や父親が直面したこともない難問に対峙しているわけだ。「わが国の生き残る道はどこにあるのか」。正恩氏は新型コロナウイルスの侵攻を恐れ、平壌の3階書記室(官邸)に閉じこもりながら、考え続けている。

 人は価値のないことに命を賭けたくはない。一度しかない命を価値あるもののために投入したい、誰でも一度は考えるこのテーマに金正恩氏は取り組みだしているはずだ。直径100nm(ナノメートル)に過ぎない新型コロナウイルスは北の若き独裁者、金正恩氏を否応なしに哲学者にする。

なぜ極右過激テロ事件が増えるのか

 独ヘッセン州ハーナウ市内で19日、1人の男(ドイツ人、43歳、トビアス・R)が2カ所のシーシャ・バー(Shisha Bar、水タバコ・バー)や簡易食堂を襲撃、計9人を殺害し、その後、自宅で母親を殺した後、本人は自殺した。この銃乱射テロ事件はドイツ国民に大きな衝撃を投げかけている。

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▲ハーナウ市の銃乱射テロ事件の犯行現場を警備する警察官(2020年2月20日、ドイツ民間放送NTV中継から)

 ハーナウ市では23日、多数の市民が「外国人排斥」「憎悪」に抗議するデモを行った。独メディアによると1万人余りの市民が、「われわれはドイツだ。共に助け合って共存すべきだ」と叫び、市民に寛容と連帯を呼び掛けた。同時に、外国人排斥を訴える極右派グループを批判した。

 ハーナウの銃乱射事件後、ドイツのメディアは一斉にドイツ国内で極右過激派が増加してきたと警告を発する記事を掲載。ゼ―ホーファー内相は射撃用銃の規制強化をアピールした。

 ここまでの動きは極右過激派テロ事件が起きる度に過去、展開されてきた状況と同じだ。銃規制の強化は重要なテーマであり、外国人排斥、反ユダヤ主義の台頭への警鐘は大切だが、極右過激派の蛮行がそれによって減少したとか、具体的に銃規制が強化されたとは聞かない。治安関係者も国民も極右過激テロ事件が発生する度に一定のプロトコールに基づいて抗議し、警告を発している、といった印象を受けるのだ。

 43歳のトビアス・Rは大学で経済を学び、銀行に勤務していた。治安関係者は事件前にはRをまったくマークしていなかった。ただ一度、男が憲法擁護庁に書簡を送り、自身の外国人憎悪を主張する書簡を送ったが、擁護庁からは何の返答もなかった。すなわち、ハーナウ極右過激テロ事件のRは治安関係者からはノーマークで、危険な極右過激活動家のカテゴリーには入っていなかったわけだ。

 もう少し厳密にいえば、警察当局が極右派とみて監視下にある活動家ではなく、その統計に入らない一匹狼が過激なテロを行ったことになる。だから、治安関係者が極右派活動の監視強化を強めたとしても、過激なテロを防止できるか、といった疑問が出てくる。なぜなら、ハーナウのRや旧東独ザクセン=アンハルト州の都市ハレ(Halle)で昨年10月9日に起きたシナゴーク襲撃事件のテロリストのように、治安関係者の監視対象外の人物が犯行を行うケースが多いからだ(「旧東独でシナゴーグ襲撃事件」2019年10月11日参考)。

 ゼーホーファー内相は容疑者が使用した射撃用銃の規制強化を訴えたが、Rはオンラインを通じて2丁の銃を購入している。銃購入の際、精神的心理テストなどは行われていないから、誰でも購入できる。銃の規制問題では、ドイツの状況は、全米ライフル協会(NRA)のロビー活動が強いため実質的な銃の規制が出来ない米国と似ている。

 ドイツ射撃協会は、「射撃用の銃を射撃クラブで保管し、個人では保管しないといった提案は実質的ではない」と、内相の提案に既に反対を表明している。あと数週間が経過すれば、ハーナウ銃乱射テロ事件への国民の関心と記憶は薄れ、新たな事件が発生するまで何も変わらない、という状況が出てくるわけだ。

 メルケル首相は事件直後、「外国人排斥、憎悪は(社会の)毒だ」と厳しく批判したが、ドイツ社会の本当の毒は外国人排斥・憎悪というより、家庭の崩壊、それに伴う人間の孤独化とさまざまな精神的疾患ではないか。ハーナウの容疑者は明らかに精神的疾患を持っている人間だ。

 ハーナウ事件もハレ事件でもそうだ。容疑者は両親の保護のもとにスクスクと成長する家庭環境ではなかった。彼らは家庭でも孤独だったから、インターネットの世界に没頭。ハーナウの容疑者は犯行声明のマニフェストの中で外国人憎悪を大声で叫んでいるが、自身が接触したこともなく、ましてや交流したこともない外国の人々を憎悪するのは、明らかに“作られた憎悪”であって、体験や経験に基づく憎悪ではない。彼らは自身の憎悪、敗北感をぶっつける対象を探し、それが外国人への憎悪となっているだけではないか。

 ドイツでは極右派テロ事件が発生する度に、既成の政治家たちは極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)を批判し、社会の過激化の責任をAfDに負わせるが、ドイツ社会の家庭の崩壊については口を閉じている。それを言い出せば、その批判は自身にも跳ね返ってくるからだ。

 政治家も離婚、結婚を繰返し、不倫問題を抱え、夫婦・親子断絶、家庭の崩壊は当たり前のような社会に生きている。家庭の倫理を堂々と言える政治家はドイツでは少なくなったきた。

 たとえAfD関係者を規制対象にしても、極右派テロ事件は起きる。銃の規制強化を実施したとしても、潜在的テロリストはどこかで合法的に入手するだろう。対応すべきテーマの設定が間違っているのだ。

 ハーナウ市民の銃乱射テロ事件に抗議する写真を見ながら、潜在的なテロリストは、家庭や社会で孤独と閉塞感に悩む人間ではないかと考えざるを得ないのだ。極右グループに所属する人間は活動を通じて一種のガス抜きをしているから、テロなど過激な行動に走るケースは減少する一方、ハーナウのトビアス・Rのように一匹狼の場合、ガス抜きが出来ないため暴発する危険性が出てくるのではないか。

北の金王朝で「金与正」時代は来るか

 北朝鮮で今、金正恩朝鮮労働党委員長が何らかの理由で急死した場合、同委員長の実妹・金与正さん(党中央委員会宣伝扇動部第1副部長)が実権を掌握し、北朝鮮で金王朝初の女性独裁者が誕生するのではないか、いや既に金与正さん(31)が実権を掌握している、といった、少々、せっかちな報道が流れている。その内容が事実か否か、残念ながら100%確信をもって答えることが出来る人はいないだろう。だから、噂、憶測、推測、独断などが溢れることになるわけだ。

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▲VIP席の金永南最高人民会議常任委員長(当時)と金正恩氏の妹、金与正党第1副部長(右)

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▲韓国・平昌冬季五輪大会の開幕式(2018年2月9日、ドイツ公営放送の中継から)

 「火のない所に煙は立たぬ」といわれるように、金与正さんが実兄の後継者になる、と囁かれる背景には、それなりの理由があるに違いない。金正恩氏は身長170センチ以下、130キロの体重を抱え、暴飲暴食で運動不足、その結果、狭心症だという噂があるからだ。金正恩氏の外観からそれは十分考えられるし、説得力はそれなりにある。心臓病の専門医がフランスから飛んできたという情報もその噂に一層、現実味を加えている。

 話を進める前に少し説明する。西側情報機関では、「北情報で長々と説明がついてくる情報は偽情報だ」といわれている。偽情報だから、その真実性を高めるために長々とした説明が必要となるため、偽情報はどうしても長くなる、というのだ。

 フランスは金王朝ファミリーの西側医療団の役割を果たしてきた。故金日成主席の時もそうだった。リヨン大学附属病院から心臓外科医が平壌に飛び、金日成主席の心臓手術をしている。金正恩氏の母、故金正日の高英姫夫人はフランスで乳がんの手術をしたという情報があるなど、フランスと北朝鮮との関係は“病が取り持つ深い関係”といった具合だ。

 ところで、今噂の中心にある金与正さんは、南北首脳会談や米朝首脳会談の舞台裏で兄金正恩氏の世話をしている姿が見られた。体調が良くない時やストレスでパニック症状を発する兄にタバコに火をつけてあげたり、耳元でそれとなく「大丈夫」と激励している。金正恩氏は実妹与正さんを信頼していることは間違いない。与正さんのように、金正恩氏から信頼を受けている人物は多分、北朝鮮指導部内にはいないだろう。

 だから金正恩氏に何かが生じた時、与正さんが一時的にその代理役を演じても不思議ではないが、幼い子持ちの母親で31歳の与正さんが朝鮮人民軍幹部や労働党幹部たちを掌握できるだろうか。与正さんが実権を掌握したとしても、それをサポートする強力な側近が欠かせられない。北朝鮮全土を掌握できるだけのパワフルなサポーターがいない限り、与正さん後継者論は少々非現実的だ。

 興味深い点は、昨年11月末から12月にかけ、金ファミリーでこれまで海外に島流しにされてきた2人の金ファミリーが平壌に戻ってきたことだ。1人は金平一前チェコ大使だ。故金日成主席と金聖愛夫人の間の長男だ。もう1人は金平一氏の実妹、前オーストリア金光燮大使の敬淑夫人だ。

 金正恩氏の叔父、叔母家庭は30代に入ったばかりの金与正さんに頼らなくとも、金王朝を継承できる家族だ。熟年であり、外交官としての経験などは豊富だ。特に、金平一氏の場合、その外貌が金日成に似ていること、軍キャリアを持っていることなどから、朝鮮人民軍幹部たちの間で久しく「ひょっとしたら、彼が……」と思われてきた人物だ。いずれにしても、労働党、人民軍の支援がない限り、政権は長続きできないから、金与正さんがたとえ、一時的に実権を握ったとしても、叔父、叔母の存在を無視できないはずだ。

 このコラム欄で「金正恩氏、出自コンプレックス克服?」(2020年1月28日参考)を書いた。それは金正恩氏だけに当てはまるのではなく、与正さんにもいえる。正恩氏も与正さんも父親は故金正日総書記だが、母親は在日朝鮮人の高英姫夫人だ。金王朝は「白頭の血統」がその権力維持を支える最大のセールスポイントだが、正恩氏も与正さんもその点、残念ながら欠けているのだ。

 上記の推測は、あくまでも金正恩氏が狭心病で倒れ、ベットの上の身になっているという前提だが、その前提が揺れてきている。朝鮮中央放送は16日、金正恩氏が故金正日総書記の誕生日(光明星節、2月16日)に合わせ故金日成主席と金総書記の遺体が安置されている平壌の錦繍山太陽宮殿を参拝したと報じている。韓国聯合ニュースによると、「金委員長が公の場に姿を現したのは、先月25日の旧正月の記念公演以来、22日ぶり。北朝鮮が新型コロナウイルスの流入防止のため国家非常防疫体制を敷いた先月28日以降、初めてとなる」という。

 そのニュースが事実ならば、金正恩氏はベット上の身ではなかったわけだ。少なくとも、まだ生きている。一部の北消息筋は「彼は偽金正恩だ」というドッペルゲンガー説を主張するが、朝鮮中央放送が配信した写真を見る限り、金正恩氏は本物の可能性が高い(「北の“ヘア革命”とドッペルゲンガー」2015年11月23日参考)。

 金与正さんに北で初の女性指導者を期待する筋には忘れてはならない情報がある。金与正さんはヒロポン中毒だということだ。メタンフェタミン類の覚せい剤で中毒性は強い。北朝鮮は国内には麻薬問題はないと豪語してきたが、実際は社会の隅々まで麻薬中毒が広がり、大きな社会問題となっている。特に、労働党幹部の家庭で麻薬中毒が広がり、党幹部の2世、3世が中毒になっている。金与正さんもヒロポン中毒者だというのだ(「金正恩氏の妹、金与正さんの『欠席』」2019年4月27日参考)。

 金与正さんが突然、正恩氏の前から消え、その所在が不明、というニュースが過去流れたことがあった。与正さんが欠席したのは、妊娠のためではなく、麻薬中毒による副作用に悩まされ、職務履行が困難だったからだ。

 軍、党幹部たちはそのことを薄々知っているので、与正さんを金正恩氏の後継者に担ぎ上げることはないだろう。与正さんをマリオネット(操り人形)として担ぎ出し、実権を掌握したいと考える党、軍幹部はいるかもしれないから、もちろん「与正さん後継者説」は完全には排除できない。

 金正恩氏は昨年末、党中央委員会総会で「積極的、攻撃的な政治、外交、軍事的対応措置を準備する」と強調し、大幅な人事を実行する一方、慣例の「新年の辞」をとりやめている。その直後、中国武漢発の新型コロナウイルスが拡大し、北朝鮮はその感染拡大に怯えている。感染防止のために中国との国境を閉鎖せざるを得なくなった金正恩氏は政権掌握後、最大の危機に直面していることは間違いない(「武漢肺炎報道で露呈した北の『実力』」2020年2月1日参考)。

 国家存亡の危機に直面している国(北朝鮮)のかじ取りを率先して欲しがる人物がいるだろうか。賢い金与正さんのことだから、兄から後継者のオファーを得たとしても、やんわりと断るのではないか。沈みかけた船の船長に誰もなりたくないのだ。北朝鮮には目下、残念なことだが、満身創痍の金正恩氏しかいないのだ。

「ウクライナは中世時代に戻った」?

 中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスが見つかって11週間が過ぎたが、武漢発肺炎は中国本土ばかりか世界に感染を広げる勢いを見せてきた。香港、台湾、フィリピン、韓国、日本、イランでは死者が出たほか、北アフリカのエジプト、中東のレバノンで新型肺炎の感染者が見つかるなど、武漢肺炎は世界的大流行(パンデミック)の兆候が出てきた。

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▲ゼレンスキー大統領、新型肺炎から避難してきた人々に罵声を浴びせたウクライナ住民の言動について答える(ウクライナ大統領府公式サイトから、2020年2月21日)

 新型肺炎発生直後から中国からの入国者を禁止するなど、厳格な対応をいち早く実施したイタリアはこれまで感染フリー地帯だったが、同国北部の産業都市ミラノ市を抱えるロンバルディア州で21日現在、16人の感染確認者が見つかったばかりだ。接触感染でも飛沫感染でもなく、無接触感染(エアロゾル感染)の可能性が出てきた。国際社会の制裁下にあって、医薬品の不足が深刻なイランでは既に18人が感染し、4人が死亡している。

 ところで、ウクライナから20日、新型肺炎に関するニュースが流れてきた。中国から避難してきたウクライナ人(45人)や外国人(27人)が搭乗した飛行機がウクライナに到着し、そこからバス6台で同国中部の人口約8400人の小都市ノビ・サンジャリにある病院(サナトリウム)に運ばれたが、その病院の前では現地のウクライナ住民が「出ていけ」、「新型コロナウイルスをばらまくな」、「下水道を汚染する危険がある」と叫び、通行をボイコットし、タイヤを燃やす一方、バスに向かって投石、バスのガラスが壊されるなど、一時は暴動のような状況を呈した。警察隊が出動し、中国から帰国したウクライナ国民を運ぶバスを守る一方、石を投げ、罵倒する人々を取り押さえ、説得。10人以上が一時、拘束された。

 事態の深刻さを知ったウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「われわれはみんな人間であり、ウクライナ国民だ」と呼びかけ、住民に冷静になるように呼び掛ける一方、アルセン・アバコフ内相は現地に駆け付け、「一時的対応として必要な処置だから、理解してほしい」と説明し、「中国から帰国した彼らは新型コロナウイルスには感染していない。2週間隔離して再チェックするだけだ」と述べ、新型コロナウイルスの汚染を恐れる住民を懸命に説得した。

 病院前に集まり、「我々を感染させるのか」と叫んでいる写真が配信されてきた。写真を見る限りでは、中国から避難してきた人々はマスクをつけ、バスの窓から自分たちに向かって叫ぶ住民たちの姿を長旅で疲れた顔を見せながら眺めている。1人の若者は写真を撮っている。

 このニュースを読んでいると、たとえは良くないが、中世時代の魔女狩りとオーバーラップした。多分、魔女と疑われた女性を多くの人々が取り囲み、罵声を浴びせ、最後は火あぶりにした、あの魔女狩り風景だ。当方は魔女狩りシーンなど目撃したことがないが、当方の記憶の中で「我々の下水道が汚染される」と叫ぶ住民の姿と奇妙に重なった。

 ウクライナ語をウイーン大学で教えている教授が、「わが国は不運だ。ウクライナと言えば、チェルノブイリ原発事故やロシアのクリミア半島併合などを直ぐに思い出し、いい記憶と結び付くことが少ない」と嘆いていたことを思い出す。新型コロナウイルス問題でウクライナ住民が今回示したような行動は他の欧州諸国では見られない。

 コメディアン出身のゼレンスキー大統領は武漢から避難した自国民や外国人を罵倒するウクライナ国民の言動について、「ウクライナは欧州だが、昨日は中世時代の欧州のように見えた」(Ukraine is Europe,but yesterday it seemed that we are Europe of the Middle Ages)と答えている。

 ウィーンではアジア系の乗客が地下鉄を下車する時、後ろから押されたとか、ベビーカーを運ぶのを手伝おうとした日本人女性に対し、子供に新型コロナウィルスの感染を恐れた母親は素早く「自分でできるから、いいです」と断り、市内の中国レストランを訪れるゲストが減少した、といった話はここにきて頻繁に耳に入る。これらは新型コロナウイルスが発生して以来、欧米諸国で見られるアジア人フォビアだ。

 しかし、中国から帰国した自国民に向かって「出ていけ」といった罵声を投げかけたウクライナの住民は、新型コロナウイルスを運ぶと思われるアジア系の人間を恐れているのではなく、新型肺炎のウイルスを恐れ、自分の町や村に拡大することを怖がっているわけだ。彼らは「アジア人フォビア」ではなく、「ウイルス・フォビア」というべきだろう。幸い、ウクライナでは22日現在、新型肺炎の疑いのある感染者は出ていない。

データが示す新型肺炎患者の特徴

 独週刊誌シュピーゲル電子版(2月20日)によると、中国保健省はこのほど新型コロナウィルスの感染者、死者に対するデータ分析の結果を公表した。それによると、新型肺炎による致死率は年齢と性別に大きく影響を受けていることが判明した。

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▲新型コロナウイルスの拡大阻止のために戦う人々(2020年2月15日、ウイグル自治区で、新華社公式サイトから)

 横浜市の大黒ふ頭に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」には約3700人が乗船していたが、そのうち634人が新型コロナウイルスに感染。日本政府は20日、84歳の日本人女性、87歳の日本人男性が死去したことを確認したばかりだ。中国側が公表したデータでは、2人は新型肺炎で最もリスクの高いカテゴリーに入る。80歳以上の高齢者は死亡リスクが最も高く、7人に1人が死亡しているからだ。

 中国保健省は、2月11日現在、登録された新型コロナウイルス感染者4万4000人以上のデータを分析した。その感染者のうち、1000人以上が死去した。致死率は2・3%だ。感染者7万5000人で死者約2000人の重症急性呼吸器症候群(SARS)より致死率は高い。

 感染者の年齢と性別が致死率と密接にリンクしている。以下の表を見れば、致死率は50歳を超えると高まってくることが分かる。最も死亡リスクが高いのは80歳以上の感染者だ。データは昨年12月、新型肺炎が発生した直後の武漢市周辺の感染者、死者を主にデータ分析しているので、実際より少し高くなる可能性は排除できない。中国以外の感染者数は2月18日現在、800人を超えるが、死者は3人。その致死率は0・4%と低い(その直後、日本で2人、韓国、イランでも死者が出ているから、致死率は1%を超えるものと予想される)。

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出典: China CDC Weekly(中国疾病預防控制中心)


 年齢の他、性別では男性感染者は女性感染者より死亡リスクが高い。感染者数は男女ともほぼ同じだが、致死率は男性の感染者が高い。2万2981人の男性が感染、そのうち653人が死亡、致死率は2・8%。一方、女性感染者数は2万1691人で370人が死亡、致死率は1・7%だった。

 なぜ男性感染者が女性感染者よりリスクが高いか、感染病専門家は答えていないが、いろいろな理由が考えられる。ゲノムやホルモンの違いや持病の影響などだ。具体的には、糖尿病やガンの場合、死亡リスクが高くなる。新型肺炎の場合、最も危険なのはやはり心臓病を抱える感染者だ。

 /澗”造鯤える873人の感染者のうち92が死亡(死亡率10・5%)
 糖尿病1102人の感染者、死者80人(7・3%)
 8撞朷麓栖気隆鏡者511人、死者32人(6・3%)
 す盞谿鬼鏡者2683人、死者161人(6%)
 イん患者107人の感染者、死者は6人(5・6%)

 参考までに、中国湖北省武漢で新型コロナウイルスが発生して以来、11週間余り経過するが、武漢肺炎は中国本土ばかりか、香港、台湾,、フィリピン、日本、韓国、イランなどでも死者が出るなど、世界的大流行(パンデミック)の兆候が出てきた。その一方、感染者数が少ない国もある、その相違は国の防疫政策の違いにも通じる。感染者総数では、中国以外では、韓国、日本が多い。

 韓国の朝鮮日報は、韓国で感染者の初の死者が出た20日、「中国人の入国制限ためらった韓国、感染者100人を突破、初の死者も、ゴールデンタイムを逃した」という見出しで、「韓国と日本の場合、他の国々に比べ、中国人の入国について厳しい制限措置を取らなかった。一方、米国、オーストラリア、ベトナムなど早い段階から中国人に対する厳しい入国制限を施行した国々は感染者数が10人台にとどまっている」と指摘し、中国人の入国制限の有無が感染者数の増減と密接な繋がりがあると強調している。

 韓国の場合、今月4日になって湖北省発行旅券を所持している中国人と過去14日の間に湖北省を訪問した外国人の入国を禁止するという措置を取った。

 日本の場合、13日に湖北省と浙江省に滞在歴のある外国人と中国人の入国を禁止する措置を取っただけで、中国全域を対象とした制限は実施していない。日本の場合、横浜港に停泊中のクルーズ船で乗客を長期間隔離した処置が感染者を増やした、といった批判の声も出ている。

 新型コロナウイルスの場合、その発生源も依然不明であり、中国共産党政権の情報隠蔽などもあって、中国ばかりか、世界はその対応で後れをとってきたことは事実だ。新型肺炎が発生して11週間が過ぎる。感染者、死者に関するデータを分析することで、新型肺炎への対応の道が開かれることを希望する。

独「グリム兄弟の街」で極右テロ事件

 独ヘッセン州ハーナウ市内の2カ所のシーシャ・バー(Shisha Bar、水タバコ・バー)で19日午後10時頃(現地時間)、1人の男が銃を乱射し、9人が死亡、多数が負傷するという事件が起きた。

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▲犯行現場を警備する警察官(2020年2月20日、ドイツ民間放送NTV中継から)

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▲19日夜に起きた銃乱射事件を説明するヘッセン州ボイト内相(2020年2月20日、ヘッセン州議会で、ドイツ民間放送NTV中継から)

 事件は同日午後10時、ヘッセン州の人口10万人余りの小都市ハーナウ(Hanau)のシーシャ・バーで男が銃を乱射した後、車で逃走。警察側は大捜査網を敷き、ヘリコプターを動員して容疑者が乗って逃走した車を追跡した。

 現地の警察によると、特別部隊が20日早朝、市内の容疑者の自宅に突入。2人の遺体を見つけた。1人は容疑者で、もう1人は容疑者の母親(72)とみられる。ハーナウ銃乱射事件の死者は容疑者を含むと11人となった。

 ヘッセン州議会でボイト内相は20日、「容疑者はドイツ人で43歳の男性で、これまで警察側にはマークされてきた人物ではなかった。押収したビデオなどを見る限り、外国人排斥、憎悪が犯行動機とみられる」と、極右的動機に基づくテロ事件との判断を強調した。ハーナウ銃乱射事件はカールスルーエの連邦検察庁が担当することから、事件が極右過激派のテロと受け取られていることが明らかだ。

 独週刊誌シュピーゲル電子版によれば、容疑者は犯行声明とビデオを残していた。それらを詳細に調査すれば、容疑者の犯行動機や極右派グループとの接触などがより一層明らかなると予想される。

 ハーナウ市のクラウス・カミンスキー(社会民主党=SPD)上級市長は、「ショックを受けた。わが町でこのようなことが起きるとは考えてもいなかった」と語り、同市出身のキリスト教民主同盟(CDU)のカティア・ライケルト連邦議員はツイッターで、「全ての人にとって事件は本当のホラー・シナリオだ」と書いている。

 ドイツでは2015年以来、イスラム過激派テロのほか、外国人排斥、反ユダヤ主義に基づいた極右過激派テロが増加してきた。例えば、旧東独ザクセン=アンハルト州の都市ハレ(Halle)で昨年10月9日正午ごろ、27歳のドイツ人、シュテファン・Bがユダヤ教のシナゴーク(会堂)を襲撃する事件が発生し、犯行現場にいた女性と近くの店にいた男性が射殺された。

 また、ドイツ中部ヘッセン州カッセル県では昨年6月2日、ワルター・リュブケ県知事が自宅で頭を撃たれて殺害される事件が起き、ドイツ国民に大きな衝撃を与えた。同県知事はドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)に所属、難民収容政策では難民擁護の政治家として知られてきた。事件は知事の難民擁護に関する発言がきっかけとなったと受け取られている(「極右過激派殺人事件に揺れるドイツ」2019年6月28日参考)。

 ハーナウの銃乱射事件の舞台となったシーシャ・バーの「水タバコ」はペルシャで発明されたともいわれ、イスラム教圏で広がった喫煙具で、水煙管や水パイプとも呼ばれる。シーシャはエジプトを含む北アフリカのマグリブ諸国で主に使用される名称という。ドイツでは若者の間に人気がある。

 ちなみに、犯行舞台となったハーナウ市は、「白雪姫」、「赤ずきん」などの童話でよく知られているグリム兄弟(ヤーコプ、ヴィルヘルム)が生まれた町だ。日本の旅行者にとって、ハーナウ市はブレーメンへと繋がる「メルヘン街道」の出発地としてよく知られている。

ローマ教皇スーパースター!!

 第92回アカデミー賞主演男優賞はトッド・フィリップス監督の「ジョーカー」役で活躍したホアキン・フェニックスが受賞したが、レオナルド・ディカプリオらと共に主演男優賞候補者にノミネートされていたジョナサン・プライスが主演する「2人の教皇」(The Two Popes)を最近、Netflixで見た。映画では、プライスは教皇に選出される前のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿役を、アンソニー・ポプキンスはべネディクト16世役をそれぞれ巧みに演じていた。

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▲「2人の教皇」の映画シーン

 映画のタイトルから、生前退位したべネディクト16世(在位2005〜13年)を中心としたバチカン内保守派聖職者とフランシスコ教皇の間の争いをテーマにした映画と考えていたファンは期待外れに終わっただろう。映画では、性格も出自も異なる2人のローマ教皇の出会いと交流が主要テーマだ。

 神学の世界に生きるべネディクト16世と、人間的なふれあいを重視するフランシスコ教皇との交流がよく描かかれていた。アルゼンチン軍事独裁政権下で苦闘する枢機卿時代のフランシスコ教皇、生前退位を決意したべネディクト16世の苦悩など重いテーマが軽いタッチで描かれている。

 ちなみに、フランシスコ教皇の場合、軍事独裁政権と癒着していたという批判は教皇に就任された後も教会内外で囁かれてきた問題だ。フランシスコ教皇がローマ教皇に選出されて7年目を迎えようとしているが、母国アルゼンチンを訪問していないのは枢機卿時代に苦い思い出があるためだ、といった憶測が流れているほどだ。映画では、べネディクト16世がベルゴリオ枢機卿(フランシスコ教皇)の過去の痛みを慰めるシーンがある。2人の教皇は自身の過去の過ちをそれぞれ告白し、神の前で赦しを求める。

 ちなみに、イギリス・ウェールズ出身の俳優プライスは実際のフランシスコ教皇と容貌がよく似ているから、抵抗なく映画の世界に溶け込むことができた。ポプキンスのべネディクト16世もいい。配役の選出は成功している。学者べネディクト16世とサッカーファンで知られているフランシスコ教皇がW杯決勝戦、アルゼンチン対ドイツ戦をテレビで観戦しながら応援するシ―ンで映画は終わっている。

 ところで、ローマ教皇を描く映画は昔から結構多い。カテゴリーとしては、「ドキュメンタリー映画」から教皇の生涯などを描いた「実話物語」、そして教皇をテーマとした「フィクション」だ。映画化されたローマ教皇では、27年間の最長任期を務めたヨハネ・パウロ2世(在位1978〜2005年)やカトリック教会の近代化を推進したヨハネ23世(1958〜63年)が人気がある、そしてナチス・ヒトラー時代に生きたピウス12世(1939〜58年)を描く映画も少なくない。歴史の激動時代に生きたローマ教皇の言動に人は関心があるからだろう。

 興味深い点は、ローマ教皇をテーマとした映画にはコメディが多いことだ。世俗化した社会ではローマ教皇の言動はコメディの格好のテーマとなるのかもしれない。そのカテゴリーに入る映画としては、「法王様ご用心」(1990年)、イタリアとフランス合作の「ローマ法王の休日」(2011年)などが挙げられる。

 今年1月にはイタリアでスカイTVシリーズ「新しい教皇」(The New Pope)が始まった。「新しいローマ教皇」役(架空の教皇、ヨハネ・パウロ3世)をジョン・マルコヴィッチが演じている。2016年9月にスタートした英国俳優ジュード・ロウ主演、架空の教皇ピウス13世を描いた全10話のTVシリーズ「若い教皇」(The Young Pope、邦題「ピウス13世、美しき異端児」)をフォローアップした映画だ。

 ここにきてローマ教皇を主人公とした映画が頻繁にメディアに報じられる背景には、教皇の次期選出会(コンクラーベ)が近いのではないか、といった映画人の予感が働いているのだろう。南米出身のフランシスコ教皇は、「自分は動けなくなれば即退位する」と言って憚らない。今年3月で教皇就任7年目に入るフランシスコ教皇は既に83歳だ。膝が弱くなったほかはまだ健康には大きな問題を抱えていないが、バチカン内の保守派聖職者との戦いは日増しに激しさを増してきただけに、いつ生前退位してもおかしくはない、といった予感だ。多分、それは大きくは外れていないだろう。
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