ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2020年01月

韓国の「不買運動」はウクライナ式で?

 韓国の中央日報(日本語版)は29日、「不買運動の余波」という見出しで、日本の有名なチョコレートメーカー「ロイズコンフェンス」が韓国での営業を停止し、閉鎖するというニュースを報じた。

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▲日本商品不買運動を煽る文在寅大統領(「新年の辞」のスピーチ、2020年1月7日、韓国大統領府公式サイトから)

  中央日報は「ロイズコンフェクトは韓国事業撤退の理由について直接的な説明はしていない。しかし、業界ではロイズが『日本旅行に行って買ってくる高級チョコレートブランド』として広く知られているため、昨年から続く不買運動の影響で撤退するという見方が出ている」と報じた。

 「不買運動」は戦後最悪の関係といわれる日韓関係が色濃く反映している。慰安婦問題、元徴用工問題、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄騒動などで険悪化した日本との関係に対し、反日運動を煽る文在寅大統領らの暗黙の支持を受けた日本製品への不買運動が韓国内で広がってきた。

 ロイズコンフェンスは韓国の「不買運動」の唯一の犠牲者ではない。韓国市場に進出している日本企業、会社は程度の差こそあれ、影響を受けてきた。昨年9月には、日産自動車が韓国市場から撤退することを検討していると、英フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じている。韓日関係の悪化で日本車の販売が急減したことへの対応措置だろう。

 ところで、「不買運動」は韓国だけの専売特許ではない。アルプスの小国スイスでも今、起きているのだ。もちろん日本商品のボイコットではなく、過去の歴史問題が絡んだ運動でもない。

 スイスのニュース配信サービスの「スイス・インフォ」(1月26日)によると、スイスのチョコレートブランド「レダラッハ」創業者一族が、同性婚や中絶の権利に反対する活動を支援しているとして、性的マイノリティ、LGBTQ団体などがレダラッハ社のチョコレートの不買運動を展開してきたというのだ。

 少し説明する。ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーが昨年9月、レダラッハ社の前CEOのユルグ・レダラッハ氏がチューリッヒで開催された中絶反対デモの主催者側であり、同性婚に反対するキリスト教団体の役員を務めてきた人物だと報じたことから、性的マイノリティのLGBTQ団体とその支持者がレダラッハ製チョコレートの「不買運動」を始めたのだ。彼らは昨年10月、バーゼルの店舗に悪臭弾を投げこみ、12月にはツークの店舗前で、同性カップルが抗議の一環でわざと抱き合い、キスをするなどの嫌がらせをしたという。

 それに対し、現CEOのヨハネス・レダラッハはNZZ・アム・ゾンタークのインタビューで、「レダラッハで働く人にホモフォビアはいない。弊社では同性愛者の従業員が働いている。胎児の生命のために戦うことで、私は女性差別者だと糾弾されているが、私は女性差別主義者ではない。管理職の60%は女性だ」と説明し、LGBTQの批判に反論している、といった有様だ。

 レダラッハ氏が自殺ほう助、結婚前の性交渉、婚外交渉、同性婚、ポルノ、映画「ジーザス・クライスト・スーパースター」や「ハリーポッター」などに反対するキリスト教団体の役員であることがLGBTQ支持者の反発を呼んでいるのだ。

 「不買運動」は韓国とスイスだけでみられる現象ではない。ウクライナでもちょっと変わった「不買運動」が展開中だ。ウクライナではロシアにクリミア半島を奪われて以来、国内でロシア嫌いが更に拡大。ポロシェンコ前大統領時代、日用消費品を扱う店舗ではロシア製商品にはわざわざ「ロシア製」と明記し、ウクライナや他の欧州諸国からの商品には「欧州産」というレッテルを貼って陳列されている。消費者は自分の判断で、ロシア製を買うか、欧州産を買うかを決定できる。もちろん、クリミア半島をロシア側に奪われたウクライナ国民はロシア製を避け、欧州製を選ぶ人が多いことは言うまでもない。

 韓国やスイスのLGBTQ団体と異なる点は、ウクライナはロシア商品「不買運動」を国民には呼び掛けていないことだ。ただ、商品をロシア製かウクライナ・欧州産かを明記して店舗に並べているだけだ。

 ウクライナ式「不買運動」は、韓国やスイスのLGBTQ式のように声を張り上げたやり方よりは数段センスがいい。韓国でも韓国製と日本製というレッテルを貼って売れば、対日関係をこれ以上悪化させることはないだろう。値段や品質で日本製が欲しい韓国国民も少なくないはずだ。上から「日本製を買うな」といった「不買運動」は政治的なプロパガンダ色が強く、国民から反発を買うケースが出てくる。

 韓国の「日本製品不買運動」のやり方は韓国のお隣、北朝鮮の独裁的、強権的なやり方を想起させる。同民族とはいえ、韓国民は北朝鮮流の不買運動といわれれば不愉快だろう。「不買運動」をしたい時は、消費者の選択権を尊重するウクライナ式でやってもらいたいものだ。

「ダーク・ノレッジ」が世界を支配?

 中国・武漢市で見つかった新型コロナウイルスによる肺炎患者が世界各地で拡大する様相を深めてきた。欧州でもフランスを皮切りにドイツで感染確認患者が見つかった。当方の住むオーストリアではこれまで3人の感染疑いのある人が見つかり、一時隔離されたが、幸い、これまでのところ感染確認患者は出ていない。

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▲コロナウイルスのウイルス学的特徴(国立感染症研究所の公式サイトから)

 ウイルスの感染の場合、感染源がどこかを確認することが重要だが、武漢肺炎の場合、情報が入り混じっている。感染病専門医は感染源をまだ特定できないでいる。

 感染源として、最初は中国湖北省武漢市で野生動物の売買をする海鮮市場と見られていたが、新型コロナウイルスに感染した初期の多くの患者は海鮮市場とは全く接触していないことがわかり、海鮮市場と新型コロナウイルスとは関係がない、と考える専門医が増えてきている。

 中国では2002年から03年にかけ、重症急性呼吸器症候群(SARS)が拡大したことがあった。その時の感染源は野生動物だったといわれてきた。その意味で、新型コロナウイルスも同じように野生動物が感染源だと見られてきた経緯がある。

 米紙ワシントンタイムズのビル・ガーツ記者は多数の死者を出している新型コロナウイルスの発生源は、武漢の「中国科学院・武漢病毒研究所」ではないかとの見方を報じている。同研究所は、米当局者からはウイルス流出隠蔽工作が行われていた可能性が指摘されているという。

 同記者は「イスラエルの生物兵器専門家で、バルイラン大学ベギン・サダト戦略研究センターのダニー・ショハム上級研究員によると、武漢病毒研究所は病原菌の拡散を防止するための最も厳しい安全基準『P4』を満たす中国で唯一の研究所。SARSなどのコロナウイルスや、H5N1インフルエンザ、日本脳炎、デング熱のウイルス、生物兵器として知られる炭疽(たんそ)菌の研究が行われている」と説明している。

 新型コロナウイルスの感染源が判明するまでもうしばらく専門医の調査が必要だろう。ここではダーク・ノレッジ(Dark Knowledge)について考えてみた。ダーク・ノレッジは「一部の学者や研究者たちだけが知っている内容で、公開されることがない知識」を意味する。

 ダーク・ノレッジを所有する人々、学者や専門家は企業や一部の機関から依頼されて研究し、その研究結果を依頼主に報告する。依頼主は主に軍事や生物医学関連企業が多い。彼らが知った知識は一般の社会には公開されない。フィードバックされないから、一般の人には知られない。その非公開の知識量は全体の過半数を超えるという。部外者のわれわれが知りうる範囲は限られているのだ。

 ワシントンタイムズが報じた新型コロナウイルスの感染源として浮上してきた武漢病毒研究所も研究成果を公の世界に伝えることはないだろう。同研究所で明らかになった多数の成果、情報は中国共産党、人民解放軍指導者に直接伝達される。

 身近な例を挙げる。米国ではUFO(未確認飛行物体)の存在について議会を巻き込んだ議論が飛び出すが、UFOファンは政府や一部のNASA(米航空宇宙局)関係者が未公表の情報を持っている、と疑っている。NASAは、UFOの存在をキャッチしていたとしても、「世界を混乱させる」として公開しないことが十分考えられるからだ。それらの情報へのアクセスはほんの一部の関係者、政治家、専門家だけに限られている。UFOの存在について、メディアを巻き込んだ議論を呼ぶのは、NASAには多数のダーク・ノレッジがあると受け取られているからだ。

 新型コロナウイルスの感染源が中国人民解放軍直属の生物兵器研究所とすれば、外部には情報が洩れてこない。むしろ、ダーク・ノレッジを隠蔽するためにフェイク情報がメディアに流される可能性が出てくる。情報の全容開示などはダーク・ノレッジの世界では考えられないのだ。

 海外中国メディア「大紀元」は25日、「政府の発表信じないで」という見出しの記事を掲載し、女性医療関係者らのコメントを紹介している。「(現状は)テレビの報道よりずっと恐ろしい」、「医師らの推定で10万人が感染している」、「多くの患者はすでに手遅れ状態です」、「(医療)物資が足りない。入院させることができない」。「患者に懇願されても、何もしてあげられない。患者が徐々に弱まっていくのを目の当たりにしている」といった証言が掲載されている。そして最後には「くれぐれも政府を信じないで。自分で自分の身を守ってください」と呼びかけた、と報じている。

 インターネット時代で無数の情報が瞬時に発信される。現代人は大量の情報を享受できる時代に生きているが、その情報量は全体からみればごく限られたものであり、重要な情報にアクセスできる一部の特定の人間たちによって「事件の核心」は操作されているかもしれないのだ。

 武漢発新型コロナウイルスの感染源報道を見ていると、ダーク・ノレッジが世界を支配している、といった不安と懸念が現実味を帯びてくるのだ。

「悲しみ」は連帯と優しさが生れる時

 独週刊誌シュピーゲル電子版(28日)を開いてチェックしていると、一つの見出しが目に入った。曰く「分裂した国、共有する悲しみ」(Gespaltenes Land gemeisame Trauer)だ。米プロバスケットボールン協会(NBA)の元スーパーヒーロー、コービー・ブライアント氏(41)が搭乗していたヘリコプターが墜落し、ブライアント氏とその娘さん(13歳)を含む9人が亡くなったことを報じる記事だ。

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▲コービー・ブライアント氏の急死(NBAレーカーズの公式サイトから)

 ブライアント氏の事故死は米国民に大きなショックを投じた。もちろん、世界のバスケットボールファン、スポーツ選手たちにとっても同様だろう。1996年のデビュー以来、20シーズン所属してきたチーム「レーカーズ」のファンだけではなく、国境を超えてスーパー・ヒーローの突然の死去を悲しむ声で溢れた。時事通信は27日ロサンゼルス発で「米各界署名人が悲嘆」という見出しの記事を速報していた。

 トランプ大統領は「恐ろしいニュースだ」とツイッターで発信し、トランプ氏の政敵でもあったバラク・オバマ前大統領も「バスケット選手としてレジェントだったコービーは素晴らしい第2の人生を歩み出したばかりだった」と嘆いている。

 米国では秋に大統領選挙が実施されるから、国内は共和党、民主党の候補者関係者の間で激しい論争、批判合戦が展開中だ。その意味で、米国内は共和・民主の2大政党の支持者で分裂している。その時、ブライアント氏の死が伝わった。論争していた政治家、国民は激しい口撃戦を止め、ブライアント氏の突然の訃報に唖然となり、悲しみに沈んだ。シュピーゲル誌の記者はその米国社会の様子を先の記事の見出しに表現したのだろう。

 米バスケットボールの大ファンでNBA通の北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長はブライアント氏の事故死をどのように受け止めているだろうか、と思った。元NBAスター選手のデニス・ロッドマン氏を平壌に何度も招き、親善試合を挙行するほどの米バスケファンだけに、ブライアント氏の死に大きなショックを受けているだろう。ちなみに、朝鮮中央通信(KCNA)はブライアント氏の事故死に対する金正恩氏のコメントは報じていない(「ロッドマン氏は北朝鮮のタブーを破った」2013年10月20日参考)。

 ここではブライアント氏の事故死を報じたシュピーゲル誌の記事の見出しを中心に考えた。もう少しはっきりと言えば、悲しみが持つ結束力、連帯感、エンパシーを考えたいのだ。歓喜や勝利は国民を喜ばす。五輪大会を思い出せば分かる。毎年秋に発表されるノーベル賞受賞ニュースでもそうだろう。スポーツの国民的英雄の活躍、世界に貢献した学者のノーベル賞受賞ニュースは国民を喜ばし、時にはその国の株価すらアップさせる経済的効果がある。

 極端にいえば、勝利、歓喜はその関係者、民族、国家にとっては国民を結束させるかもしれないが、勝利者の背後には必ず敗北者がいるから、その歓喜も時には曇る。一方、悲しみには勝利者はいない。犠牲者とその家族、関係者、そして悲しみを共有する人々だけだ。

 悲しみが、分裂し、紛争してきた人々、民族、国家を結束させるのを良く目撃する。悲しみは人間の普遍的、宿命的な感情とつながっているからかもしれない。勝利、歓喜は国民を沸き上がらせるが、悲しみは国民を連帯化させ、結束させるのを見る。

 ブライアント氏のヘリコプター墜落事故にみられるように、英雄の死は民族、国境の壁を越えて悲しみの一体感、連帯感をもたらす。その人物の活動分野で少し事情は異なるが、悲しみは国民を一体化、結束させるパワーをもっている。

 例えば、東日本大震災(2011年3月11日)を体験した日本の国民は結束した。絆という言葉が頻繁に使われた。世界の多くの国が支援と連帯を表明したことはまだ記憶に新しい。特に自然災害の場合、国民は深い悲しみに陥るとともに、犠牲者への深い連帯感を感じるものだ。多分、それは民族性、国民性を超えた人間に備わった感情の世界だろう。

 「悲しみ賛歌」のコラムを書くつもりはない。ただ、人間として避けることが出来ない悲しみに直面した時、対立し、いがみ合っていた人間、国がハタと立ち止まり、互いに近づいていく。悲しみがもつ浄化作用というべきかもしれない。

 数多くの実績と感動をファンに与えてきたNBAの英雄ブライアント氏の死は、米国民に衝撃と悲しみを与えたが、分裂してきた米社会に束の間かもしれないが、結束と連帯感を生み出している。それは米国民が大好きな勝利の結果ではなく、悲しみの共有からもたらされたものだろう。

金正恩氏、出自コンプレックス克服?

 北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が配信した写真を見た。平壌で旧正月を祝う記念公演が開かれ、その場に金正恩朝鮮労働党委員長、その妻・李雪主夫人、そして叔母の金敬姫(元労働党書記)さんらが参加しているところを撮った写真だ。

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▲金王朝の指導者として自信を持った金正恩書記長 2018年6月12日、シンガポールで開催された初の米朝首脳会談で(ウィキぺディアから)

 日韓メディアは、2013年12月に金正恩氏によって処刑された叔父・張成沢(元国防副委員長)の妻・金敬姫さん(故金正日総書記の実妹)が約6年ぶりに公の場に現れたことを受け、「金敬姫さん、健在」という見出しで大きく報じた。金敬姫さん(73)は夫が処刑された後、体調を崩し、一部のメディアでは死亡説すら流れていたから、当然かもしれない。

 ところで、KCNAの写真を見たとき、金正恩氏だけではない。李雪主夫人、金敬姫さんらの表情がいずれも厳しいのが気になった。KCNAは記念公演でどのような演目が舞台で行われていたのか報じていないので判断できないが、旧正月を祝う記念公演だから、悲しい劇や歌ではないはずだ。

 その直後、朝鮮TVが別の写真を放映した。金正恩氏と李雪主夫人、そして正恩氏の実妹・金与正さんは笑っていた。ただし、ここでも金敬姫さんは笑っていない。少し表情が緩んでいるが、甥の金正恩氏のようには笑っていない。

 なぜ、2枚の写真に拘るのかというと、北朝鮮最高指導者(通称・首領様)が参席する場では、笑うのも、泣くのも首領様に合わせてするのが北朝鮮の伝統だ。金正恩氏が不機嫌な表情をしている時、笑えば、その人物はその直後、処刑されたとしても不思議ではない。金正恩氏の表情と側近のそれが同一でない場合、波紋が生じるのだ。会議で欠伸をしただけで処刑された党幹部がいたことを思い出してほしい。北朝鮮はそのような国なのだ。

 さて、金正恩氏のコンプレックスの話だ。彼は“出自コンプレックス”に悩まされてきた。父親は故金正日総書記だが、母親は在日朝鮮人の高英姫夫人だ。金正恩氏に処刑された異母兄・金正男氏は故金正日総書記と成瀘嵒弯佑隆屬棒犬泙譴芯甲砲澄6眄飢源瓩金正男氏を暗殺した理由は出自コンプレックスがあったからだ、という憶測も流れたほどだ。

 元駐英北朝鮮大使館公使だった太永浩氏は著書「北朝鮮外交秘録」(文藝春秋発行)で、金正恩氏が祖父・金日成主席と一緒に取った写真が1枚もないことを悔やんでいるという。金正男氏は故金日成主席と一緒に取った写真を持っていたのだ。

 父親が金正日だから問題がないのではないか、という声もあるが、「白頭の血統」を金王朝の中核に据える北朝鮮では、3代目の金正恩氏の母親が在日出身者だということが国民に知れ渡れば問題となる。北朝鮮の国民は金正恩氏の母親のことを知らない。

 その金正恩氏は金敬姫さんを公の場に出席させたのだ。そしてそれに先立ち、昨年末、金日成主席と金聖愛夫人の間で生まれた金平一前駐チェコ大使と駐オーストリアの金光燮前大使夫妻(夫人は金平一氏の実妹)が欧州から平壌に戻ってきたのだ。20数年ぶりだ。両大使家庭は金ファミリーでは傍系に当たる。

 まとめる。金正恩氏は昨年末、金平一、金敬淑という叔父、叔母の大使家庭を戻し、今年1月に金敬姫さんを公の場に顔を出させたのだ。金正恩氏を取り巻く親族関係者が平壌に集まったわけだ(「欧州の金ファミリーが平壌に戻る時」2019年11月13日参考)。

 親族関係者が独裁者のもとに集まる時、独裁者が親族の結束を対外的に誇示しなければならない事情を抱えている場合が少なくない。金平一氏ら傍系の金ファミリーは独裁者の政治ライバル、政敵ではなくなったことを示唆するだけではない。金ファミリー王朝の誇示だ。

 太永浩氏は27日、自身のブログの中で、「金敬姫さんの健康が悪化している。金正恩氏が彼女を今、公の場に登場させたのは、彼女が夫の処刑後、毒殺された、といった“叔母殺害説”を否定する狙いがあったはずだ。叔母が亡くなった時、金正恩氏は叔母殺害の疑いを晴らす道がなくなるからだ」(中央日報)と分析している。

 当方は金正恩氏が自身の出自コンプレックスを克服したのではないかと受け取っている。もはや出自は自身の政治権力を揺り動かすことはない、という判断が働いたのではないか。

 参考までに、ディアスポラ(民族離散)のユダヤ民族は母親がユダヤ人であるかどうかで、ユダヤ民族の血統の継承者かどうかを判断する。その意味からいえば、金正恩氏の出自コンプレックスはユダヤ教的だ。

 人は様々なコンプレックスをもつ。家系コンプレックス、学歴コンプレックス、外貌コンプレックスなどだ。金正恩氏は今月8日、36歳となった。出自コンプレックスを克服した金正恩氏は海外に住む傍系ファミリーの叔父、叔母を呼び戻し、そして金敬姫さんを旧正月の公演に誘うことで、金王朝の最高指導者として内外にアピールしたのではなかったか。

 それが事実とすれば、問題は金正恩氏はどのようにして出自コンプレックスを乗り越えたかだ。彼は金王朝のトップとして不動の自信を得たのだ。北朝鮮を核保有国とし、世界超大国の米国と直接交渉するまでに軍事力を備えてきた。もはや誰も出自で自分の立場を疑う者はいない、という自信だ。ただし、そこからは金正恩氏は非核化に応じることは絶対にない、という結論が出てくるのだ。

「スーパーマン」の原作者はユダヤ人

 スーパーマン(Superman)を知らない人はいないだろう。「空を見ろ、鳥だ、飛行機だ、いや、スーパーマンだ」というセリフをワクワクしながら見たり聞いたりした人も多いのではないか。少なくとも、当方はスーパーマンをテレビで視て心を躍らした一人だ。そのスーパーマンの原作者ジェリー・シーゲル(Jerry Siegel)が亡くなって28日で24年目を迎える。

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▲「スーパーマン」の原作者ジェリー・シーゲル(ウィキぺディアから)

 シーゲルは1914年10月17日、米オハイオ州のクリーブラントに生まれた。第1次世界大戦勃発の年だ。彼は1938年6月、学友のジョセフ・シャスター(作画担当)と共にスーパーマンを初めて世に出した。スーパーマンは発表直後からアメリカ国民の心をとらえ、大ヒットとなった。

 スーパーマンが世に出た1938年は、ヒトラーがナチスドイツ軍を率い台頭してきた時だ。2人のユダヤ系米国人(シーゲルはリトアニア系ユダヤ人,シャスターはトロント生まれのユダヤ人)が架空の惑星クリンプトン星から地球にきたスーパーマンを生み出したわけだ。

 スーパーマンの本名はカル・エルというヘブライ語名だ。カルは「速い」、「エル」は神を意味する。独ミュンヘンでユダヤ歴史を教えるミヒァエル・ブレンナー教授は、「ユダヤ小歴史」という著書でシーゲルがスーパーマンを生み出したことに言及し、「米国のエンターテーメント界でユダヤ人が至る所で働いている。ユダヤ人なくしては米国のエンターテーメントは存在しない」と証言している。シーゲルとシャスターが生み出したスーパーマンはバットマンやスパイダーマンに先駆けて米国民の英雄となった。

 興味深い点は、スーパーマンのプロットだ。ユダヤ人民族の歴史と重なる部分が少なくないのだ。スーパーマンは惑星クリンプトンで生まれたクリンプトン人だ。その惑星が悪者に乗っ取られ、危機に瀕したために、父親が救援カプセルに乗せて脱出させる。ここまで聞くと、旧約聖書のモーセの話を思い出す人がいるだろう。エジプトの王パロの追求から逃れるために、モーセの母親が幼子のモーセを籠に入れて河辺の葦に隠した話と酷似している。

 地球では子供のない家族がカプセルを見つけ、その中にいた赤ん坊を引き取る。そこでスーパーマンは普通の子供として成長していく。ある日、自分がクリンプトン星のクリンプトン人であることを知る。クリンプトン星では重力が強いが、地球の重力は弱いので、彼は空を飛び、さまざまなスーパーパワーを発揮し、困っている人を助け、活躍するわけだ。

 当方はブレンナー教授の著書でスーパーマンの作者がユダヤ人であったことを初めて知って、正直言って驚いた。ユダヤ民族の歴史は民族の解放者、メシアの降臨を待ち続ける民族だ。その民族の出身者、シーゲルとシャスターがスーパーマンを生み出したわけだ。深い繋がりを感じざるを得ない。

 スーパーマンが世に登場したのは1938年だ。ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺がが静かに進行してきた時代に、シーゲルはスーパーマンのアイデアを得たのではないか。ユダヤ民族が自分たちの民族を救ってくれるスーパーマンのような存在を願っていた時代だ。

 スーパーマンから1年遅れの1939年5月に初登場したバットマン(Batman)にはスーパーマンのような歴史的なプロットはない。ボブ・ケインとビル・フィンガーが創作したバットマンの主人公ブルース・ウエインは幼少時代に両親が殺害されたことから、トラウマに悩みつつ、悪に復讐していくストーリーだ。バットマンは1966年にテレビ放送され、1989年に映画化されることで人気を不動なものとした。

 スーパーマンやバットマンより遅れ、1962年8月に初登場したスパイダーマン(Spider-Man)の主人公は両親を失った孤児ペーター・ベンジャミン・パーカーを主人公にした若者の物語だ。夢や失望、孤独や喜びなどを体現した1人の若者がそのスーパーパワーでヒーローとなっていく。

 スーパーマン、バットマン、そしてスパイダーマンの3人のスーパーヒーローのプロットはそれぞれ異なるが、それらの原作者、クリエーターはユダヤ系米国人が関わっている。スーパーマンの原作者シーゲルはリトアニア系ユダヤ人、シャスターはトロント生まれのユダヤ人、バットマンのクリエーターのボブ・ケイン(Robert Kahn)は1915年生まれ、東欧系ユダヤ人の血をひき、原作者ビル・フィンガーは1914年生まれ、オーストリアから米国に移住したユダヤ人家族出身。またスパイダーマンの原作者スタン・リーは1922年生まれ、ルーマニア系ユダヤ人だった、といった具合だ。

 スーパーヒーローを生み出した原作者にユダヤ系が多いのは、ユダヤ民族の血の中にスーパーマンのようなメシアの到来を願うDNAが潜んでいるからではないだろうか。

民間航空での無人機の安全対策急げ

 米軍が今月3日、イラクのバグダッドでイラン革命部隊「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を無人機(ドローン)で殺害した事件は米イラン間の紛争をエスカレートさせたばかりか、中東全域を震撼させている。米軍は今後も軍用無人機を利用した戦闘を一層積極的に実施していくと見られている。

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▲民間航空用無人機に関する報告書 RH公式サイトから

 無人機が最初に登場した時、人間が直接観測できない領域をこなす手段として歓迎された。例えば、事故を起こした原子力発電所内の状況を観測するために無人機が活躍できる。また、地球温暖化を観測する手段として無人機は役立つ。その意味で、無人機は人類にとって大きな恩恵だが、同時に、それが軍事用に利用され、破壊活動や殺害が遠隔操作で可能となることで、これまで以上に多くの犠牲者が出ることが予想される。いずれにしても、人類が考え出したものは常にデュアル・ユースだ。建設的に寄与できる一方、破壊工作にも利用できる。無人機もその例外ではない。

 前口上が長くなったが、オーストリア連邦会計監査院(RH)は24日、無人機に関する2つのレポートを発表したので、その概要を紹介したい。アルプスの小国オーストリアでの無人機の使用状況は規模的には小さいが、無人機利用で関わってくる問題点が浮き彫りにされているので、勉強になる。

 以下、オーストリア通信(APA)が24日報じた両報告書の概要から報告する。

 第1報告書は空港での民間航空の安全問題に関するものだ。第2報告書は連邦軍の無人機利用のコスト問題だ。両報告書も批判的な内容が多い。空港では無人機によるリスク防衛メカニズムがない、連邦軍での無人機利用は飛行時間で計算すると、コスト高であり、無人機の戦略利用が不明確だ、といった内容だ。

 報告は2013年から17年の期間を調査したものだ。空港の安全対策では、民間航空を監視する当局も空港側も無人機に対する独自の常駐防空システムを有していないことが明らかになった。緊急時には連邦内務省の支援を受けざるを得なく、対策機材の運搬に時間がかかるから、緊急時に役立たない。

 どの空港でもそうだが、航空機の離陸と着陸時が最も危険だ。その時に無人機が接近した場合、衝突の危険が出てくるからだ。例えば、英国のロンドン・ヒースロー空港で昨年1月、無人機のために一時、空港作業が停止に追い込まれた。英国2番目に大きいロンドンのガトウィック空港でも無人機に妨害され、数多くのフライトがキャンセルになったことがある。

 RHは、「大きな空港では少なくともドローン防衛システムを配置すべきだ」と連邦内務省に助言している。同時に、多くの国際空港では既に実施されているが、無人機防衛への戦略を構築すべきだと要請している。

 オーストリアの場合、公式に登録されている数以上の無人機が飛行しているという。2014年〜18年の間、民間航空監視当局のAustro Controに6751機の無人機が登録されたが、その数は全体の7%にも満たないという。無認可で数多くの無人機が飛行しているわけだ。

 無人機の場合(重量250グラム以下の無人機を除く)、月曜日から金曜日は8時から18時、土曜日は8時から14時と決まった時間帯でしか飛行できない(日曜日は不可)。また、民間航空の無人機は地上の対象から一定の距離(150メートル)を保って飛行しなければならないし、高度150メートルを超えてはならない。今年7月から欧州連合(EU)の空域ではドローンの飛行に関する統一規約が施行されることになっている。

 第2の報告書、連邦軍での無人機問題だ。報告書によると、〔疑裕,離薀鵐縫鵐哀灰好箸高い、¬疑裕〕用への戦略欠如、の2点が批判点として挙げられている。国防省は2011年〜18年の間、無人機導入計画として330万ユーロを予算として計上してきた。6基の無人機が既に購入されたが、その経費は440万ユーロだ。予算を既にオーバーしている。

 例えば、連邦軍が購入したフランス製無人機のこれまでの飛行時間は243時間だが、その経費は1時間当たり1万8200ユーロ(約219万円)にもなる。RHは購入した無人機の能率的利用を要求している。また、天候不順の場合、偵察用無人機の利用は多くの困難が出てくることも明らかになった。ちなみに、連邦軍は国境監視では無人機を利用して不法難民を監視してきた。

 参考までに、米軍は2004年頃から偵察用、攻撃用のドローンを利用した対テロ戦略を展開している。無人機だけではなく、無人戦車、無人走行車両なども製造され、紛争地に導入されている。軍事専門家によると、人工知能(AI)やロボット技術の発展で無人兵器市場は年々拡大しているという。 無人機を含む無人兵器は従来の戦争概念を大きく変えようとしている。

プーチン氏「習近平主席の道を行く」

 ロシアのプーチン大統領は15日、年次教書演説の中で同国憲法を改正する意向を表明したばかりだが、20日にはその改正案が連邦議会(下院)に提出され、国家院(下院)で23日、プーチン氏が提出した改正案の第1読会が始まり、出席した432人の議員全員が大統領の憲法改正の意向を支持した。第2読会は2月11日に開催予定だ。なんと超スピードの憲法改正プロセスだろうか。

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▲年次教書演説をするロシアのプーチン大統領(2020年1月15日、ロシア連邦大統領府公式サイトから)

 国家の基幹となる憲法の改正は大イベントだ。慎重な準備と審議が不可欠だが、ロシアではどうやらそうではないらしい。憲法改正に反対する議員は1人もいなかったのだ。戦後、米軍が作成した日本の現憲法改正のために苦戦する自由民主党総裁の安倍晋三首相が聞けば、腰を抜かして驚くことは間違いないが、同時に羨ましく感じるかもしれない。

 ロシア議会(下院)議員がプーチン氏が提出した憲法改正案を全員一致で支持したということは、|の目にも現憲法が非常に悪く、改正が久しく求められてきた、解体したソ連共産党政権時代の独裁政治体制がプーチン大統領のもとで依然機能している結果、8毅烹韮臓淵熟国家保安委員会)出身のプーチン氏の政治生命延長工作が成功した、等々の理由が考えられる。欧米メディアの目には、プーチン氏が突然、憲法改正の意向を言い出したのは、という点でほぼコンセンサス(全員一致)がある。

 プーチン氏が提案した憲法改正案では、22条、40カ所以上の修正、改正が明記されている。その中でも、々餡班承腸颪龍化と権限拡大、大統領任期を2期制限案が目を引く。

 ロシア連邦の現憲法では大統領の任期は「連続2期」に制限されている。だからプーチン氏は現憲法の「連続2期」の任期という点を利用し、2期を終えた段階で一旦首相に降り、首相1期を務めた後、新たな第2回目の「連続2期」に入ったわけだ。改正案では「連続2期」から「通算2期」に改正されている。

 ところで、プーチン氏の2回目の「連続2期」が終わるのが2024年だ。現憲法が続く限り、プーチン氏は24年後、1期を休んだあと第3回目の「連続2期」を目指すことができるが、改正案によれば、「通算2期」を終えた大統領はそれで上がりだ。その一方、プーチン氏の後釜になる大統領はプーチン氏のように通算4期の大統領を務めることはできなくなる。その意味で、改正案はプーチン氏の後継者封じ込め作戦ともいえるわけだ。

 問題は、2024年の後のプーチン氏だ。1952年10月生まれ、現在67歳だから健康問題が生じない限り、まだ10年余りは政治生命を継続できる年齢だ。プーチン氏もそれをそれを願っているはずだ。改正案は24年の任期終了後も権力を掌握したいプーチン氏の願いが反映したものとみてほぼ間違いないだろう。

 それではどのようにして権力を維持するか。簡単だ。大統領ポストに代わる国家評議会の権限強化だ。そしてプーチン氏は国家評議会の議長に就任する。大統領という呼称が国家評議会議長というタイトルに代わるだけで、プーチン氏はロシア最高指導者に留まることができるわけだ。

 まとめると、自分の後釜に就任する新大統領の任期を通算2期に制限する一方、大統領に代わる最高意思決定機関として国家評議会の権限を拡大し、そのトップに就任するという狙いだ。

 具体的には、新しい国家評議会は国家の「内政」と「外交」の政策を決定し、「社会」と「経済」の諸問題の解決策を決める役割を担う。新国家評議会は大統領諮問機関から脱皮し、ロシア全般に対し政策決定する意思決定機関に生まれかわるわけだ。

 クレムリンに批判的なタブロイト新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」が「プーチン氏の権限は改正案でさらに強化されるだろう」と受け取っている。頷ける見解だ。

 憲法改正案ではまた、「ロシア憲法が国際法より優先する」旨が明記されているから、改正案が採択されれば、ロシアの人権活動家たちはもはや欧州人権裁判所に訴える道が閉ざされることになる。野党の人権活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏や国際人権擁護グループから改正案に対して批判の声が上がるのは当然だろう。

 当方は「プーチン氏の次の夢は終身制導入?」(2018年3月20日参考)というコラムで「中国全国人民代表大会(全人代)は2018年3月11日、国家主席の1期5年の2期10年間の憲法条項を撤廃し、終身制への道を開く憲法改正案を賛成多数で成立させたばかりだ。だから、習近平氏は2023年以降も国家主席のポストに座り続けることができる。プーチン氏もうかうかしておれない。プーチン氏は任期中、2期12年間の現大統領任期制限を中国と同じように撤廃するかもしれない」と書いた。どうやら、当方の予想が的中するような雲行きだ。 

朝鮮半島の行く末を案じてきた大使

 元日朝国交正常化交渉日本政府代表・遠藤哲也氏が昨年12月18日、都内の病院で亡くなった。84歳。世界日報などメディアで先月も外交問題を扱った鋭い論調の記事を掲載されていたので、同氏の急死を知って驚いた。

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▲故遠藤哲也元大使

 同氏とは個人的な付き合いはなかったが、1989年から就任された在ウィーン国際機関日本代表部の初代全権大使時代、国際原子力機関(IAEA)の定例理事会の開催前のブリーフィングで顔を合わせ、質問させてもらった。日本代表部の事務所がウィーン市4区プリンツ・オイゲン通りにあった時代だ。

 ウィーンには当時、北朝鮮の核問題もあって、日本のメディアから7、8社の特派員が常駐していた。そこには「ウィーン日本人記者クラブ」と命名した存在があった。当方は同記者クラブのメンバーではなかったので大使館主催のブリーフィングや記者会見には声がかからなかった。

 重要な定例理事会を前に、当方は日本大使館に電話して、遠藤大使のブリーフィングに参加できないか打診し、参加が許されたことがあった。そこで遠藤大使から理事会への見通しなどを聞くチャンスができた。記者クラブの会員でもない当方がブリーフィングで質問するのを大手新聞社の特派員は嫌な顔をして見ていたが、遠藤大使は当方の質問にも気さくに応じ、丁寧に答えてくれたことを思い出す。

 遠藤大使のブリーフィングは評判がよく、定例理事会開催前の大使ブリーフィングを楽しみにしている記者たちが多かった。

 同氏がウィーンの任期を終え、日本に戻られてからしばらくすると、93年、日朝国交正常化交渉日本政府代表、そして95年には朝鮮半島エネルギー開発(KEDO)担当大使に就任されるなど、朝鮮半島問題でキーポジションに就いた。遠藤氏のその後の活動を見ながら、「大使はやはり朝鮮半島問題から抜け出せなくなったのだな」と思ったほどだ。

 なぜ、そう思ったかを少し説明する。

 駐オーストリア北朝鮮大使館所属の外交官が国連工業開発機関(UNIDO)を訪ね、ポストを探しているという情報が流れたことがある。同外交官は平壌から帰国命令が出ていたが、ウィーンに留まりたいと考え、国連で空席のポストがないかを打診していたのだ。「北外交官が政治亡命を考えているのではないか」ということで、日韓外交官には緊張が走った。

 元駐英北朝鮮大使館公使だった太永浩氏はその著書「北朝鮮外交秘録」(文藝春秋刊)の中で、「北外交官は一カ月でも長く海外に駐在していたいと腐心するものだ」と書いているが、その時の北外交官もそうだったのかもしれない。一旦、海外に駐在し、西側の自由な空気を吸った外交官は帰りたくないのだ。

 北外交官の「亡命説」は、遠藤大使が国連外交官から入手した情報らしい、ということが伝わってきた。それを教えてくれた国連関係者は、「遠藤大使は北外交官の言動に非常に驚いていた」と語った。

 遠藤氏は任期を終え、日本に帰国されたが、その直後、朝鮮半島問題を扱う重要なポストに就任されたことを知って、先の「大使はやはり朝鮮半島から離れられなくなったのだな」という感慨を持ったわけだ。

 朝鮮半島問題に少しでも踏み込むと、そこから完全に抜け出すことが難しくなる。朝鮮半島には近づいてきた人を離さないようにする“魔”が潜んでいる。遠藤氏はその魔が住む朝鮮半島問題に入り込んでいったのだろう。当方の勝手な見方だが、遠藤氏はウィーンの日本政府全権大使時代、朝鮮半島、北朝鮮問題に触れ、その後の外交官としての方向が決まったのではないだろうか。

 世界日報のビューポイント欄で同氏の「2020年の日本外交を展望する」という記事が掲載されていた。そこで遠藤氏は、「対北も米韓との緊密協力の必要」を訴えている。同氏が朝鮮半島をめぐる日本外交の行く末を案じておられたことが伝わってくる。

 遠藤哲也氏の御冥福を祈る。



【遠藤哲也氏の略歴】 
 1935年生まれ。1958年東京大学法学部卒。同年外務省入省。67〜71年在英日本大使館勤務、77〜78年在ロンドン国際戦略問題研究所研究員、89年ウィーン国際機関日本政府代表部初代大使。93年日朝国交正常化交渉日本政府代表、95年朝鮮半島エネルギー開発(KEDO)担当大使、96年駐ニュージーランド大使などを歴任。その後、原子力委員会委員長代理等を経て、日本国際問題研究所特別研究員。専攻は、国際政治、外交、原子力。名誉法学博士(米国デポー大学)。主な著書に『北朝鮮問題をどう解くか』など。

元神父は性犯罪の犠牲者でもあった

 少し、遅くなったが、重要なテーマだから読者に報告する。

 フランス南東部のリヨンで14日、ローマ・カトリック教会の元神父ベルナール・プレナ被告(74)の未成年者への性的犯罪を巡る公判が開かれたが、同元神父は公判2日目の15日、「自分も少年時代、同じように聖職者から性的虐待を受けたことがあった」と告白し、公判に参加した関係者を驚かせた。

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▲公判の延期で裁判所から出るプレナ被告(2020年1月13日、バチカンニュースから)

 同被告は1971年から91年の間、未成年者のボーイスカウトの少年たちに性的虐待をした容疑で起訴された。同神父は昨年7月、罪状を認めたことから、教会法に基づき聖職をはく奪されている。

 公判では元神父に性的虐待を受けた犠牲者たち(当時7歳から10歳)が生々しい証言をした後、元神父は「良くないことだと分かっていたが、衝動を抑えることができなかった。上司の聖職者に相談したが、適切な指導を受けなかった」と説明した。

 世界各地で聖職者の未成年者への性的虐待が発覚し、罪の呵責から自殺する神父が出るなど、ローマ・カトリック教会は大きな難問に直面していることはこのコラム欄で報告済みだ。裁判で6年の有罪判決を受けたオーストラリア出身のジョージ・ぺル枢機卿、プレナ被告のように教会の教会法に基づく裁判で処罰を受けた後、公の裁判で追及されるケースが出てきた。

 カトリック教国のフランスでは、駐仏のバチカン大使、ルイジ・ベントゥ―ラ大司教(75)が2人の男性に性的行為をした容疑でフランス検察当局に調査を受けている(フランシスコ教皇は昨年12月17日、同大司教の辞任を受理している)。リヨン大司教区のフィリップ・バルバラン枢機卿(68)は昨年3月7日、聖職者の未成年者への性的虐待事件を隠蔽したとして執行猶予付き禁固6カ月の有罪判決を受けた、といった具合だ。

 世界に約46万人の聖職者(教区神父、修道僧、助祭など)がいるが、プレナ被告の例は、本人自身が聖職者の性犯罪の犠牲者でもあったという点で特異なケースだ。しかし、高位聖職者が若い時代、他の聖職者に性的虐待を受けたケースは過去にも報告されている。

 オーストリアのカトリック教会最高指導者シェーンボルン枢機卿は、「自分も若い時、神父に身体的な接触を試みられたことがある、幸い、逃げることができた」と告白している。枢機卿は詳細な状況を説明しなかったが、プレナ被告のような悪夢の体験をしなくて済んだわけだ(「枢機卿の『告白』と元修道女の『証言』」2019年2月9日参考)。

 カトリック教会の聖職者だけではない。父親に性的虐待を受けた子供が成長し、家族を持った後、自分の娘、息子に同じように性的虐待をするというケースは少なくない。若い時代の犠牲者が成人後、加害者になるわけだ。プレナ元神父の告白のように、カトリック教会でも例外ではないわけだ。

 プレナ被告の問題は深刻だ。AFP通信によれば、「神父と聖具保管係、神学生の計3人から繰り返し性的虐待を受けた。教会指導部に手紙を書いて報告したが、教会からの対応はなかった」という。そして加害者となった後、罪を告白したが、「罪は許される。2度としないように」と諭されただけだという。同被告は、「教会指導者は私を救うべきだったが、何もしなかった。そして私を神父にした」というのだ。

 プレナ被告の場合、教会指導部の責任は大きい。ゞ飢饂愼撹瑤聖職者の性犯罪の報告を犠牲者から聞きながら、対応しなかった、▲廛譽僻鏐陲性衝動に苦しんでいることを知りながら、彼を神父にした、の2点が挙げられる。

 バチカンニュースは昨年12月、「バチカンは2001年以来、6000件の聖職者の性犯罪を調査してきた」と報じた。この数字は実際起きた聖職者の未成年者への性的虐待総数の氷山の一角に過ぎないだろう。実数はその数倍になるものと受け取られている。

 バチカンは聖職者の性犯罪に対しては教会指導者の隠蔽、もみ消しを厳禁し、迅速な対応を要求し出したが、教会が聖職者の性犯罪で失った信頼はもはや取り返しがつかない。

「メシア」を待ち続けるユダヤの人々

 ウィーン大学でユダヤ教の歴史一般について講義する教授の話を聞いた。教授によると、17、18世紀にはユダヤ民族の間で多くのメシア(キリスト)が出てきたという。本当のメシアというより、自称メシアだったが、ユダヤ民族は今なおメシア、救い主を待ち望んでいることに驚き、心痛くなる(メシアはヘブライ語で「油を注がれた者」で「救い主」を意味する。キリストはギリシャ語で同じ意味)。

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▲ヘロデ王時代の神殿の壁「嘆きの壁」(ウィキペディアより)

 「今なお」といえば、2000年前、イエスが救い主として降臨したが、ユダヤ民族はイエスをメシアとは考えず、神の教えに反する異端者、悪魔の頭ベルゼブルとして迫害し、十字架にかけて殺害した。

 ユダヤ民族は当時、ナザレ出身のイエスをメシアとは思わなかった。現代のユダヤ教徒の中にはイスラム教と同様、イエスを1人の預言者と受け取る人々はいるが、メシアとは考えていない。民族の解放を願っていた当時のユダヤ人の目には青年イエスは民族の解放者というイメージと合致していなかったのだろう。イエスは律法を破壊する危険人物として抹殺された。

 イエスの復活後、始まったキリスト教の世界ではユダヤ民族を「メシア殺害民族」として忌み嫌い、嫌悪する傾向が長い間見られたことは事実だが、近代になってキリスト教とユダヤ教の対話が始まり、ユダヤ民族を「メシア殺害民族」というレッテルを貼って中傷することはなくなってきた。

 しかし、ナチス・ドイツ軍が欧州を制覇すると、ヒトラーはユダヤ民族を大虐殺したが、その背後にはやはり「メシア殺害民族」という思い込みがあったはずだ。「ドイツ人はアーリア系の卓越した民族」と信じるヒトラーはそれに対抗する民族、神の選民意識が強いユダヤ民族を抹殺しなければならない、といった強迫概念があったのかもしれない。

 参考までに、1917年のロシア革命は人類史上初の社会主義革命で、その革命の主導者、ウラジーミル・レーニン自身はロシア人だったが、彼の側近にはユダヤ系出身者が多数を占めていた。ユダヤ民族がロシア革命に深く関与したという事実をノーベル文学賞受賞者のソルジェニーツィンは「200年生きて」という歴史書の中で書いている(「ユダヤ民族とその『不愉快な事実』」2014年4月19日参考)。

 レーニンも厳密にいえば、母親がドイツ系ユダヤ人だからユダヤ系ロシア人だ、ともいわれている。カール・マルクスもユダヤ系出身者だったことは良く知られている。すなわち、マルクス・レーニン主義と呼ばれる社会主義思想はユダヤ系出身者によって構築されたわけだ。スターリンがその後、多くのユダヤ人指導者を粛清したのはユダヤ人の影響を抹殺する狙いがあったといわれる。

 ユダヤ民族はヒトラーのナチス軍によって600万人の同胞を殺害されたが、その体験はユダヤ人の神への信仰を揺さぶった。多くのユダヤ人からは、「なぜ、あなたはわが民族をこのように扱い、迫害するのですか」「我々がアウシュヴィッツにいたとき、あなたはどこにおられたのですか」といった叫び声が飛び出した。アウシュヴィッツ前と後では神について大きな変化が生じたわけだ(「アウシュヴィッツ以後の『神』」2016年7月20日参考)。

 先述した教授は、「ユダヤ人の中には、アウシュビッツで殺害されたユダヤ人の中にメシアがいたのではないか、という思いがあって苦しむ人々がいる。メシアがひょっとしたら殺されてしまったのではないかという痛恨だ」という。

 この話を聞くと、ユダヤ民族のメシアへの思いがどれだけ切ないものかを感じざるを得ないのだ。

 ユダヤ民族は“受難の民族”と言われる。その受難は、神を捨て、その教えを放棄した結果の刑罰を意味するのか、それとも選民として世界人類の救済の供え物としての贖罪を意味するのか。アウシュヴィッツ以降の神学はその答えを見出すために苦悶してきたわけだ。

 欧州で反ユダヤ主義が再台頭してきた。旧東独ザクセン=アンハルト州の都市ハレ(Halle)で昨年10月9日、27歳のドイツ人、シュテファン・Bがユダヤ教のシナゴーク(会堂)を襲撃する事件が発生した(「旧東独でシナゴーグ襲撃事件」2019年10月11日参考)。

 反ユダヤ主義はナチス・ドイツ軍時代から出てきたものではない。中世よりも前まで遡る。ウィリアム・シェイクスピアの喜劇「ベニスの商人」には強欲なユダヤ人の金貸しシャイロックが登場する。当時、ユダヤ人は他の国民から忌み嫌われる人間のシンボルだったことが分かる。

 旧約聖書を読むと、エジプトのパロ王がユダヤ人が自身の懐の中で増え、その影響力を拡大していく状況に強い警戒心を感じる箇所がある。反ユダヤ主義はイエスの十字架前に既に芽生えていたわけだ。ユダヤ民族の流浪はイエスの死後(西暦135年)から始まっている(「なぜ反ユダヤ主義が生まれてきたか」2015年1月28日参考)。

 今月27日は「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」 (International Holocaust Remembrance Day)だ。ウィーンの国連でも毎年、追悼集会が開かれる。
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