ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2019年01月

中国大使の空しい「反論」

 中国の習近平国家主席は2日、「台湾同胞に告げる書」の40周年記念式典で台湾問題に関する中国政府の立場を述べたが、その中で「武器の使用は放棄せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残す」と発言したことから、台湾の武装統一を示唆したとして台湾を含む周辺国家は警戒心を高めている。欧州メディアでも習近平国家主席の発言内容が報じられると、「中国の台湾への野望」を指摘する論調が聞かれた。

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▲駐オーストリアの李晓驷(Li Xiaosi)中国大使のチロル州での講演風景(2018年12月28日、駐オーストリア中国大使館公式サイトから)

 そこで駐オーストリアの李晓驷(Li Xiaosi)中国大使はオーストリア代表紙プレッセに反論を寄稿し、「中国警戒論」の鎮静に腐心した。以下、9日付プレッセに報じられた李中国大使の反論を紹介しながら、なぜ国際社会が習近平国家主席の演説内容に強く反発するのかを考えた。

 李大使の寄稿記事の見出しは「中国は中華人民共和国しか存在しない」だ。タイトルでも分かるように、大使は「台湾は中国の領土であり、これまでそれ以外であったことはなかった」と指摘し、中国政府の「一つの中国」の立場を繰り返す。

 そのうえで「習近平国家主席の演説に対し、遺憾なことだが、欧州の2、3のメディアはその趣旨を曲解し、わが国が武装統一を考えていると受け取った。台湾は1840年のアヘン戦争後、国内外の混乱に陥り、半世紀に渡り外国勢力の支配下にあったが、1945年に中国本土に戻ってきた。その直後、中国は再び内戦を経験したが、1949年に現在の中国人民共和国が建国された。その時、中国国民党政府が台湾に逃げた。その結果、現在の台湾問題が生じたのだ」と中国共産党の視点に基づいて台湾問題の歴史を簡単に説明している。

 そして「中国本土と台湾は分かれているが、本来一つの中国に帰属する。その事実はこれまでも変わらなかった。中国の主権と領土統合は決して分離されなかった。中華人民共和国が唯一の合法的政府であり、中国全土を網羅している。これは国連のコンセンサスであり、大多数の国家の支持を得ている」と強調する。

 問題は次だ。台湾問題の解決は「平和的再統合であり、一国二制度に基づく。平和的再統合後は、台湾の社会的、生活様式は完全に尊重され、私有財産権、信仰の自由などは保証される」というのだ。文章の内容は素晴らしいが、問題はその内容が信じられないことだ。その責任の多くは発言する側にある。

 欧米メディアは中国本土に再統合された香港の現状を知っている。それだけではなく、中国本土の現実をも聞いている。それゆえに、習近平主席の発言内容をその通りは信じないのだ。

 例を挙げてみよう。中国共産党が政権を掌握する中国で本当の野党は存在するか。民主主義の要である民主選挙は実施されたことがあるか。残念ながら、ノーだ。「信教の自由」はどうか。中国の憲法では信教の自由は明記されているというが、キリスト教会は壊され、礼拝参加者は拘束されている。中国共産党の官製聖職者組織「愛国協会」に所属しない聖職者は聖職活動はできないだけではなく、生命の危険すらある。中国共産党政権は昨年、ローマ・カトリック教会総本山バチカンと司教任命権で合意したというが、香港カトリック教会の最高指導者を2009年に離任した陳日君(Joseph Zen Ze-kiun)枢機卿は「バチカンは中国共産党政権に騙された」と警告を発している。人権問題はカタストロフィーだ。法輪功信者たちが拘束され、生きたまま臓器を摘出されている、という現実をどのように受け取ればいいのか(「法輪功メンバーから臓器摘出」2006年11月23日参考)。

 すなわち、一党独裁政治を維持し、人権蹂躙を恐れない共産党政権が中国を統治している限り、国際社会は中国指導者の発言を完全には信頼できない。習主席が「台湾の平和統合」を何度繰り返しても残念ながらその通り受け取れないのだ。

 習主席が「台湾の平和統合」を語り、駐オーストリアの中国大使が「武装統合はあり得ない」と力説したとしても、国際社会はもろ手を上げて歓迎できるはずがない。李大使は寄稿の最後に「中国国民の再統合への願いを理解し、台湾の独立を阻止するため支持してほしい」と呼び掛けたが、どれだけの支持者が出てくるだろうか。

 中国共産党政権と国際社会の間には深い溝がある。相互の信頼関係はない。トランプ米大統領の発言を信じない米国民や欧米メディアは少なくない。それと同じだといわれるかもしれないが、両者には大きな違いがある。トランプ大統領を支持しない国民やメディアは反論すればいいし、次期選挙でトランプ氏を落とせばいい。一方、中国共産党政権の場合、習近平国家主席は終身制を考えているのだ。

 李晓驷大使の反論はご苦労だったが、問題は中国共産党の独裁政治にある点を忘れている。論理を巧みに展開させたとして、それは徒労に終わるだけだ。国際社会は経済大国となった中国に一定の譲歩をしたとしても、中国共産党政権を信じていない。その現実を当の中国共産党政権は理解していないのだ。

カトリック教会は「性犯罪組織」か

 世界のローマ・カトリック教会総本山バチカンの今年の日程を紹介する。今月22日から27日の間、パナマで「世界青年の集い」が開催され、その後、法王として初めてアラブ首長国連邦を訪問、その後、3月はモロッコ、5月5日からバルカンのブルガリア、マケドニアの両国訪問が待っている。10月には司教教会会議(アマゾン会議)。日程はまだ決まっていないが38年ぶりの法王の訪日が予定されている。

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▲昨年4月の復活祭のミサを行うフランシスコ法王(オーストリア国営放送の中継から)

 上記の日程は法王の外遊計画だが、バチカンにとって今年最大イベントといえば、2月21日から24日まで開催される聖職者の未成年者への性的虐待問題をテーマとした「世界司教会議議長会議」だろう。アイルランド、オーストラリア、米国、ドイツ、ポーランド、オーストリアなど欧米教会でこれまで数万件の聖職者による未成年者への性的虐待事件が発生してきた。この数字はあくまで犠牲者が通達した件数に過ぎず、実数はその数倍ともいわれる。

 カトリック教会はこれまで聖職者の性犯罪を組織ぐるみで隠蔽してきたが、カリスマ的法王ヨハネ・パウロ2世の死後、後継者のドイツ人前法王ベネディクト16世時代に入ってから次から次へと暴露されていった。その都度、教会側は形だけの謝罪を表明する一方、聖職者の性犯罪対策のための組織的刷新は行わず、嵐が過ぎ去るのを待って今日まできた感じだ。

 そこで南米出身のフランシスコ法王が聖職者の性犯罪の全容解明を主張し、2月にバチカンとしては初めて聖職者の性犯罪を協議する司教会議議長クラスの会議を開くことになったわけだ。

 フランシスコ法王は昨年12月、2月の司教会議議長会議に参加する司教たちに対し、「現地で聖職者に性的虐待を受けた被害者と必ず会見し、その実態を見てくるように」と強く要請している。観念的な会議ではなく具体的な対策を考えたいという法王の願いから出た発言だ。

 それではフランシスコ法王はその手本を示すべきだろう。聖職者の性犯罪問題に取り組む姿勢を示す一方、フランシスコ法王自身は「ビガーノ書簡」に対し返答を避けてきた。同書簡はフランシスコ法王自身が友人の大司教の性犯罪を知りながら隠蔽してきた疑いを事実に基づいて記述してしているが、法王は沈黙している。米教会のマキャリック枢機卿は2001年から06年までワシントン大司教時代に、2人の未成年者へ性的虐待を行ってきたことが明らかになり、フランシスコ法王は昨年7月になって同枢機卿の全聖職をはく奪する処置を取ったが、それまでマキャリック枢機卿の性犯罪を隠蔽してきたという疑いだ(「『ビガーノ書簡』巡るバチカンの戦い」2018年10月8日参考)。

 問題は数万件ともいわれる聖職者の性犯罪に対する犠牲者への賠償金支払いだ。治療費を含め、教会側は犠牲者に償いをすると表明してきた。当然だが、その償い資金は信者の献金から拠出されてはならない。信者たちが教会に献金するのは性犯罪を犯した聖職者の賠償金払いのためではないことはいうまでもない。米国教会では教会の不動産を売って性犯罪への賠償金に当てている教区があるが、これも問題だ。教会が購入し、保有している不動産や資金はもともと平信者の献金からもたらされたものだからだ。

 それでは教会は犠牲者への賠償金をどのように工面できるだろうか。提案だが、バチカンが主導し、各国教会て若い聖職者を集い、建築現場や製造工場で働き、資金集めをすることだ。すなわち、バチカン主導の経済部隊を創設することだ。その部隊の総責任者は外部の専門家に依頼する。そこで得た資金は毎年、会計報告をし、聖職者の性犯罪の犠牲となった信者に渡す。そうなれば信者たちも納得できるだろう。譲ってならない基本原則は、平信者の献金は絶対に聖職者の性犯罪の賠償金の支払いに当てないということだ。
 
 聖職者の性犯罪は今日、カトリック教会の最上層部まで及んできた。フランシスコ法王は法王就任直後、バチカン改革を推進するために9人の枢機卿を集めた頂上会議(C9)を新設し、教会内外に改革刷新をアピールしたが、9人の枢機卿のうち、少なくとも3人の枢機卿(バチカン財務長官のジョージ・ペル枢機卿、ホンジュラスのオスカル・アンドレス・ロドリグリエツ・ マラディアガ枢機卿、サンチアゴ元大司教のフランシスコ・エラスリス枢機卿)は今日、聖職者の性犯罪や財政不正問題の容疑を受けている。フランシスコ法王が主張する教会刷新の実相が如何なるものか、これで分かるだろう。「ビガーノ書簡」でも明らかになったように、フランシスコ法王の周辺にも性犯罪の容疑者が多数いるのだ。

 最近では、カトリック教国のフランスでも聖職者の性犯罪問題が波及してきた。リヨン大司教区のフィリップ・バルバラン枢機卿は教区の神父の未成年者への性的虐待を告訴しなかったとして他の関係者と共に起訴された。容疑は神父の性犯罪を告訴せず、隠蔽した疑いだ。バルバラン大司教は既に2016年、同じ容疑で捜査を受けていた。

 ここにきて1970年から80年の間、リヨン大教区で同じ神父による性犯罪の犠牲者となった10人の元教区ボーイスカウトが、神父を告訴しなかったとして同大司教を裁判に訴えたことから、再び公判が開かれることになったわけだ。原告側にはバチカンの教理省長官ルイス・ラダリア枢機卿も含まれる。

 叩けば埃が出るように、カトリック教会では聖職者の性犯罪が多発している。教会から距離を置く信者が増え、教会脱退者が増加するのは当然の結果だろう。

 カトリック教会を含むキリスト教会の慈善活動、奉仕活動は素晴らしいが、その裏で聖職者の性犯罪が行われ、教会上層部がそれを隠蔽してきたわけだ。聖職者の性犯罪件数からだけいえば、カトリック教会は組織犯罪グループと批判されても弁明できないだろう。

 フランシスコ法王は今年、訪日する予定だ。ローマ法王はポップ歌手のスーパースターではない。ペテロの後継者の立場だ。その教会が聖職者の性犯罪で溢れている。救いが真っ先に必要なのは、ローマ法王を含む聖職者たちというべきだろう(「法王訪日前に聖職者の性犯罪公表を」2018年12月28日参考)。

首領様用「専用機」か「核兵器」か

 「核兵器はもはや使用できない価値のない兵器となった」

 元米国務長官のコリン・パウエル氏がメディアにこのように語ったが、核兵器を製造したものの、国家元首が安心して搭乗できる飛行機もパイロットもいない国がある。ご存じだろう、あの北朝鮮だ。シンガポールで昨年6月、史上初の米朝首脳会談が開催されたが、そのサミット会議開催地まで飛ばす飛行機がないことから、中国が国家主席用の飛行機を急きょ北側に貸したという話が報じられた。

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▲北朝鮮「高麗航空」の機長、乗組員ら(2012年10月撮影、ウィキぺディアから)

 中国の習近平国家主席の美談で済ませる問題ではない。北朝鮮は未開発国家ではない。フラッグ・キャリアの「高麗航空」も一応存在する。もちろん、欧州では高麗航空の安全性に対しては厳しい評定を下している。いつ墜ちるか分からないというより、いつ墜ちても不思議ではないと受け取られている。米朝首脳会談のような重要会議で最高指導者が安心して使用できる飛行機ではない。その一方、北は国際社会の強い反対にもかかわらず核兵器を製造し、過去6回の核実験を行い、世界に向かって「核保有国」の認知を求めている。

 「核兵器」と「飛行機」の製造ではどちらがその難度が高いかをここでテーマにしているのではない。核兵器を製造できる科学知識とノウハウを有する一方、指導者が海外で開催される首脳会談に利用できる安全な飛行機がないという、考えられないアンバランスの状況を指摘したいのだ。

 先のパウエル氏の発言ではないが、核兵器は「もはや使用できない武器」だ。一方、飛行機は指導者が世界の首脳会談に参加するためには絶対必要な必需品だ。使用できない武器の製造のために国民経済を疲弊させる一方、必要不可欠な飛行機を購入しない国が「主体思想」を国是とする北朝鮮だ。

 金正恩氏の父親故金正日総書記は生涯、飛行機に搭乗しなしたかった。いつ撃墜されるか心配で飛行機に乗れなかったのだ。その一方、「先軍政治」をはじめ、密かに核兵器の製造に乗り出した。アンバランスの原点は金正恩氏ではなく、金正日総書記から始まったというべきだろう。

 今月8日で35歳を迎えた金正恩氏は政権掌握後、「先軍政治」を継承する一方で国内経済の立て直しに乗り出した。それから7年が過ぎるが、遊園地やスキー場は建設できたが、国民経済の回復までには程遠い。また、自身が世界の指導者と会談するために使用する飛行機すらままならない国の現状には改善がなかった。

 話を2019年に戻す。トランプ米大統領は6日、金正恩委員長との2回目の首脳会談に期待を表明し、開催地が間もなく明らかになると述べた。メディアの報道によれば、1回目の首脳会談開催地の名誉を受けたシンガポールは今回は対象外。有力候補と見なされてきたスイスのジュネーブは開催地レースから外れたという情報が流れている。その一方、バンコク、ハノイ、ハワイが有力候補として挙げられている。当方はバンコクとハノイの2候補地の間で下されるとみている。ちなみに、一時だが音楽の都ウィ―ンも候補地レースで名前が挙げられたが、“会議は踊る”ウィーンで北の非核化交渉をしても進展しない懸念がある、ということで候補地レースから早々と落選したと聞く。

 開催地を考える場合、北朝鮮から地理的遠い場所は敬遠されるだろう。金正恩氏の健康問題もあるが、それ以上に10時間以上飛行できるベテランのパイロットがいないだけではなく、肝心の飛行機がないのだ。中国から借りた飛行機を再び利用する以外に他の選択肢がないのだ。

 トランプ氏は第2回米朝首脳会談を開くために会議の準備だけではなく、会議する相手の搭乗機の手配まで心配しなければならない。そのうえ、実務協議も始まっていない段階で米朝首脳会談を開いても、北の非核化問題で進展が期待できない。このままの状況で第2回会談が開かれた場合、開催地がどこになろうとも、残念ながら非核化の促進は具体性のない空言葉で終始するだろう。

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 第2回米朝首脳会談では、ひょっとしたら、新しいテーマが浮上するかもしれない。北の人権問題ではない。金正恩氏専用の飛行機購入の商談だ。以下、当方の推測だ。

 トランプ氏は、「友よ、使用できない核兵器を製造することは非経済的ではないかね。出来たら米ボーイング社から最新の飛行機を数機購入したらどうか。パイロットの育成は米国が負担する」と耳打ちする。もちろん、その商談をまとめるためには、対北制裁の解除が前提だ。トランプ氏はボーイング社の飛行機売りに心を奪われ、対北制裁の解除というハードルがあることを忘れてしまう。

 一方、金正恩氏は「2機のボーイング社の専用機購入は安くないが、同時に対北制裁が解除される道が開かれるならば、安い取引だ」と考えるだろう。この商談は案外素晴らしいオファーだ。非核化問題は後日の第3回米朝首脳会談に委ねることで合意した、と発表でもできれば北側にとって悪くない。

 トランプ氏は首脳会談後の記者会見で終始笑顔をみせ、「米朝両国は第3回目の首脳会談をワシントンで開催することで合意した。金正恩委員長はボーイング社の専用機でワシントンまで飛ぶために、ボーイング社から最新機2機を購入すると約束してくれた」と発表する。その傍で金正恩氏は頷きながらトランプ流ディ―ルを称えることも忘れない。

 一方、首脳会談の予想外の合意にあっけに取られた国際記者団はトランプ氏に北の非核化の行方、対北制裁の解除問題を聞くことも忘れ、「第3回米朝首脳会談はワシントンで開催」、「北が2機のボーイング社の飛行機購入を約束」という速報を流すために走り出す。

 もちろん、「非核化の問題は実務協議を早急に開催することで一致した」という内容のプレス用宣言文がジャーナリストたちに配られることはいうまでもない。

金正恩氏35歳誕生日への贈物?

 政治亡命は第3者には人間ドラマだが、当の亡命者にとっては生死をかけた冒険だ。失敗すれば(事前に亡命意思を読み取られた場合)、生命の危機に瀕する。1人の場合、本人だけだが、家族と共に亡命しようとする場合、その危険度は更に増す。もちろん、親族、家族が母国に住んでいる場合、本人の亡命が成功したとしても、母国に残した彼らを犠牲とするケースが多い。

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▲昨年4月撮影されたチョ・ソンギル大使代理(イタリア日刊紙「イルフォグリオ」記者のツイッターから、韓国中央日報日本語版から転載)

 昨年11月から行方が不明だった駐イタリア北朝鮮大使館のチョ・ソンギル大使代理のことを考えている。チョ大使代理も駐英公使で韓国に亡命した太永浩氏の場合も家族を連れての亡命だ。両外交官とも単身赴任ではなかった。

 例を挙げてみる。駐オーストリアの金光燮大使は金敬淑夫人(故金日成主席と故金聖愛夫人の間の娘)との間に2人の息子がいるが、2人の息子のうち1人は平壌にいる。夫人はウィーンにいる時もあるが、北に戻っている時もある。金大使の傍に常時いるわけではない。駐チェコの金平一大使(故金日成主席と故金聖愛夫人の間の息子)の場合、娘さんが人民軍幹部の息子と結婚したこともあって平壌に住んでいる。両大使は親戚関係であり、金正恩朝鮮労働党委員長にとって叔父に当たる。いずれにしても、両大使にとって政治亡命というシナリオは家族の犠牲なくしては考えられない。

 当方は1990年代、政治亡命を考えていた駐オーストリア大使館の2等書記官を知っている。彼は帰国前にウィーンに滞在できるように国連機関(国際工業開発機関=UNIDO)の仕事先をそれとなく打診していた。その事実を知った当方は密かに同書記官の周囲を取材し、亡命の意思を確認しようとしたことがある。残念ながら、彼の口からは何も飛び出してこなかった。ただ、同書記官から当方に電話が入ったことがある。曰く「どうかもう電話をしないでくれたまえ」だった。その直後、同書記官は帰国した。当方は「ひょっとしたら、同書記官は亡命の意思が発覚して強制帰国されたのではないか」と考え、自責の念に囚われた。幸い、同書記官は数年後、ウィーンに再び姿を見せた。それを知って「彼は生きていた」とホッとしたことを覚えている。当方は同書記官の亡命取材について1992年3月号の月刊誌「知識」(廃刊)に掲載した。原稿用紙90枚ほどのルポ記事だ。

 当方はまた、2人の北関係者を知っている。1人は1990年代、羅津・先鋒自由経済貿易地帯を西側企業に紹介してきた北朝鮮の代表的“エコノミスト”金正宇氏だ。金正宇氏が自宅に数十万ドルを隠していたという汚職容疑で帰国後、処刑された。当方は金正宇氏と会見したことがある、スイス・ダボスの「世界経済フォーラム」出席後、オーストリア商工会議所開催の「自由経済地帯説明会」に参加した時だ。円満な笑顔をたたえ、この人物が北から来た人物かと驚くほど、その振舞いは洗練されていた(「北朝鮮“エコノミスト”金正宇氏の囁き」2006年8月27日参考)

 もう1人は平壌の大聖銀行の出向社員としてウィーンに駐在していたホ・ヨンホ氏だ。彼はロンドン留学で経済学を学んだ若手エコノミストだった。北の対オーストリア債務返済を担当して活発に動いていたが、ある日、「投機に失敗した」との理由で帰国の指令を受けた。平壌から2人の治安関係者がウィーン入りし、同銀行マンを拷問した。ホ氏とビジネスをしていたオーストリア人によると、「彼は処刑された」という。西側情報機関関係者から直接聞いた話だ。帰国後の同銀行マンの運命は知らない。

 海外に駐在する北外交官、ビジネスマンは西側では考えられないような厳しい監視の中で生きている。不審な言動があれば、平壌に直ぐに報告される。疑いがあれば、帰国命令が出る。先の銀行マンの夫人はオーストリアの友人に「帰るのが怖い。何が待っているか分かるから」と漏らしていたという。

 チョ・ソンギル北朝鮮大使代理の行方はまだ不明だ。北からは特別捜査部隊がローマ入りし、同大使代理を追っているだろう。彼らはイタリア外務省や内務省に圧力を行使する一方、ローマの韓国大使館前や米国大使館前で張り込んでいるはずだ。

 ちなみに、1月8日は金正恩氏35歳の誕生日だ。チョ・ソンギル大使代理の亡命情報を受け取り、金正恩氏はさぞかし激怒しているだろう。「チョ氏の亡命は金正恩氏35歳誕生日への最高の贈物だ」といった声すら一部で囁かれている。

北外交官が「韓国亡命」避ける理由

 昨年11月に行方をくらました駐イタリアのチョ・ソンギル北朝鮮大使代理の亡命がハッピーエンドで幕を閉じることを願う。イタリア日刊紙コリエレ・デラ・セラによると、チョ大使代理は昨年9月、平壌から帰任通知を受けた。その後、引き継ぎ作業を始めたが、11月の段階で行方をくらましている。すなわち、昨年9月から11月の間にチョ大使代理は帰国ではなく、政治亡命を決意したとみて間違いない。

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▲北朝鮮金正恩委員長の文在寅大統領宛て書簡(韓国大統領府公式サイトから、2018年12月31日)

 駐英北朝鮮公使で韓国に亡命した太永浩氏は5日、自身のブログで、第3国への政治亡命を求めているといわれるチョ大使代理に対し、「民族の一構成員であり北朝鮮外交官だった私や君にとって韓国に来るのは選択ではなく義務だ。ソウルで待つ」(韓国中央日報日本語版6日付)と呼び掛けている。

 太永浩元駐英北朝鮮公使の意気込みと心情は理解できるし、そうなればいいが、海外駐在の北外交官が亡命先に韓国を選ぶことは難しくなってきた。はっきりいえば、親北派の文在寅大統領がソウルの政権を握っているからだ。韓国は「2018国防白書」で「北朝鮮は国防上の主敵」という個所を削除することを決めている。

 文大統領は北朝鮮の独裁者、金正恩労働党委員長と昨年3度も南北首脳会談を開催し、今年も南北融和路線を推進することで一致している。そこに海外駐在の北外交官が韓国に政治亡命すれば南北融和路線を実施する文政権にとって大きな障害となることは明らかだ。

 北朝鮮の国境兵士ならば韓国に亡命するかもしれないが、国際情勢に精通した海外駐在北外交官は文在寅政権下の韓国に政治亡命すれば歓迎されないばかりか、生命の危険すらあることを知っているはずだ。

 イタリア日刊紙ラ・レプブリカによると、チョ・ソンギル大使代理は「米国への亡命を望んでおり、現在イタリア情報当局の保護を受けている」という。現実的に判断すれば、チョ大使代理の米国亡命は正しい選択だろう。家族を連れて韓国に政治亡命することがどれだけ冒険かを知っている北外交官の判断だ。一方、米国側は「北大使代理」という地位からチョ氏が北の国家情報を知っている可能性があると判断、同氏の米国政治亡命を積極的に進めていくことが考えられる。

 冷戦時代、当方は旧東欧共産圏から逃げてきた亡命者や中国反体制派知識人と会見した。2000年後は英国やオーストリアに政治亡命した脱北者とも会見した。共産圏や中国、北朝鮮といった独裁国家から逃げてきた亡命者は悲しい立場だ。故郷に残した家族、親族のことだけではなく、母国を捨てたという一種の罪悪感がやはり払しょくできないからだ。亡命した北外交官の場合、自身が知っている情報、知識、体験を西側情報機関関係者に高く売りつけなければならない。だから、情報は大げさにになり、尾びれ背びれが付く。異国で生きていく上で必要だからだ。北外交官発の情報は受け手がその真偽を慎重に判断すべきだろう。

 太元公使は自身のブログで、チョ大使代理に「韓国に来れば身辺の安全は心配しなくても良い。韓国に来れば政府で徹底した身辺警護を保障し、職業も望む所で解決されるだろう」と説明し、韓国亡命を強く勧めている。太元公使の発言は間違っていないが、文政権下で南北融和路線がさらに進展していけば、脱北者、特に元外交官の立場は決して「安全」とは言えない。文政権が進める「積弊清算」がある日、脱北者に向かうことがないと言えるだろうか。

 イタリアのメディアはチョ大使代理がイタリアに亡命する可能性があると報じている。このシナリオはかなり厳しい。北側がチョ氏を見つけだすために特殊部隊をローマに派遣済みだからだ。チョ氏にとってイタリア亡命は危険すぎる。第3国に亡命する以外にない。亡命先としては米国、英国が考えられる。英国には多数の脱北者が住んでいる。ただし、どの国に亡命したとしても、危険を完全には排除できない。

 韓国が脱北者の最初の亡命先にならないという事実は悲しいことだ。文在寅大統領が金正恩氏に人権弾圧の停止を要求し、言論・結社・宗教の自由の保障を強く説得するまで、韓国は脱北者にとって危険な亡命先に留まるだろう。中国経由で逃げようとした多数の脱北者が平壌当局の要請を受け中国共産政権から強制送還されてきた。同じことが、文政権下で行われないと誰が言えるだろうか。

 参考までに、イタリアは2000年1月、当時の先進7カ国(G7)の中で先駆けて北朝鮮と国交を樹立した。イタリアの政治的勇断に鼓舞されたイギリス、カナダなど他の主要国もその直後、平壌と次々と外交関係を樹立していった。その意味で、北朝鮮にとって、イタリアは文字通り、先進諸国への門を開いてくれた大恩人だ。それだけではない。イタリアの自動車メーカー、フィアット社が北朝鮮企業の自動車産業を支援するなど、経済的繋がりも結構深い。また、イタリアの首都ローマは国連都市だ。例えば、国連食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)はローマに本部や事務局を構えている。食糧問題を抱えている北朝鮮にとって、これらの国際機関との接触は非常に重要だ(「北朝鮮、イタリアを再発見」2007年9月1日参考)。

 北の大恩人イタリアから北大使代理が亡命した。チョ・ソンギル氏の政治亡命が欧州駐在の北外交官に大きな影響を及ぼすことは必至だ。金正恩氏は亡命対策のため海外駐在外交官の一時帰国を命令するだろう。そして文在寅大統領は、金正恩氏の韓国訪問の行方が心配で眠れない夜を過ごすことになる。

欧米諸国は“第2の冷戦”では苦戦も

 トランプ米大統領は昨年12月初め、「ロシアは中距離核戦力全廃条約(INF)に違反している」と批判し、モスクワが陸上発射型巡航ミサイル「ノヴァトール9M729」(NATOのコード名・ 巡航ミサイルSSC-8)を破棄しなければINFから離脱すると表明、60日内という最後通牒を発した。ポンぺオ米国務長官は、「ロシアがINFに違反している以上、米国はINFを堅持する意味がない」と説明し、米国がロシアに対抗するために軍備拡張政策に乗り出す意向を示唆したばかりだ。

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▲NATO外相会議の全景、2018年12月3、4日、ブリュッセル本部で(NATO公式サイトから)

 それに対し、プーチン露大統領は、「米国は自国の軍拡政策をカムフラージュするためにロシアを批判している」と反論し、米国のINF違反批判を一蹴してきた。

 一方、米露両国のINF論争を受け、「欧州の安全は自力で防衛しなければならない」という声が高まってきている。北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、「欧州での核配置の必要性」すら主張するなど、欧州で軍備拡張の動きを見せている。

 INFは米国と旧ソ連両国が1987年、欧州に配備した核弾頭を装備した中距離弾道ミサイルと巡航ミサイルの全廃で合意した軍縮条約であり、ゴルバチョフソ連大統領(当時)が主導した最初の核軍縮条約で冷戦の終焉に大きな役割を果たした。

 INFは射程距離500キロから5500キロの中短距離核ミサイルを対象とする。INFの締結で欧州は核の脅威から逃れられたが、そのINF協定が破棄されれば、米露間で核ミサイル開発競争が再開され、欧州が米露両国の軍拡競争の舞台となる危険性が再び出てきた。冷戦時代のカムバックだ。

 ストルテンブルグ事務総長は4日、「ロシアが核搭載巡航ミサイルを維持している限り、NATOはそれに対抗措置を取らざるを得なくなる。われわれは昨年12月のNATO外相会議でロシア側に警告済みだ。同時に、欧州はINF破棄後の状況に対し準備しなければならない」(オーストリア代表紙プレッセ5日付)と強調している。

 ロシアの巡航ミサイルSSC-8は機動性があり、核搭載可能で欧州全都市が射程距離に入る。ただし、問題はSSC-8だけではない。ロシアは過去、核軍備体制を密かに強化してきた。ロシアは2000年頃から核・通常兵器両搭載可能な短距離戦術地対地ミサイル(イスカンデルMミサイルシステム)の開発・実戦配備を急いできた。ロシアが米国の要請を受け入れる可能性は低く、欧州はロシアの短距離戦術核ミサイルの脅威にさらされるわけだ。

 ストルテンベルグ事務総長は、「NATO側は約4000人の兵力をロシア国境沿いに駐留させ、指令体制の近代化・強化を図り、緊急出動軍の能力を向上させてきた。同時に、NATO加盟国は新しい軍事脅威に対抗するため軍事費の増額が必要という点で一致している。具体的には国内総生産(BIP)の2%だ。ちなみに、NATOは冷戦時代、BIPの約3%を軍事費に充ててきた」と説明している。


 問題は、欧州が独自の安保体制を構築できるかだ。マクロン仏大統領は欧州の独自軍の設置を提案したが、加盟国内ではコンセンサスがない。例えば、マース独外相は、「核軍事拡張政策は冷戦時代のやり方だ。現代ではそれは役に立たない。ドイツ国民も新しい短距離ミサイルの国内配置には強い抵抗がある」と述べているほどだ。

 米露中に次いで4番目の軍事大国・英国は今年3月には欧州連合(EU)から離脱する予定だ。英国のEU離脱(ブレグジット)でEUの外交、軍事力が弱体するのは目に見えている。英国は昨年3月4日、亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が英ソールズベリーで暗殺されかけた事件を受け、ロシアに対して制裁を履行し、加盟国にも対露制裁を要請し、ロシア外交官の国外退去など対ロ強硬政策を実施してきた。

 その英国がEUから抜けた場合、既に引退表明したメルケル独首相や国内で支持率を急速に失ってきたマクロン仏大統領の指導力ではロシアに対抗できない事態が考えられる。そのうえ、EU加盟国内でハンガリーのオルバン政権のように親ロシア路線を取る国もある。EUは対ロシア政策でコンセンサスが難しくなってきた。

 冷戦時代、欧米諸国は民主陣営として共通の価値観に基づいて一致団結し、共産主義陣営と戦い、勝利したが、“第2の冷戦”ともいわれる米露の軍事対立に対し、欧州は結束を失ってきている。それだけではない。トランプ大統領の米国ファースト政策はNATOの連帯を崩す危険性が考えられる。

 このように考えていくと、ロシア、そして中国の軍拡政策に対して、欧米の民主陣営が勝利できる保証はない。“第2の冷戦”は欧米諸国にとって厳しい戦いが予想される。

前東京特派員が伝える憂鬱な「日本」

 独週刊誌シュピーゲル最新号(12月29日号)には昨年まで東京特派員を務めた後、ドイツに帰国したヴィーランド・ヴァーグナー(Wieland Wagner)氏の日本駐在時代の思い出が綴られていた。記者は1959年生まれ。学位論文は「東アジアの日本の拡大政策について」だった。1995年から同誌の東京特派員となり、上海、北京、ニューデリーなどアジア諸国での駐在を経た後、2014年から東京支局に再び戻った。シュピーゲル誌が誇るアジア問題の専門記者だ。

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▲独週刊誌シュピーゲルの前東京特派員ヴィーランド・ヴァーグナー記者(シュピーゲル誌から)

 記事には言及されていないが、ヴァーグナー記者は駐在中、現在の奥さんである日本人女性と知り合い結婚したのだろう。記事には東京西部で傘修繕業を営む義父が登場する。義父は昨年91歳で死去したが、記者は「自分にとって第2の故郷・日本の大切な部分を失った」と述べている。終戦後、懸命に生きてきた日本人の代表として義父を描いている。義父は終戦後、荒廃した国を立て直すために汗を流してきたが、最近は「国が崩れてきた」と感じていたという。ちなみに、義父は東京で傘を修理する数少ない職人だった。

 記事のタイトルは「空気を読む」(Die Luft lesen)だ。記者は日本を「大きな成果を達成したが、今は落ちぶれた博物館となった国」と描写している。日本は連帯して働き、欧米の企業に追いつき、追い越していったが、「日本は今、高齢化する社会を刷新し、新しい未来のビジョンを発見しなければならない時点に達している」と分析する。

 ヴァーグナー記者は1980、90年代のバブルが崩壊する前後に日本の駐在記者生活をスタートした。バブル経済の華やかさとポスト・バブルの社会の変動を目撃した。記者はこれまで引きこもりをテーマとした記事やオウム真理教のサリン事件、福島第一原発事故と津波で破壊された町のルポ記事をシュピーゲル誌に掲載している。記者は「日本人が大災害に遭遇したとしても直ぐに普段の生活に戻る姿、犠牲者も災害を運命として諦観していく姿に驚く」と述べ、「日本人は調和を最も大切とする国民だ」と気が付く。

 記者の日本の未来像は明るくない。日本の人口減少は深刻だ。若者が少なくなる一方、人口の4分の1以上が65歳以上で占められる高齢社会だ。東京の人口は昨年39万人減少した。世界の都市の中でもまれな大変動に直面している。

 会社に一生を委ねてまじめに働いていれば、なんとか生活ができた時代は終わった。不足する労働力を補う外国人労働者の姿が多く見られだした。日本政府は今年、もっと多くの外国人労働者を招く計画だ。

 長い年月、日本に住み、社会の変遷を目撃したジャーナリストらしく体験に裏付けられた話は説得力がある。記者は、「日本には民主主義の発展に欠かせない議論や討論する文化はない」と言い放つ。日本社会では「空気を読む」ことが生きていく上で重要となる。その空気を読めなければ社会から孤立し、落ちこぼれとなっていく。記者は日本社会のキーワードとして「空気を読む」を選び、その記事のタイトルにした。

 安倍晋三首相は、2020年の東京夏季五輪大会を契機に「老い、疲れた国・日本を再び活気ある社会」にするためインフラに投資する一方、国民を鼓舞しているが、ヴァーグナー記者は安倍政権の政策を一種のバラマキ政策と受け取り、後の世代に巨額な債務を残すだけだと批判的に受け取っている。記者は、「安倍政権を見ていると、1980年代のバブル時代の日本を思い出す」という。

 同記者は日本駐在期間の総括後、「日本が行く道はこれまで以上に大変だ。20年東京夏季五輪大会後、日本はどうなるのだろうか。幸い、自分はもはやそれらの動向をフォローして記事にしなければならない義務はなくなった」と述べている。

 当方は日本が急激な人口減に直面し苦慮していることは知っていたが、記者は日本に住んでそれらを肌で感じてきたのだろう。彼の書く日本の未来像は当方がウィ―ンで漠然と感じてきた以上にリアルで、事実に近いのだろう。

 ひょっとしたら、シュピーゲル誌の記者が5年でドイツに帰国していたならば、もう少し明るい日本像を描けたのかもしれない。ヴァーグナー記者は東京で家庭をもち、日本の変動を目撃した外国人ジャーナリストとして、よく知られている“日本の美しさ”ではなく、日本社会がいま対峙している問題点をどうしても指摘しておきたかったのだろう。それは、同じ国に長く駐在した外国人記者の義務感から出たものというより、第2の故郷となった駐在国(日本)への熱い思いを込めたメッセージだったのではないか。当方はそう受け取っている。

文在寅韓国大統領の「初夢」

 「大統領! 欧州のA国に駐在していた北朝鮮外交官がわが国に亡命を申請してきました」

 硬いベットで眠れない夜を過ごした文在寅大統領は目の前に立っている側近の顔を見ながら、「今度は大使か、それとも公使か」と直ぐに聞いた。側近は、「大統領、大使です」と答えると、文大統領は深いため息をつきながら、「ああ〜、これでは俺が進めてきた南北融和路線はおじゃんだ。何か対応はないか」と聞いた。

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▲新年の演説をする文在寅大統領(2019年1月2日、韓国大統領府公式サイトから

 側近は少し驚いた様子を見せながら、「大統領、対応といいますと、亡命申請を却下することですか」と尋ねた。弁護士出身の文大統領は気が利かない側近に日ごろから不満があった。

 文大統領はイライラしながら、「分かっているだろう、君。メディアには絶対に北大使の亡命申請の件が流れないように関係者に釘を刺しておいてくれ」といった後、「君、平壌に直ぐにホットラインを繋いでくれたまえ」というと、ベットから跳ね起きて着替え始めた。

 文大統領は金正恩朝鮮労働党委員長との電話会話に備えて、どのように報告すべきかを考えた。

 「金正恩氏は激怒するだろうな」という思いがまず浮かんできた。ここ1週間で3人の北外交官が既に韓国へ政治亡命を申請してきた。外交官の亡命といえば、数年前までは考えられなかったが、文大統領が南北融和路線を標榜し、金正恩氏と3度の首脳会談をこなしてからは脱北者は増え、国境兵士ばかりか、外交官まで韓国に亡命してきた。外交官の亡命の場合、金正恩氏は「直ぐに送り返してほしい」と言い出すのは目に見えていた。

 「強制送還か、それとも韓国への亡命を認めるか」

 文大統領はハムレットのような心情になったきた。前者を選択した場合、国民ばかりか、米国や国際人権団体から「非情な大統領」、「中国共産党政権と同じだ」といった厳しい批判が飛び出すことは間違いない。後者の場合、国際社会は「北高官の亡命は金正恩政権の崩壊が近いことを物語っている」と騒ぎ出すだろう。北外交官の韓国亡命を秘密にはできない。メディアに必ず流れてしまう。金正恩氏は南北間の国境警備を再び強化する一方、海外外交官の帰国指令を出すだろう。そのうえで「文大統領には失望しました。南北民族の和合と統合のために共に連携が取れると期待していました」と言い残して、電話を切るだろう。

 カトリック教徒の文大統領は同民族の北との融和路線こそ“神の御心”だと信じてきた。だから、米国の対北制裁にも関わらず、海上ルートなどで経済支援をしてきた。それだけではない。トランプ米大統領には対北軍事攻撃がどれほど危険かを説明し、軍事攻撃という選択肢を取らないように説得してきた。金正恩氏も文大統領の努力を評価してくれた。そして南北間の境界線の一部解除や監視施設の撤去が実施された。

 南北融和路線は着実に実行に移されてきた矢先だ。北から亡命者が次から次と韓国に入ってきたのだ。

 「強硬路線だったら、脱北者の殺到は韓国の政権にグットニュースだが、南北融和路線を実施している時、脱北者が増加すれば、皮肉なことだが、政権に致命的なダメージを与える」

 文大統領は金正恩氏からの電話を待ちながら、少し遅くなった朝食をとりだした。

 「俺はついてないな」と独り言を発した。「あと半年、南北融和路線が継続されれば、南北再統一という民族の夢も実現する道が開かれたはずだ」と怒りがこみ上げてきた。その怒りが脱出する北朝鮮の国民に向けられていることに気が付いた文大統領は周囲を見渡しながら、「俺も変わってしまった」と呟いた。

 「大統領、平壌との回線がつながりました」

 側近が連絡してきた。文大統領は重い腰を上げながら「ありがとう」と言ってホットライン室へ向かった。

 「なんて言えばいいだろうか」と同じ問いを繰り返しながら、歩き出した。



 「ねー、朝ですよ」

 金正淑夫人の元気のいい声で文大統領は目を覚ました。「夢だったのか」とホッとしながら、硬いベットから立ち上がり、着替えた。

 朝食のテーブルにはその日の朝刊が置いてあった。大好きなコーヒーを飲みながら中央日報を読みだした。

 「あー」。文大統領は思わず叫び、そのはずみで食卓の椅子から落ちそうになった。

 中央日報は「北朝鮮のチョ・ソンギル駐イタリア大使代理が最近潜伏して西側への亡命を打診している」という記事を報じていたのだ。



 韓国聯合ニュースによると、最近では16年、太永浩・元駐英北公使が韓国に亡命した。また、張承吉・駐エジプト北朝鮮大使(当時)が1997年、駐パリ代表部参事官だった兄と家族を連れて米国に亡命している。

金正恩氏が米朝首脳会談に拘る理由

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は1日、慣例の「新年の辞」の演説を行った。金正恩氏の30分間余りの演説の主要ポイントは、「トランプ米大統領との2回目の米朝首脳会談の実現への期待」と「完全な非核化は不変の私の立場」といった非核化への決意表明だ。

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▲金正恩氏の「新年の辞」を一面全部を使って報じるオーストリア代表紙プレッセ(2019年1月2日)

 金正恩氏は南北間の経済協力にも言及し、昨年の平昌冬季五輪大会で始まった本格的な南北融和路線を今年も継続していく意向を明らかにし、韓国側を喜ばせている。

 停滞する「北の非核化」については、具体的な提案はなく、第2回米朝首脳会談にその行方を委ねたかたちだ。同時に、「米国がわれわれ人民の忍耐心を誤って判断し、制裁と圧迫に進むならば、われわれとしても新たな道を模索せざるを得なくなる」といつものように警告を発している。

 金正恩氏は非核化の意思を再確認したが、具体的な核施設の申告などの提案はなく、『核兵器を製造、実験、移転しない』と主張しただけに留めていることに失望の声も聞かれる。韓国最大手紙「朝鮮日報」は北朝鮮専門家のコメントとして、「製造・実験、移転をしないという内容は北が既に核保有国にあることを前提にしている」と冷静に報じている。当方も同感だ。金正恩氏は核実験場の破壊に応じても、核兵器の全廃には絶対応じない。既成の核兵器の保持を死守するはずだ。その意味で、金正恩氏の「新年の辞」の非核化は核の破棄ではなく、「核保有国」の事実の再確認に過ぎないわけだ。

 金正恩氏は昨年6月のシンガポールで開催された第1回米朝首脳会談では「北の非核化」という議題を巧みに「朝鮮半島の非核化」に拡大することに成功した。それに味を占めた金正恩氏は第2回首脳会談では長距離ミサイルの全廃を提案する一方、中短距離ミサイルの開発・維持を米国側に容認させようと努力するだろう。

 トランプ氏が米国本土まで届かない中距離ミサイルを容認するようなことがあれば、日本は安全保障上、大きな危機に直面する。北は核搭載中距離ミサイルで日本を常に攻撃の視野に入れることができるからだ。

 金正恩氏がトランプ氏との第2回目の首脳会談に拘るのは、トランプ氏とならば有利に交渉できるという読みがあるからだ。トランプ氏との第2回首脳会談では、核のモラトリアムと長距離ミサイルの開発断念と引き換えに制裁の解除を得ようと腐心するはずだ。

 一方、トランプ氏が金正恩氏の核のモラトリアム案を受け入れるならば、次は在韓米軍の撤退が議題となる。実際、金正恩氏は「新年の辞」の中で米韓軍事演習の停止を強く求めている。

 米軍関係者は金正恩氏の狙いを熟知しているはずだが、トランプ氏は新しい友達となった金正恩氏の本当の顔を知らない。マティス国防長官(退任)の助言に反しシリアから米軍撤退を決定するなど、トランプ氏には国防省関係者の意向に反してトップダウンで決定を下す恐れが常に付きまとう。

 軍事・戦略分野も経済的なそろばん勘定で決定するトランプ氏の采配に朝鮮半島の行方、日本の安全問題が左右される。この現実を考えると、安倍晋三首相でなくても一抹の不安を感じざるを得ない。

 金正恩氏の狙いは2点、朝鮮半島の非核化で駐韓米軍を撤退させる一方、対北制裁を解除させることにある。その願いを後押ししてくれる味方として韓国の文在寅大統領の役割があるわけだ。国民経済は厳しいにもかかわらず、文大統領の最大の関心事は依然、金正恩氏との南北融和路線の継続に注がれている。文大統領は北の人権弾圧には口を閉じ、南北民族の融和という標語に酔い、金正恩氏の“スポークスマン”を務めることを自分の使命と考えている。

 金正恩氏が依然元気であり続けるのは単に年齢のせいではない。文大統領という韓国大統領の存在とトランプ氏という米大統領の出現に金正恩氏は勇気づけられているからだ。金正恩氏は両政治家が自身のタクト(指揮棒)に従って演奏してくれることを願っているはずだ。

 オーストリア代表紙プレッセ2日付は1面全部を使って金正恩氏の「新年の辞」を報じた。一面上半分を背広姿で語る金正恩氏の写真で飾っている。記事のタイトルは「金正恩氏、新しい道で威嚇」( Kim droht jetzt mit neuem Weg )だ。クリスマス休暇中の欧州では大きな出来事がなかったこともあるが、北朝鮮独裁者の「新年の辞」が1面トップで報じられるということは2年前までは考えられなかった。それだけ朝鮮半島の政情がもはや地域問題ではなく、国際社会に大きな影響を及ぼす問題と受け取られてきたことを裏付けている。

男性と女性の二性を有する「神」とは

 新年の最初のコラムはやはり「神」について考えてみた。

「わたしは、有って有る者」(旧約聖書出エジプト記第3章)といわれる「神」を人知で理解しようとすること自体、久しく“無謀な行為”と受け取られてきた。「神」と人間の間には超えてはならない壁があった。というより、「神」への畏敬が強く、人は「神」に近づき、話しかけることができなかった。

 その「神」は2000年前、独り子イエスを降臨させた後は「愛の神」として前面に登場してきた。「神」と人間の壁が取り除かれ、単なる創造主と被創造物の関係ではなく、「親と子」の関係が次第に強調されていった。人格神の登場だ。

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▲ミケランジェロの作品「アダムの創造」(ウィキぺディアから)

 それでは「神」は如何なるお方だろうか。旧約聖書の「創世記」を読む限りでは、「神」は“自分の似姿”で人を創造された、すなわち、男と女を創造されたという。「神」は男性格と女性格を有していることになる。キリスト教の「神」は基本的には男性格要素が強いが、聖霊が降臨して女性神的な役割を果たすことで、キリスト教神学の欠損部分を補填してきた。

 日本のカトリック作家・遠藤周作は「父の神」ではなく、日本の土壌に適した「母の神」を追及し、それをテーマとした作品を残していった。遠藤は西欧のキリスト教に忘れられがちな「女性神」を呼び起こした。弱さゆえに罪を繰り返す人間に「母の神」は共に涙を流してくれる。同伴者としての神だ。

 ところで、「女性神」については昔からさまざまな伝説がある。古代中国神話では女媧(じょか)と呼ばれる「女神」が人類を創造したという話が伝わっている。「女神」がどうして人類を繁殖できたかについてはいろいろな説があるが、老子の「万物は陰を負い、陽を抱いている」という陽陰説を適応すれば、「女神」の女媧は単性生殖ではなく、自身の陽陰で万物を創造したというのだ。もちろん、伏羲(ふくぎ)と呼ばれる皇帝と女媧の兄妹婚姻で人類を繁殖したという説もある。

 キリスト教世界では男尊女卑の世界が長い間続いてきた。20世紀に入り、男女同権を訴える運動が生まれ、ウーマンリブ運動、フェミニズムなどを通じて女性の社会進出が活発化していった。一部ジェンダー・フリー運動の行き過ぎもあって、ここにきて男権の回復を叫ぶ声が聞かれだした。

 誤解を避けるために「男尊女卑」の起源について少し説明する。創世記の「失楽園」の話を読めば、人類の最初の過ちは最初の女性エバから始まったことが分かる(女性諸君、これは当方の説ではない。創世記の中で記述されている内容だ)。エバに誘惑されたアダムもその過ちの責任を共に背負っていく。創世記では、神は堕落後のエバに「産みの苦しみ」を、アダムには「生活の糧を得るための苦労」をそれぞれ言い渡している。「神学大全」の著者のトーマス・フォン・アクィナス(1225〜1274年)は「女の創造は自然界の失策だ」と言い切っている、といった有様だ(「なぜ、教会は女性を軽視するか」2013年3月4日参考)

 「女権の復帰」現象はエバが本来の立場を回復してきたことを示唆する。20世紀に入り、女性は立ち上がり、男尊女卑の世界に挑戦していった。現代はその時代を通過しているところだろう。

 男女の闘争史の最終ゴールは男女和合の実現だが、それがハード・ランディングになるか、ソフト・ランディングとなるかは現代に生きる男女の責任だ。明確なことは、男女が和合しない限り、男性格と女性格から成る「神」は自身を表すことができないことだ。「男性が強い世界」でも「女性が強すぎる世界」でも「神」は安住できない。換言すれば、神の似姿としての「男性」と「女性」の2性の和解が問われていることになる。原点に帰っていえば、男性と女性は本来、神の似姿の半分、ベター・ハーフというべきだろう(「アダムに“へそ”(臍)があったか」2017年1月2日参考)。

 まとめると、歴史は「男尊女卑」から「女権の復帰」、「男女相克時代」を経て「男女和合時代」へと流れてきているわけだ。「第3の性」といった表現がメディアで騒がれているが、それは「男女相克時代」が生み出した副産物に過ぎず、本流からは懸け離れている。

 参考までに、科学は宗教の固陋な伝説や神話を木っ端微塵に破壊し、「神」が存在しないことを証明してくれるだろうと期待してきた無神論者にとって、科学の発展史は想定外だった。アインシュタインが「相対性理論」を発見した時代、「神」を信じる科学者はまだ少数派に過ぎなかったが、21世紀の今日、国連の調査によれば、80%以上の科学者が「神」の存在を信じている。科学が「神」の存在を証明する時代が差し迫ってきたわけだ(「大多数の科学者は『神』を信じている」2017年4月7日参考)。

 ちなみに、欧州の有名な予言者、ブルガリア人のババ・ヴァンガは「西暦4509年には人類は神と対話できるようになる」と予言した。今年は西暦2019年だ。あと2490年間というため息が出てくるほど長い間、人類は神と対話できない日々を過ごさなければならないことになる。預言者の言葉を無視できないが、今回はヴァンガの予言が外れることを期待する(「ババ・ヴァンガ『2019年の予言』」2018年12月30日参考)。
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