ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2018年11月

この一年で中東情勢は急変した

 過ぎ行く1年を振り返るには少々早すぎるかもしれないが、今年1年で世界で最も大きな変化がみられた地域は朝鮮半島とアラブ・イスラム諸国ではないだろうか。

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▲エルサレムに米大使館を移転したトランプ米大統領に感謝するネタニヤフ首相(2018年5月14日、エルサレムで、米CNNの中継から)

 オバマ前米大統領は北朝鮮に対して「戦略的忍耐」と呼ばれる無策路線をとってきたが、前大統領はアラブ諸国に対しても任期8年の間、程度の差こそあれ現状維持を優先してきた。それが動き出したのは政治にはアマチュアと就任前に中傷されたトランプ米大統領が登場してからだ。

 対北政策では今年6月12日、シンガポールで史上初の米朝首脳会談が行われた。成果は今後の進展を見守らなくては何もいえないが、オバマ政権時代には考えられなかった首脳会談が実現したという事実は大きい。一方、中東アラブに対してはトランプ大統領は5月14日、徹底したイスラエル支持路線を展開し、米大使館のテルアビブから首都エルサレムへの移転を果敢にも実行した。オバマ前政権時代はアラブとイスラエルとの等距離外交を意識するあまり、これまた一種の「戦略的沈黙」を継続してきた感があった。

 以下、ここではアラブ・イスラム教国とイスラエルの関係正常化を追ってみた。

 米大使館をエルサレムに移転するといった発想はオバマ前大統領には考えられなかったことだ。そんなことをすれば、直ぐに中東戦争が再現するのではないか、といった悪夢がオバマ氏からは離れなかったのだろう。トランプ氏は大統領選の公約を着実に実行に移し、イランの核合意も破棄し、米国がどの方向に顔を向けているかを世界に示した。

 アラブ・イスラム諸国の政情は大きく動いてきた。明確な点はイスラエルとアラブ・イスラム教国との関係が正常化の方向にあることだ。イスラエルは過去、エジプトとヨルダンなどに限られたアラブ国家としか外交関係はなかったが、“アラブの盟主”サウジがイスラエルに接近してきた。そのほか、オマーン、アラブ首長国連邦らが続いてきている。

 サウジの対イスラエル政策が急変した背景にはシーア派の大国イランとの対立がある。シリアやイラク、そしてイエメンでのイランの軍事活動を警戒するサウジは、イランと対立しているイスラエルに接近することで、イラン包囲網を構築する選択肢を取ってきた。もちろん、サウジのイスラエル接近の背後にはトランプ大統領の存在がある。米国の支持を受けるイスラエルと関係を強化することで、サウジは対イラン政策を効果的に実施できるようになったわけだ。サウジのムハンマド皇太子は今春、イスラエルの生存権を認める発言をしている。一方、イスラエルはサウジ王室を揺り動かしている「カショギ氏暗殺事件」に対して、サウジ批判を控えている、といった具合だ。

 イスラエルとアラブ・イスラム教諸国との接触はパレスチナ和平に変化をもたらしてきている。アラブ諸国にとって、パレスチナ問題は汎アラブの最優先課題と受け取られ、アラブ諸国はパレスチナを資金的にも支援してきたが、ここにきてその関係に変化が出てきた。パレスチナ問題はアラブの緊急課題ではなくなり、それに代わってイラン問題とイスラム過激テロ問題が浮上してきたのだ。

 少し、具体的な動きをフォローする。チャドのイドリス・デビ大統領が先週、同国大統領としては初めてエルサレムを訪問した。イスラム教徒が多数を占めるチャドのデビ大統領のイスラエル訪問は、他のアフリカ諸国指導者がイスラエルを訪問する道を開くと受け取られている。デビ大統領は、「パレスチナ問題を無視する考えはないが、問題の解決まで待つことはできない」と述べ、イスラエルとの外交樹立を示唆している。ネタニヤフ首相は25日、「外交的突破であり、歴史的訪問だ」と評価したほどだ。また、オマーンのユースフ・ビン・アラウィ外相は、「イスラエルの存在は現実だ。それを受け入れて考えるべきだ」と他のアラブ諸国に訴えている。

 一方、ネタニヤフ首相は10月、オマーンを訪問し、同時期、イスラエルのミリ・レジェヴ文化相はアラブ首長国連邦を、アイユーブ・カラ通信相はドバイをそれぞれ訪問している。ネタニヤフ首相は、「今後、アラブ諸国との関係が発展する」と期待を表明するほどだ。なお、エルサレムからの情報によると、同首相の次の訪問先はバーレーンだ。
 
 サウジのムハンマド皇太子と「カショギ氏暗殺事件」、イラン「核合意」の行方、パレスチナ人の抵抗、アラブの盟主を狙うトルコのエルドアン大統領の動きなど、多くの流動的な問題が山積しているだけに、中東の近未来を確実に予測することは難しい。この1年に見られた中東の変動が恒常的な和平実現を導く土台となるのか、それとも一層のカオスを生み出す兆候か、その行方を左右するのはやはりトランプ米政権と言わざるを得ない。

北へのスパイ容疑で仏上院職員逮捕

 フランスのメディアが26日報じたところによると、同国情報機関、国内治安総局(DGSI)は25日、北朝鮮に情報を提供していたとしてスパイ容疑で同国上院事務局のブノワ・ケネディ(Benoit Quennedey)容疑者を逮捕した。同容疑者がどのような情報を北側に流していたかなどの詳細なことは明らかにされていない。ケネディ容疑者は過去、何度も訪朝歴があり、今年9月9日の北朝鮮建国70年軍事パレートにも招かれている。

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▲ケネディ容疑者(中央)CILRECOサイトから

 捜査は今年3月に始まった。フランスのテレビ局TMCの番組「Quotidien」は「上院にある容疑者の事務所も家宅捜索された」と報じている。容疑者はフランス上院で建築・文化遺産・造園を担当してきた公務員だ。

 フランスの公務員のスパイ容疑の報道を読んで同国にある欧州最大の北朝鮮フロント組織「朝鮮再統一・平和のための国際連絡委員会」(CILRECO)を思い出した。1977年に創設された同組織の目的は、南北朝鮮の再統一で、欧州各地でさまざまな会議、シンポジウムを開催し、親北派知識人、学者、政治家を動員してきた。

 なお、CILRECOの会報メールの内容は北朝鮮労働新聞の記事のリライティングで占められていた。実際、同会報メールのリンク欄には労働新聞アドレス(英語版)が紹介されている、といった具合だ。

 1990年代初め、ウィーンのホテルで同組織主催の朝鮮半島再統一に関するシンポジウムが開催された時、当方は駐オーストリアの北朝鮮大使館から取材許可を得て参加したことがある。その時、CILRECO関係者と初めて面識を持った。

 シンポジウムにはフランス、ギリシャ、デンマークなどから欧州主体思想グループ・メンバーや左派系政治家たちが参加していた。ギリシャから参加した人物が北大西洋条約機構(NATO)の元空軍将校だったことを参加者のリストから後で知って驚いたことを思い出す。北朝鮮がNATO軍退役将校を通じてNATO関連情報を入手していた可能性が考えられるからだ。北朝鮮の欧州での情報収集工作は侮れない、という印象を受けたものだ。

 さて、スパイ容疑で今回逮捕されたケネディ容疑者は仏上院事務局職員ということだから、さまざまな政治情報を入手できる可能性はあったかもしれない。「フランス・北朝鮮友好協会」(AAFC)に所属していたから、北朝鮮の記念日や建国日には招待されてVIP扱いの接待を受けてきただろう。ちなみに、ケネディ容疑者が平壌で金永南最高人民会議常任委員会委員長と会っている写真がMGRオンラインに掲載されていた。

 容疑者が北側に流した情報にはフランスのトップ級の国家機密が含まれていたとは考えられない。フランス政界の動向や経済についての情報だろうが、多くはオープンソースだ。その意味で、DGSIが今回、「親北の容疑者をスパイ容疑で逮捕した」というニュースを聞いて、少々合点がいかない思いがある。

 当方も欧州の北朝鮮友好協会メンバーを知っているが、彼らは親北・反米の知識人で、訪朝歴が何度もあるが、国家機密に直接接触できるほどの地位にある人物は少ない。

 ちなみに、フランスは北朝鮮にとって欧州の重要な拠点の一つだ。故金日成主席の心臓手術を実行したのはリヨン付属大学病院の心臓外科医だった。故金正男も生前、何度もパリを訪問している。金正男はパリからウィーンまでタクシーで飛ばしたこともあった。フランスは北朝鮮にとってある意味で快い工作拠点だったはずだ。

 一方、北朝鮮の動向をマークしてきたDGSI関係者は欧州では最も北情報に長けているともいわれる。オーストリアの情報機関関係者から聞いた話だが、「フランスの情報機関関係者は外国情報機関と情報を共有することを好まない」という。逆に言えば、彼らは口が堅いということだ。

 欧米情報機関は通常、訪朝する人物と接触し、彼らから北関連情報を入手するため、必要でない限り拘束したり、ましてやスパイ容疑で逮捕するということは避けるものだ。彼らを泳がして情報を得る方が賢明だからだ。その意味で、DGSIが今回、北に情報を流した容疑でケネディ氏を逮捕したのは少なくとも通常ではない。

女性党首は社民党を救えるか?

 オーストリア野党第1党社会民主党(前身社会党)に130年の党の歴史で初の女性党首パメラ・レンディ=ワーグナー氏(47)が誕生した。オーバーエスターライヒ州ヴェルズで24日開催された社民党(SPO)大会で97・8%の支持を得て、ケルン党首の後継者に選出された。レンディ・ワーグナー新党首は、「党員の支持に感謝する。党員一人ひとりの支持は私にとって燃料だ。私はこれから国民のために走りだす。共に走ってほしい」と述べ、「わが国の初の女性首相を目指す」と宣言し、大拍手を受けた。

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▲97・8%の支持で党首に選出されたパメラ・レンディ=ワーグナーさん(2018年11月24日、社民党党大会で、SPO公式サイトから)

 隣国ドイツでも半年前、社民党(SPD)にアンドレア・ナーレス党首(48)がこれまた党の初の女性党首となったばかり。ドイツとオーストリア両国の社民党で女性党首の誕生ということになったわけだ。

 両国の社民党の共通点は初の女性党首の誕生だけではなく、選挙の度に得票率を失い、低迷状況に苦しんでいることだ。そこでもはや男性に党首は務まらないというわけで、女性を党のトップに担ぎ出したという事情も似ている。「労働者の味方」を標榜してきた社民党で女性党首が果たして党再生の救世主となれるだろうか。

 SPDの現状はもはや目を覆うばかりだ。ドイツ連邦議会(下院)選挙を含む選挙と呼ばれる選挙の度に得票率を落としてきた。欧州議会議長を5年務めてきた希望の星、シュルツ氏が党首に選出されたが、SPDの低迷傾向にストップをかけるどころか、さらに悪化させて1年余りで党首の座をナーレス現党首に譲ってしまった経緯がある。

 SPD初の女性党首に就任したが、ナーレス党首は党の低迷を止めることはできない。SPDは10月14日のバイエルン州議会選では第5党となり、「ドイツのための選択肢」(AfD)の後塵を拝したばかりだ。連邦議会選後、SPDは下野する予定だったが、結局、メルケル首相の誘いに乗って第4次メルケル政権のジュニア政党の地位に甘んじることになった。

 一方、SPDの姉妹政党、隣国オーストリアの社会民主党(SPO)にも同じ傾向が見られる。ファイマン首相(当時)が2016年5月辞任し、実業家のケルン氏が新党首、首相に就任したが、昨年10月15日の総選挙で現クルツ首相が率いる国民党に敗北し、政権を失った。下野したケルン党首は今年9月、突然、政界からの引退を宣言し、レンディ=ワーグナー女史(前政権で保健相歴任)が初の女性SPO党首に選出されたというわけだ。ドイツのSPDとオーストリアのSPOは国こそ違うが、同じプロセスを歩んでいる。

それでは党の初の女性党首は社会民主党を再び生き返らせることができるか。SPDの場合、複数の世論調査を見る限り、現時点ではユートピアに過ぎない。総選挙が実施されたならば、SPDはAfDの後塵を拝するのはほぼ間違いない。だから、ナーレス党首はメルケル首相の与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)との大連立政権を破棄できない。現時点で早期選挙に打って出るのは自滅行為以外の何物でもないからだ。

 一方、SPOはどうだろうか。誰が党首となっても現時点ではクルツ首相を破り、第1党になることは非現実的だ。ケルン前党首が政界から引退して再び実業界に戻る最大の理由は、「あと8年以上、野党党首としていたくないからだ」といわれる。それほどクルツ首相の国民的人気は高い。スキャンダルや不祥事が起きない限り、再選は確実と予想されている。だから、SPOに女性党首が担ぎ出されたとしても状況に大きな変化は期待できないのだ。

 SPDとSPOの女性党首は目下、来年の欧州議会選に焦点を合わせて戦っていく意向だ。ドイツとオーストリアの社会民主党は「労働者の政党」から「中産階級の政党」に脱皮し、再生を目指していくが、前途は決して明るくはない。

 地元のSPOに戻る。レンディ=ワーグナー新党首は党大会で党の基本計画を公表し、承認された。その内容は▲労働時間の短縮、▲富の公平な分割と連帯、▲最低賃金1700ユーロ、▲高騰する家賃対策のほか、医者出身らしく▲医療対策の充実を挙げていた。また、国連「移民協定」に参加を拒否したクルツ政権への批判といったところだ。

 「公平で平等な社会建設」を主張し、「労働者の天国」を標榜して生まれてきた共産主義社会は夢物語に終わったが、ワイルドな資本主義社会の問題が浮かび上がってきた今日、富の公平な分配と平等な分割など、社会主義的な主張が改めて叫び出されてきている。それだけに、社民党の役割は重要だ。

 SPO、SPDの女性指導者の持ち時間は決して多くないだろう。レンディ=ワーグナー党首が、「私は今日から走り出す。共に走ってほしい」と党大会で懸命にアピールしていたのが印象的だった。

ローマ法王の訪日に何を期待するか

 ローマ法王フランシスコが来年、日本を訪問する予定だ。バチカンを訪問した河野太郎外相は23日、ポール・リチャード・ギャラガー外務長官と会談し、フランシスコ法王が訪日を願っていることを受け、訪問の準備に乗り出すことで一致したという。実現すれば、1981年2月の故ヨハネ・パウロ2世以来、38年ぶりとなる。

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▲若い信者たちから愛されるフランシスコ法王(2018年10月8日、バチカン・ニュースから)

 フランシスコ法王は聖職者になった頃、日本に宣教を希望したが、健康問題があって実現されずに終わった。フランシスコ法王は親日派で2014年1月に行われたサンピエトロ広場での一般謁見で中東からの巡礼信徒に対し、厳しい迫害にもかかわらず信仰を守り通した日本のキリシタンを例に挙げて励ました、という話が伝わっているほどだ。

 安倍晋三首相は2014年にバチカンで法王と会談し、来日を招請。日本政府は法王に被爆地の広島・長崎を訪ねて被爆者のために祈祷を要請し、東日本大震災の被災地でも被災者に激励の声をかけてほしいとの希望を伝達したという。

 フランシスコ法王は法王は就任以来、韓国(2014年8月)、フィリピンとスリランカ(2015年1月)などアジア諸国を訪問済みだ。フランシスコ法王の訪日が決まると、アジア周辺のカトリック信者が法王に謁見するために日本を巡礼するだろう。特に、中国、台湾、韓国、フィリピンなどから日本人信者を上回るカトリック信者たちが巡礼訪問すると予想される。中国の地下教会のカトリック信者たちが観光目的を装って日本入りすることも考えられる。バチカンと中国共産党政権は9月22日、司教の任命権問題で暫定合意実現したばかりだ。

 ところで、日本にカトリック教の教えが伝来したのは西暦1549年。日本のカトリック信者数は約44万人(文化庁「宗教年鑑」平成29年版)と推定。新旧両教会の信者数を合わせても人口の1%に満たない。

 故ヨハネ・パウロ2世の訪日(1981年2月23〜26日)は約79時間の滞在時間だったが、日程は一杯で、後楽園球場で3万5000人の野外ミサ、武道館で約5000人の若者との集い、天皇陛下への表敬訪問、総理大臣との会談、超教派会合などのほか、広島と長崎でそれぞれ記念ミサが行われた。

 なお、フランシスコ法王は昨年2月、キリシタン大名の一人、高山右近を福者に認定して、列福式が行われたばかりだ。今年6月には、バーレーンの首都マナマで開催された国連教育科学文化機関(ユネスコ)の第42回世界遺産委員会は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」を世界文化遺産に登録決定。同月には大阪大司教区の大司教だった前田万葉師(69)が日本人としては6人目の枢機卿に選出された。2009年に亡くなった白柳誠一枢機卿以来の日本人枢機卿だ。そして来年の法王の訪日という具合に、日本カトリック教会にとって朗報が続いた。

 フランシスコ法王の訪日日程は今後、バチカンと日本政府の間で煮詰めていくだろうが、被爆地の広島と長崎両市の訪問は間違いないだろう。ただし、高齢なフランシスコ法王(81)に余り多くのことを期待しないほうが無難かもしれない。

 世界各地でカトリック聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、フランシスコ法王はその対応に苦慮している。欧米教会ではカトリック教会の信頼性は大きく揺れ、脱会者は増加し、聖職者不足は深刻だ。世界のカトリック教会を取り巻く環境は厳しいのだ。

 フランシスコ法王の訪日を控えて懸念材料といえば、法王の安全問題と共に、日本カトリック教会内で聖職者の未成年者への性犯罪が発覚し、メディアに流れる場合だ。残念ながら、件数は別として、日本教会でも過去、聖職者の性犯罪は発生しているからだ。

「赤の商人」中国がイスラエルに接近

 「われわれは5000年の歴史を誇る。あなたがたイスラエルは3500年の歴史を持っている。それに比べると米国は200年余りの歴史しかない」

 中国のビジネスマンがイスラエルを訪問し、商談する時、必ずと言っていいほど上記のセリフを吐くという。自国を誇り、商売相手のイスラエルを称賛する一方、米国を軽蔑する時の常套セリフという。海外中国反体制派メディア「大紀元」(11月23日)が報じていた。

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▲中国の通貨紙幣「人民元」(深セン・香港の観光旅行生活情報局の公式サイトから)

 大紀元によると、中国はイスラエルにも進出し、その先端科学技術を修得しようと虎視眈々と狙っている。それを読んで「商売上手なユダヤ人が中国のビジネスマンの甘い言葉に騙されるわけがないだろう」と思ったが、中国の上海国際湾務がイスラル最大の港湾ハイファ湾の一部運営権を25年契約で締結したという。そして別の中国企業がイスラエル南部アシュドッドに新たな港の建設契約を計画しているという。

 中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」(One Belt, One Road)構想に積極的に参加するギリシャ政府が2016年4月、同国最大の湾岸都市ピレウスのコンテナ権益を中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)に売却したように、イスラエル側も中国側が提供する巨額な商談に屈服したのだろうか。世界の金融界に君臨するユダヤ人商魂が中国企業の不透明な商談攻勢にやられたのだろうか。

 大紀元によると、世界の第2のシリコンバレーといわれるイスラエルに中国が接近し、イスラエル企業が保有している先端技術の企業機密を盗み取っているという。具体的には、医療用レーザー技術で知られるアルマレーザー社、医療技術ルメニス社、画像認識開発コルティカ社を含め、多くの技術企業の株式を取得している。中国側の対イスラエル投資総額は2016年は1615憶米ドルにもなるという。「中国のファーウェイ(華為)、レノボ(聯想)、シャオミ(小米)はイスラエルに研究開発センターを設置し、電子商取引大手アリババも大規模な投資を行っている」(大紀元)という。

 米経済誌フォーブス(電子版)は3月1日、「イスラエルのスタートアップへの中国企業の出資額は年々、上昇を遂げている」と報告し「アリババはイスラエルのデータ分析企業『SQream Technologies』に2000万ドルを出資した。また、中国のヘルスケア企業は1000万ドルの投資ファンドを組成し、イスラエルの医療関連企業への出資を行おうとしている」という。中国企業がイスラエル市場で活発な動きを見せているわけだ。

 米トランプ政権は中国の不公平な貿易取引、強制的な技術移転、知的財産盗用に対し対中経済制裁に乗り出して対抗中だ。そこで中国側は親米国のイスラエルに接近し、先端科学技術関連企業を買収し、その知的所有権を奪おうと画策しているわけだ。

 中国側の札束攻勢にイスラエル側が安易に屈服するとは思えない。2000年の亡命の歴史を経ながらも生き延びてきたユダヤ人の商魂は「赤の商人」の中国実業家にも負けない知恵と体験を持っているはずだ。

 もちろん、「商いの世界」では多くの資金を持っている側が基本的には有利だ。「赤の商人」の攻勢に対し、「ユダヤ商人」はどのように対応するだろうか、とても興味深い。

 米国ばかりか、ドイツなど欧州でも中国企業の買収や知的所有権の乱用に対し厳しい監視の目が注がれ出した。ドイツ政府は欧州連合(EU)域外の企業がドイツ企業に投資する場合、これまでは出資比率が25%に達した場合、政府が介入できる規制を実施してきたが、その出資比率を15%を超える場合に政府が介入できるように、規制を更に強化する方向で乗り出している。ズバリ、中国企業のドイツ企業買収を阻止する対策だ。イスラエル企業でも次第に中国マネーに警戒心が生まれてきている。いずれにしても、中国のイスラエル接近には目を離せられない。

韓国よ「反日」と「愛国」は全く別

 韓国に今最も必要なことは本当の「愛国心」を醸成することではないか。その前提条件は「愛国は反日とは全く別だ」という認識を持つことだ。

 韓国の為政者たちは過去、愛国心を高めるために「反日」を恣意的に扇動してきたが、「反日」と結びついた「愛国」は本当の愛国心とは成り得ない。

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▲朝鮮水軍司令官の李舜臣の銅像(ソウル光化門広場)

 自分が生まれ育った祖国、民族への愛には憎悪とか恨みといった感情は本来無縁だが、韓国では「反日」が「愛国」と密接につながり、「愛国」の証明と受け取られてきたゆえに、韓国には今だ本当の愛国心が生まれてこないのだ。換言すれば、韓国民は国を無条件で愛することができない苦悩を抱えているといえる。

 日本の与党自民党議員の中から「韓国は国の体をなしていない」という批判の声が飛び出している。その表現は少々過酷すぎるが、正鵠を射ている。なぜならば、韓国民は「反日」がない限り「愛国」をもてない異常な国に成り下がってしまったからだ。若い世代には「ヘル朝鮮」という言葉すら生まれてきている。

 韓国に過去、愛国心が醸成されなかったのは大国の支配を受け、統治される期間が長すぎたこともある。しかし、だから愛国心が生まれなかったとは弁解できない。韓国社会では戦後、「親日は愛国心欠如」といった空気が生まれていった。「反日」こそ「愛国心」の発露と誤解されてきたわけだ。

 例を挙げる。ポーランドは過去3回、領土を分割された苦い悲しい歴史を持っている。そのポーランド民族は欧州で愛国心の強い国として知られている。厳しい時代を支えたのは神への信仰だった。欧州社会は世俗化してきたが、ポーランドでは今なおローマ・カトリック教会がそれなりの存在感を有している。教会が厳しい時代の民族を支えてきた歴史があるからだ。そのうえ、欧州で聖母マリア崇拝が最も強い国だ。聖母マリアを“第2のイエス”のように崇拝する。

 ポーランド民族は厳しい時代、神への信仰で乗り越えてきた。同時に、ポーランド民族の愛国心を培っていった。その結果、少々融通性に欠けるが、愛国心を持つ国家として欧州で歴然としたプレゼンスがある。

 ポーランド民族には韓国民族のような侵略国家への強烈な憎悪感情はない。共産圏時代のロシア支配への強い抵抗はあるが、自国民族への愛国心、誇りの方がもっと強いのだ。一方、韓国はどうだろうか。悲しい歴史を体験した結果、愛国心まで失ってしまったのだ。その代償として特定の国、日本への強烈な敵愾心、反日感情が急成長していった。韓国は愛国心を育成することを忘れ、反日に奔走し、憎悪感情だけが異常に巨大化していった。

 愛国心を育成するためには、自民族で生まれた英雄の伝記を学ぶことが助けとなるが、韓国で英雄として崇拝されている「安重根」、「金九」、「尹奉吉」といった人物はいずれも反日、抗日活動家たちだ。韓国最大の英雄といわれる朝鮮水軍司令官・李舜臣将軍(1545〜98年)も同じだ。韓国では反日、抗日と関係のない人物は英雄となれないのである。

 反日活動を支えているものは「憎悪」だ。韓国は世界に少女像を設置し、「憎悪」を輸出している。「愛」ではない。そんな国が残念ながら現在の韓国だ。「憎悪」は破壊エネルギーだ。建設ではない。朝鮮半島の政情混乱の一因は「憎悪」という破壊エネルギーが全半島を牛耳っているからだ。

 韓国は自国を無条件に誇れる普通の国になりたいはずだ。民族の誇れるもの、人物を探しているのではないか。毎年、ノーベル賞週間になると、韓国メディアはノーベル賞に大騒ぎするのは、やはり誇れるものを探しているからだろう。文在寅大統領が密かに推進する「歴史の書き換え」作業も結局は誇れる民族探しの屈折した表現ではないか。

 韓国は中国に長い間支配され、近年に入っては日本に統治された時代を有している。それ故に、韓国民族は民族として誇れるものを他民族以上に希求しているはずだ。韓国人は自分の国、民族の歴史を愛せないことへの「苦悩」を反日で憂さ晴らししている、といってもいいかもしれない。

 繰り返すが、反日感情に密着した愛国心は韓国の本当の民族性を失わせるだけだ。現在の文在寅政権の動向を見ていると、その懸念が深まってくる。

元首相よ「人生の勝負」はこれからだ

 日本でも存命中の元首相となればかなりの数になるだろう。最高年齢の中曾根康弘氏を筆頭にランダムに書くと小泉純一郎氏、細川護熙氏、村山富市氏、森喜朗氏、麻生太郎氏、鳩山由紀夫氏、野田佳彦氏、そして菅直人氏だ。小泉さんや安倍さんを除けば短命政権だったため、名前を思い出すのも大変だ。医学の発展もあって、現役を終えて引退後も長く生きる政治家は今後増えるだろう。

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▲「新しい憲法を制定する推進大会」で講演する中曽根康弘元首相(2016年5月2日、東京・千代田区の憲政記念館)

 なんでそんな話を持ち出すかといえば、先日配信されたスイス・インフォに「同国では存命中の連邦大統領が18人もいる」というニュースを読んでちょっとビックリしたからだ。

 ところで、「なぜ、スイスに存命中の元大統領がそんなに多いのか」といえば、スイスの政治システムがある。スイスでは7人の内閣閣僚が毎年、交代で連邦大統領を務める「輪番制」を取っている。スイスの大統領は国家元首でも政府のトップでもない。ほかの閣僚と権限は変わらない。そのうえ、他国と比べ、スイスの大統領になるのは比較的簡単。議会によって閣僚に選出されれば、後は順番を待つだけだ。閣僚に就任後、遅くとも6年後には大統領になれるというわけだ。

 いずれにしても、18人も元大統領という政治家が現在も生存中となれば、元大統領という市場価値は当然下がるから、前大統領という肩書で講演して回るオバマ氏のようなサイド・ビジネスはスイスでは難しいだろう。

 スイス・インフォによると、スイスでは元大統領の数は18人だが、ドイツ(元首相)は1人、フランス(元大統領)と英国(元首相)は4人、米国(元大統領)は5人だ(ジミー・カーター、ジョージ・H・W・ブッシュ、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ)だ。

 一方、元首相となると、イタリアも日本と同じように結構多い。シルヴィオ・ベルルスコーニら11人だ。短命政権の多い日本やイタリアで存命中の元大統領、元首相が多くなるのは当然の結果だろう。

 元大統領、元首相となれば、退任後も身辺警備が不可欠となるが、その恩給や手当ても少なくない。ドイツの場合、1度大統領(任期6年)に就任すれば、途中、辞任したとしても終身恩給が支給される。ドイツでは大統領が退任した場合、連邦大統領の恩給に関する法(Gesetz ueber die Ruhebezuege des Bundespraesidenten)に基づき、終身恩給(Ehrensold)が支給される。額は年間約19万9000ユーロだ。それだけではない。専用車と秘書付だ。それも任期満了でも途中辞任した大統領でも同様の扱いを受ける、といった具合だ(「ウルフ氏(前独大統領)の老後対策」2012年2月20日参考)。

 辞任した大統領や首相の懐具合を覗いて、ああだこうだと騒いでも仕方がない。退任後の人生こそ問われる。元大統領、元首相となれば、多くは政治人生のピーク後の隠居生活といったイメージがある一方、元老として政界に影響力を行使する者も出てくる。

 18人の元連邦大統領を抱えるスイスでは退任後、開発と平和を推進する国連特別アドバイザーとして7年間、世界を回ったアドルフ・オギ氏、作家業を始めたカスパー・ビリガー氏など、さまざまな人生を歩んでいる。ドイツで唯一の存命中の首相ゲアハルト・シュレーダー氏は先日、凝りもせず5回目の結婚をした。

 それでは、日本の元首相の退任後の人生はどうか。欧州に住んでいるので日本の元首相の退任後の人生についてはよく知らないが、「宇宙人」と呼ばれた鳩山氏が訪韓や訪中の際、日本を厳しく批判する発言をしたというニュースは読んでいる。一方、元首相が社会に貢献している、といったニュースは余り流れてこない。

 例えば、菅直人元首相は3年前、欧州の非政府組織(NGO)の招きを受けてパリで講演し、そこで福島第一原発の汚染水について言及し、「福島第1原発がコントロール下にあるという安倍晋三首相は明らかに間違っている」と批判。また、鳩山由紀夫元首相は14年11月19日、韓国・釜山での講演で、安倍政権の対中、対韓政策を批判し、慰安婦問題では日本政府に謝罪と補償を要求。中国でも日本の歴史認識を批判し、中国共産党指導者を喜ばせたことは周知の事実だ。一部の口の悪い人は「元首相の老害」と批判している(「元首相たちの懲りない『反日発言』」2015年3月3日参考)。

 当方はこのコラム欄で、「日本政府や国民は今後も元首相の爆弾発言を外電を通じて聞くことになるだろう。今からでも『海外での元首相の発言への危機管理マニュアル』を作成し、その被害を最小限度に抑える心構えをしなければならないわけだ」と書いた。今も同じ考えだ(「元首相と呼ばれる政治家の『心構え』」2015年3月13日参考)。

 参考までに、第39代米大統領を務めたカーター氏(任期1977〜81年)は現役時代こそ「外交音痴」と散々批判されたものだが、退任後、世界の平和活動に貢献し、「和平交渉の調停人」として立派な歩みをしている。珍しいケースだ。

 昔は「人生50年」だった。今は「人生100年」になろうとしている。元大統領、元首相の退任後の人生は益々長くなる。それだけに第2、第3の人生をそのキャリアに恥じない立派な歩みをして頂きたい。

欧州の牙城「ポーランド教会」の告白

 ポーランドのローマ・カトリック教会は共産政権時代でも大きな影響力と権威を誇ってきた。ポーランド統一労働者党(共産党)の最高指導者ウォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領でさえも「わが国はカトリック教国だ」と認めざるを得なかったほどだ。

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▲ポーランドで大ヒットした映画「Kler」のポスター

 そのポーランドでクラクフ出身のカロル・ボイチワ大司教(故ヨハネ・パウロ2世)が1978年、455年ぶりに非イタリア人法王として第264代法王に選出されたのは決して偶然ではなかった。「神のみ手」と信じる信者たちが当時ポーランドでは多かった(「ヤルゼルスキ氏の『敗北宣言』」2014年5月27日参考)。

 ポーランドは過去、3国(プロイセン、ロシア、オーストリア)に分断されるなど、民族の悲劇を体験してきた国だ。ポーランド民族にとってカトリック教会は心の支えであり、熱心な聖母マリア崇拝もそのような歴史から生まれてきたわけだ。

 そのポーランドで聖職者の未成年者への性的虐待が過去、発生し、教会側はその事実を隠蔽してきたことが明らかになった。まさに、「ポーランドよ、お前もか」といった大きな衝撃を欧州教会に投じた。

 ポーランド司教会議は19日夜、同国南部チェンストホヴァの会合後、聖職者による性的虐待問題を認め、犠牲者、その家族、教会関係者に謝罪する声明文を公表した。曰く、「残念なことだが、ポーランドでも聖職者の未成年者への性的虐待が行われていた。原因や件数を把握するために情報を収集していく。聖職者の性犯罪は重い罪であり、犯罪だ」と指摘し、犠牲者に「どうか報告してほしい」と呼び掛けた。

 ポーランド教会の「罪の告白」は、自主的なものというより、認めざるを得なくなった、というのが事実に近いだろう。権威主義の強いポーランド教会を告白に追い込んだのは、同国の著名な映画監督ヴォイチェフ・スマジョフスキ氏(Wojciech Smarzowski)の最新作品「Kler」(聖職者)という映画だ。小児性愛(ペドフィリア)の神父が侵す性犯罪を描いた映画は今年9月末に上演されて以来、500万人以上の国民を動員した大ヒットとなった。同時に、教会に対し、聖職者の性犯罪の事実を公開すべきだという圧力が信者の間からも日増しに高まっていった。ちなみにポーランドでは国民の90%以上がカトリック信者だ。

 カトリック教会は同映画が上演されることを阻止するために、撮影を妨害するなどさまざまな圧力を行使してきたが、映画に対する国民の関心はそれを吹っ飛ばすほどだった。スマジョフスキ監督は、「教会指導者は過去、聖職者の性犯罪を隠蔽してきた。教会は責任をもって解決すべきだ」と述べている。

 欧州の代表的カトリック教国アイルランドで聖職者の性犯罪が大きな社会問題となったばかりだが、ポーランドは欧州の“カトリック主義の牙城”とみなされてきた。同国出身のヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月〜2005年4月)の名誉を傷つけたり、批判や中傷は最大のタブーとされた。だから、同国教会で聖職者の性犯罪があったということはこれまで一度も正式には報告されなかった。聖職者の性犯罪が生じなかったのではなく、教会側がその事実を隠蔽してきたからだ。

 ちなみに、故ヨハネ・パウロ2世が生前、母国のポーランド出身で米国居住の哲学者である既婚女性と懇意な関係であった。それを裏付ける法王と女性の間で交わされた343通の書簡と多数の写真が見つかったというニュースが流れた。ポーランド教会は当時、ヨハネ・パウロ2世と女性学者の関係を懸命に否定したものだ(「元法王と女性学者の“秘めた交流”」(2016年2月19日参考)。

 残念ながら、故ヨハネ・パウロ2世の出身教会、ポーランド教会でも聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発していた。この事実を同国教会が今月初めて認めたわけだ。画期的な出来事だ。その最大の功績は「聖職者」という映画だったわけだ。

 ボストンのローマ・カトリック教会聖職者による未成年者性的虐待の実態を暴露した米紙ボストン・グローブの取材実話を描いた映画「スポットライト」(トム・マッカーシー監督)は第88回アカデミー賞作品賞、脚本賞を受賞したが、スマジョフスキ監督の「聖職者」はポーランド版「スポットライト」と呼べるだろう(「『スポットライト』は神父必見映画だ」2016年3月4日参考)。

韓国「歴史の書き換え」に乗り出す

 韓国の文在寅大統領が今取り組んでいることは「歴史の見直し」といった生温いことではなく、「歴史の書き換え」というべきだろう。それだけに、「正しい歴史認識」をモットーに日本政府を糾弾してきた朴槿恵前政権より“革命的な試み”というべきかもしれない。これは“誉め言葉”ではなく、日本に危険をもたらすという意味だ。

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▲「歴史の書き換え」に乗り出した韓国の文在寅大統領(2018年11月20日、韓国大統領府の公式サイトから)

 日本の主要メディアが日産自動車代表取締役会長のカルロス・ゴーン容疑者の金融商品取引法違反事件での逮捕報道に追われていることもあって、余り注目されなかったが、文大統領は習近平中国国家主席との会談の中で、日本の植民地時代に独立運動の拠点となった「臨時政府」が重慶に設置されてから来年で100年になることに触れ、「中国内の独立運動の跡地の保存に協力を求めた」というのだ。それに対し、習主席は文大統領の願いに積極的に協力すると応じたという(韓国聯合ニュース11月17日)。

 この記事を読んだ時、朴槿恵大統領時代の「安重根義士記念館」のことを思い出した。朴槿恵大統領は2013年6月に訪中した際、習近平国家主席に安重根記念碑の設置を提案した。そして中国黒竜江省のハルビン駅で14年1月20日、「安重根義士記念館」が一般公開された(安重根は1909年10月26日、中国・ハルビン駅で伊藤博文初代韓国総監を射殺し、その場で逮捕され、10年3月26日に処刑された)。

 朴大統領の提案の段階では、「安重根記念碑」の建立だったが、中国側が一方的に“格上げ”して「安重根記念館」を建てた経緯がある。韓国はその時、中国側の配慮を感謝し、「韓国政府はハルビン駅に安義士の記念館が開館したことを歓迎し高く評価する」という同国外交部当局者のコメントを出している(「韓国は何を誤解していたのか」2016年7月12日参考)。

 文大統領は今回、習近平主席に「大韓民国臨時政府」が中国の重慶を拠点としていたことに言及し、「中国内の独立運動の跡地の保存」を要請したのだ。

 「安重根記念館」の設置はある意味でまだ理解できる範囲だ。テロリストも出身国では英雄とみなされるケースはよくあることだ。パレスチナのヤーセル・アラファートはパレスチナ人にとって「民族の英雄」だったが、イスラエルにとって「テロリスト」だった、という具合だ。だから、韓国が安重根を英雄として追悼記念する気持ちは分かる。しかし、「大韓民国臨時政府」の発足の地を歴史的記念の地として保存するという考えは、日韓併合条約を否定するものであり、韓国の建国史を根本から書き換えることを意味する。

 文大統領はここにきて反日攻勢を強めてきた。韓国大法院(最高裁)は先月30日、元「徴用工」(朝鮮半島出身労働者)の賠償請求権を認める判決を下し、1965年に締結した日韓請求権協定を破棄した。そして韓国女性家族部は21日、2015年末に日韓合意した慰安婦問題に関して「最終的かつ不可逆的な解決」に基づいて設立され、元慰安婦らの支援事業「和解・癒やし財団」を一方的に解散すると決定している。

 この一連の反日行為は日米韓の3国が中心となって北朝鮮に非核化を要求している時に行われた。文大統領が“バカな”政治家なら説明がつくが、人権弁護士であり、国際条約が何を意味するかを理解しているはずの文大統領が“今の時”がどんなに重要かを忘れ、「歴史の見直し」を超え、「歴史の書き換え」に乗り出してきているのには呆れるしかない。

 韓国政府の過去の対日政策について、誰でも理解できる合理的、理性的な説明を求めること自体はバカげているかもしれないが、文大統領の最近の「歴史の書き換え」は非常に危険な試みばかりか、朝鮮半島の政治安定をも危うくする。火遊びで終わらない問題だ。日本政府は「誰と対峙しているか」を再度明確にし、外交と政治の両分野から危機管理に乗り出すべきだ。安倍晋三首相の「戦略的放置」は現時点では最も合理的な選択肢かもしれない。

金正恩氏と「裸の王様」の話

 デンマークのハンス・クリスチャン・アンデルセンの代表的童話に「裸の王様」がある。読者の皆様はご存じだろうが、そのストーリを少し紹介する。

 「2人の仕立て屋が『自分の地位にふさわしくない者やばか者の目』には見えない、不思議な布地で衣服を作るというのを聞いたので、王様は早速2人を城に呼び、新しい衣服を作らせた。2人は『バカ者にはみえない布地』で衣服を織るふりをする。家来や大臣の目には何も見えないが、バカ者と思われたくないので仕立て屋の説明通りに王様に報告する。王様は新しい衣服を見るが、見えない。家来たちには見えた布が自分に見えないとは言えず、布地の出来栄えを大声で賞賛し、周囲の家来も調子を合わせる。パレードの日を迎えた。集まった国民も『バカ者』と思われたくないので、歓呼して衣装を誉めそやす。その中で、沿道にいた1人の小さな子供が、『王様は裸だよ!』と叫び、群衆はざわめく」

 以下は、なぜ「裸の王様」の話をしたかを説明する。

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▲朝鮮半島の非核化を確認した「板門店宣言」に署名した金委員長と文大統領(南北首脳会談プレスセンター提供、2018年4月27日)

 文在寅大統領は9月に訪朝し、金正恩朝鮮労働党委員長と3回目の南北首脳会談を行ったが、その際、金正恩委員長に訪韓を招請した。金正恩氏はそれを快諾し、年内にソウルを訪問すると約束した。

 文在寅大統領は17日、パプアニューギニアで中国の習近平国家主席と会見した際、「2回目の米朝首脳会談の成功と金正恩氏のソウル訪問が朝鮮半島問題解決の重大な分水嶺になる」と述べた。文大統領が金正恩氏のソウル訪問をどれだけ切望しているかが分かる。

 同大統領は先月28日、記者から「金委員長が答礼訪問したときに何を見せるのか」と問われると、「金正恩委員長がソウルを答礼訪問する場合、南部・済州島の漢拏山に金委員長と共に行きたい」(韓国聯合ニュース)と述べるなど、遠足を心待ちにする園児のように今からワクワクしている様子を示した。

 北朝鮮では金正恩氏は、人民の歓迎を受け、喝さいを浴びる。そのような生活を当然と考えて成長してきた3代目の世襲独裁者だ。その金正恩氏がソウルを訪問した場合を想像してほしい。板門店ならば側近に囲まれており、たとえ韓国領土に入ったとしても韓国民はおらず、韓国民の生活や考え方を知る機会は皆無だ。

 金正恩氏は偽名でスイス・ベルンで短期間留学していたから、国際社会を知っている、と考える向きもあるかもしれないが、金正恩氏は当時、まだ独裁者ではなかった。「裸の王様」は王子の話ではなく、王様の話だ。同じように、「留学生時代の金正恩氏」の話ではなく、「独裁者となった金正恩氏」の話だ。

 金正恩氏がソウル入りすると、行く先々で金正恩氏を大歓迎し、統一旗を振るのは一部の左翼活動家か、韓国政府関係者だろう。大多数の韓国民は「あれが金正恩か。若いのに太りすぎだな」といった印象を持つだろう。北に親族関係者を持つ「以北民」は金正恩氏に向かって罵声を飛ばすかもしれない。脱北者の場合、金正恩氏は最大の憎しみの対象だ。罵声で済むかどうか治安関係者も気が気でない。多分、脱北者は金正恩氏の訪問先には近づけられないだろう。

 金正恩氏の傍で文大統領は国民の反応を心配顔で見つめる。南の国民と対話する金正恩氏が実現すれば、大きな「絵」になるし、南北融和を象徴する絶好のシャッターチャンスだが、金正恩氏と対話できる韓国民は準備され、選択された国民であり、普通の国民ではないことは皆知っている。

 路上で旗を振る国民は少なく、時には罵声も耳に入る。トランプ米大統領がツイッターで「チビデカ」とか「ロケットマン」と金正恩氏を中傷した言葉がソウルでも飛んでくる。賢い文大統領はそのようなシーンが生じないために、韓国民の声が届かない済州島の漢拏山に金正恩氏を誘うかもしれない。

 金正恩氏は独裁者であり、人民を弾圧し、反体制派を政治収容所に送る一方、多数の国民を粛正してきた。すなわち、金正恩氏がソウルを訪問すれば、非情で冷血漢の独裁者の姿をもはや隠すことはできなくなる。金正恩氏は文大統領が懸命に隠そうとしてきたものと対峙しなければならなくなる。ソウルの小さな子供はきっと「ねえ、あの太った人は誰?」と傍の父親に聞くだろう。

 「裸の王様」は「バカ者には見えない布」で出来た衣服を着てパレードに出たが、小さな子供に直ぐに見破られた。一方、北の独裁者は、如何に多くの笑顔を振りまいたとしても、ソウル市民の目には「世襲独裁者」に過ぎないのだ。ひょっとしたら、金正恩氏本人がそのことを最もよく知っているかもしれない。金正恩氏はバカではないからだ。だから、当方は金正恩氏が本当にソウルを訪問するとは信じられないのだ。

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