ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2017年06月

トランプ氏の「破格の待遇」は高価?

 韓国の聯合ニュース(日本語版)を読んでいると、ニュース・ランキングで29日正午現在(現地時間)、トップは「トランプ氏、文大統領へ破格の待遇」というタイトルの記事だった。文大統領は28日、就任初の外遊先、アメリカに飛び立ったが、3日間の滞在中、30日にトランプ大統領との初の米韓首脳会談が予定されている。それに対し、トランプ大統領は「破格の待遇で最高のもてなし」を準備しているという。韓国国民の自尊心をくすぐるような見出しだ。

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▲訪米に出発する文大統領夫妻(2017年6月28日、韓国大統領府公式サイトから)

 「文在寅大統領はトランプ米大統領との首脳会談のため、28日(米東部時間)からの3泊、ワシントン・ホワイトハウス前にある迎賓館に宿泊する。同館は米政府が外国首脳に提供する迎賓館。韓国の歴代大統領のうち、初訪米でブレアハウスに3泊以上宿泊するのは文大統領が初めてとされる。外交筋は『それほど米国政府が文大統領を手厚くもてなすという意味』と説明した。また、トランプ大統領が外国首脳夫妻を招き、ホワイトハウスで歓迎夕食会を行うのは文大統領が初めてとなる」

 聯合ニュースの「最高のもてなし」とは、「ホワイトハウスで初訪米の外国首脳夫妻を招いて、歓迎夕食会を開く」という点に集約されるだろう。朝鮮半島が緊迫化し、いつ暴発するか分からない現状を踏まえると、トランプ氏は文大統領との意思疎通を深めたいことは間違いない。その為にゲストの心をほぐす狙いからも、「私たちはあなたを最高に歓迎します」というシグナルを送ることになったのだろう。

 米韓両国には難問が少なくない。米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の韓国配備問題では、到着した2基は配置されたが、他の配置については適正な環境影響評価が行われた後に決めるという。当然、配備の遅れが予想される。それだけではない。対北朝鮮政策で米韓には微妙な違いがある。
 トランプ大統領は、「北が核実験、ミサイル発射を停止し、完全に凍結したことが検証された後、北と対話に応じる」という立場だが、韓国側は、「北が核実験、ミサイル発射など挑発的行為を中断すれば、対話する」と表明してきた。

 文大統領は24日、世界テコンドー大会の開会式の挨拶で、2018年の平昌冬季五輪大会に南北統一チームの結成を提案するなど、スポーツ外交を通じて南北間の緊張緩和を推し進めようとしてきた。要するに、文大統領としては早期南北首脳会談を開催したい、というのが本音だろう。トランプ大統領は文大統領のこの政治的野心を宥め、対北政策で統一戦線を構築することが大きな課題だ。

 トランプ大統領は職業政治家ではない。実業界出身の大統領だ。ビジネスマンが大きな商談をまとめようとすれば、相手へのもてなしが大切となることを知っているはずだ。トランプ氏の「破格の待遇」とは、とりもなおさず、米国側に韓国への要求が山積していることを示唆しているわけだ。上述した軍事的課題だけではなく、米韓の貿易収支問題、朝鮮半島の安全に対する韓国側の負担増加問題などがある。
 トランプ大統領の「破格の待遇」はその背後にビック・ディ―ル(大きな取引)が控えていることを意味する。決して一方的なプレゼントでもないし、もちろんタダではない。

 ちなみに、聯合ニュースが29日報じたところによると、韓国大統領の訪米に随行する韓国経済界は「米国で今後5年間に総額128億ドル(約1兆4400億円)を投資する」と発表している。経済人団はサムスン電子やLG電子、SKグループ、斗山グループ、CJグループ、LSグループ、GSグループなどの関係者ら計52人で構成されている。投資は米国での工場設立や生産設備拡充、次世代技術の研究開発(R&D)、現地企業のM&A(合併・買収)などが中心という。

 いずれにしても、トランプ氏は4月6日、中国の習近平国家主席夫妻を招待した夕食会で、「習国家主席、わが軍が今、シリアに向け巡航ミサイルトマホークを発射した」と述べ、中国のゲストを驚かせたが、文大統領夫妻を招いた歓迎夕食会の席で、「文大統領、わが軍は今、平壌に向け巡航ミサイル、トマホークを発射したばかりだ」といったサムライズが起きないことを願いたい。

 韓国内では反米感情が依然、強い。朴槿恵前大統領時代の駐韓マーク・リッパート米大使襲撃事件(2015年3月5日)を思い出すまでなく、何か生じると米国批判が飛び出す。その反米運動の背後には親北勢力が暗躍していることは周知のことだ。

 一方、米学生の死亡事件で米国内の対北感情は一層厳しくなっている。朝鮮半島で緊迫がさらに深まるようなことがあれば、トランプ氏の忍耐がいつまで続くかは分からない。朝鮮半島の将来のためにも、米韓首脳の初顔合わせが双方にとって実り多きことを期待する。

独連邦議会「同性婚公認法」採決へ

 同性婚の公認問題では、頑固にその信念を守って拒否してきたメルケル独首相が26日夜、ベルリンで開かれた雑誌 Brigitte 主催の討論会の席で、「全てのための婚姻(同性婚問題)は非常にデリケートな問題だ。各自の良心が問われるテーマだから、党も議員を縛ることなく、各自が判断すべきだ」と発言した。早い話、同性婚を拒否してきた与党「キリスト教民主同盟」(CDU)は党としてはもはや反対しない。各議員が自主的に判断すべきだというのだ。

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▲同性婚問題に応えるメルケル独首相(2017年6月26日、ドイツ連邦政府の公式サイトから)

 独週刊誌シュピーゲル(電子版)はメルケル首相の同性婚への急展開を速報で流した。ドイツで9月24日、連邦議会(下院)選挙が実施されるが、同性婚公認問題は大きな争点となっているからだ。

 CDUと連立を組む社民党(SPD)は今月25日、ドルトムントで開催された党大会で選挙公約をまとめたが、中低所得者への減税などの税改革や失業手当の充実などのほか、同性婚の公認を挙げている。その直後、メルケル首相は同性婚公認の方向を示唆したのだ。

 4選を狙うメルケル首相の今回の発言は、SPDが公約として掲げる同性婚問題を選挙争点から外す狙いがあったはずだ。その一方、同性婚問題は連邦議会選後にゆっくりと審議をすればいいと考えていたはずだ。それに対し、SPDは「今週中に同性婚関連法案を採決したい」と言い出したのだ。実際、CDUが支持しなくても、連邦議会では「緑の党」、「左翼党」、「自由民主党」(FDP)が支持しているから、議会で採決の見通しはほぼ確実だった。しかし、SPDが同性婚の是非を問う採決を控えてきたのは、CDU・「キリスト教社会同盟」(CSU)との連立政権協定で、同性婚についてはこの任期中は採択しないことで合意していたからだ。メルケル首相が同性婚を認める方向に動き出した以上、SPDもこの機会を逃すことはできない。そこでSPD、緑の党、左翼党からの動議を受け、議会法律委員会は28日、夏季休暇に入る最後の議会開催日(6月30日)、連邦議会で同性婚関連法案を採決することを決定したばかりだ。

 欧州では1989年、デンマークが「登録パートナーシップ法」を初めて採択し、他の北欧諸国もその流れて従った。そして2001年、オランダが同性婚を導入したことから、同性婚法、登録パートナーシップ法、そしてパートナーシップ法の3様の関連法が出揃ったわけだ。ちなみに、ローマ・カトリック国のフランスで2013年5月、同性婚を認め、ローマ・カトリック教会の総本山バチカンのあるイタリアも同性婚を認めたばかりだ。

 ドイツではこれまで社民党と緑の党の連立政権時代の2001年に採決された「登録パートナーシップ」が施行中で、養子権は認められていない。ドイツ民法1353条では、「婚姻は男と女の一夫一婦制の生活共同体」と定義し、婚姻の権利と義務が記述されている。同性婚が公認されればその修正が必要となる。

 シュピーゲルはメルケル首相の同性婚公認とも思える発言を、「純粋な選挙戦略に過ぎない」と冷静に受け取り、「メルケル首相は党内の保守派議員の強い抵抗に直面するだろう」と予想している。

 なお、ドイツ政党の中で政党として同性婚に反対しているのは野党の右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の1党だけとなる。同党はメルケル首相の軌道修正を歓迎し、「わが党が唯一、保守的世界観を維持している」として、選挙で伝統的な保守派有権者の支持を期待している。

デップは独語で「馬鹿」を意味する

 既に謝罪している人について、今更、ああだ、こうだと言っても余り意味がないが、やはり言いたくなる。米人気俳優のジョニー・デップさんが22日、英国の音楽祭で、トランプ米大統領の暗殺を促すような冗談を飛ばした。本人は後日、自身の発言への批判の大きさに驚き、「悪意はなく、誰かを傷つけるつもりもなかった」と謝罪している。

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▲米国俳優のジョニー・デップさん(映画「パイレーツ・オブ・カリビアン、呪われた海賊たち」(2003年)のポスター)

 考えてもほしい。デップ氏ではなく、普通の米国人が舞台の上から「トランプ大統領を暗殺しよう」と呼びかければ、警察のお世話になることは間違いない。デップ氏の場合、著名な俳優であり、その言動が日頃から常識外れが多いことで有名だから、「また、馬鹿なことを言って」といった程度で済まされるかもしれない。しかし、デップ氏よ、事は謝罪ぐらいで済ませられないほど深刻だ。

 トランプ氏が大統領に就任してまだ半年も経過していないが、ハネムーン期間の100日などなく、就任直後からメディアのバッシングを受けている。そのような米大統領は過去、トランプ氏しかいないだろう。もちろん、かなりの責任は新大統領自身の暴言、失言、経験不足が原因で、本人の責任といえるかもしれないが、心配する点は国が選出された新大統領に対し、最低の敬意すら示していないようにみられることだ。

 メディアやハリウッド界では伝統的に民主党支持者が多く、その言動はリベラルだ。彼らからすれば昨年11月の米大統領選でクリントン女史が新大統領に選出されていたならば、もう少し心が休まったかもしれないだろう。しかし、米国民は政治分野でまったく未経験の実業家出身のトランプ氏を選んだ。トランプ氏は大統領ポストを賄賂や脅迫で奪い取ったのではないのだ。民主的に選出された大統領を「暗殺してみたらどうか」と冗談でもいうべきではないのだ。

 民主主義を日頃から誇ってきたリベラルなメディア、俳優たちが選挙で選出された大統領を最初からこき下ろすような批判、中傷を展開することは、民主主義への裏切り行為だ。メディアは批判することが仕事かもしれないが、偏見や嗜好が絡んだ批判はよくない。トランプ氏を罷免することを前提に事実を集めて報道すべきではない。

 国民が批判する米大統領を外国が尊敬するだろうか。トランプ大統領は行く先々で国内と同じように批判にさらされている。トランプ氏が英国訪問をキャンセルしたのもその結果だ。反トランプ旋風を扇動する米国民は米国の国益を阻害していると理解すべきだろう。デップ氏もその一人だ。

 ところで、デップ(Depp)は独語では「お人よし、のろま、馬鹿」を意味する。だから、馬鹿が冗談を言った、という程度で受け取ればいいのかもしれないが、自国の大統領の暗殺をそそのかすような冗談は明らかに許容範囲を超えている。

 読売新聞によると、デップさんは観客に、「ここにトランプを連れて来てくれないか」と呼びかけ、ブーイングが起こると、「俳優が最後に大統領を暗殺したのは、いつだった?」と語ったという。1865年にリンカーン米大統領が俳優ジョン・ウィルクス・ブースに暗殺された事件を連想させたというのだ。もしトランプ大統領に後日、何か不祥事が生じたらどうするのか。

 デップさん、ドイツ語圏を訪問された時は自分の名前の意味が何かを決して忘れず、脱線しないように賢明に振舞って頂きたいものだ。

なぜ男と女は一緒に祈れないか?

 イスラエルのメディアが25日報じたところによると、ネタニヤフ首相はエルサレムの「嘆きの壁」で男女一緒に祈れる場所を設置する案を拒否した。同首相は昨年段階では同案を支持していた。
 「嘆きの壁」ではこれまで男性が祈る場所と女性の祈祷の場所は分かれ、男女が一緒に祈ることは禁止されていた。それに対し、外国から移住してきたリベラルなユダヤ人たちから「時代遅れだ」と指摘され、男女共に祈る場所を設置する方向でほぼ一致していたが、保守派のユダヤ人グループの巻き返しにあってその案は却下されたわけだ。

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▲「嘆きの壁」で祈るユダヤ人(ウィキぺディアから)

 男女一緒に祈りを捧げるのを推進してきたのは「壁の女性たち」(Neshot Hakotel)というグループで、「嘆きの壁」での男女平等を実現するために久しく戦ってきた。一方、厳格なユダヤ人政治家らは同グループの提案に強く反対してきた経緯がある。

 「嘆きの壁」の歴史を簡単に紹介する。ソロモン王が紀元前10世紀ごろ、神殿を建設したが、紀元前587年にバビロニアによって破壊された。紀元前515年に神殿は再建されたものの、今度はローマ軍が西暦70年に破壊した。その神殿の西壁の残滓が今日の「嘆きの壁」だ。ユダヤ人にとって最も聖なる場所だ。今回の決定に対し、海外移住組のリベラル派ユダヤ人に強い失望が聞かれる

 ところで「なぜ男と女が一緒の場所で祈れないか」という素朴な疑問について考えると、アブラハムを「信仰の祖」とする唯一神教の女性蔑視思想にまでどうしても遡らざるを得なくなる。

 「男尊女卑」の流れは、旧約聖書「創世記」2章22節の「主なる神は人から取ったあばら骨でひとりの女を造り……」から由来していると受け取られている。聖書では「人」は通常「男」を意味し、その「男」(アダム)のあばら骨から女(エバ)を造ったということから、女は男の付属品のように理解されてきた。
 モーセが奴隷生活を強いられてきたエジプトから“神の約束のカナンの地”に向かって出エジプトをした時、旧約聖書の民数記1章では「イスラエル人60万人がエジプトから出ていった」と記述されているが、その数は成人男性の数だけで、女性は含まれていない、といった具合だ。


 ユダヤ教から派生したキリスト教の神学を創設した古代キリスト教神学者アウレリウス・アウグスティヌス(354〜430年)は、「女が男のために子供を産まないとすれば、女はどのような価値があるか」と呟き、「神学大全」の著者のトーマス・フォン・アクィナス(1225〜1274年)は、「女の創造は自然界の失策だ」と言い切っている。現代のフェミニストが聞けば、真っ赤になるような暴言だ。ローマ・カトリック教会は2000年の年月を経過したが、いまだに女性聖職者を拒否している(「なぜ、教会は女性を蔑視するか」2013年3月4日参考)。

 ちなみに、オーストリアのローマ・カトリック教会最高指導者シェーンボルン枢機卿は、「懺悔室で最も多く囁かれる問題は男女間の問題だ」と話していたが、「男と女」間の関係が有史以来最大の問題として今日まで未解決のままになっているという。
 「嘆きの壁」は高さ約19メートルだが、男と女の間に聳える壁はそれ以上に高いだろう。男と女が同じ場所で手を取って神の前で和解の祈りを捧げる日は到来するだろうか。

コール氏をより身近に感じるため

 東西両ドイツの再統一を実現し、欧州連合(EU)の統合を促進してきたヘルムート・コール元独首相の歩みについて、独週刊誌シュピーゲル最新号(6月22日号)は30頁余りの特集を組んでいた。そこには人間コール氏の側面が浮かび上がるようなエピソートが溢れていた。多分、日本の読者にとって初耳のエピソードもあるだろう。そこで2、3の面白いエピソードを紹介する。

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▲87歳で亡くなったヘルムート・コール氏(コンラート・アデナウアー財団のHPから)

 コール氏は大男だ。193cmで体重も久しく120kgを超えていた。コール氏は食事が大好きだった。その食事摂取量は通常の人の2倍から3倍にもなったという。知人や友人と食事をしている。隣席の人があまり食べないと、「君は食べたくないのかね」と言って自分のフォークでその人のお皿から食べ物をつまみ、自分の口に平気で入れてしまう。

 車で移動する時は秘書に「食べ物を買っておいただろうね」と必ず念を押す。車が動き出すと、秘書か準備していたおやつや軽食を早速食べだす、といった具合だ。大好物はパスタとそのソースだ。メインが終われば、必ずプディングを食べたという。

 シュピーゲル誌によると、ドイツの首相の食事は一様に健康には程遠いという。ヘルムート・シュミット首相(任期1974〜82年)はインスタントスープとコーラを、ゲアハルト・シュレーダー首相(同1998〜2005年)はストレス解消のために頻繁に赤ワインを飲んでいたといった具合でゆっくりと食事を楽しむことは少なかったという。

 その点、コール氏は例外だ。コール家は代々大男が多く、それでいて長寿の家系だったという。大好きな食事を人の2倍、3倍食べながらも大病に罹ることもなく長生きする。コール家系の誇るDNAが羨ましくなる。

 コール氏の人間関係ははっきりしていた。友か敵かの2通りしかなかった。中途半端な第3者はいなかった。コール氏が党関係者や知人に要求するものはロイヤリティ―だった。それを知っている関係者はコール氏が深夜遅くまでその日の出来事の話をする時、疲れたと言って席を立てば、コール氏から「あいつはロイヤリティ―がない」といわれる恐れがあったから、必死になって眠気と戦ったという。ある関係者などは膝に針を刺して眠気と戦いながら、退屈なコール氏の話に耳を傾けざるを得なかった、という。

 コール氏は政敵や好きでない人から批判されたり、バカにされたとしても、その場で顔色を変えないが、後でその人間が何を言ったか決して忘れることがなかったという。記憶力は抜群だったという。

 コール氏はルードヴィヒスハーフェン・アム・ライン生まれの地方出身の政治家だった。ベルリンや大都市出身の党関係者からバカにされたり、揶揄されたりするのが嫌だったという。その点はコール氏は小心だった。

 興味深い点は、東西両ドイツの再統一問題に対するコール氏の姿勢だ。コール氏の時代、多くの知識人たちは、「ドイツの分断はアウシュビッツ強制収容所のユダヤ人虐殺など多くの戦争犯罪を犯した民族への刑罰」と捉える傾向が支配的だった。そのため、ドイツの再統一という発想はタブーであり、考えられないことだった。コール氏が両ドイツの再統一を主張し出した時、政治家や知識人たちの間から「戦争犯罪を否定する考えだ」といった批判の声が飛び出したという。

 コール氏は戦後の「戦争犯罪による民族刑罰論」を脱皮し、ドイツ民族の再統一を主張し、それをやり遂げた。コール氏が「ドイツの戦争犯罪刑罰論」から抜け出すことが出来た主因は、同氏がナチス・ドイツ政権と全くかかわりのない戦後初めての政治家だったということもある。

 シュピーゲル誌にはまだまだ多くのエピソードが紹介されている。それを知ると、コール氏という政治家を身近に感じだす。コール氏は偉大なドイツ政治家だったが、それだけではない。非常に愛すべき人間だったことが理解できる。

 ただし、コール氏は41年間連れ添ってきたハンネローレ夫人を不幸なことで亡くして以来、再婚した現夫人のマイケ・コール・リヒター夫人に余りにも依存してしまった結果、2人の息子さんやその孫との交流は閉ざされ、長男のヴァルター・コール氏は、「父親の死を運転中のラジオニュースで知った」というほど父親と2人息子の家族とは意思相通が完全に途絶えていた。亡くなった父親を慰問するために実家を訪ねたヴァルター・コール氏の家族は門前払いされている。

 家庭内の問題は部外者があれこれ言えないが、コール氏は政治の世界に生きてきた人間だった。家庭内の交流が欠けていたのかもしれない。その点、本人も含め家族にとって寂しいことだったろう。

北のテコンドー外交とその担い手

 ラップトップを開くと、グーグルのサイトが出てきた。武道着を着た男性が足を挙げたり、けったりしている動画が出てきた。今日は「空手の日」だったかな、と一瞬思ったが、「世界テコンドー大会」という説明が付いていた。「世界テコンドー連盟」(WTF)主催の「世界テコンドー大会」が24日、韓国中部の全羅北道茂朱で開催されたのだ。
 
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▲北朝鮮IOC委員の張雄氏(2003年6月、ウィーンITF本部にて撮影)

 WTFによると、183カ国・地域から選手969人と役員ら796人が参加する。同時に、北朝鮮の「国際テコンドー連盟」(ITF)の演武団(36人構成)が10年ぶりに訪韓し、来月1日までWTF演武団と計4回の公演を予定しているという。

 北演武団には、国際オリンッピク委員会(IOC)メンバーで、ITF名誉総裁の張雄(チャン・ウン)氏、2015年8月ブルガリアで開催されたITF総会でITFトップに就任した李勇鮮(リ・ヨンソン)総裁らも顔を見せ、大会を盛り上げている。

 南北テコンドーが一堂に会した今回のイベントの意義を理解するために、テコンドーの歴史を少し復習する。朝鮮半島が南北に分裂したように、テコンドーも韓国主導のWTFと北主導のITFに二分してきた。

 ITFはその後、三分裂した。ITFは1966年、崔泓熙(チェ・ホンヒ)氏が創設したが、同氏が2002年に死去すると、同総裁の息子・重華(ジョンファ)氏を中心としたITF、ITF副総裁だったトラン・トリュ・クァン氏が旗揚げしたITF、そして張雄総裁を中心とした現ITFの3グループに分裂した。それぞれが「わがテコンドーこそ崔泓熙氏が創設したITFだ」と主張し、本家争いをしてきた経緯がある。ただし、加盟国、会員数では、ITF3グループを合わせてもWTFには及ばない(南北テコンドーの再統一成るか」2015年8月23日参考)。

 ところで、張雄名誉総裁は南北に分裂したテコンドーの再統一に努力してきた中心的人物だ。創設者・崔泓熙氏の死後、13年間総裁を務め、韓国主導のWTFとの連携に力を注いできたことはこのコラムでも何度か紹介した。

 当方は過去、張氏に数回インタビューしたが、質問前には必ず、「政治的質問はしないでほしい。質問はスポーツ関連に限る」と注文を付ける。政治問題には沈黙を守る。それが張氏の北で生き延びていく道だからだ。
(張氏は1938年7月、平壌に生まれている。平壌外国語大卒、1996年7月からIOC委員を務めている。98年4月から体育省第一副相、朝鮮オリンピック委員会副委員長。2002年9月からITF総裁に就いている。若い時、北朝鮮の代表的バスケットボール選手として活躍した)。

 張氏は心臓病を患っているが、南北テコンドーの統一問題になると必ず顔を出す。健康的にはかなり無理しているのかもしれないが、「南北テコンドーの再統一」は自分のライフワークだ、という気概がまだあるのだろう。

 朝鮮半島の政情は、「米学生の死」以来、これまで以上に緊張を高めてきている。それだけに、韓国で南北テコンドーの合同演武会が開催されることは緊張緩和という観点からいえば、非常に意義があるが、注意も必要だろう。

 金正恩労働党委員長は、北との対話チャンネルを模索する文在寅大統領に甘い誘いをかける機会を狙っているだろう。張雄氏は3代続く金独裁政権の忠実なスポーツ外交官だ。同氏はその金正恩氏から“テコンドー外交”の使命を受けているわけだ。

 なお、個人的には、張氏が国内の政情に関して自身の意見を言わない限り、北は依然、テコンドーを含む全てのスポーツを享受できる国家とはなっていない、と考えている。

平壌発「米学生の死」の謎解き

 北朝鮮から解放され、米国に帰国した米バージニア大の学生、オットー・ワームビア氏(Otto Warmbier、22)が19日、地元の病院で死亡した。ワームビア氏は観光目的で北朝鮮を訪問し、政治スローガンが書かれたポスターをホテルから持ち帰ろうとして、2016年1月2日に拘束された。裁判で15年の「労働教化刑」を言い渡されたが、昏睡状態に陥り、今月13日に解放された。

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▲22歳で亡くなったオットー・ワームビア氏(ウィキぺディアから)

 ワームビア氏の両親によると、北朝鮮は、「ボツリヌス菌の毒素による中毒で体調を崩し、睡眠薬を服用後に昏睡状態になった」と説明したが、米国の医師は、「ボツリヌス菌による中毒の症状は見られない。ただし、ワームビア氏は脳のあらゆる部分で組織が大きく損傷しており、呼吸停止で脳に酸素が行き渡らなかった症状と合致する。激しい殴打の証拠となる頭蓋骨骨折などの形跡はなかった」という。

 以上、米学生の動向に関する読売新聞ら日本メディアの総括だ。以下は、当方の推測だ。それを裏付ける情報は目下、十分でないことを先ず断っておく。

 北朝鮮は22歳の若い米学生に対し、何らかの細菌やウイルスを使った生物兵器の実験をしたはずだ。学生が昏睡状態に陥ったことを受け、米国側からの強い要求もあって、帰国させることを決めた。その狙いは、米国側に北の生物兵器のレベルを知らせることにあったのではないか。

 米本土まで到着する大陸間弾道ミサイル(ICBM)完成までまだ時間がかかる。一方、トランプ大統領は北側に軍事攻勢も辞さない政治家だ。そこで金正恩労働党委員長は拘束してきた米学生に最新開発の生物兵器の効果を実験した。そして昏睡状況になった段階で米国に送り返した。北の核ミサイルはまだ米国本土に届かないが、「われわれはソウルをいつでも破壊させる生物兵器を有している」というメッセージをワシントン向けに発信し、トランプ大統領の対北軍事攻勢という選択を諦めさせようとしたのではないか。

 実験には若い健康体の人間が必要だった。不幸にも観光目的で平壌を訪問中だった米学生がその対象に選ばれた。興味深い事実は、同学生の姓名がドイツ語系だということだ。「オットー」という名前はドイツ語圏ではありふれた名前だが、「ワ―ムビア」という姓名は珍しい。その名前の意味は「生暖かいビーア(ビール)」だ。ビール通にとって「美味しくないビール」だ(実際の米学生の家族とは全く関連はなく、当方の一方的な解釈であることを改めて断っておく)。

 ワームビア家は北ドイツから米国に渡った移民家庭であり、母親系はユダヤ人だから、ワームビア氏はユダヤ系米国人ということになる。実際、大学では「ユダヤ学生グループ」のメンバーとして活躍していた。経済・商学を学んできた学生だ。父親は金属加工関連会社を経営する一方、母親系は米国で薬局を経営していた。

 米学生の両親は司法解剖を拒否している。米当局は学生が北から帰国した直後、学生の健康を詳細に検診し、学生の死亡理由が生物兵器の実験結果である、という事実を掴んだはずだ。その情報を聞いたトランプ大統領は「非人道的な残忍なやり方」といった表現を使い北側を批判したわけだ。もちろん、米当局から学生の家族にも連絡が入ったと思う。「司法解剖を願わない」という両親側の決定には人間的な情もあるが、それ以上に何らかの機密に関する内容があったからかもしれない。同時に、ユダヤ教の宗教的な理由から司法解剖を受け入れられなかったこともあり得る。ユダヤ教の場合、死亡した人は24時間以内に埋葬されなければならないからだ。

 いずれにしても、米国側は北側のメッセージを受け取ったはずだ。北にはいつでも実戦に投入できる、米国にもないほどの強力な生物兵器があることが伝わったとみて間違いないだろう。ただし、金正恩氏が期待していたような、トランプ氏の軍事介入を阻止できるか否かは不明だ。ちなみに、韓国国防省によれば、北は13種類の兵器用の細菌、ウイルスを保有しているという。フセイン時代のイラクでは、大量のボツリヌス毒素が生物兵器用として保有されていた、という情報がある。

 米国は国民が殺害されたり、不法に扱われれば、国民全体が激怒する国民性だ。政府が報復行動に出たとしても強い反発は考えられない。北は今回、若い米学生を殺害した。最悪の場合、米国からの軍事的報復攻撃を考えざるを得ない。北側はそれを知っているはずだ。にもかかわらず、北は敢えてその冒険に出た。金正恩氏には他の選択肢がなかったわけだ。

 さて、ボールは今、トランプ大統領の手中にある。シリアに巡航ミサイル・トマホークを撃ち込み、訪米中の中国の習近平国家主席を驚かせたが、北に対してはそう簡単にはいかない。

 金正恩氏は、細菌生物兵器の実験用になった学生がユダヤ系米国人だったことを知らなかったはずだ。一方、「生暖かいビーア」という姓名のユダヤ系米学生は自分も知らないうちに歴史の歯車に絡みこまれ、かつて“東洋のエルサレム”と呼ばれた平壌を訪ね、そこで若い命を落す運命となってしまった。

藤井四段はAI棋士に勝てるか

 将棋界の記事がよく流れてくる。その中心は最年少棋士の藤井聡太四段(14)の活躍だ。同四段は21日、王将戦予選で澤田真吾六段(25)を破り、デビュー戦以来歴代第1位に並ぶ28連勝を記録したばかりだ。それにしてもすごい棋士が現れてきたものだ。

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▲人間の心が分かるAIを夢見ていた英国の天才的数学者アラン・チューリング(16歳の時の写真、ウィキぺディアから)

 一方、前日、「神武以来の天才棋士」といわれてきた加藤一二三・九段(77)が引退した。歴代最年長現役棋士だった。竜王戦6組昇級者決定戦で、高野智史四段(23)と対戦し敗北。これで公式戦での対戦がなくなったことを受け、加藤九段の引退となった。

 加藤九段の引退と14歳の最年少棋士の活躍を読んで考えさせられたことがある。「年齢を重ね、経験を増せばそれだけ強くなるが、経験はいつまで発展の原動力であり得るか」という点だ。

 加藤九段は77歳まで現役棋士だったので、経験では他の棋士を大きく凌いでいたが、23歳の高野四段に敗北した。将棋界ではいつまで現役で活躍できるのだろうか。やはり50歳を超えると対戦で苦しくなる棋士が多いのではないか。

 例外は常にあり得るが、経験が実力を向上させるのは体力的にまだ若い世代ということになる。経験が実力を向上させるためには一定の年月が必要となるが、その行く先は黄金時代とはならないわけだ。それでは経験は何のために必要となるのか。

 野球選手の場合は簡単だ。体力が落ち、走力が遅くなれば引退に追い込まれる。将棋界、囲碁界は野球界ほどではないが、やはり年齢を重ねると戦いで苦戦を余儀なくされる。それでは、「これまで積み重ねてきた経験はどこへ行ってしまうのか」だ。消滅するのであれば、経験を積み重ねることに意味がなくなるからだ。

 人工知能(AI)の囲碁棋士を考えてみる。AIはディ―プラーニングする。多くの経験、知識を吸収し、過去を含む全てのデータを吸収していくから、時間の経過、経験の数が増えれば増えるほど、その実力は伸びてくる。経験と実力の発展は同時並行している。人間とAIの発展線は明らかに異なっているわけだ。

 世界最強豪の囲碁棋士もAIには勝てなかった。AIがデータを吸収し、全ての対戦成績を学んでいけば、数年後、どのようなスーパー棋士が出てきてもAIに勝てなくなる、といった悲観的な見通しを持たざるを得なくなる。AIは常に成長し、人間の成長はいつか止まるからだ。経験はもはや助けとはならない。

 AI開発は目覚ましい。ニューロ・コンピューター、ロボットの創造を目指して世界の科学者、技術者が昼夜なく取り組んでいる。時間は人類側よりAI側に明らかに有利だ。10年後、30年後、50年後のAIを考えてみてほしい。英国の天才的数学者アラン・チューリングは人間の心を理解できるAIの開発を夢見てきたが、それはもはや遠い未来ではないだろう。

 一方、人間はどうだろうか。日進月歩で発展するだろうか。知識量は確実に増えるかもしれないが、人間を人間としている内容に残念ながら急速な発展は期待できない。2000年前のイエス時代の人間と21世紀の人間の違いはあるだろうか。人間が2000年前より強靭で賢明になったとは聞かない。

 このように考えると、AIが近い将来、人類を管理する時が到来すると考えても大きな間違いではないかもしれない。全ての完成品には「メイド・バイ・AI」という称号がつく一方、、ほんのわずかな商品だけが、「メイド・バイ・ヒューマンビーイング」というタイトルが与えられることになる。加藤九段は敗戦後、無言で退場したという。その後姿はひょっとしたら人類の将来の姿ではないだろうか。

 ここでブログを終えれば、後味が悪いので少し付け足す。神は人類を含む全ての宇宙森羅万象を創造し、その管理人として人間を選んだ。しかし、旧約聖書が記述しているように、その管理人の人類は神の意向に反したために「エデンの園」から追放された。「失楽園」の状態から本来の「エデンの園」に戻るために、人類は自身が創造したAIを管理するという試験に合格しなければならないのかもしれない。
 参考までに、人類がAIに勝てるチャンスがあるとすれば、デジタル化できないために消去される膨大なゴミデータの活用にあるのではないか。

米韓首脳会談前の文在寅の「事情」

 韓国の文在寅大統領は30日、ワシントンで就任後初めてトランプ米大統領との首脳会談に臨むが、米韓関係は目下、決して良好とはいえない。米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の韓国配備問題について、文政権は適正な環境影響評価を行うことを決めるなど、配備の遅れが予想されているだけではなく、対北朝鮮政策で米国とのスタンスの違いが表面化しているからだ。

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▲訪米を控えた韓国の文大統領(文在寅大統領のブログから)

 トランプ大統領は、「北が核実験、ミサイル発射を停止し、それが検証された後ならば北と対話に応じる用意がある」という立場だが、韓国側は、「北が核実験、ミサイル発射など挑発的行為を中断すれば、対話する」と表明している。前者は核・ミサイル開発の完全停止を対話条件としているのに対し、後者は「中断すれば」で止まり、それ以上の要求を控えている。だから、北側が得意としてきた瀬戸際外交が復活し、おいしい土産物を手に入れた後、核・ミサイル開発を再開するか、ひそかに開発を継続する危険性が排除できないわけだ。

 朴槿恵前大統領時代はトランプ政権の対北政策と酷似していたが、文政権はいろいろな条件をあげてカムフラージュしている。とにかく南北首脳会談を実現したい、という文在寅大統領の個人的願いが垣間見える。

 そのような時、北側が拘束していた米大学生を釈放した。しかし、学生は昏睡状況が続き、帰国後、数日で死去したというニュースが流れると、トランプ大統領は、「なんと残虐な行為を」と北側の非人道的なやり方に激怒。ティラーソン国務長官は、「北側はこの蛮行に対して厳しい報復を受けざるを得ないだろう」と警告を発しているほどだ。

 ところで、聯合ニュースは「文大統領は死去した米大学生の遺族に弔電を送った」と報じた。

 「北朝鮮に約1年半拘束され、昏睡状態で解放された米国人大学生オットー・ワームビア氏が亡くなったことを受け、韓国の文在寅大統領が同氏の遺族に弔電を送った。青瓦台の朴洙賢報道官が20日の会見で明らかにした」

 文大統領はいつから北の大統領になったのだろうか。北側の謝罪は当然あってしかるべきだが、韓国大統領が率先して遺族に弔電を送ったわけだ。米国側からの厳しい批判の声に驚き、金正恩労働党委員長に代わって弔電を送ったといった印象を払しょくできないのだ。遺族関係者も韓国大統領から弔電を受け取って、「どうして韓国大統領が……」と戸惑っているかもしれない。

 問題は次だ。文大統領は、「北は今も韓国や米国の国民を拘束しているが、直ちに彼らを家族の元に戻すべきで、政府はあらゆる努力を尽くす」と強調し、米韓が連携して米国人、韓国人の釈放を実現していこうと呼びかけているのだ

 この発言を読んで、文大統領がなぜ「親北大統領」であり、「反日大統領」と呼ばれるのか、少し理解できた。文大統領は北に拉致された多くの日本人が帰国を願いながら生きていることを知らないはずがない。にもかかわらず、拘束されている米国人と韓国人に言及する一方、日本人拉致犠牲者を恣意的に無視しているのだ。

 文大統領が「米国人、韓国人、そして日本人が北側に拘束されている」とでも述べていたら、それこそ大きな波紋を呼んだはずだ。「韓国大統領が日本人拉致犠牲者の釈放を呼び掛けた」というニュースが伝われば、嫌韓派の日本人も「おおー!」と驚きを発し、韓国大統領に対し少しは見直す機会となったかもしれない。

 参考までに、文大統領は米紙ワシントン・ポストとのインタビューの中で、旧日本軍の慰安婦問題をめぐる2015年末の日本との合意の再交渉に意欲を示し、「日本がこの問題を解決するポイントは、その行為について法的な責任を負い、公式に謝罪することだ」と述べたという(「聯合ニュース6月21日)。

 すなわち、文大統領は北側に拘束された人の中から恣意的に日本人拉致犠牲者を外す一方、日韓の慰安婦問題の合意問題にははっきりとその再考を要求しているわけだ。

 いずれにしても、トランプ大統領は対北政策で一層強硬路線を取ることが予想される。米学生の死に対し、北の代行役を演じた文大統領に対してもワシントンから圧力が強まることは必至だ。

イスラム教徒狙った「テロ」の波紋

 「これで分かっただろう。われわれイスラム教徒もテロの犠牲者なのだ。イスラム・フォビア(憎悪)が社会の反イスラム傾向を高めているのだ」、「これは明らかに報復テロだ。イスラム過激派テロ事件が多発しているから、イスラム教信者をターゲットとしたテロで復讐しようとする者が現れても不思議ではない。男は決して精神錯乱者ではなく、恣意的にイスラム教徒を狙ったテロリストだ」
 一人の若いイスラム教徒が英BBC放送記者のインタビューに応えてこのように語っていた。

Front
▲テロ対策に取り組む英国内務省(Home Office)の庁舎(英内務省公式サイドから)

 ロンドン北部フィンズベリー・パーク地区で19日未明(現地時間)、1台の白色ワゴン車がモスク(イスラム寺院)のラマダン明け後の食事を終えて出てきたイスラム教信者たちにぶつかり、1人が死亡、10人が負傷した。ワゴン車を運転していた47歳の実行犯は、騒動に気がついて駆け付けたイスラム教信者らによって取り押さえられ、警察に引き渡された。

 目撃者の話では男は、「これで自分の役割は果たした」、「イスラム教徒をすべて殺す」と叫んでいたという。ロンドン警察当局は男について詳細な情報を公表していないが、メイ首相は、「潜在的なテロ行為だ」と既に批判している(19日はブリュッセルで欧州連合(EU)との離脱交渉が正式にスタートした日だった)。

 独週刊誌シュピーゲル(電子版)によると、車から引きずり降ろされた男に数人のイスラム信者たちが取り囲み、殴打しようとしたが、イマーム(イスラム指導者)が駆け付け、「殴打するな。警察に引き渡すべきだ」と信者たちを宥めたという。イマームが駆け付けなければ、男はリンチされたかもしれないという。

 犯行現場近くのフィンズベリーモスクは2000年初めまで「憎悪の説教者」と呼ばれたイスラム過激派指導者 Abu Hamya 師の拠点であり、国際テロ組織「アルカイダ」などイスラム過激派テロリストの潜入先だったこともあって一時閉鎖されたが、2005年からイスラム穏健派によって再開された。ロンドンのモスクでも中心的な建物だ。

 イスラム教では先月27日から今月27日までイスラム教の「五行」の一つ、ラマダン(断食月)期間で、太陽が昇ってから沈むまで食事を断つ。太陽が沈めば、信者たちは知人や友人を招いて家庭で断食明けの食事を楽しむ、独り者のイスラム信者たちは最寄りのモスクに行って食事する。食事会は翌日未明まで続く場合がある。太陽が昇る前までは食事が許されるからだ。

 ロンドンでは3月22日、1人の男が車を暴走させ、ウェストミンスター橋上の歩行者を轢き、ウエストミンスター宮殿敷地に入り、警官を襲うというテロ事件が起き、5人が死亡した。先月3日にはロンドン中心部のロンドン橋で3人のテロリストがワゴン車で歩道を暴走し通行人を轢き、その後、車から降りて、近くの繁華街「Borough Market」で人々を刃物で襲撃する事件が起きた。8人が死亡、48人が負傷して病院に搬送されたばかりだ。今回のテロ事件も含め、車両を利用したテロ事件が増えてきている。

 欧州では過去、北アフリカや中東からのイスラム系難民・移民が収容されている難民ハウスや収容所が襲撃されるという事件は頻繁に起きているが、今回の事件のように、居住するイスラム教信者を狙った計画的テロ事件は珍しい。それだけに英治安関係者は神経を使っている。この種のテロ事件が今後、多発する危険性が出てくるからだ。

 先述した若いイスラム教徒が言っていたように、「テロ」は民族、国境、宗派の壁を超えて起きる。それ故に、「反テロ」もそれらの壁を超えて結束しなければならない。その最初のステップは、特定の民族、宗派への憎悪を拒否する姿勢だろう。

 フィンズベリー・パーク地区出身の英労働党のジェレミー・コービン党首は、「モスク、シナゴーク(ユダヤ教の会堂)、そしてキリスト教会へのテロは、われわれ全てへのテロを意味する。それゆえに、われわれは他宗派の信者を守らなければならない」と述べている。
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