ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2016年07月

大統領選決選投票のやり直し!

 オーストリア憲法裁判所は1日、5月22日に実施された同国大統領選決選投票で不正な集計などがあったとして決選投票を無効と宣言し、そのやり直しを勧告した。憲法裁判所の決定を受け、連邦政府はやり直しの決選投票の日程を協議するが、9月、遅くとも10月に行われる予定だ。

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▲「憲法裁判所の大統領決選投票のやり直しを評価する」と語るケルン首相(2016年7月1日、連邦首相官邸内で撮影)

 オーストリアで4月24日、大統領選挙(有権者数約638万人)が実施された。その結果、6人の候補者は得票率上位2人に絞られ、5月22日、「緑の党」前党首のアレキサンダー・バン・デ・ベレン氏(72)と極右政党「自由党」候補者ノルベルト・ホーファー氏(45)の間で決選投票が実施され、バン・デ・ベレン氏が僅差で当選した。新大統領の任命式が今月8日に行われることになっていた。

 ところが、自由党は先月、郵送投票の集計で不正があったとして152頁に及ぶ請願書を憲法裁判所に提出した。それを受け、同裁判所(ゲルハルト・ホルツィンガー長官を含む14人の裁判官で構成)は67人の証人を招き、審査を行ってきた。

 郵便投票数を集計する前段階ではホーファー氏が50.3%でバン・デ・ベレン氏49・7%をリードしていたが、郵送投票分の集計後、バン・デ・ベレン氏が50・3%、3万0863票の僅差で逆転し、当選が決まった経緯がある。

 郵便投票の集計は投票日の翌日午前9時からスタートすることになっているが、「選挙区の中には投票日当日に開封して集計していた」(ホルツィンガー長官)として、選挙関連法の違反が明らかになったわけだ。

 なお、ケルン首相は「選挙法には欠陥はなかったが、その履行段階でミスがあった」と指摘し、憲法裁判所の決定について、「わが国が民主主義の法治国家であることを証明した」と述べ、大統領決選投票のやり直し決定を評価した。

「ラムジーの伝説」がEUを殺した!

 ラムジー選手のゴール伝説については先回のコラムで幕を閉じる考えだったが、欧州のネット世界で「ラムジーが欧州連合(EU)を殺した」という短信が流れているのだ。ラムジー選手のゴール伝説を紹介した立場上、「その後」の予想外の展開についてやはり報告すべきだと考えた次第だ(「お願い、どうかゴールしないで!」2016年6月13日、「『ラムジー伝説』と鳩山氏の急死」2016年6月24日参考)。

 サッカー欧州選手権(ユーロ2016)に初参加したウェールズは20日、対ロシアで3−0で勝利し、ベスト16入りを決めたが、ウェールズのMFアーロン・ラムジー選手(25)がその試合で不幸にも先制ゴールをしたのだ。なぜ悲しいかと言えば、同選手は若い時からその才能を高く評価されて、英プレミアリーグのアーセナルFCとして活躍しているが、同選手がゴールすれば、その翌日、著名な人物が必ず死亡するという伝説があるからだ。

 しかし、幸い、今回はラムジー選手のゴール後、大物の訃報は流れなかった。ほっとしていると、英国民が23日、EU離脱か残留かを問う国民投票を実施し、大方の予想を裏切って離脱派が勝利したのだ。メルケル独首相は、「英国のEU離脱は即、EUの統合プロセスの転回を意味する」と述べている。「EUの死」と報じるメディアすらあるほどだ。

 「ラムジーの伝説」を良く知る友人は、「ラムジーのゴールは翌日、著名人の訃報をもたらしたが、ここにきてその影響力を拡大してきた。ゴールから訃報まで数日後の時間がかかったが、それだけその影響圏は拡大してきたのだ。もはや一個人レベルではなく、EUの死という機関レベルの訃報をもたらしたのだ」というのだ。


 ドイツに次いでEUの経済大国・英国の離脱はEUの国際地位を弱め、国際投資にも影響が出てくるのは必至だ。あれも、これも全てはラムジーのゴールの結果だという話なのだ。


 EUからの離脱を決定したが、残留を希望するロンドンっ子、都市住民、若い国民から国民投票の再実施を要求する嘆願書が集まっている。国民投票の再実施の可能性は不明だが、EU離脱が決定した国民は離脱の重みを感じ出したのかもしれない。一方、EU側はドイツ、フランス、イタリアを中心にEU離脱のドミノ現象を回避するために英国側に迅速な離脱を促す一方、27カ国のEU統合を改めて強固にするために腐心し出した。英国側が迅速な離脱に躊躇しだしているだけに、ブリュッセルと英国間の離脱交渉の行方は少し不透明となってきた。

 いずれにしても、不都合な結果が出てくると、その責任者探しが始まるのが常だ。そこで「ラムジーの伝説」が出てきたのだ。同伝説をネット世界に流したのは、国民投票の実施にこだわったキャメロン首相周辺の人物かもしれない。全ては「ラムジーの伝説」の結果だ。その影響圏からダウニング街10番地も逃れることはできなかった、と弁明するだけで説明責任を果たせるからだ。

 「ラムジーのゴール伝説」だけではなく、伝説は、不幸な結果を乗り越えていくために考え出した人間の知恵かもしれない。国民投票の結果で英国国民は悩み、後悔する必要はない。英国民は「ラムジーの伝説」に感謝すべきだ。
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