ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2016年05月

国営放送が大統領選で情報操作

 ここまでやるのか……。これが当方の最初の呟きだった。オーストリア国営放送(ORF)が19日夜のプレミアタイムに100分余りの大統領候補者2人の討論番組を放映したが、その中で司会者(Ingrid Thurnher 女史)が極右政党「自由党」候補者の信頼性にダメージを与える狙いから間違った情報に基づき、「あなたの話は作り話」と批判した。しかし、その直後、国営放送が政治的意図から情報操作していたことが明らかになると、国民に大きな衝撃が起きている。国営放送のスキャンダル事件を報告する。

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▲投票前の最後のテレビ討論(2016年5月19日、オーストリア国営放送のHPから、バン・デ・ベレン氏(左)、テユルンヘア女史(中央)、ホーファー氏(右)

 オーストリアで22日、極右政党「自由党」のホーファー氏(45)と「緑の党」前党首バン・デ・ベレン氏(72)の間で大統領決選投票が行われる。

 番組は司会者の質問に2人の候補者が答える形式で進められた。投票日を3日後に控え、最後のテレビ討論となることから、候補者は緊張感すら漂わせていた。

 問題は、司会者がホーファー氏の2014年7月30日のイスラエル訪問の話に言及した時に生じた。今年の4月インタビュー時に、ホーファー氏はオーストリアのメディア関係者にエルサレム寺院を訪ねた時に目撃した事件を語った。それによると、ホーファー氏の傍にいた1人のイスラエル女性が武器を持ってエルサレム寺院に入ろうとしたところ、警備員に警告され撃たれたという臨場感溢れる話だ。

 番組は突然、国営放送のイスラエル特派員がエルサレム市警察報道官にインタビューするシーンを放映した。同報道官は特派員の質問に答え、「エルサレム寺院でその日、そのような銃撃事件は生じていない」と述べ、ホーファー氏の話の信頼性を完全に否定した。司会者は勝ち誇ったように、ホーファー氏のエルサレム訪問時の銃撃事件は作り話だったということを示唆したのだ。

 ホーファー氏は唖然とし、「自分の話は事実だ。あなたは意図的に私の信頼性を傷つけようとしている。私は当時の写真をもっている。あなたのやり方はORFの客観報道がいかなるものか端的に物語っている」と反撃した。司会者は直ぐにテーマを変えて別の質問に移った。

 上記の場面を見ていた国民は、「ホーファー氏は嘘を言っていたのか」と衝撃を受けたかもしれない。大統領選で誰に入れるかまだ決めていない有権者ならホーファー氏に投票しなくなるかもしれない。それだけインパクトのある瞬間だった。

 ところが、番組終了後、イスラエルの「エルサレム・ポスト」が「(ホーファー氏がエルサレムを訪問した日)、エルサレムで1人の女性が警備員に撃たれた事件があった」と報じ、ホーファー氏の話を裏付けたのだ。
 同メディアによると、一人のイスラエル女性が警備関係者の“止まれ”を無視してエルサレム寺院に入ろうとしたため、警備員が発砲した。「女性は負傷したが、武器は持っていなかった」と報じている。ホーファー氏の話は武器所持以外はほぼ事実だったわけだ。

 ORFは討論番組後の夜10時のニュース番組の中で、「ホーファー氏のイスラエル訪問時に不祥事があった」という報道内容を紹介しただけで、なぜ情報を確認せずに誤報を垂れ流したかについては何も言及しなかった。

 ORF側はイスラエル特派員をエルサレム警察当局者にインタビューさせて、ホーファー氏のエルサレム訪問時の話が嘘だったことを報じたかったわけだ。狙いは明らかだ。ホーファー氏の信頼を失墜させ、大統領選をバン・デ・ベレン氏有利にしようとしたわけだ。イスラエル側の報道がなければ、ORFの意図は大成功だっただろう。

 当方は外国人の一人として外国人排斥を標榜する自由党を全面的には支持できないが、国営放送が情報操作して、国民を反ホーファーに誘導する報道のやり方には同意できない。それはメディアの自殺行為だからだ。

 現地の新聞各紙は20日、前夜の討論番組の内容を大きく報道したが、OFRの誤報にも言及し、「昨夜の討論は二人の大統領候補者の戦いではなく、司会者対ホーファー氏の戦いだった」(代表紙プレッセ)と皮肉を混ぜながら報じている。

 前日のコラム「ヒトラーは本当に再現するか」でも書いたが、投票日が近づくにつれ、与党第一党「社会民主党」を中心に“ホーファー落とし”が組織的に行われている。19日の国営放送のミスリードはその頂点を飾るものだった。

 ちなみに、ORFは昔から社会民主党関係者の縁故主義の巣窟で、左翼ジャーナリストが情報番組の主導権を握ってきた。今回の大統領選討論番組の制作はそのことを改めて思い出させた。

ヒトラーは本当に再現するか

 アドルフ・ヒトラーの著書「わが闘争」(Mein Kampf)は解禁され、再出版されている。ところで、欧州全土を荒廃化させ、ユダヤ民族を虐殺したヒトラーが21世紀の今日、再び現れるだろうか。ここでは1945年に愛人エヴァ・ブラウンとともに自殺したヒトラーの“再臨”を問うているのではない。あくまでもヒトラーのような政治信念を標榜する独裁者が出現し、欧州を再び大混乱に陥れるかだ。

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▲「自由党」大統領候補者ホーファー氏の選挙パンフレット

 欧州のメディアを追っていると、ヒトラーの再現は決して空想物語ではなく、現実的な懸念となってきている。ヒトラーの出身国オーストリアで22日、大統領選挙の決選投票が実施される。2人の候補者が大統領府入りを目指して戦っているが、次期大統領に現時点で最も近い候補者は極右政党「自由党」のホーファー氏(45)だ。対抗候補者は「緑の党」前党首、バン・デ・ベレン氏(72)だ。

 独有力メディア、週刊誌シュピーゲル最新号(5月14日号)の表紙タイトルにオーストリアを掲げ、オーストリアの大統領選の行方を追っている。ドイツが隣国オーストリア国民のヒトラー政権への歴史的認識が十分ではないと懸念していることは分かる。換言すれば、ドイツ国民はナチス・ヒトラー政権の戦争犯罪に対し弁明の余地がないことを認識しているが、オーストリア国民は依然、「われわれは犠牲者だった」という意識が強く、加害者意識が乏しいのではないか、というのだ。その歴史的認識不足がホーファー氏など極右政党自由党の台頭を許していると受け取っているのだ。

 ホーファー氏が先月24日の第1回の大統領選で得票率35%を越えると、欧州諸国で一斉に赤ランプが灯った。オーストリア大統領にナチス・ヒトラーを崇拝する政党指導者が選出される可能性が現実味を帯びてきたからだ。
 アルプスの小国の大統領は名誉職であり、実質的な政治権限は皆無に等しい。にもかかわらず、オーストリアだけではなく、欧州各国がその結果に強い関心を注いでいるのだ。それはヒトラーの再現を身近に感じ出したからだ。

 オーストリアでは、投票日が近づくにつれ他の政党が次々とバン・デ・ベレン氏支持を表明してきた。第1回投票で3位だったイルムガルド・グリス元最高裁判所長官(69)はこれまで決選投票での立場を明確にしなかったが、18日、バン・デ・ベレン氏支持を明らかにしたばかりだ。これで、与党・社会民主党、「緑の党」、「ネオス」の3党はバン・デ・ベレン氏の支持を正式に表明したことになる。国民党も支持表明こそ出していないが、著名な党員が個人的に支持を明らかにしている。いずれの政党もバン・デ・ベレン氏が大統領に相応しいからというより、ホーファー氏を大統領にしてはならないという危機感から出た対応だ。これでホーファー氏を当選させない包囲網が構築されたわけだ。

 それではホーファー氏の何を恐れているのだろうか。バン・デ・ベレン氏はホーファー氏との討論で、「あなたはシュトラーヒェ党首のマリオネットに過ぎない」と指摘している。ホーファー氏が大統領に当選すれば、次はシュトラーヒェ党首の自由党が次期総選挙に勝利して政権を奪う。そして政権、大統領府が自由党の手に陥るという悪夢だ。それはナチス・ヒトラーの再現を意味するというのだ。

 自由党は極右政党に分類できる政党だ。欧州連合(EU)の統合に消極的であり、難民問題ではオーストリア・ファーストを前面に出し、外国人排斥を選挙戦では訴えて、躍進してきた。欧州レベルでは、フランスの ジャン= マリー・ル・ペン党首が率いる「国民戦線」、オランダのヘルト・ウィルダース党首の「自由党」など極右政党と連携を深めている。自由党は機会ある度にナチス・ヒトラーの戦争犯罪を認識し、明確な距離を取っている。シュトラーヒェ党首も先日、イスラエルを訪問したばかりだ。ただし、党員の中にはネオ・ナチを彷彿させるメンバーも加わっていることは事実だ。

 自由党の躍進を恐れる既成政党は自由党を「ナチス・ドイツの再現」と批判することで、その躍進を阻止しようとしているのではないか、という疑いも払拭できない。ホーファー氏の穏やかな話し方をみていると、同氏がナチスドイツの再現を演出している政治家とはどうしても受け取れないからだ。バン・デ・ベレン氏は、「ヒトラーも当初、過激な政治家という印象はなかった。油断している時、ヒトラーはあっという間に独裁者の立場を獲得し、欧州全土を戦争の中に陥れた」と指摘し、ホーファー氏の笑顔に騙されてはならないと警告を発している。

 極右政党の主張は欧州統合にはマイナスだが、ヒトラーの再現という警戒心から自由党を孤立化させる対応にも限界が見えてきている。例えば、欧州の難民対策は、メルケル独首相の難民歓迎政策から国境管理の強化、受け入れ制限など、自由党がこれまで主張してきた厳格な難民政策に修正されてきている。すなわち、自由党の難民対策が現在、欧州の政策となっているのだ。

 自由党の躍進の背景には、欧州の政治をこれまでリードしてきた2大政党、キリスト教民主系政党と社会民主党系政党の政治への批判と失望がその根底にあるのでないか。自由党を包囲したとしても、自由党に流れてきた国民の票まで奪い返すことはできないことは、これまでの選挙戦の結果が物語っている。
 第1回投票でトップとなったホーファー氏は「戦後から続いてきた社民党と国民党(キリスト教民主系政党)の2大政党への批判票が私に集まった」と語っているのだ。

候補者が司会者抜きで議論した場合

 大統領ポストを目指す2人の政治家が司会者抜き、ルールなし、観客なしで45分間討論したらどうなるだろうか。オーストリアの民間放送ATVが15日、「テレビ放送史上初の実験」とうたった番組「Meine Wahl」(私の選択)を放映した。その結果、予想以上の反響を呼んだ。

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▲司会者抜き、ルールなし、観客なしの議論に臨む2人の大統領候補者(左・バン・デ・ベレン氏、右ホーファー氏)ATV放送の公式サイトから

 2人の政治家の議論後、司会者が政治評論家に印象を聞いた時、そのコメントは辛辣だった。「2人は大統領職の品位を汚してしまった」「政治問題に対する具体的な議論はなく、幼稚園児レベルだった」というのだ。

 当方は2人の議論番組を楽しみにしていた。結果は政治評論家のコメントとあまり大差がない。かなり低レベルの議論に終始していた。ただし、面白かったことも付け加えなければならない。なぜならば、当方は最初から2人の候補者に政治家の品位を期待していなかった。願っていたことは、考えていることを自由に語ってほしい、司会者抜きのほうがその点やりやすいだろうと考えていたからだ。

 大統領職の品位を傷つけた2人とは、今月22日に実施されるオーストリア大統領決選投票に出る極右政党「自由党」で第3国会議長のノルベルト・ホーファー氏(45)と「緑の党」のアレキサンダー・バン・デ・ベレン前党首(72)だ。

 それでは2人が大統領職を汚した発言を拾ってみた。「あなた嘘つきだ」(ホーファー氏)、「君こそ子供じみている」(バン・デ・ベレン氏)、「あなたを支援する人々は有名人だけだ」(ホーファー氏)。「君が大統領になれば、オーストリアは欧州から嫌われるよ」(バン・デ・ベレン氏)などだ。

 上記の発言をみて、「なんだ、その程度のやり取りは選挙戦では普通だよ」といわれるだろう。しかし、路上の選挙運動ではないのだ。2人はテレビのカメラの前で司会者なしで顔を向けあい話しているのだ。大統領ポストを目指す45歳と72歳の男が相手のイメージを傷つけ、貶している状況をどうか想像してほしい。

 ホーファー氏がバン・デ・ベレン氏に「あなたはいつもえげつない話し方をする 」、「あなたは偉そうに知ったかぶりする(oberlehrerhaft)」と揶揄すると、バン・デ・ベレン氏は手を顔の前で振るジャスチャーをしながら、「君は馬鹿か」と貶す。そのシーンは子供喧嘩を思い出させる。政治評論家が議論後、「2人とも大統領職を汚した」と指摘したが、間違っていない。ちなみに、独週刊誌「シュピーゲル」電子版も2人の議論について、「オーストリア社会が左右に分裂していることを端的に示した」と報じている。

 オーストリアの大統領は名誉職であり、政治的な権限はほとんどない。必要なものは人物の品性だ。知性と道徳的な権威だ。残念ながら、2人のやり取りから品性を感じることは難しかったばかりか、知性も感じなかった。「緑の党」前党首と極右政党の指導者は思想的には左と右の正反対だ。議論が喧嘩レベルに終始したのもある意味で仕方がなかったのかもしれない。

 ひょっとしたら、司会者抜き、ルールなし、観客なしで候補者に45分間語らせた番組制作者も2人の生々しい人間性を見て驚いていたかもしれない。心配する点は、有権者が大統領選の候補者の低レベルさにショックを受け、投票を棄権するかもしれないということだ。

ピザは美味しいだけではない

 ピザで選手をもてなすクラウディオ・ラニエリ監督(64)は典型的なイタリア人だ。一方、選手の健康管理のためクラブ内に独自のキッチンを作ったユルゲン・クリンスマン監督はまた典型的なドイツ人だ。前者は英プレミアリーグの覇者となったレスター・シティFCの監督であり、後者は米国サッカーのナショナル代表監督だ。

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▲様々なピザを並べる店(2013年9月25日、イタリア・ベルガモにて、撮影)

 現在は健康食のブームだ。特にスポーツ界では健康と体力向上のため消化が良く、吸収しやすい栄養の摂取に努力するスポーツ選手が多い。そのような中で、あのレスターの監督はお国自慢のピザを選手たちにおごり、談笑しながら一緒に食べるのを好むという。ピザは消化に良くないとか、健康に良くないというつもりはないが、ピザが健康食と評価されているとは思わない。イタリア人監督にはそんな理屈などどうでもいいのだ。

 もちろん、どんな健康食も美味しくなければ食べたいと思わない。美味しくないのに無理して食べればそれこそ消化不良になってしまう。美味しく、喜びながら食べれば、人間の胃袋は大抵の物を消化してしまう。

 参考までに、当方は英国の冒険家、作家のベア・グリルス氏(Bear Grylls)のドキュメンタリー番組「MAN vs WILD」(日本では「サバイバルゲーム」で放映)が大好きだ。元イギリス軍特殊部隊SASのグリルス氏は困窮下で生存する術を具体的に実演する。一人で砂漠に降ろされ、そこから脱出したり、人里離れた山奥で食糧を探し、山や川で魚や虫を取りながら生き延びる。彼の姿をみていると、人間は本来、なんでも食べられる、ということが分かる

 和気あいあいとピザを食べながら談笑すれば、空腹を満たすだけではなく、選手間で自然に連帯感、同胞感が生まれてくる。監督があえて選手たちに苦言を呈し、うるさく言わなくても選手たちはピザを満喫しながら自然と彼らの中で仲間意識が生まれてくる、というわけだ。イタリア人監督はそのことを良く知っているのだろう。

 一方、選手の健康管理のために最高の料理人と最高の健康食を提供すべきだというのがドイツ人監督だ。選手はお腹が空けば何でも食べる。選手たちは食欲旺盛な若者たちだ。だから、健康管理を考えながら食事をコントロールするということは容易ではない。そこでFCバイエルン・ミュンヘン監督時代、クリンスマン監督はクラブ内に独自のキッチンを作り、精神統一と瞑想のために仏像まで設置している(後日、撤去)。

 レアル・マドリードのFWロクリスティアーノ・ロナウドはその点、サッカー選手の模範だ。彼は自身の肉体を資本と考え、その維持のために投資している。彼は自宅で野菜を栽培している。彼の職業意識は飛びぬけている。誰よりも熱心に練習することはロナウドを見てきたトレーナーたちが異口同音に証言していることだ。

 米国人女性と結婚したクリンスマン監督はドイツ人らしく規律と秩序、そのうえ米国人好みの実務的な指導力を発揮し、マイナー・スポーツだったサッカーを米国で人気スポーツにまで成長させていった。イタリア人のラニエリ監督が米代表の監督だったらひょっとしたら難しかったかもしれない。

 プレミアリーグでクラブ創設133年にして初めて優勝したレスターの英雄の1人、FW・ジェイミー・ヴァーディ(29)は昔から暴れん坊であり、外国人嫌いだ。チームの同僚、日本人の岡崎慎司選手に対しても中国人を誹謗する言葉でからかうなど問題発言をしている。監督は「両選手の間で問題はないよ」という。監督は両選手の間に入って調停などしていないというが、両選手間でしこりはないという。当方の推測だが、ピザの効用ではないか。

 指導者のリーダーショップは多種多様だ。レスターの場合、たまたまイタリア人監督であり、たまたま落ちこぼれ選手、暴れん坊の選手が多かったことから、あのピザが彼らの潤滑油となってチームの結束を固めていったのだろう。

企業マネージャーは政党を救えるか

 米大統領選の共和党候補者、不動産王ドナルド・トランプ氏(69)の躍進に刺激されたわけではないだろうが、オーストリアの与党社会民主党は新党首に経済界でキャリアを積んできたマネージャー(最高経営責任者)、オーストリア連邦鉄道のクリスチャン・ケルン総裁(Christian Kern) を選出した。ケルン氏は17日、大統領府でフィッシャー大統領から正式に首相に任命される。

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▲オーストリアの新首相、クリスチャン・ケルン氏(ウィキぺディアから)

 ファイマン前首相は9日、「党内の全幅の信頼を得られなかった」として辞任を表明し、7年半続いた政権から降りた。ファイマン氏の辞任は先月24日実施された大統領選で自党が擁立した候補者の完敗の責任を取ったかたちだ。それを受け、社民党は次期党首(次期首相)を探してきた。ケルン氏は党内では久しく次期首相候補者と受け取られてきた。低迷する党の立て直しにマネージャーとしての手腕を期待する声が党内で多い。

 ケルン氏が新首相に任命されたことを受け、国民党との連立政権が再スタートする。ケルン新首相はファイマン前政権の閣僚を継承する一方、新鮮味を出すために2、3の閣僚ポストに新顔を抜擢する意向だ(女性閣僚の割合を少なくとも40%にするという)。ちなみに、政権パートナーの国民党(ミッターレーナー党首)側は目下、閣僚の入れ替えは考えていないという。

 ケルン氏は1966年、ウィーン生まれで今年50歳になったばかりだ。同氏は1991年フラニツキー第3次政権下で連邦首相府次官に従事したが、1997年には政界から実業界に入り、2010年7月には連邦鉄道総裁に任命された。政治経験が乏しいことが不安材料と一部では見られている。

 社民党が経済界から党首を抜擢したのは今回が初めてではない。銀行トップマネージャーだったフランツ・フラニツキー氏を財務相に登用。その後、同氏は首相に抜擢され、11年間の長期政権(1986〜1997年)を維持した。

 問題は山積している。まず、有権者離れが著しい社民党の立て直しだ。新首相としてのボーナスは直ぐに使い古される。緊急問題は難民対策だ。ファイマン前首相は難民歓迎政策をとってきたが、難民の殺到と国民の間の不安、批判が高まり、国境管理強化や難民申請の厳格化などの政策変更を余儀なくされたばかりだ。社民党内の左派には難民受け入れを要求する声が根強い。難民受け入れに批判的な極右政党「自由党」との関係も大きな課題だ。同時に、政策が抜本的に異なる保守政党国民党との連立政権をいつまで続けるか、早期総選挙に打って出るかなどの問題が待っている。

 社民党は過去21回の選挙で19回、得票率を失ってきた。労働者の政党と誇ってきたが、今年のメーデーでは労働者たちから激しい批判の声が飛び出したばかりだ。社民党の党員の不満が高まっている。新首相の持ち時間は多くない。短期間で成果を出せなければ、社民党には長期の野党生活が待っている。それだけに、社民党は党の再生の切り札としてこれまで温めてきたスターを登場させたわけだ。もはや後がないのだ。

「追悼」「慰霊」とは何か

 オバマ米大統領は今月26、27日の2日間、三重県伊勢志摩で開かれる主要国首脳会議(G7)に参加し、その後、太平洋戦争時の被爆地広島市を訪れる。米国最高指導者が原爆被爆地を訪れ、犠牲者を慰霊することには大きな意味がある。

 一国の最高指導者が大戦時の相手国を訪れ、犠牲者を追悼する行為はきわめて政治的な行為であることは否定できない。だから、様々な議論を呼ぶだろう。原爆投下した米国側の戦争犯罪問題、核兵器使用が戦争を早期終結させたという米国側の主張などが議論を呼ぶだろう。それゆえに、日本側は米大統領の追悼行為があまりにも政治化されないように、極力努力すべきだ。

 十分予想されたことだが、オバマ大統領の広島訪問が発表されると、中国と韓国両国から「日本の戦争責任を忘れさせる危険がある」として懸念や遺憾の声が聞かれる。ここでは韓国側の反応について考えてみたい。
 はっきり言えば、当方は韓国側の反応に大きな懸念を持つ。戦争被害者は韓国民族であり、日本人は加害者だという画一的な受け取り方にとらわれ過ぎている限り、韓国国民は「追悼」「慰霊」という行為を正しく理解できないのではないかと憂慮するからだ。

 政治家の追悼、慰霊はその国を代表としたものだが、基本的には極めて個人的な行為だ。犠牲者への心からの追悼であり、慰霊だ。それに対し、第3者が「あなたの慰霊はよくない」とか、極端になれば、「追悼すべきではない」と批判できるだろうか。

 2014年4月16日、仁川から済州島に向かっていた旅客船「セウォル号」が沈没し、約300人が犠牲となるという大事故が起きた時、韓国内では救援活動よりも船舶会社批判、ひいては政府批判でもちきりとなった。事故1年目の翌年4月、朴槿恵大統領は死者、行方不明者の前に献花と焼香をするために事故現場の埠頭を訪れたが、遺族関係者から焼香場を閉鎖され、焼香すらできずに戻っていったことがあった。韓国メディアによれば、死者や行方不明者の関係者から「セウォル号を早く引き揚げろ」といった叫びが事故現場から去る大統領の背中に向かって投げつけられたという(当時、李完九首相も同日、沈没事故で多くの犠牲者が出た学校近くの合同焼香所を訪れ、焼香しようとしたが、遺族関係者から拒否されている(「焼香を拒む韓国人の“病んだ情”」2015年4月18日参考)。

 韓国は靖国神社参拝問題でも「日本は戦争犯罪者を祭っている」として日本政府代表の神社参拝に強く反対してきた。政治家の参拝に政治色が出てくることは否定できないが、繰り返すが、「参拝」という行為自体、極めて個人的な心の世界の表現だ。それを批判し、「参拝はよくない」と強く抵抗することは明らかに干渉だ。国内でその国の最高指導者が参拝することに、外国からああだ、こうだといえるだろうか。

 韓国人は情が深い民族だ。他国に支配され、苦しい時代を長く経験した民族だけに悲しみが溜まっている。その悲しい情が暴発することだってあるだろう。しかし、泣いている自分の傍に、同じように悲しみを味わってきた人がいることを忘れてしまっているのではないか、といった思いが沸く。

 韓民族は追悼、慰霊という行為がどのようなものかをもう一度冷静に考える必要があるだろう。追悼、慰霊の権利といえば、大げさに響くが、追悼、慰霊は人間の基本的行為に入る内容だ。オバマ大統領は広島訪問を決めた理由として「第2次世界大戦中に命を落としたすべての人を追悼するため」と説明したという(読売新聞電子版)。

 当方は昨年のコラムでも書いたが、「韓民族は他者の悲しみへの連帯を再発見しなければならない。他者の悲しみを自身のそれと同じように感じることができれば、自身の悲しみは自然と癒されていく」と考えている。

党大会の会場内で何があったのか

 36年ぶりに開催された第7回朝鮮労働党大会には100人を超えるジャーナリストが取材のため平壌入りした。そのジャーナリストたちは党大会開催の会場内には入れず、最終日のわずかな時間しか内部取材できなかったという。少々手遅れなテーマだが、党大会会場取材拒否から推測される金正恩党委員長の不安な日々を紹介したい。

 取材許可を与えながら、取材を認めないということは不自然なことだが、このニュースを聞いたとき、党大会は予定の会場ではなく、別の場所で開催されているのではないか、といった声すら聞かれたという。

 党代表たちが会場に入る姿が画面に映っていたので彼らが会場にいるのは確かだが、肝心の金委員長はひょっとしたら会場内にはおらず、党代表たちは舞台に設置された大スクリーンに映る金正恩委員長を迎えて、その演説に傾聴していたのではないか、という思いが沸いてきた。

 なぜ、そんな煩わしいことをする必要があるのか、と考える人がいるかもしれない。答えは簡単だ。それが北朝鮮の現状だからだ。代表を含む5000人余りの党関係者と金正恩党委員長が党大会の会場に結集して協議しているとする。換言すれば、北の指導者が全員一カ所に集まることになる。

 米軍事衛星が党大会会場を映し出す。そして米潜水艦から巡航ミサイル(トマホーク)を党大会会場に照準を合わす。トマホークは北の中短距離弾道ミサイルとは異なり、正確に党大会会場を爆発するだろう。金委員長を含む北の全指導体制がその瞬間消滅し、北の独裁政権は終焉を迎える。

 金委員長は自身の安全を最も懸念している。だから、党代表は会場に入り、本人は秘密の場所からビデオで顔を出し、演説するという危機管理をしていたとしても不思議ではない。ジャーナリストに会場入りを認めたならば、そのトリックがばれてしまう。
 もちろん、海外から招いたジャーナリストたちを会場に入れ、取材させれば、米軍はジャーナリストが犠牲となる危険な空爆はできない。ジャーナリストを自身の安全のための人質に使える。

 しかし、金委員長は招いたジャーナリストに対しても不安を払しょくできないのだ。彼らのなかに米国側の特殊部隊員がまぎれこんでいるかもしれないからだ。あれこれ考えた末、ジャーナリストを外に待機させることにした、という推測が成り立つわけだ。

 もう一つ、付け加えなければならない。党関係者の中に暗殺者が混じりこんでいないという保証はない。会場に武器の持ち込みは禁止されているが、極小サイズの小型銃だって考えられる。父親の故金正日総書記も数回、暗殺の危機に直面したことがあったことを、息子の正恩委員長が知らないはずがない。

 朝鮮国営中央放送は後日、金委員長が潜伏している場所と党大会開催場所をあたかも同じ場所のように映し出すだろう。そのようなトリックは日頃から訓練されているので簡単な作業だ。

 独裁者には自由はない。極言すれば、多くの国民を非情にないがしろにしてきた独裁者には衣食住を含む本当の自由がないのだ。それでも独裁者になりたい人はその不自由な生活をその代価として払わなければならない。

 今から考えれば、金委員長の実兄、金正哲氏が弟に後継者を譲ったのは賢明な選択だった。身辺の危険を感じながら不安な日々を過ごしている弟(金正恩委員長)をしり目に、正哲氏は英国のギタリスト、エリック・クラプトンの演奏に一時的とはいえ熱中できるわけだ。

宇宙人(ファイル)は存在するか

 久しぶりに心躍るニュースがワシントン発時事で流れてきた。米大統領選の民主党候補者クリントン女史が、「大統領になれば宇宙人関連のファイルがあれば調べてみたい。国家安全問題に引っかからない限り、その内容を公表する」と公約したというのだ。

 選挙戦の政治家の約束ほど信頼できないものはないが、クリントン女史のこの公約はぜひとも実行して頂きたい。共和党の対抗候補者トランプ氏に投票しようと考えていた有権者が宇宙人ファイルの公開を実現させたいためにクリントン女史に票を投票するかもしれない。頭の切れるクリントン女史はそこまで計算に入れて宇宙人ファイル公開を公約したのかもしれない。

 しかし、そんな選挙戦の舞台裏など宇宙人に関心のある国民は元々どうでもいいのだ。問題は宇宙人ファイルの公開だ。少し古い世代ならUFOを捜査するFBI捜査官のSF番組「Xファイル」を思い出すだろう。当方も当時、同ドラマに嵌った一人だ。宇宙人が存在し、彼らが地球まで飛来してきたとすれば、ただ事ではない。文字通り、地球レベルの大問題だ。惑星の衝突に匹敵する死活問題だ。同時に、地球人が信じてきた神との関係だ。正直いって、これは少々厄介だ。宇宙人の存在は我々の世界観、宇宙観を決定的に変えることだけは間違いない。

 当方は宇宙人を天使と推測している。宇宙船はその天使の乗り物だろう。神は天使を宇宙創造の手先として創造した。天使は時空を超越した存在だ。天使が神の宇宙創造時から存在していたとすれば、どうしてこれまで天使の存在が明らかでなかったのか、という疑問が沸いてくる。

 天使と交信できる人はいる。ノルウェー王ハーラル5世とソニアの長女としてオスロで誕生したマッタ・ルイーゼ王女だ。天使との交信した本も出している天使世界の案内人だ。
 王女は2002年、同国の作家アリ・ベーンと結婚し、3人の娘さんがいる。2012年2月、エリザベス・ノルデング女史との共著で「天使の秘密」というタイトルの本を出版している。王女は既に、子供たちが天使と話すことができるようになるために「天使の学校」を開校している。王女によると、「天使は私たちの周辺にいて、私たちを助けたいと願っています」という。もちろん、どの世界でもそうだが、王女の「天使との交信」について、国内では何かいかがわしい行動のように受け取る人々もいる。

 天使界には3人のリーダー、ルーシェル、ガブリエル、ミカエルの3大天使がいる。その中でルーシェルは創世記の「失楽園」物語で「ヘビ」として登場し、エバを誘惑した張本人だ。その結果、天使たちも人間との正常な関係を築くことができなくなった。人類始祖は堕落によって神との交流を失っただけではなく、「僕」だった天使とも交信できなくなったわけだ。

 一方、堕落天使は人間が神を見つけ出さないようにさまざな工作を駆使してきた。その最高傑作は史的唯物論の共産主義だ。共産主義は「宗教はアヘン」とし、宗教は支配階級が労働者たちを支配する手段と主張してきた。だから、共産主義に被れた知識人は神はいないと信じ、宗教を毛嫌いしてきたわけだ。

 無神論世界が拡大してきて堕落天使のトリックは成功したが、問題も生じた。天使自身が自分の存在を否定せざるを得なくなったからだ。神を否定したが、天使の存在が暴露されれば、“目に見えない霊的な存在”云々と言った主張が出てくることになり、やばい。だから、天使は神と共に自身の存在も否定せざるを得なかった。マッタ・ルイーゼ王女のような一部の人間以外は天使と交信できなくなったわけだ。

 宇宙人の話に戻る。神は人間界に善の天使たちを定期的に派遣している。その天使とその乗り物のUFOを偶々目撃した人は大騒ぎしたわけだ。UFOは米空軍の戦闘機が追跡してもつかめない。多次元を自由に行き来できる天使は行動が3次元に制限されている物質世界に生きる人間では追跡できないからだ。

 クリントン女史が大統領に就任し、公約である宇宙人ファイルを見つけて公開してくれることを期待する。ところで、クリントン女史ではなく、共和党のトランプ氏が大統領に選出された場合、同氏はどのように対応するだろうか。ひょっとしたら、自分には宇宙人の友人がいると言い出すかもしれない。自分が宇宙人だと主張するかもしれない。宇宙人の政治家は珍しくない世の中だ。日本でも宇宙人と呼ばれた政治家(鳩山由紀夫元首相)が一時、暗躍したばかりだ。

過去25年間で人口が4倍化した国

 まず、読者に質問する。「過去25年間で人口がほぼ4倍化した国はどこか」だ。直ぐに答えられる読者がおられたら、その人は当方からウィーン招待状が届くだろう。当方は英プレミアリーグの覇者となったレスターシティの優勝の確率(5000対1)は念頭にはないが、上記の質問に即正解できる確率はけっして大きくはないはずだ。答えは、中東のヨルダンだ。

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▲ヨルダンの首都アンマン市風景(2014年5月9日、撮影)

 ヨルダンは1991年、人口はほぼ250万人の小国だった。2013年は645万人(世銀)、そして2015年は950万人に膨れ上がったのだ。人口減の悪夢に悩まされる日本政府が聞けば、耳を疑うだろう。ひょっとしたら、アンマンに電話してヨルダン政府から少子化対策を尋ねるかもしれない。

 ヨルダンの人口爆発の原因ははっきりとしている。隣国シリア、イラクからの難民の殺到だ。ヨルダンと同様、大量の難民の殺到に瀕しているのはレバノンだ。そしてヨルダンとレバノン両国はサウジアラビア、クウエート、カタールなど湾岸諸国のような原油生産国ではない。
 ヨルダンには砂漠はあるが、原油は皆無だ。カリ肥料、燐鉱石などの一部の製造業以外に輸出産業がない。その国に過去25年間、自国人口の3倍に値する難民が入ってきたのだ。計算に疎い当方でもヨルダンの台所事情が如何に大変か推測できるというものだ。

 シリア紛争が停戦し、イラクの政情が安定すれば、ヨルダンに逃げた難民は母国に戻るだろうが、それまでヨルダン政府は自国民の3倍の“暫定”国民を養わなければならないし、さまざまなケアが必要だ。ヨルダンのアブドラ国王が頻繁に米国を訪問し、日本側との接触に心を配るのは難民対策への経済的支援の要請があるからだ。はっきり言って、ヨルダンは日本や欧米諸国からの経済支援なくして存続できないだろう。

 キリスト教徒の国民が多いレバノンも同様だ。シリアやイラクからのイスラム教徒の難民殺到で国内の治安状況が悪化している。レバノンにイランと密接なつながりのあるシーア派イスラム武装組織「ヒズボラ」がいる。レバノンの政情を今後、重視しなければならない。

 バチカン放送独語電子版によると、ローマ訪問中のハッサン・ビン・タラール王子(アブドラ現国王の叔父で故フセイン前国王の弟)は、「わが国は過去、ほぼ10年に1度紛争を体験してきた。1948年、56年、67年、73年、そしてイラク戦争、イラク・イラン戦争だ。戦争の度に犠牲を強いられてきたのがヨルダンであり、レバノンだ。わが国には難民のパレスチナ人が既に居住している(人口の7割がパレスチナ系住民)」と指摘、国際社会にヨルダンとレバノンへの支援を要請している。
 ちなみに、ロンドンで2月初めに開催されたシリア避難民支援国際会議で参加国から110億ドルの支援が約策されたが、重要な点はその約束の実行だ。

 ハッサン・ビン・タラール王子は、「リンゼー・グラム米上院議員が提案した中東諸国へのマーシャルプランが実現することを願っている。それに中東地域の再建と開発のための地域銀行が設立されれば理想だ。世界の各地域には地域独自の開発銀行があるが、中東地域にはそのような銀行がまだない」という。

オランダが年内にも脱退、次は……

 ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)は中国の財務部副部長(財務次官)だった李勇氏が2013年事務局長に就任してからも加盟国の脱退の動きは止まっていない。国連関係者によると、欧州連合(EU)加盟国のオランダが年内にも脱退すると予想されている。

 在ウィーンの国際機関担当オランダ政府代表部に電話で確認を取ると、同国外交官は、「議会が現在、脱退問題を協議していることは事実だが、まだ何も決定してない」と脱退決定説は否定したが、限りなく脱退へ傾いていることを示唆した。

 加盟国の脱退歴史は以下の表をみれば一目瞭然だ。米英仏など主要加盟国がUNIDOから出て行って久しい。米国は1996年の脱退当時、「UNIDOは腐敗した機関」として分担金を払わず一方的に脱退した。
 オランダの脱退が最後ではないだろう。その次はデンマークと予想され、今年中に脱退意思を通達し、来年には脱退すると予想されているのだ。スぺインは目下選挙戦だが、政情が安定し、新政権が発足すれば、UNIDOの脱退問題もテーマとなるという。

 UNIDOを脱退していった国は欧米先進諸国がほとんどだ。UNIDOがアフリカや発展途上国の工業発展を支援するという創設目的からいっても資金、技術を有する先進諸国の脱退はUNIDOにとっては好ましくない。
 ちなみに、UNIDOに近年加盟した新規加盟国は人口10万人余りの太平洋上にある国キリバスと太平洋上に浮かぶマーシャル諸島の2カ国だけだ。

 ところで、先進諸国の脱退の動機はほぼ同じだ。UNIDOの非能率なマネージメント、腐敗、縁故主義などがその理由に挙げられている。李勇事務局長の前任者、西アフリカのシェラレオネ出身のカンデ・ユムケラー時代はUNIDO内では腐敗と汚職が席巻していた。李事務局長の就任でUNIDOが能率的な機関に生まれ変わり、加盟国の脱退トレンドもストップされるという淡い期待があったが、残念ながら期待は裏切られている。李事務局長の就任後も4カ国が既に脱退している。

 日本とスペイン両国の外交官が李事務局長に「なぜ加盟国が出ていくのか」と問い詰めたことはこのコラム欄でも紹介済みだ。李事務局長はその時、「当時国と交渉によって話し合っていく」と答え、「なぜ出ていくか」という肝心の質問には答えなかった。


 UNIDO関係者は、「日本とドイツの2国は加盟国だが、そのいずれが脱退するようだとUNIDOは崩壊する。日独両国は国連安保理常任理事国入りを目指している手前、国連専門機関からの脱退は避けたい意向が強い。脱退すれば、国連を無視している、安保理常任理事国入りの資格はない、といった批判を受けると恐れているのだ」という。

 安保理常任理事国入りを願う故に、非能率的な国連専門機関に留まり続けるというのは賢明だろうか。日本の常任理事国入りは中国、韓国が反対し、ドイツの場合イタリアが反対している以上、現時点では非現実的な夢に過ぎない。

 アフリカ諸国への開発途上国支援は日本の場合、国際協力機構(JICA)を利用すればいい。当事国からも感謝される。国連の改革が進み、常任理事国入り問題に進展が期待できる段階で考えればいいのではないか。非能率で腐敗した機関と分かっていながら留まり続けることは国民の税金無駄使いだ、と批判されて仕方がないだろう。



Member State

Date of membership Date ofwithdrawal
Australia 21-Jun-1985 31-Dec-1997
Belgium 21-Jun-1985 31-Dec-2015
Canada 21-Jun-1985 31-Dec-1993
France 21-Jun-1985 31-Dec-2014
Lithuania 17-Oct-1991 31-Dec-2012
New Zealand 19-Jul-1985 31-Dec-2013
Portugal 21-Jun-1985 31-Dec-2014
United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
21-Jun-1985 31-Dec-2012
United States of America
21-Jun-1985 31-Dec-1996

(UNIDO資料)
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