ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2016年02月

独ザクセン州で何が起きているか

 ドイツで昨年、外国人排斥関連犯罪件数が前年の倍に増加したことが明らかになった。それによると、同国では2014年、外国人排斥関連犯罪件数は2207件だったが、昨年は4183件だったのだ。

 ドイツの16の連邦州でも外国人排斥犯罪が急増したのは旧東独のザクセン・アンハルト州(州都マクデブルク)とザクセン州(州都ドレスデン)だ。前者では14年94件が昨年335件に、後者では182件から509件とそれぞれ急増している。ドイツ全体の8件に1件はザクセン州で起きている計算になる。ちなみに、ザクセン州では外国人の数は全体(人口約410万人)の20人に1人の割合(約5%)に過ぎない。決して、同州の外国人率が高いわけではないのだ。

 このコラムでも紹介済みだが、ドイツでは難民や難民収容所が襲撃されたり、放火されるという事件が多発している。最近では、ザクセン州のクラウスニッツ(Clausnitz)で18日夜、難民が乗ったバスが到着すると、100人余りの住民たちがバスを取り囲み、難民たちに向かって中傷、罵声を浴びせるという出来事があった。また、バウツェン(Bautzen)では20日夜、難民ハウス用の元ホテルが放火され、その消火作業を見物していた住民たちから笑い声や喝采が飛び出したというのだ。

 ザクセン州のスタニスラフ・ティリッヒ首相は、「ザクセンの名が汚されてしまった。それを取り戻すためには多くの時間と努力が必要となるだろう」と、一部の住民の蛮行を深刻に受け止めている。

 一方、ザクセン州のカトリック神学者フランク・リヒター氏は、「わが州では相対的に同一民族の住民が住み、他の文化出身の外国人と共存した経験が乏しい。その上、社会は世俗化し、住民は宗教性に乏しい」(バチカン放送独語電子版25日)と指摘する。

 ザクセン州のゲルリッツ教区のヴォルフガング・イポルト司教は、「旧東独国民の多くは非キリスト教の教育を受けてきた。彼らは今、自由を享受できる環境圏で生きているが、困窮から逃げてきた難民に対しては排他的な行動に出ている。『我々は国民だ』と叫び人々には、キリスト教的価値観が完全に欠如している」と指摘し、ドレスデン市などで広がっている外国人排斥運動「西洋のイスラム教化に反対する愛国主義欧州人」( "Patriotischen Europaer gegen die Islamisierung des Abendlandes"、通称・Pegida運動)を批判している。


 また、チュ―リンゲン州のディーター・アルトハウス元州首相は、「東独共産政権(ドイツ社会主義統一党)は国民の徹底的な非宗教化を目指してきた。その結果、国民の精神的ルーツを抹殺することに成功した。ザクセン州では東西ドイツ再統一後、住民は民主主義の政治秩序を押し付けられてきたが、その根底にあるキリスト教的価値観は忘れられてきた。流入してきたイスラム教難民へ理解が欠けるだけではなく、それを排斥しようとしているわけだ。連邦政府は旧東独の産業インフラ整備や経済発展に専念する一方、宗教的教育を提供することを忘れてきた」と分析している。

 ARDの意識調査によると、旧東独ザクセン州の外国人排斥傾向の原因として、28%は「経済危機」、27%が「メルケル政権の難民政策」、17%は「州政治」、10%が「家庭と学校の教育の欠如」という結果が出ている。

 ワシントンDCのシンクタンク「ビューリサーチ・センター」の宗教の多様性調査によると、旧東欧のチェコは無宗教者が最も多い(国民の76・4%)。旅行者は美しいプラハの景色に騙されてはならない。そこに住む国民は久しく神を失ってしまっているのだ。同じように、旧東独地域の住民は神を失ったことすら自覚できないほど徹底的な無宗教教育を受けてきたのだ。

 西欧社会では神を邪魔な存在と感じる国民が増えてきているが、チェコ国民や旧東独住民が長年「神のいない世界」(共産党政権)の中で生きてきた結果が何をもたらすかザクセン州の蛮行から推測するしかないだろう。

日本代表「加盟国はなぜ脱退するか」

 人口10万人余りの太平洋上にある国キリバスがウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)に加盟した。加盟国の脱退が続いてきたUNIDOにとって、昨年加盟した太平洋上に浮かぶマーシャル諸島に続いての新規加盟国だ。

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▲UNIDO第16回総会風景(2015年11月30日、撮影)

 UNIDOの李勇事務局長は23日、「キリバスの加盟を歓迎する、同国の持続的経済発展にUNIDOも積極的に支援していきたい」とエールを送っている。

 欧米主要国、米国、英国、カナダ、オーストラリア、フランス、ニュージランドなどはUNIDOの腐敗と運営の非効率性に嫌気がさして脱退して久しい。ちなみに、米国は1996年の脱退当時、「UNIDOは腐敗した機関」として分担金を払わず一方的にUNIDOから脱退した経緯があるほどだ。

 李事務局長が2013年トップに就任した後も加盟国の脱退は続いた。ベルギーが脱退し、ギリシャ、デンマーク両国は今年末までには脱退する意向、といった具合だ。それだけに、UNIDOの厳しい会計を助けることは期待できなくても、マーシャル諸島とキリバス2国の加盟は李事務局長にとっては久しぶりの朗報といえるわけだ。李事務局長が小国の加盟にエールを送りたくなるのも理解できるというものだ。

 さて、李事務局長は目下、UNIDOの機構改革、その第一弾として事務局内の機構刷新を推進中だ。権限を事務局長に集中させ、トップダウン形式で非能率化したUNIDOを刷新させようという狙いがある。
 李事務局長は25日、加盟国の代表を集めてUNIDOの近況についてブリーフィングした。加盟国からは大使級を派遣する国はほとんどなく、参事官、書記官級を派遣する国が大多数を占めたという。加盟国といってもUNIDOの未来に対してあまり関心がないことが分かる。

 ところで、同会議に参加した外交官によると、ブリーフィング後の質疑応答で日本とスぺイン2国の外交官が李事務局長に、「なぜ多くの国がUNIDOから脱退していくのかを説明して頂きたい」と聞いたというのだ。
 日本はUNIDO最大分担金を担う国であり、スペインはといえば、脱退を内々決定しているといわれる欧州連合(EU)加盟国だ。その2国の外交官から、「なぜ加盟国が出ていくのか」と問い詰められたわけだ。

 李事務局長は、「当時国と交渉によって話し合っていく」と答え、「なぜ出ていくか」という肝心の質問には答えなかった。事務局長としては当然かもしれない。加盟国の外交官が参加しているブリーフィングの場で、「なぜ加盟国は次々と脱退するか」という質問に答えることは恥の上塗りになってしまうからだ。

 当方はこのコラム欄で、「UNIDOでは日本は中国の忠実な資金提供者となっている」(「国連機関のトップに4人の中国人」2016年2月18日参考)と指摘し、日本外交の奮起を促したばかりだ。日本は単なる資金提供国に甘んじるのではなく、UNIDOの刷新の為に積極的に発言して頂きたい。「加盟国はなぜ脱退するか」の質問はその第一弾と信じたい。

誰が欧州の分裂をもたらしたか

 独週刊誌「シュピーゲル」電子版(26日)によると、ドイツ南部バイエルン州の元州知事で「キリスト教社会同盟」(CSU)党首だったエドムンㇳ・シュトイバー氏は同国日刊紙「ヴェルト」とのインタビューの中で、「欧州全土で極右派勢力が台頭してきた主因はメルケル首相の難民政策にある」と、メルケル首相を批判した。元州知事がいう「極右派勢力」とは、ドイツでは「ドイツのための選択肢」(AfDD)、フランスではマリーヌ・ル・ペン党首が率いる「国民戦線」、オランダではヘルト・ウィルダース党首の「自由党」、そしてオーストリアではシュトラーヒェ党首の「自由党」らを意味する。

 シュトイバー氏は、「欧州の現状を打開するためには難民政策を変更することだ。具体的には難民受入れの最上限と国境への通過ルートを設定することだ」と主張する。その上で「難民政策には先ず、国の対策が必要だ。国境を開放すれば、殺到する難民問題はドイツが誘発した“ドイツの問題”だと理解されるだけだ」という。

 ドイツでは旧東独地域で難民や難民収容所が襲撃されたり、放火されるという事件が多発している。ドイツ東部ザクセン州のクラウスニッツ(Clausnitz)で18日夜、難民が乗ったバスが到着すると、100人余りの住民たちがバスを取り囲み、中傷誹謗するという出来事があった。また、バウツェン(Bautzen)では20日夜、難民ハウス用の元ホテルが放火され、その消火作業を見物していた住民たちから大喝采が出たという。そのニュースが流れると、ドイツ全土で困惑と失望の声が飛び出した。

 シュトイバー氏は、「ニュースを聞いたが、恐るべきことだ。ドイツ国民の81%は政府は難民問題を正しく掌握していないと考えている。わが国はまさに危険な状況下に陥っている。AfDのように、国民の不安を高めることでは問題の解決にはならない」と強調する。

 ちなみに、ザクセン州のカトリック神学者フランク・リヒター氏は、「ザクセン州は相対的に同一民族の住民が住み、他の文化出身の外国人と共存した経験が乏しい。その上、社会は世俗化し、住民は宗教性に乏しい。また、ザクセン州を含む旧東独住民は民主主義という社会体制をまだ十分学んでいない」(バチカン放送独語電子版25日)と指摘している。

 ARDの意識調査によると、旧東独ザクセン州の外国人排斥傾向の原因として、28%は「経済危機」、27%が「メルケル政権の難民政策」、17%は「州政治」、10%が「家庭と学校の教育の欠如」という結果が出ている。

 隣国オーストリア政府は19日から、1日当たりの難民申請受付数を最大80人に、ドイツを目指す難民の入国も1日3200人とする厳格な政策を即実施した。すると、ドイツのトーマス・デメジエール内相が、「隣国の一方的な難民政策は受け入れられない」と強く反発。国境線の強化や制限に不満をもつギリシャは25日、駐オーストリアのギリシャ大使を召還させるなど、欧州28カ国は分裂の危機に直面している。

 ギリシャの金融危機の時、欧州連合(EU)の加盟国はユーロの堅持で一体化を表明し、危機を乗り越えたが、中東・北アフリカから100万人以上の難民が殺到すると、欧州の各国は自国の利益を守るため国境監視を強化するなど独自政策を実行し、隣国と軋轢を生み出す状況が出てきている。

 欧州の盟主を自負するドイツを10年間主導してきたメルケル首相は今日、自身の難民歓迎政策がどのような事態を生み出してきているかを目の前に目撃し、当惑している。

核実験の放射性物質、依然未検出

 北朝鮮は先月6日、4回目の核実験を実施して今月25日で50日目を迎えたが、ウィーンに事務局を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)が世界各地に配置している国際監視システム(IMS)は核爆発によって放出される放射性物質希ガスを依然検出していない。

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▲「核爆発」(CTBTOのHPから)

 IMSは地震波、放射性核種、水中音波、微気圧振動をキャッチする337施設から構成され、現在約90%が完了済みだ。1回目の核実験では22カ所の地震観測所が北の核実験をキャッチ。2回目は61カ所、3回目は94カ所がそれぞれ観測した。問題は、核爆発が実際行われたかどうかは放射性物質キセノン131、133の検出有無にかかっていることだ。

 北朝鮮中央テレビは6日午後12時半、特別重大報道を通じ、「初の水素爆弾実験に成功した」と発表した。日米韓3国らは「爆発規模が小さすぎる」として水爆説には否定的だが、北東部の咸鏡北道・吉州郡から北側49キロ地点で地震が発生したことから核実験はほぼ間違いないと受け取られている。
 ただし、放射性物質希ガスが検出されない限り、断言はできない。だから、「北の核関連技術水準では核爆発は難しい。大量のTNT火薬を爆発させたのではないか」(欧州の学者)といった偽造核爆発説を主張できる余地がでてくることになる。

 参考までに、北の「水爆説」の場合、実験直後、ヘリウム3が放出されなければならない。米軍は水爆実験を事前にキャッチし、実施日前後、無人機で監視し、ヘリウム3を検出しようとしたが、キャッチできなかった。そこで米政府は北の水爆実験はなかった、ないしは失敗したと判断したのではないか。

 北の核実験の場合、2006年10月9日の1回目の爆発規模は1キロトン以下、マグニチュード4・1(以下、M)、2回目(09年3月25日)の爆発規模は3〜4キロトン、M4・52、3回目(13年2月12日)は爆発規模6〜7キロトン、M4・9だったと推定されている。放射性物質の検出では、1回目はキセノン133(Xe133)が実験2週間後の10月21日、カナダのイエローナイフ観測所で検出された。2回目は検出されずに終わった。3回目は核実験55日後の4月8、9日、日本の高崎放射性核種観測所でキセノン131、キセノン133が検出されている。そして今回の4回目の核実験では、実験後50日目が経過したがまだ検出されていないのだ。

 CTBTOのトーマス・ミュツェルブルク報道官は、「核実験から時間が経過すればするほど、検出できるチャンスは少なくなる」と述べ、北の2回目の核実験と同様、今回検出されずに終わる可能性があると示唆しているほどだ。

 CTBTOは核爆発を検証する機関だ。その核爆発がウラン核爆発によるものか、プルトニウム核爆発かを断言する権限はない。それは加盟国が独自に検証する問題になる。
 問題は、北の核実験で今回も放射性物質が検出されない場合、CTBTOは「北は核実験を実施した」とはいえないことだ。放射性物質の放出を完全に防ぐことができれば、核実験の有無を検証できなくなる。

 核実験を1000mの地下で完全な密封状況で実施した場合、核爆発規模は確実に抑えられるうえ、核実験後放出される放射性物質は外に流れない。そうなれば、核実験が実施されたか否かは分からない。もちろん、地震観測所は異常な波を観測するだろうが、先述したように、TNT爆弾でも地震を発生させることができるのだ。

 検証可能な唯一の方法は現地査察(オン・サイド・インスペクション)だが、核実験を隠蔽しようとする国がCTBTOの現地査察団を受け入れるとは考えられない。とすれば、核実験の疑いは濃厚だが、断言できない、といった曖昧な状況が続くことになるわけだ。

駐独の南スーダン大使に聞く

 駐独のシトナ・アブダラ・オスマン南スーダン大使は23日、訪問先のウィーンの宿泊ホテルで当方との会見に応じた。同大使は同日午前、オーストリアのフィッシャー大統領に信任状を提出した後、オーストリア商工会議所などを訪れた。同大使は現在、ドイツ、オーストリア、チェコの3国の同国大使を兼任している。


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▲会見に応じる駐独のオスマン南スーダン大使(2016年2月23日、ウィーンのホテル内で)

 ――昨年8月締結された和平協定は政府側と反政府勢力双方で破られている。

 「あなたが指摘するように、和平協定は何度も破られてきたが、現在は戦闘は静まってきている。南スーダンは2011年7月、スーダンから独立を獲得したが、13年12月、マシャール前副大統領らがクーデターを企てた。その結果、わが国は政府軍と反政府軍の内戦に突入した。昨年8月、政府側と反政府側が和平協定を締結した後、和平協定は双方によって反故にされ、数千人が犠牲となり、多数の国民が避難民となっている。キール大統領は現在、一方的だが和平協定の履行に全力を投入している。東アフリカの地域経済共同体である政府間開発機構(IGAD)の和平調停案はキール現政権にとって理想的な内容ではなかったが、大統領は署名した。国民のために平和が急務という考えがあったからだ」

 ――国民統合政府は何時頃発足する予定か。

 「民族統合政府の新閣僚リストは既に出来上がっている。新政府は30閣僚から構成され、キール大統領派から16閣僚、マシャール前副大統領派から10閣僚、シルク系2、その他から2の計30閣僚だ。キール大統領は反政府勢力の指導者を第1副大統領に任命することも明らかにした。国民統合政府は早ければ来週にも、遅くても数週間以内に発足できると確信している」

 ――南スーダンはディンカ、ヌエル、シルクなどから成る部族社会だ。13年12月のマシャール反政府軍のクーデターでは、部族間の利権の分担問題が大きな原因だったと聞いた。

 「クーデターは利権の分割問題が主因ではない。マシャール前副大統領の個人的な政治的野心があったからだ。彼は大統領になりたかったのだ。ディンカとヌエル部族間の闘争ではなく、個人的権力志向が内戦勃発の原因となったのだ。キール大統領主導の国家統合政府案が実現するためには、マシャール前副大統領がジュバに戻り、大統領と共に新しい国づくりに乗り出すことが願われる。キール大統領は問題の解決は対話で実行すべきだと主張している。国民をこれ以上犠牲にする戦闘を繰り返すべきではない。わが国は過去、意味のない戦いのため多くの血を流してきた」

 ――南スーダンではこれまで10州の地方行政区に分割されていたが、今後は28州にするという。

 「わが国は今後28州に地方行政を分割する。国民の要望に応じるためだ。マシャール前副大統領も28州案を支持している。例えば、原油生産による収入は連邦政府に集めた後、28州に公平に分割することになる。利権や恩恵の公平な分割が重要だからだ」

 ――南スーダンの収入の90%を占める原油生産の状況はどうか。

 「原油生産はまだ低い水準だ。生産量は50万バレルに至っていないだろう。わが国としては原油生産依存の国民経済から脱皮し、多様な産業を発展させていきたいと願っている。農業、観光業、漁業などわが国の資源は豊かだ」

 ――北スーダンとの連携はどうか。

 「北側との間の原油生産、輸出の連携はうまくいっている。わが国はビジネスの為に国境線を開放したからだ。われわれは国民経済を成長させるためには他国との連携なくして繁栄できないことを学んできた。その意味でも、北スーダンとの協力関係は大切だ。全ての国境線問題が解決できることを願っている」

 ――内戦の避難民が食糧不足などで困窮下にあると聞く。

 「避難民や難民は内戦の影響で困窮下にあったので、国連が救援に乗り出してくれた。北スーダンとの国境も閉じていたから、避難民は生きていくための食糧すら手に入らなかったからだ。しかし、国境がオープンされた現在、状況は改善に向かっている。避難民が飢餓に苦しむことはもはやないと確信する。国境線沿い以外の地域では国民が飢餓になる恐れはない」

 ――日本は南スーダンの発展を願っている。日本は12年1月から国連南スーダン・ミッション(UNMISS)に要員を派遣している。

 「ウィーンで日本メディアのインタビューに応じられることを感謝する。わが国は2011年7月の独立後、日本政府からの多くの支援を受けてきた。13年12月のクーデター後もわが国に留まり支援してくれた。心より感謝している。日本政府関係者、国際協力機構(JICA)を通じて様々な支援プロジェクトが推進中だ。私自身も日本を訪問し、JICAのトレーニングを受けてきたばかりだ。日本からは今後も技術関連のノウハウを希望している。同時に、その為に訓練が必要だ。日本は現在、電力、水源の確保、建築分野で貢献してもらっている。日本関係者はジュバ以外でも支援プロジェクトを実施中だ。わが国の治安状況は首都以外でも改善されてきているからだ」

犬の数が人より多い社会に生きる

 イタリア国家統計局(ISTAT)によると、同国の昨年の合計特殊出生率(女性が一生涯に産む子どもの数。以下、出生率)が1・35と最低の水準に落ちたという。
 イタリアのこの数字は欧州諸国のなかでも突出して低い。国家の人口減、国力の減少につながる深刻な社会問題だ。ちなみに、同国の昨年人口は前年比で17万9000人少なくなった。

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▲初老の男と小犬(2013年9月25日、イタリア北部ベルガモにて、撮影)

 昨年も北・中央アフリカから多数の移民が入ってきたが、ベアトリス・ロレンツィン保健相は、「移民が増えたとしても少子化を防ぐことは出来ない。このまま人口が減少していけば、ホラー・シナリオだ」と指摘、家庭奨励に力を入れるべきだという。
 人口を維持しよう とすれば、出生率は最低でも2・1が必要だから、イタリアの出生率は「危険水位」にあることが明らかだ。西暦2050年には現人口(2015年5560万人)が1000万以上減り、4600万人に縮小すると予測されているほどだ。

 イタリアの若者の約60%はよりよい生活、労働条件を求めて海外に移民を希望する一方、90%は家庭を築き、2人以上の子供を育てたいと願っているというデータがある。イタリアでは家族は依然パワフルな機関と受け取られている。危機や問題が発生した場合、問題解決に最初に貢献するのは家庭だ、という意識だ。しかし、多くの若者はその家庭を築く為の経済・社会条件がないと感じ出しているわけだ。子供は贅沢品というわけだ。

 当方は2001年、イタリアの少子化問題をテーマに現地取材したことがある。イタリアでは、男性より女性の大学進学率の方がはるかに高い。それも文学部など人文系ではなく、理工系を選ぶ女性が多い。職場は一時的な腰掛けではないわけだ。職場でのキャリアを重視する女性は少なくない
 ローマ大学のギオバニ・スグリタ教授(社会学)は当時、「女性の雇用市場進出と、それに先駆けた女性の高学歴傾向が少子化の大きな原因となっている」と分析していた。

 女性の雇用市場進出に呼応し、女性の晩婚化が急速に広がってきた。イタリアでは30歳後に初産を経験する女性が多い。同時に、婚姻件数も激減してきた。婚姻件数は年々下降傾向だ。イタリアの女性が結婚に消極的となってきたことがうかがえる。

 イタリア北部ロンバルディア平原の都市、フェララでは出生率が0・8を記録したことがある。この国では、工業化が進む北部地域の出生率が農業中心の南部地域より一般的に低い。伝統的に家庭の絆が強かった南部地域でもここ十数年で少子化は着実に進んできた。南部地域の出生率は1・30から1・40の間を推移しており、スウェーデンより低い。

 もちろん、政府もこの超少子化現象に対して無策でいるわけではない。さまざまな社会福祉政策を提案し、児童手当を含む家庭支援策を実施しているが、出生率をアップさせるまでには至っていない。スグリタ教授は当時、「国が児童手当をアップさせるなど、経済的支援を拡大したとしても残念ながら出生率の向上にはつながっていない」と主張、国の干渉については懐疑的だった。

 15年前、当方は取材先で、「イタリア北部では、犬の数が子どもの数より多い市がある」と聞いたことがある。その市の名前は忘れてしまった。責任と経済的負担が伴う子どもの養育を放棄、いざとなればポイと捨てることができる犬を飼う家庭が多くなってきたわけだ。

サウジの若者たちが希望を失う時

 昔の話だが、当方は2001年2月27日、ウィーンの国連内でサウジアラビアのトルギ・サウド・ムハンマド・アル・サウド王子とインタビューをしたことがある。王子と会見するのは初めだったので最初は緊張したが、会見をアレンジしてくれた知人のサウジ外交官が「君、わが国には1000人以上の王子がいるよ」と説明してくれたので、「ああそうか」と急にリラックスしたことを思い出す。テーマは宇宙問題だったが、その内容は残念ながら忘れてしまった。サウジの各王子はそれぞれ自身の特定分野を担当して国家に貢献しているという。アル・サウド王子は当時、サウジ王立宇宙調査研究所所長だった。

 あの時のサウジはいい時代だったのだろう。サウジで最近、失業者の若者が増えているという記事を読んだばかりだ。その主因は2014年6月以来続く原油価格の暴落だ。当時1バレル100ドル以上だったが、現在は約30ドルと3分に1に急落した。国家予算の90%が原油輸出からの外貨収入で賄われているサウジの国家の台所事情は大変だ。

 サウジでは学校教育から病院まで全て無料だ。原油輸出から入る豊富な財政はそれらを可能にする充分な収入があった。1000人以上の王子たちは政府から資金や補助金を貰い、与えられた分担で努力しておけばそれで良かった時代だ。
 “3K”の仕事は海外からの出稼ぎ外国人に委ね、技術や医療分野は欧米からリクルートした人材に委ねてきた。だから多くの国民は生活の為に仕事をするということはなかった。ちなみに、2013年、外国人出稼ぎ組は約900万人と推定されていた。
 しかし、原油価格が暴落することで国家財政は火の車となってきた。同時に、サウジ王室関係者と国民との間で格差も見えだしてきたのだ。


 ウィーンにはサウジが投資して設立された国際機関「宗教・文化対話促進の国際センター」(KAICIID)がある。同国際センターは2013年11月26日、サウジの故アブドラ国王の提唱に基づき設立された機関で、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教の世界5大宗教の代表を中心に、他の宗教、非政府機関代表たちが集まり、相互の理解促進や紛争解決のために話し合う世界的なフォーラムだ 。その為にサウジが全額出資した。原油価格が1バレル100ドル以上の時代だったから可能だったプロジェクトだ。1バレル30ドルの今日、いくら気前のいいサウジでもウィーン市の一等地に豪華な建物を運営していく資金を捻出するのは容易ではないだろう。

 サウジは16日、ドーバーで原油輸出国のロシア、カタール、べネズエラと原油価格の暴落を阻止するために協議し、原油生産を1月の水準で凍結することで合意したが、遵守されるかは不明だ。国際社会の制裁から解除されたイランが1月以来、本格的な原油輸出を開始したばかりだ。

 サウジ人口は約2900万人だが、その3分の2は30歳以下の若い世代だ。アラブの民主化を進める“アラブの春”が到来する前に、サウジでは国民経済の冬の時を迎えているのだ。失業者が増加し、若い世代が将来に希望を失ってくると、国内の治安は悪化する事態が十分考えられる。サウジはイスラム教スンニ派でも厳格な教えを説くワッハーブ派だ。国内には10%以上のシーア派もいる(「サウジ王室内で世代抗争が進行中」2016年1月9日参考)。

 原油輸出から来る豊富な外貨で豊かな生活を享受してきたサウジ国民にとって経済の冬の到来は初体験だろう。国民の7割が国家公務員という国だ。
 国内の失業対策の一貫として、サウジは海外からの出稼労働者の制限に乗り出してきた。原油価格が今後も低落するようだと、サウジ王室は体制存続の危機を迎える可能性も排除できなくなる。

処刑された人はその後どこに?

 北朝鮮最高指導者、金正恩第1書記は政権掌握後、多くの党・軍幹部たちを処刑してきた。最も大きな衝撃を与えた処刑は叔父の張成沢(元国防委員会副委員長)の殺害だ。金日成主席、金正日総書記、そして金正恩第1書記と3代に渡る金王朝独裁政権下で親族関係者が公の場で処刑された初のケースだった。粛清や処刑に慣れている北朝鮮指導部も金正恩氏の叔父殺害には心底から震え上がったのではないだろうか。あり得ないと考えてきたことが、いとも簡単に破られてしまったのだ。

 最近では、李永吉人民軍総参謀長が処刑されたという噂が流れてきた。李明秀前人民保安部長が人民軍総参謀長に就任したことが判明したばかりだから、前任者の処刑はほぼ間違いない、と受け取られている。次は誰が処刑されるか、北の党・軍幹部たちは夜も心落ち着けて休むことができないのではないか。

 30歳代の金正恩氏は就任後、100人前後の党・軍幹部を処刑したといわれる。まさに、処刑魔という称号が最も適した独裁者だろう。ここまでは前口上だ。以下、このコラムのテーマである「処刑された人はどこに消えたか」だ。
 当方が何を言っているのか理解できない読者もいるかもしれない。具体的に考えてみたい。甥の金正恩氏によって処刑された張氏はその後、どこに消えたか、というテーマだ。

 張氏は処刑され、その肉体は文字通り、銃弾で粉々にされた。しかし、それで張氏の肉体は元の姿を失い、肉体を形成してきた無数の物質は地に戻った。問題は、張氏を張氏としていたその精神、宗教的には霊体はどこに消えたのか。

 このように表現すると、直ぐにオカルトの世界を思い出す読者もいるだろう。当方は現存する霊体の行方をテーマとしている。唯物主義教育を受けてきた世代はそんな話は根拠のないおとぎ話と一蹴するかもしれないが、そのように冷笑する人も自身の肉体が消滅した後、これまで思考してきた自分という精神の世界が同時に完全に消えてしまうとは信じていないのではないか。
 霊体の存在を信じるためには宗教などいらない。少しばかり冷静な理性と経験があれば、断言こそ出来ないが薄々分かっていることだからだ。そうでなくては、どうして人は墓参りをし、墓前で祈ることができるだろうか。

 デンマークの王子ハムレットが父親殺しの犯人が誰かを、殺された父親から聞いたように、処刑され、殺害された霊体の復讐劇は昔も今も変わらない。

 張氏は処刑後、霊体として存在している。とすれば、処刑した側、金正恩氏にとって文字通り悪夢だ。処刑された側の精神、霊体を先ず考えてみよう。彼は自分を殺した甥を憎むだろう。甥が地上ですることを妨害するかもしれない。同じように、処刑された霊体と連携して金正恩処刑を計画するかもしれない。恨みを持つ霊体はその恨みが晴れるまでは、霊体の世界、霊界には行けないからだ。

 一方、金正恩氏の場合、叔父を殺したという思いを完全に脳裏から追放できない。忘れたいが、忘れることができない。そこで酒の瓶に手が行く。何をしても心が完全には晴れない。だから、暴飲暴食に走る。その結果、体重130キロの金正恩氏が生まれてきたわけだ(「金正恩氏が首脳外交できない理由」2015年9月28日参考)。

 核実験、長距離弾道ミサイルの発射も金正恩氏の心を満足させない。だから、危険と分かっていても冒険に乗り出す。勝利の見通しがあるから戦いを始めるのではない。戦争をしないと心が落ち着かなくなるからだ。朝鮮半島はまさに危険水位にあるのだ。

 金正恩氏の場合、張氏だけではない。他の党・幹部も霊体となった後、金正恩氏から離れることができない。憎いからだ。だから、金正恩氏の周辺には多くの憎しみを持った霊体が取り囲んでいる。金正恩氏はそれらの霊体を抑える力はない。霊体は時空を超えて金正恩氏にとりつくからだ。

 独裁者の最後が幸せではない理由をこれで理解できるだろう。地上で全ての財宝をものにし、願いを実現したとしても、自身が処刑してきた人間の霊体の恨みから解放されることがないからだ。独裁者になれ、といわれても独裁者になるべきではない。独裁者ほど、この地上で可哀想な人間はいないからだ。

 蛇足だが、モーゼの十戒にも明記されているように、人を殺すべきではない。この「殺す」という意味は、肉体の殺害だけを意味しない。言葉による心情の蹂躙も立派な殺害に当たる。言葉で人を殺すのは肉体を処刑するのと同様、取り返しのつかない犯罪だ。
 政界だけではなく、社会の全ての分野で暴言・中傷・誹謗の言葉が飛び交っている。他者の心情を傷つける言葉は人を殺すナイフと同じだということを肝に銘じるべきだろう。

彼は「信念の人」か「風見鶏」か

 アルプスの小国オーストリアのヴェルナー・ファイマン首相を見ていると、「よく頑張っているな」という思いが少しは出てくるが、それ以上に、「この人には自身の信念はあるのか」と首を傾げたくなることが多い。

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▲オーストリアのファイマン首相(オーストリア連邦首相府のHPから) 

 日本の友人がメールで、「君の国の首相の名前がNHKのニュースで出ていたよ」と教えてくれた時、「へェー」と驚いてしまった。欧州に殺到する難民問題関連報道の中でファイマン首相の名前が出たというのだ。
 当方が知る限りでは、難民問題が大きなテーマとなる前には、ファイマン首相の名前が日本のメディアで報じられたことはなかったはずだ。北アフリカ・中東諸国から昨年100万人以上の難民が欧州に殺到しなければ、多分、ファイマン首相の名前は日本の大手メディアには登場しなかっただろう。

 ファイマン首相はオーストリア第1党与党の社会民主党党首だ。グ―ゼンバウアー社民党政権を継承し、社民党と国民党の2大連合政権の長として2008年12月から今日に至る。政権7年目が過ぎたばかりだ。短命政権が多い欧州政界では、メルケル独首相を例外とすれば、ファイマン首相は珍しい存在だ。欧州連合(EU)首脳会談開催前後、ファイマン首相にマイクを突きつける欧州メディアも出てきた。長期政権の首相だからそのコメントを拾おうというわけだ。
 そこまでになるためには、ファイマン首相も苦労したはずだ。首相就任当初、首脳会談でもまったくメディアの関心を引くということはなく、もっぱら自国メディアのインタビューに応じる姿しか見られなかった。それが変わったのだ。「継続は力なり」という哲学者の名言を思い出す。

 それでは、ファイマン首相の名前が欧州レベルにまで拡大する契機となった難民政策について紹介する。
 フィアマン首相には最初から独自の難民政策はなかった。隣国の大国・ドイツのメルケル首相の難民政策をフォローし、メルケル首相の難民政策の後を忠実にフォローしてきただけだ。
 ‘Er kommt mit keiner Meinung rein und geht mit meiner Meinung wieder raus.‘(彼は自分の考えなどなく、メルケル首相と会談し、メルケル首相の考えをもって帰っていった)とメディアから揶揄されたほどだ。

 オーストリアにも昨年9万人の難民申請者が登録されたが、100万人以上の難民の多くはドイツを目指した。そこでメルケル首相の難民歓迎政策を支援し、ドイツを目指す難民・移民たちをドイツにスムーズに送り込むことがオーストリア側の使命と受け取ってきた。
 「どうせ、わが国に難民申請する者は少ない」という安心感から、ファイマン首相は連立政権パートナーの国民党や野党第一党の極右政党自由党の反対にもかかわらず、難民移民の入国を許してきた。
 ここまでは良かったが、ドイツ国内で難民受入れに反対する声が出てきた。メルケル首相も歓迎政策から受入れ制限へ修正せざるを得なくなった。メルケル首相の難民政策の変遷は「ジュネーブ難民条約は忘れられた」(2016年2月4日)のコラムの中で詳細に紹介したから、関心がある読者は参考にして頂きたい。

 お手本としてきたメルケル首相の難民政策が変わると、ファイマン首相も急遽、国境に壁を建設する一方、国境監視の強化に乗り出した。ドイツが対オーストリア国境を監視強化すれば、オーストリア国内に留まる難民が急増する。その数は膨大だ。オーストリアはドイツではない。そこでオーストリア側も急遽、厳格な難民政策に修正せざるを得なくなったわけだ。

 オーストリア政府は19日から、1日当たりの難民申請受付数を最大80人に、ドイツを目指す難民の入国も1日3200人とする厳格な政策を実施した。冷戦時代、200万人以上の旧ソ連・東欧諸国からの難民を受け入れ、「難民収容国家」という称号を受けたこともあったが、殺到する難民をストップさせるためになりふり構わず国境を閉じる政策に変更せざるを得なくなったわけだ。
 メルケル首相を信じ、その足跡をフォローしてきた忠実なファイマン首相は今日、EU諸国の中でも最も厳格な難民政策を実施する加盟国の首相となった。

 ファイマン首相は信念の人ではないが、同首相を風見鶏と酷評することは適当ではないだろう。小国は生き延びていくためにあらゆる手段を駆使しなければならない。ファイマン首相はオーストリアの生きる道を懸命に模索している小国の首相だ。それ以下でもそれ以上でもない。

トランプ氏はキリスト教徒か

 世界に約12億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王フランシスコは18日、7日間のメキシコ訪問を終え、ローマへの帰途の機内で慣例の記者会見を行った。そして米共和党大統領候補者の1人、不動産王のドナルド・トランプ氏について、「架け橋ではなく、壁を作る者はキリスト教徒ではない」と指摘、移民ストップやイスラム教徒の入国禁止などを主張するトランプ氏をキリスト教徒ではないと批判した。

 トランプ氏を擁護するつもりはないが、ペテロの後継者ローマ法王は如何なる理由があるとしても、「あなたはキリスト教徒ではない」と切り捨てることはできないはずだ。法王は、「米大統領選に干渉する考えはない」と断っているが、その発言内容はかなり政治的だ。
 問題は、法王が共和党大統領候補レースに干渉しているからではない。羊飼いの立場にあるローマ法王が、羊の信者たちに向かって、「お前はダメ」「お前はいい」と刻印を押すことは牧会を聖職とする法王に適しているのかだ。

 暴言や問題発言をしなかった政治指導者は皆無だろう。さまざまな暴言発言が政治家や指導者の口から飛び出す。その内容がイエスの隣人愛と合致していないという理由で、「お前はキリスト教徒ではない」というならば、世界12億人の信者を抱えるカトリック教会でどれだけ本当の信者がいるだろうか。

 清貧を説き、謙虚と慈愛を求めてきたフランシスコ法王から、裁判官のような発言が飛び出したのだ。キューバでロシア正教のキリル1世と歴史的会合を果たし、メキシコでは多種多様の礼拝、イベントに参加してきた79歳の高齢法王はローマ帰途の機内でリラックスし、口が軽くなった結果、飛び出しただけだろう。

 それにしても、フランシスコ法王には問題発言が少なくない。法王は昨年1月19日、スリランカ、フィリピン訪問後の帰国途上の機内記者会見で、随行記者団から避妊問題で質問を受けた時、「外部から家族計画について干渉することはできない」と述べ、「思想の植民地化」と呼んで批判する一方、避妊手段を禁止しているカトリック教義を擁護しながらも、「キリスト者はベルトコンベアで大量生産するように、子供を多く産む必要はない。カトリック信者はウサギ(飼いウサギ)のようになる必要はないのだ」と述べ、無責任に子供を産むことに警告を発したのだ。法王の「うさぎのように…」という発言内容が伝わると、「大家族の信者たちの心情を傷つける」といった批判だけではなく、養兎業者からも苦情が飛び出したのはまだ記憶に新しい(「批判を呼ぶ法王の『兎のたとえ話』」2015年1月22日参考)。


 前法王べネディクト16世も在位期間(2005年4月〜13年2月)、問題発言がなかったわけではない。法王就任年の2005年9月、訪問先のドイツのレーゲンスブルク大学の講演で、イスラム教に対し、「ムハンマドがもたらしたものは邪悪と残酷だけだ」と批判したビザンチン帝国皇帝の言葉を引用した。そのため、世界のイスラム教徒から激しいブーイングを受けたことがあった。
 学者法王べネディクト16世と南米法王フランシスコは、問題発言の内容もかなり異なっている。南米気質の法王を知るジャーナリストは法王から面白い発言を引き出そうと腐心しているはずだ。

 問題に戻る。トランプ氏はキリスト教徒ではないのだろうか。
 同氏はプロテスタント系の長老派教会に所属するキリスト教徒だが、集会で聖書をもって語り掛けることもある。しかし、他者を批判し、困窮下にある人間への愛の欠如はイエスの教えには一致しないことは明らかだ。が、それはトランプ氏だけではない。トランプ氏も自身の発言が問題を呼び、メディアの注目を浴びることを知った上で語っているはずだ。その意味で、トランプ氏は間違いなくポピュリストだ。
 一方、トランプ氏を批判したフランシスコ法王も自分の発言が法王らしくないことを十分知っているはずだ。法王もトランプ氏に負けないポピュリストの面があるというべきだろう。

 だから、2人のポピュリストの発言について、当方のこのコラムのように、「ああだ」「こうだ」と評することはあまり意味がないばかりか、それこそポピュリストの罠に堕ちいることにもなる。
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