ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2015年03月

ドイツ機墜落の犠牲者と「復活祭」

 世界の約17億のキリスト信者にとって最も重要なイースター(復活祭)の聖週間が始まった。イエス・キリストが十字架で亡くなった後、3日目に蘇ったことを祝う「復活祭」は移動祝日だ。今年は4月5日だ。キリスト教会ではイエス・キリストの生誕を祝うクリスマスと共に、最大の宗教行事だ。


 ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王フランシスコは29日、サン・ピエトロ広場で「シュロの枝の主日」の記念礼拝を行ったが、法王はその中で24日に起きたドイツ・ジャーマン・ウイングス機(エアバスA320、乗客144人、乗員6人)墜落の犠牲者への祈りを捧げた。
 墜落で最も多くの犠牲者を出したドイツでは、カトリック教会のケルン大教区ヴォエルキ枢機卿( Rainer Maria Woelki )が同日の記念礼拝の中で、「全能で愛の神がなぜ墜落を防ぐこともせず、静観されていたのか、といった声が信者たちの間にあることを知っている」と述べている。

 バチカン放送独語電子版によると、同枢機卿は、「なぜ多くの人々が苦しみ、悲しんでいるのか、神はどうしてそれに答えないのか、という問いかけと同じだ」と指摘、即答を避けながら、「イエスは十字架にかかり、神も同様に苦悩した。イエスが苦悩する人々の同伴者であるという事実は心を慰める」と語っている。その一方、「一人の人間が多くの人間を苦しめた今回の出来事では、訴えや怒りが飛び出すのは理解できる」と語った。

 インドネシアの津波、ニューオリオンズのハリケーン・カトリーナ、東日本大震災で多数の人々が犠牲となる度に、欧米キリスト教社会では信者たちの間で「神の不在」への訴えや批判が聞かれる。なぜ、神は愛する人間を無慈悲に犠牲とされるのか、大災害の時、あなたはどこにおられたのか、といった訴えだ。

 それに対する教会側の標準的な返答はヴォエルキ枢機卿の発言だろう。神、そしてイエスは苦悩する人間の痛みの同伴者であるという。すなわち、神は苦悩する人間を知らないのではなく、その傍で共に苦悩しているというのだ。苦痛する者にとって独りではないことは大きな慰めだが、神はその全能を駆使して、同伴だけではなく、癒しを施さないのか、といった素朴な質問は依然、残る。

 あのマザー・テレサは生前の書簡の中で神の沈黙への苦悩を記述している。病者、貧者の傍にあって同伴してきたテレサもある時は疲れ切って呟かざるを得なくなったのだ。「なぜ」という叫びだ。

 ドイツ機墜落の犠牲者の中には新生児もいた。修学のためにスペインにいたドイツの学校児童たちも多数含まれていた。商談のために出かけ、その帰途で悲劇に出会った日本人の犠牲者もいた。27歳の副操縦士とは全く面識もない人々が無慈悲にも犠牲となった。その理由について、キリスト教会はこれまで納得できる説明をしていない。何のために神を信じ、祈るのか、という厳しい質問が飛び出したとしても不思議ではない。

 聖週間が始まった。29日は復活祭前の最後の日曜日だった。エルサレム入りしたイエスをシュロの枝で迎えたことから「シュロ枝の主日」と呼ぶ。4月2日は復活祭前の木曜日で、イエスが弟子の足を洗った事から「洗足木曜日」と呼ぶ。イエスは十字架磔刑の前夜、12人の弟子たちと最後の晩餐をもった日だ。4月3日は「聖金曜日」でイエスの磔刑の日であり、「受難日」「受苦日」とも呼ばれる。そして4月4日夜から5日にかけ法王は復活祭記念礼拝を挙行し、サン・ピエトロ大聖堂の場所から広場に集まった信者たちに向かって「Urbi et Orbi」(ウルビ・エト・オルビ)の公式の祝福を行う。今年の復活祭は多くのドイツ国民にとって特別な日かもしれない。


 バチカン放送によると、4月17日、独ケルン大聖堂でドイツ機墜落の犠牲者150人を追悼する超教派礼拝が挙行される予定だ。同礼拝にはガウク大統領、メルケル首相のほか、スペイン、フランスなど犠牲者の出身地の代表らも参加するという。

「技術」と「人間」

 ドイツのジャーマンウィングス機(エアバスA320、乗客144人、乗員6人)の墜落は副操縦士の意図的な操作による可能性が濃厚となったことを受け、欧州航空会社は、.灰奪ピット内の常時2人体制、▲僖ぅ蹈奪箸寮鎖静チェックの強化―などの対策に乗り出し、,和燭の航空会社が即日実行に移した。

 航空関係者は迅速に教訓を引き出したが、ドイツ機の墜落の場合は想定外の出来事だった。独日刊紙べルリーナー新聞は「計算された死」という記事の中で、「考えることすらできない出来事」と書いている。副操縦士は面識のない多くの乗客を道連れに、機体を急降下させ、山壁に衝突させたからだ。

 当方は「コンピューターが操縦桿を握る時」(2015年3月26日)というコラム記事の中で、昨年11月5日、ルフトハンザ機で生じたコンピューターの誤導に関する独週刊誌シュピーゲル(3月21日号)の記事内容を報告したが、今回のジャーマンウィングス機の場合、操縦士の立場にある人間が意図的に墜落させただけに、航空会社の衝撃はこれまでになく大きい。

 航空会社のショックの一つは、コックピット内の安全強化が裏目に出たことだ。米国内テロ多発事件後(2001年9月11日)、航空会社はさまざまな対策に乗り出した。その一つはコックピットへの第3者の侵入を阻止するためコックピットを内から閉じるシステムを導入したことだが、ドイツ機墜落の場合、この技術的改善が機長をコックピットに入れさせず、副操縦士の狂気の計画を可能にさせたわけだ。

 独紙フランクフルター・アルゲマイネは、「パイロットは一般的によく訓練され、教養も高いが、人間は天使ではない。疲れたり、ストレス下では間違いを犯す」と書き、仏日刊紙リベラシオンは、「技術は発展したが、その技術を管理するのは依然、人間だ」と述べている。

 航空技術の発展、安全管理の強化で技術の欠陥による事故は限りなくゼロに近くなったが、ドイツ機の墜落は、安全管理の主役は「技術」ではなく、「人間」にあることを改めて示したわけだ。その意味で、航空史上、記録に残る出来事となった。

 独メディアは墜落当初、機体の技術的欠陥の可能性に焦点を合わせて様々なシナリオを報じたが、ここにきて副操縦士の言動を調査し、その病歴を詳細に報道し出した。28日現在、技術的欠陥説は依然、完全には排除できないが、独仏捜査当局の焦点は副操縦士の病歴に注がれている。墜落の最終的結論が出るまで時間がかかるだろうが、今回のドイツ機の墜落は「技術」と「人間」の関係を改めて考えさせる出来事となった。

 当方は昔、F1の世界チャンピオンで航空会社経営者でもあったニッキー・ラウダ氏に飛行機事故について、ウィーン空港事務所内でインタビューしたことがある。同氏は当時、「事故の原因は人間だ。技術は事故を犯さない」と主張し、技術発展に絶大の期待と信頼を寄せていたことを思い出す。問題はハード面ではなく、ソフト面の人間だというのだ。ジャーマンウィングス機の墜落は同氏の主張を図らずも裏付けることになったわけだ。
 ただし、昨年11月のルフトハンザ航空の事故はコンピューターシステムの想定外の反応だった可能性が高い。経験豊かなパイロットの迅速な対応で事故を免れたが、技術が事故を誘発させる可能性も完全には排除できない。

 いずれにしても、「技術」が急速に発展する一方、ソフト面の「人間」が旧態依然の状況である限り、人間が原因の事故が今後、増えてくることが予想されるわけだ。ホンダの創設者、本田宗一郎は「科学技術に優先するものは、人間の正しい思想だ」と述べている。

習近平国家主席に暗殺の危機?

 政治家は程度の差こそあれ想定外のハプニングに遭遇する危険性を抱えている。無数の人々と接する機会が多いこと、そして全ての人がその政治家を好ましいと考えているわけではないことがある。極端な場合、今回のコラムのテーマである「暗殺」の危険性が出てくる。

 世界の指導者の中でもオバマ米大統領、ローマ・カトリック教会の法王フランシスコの2人が最も暗殺の危険が高い指導者と受け取られている。それに異存はないが、ここにきて中国の習近平国家主席と北朝鮮の金正恩第1書記の2人が暗殺危険リストに入ってきたというのだ。

 フランシスコ法王の場合、オーストリアの著名な神学者、パウル・ツーレーナー教授が、「カトリック教会内の根本主義者らによるフランシスコ法王の暗殺計画が囁かれている」と警告したことがある。実際。法王が昨年9月、アルバニア訪問の際、イスラム過激派勢力による暗殺計画があった、という情報が流れた。最近では、故ヨハネ・パウロ2世が1981年5月13日、サンピエトロ広場でアリ・アジャ( Ali Agca )の銃撃を受け、大負傷を負っている。

 同じように、オバマ大統領の場合、オバマ大統領個人に対してというより、世界唯一の大国・米国に対して、米国憎しといった反米主義が世界至る所に燻っているだけに、米大統領にある人物には常に暗殺の危険性が伴う。

 ところで、「暗殺危険リスト」に2人のニューカマーが加わってきた。北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺計画を描いた米映画「ザ・インタビュー」が話題を呼んだばかりだ。製作会社ソニーの米子会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)が北側の強い抵抗で映画の上演を一旦中止したが、テロの脅しに屈し、「言論の自由」「表現の自由」を放棄するものだと強い批判の声が米国内で上がってきたため、SPEは最終的には映画上演に踏み切った経緯がある。

 北の場合、暗殺の危険は正恩氏の父親、故金正日総書記時代もあった。独裁政権では潜在的な政敵による暗殺の危険は常にある。そのため、独裁者は政敵の粛清を頻繁に行ってきたわけだ。ちなみに、正恩氏は政権を掌握後、党・軍内の統制を一段と強化している。

 そして、中国の最高指導者、習近平国家主席にも暗殺の危険が差し迫ってきたというのだ。中国の海外反体制派メディア「大紀元」によると、「習近平政権は精力的に進める反腐敗運動で、これまでに省高官以上の高級幹部100人あまりを取り締まった。一方で、習氏に対する暗殺未遂情報が中国国内でしばしば浮上する。最新の報道では、習氏は最悪の事態に備えて『政権代行チーム』を考案している」というのだ。

 香港のメディアによると、同主席は過去、6回ほど暗殺未遂に遭ったという。そして暗殺方法として、健康診断時の毒薬注射や爆弾を仕掛けるなど様々なシナリオが報じられている。その背景には、習近平主席が江沢民元主席親族経営事業へ腐敗捜査を進めてきたことに対し、危険を感じる勢力が習近平主席の暗殺を計画しているというのだ。また、西側の中国消息筋はウイグルの独立運動に絡んで北京指導部へのテロも考えられるという。

 フランシスコ法王、オバマ大統領の2人は自由社会の指導者だ。一方、金正恩第1書記と習近平国家主席は独裁政権のトップだ。暗殺の危機は、社会体制の相違を超えて広がってきたわけだ。

「おかげさま」の日韓関係

 韓国の大手日刊紙「朝鮮日報」電子版(27日)のトップ記事に、「日本よ、『漢江の奇跡』を侮辱するな」というかなり戦闘的なタイトルの記事が掲載されていた。同紙の主張は理解できたが、「わが国の繁栄は日本のおかげ……」という主張に対して、「日本のおかげではなく、欧米からの借款がもっと多かった」と、数字を挙げて反論していた。

 「日本の外務省は今月24日、駐米・駐韓大使館のホームページなどで、韓国などアジア諸国への援助を強調する広報動画を公開した。この動画をめぐっては、『誇張であって、一方的な主張』という指摘が出ている。『戦後国際社会の国づくり:信頼のおけるパートナーとしての日本』という動画は、『1954年からアジア諸国に対し経済支援を提供した』として、韓国の地下鉄1号線の開通写真、昭陽江ダム工事の写真、浦項総合製鉄所の写真を次々と示した。韓国も日本による大々的な支援のおかげで経済成長の第一歩を踏み出すことができた、というのだ」
 「朴正煕政権の第1次経済開発5カ年計画が始まった62年からの10年で韓国が導入した借款のうち、70%は米国・欧州からのものだった。日本からの借款は20%程度だった」

 当方は同紙が挙げた数字の正確度をチェックする手段がないから、その論旨が間違いとも正しいともいえない。当方が合点いかない点は、同紙が「日本のおかげ」には厳しく批判の目を注ぐ一方、「欧米のおかげ」は問題にしていないことだ。同紙の主張を正しく理解するなら、韓国側は「欧米のおかげ」で「漢江の奇跡」があったという主張があったとしても反対しないが、「日本のおかげ」には猛反撃するというわけだ。

 朝鮮半島の動乱後、疲弊していた韓国経済が回復し、発展していった背後には、「欧米のおかげ」だけではなく、たとえ「20%に過ぎない」(朝鮮日報)日本からの借款もそれなりの貢献を果たしたこと否定できないだろう。すなわち、「漢江の奇跡」は欧米と日本の連携による支援が大きく貢献したと考えて間違いないだろう。

 朝鮮日報が批判をする点は、日本の支援が当時、欧米と比較して少なかったからではない。日本が「わが国の支援が韓国の経済発展に貢献した」と主張されることを危惧しているのだ。だから、「日本の支援で韓国が発展した」という主張は、「朝鮮を近代化した」という日本帝国主義の強弁とそっくりだ、と厳しく断じているわけだ。

 明確な点は、日本は戦後、経済発展し、経済力をつけると近隣諸国へ積極的に経済支援を行ったという事実だ。もちろん、その背後には、戦時への反省と謝罪の意味も含まれていただろう。そして戦後70年を振り返って、日本外務省がその経済支援政策を評価することは自然だ。問題は、「欧米のおかげ」は容認するが、「日本のおかげ」は暴言と受け取る韓国紙の姿勢だろう。借款のパーセントの問題ではない。問題はその精神だ。

 国の運命だけではない。人の人生も多くの「おかげ」を受けている。「おかげ」を受けていない人、民族、そして国家など存在しないのではないか。日本が戦後、急速に経済復興できた背景には、米国の支援のほか、朝鮮半島で多くの血が流された朝鮮動乱が日本側の経済的発展の契機となったことは否定できない。けっして「おかげ」とは表現できないが、否定できない事実だ。
 日本の戦後の経済発展は、国民の勤勉や能力だけによるわけではない。時代が日本の発展を促したわけだ。その意味で、「時代の恩恵(おかげ)」を忘れてはならないだろう。

 「おかげ」を受けることは、恥ずかしいことでも、惨めなことでもない。私たちの存在そのものが「おかげ」の結果ではないか。韓国紙が「欧米の支援と共に、日本の支援のおかげで韓国経済は当時、経済的危機を乗り越えました」と書けば、名記事となった。
 一方、日本外務省は、「敗戦後、経済的発展を達成出来た背景には近隣諸国の犠牲もあったことを知っています。経済的発展を近隣諸国に分け与える機会が許されたことを感謝します」と主張できれば、「品格のある国家」と改めて評価されるだろう。

 韓国紙には、宮沢賢治の「永訣の朝」という詩を読んで頂きたい。
 病床にあった妹が、妹の為に何もできないことに苦しむ兄に向かって、陶碗を出して、「雨雪(水一杯)」(あめゆじゅとてちてけんじゃ)を頼む。妹は自分のために何かしたいと願う兄の心を配慮し、水を頼んだのだ。この詩には「受ける」側の心の美しさが描かれている。

 支援を受けることは、本来、与える側を喜ばす業だ。だから、与える者は受ける者がいることに感謝しなければならない。未来志向の日韓関係とは、受ける側と与える側の「おかげさま」関係ではないだろうか。

「どの人生にも『意味』がある」

 オーストリアの精神科医、心理学者、ヴィクトール・フランクル( Viktor Emil Frankl,1905〜1997年)が生まれて今月26日で110年目を迎えた。ジークムンド・フロイト(1856〜1939年)、アルフレッド・アドラー(1870〜1937年)に次いで“第3ウィーン学派”と呼ばれ、ナチスの強制収容所の体験をもとに書いた著書「夜と霧」は日本を含む世界で翻訳され、世界的ベストセラーとなった。独自の実存的心理分析( Existential Analysis )に基づく「ロゴセラピー」は世界的に大きな影響を与えている。その心理学者の功績と生き方を紹介した世界初の博物館が26日、フランクルが戦後長く住んでいたウィーンの住居でオープンされた。

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▲1950年代のヴィクトール・フランクル(ウキぺディアから)

 ロゴセラピー( Logotherapy ) は、人が自身の生の目的を発見することで心の悩みを解決するという心理療法だ。フランクルは、「誰でも人は生きる目的を求めている。心の病はそれが見つからないことから誘発されてくる」と分析している。強制収容所で両親、兄弟、最初の妻を失ったフランクルだが、その人生観は非常に前向きだ。彼の著書「それでも人生にイエスと言う」やその生き方に接した多くの人々が感動を覚える理由だろう。


 ウィーン大学の「ヴィクトール・フランクル研究所」のHPによると、フランクルの実存分析は3つの哲学的、精神分析学的コンセプトに基づく。
* Freedom of Will
* Will to Meaning, and
* Meaning in Life
 「ロゴ」はギリシャ語で「意味」だ。全ての現象に「意味」があり、その意味を汲み取る作業が人生であり、見つけた人生の目的を成就していくのが人生というのだ。

 ローマ・カトリック教会の前ローマ法王べネディクト16世は現代人の心の世界について、「多くの人々は相対的価値観に陥り、何が価値あるかを分からなくなってきている。そのような世界の行き先は虚無主義だ。現代人は虚無主義に陥る人々が多い」と述べたことを思い出す。私たちは生きる価値、意味が分からなくなる時代に生きているのだ。

 フロイトの無意識の世界、性衝動などの精神分析、アドラーの「個人心理学」とは違って、フランクルの精神分析は人間の実存に基づく分析といえる。物質世界の恩恵を受けながら心の渇きを感じて悩んでいる現代人にとって、フランクルの心理分析は大きな救いをもたらすはずだ。フランクルは、「あなたの人生にも意味があるのだ」と囁き、悩める人々の心に光を与えているのだ。
 
 最後に、フランクルの言葉を紹介する


 祝福しなさい、その運命を。
 信じなさい、その「意味」を。

コンピューターが操縦桿を握る時

 欧州内の飛行機便は安全だ、と久しく信じられてきたが、24日のドイツ機の墜落事故はその伝説を無残にも消し去ってしまった。スペイン・バルセロナ発ドイツ・デュッセルドルフ行きのドイツのジャーマンウィングス機(エアバスA320、乗客144人、乗員6人)がフランス南東部のアルプス山中に墜落したのだ。

 事故の発生を最初に知ったのは“偶然”にも独週刊誌シュピーゲル電子版を読んでいた時だ。なぜ、“偶然”かといえば、シュピーゲル最新号(3月21日号)によれば、昨年11月5日、危うく墜落の危機に直面した飛行機の話が掲載されていたからだ。その状況は今回の事故とかなり酷似しているのだ。そのタイトルはなんと「墜落にプログラムされていた」( Auf Absturz programmiert )というのだ。

 独メディアによれば、事故の原因はドイツ機が急に降下を始めたことだ。降下開始8分後、機体はフランスのアルプス山中に墜落した。ちょうど同じことがドイツのルフトハンザ機( LH1829、エアバスA321、乗客109人)に発生しているのだ(ジャーマンウィング社はルフトハンザ・グループの傘下)。シュピーゲル誌のその記事を読んで、「あれ、今回の事故のことではないか」と錯覚を覚えたほどだった。

 同記事の概要を紹介する。昨年11月5日、ルフトハンザ機が今回と同じようにスペインの Bilbao 発でドイツのミュンヘンに向かっていた。離陸して約15分後、飛行機は上空9500メートルから突然降下を始めた。毎分1000メートルの速さでどんどん下がっていく。パイロットは慌てて飛行機を再度上昇させるためにフライト・ジョイスティック(操縦桿)を後ろに引いたが、機体は反応しない。飛行機はパイロットの意向を無視して降下を続けている。シュピーゲル記者は、「飛行機はコクピットのパイロットの手を離れ、さらに強い力、人間の命令に従わないコンピューターによって操縦されている」とドラマチックに記述している。

 幸い、パイロットは最後の手段としてコンピューターのスイッチを切り、手動操縦に切り替え、飛行機を上昇させることに成功したというのだ。危機一髪だったという。飛行機は何もなかったように無事にミュンヘンに到着した。

 シュピーゲル誌によると、飛行中の迎角を測量するため飛行機外板に設置されたセンサー(3本)のうち2本が凍り、正常だったセンサーが出すデーターをコンピューターが無視した結果、飛行機は急降下したのではないかと受け取られている。チェコのプラハで4月、航空会社の専門家会議が開催され、そこで11月のエアバスの件について協議されることになっている。

 11月と同様、今回の事故は、「なぜ、コンピューターが勝手に降下飛行を始めたのか」が焦点だ。間違った情報をコンピューターに入力したのか、など、さまざまなシナリオが考えられる、ちなみに、事故機を操縦していたパイロットは10年勤務、飛行時間6000時間のベテランだ。パイロットのミスの可能性は考えにくいという。

 航空会社、飛行機のタイプ、離陸後想定外の降下飛行など、11月と今回の事故には酷似した点が少なくない。幸い、昨年はパイロットの機転で事故を回避できたが、今回は防ぐことが出来なかった。ブラックボックスが回収されたから、事故の状況が今後、さらに分かるだろう。

 パイロットは昔、手動操縦で飛行した。コンピューターが導入された後は手動操縦からコンピューター主導の自動操縦に依存するケースが増えていった。ただし、昨年11月の場合をみても、コンピューター任せの自動操縦に問題が生じた時、パイロットの迅速な対応が不可欠となるわけだ。

 今回、犠牲となられた150人の乗客、乗組員には哀悼の意を表したい。

ネタニヤフ首相の交渉力のルーツ

 オバマ米大統領はイスラエルの総選挙結果に失望しているかもしれない。イスラエルのネタニヤフネ首相は今月3日、野党の共和党の招待を受けて米上下両院合同本会議で演説し、大統領のメンツを潰しただけではなく、選挙戦終盤には米国が推し進めてきたイスラエルとパレスチナ2国家共存案を、「自分が政権にある限り、絶対に認めない」と強調するなど、米国無視の政策を貫いている。イスラエル首相の言動は数年前までは考えられなかったことだ。

 イランの核協議は国連安保常任理事国5カ国(米英仏露中)にドイツを加えてイランとの間で政治的合意を目指して交渉中だが、宿敵イランが核兵器を製造することを恐れるイスラエルは、「不十分な合意はしないほうがいい」と頻繁に警告を発している、といった具合だ。

 ネタニヤフ首相の交渉を見ると、「イスラエルは少し違うな」という印象を受ける。同時に、なぜイスラエルは交渉がうまいのか、と考えざるを得ないのだ。そこで、「なぜ、ユダヤ人は手ごわい交渉相手か」について少し考えてみた(イスラエルの呼称はヤコブがヤボク川を渡ろうとした時、天使と格闘し、それに勝利した後、神から与えられたもの)。

 旧約聖書には、ユダヤ人が神と交渉している場面が記述されている。異邦人と交渉しているのではない。“ヤウエ”と呼ばれる神、主に話しかけ、神から譲歩を勝ち得る一方、神を慰めたりしているのだ。以下、旧約聖書から2つの話を紹介する。


 ー腓郎瓩僚鼎つ、ソドムとゴモラを滅ぼそうとされた。主は言われた、「もしソドムで町の中に50人の正しい者があったら、その人々のためにその所をすべて許そう」。アブラハムは答えて言った、「私はちり灰に過ぎませんが、あえてわが主に申します。もし50人の正しい者のうち5人欠けたなら、その5人欠けたために町を全て滅ぼされますか」。主は言われた、「もしそこに45人いたら、滅ぼさないであろう」。アブラハムはまた重ねて主に言った、「もしそこに40人いたら」。主は言われた、「その40人のために、これをしないであろう」。アブラハムは言った、「わが主よ、どうかお怒りにならぬよう。私は申します、もしそこに30人いたら」。主は言われた、「そこに30人いたら、これをしないであろう」。アブラハムは言った、「いま私はあえてわが主に申します。もしそこに20人いたら」。主は言った、「私はその20人のために滅ぼさないであろう」。アブラハムは言った、「わが主よ、どうかお怒りにならぬよう。私は今一度申します。もしそこに10人いたら」。主は言われた、「私はその10人のために滅ぼさないであろう」(創世記18章26節から32節)。

 アブラハムは神と交渉し、義人の数を下げていく、神は怒らず、その交渉に応じ、譲歩していく。朝の市場で野菜を買うように、アブラハムは神と交渉しているのだ。

 ▲┘献廛箸ら60万人のイスラエル民族をカナンに導いた神はイスラエル人の不信に怒りを発する。モースは神を窘めているのだ。

 主はモーセに言われた。「私はこの民をみた。これはかたくなな民である。それで、私をとめるな。わたしの怒りは彼らに向かって燃え、彼らを滅びつくすであろう。しかし、私はあなたを大いなる国民とするであろう」。
 モーセはその神、主を宥めていった、「主よ、大いなる力と強さをもって、エジプトの国から導き出されたあなたの民に向かって、なぜあなたの怒りが燃えるのでしょうか。どうしてエジプト人に『彼は悪意をもって彼らを導き出し、彼らを山地で殺し、地の面から断ち滅ぼすのだ』と言わせてよいでしょうか。どうかあなたの激しい怒りをやめ、あなたの民に下そうとされるこの災いを思い直し」  それで、主はその民に下すと言われた災いについて思い直された(出エジプト記32章)。

 アブラハムもモーセも神と交渉し、自身の考えを述べ、必要ならば神に譲歩を求めている。彼らは神を単に恐れるのではなく、対等の交渉相手として話しかけているのだ(交渉は独語で Verhandeln という。商売の交渉の Handeln から派生した言葉だ。ユダヤ人が商才に長けているのは決して偶然ではなく、神との交渉で培った交渉術が世代から世代へと継承されていった結果かもしれない)。

 ちなみに、ユダヤ教を土台として派生したキリスト教、イスラム教では、神はあくまでも絶対的な主人であり、決して対等に話をし、交渉する相手ではない。そのような発想は最初から出てこない。それではアブラハムから発生した3大宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の中でなぜ、ユダヤ教だけが神と対話できるのだろうか。新しいテーマだ。

 ネタニヤフ首相の交渉相手は神ではない。オバマ大統領らこの世の指導者たちだ。神と交渉してきたユダヤ人にとって、この世の指導者は取るに足らない交渉相手に過ぎないのかもしれない。

北アフリカは世界のテロ発信地

 チュニジアの首都チュニスのバルドー博物館襲撃テロ事件(3月19日)は北アフリカがイスラム過激派テロ組織の主要拠点となっていることを改めて明らかにした。オーストリア日刊紙プレッセ(19日)は、「北アフリカはテログループにとって豊潤な地だ」と評し、彼らはリビアからエジプト、マリまでその勢力を拡大してきたと報じた。そこでプレッセ紙の記事内容を紹介する。

 チュニジアのテロ事件は北アフリカでイスラム過激派テロ組織「イスラム国」や国際テロ組織「アルカイダ」のプレゼンスを改めて浮き上がらせた。北アフリカでも中心拠点はリビアであり、そこでシリア・イラク戦闘に送るメンバーがトレーニングを受けている。

 リビアの拠点は対エジプト国境に近いデルナ(Derna)で、リビアのアンサール・アル・シャリーア( Ansar al Sharia )の拠点だ。同市は人口約8万人で地中海に面した港町だ。そこでチュニジア、パキスタン、サウジアラビア、ソマリア、アルジェリア、ドイツなど欧州から集まったイスラム過激派メンバーが訓練を受けている。数カ月の訓練後、彼らは偽造旅券でトルコ入りする。そこからシリアのサラフィー・ジハード主義の反政府武装組織でアルカイダの下部組織アル・ヌスラ戦線( al Nusra Front )の支援を受け、シリアの目的地に向かう。

 デルナは2011年のリビア内戦では反カダフィ派の拠点。昨年中旬までデルナはアナサール・アル・シャリーアがコントロールしていたが、ここにきて「イスラム国」が支配権を掌握してきた。「イスラム国」の指導者アブバクル・バグダディが「リビアに進出せよ」と指令を出したという。具体的には、イエメンとヨルダン出身の2人のシャリア法学者をデルナに派遣している。

 リビアの第2の拠点はスルト( Sirte )だ。人口約13万人の都市でトリポリタニア東部に位置する。「イスラム国」はそこでチュニジアのアナサール・アル・シャリーアの支援を受けている。ちなみに、アンサール・アル・シャリーアで良く知られていた指導者 Ahmed al Rouissi がスルトのリビア政府軍との戦闘で戦死したというニュースが流れたばかりだ。同グループは「イスラム国」と連携してリビア政府軍と戦闘を繰り返してきた。今年1月27日、トリポリ中心地のコリンチア・ホテルが襲撃され、10人が死亡するテロ事件が起きたが、これはリビアで「イスラム国」の活動が明らかになった最初の事件だ。
 エジプトには昨年以来、「イスラム国」の拠点が存在する。シナイ半島の Ansar Bait al Maqdis は「イスラム国」のアブバクル・バグダディへの忠誠を宣言し、テロを繰り返している。アルカイダもアルジェリア南部からマグレブ地域、マリまでその勢力を広めている、といった具合だ。

 なお、モロッコとモーリタニア両国は相対的に落ち着いている。モロッコ当局はスペイン警察と連携し、イスラム過激派の取り締まりを強化している。モロッコ当局は今月22日にも同国南西部の都市アガディール( Agadir )などで「イスラム国」の拠点を襲撃し、テロ容疑者の拘束に成功している。

ウクライナ危機で揺れる北欧諸国

 昨年2月に勃発したウクライナ危機は長期化の様相を深めてきた。ウクライナ南部クリミア半島のロシア併合後、欧米諸国は対ロシア制裁を実施しているが、KOパンチというより、ボディ・ブローの感が強く、その効果が出るまでは時間がかかる、とみられている。欧州連合(EU)首脳会談は19日、対ロシア経済制裁の継続を決定したばかりだ。

 制裁の効果云々は別として、問題は、プーチン大統領が政権を掌握している限り、モスクワが併合したクリミア半島を返還し、ウクライナの欧州統合を黙認するといった紛争前の原状復帰は期待できないことだ。プーチン氏が欧米諸国の制裁に白旗を揚げるとは考えられないからだ。

 一方、ウクライナ紛争1年間で欧州ではさまざまな変化が見られる。気の早い外交専門家は冷戦時代の再来を予想している。オーストリア日刊紙プレッセは21日付トップで、「米国とロシア両国は核兵器の近代化を含め、核兵器への見直しを進めてきた」と報じているほどだ。実際、プーチン大統領は15日、国営テレビのインタビューの中で、「ウクライナ危機勃発直後、核戦力部隊に戦闘準備態勢に入るように指示した」と明らかにし、国際社会を驚かせたばかりだ。
 オバマ米大統領は2009年、プラハで「核兵器フリーの世界」の実現をアピールしたが、その米国はロシアと共に核兵器の近代化を一層進めてきているのだ。オバマ大統領の「プラハ演説」は遠い昔の話のように感じるほどだ。

 それだけではない。ロシアと国境線で対峙する北欧諸国、フィンランドやスウェ―デンでは政府関係者から北大西洋条約機構(NATO)加盟について真剣に検討すべきだという声が出てきている。両国はEU加盟国だが、軍事的中立主義を標榜し、NATOにはこれまで加盟していない。

 昨年10月、ロシア潜水艦がストックホルム近郊の群島に侵入したというニュースが流れたスウェーデンでは、「わが国もNATOに加盟すべきだ」という声が聞かれた。フィンランドは冷戦時代から対ロシアとの関係は重要な外交課題だったが、EU加盟後はNATOとは1994年5月にPfP(平和のためのパートナーシップ)を締結し、軍事的非同盟を貫いてきた。しかし、ここにきてスウェ―デンと共同軍事演習を実施する案や軍事力の強化などの動きが見られるのだ。

 ちなみに、スウェ―デンとフィンランド両国国民はNATO加盟に対して依然慎重な意見が過半数を占めているが、ウクライナ情勢が更に悪化し、ロシアの軍事攻勢が表面化してきた場合、加盟を希望する声が増加すると予想される。

 国内に少数民族ロシア人を抱えるバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)はポーランドと共にウクライナ危機では最も神経質となっている。エストニアは人口134万人の4分の1がロシア系(2011年)だから、「わが国が“第2のウクライナ”となるのではないか」といった懸念も聞かれる。実際、バルト海に17日、ロシア戦闘機が侵入し、NATO戦闘機が緊急発進するという事態が生じている。スウェ―デンやフィンランドとは違い、2004年にNATOに加盟したバルト3国はロシアとの直接軍事衝突を避けながら、欧米諸国の支援を受けてロシアに対抗していく意向だ。

 欧米諸国は対ロシア経済制裁を実施中だが、クリミア半島ではロシア併合後、民営企業が続々と国営化され、ロシア系事業家たちが利権を奪っている。西側経済関係者によると、過去1年間で銀行、ホテル、通信事業、湾岸会社など250社の企業が国営化されたという。それに対し、キエフ政府関係者は「不法にロシア系実業家の手に渡った会社数は400社以上だ」という。

 プーチン大統領が今後も軍事力を背景に強硬外交を展開させていくならば、ウクライナを取り巻く政治情勢は、時計が逆回りするように、冷戦再来の様相を深めていくだろう。

「神」が先か「聖書」が先か

 高等宗教と呼ばれる宗教はその教えをまとめた聖典を持っている。それに基づき、信者たちは日々の業を行う。例えば、世界最大の宗教、キリスト教は旧教、新教の区別なく、聖書を聖典とする。世界最大のベストセラーといわれる聖書には、ギリシャ語訳から口語訳までさまざまな訳の聖書があるが、その基本的内容は同じだ(訳によっては微妙な相違はある)。当方の知人の奥さんはヘブライ語訳旧約聖書を読みたいため、週に数回、ヘブライ語を学んでいる。

 ところで、オランダのカルヴァン派キリスト教(新教)の牧師は、「イエスは神話であり、聖書の話は実際にあったことを意味しない」と強調し、「聖母マリアの処女懐胎、イエスの十字架の死、復活の話は全て古代エジプトの教えからそのまま継承したものだ」と主張して、波紋を投じている。

 参考までに、エジプト学を専攻する宗教学者ヤン・アスマン教授は古代エジプトの多神教を宇宙教と呼び、「神は目に見える被造世界の中でどこでも発見できる存在だった。一方、エジプトから出国したモーセを中心としたイスラエルの人々は古代エジプトの多神教とは違い、神を不可視の存在と捉えていた。その不可視の神を知ることはできず、ただ“信じる”ことが求められた。そこから、神への信仰が生まれてきた」と説明している。


 「イエスは神話だ」と主張する牧師( Edward van der Kaaij )の発言に対し、リベラルなオランダ社会でもかなりの批判の声が聞かれる。例えば、「それではなぜ、信仰するのか」、「なぜ、あなたは牧師をしているのか」といった素朴な問いが出ている。

 当方はオランダの牧師の話を聞いて、多くのオランダ人と同様、少し首を傾げた。キリスト教はイエスの復活から始まったといわれてきた。そのイエス自身が神話に過ぎないとすれば、キリスト教の存在が揺れてくるのではないか、という思いだ。ただし、最初のショックが消えると、「牧師の発言はある意味で重要な点を突いている」というふうに考え直した。

 神は聖書やコーランが存在する前から「あった」。聖典は神の教えや預言者の言葉をまとめたものだ。逆ではない。聖書が先にあって、初めて神が存在したわけではない。にわとりが先か、卵が先かに少し似ているが、神があくまで先だ。もちろん、聖書は神の聖霊に基づいて記述された聖典だから、神のみ言葉そのものだ、という主張があるが、その場合でも人間が記述したという事実は変わらないだろう。例えば、聖書も長い時間をかけてさまざまな人物が記述して出来上がったものだ。

 明確な点は、聖書は神の存在、その言動のほんの一部を記述したもので、神そのものではないということだ。神は聖書やコ―ランより先に存在し、その神性は聖典の内容をはるかに上回っていると考えるべきだろう。
 だから、宗派間の聖典の解釈争いやその正統論はあまり意味がない。なぜならば、神=聖書、コーランなど聖典、という数式ではないからだ。この簡単な事実を私たちは忘れがちだ。キリスト教の正統、異端論争は結局は人間がまとめた聖典の文字に固守した結果、生じてきたからだ。
 実際、キリスト教では聖典である聖書の解釈で300以上の宗派に分かれ、それぞれの宗派が自身の解釈こそ神の教えを反映していると主張している。

 神は聖書より偉大であり、イエスの「復活」や「聖母マリアの処女懐胎」の話がなくても神は存在できる。聖典は神の神聖、神性について人間に考えさせる切っ掛けを提供できるが、それ以上ではない。聖典の神聖化は人間の業であり、神の存在云々とは余り関係ない。

 それでは、聖書(聖典)がなくして、私たちはどうして神の存在、教えを学ぶことができるかだ。
 人類始祖アダム・エバの時代を思い出してみよう。彼らが生きていた時は聖典がなかったが、神と一問一答できた。彼らは神は存在することを知っていたから、その存在を疑うことはなかった。しかし、時間の経過と共に、神の存在が分からなくなり、神と対話できなくなっていった。だから、聖典が生まれ、聖典を通じて神を学んでいったわけだ。

 仏の人気作家ミシェル・ウエルベック( Michel Houellebecq )氏は、「啓蒙主義が終焉を告げた今日、霊性(神秘)主義の時代が再来する」と独週刊紙シュピーゲルとのインタビューの中で答えていた。換言すれば、文字を通じて神に出会った時代から霊性を通じて神とコミュニケーションできる時代が再び到来する、というのだ。「神を学ぶ」時代から「神を知る」時代に移行する時代圏に入ってきたのかもしれない。
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