ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2014年07月

読者の皆さんへ

 外来で調べてもらいに行ったところ 網膜剥離と診断され急きょ、手術のため入院することになった。当方は 外来の診察を終わったらすぐ自宅にもどって、翌日更新予定のコラムをまとめる予定だった。 
 右目の網膜が壁から離れてしまったので、それを元に戻すための手術だ。左目はレーザーでその日のうちに治療を受けた。医師によれば、「右目は少し遅れれば、失明寸前」の状況だったらしい。

 当方はヨーロッパに来て34年になる。過去3度、手術のため入院したことがある。最初は胆嚢摘出手術、40代に入って膀胱がん、そして今回の網膜剥離の手術だ。こう考えると当方は、結構病気とは縁があるようだ。
 最近の手術は、医術の進歩のおかげで術中の痛みはほとんどない。だが術後の床ずれ、今回は48時間腹這いで寝て、しかも左目を下にして右目を保護していなければならない。じっと同じ姿勢でいなければならず、それが苦痛だ。

 目は当方にとって、仕事の道具のようなものだ。医師から、「ここしばらくは、文字を読んではいけない」といわれている。新聞の大好きな当方にとっては、朝、新聞を読めないことは辛いことだ。

 ペーさんが 梨ジュースをもって見舞いに来てくれた。
 当方が右目に眼帯をし、眼鏡をかけていないのを見てショックのようだった。
 ペーさんと入れ替わりに見舞いに来た家人は、「ぺーさんがぺーを持ってきてくれたのね」と笑った(韓国語で梨をぺーという)。


 家にもどって、ベットで休んで居る時、ラジオから星の王子様の著者サン・テグジュペリの話が流れてきた。彼はその中で、「人は心の目でしかよく見えない」と語っている。当方にとって心に残る言葉だった。



 この度は ご心配おかけして申し訳ありません。
 皆様の暖かい見舞いと励ましのメール、 ありがとうございます。
 今後、右目の回復がどうなるか不明のため 予定が立てられない状況です。
 なお、上記は当方の口述を家人が代筆しました。

お知らせ02

 ご心配をかけていますが、筆者は25日、目の手術を受けました。週明けに経過のチェックがあります。医師から当分、文字を読むことを禁止されていますので、コラム復活にはまだしばらくお時間をいただきます。

お知らせ

 筆者、入院のため、しばらくコラムの掲載は休みます。

欧州でパレスチナ人の抗議デモ

 ウィーンで20日午後4時過ぎ、パレスチナ自治区ガザ市のイスラエル軍の軍事攻撃に対して抗議するデモ集会が行われた。主催者側によると、約1万1000人のデモ参加者がウィーン市西駅前を出発し、英雄広場まで行進した。デモ参加者は30度を超える蒸し暑い午後、汗を流しながら、「イスラエルはテロリストだ」「ガザに平和を」などとシュプレヒコールを上げながら歩いた。

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▲イスラエル軍のガザ攻撃を批判するパレスチナ人のデモ(2014年7月20日、ウィーンにて撮影)

 イスラエル軍のガザ区での軍事活動を批判するデモは週末、ロンドン、ストックホルム、パリでも行われ、パリでは一部暴動化して警察部隊と衝突したというニュースが流れてきたが、ウィーンではデモ参加者と警察部隊との衝突は生じず、平和的に終わった。デモ集会にはオーストリアに住むパレスチナ人のほか、トルコの反体制派たちも多数参加した。パレスチナの国旗に混ざってトルコの国旗を持った参加者の姿が目立った。

 イスラエルとパレスチナの今回の衝突は、イスラエルの3人の青年が拉致され、後日、死体で発見されたことが発端となった。イスラム過激派組織ハマス側は関与を否定したが、イスラエル側は「ハマスの仕業」として報復を宣言。その直後、今度は1人のパレスチナ人の青年の死体が見つかった。イスラエル側は「パレスチナ人青年殺害とは関係ない。ハマスの軍事拠点を中心に軍事攻撃をしたが、民間人を衝撃の対象としていない」と弁明したが、パレスチナ側は「イスラエル側の報復」と確信し、イスラエルへの批判を強め、イスラエル領土に向かってミサイルを発射する一方、地下トンネルを通じてイスラエル内に侵攻し、奇襲作戦を展開させている。

 それに対し、イスラエル軍は空爆とともに、地上部隊を導入して、ハマスの軍事拠点の壊滅に乗り出してきた。イスラエル軍は20日、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの北東部シェジャイア地区を爆撃した。現地からの情報によれば、少なくとも40人が死亡、約400人が負傷したという。8日の戦闘激化以来、1カ所でこれほどの犠牲者が出たのは初めてだ。軍事衝突は確実にエスカレートしてきている。

 国連の潘基文事務総長は同日、訪問先のカタールで、軍事力で圧倒的なイスラエル軍の攻撃を批判。欧米のメディアもイスラエルの空爆で負傷したパレスチナ人の様子を大きく報道し、イスラエル軍の軍事攻勢を批判するトーンを高めてきた。それに対して、イスラエル側は「ハマスが発射するミサイル攻撃で国民は犠牲となっている。ハマスは国民を盾にミサイルを打っている。われわれは空爆前にはビラを配って避難するように呼びかけたが、ハマスは市民に自宅から離れるなと命じている」と反論している。

 イスラエルとパレスチナ間の和平交渉に汗を流してきたが、和解の見通しがないため交渉を一旦中断していたケリー米国務長官は20日、和平交渉に再度乗り出す姿勢を示している。ただし、「米国はイスラエル寄りであり、中立の調停は期待できない」という声が中東では強い。欧州連合(EU)が調停役に乗り出すべきだという意見があるが、誰が調停役を買って出たとしてもイスラエルとパレスチナ間の和平交渉は難しい。明確な点は、大多数のイスラエル人とパレスチナ人は共存を願っていることだ。両民族の指導者たちは政治的思惑や宗教的相違などを克服し、和平の道を模索すべきだ。武力では相手を支配できても、平和は実現できないのだ。

上空1万mで人生を終えた人々

 アムステルダムからクアラルンプールに向かったマレーシア航空機MH17が17日、ウクライナ領土東部上空で撃墜され、乗組員を含む298人全員が死亡した。このニュースが流れると世界はショックを受けた。誰が民間航空機を撃墜したのか。国際専門家の調査結果が明らかになるまで待たなければならないが、米国を含む欧米諸国にはロシアから軍事支援を受けたウクライナ東部の親露派武装勢力の仕業と受け取られ、地対空ミサイルを供給したロシアへの批判が高まっている。


 当方はオーストリア日刊紙プレッセ(19日付)が報じた記事に基づいて、犠牲となった旅客のプロフィールの一部を紹介し、上空1万メートルの航空機にたまたま搭乗していたゆえに、ウクライナ上空で地上から飛来した地対空ミサイルの犠牲となった298人の運命を考えたい。

 犠牲者の国籍は10カ国以上に及ぶ、オランダ人が189人、マレーシア人44人、オーストラリア人27人、12人のインドネシア人、英国人9人、ドイツ人4人などだ。一人の修道女はフランスで修練を受けた後、オーストラリアのシドニーに帰国途中だった。逆に、5年ぶりにマレーシアに戻って6週間あまり故郷で憩う予定の人もいた。オーストラリアで開催予定の国際エイズ会議に参加する学者、関係者も多数搭乗していた。その中には、世界保健機関(WHO)の広報担当官も含まれていた。49歳の報道官は1週間前、実父の葬儀を行っている。オランダ人のゲストの中には搭乗する前に「飛行機が消滅したら、君たちはどこに行って探さなければならないか知っているだろう」といった冗談のメールを友人に送ったオランダ人がいた。その冗談は本当になった。冗談のメールを書いた本人は考えてもいなかった運命だ。オランダで休暇を楽しでいたオーストラリアの家族は今秋に始まる学校の準備のために子供たちを先に帰国させた。子供たちが搭乗した航空機の撃墜を知った時、両親はどうだったろうか(プレッセ紙)。


 今回犠牲となった298人の誰一人としてウクライナ上空1万メートルを通過中に運命の一撃を受けるとは考えてもいなかったはずだ。考えられる人などいない。犠牲者の痛んだ遺体はウクライナの地に落ちた。ウクライナを過去、訪問したことがあった犠牲者はいただろうか。ほとんどの犠牲者は未知のウクライナの大地で人生の最後を迎えたのだ。


 上空1万メートル、見知らぬ地ウクライナ、そして地対空ミサイル……この3点が絡んだ今回の悲劇は「犠牲者にとって悲しい偶然に過ぎない」のだろうか。当方は偶然を信じない。われわれは詳細なことは分からないし、犠牲者自身も多分知らないが、悲劇と何らかの繋がりがあったと考える。「偶然ではなく、繋がりがあった」とすれば、「その繋がりとは何か」と問われれば、「わからない」と言わざるを得ない。誰にも納得できる説明ができないので、それしか答えられない。しかし、何らかの「繋がり」があったと信じている。

 われわれは単なる偶然が織りなす人生を歩んでいる存在ではないはずだ。人間の運命を偶然で済ませてしまうことは酷なことだ。全ての人は生まれてきた以上、何らかの願いとその使命を担っていると考える。人間は単なる偶然によって弄ばれる存在ではなく、尊厳性のある存在であるゆえに、犠牲者の人生を考える時、涙が流れてくるのではないだろうか。

 犠牲者298人の人生を無駄にしてはならない責任がわれわれにある。具体的には、ウクライナの和平を早期実現するため、これまで以上に全力を尽くさなければならない。和平が到来した時、298人の犠牲者は単なる偶然の被害者ではなく、和平実現の尊い供え物となったといえるだろう。歴史を振り返れば、人間は何らかの犠牲(受難)を払うことで一歩一歩前進してきたのではないだろうか。

なぜカルロは「動物園」に行くのか

 イタリアの友人、カルロが奥さんと共に夏季休暇のためウィーンを訪問した。当方は昨年、イタリアのベルガモを訪問した時、カルロ夫妻にお世話になったばかりだ。今度は当方がホスト役だ。そこで充実した時間を過ごしてもらうために、カルロに事前に「どこを見たいのか」と聞いた。

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▲今月初めチーターに赤ちゃんが生まれる(シェーンブルン動物園のHPから)

 ウィーンはベルガモとは違い大都市で欧州有数の観光都市だ。歴史的名所旧跡は数多くある。事前にカルロ夫妻の希望を聞いておけば、能率的に観光案内できる、と考えたからだ。そしてカルロから戻ってきた答えは「ウィーンではぜひとも動物園に行きたい」というのだ。子供ならば分かるが、小さいとはいえ会社社長を務めるカルロの口から「動物園」という言葉が飛び出した時、正直いって驚いた。 

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▲ベビーを生んだ北極狼(シェーンブルン動物園のHPから)

 なんといってもウィーンは音楽の都だ。ベートーベン、モーツアルト、ブラームス、シューベルト、ワルツの王ヨハンシュトラウスまで音楽史に名を残す大作曲家、音楽家の足跡が到る所にある。特に、ベートーベンやモーツアルトになれば、引っ越し魔だったこともあって、ウイーン市内だけでも数か所の記念館やハウスがある。それだけでない。中欧を支配していたハウスブルク王朝時代の由緒ある場所、ホーフブルク宮殿やシシー博物館などがある。また、ウィーンには30以上の国際機関の本部、事務所がある。観たいところ、訪ねたい場所は無数だ。3日間しか滞在しないカルロ夫妻が朝から飛び歩いたとしてもウィーン市の主要観光名所を全て訪ねることはできない。それなのに、カルロは「動物園に行きたい」というではないか。ウィーンを訪問する前にガイドブックぐらい読んでくるだろうと期待していたが、どうやらカルロはガイドブックを読んでいなかったようだ。

 当方は少しがっかりしながら「動物園で何を見たいのか」と聞いてみた。ひょっとしたら、カルロ夫妻は動物に親戚でもあるのかもしれないからだ。カルロは「ベルガモには小さな動物園しかない。だからウィーンのシェーンブルン動物園を是非とも見てみたいのだ」という。特定の動物に関心がある、というわけではないらしい。

 当方はシェーンブルン動物園を数回見学したことがある。シェーンブルン動物園は広い。全ての動物に挨拶をしていたら、5、6時間はかかる。3日間のウィーン休暇滞在で丸一日を動物園で過ごすことになる。そうなれば、当方が推薦していた中央墓地見学やベートーベンハウスなどの見学は時間的に難しくなる。しかし、「動物園に行きたい」というカルロの願いはどうやら不動で、ベートーベンやモーツアルトを犠牲にしてもチーターや白熊に挨拶するほうが少なくとも彼には大切なのだ。

 3日目の朝、いよいよカルロ夫妻が動物園に行った。案内役は妻がした。予想通り、午後5時頃、カルロ夫妻は当方宅に戻ってきた。5時間以上、動物園にいたことになる。昼食は簡単に済ませたという。カルロは夕食ができるまで動物園の話をしてくれた。ビデオに撮った水遊びをする白熊を見せながら説明するカルロは幸せそうだった。

 シェーンブルン動物園の歴史は1452年に始まるから、欧州の動物園の中でも最も古い動物園だ。昨年は3年連続で「欧州ベスト動物園」に選出されている。パンダもいるし、チーターが今月、赤ちゃんを生んだばかりだ。パンダ、象、キリンなどがここ数年次々とベビーを生んだ。シェーンブルン動物園は文字通りベビー・ブームを迎えているという。

 夫人は「いつも仕事で飛び歩いているから、ウィーンではリラックスして過ごしたかったの。動物園は最高の場所なのよ」と説明してくれた。ワーカホリックのカルロがなぜ動物園に拘ったのか分かったような気がした。
 カルロ夫妻は翌日の18日午前、「昨日は楽しかった」という言葉を残してイタリアに戻って行った。

アイスクリームを食べる「幸せ」

 ウクライナ紛争が激化してきた。キエフ政府と親露派間の対立は戦闘状況に入ってきた。ウクライナ東部ドネツク州のロシア国境近くで17日、マレーシア旅客機が墜落した。ロシア製ミサイルによって撃墜された可能性が高い。真相が明らかになれば、ロシア側は窮地に陥るだろう。欧米諸国の対露制裁は次第に本丸に迫ってきている時だ。プーチン露大統領の出方が注視される。南スーダンは2011年7月、イスラム教主導のスーダン(北部)から独立したが、昨年7月解任されたマシャール前副大統領が同年12月14日、軍クーデターを行い、内紛が勃発し、多数の犠牲者、避難民が出ている。シリアではアサド大統領は3選の就任式を行ったばかりだが、国内はアサド政権と反政府間の戦闘が続いている。3年に及ぶ内戦で既に17万人が犠牲となったほか、多くの国民が隣国に避難している。

 一方、イラクとシリアの一部を占領する「イラクとシリアのイスラム国家」(ISIS)の指導者アブ―バクル・アルバグダーディは6月末、シリアとイラクにまたがるイスラム帝国建設を宣言し、その指導者はカリフを名乗り、イスラム教徒に服従を求めている。イラクではシーア派のマリキ政権が3選を受け、政権の維持を主張しているが、イラク国内はシーア派のマリキ政権、スンニ派、そしてクルド系勢力の3派に分裂されている。アフリカの最大人口を誇るナイジェリアのイスラム過激派グループ「ボコ・ハラム」(西洋の教育は罪)は多数の国民を虐殺している。

 そしてイスラエル軍は3人の宗教学校の学生殺害事件を受けガザ区のイスラム根本組織「ハマス」に対して空爆を行っている。一方、、ハマス側もパレスチナ人青年の殺人に抗議してミサイルをイスラエル側に打ち込んでいる。イスラエルとパレスチナ間で再び戦闘が始まった。イスラエル側は地上軍をガザ区に動員させようとしている。

 残念ながら、もっと多くの紛争があるだろう。世界は紛争に満ちている。世界の平和実現を標ぼうしてきた国連は今回もその無能力を示し、紛争解決能力がないことを露呈している。国連に紛争解決へのイニシャティブは期待できず、せいぜい、米国ら加盟国が決定した職務の下請け業者に過ぎなくなった。冷戦後、唯一の大国に君臨している米国はイラク、アフガニスタン紛争地域から軍を撤退し、「米国は世界の警察官の役を演じない」と早々と宣言している。紛争の火は広がっているが、その火を消化する機関、国がないのが現状だ。

 米政治学者フランシス・フクヤマ氏の著書「歴史の終わり」がベストセラーとなった時期はひょっとしたらまだ希望があった。世界は新しい希望と期待に満ちた時代を迎えると早合点する人々もいたが、それは束の間だった。世界情勢は閉塞感で満ちてきた。欧州は財政危機に陥り、その対応で追われ、人々は失望し、多くの若者は失業者となり、老人たちは年金体制の崩壊の音を聞いている、といった具合だ。

 どこに希望を見出すことができるだろうか。「宗教はアヘン」と断言した共産主義世界観は崩壊したが、国民を精神的に支えるべき宗教は久しく死刑宣告を受けている。物質主義、世俗主義が席巻する現代社会では宗教に耳を貸す人は少なくなってきた。世界に12億人の信者を誇るローマ・カトリック教会の聖職者の2%が小児性愛者といわれる一方、聖職者による未成年者への性的虐待事件は世界の教会で発覚し、教会への信頼性は完全に地に落ちた。心の支えを求める人々は放浪している。世界で毎年、自殺者が増加し、医療用麻薬、合成麻薬の乱用が拡大、それに溺れる人々が増えてきた。米物理学者ミチオ・カク教授の「未来の物理学」を読めば、未来の科学の発展に希望が湧いてくるが、科学が発展しても肝心の人間の心が乾燥しきっているならば、人は幸せとはいえない。


 このように書いていくと、明日にも世界が消滅するのではないか、といった思いが強まり、悲観的になる。

 「あなたは幸福を買うことはできないが、アイスクリームを買うことはできる」……、店で買ったアイスクリームの入った箱の上にこのように書いてあった。このアイスクリーム屋さんのキャッチフレーズを読んだ時、新鮮な感動を覚えた。アイスクリームなら買うことができるかもしれないからだ。しかし、問題はそれで本当に幸福か。子供ならばアイスクリームを食べることが出来れば嬉しいだろう。体重の増えるのを心配する若い女性ならば「そうね」と悩みながらも、「やはり暑いときはアイスクリーム!」というだろう。それでも幸せが身近にあるという発見は喜びだ。暑い中、働いている人に アイスをかって持って行ってあげたらきっと大喜びするだろうし それで自分も嬉しくなる。


 個人、家庭、社会、国家、民族、世界まで、その幸せはそれぞれ次元が異なるが、「為に生きる」ことを実践していく以外に幸せの道はないとすれば、先ず、個人的レベルで「為に生きる」ことを実践すべきだろう。書くのは簡単だが、実践は難しい。自分の足元から できることからやり始めよう。暖かい言葉 笑顔一つでも人は幸せを感じるはずだから。閉塞感が覆う社会だからこそ、アイスクリームを買える幸せを再発見したいものだ。

枢機卿にも小児性愛者がいた

 ローマ法王フランシスコはイタリア日刊紙ラ・レプップリカ(7月13日付)とのインタビューで、「聖職者の約2%は小児性愛者(ペドフィリア)だ。司教や枢機卿の中にも小児性愛者がいる」と発言し、教会内外で衝撃が広がったが、バチカンのロンバルディ報道官は後日、「法王はそのようには語っていない」と否定した。

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▲オーストリアのローマ・カトリック教会のシンボル、シュテファン大聖堂

 同報道官は14日、「法王とラ・レプップリカ紙とのインタビュー(7月10日、フランシスコ法王の宿泊先のゲストハウス、サンタ・マルタで実施)は会見というより、エウジェリオ・スカルファリ記者が法王との対談を再編集した記事だ。法王の発言がその通り再現されていない部分がある」と指摘する。具体的には、「聖職者の2%が小児性愛者」という部分と「小児性愛者の中に枢機卿もいる」という2カ所だ。同報道官によると、「スカルファリ記者は無神論者で教会批判者として名が通っているジャーナリスト」という。すなわち、フランシスコ法王の発言内容が意図的に歪曲されているという指摘だ。それではなぜ、ローマ法王は教会批判者との会見に応じたのだろうか。

 残念なことだが、ローマ・カトリック教会には過去、枢機卿が自分の教え子に性的虐待を犯した事実はある。最近では、英カトリック教会最高位、スコットランドのセント・アンドリュース・エジンバラ大司教ポストを辞任したキース・オブライエン枢機卿(74)は2013年3月3日、昔、若い聖職者に対して「逸脱した性的行為をしたことがある」と告白している。スコットランド教会の広報HPで述べたもので、枢機卿は犠牲者、教会関係者、国民に対し謝罪を表明している。

 「犠牲者が若い聖職者だから、小児性愛者に該当しない」と指摘されるかもしれない。それではオーストリアのローマ・カトリック教会の最高指導者(当時)、グロア枢機卿が未成年者の教え子に性的虐待を犯していたことが、犠牲者の教え子の証言から発覚したことがあるのだ。
 1995年、オーストリアのカトリック教会最高指導者だったグロア枢機卿は教え子に性的犯罪を繰り返していたことが判明し、辞任に追いこまれた。枢機卿は当時、性犯罪を最後まで否定したが、バチカンによって辞任に追い込まれた。グロア枢機卿の性犯罪発覚後、オーストリアでは多くの信者たちが教会から脱会していった。
 枢機卿はローマ法王に次ぐ高位聖職者だ。その人物が過去、未成年者に性犯罪を繰り返していたのだ。当時のローマ法王ヨハネ・パウロ2世は調査団をウィーンに派遣し、真相の解明に乗り出すなど、その対応に苦慮している。

 ロンバルディ報道官は否定したが、枢機卿の中には過去、小児性愛者がいたし、未成年者への性的虐待事件は起きている。その意味で、イタリア日刊紙記者の記事は正しい。ただし、同報道官のために弁明するならば、グロア枢機卿の事件当時はナバロ・バルス氏がバチカン報道官だったので、ロンバルデイ報道官自身は同件について一切か関わっていなかった。だから、事件を正確には覚えていなかっただけだろう。

 
 イタリア日刊紙によると、フランシスコ法王は「(約41万4000人の)聖職者の2%が小児性愛者」と語ったというが、その発言の真偽はここでは問わない。「2%」とすれば約8000人の聖職者が小児性愛者ということになる、一般社会と聖職者社会の小児性愛者率を比較しても意味がないだろう。神の教えを説く聖職者の2%が小児性愛者ということは、それだけで十分に異常だ。

 フランシスコ法王は組織犯罪グループ、マフィアに対して戦いを宣言したが、法王の足下の教会関連施設に、神父から司教、大司教から枢機卿まで小児性愛者が潜伏し、未成年者へ性的虐待を犯す危険があるのだ。繰り返すが、性犯罪は窃盗、詐欺罪とは違い、重犯罪だ。その犯罪を過去、教会側は隠ぺいしてきた。教会組織の解体を要求されたとしてもバチカンには本来、弁解の余地はないのだ。

スン二派から「イスラム帝国」批判

 イラクとシリアの一部を占領する「イラクとシリアのイスラム国家」(ISIS)の指導者アブ―バクル・アルバグダーディは6月末、「イスラム帝国」建設を表明、自らをカリフと呼び、世界のイスラム教徒に「自分をイスラム帝国の指導者として受け入れ、その教えに従うように」と呼びかけたばかりだ。「カリフ」とは、イスラム教創設者ムハンマドの死後(632年)、その予言者の代理人(後継者)を称する名称だ。

 ところで、バチカン放送によると、ISISのイラクとシリアに渡る「イスラム帝国」宣言は中東アラブのイスラム教徒から反発され、歓迎されていない。イスラム教指導者たちからは、「ISISはテログループだ。彼らはイラクやシリアで少数派のキリスト信者たちを虐殺している。世界のイスラム教徒はそのような蛮行を許さないし、その指導者をカリフとして受け入れることはできない」という声が挙がっている。

 レバノンのスンニ派裁判所裁判官モハメット・ノカリ氏はバチカン放送との会見で、「真のイスラム教徒は他宗教を尊重する。ムハンマドが述べているように、イスラム教とキリスト教は密接な繋がりがある。ISISが勝手にイスラム帝国を宣言することはできない。世界のイスラム教徒の承認を受けなければならないからだ。その上、ISIS関係者はイスラム教の名を語る資格や教育を受けていない。彼らはイラクとシリアで戦争を展開させているだけだ。彼らはスンニ派イスラム教徒を代表していない」と明確に拒否してる。すなわち、ISISは中東アラブ諸国のスン二派イスラム教徒から支持されていないというわけだ。



 ヨルダン・タイムズ紙によれば、同国の族長で精神的指導者、イサム・バルカヴィ・アブモハメッド・アルマクディシ師はイスラム帝国宣言について、「まったく意味がない。世界のイスラム教徒はISISの呼びかけをボイコットすべきだ。ISISは暴力でイスラム帝国を建設しようとしている。ISISの宣言は不法だ」と断言したファトワ(勧告)を出している。ちなみに、ヨルダンのアブドッラー国王はISISがヨルダン国内で勢力を拡大することを警戒し、国際社会に支援を要請している。

 ISISの「イスラム帝国宣言」はスン二派の対抗宗派、シーア派のイラン、イラクのマリキ政権、そしてシーア派から派生したシリアのアラウィ派主導のアサド政権にとってはあまり意味がないが、先述したように、スンニ派内で強い拒否反応が出ているわけだ。スンニ派の盟主サウジアラビアはISISのイスラム帝国建設が国内の秩序を破壊する危険性があると強く警戒している。

 エジプトのイエズス会に所属するキリスト・アラブ文学研究センター所長のサミール・カリン・サミール神父はイスラム帝国について、「昔の理想世界だ。それは夢であって、現実ではない。シリア、イラク、チュニジア、リビア、モロッコ、アルジェリア、エジプトなどアラブ諸国は今日、自国一国で存在し、イスラム帝国を建設しようという考えは持っていない。イスラム帝国は古い夢だ。イスラム教徒の中にはそのような夢を持つ者もいるが、少数派だ。多くのイスラム教徒は今日、独立国家の一員として生きている。だから、イスラム帝国を宣言したイスラム・テロリストの試みは成功しないだろう。ただし、夢を追う若いイスラム教徒の中には興味を持つ者が出てくるかもしれない」と述べている(バチカン放送電子版15日)。

カトリック教会も英国教会に倣え

 「英国国教会が14日、ヨーク市で開催中の総会で女性主教を公認決定」というAFPのニュースが流れてきた。主教といえば、高位聖職者だ。カンタベリー大主教に次ぐポストである。キリスト教会史に残る画期的な決定だ。
 英国国教会は1970年代から女性聖職者問題を検討してきた。司祭レベルではすでに女性聖職者は誕生している。AFPによると、女性主教の公認を問う採決では、351人が賛成、反対72人、棄権10人という結果で、圧倒的多数で女性主教が支持されたことになる。「女性主教」支持派として有名なのはカンタベリーのジャスティン・ウェルピー総主教とキャメロン首相だという。

 英国国教会(聖公会)は1534年、国王の離婚問題が契機となってローマ・カトリック教会と対立した結果、独立教会を創設した歴史がある。バチカン放送独語電子版は同日、「英国国教会が女性主教を認める」というタイトルの速報を流しているところをみると、カトリック教会側は英国国教会の今回の決定に驚きを隠せないのだろう。
 女性聖職者問題では、世界に12億人の信者を擁するキリスト教最大宗派ローマ・カトリック教会は常に反対してきた。教会の改革を目指すフランシスコ法王も「聖職以外の教会関連職務に女性の進出を歓迎する」と表明したことがあるが、女性聖職者に対しては従来の教会路線の変更を目下、考えていない。

 当方は「なぜ、教会は女性を軽視するか」(2013年3月4日参考)という題のコラムの中で指摘したが、カトリック教会の女性像は簡単にいえば「男尊女卑」だ。旧約聖書創世記2章22節の「主なる神は人から取ったあばら骨でひとりの女を造り……」から由来していると受け取られている。聖書では「人」は通常「男」を意味し、その「男」(アダム)のあばら骨から女(エバ)を造ったということから、女は男の付属品のように理解されてきた面があるからだ。


 参考までに説明すると、「教会の女性像」の確立に中心的役割を果たした人物は古代キリスト教神学者アウレリウス・アウグスティヌス(354〜430年)といわれる。彼は「女が男のために子供を産まないとすれば、女はどのような価値があるか」と呟いている。「神学大全」の著者のトーマス・フォン・アクィナス(1225〜1274年)は「女の創造は自然界の失策だ」とまで言い切っている。歴代のローマ法王の中でもレオ1世(390〜461年)は「罪なく子供を産んだ女はいない」と主張し、女性が性関係を持ち、子供を産むことで原罪が継承されてきたと指摘している、といった具合だ。ただし、女性蔑視の思想を持つキリスト教の中で聖母マリアだけはイエスの母親として特別視されてきた経緯がある。




 英国歴史の専門家ベトモンド氏はバチカン放送とのインタビューの中で、「英国国教会の今回の決定は聖公会全般からみれば新しいことではない。オーストラリア、ニュージランド、カナダでは既に女性主教は任命されている。英国国教会の決定はその流れに呼応するもので、女性聖職者を認めたパイオニアではない」と説明している。

 英国国教会の「女性主教」公認ニュースは、バチカン改革に乗り出しているフランシスコ法王に追い風となるだろう。カトリック教会内で女性聖職者の任命を求める声が高まることが予想される。
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