ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2014年01月

“癇癪持ち”金正恩氏の近未来

 故金正日総書記の料理人だった藤本健二さんの著書「北の後継者キム・ジョンウン」(中大公新書ラクレ)を再読していたら面白い箇所を見つけた。昨年末、処刑された張成沢氏(元国防副委員長)と金正日総書記の関係が記述されている。以下、その概要を紹介する(114頁)。

 金日成主席の追悼一周年前後の1995年。幹部たちのパーティの席。張氏と金総書記が話していた。その時だ。金総書記が突然、張氏に大きな声を出し、食卓にあったステンレス製のペーパーナプキン入れに手をかけて投げつけようとしたというのだ。幸い、高英姫夫人が総書記の手を抑えて大事に至らなかった、というエピソートだ。

 その場を目撃した藤本氏は「張氏が総書記と異なる意見を述べたようだった」と説明している。その張氏は18年後、金総書記の息子、金正恩氏の逆鱗に触れて処刑されたのだ。

 藤本氏は故金正日総書記の後継者に正恩氏を予想した最初の人物で、その眼識には脱帽するが、正恩氏の激怒に走りやすい性格については余り言及していない。むしろ、男性的で決断力に富む、といった指導者像を紹介している。
 張氏の処刑の背景について、利権争い云々が指摘されているが、正恩氏が自身の激怒をコントロールできなかった結果ではなかったか。   

 指導者は怒りを抑えることができなければならない。怒りを抑えることができない指導者はいつか怒りを暴発させて、墓穴を掘ってしまう。

 「激怒」といえば、旧約聖書の英雄、モーセを思い出す。モーセは約60万人のイスラエル民族を導き、奴隷の地であったエジプトから神の約束の地カナンに向かうが、途中、不平不満をいう民族に対して我慢できず、激怒し、神から受けた2枚の石板を壊してしまったのだ(出エジプト記)。その結果、モーセはカナン入りを目の前にして亡くなる。

 金正恩氏の性格を説明するコラムの中でモーセのエピソートを紹介することは適当ではないし、モーセに申し訳ないが、指導者がその怒りを抑えることができない場合、どのような運命が待っているかを説明したいのだ(そもそも、出エジプトは、奴隷となっている同胞がエジプト兵士に強いられている姿を見てモーセが激怒し、兵士を殺害したことが直接の契機だ)。

 話を金総書記と張氏のエピソードに戻す。金正恩氏は13歳の時、父親の金総書記が張氏に向かってペーパーナプキン入れを投げようとした現場を目撃していたはずだ。その18年後、独裁者となった正恩氏は機関銃や火炎放射器で叔父を惨殺したのだ。金総書記と金正恩氏、親子2代とも癇癪持ちだ。

 張氏亡き後、誰が金正恩氏に「異なった意見」を助言できるだろうか。最側近の崔竜海軍総政治局長は無理だろう。他の幹部たちも張氏の最期を知っているだけに自己保身に走るだろう。イエスマンに取り囲まれた金正恩氏が一旦激怒に走った場合、どうなるだろうか。金正恩氏が核兵器の発射ボタンを握っているのだ。

 ちなみに、張氏は1946年2月6日生まれ、といわれてきたが、藤本氏の情報によれば、同年1月22日生まれだ。それが事実とすれば、張氏は明日(22日)、68歳の誕生日を迎えるはずだったわけだ。

韓国は「憎悪」を輸出すべきでない

 韓国の聯合ニュースは17日、韓国で3番目の慰安婦像の設置を報じた。

 「韓国南部・慶尚南道巨済市で17日、旧日本軍の慰安婦を象徴する『平和の少女像』の除幕式が行われた。巨済の少女像は、ソウルの日本大使館前とソウル近郊・京畿道高陽市の湖公園にそれぞれ設置されている少女像に続く、韓国で3番目の慰安婦を象徴する銅像」

 旧日本軍の慰安婦像のニュースを聞く度に「韓国国民は本当に慰安婦像、少女像を設置したいのか。それとも一部の国民が扇動しているだけか」と考え込んでしまう。そして、慰安婦の家庭や関係者には、「あなたがたは本当に慰安婦像を公的な場で設置させたいのか」と聞きたい。

 どの国にも国の「建設の父」「戦争の英雄」を祀る像がある。その像を見る度、国民は自国に誇りを感じたり、勇気をもらう。それでは慰安婦像から韓国の国民は何を感じるだろうか。国の誇りを感じることはないだろう。むしろ、戦争時、自国が他国の侵略にさらされたという歴史を苦い思いで想起するかもしれない。また、祖国を汚した国に憎しみを改めて感じるかもしれない。

 以下は当方の受け取り方だが、多数の韓国国民は前者の思い(苦い思い)が強いのではないか。自国の乙女たちが他国の軍人の慰安婦となったことを象徴した像を設置したいと願うだろうか。慰安婦の関係者はどうだろうか。

 慰安婦像を世界に広げて、旧日本軍の蛮行を世界に知らしめたい、と考えている韓国民は少数派ではないか。慰安婦像は日本の大多数の国民の心を痛めるだけではなく、大多数の韓国国民も傷口に塩を摺り込まれるような痛みを覚えるのではないか。

 そこで慰安婦像の設置に汗を流す一部の韓国国民に聞きたい。もし、あなたの娘、母親が慰安婦だったら、彼女らのためにその慰安婦像を世界に設置するだろうか。あなたがたの多くは、慰安婦の家庭でも遺族関係者でもなく、政治的思惑から慰安婦問題を利用しているのではないか、という疑いを持つ。

 慰安婦像設置の除幕式には慰安婦やその家族関係者が参加していた、というニュースは聞く。当方は慰安婦本人、その家庭が自ら進んで参加したとは受け取っていない。

 「恥の文化」といわれる日本人の感覚では慰安婦像設置という発想は出てこない。世界に向かって「私は慰安婦でした」と宣言出来るだろうか。終戦後ほぼ70年が過ぎ、関係者の多くは生存していない。にもかかわらず、慰安婦自身がその悲しみを世界に向かって叫び、その像を設置したいと願っているとは到底考えられない。

 わたしたちは、英雄ではなく、人間の悲しい性の犠牲となった女たちの像を設置したいとは考えない。女たちの悲しい運命は慰安婦像を設置することで癒されるものではないからだ。

 ホロコーストの犠牲となったユダヤ人は関連の追悼碑を設置したり、強制収容所を保存する。民族の悲劇を忘れないためだ。韓国の慰安婦像のように、他国に憎しみを発信するためではないのだ。

 韓国は米国で慰安婦を設置し、欧州でも計画している。何のためか。韓国国民はそろそろ考えるべきだ。「あなたたちは世界に平和と慰安を広げるのではなく、憎しみと恨みを広げようとしているのだ」。

 戦時下の慰安婦たちの問題は日韓両国の問題だけではなく、人類がいつかは克服しなければならない悲しい問題だ。ベトナム戦争下の米軍兵士や韓国兵士の性犯罪をみても分かる。民族を超え、人類の普遍的な課題だ。慟哭することしかできない問題だ。それをあたかも日韓両国の歴史問題として扱い、一方に謝罪を強いる言動は「歴史の正しい認識」とはいえない。

 韓国が世界に慰安婦像を広げようとしていることに懸念する。韓国はいつか世界から「憎悪の輸出国」と軽蔑されるかもしれないのだ。どのような言動も、愛ではなく、憎悪から発したものは決して良き実をもたらさない。

 サムスンのスマートフォンや現代自動車を輸出するように、韓国は慰安婦像という憎悪を輸出しようとしている。韓国が危ない。

 

アンチEU政党が第一党に躍進!

 ギャラップ世論調査によると、オーストリアの野党第一党、右派政党の自由党が与党2党(社会民主党と国民党)を抜いて第1党に躍り出たことが明らかになった。今年は5月22日から25日、欧州議会選挙が実施されるだけに、外国人排斥、アンチEU政策を主張する自由党第1党躍進のニュースは欧州に衝撃を投げかけている。

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▲オーストリア総選挙での自由党の選挙ポスター(2013年9月、ウィーンで撮影)

 同国日刊紙エステライヒは17日付で報道した世論調査結果によると、シュトラヒャー党首が率いる自由党が25ポイント、社民党は24ポイント、前回欧州議会選で第1党だった国民党(中道右派)は20ポイントと第3党に後退した。

 自由党は昨年9月29日の国民議会選挙で20%を超える得票率を挙げ躍進したが、それ以降も着実に支持率を伸ばしている。その背景には、昨年クリスマス休暇前に発足した社民党と国民党両党から構成された第2次ファイマン連立政権への国民の失望と、他の野党「チーム・シュトローナハ」内のゴタゴタがある。

 社民党は選挙公約の一律学校の導入、富者への税金や相続税の導入を断念する一方、年金年齢の引き揚げで国民党の要求を受け入れた。国民党は増税しないと選挙で約束してきたが、タバコ税など一部の増税を受け入れ、国営企業の民営化も断念した。要するに、与党2党は連立政権発足を優先し、選挙公約を捨て、党支持者を裏切ってきたわけだ。

 特に、国民党内では閣僚選出で州国民党の意向を無視したシュビンデルエッガー党首(財務相)への批判の声が高まっている。欧州議会選で第1党を維持できない場合、党首の交代は織り込み済みといわれている。
 社民党は同国国営放送の元ニュースキャスターをスカウトして欧州議会選の党比例代表のトップに据え、浮動票を集める作戦に出ている、といった具合だ。

 自由党は与党2党のだらしなさに救われている面もあるが、このままいけば欧州議会選で第1党に躍進するのは確実な様相だ。

 ちなみに、右派政党の躍進はオーストリア政界だけの傾向ではない。オランダやフランスでも右派政党の躍進が予想されている。

 フランスでは昨年、マリーヌ・ル・ペン党首が率いる右派・国民戦線(FN)が世論調査で同国最大野党の中道右派・国民運動連合(22%)、与党・社会党(19%)を破り、トップに躍り出た。オランダでは右派政党自由党(PVV)が国民のEU懐疑派の増加を受けて欧州議会選では躍進すると見られている。

“フランシスコ効果”だけではダメ

 オーストリアのローマ・カトリック教会司教会議が14日発表したところによると、同国の昨年の信者脱会数は5万4854人で前年比で4・8%増だった。同国のカトリック教会信者総数は約531万人となった。

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▲ウィーン大司教区のシュテファン大聖堂(2013年1月10日、撮影)

 司教会議関係者は「教会脱会傾向はここにきて落ち着き、安定してきた」と評価し、脱会者急増傾向にストップがかかったと受け取り、「将来への潜在的な希望すら感じる」と述べている。

 同国では2010年、脱会者数は8万5960人と過去、最悪を記録したが、それ以外の年の信者脱会数は5万人台だ。この年、教会信者脱会者が急増したのは、世界各地で聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、教会内外で教会の信頼が大きく揺れ動いた年だった。

 教会はその衝撃から次第に立ち直りつつあるといえるが、聖職者の性犯罪はその後も各地の教会で発生している。ちなみに、「国連子供の権利条約」(UNCRC)委員会は16日、第65会期でカトリック教会聖職者による未成年者への性的虐待問題を審議したが、「バチカンは聖職者の性犯罪の詳細な情報を提供していない」と批判している。

 教会脱会者の急増傾向にストップがかかった主因は何といっても南米初のローマ法王フランシスコの就任が大きい。古い慣習を破り、信者とのスキンショップを重視する一方、豪華な生活を戒め、貧者への支援を諭すフランシスコ法王に新鮮な驚きを感じている信者たちが増えてきた。通称、フランシスコ効果と呼ぶ現象だ。

 それに対し、同国代表紙プレッセ(15日付)は「フランシスコ法王は奇跡をもたらすラビではない」と指摘し、教会の実情は新法王の就任で一挙に改善するような簡単な問題ではないと戒めている。

 例えば、首都ウィーンの大司教区では昨年、1万5889人(前年1万6217人)が教会から脱会し、信者総数は124万6608人(前年125万8210人)だ。
 少し詳細に見ると、教会会費(所得の1・1%)を支払う信者は全体の37・1%に過ぎないのだ。教会から脱会しないが、礼拝には参加せず、教会費も払わない信者が大多数を占めているわけだ。

 同国の最高指導者シェーンボルン枢機卿が焦るように機構改革を進めるのは当然なわけだ。聖職者不足など、教会を取り巻く現実はフランシスコ法王の登場後も何も変わっていないからだ。

ハンガリーの野心的な原発政策

 ロシアとハンガリー両国は14日、ハンガリーの首都ブタペスト南部約100キロにあるパクシュ(Paksi)原子力発電所に新たに2基の原子炉を建設する協定に署名した。署名式典はプーチン大統領とハンガリーのオルバン首相の間でモスクワで行われた。
 ハンガリー日刊紙によると、総工費は約100億ユーロと推定、ハンガリーにとって、欧州連合(EU)加盟後の最大プロジェクトとなる。総工費はロシア側が80%相当の借款を供与、残り20%はハンガリーが自己負担する。

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▲パクシュ原子力発電所(ウィキぺディアから)

 両国は過去1年間、交渉を重ねてきた。同プロジェクトにはフランス、米国、韓国、日本の原発企業が関心を示してきたが、ハンガリー政府は請負企業選出では公式の入札を避けた。その理由は、「2基の原子炉建設は既存の原発の増築」とういう理由からだ(独週刊誌シュピーゲル電子版)。新原子炉の操業は2023年以降と予想される。ロシアの国営原子力企業「ロスアロム」社が建設を請け負う。

 パクシュ原発(旧ソ連側重水炉で1982年に操業開始)はこれまで約2000メガワット/日の電力を生産してきた。同国総発電量の40%に当たる。同原発の寿命30年は経過したが、寿命延期を決定する一方、新しい原発の建設計画を進めてきた。ハンガリーは将来、国内需要エネルギーの約80%を原子力エネルギーでカバーする計画だ。

 ハンガリー側は「わが国の企業にも30億ユーロから40億ユーロの受注が生まれ、1万人の新しい雇用が生まれる」と期待している。一方、同国の最大野党、社会党は「わが国のエネルギー政策がロシア依存を一層深める」として懸念を表明している。

 ところで、ハンガリーの新原子炉建設に懸念を表明しているのは同国の社会党だけではない。隣国オーストリアでも「ハンガリーの新原子炉建設」に危惧の声が聞かれる。

 オーストリアは1999年、欧州で唯一、「反原発法」を採択し、原発を建設する道を完全に塞いだが、同国の国境から僅かしか離れていない東欧諸国で旧ソ連型原発が操業中だ。原発事故が生じれば、その放射能は国境を超えてオーストリアにまで及ぶことは確実。

 例えば、チェコは目下、原子力エネルギーの促進を進め、テメリン原発で新たに2基の原子炉を増設中だ。そして今度はハンガリーだ。簡単にいえば、オーストリアは原発建設を断念したが、原発推進派の東欧諸国に取り囲まれているわけだ。オーストリアはハンガリーの野心的な原発拡大政策をひやひやしながら眺める一方、国民は反原発政策の代償として高い電気代を支払わされるのだ。

中東から「正しい歴史認識」を学ぶ

 イスラエルのシャロン元首相は11日、亡くなった。元首相の国葬は13日挙行され、追悼式典には国民ばかりか世界の指導者たちも参席した。

 シャロン元首相は一般的には強硬派と受け取られてきた。第3、第4次の中東戦争では輝かしい戦果を挙げ、国の英雄となった。その風貌から国民に父親のように慕われた。政敵だったネタニヤフ首相は「イスラエルの治安のために人生を捧げた」と哀悼の意を表明している。

 同じ時、そう遠く離れていないパレスチナ人のガザ地区やヨルダン西岸ではパレスチナ人が「神がパレスチナ人の血が染まった暴君に罰を下した」とシャロン元首相の死を喜び、踊っているシーンがテレビで映し出された。

 当方は、シャロン元首相の死去に伴うイスラエル国民とパレスチナ人の反応を見ていて、韓国が日本に執拗に求めている「正しい歴史認識」について考えさせられた。

 シャロン元首相の歴史的評価について、パレスチナ人の「殺略者」説とイスラエル国民の「国家の英雄」のどちらが「正しい歴史認識」といえるだろうか。

 シャロン元首相はレバノン侵攻のパレスチナ難民虐殺事件(1982年)の指導者だった。パレスチナ人にとって、シャロン元首相は間違いなく殺戮者だ。
 一方、イスラエル国民にとってシャロン元首相はイスラエル民族の安全と利益を守った英雄だ。両者とも譲れない。

 パレスチナ人は「正しい歴史認識」をイスラエル側に要求しても無駄なことを知っている。パレスチナ人の歴史観に基づいて、シャロン元首相を批判するイスラエル人がいたら、その人は国民からブーイングを受けるだけだ。

 一人の政治指導者の歴史的評価ですら国を越えれば共有することは簡単ではない。ましてや歴史全般の「正しい歴史認識」などはほぼ不可能なテーマだ。
 国と国との歴史認識は個々の人物評価とは異なる、と反論されるかもしれないが、歴史的人物の言動とその評価は戦争の歴史認識を構成する重要要因だ。人物評価は歴史の枠組みの中で下されるからだ。
 
 韓国外交部の趙泰永報道官は昨年11月19日、伊藤博文を暗殺した韓国独立運動家、安重根の記念碑建立が中国で進められていることに関連し、「日本の菅義偉官房長官が安重根を『犯罪者』と呼んだが、安重根はわが国の独立と東洋の平和のために命を捧げた国の英雄だ」と説明し、菅官房長官の「犯罪者」発言に遺憾の意を表明したことがある。

 イスラエルとパレスチナの「シャロン元首相の歴史的評価」と日韓の「安重根の歴史的評価」は時代は異なるが、状況はよく似ている。

 日韓が「正しい歴史認識」問題を政治議題にする限り、両国は双方歩み寄ることはできない。そろそろ「正しい歴史認識」問題の議論を止め、歴史学者に委ね、政治家は現実的な問題の解決に取り組むべきだろう。「正しい歴史認識」がない限り、「両国首脳会談は実現できない」という朴槿恵大統領は余りにも歴史に対して無知だ。
 
 シャロン元首相の死去に対するイスラエル国民とパレスチナ人の反応は、日韓両国指導者が「正しい歴史認識」を再考するうえで教訓を提示している。

歴史が語る「戦争」の役割

 2014年は第一次世界大戦勃発から100年目を迎えることもあって、欧米メディアでは新年号から特集を企画するところがある。独週刊誌シュピーゲルは英国考古学・歴史家のイアン・モリス教授(IanMorris)とのインタビュー記事を掲載していた。教授は「戦争によって人類は発展し、より平和な世界を築いてきた。戦争は生産的だ」と主張した著書「Krieg.Wozu ergutist」(原題「War!WhatisitGoodfor」)で注目されいる。

 「暴力(戦争)が人類の発展でどのような役割を果たしてきたか」が教授のメイン・テーマだ。石器時代から今日まで絶えず戦争が続けられてきたが、「歴史を長期的視点で判断すれば、戦争は人類をよりよく、豊かな世界へ導いてきた。そしてより大きな秩序を構築してきた」というのが教授の主張だ。

 教授は「初期石器時代から今日まで戦争は続けられてきたが、その回数は減少してきている。戦争という悪業が行われ、その中から良き事が芽生えてくる。第1次、第2次の世界大戦が起きた20世紀、戦争で1億人から2億人が犠牲となった。20世紀にはトータル、100億人の人間が生存していたと推定すると戦争による死亡率は1%から2%だ、一方、石器時代、人は互いに殺しあったが、その死亡率は10%から20%と計算される。すなわち、戦争による死亡率は石器時代が圧倒的に高く、20世紀は石器時代よリ紛争(戦争)で亡くなる死亡率は10分の1と減少している。人類は戦争を繰り返しながら、戦争の少ない、安定した世界を構築してきた。戦争は絶対悪というのは余りにも安易すぎる。歴史は、戦争がそれほど悪くないことを実証している」という。

 シュピーゲル記者が「社会学者ノルベルト・エリアス氏(Norbert Elias)はその著名な著書の中で『戦争は避けられないが、人類発展の原動力ではない」と記述していると反論すると、教授は「戦争は美しくないし、短期的には石器時代のような蛮行の世界に人類を引き戻すが、文明社会の構築のために必要悪のように感じる。紛争を交渉を通じて規制できれば快いが、人類が選んだ道は戦争だった。われわれは殺人者だ」という。

 人類が自主的な社会契約で秩序を構築する道ではなく、戦争に走りやすいのは「戦争が人類にとってルーツに起因するからだろう。社会契約云々は戦争後の選択肢となるだけだ」という。教授によれば、人類の歴史は「万人の万人に対する闘争」と主張した英哲学者トマス・ホッブズが正しいことを示している、というわけだ。

 欧州連合(EU)は今日、5億人を抱える共同体だ。「欧州は戦争というカードを最後まで切った。その結果、戦争のない欧州共同体を構築してきた。戦争という代価を払うことで、より大きな秩序を構築し、平和で安定した社会が生まれてきた」というわけだ。

 教授は「第2次世界大戦は欧州とアジアを荒廃させたが、その後、人類史上最も生産性の高い地域を生み出した。そして今日、平和で豊かな地域となっている」と主張する。

 教授の「戦争論」は興味深いが、「なぜ、戦争を通じて社会が発展し、よりよい社会が構築されてきたか」という問いには言及していない。それは歴史学者の領域ではないからだろう。

 最後に、その問いについて、聖書に基づく説明を紹介する。

 「人類の堕落後、悪が神の計画に先行してその勢力を拡大してきた。神は失った世界を回復するため、悪が構築した世界を破壊しながら善の版図を広げていった。だから人類の歴史では必然的に戦争が頻繁に生じてきた。換言すれば、人類の歴史は善悪闘争史ということになる」

大麻合法化の“経済効果”論は危険

 ウルグアイ議会(上院)は昨年12月10日、大麻(マリファナ)の栽培から消費まで合法とする法案を決定し、ムヒカ大統領の署名を受けて同関連法は発効した。その直後、米コロラドで大麻の販売と限定された量の消費を認めた。ウルグアイも米コロラド州も大麻合法化の主要な理由として「麻薬犯罪防止」を第一に挙げている。
 中南米メキシコを例に挙げるまでもなく、麻薬組織とそれを取り締まる政府側の戦いは既に戦争状況だ。麻薬組織も武装し、政府軍と戦闘を繰り返し、毎年多数の犠牲者が出ている。

 ところで、サンパウロ発時事の以下の記事を読んで少し考えさせられた。

 「南米ウルグアイで、世界で初めてマリフアナの栽培、販売、使用を合法化する法律が成立した。米コロラド州でも1月から嗜好(しこう)品としてのマリフアナ販売を解禁。麻薬組織対策としての効果に加え、経済効果も期待できるとみられており、解禁を検討する他の国も動向を注目している。地元紙オブゼルバドールは6日、マリフアナ合法化を受け、イスラエルやカナダの製薬会社が大麻の大量購入を申し出ていると報じた。新たな産業振興のきっかけになるとも期待される」

 ウルグアイの決定がどのような“経済効果”をもたらすか注目されている、という箇所だ。大麻を全面合法化することで麻薬犯罪組織への対策だけではなく、政府側に税収入が期待される。外国企業から大麻大量購入の話も飛んでくるかもしれないというのだ。

 「大麻合法化の経済効果」を測ることはまだ時期尚早だが、政府側の税収入の増加は十分考えられる。一方、大麻合法化で若者たちの消費が増加し、健康に支障をもたらすかもしれない問題については余り議論を呼んでいない。

 大麻の消費は脳神経に多大の影響を与えることは学問的にも証明されている。ウィーンに事務所を構える国際麻薬統制委員会(INCB)は「大麻には非常に危険な化学成分(カンナビノイド)が含まれている。例えば、テトラビドロカンナビノール(THC)だ」と指摘している。
 麻薬をハードとソフトに分類し、ソフト麻薬は消費しても健康に影響がない、といった風潮があるが、INCBは「麻薬にはソフトもハードもない。両者とも心身に危険性がある。大麻の乱用は認識困難や精神的錯乱という症状をきたす」という研究報告を紹介している。

 にもかかわず、ウルグアイ政府やその動向を注視する国々は大麻合法化の経済効果に関心を払い、大麻合法化による健康への影響を懸念する声はあまり聞こえてこない。

 大麻合法化の是非を経済効果で判断すべきではない。税収入は増え、麻薬犯罪組織の活動が減少するかもしれないが、その代償として多くの若者が大麻中毒に汚染されていくならば、その国の未来は厳しくなる。社会が麻薬漬けになれば、医療費や犯罪も増加することは火を見るより明らかだ。

 政策の是非を経済効果で測ることは便利だが、大麻の場合、経済効果以上に、健康への悪影響を第1に考え判断しなければならないはずだ。

 グローバルな社会では、多様性という名の下で価値の相対化が加速してきた。ただし、大麻問題では「中毒性があり、健康を害する麻薬は絶対許してはならない」という一線を死守しなければならない。その一線を踏み越えれば、雪崩のように他の麻薬の合法化の道が開かれていくだろう。大麻合法化がもたらす経済効果云々は危険な話だ。

ロシア正教「同性愛者を追放せよ」

 ロシア正教モスクワ総主教座のフセボロド・チャプリン大司祭は同性愛者を法で取り締まるべきかを問う国民投票の実施に同意を表明した。ロシア正教聖職者の一人が提案していた。ロシア日刊紙イスベスチャ紙が10日、報じた。

 ソチ冬季五輪大会開催(2月7日)まで1か月を切ったこの時、ロシア正教が同性愛者処罰法の是非を問う国民投票の実施を呼び掛けたわけで、大きな反響を呼ぶのは確実だ。
 ロシアでは同性愛者を法的に処罰することに賛成する国民が多い。大司祭は「同性愛者を社会から完全に追放すべきだ」と主張、国民投票を通じて同性愛禁止の法制化に自信を示した。
 
 ロシアでは1993年まで同性愛を犯罪と受け取られ、99年までは精神病者と考えられた。昨年から同性愛を広げるプロパガンダは法的に禁止されたばかりだ。

 ロシアの同性愛宣伝禁止法に対し、欧米諸国では一斉に批判が飛び出し、ソチ冬季五輪大会ボイコットも辞さないといった圧力をプーチン大統領に行使してきた。オバマ米大統領は五輪開会式参加を欠席する一方、米政府冬季五輪団に同性愛者として有名な元女子テニス選手ビリー・ジーン・キング女史を選ぶなど、ポピュリストらしい対応に腐心している。

 以前にも指摘したが、欧米諸国と旧ソ連・東欧諸国では、同性愛問題への対応はまったく異なっている。
 欧州ではデンマークが1989年、同性カップルの登録パートナーシップ制度を導入して以来、同性婚、婚姻に準じた法的地位を認めるパートナーシップ制度を導入する国が次々と出てきた。

 欧州連合(EU)の場合、「性的指向を含むいかなる理由による差別も禁止する」と明記した欧州連合基本権憲章が2000年、採択されて以来、同性婚を認める国が増えていった経緯がある」(国立図書館資料)。その背景には、「人権の尊重」がある。これまで蔑視されてきた同性愛者にも同等の権利を付与すべきだという基本的な立場だ。

 一方、ロシア、東欧では同性愛に対して依然、根強い抵抗がある。最近では、EUの加盟国入りしたクロアチアで昨年12月1日、憲法に「結婚は男女間の結び付き」を明記すべきかの是非を問う国民投票が行われ、賛成66%、反対34%で承認されたばかりだ。憲法で「婚姻は異性間の間」と規定している東欧はブルガリア、ポーランド、ラトビア、リトアニア、ハンガリーなどがある。

 ロシアで同性愛拒否の風潮が強い背景には、ロシア正教の積極的な啓蒙活動がある一方、欧米諸国では、同性愛者公認傾向にカトリック教会を含むキリスト教会は世俗化の波に押され、静観するだけだ。また、著名人、スポーツ選手、政治家らの同性愛告白が社会に大きな影響を与え、同性愛者の市民権を促進させている。

元首相空白8年間の「中東の動き」

 イスラエルのアリエル・シャロン元首相が11日、死去した。85歳だった。2006年1月、脳卒中で倒れて以来、8年間、昏睡状況が続いていた。3次、4次の中東戦争では指揮官を務め、スエズ運河逆上陸作戦を指揮、母国の窮地を救うなど、イスラエルの英雄の一人だった。その後、政界入りし、ラビン政権、ぺギン政権下で閣僚を歴任した後、2001年3月、首相に就任した。そして運命の日(06年1月4日)を迎えた。

 ところで、この8年間、中東情勢はどのように変化しただろうか。シャロン元首相が最後に8年間の中東情勢を振り返ってブリーフィングしたら、こういうのではないだろうか、と想像しながら簡単に振り返ってみた。

 シャロン元首相が最も驚くことは、ニューヨークの国連総会で2012年11月29日、パレスチナのオブザーバー国家への格上げが賛成多数で採択されたことだろう。イスラエル、米国は反対したが、国連加盟国138カ国がパレスチナの「オブザーバー国家」への格上げを支持した。

 元首相自身、パレスチナ国家の容認を認め、イスラエルがパレスチナを占領している事実を認めた最初のイスラエル首相だ。その意味で、元首相は現実的な政治感覚を保有していた。ちなみに、パレスチナ自治政府は11年10月末、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に正式加盟している。

 イスラエルの入植政策は、ストップになったり、加速されたりで、時の政情に大きく揺れ動かされてきた。その点、シャロン政権時代から余り変わっていない。

 シャロン首相の空白の8年間で中東情勢の変化と言えば、2011年1月、チュニジアを皮切りにエジプト、リビア、イエメンなどで吹き上げた民主化運動(通称アラブの春)だろう。ただし、“アラブの春”はここにきて大きな試練に直面し、エジプトではムバラク政権が崩壊したが、「ムスリム同胞団」主導のモルシ政権が誕生したのも束の間、昨年7月、軍が再び政権を掌握するなど、2転、3転している。ムバラク大統領とリビアの独裁者のカダフィ大佐の失権と処刑を聞いたならば、シャロン元首相はやはりびっくりするだろう。

 一方、米国ではブッシュ政権からオバマ政権に変わり、米軍はイラクやアフガニスタンなど紛争地から撤退を進めている。シリア内戦問題への対応でも明らかになったように、オバマ大統領は決断力と指導力に欠けている。同時に、イスラエルと米国の両国関係はシャロン時代の緊密な関係とは異なり、隙間風が吹き出している。

 シャロン元首相へのブリーフィングで忘れてはならない点はイランの核問題だ。シャロン氏の首相時代からイランの核問題は懸念材料だった。03年から今日まで10年間以上、国際社会はイランの核問題に頭を悩まされてきた。

 ネタ二ヤフ現首相はイランの核関連施設への軍事攻撃すら示唆している。実際、イスラエルは07年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破した。シリア側が否定しているが、国際原子力機関(IAEA)は「同施設は核関連施設」と受け取っている。

 シャロン氏ならイランの核問題をどのように対応するだろうか。聞いてみたいが、もはや難しい。イスラエルにとって民族の安全は最優先課題だから、シャロン氏もイランの核問題に対しては強硬政策を辞さないだろう。


 シャロン氏の冥福を祈る。
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