ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年11月

イランの核問題が動き出した

 ローマ・カトリック教会では11月を「終末の月」「死者の月」と呼ぶが、行き詰まってきたイランの核協議は2つの重要な合意を実現し、全容解明に向けて蘇ってきた。

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▲IAEAの記者会見風景(2013年11月28日、ウィーンIAEA本部で撮影)

 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は11日、イランの首都テヘランを訪問し、サレヒ原子力庁長官らと会談、イランの核問題を検証する「協調のための枠組み」に関する共同声明を発表している。同共同声明によると、枠組みは、過去、現在の未解決問題を解決するために、アラクの重水製造施設とウラン鉱山へのIAEAの査察、新たな研究用原子炉と16か所の原発計画、追加濃縮機材、レーザー濃縮技術などに関する情報提供など6項目から成っている。イラン側は3カ月以内に上記の6項目を履行しなければならない。ただし、核兵器用の起爆実験が行われた疑いのあるテヘラン郊外のパルチン軍事施設は今回の合意の中に含まれていない。

 一方、イランと米英独仏中ロの6カ国は同月24日未明、イランがウラン濃縮関連活動の中断、その見返りとして対イラン制裁の一部緩和(原油輸出収入約450億ドルの凍結解除)などで合意した。具体的には、5%以上のウラン濃縮活動を停止、アラクの重水製造施設へのIAEAの査察などを認めることで、イランの核開発活動の透明性を高めていく内容だ。同合意を包括的合意に向けた第1段階の合意と位置付け、今後6か月間のイランの動向を監視しながら協議を重ねていくことになる。 
 
 IAEAは2003年にイランの核問題が議題となって10年間、イランと協議を重ねてきたが、「イランの核開発計画が平和目的であることを依然、検証できない状況」(天野事務局長の冒頭声明)が続いてきた。一方、2006年から始まった6カ国とイランの核協議はイランの核兵器開発容疑問題の透明性と対イラン制裁問題が議題となってきたが、これまで行き詰ってきた。

 両交渉がここにきて動き出した主因は、イランで8月、穏健派ロウハニ師が大統領に就任し、「核問題の早急な解決」に意欲を表明したことが契機となっている。その意味で、11月の「2つの合意」はロウハニ師が影の功労者といっていいだろう、

 ところで、両者の交渉には基本的な相違がある。天野事務局長は28日午後の記者会見の中で「「IAEAは独立機関だ。われわれの主要目的はイランの核計画の検証にある。一方、ジュネーブの交渉は、イランのウラン濃縮関連活動の制限と対イラン制裁の対応が主要目的だ」と説明、両交渉が異なった目標を掲げながら同時進行し出したと強調した。

 なお、IAEAとイランの協調枠組みは「3か月以内」、ジュネーブの合意は「6か月間」という期限を設定している。テヘランが28日、IAEA宛の書簡でアラクの重水製造施設への査察を認めたが、それはイランがIAEAとの間で合意した6項目の一つだ。
 
 両者の交渉の相違を別の表現でいえば、IAEAとイラン交渉は技術的テーマが焦点であり、ジュネーブの交渉はもっぱら政治的な要因の色が濃い。注意すべき点は、後者が政治的配慮から前者の交渉を妨げてはならないということだ。例えば、西側の外交筋は「米国はイランの過去の核開発容疑問題を深追いせず、今後の核開発を阻止する方向でテヘランと譲歩するのではないか」とみている。その場合、IAEAの核検証は中途半端で幕を閉じなければならなくなる可能性が出てくる。
 天野事務局長は28日、「ジュネーブの交渉で調停役を演じた欧州連合(EU)の外交担当上級代表、キャサリン・アシュトン氏は書簡の中で『IAEAがイランの核問題の解決で重要な役割を担っている』と強調した」とわざわざ言及したのも、そのような懸念があるからだろう。

 イランの核協議は11月、2つの交渉で合意され、異なるテンポでその履行に向けて動き出した。「2つの合意」が最終的に大きな結実をもたらすかどうかはイランの履行状況にかかっていることはいうまでもない。ただし、シリアの内戦問題の行方がイランの核協議の進展にも様々な影響を与えることは十分考えられることだ。

ハンガリーでナチス党が蘇った

 当方は当コラム欄で「欧州連合(EU)の加盟国28カ国で来年5月、欧州議会選挙が実施されるが、アンチEUの極右政党の躍進が予想される」(「ブリュッセルの『不安』」(2013年10月15日)と書いたが、ハンガリーで従来の極右派政党を凌ぐ過激な民族主義政党が現れてきた。その政党の主張はナチス・ドイツを彷彿させるものがあるのだ。

 ハンガリーの首都ブダペストで今月3日、ハンガリー王国時代の執政だったミクロ―シュ・ホルティ銅像の除幕式が行われたが、同日、ホルティを支援する極右派政党ヨビック関係者と銅像建立に反対してきた左派グループが集まり、路上を挟んでいがみ合ったばかりだ。

 その極右派「ヨビック党」から出たアンドラシュ・キシュゲルゲイ(Andras Kisgergely)氏が結成した「ハンガリーの夜明け」という名の新政党だ。その呼称はギリシャの極右派政党「黄金の夜明け」を意識したものだろう。新党はハンガリーが第一次世界大戦後のトリアノン条約(1920年6月)で失った領土を奪い返すこと、国内に潜伏するユダヤ主義に戦いを挑むことを党綱領に掲げているのだ。

 同党首は「われわれはハンガリー的、キリスト教民族主義運動だ。党員になるためにはハンガリー人であることを家系図から証明しなければならない。具体的には4世代まで遡り、マジャール人(ハンガリー)の血統継承者であることが証明されなければならない」と表明している。ヒトラーの国家社会主義ドイツ労働者党のアーリア人(高貴な民族)純血主義と不気味なほど酷似している。
 同党首はまた、「ヨビックの失敗を繰り返してはならない」と説明している。ヨビック党の副党首がユダヤ系血統であったことが判明し、党内で大きな問題となったことを指す。同問題が契機となって党路線問題が表面化し、多くの幹部が党から去って行った。その一人が今回新党を結党したキシュゲルゲイ党首だ。

 第一次世界大戦の敗戦国ハンガリーはフランスで開催されたトリアノン宮殿での会議で領土の70%以上を失った。スロバキアはチェコスロバキアに、クロアチアはセルビア側に、トランシルバニアはルーマニア王国にそれぞれ奪われていった。人口は2100万人から750万人と3分の1に縮小した。敗戦国がこれほど多くの領土を失ったケースは過去にもなかった。1939年のミュンヘン協定やウィーン裁定で失った領土を一時回復したが、第二次世界大戦後、それも無効となっている。

 ハンガリー国民には今なお、失った領土への愛着心がある。同国の社会学者は「ハンガリー民族は消すことができない喪失感を抱えている」と述べている。オルバン現右派政権が2010年5月、外国居住のハンガリー人に国籍修得の権利を保証する法改正を実施し、隣国ルーマニアやスロバキアから強い反発が起きたことはまだ記憶に新しい。ハンガリーの新党がトリアノン条約の無効を党綱領に掲げていると知った時、ハンガリー民族の喪失感の深さを感じた。

 ハンガリーは今日、EUの加盟国だ。民族、国境を越えて共同体社会建設という大きな夢が現在、欧州で進行中だ。ハンガリー国民はその夢を共有していくことでトリアノン条約の痛みを癒していく道しかないだろう。

ペルシャがユダヤ民族を助けた話

 イランのマフムード・アフマディネジャド前大統領は「イスラエルを地上の地図から抹殺してしまえ」と暴言を発し国際社会の反感を買ったことがあったが、敵対同士と受けとられているイランとイスラエル両国、両民族は長い歴史の中でいつも対立、いがみ合ったきたわけではない。イラン民族(ペルシャ)がイスラエル民族(ユダヤ民族)を奴隷の身から解放したことがあるのだ。

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▲ウィーンの初雪風景(2013年11月25日、撮影)

 イランの核問題はイスラエルの安全問題にとって最大の懸念事項となっている今日の視点からみれば想像できないことだが、イラン人とイスラエル人は案外近いのだ。国連担当のイラン人外交官が「アラブ民族よりイスラエル人のほうが理解しやすい」と語ったことを思い出す。

 両民族の関わりを理解するためにイスラエル史を振りかえなければならない。すなわち、旧約聖書時代に戻る必要がある。イスラエルという呼称は、ヤコブが天使と相撲を取って勝った褒賞として神から与えられた呼称で、「勝利者」を意味する。そのヤコブから始まったイスラエル民族はエジプトで約400年後、モーセに率いられ出エジプトし、その後カナンに入り、士師たちの時代を経て、サウル、ダビデ、ソロモンの3王時代に入ったが、神の教えに従わなかったユダヤ民族は南北朝に分裂し、捕虜生活を余儀なくされる。北イスラエルはBC721年、アッシリア帝國の捕虜となり、南ユダ王国はバビロニアの王ネブカデネザルの捕虜となったが、バビロニアがペルシャとの戦いに敗北した結果、ペルシャ
王クロスはBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還することを助けた。

 なぜ、ペルシャ王は当時捕虜だったユダヤ人を解放したかについて、旧約聖書のエズラ記は以下のように説明している。

 「ペルシャ王クロスの元年に、主はさきにエレミヤの口によって伝えられた主の言葉を成就するため、ペルシャ王クロスの心を感動されたので、王は全国に布告を発し……」

 すなわち、ユダヤの神はペルシャ王クロスの心を感動させ、ユダヤ人を解放させ、エルサレムに帰還させわけだ。どのような理由があったとしても、ユダヤ民族はペルシャ民族の恩を受けているわけだ。

 現在のイラン人は「地図上からイスラエルを抹殺する」と強迫したが、同じ民族の王が約2550年前、ユダヤ人を捕虜から解放して故郷に帰還させたのだ。もし、ペルシャ王クロスがユダヤ民族を解放せず、捕虜として使っていたならば、現在のイスラエルは存在しなかったかもしれない。

 国連安保常任理事国とドイツを含む6カ国とイランの核協議は24日未明、イランの核開発の包括的検証に向けて部分合意に達した。イランはその見返りとして国連制裁の一部解除という成果を得た。その一部合意に最も反対し、批判しているのはサウジアラビアとイスラエル両国だ。サウジは米国がイランに接近し、イランを地域大国として承認するのではないかと懸念している一方、イスラエルのネタニヤフ首相は対イラン制裁解除に強く反対し、今回の一部合意を「歴史的ミステーク」と主張している。

 現在のイランとイスラエル両国は水と油のような関係だが、ペルシャ王クロスがユダヤ民族の神の声に感動して、ユダヤ人を苦境から解放したという史実は、両民族の和解の可能性ばかりか、その際に神の仲介があり得ることも示唆している。
 
  

政治家のイメージが危ない

 以下のテーマでコラムを書くことに少し抵抗感はあったが、これも現実の一面を反映していると考えて書くことにした。オーストリア経済誌「トレント」最新号は国内の職種別人気度(イメージ)の調査結果を報じたが、それによると、政治家の人気度は下から2番目で、売春婦より低く、かろうじてロビイストより上だったことが判明した。同国の日刊紙エステライヒは早速、「売春婦より人気のない政治家」というタイトルで大きく報じている。ちなみに、最も人気が高い職種は医者、弁護士、教師が上位3位に位置している。

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▲オーストリアの政界で人気の高い統合問題担当国務長官クルツ氏(オーストリア内務省提供)

 アルプスの小国オーストリアで政治家の人気はどうして低いかを考えてみた。明確な点は、与・野党政治家の汚職、腐敗が絶えないことだろう。国民党政権時代に内務相を務めた前欧州議員エルンスト・シュトラッサー氏は現在、賄賂容疑などで裁判で争っている。最悪の場合、4年間の刑期が待っている。ケルンテン州では与党関係者の汚職が次々と判明し、クリーンな政治家を探すのに苦労するほどだ。これでは国民の政治家へ向ける目が厳しくなるのは当然かもしれない。

 同国の政治構造にも問題があるようにみえる。オーストリアは地理的にチェコ以上に東欧地域に位置しているが、地理的な位置だけではなく、その政治システムや経済構造は冷戦時代の旧東欧諸国以上に東欧的と言われてきた。同国の政財界の主要ポストは政党の勢力に基づいて配分される。例えば、国営放送の人事や国営企業の幹部人事がそうだ。大手企業で昇進するためには主要政党の党員となることが最短距離だ。無所属や独立派が主要ポストを獲得するのはこの国では至難の業だ。

 最近、同国の政界でニューカーマーとして人気を呼ぶ若手政治家がいる。与党・国民党のセバスチャン・クルツ氏(27歳)だ。同氏はファイマン第一政権では移住民統合促進担当の国務長官を務めてきたが、積極的な活動で国民の人気は高い。そこで第2次ファイマン政権では「外相のポストにも」といった声が聞かれる。
 30歳にもならないうえ、外交経験は正直言って皆無だ。国民党青年部を担当してきただけだ。その若手政治家を国の外交のトップにという声が出てくるところはオーストリア的だ。政治家の資質より、国民の受けを重視する。この傾向は最近、とみに強くなってきた。

 「クルツ氏外相待望論」の背景には、同国の外交は誰がやっても同じだという認識が前提にあるはずだ。だから、クルツ氏を欧州最年少外相にすれば面白い、といった無責任なアイデアが飛び出す。国民が政治に対して真剣さを失ってきた証拠だろう。

 オーストリアにも能力ある人物はいるが、彼らは政治家を目指さない。多くはビジネス界に入る。だから、農業組合など利益団体や労組出身の党人が結局、政治家になる。彼らは出身政党、労組、団体の利益を第一に考えるから、その政治は面白くない、といった悪循環となるわけだ。それにしても、一国の政治家のイメージが売春婦より悪いという国は、ひょっとしたらオーストリアだけではないだろうか。

     職種       人気度

     医者       +80%
    弁護士      +46%
    教師       +40%
    ジャーナリスト  +21%
    聖職者      +14%
    公務員       +4%
    売春婦       +1%
    企業顧問     −17%
    銀行家      −18%
    保険業者     −19%
    金融顧問     −34%
    政治家      −65%
    ロビイスト    −67%

     (出典経済誌「トレント」)

プーチン氏は神を信じているか

 ロシアのプーチン大統領は25日、バチカン法王庁を訪問し、ローマ法王フランシスコを謁見した。同大統領のバチカン訪問は2007年3月、前法王べネディクト16世と会合して以来。フランシスコ法王とは初の会合だ。

 ロシアとバチカン両国は1991年以来、外交交流を始め、正式の外交関係樹立は2010年夏以降だ。プーチン大統領は3月、フランシスコ法王の選出を歓迎し、「両国間の建設的な関係の継続を確信している」と表明している。バチカンからの情報によると、フランシスコ法王とプーチン大統領との会合では、シリアの内戦問題を含む中東問題について意見の交換が行われたという。

 ところで、バチカンとロシアの両国関係は冷戦後、もうひとつパッとしない、というより、停滞してきた。その主因は両国間に大きな障害が横たわっているからだ。ズバリ、ロシア正教会の強い抵抗だ。ロシア正教会側は機会のある度に、「共産政権時代で弱体化した正教を尻目に、カトリック教会は正教圏内の宣教活動を強化している」と、バチカンを激しく批判してきた。また、ウクライナ西部の東方帰一教会の活動もバチカンとロシア正教会間の争点となっている。
 
 一方、ロシア正教はプーチン大統領の庇護を受けその勢力を回復してきた。プーチン大統領はロシア正教を積極的に支援し、国民の愛国心教育にも活用してきた。プーチン氏自身も教会の祝日や記念日には必ず顔を出し、敬虔な正教徒として振る舞ってきた。プーチン氏はロシア正教会復興の立役者といってもいいだろう。
 しかし、プーチン大統領といえども、正教会を怒らせることはできない。だから、バチカンとロシア正教会の関係が改善されない限り、プーチン大統領もローマ法王をロシアに招請することは難しいわけだ。

 (キリスト教は1054年、ローマ法王を指導者とするカトリック教会(西方教会)と東方の正教会とに分裂(大シスマ)し、今日に到る。両教会間には神学的にも相違がある。例えば、正教は聖画(イコン)を崇拝し、マリアの無原罪懐胎説を認めない一方、聖職者の妻帯を許している。しかし、両派の和解への最大障害は、正教側がローマ法王の首位権や不可謬説を認めていないことだ)

 旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチン大統領はロシア正教会の洗礼を受けた経緯を語ったことがある。それによると、「父親の意思に反し、母親は自分が1カ月半の赤ん坊の時、正教会で洗礼を受けさせた。父親は共産党員で宗教を嫌っていた。正教会の聖職者が母親に『ベビーにミハイルという名前を付ければいい』と助言した。なぜならば、洗礼の日が大天使ミハイルの日だったからだ。しかし、母親は『父親が既に自分の名前と同じウラジーミルという名前を付けた』と説明し、その申し出を断わった」という(「正教徒『ミハイル・プーチン』の話」2012年1月12日)。

 ちなみに、ロシアの「モスクワ社会予測研究所」の社会学者タルシン氏の調査によると、ロシア人が再び宗教に関心を持ち出し、無神論者は過去15年間で半減する一方、定期的に教会に通う信者数は4倍化したという。同氏によれば、ロシア国民の約62%がロシア正教徒、7%がイスラム教徒、1%強が他宗派の信者だ。「自分は無神論者だ」と認識している国民は15%。そして、14%の国民が具体的な宗派には所属していないが、創造主としての「神」を信じている。定期的に礼拝に参加している人は9%だ。冷戦終焉直後、「ロシア軍兵士の約25%が神を信じている」という意識調査が明らかになったことがある。

 なお、プーチン大統領のバチカン訪問は今回で4回目だ。旧ソ連共産党出身でKGB幹部だったプーチン大統領はロシア指導者の中でもバチカン詣での回数は圧倒的に多い。プーチン氏は案外、自身も認めているように、敬虔な正教徒かもしれない。

キエフが示したEUの本当の実力

 ウクライナのヤヌコヴィチ大統領がオーストリアを公式訪問中、キエフから「同国政府が欧州連合(EU)との間で締結予定だった連合協定の署名を延期する決定を下した」というニュースが飛び込んできた。ホスト国でEU加盟国のオーストリア側もビックリ。フッシャー大統領はヤヌコヴィチ大統領と再度の会見を申し込むなど、ウクライナ側の真意の掌握に乗り出したほどだ。

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▲オーストリアのシュビンデルエッガー外相と握手するウクライナのヤヌコヴィチ大統領(左)(2013年11月22日、ウィーンの外務省で、オーストリア外務省提供)

 ヤヌコヴィチ大統領は先月、議会がEUとの自由貿易協定(FTA)を核とした連合協定の署名を決めたならばティモシェンコ前首相を治療目的で出国させる意向を表明していたが、同国議会は21日、収監中の前首相の釈放法案を否決した。キエフの決定にブリュッセル側も少なからずのショックを受けている。

 連合協定はウクライナをEU市場に開放し、将来の加盟を視野に入れた一歩と受け取られ、経済停滞するウクライナにとっては国民経済の命運をかけた路線決定と考えられてきた。一方、ロシア側は「EU路線を決定すれば、ウクライナはロシアのガスに対して高価格(1000立法メートル、420ドル)を支払わなければならない。そのうえ、対ロシア貿易を制限する」と警告を発してきた。それだけに、キエフ政府の決定はウクライナが旧ソ連の盟主ロシアの圧力に屈したと解釈されている。対シリア内戦問題でオバマ米政権に恥をかかせたプーチン大統領の‘第2の外交勝利‘と報じるメディアもあるほどだ。

 ウクライナ側にとってEU接近は重要だが、その成果は短期間では期待できないことは確かだ。ウクライナの商品の競争力向上、経済機構の改造が先決だ。それらを解決すれば、長期的には国民経済の発展は期待できる。一方、対ロシア関係は、冬を控えガス供給問題、大きな比重を占める対ロシア貿易など現実の問題だ。ロシアの機嫌を害することはできない。

 その上、2015年に再選出馬するヤヌコヴィチ大統領は、政敵ティモシェンコ前首相の出国をどうしても阻止したいという事情がEU接近延期という背後にあったはずだ。ヤヌコヴィチ大統領は結局、ロシアとの関係を享受するほうが長期的メリット(EU接近)を模索するより重要と考えたのだろう。どの国でも選挙を控えた政治家は長期的な利点より短期的なメリットを選ぶ。キエフ側は今後、ロシア、カザフスタン、ベラルーシと関税同盟に加盟する路線を選ぶことになるだろう。なお、ウクライナの野党や国民からは「4600万人の国民の未来を奪った」と政府の決定を厳しく批判する声が出ている。

 オーストリア日刊紙プレッセ(23日付)はロシア議会の国際問題委員会のアレクセイ・プシュコフ委員長(Alexej Puschkow)との会見記事を掲載したが、そこで同委員長は「欧州側はウクライナの主権を蹂躙するような条件をキエフに強いてきた。その上、ティモシェンコ前首相を治療目的で出国させるように圧力をかけてきた。ロシアはキエフの主権を常に尊重してきた。同時に、EUはここ数年、ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの財政危機に直面し、ブリュッセルの財政力は明らかに弱体してきた。キエフ側はEUに接近しても十分な財政支援は期待できないと考えても不思議ではない」と述べている。

 いずれにしても、ウクライナの対EU接近延期決定は、EUの経済力・政治力の弱体化を図らずも露呈する結果となったことは間違いないだろう。

 

ダーティ爆弾が炸裂した時

 国際原子力機関(IAEA)の報道用広報によると、「IAEAは20日から2日間、モロッコでダーティ爆弾(dirty bomb) が炸裂したという想定で緊急演習を行う。同演習には58か国と10の国際機関が参加。コード名はBab Al Maghribと呼ばれ、モロッコ当局が演習のシナリオを作成した」という。

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▲核関連物質の安全管理問題が急務(IAEA提供)

 今回は参加数と国際的規模からみてダーティ爆弾テロへの初の本格的な演習となる。これまで原子力発電所のテロ襲撃を想定してきたが、今回は放射性物質(核廃棄物)を利用したダーティ爆弾が炸裂した、というシナリオだ。

 ダーティ・ボムが爆発した時、どのように早期対応するか、核汚染対策と周辺住民の避難、国際社会の連携などを模擬演習する。IAEA加盟国は通常、自国の安全対策綱領に基づき行動を起こすが、IAEAが作成した操作マニュエルがそのたたき台となる。
 
 米国内多発テロ事件(2001年9月11日)後、国際テロ・グループの核テロの恐れが現実味を帯びてきたと指摘されてきたが、幸い、その懸念は今日まで現実とはならなかった。欧米テロ専門家たちは「高度の核関連技術と知識が必要な核テロを実施することはテロ・グループにとってもハードルが高すぎる。可能とすれば、ダーティ爆弾が考えられる。その被害は核テロと同様、深刻だ」とみている。
 
 IAEA本部で今年7月、核の安全問題に関する国際会議(閣僚級)が開催された。天野之弥事務局長は開会演説の中で「加盟国の努力で核関連施設、物質の管理は前進したが、ダーティ爆弾が破裂したり、核関連施設でサボタージュが生じた場合、その結果は破壊的だ。核テロの脅威はリアルだ。その脅威に対抗するために国際社会は核関連物質の安全管理強化に乗り出さなければならない」と述べている。

 原子力エネルギーの平和利用を標榜するIAEAの重要課題は「原発の安全性(Safety)」と共に「核の安全問題(Security)」だ。特に、後者では「核の不法取引に関するデータ」(ITDB)システムが構築されている。2013年6月末現在、ITDBには124カ国が加盟している。

 ITDBによれば、2013年6月末現在までに総計2407件の不法な核関連物質に絡んだ不祥事が報告されている。例えば、昨年7月1日から13年6月末までの過去1年間、加盟国から155件の不祥事が報告された。その内訳をみると、14件は不法な核関連物質の保持、売買、40件が核関連物質の喪失、窃盗事件だ。そのうち2件はカテゴリー1から3の放射性物質だ。残りの101件は「犯罪との関連性がなく」、多くは保管状況の問題だった。

 ちなみに、1個の核兵器製造のためには、90%以上の高濃度ウラン(HEU)25キロが必要だが、13年6月末までの報告期間、HEUが絡んだ不祥事は報告されていない。参考までに、イランが製造している濃縮20%ウラン(LEU)の場合、「潜在的兵器使用可」(IAEA関係者)と分類されている。プルトニウムの場合、1個の核兵器製造には約8キロが必要だ。
 国の管理する大量の核物質が不法取引される危険性は少ないが、皆無ではない。例えば、北朝鮮が核関連機材や情報以外に、核兵器用プルトニウムや高濃縮ウランを外貨獲得のために他国に売る可能性が考えられるからだ。

米共和党の救世主を見つけた!

 米共和党は目下、来年の中間選挙と次期大統領選(2016年)に勝利するための戦略を練っているが、有権者の支持率はもう一つ芳しくない。そこで党のイメージ・アップのため今売り出し中のローマ法王フランシスコから学べ、といった声が出てきた。イタリア通信社ANSAが19日、「ローマ法王が共和党の模範」というタイトルで報じた。

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▲米共和党が模範とするフランシスコ法王(2013年3月31日、独国営放送中継から )

 米国内の複数世論調査によれば、共和党は孤立し、不寛容であり、富者優先、貧者に対して同情心をもたない政党と受け取られてきたという。特に、草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」への反発は強い。同党は米財政協議と政府一部閉鎖の政治的責任が問われている。このままいけば、来年の中間選挙、16年大統領選挙は厳しい、といった判断が党内で強まっている。
 
 米共和党は白人男性の党というイメージが強すぎ、人口増大が著しいヒスパニック系のマイノリティーや黒人を引き付けることができなかったという反省から、マイノリティー、女性票をも引き付け得る戦略を検討中だ。そこで南米初のローマ法王フランシスコのカードが急浮上してきたというわけだ。

 米共和党が高く評価するフランシスコ法王のイメージとして、「率直」「人間性」そして「勇気」の3点が挙げられている。党の救世主として「フランシスコに倣え」というのだ。
ちなみに、米国のカトリック教徒数は、聖職者の未成年者への性的虐待問題にもかかわらず、南米出身のカトリック系移住者のお蔭で、増えている。もちろん、フランシスコ法王の人気は非常に高い。これも共和党にとって大きな魅力だ。

 参考までに、第113回米連邦議会に選出された上院議員(100議席)と下院議員(430議員、欠員5議席)の所属宗派図を見ると、最大グループは299議席を有するプロテスタント派で全体の約56・4%を占める(前回は307議席)。同派内の最大グループはバプテスト派の74議席(全体の約14%)、その次はメソジスト派47議席(8・9%)、長老派43議席(8・1%)となっている。一方、カトリック教会は上・下院で161議員で全議会の約30・4%、前回比で5人増加した。単一グループで見れば、カトリック教会が米連邦議会最大グループとなる。

 バチカン法王庁は新ミレ二アムを迎えた西暦2000年、世界の政治家の守護聖人にトーマス・モアを選出した。故ヨハネ・パウロ2世は当時、「世界が急激に発展する今日、政治家も理想像が必要だ。家庭を保護、青少年、老人、障害者など、弱者のために実行できる政治家が願われる」と説明、トーマス・モアこそ世界の政治家が追求しなければならない理想像だと主張したことがある。

 (モアは1478年、ロンドン生まれ。ヘンリー8世時代の大法官として活躍したが、ヘンリー8世が教会法に反して夫人との婚姻を無効宣言し、固有の教会を創設した時、反対。最終的には退官させられ、反逆罪として処刑された人物だ。人道主義者、法律家、外交官、政治家であったモアは、キリスト教という枠を越えて人々を魅了してきたといわれ、「モアはキリスト者としての信仰をどの生活分野でも見事に具現化して人生を送った」と評されている。「貧者の聖人」であり、地位や名誉から距離を置き、「国家の僕(しもべ)」として国家に忠実を尽くした一生を送ったことで知られている。モアが抱いてきた理想世界は1516年に著した「ユートピア」の中で描かれている)。

 米共和党は政治家の理想像トーマス・モアには全く関心を示さず、党のイメージ・アップのためにフランシスコ法王を選挙戦の御神輿に担ぎ出そうとしている。
 

おじいちゃんの話を聞きなさい

 一つの屋根の下で祖父母、親、子供の3世代が住むというケースは現在、ほとんど見られない。当方が住む欧州では、18歳になると子供たちはさっさと家から出ていき、自分の住処を探すケースが多い。3世代が一緒に住んでいる、といった知人、友人を知らない。

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▲朝のクリスト市場風景(2013年11月18日、ウィーン市内で撮影)

 ローマ法王フランシスコは「祖父母を大切にすべきだ。祖父母を尊敬しない国民は記憶を失うことであり、未来を失うことを意味する」と述べ、祖父母を尊敬すべきだと語っている。バチカン放送独語電子版が19日、ゲストハウスでの法王の朝拝の説教内容を報じた。
 フランシスコ法王は旧約聖書の外典「第2マカベア書」から話を引用し、「われわれも祖父母から多くのことを学ばなければならない」と述べ、自身の幼少時代を例に挙げている。

 聖職者の道を選択したフランシスコ法王にとってブエノスアイレスの幼少時代の思い出は、大きな力の源泉となっているのだろう。彼の説教では「家庭」がテーマとなることが多い。聖職者にとって、家庭は「教会」を意味する。同時に、聖職者の道を歩みだす前の両親の家庭だ。フランシスコ法王はイタリア移住者の家庭だった。そこでおじいちゃんからいろいろな話を聞いたのだろう。

 独週刊誌シュピーゲルは昨年、「べネディクト16世(前法王)にはバチカンは必要ではない。必要なのは小さな家庭だ。家庭は彼にとって聖なるものだ。彼の人生は常に家庭を捜し求めてきた」と指摘していた。べネディクト16世は父親を1959年に、母親を63年に失った後、実姉が約30年間、家事をやりくりした。教理省長官時代にはローマまで連れてきた姉が亡くなった時、法王は「世界は自分にとって更に空虚となった」とその伝記の中で綴っている。前法王にとっては、バイエルン州の実家の思い出が人間ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガーの心の拠り所だったのだ。

 ただし、べネディクト16世もフランシスコ法王も自身の家庭は築くことはできなかった。バチカン研究家のアンドレアス・エングリュシュ氏は「べネデイクト16世は『愛』について神学的に説明できるが、『愛』を享受し、それを教えることはできなかった」と厳しく述べている。ローマ法王が自身の家庭を築くことができれば、「愛」についてもっと多くの話ができるかもしれない。
 
 当方はおじいちゃんの話を聞くことができなかった。おばあちゃんから小遣いをもらった思い出しかない。おじいちゃん、お父さん、そしてその息子の3世代は歴史にとって小さな期間だが、立派な歴史の一齣だ。その一つでも欠けたならば、歴史は成り立たない。

 高齢化社会では、おじいちゃんやおばあちゃんの世話が大きな社会問題となっているが、祖父母が重要な歴史の継承者だという視点から、その看護・庇護問題を捉えていくことが大切だろう。

3人は本当にそのように語ったか

 韓国聯合ニュース日本語版は15日、「日本の安倍晋三首相が『「中国はとんでもない国だが、まだ理性的に外交ゲームができる。一方、韓国はただの愚かな国だ』と語った」と報じ、同首相を批判している。発言内容は週刊文春最新号が安倍首相の周辺人物の言葉として報じたものだが、その真偽は不明だ。

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▲中国共産党政権のチベット人弾圧を訴える亡命チベット人たち(2012年2月8日 ウィーン市内で撮影)

 19日には、韓国外交部の趙泰永報道官が、伊藤博文を暗殺した韓国独立運動家、安重根の石碑建立が中国で進められていることと関連し、「日本の菅義偉官房長官が安重根を犯罪者と呼んだ」と批判した。趙報道官は「安重根はわが国の独立と東洋の平和のために命を捧げた」と説明し、菅官房長官の「犯罪者」発言に遺憾の意を表明した。

 上記の2件は韓国と「正しい歴史認識」で対立する日本の政治家の発言だが、次は、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が19日、訪問先の日本でチベット仏教僧の焼身自殺事件について、「自分の最も大切な命を他の人のために投げ出し、世の中の不条理を問いかけた素晴らしい行為だ」と称えたという(産経新聞19日電子版)。

 当方は3人の発言を聞いて、その内容ではなく、その表現に少なからずショックを受けた。安倍首相が隣国を馬鹿呼ばわりしたとすれば、、隣国に対して礼が欠ける。ブロガーは許されたとしても、日本首相は隣国を馬鹿呼ばわりしてはならない。韓国側の言動がたとえ理性にかけ、馬鹿らしくても、日本の首相は相手に礼をつくす品位と度量を示すべきだ。同じレベルで誹謗合戦をすべきではない。われわれ国民はどのような状況下でも品位を保つ首相を誇りとするからだ。

 また、管官房長官の「犯罪者発言」も適当な表現ではない。日本国民から見たら、伊藤博文を暗殺した安重根は犯罪者だが、安重根の出身国・隣国では民族の英雄だ。国が違えば、テロリストも国家の英雄であり、英雄もテロリストになる。そんなことは管官房長官はご存知だろう。
 身近な例を挙げてみる。南アフリカのネルソン・マンデラ氏は反アパルトヘイト運動時代はテロリストだった。パレスチナのヤーセル・アラファト氏もイスラエル人からみれば憎きテロリストだったが、パレスチナ側からいえば、民族解放の英雄だ、といった具合だ。国が違えばその歴史的評価は180度異なる。安倍政権担当の官房長官は相手国を不必要に刺激する表現は避けるべきだった。

 宗教指導者のダライ・ラマ14世が焼身自殺を称賛したとすればやはり問題だ。命は与えられたものであり、それを自身で破壊することは宗教家である以上、どのような事情があっても認めるべきではない。それを「素晴らしい行為」と称賛したのだ。

 ただし、安倍首相、管官房長官、そしてダライ・ラマ14世の発言の背景を考えれば、それなりの事情はある。安倍首相は就任以来、隣国からは反日発言ばかり聞かされてきた。隣国を馬鹿呼ばわりしたくなる心情は分かる。管官房長官も同じだ。また、ダライ・ラマ師の発言の背後には、チベット文化を弾圧する中国共産党政権への怒りが溢れていたことだろう。

 政治家、宗教指導者といっても感情を抑えることは難しい。しかし、怒りや恨みから飛び出した言葉は怖い。自分だけではなく、相手にも取り返しのつかない傷を与える危険性があるからだ。指導者は、やはり、言葉を制すべきだ。
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