ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年08月

中東の「戦争と平和」

 米国は、化学兵器を使用したシリアのアサド政権への制裁として限定的な軍事攻撃を開始する意向といわれる。そこでシリア情勢を理解するために、欧米諸国の反応とロシアの狙い、軍事行動による中東地域への影響などをまとめてみた。

 アサド政権が今月21日、首都ダマスカス郊外で化学兵器を使用し、子供を含む数百人が犠牲となった。その遺体の写真は世界に大きな衝撃を投げかけた。「化学兵器使用はレッドライン(超えてはならない一線)だ」と警告してきたオバマ米政権は軍事制裁に乗り出さなけれならなくなった。
 ロシア側は「アサド政権の化学兵器使用説には不可解な点が多い」として、反体制派グループの使用すら示唆している。それに対し、「化学兵器の使用命令を下したのはアサド大統領ではなく、大統領の弟、ダマスカス防衛責任の第4師団の、マーヘル・アサド(Maher al Assads)司令官だ」という情報が流れている。


 オバマ政権は国連化学兵器調査団の分析結果を待って軍事攻撃の是非を決定すると表明してきたが、実際は「米国とイスラエル両国は、8月21日の化学兵器使用直後、調査済みで、アサド政権が使用したことを知っていた。しかし、軍事攻撃を出来るだけ回避したいオバマ政権は他の欧米諸国やロシアの出方を伺っていた」という情報がある。オバマ政権にとっては、イラク、アフガニスタンの戦地からようやく米軍撤退が実現した直後、新たなフロントを開きたくない、というのが本音だろう。しかし、フランスら欧州諸国からもアサド政権への制裁要求の声が高まるに至って、オバマ政権はシリアへの軍事行動をもはや回避できなくなったわけだ。

 アサド大統領は「米国がわが国を攻撃したら、大きな代価を支払わなければならなくなるだろう」と表明。シリアと密接な関係を持つイランの最高指導者ハメイ二師も「シリアへの軍事攻撃は中東全域に取り返しがつかない混乱をもたらす」と警告している。
 米軍らの軍事攻勢が始まれば、どのような影響と反応が出てくるかを考えてみたい。シリアは少数派アラウィー派が支配しているが、アラウィー派はシーア派から派生した宗派で、シーア派国のイランとは伝統的に関係が深い。だから、シリアが攻撃された場合、イランがさまざまなルートを駆使してシリア支援に乗り出すことは必至だ。テヘランは今日、シリアに武器、食料などを提供している。
 戦争が勃発すれば、イラン側の意向を組んで、レバノンのヒスボラ(シーア派イスラム主義武装組織)が動き出し、必要ならば宿敵イスラエルにミサイルを撃ち込むだろう。シリア戦争が起きれば、イスラエルは否応なく紛争に巻き込まれる恐れが出てくるわけだ。イスラエルはヒスボラに当然反撃するだろう。イランも静観していない。一方、トルコにはクルド系難民が殺到し、最大少数民族クルド人を国内に抱えるトルコの政情も不安定となる。アラブの盟主サウジアラビアはこの機会にアサド政権の崩壊を画策し、豊富な資金を反体制派に流していることは周知の事実だ。

 これまでアサド政権を支援してきたロシアはどのような動きを見せるだろうか。米国は地中海に巡航ミサイル搭載の軍駆逐艦4隻を派遣済みだが、インタファクス通信によると、ロシアは数日内に地対潜艦とミサイル巡洋艦の2隻を派遣すると表明し、米国をけん制している。リビアを失った現在、ロシアにとってシリアは唯一の中東での同盟国だ。シリアはロシア製武器の最大の買い手という事実がある。シリアを失えば、ロシアは中東での拠点を完全に失うため、アサド政権の維持に腐心する。しかし、国連安保理で拒否権を行使しても、米国は制裁を中止する考えはない。化学兵器使用がアサド政権によると判明した場合、ロシアとしてはアサド政権をあからさまに支援できなくなる。いずれにしても、プーチン大統領が対シリアで切ることができるカードは限られている。もちろん、ロシアは米国と正面衝突する考えはないはずだ。ソチ冬季五輪大会の開催を来年に控えている。シリア問題で深入りして怪我でもすれば、米国ら欧米諸国の参加ボイコットも考えられる。ロシアはそのようなリスクを払う考えはないだろう。

 米軍らの対シリア攻撃が短期間で終了するかは不明だ。ワシントンが願っているように迅速に解決できる保証はない。ましてや、アサド政権崩壊後のシナリオはまったく描くことができない状況だ。
 興味深いことは、エジプトで軍とムスリム同胞団過激派間の衝突が急速に収まった直後、しばらく静まっていたシリアの内戦が激化したことだ。その背後に、同胞団内のイスラム過激派がエジプトからシリアにフロントを移動させた兆候が見られる。

「自由」にブレーキが必要か


  欧米社会では「自由」が溢れている。その「自由」が少しでも制限されようとすれば、抗議の声が挙がる。最近では、米中央情報局(CIA)元技術助手のエドワード・スノーデン氏(30)が米国家安全保障局(NSA)の情報収集活動の実情を暴露した時、「個人の情報」への当局の干渉に抗議の声が挙がった。「個人の自由」への制限と受け取られるからだ。また、同性愛者の「婚姻の権利」から「養子権」まで認知する動きが急速に広がっている。欧米社会で同性愛者の権利を制限しようとすれば、「人権の蹂躙」、「個人の自由」への干渉として激しい批判を受ける。興味深い点は、旧ソ連時代に共産党独裁政治を体験したロシアだけが「同性愛者の権利」を一蹴し、「個人の自由」の制限といった類の批判に対して余り動揺しないことだ。

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▲「自由と平等と博愛」を表現するフランス国旗

 「個人の自由」を制限した旧ソ連共産党を称賛するつもりはさらさらない。ここでは「自由」は制限されるべきか、ということについて考えてみたい。

 フランスの国旗は青・白・赤の3色で、「自由・平等・ 博愛」を意味するといわれる。フランス国旗は1794年に制定されたが、同国の建国者たちが3つの色に託した理想の中で「自由」だけが実現されたといわれるほど、「自由」は現在、欧州社会ではその力を遺憾なく発揮している。だから、その「自由」は制限されるべきだ、と主張すれば、批判を受けることは必至だが、当方は「自由は制限されるべきだ」と考えている。



 社会の犯罪から国家間の紛争まで、人間が織りなす様々な出来事、不祥事は人間がその自由を正しく行使できない結果から起因することは明らかだ。一人(一国)の自由と他者(他国)の自由との相克でもある。
 一方、国家は社会の安定を維持するために法によって人間の自由を制限する。「法は最低の道徳」と言われるが、その法も次第に自由の制限を良しとしない人々の攻撃にさらされてきた。これが現代社会の現状だろう。

 「表現の自由」、「言論の自由」などを含む「人間の自由」が無条件で容認されるためには、その自由を享受する人間が完全な人格者でなければならない。「自由」を駆使できる知・情・意の持ち主でなければならない。しかし、この前提に合致する人間は残念ながらこの地上にはいないだろう。だから、暴走しだした「自由」にブレーキが必要となってくる。


 例えば、芸術家の「表現の自由」が他者に不快感をもたらす場合を考えてみよう。この場合、共同体の責任者が「表現の自由」と「不快感」の間で調整に乗り出さなければならない。一方の自由が相手の自由を阻害してもいいということはないからだ。

 あれもこれも、人間が自由を完全に駆使できる資格も能力も有していないからだ。わたしたちは自由の問題では謙虚になる必要があるだろう。関係存在の人間は他者との共同体社会で生きている以上、自由の制限は不可欠だ。
 ひょっとしたら、フランスの建国者たちが掲げた「平等」と「博愛」の理想が実現された暁には、「自由」の制限はなくなるかもしれない。
 

IAEA担当イラン大使の「離任」

 国際原子力機関(IAEA)を取材するメディア関係者でこの人の名前を知らない者はいないだろう。定例理事会が開催される度にその人の名前はプリント・メディアの紙面やTVの画面を飾る。‘最も著名なイラン外交官‘といわれてきたIAEA担当のアリ・アスガル・ソルタニエ大使だ。今月末、テヘランに戻る。

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▲今月末、離任するイランのソルタニエ大使(2008年10月、駐オーストリアのイラン大使館内で撮影)

 当方は27日午後、ウィーンの国連内で同大使と会い、これまでの交流に感謝した。大使は笑いながら、「君はいいジャーナリストだよ」と、珍しくお世辞をいいながら、「機会があればまた会いたいね」と語った。
 「大使、テヘランの新しいミッションは何ですか」というと、「ひょっとしたら、私の妻が内相に任命され、それを支える立場かな」と冗談をいい、いつものように質問をぼかした。
 

 当方は2008年10月30日、ソルタニエ大使とウィーンのイラン大使館で単独会見をしたことがある。当方は大使と結構いい関係を維持していた。イラン大使の公邸で開かれる祝賀会にもよく招待状を貰ったものだ。

 しかし、「あの日」から関係は急速に冷えていった。北朝鮮の最高指導者・金正日労働党総書記が2011年12月に急死、駐オーストリアの北朝鮮大使館(金光燮大使、金正日労働党総書記の義弟)で同月20日午後、駐ウィーンの外交団の弔問が始まった。当方は北大使館前に待機し、欧米の大使館からどのような人物が弔問の記帳にくるかを見守っていた。

 最初に北大使館前に駐車した外交官車が何とイランのソルタニエ大使の車だったのだ。大使は当方が北大使館前にいるのを見つけると、不審な顔をしながら大使館内に入った。記帳後、出てくると、「君、こんなところで何をしているのか」と不愉快な表情を露わにしながら去っていった(ちなみに、その直後、国連工業開発機関(UNIDO)副事務局長の浦元義照氏が大使館内に入って記帳している)。

 それからだ。ソルタニエ大使は当方に対して警戒しだした。ひょっとしたら、北大使館関係者が当方のことを韓国の情報機関関係者だと大使に告げ口したのかもしれない。IAEAの理事会会場前で会っても挨拶を交すことがなくなった。当方はソルタニエ大使の変貌の背景についていろいろと考えた。
 その大使が離任直前、当方に対して笑顔をみせながら冗談までいってくれたのだ。当方も緊張していた気持ちがほぐされたような気分になった。

 大使は米国外交官も恐れるほどの弁舌家だ。その上、核物理学者だ。専門的な核問題となれば他の外交官ではついていけない。その大使がテヘランに帰国する。ロウハニ新大統領は前政権時代の強硬路線のイメージを払拭するためにソルタニエ大使を呼び戻したのではないか、とウィーン外交関係者は見ている。同大使は近い将来、同国の核政策の上で重要な役割を担い、世界の表舞台に再び出てくるのは間違いないだろう。

 
 
 なお、同大使は5年前の当方との会見の中でイスラエル軍のイラン核施設空爆の危険性について言及し、「イスラエルがわが国の核施設へ軍事攻撃を加えれば、明らかに国連憲章違反だ。国連安保理は即、対応に乗り出すべきだ。イスラエルが軍事攻撃を掛けるならば、われわれはもちろん黙っていない。厳しい応答をする」と警告している。

「わかって下さい」

 因幡晃のヒット曲「わかって下さい」の一節に「涙で文字がにじんでいたなら、わかって下さい」という歌詞がある。久しぶりにその曲を聞き、新鮮な驚きと同時に一種の淋しさを感じた。

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▲当方のキーボード(2013年8月26日撮影)

 現代社会では手紙を書く習慣が次第になくなり、用件はメールで済ますケースが多くなった。そのようなIT社会で「涙で文字がにじんでいたならば……」といった手紙を受け取ることも書くこともほとんど無くなってきた。また、たとえ名文の書き手でも「涙で文字がにじんでいた」ような衝撃をキーボードの文字で表現することは難しいだろう。

 手紙をもらい、その内容に心を揺さぶられる、といった場面は昔、テレビのドラマや映画の世界だけではなく、日常生活でも見られた。しかし、コンピューターの前に座り、受信メールを読んでいて、そのような感動を受けるメールに出会うことは少なくなった。キーボードの文字となって現れた時、書き手の感情の半分も伝わらないのではないか、と感じるほどだ。

 「涙で文字がにじんでいたなら、わかって下さい」という切ない心の叫びをどうしたらキーボード上で表現できるだろうか。キーボード上を探しても、そのような機能のボタンはない。

 IT社会が席巻し、人は相手に用件を伝える時、キーボードを叩く。明日、いつ、どこで会おう、といった類の内容の場合、キーボードはその能力をフルに発揮してくれる。正確に、そして不必要な誤解を回避してくれる。しかし、心の世界を伝えようと思った途端、キーボードはその無能力さを暴露する。キーボード上の文字は限られている。キーボードの文字の隙間から肝心の伝えたい内容が消えてしまう。そして個性のない文字が連発される。



 キーボードの文字は筆やボールペンで書くよりも早く現れる、例えば、「愛」という文字をキーボードで書く場合、瞬間で現れる。速いということは事務仕事では大きなメリットだが、心の世界を表現する場合、決してそうとは言えない。スーパー・コンピューターの計算能力はその速度が求められるが、心の世界の表現では速度ではなく、心情が煮詰まるまで一定の時間が欠かせられないからだ。換言すれば、キーボードの文字は余りにも早く現れるので、その文字の内容がその速さについてこれない。その結果、意味を失った文字が多く生まれてくるのだ。
 キーボードの文字を打ち続けていると、書く速度は早くなっていくが、心の世界を表現する能力は次第に衰退していくのではないか、といった不安を感じる。


 「これから淋しい秋です。時折手紙を書きます。涙で文字がにじんでいたなら、わかって下さい」……因幡晃が歌っていた時代が懐かしい。

国連の潘基文事務総長の「悪い癖」

 産経新聞電子版を読んでいると、「韓国を訪問中の国連の潘基文事務総長は26日、ソウルの韓国外務省で記者会見し、歴史認識問題をめぐり日本と中韓との対立が深刻化していることについて『日本政府と政治指導者は自らを深く顧みて、国際的な未来を見通すビジョンを持つことが必要だ』と述べ、日本政府に注文を付けた」という記事があった。
 世界190カ国以上の加盟国から構成されている国連の事務畑のトップ、国連事務総長が日韓の「正しい歴史認識」問題で一方的な見解を表明すること自体、極めて異例なことだ。韓国に帰国中の発言であり、事務総長もついつい心が緩んだのではないか、といった憶測もできるが、事務総長には昔から「悪い癖」があった。日韓問題になると、自分の立場を忘れて感情に走ってしまうのだ。

 潘基文事務総長が韓国の外交通商相時代の2005年、ブリュッセルの欧州議会を訪問し、その直後の記者会見で「欧州議会も小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝を批判した」と発表したのだ。当時の韓国通信社の報道によれば、潘基文外相は欧州議員との会談後、「第2次世界大戦参戦国として日本軍の犠牲となった経験をもつ欧州の国民の視点から見ると、靖国神社参拝は受け入れられないという意見が多かった」と報告、「靖国参拝を問題化するのは韓国と中国だけ」といった麻生太郎外相(当時)の発言を一蹴している。

 当方は当時、同相の発言の真偽を確認するため、北朝鮮を公式訪問(同年7月)した欧州連合(EU)の欧州議会朝鮮半島外交協議団団長のウルズラ・シュテンゼル欧州議会議員に電話をかけ、同外相の発言について聞いた。
 同議員は、「韓国の潘外相との会談は非公式な性格のものだった。日本首相の靖国神社参拝が議題であったわけでもない。1人の記者が質問したので、欧州議員の誰かが答えただけに過ぎない。欧州議会が小泉首相の靖国神社訪問を正式に批判したという発言は過剰な表現であり、事実とは異なっている」と答えたのだ。すなわち、韓国外相の発言は政治的意図を含んだ一方的な解釈であり、事実ではなかったことが明らかになったわけだ。


 一国の外相の立場にありながら、日本との「正しい歴史認識」問題では事実を正しく報告せず、国内世論に迎合する虚偽発言を平気でできるのだ。残念ながら、国連事務総長になってもその「悪い癖」は治っていない。その意味で、事務総長の韓国での問題発言は驚くに値しないわけだ。
 未来志向的な隣国関係を提唱してきた李明博前大統領が任期満期間際に突然、竹島を訪問し、醜態を示したように、韓国の政治家、外交官には日本との問題となると途端に自制心を失い、感情に走る「悪い癖」がある。国連事務総長はその代表的な人物だ。

新大統領はイランのゴルバチョフ?

 イランからさまざまなシグナルが流れてくる。ハサン・ロウハニ師(64)が今月4日、新大統領に就任して以来、マフムード・アフマディネジャド前大統領時代の強硬路線から欧米対話路線に路線が修正されるのではないかと期待されている。

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▲ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)本部

 中東問題専門家アミール・ベアティ氏は「ロウハニ師の最大課題は国際制裁の緩和を実現することだ。ロウハニ師は大統領選でも国際制裁の緩和を実現して国民経済の活性化を公約してきた。欧米社会にイランから新しい風が吹いてきたという印象を与えようと腐心するだろう」と指摘した。欧米のメディアの中には、「ロウハニ師はひょっとしたらイランのゴルバチョフと呼ばれるようになるかもしれない」と予想する論調もみられる。

 国連の対イラン制裁下で同国の国民経済は停滞してきた。国民の平均年齢が30歳以下の同国では若い国民の間に国の将来を悲観する声が高まってきている。原油輸出国のイランでガソリン不足が深刻であり、日常消費財の不足も目立つ。

 べアティ氏は「ゴルバチョフはソ連システムの抜本的な改革を目指した政治家だ。ロウハニ師はイラン全般の改革を実施するというより、前政権時代に険悪化した欧米諸国との対話復活に重点を置いてくるだろう。その意味で“イランのゴルバチョフ”呼ばわりは少々、過大な期待かもしれない」と指摘した。

 ロウハニ師は聖職者出身だから聖職者組織を熟知している。同時に、元核問題交渉責任者(2003〜5年)でもあったから、核問題の現状にも精通している。その意味で、聖職者組織と具体的な政務に長けたロウハニ師は、「文明間の対話」を提唱して一時期欧米諸国からも期待されて大統領に就任した聖職者出身のハタミ師とは明らかに異なる。

 ちなみに、ロウハニ師は自国の核開発計画について「主権国家の権利であり、ウラン濃縮関連活動を停止する考えはない」と既に表明し、対話に応じるが、主権の権利を譲歩する考えのないことを主張している。

 なお、IAEAは9月9日から定例理事会と年次総会を開催する。ロウハニ新大統領のもとイラン代表がどのような核政策を示すか、注目される。



【短信】

「人魚姫」のブロンズ像100年目を迎える

 デンマークの代表的童話作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの「人魚姫」の話は皆さんもよくご存じだろう。人間の王子を恋した人魚姫の悲しい話だ。海の泡となって消えた人魚姫のブロンズ像はコペンハーゲン湾の岩の上で横たわっている。そのブロンズ像は1913年、彫刻家エドヴァルト・エリクセンによって制作され、今月23日で100年目を迎えた。人魚姫像は今ではコペンハーゲンのシンボルであり、世界から多くの旅行者が訪ねてくる。ちなみに、人魚姫の運命のように、そのブロンズ像も過去、首や手が切断されるなど試練を受けてきたという。


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▲コペンハーゲン湾の「人魚姫」のブロンズ像(2012年8月、コペンハーゲンで撮影)

「神話の復活」

 前ローマ法王ベネディクト16世は2月の法王辞任表明の背後について、「神が退位するように言われたからだ」と初めて明らかにしたという。カトリック系ニュース通信社「Zenit」(ゼニット)がベネディクト16世を訪れたゲスト(匿名)から聞いた話として報じた。

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▲サン・ピエトロ大聖堂の頂点に雷が落下(バチカン放送独語電子版から)

 報道によると、「神が前法王の心に直接話しかけてきた」というのだ。前法王はその願いに従い、法王職の生前退位を決定したというのだ。「一種の‘神秘的体験‘だ」と解釈を付けている。べネディクト前法王は、後継者フランシスコ法王のカリスマ性と教会の現状を見て、「自分の退位表明が神の願いだったことが一層明確になった」と語ったという。

 
 興味深い事実は、719年ぶりのローマ法王の生前退位表明前後に神秘的な現象が見られることだ。例えば、べネディクト16世が今年2月11日、退位表明した直後、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂の頂点に雷が落ちるという出来事があった。イタリア通信ANSAの写真記者が雷の落ちた瞬間を撮影している。イタリアのメディアは一斉に「神からの徴(しるし)か」と報じたほどだ。

 また、聖マラキはべネディクト16世がローマ・カトリック教会の最後の法王と預言している。聖マラキは1094年、現北アイルランド生まれのカトリック教会聖職者で預言能力があった。彼は「全ての法王に関する大司教聖マラキの預言」の中で1143年に即位したローマ法王ケレスティヌス2世以降の112人(扱いによっては111人)のローマ法王を預言している。そして最後の法王は生前退位したベネディクト16世だったのだ。
 聖マラキはベネディクト16世について「極限の迫害の中で着座するだろう。ローマ人ペテロ、彼は様々な苦難の中で羊たちを司牧するだろう。そして、7つの丘の町は崩壊し、恐るべき審判が人々に下る、終わり」と預言した。実際、前法王は就任中、聖職者の未成年者への性的虐待事件の発覚、バチカン銀行の不祥事、法王執務室からバチカン内部機密が外部に流出した通称バチリークス事件など多くの難問に直面し、その対応に苦慮したことはまだ記憶に新しい。

 
 ベネディクト16世自身は当時、「私の辞任表明はペテロの後継者としてその職務が完全には履行できなくなったからだ」と説明し、健康問題が退位の主因と強調していた。ゼニットの報道が事実とすれば、前法王は神の声に従って退位したことになる。神がモーセに語り掛けたように、神はべネディクト16世にメッセージを発信し、退位を促したわけだ。「神話の復活」だ。

 
 なお、前法王は現在、バチカン内の修道院Mater Ecclesiae修道院で生活している。退位後は、8年間の激務の疲れを癒すと共に、読書やピアノ演奏、瞑想の日々を送っている。同16世は「現法王の職務の支障とならないように目立たないように生きていく」という。

意図的に演出された「殉教」シーン

 ウィーン市内で21日、オーストリアに居住するエジプトのコプト正教会関係者の記者会見が開かれたので出かけた。オーストリア全土に約4600人のコプト正教徒が住んでいる。エジプトでは人口の約10%がコプト正教徒で、同国最大の少数宗派だ。

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▲コプト正教会関係者のウィーンでの記者会見(2013年8月21日)

 記者会見の最初のテーマは「エジプト軍のモルシ大統領解任は軍クーデターか」だ。コプト正教徒代表は「モルシ大統領の解任は軍クーデターの定義に該当しない。軍クーデターは軍指導部が極秘に準備し、履行されるものだが、エジプトでは大統領解任前に200万人以上の国民が反政府デモをし、軍も政権に48時間の退任猶予期間を与えていた」と説明し、「エジプト国民は軍の行動を支持している。国民はモルシ政権に希望をもっていたが、モルシ大統領は偽善者だった」と指摘した。ちなみに、エジプトのコプト正教会の最高指導者タワドロス2世は先日、軍と暫定政権を支持表明している。

 コプト代表は「ムスリム同砲団過激派がメンバーたちに殉教を呼びかけ、デモや殉教シーンを演出している」というのだ。

 ビデオで子供の死体が映された。「同胞団過激派はエジプト軍の射殺で殺されたと主張し、そのビデオをメディア関係者に流したが、映っている子供はシリアの内戦で亡くなった子供だったことがビデオの分析結果で判明した」という。

 次に、イスラム寺院の祈祷集会で突然、白い煙が出てきたシーンが映ったビデオが披露された。カタールの衛星放送アルジャジーラが「軍が集会中のイスラム信者たちに催涙ガスを投げ込んだ」と報道したシーンだ。実際は、催涙弾ガスではなく、単なる煙だった。「過激派がわざと煙を出し、それをアルジャジーラ放送が撮影したのだ」と説明。コプト派正教徒によると、「アルジャジーラ放送はムスリム同胞団の完全な広報担当となっている」という。そして「ムスリム同胞団はコプト派教会を襲撃し、イスラム教徒とキリスト教徒の対立を煽っている」と指摘した。

 
 コプト代表は「メディア関係者は軍がムスリム同胞団メンバーを虐殺していると批判するが、事実ではない。過激派は殉教シーンを演出し、欧米社会に流しているのだ」と強調し、欧米メディア関係者に客観的な報道を要求した。

 その上で、「ムスリム同胞団は欧米の民主主義を否定し、神の国建設を至上目的に暗躍している。同胞団は決してエジプトだけではない。ハマス、アルカイダなど世界のイスラム過激派グループの母体であり、メンバーたちに神の国建設の為に殉教を強いる国際テロ組織であることを忘れてはならない」と警告を発した。

男たちがその「肉体」を披露する時

 男は度胸で勝負すると思っていたが、最近はどうやらそうでもないらしい。というのは、男たちが上半身を裸になって人前やカメラの前に立つケースが増えてきたからだ。

 例えば、オーストリアのメトロ新聞ホイッテは月曜日から金曜日まで発行しているが、3頁目には女性モデルの写真が掲載されている。しかし、毎水曜日には若い男性モデルの写真が載るなど、この世界でも男女同権が急速に進んでいる。

 男性の上半身裸ブームのパイオニアはなんといってもプロ・サッカーのデビッド・ベッカム選手だろう。下着の宣伝では鍛え上げてきた上半身を見せている。それを追ってレアル・マドリード所属のクリスティアーノ・ロナウド選手が登場してきた。スポーツ界以外では、最近ではモナコ国王のアルベール2世まで上半身裸の姿を撮らせているが、裸ラッシュはここにきて政治家にも波及してきたのだ。

 オーストリアでは来月29日、5年ぶりに連邦議会選挙が実施されるが、野党第1党の極右政党「自由党」のシュトラ―ヒェ党首は最近、夏期休暇先でパンツ一枚の姿を紹介したばかりだ。その前には、新党を結成した実業家のフランク・シュトローナハ氏も80歳の高齢にもかかわらず、上半身を裸になった姿をメディア関係者に披露している。
 政治家たちがなぜ競って裸になるのか分からない。気候の不順で政治家の知性が可笑しくなったか。それとも上半身フリーは女性有権者の票獲得を狙ったセックス・アピールのつもりだろうか。

 上半身フリーといえば、ロシアのプーチン大統領を直ぐに思い出す読者も多いだろう。柔道5段の大統領が、機会ある度に上半身を見せる。ロシア政治家の伝統ではない。プーチン大統領だけに見られる性向だ。大国時代の母国回顧への屈折した表現だろうか、それとも単なるナルシストに過ぎないのだろうか。

 欧州では政治家の信頼度、人気度は他の職業分野と比較しても悪い。汚職と腐敗といったスキャンダルが尽きないこともある。そこで政治家はパンツまでは降ろせないが、上半身を裸になって「何も隠してはいません」とクリーンさをアピールしたいのだろうか。

 政治家は昔はその政策と品性、知性が勝負だった。少しぐらいお腹が出ていても有権者の票が減る心配はなかった。しかし、ここにきて、知性と品性だけでは有権者に十分アピールできなくなったのだろうか。それとも現代は“肉体の時代”で、少々お馬鹿さんでも肉体美があれば生きていけるご時世となったのだろうか、等いろいろな憶測が湧いてくる。

 オーストリア政治家の上半身裸ブーム、そしての肉体美に拘るプーチン大統領の言動をみていると、「肉体」が「精神」を凌駕する社会の行く末に漠然とした戸惑いと不安を覚える。男たちが度胸や知性を忘れ、その肉体を競って披露し出したのだ。

金正恩氏の訪中に期待すること

 北朝鮮最高指導者・金正恩第1書記の早期訪中の実現を期待している。北朝鮮の核実験後、険悪化したきた中朝関係の正常化を願うからではない。金正恩第1書記の訪中が「初めて」か、それとも第1書記就任前にも訪中し、当時の胡錦濤国家主席と会見していたのか、という問題に終止符を打つことができるかもしれないからだ。

 朝日新聞は2009年6月16日と18日の2回、1面で北最高指導者・金正日労働党総書記の後継者に決定したといわれていた3男・正雲氏(正恩第1書記)が同月10日頃、中国を極秘訪問し、胡錦濤中国国家主席と会談したと報じ、詳細な会見内容を掲載したことがあった。他紙は朝日の会見記事にショックを受けた事は言うまでもない。

 ところが、その直後、中国外務省側は「国家主席は金正恩氏と会見していない」と表明し、朝日の記事を全面否定した。すなわち、正恩氏の訪中記事と胡錦濤国家主席会見報道は朝日新聞の北京特派員(当時)の全くの作り話だったというのだ。

 当方も当時、知人の北朝鮮外交官に朝日の記事への感想を聞いた。知人は笑いながら、「クレージーだ」という。「どうしてそう思うのか」とその根拠を尋ねたら、「報道内容はわれわれの通常の思考では受け入れ難いからだ」と答えた。
 会見記事の情報源は金総書記に近い北の要人と中国駐在の北関係者と書いてあった。知人は「彼らは多分、朝日から金をもらったのだろう。金を貰った北関係者が作り話を提供したのではないか」と笑いながら説明した。一方、朝日新聞社は「正恩氏、国家元首と会見」の記事の誤報説に対して、これまで沈黙している。


 そこで金正恩氏が年内に訪中し、習近平国家主席と会見すれば、金正恩氏が以前も訪中し、当時の胡錦濤国家主席と会見していたかどうか、中朝両国の国営メディアを見れば自然に判明するのではないだろうか。これが当方の「金正恩氏の訪中期待」の本当の理由だ。

 金正恩氏が実際、09年6月、極秘に訪中し、胡錦濤国家主席と会見していたことが事実ならば、朝日新聞のスクープ報道を評価することにやぶさかではない。しかし、当時の会見記事が全くの作り話となれば、記事を書いた北京特派員の責任問題だけではなく、朝日新聞社も読者の前に謝罪表明をしなければならないだろう。
 その後、作り話の会見記事を報道した背景について、各分野の専門家から構成された委員会を設置し、じっくりと検証していただきたい。もちろん、検証内容は紙面上で逐次報告してもらいたい。

 朝日新聞は1950年9月27日の夕刊で日本共産党の伊藤律と会見したと報道したが、3日後、朝日新聞記者の作り話であったことが判明した。すなわち、朝日新聞には架空会見の前科がある。金正恩氏の訪中と中国国家主席会見記事が“第2の架空会見記事”と揶揄されないことを願うだけだ。
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