ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年07月

ラマダンはハマスの資金稼ぎの時

 イスラエルとパレスチナは29日、ワシントンの国務省で約3年ぶりに直接交渉を開始した。交渉期間は9か月間といわれているが、どのような成果をもたらすかは不透明だ。その一方、パレスチナのイスラム原理主義組織「ハマス」の動きが活発化してきた。

  欧州連合(EU)はハマスをテロ・グループに指定しているが、ハマスは欧州内、特に、オーストリアで活動資金を稼ぎ、トルコのハマス系企業、レバノンなどを経由して活動資金や資材購入に当てているという(「ムスリム同胞団」は欧州ではドイツを拠点)。

 世界各地で毎年、パレスチナ人への救援物質や資金が集められているが、その正確な額は不明だが、巨額だ。特に、ハマスはラマダン期間(イスラム教の断食月)、信者たちから集まった献金を活動資金にしている。献金はパレスチナ支援団体「救援と開発の聖地基金」などの組織を通じて集められることもあるという。同基金はハマスと同様、テロ・グループのリストに挙げられている組織だ。
 
 中東問題専門家アミール・ベアティ氏は「ハマスはラマダン明けのイフタール(Iftar、断食明け後の食事)を悪用し、信者たちが捧げた物品や資金を獲得している」と指摘、ハマスのイフタールの政治的利用を批判しているほどだ。

 一方、オーストリア側はハマス関係者の動きを知っているが、「これまで取締りをしていない」という。そのため、ハマス関係者は当局からマークされる事もなく、自由に移動し、結社を創設、集会を開いている。
 当コラム欄で紹介したが、リビアのカダフィ大佐が生存していた時、同大佐はハマスに財政支援をしていたことは良く知られている。例えば、ガザ出身のイスラム教の教師イブラヒム師(Adnan Ibrahim)と弟(Naim Ibrahim)はカダフィ大佐の息子セイフ・アル・イスラム氏と共にウィーン市10区の不動産を管理・運営していた。  また、カダフィ大佐から受け取った資金は欧州全土のハマス系会社に流れているが、その役割を担っている人物はオーストリアのハマス責任者アデル・アブダラ・ドクマン氏だ。同氏の名前は米連邦捜査局(FBI)のテロリストの一覧に掲載されている。

 オーストリア当局の受身的な対応について、「第2次大戦のナチス・ドイツ軍の蛮行に関与したオーストリア側はその後、ユダヤ人に対して一切批判できない状況にある。オーストリア側がイスラエルを批判するハマスの活動を黙認するのは、抑えられてきた反ユダヤ主義感情の表現だ」と指摘する声も聞かれるほどだ。

サッカーW杯より大きなもの

 ローマ法王フランシスコは28日、ブラジルの首都リオデジャネイロのコパカバーナ海岸で第28回青年カトリック信者年次集会(ワールドユースデー)の最後の行事、日曜記念礼拝を挙行した後、1週間に及んだ法王最初の外遊を終え、ローマに戻った。

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▲コパカバーナ海岸で開催された法王の記念礼拝(バチカン放送独語電子版から)

 当方は28日午後、独バイエルン放送でフランシスコ法王の記念礼拝のライブ中継を追った。長い海岸線沿いに主催者側発表では約170か国から300万人余りの若者たちや信者たちが集まり、法王の記念ミサに参加した。
 記念礼拝は典礼に基づいて厳かに挙行されるというより、讃美歌や軽いポップ調の音楽を流しながら行われていた。カトリック教会の礼拝というより、プロテスタント教系の自由教会ミサといった雰囲気があった。音楽に合わせてダンスする信者や一緒に歌いだす若者たちなど見られた。ドイツから2000人余り、オーストリアから約540人の若者たちがリオの集会に参加したが、彼らは南米教会の陽気で賑やかなミサに少々驚いたことだろう。

 アルゼンチン出身のフランシスコ法王は若者たちに「パートタイマーのキリスト者はあり得ない。その教えを真摯に実践し、伝道しなければならない」と語り、若者たちに宣教師であれ、と呼びかけている。
 フランシスコ法王は前日も若者たちの前で、「時の流行に心を囚われるのではなく、美しい教会、良き世界、公平な社会を建設するために立ち上がるべきだ」と語り、「イエスはサッカーのワールドカップ(W杯)よりもっと大きなものを差し出している」と述べた。また、ブラジル国内で連日行われている反政府デモに対しても、「建設的な対話」を求め、暴力のない平和なデモをするように諭している。

 法王滞在期間中、雨が降り、会場を変更するなど、「組織的な運営では大変だった」という声が聞かれたが、「これがブラジルだ」ということかもしれない。トイレに行くのにも長い列ができた。南米信者たちは簡単に外で用を済ますが、欧州からの信者たちはトイレが空くまで忍耐強く待っている姿が見られたという。

 法王は22日、グアナバラ宮殿で開かれた歓迎祝典で、「若者たちは未来が訪れる窓だ」と述べ、青年たちに教会の未来を託した。明確な点は、ブラジル教会を含め南米教会はプロテスタント教会の攻勢の前に守勢を余儀なくされている。同性愛問題、性モラルなどでリベラルな教えを宣布するプロテスタント教会に対し、カトリック教会は従来の立場を繰り返すだけで、信者たちの心を捉えることができないでいる。
 ポップ歌手のスーパー・スターを迎えるように大歓迎した若者たちに、フランシスコ法王は「サッカーW杯より大きなもの」を提示できただろうか。近い将来、その答えは分かるだろう。

金正恩第1書記の不毛な投資

 韓国動乱(1950〜53年)の休戦協定締結から60年目に当たる27日、南北両国で記念行事が行われた。特に、同日を「戦勝記念日」と呼ぶ金正恩第1書記が率いる北朝鮮では盛大な軍事パレードやさまざまな行事が開かれた。

 韓国動乱ではどちらが最初に侵略を図ったかで南北間で「正しい歴史認識」がない。日韓米など国際社会では故金日成主席が中国の支援を期待して戦争を始めたが、北側は韓国軍の先制攻撃を戦争の主因として批判してきたことは周知の事実だ。

 当方は昔、駐オーストリアの北朝鮮大使館の若い外交官とどちらが戦争を仕掛けたかで激論したことがある。当方が「北側が侵略したことは明らかだ」と述べると、30歳半ばの若い外交官は「バカなことをいうな。南側が最初に侵略してきたのだ。そこでわが軍が応戦した」と反論してきた。当方は歴史的な背景や学者たちの見解などを簡単に説明した。
 「歴史は証明している。1950年6月、北軍は、南への一斉攻撃を始めて戦争が勃発した。その後、米国を中心とする国連軍と中国人民軍が参戦。53年7月に国連軍、北軍、中国軍が休戦協定を締結した」

 若い外交官の怒りは激しくなってきた。当方を軽蔑するような目つきで「お前は南側の洗脳を受けている。お前と話していても意味がない」というと大使館内に入っていった。その荒れ具合に当方も驚かされたものだ。

 
 韓国動乱で南北間の見解が異なっていることは知っていたが、北側は国民に徹底的に南側の戦争責任を教えているわけだ。普段は穏やかな会話ができる若い外交官が、韓国動乱(朝鮮戦争)問題になると人が変わったように声高らかに叫ぶ姿を見て、少々怖くなった(「北朝鮮書記官と『あの日』」2008年2月27日参考)。

 あれから5年の月日が経過した。金正日労働党総書記は死去し、その息子金正恩第1書記時代に入った。27日は「戦勝記念日」と呼ばれ、国を挙げて祝った。世界約30カ国に対し少なくとも140億ドルの対外債務を抱え、多くの国民が飢え苦しんでいる国が約1億5000万ドルの資金を投入してその日を祝った。その額は故金日成主席生誕100年目の祝賀会(2012年4月)の費用を大きく上回っている。不毛な投資といわざるを得ない。

「慰安婦像」設置計画は間違いだ

 韓国系団体が米国内で慰安婦像の設置を計画している。米在中の日本人社会からも強い反発が起きているという。そこで当方の見解を述べたい。慰安婦像の設置計画は間違いであり、慰安婦の心情を傷つけることになるだけだ。

 米カリフォルニア州ロサンゼルス近郊グレンデール市の公園に韓国系団体が従軍慰安婦像の設置を計画しているというニュースが流れてきた。韓国系団体によると、旧日本軍によって性的奴隷となったという通称・慰安婦問題を国際イシューとして世界にアピールするのが狙いだという。
 「正しい歴史認識」問題に関連するが、日本と韓国両国では慰安婦問題で意見が一致していない。そこで世界の大国・米国で日本の犯罪を訴えていこう、というわけだ。これは慰安婦問題を国際イシューにし、外圧に弱い日本側の謝罪を勝ち得ていこうという試みだが、方法論として決定的に間違っている。両国間の協議が容易でないから第3国の米国の影響を期待して問題の解決を図ることは、協議の相手国・日本側に対して無礼であり、品格のある国が取るべき手段ではない。米国にしても両国間の問題を持ち込まれて当惑するだけだ。ましてや、米国に日韓両国の「正しい歴史認識」の調停を期待すること自体、無理がある。

 第2の理由は、米国内で慰安婦像を設置することは慰安婦の痛みを癒すことになるか、という問いだ。「もし、あなたが慰安婦だったら、その痛みを象徴した像を外国の地に建立して世界にアピールするか」、「もし、あなたが慰安婦の父親であり、母親だったら、娘の悲しみを像にして異国の地で訴えたいか」という問いだ。明確な点は、慰安婦像の設置計画は元慰安婦たちから出たものではなく、慰安婦が体験した戦争の悲劇を継承した人々たちからの発想だという点だ。

 当方はこのコラム欄で「傷跡のない悲劇の継承者たち」(2013年5月22日)で以下のように書いた。
 「韓国や中国では、旧日本軍兵士から迫害され、弾圧された人以上に、その悲劇を継承した人の憎悪のほうがより激しい場合が少なくない。彼らの総身には日本軍兵士から受けた殴打の傷跡はないが、体に傷跡をもつ犠牲者以上に憎悪に燃えている。あたかも、今、体から血が流れているように。注意しなければならないことは、悲劇の継承者の反日感情は体験の裏づけのないものが多いことだ。だから、ある日、彼らは同じような蛮行を繰り返すことができる。一方、体に傷を抱える犠牲者は加害者の謝罪をいつかは受け入れようとするものだ。なぜならば、恨み、憎悪を抱えたままでは自身が幸福になれないと悟るからだ。彼らは過去の悲しい束縛から解放されるために、加害者の謝罪を受け入れようとする。それと好対照は悲劇の継承者だ。彼らは加害者の謝罪を受け入れない。なぜならば、謝罪を受け入れれば、その瞬間、自身のアイデンティティが消滅する、といった懸念を感じるからだ。彼らの加害者への憎悪、恨みは体験や傷によって裏づけされていないから、時間の経過とその必要性からさまざまな形態に変容できる」

 少々、厳しい指摘となるかもしれないが、米国で慰安婦像を設置しようとしている韓国系団体は反日感情の拘束から解放されない人々ではないか。「正しい歴史認識」を叫びながら、それと真摯に取り組むだけの意思力、熱意がない。あるのは憎悪だけだ。そこからは建設的な考えは期待できない。

 和解は「謝罪を求める側」と「それを受け入れる側」の合意がない限り、成立しない。日本側は心からの謝罪が必要だ。韓国側はそれを受け入れなければならない。なぜならば、韓国側には謝罪を受け入れる以外に他の選択肢がないからだ。さもなければ、憎悪の虜となるだけだ。それでは不幸だ。韓国側に多くを要求しているようで申し訳ないが、韓国に「国家の度量」を示して頂きたい。

米情報機関の欧州での成功例

 読者に少し過去に戻って頂く。オーストリアの首都ウィーン市7区には北朝鮮唯一の直営銀行「金星銀行」(ゴールデン・スター・バンク)が開業していたが、2004年6月末、北側が自主的に営業を中止し、閉鎖した。

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▲オーストリア軍情報機関とNASの協力問題を報じるプレッセ紙

 1982年に創設されて以来、北の対中東ミサイル輸出や偽造米紙幣などの不法活動の拠点となってきた同銀行は久しく米国から睨まれてきた。その銀行は創設22年で閉鎖に追い込まれたわけだが、その背後に米中央情報局(CIA)と米国家安全保障局(NAS)が関っていたことが改めて明らかになった。

 「金星銀行」は1982年、ウィーンに開業された。開業を支援したのはオーストリアのクライスキー社会党(現社民党)単独政権だった。同銀行には不法武器密輸や核関連機材取引に関与しているという疑惑が度々浮上したが、社会党政権の加護もあって、大きな政治問題とはならなかった。しかし、オーストリアで2000年2月、親米派の国民党主導のシュッセル政権が発足して以来、米国の「金星銀行」壊滅作戦が本格的に始まった。

 米国は01年以降、オーストリア政府に「金星銀行」の閉鎖を強く要請してきた。そこでオーストリア政府は財務省独立機関「金融市場監査」(FMA)に「金星銀行」の業務監視を実施させた。その一方、米財務省は、金星銀行のオーストリア主要取引銀行にも対北取引の停止を要求した。米国企業との銀行取引が停止されるのを恐れ、オーストリアの銀行側が自主的に「金星銀行」との取引を中止していった。
 そのため、「金星銀行」関係者は当時、「オーストリアの銀行がわが銀行との取引を中断したので、銀行業務が実施できなくなった」と嘆き、銀行業務の停止を余儀なくされていった。
 その背後には、NASとCIAの工作があった。NASは「金星銀行」が送信するFAXや電話通信の情報を掌握する一方、CIAは「金星銀行」の隣りに韓国系テコンドー道場を開き、24時間、銀行を監視していた。   
 「金星銀行」が閉鎖した直後、同テコンドー道場も姿を消した。何処に引越ししたのか、誰も知らない。CIAとNAS関係者は「金星銀行」の閉鎖を見届けると、任務は完了した、というわけだ。ハリウッドのスパイ映画を観るように、そのプロットの展開はスピーディだった。

 CIA元技術助手のエドワード・スノーデン氏の情報暴露で説明責任を強いられているCIAやNASは「過去、50件以上のテロ計画を壊滅させた」と説明し、理解を求めている。明らかな点は、両機関は北朝鮮の欧州工作拠点だった「金星銀行」の壊滅に深く関ってきたことだ。「金星銀行」を失った北はその後、欧州で不法な経済活動を実施できなくなっていった。

米国がウィーンで「金星銀行」を監視していたことはオーストリア側はもちろん知っていたし、米国側から関連情報を入手していたことはいうまでもない。オーストリア日刊紙プレッセは26日1面トップで同国の軍情報機関とNASが情報提携していたことを報じている。

 ちなみに、欧州で核関連物質を調達してきた北の核物理学者・尹浩鎮(ユン・ホジン、現在、南川江貿易会社責任者)氏のウィーンのアパートを盗聴していたのはワシントンから派遣されたCIAエージェントだったことを付け加えておく。

靖国神社参拝と「死者の権利」

 生前ナチ・ハンターと呼ばれ、戦後も逃亡したナチス軍指導者たちを執拗に追跡したサイモン・ヴィーゼンタール氏(1908年〜2005年)と2度ほど会ったことがある。どうしても聞いておきたいことがあった。「なぜ、戦争も終わったのにナチス軍幹部たちを追跡するのか。相手を許すという気持ちにはなれないのか」という質問だ。

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▲ウィーンの美しき青きドナウ河の風景(2013年4月26日撮影)

 ヴィーゼンタール氏は「生きている者が死人に代わって誰かを許すことはできるのか。許せるとすれば、それは死んだ人間だけができることだ」という。だから、逃亡するナチス指導者をとことん追跡して法の前にひっぱっていくのが自分の仕事だと説明した。同氏から「死者の権利」を学んだ。生きている人間は死んだ人間の権利を蹂躙してはならないということだ(「『憎しみ』と『忘却』」2007年8月26日参考)。

 あれから長い時間が経過した。当方は靖国神社の参拝問題について考えている。韓国と中国は「侵略戦争の手先となった人間が葬られている神社を日本の首相が参拝することは当時の戦争を美化するもので許されない」と批判する。中韓の主張に迎合するように、日本の一部メディアは参拝する日本の政治家を批判的に報道してきたのがこれまでの経緯だろう。

 当方は「誰も参拝を受ける死者の権利を奪うことはできない」と考えている。既に亡くなった人間の悲しみ、痛み、恨みを過小評価したり、ましてや批判できる権利を有している人はいるだろうか。「お前の死は犬死だ」と誹謗できるだろうか。「お前は戦争犯罪に関与した」といって、その死者を審判できるだろうか。

 生きている人間が死者に対して唯一出来ることは、死者の前には頭を垂れて祈ることだろう。韓国の独立の為に犠牲となった人物の前にも、日本軍の1兵士として若き命を散らした学徒兵に対しても同じだ。

 繰り返すが、「お前は日本軍の蛮行に関与したので価値のない死だ」、「お前は韓国の独立を叫んで死んだから、民族の誉れだ」といえるだろうか。死者の価値を審判できる人間は1人もいないのだ。
 
 死者は、生きていた時の国家とか、民族といった地上の‘衣‘を久しく捨て去っているのだ。1人の死者として地上の人間に暖かく思い出してもらえることを願っている。このささやかな死者の権利を政治的な思惑などで奪うべきではないだろう。

 数年前、「千の風になって」という歌が大ヒットした。その歌詞の中に「私はもうそこにはいません」という部分がある。その通りだ。墓や神社に死者は眠っていない。死者は時間と空間の束縛のない世界に住んでいる。生きている人間が亡くなった人を思い出す時、死者はそっと近づきその祈りに耳を傾ける。

 政治家の靖国神社参拝問題で日韓中の3カ国が騒がしくいがみ合うことは滑稽だ。どうか、生きている人間の権利を重視するように、死者の権利を尊重し、頭を下げて祈って欲しい。死んだ人間は祈る人間の真心に癒されるのであって、祈る人間が1国民(私的人間)なのか、総理大臣かは問題ではない。それに拘るのは生きている人間だけだ。

中国はいつも悪者ではない

 中国の反体制派メディア「大紀元」日本語版は17日、「ガーナ政府が15日、4592人の中国人を金塊の違法採掘で国外追放処分を行ったと発表した」と報じた。

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▲UNIDOのウイーン本部(2013年5月撮影)

 同紙によると、「西アフリカのガーナ共和国は、金の埋蔵量が豊富で、南アフリカに次ぐアフリカ第2位の金産出国だ。近年、金の価格が高騰しているため、一攫千金を狙う1万人以上の中国人が押し寄せて、金採掘を行なってきた。同国の法律は25エーカー以下の小型金鉱の採掘と運営への外国人の参与を禁じている。そういったなか、中国人の違法で環境に配慮しない採掘に対して、現地の人々の怒りが高まっていた。今回の取り締りでは、金の違法採掘容疑のある外国人を本国に送還し、採掘設備を没収・廃棄するとともに、現有の小型金鉱採掘証について再審査をする運びとなった」という。 

 アフリカ大陸には百万人以上の中国人が働いている。同時に、中国企業のアフリカ市場進出はさまざまなドラマを引き起こしている、ガーナの場合、中国人の不法活動だが、スーダンでは中国企業と提携したスーダン実業家がミリオネアーとなって幅を利かせている。その一方、「わが国には賄賂や買収といった慣習はなかったが、中国ビジネスマンが進出してきてスーダンでも定着し、商道徳は考えられないほど荒廃してきた」と負の現象も表面化してきた。

 そこで国連工業開発機関(UNIDO)のアフリカ担当のエキスパート、モハメット・エイシャ氏に中国のアフリカ進出について聞いてみた。
 スーダン出身の同氏は「賄賂や買収は西側企業も過去、アフリカ諸国で行ってきたことだ。中国ビジネスマンだけではない。中国の場合、投資する額と動員する労働者の数は桁外れに多いから目立つだけだ。英国やフランス企業はアフリカ企業家に甘い約束をするが、最終的には資源を獲得するだけで道路の整備、橋やインフラ完備などは一切やらなかった。その点、中国人は病院を作り、橋をつくり、道路を整備する。彼らは少なくとも約束を実行する」と指摘、「中国企業の悪者説」を否定した。

 このコラムでも紹介済みだが、エチオピアでは総額42億ドルをかけ青ナイル川に迂回ダム「グランド・ルネッサンス・ダム」が建設中だ。完成すると総発電量は6000メガワットになり、国内の電力需要を大きく上回る。そこで電力を輸出に回すという計画だ。そのダム建設の現場に中国人労働者が働いている。

 数回、訪日経験のある同氏は「中国のアフリカ進出は著しいが、日本企業にもまだチャンスはある。日本企業は賄賂とか不法な経済活動をしないことで知られている。遅すぎることはない。実際、国際協力機構(ジャイカ)はアフリカで貴重な活動をしている」と述べた。

 最後に、「中国は近い将来、中国人の事務局長が就任したUNIDOを通じて兆単位の対アフリカ・プロジェクトを発表するかもしれない。李勇新事務局長は中国では財務次官として巨額な予算を扱ってきた人物だ。李氏は数千万ドルのUNIDO予算を扱うためにウィーンに就任するのではないはずだ。中国は李事務局長を通じてアフリカ諸国の開発に巨額の投資を計画していても不思議ではない」と予想する。同氏によれば、中国は現在、日本、ドイツについてUNIDO3番目の分担金拠出国に台頭してきているという。

貧者の教会を救え

 ローマ法王フランシスコは22日夜、法王就任(3月)最初の外遊先(イタリア国内を除く)、ブラジルの首都リオデジャネイロに到着した。同地で開催される青年カトリック信者年次集会(ワールドユースデー)に参加するのが一応、訪問の主要目的だ。

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▲法王就任最初の外遊先、ブラジルのリオデジャネイロに到着したフランシスコ法王(バチカン放送独語電子版から)

 同集会には200万人以上の青年信者たちが世界各地から集まると予想されている。フランシスコ法王は同日夜、ブラジルのルセフ大統領らの歓迎を受けた。23日は休息日にあて、翌日(24日)から始まるマンモス集会に備える予定だ。

 英国のウィリアム王子夫妻のロイヤル・ベビー誕生ニュースがなければ、世界に12億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会の最高指導者、ローマ法王フランシスコの最初の外遊はひょっとしたら22日の最大の国際ニュースとなったかもしれない……バチカン法王庁関係者がこのように考えても不思議ではない。それほど、ローマ法王のブラジル訪問は本来、大きな意味ある出来事だ。その辺のことを少し説明したい。

  世界12億人の信者の約41%を抱える南米教会はカトリック教会の希望の大陸といわれる(長期的には中国も)。  ポーランド出身のヨハネ・パウロ2世が455年ぶりに非イタリア法王に選出された時、共産政権下の国民は熱狂的に歓迎した。同じように、南米出身の新法王誕生は現地の信者たちを勇気付けているだろう。

 「しかし、南米教会の現実は決して甘くない。南米教会で異変が生じているのだ。例えば、世界最大の信者数を誇るブラジル教会で急速に信者数が減少している。バチカン聖職者省によれば、ブラジルでは1991年、人口の83%がカトリック信者であったが、2007年、その割合は67%に急減した。1年間で平均人口の1%に相当する信者がカトリック教会から去っているのだ。この傾向が続けば、20年後には50%を割ってしまう。  
 南米教会の信者の急減はプロテスタント系教会の躍進が原因だ。形式や典礼に拘るカトリック教会の魅力が急速に失われてきたのだ。フランシスコ法王が南米発の法王だからブラジルを最初の外遊先に選んだのではない。南米教会が危ないからだ。バチカンは早急に対応しなければならない。
 前法王のべネディクト16世は2007年5月9日から14日までブラジルを訪問したが、その最大理由は信者の脱会傾向にストップをかけるためだった。しかし、その後も信者離れは続いている。  
 そこでバチカンは「南米出身のローマ法王就任」という最後の切り札を切ったのだ。法王選出会(コンクラーベ)がアルゼンチンのベルゴリオ枢機卿を法王に選出したのは、南米に進出してきたプロテスタント系新宗教への対策だったのだ。繰り返すが、コンクラーベに参加した枢機卿たちは、南米教会の枢機卿に法王庁の大改革を期待したのではなく、南米教会を守るために南米出身のローマ法王が必要と考えたからだ」

 当方はフランシスコ法王誕生直後のコラムの中で上記の内容を書いた。その趣旨は今も変わらない。フランシスコ法王の最大の使命は南米教会の救済にあるのだ。ワールド・ユースデーの参加はその直接の契機に過ぎない。法王はリオ到着直後にグアナバラ宮殿で開かれた歓迎祝典で、「私は金も銀も持ってていない。私にとって最も価値あるもの、イエスの福音を持参してきただけだ」と述べている。そして「若者たちは未来が訪れる窓だ」と述べ、青年たちに教会の未来を託している。南米初のローマ法王の凱旋訪問で南米教会を鼓舞したい、というのがバチカン関係者の偽りのない本音だろう。

 ブラジルでは社会の不均衡、貧富の差などが表面化し、反政府デモが頻繁に行われている。28日までの滞在中、フランシスコ法王は若者たちの期待にどのように答えるだろうか、注視していきたい。

 

米国は病気か

 米中央情報局(CIA)元技術助手のエドワード・スノーデン氏(30)がロシアに政治亡命を申請したことで先月23日から続いてきた同氏の亡命先騒動は一休みする。そこで少し早いがズノーデン氏の亡命騒動が明らかにした事実を忘れないためにまとめておきたい。

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▲NAS本部(NASのHPから)

 ズノーデン氏はモスクワの空港で20カ国以上に亡命申請を打診したが、いずれも「本人が入国してから申請しなければならない」という亡命申請規定を理由にやんわりと断られた。モスクワ訪問後、帰途に向かったボリビアのエボ・モラレス大統領が搭乗した大統領専用機がフランス、スペイン、ポルトガル、イタリアの4か国から上空通過を拒否されるというハプニングが生じた。4か国は米国からズノーデン氏がボリビア大統領機に搭乗している可能性があるという情報を入手、米国側の要請を受けボリビア大統領専用機の上空通過を禁止するという前代未聞の決定を下した。日頃、米国に厳しい姿勢を示す欧州諸国も米国の強い要請を受ければ、それを拒否できないと
いうことが改めて明らかになった。

 一方、ズノーデン氏の亡命申請を受けたロシアのプーチン大統領は「米国を批判する情報暴露など米国の国益を損害する行為をしないという条件ならば亡命を受け入れる意向がある」と示唆していたが、ここにきて「米国との関係はズノーデン問題より重要だ」と発言するなど、かなり揺れている。駐国連のロシア人記者は「半分は本音、半分は虚言だ」という。同記者によると、「ズノーデン氏を米国に引き渡したならば、ロシアン国民から“米国の圧力に屈した弱い大統領”という刻印を押され、そのイメージは永遠に同氏に付きまとうだろう。だから、プーチン氏はズノーデン氏を米国に引き渡すことは、絶対できない」という。
 上半身を裸になって強さをアピールするのがトレードマークのプーチン大統領をしてこの有様だ。米国を批判する南米3国もズノーデン氏がロシアに留まってくれてホッとしているかもしれない。ズノーデン氏を受け入れたならば、米国の厳しい経済制裁を回避できなくなるからだ。国民受けを狙った反米発言とリアル政治はまったく異なる。


 さて、米国はズノーデン氏騒動で何が明らかになったか。米国民の50%以上は依然、「安全を守るためには個人の自由の制限も致し方がない」という立場だ。2001年9月11日の米国内多発テロを体験した米国国民はそのショックを払拭できないでいる。
 

 米国はテロ対策という名目で国内ばかりか、外国の同盟国でも情報を収集していたことが明らかになった。同盟国からは当然、米国への批判の声が高まっている。それに対して、「これまで50件以上のテロ計画を暴露し、壊滅した」とその実績を上げ弁明している。

 米国の情報収取活動に苦情と修正を要求するためにメルケル独首相から米国に派遣されたハンス・フリードリヒ内相は米国家安全保障局(NSA)本部を視察、関係者と会談したが、米国にドイツ国民の不満を伝え、欧州での情報収集活動を停止を要求するどころが、「米国のお蔭でドイツ国内のテロ計画は過去、制止されたことがある」と述べ、米国の情報活動に一定の理解と評価を下しているほどだ。
 

 ところで、独週刊誌シュピーゲルのクラウス・ブリンクボイマー編集局次長は「米国の狂気」というタイトルのコラムの中で厳しい米国批判を展開させている。
 「2005年から今日までテロ事件のために死去した米国民は年平均23人だ。その大部分が外国で犠牲となっている。米国では,はしごから落ちて死亡する数はその15倍だ。米国は2001年以降、これまで8兆ドルをテロ対策に投資してきた。一方、米国内では年間3万人以上の国民が銃の犠牲となっている。子供の犠牲者数は他の先進諸国の平均13倍だ。銃事件が生じる度に大統領や議会は米国の銃保持問題を話題に挙げるが、事件の熱が冷めれば、元の木阿弥だ。また、米国は地球規模で大きな影響を与えている環境汚染問題に対してもその解決に取り組む熱意が欠如している」

 ズノーデン事件は米国が圧倒的な政治力と軍事力を有していることを端的に示した。その一方、米国はテロ後遺症に悩み、世界が直面している多くの諸問題に対して大国としてのリーダーショップを発揮できないでいる。
 「米国は病気だ」といった独週刊誌編集次長の発言は、「欧州知識人の典型的な反米主義」と一蹴するには余りにも深刻な問題を指摘している、と言わざるを得ない。

ミラーニューロンが示唆する世界

 独週刊誌シュピーゲル(7月15日号)を読んでいて驚いた。人間の頭脳にはミラーニューロン(独Spiegelneuronen)という神経系統が存在し、他者の行動を模写するだけではなく、その感情にも反応する機能があるという。

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▲独週刊誌シュピーゲルの表紙「同情の魔法」

 同誌はフローニンゲン大学医学部のクリスチャン・カイザース教授(アムステルダム神経学社会実験研究所所長)とインタビューしている。同教授は「頭脳の世界はわれわれが考えているように私的な世界ではなく、他者の言動の世界を映し出す世界だ」というのだ。すなわち、われわれの頭脳は自身の喜怒哀楽だけではなく、他者の喜怒哀楽に反応し、共感するという。その機能を担当しているのがミラーニューロンという神経系統だ。

 社会学では「人間は関係存在」とよく言う。人間は1人で存在するのではなく、他者との関係を通じて存在し、発展するという。ミラーニューロンの存在が判明したことで、人間は関係存在であり、社会的存在だということが最新の神経科学の研究を通じて実証されたわけだ。
 

 ミラーニューロンは1996年、イタリアのパルマ大学の頭脳研究者Giacomo Rizzolatti氏の研究チームが偶然にその存在を発見した。最初はサルの実験で判明し、後日、人間にもミラーニューロンが存在することが確認された。
 下前頭皮質と下頭頂皮質にその存在が判明している。学者たちの間では「神経科学分野における過去10年間で最も重要な発見」と評価する声もある。

 1人が欠伸すると、傍の人も欠伸が伝染する。また、悲しい映画を見ていて主人公の悲しみ、痛みに共感し、泣き出す人が出てくる。その共感、同情は、人間生来、備えているミラーニューロンの神経機能の働きによるわけだ。
 もちろん、その説に反するような犯罪事件、連続殺人事件が日々、起きている。それらを見ると、人間の野蛮性、非情を感じるが、それらはミラーニューロンの神経機能の欠陥と見ることができる。

 ミラーニューロンの機能が完全に解明されるまで学者たちの研究を持たなければならないが、人間に相手の喜怒哀楽に共鳴し、それを共有する神経系統が存在しているということは驚くべき発見だ。

 教授は「わたしたちは他人の苦悩を見ることに耐えられない。なぜならば、その苦悩が自身をも苦しめるからだ」と述べ、「わたしたちは個人形態で生存しているのではなく、ネットワークされた社会の構成体として生きている」と主張する。教授の話を聞いていると、人間の神秘さと素晴らしさを感じる。ミラーニューロンが示唆する世界は人間の尊厳さの裏付けともなるものだ。
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