ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年06月

【短信】「きよしこの夜」作曲者死後150年

 「きよしこの夜」(Stille Nacht! Heilige Nacht) のクリスマス・ソングの作曲者として世界的に有名なオーストリアのオルガン奏者、フランツ・クサーヴァー・グルーバーの死後150年目を迎え、ザルツブルク州のハライン(Hallein) の教会で追悼礼拝がこのほど開かれた。

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▲「きよしこの夜」の作曲者グルーバー(ウィキペディアから)

 グルーバー(1787年11月25日〜1863年6月7日)は友人の神父ヨーゼフ・モールのテキストにメロディーをつくり、「きよしこの夜」を作曲した。

ハンガリーよ、情けないぞ!

 ハンガリーの首都ブタペストで2日、世界ウイグル会議の欧州集会に参加を予定していた30人以上の人権活動家たちが、「国家の安全を脅かす」という理由でハンガリー当局から国外退去を命じられていたことがこのほど判明した。

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▲ハンガリーの首都ブタペスト市の風景(ハンガリー政府観光局のHPから)

 非政府機関(NGO)の「脅迫される民族の為の協会」(GfbV)は「ブタペスト開催のウイグル文化集会の開催禁止は明らかに欧州人権憲章の蹂躙に当たる。言論・集会の自由の権利を蹂躙したハンガリー政府に対し、欧州連合(EU)側は非難すべきだ」と要求。そして「EU国民がEU加盟国から横暴に扱われ、追放されるということは、EU統合とハンガリーの法体制が問題だ」と指摘している(オーストリアのカトプレス通信)。

 独ミュンヘンに本部を置く世界ウイグル会議のウムト・ヘミト副会長自身も9時間尋問を受け、3年間入国禁止処分を受けた1人だ。
 ウムト・ヘミト副会長は「ハンガリー政府の今回の対応の背後には中国政府からの圧力があったことは間違いない」と説明する。
 ちなみに、中国西部新疆ウイグル自治区では先週、中国当局と少数民族のウイグル人(主にイスラム教徒たち)の間で衝突が発生したばかりだ。

 当方は「『パンダか』と『ダライ・ラマか』」(2013年6月3日)のコラムの中で、ダライ・ラマ14世が昨年5月17日から26日までオーストリアを10日間訪問し、その期間、ファイマン首相と朝食を一緒にし、シュビンデルエッガー外相には白いスカーフを贈呈するなど、親交を深めた事に対して、中国が今になって怒り出し、「オーストリアは謝罪を文書で提示すべきだ。謝罪しない場合、ウィーン市のシェーンブルン動物園に貸した2頭のパンダを引き取る」と脅迫した、という話を掲載したばかりだが、中国はオーストリアの隣国ハンガリーに対しても同じ様に脅迫していたわけだ。

  ハンガリーと中国両国関係を簡単に紹介する。両国関係は2004年6月の胡錦濤国家主席(当時)のハンガリー訪問を皮切りに急速に深まっていった。最近では11年6月、温家宝首相(当時)がブタペストを訪問し、オルバン首相との間で15年までに両国間貿易総額を200億ドルまで倍増すること、ハンガリー国債購入、対ハンガリー企業への融資枠10億ユーロを準備するなどで合意している。習近平現国家主席(当時副主席)も09年10月、ハンガリーを公式訪問している。

 少数民族ウイグル人の文化集会の開催禁止を要求する中国側の強い圧力に対し、EUの小国ハンガリーは抵抗する術もなかったのかもしれないが、少々情けない。日頃、強がりを言ってEU諸国を困らせているオルバン首相も中国の経済パワーの前には屈服ですか? 

誰のための戦いか

 「シリアの内戦はスン二派代表のサウジアラビアとシーア派筆頭イラン、その支援を受けるヒズボラ(レバノンのイラン系イスラム教シーア派民兵過激派組織)との宗派間の代理戦争だ」という。それだけではない。もう一つの代理戦争がある。それは「米国とロシアの軍需産業の競争だ」という。民主化運動のはずが、いつの間にか、代理戦争の様相を深めてきたのだ。

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▲窓際の白い花(2013年5月、撮影)

 第1の代理戦争では、宗派間の面子をかけた戦いだ。サウジはスン二派の盟主としてイランのシーア派にシリアを手渡すわけにはいかない。イランのアラブ圏侵略をなんとしても阻止しなければならない。一方、イランはレバノンのヒズボラと連携してアサド政権を打倒し、その後、イラクと同様、シーア派主導の政権を樹立したいところだろう。こちらも、「絶好のチャンスを逃すわけにはいかない」という決意で臨んでいるはずだ。

 第2の代理戦争では、ロシアがアサド政権を支持し、通常兵器を供給してきた。最新式S─300型地対空ミサイルシステム輸出問題ではイスラエルも懸念を表明しているほどだ。米国側としてはロシア製武器の拡大を阻止したい。ロイター通信によると、米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長は先月17日、ロシアによるシリアへの対艦ミサイル供与について「タイミングが悪く、遺憾だ」とし、シリア内戦を長引かせると非難している。
 それだけではない。「米国内の軍需産業は戦争が必要だ。彼らはあらゆるロビー活動を通じて武器の輸出を目指している」という声も聞かれる。もちろん、軍需武器輸出は英国、フランスも強い関心を有していることはいうまでもない。

 シリアで内戦状況となって以来、既に8万人以上のシリア国民が犠牲となり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、先月中旬の段階で150万人以上が戦争難民としてトルコや隣国に逃げている。その内戦が時間の経過と共に上記のような代理戦争となってきたわけだ。内戦が長期化する主因だ。

 大小の戦争、紛争が過去、起きたが、代理戦争の様相を帯びた紛争も少なくなかった。冷戦時代には米ソ両大国の正面衝突は回避されたが、代理戦争は数多く発生した。冷戦終焉後、ソ連の解体で従来の2大国の代理戦争は少なくなった。それに反して、宗派間の紛争が顔をもたらし、国際企業間の利権争いが出てきた。

 「代理」という言葉は、張本人の不在を意味する。不在の人間、国家に代わって戦い、血を流すのが代理戦争だ。シリアで現在展開されている内戦はシリア民族のアイデンティティ堅持の為の戦いではない。自国民同士が血を流し、殺害を繰り返す必要など本来はないのだ。

 内戦前、隣人として助け合ってきたシリア国民が「お前はシーア派だ」とか「お前はアラウィ派だ」といってどうして武器を持って戦わなければならないか。

 当方は先月、パリでシリア出身の女性弁護士に会った。シリア人の人権擁護の為に奮闘している若い女性だ。彼女は「私の母国シリアは美しい国だ。それが連日、破壊されている。美しいシリアを守って欲しい」と訴えた。これはシリア国民の共通の思いだろう。

政治家と自然災害との密接な関係

 チェコやオーストリアでここ数日、大雨で河川の水位が高まり、一部で氾濫し、死傷者も出る大災害となった。オーストリアにとっては、2002年以来の水害だ。
 同国メディアは連日、水害状況や救済活動を詳細に報じている。青年たちがボランティアとして水害地域で救済活動を行っている姿も紹介されていた。

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▲水位が高まったドナウ河とその周辺(2013年6月5日、ウィーンで撮影)

 興味深い点は自然災害が発生する度に政治家、特に与党政府関係者の動きが活発化することだ。オーストリアではファイマン首相(社会民主党党首)が素早く災害地域を訪れて、現地視察した。首相に負けるものかと、シュビンデルエッガー外相(国民党党首)も被害地の州知事を引き連れて視察した、といった具合だ。もちろん、現地視察だけではない。被害者への支援金についても具体的な金額を上げる与党関係者も出てきた。

 オーストリアでは今秋に連邦議会選挙が実施される。自然災害は国民の関心が高いだけに政治家も落ち着いて事務所に留まってはいられない。大きな選挙集会イベントを開催する以上に、災害地訪問は国民の心をつかむ最高の機会となるからだ。
 オーストリアの日刊紙の中には「世論調査で苦戦していたファイマン首相の社会民主党は水害後、国民の支持率を回復してきた」とその効果を報じているほどだ。

 同国のザルツブルガー・ナハリヒテン紙は5日付で「自然災害が発生すれば、政府与党が有利となる」と指摘する政治学者の意見を紹介した。同紙によると、1952年、独ハンブルク市が大洪水に襲われた時、災害対策で大活躍した青年政治家が後日、独連邦政府の首相に選出された。その名前はヘルムート・シュミット氏(元首相)だ。2002年、同じように自然災害が発生した。その対応が評価されてゲルハルト・シュレーダー独連邦首相が世論調査の予想に反して再選されている。あれもこれも自然災害のお陰だ、というわけだ。

 同紙は「与党政治家が変なパフォーマンスを見せず、真剣に災害対策に応じるならば、有権者の評価が高まり、選挙で有利になる」と解説している。今、問われる「政治家の危機管理」と関係する。その点、野党側はその手腕を国民にアピールするチャンスが少ないだけ不利だ。

 ところで、日本の永田町の政界は例外かもしれない。2年前、東日本大震災が襲い、福島原発事故も重なって日本国内は大変な状況にあった。その時の内閣は管直人首相政権だった。オーストリアやドイツの実例からいえば、菅氏は国民の支持を獲得できる絶好のチャンスを得たはずだ。

 しかし、菅首相(任期2010年6月8日〜11年9月2日)は大震災の半年後、野田佳彦首相へ政権をバトンタッチしている。何が問題だったのだろうか。
 菅首相は当時、「自分は東工大出身で技術や原発に強い」と自負していたほどだ。明確な点は、「原発について俺はよく知っている」といった自負が奢りとなって、パフォーマンス先行の対策に終始したことが有権者離れを引き起こしたのかもしれない。菅氏は具体的な将来のエネルギー政策を構築する前に早々と脱原発路線を宣言するなど、反原発グループに媚を売っていた。

 災害は与党政治家に必ずプラスとなるわけではない。チャンスは生まれるが、それをどのように生かすかは結局はその政治家の手腕だ。対応を間違えれば、菅氏のように、逆に政治生命を縮める危険性も出てくるわけだ。

 菅氏の災害後の言動を研究すれば、「自然災害に遭遇した政治家の身の振舞い方」というテーマで興味深い論文が書けるかもしれない。

なぜ、韓国は対日攻勢をかけるか

 「攻勢に出る」のは何かを守るためだ。「攻撃は最大の防御」と良く聞く。それでは韓国は何を守ろうとしているのか。簡単にいえば、「旧日本軍に侵略され、植民地化され、国民は虐げられてきた」という“受難歴史観”の崩壊を懸命に阻止するために攻勢に出てきたのだ。

 韓国の戦後歴史は「受難歴史観」で覆われている。もちろん、韓国民族は「敗北」という言葉を使わない。その代わりに、「侵略された」という表現で「敗北」という事実をぼかす。しかし、第3者から韓国歴史をみれば、「敗北」以外のなにものでもない。

 日本の保守派思想家といわれる人々を思い出してほしい。彼らも母国の敗北を認めることが容易ではない。さまざまな理由を考え、「敗北」というショックを少しでも和らげようと腐心する。その努力は涙ぐましい。一方、韓国国民は「われわれは日本に侵略され、不当な扱いを受けた」ということで納得し、「国家の敗北」という事実と対峙することを避けてきた。

 韓国の歴史では敗北は珍しくない。過去に何度も侵略され、大国の支配下を甘んじてきた。そのため、韓国民族が国の敗北に対して日本人ほど深刻に受け取らないのは当然かもしれない。歴史で戦いに勝った経験がほとんどない。敗北が常だった。その敗北を受難に置き換えて生きてきたのだ。だから、韓国国民の愛国主義はどうしても「受難歴史観」と密接に繋がってくる。

 旧日本軍主導の従軍慰安婦は存在しなかったとなれば、これまで堅持してきた歴史観の修正を余儀なくされる。「どの国でも戦時の時にいる売春婦の集まりだった」ということになり、受難歴史観に綻びが出てくる。

 韓国国民は意識していないかもしれないが、この「受難歴史観」を守るために反日攻勢に出ているのではないか。だから、安倍首相の言動は韓国が久しく守ってきた「受難歴史観」を攻撃していると受け取られるわけだ。

 日本の保守派論客と呼ばれる人々は「憲法の改正」を叫び、日本が“普通の国家”となることを求めるが、その背後には「次は負けない国家つくり」という気概が潜んでいる。敗北を良しとしない国民の品格があるが、韓国人からはそれがあまり感じられない。70年前の敗北を大切に抱え、その修正を叫ぶ人間、国家が現れれば危機人物、国家として「攻勢」に出るだけだ。

 当方が韓国人だったら、学校の歴史授業では「戦争に勝った」といった武勇伝を多く聞きたい。隣国・日本に侵略され、国民は虐げられた、という歴史事実は一度聞けば十分だ。頻繁に聞きたくない。しかし、現実をみると、国家の悲劇を好んで語り、聞く民族がいる。韓国民族だ。

 しかし、それだけではない。韓国民族は「受難歴史観」を一大産業化してきた。ユダヤ民族を揶揄する言葉として「ホロコースト産業」という表現がある。ユダヤ人の利益に反する言動を取るドイツ人がいたら、「ホロコーストを忘れるな」と釘を刺せば大抵の場合、OKだ。それと同じように、「われわれは侵略されたのであり、犠牲者だ」といえば、大抵の日本人はどうしょうもない、といった顔で韓国人の顔を見る。「受難歴史産業」は不況を知らない。

 どの国が自国の従軍慰安婦の少女像を建立するだろうか。たとえ加害国が憎くても、普通ならば、痛々しくてできない。しかし、韓国人は従軍慰安婦の女性像を建立したのだ。日本に抗議する意思表示と受け取られているが、実際は、「受難歴史観」の守護像だ。(像を建立した)彼らは従軍慰安婦ではない。悲劇の継承者だ。だから、慰安婦像を建立出来たのだ。

 大戦に敗北した日本は戦後、“普通の国家”となるために努力してきた。敗北をバネとして国民は奮闘してきた。そして世界経済大国となることで国際社会の尊敬も得てきた。同じように、韓国が「受難歴史観」から脱皮して普通の国家となる日、過去の受難歴史は韓国民族の功績に花を添えるだろう。日本を含む国際社会からも尊敬を勝ち得るだろう。「受難歴史観」に固守している限り、韓国国民は同情されても尊敬を得ることはないのだ。 

【短信】ドナウ川が氾濫

 ここ1週間余りの大雨でオーストリアのドナウ河は増水し、河沿いの町々が洪水に襲われている。2002年ぶりの大洪水といわれ、死傷者、行方不明者も出ている。ウィーンのドナウ河の水位は4日午後現在、約8メートルに差し迫ってきた。 

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▲水位を高めるドナウ河(2013年6月5日、ウィーンで撮影)
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▲跳ね橋も水没した(同)

女性たちよ、宇宙を目指せ!

 女性が国家の最高意志決定機関に選出されるケースはもはや珍しくはなくなったが、女性の社会的地位が今日ほど高くなかった時、旧ソ連の宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワ(Valentina V. Tereshkova) が女性初の宇宙飛行に成功した。今月16日、その女性初の宇宙飛行50周年を迎える。

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▲女性初の宇宙飛行50周年を記念したイベント紹介(UNOOSAのHPから)

 ウィーンに本部を置く国際連合宇宙局(UNOOSA)は第56会期(今月12日から21日)開催中、女性初の宇宙飛行50周年を記念したさまざまな行事を計画している(UNOOSAは1958年12月、設立。国連総会および国際連合宇宙空間平和利用委員会の決議に則り、宇宙開発に関する国際的な法的業務の実施や発展途上国の宇宙開発技術の支援を行う)。

 世界初の女性宇宙飛行士となったワレンチナ・テレシコワ女史は1937年生まれ。1963年6月16日、ボストーク6号に搭乗し、初の女性宇宙飛行士となった。宇宙飛行中、宇宙酔いで苦労したという話が伝わっている。何事も初めては大変だ。
 ちなみに、同女史の宇宙での最初の言葉がチェーホフの戯曲の中で出てくる「私はカモメ」という台詞だったという話から、その台詞はテレシコワ女史の宇宙飛行の伝説となった経緯がある。

 ウィーン市自然歴史博物館で13日、「宇宙の女性、今後50年」と題したパネル討論会が開催される。そこにはワレンチナ・テレシコワさんの他、カナダ初の女性宇宙飛行士、1992年1月、NASAのスペースシャトル・ディスカバリーのSTS-42に搭乗したロベルタ・ボンダー(Roberta Bondar) , 米女性宇宙飛行士ジャネット・カバンディ(Janet L. Kavandi) , 日本からは1994年と98年の2度、宇宙飛行を体験した向井千秋iさん、そして 神舟9号で昨年6月、中国初の女性宇宙飛行士となった劉洋( Liu Yang) さんが参加する予定だ。ちなみに、女性宇宙飛行士は劉洋さんで57人目だ。

 旧ソ連連邦の宇宙飛行士、ユーリイ・ガガーリン氏は1961年、世界で初めて宇宙飛行に成功して一昨年4月、50周年を迎えたばかりだが、2年遅れで女性初の宇宙飛行50周年を迎えるわけだ。男女とも初の宇宙飛行はいずれも旧ソ連宇宙飛行士だった。

 米ソ大国の宇宙開発競争は冷戦時代の終焉と共に終わりを告げ、宇宙開発は今日、資源開発、災害対策などが主要テーマとなってきた。宇宙でも女性宇宙飛行士の進出が願われてきたわけだ。

日本はイランの核計画を支援?

 国際原子力機関(IAEA)の定例理事会は3日、5日間の日程でウィーンのIAEA本部で始まった。夏期休暇前の最後の理事会(理事国35カ国)では、原発の安全性強化の行動計画の履行状況のほか、理事会の常連テーマとなったイラン、シリア、北朝鮮の査察検証の状況が焦点だ。

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▲IAEA理事会の記者会見風景(2013年6月3日、撮影)

 ところで、米CNSニュース電子版によると、欧米諸国から「国連工業開発機関(UNIDO)の対イラン支援をストップすべきだ」と主張し、UNIDOから脱会を加盟国に勧める声が高まってきているという。なぜならば、「UNIDO支援はイランの核計画を支援することになるからだ」というのだ。

 一見、不合理な主張のように聞こえる。「脱会の勧め」の直接の契機は、UNIDOの計画予算委員会(PBC)議長に先月、IAEA理事会で欧米理事国と激しい論争を展開しているイランのソルタニエ大使が就任したことだ。
 「UNIDOはイランにさまざまな工業開発計画を支援しているが、核計画を密かに推進する同国を支援することは同国の核計画を助けることにも繋がる」という論理だ。

 この論理でいくと、今回のコラムのタイトルのように、UNIDO最大分担金拠出国・日本はイランの核計画を支援している最大の国ということになるわけだ。
 UNIDO関係者によると、UNIDOとイランの間で現在、304のプロジェクト、総額6600万ユーロが進行中だ。
 いずれにしても、イランはその核問題の全容を開示しない限り、同国が関与する全ての国際機関で加盟国から対イラン支援計画の再考を求める声が高まっていくことが予想される。UNIDOはその最初のターゲットとなっているわけだ。

 当コラムの読者なら既にご存知だが、米国、オーストラリア、カナダ、ニュージランド、オランダ、英国、そして今年に入り、フランスがUNIDO脱会を表明するなど、欧米主要諸国が次々とUNIDOから脱会していった。その結果、UNIDOの予算は縮小されてきた。2014-15年の予算は1億7650万ユーロだ。UNIDOを支えている主要国は日本(17・6%)、ドイツ11・6%、中国8・4%、イタリア7・2%だ。
 「西側の主要国が去ったUNIDOを中国、ロシア、イランの3国が管理し、主導していくだろう」(UNIDO職員)という懸念は非常に現実的となってきた。イラン大使のPBC議長就任はその懸念を一層、深めさせている。

日韓は(外交)戦争下に入ったか

 日韓両国のメディアを読んでいると、「日韓両国は既に外交戦争下にある」という1文を見つけた。少々言い過ぎかなと思ったが、最近の韓国側の外交攻勢を見ていると、「その通りだ」と考え直した。

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▲ウィーン市16区のカトリック教会前の樹(2013年6月2日、撮影)

 眼前に展開されている日韓戦争はどうみても韓国側の一方的戦争宣言に近いという印象を受ける。なぜなら、日本側の応戦が見えないからだ。韓国側は戦争を仕掛ける一方、日本側は韓国側の真意が掴めず戸惑っている、といった感じだ。

 日本は韓国の戦争宣言に対応すべきだ、と発破をかけるつもりはないが、韓国が外交戦争を仕掛けてきたという事実を正しく認識する必要はあるだろう。
 特に、韓国側は国連の人権委員会を巧みに利用し、外交上では考えられないような一方的な戦果を挙げている。人権委員会の戦場では日本側は韓国側の激しい攻撃の前にタジタジで、応戦に出る余裕すらない有様だ。

 2つの例を挙げる。ジュネーブの国連経済・社会・文化的権利委員会(CESCR)は先月21日、「日本は、憎悪発言(ヘイトスピーチ)と元慰安婦の女性らに汚名を着せるような行為を防ぐために国民に慰安婦の強制連行問題を教育するよう願う」と述べた。すなわち 、国際機構が慰安婦問題についての日本社会の無理解を指摘し、強力な対策を要求したわけだ。
 同月31日には、国連の拷問禁止委員会(CAT)が日本政府に対し、「従軍慰安婦問題の法的責任を認め、関係者を処罰すべきだ」という勧告を発表したばかりだ。

 CATは勧告文の中で「日本政府は慰安婦被害者に賠償し、誤ちを繰り返さないため教科書の中に記述を」「国会議員を含む日本の政治家や地方政府の高官が事実を否定し、被害者に再び傷を負わせている。日本政府は、こうした発言に対し明確に反論すべき」(韓国中央日報)といった要求を羅列しているのだ。 
 従軍慰安婦問題では日韓で見解が異なるにもかかわらず、CATは韓国側の主張だけを100%正しいと受け取り、日本側に勧告しているのだ。
 (ちなみに、CATは10人の専門家から構成されているが、中国人が入っているが、日本人はいない。CESCRは18人構成だが、そこには韓国と中国人の専門家が入っているが、日本人はいない)

 CATに提出される文書の中には韓国側が提出した文書だけではない。アクティブ・ミュージアム(WAM)「女たちの戦争と平和資料館」という反日運動の非政府機関(NGO)は従軍慰安婦を「軍の性の奴隷」と定義し、CAT側がその報告書を関連文書に加えている。
 それに対して、日本側は「従軍慰安婦問題は70年前の太平洋戦争で生じた問題であり、1987年に発効したCATが審査する問題ではない」と正論を述べたが、その声は反日の一方的な批判の前にかき消されてしまった。

 深刻な問題は、国連の外交舞台では、日本側の主張が完全に無視され、韓国側の立場だけが受理されていることだ。韓国側の主張が正しく、日本側が間違っているからではない。
 日本側には、韓国が日本に外交戦争を仕掛けているという認識が乏しい。韓国側は戦うために武装しているが、日本は背広姿で呆然と立っている、といった有様だ。それでは戦う前から結果は明らかだ。

 残念なことだが、韓国は対日外交戦争に入っている。それに対し、日本は国際社会の理解を深めるために関連情報を積極的に提供する一方、韓国側には冷静な議論を要求し、「戦争は両国にとってマイナスだ」ということを忍耐強く説得すべきだ。


「パンダ」か「ダライ・ラマ」か

 チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世には失礼なことだが、「パンダを取るか、ダライ・ラマ14世と会見するか、どちらを取るか」と恫喝しているのは中国共産党だ。誰に対してか、というとアルプスの小国オーストリアの政治家にだ。オーストリアの高級紙プレッセ1日付が一面トップで報道した。

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▲中国共産党政権のチベット人弾圧を訴える亡命チベット人たち(2012年2月8日 ウィーン市内で撮影)

 ダライ・ラマ14世は昨年5月17日から26日までオーストリアを10日間訪問した。その期間、ファイマン首相はラマ14世と朝食を一緒にし、シュビンデルエッガー外相は同14世から白いスカーフを贈呈されるなど、親しく交流した。
 当時、駐オーストリアの中国大使館から圧力はなかった。当方は「なぜ、中国は強く抗議しないか」というコラムを書いたほどだ。しかし、あれから1年が過ぎたここにきて、中国がオーストリア外務省を脅迫し、「ダライ・ラマ14世と会談したことは中国は一国という事実を無視するものであり、中国国民の心情を傷つけた。ダライ・ラマ14世は宗教という名でカムフラージュした分離主義者だ」として、「オーストリアは謝罪を文書で提示すべきだ」と要求してきたのだ。
 いつもの中国共産党の恐喝外交だが、滑稽なのはその次だ。「謝罪しない場合、ウィーン市のシェーンブルン動物園に貸した2頭のパンダを引き取る」というのだ。

 すなわち、コラムのタイトルのように、中国はオーストリア政府に「パンダ2頭を取るか、ダライ・ラマ14世を取るか」と脅迫したわけだ。世界的な宗教指導者と2頭のパンダ(ヤンヤン、ロンフイ)を並べ、そのどちらを選択するかと脅迫したことがどれだけ滑稽かを中国共産党は気がついていない。世界第2の経済大国を誇示する国が他国の政治家にこのような滑稽な脅迫をするところは、中国政治の後進性を示している。

 もちろん、オーストリアは中国側の要求を拒否した。「誰が誰と会うか、他国が強いることはできないし、そのような要求は受け入れられない」という返答だ。余りにも当然のことだ。

 ところで、プレッセ紙によると、過去5年間で120人以上のチベット人が中国当局のチベット人への同化政策に抗議して焼身自殺を試みたという。中国は力でチベット文化を同化できると考えているが、これまた大きな間違いだ。弾圧すればするほど、反発は高まることはチベット人の抵抗をみれば良く分かる。中国共産党は国際社会との協調を模索し出したが、力の外交が国の名誉を一層傷つけることをそろそろ理解すべきだ。


 
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