ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年06月

米朝の監視システムの違い

 韓国メディアが「金正恩第1書記はもはや権力を失っている」と同第1書記の失権説を報じたことがあった。その直後、知人の北朝鮮外交官に聞いてみたことがある。

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▲ウィーンの北朝鮮大使館(2013年2月、撮影)

 知人は笑いながら、いつものように「誰が言っていたのか」と、その情報の出所を聞いて来た。「韓国のメディアが報じていた」と答えると、「いつもの誤報だ」という。
 知人は「わが国は西欧諸国とはシステムが違う。クーデターなどで政権が崩壊することは有り得ない」と強調した。

 知人は「どのようなシステムか」を説明せず、繰り返し「システムが違う」というだけだ。多分、「わが国は西欧諸国のように国民の気まぐれで失権したり、崩壊することはない。なぜならば、国家のトップは選ばれた指導者だから、間違いはない」と言いたかったのかもしれない。

 当方は「システムが違う」という言葉を聞いて、国民を徹底的に監視する北の監視体制を想起したが、知人から「その通りだ」といった相槌は元々期待できないので聞かなかった。ただし、「システムが違うよ」といった知人の言葉は暫く当方の脳裏の中に残った。

 そのような時、米中央情報局(CIA)元技術助手エドワード・スノーデン氏(29)が英紙ガーディアンと米紙ワシントン・ポストの2紙に対して、米国家安全保障局(NSA)が「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施し、米国民の電話通信記録やネット情報を大量入手していると暴露したニュースが報じられた。米国もテロ対策という名目で国民を徹底的に監視しているという現実が浮かび上がってきたのだ。

 予想通り、北朝鮮は18日、米国のNSAが安全保障上の理由から電話・インターネットなどの通信記録を監視していた問題について、「米国は人権侵害を行う中心的な存在」と非難した。

 国民を監視するという点では米朝両国とも監視国家だ。ただし、監視の方法は違う。脱北者からの情報によれば、北当局は、加入件数が100万台といわれる携帯電話やコンピューターなどネット情報を入手して人心を管理するというより、「夫と妻」「会社社長と社員」「先生と生徒」「両親と子供」が相互監視し、不審な点があれば通知する監視体制を敷いている。一方、米国社会の場合、監視カメラ、膨大なネット情報を連結し、不審な通信をキャッチする監視システムだ。

 米国の監視体制は今回、内部告発という形で明るみになった。北の場合はもっぱら脱北者の証言を通じてその非人間的な監視通報システムが徐々に知られるようになった。

 それではどちらの監視システムが効果的かといえば、前者(北朝鮮)と言わざるを得ないだろう。金日成主席、金正日総書記、そして金正恩第1書記と独裁政権が3代継続されている事実がその監視体制の優秀さを物語っているからだ。「軍事クーデターなど考えられない」という知人の発言ともなるわけだ。

 一方、米国の場合、大多数の国民にとって国の監視は個人の生活領域、自由への国家の干渉という問題に帰結する。それに対し、オバマ大統領は「国家の安全を維持する為には監視体制は不可欠だ」と説明し、監視体制のお陰で過去、テロを事前に防止したこともあったと示唆し、国民に理解を求めている。

 本来、相手が監視に気がついた段階で監視の効果は半減するものだ。ネット情報の発信方法を変えたり、対策を講じることはある程度、可能だ。しかし、北の場合、国民は久しく「当局に監視されている」と知っている。その監視網から抜け出す道は脱北以外にないことも知っている。その意味で、北の監視体制は非情だ。

 北の知人外交官は「システムが違う」と語ったが、北の監視システムを支えているものは、国民の「恐れ」だ(米国の場合、監視を恐れているのはテロリストたちだ)。国民の恐れに支えられた北の監視体制を‘究極のシステム‘といわれるのはその理由からだ。ただし、国民が公然とその「恐れ」を打ち破った時、北のシステムは積み木の家のように崩壊していくだろう。



【短信】  金正恩氏のヨットは02年調達済み

 米国の北朝鮮専門サイト「NKニュース」は19日、「金正恩第1書記が先月、同国の東海岸で高級ヨットを乗って旅行を楽しんだが、高級ヨットが対北制裁で禁止されている贅沢品に該当する可能性がある」と報じたが、欧州の北消息筋は「金第1書記が乗っていた英プリンセス製の高級ヨットは北が2001年12月に欧州の貿易会社を通じて注文し、翌年入手したヨットであり、国連が今年3月に対北贅沢品輸入を禁じた制裁後、購入したものでない可能性が高い」と明らかにした。

 同筋によると、北は当時、故金正日労働党総書記の60歳の誕生日プレゼントとして4隻を英プリンセス製、1隻をイタリア製(Azimut)の計5隻を購入している。
 高級ヨットの購入を手配した人物は金総書記専属調達人、権栄録(Kwon Yong Rok)氏だ。同氏は欧州を拠点にベンツ車、高級ヨットなど贅沢品を調達してきた。

 ちなみに、同氏は2009年、オーストリアのヨット貿易会社を通じてイタリアのヨット製造会社から金総書記用の高級ヨット(1300万ユーロ相当)を密かに注文したが、オーストリア銀行の通達が契機となって発覚し、取引は水泡に帰した。権氏はオーストリアのヨット会社と共にオーストリア検察庁から国連安保理の対北制裁1718号違反と外国貿易法違反で起訴された。そのため、同氏は急遽、平壌に逃げ帰った経緯がある。

遅れる「国務省長官」の人選

 南米出身初のローマ法王フランシスコが3月13日に選出されてまもなく100日目を迎える。明るい人柄と気さくな言動で教会内外での法王の人気は悪くない。ただし、世界に約12億人の信者を有するローマ・カトリック教会はここ数年、聖職者の未成年者への性的虐待事件、法王執務室からバチカン内部機密が外部に流出(通称バチリークス事件)する不祥事、バチカン銀行の不正問題などが次々と表面化し、教会の信頼は地に落ちている。

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▲バチカンのナンバー2の人選が遅れている( バチカンの復活祭の礼拝に参加した枢機卿たち、2013年3月31日、独公営放送から撮影)

 それだけに、バチカンの改革は急務だ。78歳の高齢ローマ法王の職務負担を軽減するためにもバチカンのナンバー2、国務省長官を早く任命しなければならないが、人選が遅れている。以下、オーストリアのカトプレス通信から「国務省長官の人選」を紹介する。

 新ローマ法王フランシスコの就任最初の訪問先は7月22日から28日までブラジルのリオデジャネイロで開催される青年カトリック信者年次集会(ワールドユースデー)だが、その直後に新国務省長官が任命されるだろうという声が聞かれる。
 ローマ日刊紙「イル・メッサッジェーロ」によれば、ホンジュラスのオスカー・アンドレス・ロドリグリエツ・ マラディアガ枢機卿が有力候補に挙げられている。バチカン改革のための8人の枢機卿から構成された提言グループのリーダー格だ。また、国際カリタスの会長でもある。ただし、ローマ法王とナンバー2の国務省長官が南米の修道院出身者によって占めるのはバチカンにとっては慣例破りだ(フランシスコ法王はイエズス会士、マラディアガ枢機卿はサレジオ会士)

 南米出身の法王にとって、政治、外交手腕と経験のある聖職者をイタリア、ないしは欧州から選出するやり方も十分考えられる。その意味でバチカンのお膝元イタリア出身の枢機卿の名前が挙がっている。バチカン市国政庁長官で提言グループの一人、Giuseppe Bertelloだ。その他、パリ大司教 Luigi Ventura 、ワルシャワの Celestino Migliore 枢機卿,らの名前が挙がっている。

 独週刊誌シュピーゲルは昨年、バチカン・ナンバー2のタルチジオ・ベルトーネ国務省長官(枢機卿)が絡んだ不祥事を報じた。ミラノのカトリック系病院の副院長投身自殺やトニオロ研究機関の人事問題について、同長官の独裁的な人事政策を内部文書を通じて暴露した。
 フランシスコ法王としては、教会の信頼回復のためにもバチカン改革の核となる新国務省長官は腐敗やスキャンダルからクリーンな枢機卿を選出したいが、一長一短でなかなか理想的な人物が見つからない、というのが現実かもしれない。

 

 

南北で「ハーモニカ」が吹かれる時

 ウィーン音楽大学のイザベラ・クラップ教授(Isabella Krapf)は先日、平壌から帰国したばかりだ。今月中にも10人の北朝鮮学生がハーモニカ留学のためウィーンに来るという。教授によると、「文化交流だから旅券は発給されるが、最高でも半年ビザだろう」という。教授は目下、北の学生たちの受入れのために多忙だ。

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▲ウィーンで留学中の北の音楽学生のハーモニカ演奏(2012年3月2日撮影)

 教授が昨年3月、ウィーン市5区の経済博物館で「北朝鮮とハーモニカ」というテーマで講演をした時、当方は教授と初めて知り合った。
 教授は一昨年7月8日から3週間余り、平壌の「クロマティックハーモニカ学校」で15歳から20歳までの約110人の学生たちにハーモニカを教えてきた。講演では平壌での学生たちや平壌市民との交流を自身が撮影した写真を使いながら説明した。

 クラップ教授は当時、「ウィーンの音楽学生たちは1日6時間の練習を要求してもできないが、北の学生たちは6時間でも7時間でも集中して練習する。その規律と熱心さには驚かされた」と語っていたが、今回は「演奏技術はいいが、創造性には欠けている」と採点が辛くなったとも聞く。学生に対する教授の要求が自然、高まってきたわけだ。もはや技術が問題ではない、演奏家の創造性が求められてきた、というわけだろう。

 教授によると、「北は合唱文化(Chor Kultur)の国だ、多くの国民は一緒に合唱することを好む。また、人々は劇も好む。非常に音楽的な国民だ」という。

 「私はコリアが好きだ」と宣言する教授はコリア語を流暢に話す。平壌ではコリア語で学生たちに教えてきたという。
 「どこでコリア語を学んだのですか」と聞くと、「カセットや学生たちとの交流から学んできた」という。ハーモニカを通じて音楽の都ウィーンと平壌間の“音楽大使”を務める教授は何事にも意欲的だ。

 ハーモニカは1820年頃、オルガンの調律用として使用され、19世紀半ば、ウィーンで人気を博した。その楽器が今、平壌の若い音楽学生の間で人気を呼んでいるわけだ。

 ウィーンに留学していた15人の学生たちは昨年10月、英ブリストルのコンクールに参加し、優秀な成績を収めた。10人の学生たちも教授のもとでハーモニカを学んだ後、10月ドイツで開催予定の世界ハーモニカ・コンクールに参加する予定という。

 南北両国の国民が小楽器ハーモニカを一緒に演奏する日も決して遠い先のことではないのかもしれない。教授の話を聞いていると、そのように思わされた。


陽気でお喋りな法王さん

 南米出身初のローマ法王フランシスコは陽気でお喋りだ。思ったことを直ぐに口に出し、笑う。前法王のベネディクト16世は笑うことは元々少なかったが、喋るのも必要最小限度だった。だから、といっては可笑しいが、ドイツ人法王が口を開けば、信者たちも耳を傾けたものだ。一方、フランシスコ法王が喋り出せば一緒に笑うのに忙しく、その内容を聞き忘れてしまう。

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▲陽気でお喋りなフランシスコ法王(2013年3月、撮影 )

 ドイツ人法王時代、法王やバチカン法王庁内部の情報は地元のイタリア人ジャーナリストたちがスクープして流した。バチリークス事件はその代表だろう。内部情報をバチカン関係者がジャーナリストにリークするルートだ。一方、南米出身の法王が就任して以来、特ダネはイタリアのジャーナリストたちより、南米出身の聖職者の口から漏れてくるケースが増えた。

 フランシスコ法王は同郷の南米聖職者に心を許してバチカンで見、聞いたさまざまな情報を井戸端会議の話のように話す。それを聞いた南米聖職者たちは故郷に戻ると教区誌や教区HPに法王との会見内容を誇らしく掲載するというパターンだ。
 その典型的な実例がチリの修道院関係者が今月6日、ローマでのフランシスコ法王との会合内容を教区に帰ってから報告した内容だ。フランシスコ法王曰く、「バチカンには本当の聖人もいるが、そうではない人々もいる。例えば、同性愛者の聖職者たちだ」という。バチカンにホモの高位聖職者が存在することを南米法王はあっさりと同郷の聖職者に漏らしたのだ。ちなみに、法王の情報の出所は昨年12月、バチリークス事件調査委員会の3人の枢機卿がまとめた報告書だ。ベネディクト16世がショックを受け、フランシスコ法王が口外した内容だ。

 ドイツ人法王は報告書の内容を口外せず、バチカン組織に失望して生前退位の道を選んだが、お喋りで陽気なフランシスコは心を許す同郷の聖職者に漏らした。

 フランシスコ法王のお喋りをもう少し聞いてみよう。「自分は組織的な人間ではないのでバチカンの改革は難しい。だから3人の枢機卿(2人の南米枢機卿Oscar Rodriguez Maradiaga とFrancisco Javier Errazuriz、ドイツ人の Reinhard Marx枢機卿) にその任務を委ねたい」と述べている。
 フランシスコ法王は飾らない人柄で法王就任以来、教会の外の世界でも人気がある。その陽気でお喋りな法王さんはバチカン改革を叫んでコンクラーベで支持を集め、法王に選出された人物だ。その法王が「自分は組織的な人間ではないのでバチカンの改革は難しい」とあっさりと認めているのだ。余りにも正直な発言だが、少々心細くもなる。

 寡黙で哲学的な世界を好んだ前法王とは違い、多弁で人間的な顔を見せる現法王のもと、バチカンは山積する課題を乗越えていかなればならない。最大の課題はバチカン改革だ。フランシスコ法王はその最大の課題を3人の枢機卿に委ね、本人は笑顔を振りまき、お喋りを続けている。

政府関係者が腐敗で悪臭を放つ時

 チェコで戦後最大の政府与党関係者の腐敗、職権乱用スキャンダル事件が表面化し、ネチャス政権は大揺れだ。野党側が来週にも議会に提出予定の内閣不信任案が可決される可能性が高まってきた。

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▲隣国チェコの政治スキャンダルを報道するオーストリア日刊紙プレッセ(2013年6月15日、撮影)

 腐敗対策特別警察部隊(UOOZ)は13日、チェコ全土で政府関係者の事務所、自宅を捜査、大量の証拠物件を押収する一方、数キロの金塊、巨額の現金も見つけた。今回の大捜査で拘束された政治関係者は7人になる。
 ぺトル・ネチャス首相の愛人といわれる内閣事務責任者(内閣官房長官)のヤナ・ナギョヴァ女史も買収容疑などで拘束された。女史は元軍情報機関責任者に首相の夫人の身元調査を依頼した疑い(職権乱用)ももたれている。

 ネチャス首相は与党内の幹部党員を説得する為に高給ポストを提供するなど買収工作をしていた。首相は「正常な政治取引にすぎず、犯罪行為ではない」と弁明している。同首相は14日段階で野党側の辞任要求を拒否している。

 与党関係者の腐敗問題で政権のイメージが悪化した為、政府はロベルト・シュラハタ氏をUOOZ長官に任命して腐敗対策に乗り出す姿勢を国民にアピールしてきたが、今回の大捜査を密かに主導した責任者は皮肉にもシュラハタ警察長官だった。

 ネチャス政権は2010年5月に実施された下院選挙で第2党に留まったが、第1党の社会民主党が中道左派政権の発足に失敗。それを受け、ネチャス党首が率いる中道右派の市民民主党、新党「TOP09]、「公共の物」から構成された連立政権が樹立された。その後、与党政権内で人事もあって、改造政権が昨年樹立したばかりだ。上院は野党第1党の社会民主党が議席を伸ばし、上下院で「ねじれ」現象を呈している。

 内閣不信任案の見通しは連立政権に参加している「TOP09」の動向次第と予測されているが、ネチャス政権の継続は難しいというのが一般的な受け止め方だ。
 オーストリアの日刊紙プレッセによると、チェコのゼマン大統領はクラウス元大統領に暫定政府の樹立を要請するのではないかという。いずれにしても、チェコの政情はポスト・ネチャス政権に移っていく。

ケネディのベルリン演説50年目

 ジョン・F・ケネディ米大統領(任期1961年1月ー63年11月)が冷戦時代、東西に分裂されていた旧西ベルリンのシェーネブルク市庁舎前で「Ich bin ein Berliner」(私はベルリン市民である)という有名な演説して今月26日、50年目を迎える。

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▲独週刊誌シュピーゲルの表紙タイトル「失われた友人」

 ほぼ同じ時期、ケネディ元大統領を尊敬するオバマ大統領は英・北アイルランドで開かれる主要8カ国(G8)サミット会議(17、18日)後、ベルリンを初めて公式訪問する。滞在中、メルケル独首相、ガウク大統領等らの会談のほか、ブランデンブルク門前で演説する予定だ。

 ハワイで成長し、インドネシアやパキスタンなどを訪問した経験があるオバマ氏は歴代米大統領の中でも太平洋・アジア地域との関係が最も深い一方、大西洋諸国との関係は非常に薄い。
 オバマ氏は大統領就任して9回、欧州を訪問したが、欧州連合(EU)の盟主ドイツの公式訪問は今回が初めて。同氏は最初の4年の任期中にドイツを公式訪問しなかった最初の米大統領だ。
 
 ところで、オバマ大統領のベルリン訪問は少々タイミングが悪い。米中央情報局(CIA)元技術助手エドワード・スノーデン氏(29)が英紙ガーディアンと米紙ワシントン・ポストの2紙に対して、米国家安全保障局(NSA)が「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施し、米国民の電話通信記録やネット情報を大量入手していたと暴露した直後だ。欧州の政治家ばかりか、国民の間にも米国の情報活動に批判の声が挙がっている。


 ただし、オバマ氏への個人的人気はドイツでは依然高い。独週刊誌シュピーゲルによると、2期8年間で6度、ドイツを訪問したクリントン元大統領より、オバマ氏の人気は高いという。

 一方、ホスト側のドイツでは今秋、連邦議会選挙が実施される。メルケル首相としては国民の間に人気のあるオバマ大統領のベルリン訪問を可能な限り利用したいところだが、同首相自身はオバマ政権の政策にはかなり失望しているという。外交分野だけではなく、コペンハーゲンで開催された国連気候変動会議(2009年)でも米国の言動が大国に相応しいものではなかったという不満が根深いという。

 オバマ大統領はベルリン滞在中、“第2のベルリン演説”を披露してドイツ国民の心を掴みたいところだが、「オバマ大統領が演説でケネディ元大統領の台詞を真似て、『私もベルリン市民だ』といえば、ドイツ国民は笑い出すだろう」(シュピーゲル)という。

 「プラハ演説」(09年4月、核兵器なき世界の実現)、「カイロ演説」(同年6月、イスラムとの和解)で聴衆者のハートを掴んた演説の名手オバマ氏にとっても、ベルリンでの演説は容易ではないだろう。演説の核となるべきビジョンが見出せないからだ。

 ケネディ元大統領は冷戦時代に分割されて生きるベルリン市民に対し、「私はベルリン市民だ」と宣言し、連帯と支援を表明し、ドイツ人の心を高揚させることに成功した。ケネデイ時代には欧米共通のビジョン(民主主義と自由)があった。

 50年後の今日、欧米間に共通のビジョンが見えなくなってきたのだ。オバマ氏の責任だけではない。欧州も金融危機の克服に忙しく、新しいビジョンどころではない、というのが現実だろう。ひょっとしたら、欧米間で交渉中の「環大西洋貿易投資パートナーシップ」(TTIP)は新しいビジョンを提供するかもしれない。たとえ、それが双方にとって完全には魅力的でなくてもだ。


 

バチカンに同性愛ロビイスト存在

 世界に約12億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会の最高指導者、ローマ法王フランシスコは6月6日、南米・カリブ海諸国修道院団体(CLAR)関係者との会談の中で「バチカンには聖なる者もいるが、腐敗した人間もいる。同性愛ロビイストたちだ」と述べたという。

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▲「バチカン内に同性愛ロビイストが存在」と発言したフランシスコ法王(バチカン放送独語電子版から)

 チリのカトリック教会のウェブサイトは12日、アルゼンチン出身法王との発言内容をまとめた文書を公表した。バチカン法王庁は法王の発言内容は否定していないが、「南米修道院関係者との会合は私的なものだった」と説明し、法王の発言についてはコメントを避けた。一方、CLAR は法王の発言内容が公表されたことに対し、「法王の発言内容は様々な憶測を生み出す契機となる」と批判している。

 それに先立ち、イタリア日刊紙ラ・レブッブリカは2月、前法王ベネディクト16世が退位した主因は、昨年12月17日にバチリークス調査委員会(3人の枢機卿から構成)が同16世に提出した報告書の中に「バチカン内部に秘密の同性愛者ネットワークが存在し、枢機卿は脅迫されている」という内容にショックを受けたからだ、と報じた。バチカン側は当時、この報道を否定した。

 当方は2年前、「教会内施設でホモ・ネットワーク」(2010年5月26日)で「オーストリアのローマ・カトリック教会サンクト・ぺルテン教区のクラウス・キュンク司教は『神学セミナーや教会聖職者の一部に同性愛的(ホモセクシュアル)な雰囲気を感じることがある。彼らは特定な人物に強い関心を示す』と述べた上で、神学セミナーや修道院で同性愛者のネットワークが存在すると指摘。『彼らが教会や修道院で拡大、増殖していった場合、教会や修道院の存続が危機に陥る。セミナーや修道院を閉鎖して、新しく出発する以外に解決の道がない』と語った。カトリック教会高位聖職者が教会関連施設内に『ホモ・ネットワーク』の存在を認めたのは初めてだ」と書いた。その意味で、カトリック教会総本山のバチカン内に同性愛者が存在したとしても驚かない。

 CLARの文書はフランシスコ法王の発言をまとめたものだけに、その発言内容は非常に信頼性が高い。ローマ法王がバチカン内にホモ・ネットワークが存在すると認めたことで、教会内外に大きな波紋が生じることは避けられないだろう。

 フランスなど欧州のカトリック教国で同性愛者の権限を公認する動きが急速に進んでいるが、カトリック教会はこれまで「家庭は男性と女性から構成されている」として同性愛者の権限拡大には批判的な立場を取ってきた。それだけに、カトリック教会の総本山バチカン内でホモ・ネットワークが存在するとすれば、教会側は信者たちから説明責任が問われることになる。

 
【短信】
 旧ソ連の宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワ(Valentina V. Tereshkova) が女性初の宇宙飛行に成功して今月16日、50年目を迎える。それを記念してウィーンに本部を置く国際連合宇宙局(UNOOSA)は第56会期(今月12日から21日)開催中、女性初宇宙飛行50周年を記念した展示会やパネル討論などを計画している。
 テレシコワ女史は13日、ウィーンで記者会見を開き、「将来、多くの女性が宇宙飛行にチャレンジすることを期待する」、「女性たちが経済、社会、政治など多くの分野に進出して活躍することを願います」と、女性たちにエールを送った。


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▲世界で初の女性宇宙飛行士となった旧ソ連の宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワ(Valentina V. Tereshkova)さん

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▲女性宇宙飛行50周年展示ポスター

元CIA助手の政治亡命受け入れ?

 米中央情報局(CIA)元技術助手エドワード・スノーデン氏(29)が英紙ガーディアンと米紙ワシントン・ポストの2紙に対して、米国家安全保障局(NSA)が「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施し、米国民の電話通信記録やネット情報を大量入手していると暴露した。

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▲NSAの入口の表示(NSAのHPから)

 同報道はオバマ米政権を震撼させているだけではない。欧州でも大きな反響を呼んでいる。対テロ対策という名目で米国が欧州国民のプライベートなネット情報も収集してきたことが判明したからだ。NSAとの連携を疑われた英政府のヘイグ外相は下院で「そのような事実はない」と弁明しているほどだ。

 アルプスの小国オーストリアでもここ数日、トップないしは準トップでNSAのネット情報の監視問題を大きく報道している。オーストリア国営放送は11日、「野党の緑の党ピルツ議員はスノーデン氏の政治亡命を受け入れるべきだと提案した」と報じている。
 1野党議員の突発的なアイデアではない。オーストリアは冷戦時代、200万人以上の旧ソ連・東欧諸国の政治亡命者を収容してきた‘難民収容国家‘だ。経験と体験は十分ある。

 ただし、スノーデン氏の政治亡命受け入れを表明しているのはオーストリアだけではないらしい。メディア報道によると、ロシアも受け入れ姿勢を示しているという。ロシアの場合、スノーデン氏を受け入れる事で、米国の情報活動に関する貴重な情報が獲得できるという政治的、戦略的な狙いがあることは疑いないだろう。

 スノーデン氏はインタビュー番組の中で「もはや故郷に帰ることはできない。NSAが必死に自分の居所を探すからだ。ハワイの家庭も全て失う」と述べている。年給20万ドルの高給を捨ててまでNSAの情報活動を暴露した理由について、「政府当局が個人の情報まで監視することは許されない」と述べ、良心に従って情報をリークしたという。ちなみに、オバマ米大統領自身は「米国民をテロから守る為には必要な手段だ」とNSAの情報活動を擁護したという。

 当方は先月、このコラム欄で米国CBS放送の人気番組「パーソン・オブ・インタレスト」(Person Of Interest)を紹介したばかりだ(「われわれは見られている」2013年5月28日)。名優ジェームス・カヴィーゼルが元CIAエージェントを演じ、マイケル・エマーソンが演じるコンピューターの天才(ハロルド・フィンチ)と連携し、近い将来起きるであろう犯罪を防止する。必要な情報は全公共機関と連結するコンピューター網と監視カメラ、ネット情報から入手する。その内容はNSAの「プリズム」と酷似している。両者の違いは、前者は犯罪を、NSAは潜在的テロリストをそれぞれターゲットとしていることだ。

 ところで、香港に身を隠していたスノーデン氏はインタビュー後、姿を消した。政治亡命したのだろうか、それともNSAの手に落ちたのだろうか。ひょっとしたら、オーストリアに政治亡命し、チロルのアルプスが見える隠れ家で身を潜めながら事件の推移を追っているのだろうか。いずれにしても、スノーデン氏の政治亡命を受け入れた国は米国からさまざまな圧力を受けることは避けられないだろう。

 なお、オバマ大統領は米中首脳会談で習近平国家主席に「中国のサイバー攻撃を中止するように」と強く要求したが、スノーデン氏の暴露は「米国も同じ事をしている」ということになり、サイバー問題で米国側の立場を弱めることになる。

プラスチック製銃を造った米学生

 独週刊誌シュピーゲル6月3日号には、3D(3次元)印刷機を利用してプラスチック製銃を製造した米テキサスの学生の話が掲載されていた。PCに3D設計図を書き、それを3D印刷機に接続し、樹脂やプラスチックの塊を流し込むと、設計図の対象が作られる。銃狂の学生(Cody Wilson)はその3Dプリンターを利用して銃を制作し、試射にも成功した。

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▲プラスチック製の銃を試射する米学生(独週刊誌シュピーゲル誌から)

 学生は設計図をネット上に公開したので、数時間で全世界にその情報が流れた。これを知った米国内安全問題担当官は警告を発し、テロ担当者は学生の発明が如何に危険かを指摘した文書を作成した。同時に、「この種の銃の製造を阻止することはほぼ不可能だ」と認めている。
 ちなみに、警察当局は学生の設計図に基づいて銃を製造してみた。27時間で全部品を製造し、1分で組み立てが出来たという。警察側は「プラスチック製銃は人を殺すことが出来る。近い将来、この種の銃を使用した事件に遭遇するだろう」と述べている。

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▲3Dプリンターの仕組みなどを紹介するシュピーゲル誌

 銃を購入するのではないからライセンスはいらない。自宅で製造するのだから、コントロールはできない。銃がほしければ、3Dプリンター、PC,プラスチックの塊があれば製造できる。

 オバマ米大統領は今年2月、3Dプリンターの登場を受け、「これは産業革命をもたらす潜在的な発明だ」と高く評価した。2次元の内容が3Dプリンターを通じて実物化するからだ。しかし、その3Dプリンターで誰でも自宅で銃が製造できる危険性も出てきたのだ。

 プラスチック製の銃の場合、空港の金属探知機はキャッチできない。実際、英日刊紙デイリー・メール紙のジャーナリストが米学生の情報に基づいて銃を製造し、英仏海峡トンネルを走る国際列車「ユーロスター」に持ち込んで実験したが、「金属探知機は探知できなかった」という。

 3Dプリンターはまだ高価だが、家庭用小型3Dプリンターも売り出され始めた。試作ができるから、2Dプリンターでは不可能だった商品の感触が一層リアルに感じることができる。3Dプリンターの登場は、建築家などに大きな恩恵を与える一方、テロリストたちにも大歓迎されることは間違いないだろう。

 如何なる発明もそれを利用する人間によって、プラスにもマイナスにもなる。人を助ける事も殺傷することもできる。3Dプリンターの場合も例外ではないわけだ。

国連職員の「告発」

 ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)の職員グループが加盟国とUNIDO外部監査役、内部監視局長宛に付属文書を含め計5頁から成る公開質問状を送付した。テーマは「ユムケラー事務局長の腐敗を調査し、UNIDOを救え」だ。内部職員の告発だ。

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▲UNIDOのウィーン本部(2013年5月、撮影)

以下、公開質問状の概要を紹介する。

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 UNIDOは国連専門機関として45年間以上経過するが、ユムケラー事務局長とその仲間たちのミスマネージメントは類がない。
 われわれUNIDOに献身的に働く職員は過去7年間、UNIDOを工業開発分野の指導的な機関とするために汗を流してきたが、フランス、英国、ニュージランド、リトアニアはUNIDOから脱会し、オランダも脱会意志を表明した。少なくともあと4カ国は脱会を真剣に考えている。

 何が問題なのか。それはユムケラー事務局長のミスマネージメント、腐敗、縁故主義(アフリカ出身者とイスラム教徒贔屓)、そして自己昇進欲だ。献身的に働くUNIDO職員は腐敗内容を暴露し、公平な調査を要求する。
 われわれは外部監査役、加盟国、次期事務局長に議論の余地のないずうずうしい職権乱用、腐敗の調査を期待する。通常、UNIDO内部監視局(IOS)が調査をしなければならないが、内部監視局長自身が不正に任命された人物であり、ユムケラーの仲間だから、調査は期待できない。

 ユムケラー事務局長はUNIDO事務局長の中でも年365日間中、225日間、旅行している記録の持ち主だ。飛行機はファースト・クラスを常に利用する。国際通貨基金(IMF)事務局長ですらビジネス・クラスを使っている。事務局長の1回の旅行で3万5000ユーロ以上の費用がUNIDOの財政負担となる。宿泊先など準備されている場合ですら、事務局長は経費を懐にいれ、事務局長の夫人がUNIDO本部Dビル22階に一室を確保して夫の旅費を集めている、といった有様だ。
 年225日間外遊する事務局長(DG)がどうして自身の機関(UNIDO)を経営できるだろうか。彼は代理を委任しないので、組織は未決定問題で窒息状況に陥る。いつも旅行中だから加盟国とじっくりと話し合う時間はもちろんない。

 過去2年間の事務局長の旅行はUNIDOビジネスとは全く関係ない。彼はUNIDOマネーを母国シエラレオネで将来の政治キャリアを準備するために投資し、自身の将来の任務である「全ての人のための持続可能なエネルギー」担当事務総長特使のために働く。これらは本来、UNIDOの主要課題ではない。UNIDOは、UNIDOの課題ではない仕事のために旅費を払い、事務局長のプライベートな目的を実現させるために費用を支払っているのだ。

 ユムケラー事務局長が昇進させた人々の中には、事務局長の従兄弟、Patrick Kormawa氏がいる。彼はアドバイサーとしてUNIDO入りし、ナイジェリア事務所の責任者となっている。財政担当者に財政分野に精通していない人物を選ぶ一方、先述した内部監視局長George Perera氏は腐敗問題の調査担当役だが、何もしない。アフリカのUNIDO現地事務所所長はアフリカ諸国の元閣僚や事務局長の知人たちで占められている。

 内部監視局でフランス人のFabian Lambert女史が局長時代、ユムケラー事務局長の腐敗問題が調査対象となったことがある。UNIDO内部と外部の監査団は2007年9月、ギニア・プロジェクト(GCLME、総額資金約2000万ドル)の調査を開始した。同プロジェクト担当職員の資金不正融資問題が浮かび上がったからだ。その結果、同担当職員は08年3月、解雇されたが、当時ナイジェリア事務所所長だったユムケラー事務局長も事件に関与していた疑いが出てきたのだ。
 しかし、その直後、Lambert女史は調査中止を強いられた。それを良しとしない女史は辞職したが、ユムケラー事務局長の不正を明記した関連文書をパリの外務省に送付した。
 フランス政府は今年、UNIDOの脱会を決定したが、同国がUNIDO脱会を決定した最大の理由はユムケラー事務局長の腐敗問題だったのだ。
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 ユムケラー事務局長は自身が任命した局長クラスを操りながら、UNIDOを私的に利用してきた。UNIDOの最大分担国・日本側は事務局長の中身のないグリーン産業という言葉に踊らされ、貴重な資金を提供してきた。同事務局長の腐敗問題は久しく囁かれてきたもので、けっして今、表面化してきたテーマではない。日本外交の消極性がUNIDO指導部をここまで腐敗させる遠因となったことは間違いないだろう。

 UNIDOの使命を果たす為に黙々と働いてきた職員たちが今、立ち上がろうとしている。日本側も遅くはない。UNIDO機関の再建のために乗り出すべきだ。アフリカ諸国の発展に大きな役割を果たすべきUNIDOが本来の課題に取り組むことが出来るように共助すべきだ。

 それにしても、腐敗し、UNIDOを現在の困窮化に貶めた張本人ユムケラー事務局長を「全ての人のための持続可能なエネルギー」担当事務総長特使に選出した潘基文事務総長の人を見る目のなさには驚くだけだ。
 
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