ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年06月

改革派運動への教会の「制裁」

 オーストリアのローマ・カトリック教会のヘルムート・シューラー神父を中心に300人以上の神父たちが女性聖職者の任命、離婚・再婚者の聖体拝領許可など7項目の改革を要求、教会指導部への不従順を呼びかけている「不従順への布告、神父たちのイニシャチブ」運動についてはこれまでこの欄で紹介してきたが、米カトリック教会ボストン大司教区のショーン・パトリック・オマリー枢機卿がシューラー神父の大司教区立ち入り禁止処置を決定したことが明らかになった。日刊紙ボストン・グローブが26日、報じた。

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▲教会の刷新を訴えるシューラー神父 (フィーチャー・チャーチのHPから)

 大司教区側の説明によると、「教会の教えに反する聖職者の教会施設使用などを禁止する通常の処置」という。シューラー神父は7月17日、マサチューセッツ州のデドハムの教会で改革派聖職者の統合を呼びかける講演をする予定だった。

 シューラー神父はボストン教区だけではなく、米国内の各地の教会で改革を呼びかける講演シリーズを計画している。同講演シリーズには「カトリック教会の転換点」というセンセーショナルなタイトルが付けられている。
 「イニシャチブ」側によれば、デドハムでの講演は会場を変えて実施されるという。講演は来月16日から8月7日まで米国内15個所で計画。講演場所もカトリック教会からバプテスト教会やメゾジスト派教会などの施設を利用するという。

 なお、シューラー神父らの改革運動に対して、ボストン大司教だけではなく、バチカン法王庁のミューラー教理省長官も同様、批判的な立場を表明している。
 
 ちなみに、シューラー神父ら改革イニシアチブに対し、独バイエルン州のアウグスブルク司教区内の神父たちは独自のイニシャチブ「神父2025」(Priester 2025)を創設。「神父2025」は、ローマ法王と司教へ忠誠を表明し、神父間の相互支援を目指している。明らかに、シューラー神父の改革運動への保守派からの対抗運動だ(「始まった神父たちの戦い』2012年11月1日参考)。
 カトリック教会では過去、インスブルック教区で信者たちの改革運動「われわれは教会」が生まれ、大きな改革運動に発展してきたが、シューラー神父らの運動は教会内の神父たちの改革運動という点で新しい。それだけに、バチカン法王庁側も神経質となっている。

 ベネディクト16世の退位、フランシスコ法王の選出など一連のバチカン内の動きを静観してきた教会内改革派が再び動き出してきたわけだ。

レオポルト1世が現れた

 黒色の大テントの中では、掛かっていた肖像画みたいなものが外された。テントの外には多数の人々がテントの中を覗いている。
 「何をしているのですか」と自分の後ろにいた貴婦人に聞いた。
 「引越しよ」
 「誰の引越しですか」と聞かなくても、そのテントの中の墓はレオポルド1世(1604年〜1705年)だということが分っていた。どうしてそのように思ったかのか、なんては聞かないで欲しい。そうなのだから。

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▲レオポルド1世(ベンジャミン・フォン・ブロッグ画、ウィキペディアから)

 レオポルト1世の墓のテントにくる途中、少々ひねくれた印象を与える若い男に会った。その男が車椅子に乗ってこちらに来る。多分、お母さんだろう、歩けない息子の車椅子を後から押している。
 若い男は当方を見つけると、「引越しだ」という。
 「とにかく、隣人の歯軋りが煩くて眠れないのだ」と不満をいいながら行った。
 
 へえー、死人も隣人の歯軋りが煩くて眠れないこともあるのか、と驚いた。

 テントの前に集まっている人々を写真に撮ろうと考え、高い場所に上がってテントの方を覗いた。そして、2度ほどシャッターを切った。
 「自分はフィルム時代から現像代を節約するために余りシャッターを切らない癖がある」と考えた。
 そして目が醒めた。

 「俺の夢の中にどうしてレオポルド1世が出てきたのだろうか」と考えた。そういえば、当コラム欄で最近、オスマン・トルコの恐怖について書いたばかりだ。レオポルド1世は確か、オスマン・トルコの北上で苦しめられた国王だったはずだ。
 「それにしても、引越しとは。オスマントルコの再襲来を恐れ、逃げ出すのだろうか」と勝手に考えた。

 
 夢の話を妻にした。同じ様に、「どうしてあなたの夢の中にレオポルド1世が出てきたのかしら」という。夢の話を聞いていた娘は「歯軋りが煩くて引越しした青年はレオポルド1世だったよ」とズバリ、いった。
 なるほど、そうならば辻褄が合いそうだ。隣人の歯軋りは地上でのトルコ系移住者たちのデモ騒動を差しているのではないか(「トルコ系移住者社会も分裂の危機」2013年6月25日参考)。

 朝食を早めに切り上げ、国連の記者室に出かけた。

 レオポルド1世がどのような人物だったのか、気になったのでコンピューターのサーチで調べてみた。レオポルド1世は神聖ローマ皇帝で、ハブスブルク家の復興に貢献した人物だ。その遺骨はウィーンのカプツィーナー納骨堂に納められているという。
 忘れていたが、当方はハプスブルク王朝の“最後の皇帝”カール1世の息子オットー・フォン・ハプスブルク氏とインタビューしたことがある(「ハブスブルクさんの『思い出』」2011年7月6日)。間接的だが、レオポルト1世とは縁があるのかもしれない。

 それにしても、ハブスブルク王朝を再建した立役者レオポルド1世が亡くなって300年後、当方の夢に現れたのだ。隣人の歯軋りが煩くて、引越し中だったのだ。

 読者の皆さんはこの夢の話をどのように受け取られるだろうか。その日、見たり、聞いたりしたことが夜の夢の中でさまざまな変容を経ながらも再現される事がある。その一方、夢を見ている人とは関係なく、夢の中に登場してくる厚かましい人物もいる。

 そういえば、最近、興味深い夢を見る人が増えてきた。知人の外交官は「俺は夢をほとんど見ないが、妻が毎夜、夢をみる、それも少々、現実離れした話が多い。先祖が出てきたり、見知らぬ人物が登場するのだ。俺は妻に説得されてカトリック信者になったが、神も死後の世界も知らないし、体験したこともない」と説明し、当方に妻の夢の解釈を求めてきた。

 「神は言われる。終わりの時に、わたしの霊をすべての人に注ぐ。すると、あなたたちの息子と娘は預言し、若者は幻を見、老人は夢を見る」(新約聖書「使徒行伝」2章)という聖句を思い出した。
 300年前に亡くなった皇帝レオポルド1世が当方の夢の中に現れたとは言わなかったが、知人の外交官には科学者エマヌエル・スウェーデンボルグ(1688年〜1772年)の「霊界日誌」という著書を紹介した。

 「地上では会えない歴史的な人物と夢の中で親しく話すことができれば、楽しいかもしれませよ」といって、知人の外交官の顔をチラッと見た。
 

脱法ドラッグの脅威

 ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務所(UNODC)のフェドートフ事務局長は26日、国連麻薬委員会(CND)の特別会期で「世界薬物報告書2013年」を公表した。それによると、ヘロインやコカインといった伝統的な麻薬類の摂取は減少傾向も見える一方、処方せん医薬品や向精神薬の乱用が増加している。

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▲「世界麻薬レポート2013」を発表するUNODCの記者会見(2013年6月26日、ウィーンの国連で)

 新型の向精神薬(NPS)は脱法ドラッグやデザイナー麻薬と呼ばれ、現麻薬法や薬事法では取り締まりができない。そのため世界的に急速に拡大、深刻な健康リスクとなってきている。
 具体的には、2009年末までにUNODCに報告されたNPSの数は166種類だったが、昨年末にはその数は251種類と50%以上増加。NPSのトータル数は国際麻薬条約に管理された234個を初めて上回った。
 
フェドートフ事務局長は「NPSは合法的に売買されている。インターネットで購入するケースも増えてきた。NPSの安全性はチェックされたことはない。伝統的な麻薬より危険なものが少なくない。路上ではスパイス(Spice)、Meow Meow、 バスソルト(Bath salts)といったナウな呼び方で青年たちを誘惑し、摂取しても安全だという印象を与えている。国際管理が欠如しているので、取り締まりは常に後手に回る」と指摘、「NPSの生産、不法取引、乱用を阻止するため早期警告システムを確立して具体的な対応が重要だ」述べている。

 一方、ヘロインやコカインなど伝統的麻薬類の乱用は欧州では減少傾向がみられる。コカインの市場は南米とアジアに拡大してきた。また、アフリカ諸国は不法麻薬の取引と生産の拠点となってきたという。

 世界最大のアヘン生産国はアフガニスタンで、昨年の世界アヘン生産の約75%を占めているが、気候不順などで生産量は約4905トンと前年比で約30%減少した。コカイン生産は11年とほぼ同水準で、米国では減少傾向が続き、西欧と中欧では変わらない。アフリカ諸国と南米ではコカインの消費は増加。アジアではコカインの乱用拡大の兆候が見られる。

 エクスタシーを含むアンフェタミン類の覚せい剤(ATS)の乱用は全世界的に拡大し、2011年には15歳から64歳の世界人口の0・7%、約3380万人が摂取したと推定されている。ちなみに、カンナビス(マリファナ)は世界で最も乱用されている不法麻薬だ。

スノーデン氏は犯罪人か、英雄か

 香港から姿を消して以来、その行方に強い関心が注がれている。モスクワに依然、留まっているのか、それとも既に亡命先に向かっているのかーー世界のメディア関係者をいらいらさせている人物は米中央情報局(CIA)元技術助手エドワード・スノーデン氏(29)だ。

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▲NSA本部(NSAのHPから)

 同氏は、英紙ガーディアンと米紙ワシントン・ポストの2紙に対して、米国家安全保障局(NSA)が「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施し、米国民ばかりではなく、欧州を含む世界の国民の電話通信記録やネット情報を大量入手していると暴露した。

 あれから3週間余りが過ぎる。スノーデン氏の暴露による最初の衝撃が少し収まったので、ここら辺で重要な点を確認する作業に取り組みたい。
 スノーデン氏は、米国当局の犯罪行為を暴露した英雄か、それともスパイ活動取締法違反容疑などで訴追された重要犯罪人だろうか、という問題だ。

 明確な点は、スノーデン氏は米国の法律を違反したことだ。米国民は国内法を遵守する義務がある。ましてや、情報機関に従事する人間は守秘義務がある。同氏はその義務に反する行為をした。その意味で、スノーデン氏は重要犯罪人だ。

 中国とロシア両国の対応はどうか。スノーデン氏は米重要犯罪人であり、米国と犯罪引渡し条約を締結している両国は米国の重要犯罪人を米国に引き渡さなければならない義務がある。厳密にいえば、両国はこのままでは共犯者となる。ワシントンが両国政府に対して強い不快感を表明したことは当然だろう。

 米当局が国民の個人情報ばかりか、欧州など主要国の国民の情報も収集していたことに対し、スノーデン氏は「NSAは言論、通信の自由を侵し、個人の生活領域に干渉している」として、良心の声に従ってメディアにリークしたと説明した。同氏は自身の行為の潔白さをこれだけの説明で説得できると信じているのだろうか。

 一方、メディアはどうか。スノーデン氏は米英の2紙のメディアにリークすることで世界のメディアを味方につけることに成功した。同氏の狙い通りに、メディアはその後、「悪いのは盗聴した米国当局であり、スノーデン氏はその良心にも基づいてそれを暴露しただけだ」という論調が支配的だ。
 例えば、「スノーデン氏は年給20万ドル以上の職を捨て、愛する女性との生活も断念した。そして、良心の声に従い、多くの犠牲を覚悟でNSAの悪行を暴露した」という。だから、同氏を「現代の英雄」扱いで報じるメディアすら出てきたわけだ。

 しかし、英紙ファイナンシャル・タイムズも指摘しているように、スノーデン氏は英雄ではない。国家の機密を暴露し、潜在的敵国の利益を助けたわけだから、明らかに犯罪人だ。オバマ大統領は「テロから国家と国民の安全を守ることが最優先課題だ」と述べ、国民に理解を求めた。

 2001年9月11日の米国内多発テロ事件を体験し、最近ではボストン・マラソンでのテロ事件に遭遇した米国民は「当局の情報管理は好ましくないが、テロ対策上、仕方がない」という声が案外多い。米国民は欧州の国民以上にこの問題では冷静だ。

 スノーデン氏のリークが明らかになった直後、米雑誌「タイム」が世論調査をしたところによると、米国民の54%は「同氏の暴露を歓迎する」と受け取っている一方、ほぼ同数の53%が「しかし、その暴露行為は違法だ」と考えている。

 ところで、米当局の情報行動によって「被害を受けた」という国民は今のところほとんど現れていない。実際の被害はスノーデン氏の「良心に従って暴露した」ことによって生じた米国益の損失だ。換言すれば、スノーデン氏は世界のテロリストを助けたことになるわけだ。
 
 「テロ対策も大切だが、対テロの名目で個人のネット情報まで盗聴する必要はない。明らかに許容範囲を逸脱している」という優等生のような見解も聞こえてくるが、そのような人には、「それではどうしたらテロを未然に防止できるか、その代案を提示すべきだろう」と言わざるを得ない。代案なく、政府のテロ対策だけを批判しているのでは実りある成果は期待できないからだ。

 当方は、スノーデン氏がNSAの情報活動をメディアに暴露した本当の理由は「良心の声に従った」というより、もっと別の個人的な理由があったのではないか、と推測している。

中国人事務局長の誕生は朗報か

 大方の予想通り、国連工業開発機関(UNIDO)の新事務局長に中国のエリート官僚、李勇(Li Yong)財政部副部長が第1回投票で選出された。当選には工業開発理事会(IDB)の53カ国中、3分の2以上の支持が必要だが、李氏は37票を獲得した。事務局長選には、李氏のほか、ポーランド、イタリア、アフガニスタン、カンボジア、タイから5人の候補者が立候補していた。なお、李氏の4年の任期は今月28日のUNIDO総会特別会期で承認を受けて正式にスタートする。

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▲加盟国から当選の祝辞を受ける李勇氏(2013年6月24日、撮影 )

 IDBが開催された国連Mビル1階の会議前にはUNIDO会議としては珍しく、カメラ・チームを含むジャーナリストたちが待機していた。その半分以上は中国人ジャーナリストたちだ。中国ジャーナリストがウィーンの国連の会議でこれほど多く集まったことはなかった。
 あれも、これも李勇氏のUNIODO事務局長選勝利を北京に速報するためだ。国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長が日本人だということで理事会に多い時には10人以上の日本人ジャーナリストが集まる。同じ現象だろう。

 第1回投票で早々と当選した李氏は加盟国代表から祝辞を受けていた。その中でもイランのソルタニエ大使の喜ぶ姿は際立っていた。「これでUNIDOは中国とイラン両国で主導できる」といった計算があるのかもしれない(「UNIDOの乗っ取りを図る中国」2013年3月22日参考)。

 UNIDOでは過去、米国、オーストラリア、カナダ、英国、ニュージーランド、フランスなど欧米の主要加盟国が次々と脱退し、専門機関として存続が問われてきた。特に、米国が脱退してからは、世界のメディアもUNIDOの動向は報道しなくなった。UNIDOで記事となるのは、その腐敗と不正問題だけだ、といわれるほどだ。

 中国人外交官と話す機会があった。同外交官は「李事務局長は停滞してきたUNIDOの再建という大きな課題を担うことになる。喜んでばかりいられない」と述べていた。正直な感想だろう。
 李勇次期事務局長には最大分担金を拠出する日本と連携して、UNIDO本来の目的、アフリカ、アジアの開発途上国支援にその力を発揮して頂きたいものだ。 
  
 いずれにしても、中国人事務局長の誕生はウィーン国連にとって朗報だろう。李事務局長の一挙手一投足を報道するため多くの中国人ジャーナリストがUNIDO会議をフォローするだろうからだ。「UNIDOが活気を取り戻すかもしれない」といった淡い期待も聞かれる。その一方、「欧米主要国の不在をいいことに、中国はアフリカ支配の野望実現のためにUNIDOを利用していくだろう」という懸念の声もある。

トルコ系移住者社会も分裂の危機

 トルコで先月末からエルドアン政権の強権政治に抗議する反政府デモが続いている。その一方、政権支持派のデモや集会も頻繁に開かれている。
エルドアン首相は16日、与党の「公正発展党」(AKP)の集会で演説し、市中心部のゲジ公園からデモ隊を強制排除すると宣言する一方、反政府デモ隊の主要グループ「タクシム連帯」は「エルドアン政権の強権と腐敗に抗議を続ける」と主張している。

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▲トルコ系移住者のデモを報じるオーストリアのメデイア(2013年6月24日、撮影)

 ところで、トルコ国内の混乱はドイツについで多くのトルコ系移住者・労働者(約20万人)を抱えるオーストリアにも波及、23日にはエルドアン政権を支持するデモとそれに抗議する反政府デモが行われたばかりだ。

 オーストリアの首都ウィーン市で23日午後、約8000人のトルコ系移住者がエルドアン首相の写真を高く掲げ政権支持のデモを行う一方、約600人のトルコ系移住者は政府批判のデモを行った。オーストリア警察側は政権支持派と反政府系のデモ隊の衝突を回避するために厳重警戒を敷いていた。

 政府支持派デモ参加者は「エルドアン政権はわが国の国民経済を発展させてきた」と政権を擁護。反政府デモ参加者は「「催涙ガスや放水で民主的デモ参加者を鎮圧している。エルドアン政権は強権を行使し、言論・結社の自由を蹂躙している」と批判する、といった具合だ。オーストリアのトルコ系移住者社会は母国の政権支持派と反政府派で分裂してきた。
 デモ参加者数ではエルドアン政権支持派が圧倒的に多い。オーストリアの治安当局によると、反政府系デモ参加者はクルド系とアレヴィー派系の移住者が多いという。

 ホスト国オーストリアはトルコのデモ騒動をどのように受け取っているのかといえば、エルドアン政権のデモ鎮圧に対しては批判の声が強い(死傷者が出ている)。エルドアン政権支持派のトルコ系移住者に対しては「エルドアン政権が良いというのならば、さっさと母国に戻っていけ」から「トルコ系移住者の国籍取得の際はその政治信条をチェックすべきだ」といった過激な意見まで飛び出してきた。
なお、オーストリアのシュビンデルエッガー外相は「トルコは欧州連合(EU)に加盟する資格はない」として、ブリュッセルに対しトルコとのEU加盟交渉再開の延期を要請しているという。

 オーストリア国民はオスマン・トルコのウィーン北上以来、トルコ民族の動向に強い警戒心を持っている。ウィーンを舞台としたトルコ系移住者の政府・反政府デモを目撃したオーストリア国民の心に“オスマン・トルコの恐怖”が蘇ってくるかもしれない。
 同国の統合問題担当のクルツ次官は「トルコ系移住者は母国の政治問題をわが国に持ち込まないようにすべきだ」と要請しているほどだ。


【短信】UNIDO次期事務局長に中国の李勇財政部副部長を選出

 ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)は24日、第41回工業開発理事会(IDB、53カ国)を開催し、カンデ・ユムケラー事務局長の後任事務局長に中国の李勇財政部副部長(62)を選出した。UNIDO関係者によると、李次期事務局長は53カ国中、37票を獲得し、第一回投票で当選を決めた。事務局長選には7人が立候補していた。

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▲李勇次期事務局長

 李勇次期事務局長は2003年以来、中国財政分野の主要人物。中国人民銀行通貨政策委員会のメンバー、国際金融危機対策国家タスク・フォースなどを歴任してきた。
 UNIDOでは過去、米国、オーストラリア、カナダ、英国、フランス、オランダなど欧米の主要加盟国が次々と脱退し、専門機関として存続が問われてきた。
 ユムケラー事務局長時代の腐敗と縁故主義で汚染されたUNIDOを再建し、加盟国の支持を得ることできるかが新事務局長の課題となる。


「正しい歴史認識」の前にすべき事

 産経新聞電子版を読んでいたら韓国の高校生による日本語スピーチ大会が22日、ソウルの日本大使館公報文化院で開かれたという記事があった。そこで大賞の第1位となった仁川の高校3年の金賢珍さん(18)は、「直接全て話して伝える韓国語」と「間接的に気持ちを伝える日本語」の表現の違いを紹介し、「言葉の裏に含まれた本当の意味を探る努力をすることが本当の意思疎通だ」と語ったという。久しぶりに感動した。

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▲5月のパリの郊外風景(2013年5月、撮影)

 竹島問題から従軍慰安婦問題まで日韓両国は「正しい歴史認識」を巡って険悪な関係が続いてきた。その矢先だけに、18歳の金賢珍さんの「言葉の裏に含まれた本当の意味を探る努力」という発言には感動した。他者、それが他国の場合、その人の発言を正しく理解することは決して容易なことではない。金さんは「本当の意思疎通」は「本当の意味を探る努力」がなくして実現できないというのだ。

 33年前、当方は初めて欧州の地を踏んだ。それから異国の地で生活してきた。欧州の社会では韓国や日本以上に言葉が重要視されている。「間接的に気持ちを伝える」といった文化ではない。今、発した言葉が全てだ。沈黙はけっして金ではない。だから、異国に行けば先ずその言葉を学ばなければ生きていけない。

 最初は生きていくために言葉を学んだが、少し余裕が出てくると、次第に「相手の心を理解したい」という思いが深まっていった。「なぜ、彼は悩んでいるのか」、「なぜ、彼は涙を流すのか」、それを理解したいために、彼が使う言葉を学んでいった。

 「言葉」が重なリ「文化」を構成し、その文化が織り成してきた内容が「歴史」とすれば、「正しい歴史認識」まで到達するためにはどれだけの長い道程が控えていることだろうか。「歴史は民族の数ほどある」という表現を聞くが、それは大きくは間違っていないだろう。

 「正しい歴史認識」に取り組む前に、先ず「言葉の裏に含まれた本当の意味を探る努力」が日韓双方に大切だろう。意思疎通の努力をせず、「正しい歴史認識」と叫んでも空虚なことだ。
 そして相手を理解する最短手段は相手が話す言葉を学ぶことだろう。金賢珍さんのように、相手の言葉を学ぶ人々は愛の実践者だ。日本語と韓国語は文法が同じだから、学びやすいという人もいるが、他国の言葉を本当に理解するには常に至難が伴う。

 朴槿恵大統領の就任後最初の外遊地は米国だった。次の訪問先は中国だ。日本より中国を最初に公式訪問する初の韓国大統領となる。韓国側は領土問題や従軍慰安婦問題で対立する日本を意識的に外したわけだ。日本側は当然、そのように受け取っている。
 朴槿恵大統領が対日関係が悪化しているゆえに、何をさておいても日本を訪問していたら、日本国民は韓国大統領の「意思疎通の努力」に感動し、感謝したかもしれない。

 日韓両国を隔てているのは海だけではない。先述したように、言語が異なり、文化は異なっている。努力せずしては理解できないのだ。両国は今こそ、意思疎通を図る努力を積み重ねていくべきだろう。


 

「節約モード」のない国連機関

 国連の潘基文事務総長は昨年、国連工業開発機関(UNIDO)のカンデ・ユムケラー事務局長を「全ての人のための持続可能なエネルギー」担当事務総長特使に選出した。それを受け、UNIDOでは来週、第41回工業開発理事会(IDB)が開催され、ユムケラー氏の後継事務局長が選出される。

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▲ウィーンの国連機関の正面入口(2013年4月撮影)

 ユムケラー氏のUNIDO時代は終了し、いよいよ「全ての人のための持続可能なエネルギー」担当特使の任務がスタートする。新しい事務所とスタッフは既に見つかった。
 ところが、欧州のエネルギー問題専門家は「ユムケラー氏のスタッフは多くはエネルギー問題の素人であり、同氏の友人、知人たちの集まりに過ぎない。彼らは国連事務総長の給料を凌ぐ高給を受け取るが、その能力は甚だ疑わしい」という。

 同専門家は笑いながら「国連事務総長が呼称した『全ての人の為の持続可能なエネルギー』と同じ名前の非政府機関(NGO)がオランダに存在する。彼らは経験もあり、専門家達の集まりだ。そのNGOの設立目的は国連事務総長が感動するぐらい同じだ。アフリカ諸国などの開発途上国への持続的エネルギーの確保だ。エネルギー問題の素人の人間を急遽集めて、資金だけを浪費するよりは、経験と実績があり、専門家グループのNGOと連携するほうが、国連が本来目的としていることを達成できるだろう」という。

 なぜ、潘基文事務総長はエネルギー問題の素人であり、UNIDOを崩壊させたユムケラー氏に新設の任務を任せたのだろうか。UNIDOのことを少しでも理解している人ならば同じ疑問を呈するだろう。例えば、オランダのNGOと国連が連携すれば、無駄な出費も節約できるうえ、具体的な成果が期待できるかもしれないのだ。

 国連機関は加盟国が拠出した資金で活動をする。しかし、予算を削るとか、節約するという発想は非常に少ない。UNIDOだけではない。例えば、国連薬物犯罪事務所(UNODC)と国際麻薬統制委員会(INCB)は毎年、ほぼ同時期に世界の麻薬状況をまとめた数百ページの年報を公表する。問題は国連の両機関が同じような内容の年報を別々にまとめ、発表する必要があるかどうかだ。当方は一度、質問したことがある。国連関係者は「INCBが国際条約の監視を目的とし、UNODCの年報は世界の麻薬状況をまとめている」と違いを強調したが、両年報に目を通した限りでは「両機関が連携して一冊の年報にすることは十分可能だ」というものだ。大量の時間と紙を浪費するほどの必要性は感じられない。

 あれも、これも、自分が汗を流して稼いだ金ではないからだ。自分の金ならば、その使用方法や能率を慎重に考えるが、手元の金は加盟国から提供されたものだ。利用しないで返金することはない、といった考え方が国連関係者には多い。

 ウィーンの花形の国連専門機関、国際原子力機関(IAEA)で広報担当官がジュネーブに転勤することになった時、レストランで記者たちを招いて歓送会をした。IAEA広報関係者が後日、当方に話してくれたが、「広報部の予算が残っていたので歓送会を開くことにした」というのだ。与えられた予算は完全に使う、といった考え方がそこにはある。

 金融危機が席巻し、世界のどの国でも今、節約が至上命令だ、「経費の節約」から「人件費・旅費の節約」まで、到る所で節約モードだ。唯一、例外は国連機関だろう。与えられた予算はゼロまで使わなければ損、といった浪費哲学が支配している。付け加えると、国連機関ほど腐敗と縁故主義が闊歩しているところはないのだ。

 

ホモ雑誌編集長の証言

 「ローマ・カトリック教会総本山、バチカン法王庁には同性愛者のロビー活動が存在する」とローマ法王フランシスコが今月初め、南米・カリブ海修道院関係者との会合の中で漏らしたことはこの欄で報道したが、独週刊誌シュピーゲルの最新号はホモ雑誌「男たち」の編集長、ダニエル・ベルガー氏(45)とのインタビュー記事を掲載し、フランシスコ法王の「同性愛者のロビー」発言が事実であることを裏付けている。ベルガー編集長は以前、月刊誌「神学的なこと」の編集長を務めていた人物で、カトリック教会では保守派に属する。

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▲コンクラーベ前に開催された枢機卿会議(バチカン放送独語電子版から)

 以下、同編集長との会見内容の概要を紹介する。

 ――フランシスコ法王がバチカン内にホモ・ネットワークが存在すると発言したが、事実か。

 「事実だ。ただし、教会内の保守派勢力が主張するようなものではない。それはバチカン内で潜行する秘密結社でもない。全く逆だ。多くのホモ聖職者は法王に特別に忠実だ。バチカン内のホモ、ネットワークは実務的だ。どこで見つからずに性的コンタクトができるか、どこに愛人を買うことができるか、ホモがくる酒場はどこか、などの情報を交換する。例えば、モンテ・マリオでは密かに接触するための住居を借りることができる。その家の鍵を持っている聖職者は多い。このネットワークはバチカンの高位聖職者、典礼秘跡省や国務省の関係者まで含まれる」 

 ――新法王はホモ問題を前法王から相続したのか。

 「フランシスコ法王はバチリークスに関する機密報告書を読んだはずだ。そこには元国務省関係者の書簡があるが、その中には『ホモ・グループがローマ法王周辺にまで拡大している』と記述されていたはずだ。べネディクト16世は退位表明前にこの書簡内容を読んだ可能性が濃厚だ」

 ベルガー氏の発言はこれまでの憶測を裏付けてる。世界に約12億人の信者を抱える教会の総本山、バチカンに同性愛者がたむろしているのだ。その事実に直面したベネディクト16世はバチカン内の粛正を断行できるだけの体力がもはやないと判断し、早期退位を決意し、新しい法王にその役割を託したわけだ。



【短信】 オーストリアで「日本博物館」開設計画

 オーストリアのラインホルド・ロパトカ外務次官は21日、「オーストリアのシュタイアーマルク州のフュルステンフェルト郡(市)で日本の手芸の工芸品を展示する日本博物館を開設する計画がある」と発表した。
 同次官の説明によると、「日本の47都道府県から独自の手芸品を集め、一同に展示する博物館だ。欧州でも初めての試みであり、オーストリアと日本両国関係の一層の発展をもたらすユニークなプロジェクトとなるだろう」という。博物館の近くにホテルと共に日本風温泉も開きたいという。

 ロパトカ次官は同日、駐オーストリアの岩谷滋雄日本全権大使、それに博物館を開設するフュルステンフェルト市のヴェルナー・グツヴァル市長らと共に博物館開設の予定地を視察し、「わが国はこのプロジェクトを全面的に支援する」と強調した。なお、博物館開設地のフュルステンフェルト郡全体の人口は約2万3000人だ。同郡(市)にとって、日本博物館の開設は一種の“町おこし”だろう。

 同次官は「日本の47都道府県関係者に手紙を送り、プロジェクトの趣旨を説明し、展示品などの支援を要請する」という。

欧米情報機関の密接な連携

 オバマ米大統領は英・北アイルランドで開かれた主要8カ国(G8)サミット会議(17、18日)後、ベルリンを初めて公式訪問した。滞在中、メルケル独首相、ガウク大統領等らと会談したほか、ブランデンブルク門前で演説し、核兵器削減をロシア側に提案した。そして25時間余りのベルリン滞在を終え、ワシントンに戻っていった。

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▲ウィーンの国連の夏風景(2013年6月、撮影)

 注目された欧州連合(EU)の盟主ドイツのメルケル首相との会談では、米国家安全保障局(NSA)が「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施し、米国民の電話通信記録やネット情報を大量入手していた件について、「意見の交換が行われた」という。米国の情報収集が米国内だけでなく、欧州を含む全世界を網羅していたことから、欧州の政治家、国民の間にも米国の情報活動に批判の声が挙がっていた。それだけに、オバマ大統領の説明に注目が集まったわけだ。
 
 ベルリンからの情報によると、「プライバシーの保護とテロ対策の間のバランス」を最大限に考慮することで両首脳は一致したという。メルケル首相がオバマ大統領を激しく追及するシーンもなく、外交的な表現で終始したという。
 
 それでは、9月末に連邦議会選挙を控え、国民の関心が高い米情報活動問題でなぜメルケル首相はオバマ大統領を強く批判しなかったのだろうか。ゲストを最大限にもてなさなければならないホスト国の義務感からだろうか。
 
 その答えは明瞭だ。独連邦情報局(BND)が久しくNSAの情報の恩恵を受けているからだ。独週刊誌シュピーゲル最新号(6月17日号)は「イスラム過激派が2006年、ドイツ国内で大規模なテロを計画していたが、NSAから関連情報を事前に入手したBNDはテロ容疑者を拘束し、テロを未然に防止したことがある」と紹介し、NSAとBNDの両国情報機関の連携ぶりを報じている。
 
 考えてみてほしい。恩恵を受けているドイツが情報提供国の米国をどうして批判できるだろうか。メディアと国民の手前、少しは苦情を披露しなければならないが、米国の情報活動全般を批判することは出来ない、というのがメルケル首相の立場なのだ。
 
 一方、情報大国の米国も同盟国の情報機関との連携が不可欠だ。実際、米情報機関は世界の情報機関、特に、英国、フランス、ドイツの情報機関とは密接な連携をしている。
 だから、米中央情報局(CIA)元技術助手エドワード・スノーデン氏(29)がNSAが「プリズム」と呼ばれる監視プログラムを実施し、米国民の電話通信記録やネット情報を大量入手していると暴露した時、困ったのはNSAだけではなく、欧州の情報機関も同様だったというのだ。
 
 NSA活動を批判した欧州の政治首脳がいたとすれば、それはあくまでも国内向けのジェスチャーに過ぎない。シュピーゲル誌は「ベルリンのNSA批判はまさに偽善そのものに過ぎない」と指摘しているほどだ。同誌によれば、BNDも独版ミニNSAを密かに計画しているというのだ。
 
 ウィーンが北朝鮮の欧州拠点であった時、当方は、韓国の国家情報院関係者と日本の公安外交官が定期的に会食し、情報交換をしていたのを頻繁に目撃してきた。グローバルな世界では情報収集は一国では不可能であり、他国の情報機関との連携なくして信頼性のある情報は入手できないのだ。情報大国・米国も例外ではないのだ。
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