ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年05月

中朝国境都市にサリンの雨が降る

 中国は空母を建設し、核戦略を増強している。同国は核兵器を運搬する長距離弾道ミサイルの増強に力を入れており、昨年7月に最新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風41」の発射実験を行った。東風41は最大10発の核弾頭を搭載し、それぞれ異なる標的を攻撃できるという。その軍事大国・中国が恐れているには米国の近代兵器だけではない。隣国の北朝鮮人民軍が製造している化学兵器だ。

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▲風になびく北の国旗(2013年4月11日、ウィーンで撮影)

 脱北者らの情報では国内に少なくとも5カ所、化学兵器を製造する施設がある。中国が恐れているのは両国国境近くにある北の化学工場だ。

 北消息筋によると、2008年11月と09年2月の2度、中国の国境都市、丹東市でサリン(神経ガス)が検出されたという。中国側の調査の結果、中朝国境近くにある北の新義州化学繊維複合体(工場)から放出された可能性が高いというのだ。北の化学兵器管理が不十分だったり、事故が発生した場合、中国の国境都市が先ず大きな被害を受けるわけだ。

 中国の知識人の中に、「北朝鮮切捨て論」の意見がここにきて勢いを得てきたが、北の金正恩政権が北京の意向に反して核実験をし、長距離ミサイルを発射するからだけではない。化学兵器用の神経ガスを中国側にばら撒くからだ。大きな被害はまだ報告されていないが、「中国側の懸念は非常に現実的だ」という。

 もちろん、問題は神経ガスだけではない。当方はこのコラム欄で残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs)について報告したが、残留性有機汚染物質は、毒性が強く、分解が困難で長期間、人体や環境に悪影響を与える化学物質だ。例えば、ダイオキシン類やDDTだ。DDTは有機塩素系の農薬でPOPsの規制対象物質だ。日本では1971年に使用が禁止されたが、同条約に加盟している北朝鮮はDDTをまだ使用している。
 残留性有機汚染物質の怖さは、悪影響が一国だけに留まらず、地球全土に拡大することだ。平壌がDDTの使用を中止しなければ、土壌が汚染し、その影響は時間の経過と共に他国にも拡大する。簡単にいえば、北朝鮮の汚染物質は偏西風やグラスホッパー現象などを通じて日本や中国にも影響を与える。日本で久しく使用されていないDDTが国内の土壌から検出されたということが度々起きる理由だ。

 だから、中国は隣国北の残留性有機汚染物質の影響に神経を尖らしてきたわけだ。その上、北製の化学兵器用神経ガスが風に乗って中国国土に降り注いできたら、たまったものではない。

 これで「軍事大国・中国が北朝鮮の化学兵器を恐れている」という意味をご理解されたと思う。どこに飛んでいくか不明な北の長距離ミサイルや暴発するかもしれない核兵器と共に、中国は今、国境沿いにある北の神経ガス製造工場の管理事故や不祥事を恐れ出しているのだ。

  

「韓国外交は黄金期を迎えた」

 ウィーンのホーフブルク宮殿で28日から3日間の日程で「ウィーン・エネルギー・フォーラム」が開催中だ。フォーラムは国連工業開発機関(UNIDO)、オーストリア外務省、そして「応用システム分析国際研究所」(IIASA)が共同主催。国連持続可能な開発会議「リオ+20会議」(2012年6月)後のエネルギーの未来について,意見の交換や議論が行われた。参加者は約1500人だ。

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▲ウィーンの国連(2013年5月、撮影)

 それに先立ち、記者会見が開かれ、UNIDOのユムケラー事務局長らがジャーナリストの質問に答えた。事務局長は7月1日付で潘基文国連事務総長から任命を受けた「全ての人のための持続可能なエネルギー」担当特使として職務を行うが、「政治家、民間企業、国民と連携して持続的エネルギーの開発に取り組みたい。特に、中国、ブラジル、国連、オーストリア、アフリカ諸国らと連携とっていきたい」と述べた。

 不思議に思ったのは、事務局長の口からUNIDO最大分担金拠出国であり、特使の事務所開設にも資金を提供した日本の名前が一度も飛び出さなかったことだ。その一方、事務局長が頻繁に挙げた国は「中国」だ。UNIDO次期事務局長に中国人候補者が有力というだけに、中国との関係を今から配慮している、といった感じだ。

 ところで、 「日本の名が出てこなかった」ということで思い出した。1990年の湾岸戦争では日本は巨額の軍事資金を提供したが、戦後、クウェート政府が米紙に掲載した支援国への感謝記事の中に日本名が入っていなかったことがあった(クウェート政府は後日、謝罪した)。
 UNIDO事務局長の発言がそれと同じとは思わないが、日本の外交は本当に目立たない、と痛感する。日本国民の税金が投資されていながら、それだけの評価が乏しいのだ。

 前置きが長くなった。ここからこのコラムの本題に入る。

 日本は、従軍慰安婦問題や尖閣諸島問題でも韓国、中国のやり放題外交に振り回されている。
 日本外交と好対照は韓国の外交だ。韓国の金塾国連代表大使は「わが国の外交は現在、黄金期を迎えた」と自負している。同大使は韓国の中央日報(5月27日付)のインタビューに応えている。今年2月に安保理理事会議長を務めた金大使は「来年4月に韓国がまた議長国を引き受ける予定だ。国連事務総長と安保理理事会議長を韓国人が同時に務めることができる最近は大韓民国の多者外交の黄金期だ」と表現している。なんという自信だろうか。ちなみに、金大使は「(潘基文事務総長が)目に見えるように韓国をひいきすることはできないが、恩恵は受けている」(中央日報日本語版)と正直に告白している。

 橋下大阪市長の従軍慰安婦問題でも、韓国中央日報(日本語版)は23日の社説で、「慰安婦に関する日本の一部のおおっぴらな歴史わい曲発言や侮辱的な言葉が、ついに国際社会の批判と介入を招いた」と指摘し、「ジュネーブの国連経済・社会・文化的権利委員会(CESCR)は21日、『日本は、憎悪発言(ヘイトスピーチ)と元慰安婦の女性らに汚名を着せるような行為を防ぐために国民に慰安婦の強制連行問題を教育するよう願う』と明らかにした。 国際機構が慰安婦問題についての日本社会の無理解を指摘して強力な対策を要求した」というのだ。

 国連委員会が名指しで加盟国を批判することは珍しい。ここで言及されたCESCRは18人の専門家から構成されているが、韓国人と中国人は入っているが、日本人はいない、と説明すれば、その謎も容易に解ける。CESCRの日本政府への勧告がどのようにして成立したか賢明な読者は既にお分かりだろう。

 黄金時代を迎えた韓国外交は、領土問題や従軍慰安婦問題について自身の見解をぶっつけるだけではない。「国連が批判した」といわさせているのだ。主語が「国連」であり、「韓国政府」ではないのだ。韓国外交の巧みな戦略だ。それに比べ、日本の国連外交の驚くほどの静けさはどうしたことだろうか。
 
  

橋下市長発言と「メディアの責任」

 韓国紙・中央日報で日本への米軍の原爆投下は「神の懲罰だった」と主張するコラムを掲載した同紙論説委員は27日、「自分の本来の趣旨と異なり……」と説明し、関係者に謝罪表明する記事を載せた。一方、「従軍慰安婦」問題の発言で批判にさらされてきた橋下大阪市長は同日、東京都内の外国特派員協会で記者会見し、「日本は慰安婦の方々に謝罪とおわびをしなければならない。私の発言が慰安婦を容認していると受け取られたことは遺憾だ」と述べている。

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▲国連建物4階から見たウィーン市の遠景(2013年5月27日撮影)

 韓国の論説委員も橋下市長も「本来伝えたかった趣旨と異なり、受け取られ、誤解された」と悔やんでいる。弁解でないとすれば、「誰が論説委員の記事と大阪市長の発言趣旨を誤解し、歪曲したのか」という問題が出てくる。
 日韓両国の国民だろうか。結果的にはそのように受け取られているが、その誤解の発端となったのは両者の発言を掲載し、報道した日韓メディアだろう(中央日報紙の場合、論説委員の表現問題もある)。

 ここでは橋下市長の「従軍慰安婦」問題の発言を再度、考えてみたい。当方が理解した範囲では、彼の発言内容は従軍慰安婦を容認していない。市長は戦時の兵士たちの哀れな現実を改めて説明しただけだ。それを「従軍慰安婦容認」と受け取り、報道したのはメディアだ。

 メディア機関に従事するわれわれは、自戒と反省を常に忘れないようにしなければならない。例えば、性風俗を煽っていながら、性犯罪が発生する度に「許されない蛮行だ」と批判する。性風俗を煽った側のメディアの責任などは忘れさられている。そして、いかがわしい性情報に踊らされた人間に対して、「現代の性モラルは嘆かわしい」と解説する。嘆かわしいのはメディア側の倫理問題だ。

 橋下市長は戦争時の人間の性問題を説明した。同市長が提示した「人間の性」について再考する解説記事を掲載したメディアはあっただろうか。メディアには宗教的側面が決定的に欠落している。発言を表面的に受け取り、その内容をトピック化することに専念する。換言すれば、話題となり、面白ければいいのだ。

 橋下市長の発言は「なぜ、人は究極的な状況下(戦時)では自身の欲望に走り、他者(主に女性)を傷つけるのか」という有史来のテーマを提供している。その問題が解決されない限り、紛争は解決できないからだ。国連が世界の紛争を解決するのではない。われわれ1人1人の中に潜むこの問題を克服しない限り、世界の紛争は永遠に繰り返されるだろう。

 メディアが人間の性問題を突っ込んで議論しないのは、メディア自身の性倫理が問われる危険が出てくるからだ。いかがわしい性情報を垂れ流している張本人だからだ。メディアは戦争時の兵士の性問題だけではなく、人間の中に潜む性の問題を掘り下げて分析し、報道しない。従軍慰安婦問題でも政治的側面だけ捉え、発言者を批判するだけだ。

 橋下市長の発言は本来、人間の性問題を考える絶好の機会だった。それをメディアは橋下市長の発言を政治的側面からだけ報じ、韓国の批判と反発を恣意的に誘った。今回の件では、自省し、謙遜にならなければならないのは橋下市長ではなく、メディア側だ。

われわれは見られている

 米国で人気のある米CBS放送の「パーソン・オブ・インタレスト」(Person Of Interest)をご存知だろうか。日本では「犯罪予知ユニット」として紹介されているというから、ご覧になった読者もおられるだろう。

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▲ウィーン市内の地下鉄構内に設置された監視カメラ(2013年5月26日撮影)

 犯罪が起きてから犯人を捜査する従来の犯罪サスペンスではなく、犯罪発生前にそれを予知して防止するというところがユニークで、米国で始まったシリーズ2も人気を呼んでいるという。
 名優ジェームス・カヴィーゼルが元CIAエージェントを演じ、マイケル・エマーソンが演じるコンピューターの天才(ハロルド・フィンチ)と連携し、近い将来起きるであろう犯罪を防止する。必要な情報は全公共機関と連結するコンピューター網と監視カメラなどを通じて入手する。

 ここでは米TV番組を宣伝するのが目的ではない。犯罪やテロ防止のために監視カメラが到る処に設置され出したという現状を紹介することだ。ボストンのテロ事件でも監視カメラが重要な情報を捜査関係者に提供したことはまだ記憶に新しい。駅や学校など主要な公共施設には必ず監視カメラが行き交う人々を捕らえている。事件が発生した場合、監視カメラを検証するのが現在、警察関係者の最初の仕事となっているほどだ。

 例えば、バイエルン州はミュンヘン市内の犯罪多発地、公共交通機関周辺の監視カメラ設置を今後積極的に拡大していく。同州警察当局は「監視カメラは犯罪対策で不可欠であり、犯人捜査で貴重な情報を提供できる」と説明する。
 例えば、ミュンヘン市の地下鉄網には1265台、市内バス網には227台の監視カメラがそれぞれ設置済みだ。その他、ミュンヘン市のS鉄道網には202台の監視カメラが導入済みだ。

 ウィーンの地下鉄内で犯罪が急増してきたことはこのコラム欄で報告済みだ(「ウィーンの地下鉄にはご用心」2013年1月10日参考)。ウィーン市警察当局は監視カメラの拡大を急いでいる、といった具合だ。
  犯罪予知ユニットのフィンチは番組初めに「われわれは見られている」という台詞を語るが、その台詞が益々現実味を帯びてきたわけだ。

 蛇足だが、欧州社会では昔、キリスト教会は権威があり、信者たちは神の目を感じて生活し、悪事をすれば神の懲らしめを受けると考えてきた。しかし、教会が権威を失い、信仰が弱まり神の存在すら分からなくなった世俗社会で、“神の目”に代わって登場してきたのが“監視カメラ”だろう。いずれにしても、人は身を慎む為には常に何かに見られていなければならない存在というわけだ。

新法王のゴーストライターは誰か

 退位法王ベネディクト16世は南米出身の新法王フランシスコの法王就任初の回勅のゴーストライターだ、という噂が流れている。その情報源はイタリアのジャーナリストではなく、同国南部のLuigi Marttella司教だ。

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▲フランシスコ法王のゴーストライターは誰?(バチカン放送独語電子版から)

 同司教は教区誌の中で「前法王ベネディクト16世は信仰に関する回勅(法王公文書)を執筆していたが公表せず退位した。そこで前法王の回勅を新法王フランシスコの名で公表する」というのだ。同司教はバチカン定期訪問(アド・リミナ訪問)の時、フランシスコ法王から直接聞いた話という。同司教だけではない。数人の司教たちも聞いたという。これが事実とすれば、ベネディクト16世のゴーストライター説は立派な事実だ。

 ベネディクト16世は学者法王の呼称をもち、多忙な法王時代にも著書を発表するほどの書き手だ。退位直前に「ナザレのイエス」3部作を完成し、出版する著書はいずれもベストセラーとなる、といった具合だ。
 ドイツ人法王が退位という歴史的な決断を下した背後には、健康問題のほか、法王職が多忙でゆっくりと書物を読み、書くことが出来ないことに耐えられなくなったからだという憶測情報もあるほどだ。

 その退位法王は現在、バチカン内の修道院Mater Ecclesiae修道院で生活している。ゲスト・ハウスSanta Martaを拠点とするフランシスコ法王にとって、ベネディクト16世は文字通り隣人だ。新法王がその気になればいつでも会えるし、助言が必要ならば聞くことができる。世界的神学者であり、筆が立つベネディクト16世は南米法王フランシスコにとって理想的なゴーストライターの資格を有している。

 ベネディクト16世は「退位後は、瞑想と祈りで過ごしたい」と述べ、新法王の言動を阻害したくないと繰り返し語ってきた。その前法王に電話したり、その法王専用の夏季別荘カステルガンドルフォまでヘリコプターで会いに行ったり、前法王が近くに引っ越してくると挨拶に出かけた現法王だ。

 超多忙の現職ローマ法王は回勅をゆっくりと書いている時間がない。だから、現法王と前法王の間でゴーストライター契約が密かに締結されても不思議ではないだろう。現法王にとって執筆時間が浮く一方、学者法王にとって人生の生き甲斐が出てくる。現・前両法王にとってメリットだ。

 参考までに、バチカン法王庁のロムバルディ報道官は24日夜、「退位したベネディクト16世がフランシスコ法王の為に回勅を書き、フランシスコ法王がそれを自分の名で公表する考えはないだろう」と退位法王のゴーストライター説を否定する一方、フランシスコ法王が現在、信仰に関する法王就任初の回勅を準備していることは認めた。

 

公邸の幽霊は人を選ぶ

 日本のメディアに目を通していると、日本の安倍晋三首相が公邸に引っ越ししないのは公邸に幽霊が出るからではないか、といった面白い記事が載っていた。野党議員の質問に政府側がその噂の真偽について返答したというのだから、この幽霊話はかなり現実的だ。

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▲ホテルの窓から見たパリ郊外の風景(5月16日、撮影)

 産経新聞によると、「公邸は昭和11年、旧陸軍の青年将校が起こしたクーデター『2・26事件』の舞台となっており、犠牲者の幽霊が出るとの噂話がある」という。それでは、彼らは安倍首相に何らかのメッセージを託したいのだろうか。
 ここまで考えて、「それでは、幽霊は管直人元首相や野田佳彦前首相の時はどこにいたのだろうか」という素朴な疑問が出てきた。管元首相、野田前首相時代にも幽霊は公邸に住んでいたはずだが、例えば、彼らが管元首相の前に現れた、という話は聞かない。

 安倍首相時代になって現れた幽霊は、管氏や野田氏の時代には身を潜めていたとすれば、なぜか。安倍首相は幽霊の世界に親戚でもあるのだろうか。安倍首相は保守本流の流れをくむ。岸信介元首相から父親・安倍晋太郎元外相の流れから出てきた政治家だ。一方、管氏や野田氏はある意味で庶民派だ。保守派本流の政治家ではない。幽霊は首相の出自の違いを知って、管氏と野田氏時代には身を潜め、安倍首相が昨年末、就任してから再び活発化してきた、とでもいうのだろうか。

 それを理解するためには、幽霊の特性を知らなければならないだろう。幽霊が出る場合、幽霊とその人物の間には何らかの関係があるはずだ。自分の性格を理解できないような人物の前に幽霊は出て来ない、というより出てこれない。幽霊が傍にきてもそのような人物は分からないだろうからだ。幽霊は何らかのメッセージを地上の人物に託したいと願っている場合がある。地上で出来なかったことがあったら、地上の人物を通じて成し遂げたいと願うことがある。公邸の幽霊にとって、管氏や野田氏はメッセージを託せる政治家ではなかったのだろう。参考まで付け加えると、鳩山由紀夫元首相の場合、鳩山氏が宇宙人のため公邸の幽霊も対応できなかっただろう。

 幽霊からも軽視された管氏と野田氏は寂しく感じる必要はない。幽霊からも期待されなかった反面、幽霊騒動もなく公邸で安眠できたのだから。一方、幽霊がメッセージを託したい安倍首相は安眠を奪われる危険性が出てくる。安倍首相が「公邸の幽霊」との出会いを回避するために、公邸引っ越しをこれまで避けてきたとすれば、立派な危機管理だ。いずれにしても、日本の総理大臣を務める安倍首相は「公邸に幽霊がいるから」と公式に説明するわけにはいかないだろう。

なぜ、人は結婚し、離婚するか

 オーストリア連邦統計局によると、同国で昨年、結婚件数が増加する一方、離婚件数は軽減した。23日明らかになったところによると、昨年の結婚件数は3万8592件で前年比で5・9%増を記録した。一方、離婚件数は1万7006件で前年比で1・7%微減し、同年の離婚率は42・51%だった(前年43・02%)。10組のカップルのうち4組以上が離婚する計算となり、同国が依然、世界的な離婚国なわけだ。

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▲国会では家族問題も重要な政治課題(オーストリア連邦議会、2013年4月、撮影)

 以下、オーストリアのカトプレス通信の記事から紹介する。

  オーストリアは8州と特別州の首都ウィーン市から構成されているが、結婚事情は州によって異なっている。結婚件数が増加した州はチロル州で前年比で10・2%増、それを追ってニーダーエスターライヒ州8・8%増、オーバーエスターライヒ州8・5%増、フォアアルベルク州8・1%増、ケルンテン州6・8%増、シュタイアーマルク州6・2%増、そしてザルツブルク州は5・0%だ。首都ウィーン市は0・4%増と微増だ。ブルゲンランド州だけが0・9%減とマイナスを記録している。

 注目される点は、結婚年齢だ。男性は約32歳、女性は30歳弱だ。前年比でいずれも3か月上がっている。同国では、男女とも益々、晩婚化が進んでいるわけだ。

 離婚の場合、87・4%が合意離婚、2136件は争議離婚となっている。離婚夫婦の37%は子供がなく、4組に1組は1人の子供、、28%が2人、10組の1組弱がそれ以上の子供を抱えている。離婚に巻き込まれた子供の総数は1万9334人、そのうち、1万3278人は未成年者だ。

 離婚年齢は男性44・1歳、女性41・3歳で結婚期間は平均10・6年で、前年比で1か月間、短くなった。結婚1年目の離婚は全体の1・7%、2年目は4・8%。離婚件数の半分は最初の10年目だ。8組の1組は銀婚式後、離婚し、22組は金婚式後離婚している。
 離婚率が最も高いのはウィーン市で49・7%、2組に1組が離婚している。離婚率が最も低いのはチロル州で36・3%だった。

 興味深いケースとしては、85歳の男性が91歳の女性と結婚している。年齢差では71歳の男性と22歳の女性の結婚がある。結婚した新カップル両方で結婚回数が通算13回という例もあったというから驚きだ。

 ちなみに、昨年度合計特殊出生率はオーバーエステライヒ州とフォアアルベルク州の1・55が最高だ(昨年出産したベビー数は7万8952人、前年比1・1%増)。
 オーストリアの女性は昔、子供を沢山生んだ。多産の代表はハプスブルク王朝時代、国母と呼ばれたマリア・テレジア女王(1717〜1780年)だ。女王は7年戦争をプロイセンのフリードリヒ2世と戦いながらも16人の子供を産んだ。
 なお、最近公表された世論調査によると、オーストリア国民の約45%は「子供がいないほうが生活しやすい」と考えている。結婚を奨励し、出産を鼓舞したテレジア女王が現代に生きていたならば、ビックリするような社会状況が生まれているわけだ。

これが北の化学工場の設備だ

 北朝鮮が国連工業開発機関(UNIDO)のモントリオール・プロジェクト(開始2003年、完了08年)を通じて化学兵器製造に転用できる機材を入手していたことはこのコラム欄で紹介済みだ。国連側は、国連の専門機関が対北安保理決議(1718)を破ったことが判明すれば、国連全体のイメージ悪化に繋がるとしてもみ消しに腐心する一方、UNIDOのユムケラー事務局長は昨年末、職員宛に付属書類を含む5頁の内部用メモランダム(Interoffice Memorandum)を送り、安保理決議で制裁対象リストに挙げられている加盟国(北朝鮮を含む12カ国)への支援プロジェクト履行の際、制裁違反とならないかを慎重に実施するように異例の注意を喚起したことが判明した。ただし、同事務局長は関係者の処罰は行っていない。

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▲北朝鮮の化学工場の機材(2005年、北で撮影)

 北は4塩化炭素(CTC)がモントリオール議定書締結国の規制物質となっているためその代替農薬生産のためUNIDOに支援を要請。それを受け、UNIDOは07年4月、CTCに代わる別の3種の殺虫剤を小規模生産できる関連機材購入のため入札を実施した。そして受注を獲得したエジプトの化学製造会社「Star Speciality Chemicals」が08年8月、有機リンとオキサゾール誘導体を製造できるリアクトルを北に輸出した。有機リンはサリン、タブン、ソマン、VX神経ガスと同一の化学グループに属する。北が入手した化学用反応器はカズサホス(Cadusafos)12トン、土壌殺菌剤ハイメキサゾール(Hymexazol)20トン、クロルピリホスメチル(Chlorpyrifos Methyl)16トンを年間製造できる能力を有する。ここまでの経緯はこのコラム欄で報じてきた内容だ。

 今回は、北の化学工場を何度も視察し、北側に助言してきた欧州の化学者から入手した北の化学工場内の設備を撮影した写真を紹介する。2005年に撮影された写真を一目見れが、北の化学工場が如何に非近代的であるか理解できる。その一方、「化学工場で発生するさまざまの副産物から人体を蝕む神経ガスなど有毒物質が製造されている」という。

 化学者は「UNIDOが北に提供した機材はデュアル・ユースアイテムだ。北が願えば容易に神経ガス、サリンなど製造できる」と証言した。国連関係者は「UNIDOが提供した機材は対北安保理制裁リストには入っていない」という理由で、UNIDOの制裁違反を否定してきたが、「詭弁に過ぎない。化学者ならば、UNIDOが提供した機材で北が神経ガスを製造できることは明確だ」と指摘、国連関係者が責任を回避していると主張した。

 なお、国連安保理の対北制裁委員会はこの夏、年次報告を発表する。化学者は「制裁委員会が対北プロジェクトの問題点を指摘する可能性はあるが、制裁違反だったとは絶対に明記しないだろう」と予想し、「これが国連機関の現実だ。問題が生じても誰も責任をとらない体制なのだ」という。

法王は“悪魔祓い”をしたのか

 ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王フランシスコは19日、サンピエトロ広場で聖霊降臨祭の記念礼拝を行った後、いつものように集まった信者たちに挨拶したが、その時、アルゼンチン出身のフランシスコ法王は車椅子の青年信者を見つけると、近づいた。青年は法王の指輪に接吻した。傍には1人の神父がいた。法王は若者の頭に両手を置いて暫く祈った。車椅子の若者は口を開け、全身を震えさせた。一連の動きを目撃したテレビ局「TV2000」が「ローマ法王は身体障害者に悪魔祓いを施した」と報じたことから、メディア関係者は騒ぎ出した。

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▲法王の悪魔祓いを否定するバチカン報道官(バチカン放送独語電子版から)

 バチカン法王庁のお膝元、イタリアでは昔から悪魔祓いに強い関心をもつ国民が多い。同国で1昨年、約50万人の国民がエクソシスト(悪魔祓い師)の助けを求めたという統計があるほどだ。この数字は5年前に比べ、約30%増加したという。ちなみに、同国では約300人のエクソシストが教会司教の要請を受けて悪魔祓いに従事しているほどだ。

 南米教会出身のローマ法王が悪魔祓いをしたとなれば、その情報はイタリア全土に広がり、大きな反響が起きることは必至だ。だから、ジャーナリストの質問に答え、バチカンのロムバルディ報道官は、「法王は悪魔祓いをしていない」とわざわざ否定したわけだ。報道官によれば、、ローマ法王は障害者の信者を見つけたので近づいただけだ。決して悪魔祓いを行ってはいない」というのだ。



 バチカン法王庁は1999年、1614年の悪魔祓い(エクソシズム)の儀式を修正し、新エクソシズム儀式を公表した。バチカン法王庁が新エクソシズムを公表した背景には、霊が憑依して苦しむ信者が増加する一方、霊の憑依現象が「悪魔」に関連するのか、精神病のカテゴリーから理解すべきかで意見が割れるケースが多くなってきたためだ。

 前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世は悪魔について、「悪魔は擬人化した悪」と規定している。同法王は生前、エクソシストとして有名だった。また、ドイツ出身の学者法王だった前法王ベネディクト16世も悪魔祓いを行ったという情報がある。同16世が2009年5月の一般謁見中、悪魔に憑かれた青年が法王を見ると叫び、体を震え出して倒れた。ベネディクト16世が祈ると青年は数メートル飛ばされた後、落ち着いたというのだ。この報道内容について、バチカン法王庁のロムバルディ報道官は当時、今回と同様、否定している。

 バチカン側は過去、法王の悪魔祓いに非常に慎重だ。法王が病人を癒したという情報が広がれば、癒しを求める人々が殺到し、混乱が生じることが予想されるうえ、悪魔祓いは霊的な現象だけに、バチカンも管理できなくなる危険性があるからだろう。

傷跡のない「悲劇の継承者たち」

 「韓国とイスラエルの類似点の考察」の中で書いた内容の続編だ。読んで頂きたい。

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▲ドナウ河沿いの風景(2013年4月撮影)

 「ホロコーストを自ら体験したユダヤ人がその後の人生で加害者に転身するケースは少ない。なぜならば、彼らは痛みや苦痛の意味を誰よりも知っているからだ。だから、自分が受けたように、他者を攻撃し、殴打して苦しめることはできない。一方、ホロコーストの悲劇を継承した多くのユダヤ人の場合、パレスチナ人に対して、同程度か、それ以上の弾圧を繰り返すことができる。パレスチナ人の3分の2がディアスポラの状況に生きていても意に介しない。彼らはホロコーストを身をもって体験していないからだ。単にホロコーストの恐ろしさ、加害者への憎悪を継承してきただけだ。彼らは痛みを継承していないから、相手の痛みを共有できない。繰り返すが、彼らが継承したのは憎悪と恨みだけだ。だから、彼らが加害者に転身したとしても驚きには値しない。その場合、新たな悲劇が生じる」

 「韓国や中国では、旧日本軍兵士から迫害され、弾圧された人以上に、その悲劇を継承した人の憎悪のほうがより激しい場合が少なくない。彼らの総身には日本軍兵士から受けた殴打の傷跡はないが、体に傷跡をもつ犠牲者以上に憎悪に燃えている。あたかも、今、体から血が流れているように。注意しなければならないことは、悲劇の継承者の反日感情は体験の裏づけのないものが多いことだ。だから、ある日、彼らは同じような蛮行を繰り返すことができる。一方、体に傷を抱える犠牲者は加害者の謝罪をいつかは受け入れようとするものだ。なぜならば、恨み、憎悪を抱えたままでは自身が幸福になれないと悟るからだ。彼らは過去の悲しい束縛から解放されるために、加害者の謝罪を受け入れようとする。それと好対照は悲劇の継承者だ。彼らは加害者の謝罪を受け入れない。なぜならば、謝罪を受け入れれば、その瞬間、自身のアイデンティティが消滅する、といった懸念を感じるからだ。彼らの加害者への憎悪、恨みは体験や傷によって裏づけされていないから、時間の経過とその必要性からさまざまな形態に変容できる」

 「体に痛みを抱える犠牲者は加害者の謝罪をいつか受け入れようとする」という論理は新鮮だった。謝罪を受け入れない限り、自身の悲劇は終わらないからだ。その一方、日本側の度重なる謝罪を拒否し続ける人々は同胞の悲劇の継承者に過ぎない、という説明も非常に説得力があった。
 特に、韓国と中国両国で目撃される反日運動は犠牲者ではなく、その悲劇の継承者によって主導されている。「正しい歴史認識」という概念は犠牲者から出てきたものではなく、悲劇の継承者が考えだした政治的キャンペーンではないか。傷跡をもつ犠牲者が少なくなり、継承者の数が増えていけば、それだけ悲劇の内容も変容していく。
 犠牲者に必要なものは、経済的補償だけではないだろう。傷が癒され、加害者の謝罪を受け入れようと決意するまでの静かな時間の進展ではないか。
 人は相手を許さない限り、自身は永遠に救われない。憎悪を抱え続けていては人は幸せにはなれないからだ。一方、加害者側は犠牲者から許される以外に他の選択肢はない。その意味で、犠牲者と加害者は‘運命の共同体‘といえるわけだ。

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