ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年04月

北朝鮮が狙われている!

以下は、中国共産党問題に詳しい欧州専門家が当方に語った内容だ。情報の信頼性については読者の判断に委ねる。

P4040728
▲中国の宇宙船「神舟」の模型展示(ウィーンの国連で 2013年4月撮影)

 専門家「中国は遅かれ早かれ北朝鮮を吸収するだろう。人口2400万人余りの小国を占領し、その地下資源を獲得するだろう」

 ――中国は米国を含む世界の強国との共存を願っている。北を占領するなどの軍事攻勢は非現実的だ。そのような事をすれば、国際社会から制裁を受けるだけで、中国の経済成長にはマイナスだ。米国と直接対立できるだけの軍事力も有していない。そのような時に朝鮮半島への進出を図ることは自殺行為に過ぎないことを中国自身が最も知っているはずだ。

 専門家「中国は北朝鮮の若い指導者、金正恩氏らに中国国内に秘密口座を開いても良いと許可を与える一方、その秘密口座を米国に漏らしている。国連安保理の対北制裁に基づくものという説明もできるが、中国は金ファミリーが支配してきた北朝鮮を崩壊させる方向に誘導してきているのだ。その一方、金ファミリーには、米国らが侵攻してきたら中国に亡命できるように計らう、と約束している。だから、北朝鮮が崩壊し、金ファミリーが亡命すれば、その後釜には北京が主導する親中国派の政権を樹立させ、北朝鮮を支配するシナリオだ」

 ――北朝鮮指導者は中国を決して信頼していない。金正恩氏は中国の亡命受け入れを受け入れるはずがない。

 専門家「金正日労働党総書記時代までは北指導者たちはその民族の主体性を誇り、中国を決して信頼してこなかったが、3代目の金正恩氏にはそのような考えや歴史的拘束はまったくない。政権維持が困難と分ければ、さっさと政権を放棄して中国が用意した亡命先に家族と共に行くだろう。金正恩氏は家族を犠牲にしてまで政権に固守することはない」

 「中国にとって北朝鮮の存在は久しく戦略的緩衝地帯の価値を有してきた。韓国主導の朝鮮半島の統一は最悪シナリオだ。しかし、ここにきて早めに北を手中に収めるほうが得策という考えが強まってきた。張成沢ら親中派が北の平和的中国吸収の手助けをするだろう。3食を十分に食べさせてくれるならば、北の国民にとって、親中派傀儡政権が誕生してもどうでもいいことだ。国民にとって、金ファミリーの独裁政権より悪い政権は考えられないからだ」

 「中国の戦略は緻密に練られてきたものだ。金正恩政権の誕生は北の吸収を実現する時と受け取っているはずだ。韓国や米国が金正恩氏への対応を間違うと中国の計画が早期具体化するだろう。米韓は金政権が中国に吸収されないように慎重に対応すべきだ。現実の動向は中国に有利に進展してきている。中国は米国以上に長期戦略計画に基づいて対北政策を推進しているのだ」

 「米国は中国の狙いを薄々知っているはずだ。米軍が今回、韓国との軍事演習で金正恩氏が恐怖感を抱くほど圧倒的なプレゼンスを示したが、その狙いは北朝鮮指導者に向けられていただけではなく、その後で動く中国側に示し、北京の野心をたしなめる目的もあったはずだ」

離乳期を迎えた金正恩第1書記

 北朝鮮の最高指導者、金正恩第1書記は今月11日、第1書記就任1年目を迎え、ここにきて意識的に祖父の故金日成主席、父親金正日総書記と距離を置こうとしている様子が伺える。

P4110752
▲現地視察をする金正恩氏(駐オーストリアの北大使館写真掲示板から、2013年4月11日、撮影)

 父親・金正日総書記の突然の死去で政権が転がり込んできた直後、叔父の張成沢氏の入れ知恵もあって不足するカリスマを補うために祖父・金主席の言動を摸倣してきた。父親とは違い、重要な大会では生の演説をし、髪型も祖父に似たスタイルに変え、祖父世代にノスタルジーを呼び起こした(同時に、ファースト・レディ李雪主夫人を連れて遊園地やコンサートを鑑賞し、若い世代向けにも新鮮なイメージを与えることも忘れなかった)。

 しかし、祖父摸倣プロセスもここにきて一息をつき、独自のスタイルを前面に打ち出す新しいイメージ作戦に乗り出してきた兆候がみられる。祖父の生誕101年祭で祖父の功績を称えるというより、米韓との軍事抗争に立ち向かい「孤高の指導者」というイメージを前面に出し、祖父の功績を想起するといった懐古趣味はまったくない。

 ウィーン市14区の北朝鮮大使館では11日、生誕101年祭に先駆け、祝賀会が開催されたが、同大使館正面前の写真展示には祖父・金日成主席の写真が一枚も掲示されていなかった。20枚余りの写真は軍事パレードの時のミサイル写真以外は金正恩第1書記の肖像画、現地視察の姿だけだ。

 親北派のオーストリア人は「これは通常では考えられない。故金主席や金総書記の誕生日を控えると、毎年、金主席関連の写真や総書記関連の写真で大使館の展示場が埋まる。故金主席生誕101年祭を控えながら、金主席の写真は全くなく、若い指導者の金正恩氏の写真だけで飾るということは普通ではない。これでは正恩氏が祖父金主席の功績を意図的に無視していると批判されかねない」と指摘、平壌指導内部でなんらかの権力闘争が展開されている可能性もあると推測している。

 「金主席の写真を入れるのをウィーン駐在の北外交官が忘れただけだ」という声もあるが、北外交官が故主席の生誕101年祭を控え、写真の入れ替えを忘れたといった見方は説得力に欠ける。意図的に祖父を無視し、金正恩氏オンリーの写真を掲載することで厳しい国の運営に当たる若き指導者のイメージつくりに腐心しているからだろう。カリスマ性のある祖父の写真の側ではそのイメージ作戦も効果が薄れてしまうからだ。

 換言すれば、金正恩氏は第1書記就任1年目が過ぎ、祖父離れ、父親離れの離乳期を迎えているともいえる(叔父の張成沢氏の同伴する姿もここにきて減少してきた)。

 金正恩氏の対韓、対米威喝発言の背景には、「祖父と父親を超えなければならない」といった正恩氏の悲痛な焦りが見え隠れしている。



バチカン中央集権体制の改革へ

 ローマ法王フランシスコは8人の枢機卿から構成された提言グループを創設し、法王庁の改革(具体的には使徒憲章=Paster Bonusの改正)に取り組むことを明らかにした。バチカン法王のロムバルディ報道官が13日、発表した。

P3310707
▲バチカンの復活祭の礼拝に参加した枢機卿たち(2013年3月31日、独公営放送から撮影)

 同グループ内の調停役を任せられたホンジュラスのオスカー・アンドレス・ロドリグリエツ・マラディアガ枢機卿(Oscar Andres Rodriguez Maradiaga)によれば、同グループの最初の会合は今年10月1日から3日まで開催される予定だ。

 マラディアガ枢機卿は「私たちは法王と全ての問題を話し合う。バチカン銀行(IOR)も当然、テーマに含まれる。私たちはまだ準備会議をしていないが、法王選出会(コンクラーベ)開催前の枢機卿会議で話題となったテーマについて話し合うことになる」と指摘している。

 その枢機卿会議では、現フランシスコ法王(ベルゴリオ枢機卿)が法王庁の改革を強く主張し、「福音を述べ伝えるためには、教会は(垣根から)飛び出さなければならない。自己中心的な教会はイエスを自身の目的のために利用し、イエスを外に出さない。これは病気だ。教会機関のさまざまな悪なる現象はそこに原因がある。この自己中心的、ナルシストのような教会の刷新が必要だ」と檄と飛ばしている。

 世界に12億人の信者を有するローマ・カトリック教会ではここ数年、聖職者の未成年者への性的虐待事件が頻繁に発覚し、教会の信頼を大きく震撼させた。それだけではない。法王執務室からバチカン内部機密が外部に流出(通称バチリークス事件)する不祥事が発生し、バチカン銀行の不正問題が表面化するなど、バチカンは難題に直面してきた。

 提言グループの1人、シドニー大司教区のゲオルゲ・ペル枢機卿(George Pell) はメディアとのインタビューの中で、「バチカンには2、3の問題があることは皆知っている」と述べている。
 実際、コンクラーベ前の枢機卿会議で法王庁の改革を主張したベルゴリオ枢機卿が90%以上の枢機卿たちの支持を得て法王に選出されたということは、114人の枢機卿たちの多くも教会の刷新がなければもはや存続できないと肌で感じていることを示している。その意味で法王庁の改革は枢機卿のコンセンサスと受け取って間違いがないだろう。

 しかし、法王庁の改革は非常にデリーケートなテーマだ。簡単には推進できない。ヴァルター・カスパー枢機卿は「世界の教会を欧州中心のやり方で主導することはもはやできないが、ローマ法王は教会最高指導者であり、最終決定権を有する点は変わらない。その意味で世界正教会のような体制に変わる事はない」と釘をさしている。イタリアの日刊紙コリエーレ・デラ・セラ の中で答えている。

 提言グループからどのような改革案が出されるか注目されるが、バチカン改革のポイントは「中央集権」体制の見直、大陸司教会議など現場の声(聖職者)の重視だろう。1人の法王が12億人の教会を指導することは無理だから、「権限の分割」は避けて通れない。
 
 最後に、提言グループに属する8人の枢機卿を紹介する。

 1)Reinhard Marx(.欧州、ミュンヘン・フライジング大司教)
 2)Giuseppe Bertello (バチカン市国政庁長官)
 3)Francisco Javier Errazuriz Ossa (南米、サンチアゴ元大司教),
 4)Oswald Gracias (アジア、ボンベイ大司教)
 5)Laurent Monswengo Pasinya (アフリカ、キンシャサ大司教)
 6)Sean Patrick O´Malley (米州、ボストン大司教)
 7)George Pell (オーストラリア、シドニー大司教)
 8)Oscar Maradiaga Rodriguez (南米、テグシガルパ大司教)
 

平壌は香りのない“造花”社会

 戦争がいつ勃発しても可笑しくない状況下で、平壌では15日、故金日成生誕101年の祝賀会が華やかに挙行された。外に向かって戦争を煽り、内では市民たちが祝賀会で踊っている。この希に見るアンバランスな状況が朝鮮半島で今、展開されている。

blume
▲「金日成花」(ウィーンの北大使館写真掲示板から=2012年4月、撮影)

 国際社会は、いつ北のミサイルが飛んでくるか、ひょっとしたら第4回の核実験が実施されるか、と緊張している。韓国では軍隊がいつでも応戦できるように24時間待機体制を続ける一方、日本ではミサイル防衛(MD)システムで迎撃態勢が久しく敷かれている。一方、北では太陽節の祭典が行われ、コンサートが開かれている。金正恩第1書記はこれまでの激しい威嚇発言やミサイル発射計画を忘れてしまったのだろうか。

 北から帰国したばかりの西側実業家から聞いた話がある。平壌に到着すると金日成主席像の前に献花するようにいわれ、献花用の花が既に準備されていた。そこで故金主席像に献花した。その時、「金主席像への献花だから、香りを放つ生花と思っていたが、プラスチック製の造花だったので驚いた。献花が済むと、関係者はその造花を片付けていた。多分、次の外国貴賓のために保存しておくのだろう」という。
 (政治収容所に監禁されきた北朝鮮国民が脱北後、「収容所ではさまざまなプラスチック製の造花が製造されていた」と証言している)。

 故金正日労働党総書記の花は「金正日花」と呼称されるなど、北の独裁者は過去、自身の名前を付けた花を誇っていたが、彼らが死ぬと、その像にはプラスチック製の香りのない造花が飾られる。「生花はどうしたのか」といった声が墓の下から聞こえそうだ。

 先述の西側実業家は「花を植える土地が有れば、彼らはジャガイモを作るだろう。腹の足しにもならない花を植える国民はいない。党関連建物や公共施設には到るところに花が飾られているが、ほとんどが造花だ。だから、平壌は花が多い割りには、花の香りのない社会だ」と述べている。

国連内のイスラエルの情報活動

 米議会図書館(Library of Congress)が昨年11月ワシントンで公表した「イラン情報省秘密情報局」の報告書(64頁)によると、「音楽の都ウィーンはイランのスパイで溢れている。イランのイスラム革命(1979年)以来、オーストリアはイランと良好関係を維持してきた。イランにとってウィーンは格好のスパイ活動の舞台だ」という。

P4100732
▲ウィーンの国連機関の正面入口(2013年4月撮影)

 公平を期すためにいえば、情報活動をしているのはイランだけではない。イスラエルもそれに負けないほど活発だ。今回は国連を舞台としたイスラエルの情報活動を少し紹介する。 


 イスラエルの情報機関といえば直ぐにモサドを思い出す。このコラム欄でもモサドの動向について紹介済みだ。イランで核関連施設に従事する核学者や大学教授が遠距離操作の小型爆弾で爆死された事件の背景にモサドの動きがあると指摘した(「イランの核問題と『終末統計』」2012年1月13日参考)。

 ウィーンの国連機関でもイスラエルは密かに情報活動を展開させている。例えば、イランのサレヒ外相が2011年7月12日、天野事務局長と会談した時だ。その1時間後、駐IAEA担当のイスラエルのエフド・アゾウライ大使(Ehud AZOULAY)はIAEAの会議場(Mビル)内でIAEA関係者からサレヒ外相と天野事務局長との会談内容のブリーフィング(報告)を受けている。

 イスラエル大使の活動は半ば公式のチャンネルによる情報収集だが、非公式のチャンネルによる情報活動もある。例えば、イスラエルは国連工業開発機関(UNIDO)でも情報活動を活発化してきた。狙いは、.ぅ薀鵑瞭阿、非同盟諸国加盟国の動向、パレスチナの加盟への動き、の3点について情報収集だ。特に、パレスチナが国連で「オブザーバー国家」に格上げされて以来、イスラエルはパレスチナの国連専門機関への加盟問題に神経を尖らしている。

 次は、どのように情報を収集しているかだ。例えば、イスラエル出身のUNIDO職員(女性)がいる。同職員は最近、N事務次長室の秘書となった(イスラエル側の強い要請があった)。UNIDOナンバー2のN事務次長のオフィスにはUNIDO関連の全ての情報が集まるからだ。女性職員は収集した情報をイスラエル大使館に定期的に報告している、といった具合だ。
  

ロシアの教育の場は腐敗の極致?

 フランスのユダヤ教最高指導者大ラビ、ギレス・ ベルンへイム師が11日、これまで公表してきた論文や文献の剽窃を認め、引責辞任を表明した。この欄で過去数回、政治家の博士論文の剽窃問題を紹介したが、論文盗作は政治家の専売特許ではなかったわけだ。

P4140758
▲モスクワ大学(独雑誌「大学シュピーゲル」4月号から)

 参考までに、最近の政治家の剽窃問題をまとめると、メルケル独政権で過去2人の閣僚が博士論文の剽窃問題で引責辞任に追い込まれた。アネッテ・シャヴァーン文相、カール・テオドル・グッテンベルク国防相だ。ハンガリーではパール・シュミット大統領(当時)が同じように博士論文の剽窃で批判され、最終的には大統領ポストを失っている、といった具合だ。

 ところで、ロシアでは論文の盗作は当たり前、学校の成績も先生や教授への賄賂次第というのだ。独雑誌「大学シュピーゲル」4月号を読むと、ロシアの教育システムの腐敗ぶりに驚かされる。

 同誌のリード文には、「モスクワ大学とサンクトペテルブルク大学で学生が良い成績を取るためにはガリ勉するだけではなく、担当教授に数枚の紙幣を手渡すだけで時には十分だ」と記述されている。
 獣医になるために勉強しているオルガさんは教授を初めて買収した時、「非常に緊張したが、友人によれば、そのようなことは日常茶飯事だ」と聞かされた。オルガさんは教授から良い成績をもらっただけではなく、テストを受験しなくても成績が得られた、と後日証言している。
 大学生だけではない。小中学校時代から自分の子供が良い成績を得るため担当教師に賄賂を贈る両親は少なくない。「両親は教師に賄賂を贈り、学生は教授を買収するなど、ロシアの教育システムは腐敗している」というのだ。
 
 ロシア下院(定数450議員)のうち、143議員は博士号を有し、そのうち71人は教授の称号保持者だ。ロシア下院は世界最高峰のインテリ議員の集まりとなるが、「実際は、議員の学力を示すものではなく、学位を買う資金力を証明しているだけだ」というのだ。
 驚くべきことは、プーチン大統領の学位論文もカール・テオドル・グッテンベルク独国防相のそれに負けないほどの盗作だったという事実が2006年、米学者によって明らかにされている。

 サンクトペテルブルク大学では、成績の値段表が学生の間に行き渡っている。落第した学生のもとに銀行振替用紙が届く。支払えば、落第は免れるというわけだ。3人に1人の学生は成績を買っている。教授の給料は450ユーロから650ユーロだ。それではモスクワでは家賃も払えない。だから教授たちにとって、「ばかな学生は生活に不可欠な収入源」というわけだ。

 

カトリック教会と「地上の平和」

  ローマ法王ヨハネ23世(在位1958年10月〜63年6月)が63年4月11日、法王自身の最後の回勅「Pacem in Terris」(パーチェム・イン・テリス、地上の平和)を発布して今月11日で50周年を迎えた。冷戦時代に発表された回勅は政治的にも大きな影響を与えた。ソ連は当時、法王の「地上の平和」を巧みに利用し、西側の左派勢力を連携して平和攻勢を展開したことはまだ記憶に新しい。

1_0_681830
▲「地上の平和」を発布したヨハネ23世(バチカン放送独語電子版から)

 カトリック教会は「地上の平和」建設より、天国への道を強調し、具体的な「地上の平和」建設に対しては消極的だった、というより、一定の距離を置いてきた。この世は厳しく不公平だが、天国では平和と幸福が待っている、といった説明を繰り返してきた。
 それに対し、教会の刷新を推進した「第2バチカン公会議」を提唱したヨハネ23世は民主世界と共産世界が激しく対立していた時、「地上の平和」を標榜し、「対立ではなく、対話で紛争を解決すべきだ」と表明、キリスト教の精神に基づき、「人権の尊重」を高らかに謳った。同23世の回勅は「20世紀の最も重要なバチカン文書」といわれる(回勅発布2カ月後、ヨハネ23世は亡くなった)。教会が地上の平和実現に関与を表明した歴史的な文書だ。

 イラク戦争の時、ヨハネ・パウロ2世は2003年、この回勅を想起し、「『地上の平和』は今も、非常に生き生きとしてわれわれに問い掛けている」と述べ、「平和のハウスは真理、自由、公平、そして愛の4つ柱から構成される。プロパガンダ、単なる言葉、論争は真の平和とは無関係だ」と記述されたヨハネ23世の回勅に言及している。

 J・F・ケネデー米大統領(当時)もこの回勅を初めて読んだ時、「アメリカ人として回勅から多くのことを学ばされた。教会は現実の政治にも助言をすべきだ」と述べている。
  ちなみに、同23世は同回勅の中で政治家に対しても明確なメッセージを発信している。曰く「政治家は真理、公平、連帯、自由に基づき政治を行うべきだ。そして国民の名誉と威厳を尊重しなければならない」と記述している。

 バチカン放送独語版は「シリア、中東、マリなどで紛争が続いている。ヨハネ23世の回勅は今も非常に価値を有している」と評価。フランシスコ法王も「回勅は今尚、全ての分野で平和と和解を与えるインパクトを有している」と述べている。

 なお、ヨハネ23世の「地上の平和」で注目すべき点は、「正義の戦争」が存在するか、というテーマに初めて言及し、それに疑問を呈したことだ。同23世にとって、「戦争は最後の手段であり、外交的解決を模索することが教会の教えに一致する」というわけだ。

北「米国はわが国に軍事圧力」

 ウィーン市14区にある北朝鮮大使館(金光燮大使、金正恩第1書記の義理の叔父)で11日午後5時から故金日成主席生誕101年(4月15日)の祝賀会が開催された。

P4110754
▲風になびく北の国旗(2013年4月11日、ウィーンにて撮影)

 北大使館が主催する祝賀会は年々、「オーストリア・北朝鮮友好協会」関係者だけが参加し、ホスト国オーストリアの政府関係者や国際機関のVIPの足は遠ざかる傾向にある。今回もオーストリア外務省から派遣されたらしい紳士が顔を見せた他はVIPらしき人物の姿はなかった。

P4110753
▲平壌で行われた北の軍事行進(北大使館の写真掲示版から撮影、2013年4月11日、ウィーンにて)

 「緊迫化する朝鮮半島への関心が高まっているので、北の政治情勢の情報収集という意味でも通常より多くのゲストが参加するのではないか」という声も聞かれたが、当日のゲスト数は約30人。友好協会メンバーの他、オーストリア共産党系労組関係者、左派の青年グループが中心で、少々寂しい祝賀会となった。

 祝賀会では平壌から送られてきた15分余りのビデオを観賞した後、北の外交官が朝鮮半島の歴史を紹介。その後、約10分間、現在の政治情勢に言及し、「米国はわが国に軍事的圧力を行使している。米国は、少しでも問題が生じれば、わが国に侵略する考えだ」と指摘、米国を厳しく批判した。その上で「過去50年間、核保有国はその武器を使用しなかった。核兵器の使用は絶対に認められない」と指摘、北側が核の先制攻撃をする考えのないことを強く示唆した。


 【短信】 前法王の健康が悪化?

 ローマ・カトリック教会の前ローマ法王ベネディクト16世の健康が急速に悪化しているというニュースが流れてきた。今月16日に86歳を迎える前法王の健康悪化説はスペインのジャーナリストが前日、新刊発表の場で述べたものだ。それに対し、バチカン法王庁のロムバルディ報道官は早速、「全く根拠のない報道だ。前法王は過去8年間のハードワークの疲れが身体に現れ、老化現象が表面化してきただけで、特定の病気に罹っているわけではない」と即否定した。 
 前法王は2月28日、健康を理由に法王の座を退位した後、法王専用の夏季別荘カステルガンドルフォに滞在している。
 

反響を呼んだ韓国日刊紙の社説

 韓国中央日報(日本語版)を読んでいて心が痛くなる記事に出会った。中央日報9日付の社説だ。タイトルは「非情な、あまりにも非情な2013年韓国社会」だ。
 同記事を読まれた読者もおられると思うが、先ず、その概要を紹介する。

P4100735
▲ウィーンの春のパンジー(2013年4月10日撮影)

 「精神異常症状を患った20代の女性が、真っ昼間に一糸まとわず10分余りの間、歩き回った。4日、地方のある都市で起きたことだ。どこの誰も、この女性の恥ずかしさをかばってあげなかった。警察が出動してレインコートで恥部を隠すまで、後を追いかけて携帯電話で動画を撮った人々もいた。ある人々は車窓を開いて、通りを闊歩する女性の写真を撮ったという。女性の写真と動画はインターネットやモバイルメッセンジャーを通じて急速に広まった」
 そして「私たち韓国の社会が、なぜこんな有り様に至ってしまったのか。隣人の不幸を楽しむ共同体は、決して健康だとは言えない」という。

 同記事がアクセスの多かった記事の上位にランクされていたことから、韓国で大きな反響があったのだろう。当方も考えさせられた。これは韓国社会だけの問題ではないからだ。日本の社会でも有り得るだろうし、当方が住んでいるウィーンでも生じるかもしれない。中央日報の記事流に言えば、「私たちはいつから他者の悲しみを理解できなくなったのだろうか」という問い掛けが突きつけられているのだ。

 同紙は最後に、「今回のことを契機に、韓国の私たちの共同体意識の現況を振り返ってみる時が来ている。私たちの社会は、過度な競争にさらされながら、ますます自分のことだけを考える極度の利己心、他人の不幸を共感できない極端な不感症を見せている」と指摘し、「家庭や学校での人間性教育と共同体意識教育が急務となっている」と述べている。

 私たちは他者の不幸を共感できないし、他者の幸せを共に喜ぶ事が難しい。なぜだろうか。喧騒な社会に生きているとゆっくりと考えることが難しいが、この問い掛けは深刻な内容を含んでいる。余りにも悲しく、余りにも哀れな私たちの姿が浮かび上がってくるからだ。政府とか社会体制が問われているのではない。私たちの存在が問われているのだ。

サッチャー元首相とコンセンサス

 「私にとって、コンセンサスとは、全ての確信、原理、価値、原則を投げ捨てることを意味する」
 これは8日、英国のロンドンで87歳で死去したマーガレット・サッチャー元首相の言葉だ。ソ連から「鉄の女」と評された元首相は1982年、国内に強い反対があったが南大西洋のフォークランド諸島領有で対立したアルゼンチンへ軍事攻勢をかけ、勝利した。その勢いでその直後の総選挙で再選されている。まさに、信念の人だった。

P4080731
▲国際原子力機関(IAEA)の加盟国の国旗(2013年4月9日、IAEA内で撮影)

 元首相の上記の発言を読んで思い出したことがある。ニューヨークの国連大使を勤められた高須幸雄氏が在ウィーン国際機関日本代表部全権大使の時、日本人記者団に対してニューヨークとウィーンの国連外交の相違について説明されたことがある。
 大使は「ニューヨークでは加盟国間で対立した場合、即採決で決着を付けようとするが、ウィーンの国連外交はギリギリまでコンセンサスを探す」と指摘し、国連外交もNYとウィーンでは違うと強調された。

 譲歩を繰り返し、全ての加盟国が良しとする解決策を模索するウィーンの国連外交などは、サッチャー元首相にとって「原理、確信を放棄する」亜流外交ということになるかもしれない。
 ただし、NYとウィーンの違いがあっても、そこから生まれる国連文書は曖昧模糊とし、何を言いたいのか不明なものが多い。国連安保理の対北制裁決議案も協議を重ねるうちに、実行力の乏しい最終案がまとまるのは国連外交の常だ。

 サッチャー元首相時代は冷戦が支配していた時であり、民主主義世界と共産主義世界が対立していた時代だ。政敵は明確だった。冷戦後、その政敵も曖昧な存在となってきた一方、グローバルな世界では価値観は益々多様化してきた。

 サッチャー元首相のような外交は現在、可能だろうか、と考えた。政治家としてサッチャー元首相のような信念と確信を持つことは大切だが、実際の政治ではどうしてもコンセンサスが重要となる。

 妥協と譲歩を良しとしないサッチャー元首相の政治姿勢は冷静時代には貴重だったが、多様な信念と価値観が交差する現代では、共通点を模索する外交がより必要となるのでないか。自身の信念と他者の信念をどのようにして折り合いをつけるか、これが問題となるからだ。
 念のため付け加えるが、サッチャー元首相は、時代(冷戦)が要求して出現した、信念を具現化した稀有な政治家であった点は疑いない。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ