ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2013年03月

腕時計をチラッと見た新法王

 19日午前は新ローマ法王フランシスコの就任式典を独民放放送でフォローしていた。世界130各国以上からゲストが参加し、盛大の式典が挙行された。そこで感じたこと、気がついたことを忘れないうちに報告する。

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▲就任式典に臨むフランシスコと歓迎するローマ市民(2013年3月19日、ドイツ「N-TV」中継から)

 アルゼンチン出身のローマ法王はサンピエトロ広場を車でまわりながらローマ市民や世界の信者たちに手を振った。病人の前では車を止めさせ、そこで祈り、幼児には頬を付けて愛撫した。アルゼンチンからの巡礼者たちの前にくると、ウインクしながら笑顔を返した。少々はにかむ癖のあった前法王べネディクト16世とは異なり、春の光のように明るい新法王の仕草に、集まった信者たちは新鮮な感動を受けただろう。

 ブエノスアイレス大司教だった新法王は確かに庶民的だ。プロトコールを重視し、それらを真面目にこなしていったドイツ人法王とは違い、人とのふれあいを重視する南米教会出身の法王は欧州人の目にも新鮮だ。
 べネディクト16世は歴代最高峰の知性法王だったといわれた。その法王に欠けていたのは牧会力だったという。書籍を愛する一方、信者たちにその愛を表現することに長けていなかったからだ。その点、フランシスコは一流の神学者ではないかもしれないが、「貧者の教会」出身の牧会者だ。人々は愛に飢えている。知性のローマ法王より、愛を表現しようとする法王に信者たちが喜ぶのは当然かもしれない。

 ジャーナリストの宿命か、当方はかなりひねくれている。普通の人々のように目の前の事実をストレートには受け入れない。先ずは疑う。実際、庶民派といわれた数多くの政治家や指導者が最終的には庶民派ではなく、権力欲のある人物に過ぎなかったことを数多く見てきたからだ。だから、「フランシスコは庶民的」といった受け取り方には依然、抵抗を覚える。
 コンクラーベで法王に選出された後、バチカンの宿泊代を自分の財布から支払うシーンが写真付で報道された。その際、「庶民派のローマ法王」というタイトル付だ。当方はそれでも新法王のパフォーマンスではないか、と疑った。バチカンが「フランシスコ1世」ではなく、「フランシスコ」と呼ぶべきだと呼称の訂正を要求した時も、「バチカンはアッシジの聖フランシスコの精神を継承する唯一の法王」と言った印象を与えようとしているのではないか、といった憶測すら沸いてきたほどだ。

 しかし、懐疑的な当方もビックリした。聖ペテロの墓の前で祈祷を捧げた後、サンピエトロ広場の就任式典に臨む時だ。新法王は足を止め、腕の法衣をまくり、腕時計を見たのだ。式典開始の時間が気になったのか。それともいつもの癖で腕時計を見ただけだろうか。ミサや公式行事中、自身の腕時計を見たローマ法王を当方は知らない。ローマ法王は通常、腕時計などつけていない。時間を知りたければ式典関係者に聞けば済むからだ。「確かに、アルゼンチン出身のローマ法王はかなり変わっている」と感じた。

 しかし、庶民派であろうが、学者派であろうが、問題は、ローマ法王として12億人の信者を有する世界最大の宗教をどのようにして神の願いと一致させるかだ。8年間の「学者法王」から「牧会者法王」に代わった直後だから、どうしてもそのイメージが先行するのは仕方がないが、新法王の評価は、信頼性を失った教会を建て直し、法王庁内の官僚的体質を改善するなどその危機管理能力によって下されるからだ。

 1年も経過すれば、フランシスコは自身の腕時計を見ないだろうし、宿泊先のホテルの代金を自分で払うことはないだろう。その時、新法王を歓迎した信者たちは何をもってフランシスコを歓迎するだろうか。今から楽しみだ。

フランシスコ1世時代が始まった

ローマ法王フランシスコ1世の就任式典が19日、バチカンのサンピエトロ広場で開かれた。聖ペテロの墓の前で祈祷を捧げた後、新法王は就任式典に臨み、第266代のローマ法王としてパリウム(祭服)と法王の指輪(漁夫のリンク)を受け取った。

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▲母国アルゼンチンの大統領と会談したフランシスコ1世(バチカン放送独語電子版から)

 式典には世界130カ国以上の代表団が参加し、南米教会初のローマ法王の門出を祝った。ゲストにはバイデン米副大統領、独メルケル、仏マルク・エロー両国首相、英国のチャールズ皇太子、ベルギー国王のアルベール2世夫妻、スペインのファン・カルロス1世のソフィア王妃ら王室関係者、南米から法王の出身国アルゼンチンのクリスティーナ・フェルナンデス・キルチネル大統領、メキシコのべ二ャ・二エト、ブラジルのジルマ・ルセーフ両国大統領ら多数の国家元首、宗教関係者が参加した。

 新法王は記念礼拝の中でマリアとイエスを保護したヨセフに言及し、「ヨセフがイエスとマリアを保護したように、神の創造の世界を守り、全ての人々、特に、貧しい人々を保護し、自身をも大切にする。ローマ司教(法王)は仕えるために召命された立場だ。司教たちだけではない。全ての人々は本来、お互いに仕えるために召されているのだ。希望の星を輝かせる為に、私たちは神から与えられた愛で互いに仕え合おう」と述べている(3月19日は聖ヨセフの日)。

就任式典に先駆け18日、フランシスコ1世は法王就任後初の外国元首としてアルゼンチン大統領と会見した。同大統領はその直後の記者会見で「新法王に英国との間で拗れているフォークランド諸島問題で仲裁を要請した」と語った。ただし、同1世はブエノスアイレス大司教時代、同性愛者の平等に関係する法案問題で現政権と対立し、両者の関係は険悪化した。同1世は当時、「神の計画を破壊する法案だ」として同性愛者の認知に対し激しく批判した経緯がある。

 フランシスコ1世の就任式典は終わった。復活祭の聖週間がいよいよ24日から始まり、今月31日の「復活の主日」を迎える(復活の主日から聖霊降臨までの7週間が「復活節」と呼ぶ)。復活祭はイエス・キリストの生誕を祝うクリスマスと共にキリスト教の2大祝日だ。キリスト教の誕生という意味では、復活祭はキリスト教にとって最大行事だ。十字架上の死の後、“復活したイエス”によってキリスト教が始まったからだ。
 今月24日は復活祭前の最後の日曜日だ。エルサレム入りしたイエスをシュロの枝で迎えたことから「シュロ枝の主日」と呼ぶ。28日は復活祭前の木曜日で、イエスが弟子の足を洗った事から「洗足木曜日」と呼ぶ。イエスは十字架磔刑の前夜、12人の弟子たちと最後の晩餐をもった日だ。法王はサン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂でイエスの故事に倣って聖職者の足を洗う。29日は「聖金曜日」でイエスの磔刑の日で、「受難日」、「受苦日」とも呼ばれる。法王は30日夜から31日にかけ復活祭記念礼拝を挙行し、サン・ピエトロ大聖堂広場に集まった信者たちに向かって「Urbi et Orbi」(ウルビ・エト・オルビ)の公式の祝福を行う。
 

当方の「中国の夢」

 読売新聞電子版を読んでいたら「中国の夢」というタイトルの北京発特派員の記事が目に入った。中国の新国家主席に就任した習近平氏が17日、全人代閉幕式の演説で「中国の夢」をという台詞を9回も使用したという。同主席によれば、「中国型の社会主義路線を堅持し、5000年余りの民族の夢」を実現するという内容らしい。

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▲民族文化宮博物館(中国国際放送局のHPから)

 当方は中国と縁がある。当方を初めて見た人はほぼ80%が「中国人」と思うらしい。「中国人ではありません」というと、次は「韓国人ですか」と聞いてくる。さすが「フィリピン人」とか「タイ人」とは思わないらしい。こちらが「日本人です」というと、大抵「エー、日本人ですか」と少々ビックリする。当方が日本人の平均身長より少し大きく、体はがっちりしていることもあって最初は中国人と思うらしい。

 当方は中国人が好きだ。5000年余りの長い歴史を誇る中国民族の文化を尊重している。日本人にない大らかさ、周囲の空気を無視して信念を貫く、いい意味での厚かましさにも惹かれる。だから、「中国人ですか」といわれ、「そうです」といって最後まで話をしたこともあったほどだ。

 さて、本題に入る。当方も習近平国家主席と同じように「中国の夢」を持っている。中国は多民族国家だ。地理的にも多民族が共存できる。儒教文化、仏教文化、イスラム文化、そしてここにきてキリスト教文化が入ってきた。中国社会は多民族を咀嚼できるだけの器が本来備わっている。孔子を輩出した民族だ。
 中国は社会主義経済体制を維持しながらそこに精神的支柱、「神」を入れれば、理想国家となるはずだ。マルクス主義的な唯物思想ではなく、「神の思想」を導入すれいいのだ。

 米国の資本主義社会は病んでいる。富みの不均衡、弱肉強食的な経済システムは理想からほど遠い。その意味で社会主義的な経済体制は重要だ。ただし、従来の社会主義はその中心に「神」を置くことを忘れてきた。
 
 12億人の国民を統合することはどの政治体制でも難しい。強い中央政権が必要だ。現共産党幹部が神を信じれば、その政策は自ずと変わるだろう。経済活動も利潤追求だけではなく、環境対策も真剣に配慮するだろう。人権蹂躙は問題外だ。現中国共産党は愛国主義を啓蒙することで民族の統合を腐心しているが、「愛国主義」ではなく、精神的支柱、神の再発見に努力すべきだ。

 言うのは易いが実行は大変だ。当方氏は夢想家だ、と笑われるかもしれない。しかし、当方はかなり真剣だ。修道女のマザー・テレサが言っているではないか。「世界を良くしたければ、先ず、あなたと私が変わらなければならない」と。体制が問題ではない。その構成員が問題だ。その意味で民主主義にもまだチャンスはある。失った「神の思想」を回復すればいいのだ。神を導入した社会主義体制は神を回復させた民主主義体制とほぼ同じだからだ。

 問題は、どのようにして神の思想を中国に植えつけていくかだ。中国は独自の精神文化を誇ってきた。共産主義が中国を支配している期間は1世紀にもならない。中国には長い精神文化の歴史がある。その精神文化に神の思想を繋ぐことが大切となる。中国共産党の党員が急減する一方、キリスト教が浸透してきた中国で、そのプロセスが既に始まっているとみて間違いないだろう。

欧州の左派系政治家の「転向」

 「私たちの半数以上は老人だ。しかし、老人は知恵を持っている。その知恵を若者たちに伝えなければならない」

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▲オーストリアのグーゼンバウアー元首相(オーストリアの社会民主党のHPから)

 この発言は今月13日、南米教会出身で初のローマ法王に選出されたフランシスコ1世が15日、枢機卿達の前で語ったものだ。自己への鼓舞のような面もあるが、新法王の言葉は含蓄がある。高齢社会はバチカン法王庁だけではない。世界は高齢社会に既に突入している。

 ところで、この法王の発言を欧州の政界に向けると、少し首を傾げざるを得ない。「良きワインは時間の経過と共に、より芳醇する」(新法王)とばかりは言えないのだ。首相や高官を務めた政治家が現職を退くと高給な報酬をもらって独裁者たちのプロパガンダ役や護衛役に成り下がっているのだ。それも1人や2人ではない。特に、欧州の社会党系(社民党、労働党など左派政党)の政治家に多い。

 独週刊誌シュピーゲル(3月11月号)によると、オーストリアのアルフレート・グーゼンバウアー元首相(任期2007〜08年)、英国のトニー・ブレア元首相(1997〜2007年)、イタリアのロマーノ・プロディー元首相(06年ー08年)、独のオットー・シリー元内相(1998−2005年)はいずれもカザフスタンのナザルバエフ大統領(1991年12月就任)の私的顧問役に就任し、年間100万ユーロともいわれる高報酬を得ている。
 例えば、グーゼンバウアー元首相は社会党(現社民党)の左派活動家として当時のソ連を訪問した時、飛行機から降りるとローマ法王のように地べたに接吻したほどの典型的な左派政治家だ。現職時代は「労働者の代表」として活動した人物だ。その政治家が退職すると、欧米社会からその人権蹂躙や野党弾圧などで批判を受けているカザフのナザルバエフ大統領の知恵袋として活躍し、現政権を擁護しているのだ。
 「労働者の代表」から「独裁者の保護者」に成り下がったわけだ。典型的な‘転向者‘だ。また、独ゲハルト・シュレーダー元首相(任期1998〜2005年)はロシアのプーチン大統領との個人的な関係から高給ポストを手に入れている、といった具合だ。

 日本の元首相級の政治家が自身の政治信条を捨て、高給なポストに就いたとは聞かないが、官僚の天下りはある。しかし、彼らは現職時代、決して労働者の代表といった発言をしていない。自身の経験を退職後も有効に利用しているだけだ。その点、欧州の社会党系政治家の場合、現職時代の政治信条を捨て、高給な報酬に目をくらまされている、といっても間違いないだろう。彼らの政治信条、信念はどこに行ったのか。
 
 フランシスコ1世の話に戻る。清貧の哲学を説く南米のローマ法王に、現職時代の人脈、名声などを利用し、退職後、富を求める欧州の左派系政治家たちに、「退職後の生き方」について説教をして頂きたいものだ。

 

南米教会の法王誕生の本当の狙い

 新しいローマ法王フランシスコ1世は崩壊寸前のローマ・カトリック教会の救済者になれるだろうか。新法王の庶民的な言動は、官僚主義的な言動と法衣に包まれた法王を見慣れてきたローマ人の目には新鮮に受け取られている。南米出身の新法王に教会の改革を期待する声すら聞こえてくる。

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▲南米教会初のローマ法王フランシスコ1世(2013年3月13日、オーストリア国営放送の中継から)

 それではカトリック教会関係者は新法王に何を期待しているのだろうか。聖職者の未成年者への性的虐待事件、法王の執務室から内部情報や書簡が外部に流れた通称バチリークス事件、そしてバチカン銀行の不正容疑など、数えればきりが無いほどの多くの不祥事が発生し、カトリック教会の信頼度は地に落ちた。その教会の信頼性回復を76歳の高齢法王に期待しているのだろうか。換言すれば、教会の威信を回復するためにコンクラーベの114人の枢機卿たちはブエノスアイレス大司教を法王に選出したのだろうか。

 確かに、新法王の“フランシスコ”という呼称は淡い期待感を与えるのに十分な魅力がある。聖アッシジのフランシスコのイメージと重なるからだ。
 アッシジの聖人は若い時代は放蕩の限りを尽くしたが、貧者やライ病の人たちの姿を見て改心。その時、彼は「私の倒れた家を建て直してくれ」というイエスの声を聞いたという。それが契機となり、フランシスコは貧しい人々の救済に生涯を捧げ、44歳の若さで亡くなった。カトリック教会の聖人の中でも信者たちに最も人気のある聖人だ。
 新法王はその聖アッシジのフランシスコの名前を法王として初めて名乗ったのだ。そこから、「新法王は聖アッシジのフランシスコのように、『神の家を建て直す』使命を背負っている、という期待が出てくるわけだ。ひょっとしたら、そうかもしれない。
 
 いずれにせよ、誰が法王に選出されたとしても最初に取り組まなければならない課題は法王庁内の機構改革だ。バチリークス事件、バチカン銀行の不正問題は結局、バチカン法王庁内部の問題だからだ。だから、「法王庁内の風通しを良くする」ことが急務という点で、多くのバチカン関係者は一致している。
 それはバチカンの「中央集権」体制の見直しにも通じる。具体的には、大陸司教会議など現場の声(聖職者)の重視、法王の「「権限の分割」などが議題となる。コンクラーベがそれらの‘大改革‘をアルゼンチン出身の高齢大司教に委ねたとは考えられない。もしそうだとすれば、バチカンはよほど人材不足といわざるを得ないだろう。

 それでは何を新法王に期待するのだろうか。その答えは新法王の出身地、南米教会の現状にある。世界12億人の信者の約41%を抱える南米教会はカトリック教会の希望の大陸だといわれている(長期的には中国も)。
 ポーランド出身のヨハネ・パウロ2世が455年ぶりに非イタリア法王に選出された時、共産政権下の国民は熱狂的に歓迎した。同じように、南米出身の新法王誕生は現地の信者たちを勇気付けるだろう。十分考えられることだ。

 しかし、南米教会の現実は決して甘くない。南米教会で異変が生じているのだ。例えば、世界最大の信者数を誇るブラジル教会で急速に信者数が減少している。バチカン聖職者省によれば、ブラジルでは1991年、人口の83%がカトリック信者であったが、2007年、その割合は67%に急減した。すなわち、1年間で平均、人口の1%に相当する信者がカトリック教会から背を向けたのだ。大変な数字だ。このペースでいくと、20年後には50%を割ってしまう。

 南米教会の信者の急減はプロテスタント系教会の躍進が原因だ。カトリック教会の魅力が急速に失われてきたのだ。バチカンは早急に対応しなければならない。前法王のべネディクト16世は2007年5月9日から14日までブラジルを訪問した。最大理由は、信者の脱会傾向にストップをかけるためだった。しかし、信者離れは続いている。

 そこで南米出身のローマ法王の誕生という“ウルトラC”を選んだのだ。コンクラーベの114人の枢機卿はその点でコンセンサスがあったという。イタリアのメディアによると、114人中、90人の枢機卿がアルゼンチンのベルゴリオ枢機卿を支持したというのだ。ベルゴリオ大司教の法王選出は、南米に進出してきたプロテスタント系新宗教への対策だったのだ。繰り返すが、114人の枢機卿は南米教会の枢機卿に法王庁の大改革を期待したのではない。南米教会を守るために南米出身のローマ法王が必要と考えたからだ。

 フランシスコ1世の法王就任最初の外国訪問先は7月23日からブラジルのリオデジャネイロで開催される青年カトリック信者年次集会(ワールドユースデー)となる予定だ。バチカンにとって、フランシスコ1世のリオデジャネイロ訪問は南米教会のローマ法王選出が正しい選択であったことを確認する機会となるわけだ。

聖マラキ、バチカンの終焉を預言

 聖マラキの法王に関する預言内容はこのコラム欄で紹介した。同預言によれば、前法王べネディクト16世が最後の法王であり、次の法王については言及がない代わりに、その後、散文が記述されている。新法王フランシスコ1世が選出された今回、「聖マラキの預言」をもう一度検証する。日本語訳だから、ひょっとしたら誤訳もあるかもしれないが、大きなミステークはないという前提で考えていく。

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▲コンクラーベが開かれたシスティーナ礼拝堂(2013年3月12日、オーストリア国営放送の中継から撮影)

 11世紀の預言者、聖マラキは「全ての法王に関する大司教聖マラキの預言」の中で1143年に即位したローマ法王ケレスティヌス2世以降の112人(扱いによっては111人)のローマ法王を預言している。そして最後の111番目が今月末に退位したベネディクト16世だ。
 マラキは1094年、現北アイルランド生まれのカトリック教会聖職者。彼は預言能力があった。その預言内容をまとめた著書「全ての法王に関する大司教聖マラキの預言」と呼ばれる預言書が1590年に登場した。カトリック教会では同預言書を「偽書」と批判する学者が少なくないが、その預言内容はこれまでほぼ的中していることから、多くの信奉者を持つ。

 興味深い点は111番目に当たる前ローマ法王ベネディクト16世の就任預言後の散文だ。ひょっとしたら、13日に第266代の法王として選出されたフランシスコ1世と教会の未来について示唆しているかもしれないからだ。
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 「極限の迫害の中で着座するだろう。ローマ人ペテロ、彼は様々な苦難の中で羊たちを司牧するだろう。そして、7つの丘の町は崩壊し、恐るべき審判が人々に下る、終わり」(ウィキぺディア)。


 各センテンスを調べていく。

 「極言の迫害の中で着座する」
 ローマ・カトリック教会は、聖職者の未成年者への性的虐待事件の発覚、バチカン内部情報の流出事件、バチカン銀行の不正容疑など、さまざま不祥事に直面し、批判と罵声の中にある。そのような時に、新法王は就任した。ほぼ100%的中している。
 
 「ローマ人ペテロ」
 ホルへ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(76)はアルゼンチンのブエノスアイレス大司教だ。新法王の名前を初めて聞いた時、「聖マラキによれば、ローマ人ペテロとなっているが、彼は南米アルゼンチンのブエノスアイレス生まれだ」と失望したが、その直後「新法王の両親はイタリアからアルゼンチンに移住した移民だった」という事実が明らかになった。「聖マラキの預言」は間接的だが、的中している。

 「さまざまな苦難の中で羊を司牧するだろう」
 議論の余地がないだろう。教会を取り巻く状況は苦難に満ちている。そのような中で最高指導者の法王(羊飼い)は羊(信者たち)を牧会しなければならない。的中している。

 「恐れべき審判が下る」
 「審判」とは神の言葉の審判を意味する。すなわち、神の言葉が教会とその指導者を裁くという意味だ。イエスの時、選民ユダヤ人たちはモーゼ5書にこだわり、イエスが告知した福音を理解できず、イエスと弟子たちを迫害した。その後、選民ユダヤ民族は多くの迫害を受けた。同じように、キリスト教徒の代表、カトリック教徒がイエスの言葉に拘り、新しい真理として登場する神のみ言葉に躓く。その結果、2000年前と同様、今度はカトリック教会が神の言葉の審判を受けるという内容だ。

 「終わり」
 人類の終わりやカタストロフィーを意味せず、神が準備し、育ててきた選民キリスト教徒(カトリック教会)がその使命を終える、と解釈できる。なぜならば、聖マラキによれば、その後の法王は就任していないからだ。

 「7つの丘の町は崩壊し」
 これは難問だ。「7つの丘の町」の意味が分かれば、理解できる。ポルトガルの首都リスボンは別名「7つの丘の町」と呼ばれる。とすれば、リスボンの崩壊を意味するのだろうか。
 リスボンは1531年、そして1755年、大地震に遭遇し、大きな被害が生じた。1755年11月1日、ポルトガルの首都リスボンを襲った地震はマグニチュード8・5から9の巨大地震。津波が発生し、同市だけでも3万人から10万人の犠牲者が出た。文字通り、欧州最大の大震災だった(「大震災の文化・思想的挑戦」2011年3月24日参考)。
 「リスボン大震災」は欧州を襲撃した最大の天災だった。その意味でリスボン大地震は欧州の崩壊を示唆していると受け取れる。聖マラキはあくまで次期法王について預言したのだから、欧州のカトリック教会が崩壊し、教会全体が崩壊していくと考えられるわけだ(ポルトガルは欧州の代表的カトリック教国)。

 以上の解釈を総合すると、「聖マラキの預言」の散文は以下のようになる。

 「べネディクト16世の退位後、イタリア系のローマ法王が就任するが、その時、教会を取り囲む状況は深刻であり、リスボン大地震で欧州が崩壊的ダメージを受けたように、カトリック教会(バチカン)は神のみ言葉を受け入れないため崩壊していく。このようにして、2000年のローマ・カトリック教会の歴史は終わりを迎える」

 当方の解釈に異議を感じる読者もおられるだろう。11世紀の預言者聖マラキは幻想の中で欧州最大の惨事、リスボンの大震災を目撃したはずだ。その状況がローマ・カトリック教会の未来と重なって上記のような預言内容となったのではないか。

バチカンが発信する「妨害電波」

 新しいローマ法王の誕生を目撃しようとバチカン市国のサンピエトロ広場に集まった市民や信者たちは携帯電話が一時,不通になるといった経験をしたことだろう。原因は明らかだ。バチカンがシスティーナ礼拝堂で開かれている法王選出会(コンクラーベ)内の枢機卿たちの会話が盗聴されないために妨害電波を流していたからだ。

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▲コンクラーベが開かれたシスティーナ礼拝堂(2013年3月12日、オーストリア国営放送の中継から撮影)

 どのメデイアも事前に第266代の新法王名をキャッチできなかったところみると、妨害電波は効果があったわけだ。バチカンの治安担当官は「盗聴防止はやむ得ない処置だ。しかし、100%、防止は出来ない。システィーナ礼拝堂のような歴史的建物では内部の音波が外部に流れやすいからだ」(オーストリアのカトプレス通信)という。

 コンクラーベに参加した115人の枢機卿は投票前に秘密保持を宣誓しなければならない。誰が何票集めたか、といった情報が外部に流れると、投票後にもさまざまな影響が出てくることが考えられるからだ。
 情報を外部に流した枢機卿や関係者は最悪の場合、破門される。それほどバチカンは秘密保持に神経を使っている。「コンクラーベには神が働く」といわれてきたが、盗聴された場合、神が働く前に人の悪知恵が先行するケースが出てくるからだろう。

 コンクラーベだけではない。重要な国際会議が開催される時は治安関係者が事前に盗聴処置を取るのは今日、当たり前となった。すなわち、国際会議の舞台裏では電波戦が展開しているわけだ。

 4年前、国際原子力機関(IAEA)の理事会で事務局長選が行われた時、当方はそのことを肌で感じた。どの理事国が誰に何票投じたか、といった理事会内の情報を米国記者が公表前に既に入手していたのだ。後日、記者が携帯電話で理事会に参加している米外交官と密かにメールをやり取りしていたと分かった。電波戦は映画や小説の中だけではなく、既に身近なところで行われているのだ。

 「妨害電波」と聞くと、冷戦時代に東欧諸国を取材していた当方は、ミュンヘンに本部があった自由放送が東欧共産政権の妨害電波で苦労していたことを思い出す。旧ソ連・東欧の共産政権は当時、西側の情報が国民に伝わることを阻止するために妨害電波を流していた。
 21世紀の今日、妨害電波を流すのは共産政権だけではなく、神を信じるバチカン法王庁も例外ではなくなったわけだ。いずれにしても、現代社会では情報保持が重要な課題だ。

南米教会から初の法王誕生

 世界に約12億人の信者を誇るローマ・カトリック教会の新ローマ法王にアルゼンチンのブエノスアイレス大司教ホルへ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(76)が選出された。ベルゴリオ枢機卿の法王名はフランシスコ1世。

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▲新ローマ法王フランシスコ1世(オーストリア国営放送の中継から撮影、2013年3月13日) 

 コンクラーベ(法王選出会)は13日午後、5回目の投票で新法王を決定した。システィーナ礼拝堂の煙突から白い煙が出て新法王の選出が明らかになると、広場で待機していた市民や信者たちから大歓声が起きた。ローマ法王が南米教会から選ばれたのは今回が初めて。欧州以外からはシリア出身のグレゴリウス3世(在位731〜741年)以来、1272年ぶり。ただし、ベルゴリオ枢機卿の家族はイタリアからの移住者だ。

 コンクラーベに参加した115人の枢機卿のうち、60人の枢機卿を抱える欧州教会が次期法王に断然有利と予想され、イタリアのミラノ大司教アンジェラ・スコラ枢機卿(71)の名前が次期法王候補に挙がっていた。しかし、世界の信者数の約41%を占める南米教会から次期法王が選ばれたことで、カトリック教会が世界の宗教であることを改めて内外に示したことになる。その一方、76歳の高齢枢機卿の新法王は、78歳で法王に選出された前法王べネディクト16世と同様、本格的な法王誕生前のショートリリーフ的な役割を担っているとも受け取られている(新法王は2005年のコンクラーベではべネディクト16世の対抗候補者だった)。換言すれば、カトリック教会が将来の方向性の決定を先延ばしにした選択ともいえる。

 注目すべき点は、新法王が“貧者の聖人”と呼ばれたアッシジの聖フランシスコの名を法王名に選択したことだ。カトリック教会では欧州教会はエリート教会、南米教会は貧者の教会と呼ぶ。自身もブエノスアイレスでは大司教官邸には住まず、質素なアパートに住み、貧者への奉仕活動にも積極的に取り組んできた(南米教会は一般的に解放神学の影響が強い)。教義的には保守主義だ。同性愛問題に対しては反対を表明してきた。ちなみに、新法王は国内では「独裁政権(1976〜83年)時代、弾圧される国民を支援しなかった」という批判を受けている。それに対し、「教会を守るため致し方がなかった」と説明している。趣味は水泳と料理。オペラを好み、ドストエフスキーの小説を愛読する。
 
 世界のカトリック教会の現状は非常に深刻だ。2010年から聖職者の性的虐待事件が次々と発覚し、教会の信頼は地に落ちた。その直後、法王の執務室から法王宛の書簡や内部文書が流出するといった通称バチリークス事件が発生、同時に、バチカン銀行の不正問題がメディアに報じられるなど、文字通り、バチカンは満身創痍といった状況だ。聖職者不足、信者の教会離れは加速し、教会運営が厳しい教会が増えている。76歳の新法王が取り組まなければならない問題は山積している。キリスト教の最大祝日(今月31日)、イースター(復活祭)を間近に控え、バチカンは新法王のもとで教会の再生に乗り出すことになる。

「黒い煙」が「白い煙」に変わる瞬間

  「私の審判官であるキリストが、私が神の意思と一致すると信じる人物に投票したことの証人である」
 コンクラーベで枢機卿が投票用紙に名前を記入した後、祭壇の投票箱に入れる前にこのような宣誓する。そこには「打算や自身の思いではなく、神のみ心を考えて投票しました。キリストこそ私の証人です」といった内容が含まれている。だから、国会議員選のように、投票の売買といった不正行為は元々考えられない。

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▲黒い煙をだすシスティーナ礼拝等の煙突(2013年3月12日、オーストリア国営放送の中継から)

 枢機卿の宣誓は新米大統領が就任式で聖書の上に手を置いて宣言するのと少し似ているが、前者はより良心の問題であり、後者は国家の職務履行への決意表明といった性格が強い。

 さて、第1回投票は予想通りの結果だった。礼拝堂の煙突からの黒い煙がそれを示した。当然の結果だ。第1回目は予備選挙のようなもので、115人の枢機卿の中で誰が多くの支持を得ているかのバロメーターに過ぎない。
 13日午前中は第2回、第3回の投票が迅速に行われたが、当選に必要な3分の2の票、77票を獲得した枢機卿はいなかった。同日午後は第4回、第5回の投票が予定されている。その結果は早ければ日本時間14日午前3時過ぎに明らかになる。ちなみに、2005年のコンクラーベでは前法王べネディクト16世は第4回目の投票で選出された。

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▲礼拝堂に集まった枢機卿たち(2013年3月12日、同上)

 新法王の誕生まで少し時間があるので、枢機卿の出身勢力図をおさらいする。なぜならば、枢機卿の出身勢図がコンクラーベで大きな影響を与える点は政党内の派閥構造に似ているからだ。
 世界12億人の信者の約41%を占める南米教会は今回コンクラーベに19人の枢機卿を送っている。次ぐに、約24%を占める欧州教会からは60人、15%を有するアフリカ教会は11人、アジア教会は10人、オセアニアは1人の枢機卿がいる。この出身勢力図を見れば、欧州出身枢機卿が断然有利であることが一目瞭然となる。
 問題は、「ローマ・カトリック教会は欧州教会ではない。世界教会だ」という立場から、「欧州以外からローマ法王を選出する時を迎えている」という声が意外に高まっていることだ。

 非欧州出身の枢機卿が選ばれるシナリオは、非欧州教会の枢機卿55人が連携し、候補者を絞り、その上で欧州教会から最低22人の枢機卿の支持を獲得する場合だ(当選ラインの77人に達する)。かなりしんどいが不可能ではない。なぜならば、欧州教会の中には「法王の座をイタリア(イタリア出身の枢機卿は28人)に戻したくない」という思いを抱く枢機卿が少なくないからだ。換言すれば、バチカン銀行の不正問題や内部情報の流出問題(バチリークス問題)などを抱えるバチカン法王庁内の刷新を願う声が強いからだ。彼らこそ非欧州出身の法王誕生の鍵を握っているわけだ。
  
 なお、前日のコラムで枢機卿の「健康管理」問題に言及したが、12日午前の随意ミサ中、1人のコンクラーベ参加枢機卿が一時、失神した。疲れとストレスからだと見られる。参考までに言及すると、病気で倒れても、その枢機卿がローマ入りした後ならば病床のベットからも投票を行使できるという。

 いずれにしても、キリスト教の最大の祝日、イースター(復活祭)を約2週間後に控え、115人の枢機卿の持ち時間は限られている。
  

礼拝堂のドアマンは独枢機卿

 次期ローマ法王を選出する法王選出会(コンクラーベ)が12日午前10時(現時時間)、枢機卿たちの随意ミサで正式に開幕した。バチカン法王庁の最大イベントがいつまで続くか誰も分からない。最終日が未定のイベントはコンクラーベしかないだろう。それだけに、高齢枢機卿が多いコンクラーベ参加者にとって健康管理が大きな問題となる。115人のコンクラーベ有資格者リストをみれば、70歳以上の枢機卿が74人とほぼ3分の2を占めている。健康問題を決して過小評価できない。特に、本命候補者がいない今回、コンクラーベが長期化するという予想も聞かれるからなお更だ。

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▲システィーナ礼拝堂のミケランジェロの「最後の審判」(バチカン放送独語電子版から)

 考えてみてもほしい。75歳以上の高齢者(47人)が縦40・9メートル、横13・7メートル、高さ20・7メートルのシスティーナ礼拝堂に隔離状況で長時間、瞑想と投票を繰り返す。体力の消耗も激しいだろう。もちろん、食事、宿泊場所は別だが、テレビ、新聞、携帯電話、インターネットなどは持ち込み厳禁。参加枢機卿との会話以外は外部と接触できないから気分転換も難しい。

 高位聖職者の枢機卿となれば必ず数人の秘書団が待機している。日常茶飯事から事務仕事までほとんどが秘書団が行う。例えば、先月28日に生前退位したべネディクト16世には、2人の秘書、1人の執事、4人の家政婦から成る法王ファミリーと呼ばれる御付きの人々がいた。枢機卿の場合、もう少し小規模だが、御付きの秘書が日常些事を全て行う点は同じだ。

 コンクラーベでは投票権を有する枢機卿以外は礼拝堂から出ていかなければならない。実際、コンクラーベ開始の合図は式典長官の「関係者以外、出て行きなさい」(Extra Omnes)という言葉だ。だから、コンクラーベが一旦開始されれば、礼拝堂の重たい戸の開け閉めは枢機卿たちが担当する(コンクラーベ参加者の中で若い枢機卿が戸の開け閉めを担当するのが慣わし)。今回の場合、コンクラーベのドアマンはドイツ人のライナー・ヴェルキ枢機卿(56)だ。

 コンクラーベの第1回投票で次期法王が決定されることはほぼ考えられない。次期法王選出は、午前、午後の各2回の投票が始まる13日以降となる。時間差を考えれば、最短のケースで日本時間14日未明頃だ。
 そこで、次期法王が選出されるまでコンクラーベ関係の話題や短信を読者に提供していきたいと思っている。なお、今回のコンクラーベのため約5600人のメディア関係者が取材登録を申請済みだ(2005年のコンクラーベの時は約6000人だった)。 
 
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