2012年09月 : ウィーン発『コンフィデンシャル』

2012年09月

2012年09月20日06:00

カテゴリ: ロシア

「宗教感情」を傷つけたら厳罰に

　ロシアで将来、宗教者の「宗教感情」を傷つけた場合、厳しい刑罰が科せられることになる。関連法案がロシア議会で作成中という。ロシアのメディアが１７日、報じた。
　民族派政党「ロシア自由民主党」関係者によると、宗教関係者、クレムリンで招集された専門家、法律家たちが結集して関連法の強化について話し合われた。従来の法では宗教感情を傷つけた場合、２５ユーロの罰金刑だけだ。関係者の間からは「余り刑罰が弱い」という声が支配的だ。具体的には、罰金刑ではなく、実刑を科すべきだというのだ。

　モスクワの救世主キリスト教会で「反プーチン」ソングを歌い、フーリガン行為に問われ、逮捕された３人の女性パンクバンドに対して先日、２年の有罪判決が下されたばかりだ。法案改正は同不祥事に触発されたことは明らかだ。ロシア正教会内でフーリガン行為をした３人の女性たちは、正教徒が崇拝する聖堂を傷つけたことは間違いないだろう。プーチン大統領の「統一ロシア」党やロシア正教会は法案の強化を要求してきた。その目的は「全ての信者の宗教感情を保護する」という。

　女性バンクバンドの蛮行だけではない。ロシアではここにきて正教会の十字架を破壊したり、聖画（イコン）が墨で汚されるなど、宗教施設関連へのヴァンダリズムが頻繁に発生してきている。「宗教感情」の保護は緊急課題となってきたわけだ。

　ロシアだけではない。イスラム教の預言者ムハンマドを中傷する米映画への抗議デモがアラブ諸国の各地で発生し、一部は暴動化している。抗議するイスラム教徒からすれば、預言者ムハンマドへの中傷、誹謗は、「宗教感情」を著しく傷つける蛮行以外の何物でもない。

　法改正で問題となる点は、「宗教感情」という非常に主観的な内容だ。「宗教感情」と何か、それをどのように保護するのか、詳細な議論が重要だろう。さもなければ「宗教感情」の保護という名目で政治的に悪用される余地が出てくるからだ。法改正の動向を注視していきたい。

2012年09月19日06:00

カテゴリ: 中東

“アラブの春”は民主化もたらすか

　ヘンリー・キッシンジャー氏（米元国務長官）は「アラブの春に大きな期待を抱くのは良くない。アラブ諸国の民主化プロセスは非常に緩やかなものとなるだろう」と独大衆紙ビルドとの会見の中で語っている。同氏は、「シャリアを信奉する政党が民主政党に発展するのは非常に困難だ」と説明している。

　イスラム教の預言者ムハンマドに関する米映画への抗議デモはアラブ諸国の各地で暴動化した。欧州メディアはカイロや他のアラブ都市の暴動状況を報じながら、「アラブの春はわれわれに失望を与えている」と報じた。“アラブの春”後はアラブの国民も欧米諸国と対等の価値観（民主主義）を共有している、と一方的に期待を抱いていたからだ。期待が裏切られた、といった感情だ。

　ところで、天下のキッシンジャー氏には申し訳ないが、欧米型民主主義はアラブ諸国やイスラム諸国に輸出可能だろうか、という疑問が頭をもたげてくる。イラク出身の中東問題専門家アミール・ベアティ氏は「民主主義は他国に輸出できない。各国の政治事情、歴史などを無視した画一的な民主主義は存在しないし、相手国に強制できるものではない」という。
　“アラブの春”に対するキッシンジャー氏の懐疑心と、欧米型民主化は元々、定着できない、と受け取るベアティ氏の現実感がアラブの現状を正しく反映しているかもしれない。

　民主主義は古代ギリシャで生まれた。キリスト教社会の誕生後、民主主義とキリスト教社会は対立する関係が続いた。特に、中世の西欧社会では民主主義は専横主義の教会社会に抵抗する立場だった。近代に入り、キリスト教社会が民主主義を学ぶ一方、民主主義はキリスト教の博愛主義を吸収し、人権擁護といった思想を生み出していったことはまだ記憶に新しい。

　もう一度、テーマを明確にする。イスラム教主導のアラブ諸国で民主化は定着するか。答えは、キッシンジャー氏のような懐疑的な返答とならざるを得ない。なぜならば、キリスト教社会で民主主義が定着するまで、長い険悪な歴史があった。一方、アラブ諸国の場合、民主主義と遭遇したことも、対峙したこともなかった。‘アラブの春‘が民主主義を直輸入したのだ。だから、アラブ諸国で民主主義が根を張るためには、まだ長い時間が必要となる、と考えるのは当然だろう。
　
　付け加えるが、西欧のキリスト教社会はアラブ諸国の民主化の遅滞を誹謗したり、中傷できない。キリスト教社会が民主主義を咀嚼し、理解するまでどれだけの血と汗と涙が流されたかを想起する時、“アラブの春”への失望はまだ早すぎるだろう。
　

2012年09月18日06:00

カテゴリ: ドイツ

独で年間約１万１０００人が自殺

　９月１０日は世界保健機関（ＷＨＯ）が指定した「世界自殺防止の日」だった。独ローマ・カトリック教会ミュンヘン大司教区の危機牧会担当のアンドレアス・ミュラーチラン氏によると、ドイツでは年間、約１万１０００人が自殺し、その３分の２は男性、特に、高齢の男性の自殺が増えているという（ＷＨＯによると、世界で１日平均、約３０００人が自殺している）。

　高齢者の自殺を考えていた時、日本の閣僚の自殺ニュースが飛び込んできた。松下忠洋金融・郵政民営化担当相（７３）が自殺したというのだ。国連記者室の同僚記者たちは「日本では閣僚が自殺するのか」と驚いていた。高齢者であり、現職大臣が自殺したケースは欧州では非常に珍しい。

　ところで、人はどうして自殺するのか。不治の病に冒された人が安楽死を求めるケースも欧州でも結構、多い。安楽死を支援するグループ（例スイス）も存在する。日本ではイジメが原因で若い命を絶つケースが社会問題となっている。自殺は本人だけではなく、家族や関係者にも消すことが出来ない痛みを残す。それだけに、自殺は哀しい。

　ドイツの自殺ケースに戻す。ドイツは欧州最大の経済国だ。一人当たりの所得も高い。生活環境は恵まれている。しかし、経済に恵まれ、医療水準が高くても、自殺に追い込まれる人は絶えない。厳密にいえば、増えている。

　「自殺」のことを考えるとスーダンの友人が語ってくれた話をどうしても思い出す。南北に分断される前のスーダンの話だ。スーダンでは自殺件数や自殺率に関する資料がないが、同国では「自殺は非常に希で、限りなくゼロに近い」というのだ。
　友人は「恋に破れた青年が自殺を考えながら森の中を歩いていた。すると、森の近くに住む叔父が彼を見つけて話し掛けてきた。青年は自殺できなくなった。青年の周囲には叔父、叔母など親戚が多数住んでいたからだ。そもそも独り住まいのスーダン人なんて、ほとんどいない。親戚や家族と一緒に生活している。食事も１人で食べることはない。だから、独り寂しく悩み、そして自殺を準備する、といった“離れ業”はわが国ではとても考えられない」という（「スーダンと『自殺』の話」（０７年６月５日参照）。
　　
　科学技術の発展と経済的恩恵を享受できる人々に自殺が多いという事実は、文明社会に対する大きな挑戦だ。人は何を最も幸せと感じるのか、各自が冷静になって自問すべき時だろう。

2012年09月17日06:00

カテゴリ: 国連記者室

イラン精神的指導者の「反核」宣言

　国際原子力機関（ＩＡＥＡ)の第５６回年次総会が１７日、５日間の日程でウィーン本部で開催される。同総会では、福島第１原発事故の教訓として作成された原発安全強化のための「行動計画」の履行検証、イラン、北朝鮮の核問題、中東の非核化構想などについて話し合われる。
　特に、イランの核問題は、総会直前の定例理事会でも激しいやり取りが展開されるなど、波乱を呼ぶテーマだ。国連安保常任理事国５カ国とドイツが共同提案した対イラン非難決議案が採択されたばかりだ。大統領選を控える米国は大胆な外交攻勢をかけれない一方、イランはウラン濃縮関連活動を急速に拡大してきている。それだけに、イスラエルが軍事攻撃を仕掛けるのではないか、といった懸念の声もいっそう現実味を帯びてきた。

　興味深い点は、欧米諸国から核の軍事転用の容疑を受けるイランが「核兵器製造の意思のないこと」を懸命に訴え出してきたことだ。イラン指導者たちが国際社会の苛立ちを警戒し、反論に出てきているのだ。

　駐ＩＡＥＡのイランのソルタニエ大使は１３日、定例理事会で発言したが、イランが核兵器製造の意思のないことを過去の査察検証結果からではなく、同国の精神的最高指導者の発言を引用して説得に乗り出した。
　同大使は先ず、今年８月３０日、テヘランで開催された第１６回非同盟諸国首脳会談開会式での同国の精神的指導者ハメネイ師の発言を引用した。同師は「核兵器、化学兵器など大量破壊兵器は大きな、許されない罪」と強調している。ハメネイ師は精神指導者らしく、核兵器を「犯罪」と呼ばず、「罪」と指摘している。
　それだけではない。ソルタニエ大使はハメネイ師の発言直後、今度はイラン革命指導者ホメイニ師の言葉を想起させている。ホメイニ師は「核兵器を大量に生産し続けるならば、人類は破滅に追い込まれるだろう。核兵器の恐ろしさを人々に啓蒙し、核の拡散を防止しなければならない」と主張している。
　核物理学者のソルタニエ大使は、欧米諸国に対して、専門的知識を駆使して説得する従来のやり方から、２人の同国精神的指導者の発言を読み上げて、反論を展開させたのだ。

　同大使の説得工作が成功したかどうかは分からない。明確な点は、大統領、閣僚たちの発言ではなく、宗教最高指導者の表明を全面に出して反論したことだ。シーア派のイスラム教国イランが選択できる‘最強の反論‘といえるかもしれない。

2012年09月16日06:00

カテゴリ: オーストリア

食中毒事件で露呈した事勿れ主義

　ウィーンの日本人会主催（伊藤毅志会長、ジェトロ・ウィーンセンター所長）の夏祭りが１日、日本人学校で開催されたが、そこで約５０人のゲストが食中毒を起こした（報告済み）。食中毒が発生して２週間が経過したが、「食中毒の原因」が特定できないばかりか、主催者側が食中毒発生をウィーン市衛生局に連絡していない、ということが判明した。

　イベントで食中毒が発生した場合、①主催者側が市の衛生局に連絡、②食中毒を起こした患者が主催者側を告訴、③診察した医者が関係当局に食中毒の疑いを報告、等の３つのシナリオが考えられる。

　日本人会主催の夏祭りの食中毒の場合、主催者側は食中毒が発生したが衛生局に報告していない。関係者は「食中毒が発生した直後、被害者数は１０人余りだった。５０人以上の被害者が出るとは考えていなかった。ただし、駐オーストリアの日本大使館には３日、食中毒発生を通達済みだ」という。
　５０人以上が食中毒の症状を訴えたが、主催者側を告訴していない。日本人会関係者は互いに知合いだ。その知人を訴えることは難しいからだ。関係者の面子が潰れるだけではなく、狭い日本人社会に生きる子供や奥さんもその後、つき合いが難しくなる。村八分にもなる。奥さん同士の招待もなくなる。子供は日本人学校でイジメにあう、といった影響がでてくる。③の場合、医者に診察を受けた数は数人であり、症状は軽症だったことが考えられる。

　食中毒の原因となった食事を出した日本レストランについて。同レストランのオーナーは、「レストランは全く関係がない」と主張しているという。日本人会側も市の衛生局に連絡し、食中毒の疑いある食べ物を検査していないから、レストラン側の主張を覆す事はできない。市の衛生局が乗り出したとしても、食中毒発生２週間後では、もはや何も分らないだろう。
　
　オーストリア企業に勤務する知人は、「５０人が食中毒を起こしたのに、何の対応もなく、あたかも何も生じなかったように時間だけ過ぎていく。通常では考えられない危機管理だ」と呆れる。
　日本人会だけではない。駐オーストリアの日本大使館（岩谷滋雄特命全権大使）も食中毒が発生したという情報を得たが、「責任は日本人会にある」として見守るだけだ。日本人会の対応が不十分と判断したならば、大使館側が何らかのアドバイスをすべきだったろう。

　日本人会主催の夏祭りで発生した大量食中毒事件は、日本人によく見られる“事なかれ主義”、無関心、受身的対応などによって、事件の解明が難しくなった典型的な例だろう。

2012年09月15日06:00

カテゴリ: カトリック

「神」を信じなくても独りでない？

　欧州の代表的カトリック教国ポーランドで今秋、無神論者グループが“無信仰キャンペーン”を各都市で展開する計画だ。カトリック通信が１２日、報じた。
　「宗教からの自由」と呼ぶグループは同国の大都市で「私は信じない」「君が神を信じなくても、独りでない」などのスローガンを明記したプラカードを配置する。
　キャンペーンは１０月初め、同国東部ルブリンでスタートし、１１月には南部のクラクフ、チェンストボヴァなどの都市に広げていくという。キャンペーンのターゲットは教会への国家財政支援の停止、公共学校でのカトリック宗教授業の中止などが挙げられている。

　ポーランドは共産政権下でもローマ・カトリック教の信仰は国民の間で燃え続けてきた。当時のヤルゼルスキ大統領は、「わが国は共産国だが、その精神はカトリック教国に入る」と吐露したことがあった。世界のローマ・カトリック教会最高指導者ローマ法王にポーランドのクラクフ出身のカロル・ボイチワ大司教（故ヨハネ・パウロ２世）が選出されたのも偶然のことではなかった。

　しかし、旧ソ連・東欧諸国の民主化後、欧州統合が進行する中で、ポーランドでも無神論、ニヒリズム、不可知論が広がり、国民の神への信仰は揺れだしてきた。英国で始まった「神はいない運動」は同国にも進出し、ゲイ・パレードが開催されるなど、同国の世俗化テンポは想像以上に早い。

　昨年１０月９日実施されたポーランド総選挙（下院選挙）では、新党「パリコト運動」が第３党に躍進した。同党は、ローマ・カトリック教会の影響が強いポーランドで反教会主義を掲げ、「国民は教会に支配されてきた祖国を奪い返すべきだ」と主張し、「教会と国家」の分離を強く要求している、といった具合だ。

　ルブリン市の中道右派政党「法と正義」関係者は「反カトリック・キャンペーンはキリスト教の価値観を弱体化させ、世俗的個人主義を助長させるだけだ」（カトリック通信）と批判している。

2012年09月14日06:00

カテゴリ: 国連記者室

強い者（国）は常に正しいか

　イランのアールハビーブ国連次席大使は先月２９日、核実験に反対する国際デーで開催された国連総会で、「米国は核活動や核政策に関して不名誉な歴史を持っており、イランの平和的な核活動に関して意見を述べる資格はない」と語り、核拡散防止条約（ＮＰＴ）に違反しているとしてイランを批判した米代表に対し、「滑稽なことに、世界で初めて、かつ最も多くの核実験を行ってきた国、世界で唯一、核兵器を使用し、最も多くの核兵器を備蓄している国が、イランに対して根拠のない疑惑を投げかけている」（イラン・ラジオ放送日本語）と語った。
　また、同次席大使は、イスラエルに対しても「核兵器を保有し、ＮＰＴにも加盟していない。同国に対し、核兵器の廃絶、ＮＰＴへの無条件即時加盟、核施設に対する国際原子力機関（ＩＡＥＡ）の監視受け入れ等を履行するよう圧力行使すべきだ」（同上）と主張している。

　イラン国連次席大使の主張は新しいものではない。駐ＩＡＥＡ担当のイランのソルタニエ大使も過去、同様の内容を何度も繰り返している。
　ところで、その主張は間違いだろうか。米国は世界最大の核兵器保有国であり、世界で唯一、核を使用した国だ。イランの核兵器保有を恐れるイスラエルは中東で唯一核兵器を保有している。イランはＮＰＴ加盟国だが、イスラエルは加盟していない。その国がイランの核兵器開発容疑云々で批判し、欧米の支持を背景にイランに圧力を行使している。
　
　上記のイラン外交官の主張はＮＰＴの不平等性を想起させ、その解決を要求しているわけだ。それが実現されない限り、イランの核問題も解決できないだろう。ＩＡＥＡが対イラン非難決議を何度採択したとしても、状況は変わらない。
　核保有大国は責任がある。米国など核保有国が率先して非核化を目指さない限り、イランが非核化に応じることは期待できない。大国がその責任を履行せず、相手国に対して「これをしろ、あれをしろ」と要求、それに応じなければ国連の場で制裁を課する、すなわち、強要する、といった現在のやり方には限界がある。

　このように書けば、「イラン寄りの論理ですね」といわれるかもしれない。当方はイランの核兵器保有には断固反対だが、それを実現するためには、米国がその責任（非核化）を率先して実施しない限り、力（制裁）では無理と考えるからだ。

　フランスの１７世紀の詩人、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌは寓話の中で「強い者はいつも正しい」とシニカルに述べている。事実はそうではない。米国の主張が間違っており、イランの見解が正論、ということだって有り得るのだ。

2012年09月13日06:00

カテゴリ: ドイツ

「カラス」の比較文化論

烏なぜ啼くの　烏は山に/　可愛い７つの子があるからよ
　　　可愛可愛と烏は啼くの/可愛可愛と啼くんだよ
　　　山の古巣へ行つて見て御覧/丸い眼をしたいい子だよ

　日本の童謡「７つの子」の歌詞だ。子供を慕う母親カラスの心情が伝わる童謡だ。野口雨情が作詞、本居長世が作曲した。
　ところで、最近、１人の女性が「あの人はRabenmutter（ラーベンムッター）よ」といっているのを聞いた。どうやら、その女性は知り合いの夫人が子供に対して「愛のないお母さんだ」と批判しているのだ。
　ドイツ語ではカラスをRabeというが、Rabenmutterと言えば、「愛情のない母親」「子供を愛さず、世話しない冷たい母親」を意味する。

　日本では母親カラスは雛を愛する姿として登場し、ドイツ語圏では愛情のない冷酷な母親を意味する時に現れてくるのだ。ドイツのカラスは日本のカラスと比べ、性分が悪いのだろうか。カラスに対する１８０度異なる評価はどこから来るのだろうか。
　
　そこでカラスを研究している鳥類研究家のサイトを探した。あった。それによると「カラスの両親は通常、常に近くで雛の安全を守り、餌をかき集める」という。「なんだ、日本の７つの子に登場する母親カラスの姿ではないか。Rabenmutterと言う表現はカラス嫌いの人が考えた中傷に過ぎないのかもしれない」と考えた。
　ところで先の鳥類研究家の説明はまだ続いていた。「雛が大きくなると、お父さんカラスが冷たくなり、そして母親カラスが子供に対して厳しくなり、世話をしなくなる」というのだ。このカラスはRabenmutterだ。ドイツ語の表現は間違いではなかったのだ。母親カラスは子供が雛の時は「７つの子」のように愛し、成長するとRabenmutterのように「冷たく、愛のない母親」に変身するわけだ。

　ところで、どうして日本では「７つの子」の母親カラスが登場し、ドイツ語圏ではRabenmutterが人々の口から飛び出してくるのだろうか。

　以下、当方の独断に基づく「カラスの比較文化論」だ。
　「日本は子供天国だ。子供を溺愛する両親が多い。だから『７つの子』の母親カラスたちが愛される。一方、ドイツ語圏では、子供は１８歳になると自立しなければならない。母親も子供が自立し、早く家から出て行くように仕向ける。ドイツ語圏のカラスは西欧の母親の姿を投影しているのではないか」。

　「どちらの母親がいいか」という質問は余り意味がない。子供が母親から十分の愛を吸収せずに大きくなったら情緒不安定などの問題が出てくることがある。しかし、子供の自立を阻止すれば、また別の問題が生じる。「大人になれない子供たち」だ。
　母親は、育児では「７つの子」と「Rabenmutter」の両面の心情世界を通過しなければならないわけだ。

　ちなみに、ドイツ語では「Rabenvatter」という言葉もある。意味は同じだ。子供を世話せず、「愛情のない父親」を意味する。西欧では、言語表現でも男女平等を基本としているのだ。

2012年09月12日06:00

カテゴリ: オーストリア

日本の「夏祭り」で食中毒発生！

　オーストリアの日本人会主催（伊藤毅志会長、ジェトロ・ウィーンセンター所長）の「日本の夏祭り」が９月１日、ウィーン市の日本人学校内で行われた。日本関係のさまざまな屋台、日本食レストランなどが出店した。ところで、「夏祭り」に出店したレストランが調理したカレーライスを食べたゲストたちがその後、腹痛などを起こすという事件が発生した。関係者によると、約４０人が腹痛や下痢を訴え、日本人会やイベント関係者に問い合わせがあったという。幸い、病院に運ばれるといった重度の食中毒者はいなかった。

　日本人会は駐オーストリアのジェトロ、日本企業がスポンサーとなって運営されている。１０日現在、「夏祭り」の食中毒に関して日本人会から何の説明もない。腹痛を起こした市民の中には「日本人会主催の祭りに２度と行かない」といった声も聞かれる。

　そこで日本人会に電話して聞いてみた。同会関係者は「カレーライスを出したレストランは自身でウィーン市衛生局に検査を依頼していると思う。その結果が出た段階で日本人会の伊藤会長が報告と必要ならば謝罪をする考えだ」という。ただし、問題の日本レストラン関係者が食中毒の疑いがあるカレーライスの検査を市衛生局に依頼したかは確認していないという。
　食中毒の場合、深刻な場合、生命にも関る。今回の食中毒は今のところ軽度で済んだが、再発しないためにも関係者の対策が急務だ。

　日本大使館(岩谷滋雄特命全権大使）は、邦人の安全を守ることが重要な職務の一つだ。そこで「夏祭り」の大量食中毒事件の状況について問い合わせてみた。大使館広報担当官は「日本人会が対応すべき問題であり、日本大使館が関与すべき問題ではない」とあっさりとした返答が戻ってきた。簡単にいえば、「大使館は関係ない」というのだ。

　繰り返すが、日本人会が主催したイベントで多数の邦人が食中毒になったのだ。日本大使館側は少しは関心をもち、食中毒の経過などを調べ、再発防止に努めて頂きたいと思うのだが、「日本大使館は邦人が関っている全てのイベントに関与出来ません。今回の食中毒は日本人会の責任であり、大使館が直接関与する問題ではない」という言葉しか戻ってこない（日本大使館は９月のイベント欄で今回の日本人会主催夏祭りを紹介している）。

　オーストリアに住む邦人の１人として、災害などが生じた時、日本大使館は邦人の安全問題に真剣に取り組んで頂けるだろうか、「災害はオーストリアの責任です」という答えが戻ってくるだけではないか、と、ちょっと心配になってきた。

2012年09月11日06:00

カテゴリ: カトリック

エルサレムを愛した枢機卿

　少し遅くなったが、報告する。イタリアのミラノ大司教区のカルロ・マリア・マルティーニ枢機卿は先月３１日、療養先のイエズス会修道院で死去した。８５歳だった。教会内の改革派だった同枢機卿は７５歳を迎えた２００２年、ミラノ大司教のポストを辞職し、０８年まで念願のエルサレムを拠点に活動していた。その年月のことを感動的に綴っている。「エルサレムは私の生まれた所だ。ここに住めることは私の夢だ。エルサレムには世界の全ての問題を解く鍵がある。エルサレムが平和になれば、世界も平和になる。ここに住むことは世界の中心に住むことを意味する。エルサレムは一種のミクロ世界だ」と強調し、喜びを吐露している。

▲多くの信者たちがマルティー二枢機卿との最後の別れのため集まった「ミラノ大聖堂」（２０１２年８月、撮影）

　同枢機卿（１９２７年―２０１２年８月）はローマ・カトリック教会内の改革派代表としてヨハネ・パウロ２世の後継ローマ法王の有力候補と見られていたが、ヨハネ・パウロ２世が亡くなった２００５年にはパーキンソン病が進行し、コンクラーベ（法王選出会）では法王候補者から既に脱落していた。同枢機卿は先月初め、最後のインタビューの中で「教会は２００年間、停滞してきた」と述べ、カトリック教会は華やかな式典に腐心するだけで、礼拝に参加する信者も少なくなっていった教会の現状に懸念を表明している。

　ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は信仰の祖と呼ばれたアブラハムから派生した唯一神教だ。砕けた表現をすれば、３宗派は兄弟姉妹だ。その中心地がエルサレムだ。聖職学者のマルティー二枢機卿はその発祥の地エルサレムを自身が生まれた場所と受け取っていたとしても不思議ではない。

　イタリアのトリノ生まれのマルティーニ枢機卿はバチカンの仰々しい礼拝や式典を嫌い、人生の終わりをその故郷エルサレムに拠点を移した聖職者だった。同枢機卿はそこで世界を見、感じて生きてきたのだろう。ミラノ大聖堂内で行われた弔意には多数の市民が長い列をつくり、同枢機卿に最後の別れを惜しだという。
　

【短信】　露正教会キリル総主教、日本訪問へ

　　ロシアのキリル総主教は１４日から4日間の日程で日本を訪問する。目的は日本正教会の創始者、聖ニコライが亡くなって１００年目を迎えるため、その記念行事に参加するためだ。

１９世紀後半の明治時代、ロシア正教会修道者の聖ニコライ・カサートキン（１８３６―１９１２年）は日本に正教会を初めて伝えた。聖ニコライは１８６１年、宣教のため日本の函館に行った。１９０７年には東京大主教に任命されているほど、その宣教活動は大きな成果をもたらしたという。東京には神学校、図書館、老人ホーム、慈善関連施設などを設立している。

　しかし、日本では過去１００年間、キリスト教の宣教は遅滞し、ロシア正教会もポスト聖ニコライ時代に入ると停滞した。軍部が日本を支配するようになると、ロシア正教会は公安当局の監視対象となったが、第2次大戦後、日本のロシア正教会も活動が認められた。ちなみに、聖ニコライは１９７０年、聖人に拝されている。同時に、日本正教会は独自の自治教会となった。

　日本では現在、正教徒数は１万人から最大５万人と推定されている。日本には３主教区（東京大主教区、東日本主教区、西日本主教区）が存在する。キリル総主教は東京ではホスト側のダニィル・主代郁夫大主教と会見。バチカン放送によると、キリル総主教は日本訪問後、ロシア正教会太平洋主教区のウラジオストックを訪問する予定という。

　
　