ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2012年08月

北ユーロ圏と旧通貨再導入

 財政危機に瀕するギリシャのユーロ圏離脱はもはやタブー・テーマではなくなった。半年前までは「ギリシャのユーロ離脱」を示唆する発言した政治家は「ユーロ圏の統合を危機に落とす無法者」の烙印を押されたものだが、今ではギリシャのユーロ圏離脱は織り込み済みで、「その後のシナリオ」が欧州の政治家の口から飛び出すケースが増えてきた。

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▲オーストリア連邦首相府(2012年6月21日、撮影)

 オーストリアの日刊紙クリア(30日付)は、英オックスフォード・エコノミック研究所のデーターに基づきオーストリア経済研究所が予測した「ユーロ圏の崩壊とその影響」について紹介していた。それによると、ギリシャ、キプロス、イタリア、アイルランド、スペイン、ポルトガルが2013年第1・4半期にユーロ圏を離脱し、残った加盟国が通称「北ユーロ圏」を形成した場合と、ユーロ圏が完全に崩壊し、各加盟国が旧通貨を再導入するケースを想定して、「その影響」を分析している。それによると、「ユーロ圏の崩壊は欧州諸国に大きな経済ダメージを与え、リセッション(景気後退)、失業者の増加といった厳しい状況を生み出す」と予測している。

 具体的な例として、「オーストリア経済への影響」について。
 「13年に110億ユーロ、14年には320億ユーロの経済損失が生じる、その総額は11年国内総生産の11%に相当する。特に、輸出産業は大きなダメージを受ける。例えば、対イタリア輸出でイタリア通貨リラの急落でオーストリア製輸出商品は急騰し、売れなくなる。同国の経済成長が本格的に回復するのは17年に入ってから。13年から17年の5年間は“失われた年”と呼ばれるだろう。国民経済は13年から14年にかけリセッションに陥り、失業率は現在の4・5%から7・6%に増加(約14万人増)する」

 北ユーロ圏が形成されたとしても「早期に回復は期待できない。ユーロ圏の経済力は約30%、縮小する」とみられる。ユーロ圏が旧通貨を再導入した場合、「その影響は北ユーロ圏形成よりもマイナスが大きい。リセッションは長引き、失業者も更に増える」というのだ。どちらに転んだとしても、ユーロ圏の見通しは当分、深刻だ。

 ちなみに、オーストリアの国民経済は過去、「欧州の統合」が促進される度にその恩恵を受けてきた。例えば、欧州連合(EU)加盟によって同国の経済成長率は0・6%増をもたらした。EUの東方拡大、ユーロ圏の形成で各0・4%の成長率がもたらされた。それだけに、「ユーロ圏の崩壊」は、同国の国民経済にマイナスとなる事態が避けられなくなるわけだ。

「児童保護」科が神父の必修科目に

 神父候補者は将来、「児童の保護」に関するコースが必修学科となる。ベルギーのローマ・カトリック教会は聖職者の未成年者への性的虐待事件を防止するため、将来の神父候補者に精神病医が主催する「児童の保護」に関するコースの出席を義務つけることになる。バチカン放送独語電子版が27日報じた。
 ベルギー教会司教会議の「聖職者の性犯罪」問題担当のグイ・ハルピグニ司教は「コースの目的は児童・青少年の保護防止だ。教会は過去の過ちから学んできた。コースの詳細な内容は今後煮詰めていかなければならない」という。同国教会は6月末、児童保護委員会を設置し、今後の対応に乗り出したばかりだ。
 
 ベルギーでは2010年4月末以来、同国ローマ・カトリック教会の聖職者による未成年者への性的虐待事件が次々と発覚し、大混乱を呈した。同国教会では同年、ロジャー・バンゲルーべ司教が甥に長い期間、性的虐待を繰り返してきたことを告白し、教会内外に大きな衝撃を投じた(同司教はその直後、辞職)。また、第2バチカン公会議で「ペリトゥス」(専門助言者)を務めたフランソワ・フタール神父が、1970年代、当時8歳の甥に性的虐待を加えたことを認めている、といった具合だ。
 同国では現在、聖職者の性的犯罪の被害届件数は700件以上にものぼる。大多数は既に時効となっている。少なくとも、13人の犠牲者が後日、自殺している。同国教会は聖職者の性犯罪問題に関する牧会文書、賠償金支払いの規則などを作成し、聖職者の性犯罪対策に乗り出してきている。 

  「児童保護」に関するコースの必修化はアイデアとしてはいいが、それで聖職者の性犯罪が減少するというものではないだろう。未成年者へ性的虐待を犯した聖職者たちは児童の権利や保護について無知だったわけではないからだ。分っていて性犯罪を犯してきたからだ。その意味で、「児童保護」のコース必修化は、メディア受けはするが、肝心の問題解決にはあまりにも乏しい。

 新約聖書の「ローマ人への手紙」の中で聖パウロは「わたしは、内なる人としては神の律法を喜んでいるが、わたしの肢体には別の律法があって、わたしの心の法則に対して戦いをいどみ、そして、肢体に存在する罪の法則の中に、わたしをとりこにしているのを見る。わたしは、なんというみじめな人間なのだろう」と嘆いている。
 性犯罪の根源は余りにも深く、深刻だ。聖パウロの嘆きは聖職者だけではない。全ての人間に当てはまることだが、神に仕える聖職者は普通の人より大きな責任がある。その責任を担えない、というのならば、聖職者に従事しないほうが、教会にとっても本人にとっても幸いだろう。

新党結成し政界に乗り込む実業家

 アルプスの小国オーストリアで来秋、議会選挙が行われるが、各政党は既に選挙体制を整え、党内人事から選挙争点まで検討している。

board_Frank-Stronach▲オーストリアで新党を結成するシュトローナハ氏(同氏が創設した「マグナ・インターナショナル」社のHPから)

 任期を1年余り残す段階で各党が選挙体制を急ぐ背景には、実業家で資産家のフランク・シュトローナハ氏(Frank Stronach)の新政党結成と議会選参戦表明が密接に関連している。
 同氏は、政党として選挙戦に候補者を擁立するために国会議員を他党からリクルートする一方、政党綱領の作成に乗り出している。一方、既成政党は「わが党からシュトローナハ党に衣替えする人間はいない」と表明し、党内の締め付けを強化する一方、「金で政治を買うことはできない」と述べ、豊富な資金を武器に議員狩りをする同氏のやり方を批判している、といった具合だ。

 最新の世論調査によると、新党は15%前後の得票が予想される。ハッキリしている点は「自由党、未来同盟、社会党の順序に支持票が新党に流れる」と見られていることだ。それだけに、与野党関係者もノホホンとしてはいられないわけだ。

 次期総選挙で与党・社会民主党を抜いて第1党に踊り出ると宣言するなど鼻息が荒かったシュトラーヒェ党首の極右政党「自由党」はここにきて新党の出方に神経質となってきた。なぜならば、新党の出現で最もダメージを受けることが予想されるからだ。シュトラーヒェ党首は「シュトローナハ氏の財産はスイス銀行にある。彼はオーストリアでは最低限度の税金しか払っていない」と主張し、同氏の税金逃れを突くなど、新党への批判を強めてきた。ちなみに、ギリシャ、スペイン、イタリアの財政危機に覆われるユーロ問題では、両党とも「ユーロ離脱も辞さない」「シリング(オーストリアの前通貨)の再導入」など過激な主張を展開させている点で似ている。

 「明日の天気を予測する気象官」と「国民に奉仕すべき政治家」の信頼度調査によると、国民の70%は明日の天気を予測する気象官を信じ、政治家を信頼する国民は5%に過ぎなかった、という結果が明らかになったことがある。同国では、国民の政治家への信頼は地に落ちている。社民党、国民党の与党政治家の腐敗問題が頻繁に発覚し、国民の政治離れは進んでいる。それだけに、政治家としては素人の79歳のシュトローナハ氏が政界に新しい風を呼び起こすのではないか、といった淡い期待だけが膨らんできたのだ。

同名の英雄の異なった「終幕」

 「ねー、アームストロングが亡くなったという速報が流れているわよ」
 オーストリア国営放送のHPを見ていた妻がいった。
 「なに、あのアームストロングが亡くなったって。7回のツール・ド・フランス総合優勝の実績が無効になってショックから心臓発作でも起こしたのか」
 自転車ロードレースの英雄ランス・アームストロング選手のドーピング問題を報じているスポーツ紙を読んでいた当方が聞く。
 「何をいっているのよ。アームストロングでも別のアームストロングのことよ。世界で最初に月に上陸した米宇宙飛行士のニール・アームストロングよ」
 妻はあきれたような顔をしながら答えた。
 「アームストロング宇宙飛行士のことか。何、彼が亡くなったのか」
 
 
 こんなチンプンカンプンなやり取りが当方と妻の間で行われた。当方は自転車ロードレース界から永久追放されたアームストロング選手のことを考えていた。米宇宙飛行士のアームストロング氏をすっかり忘れていた。名前は同じだが、両アームストロングはまったく別の世界で活躍した人物だ。その功績はどちらが大きいか、という質問は余り意味がない。自転車ロードレース界ではアームストロング選手は英雄だった。一方、宇宙飛行士のアームストロング飛行士は1969年7月、宇宙船アポロ11号で月面に最初に上陸した人間として人類の発展史にその名を残した人物だ。

 さて、本題に入る。米国反ドーピング機関(USADA)は24日、アームストロング氏(40)をドーピング容疑での全タイトルの剥奪、自転車競技からの永久追放を決定した。同氏が裁判で潔白を争うことを放棄したことを受け、決められた処置だ。アームストロング氏だけではない。同氏の後で常に第2位だったドイツの名選手ヤン・ウルリッヒ氏(38)も2007年2月、ドーピング容疑で選手生命を絶たれている。自転車ロードレースでは過去、トップ級だった選手が後日、ドーピング容疑で制裁を受けるケースが絶えない。
 オーストリア出身でツール・ド・フランスで総合で第3位に入ったベルンハルト・コール選手(30)は「ドーピングなくしては、レースに勝利できない」と告白している。同選手もドーピング容疑を受け、最終的には容疑を認めて自転車ロードレースから引退した一人だ。

 アームストロング氏は一時期、米国スポーツ界の英雄だったが、ドーピング問題で躓き、その選手生活を閉じることになったわけだ。一方、「1人の人間にとっては小さな1歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」と述べた宇宙飛行士のアームストロング氏は故郷で静かにその人生を閉じた。名前が偶然同じだったが、全く異なった人生を歩み、偶然同じ時期に、一方は人生の、他方は選手生活の終幕を迎えたわけだ。

なぜ、選民は「割礼」するか

 ドイツのケルンで裁判所が5月、ユダヤ人の割礼は傷害罪に当たるとし、「刑罰対象」との判断を表明したことから、割礼を実施するユダヤ教徒やイスラム教徒から激しい批判の声が上がっている。「数千年続いてきた神聖な宗教儀式に対する国家の干渉だ」という批判だけではない。「割礼は医学上に問題が生じる危険性があるうえ、割礼を受けた子供が将来、精神的ダメージを受けるケースがある」と懸念する医者たちの声も聞かれる。
 独ユダヤ教会はメルケル政権に「この不毛な論争を沈静化するために政府は明確な立場を表明すべきだ」と要請。それに対して、メルケル政権は「政府が直接決めるテーマではない」と表明し、法務省に対応を委ねている(独法務省は男児の割礼に関する法案作成に入っている)。

 割礼問題では、ユダヤ教代表の一人、名誉毀損防止同盟(ADL)のアブラハム・フォックスマン会長は「『宗教の自由』への攻撃だ」と強く反発。独ユダヤ教中央評議会のディーター・グラウマン会長は「ユダヤ教は4000年余り、割礼の儀式を行ってきた。今後4000年間も実施するだろう」と述べ、割礼の儀式がユダヤ教の帰属意識と関連していることを示唆している。ちなみに、「割礼」はブリットと呼ばれ、ヘブライ語で「契約」を意味する。
 それに対し、体にメスを入れる割礼が誘発する医学上の問題点(性的不能や精神的トラウマなど)を指摘する声も小さくない。例えば、ヘッセン州の医者が大ラビのゴールドベルク師を「割礼を実施した」として告訴している、といった具合だ。

 ところで、ドイツの割礼論争を追っていると、「肝心な点が欠けているな」と感じ出してきた。ドイツ国内の割礼論争は「宗教の自由」「医学上の問題」、そして「刑法問題」に集中し、割礼の本来の意味を意図的か、無意識的にか、避けているように感じるのだ。
 「なぜ、モーゼの後孫たちは乳児の男の子のペニスの前皮を切る割礼をするか」という問題だ。前皮を切り、血を流すことで清めるという宗教儀式だが、それでは「なぜ、指や手ではなく、ペニスの前皮を切り、血を流すのか」という点を一般の人にも理解できるように説明しなければならないはずだ。

 「割礼」は通常、生後8日目の乳児に行うが、ユダヤ教に改宗した成人も行う。「割礼」の前提は、穢れた血が人間の血液の中に流れているということだ。その穢れた血を「割礼」で流す。その場合、手や指から血を流すのではなく、ペニスの前皮を切って血を出す。換言すれば、穢れた血と男性性器が密接な関係がある、と考えられるわけだ。
 
 キリスト教の「失楽園物語」は、人類の始祖アダムとエバが神の戒めを破ったため、罪を背負い、エデンの園から追放された、と説明する。その「食べてはならない」という戒めは何を意味するのか。普通の果実か、それとも別のものか、キリスト教の教えはその点、非常に曖昧模糊としている。キリスト教の母体、ユダヤ教は「割礼」という儀式を通じて、「間違った愛の行為によって罪が生じた」ことを教えているわけだ。

欧州の王室の「秘話」

 「この人と結婚できないのならば、生涯独身でいます」
 ノルウェーのハーラル5世が現在のソニア王妃との結婚許可を得るために発した台詞だ。同国王が9年余り心を引かれてきた女性だった。王室関係者からは「彼女は将来の女王になるには相応しくない」という声が上がった。ソニア王妃は当時、裁縫師だったからだ。その時、当時皇太子だった国王の口から飛び出した台詞が先に紹介したものだ。
 オスロの政府庁舎前の爆弾テロと郊外のウトヤ島の銃乱射事件で77人が殺害される大事件が発生した時、犠牲となった家族と共に教会の慰霊礼拝に参加した国王の姿は非常に印象的だった。穏やかで少し地味な感じがするほどだった。その国王が若き日にあのような情熱的な台詞を発していたわけだ。

 欧州の王室では何といっても英国の王室が代表格だ。同国で昨年4月、ウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんの結婚式がウェストミンスター寺院で挙行された。両者は学生時代から知り合っていたから、結婚は時間の問題と受け取られてきた感があった。その華やかな結婚式は世界の耳目を集めたことはまだ記憶に新しい。英国の王室では、米女性との愛を貫き通し、王冠を捨てて退位したエドワード8世の話は余りにも有名だ。

 日本の皇室と関係が深いオランダのベアトリックス女王もドイツ人外交官だったクラウス・フォン・アムスベルク氏との結婚に反対されたため3日間断食して父親を説得した、という話が伝わっている。オランダでは第2次大戦の影響もあってドイツ人外交官がオランダの王室に入ることに強い抵抗があった時代だ。
 スウェーデンでは2010年6月、ヴィクトリア王女は平民出身のダニエル・ウェストリング氏と結婚したが、王女の場合も現夫(当時、フィットネスセンターを経営)のウェストリング氏と結婚したいと告白した時、グスタフ国王ら王室関係者から「彼は教養もないし、服装も洗練されていない」と強く反対されたが、それでも「結婚したい」いう王女の熱意が勝利した。

 欧州の王室では、スペインやスウェーデンの国王たちの不祥事、英のヘンリー王子の醜聞などが大きな話題を呼んでいるが、その反面、平民との結婚に愛を燃やした王室関係者がいたわけだ。

「33日法王」の生誕100年

 ローマ・カトリック教会最高指導者ローマ法王に選出されたが、就任33日目で急死した短命法王がいる。ヨハネ・パウロ1世(1912年10月17日―78年9月28日)だ。今年10月で同1世生誕100年を迎えることから、イタリア北部のベルノで記念行事やシンポジウムが開かれている。バチカン放送独語電子版が18日、報じた。
 イタリアの貧しい家庭で生まれたアルビノ・ルチアーニ(本名)は幼い時から聖職者の道を目指していく。70年にはヴェネツィアの大司教になり、生涯貧困問題に強い関心をもち続けた。筆の達つ聖職者で「神父にならなかったら、ジャーナリストになっていた」といわれるほどで、さまざまなメデイアに意見や見解を明らかにしている。
 ヨハネ・パウロ1世の呼称は、教会の近代化を決定したバチカン第2公会議を推進したヨハネ23世(1958年10月―63年6月)とパウロ6世(1963年6月―78年8月)の改革路線を継承する意味から、2人の法王名から取った、といわれている。

 近代の教会史で最短法王となったパウロ1世の急死については憶測が絶えない。バチカンは当時、パウロ1世の死因を「急性心筋梗塞」と発表したが、新法王がバチカン銀行の刷新を計画していたことから、イタリアのマフィアや銀行の改革を望まない一部の高位聖職者から暗殺されたという説が聞かれた。十分な死体検証も行われなかったことから、証拠隠滅という批判の声もあった。また、ベットで死んでいるパウロ1世を最初に見つけたのは修道女だったが、公式発表では個人秘書が発見したことになっている。

 興味深い事実は、33日間の短命に終わったヨハネ・パウロ1世の急死後、コンクラーベで455年ぶりに非イタリア人のローマ法王ヨハネ・パウロ2世(任期1978年10月―2005年4月)が選出されたが、同2世は法王就任27年間と近代法王の中でも最長法王の一人となったことだ。すなわち、「最短法王」から「最長法王」にバトンタッチされたわけだ。歴史は人知では計り知れない展開をするものだ。
 「33日法王」の急死をテーマとした映画や書籍が出版されている。パウロ1世はローマ法王としての業績はほぼ皆無だが、そのミステリアスな「急死」で世に名を売った法王だ。

「天使」と交信できる王女様

 オーストリア国営放送で先週から5週連続で「欧州の王室」をテーマ毎に分けて放映している。「欧州の王室」の動向に関心がある当方は毎週楽しみに観ているが、21日の番組の中で「天使と交信出来る王女様がいる」という話を聴いて驚いた。お伽噺ではない。実話だ。それもノルウェーの王女の話だ。ノルウェー王ハーラル5世とソニアの長女としてオスロで誕生したマッタ・ルイーゼ王女(40)だ。

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▲天使と交信できるノルウェーの王女(Wikipediaから)

 王女は2002年、同国の作家アリ・ベーンと結婚し、3人の娘さんがいる。今年2月、エリザベス・ノルデング女史との共著で「天使の秘密」というタイトルの本を出版している。天使に関する2冊目の本だ。天使の存在を人々に紹介したいから本を出版したという。王女は既に、子供たちが天使と話すことができるようになるために「天使の学校」を開校している。王女によると、「天使は私たちの周辺にいて、私たちを助けたいと願っています」という。王女は幼い時から天使と交信してきたという。王女の「天使との交信」について、国内では何かいかがわしい行動のように受け取る人々もいる。

 「天使」といってもピンとこない人が少なくないだろう。聖書によると、天使は神の僕であり、神に頌栄を捧げる存在だ。人間と異なるのは天使が霊的存在ということだ。天使の中にも3人のリーダー、ルーシェル、ガブリエル、ミカエルの3大天使がいる。その中でもトップ格のルーシェルは創世記の「失楽園」物語で蛇として登場し、エバを誘惑した張本人だ。だから、「神は堕落した天使を許しておかず、地に投げ落とした」と書かれている。その結果、天使たちも人間との正常な関係を築くことができなくなった。人類始祖は堕落によって神との交流を失っただけではなく、「僕」だった天使とも容易に交信でくなくなったわけだ。その意味からも、天使と交信できるマッタ・ルイーゼ王女は貴重な存在といわざるを得ない。

 新約聖書「使徒行伝」2章では、「終わりの時には、わたしの霊をすべての人に注ごう。そして、あなたがたのむすこ娘は預言をし、若者たちは幻を見、老人たちは夢を見るであろう」」と記述されている。天使と交信できる王女が現れても不思議ではない時代なのだ。神と交信し、天使と自由に語り合うことが出来れば楽しいだろう。ただし、天使と交信できる人は悪なる天使と善の天使を正しく識別しないと、とんでもない方向に引っ張られてしまう危険性は排除できない。

再び彷徨い出した「幽霊」の正体は

 世界ユダヤ協会は欧州で反ユダヤ主義が再び台頭してきたと警告を発した。特に、東欧のハンガリーやポーランドで反ユダヤ主義が台頭してきたという。興味深い事実は、両国ともユダヤ人の数は第2次大戦後、急減した。第2次大戦前に300万人以上住んでいたポーランドのユダヤ人の数は現在、数千人に過ぎなく、ハンガリーでは大多数のユダヤ人は既に移住していった。すなわち、ユダヤ人が極少数にもかかわらず、反ユダヤ主義が高揚してきたというのだ。「ユダヤ人のいない社会での反ユダヤ主義」(Antisemitismus ohne Juden)と呼ばれる社会現象だ。

 オスロの政府庁舎前の爆弾テロと郊外のウトヤ島の銃乱射事件で77人を殺害したアンネシュ・ブレイビク容疑者の公判はまもなく判決を迎える。同容疑者は「信念がある1人の人間は自身の利益だけに動く10万人に匹敵する」と豪語し、「自分はイスラム教徒の進出を阻止するテンプル騎士団の騎士だ。自分は今、戦争の渦中にいる」と宣言した。
 容疑者はイスラム系移住者の急増に危機を感じたというが、ノルウェーの現実はちょっと異なる。同国は豊富な原油と天然ガスの資源を誇り、その一人当たりの国内総生産(GDP)は昨年度約8万4500ドルだ。失業率も3・6%と欧州の中でも最も低い。移住者は増えたが、外国人率は10%を超えてはいない(例・スイスは20%を越える)。北欧のノルウェーは欧州諸国の中でも最も裕福な国だ。イスラム教徒の数に到っては数%に過ぎない。すなわち、容疑者を取り巻く社会・経済的環境は殺到するイスラム系移住者によって緊迫し、爆発寸前、といったものではない。にもかかわらず、容疑者はイスラム教徒の増加に脅威を感じ、欧州のキリスト教文化を多文化社会から守るという使命感で蛮行に走ったわけだ。

 ポーランドやハンガリーの「反ユダヤ主義」、オスロの大量殺人容疑者の「反イスラム主義」は、憎悪対象(ユダヤ人とイスラム教徒)が減少、ないしは消滅しても、それとは関係なくエスカレートする。両者は、実態の乏しい「幽霊」に対して戦いを挑んでいる、とでもいえるわけだ。
 カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスはその共著「共産党宣言」の中で「ヨーロッパに幽霊が出る。共産主義という幽霊だ」という有名な台詞を発したが、ここでは「欧州の一部で幽霊が出る。反ユダヤ主義、反イスラム主義という幽霊だ」ということになる。

 世界はインターネットを通じて地球上で起きた出来事を瞬時に共有できる。例えば、国際テロ組織「アルカイダ」は組織としては小さいが、西欧文化に対する憎悪は全世界に拡大し、それを共有する人々が同じようにテロに走る。憎悪は容易に伝染する。
 憎悪の対象が身近にない場合、その憎しみは一層深化し、暴発する危険性が伴う。オスロのブレイビク容疑者の「反イスラム主義」にその傾向を感じる。


わたしたちは神の被造物か

 ローマ法王べネディクト16世は「創造神への信仰が薄まってきた。“被造物”という概念はもはや死語化してきた」と懸念を表明している。ドイツ人法王が強調している点は「神への信仰」ではなく、「創造神への信仰」の危機だ。神が人間を創造された、人間は被造物だ、という信仰の基本が揺らぎだしてきたというのだ。法王が19日、イタリアのリミニで開催されたカトリック・デーへのメッセージの中で述べている。
 べネディクト16世は、「現代人は自分を運命に対し無制限の創造者と受け取り出してきた。他者(神)が自分を創造したという教えは現代人の考えと一致しなくなったのだ。しかし、実際は逆だ、創造神への従属から、人間の真の威厳も偉大さも現れてくるのだ」と強調し、「創造主の神への従属を認めなければならない」というのだ。

 現代人の中には、「神への従属」を厭わしく感じ、そこから抜け出したいともがく人々が増えてきた。「創造主の神」という時、多くの現代人は窮屈さを感じるのだ。なぜならば、神が創造主であり、人間を創造したとすれば、創造の目的、意図が当然ある。創造された人間はその目的から離脱できない。だから、神に従属しない、制限のない自由を享受するため「創造神」から逃走しようとする動きが出てくるわけだ。べネディクト16世の「創造神への信仰」の危機とはそのことだ。
 自由を飽くなく追求する人間の欲望は今、創造神の従属から抜け出し、無制限の自由を味わいたい、という衝動に駆られだしたわけだ。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」でイワンは「神がいなければ全てが許される」といったが、「創造神からの逃走」を願う現代人の心情を的確に表現している。

 カトリック教会を含む既成のキリスト教会は神の「創造説」を信仰の基とする。神は人間を含む全ての生き物を創造された、という信仰だ。旧約聖書の創世記に神の創造物語が記述されている。この場合、人間を含む被造物は全知全能の創造神の前には完全に従属する対象となる。「エデンの園」から追放された人間は、「神が自分の創造主だ」という事実から目を閉じようと腐心してきたわけだ。

 「創造神への信仰」を救済する道はあるだろうか。神を人類の親、父母であると捉え、神と人間の関係を単なる「従属関係」ではなく、「親子関係」と受け取ることができれば、誰が親の愛の懐から離れたいと模索するだろうか。「創造の神」が「父母の神」への信仰に昇華される時、「従属関係」は「愛の関係」となり、「創造神への信仰」は蘇るのではないだろうか。
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