2012年07月 : ウィーン発『コンフィデンシャル』

2012年07月

2012年07月21日06:00

カテゴリ: その他

人類始祖の原罪と「私」との関係

　オーストリア日刊紙クリア１９日の科学欄を読んでいて非常に興味深い記事を見つけた。タイトルは「幼少期の虐待は遺伝子を変質させる」という衝撃的な内容だ。遺伝子学者が“Epigenetics”（エピジュネティクス）と呼んでいる新しい領域だ。専門的に表現すると、「ＤＮＡ（デオキシリボ核酸）配列に変化がなく、ＤＮＡへの後天的な作用により遺伝子の形質変異が生じる」ということだ。

　幼少期に性的虐待されたり、強烈なストレス下に長時間置かれた場合、遺伝子の配列（Sequenz)に変化は生じないが、その機能に影響が出てくる、というのだ。例えば、幼少期に性的虐待を受けた場合、その人は大きな精神的ショックを受ける。その結果、その後の人生にもさまざまな影響が出てくることが分かっているが、そのメカニズムは不明だった。遺伝子学者は「精神的ショックはその人の遺伝子機能に変化をもたらし、成長した後、さまざまな病気を誘発する要因となる」と指摘しているのだ。

　人間は約２万２５００個の遺伝子から構成されている。各遺伝子は一定の形質を有しているが、性的虐待など大きなショックを受けた場合、遺伝子の機能に影響が出、その人が成長した後、不安や好奇心の低下などの症状が出、心臓器官の機能欠陥が生じることもあるという。そこで遺伝子学者は損傷を受けた遺伝子の形質変異を研究することで、将来の病気の発生を回避できるのではないか、と期待を寄せているという。

　この記事を読んで、人類の始祖アダムとエバが犯した罪（キリスト教では原罪と呼ぶ）と数千年後の「私たち」の関係を考えてみた。キリスト教の教えでは、人類始祖が犯した罪とその結果がその後の世代に継承されてきた。すなわち、人間は原罪をもって生まれてきたという。イエスは「蛇よ、まむしの子らよ」(マタイによる福音書２３章３３節）と述べている。しかし、数千年前の人間の罪がどのようにその後の世代に継承されてきたのか、と首を傾ける人がいても不思議ではない。アダムとエバが犯した罪と「私」はどのような関係があるのか、といった疑問だ。
　上記の遺伝子学の話から、人類始祖が犯した罪がその遺伝子の形質変異をもたらし、その後の世代にさまざまな影響や病として継承されてきた、と考えることが出来る。「原罪」と「私たち」の関係が少し理解できるわけだ。

　ローマ・カトリック教会の聖職者による未成年者への性的虐待問題は社会に大きな衝撃を投じた。その際、犠牲者の精神的痛みが指摘され、精神的治療の必要性などが話題となったが、遺伝子学者はそのメカニズムを明らかにしているのだ。未成年者への性的虐待がどれだけ大きな犯罪であるか、改めて痛感させられる。

2012年07月20日06:00

カテゴリ: ドイツ

独の「中国スパイ情報活動」報告

　ハンス・ペーター・フリードリッヒ独連邦内相は１８日、ベルリンで独連邦憲法擁護庁の「２０１１年報告書」を公表した。全３６８頁の報告書では「スパイ・情報工作活動」の項目の中で「中国のスパイ情報活動」が７頁に渡って報告されている。以下はその概要を紹介する。

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▲中国のスパイ情報活動を報告する独連邦憲法擁護庁の年次報告書（独連邦憲法擁護庁のHPから）

　１）中国の「国内情勢」

　中国では経済システムのリベラル化が実施され、国民経済は発展しているが、同国は依然、共産党独裁国家であり、国民を弾圧している。経済発展は一党独裁制の合法化をもたらしているが、ここにきて福祉と開発の不均衡や高インフレ率でその経済発展にも陰りが見え出している。

　中国人民解放軍はその軍事能力を向上させてきた（例、ステルス戦闘機のテスト飛行）。中国人民解放軍は経済・政治力の拡大を背景に、空軍と海軍の近代化を促進している（例・空母の就航）。中・長期的に南太平洋領域の軍事力バランスが変わる可能性がある。

　中国指導部は野党勢力や民族・宗派の少数派に対して弾圧政策を行っている（例・国際社会で有名な現代芸術家アイ・ウェイウェイ（艾未未）、反政府活動でノーベル賞受賞者、劉暁波氏らへの弾圧）。

　２）中国の「スパイ工作の構図とその課題」

　中国政府は政権の安定を維持する為、膨大な治安機関を保有している。スパイ情報員は社会の安定と経済利益の促進に奉仕する。彼らは法治国家のような制限を受けない。活動の重点は中国独裁政権を危うくする勢力の壊滅であり、少数民族の独立派への弾圧だ。ドイツ国内にも中国スパイ情報員が多数、暗躍している。

　①ＭＳＳ（国家安全保障省）・・多数の工作員を保有し、偵察活動を展開している。国内では国家の秩序破壊活動の阻止。海外ではスパイ活動だ。ドイツ国内では経済・政治に関する情報収集、反政府活動家たちの監視を任務とする。

　②ＭＩＤ（軍情報工作局）・・工作員は人民解放軍（ＶＢＡ）の管理下にあり、世界各地で活動している。ターゲットは軍関連情報。例えば、外国軍の勢力、武器体系などに関する情報だ。

　③ＭＰＳ（公安省）・・中国の中心的な警察省だ。社会の公共秩序維持が主要課題。彼らは必要に応じてスパイ情報員と同様の手段を駆使する。国内外の反体制派活動家に関する情報を収集する他、メディアとインタ－ネットの監視だ。

　④６１０公室・・１９９９年６月１０日設立されたのでその日付けが呼称となった。江沢民氏は国家主席時代、台頭する法輪功メンバーを監視する機関を創設し、法輪功メンバーを迫害してきた。６１０公室は国内だけではなく、海外でも活動している。ドイツも例外ではない。

　３）対象と重点

　政権の安定を脅かす勢力、グループを国家の敵と見なし、「５つの毒」と呼んでいる（法輪功メンバー、民主化運動家、ウイグル独立派、チベット人、台湾の国家容認派）。

　独連邦軍の武器体系の他、独政府の対中政策、対欧州連合（EU)政策、対北大西洋条約機構（NATO）政策などに関する情報収集。また、経済関連情報、軍関連情報、再生エネルギー、ナノテク、太陽熱技術、環境保護技術、情報関連技術などの情報収集。

　４）方法

　中国スパイ情報員はドイツ国内で対象がドイツ人の場合、非常に慎重で忍耐強い方法を取るが、中国人の場合は強硬手段を取ることが多い。中国のスパイ情報員は駐独の中国大使館、領事部内に潜伏する一方、中国人ジャーナリストと連携を取るケースもある。特には、情報工作員がジャーナリストとして暗躍する場合もある。　

　専門誌、インターネットなどに記述された情報、国際会議や見本市や展示会から情報などを入手。必要な情報をもつ人物と接触し、プレゼントや食事に招待するなどを通じて関係を深め、情報を得る。ドイツ国内には約７万９０００人の中国人ビジネスマン、研究者、学生が駐在している。彼らを通じて情報を得る。

　経済、政治、軍事の関連情報の収集活動とは異なり、「５つの毒」対策は攻撃的だ。ドイツで昨年、４件の中国スパイ情報活動が発覚し、刑法§９９に基づきスパイ活動容疑で判決が下された。バイエルン州ミュンヘン上級裁判所は中国スパイ情報員と連携した疑いで３人の中国国籍者に執行猶予の判決を下した。３人はミュンヘンのウイグル人を監視し、その情報をＭＳＳに提供していた。また、一人の中国出身のドイツ人は６１０公室のためスパイ活動を実施していたとして警告を受けている。

2012年07月19日06:00

カテゴリ: 北朝鮮

情報時代に生まれた独裁者の宿命

　北朝鮮金正恩第１書記の最側近、李英鎬人民軍総参謀長が１５日、解任され、その翌日、玄永哲大将に次帥の称号が授与され、１８日には金第１書記が朝鮮人民軍の最高地位「元帥」に指名された。これらの一連の人事で金第１書記の軍掌握が完了したと一般的には受け取られている。

　李総参謀長の解任の背景について、軍と党の権力闘争説から路線の対立までさまざまな憶測が流れた。明確な点は、北朝鮮では労働党が主導勢力であり、軍はその支配を受ける体制だ。軍クーデター説とか、軍幹部の反乱といったシナリオは考えにくい。李総参謀長の解任は１５日、党中央委員会政治局会議で決定されていることを見ても理解できることだ。

　当方は１９９０年代、ある北の核学者と交流していた時期があった。彼は人民軍幹部家庭の出身だ。食事しながら金ファミリーの話になった時、彼は突然、「金主席の家庭問題については何も話せない。そのようなテーマならば君とは今後会えない」と語気を強め、席を立とうとした。人民軍は金ファミリーに対して絶対忠実でなければならない。話題とすべきテーマではないのだ。当方はその時、人民軍と金ファミリーの関係を強烈に教えられたものだ。

　参考までに、李総参謀長の解任理由は核実験問題が絡んでいた、と受け取っている。金第１書記は核実験の実施を求める李総参謀長を解任したのではないか。金第１書記にとって国民経済の向上が急務であり、国際社会から反発を誘発する核実験の実施は考えられない。もちろん、金第１書記の決定に実質ナンバー２の張成沢氏の助言もあっただろう。

　金正恩氏の路線は父親金正日総書記とは明らかに異なっている。「先軍政治」を最前面に立て、国民の飢えを無視しながら核保有を夢見てきた故金総書記とは違い、その息子、正恩氏は国際社会での北の位置を客観的に受け取っている。クリントン米国務長官が「北朝鮮の刷新を実施する新しい指導者となってほしい」と金正恩氏にエールを送ったことがあるが、米国は「金正恩氏の世界」をかなり正確に掌握しているのではないだろうか。

　金正恩氏は権力掌握のプロセスで「過去の遺産継承」を宣言する一方、国民経済の改革に慎重に乗り出してきた兆候がみられる。国際社会から一層、孤立する核実験の実施などは「考えられないシナリオ」だ。もちろん、北では「改革」という言葉はタブーだ。誰もそのように言い出す指導者はいないだろう。しかし、金第一書記が国民経済の向上なくして、政権の維持は不可能と理解しているとすれば、クリントン長官ではないが、正恩氏が新しいタイプの北指導者となる可能性がある。
　秘密主義で権力への執着度が強かった故金総書記とは異なり、金第１書記は情報の重要性を理解し、情報発信に積極的だ。この父子の相違は時代の違いともいえるかもしれない。金第１書記は情報発信時代に生まれた世代だ。本人の自覚云々は別として、時代が金第１書記を開国に押し出そうとしているのだ。

2012年07月18日06:00

カテゴリ: 日常雑感

便利なスマートフォンの“怖さ”

　スマートフォンが誕生して５年目だ。そこで独週刊誌シュピーゲルはスマートフォンについて特集していた。スマートフォンが人間生活を画期的に改革していったことを紹介する一方、その功罪について報告していた。携帯電話とラップトップの機能を備え、音楽、ラジオ、カメラとサーチをこなすスマートフォンは多くの人を虜にしている。ドイツでは国民の３人に１人はスマートフォンを持ち、３０歳以下の若者になると、その割合は２人に１人という。短期間にこれほど人々の生活に浸透していった機材はスマートフォン以外にないだろう。

　スマートフォンが登場して以来、人々は確かに頻繁にコミュニケーションをするようになったが、電話で直接話すのではなく、メール交信で済ますケースが圧倒的に増えた。それで人は幸せになっただろうか、対立や誤解が解けただろうか。相互援助と連帯感が深まっただろうか、等の疑問が沸く。明確な点はスマートフォンが誕生したことで人々の生活は便利になったが、幸福になったとは余り聞かないことだ。最新のスマートフォンを欲しくて深夜の電車の乗客からスマートフォンを奪った、という若者グループのニュースをよく聞く。しかし、スマートフォンのお陰で「自分は幸せになりました」という証しは聞かない。

　スマートフォンが誕生してまだ５年間しか経過していないから、スマートフォンの功罪云々は時期尚早かもしれない。スマートフォンが便利なIT機材であり、時間を短縮し、人の行動範囲を拡大することは間違いない。知人から聞いた話だが、聾唖者の女学生が授業中、分からないことがあるとカバンからスマートフォンを取り出して検索する、という。その女学生にとってスマートフォンは授業の理解を助けてくれる助手だろう。スマートフォンの効用はそれ以外に無数ある。いつ、どこでも連絡が取れることは企業ビジネスマンやメデイア関係者には便利だ。スマートフォンを利用したら、「スマートフォンのない生活は考えられない」「スマートフォンは自分の体の一部だ」と感じる人が増えてきているという。

　問題は、便利さとその人の幸せは必ずしも一致しないことだ。便利だが、人を中毒にし、正常な思考生活を破壊していく場合も考えられる。米社会学者のシェリー・タークル女史はシュピーゲル誌とのインタビューで「独りでいる能力を失う危険性がある」と指摘しているほどだ。

　企業マネージャーやジャーナリストにとってスマートフォンは不可欠かもしれないが、人々が皆、ジャーナリストや秒単位に動く企業戦士ではない。大多数のスマートフォンの持ち主は友人や知人に短信を送る一方、情報収集や好奇心を満足するためにスマートフォンを利用する。数百人の仮想友人をフェイスブックに抱えていても、自分の心の世界を正直に吐露できる友人は一人もいない、という若者は少なくない。知らなくても困らない情報を無数サーチしてもその人は幸せにはなれない。スマートフォンの世界が多くの時間を占めるようになるほど、その人の実生活は乾燥し、孤独となっていくケースが少なくない。

　スマートフォン関連企業に勤務するマネージャーは「スマートフォンのない時間を大切にしている」と述べている。人は２４時間、連絡可能な状況にある必要はない。時には、一人考え、内省する時間が必要だろう。それが次の活動の原動力となるからだ。２４時間、絶えずソーシャルネットワークに連結し、自らのエネルギーを消費することは理想ではないだろう。シュピーゲル誌の特集を読んでそのように考えた次第だ。

2012年07月17日06:00

カテゴリ: カトリック

中国で「司教叙階」問題が再激化

　ローマ・カトリック教会の総本山、バチカン法王庁によると、ローマ法王ベネディクト１６世は６日、中国でバチカンの許可なく官製聖職者組織「愛国協会」のヨセフ・ユエ・フシェン氏がハルビン教区の司教に叙階されたことを批判し、「バチカンは認可した覚えはない。新司教は神父や教区を指導する権限はない」と強調し、教会法１３８２に基づき同氏の破門宣言を表明した。同時に、違法な叙階を行った側も同様、制裁を受けると警告を発した。

　叙階式は「愛国協会」議長のJohn　Fang　Xinyao司教が主礼を務めたが、４人の司教も参会した。彼らはバチカンから公認された聖職者だ。叙階式の参加は強制されたのか、自主的に出席したのかは不明という。　

　バチカン側は「中国当局は今後、このような違法な叙階が行われないように対応すべきだ。違法な叙階は中国のカトリック教会を分裂させるだけだ」と主張している。ちなみに、「愛国協会」所属のレイ・シイン司教は先月２９日、助祭４人を神父に叙階している。同司教はバチカンからは破門処分を受けている聖職者だ。

　その一方、上海で７日行われた司教補佐の叙階式はバチカンが認可したものだ。ただし、司教補佐に叙階された神父は上海市「愛国協会」副議長だった馬達欽神父だ。同神父は同日、司教補佐に任命された際、愛国協会から脱退を宣言したが、その後、姿を消している。アジア・ニュースによると、同神父は治安関係者に拘束されているという。香港のカトリック教会は１１日、「神父は拉致された可能性がある」と受け取り、「宗教の自由」蹂躙として抗議デモを行っている。

　司教の叙階問題は中国共産党政権とバチカンの関係正常化の最大の障害となっている。バチカン側は司教任命権を主張、、中国側はそれを内部干渉として拒否する一方、国内のカトリック教会を管理下に置く為に腐心してきた経緯がある。

　２００７年以来、司教叙階はバチカンと中国当局間の話し合いで行うことで暗黙の一致があったといわれたが、１１年に入ると、両者間の対立が再び激化し、３人の司教がローマの認可なくして叙階される一方、同年１１月と今年４月にバチカン公認の２人の司教叙階式が行われた、といった具合だ。

　中国カトリック教会は１９５０年以降、ローマ忠実の地下教会と中国官製聖職者組織「愛国協会」に所属する聖職者・信者とに分裂してきた。中国政府の公式統計では信者数は５７０万人だが、非公式では１２００万人と推定されている。その他、地下教会に所属する信者数は約１０００万人だ。カトリック信者を含む同国の宗教者総人口は今日、中国共産党員数をはるかに上回っているといわれる。

2012年07月16日06:00

カテゴリ: 中東

サウジ「女性の権利」が飛躍する時

　サウジアラビアの２人の女性スポーツ選手がロンドン夏季五輪大会に参加する、というニュースが飛び込んできた。その記事を読んでいて米宇宙飛行士ニール・アームストロングの言葉を思い出してしまった。
　アームストロング氏は１９６９年人類初めて月に着陸し、月面を歩いた時、「この一歩は一人の人間にとって小さいが、人類に取って大きな飛躍だ」といった内容のメッセージを地球に送信した。サウジの女性スポーツ選手の五輪参加もある意味でそれに匹敵する‘歴史的な一歩‘ではないだろうか。
　
　サウジでは女性のドライブが禁止されるなど、厳格なイスラム教国では女性の権利は著しく制限されてきた。夏のスポーツ、水泳でも女性は肌を出すことは禁止されているから、海やプールで自由に泳ぐことは難しい。同国ではスポーツは久しく男性だけが行い、女性がスポーツするといった伝統は社会になかった。その国で２人の女性スポーツ選手がロンドン五輪大会に参加するのだ。まさに、アームストロングではないが、小さな出来事だが、サウジ女性の歴史にとってエポック的な一歩だといわざるを得ないだろう。

　国際オリンピック委員会は過去、サウジ政府に女性のスポーツの権利を認めるように何度もアピールしてきた。長い交渉と粘り強い要求の結果、サウジ政府は６月２６日、女性スポーツ選手の五輪参加を認めたわけだ。

　ところで、今回サウジからロンドン大会に参加する２人の女性を紹介する。Sarah　Attarさんが陸上８００メートル競走に、もう一人のWodjan　Ali Seraj　Abdulrahimさんは柔道に出る。２人は女性スポーツに強い抵抗を持つ社会でどのように練習を重ねていったのだろうか。欧米社会の女性スポーツ選手には考えられないような厳しい道があったことだろう。２人のロンドン大会での活躍を期待したい。

　ちなみに、サウジでは２００８年、米国居住のサウジ出身の女性スポーツ選手がサウジの国旗をもって参加したことがあるが、サウジに住む女性スポーツ選手の五輪参加は今回の２人が初めてだ。なお、カタールやブルネイも女性スポーツ選手の五輪参加を認めたというから、アラブ出身の女性スポーツ選手が国際舞台で活躍する姿が増えていくことだろう。

2012年07月15日06:00

カテゴリ: 中東

シリア内戦の早期終焉は期待薄

　中東問題専門家のイラク出身のアミール・ベアティ氏（写真）はこのほど当方とのインタビューに応じ、中東・北アフリカ諸国（ＭＥＮＡ）の民主化運動の現状とその見通しについて答えた。以下はその一問一答だ。

　――エジプトの現状は革命前より厳しい、という声が聞かれる。

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　「新しい問題が出てきて、状況は複雑化してきたらかだ。簡単にいえば、権力争いだ。モルシ大統領を代表とするムスリム同盟団と軍最高評議会間の権力争いだ。その動向を予測するのは難しい。ムスリム同盟団には軍部に対して根深い恨みがある。多くの仲間がムバラク時代に刑務所に送られ、殺されてきたからだ。その一方、軍側は祖国防衛という意識が強い。軍の存在がなければ、同国の治安は一層危なくなる、といった危機感がある。モルシ大統領と軍最高評議会は国の為に連携を取るべきだ。権力争いをしている時ではない。さもなければ、ムバラク（前大統領）の再来（独裁国家）も考えられる。民主主義は権力の分割が基本だ」

　――「アラブの春」以降、チュニジア、エジプトについてリビアで今月７日、約４０年ぶりに議会選挙（定数２００）が実施され、ジブリール前暫定首相率いるリベラル派の「国民勢力連合」の優勢が伝えられている。議会選挙でムスリム同盟系政党が過半数を占めたエジプトとは異なる状況だ。その相違はどうしてか。

　「隣国チュニジアやエジプトの選挙動向をみて、リビア国民はイスラム教独裁国家の出現を恐れ出している。リビア国民は多くは教育を受けていないが、イスラム教の独裁支配を懸念し、民主主義の国家を目指す意識が高まっている。リビアにもムスリム同盟は存在するが、その基盤は脆弱だ」

　――シリアの状況はどうか

　「シリアの未来は残念ながら暗い。武器では紛争を解決できない。シリアの現状はもはや政府と反政府間の内戦ではなく、ロシアと米国間の対立の様相も深め、サウジアラビア、カタール、トルコら周辺国家の利害も絡んできた。だから、状況は複雑化してきたのだ。その分、解決が難しくなってきた」
　
　――イランはシリア問題への関与を模索している。

　「当然だろう。実際、イランの関与がなくしてはシリア問題は解決できないだろう。イラク問題の場合もイランの関与があったから解決できたのだ。シリアが崩壊すれば、次はヒズボラだ。その波動はイラン、そしてロシアまで及ぶだろう。だから、イランは利害の関係が深いシリア問題の解決に口を出したいわけだ。一方、米国は年末に大統領選を控えているから軍事介入など抜本的な対応には出にくい。すなわち、シリア問題の年内解決は期待できないわけだ。だから、内戦はもっと激化すると考える。反政府側は対空ミサイル、対戦車ミサイルを獲得しているから、戦いはエスカレートするだろう」

2012年07月14日06:00

カテゴリ: オーストリア

ケニアの預言者の「お告げ」

　ケニア人の預言者が最近、「オーストリアの崩壊」を予言した。どうしてケニア人がわざわざアルプスの小国オーストリアの崩壊を予言したのか分からないが、「オーストリアは近いうち、大地震と大津波が発生し、大火災が起き、崩壊してしまう」という。その理由は、「オーストリアは神の法を守らなかったからだ」というのだ。
　ケニアでは有名な預言者ということもあって、オーストリアのメデイアも無視できなかったのだろう、預言者の顔写真付きでそのメッセージを報じていた。

　さて、記事を読んで２つほど疑問を感じた。一つは巨大地震の影響で大津波が襲来するというが、海に囲まれた日本ならば考えられることだが、オーストリアは内陸国だ。美しき青きドナウ川と湖だけだ。どのようにして大津波が発生するのか。２つ目は「神の法」を守らなかったというが、それはオーストリア国民だけの話ではないはずだ。
　　
　しかし、預言者の言葉を安易には無視できない。その内容が非論理的であり、非現実的だとしても何らかの意味があるかもしれないからだ。そもそも理論的、現実的な予言などはないだろう。

　そこで気を落ち着かせて再度、考え直してみた。オーストリアで過去、大地震はなかった。隣国イタリアは地震国だ。歴史を振り返ると、欧州ではリスボン大地震(１７５５年）があった。その規模は東日本大震災と同じマグネチュード９ともいわれている。イタリア北部で今年に入り、震度５程度の地震が多発している。チロル州でも感知されているから、大地震説は決して非現実的ではない。大地震が発生すれば、ドナウ川が荒れ狂う、というシナリオも除外できない。大地震で陸地が分かれ、海に陥没するといったケースだって除外できないはずだ。

　次に、オーストリア国民は他の国民よりも「神の法」を犯してきただろうか。歴史的にはアドルフ・ヒトラーが生まれた国だ。その歴史的謝罪が足りないといわれれば、否定は出来ないが、オーストリアはその後、多くの政治難民を収容する一方、国連を誘致するなど国際的貢献を積み重ねてきた。そのように考えると、オーストリア国民が他の欧州諸国の国民より罪深いとはいえないはずだ。

　ここまで考えていくと、ケニアの預言者はひょっとしたら神のお告げ先の「オーストラリア」という言葉を「オーストリア」と勘違いして受け取ったのではないか、という疑いが浮上してきた。過去、そのような間違いが起きている。その度に当方などは「カンガルーの国(オーストラリア）ではありません。あのモーツァルトの国（オーストリア）です」といって訂正してきた。

　ケニアの預言者にはもう少し詳細に「神のお告げ」を説明してほしいが、無理な注文かもしれない。予言は、短く、どのようにも解釈できるように意味曖昧な内容、という宿命を持っているからだ。ケニアの預言者の崩壊予言が当たらないことを祈るだけだ。

2012年07月13日06:00

カテゴリ: 北朝鮮

北、朴女史の大統領選出馬を歓迎

　大韓貿易投資振興公社（ＫＯＴＲＡ）の知人から電話が入った。
　「君は金正恩氏（第１書記）の横に座っていた女性が誰か分かるか」と早速聞いて来た。数分前にも、知合いの外交官から同じ様な質問を受けたばかりだ。

▲朝鮮中央テレビが映し出した“謎の女性”（朝鮮中央テレビから撮影）

　朝鮮中央テレビは７日、牡丹峰（モランボン）楽団の公演を観賞した金正恩氏を報道したが、その時、正恩氏の横に座っていた若い女性を映し出した。その「女性は誰か」でここ数日、話題を呼んでいた。

　そこで　「当方はまったく分りませんね。可能性は３つしかないでしょう。①妻、②実妹（ヨジョン氏）、③愛人の３つの可能性です。③の愛人説はほぼ除外すべきでしょう。朝鮮中央テレビが国家指導者の愛人が写ったシーンを放映するとは考えられませんからね。②の実妹（２４）説は考えられますが、正恩氏の横には軍幹部と党幹部が座っています。その間に座席を占めることができるのは通常、妻だけでしょう。昨年、正恩氏が結婚したという情報が流れました。確認できていませんが、若い正恩氏には妻を公開の場から隠すという考えはないでしょう。むしろ、手を繋いで歩く若い世代の代表ではないですか。検閲が厳しい北のメディアが報道した背後には、正恩第１書記の新しい指導者像を内外にアピールする狙いがあった、と受け取っていいのではないですか」と答えた。
　
　その日の午後、知人の北朝鮮外交官に会ったので、上の質問をしたら、当方と同じ様な答えが返ってきた。知人曰く「自分は面識がないから分らないが、可能性は限られている」という。すなわち、「妻」説だ。

　金正恩氏の女性に関する質問が一段落したので、別の話題を聞いた。
　「セヌリ党の朴槿恵前非常対策委員長は１０日、大統領選挙出馬を表明しました。北朝鮮はどのように受け止めていますか」
　知人は「彼女はいい候補者だよ。君も知っているように、故朴正煕元大統領の長女だ。今年６０歳になったと聞く。彼女の大統領選出馬宣言を歓迎しているよ」と無条件で支持を表明した。朴女史の年齢まで知っていたということは、朴女史を研究しているな、という印象を受けた。
　「彼女は保守派与党出身者ですよ」と説明すると、そんなことはどうでもいい、といった感じだった。女性大統領の誕生にも抵抗がないようだ。
　ちなみに、朴女史は「南北間の不信と対決の悪循環を終わらせ、信頼と平和の新しい朝鮮半島に向けて踏み出す」と、出馬宣言文の中で述べている。

2012年07月12日06:00

カテゴリ: オーストリア

診断書を乱発する医者を追え！

　オーストリアで病気した場合、通常はHausarzt（家庭医）の所で診察を受ける。家庭医が患者の症状を診察し、薬の処方箋を書くか、必要ならば専門医を紹介する。専門医で診察を受けた場合も、その診察結果を患者の家庭医に報告する。薬がなくなれば、家庭医にいって処方箋を新たに出してもらう。

　だから、名医を見つければその人の健康管理は一安心だが、悪い家庭医にぶつかった場合、患者は災難だ。新たな家庭医を探さなければならないが、１月、４月、７月、１０月の３カ月目に入ってからしか変えられない。例外は歯医者だ。歯医者の場合、患者は複数の歯医者に行くことが出来る。

　今回は家庭医が患者に出す「病気状況」の診断書について報告する。会社員が月曜日、突然、体調を崩し、３日間以上、会社を休む場合、医者の診断書が必要となる。オーストリアではこれをKrankenstaende（クランケンシュタンド）と呼び、この診断書をもらえば、極端な話、何カ月も会社を休むことが出来る（当方は半年近く病欠で会社を休んでいる人を知っている）。もちろん、その期間は給料が払われるから、心配することなく養生できるわけだ。

　ところがどの世界でも同じだが、そのシステムを悪用する人間がいる。患者だけではない、医者もだ。オーストリアでは昨年、延人数約３０４万人が病欠し、その延日数は約４０００万日だ。問題は病気ではないのに医者に病気診断書を要求するケースだ。それだけではない。患者が病気ではないと分かっていても患者の要求に応じて診断書を出す医者がいる。
　例えば、ウィーン市には現在、７９１人の家庭医がいるが、「あの医者はしつこく質問せずに証明書を書いてくれる」と患者から歓迎される医者がいる一方、「証明書を発行するのを渋る」と、患者受けの悪い家庭医もいる。後者に対しては、患者は家庭医を変えることで制裁を加えることができる。だから、患者を失いたくないため病気証明書を出す医者も出てくるわけだ。

　オーストリア日刊紙クリアによれば、ウィーン市だけで昨年、不法な病気証明書による被害総額は約６８万４０００ユーロにもなった。そこでウィーン市健康保険組合はテスト患者を疑わしい家庭医に送り、医者の仕事ぶりをチェックするようになった。医者が病気でもない患者に診断書を発行していることが判明すれば、同組合はその医者との間で締結した契約を破棄することができる。そうなれば、家庭医は仕事が出来なくなる。ちなみに、健康保険組合がテスト患者を送って医者を調査することに対し、医師会は不快感を表明している。