ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2012年07月

なぜ、マドンナは歓迎されないか

 ウィーンで29日夜、ポップスの女王マドンナのコンサートが開かれた。マドンナのコンサートはいつもファンたちで大騒ぎとなるが、ワルシャワで8月1日に開かれるマドンナのコンサートはウィーンの騒ぎどこでは済まないだろう。
 マドンナのポーランド入りに先駆け、同国のローマ・カトリック教会の青年信者グループ「青年十字軍」が「コンサートの中止」を市当局に呼びかけた。ワルシャワからの情報によると、約4万5000人の国民がインターネット上で「コンサート中止」に支持表明している。
 その呼びかけに呼応するように、3人の神父たちが「マドンナのコンサートが中止されるように祈ろう」と信者たちにアピールしたばかりだ。神父たちは「聖母マリア、神、キリスト教が侮辱される」という。それだけではない。カトリック系ジャーナリスト同盟もコンサート反対を表明している、といった具合だ。

 ポーランド国民がマドンナ・コンサートに強く反発する背景には、コンサートの日が8月1日だ、ということもある。1944年、ナチス・ドイツ軍の侵攻に抵抗して武装蜂起したポーランド国民約20万人が犠牲となった日(通称ワルシャワ蜂起)だ。その歴史的な日にマドンナのコンサートが開かれ、馬鹿騒ぎとなることに多くの国民は抵抗を感じるからだ。
 ワルシャワ市当局はコンサート主催者側と交渉し、マドンナが舞台に登場する前にワルシャワ蜂起に関するドキュメントフィルムを放映し、犠牲者に黙祷を捧げるという調停案を出しているという。

 記憶力の良い読者ならば、3年前にも同様のことがあった、と指摘されるだろう。その通りだ。マドンナは09年8月15日、すなわち、ローマ・カトリック教会の「聖母マリアの昇天の日」の祝日にワルシャワでコンサードを計画したことがあった。当時もカトリック系極右グループ「プロ・ポロ二ア」が「聖母マリアの昇天を祝う日に、肌を露わにして歌う米国歌手のコンサートが開催されることはスキャンダルだ。コンサートを中止するか、延期すべきだ」と呼びかけ、レフ・カチンスキ大統領(当時)も「15日のコンサート中止」を要請する書簡を送るなど、ポーランド全土で「マドンナのコンサート中止」運動が広がったものだ。

 それにしても不思議だ。マドンナ側は8月1日がポーランドでどのような日か知らなかったはずがない。3年前の8月15日の場合もそうだ。マドンナ側は歴史的な日や教会の祝日にコンサートを敢えて開き、話題を提供しようとしているのではないか。1年は365日だ。カトリック教国のワルシャワでコンサートを開催するのなら、別の日を選べは「コンサート中止運動」は起きないだろう。メディアに話題を提供することで、コンサートの成功を図る、といった主催者側の意図が垣間見える。

「秋田犬とシベリア猫」と日本外交

 「それにしても、プーチン大統領は秋田県知事が犬より猫が好きだとどうして知っていたのだろうか」
 プーチン大統領が28日、ロシア南部ソチで玄葉光一郎外相と会談した際、同外相に、贈られた秋田犬に感謝する一方、その返礼にシベリア猫を秋田県知事に送る意向を表明した、という記事を読んでいた友人がこのように呟いた。
 プーチン大統領が元ソ連国家保安委員会(KGB)のドイツ圏担当エージェントだったことを想起すれば、当方などは驚かない。日本担当エージェントが秋田県知事に関する情報を収集済みだろうし、秋田犬「ゆめ」を贈りたいと聞いた時から、贈り主の思想傾向から趣味、家族構成まで調べるように指令していたとしても不思議ではない。少なくとも、大統領は日本の政治家とは違い、情報収集の専門家だ。情報の価値を誰よりも知っている。秋田県知事が犬より猫が好き、といった類の情報収集はロシアのエージェントにとっては簡単な仕事だ。
 
 当方の知り合いにロシア情報機関のエージェントらしい人物がいる。もちろん、彼は「私はKGBのエージェントです」と言ったこともないし、名刺すらもらったことはないから100%確実ではないが、10年以上付き合ったいると自然に分かるものだ。
 彼は誰よりも早く起床し、事務所で仕事に取り掛かる。その日の全ての日刊紙をチェックし、ロシア関連記事やコメントを切り抜く仕事が待っているからだ。午前中にそれを済ますと、その日の情報を上司に報告する。彼はドイツ語が堪能なこともあって頻繁にベルリンに行く。ロシアがドイツ国内で何らかの工作をする場合、ドイツ駐在のエージェントは動かない。問題が生じた時、外交問題に発展する危険があるからだ。だから、他国駐在のエージェントを動員するのが普通だ。そのためかどうか分からないが、彼は頻繁にベルリンに飛ぶ。その度に「仕事だ」というだけだ。
 
 彼はアラブ出身の記者のように多弁を弄することはない。こちらが話しかけない限り、自分からは話さない。自身の健康問題も話さない(彼は心臓のバイパス手術を受けている)。静かだが、プレゼンスがある。
 ロンドンで夏季五輪大会が始まったが、彼はモスクワの指令を受けてロンドンのメデイア・センターに取材記者として登録した。彼は「ロシア選手だけではなく、ドイツ選手の動向を追う予定だ」と語っていた。プーチン大統領がドイツ語圏エージェント出身だったこともあって、彼は結構、上司から用いられているようだ。
 
 ところで、日本政府の情報収集活動はどうだろうか、と少し心配になってきた。日本はロシアと北方領土問題を抱えている。ロシア政府首脳陣の北方領土訪問のニュースを読む度、「ロシアは野田政権を小ばかにしている」と感じる。
 玄葉光一郎外相がプーチン大統領に会った時、「大統領、2年前ブルガリア首相から贈られた犬(バッフィー)がモスクワの生活に順応できずに苦しんでいると聞きました。日本から優秀な犬専門医を送りましょうか」ぐらい言って貰いたいものだ。

ラマダン和平とクリスマス休戦

 欧州ではクリスマス・シーズンを迎えると教会から足が遠ざかっていた人も仕事帰りや日曜日に教会に顔を出すようになる。同時に、この期間、物乞いに出会うと財布の紐が弛むなど、喧騒な日々で忘れかかっていた善意が溢れ出てくる。人々は他の月より一般的に信仰的になる。
 同じ様な現象が今月20日から始まったイスラム教のラマダン(断食)期間にも見られる。もちろん、イスラム寺院には頻繁に通うが、ラマダン明けには疎遠となっていた友人、知人を夕食に招いて食事する機会が増える。1人で生活しているイスラムの青年がいると聞けば、夕食に招待して歓談するのもこの期間だ(今年のラマダンは8月18日まで)。
 友人は「ラマダン期間、一人でいる事が難しくなる。常に夕食に招待されるからだ」と嬉しい悲鳴を挙げる。

 そこで敬虔なイスラム教徒の友人に質問した。
 「それでは、ラマダン後、一般的な人間関係はその前より深まり、険悪化した関係も改善され、平和な心が溢れるようになるのではないか」と聞くと、「そこはキリスト教社会のクリスマス・シーズンと似ている。クリスマス期間、笑い、楽しんだが、クリスマスが過ぎれば、その前と同じようになる。ラマダンの友情や慈愛がラマダン後も続くということは少ない」と指摘し、「ラマダン中の神もその後の神も同じように、人間も簡単には変わらない」と付け加えた。

 アラブ・イスラム教国で紛争が生じた時、“ラマダン和平”が紛争関係者の間で議題になる。キリスト教圏でも“クリスマス休戦”という暫定和平が実現したことがあった。ちなみに、国連の潘基文事務総長は26日、全加盟国にロンドン夏季五輪大会中の“五輪停戦”を呼びかけている。

 しかし、シリアではラマダン期間でも政権派と反政府間の紛争が続いている。友人は「神聖なラマダンを戦いで汚す政府軍も反政府軍も真のイスラム教徒ではない」と言い切った。ただし、「攻撃された場合、ラマダン期間でも応戦する権利は認められている」という。

 友人は「ラマダン期間は物質的なことより、精神的なことに時間を多く費やす期間だが、日常小売店や食料品店は最高の売上げを記録する月でもある。多くのイスラム教徒がゲストを招いて夕食する。そのため人々は普段より多くの食料品を買い、普段より大食し、太る人も出てくる」という。

北の「遊園地と国民経済」の改革

 北朝鮮の金正恩第1書記が李雪主夫人と共に綾羅人民遊園地の完工式に参加し、乗り物に乗って楽しむ写真と記事が報じられた。金氏は最高指導者に就任した後、子供たちが楽しむ遊園地や動物園の視察に力を入れ、その改善などを直接指導してきたという。夫人との間に一人の娘がいるといわれる正恩氏が国の将来を背負う子供たちの生活改善に意欲があるのは十分理解できる。
 その一方、疲弊した国内経済の改革にも乗り出していると聞く。こちらは遊園地の改善のようには簡単にはいかない。「ウリ式経済改革措置」と呼ばれているが、インフラの改善、エネルギーの確保、原資材や技術の確保など取り組まなければならない課題が余りにも多く山積しているからだ。経済の復旧と共に、国民の食糧問題の解決も急務だ。腹をすかしていては戦どころか仕事にも専心できない。

 金正恩氏は自国が直面している諸問題を理解していると確信する。人民軍の核実験の実施要求を抑えても国民経済の改善を優先としている姿からそれが推測できるからだ。
 しかし、問題は分っていても一朝一夕には解決できないことだ。成果が挙がるまで飢えに苦しむ国民をどのように説得して宥めるのか、インフラの改善やエネルギー確保、食糧不足を解決するためには自力では難しい。国際社会の支援が不可欠だ。支援を受ける為にはクリアしなければならない条件が出てくる。もはや無条件で支援をしてくれる国はいない。中国の支援も紐つきだ。父親の金正日総書記が得意としてきた‘瀬戸際外交‘も国際社会から反発を買うだけで、問題解決には程遠いことが実証済みだ。

 北朝鮮は過去、数回、困窮する国民経済の刷新に乗り出したが、いずれも惨めな結果で終わった。準備不足と小手先の改革だったこともあるが、指導者の「改革への決意」が中途半端だったからだ。抜本的な改革には国民のイ二シャチブが不可欠であり、経済活動を含み国民の自由を尊重しなければならない。北の指導者は過去、そこまで踏み込んだ刷新なかった。彼らの目にはそれは明らかに“自殺行為”と思われたからだ。
 国民に自由を与えるならば、その自由は経済活動の自由だけに留まらず、政治の自由、言論・結社の自由へと繋がる恐れが生じ、最終的には独裁国家が崩壊していく、という悪夢だ。

 経済改革に乗り出そうとしている正恩氏の改革への決意はどうだろうか。小手先の改革で満足し、独裁体制の堅持を優先する道を最終的には選ぶだろうか。遊園地で乗り物に興じる正恩氏の写真をみながら、少し心配になってくる。

 金正恩氏は、父親や祖父すら考えもしなかった「独裁国家から民主国家へソフトランディング」という歴史的課題に対峙しているのだ。その課題が正恩氏にとって荷が重すぎるかどうか、判断を下すまでもうしばらく同氏の言動を注視する必要があるだろう。



【短信】金正恩夫妻、近日中に中国訪問へ

 北朝鮮消息筋によると、金正恩第1書記は早ければ来月にも訪中する予定だ。その際、父親の故金正日労働党総書記とは異なり、空路で北京入りし、訪中には李雪主夫人が同伴する可能性があるという。
 消息筋は「金正恩氏が李夫人と同伴で遊園地を訪問した時、国営朝鮮中央放送が夫人名を明らかにしたのは、訪中を控え、国際社会のデビューに備えた予行演習だった可能性がある」という。
 同筋は「金正恩氏が夫人と一緒に北京の国際空港に降り立った時、国際社会は驚き、北で新しい時代が始まっている、という強い印象を受けるだろう」と述べた。

中国の未来を握る「精神の解放」

 「中国が真の大国となるには宗教や倫理の復興が不可欠だ」
 中国の代表的知識人Liu Peng(劉鵬)が「アジアの教会」のブログの中でこのように述べている。同氏は反体制派知識人ではなく、中国共産党政権に近い人物だ。アジアの代表的シンクタンク、中国社会科学院の著名なメンバーだ。その同氏が「宗教の価値を認めることが中国の大国への道だ」と述べているのだ。少し驚かされる。
 同氏は「政府当局とメディアはこの事実を認め、議論することを躊躇している」と批判し、「中国の将来の発展の鍵は物質的な分野ではなく、精神的な領域にかかっている」と述べた。同氏によると、中国人知識人は精神的生活の欠如、すなわち宗教分野の空白に悩んでいるというのだ。バチカン放送独語電子版が24日、「政権派思想家が国の精神的開放を求める」というタイトルで報じている。

 昨年7月1日、中国共産党創立90周年の祝賀大会が北京人民大会堂で開かれた。そこで胡錦濤・国家主席(共産党総書記)は「中国を発展させる鍵は中国共産党にある」と豪語したことを思い出す。
 しかし、その肝心の共産党の党員数は8000万人というが、党員数がここにきて急減してきた現状については何の説明もなかった。中国共産党員の中には、党員証より、会社社長の名刺を重視する拝金主義が広がっている。イデオロギーに凝り固まった共産党員はもはや少数派に過ぎないことは周知の事実だ。
 独メディアは当時、「暴力革命で政権をとり、イデオロギー至上主義の共産党は今、法治、憲政、自由、民主主義との対立を解消できず、中国の発展を大いに阻害している」と指摘している。「中国共産党が国の発展の最大障害」というのだ。

 その一方、「宗教を信じる共産党員が急増」してきた。海外の中国反体制派メディア、大紀元時報によると、中国共産党の実数は約6000万人で、その内、約2000万人の党員が何らかの信仰をもっている。その内、1200万人が宗教行事に参加し、少なくとも500万人の党員がその信仰を実践しているという。この事実を中国共産党は認めようとしない、というより無視してきたのだ。
 政権派知識人の「宗教性の回帰」のアピールは中国が今、最も考えなければならない問題を突いている。

金正恩氏の「スポーツ政治」

 北朝鮮の故金正日労働党総書記時代には「音楽政治」と呼ばれた政策があった(「金総書記の『音楽政治』」2008年3月1日参照)。オーケストラの交流などを通じて南北間や対米関係を改善するというものだ。「音楽」の政治性は否定できない。ヒトラーもリヒャルト・ワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」を愛し、ワーグナーの民族主義、反ユダヤ主義に大きな影響を受けたことはよく知られている。北朝鮮労働党の機関紙・労働新聞は2007年9月、「アリラン公演には金総書記の統一への意思が盛り込まれている。アリランは金総書記の作品である」と強調したほどだ。
 その息子、金正恩第1書記はここにきて「スポーツ政治」を推進してきた。国際社会から孤立した北朝鮮がスポーツを通じて外交を展開し、北のイメージ・アップを図る狙いがあるといわれる。父親が「音楽」で、その息子は「スポーツ」で国際社会に北の国威をアピールしたいというわけだろう。

 ロンドン夏季五輪大会は27日、開幕式を迎える。世界のスポーツ・ファンだけではなく、全世界の人々の耳目が集まる五輪大会だ。米国プロ・バスケットボール(NBA)の大ファンだった金正恩氏も最高指導者として迎える初の五輪大会にかなり熱を入れているという。ちなみに、北は今回、11種目、51人の選手団をロンドンに派遣するという。今大会では男女マラソンから射撃、レスリング、ボクシングなど伝統的に強い競技を中心に10個の金メダルを目指すという。オリンピック大会で金メダルを獲得すれば、国歌も流れる。北にとっても格好の宣伝の場だ。北指導者が五輪の舞台を逃すわけがない。

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▲国連事務総長のスポーツ問題担当特別代表、レムケ氏(レムケ代表の公式サイトから、右・潘基文国連事務総長)

 その一方、ロンドン五輪村の裏では南北間のスポーツ外交が展開するという。独週刊誌シュピーゲルによると、国連の潘基文事務総長のスポーツ問題特別代表、ドイツ人のヴィリー・レムケ氏(Willi Lemke)がロンドンで北代表団と接触し、2015年、韓国の光州開催の第28回夏季ユニバーシアード大会で南北合同チームの参加案を話し合うというのだ。08年4月以来、国連事務総長スポーツ問題特別代表を務める同氏は「スポーツは人々を容易に一つにし、相違を乗り越えることができる」と確信、年内にも平壌を訪問して南北合同チーム案を煮詰めていくという。
 ちなみに、昨年11月カタールで開催された「平和とスポーツ卓球杯」では男子ダブルスで南北選手がペアを組んで優勝している。レムケ氏の活躍を期待したい。

金正恩氏、対日関係改善に関心

 北朝鮮の金正恩第1書記は、最側近の李英鎬人民軍総参謀長を解任する一方、自身は朝鮮人民軍の最高地位「元帥」に就任することで労働党と人民軍の掌握を完了した。同第1書記は「先軍政治」から「経済改革」へその目標を慎重に変えてきたといわれる。それは「6・28方針」と表現されている。すなわち、飢餓に苦しむ国民を解放し、経済強国という目標を立て、国家が積極的に投資していくという。その路線として、「中国型」か「ベトナム型」かで韓国メディアは今、議論を呼んでいる。そこで欧州駐在の北のエコノミストN氏に同国の経済改革の見通しなどを聞いてみた。

 ――金正恩氏は核兵器製造を国家目標としてきた父親故金正日総書記の先軍政治から決別し、国民経済の再生に乗り出してきた兆候がみられる。

 「6・28方針はまだ正式に決定していない。党で正式に決まったならば、海外駐在のわれわれにも所属大使館を通じて通告を受けるが、目下、そのような通告を入手していない」

 ――韓国メデイアでは金第1書記の経済路線が中国型とベトナム型で議論を呼んでいる。第1書記はどちらの路線を目指すと考えるか。

 「あくまでも私個人の予想だが、ベトナム型だろう。なぜならば、中国は大国であり、その経済路線を見本とするには余りにも国力の相違が有るからだ。その点、ベトナムはわが国と同様の国力とその規模だ。模範とするには適当だろう」

 ――金正恩氏の叔父・張成沢国防副委員長は親中国派といわれる。隣国中国から内外の支援を受けてきた。その一方、故金総書記は中国に対してはかなり強い嫌悪感があったといわれるように、北側は中国に対する警戒心は一般的に強い。

 「国民の対中感情は歴史的なものだが、存在する。しかし、中国型改革路線云々の場合、国の規模問題であり、歴史的な感情ではない。歴史的感情といえば、わが国民の対日感情のほうがまだ新鮮な記憶であり、嫌悪感は強い」

 ――ところで、金第一書記は日本との関係改善、経済関係の深化などに関心があるのか。

 「金第一書記は日本の経済力、国力を客観的に掌握している。だから、近い将来、対日関係の改善に乗り出すことは十分考えられる」

 ――話題は変わるが、李総参謀長が粛清されたという情報が流れている。李総参謀長が公式記録フィルムから抹殺されてきたというニュースも伝わっている。

 「そのように報じるのは韓国メディアだろう。事実は解任されただけで、粛清とか拘束といったことはない。国の最高指導者が解任しただけだ。解任された人物が記録フィルムから消去されるのは、解任された人物だからだ。事実はそれ以上でもそれ以下でもない」
 ――李派軍と崔龍海総政治局長派軍が武装衝突したという情報が流れている。

 「考えられないことだ。軍内部で武装衝突したり、最高指導者の決定に反対して蜂起するといったことはわが軍の伝統にはない」

「事件の核心」とバチカンの狙い

 ローマ法王べネディクト16世の執務室から書簡や文書を盗み出し、その一部をメディアに流した容疑で拘留されていた法王個人執事、パオロ・ガブリエレ容疑者(46)が21日、60日間の未決拘留から釈放され、2カ月ぶりに自宅に戻った。バチカン法王庁のロムバルディ報道官は同日夜、「ピエロ・ボネット予審判事は元執事を今後、自宅監禁とする決定を下した」と発表した。バチカンのニコラ・ピカルディ検事は近日中に公判を開始するか、告訴しないかを決める。

 バチカン市国は5月23日、ローマ法王ベネディクト16世の執務室や法王の私設秘書、ゲオルグ・ゲンスヴァイン氏の部屋から法王宛の個人書簡やバチカン文書を盗み出し、イタリアのメディアに流した容疑でガブリエレ執事を逮捕し、内部情報流出事件(Vatileaks)の背後を調査してきた。

 司法側とは別に、べネディクト16世は3人の枢機卿(代表スペイン出身のユリアン・へランツ枢機卿)から構成された調査委員会を設置し関係者への尋問を進めてきた。同調査委会の尋問作業も完了し、報告書は法王に提出されたという。ちなみに、同委員会は枢機卿を含む約30人の聖職者を尋問したという。

 調査の焦点はガブリエル執事の単独犯か、共犯者、グループが背後にいるのかを明らかにすることだ。ガブリエルの弁護士カルロは「ガブリエレ容疑者は個人的な理由、法王を助けたいという熱意で法王暗殺関連文書や書簡をメディアに流した」と単独説を主張している。

 単独説の問題点は、ガブリエレ容疑者がどのようにして暴露ジャーナリスト Gianluigi Nuzzi に接触し、内部文書を手渡したかを説明しなければならない。事件発覚当初、ガブリレ容疑者は単なる手先に過ぎず、その背後に共犯グループが暗躍しているという憶測が支配的だった。独週刊誌シュピーゲルは「バチカン法王庁内を震撼させている内部情報流出問題などは、法王から権限を得た高位聖職者たちの権力争い、次期法王への思惑、妬みなどが絡んで飛び出してきた結果だろう」と指摘している。イタリアの一部のメディアはバチカンのナンバー2、タルチジオ・ベルトーネ枢機卿(国務長官)が内部情報流出問題の黒幕と受け取っているほどだ。
 
 いずれにしても、メディアの関心が薄まってきた今日、被害者(ローマ法王)と加害者双方に大きなダメージを与えるバチカンの内部情報漏えい事件をガブリエレ容疑者の単独説で早期幕引きしようとする動きがバチカン内部で強まってきても不思議ではない。

労働の尊厳さと「失業者の世界」

 先進国クラブと呼ばれる経済協力開発機構(OECD、本部パリ)加盟国の失業者総数は約4770万人という。4年前に金融危機が発生して以来、1410万人増加したことになる。増加分の半分以上は欧州だ。特に、ユーロ圏(17カ国)では失業者が急増している。今年5月のユーロ圏の平均失業率は11・1%で最悪だ。例えば、スペインは今年第1四半期の失業率は23・8%でトップ、それを追ってギリシャが21・5%、ポルトガル14・9%、アイルランド14・8%、スロバキア13・2%だ。

 深刻な点は、15歳から24歳の若者の高失業率だ。ギリシャでは52・1%、スペインが50・8%と2人に1人の若者が失業しているのだ。ちなみに、加盟国34カ国のOECDの平均失業率は7・9%、若者の失業率は16・3%だ。欧州経済の原動力ドイツの失業率は5・6%、若者8・0%で、いずれもユーロ圏の中ではオーストリア(4・1%、8・7%)と共に最も低い。1年以上の長期失業者率は昨年末、OECD諸国では全体の35%だったが、欧州諸国では44%と高い。現在の経済成長では雇用を拡大し、失業者を減少することは期待薄だ。
 
 以上、OECDの経済統計から紹介した。統計と実感は必ずしも一致しないが、失業者の増加というニュースに接する度、心が痛くなる。働きたくても職場がない、という状況は普通の人間の場合、内外共に苦しいことだ。日々の生活が苦しくなるだけではない。その人の尊厳まで傷つくことが少なくないからだ。

 太陽が昇り、光が窓に差し込む頃、労働者は朝食を済ませて職場に向かう。当方が住むウィーン市16区は昔から「労働者の区」と呼ばれている。冬ならば、労働者が吸うタバコの煙が白く漂い、夏にはランチボックスを抱えながら早足で駅に向かう姿が見られる。彼らは時には朝早く起きて職場に行かなければならないことを嘆くが、失業者はアパートの窓から、職場に向かう労働者の姿を羨望と自己卑下の混ざった思いで見つめている。
 
 健康な人間に働く職場がないということは悲劇だ。労働は時として辛いが、生きている喜びの一つでもあるからだ。長期失業者は一層悲しい。職場を探す意欲が減少する一方、生きていることに疲れを感じるようになるからだ。もちろん、失業者の増加は社会の治安にとっても危険だ。特に、若者たちの失業増加は大きな社会問題だ。
 
 世界には助けを必要とする多くの人々がいる。若者の失業者が一定期間、ボランティアとして老人や病人の援助に従事できる社会相互援助システムを確立したらどうだろうか。他者の為に生きている、という実感を得ることで喜びを得、今後の人生に対し積極的にチャレンジできるようになるのではないか。

 オーストリア初のユダヤ人首相のブルーノ・クライスキー(1911〜90年)は「財政赤字が少し増えたとしても、失業者を減らしたい」と吐露したことがあった。当方は冷戦時代、このクライスキー首相の発言を批判的に受け取っていたが、「富の公平な分配」などで資本主義経済の問題点が明らかになってきた今日、その発言を懐かしく思い出している。

バチカン銀行が試験に合格した日

 資金活動の透明度基準16項目中、9項目をクリアした。それだけのことだが、バチカン放送独語電子版は18日、「バチカン、試験に合格」といった感じの見出しで大きく報じていた。何の話か、以下説明する。

 世界に12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会総本山のあるバチカン市国には資金管理とその運営を担当するバチカン銀行(正式には宗教事業協会、IOR)があるが、同銀行は過去、不法資金の洗浄(マネーロンダリング)容疑やマフィアとの関係などの疑いがもたれてきた。イタリア司法当局は2010年9月以来、バチカン銀行のゴッティ・テデスキー総裁(今年5月24日、解任)とパオロ・チィプリアニ事務局長に対して調査に乗り出していた。それに対し、ローマ法王べネディクト16世はマネーロンダリングの疑いを受けてきたIOR問題に対応するため。銀行の資金運営の透明化を指令し、昨年4月に関連の規約を施行した。それを受け、欧州評議会(本部ストラスプール)の「反資金洗浄・テロ金融への対応評価専門家委員会」(Moneyval)が同年11月と今年3月、バチカン銀行の資金運営などの調査を実施してきた経緯がある。その結果が18日、明らかになったわけだ(バチカンは昨年4月、Moneyvalに加盟した。加盟国は資金活動の透明度に関する評価を定期的に受けなければならない)。

 試験に合格することは嬉しいが、試験の結果は、繰り返すが16問題中、9問題が正解、7項目は未解決(不十分)だ。正解率は約55%に過ぎない。かろうじて合格した、というのが現状だろう。それにもかかわらず、合格した受験生のように、バチカン側は喜びを表したわけだ。換言すれば、IORの問題はバチカンにとって大きな負担となっていたことが分かる。
 バチカンのエットーレ・バレストレロ外務次長は18日「資金活動の透明度を高める努力の成果だ」と、Moneyvalの評価結果を歓迎する一方、「バチカン銀行が国際金融界の信頼できるパートナーと見なされるために更なる改善が必要だ」と述べている。Moneyvalの報告書は「バチカン銀行は反マネーロンダリング対策で不可欠な対応を実行に移した」と一応評価している。

 ちなみに、バチカンの試験結果は他の国のそれと比較すると、中間ぐらいだ。過去、最高点は米国だ(マネーロンダリング対策専門委員会が推薦する「不法資金の洗浄対策」は49項目だが、その内16項目は絶対に履行しなければならない課題だ)。

 バチカン側は「5年か6年後には、対不法資金洗浄対策で経済協力開発機構(OECD)の基準を完全に満たしたホワイトリスト国入りが可能だろう」と予想している。

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