ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2012年05月

「名探偵コロンボ」の登場を期待

 ローマ・カトリック教会総本山、バチカン法王庁は大揺れだ。イタリア北部で発生した地震のせいではない。バチカンのロムバルディ報道官が今年2月、“Vatileaks”(ヴァチ・リークス)と呼んだ内部情報の漏洩問題がバチカンの奥深くまで拡大する様相を深めてきたのだ。独週刊誌シュピーゲル誌は「内部情報漏れ問題は、聖職者の未成年者への性的虐待問題よりもローマ・カトリック教会の土台を震撼させる一大事」と指摘したが、状況は次第にその通りとなってきた。

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▲バチカンのスキャンダルを報じるオーストリア・メディア。左がベルトーネ国務長官

 ローマ法王べネディクト16世の執事、パオロ・ガブリエル(46)が24日、バチカン内部情報を漏洩した疑いで逮捕されたが、同容疑者の単独説を信じる関係者はほぼ皆無だ。執事の背後にそれを操る大物聖職者がいる、という憶測情報が流れている。高位聖職者間の権力争い説も浮上している。イタリア日刊紙ラ・レププリカ紙は内部情報流失に関係した人物と匿名インタビューをしたが、その人物は「今回の内務情報漏洩には多くの人物が関わっている。目的はバチカンの実情を暴露することだ」と主張したという。
 
 ガブリエル執事の弁護士によると、同執事は事件の調査解明に協力する姿勢を明らかにしているという。同容疑者が事件の背景を証言すれば、大物の聖職者名が飛び出すかもしれない。ちなみに、ガブリエル執事のアパートからバチカンの機密文書が詰まった4箱が見つかっている。それらの文書は法王執務室にあったもので、国務省関係者が管理処理する前の資料だ。
 ちなみに、ガブリエル執事の容疑は、イタリアのジャーナリスト、ジャンルイジ・ヌッツィ(Gianluigi Nuzzi) が出版した新著「聖性Sua Santita」の中で法王宛の書簡や手紙の内容を暴露したが、その情報をリークした疑いだ。事件の調査はバチカンのピエロ・アントニオ・ボネット判事が担当している。

 べネディクト16世はジュリアン・へランツ枢機卿(カトリック教会内の根本主義者組織「オプス・デイ」出身者)をトップとした特別調査委員会を設置し、彼らに犯人探しの全権を付与している。ローマ日刊紙ラ・レププリカ紙が29日報じたところによると、その調査委員会が先日、5人の枢機卿から意見を聞いたと報じた。ただし、5人の枢機卿の尋問は行われていないという。

 バチカン法王庁のロムバルディ報道官によると、べネディクト16世はバチカンが目下厳しい状況下にあることを知っているという。換言すれば、調査の進展如何ではバチカンの土台が根底から崩れ落ちてしまう事態もあり得ると感じているわけだ。なお、バチカン日刊紙オッセルパトーレ・ロマーノはこれまでのところ同事件については何の公式見解も掲載していない。
 
 以下は当方の見解だ。内部情報がメデイアに流れ、最もダメージを受ける聖職者はローマ法王ではなく、ベルトーネ国務長官であることは明白だ。例えば、独週刊誌シュピーゲルが先週号でベルトーネ国務長官(枢機卿)が絡んだ不祥事を内部情報から報じている。記事のタイトルは「権勢欲に溺れ、通俗的」だ。ミラノのカトリック系病院の副院長投身自殺やトニオロ研究機関の人事問題について、同長官の独裁的な人事政策を暴露している。また、バチカン側が否定しているが、べネディクト16世が信頼していた通称バチカン銀行(正式には宗教事業協会、IOR)のゴッティ・テデスキー(Gotti Tedeschi)総裁の解任人事の背後には、同国務長官の関与を指摘する声がある。IORはマネーロンダリングの容疑を受けてきた。同総裁はIORのマネーロンダリング法の遵守を強調してきた人物だった。

 それでは内部情報をメディアに流すグループの目的は何か。彼らが主張するように「バチカンを刷新する」ためか、それとも「高位聖職者間の権力闘争に過ぎない(ベルトーネ枢機卿の追放)」か、現時点では依然、不明だ。「秘密の宝庫」と呼ばれるバチカン内の事件調査は時間の経過と共に迷路に陥る危険性がある。今こそ、名探偵コロンボの登場が期待される。

素晴らしき時代の「怖さ」

 少々遅くなったが、アゼルバイジャンの首都バクーで開催された「ユーロビジョン」(Eurovision)の最終日の決勝戦について書く。

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▲バクーで開催された「ユーロビジョン」(2012年5月24日、オーストリア国営放送中継から撮影)

 ブックメーカーが予想していた通り、2012年の勝利者はEuphoriaを歌ったモロッコ出身のスウェーデン人のLoreen(ロリーン)だった。得点は歴代2位の372点だったことを見ても分かるように、圧倒的な勝利だ。そしてセルビアのスーパー・スターでロリーンの対抗候補Zeljko Joksimovicさんが第3位に入った。

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▲バクーで開催された「ユーロビジョン」の司会者たち(2012年5月24日、オーストリア国営放送中継から撮影)

 予想外といえば、ロシアのおばあさんグループ「ブラノボのおばあさん」だ。日本のメディアは優勝したロリーンよりロシアのおばあさんグループの第2位を大きく報道していたが、「ユーロビジョン」はソング・コンテストだ。その観点からいえば、歌唱力も乏しく、他の参加歌手とは比較できるものではなかった。華やかな舞台で歌う素朴なおばあさんたちの姿が聴衆の人気を集めたのだろう。
 付け加えるならば、ロシアのおばあさんグループがロリーンを破り、1位となっていたら、「ユーロビジョン」の主催者側はショックを受け、コンテストの再考を強いられただろう(当方が住むオーストリアから参加したTrackshittazは予選で落ちた。42カ国の参加国中、最下位の得点だった。音楽の都ウィーンを誇るオーストリアの名前が泣く、というものだ。次回を期待したい)。

 当方は予選段階でロリーンに最高点をつけていたので、結果には満足している。決勝ではキプロスのIvi Adamouが予選の時より数段素晴らしい歌唱力を発揮していたのが印象的だった。プロの歌手でも大舞台でその実力を発揮するためには場数を多く踏む必要があるわけだ。

 さて、ここではコンテストの「その後」についても書きたい。ロリーンのEuphoriaは多くの欧州の国のチャートで既にトップに躍り出ている。ロリーンも「反響の大きさに驚いている」と述べているほどだ。当方は彼女の歌を聴きたいと思い、You Tubeで探したら直ぐ見つかった。既に450万人がクリックしていた。翌日また同じサイトを開けると既に500万人を突破。そしてコラムを書いているこの時(ウィーン時間29日午前)、600万人を超えていた。なんというスピードだ。これは一つのサイトだけの話だ。ロリーンの歌を紹介するサイトは無数にある。バクーで優勝したロリーンは今や世界のスーパー・スターとして注目されているわけだ。

 地球は限りなく小さくなっている。メディアの世界に生きる者がこんなことを言っては笑われるが、われわれは歌やニュースが瞬時に伝わり、共有できる時代圏に生きているのだ。素晴らしい時代に生きていることに改めて感謝を捧げたい。その一方、内省する時間すら与えず膨張し続ける時代のテンポを前に、漠然とした不安も感じる。素晴らしき時代が突きつける「怖さ」とでもいえるかもしれない。

 

人はどれだけの私有財を持てるか

 一時帰国していた友人が面白い本を買って帰ってきた。マイケル・サンデル著「ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業上」(早川書房)だ。難しいそうなタイトルだが、教授と学生たちの討議を中心に現代の政治哲学の課題を記述している。友人が読み終えたので貸して貰い早速読んだが、とても考えさせられる内容だった。

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▲マイケル・サンデル著「ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業上」(早川書房)

 サンデル教授は「正義とは何か」を主要テーマに、ジェレミー・ベンサムの功利主義を紹介し、ベンサムの「最大多数の最大幸福」を討議の遡上に載せる。そしてベンサムの功利主義を修正・追加したジョン・スチュアートの「個人の権利と少数派の権利擁護」にも言及していく、といった具合だ。功利主義は米国社会に流れる思潮だ。

 そしてリバタリアニズム(市場原理主義者、自由原理主義)が登場する。小さな政府、政府の干渉を最小限度に抑えることを主張し、富の分配に反対し「所有財産を政府が侵害することは許されない」という立場だ。米共和党の基本的政治信条にも繋がる考えだろう。「人間のもつ権利は不可譲」という点は理解できるが、人間は関係存在だという観点からみると、リバタリアニズムは余りにも個人レベルの権利に固守し、社会、国家という公共世界への責任が乏しいように感じる。

 当方が最も考えさせられたことはジョン・ロックの「同意」という考えだ。社会契約論だが、われわれは個人としての権利を特定の政府、機関に委ねることで「同意」している、という考えだ。

 ここまで読んでくると、「反ウォール街デモ」を思い出した。彼らは現政府との間で締結した「同意」に強く反対しているのだ。ウォール街反格差デモだけではない。世界の金融危機、財政危機の今日、「われわれの権限を制限する如何なる同意も政府とは結んでいない」と叫び出しているように感じる。同時に、リバタリアニズムへの挑戦だ。

 欧州政界では新党「海賊党」が結成され、政界に新風をもたらしているが、「海賊」とは、もともと相手の私有財産を奪い取る行為を意味する。財政危機が吹き上げ、私有財産の問題、富の分配が問われている時、海賊党が結成され、支持を得ているということは非常に象徴的な現象ではないか。その意味でもサンデル教授のテーマは非常にタイムリーだ。

 フランスでオランド新大統領が選出されたが、彼は富者への課税強化を打ち出している。明らかにリバタリアニズムへの挑戦だろう。「個人の権利」と関係存在としての人間の「公共への責任」の調和は、わたしたちの前に突きつけられた大きな課題だろう。

 ところで、サンデル教授、人はどれだけの私有財産なら保持できるのですか。例えば、イエスは伝道に出かける弟子たちに下着を1枚以上持って行くなと諭し、「金持ちが天国に入るのは、駱駝が針の穴を通るより難しい」と述べている。

(以上、当方の読書感想だ。残念なことだが、友人は「上」しか買わなかった。「上」を読み、面白くなかったら、「下」を買う必要がないからだ。友人はその意味で功利主義者だが、大きな間違いを犯した。友人は上下2冊を買って帰ってくるべきだったのだ)

「コートジボアールの男」の美学

 バチカン放送独語電子版に目を通していると、チェルシーのディディエ・ドログバ選手のことが記事になっていた。バチカンにも聖職者らのサッカー・リーグ(Clericus Cup)があるから、豊富な資金を有するバチカンがスーパースターのドログバをバチカンのクレリクス・カップに移籍させようと考えているのか、と少し考えたほどだ(「バチカンのサッカー・リーグ戦」2007年11月23日参照)。

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▲チェルシーにチャンピオン・リーグの優勝をもたらしたドログバ選手(バチカン放送独語電子版から)

 記事の内容は、ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁の信者評議会内に設置されている「教会とスポーツ担当事務所」がドログバ選手に言及し「勝利の瞬間、その栄光を神に帰する姿勢は素晴らしい。模範とすべきスポーツ選手だ」と称賛しているものだ。

 ドログバは単なるサッカーのストライカーではない。紛争下の故郷コートジボワールの和平実現のためにも努力してきたことで知られている。彼は昨年6月、コートジボワールの和平を進める11人の特別委員の1人に選出されている。英タイムズ誌は昨年、「最も影響力のある人物100人」の中にドログバを挙げているほどだ。バチカン放送がドログバを称える記事を掲載したのは不思議ではない。

 英プレミア・リーグのチェルシーのディディエ・ドログバ選手について説明する必要はないが、彼の名を永遠にした対バイエルン戦の活躍をここで少し再現した。

 チャンピオン・リーグ決勝戦でFCバイエルン・ミュンヘンを破り、貴重な得点を挙げ、チェルシーに初の栄冠をもたらしたのはドログバだった。このコートジボアール出身の男はPKで決定的なゴールを挙げたのだ。

 ブックメーカーは「バイエルンが圧倒的に有利」と予想し、チェルシーのオッズは4倍にもなった。バイエルンの本拠地の独ミュンヘンで行われた試合は予想通り、バイエルンが初めから激しくゴールを攻めた。トマス・ミューラーが前半、得点すると、バイエルンの勝利は確実と思われた。その流れを変えたのがドログバだった。試合終了数分前、待望の同点ゴールを決めたのだ。試合は1対1となり、延長戦に持ち込まれたが、最終的にはPK争いとなった。
 バイエルンのエース、MFシュヴァインシュタイガーがゴールを外すと、チェルシーの最後はドログバだ。34歳のベテランの男は神に祈りを捧げシュートすると、ボールはネットに突き刺さり、決勝のゴールとなった。試合後のインタビューで、ドログバは「最後まで諦めないのがチェルシーの精神だ。絶対勝てると信じていた」と述べている。

 チェルシーはクラブ創設107年目で初めて欧州クラブの最高峰、チャンピオン・リーグを制覇した。その数日後、ドログバは8年間在籍してきたチェルシーを6月末の契約終了後、退団すると発表した。「自分はチェルシーを愛している。多くの友人もできた。念願のチャンピオン・リーグの優勝を勝ち取ったこの時、自分も新しい挑戦に向かいたい」と述べている。

 2度の得点王、2度アフリカ年間最優秀選手に選ばれたコートジボアールの男の華麗なシュートをこれからも見たいものだ。

いま、独の政界が面白い

 世界では目下、現職の女性首相(元首)の数は16人だ。地域的に見ると、アジア地域でインド、タイ、バングラディシュの3国で女性指導者がいる。日本人にはオーストラリアのジュリア・ギラード首相の名前がポピュラーだろう。欧州では、何といってもアンゲラ・メルケル独首相だ。その他、リトアニア、スイス、デンマーク、アイスランドで女性リーダーが活躍している。

 
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▲オーストリアのファイマン首相(右)と会談するメルケル独首相(2012年1月19日、ベルリンで)=オーストリア連邦首相府、提供

 ここでは女性指導者の資質や品格を述べるつもりはない。女性指導者の代表的な政治家メルケル独首相の近況を報告したいのだ。「世界で最も影響力のある女性」に選出されたこともあるメルケル首相は2000年以降、欧州の盟主ドイツの指導者として輝かしい足跡を残してきた。特に、欧州の財政危機が表面化し、ギリシャの破産危機が囁かれだして以来、メルケル首相の動向が報じられない日は皆無といわれるほど、その言動は欧州の未来を左右してきた。例えば、財政協定を締結するにも、意見の対立がある欧州連合(EU)加盟国の調整には、独首相の落ち着いた自信溢れる指導力が不可欠だった。

 ところが、旭日昇天の勢いだったメルケル首相の周囲にも陰りが見え出したのだ。いつから、と質問されれば、即答は難しいが、サルコジ前仏大統領を支援し、パリまで選挙応援に駆け回った頃から、かもしれない。世論調査で敗北が予想されていた仏大統領を支援し始めたことが運の尽きだった、かもしれない。

 財政協定の再考を主張してきた社会党候補者フランソワ・オランド氏が予想通り、大統領に就任。その直後、メルケル首相はドイツ州議会選挙で自党が敗北し続けた。特にドイツ最大州のノルトライン・ウェストファーレン州議会選挙(5月13日実施)で大敗北を喫し、来年に実施される連邦議会選挙に赤信号が点った。それだけではない。選挙後、メルケル首相が与党キリスト教民主同盟(CDU)の筆頭候補者ノベルト・ロットゲン現環境相を更迭したことで、メルケル首相のイメージは取り返しのつかないダメージを受けた。脱原発の立役者であり、メルケル首相とエネルギー問題で連携してきた人物をあっさりと解任した首相にCDU内でもショックが流れたほどだ。

 旧東独出身のメルケル首相は賢明で冷静な政治手腕で久しく尊敬を受けてきたが、環境相の解任が報道されると、首相のイメージは大きく震撼。自身の権力に固守する狡猾な政治家、といったイメージが浮かび上がってきたのだ(独週刊誌シュピーゲル)。

 CDU内で過去、保守派の代表格が次々と辞任したり、引退したが、メルケル首相の人気だけは不動だった。その首相の支持率が後退し始めた。その一方、CDUは政党の第1党争いで社民党(SPD)の追い込みを受けて、その差は1ポイントとなった。

 数カ月前まではSPDもメルケル首相の人気の前に戦闘意欲を失っていたが、首相の失点を受け、次期選挙で与党に復帰できるといった期待を膨らませてきた。独の政界の動向は連邦議会選挙を来年に控え、流動してきたのだ。
 それだけではない。連立政権のパートナー政党、自由民主党が息を吹き返してきた。メルケル首相の言いなりになってきた同党が首相の緊縮政策に反対するシナリオも考えられる。

 欧州の政治舞台で縦横に活躍してきたメルケル首相だったが、オランド氏の登場でもその主役の座も揺れだしてきた。政治生命の危機に直面したメルケル首相の“次の手”が注目される。いずれにしても、いま、ドイツの政界が面白い。

なぜ、超自然現象を恐れるか

 バチカン放送独語電子版が23日報じたところによると、ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁はこのほど超自然現象や個人的啓示への評価に対する規約を提示した。

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▲ファティマの聖母マリア出現地(1997年5月、ファティマで撮影、当方の取材ノートから)

 バチカン教理省のインターネット上で公表されたバチカン文書によると、教区司教たちは超自然現象に関する情報を入手した場合、それを慎重に検証するように求められている。その現象がポジチブに評価された場合、司教たちはルルド(フランス)、ファティマ(ポルトガル)、グアダルーペ(メキシコ)のような聖母マリアの出現地として承認できる。ただし、超自然現象を悪用したり、そこから誤った教義を引き出す動きに対しては阻止・回避する義務がある。

 超自然現象の評価に関する規約は1978年に既に作成されたが、司教たちに内々伝達されただけだった。個人的啓示は決してイエスの啓示を補足、ないしは修正するものではないが、信仰に新しいアクセントと敬虔さを生み出すことはできるから、無視して放棄するべきではない、という説明が付いている。

 バチカン法王庁は「奇跡」や「霊現象」には非常に慎重な姿勢を取ってきたことは周知の事だ。カトリック教会では「神の啓示」は使徒時代で終わり、それ以降の啓示や予言は「個人的啓示」だ。その個人的啓示を信じるかどうかはあくまでも信者個人の問題としてきた。

 このコラム欄にも数回紹介したが、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ西約50キロにあるメジュゴリエで1981年6月、聖母マリアが2人の少女たちに顕現し、数多くの奇跡が起きている。通称「メジュゴリエの奇跡」と呼ばれ、これまで1000万人以上の巡礼者が訪れているが、バチカンはこれまで公認していない。ただし、ローマ法王ベネディクト16世は2008年7月、「メジュゴリエ聖母マリア再臨真偽調査委員会」を設置し、奇跡の真偽の調査に乗り出している。

 ちなみに、バチカンが聖母マリアの再臨として公認した有名な巡礼地には、ルルドとファティマがある。フランス南西部ルルドで1858年、聖母マリアが14歳の少女、ベルナデッタ・スビルーに顕現。そこから湧き出る水を飲むと病が癒されるといった現象が起きている(毎年約600万人の人々がルルドを巡礼する)。ポルトガルのファティマ(1917年5月)でも聖母マリアが羊飼いの3人の子供たちに顕れ、有名な“第3の予言”を伝えている。

 ところで、今回、なぜ、バチカンが超自然現象を恐れるかを考えてみた。一つは、偽預言者や偽りの教えが広がることを恐れているからだろう。その懸念は理解できる。聖書の中でも「終わりの時には偽キリスト、預言者が出現する」と警告を発している。もう一つは、バチカンが霊的世界の存在について非常に曖昧な理解しか有していないことだ。カトリック教義は神の存在を主張し、聖書には数多くの天使たちが登場し、聖典には多くの奇跡の話が記述されているが、それでは「死んだ人間が行く世界は」と聞くと非常に不明瞭な返答しか戻ってこない。

 今月17日の「主の昇天」の日、オーストリアのエゴン・カペラリ司教(Egon Kapellari)は「キリスト教の意味から、天国は物理的な空間を意味せず、神との永遠の祝福された関係だ。昇天とは、復活したイエスが大気圏を越えて宇宙空間に飛び出すことを意味しない」と主張する。同司教の説明は非常に曖昧模糊としている。その理由は司教が霊界という言葉を使用しないからだ。昇天されたイエスや聖人、死者たちは今、どこにいるのか。地上で悪事を働いた人が行くという地獄はどこか。

 人間の体が住む物理的な空間の世界(地上界)と同様、人間の心の世界が住む所を霊界と呼ぶのではないか。地上で起きる不可思議な現象や超自然現象はこの心の世界から発信されたものと関わりがあるケースが少なくないはずだ。

 バチカンが霊的現象を恐れる大きな理由は、バチカンの教えと霊的世界からの発信内容が一致しないことが少なくないからだ。実例を挙げて説明しよう。一人の敬虔な修道女がある日、夢の中でイエスに会った。イエスは修道女に自身の生涯を語ったが、その内容はこれまで聞いてきたものとは全く異なっていた。そこで修道院長に報告し、その内容はバチカンまで伝わった。バチカンは直ぐにその修道女を呼び、その夢の内容を公表しないように強く釘を刺すと共に、修道院から外出しないように監禁したのだ。 


  

“ユーロビジョン”の舞台裏

 アゼルバイジャンの首都バクーで22日、欧州ソング・コンテスト、ユーロビジョン(Eurovision)の予選が開催され、18カ国から歌手たちが参加し、26日の決戦進出をかけて競った。

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▲ユーロビジョンのホスト国アゼルバイジャンのアリエフ大統領(IGFMのHPから)

 旧ソ連から1991年8月に独立した同国はカスピ海の原油や天然ガスの豊かな資源を背景に急速に経済発展してきた。バクーにとって46カ国で放映されるユーロビジョンは自国の経済力の繁栄を宣伝できる絶好の機会だ。祭典を放映する国営放送は宣伝の度に自国のプロファイルを紹介するビデオを流すなど、自国のピーアルに余念がない。

 ユーロビジョンに水を差す気はないが、同国では独立後、ヘイダル・アリエフ前大統領、その息子イルハム・アリエフ現大統領のアリエフ家が19年間余り長期独裁政権を続けている。国際人権擁護団体(IGFM)は22日、声明文を発表し、同国の宗教弾圧状況を批判している。同国では憲法で「宗教の自由」は保証されているが、実際はさまざまな迫害が行われている(同国では約96%がイスラム教徒だ。その内、3分の1はスンニ派、3分の2はシーア派だ。残りは少数宗派のキリスト教徒だ)。

 当局の宗教弾圧は特に少数宗派に向けられている。宗教活動は当局に厳しく管理され、その活動は制限されている。「宗教活動に関する法」は1992年以後、14回余り改正され、全ての宗教団体は当局に登録が義務つけられている。全宗教団体は2010年、従来のステイタスに関係なく、新たに登録を義務付けられたばかりだ。

 当局の承認なく宗教活動を行えば、刑罰が課せられる。登録済みの宗教団体も当局から強制捜査を受けることもある。例えば、今月12日、警察当局がアドベンチスト教会に突然押入り、集会に参加していた約50人の子供たちに両親からの宗教活動承認の文書の提出を要求したという。
 
 同国の人権弾圧は宗教分野だけではなく、「政治・結社、言論」の分野にも及ぶ。IGFMは24日、62人の政治犯の恩赦をアリエフ大統領に要求している。ちなみに、同国の言論機関は約80%が国家直接管理下にある。


 第14回サッカー欧州選手権(ユーロ2012)は6月8日から7月1日まで、ウクライナとポーランドで31試合の熱戦を繰り広げるが、ウクライナで職権乱用罪で禁錮7年の有罪判決を受け服役中の同国野党指導者、ティモシェンコ前首相への対応が人権違反として、欧州諸国の政治家たちが「ユーロ2012」の参加ボイコットを表明したばかりだが、「キエフ政府の人権問題を理由にユーロ2012開催に反対するのなら、どうしてバクーのユーロビジョンにも反対しないのか」という声も聞かれたほどだ。そして不思議なことに、アリエフ政権の独裁政治を理由にユーロソングコンテストのボイコットを決めた国や歌手たちはいない。

 目もくらむ照明が交差するユーロビジョンの舞台で歌手たちはきらびやかな衣装を着て歌う。その舞台裏で展開する当局の宗教・結社・言論の弾圧の状況は、バクーの華やかな夜景に吸収されて、浮かび上がってこない。

なぜ、“失われた世代”なのか

 国際労働機関(ILO)が発表した統計によると、欧州諸国の青年層(15歳〜24歳)の失業率は危機的な水準に達している。最高の失業率は南欧スペインで46・4%だ。すなわち、約2人に1人の若者が失業者というわけだ。それを追ってクロアチア35・8%、スロバキア33・6%だ。

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▲市民と観光客で賑わうウィーン市1区ケルンテン通り(2012年5月23日)

 財政危機でユーロ圏から離脱が囁かれているギリシャの若者たちの正確な失業率統計がないから断言できないが、スペインのそれと大きくは違わないと予想される。

 ちなみに、欧州連合(EU)の統計によると、欧州では現在550万人の若者たちが職を探しているという。その数字はデンマークの総人口にも匹敵する。欧州経済が停滞し、財政危機下の時代に就労年齢に達した若者たちは、就学を終えても職がないことから“失われた世代”と呼ばれているほどだ。

 スペインでは国内で職場が見つからないから、ドイツに職を求めて移住を決意する若者も増えてきたという(ドイツ企業の中には、専門能力を持った労働者が国内で不足していることもあって、スペインで職業斡旋をする会社も出てきた)。大学生の一部には雇用市場が改善されるまで大学生活を続ける学生たちもいる、といった具合だ。

 若者たちの失業が増加すれば、国内の治安は不安定となる。デモ集会だけではない。未来に希望が見出せない若者たちは不安と焦燥にかられる。そのエネルギーが暴発する危険性が考えられるからだ。ナチス・ドイツの例を挙げるまでもなく、失業問題から間違った為政者に国の舵取りを委ねることにもなりかねないからだ。欧州では外国人排斥、民族主義的政党が躍進してきている。

 それ以上に、働き口もなく、街で放浪する若者たちの姿は痛々しいものだ。健全な若者ならば労働欲をもっている。それを発揮できない社会状況は不幸だ。

 雇用問題の専門家でもないが、当方は若者の失業対策として、看護職の拡大を提言したい。高齢化時代を迎え、老人が確実に増えているが、その老人たちを世話する看護人が欧州では恒常的に不足している。オーストリアでも看護人不足が深刻だ。肉体的に厳しいこともあって、敬遠する若者たちが少なくないが、働く意欲があれば職場は見つかるはずだ。もう一つは、短期間のボランティア活動はどうだろうか。例えば、自然災害の被害地でその労働を提供するのだ。ボランティアの青年には国が一部、援助金を支給することにすれば、経済的にも少しは潤う。もちろん、失業手当のほうがいいから、そのような低給な職場はイヤだ、という若者は仕方がないが、人生の短期間、金銭の多少とは関係なく、困っている人の世話をすることは決してマイナスではないはずだ。

 時代が厳しい時であるだけに、若者たちは一層、夢と希望をもって挑戦してほしい。現代の若者たちは決して失われた世代ではないのだ。 

繰り返される「ラスト・チャンス」

 国際原子力機関(IAEA)の定例理事会は来月4日から5日間の日程でウィーン本部で開かれる。35カ国の理事国から構成された同理事会の焦点はやはりイランの核問題だ。IAEAは2003年以来、イランの核問題を協議してきたが、未解決問題は依然山積する一方、同国が核兵器製造を目指している疑いが深まってきた。

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▲来月4日から定例理事会が開催されるIAEA本部(2011年9月撮影)

 3月理事会では、イラン側が欧米理事国の決議案提出の動きに先手を打ち、パルチン軍事施設への査察を認めると発表(5月現在、まだ実行されていない)。それに呼応するように、国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国がイランの協議再開の要請を受け入れると発表したことで、欧米理事国の決議案提出の動きは白紙に戻され、イランの出方を6月の理事会まで注視することになった。
 欧米理事国からは「イランにとってラスト・チャンスだ」と警告を発する声も飛び出した。記憶の良い記者ならば「昨年11月もそのような警告があった」というだろう。イランの核問題では不思議と「これがラスト・チャンスだ」という言葉が頻繁に発せられてきたが、実際は「最後のチャンス」はその後も発せられてきた。


 警告を発しながら、その内容を実行に移さない場合、その警告は空言葉だ。警告を受ける側も「はい、はい、最後のチャンスですね」と、不真面目な態度で聞き流すようになる。ちなみに、北朝鮮とのやり取りでもそれにかなり酷似した展開があるから、イラン問題での「最後のチャンス」は決して新しい現象ではないわけだ。


 イランは理事会開催前や6カ国との協議前には必ずといっていいほど新提案を提示し、譲歩と対話の姿勢をちらつかせる。それが時間稼ぎだと分かっていても欧米側はテヘランとの協議に応じる。ちょうど今回のようにだ。イランは今月に入り、IAEAとの協議を行い、21日には天野之弥事務局長をテヘランに招き、23日からはイラクの首都バグダッドで6カ国協議が再開される、といった具合だ。


 夏季休暇前の最後の定例理事会が6月上旬始まるが、イランが協議に応じているので理事会では余り強い姿勢でテヘランに臨むことはできない。だから、理事会ではいつもと同じような文面の議長総括が採択されて終わり、9月の理事会、総会まで休会に入る。その間、、イランはウラン濃縮関連活動を拡大し、20%の濃縮ウランの製造を加速していくだろう。


 「ラスト・チャンス」という言葉が単なる外交上の表現に過ぎないことが明らかになってくると、イランの核問題をフォローする記者団も次第にしらけてくる。そのような中、最近のイスラエルの静けさが不気味さを増す。忘却が禁句の民族、イスラエルは欧米側がイランに発した「ラスト・チャンス」という発言を忘れないだろう。だから、イランが欧米諸国の動向以上にイスラエルの動きに神経を尖らすのは当然のことだ。

なぜ、警察犬は短命か

 イタリア北部のボローニャ市近郊で20日早朝、マグニチュード6の地震が発生し、少なくとも6人が死亡、多数の住民が負傷した。オーストリア国営放送の夜のニュース番組でも隣国イタリアの地震を大きく報道した。

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▲警察犬とその指導官(オーストリアの警察犬を報じる内務省発行雑誌「公安」から
 2012年5月21日)    

 ウィーンに住む当方はイタリアの地震をニュースを聞くまでまったく知らなかった、というよりまったく揺れを感じなかった。オーストリア側の報道によると、ボローニャの地震はチロルまで観測されたというが、ウィーンでは揺れが観測されなかったわけだ。イタリアの大陸プレートがウィーンから離れているのだろうか。


 ニュース番組をみていると、地震で崩壊した家屋の生き埋めとなった人々の捜査活動が報じられていたが、捜査犬が懸命に崩れ落ちた家屋の中で活動していた。日本の地震の時も多くの捜査犬が生き埋めとなった人たちを探す為に動員されたことを聞いたが、捜査犬の姿には感動させられる。
 
 ところで、内務省の友人から送られてきた「公安」という治安関係雑誌を読んでいると、オーストリアの警察犬の活動が報告されていた。そこで読者にその一部を紹介する。

 オーストリアで警察犬が動員された件数は昨年度、14万3428件だった。具体的には、対象・人的保護が5万1410件、行方不明者捜査7490件、目的物捜査6637件、麻薬捜査3097件、足跡捜査1036件、爆発物捜査850件、火災物捜査256件、死体捜査188件、紙幣・文書捜査38件、そして雪崩不明者捜査9件となっている。


 オーストリア連邦警察には368頭の警察犬が377人の警察犬指導官の下で訓練を受けている。動員先によって、警察犬も特別訓練を受けなければならない。例えば、死体・血痕跡の捜査訓練を受けている警察犬は目下17頭いる。その他、麻薬捜査担当の警察犬は104頭、爆発物捜査犬は33頭がそれぞれ特別訓練を受けているという。


 内務省関係者によると、警察犬は普通の家で飼われている犬と比べて短命という。その理由は「ストレス」だ。厳しい環境下で長期間、その任務に当たる警察犬は人間と同じように、疲労とストレスが重なるわけだ。

 わたしたち人間の最大の友、犬、その中でも警察犬はその身を犠牲にしながら頑張ってくれているわけだ。

 


      
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