2012年03月 : ウィーン発『コンフィデンシャル』

2012年03月

2012年03月21日06:00

カテゴリ: 北朝鮮

「説明衝動」に駆られる金正恩氏

　インターネット時代といわれて久しい。国境、民族の壁を越え、一瞬に意思を相手側に伝達できるのだ。独裁者や共産党政府が国民の携帯電話やインターネットのアクセスを制限したとしても、人は必ず意思伝達の手段を見つけ出すことができる時代に入った。
　当方はここでは北朝鮮のことを念頭に入れて考えている。北朝鮮で金正恩氏が登場して変化した点は、北の指導者たちが相手（国際社会）を意識して物事を以前よりも多く説明しようとする傾向が見られてきたことだ。
　金日成主席、金正日総書記時代、独裁者とその一党は国民に向かって命令をしても、国民にそれを理解できるように説明するということはなかった。しかし、３代目の金正恩氏が登場して以来、北当局は他者を意識して説明するようになった。食糧問題、人工衛星打ち上げ問題などでも金正恩氏は国民と国際社会の動向を意識している。
　金正恩氏はインターネット時代の落し子だ。コミュニケーションが頻繁となってきた時代に生まれたから、独裁政権を引き継いだ後も自然と意思表現の道を模索する。換言すれば、理解してもらおうと腐心する。政策ひとつを決定したとしても、それを説明しようとする。
　そんなことは故金総書記にはなかった。自分が決定したことで混乱する国際社会の動向をみて楽しんでいただけだ。コミュニケーションも一方的だった。それが金正恩氏の登場で北にもコミュニケーションが戻ってきたのだ。
　日韓の北朝鮮専門家は金正恩氏時代に入っても多くは変化しないだろうと予想してきた。３０歳にもならない正恩氏は経験不足で叔父（張成沢国防委員会副委員長）や周囲の幹部たちによって牛耳られるだろうと推測してきたが、変化は確実にみられる。若い独裁者はその言動を他者に説明することに抵抗が少ないのだ。
　金正恩氏は意識する、しないにかかわらず、説明衝動にかられている。少し時間がかかったとしても、金正恩氏の登場で北は必然的に国際社会との共存を考えざるを得なくなるだろう、と予想できる理由でもある。

2012年03月20日06:00

カテゴリ: 北朝鮮

金正恩氏のウィンウィンゲーム？

　北朝鮮の朝鮮宇宙空間技術委員会が１６日、故金日成主席誕生１００年目の前後に当たる４月１２日から１６日の間に人工衛星「光明星３号」を打ち上げると明らかにして以来、日米韓などは人工衛星を長距離ミサイルの発射と受け取り、国連安保理決議（第１８７４号）違反として批判する一方、北側は「人工衛星打ち上げは宇宙空間の平和利用であり、主権国家の権利」と反論を繰り返している。
　北朝鮮は１９９８年８月、最初の試験衛星「光明星１号」を打ち上げ、宇宙軌道に乗せたと主張したが、同衛星から信号がキャッチできないこともあって、国際社会は「北朝鮮初の人工衛星」と認知しなかった。２００９年に入り、北は再び人工衛星「光明星２号」の打ち上げに成功したと表明し、宇宙から革命讃歌「金日成将軍の歌」や「金正日将軍の歌」が流れていると述べた。しかし、国際機関が北の人工衛星を必死に探したが、見つからなかったことは前回と同様だ。
　人工衛星から発信される信号をキャッチできない場合、その人工衛星は墜落したか、軌道に乗らなかったことになる。人工衛星が軌道に乗らず、地球上を勝手に周回している、なんてことは通常、考えられない。日米韓の３国は当時、「北朝鮮の人工衛星は失敗した」と表明したが、北の「労働新聞」は「光明星２号は軌道を周回中」として「歴史的偉業」と豪語したことはまだ記憶に新しい。
　「北側の人工衛星打ち上げは長距離ミサイルの性能テストだ」という日米韓の主張は、北の過去の言動を踏まえたものであり、当然の帰結だろう。
　理解に苦しむ点は、先月２９日に米朝間でミサイル発射を含む核実験などの軍事活動の一時停止に合意したばかりなのに、どうして北側はここにきてミサイル発射を実施するのだろうか、ということだ。
　発射すれば米国からの２４トンの食糧支援（栄養補助食品）は台無しになる可能性が高い。北側当局者もそんなことは分かっているはずだ。
　北側にはそれなりの理由がある。４月１５日の故金主席の生誕１００年目を内外に誇示するためには核実験を除けば、ミサイル発射ぐらいしかカードがないという台所事情がある。その一方、金正恩政権は国民の食糧事情の改善を最優先課題に挙げている。ミサイル発射で米国からの食糧支援を放棄したくはないはずだ。
　興味深いことは、今回の人工衛星発射に関して、北側が国際社会の批判を計算に入れてかなり詳細に説明していることだ。例えば、北宇宙空間技術委員会は、衛星を運搬するのはロケット「銀河３号」で、黄海に面した北西部の平安北道鉄山郡にある発射場から南の方角に向けて打ち上げること、運搬ロケットの残骸物が周辺国に影響を及ぼさないよう軌道を設定した、等だ。北側は過去、ミサイル発射でこれほど周辺国に配慮したことがあっただろうか。
　結論を急ぐ。北側はミサイル発射（人工衛星）を実行するだろう。人工衛星打ち上げ宣言を日米韓の批判ゆえに撤回したら、それこそ大変だ。国の面子は潰れるうえ、金正恩氏の指導力が疑われることにもなるからだ。
　しかし、若き指導者・金正恩氏は古い世代の指導者ではない。人工衛星が長距離ミサイルの発射ではないことを可能な限り説明し、日米韓の反発を最小限度に抑えるように幹部たちに指令したはずだ。北当局が今回の人工衛星打ち上げでは異例とも思えるほど詳細な説明を公表しているのはそのような事情があるからだろう。
　問題は食糧だ。「若き指導者、金正恩氏は長距離ミサイル発射か食糧支援の獲得かでデンマークの王子ハムレットのようなに悩んでいる」と受け取る見方もあるが、金正恩氏は北のハムレットではない。米朝協議を主導した外務省とミサイル発射に拘る軍部との対立に戸惑っているわけでもない。
　金正恩氏はミサイルを発射する一方、その後、米国と交渉を継続できると大胆に予測しているのだ（北側は太陽節祝賀用と国民への特別配給用の食糧は既に確保済み）。
　すなわち、金正恩氏は一種のゼロサム・ゲーム（Zero Sum Game）ではなく、ウィンウィンゲーム（Win Win Game）を演じているのだ（ミサイル発射と米朝協議の継続実現）。
　金正恩氏の戦略が成功するかどうかは、太陽節の祝賀会が過ぎた後、次第に明らかになるだろう。

　なお、北朝鮮外交筋は１９日、「北京で開催された米朝協議で核実験と共にミサイル発射を一時停止することで合意したが、人工衛星打ち上げについてはモラト二ウムから除外することで米側と一致している」と明らかにし、米国側が北の人工衛星打ち上げに抗議する理由はまったくないことを強調した。

2012年03月19日06:00

カテゴリ: その他

「水」の有難さ

　今週の２２日（木曜日）は「世界水の日」（World Day for Water）だ。国連総会が１９９２年に決定し、翌９３年から実施されてきた国際デーだ（日本では８月１日が「水の日」なので、２２日を「地球と水を考える日」と呼んでいる）。
　アルプス山脈から新鮮な水を堪能できるウィーンっ子は水の有難さを時として忘れてしまいがちだが、清潔な水を享受できることはけっして当然のことではない。
　国連が先日発表した「世界水報告」によれば、水の供給状況は急速に改善されてきたが、世界の９人の１人は依然、飲食用の水を摂取できないという。国連報告書によれば、約８９％の人間が清潔な水を日々摂取できるが、残りの１１％の人は不衛生な水しか摂取できず、下痢などの病気を誘発する危険性があるという。
　国連は２０００年９月に開催されたミレニアム・サミットで、世界中の全ての人がグロバール化の恩恵を受けることができるための行動計画を提示し、貧困、教育、環境などの８項目（ミレニアム開発目標）を掲げたが、目標値からみると、清潔な水の供給では既に目標値を１％上回っている。１５年には供給率が９２％に届く可能性がある。ちなみに、１９９０年は清潔な水資源へのアクセス率は７６％だった。
　潘基文国連事務総長は「ミレニアム開発目標の一つが実現できたことは人類社会にとって大きな成果だ。１９９０年と比較すると、２０億人以上の人が清潔な水を摂取できるようになった」と表明している。　
　一方、国連児童基金（ＵＮＩＣＥＦ）のアンソニー・レイク事務局長は「世界が勝利を喜ぶことは時期尚早だ。依然１１％の人、７億８３００万人が清潔な水資源のない地域で生活。３０００人以上の子供が毎日、不衛生な水のため下痢などで死んでいる」と警告を発している。
　水供給率が改善された背景には、東・南アジア地域の改善が大きい。同地域では今日、２人に１人が清潔な水を摂取できるようになった。例えば、中国では１９９０年、６７％だった清潔な水供給率が９１％に、インドで６９％から９２％にそれぞれ急上昇した。それとは好対照なのはアフリカ大陸だ。約６３％の国民しかまだ清潔な水を摂取できない。
　アルプスからの新鮮な水で美味しいコーヒーが飲める当方などは本当に感謝している。

2012年03月18日06:00

カテゴリ: カトリック

法王のメキシコ・キューバ訪問

　ローマ法王べネディクト１６世は今月２３日から２８日までメキシコとキューバを訪問する。南米司教評議会（CELAM)議長のレテス大司教によれば、「ローマ法王の訪問目的は南米の若い信者たちを鼓舞することにあり、単に２カ国だけではなく、南米教会全般に影響を与えるものだ」と指摘している。

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▲ローマ法王のキューバ訪問を伝えるプラカード＝バチカン放送独語電子版から

　最初の訪問国・メキシコでは同国第６都市のレオン（グアナファト州）を訪問する。ハイライトは２５日の日曜記念礼拝だ。１５０万人の信者たちが集まると予想されている。
　メキシコ司教会議は法王が麻薬戦争の終結を呼びかけることを期待している。人権擁護グループによると、警察当局と麻薬グループの戦いで２００６年以来５万人が犠牲となっている。なお、メキシコでは７月１日、大統領選挙が実施されるが、ローマ法王は同国大統領選への干渉を最小限度に抑えたい意向という。
　ちなみに、メキシコはカトリック国だが、過去１０年間でその割合が人口の８８％から８３・９％に減少する一方、プロテスタント教徒は約１１００万人と急増してきている。
　２６日からはキューバ訪問が始まる。キューバの最初の滞在地はサンティアーゴ・デ・クーバ州だ。法王のキューバ訪問の主要目的はキューバ南東部のエル・コブレの聖母マリアの再現４００年を追悼することだ。
　べネディクト１６世にとって共産国を訪問するのは初めてだが、前任法王の故ヨハネ・パウロ２世は１９９８年、法王として初めてキューバを訪れている。
　ハバナのオルテガ枢機卿は１４日、国営放送でローマ法王の訪問について「信者たちの信仰を鼓舞し、キリスト教価値観を再確認することになるだろう」と期待している。
　ローマ法王のキューバ訪問が明らかになると、反政府グループが教会を占領して国際社会にキューバ政権の実態をアピールする動きが出てきた。それに対し、教会側は「今回の法王訪問はキューバ政府の招請を受けたものだが、その内容はあくまでも司牧訪問だ。あなた方の主張は理解できるが、教会を占領すれば宗教活動を妨害する」と説得している。反政府グループは法王との会見と政治犯の釈放を求めている。
　２８日には南米訪問最後の記念礼拝がハバナの革命広場で行われる。べネディクト１６世がキューバ滞在中にフィデル・カストロ氏と会見するかどうかは明らかではない。
　なお、法王のメキシコ、キューバ訪問へのメデイア側の関心は高く、４５０人以上のジャーナリストが既に取材登録している（バチカンから７６人の随伴記者団）。

2012年03月17日06:00

カテゴリ: その他

中国企業の欧州市場進出　

１）独市場に進出する中国投資会社

　ドイツ貿易・投資振興機関（Germany Trade & Invest)は１５日、ベルリンで昨年度外国投資状況を発表した。それによると、１５８社の中国企業がドイツで投資し、外国投資企業数ではトップだった。それを追って、米国企業が１１０社、スイス９１社、フランスが５３社と続く。トータル外国投資会社数は昨年、３３カ国から８２７社で前年度比で１３社増えた。
　投資先としては、営業分野が多く、生産・研究開発分野での投資は少ない。特に、自動車・機械メーカーへの投資が多くを占めている。
　参考までに付け加えると、ＥＵと中国間の貿易総額は年々拡大傾向にあり、２０１０年（１月―１１月）のＥＵの対中輸出総額は１２４０億ユーロ。逆に、中国からＥＵへ輸出される総額は２４４０億ユーロだ。ここ数年は中国側の貿易黒字が続いている。

２）ＥＵ域内で初の中国車生産工場

　オーストリア日刊紙プレッセが報じたところによると、中国の自動車メーカー、グレート・ウォール・モーター（長城汽車)社が欧州連合（ＥＵ)の加盟国ブルガリアで自動車生産工場を建設（５０万平方メートル）し、自動車生産に乗り出すという。
　中国の自動車メーカーは過去、ＥＵ市場進出を図ってきたが、「品質が悪い」という芳しくない評判に直面し、これまで実現できなかった。今回はブルガリアの小村、BahowitsaでブルガリアのLitexモーターと連携し、車を生産する。
　現時点では１２０人の労働者が従事しているが、近い将来、２０００人まで増員する一方、今年の２０００台の生産台数を２０１５年には年間７万台に拡大する予定という。
　中国自動車メーカーによると、「ＥＵ加盟国のブルガリアで完成品を生産する場合、輸入税が低い上、ブルガリアの生産コストも他のＥＵ諸国の中では安いこともあって、ブルガリアで自動車生産の乗り出すことになった」という。完成した中国車はブルガリア国内市場だけではなく隣国にも輸出する計画だ。ちなみに、中国で生産された部品をブルガリアに運び、そこで自動車を完成するが、将来は自動車部品もブルガリア国内で調達できるようにしたいという。

タグ：: 中国

2012年03月16日06:00

カテゴリ: カトリック

神父の任期制導入案

　民主主義の要は多数決原理であり、国民の意思表示は定期的に実施される選挙を通じて行われる。「良し」としない政治家に対しては投票を拒否する。そして多数の支持を受けた人が最終的には選出される。
　この民主主義の原則を宗教団体の指導者選出にも適応すべきだ、という意見が出てきた。オーストリアのローマ・カトリック教会オーバー・エスタライヒ州の信者グループ「カトリック行動」だ。同グループは聖職者の任期を制限し、信者たちの信任を受けた聖職者だけが任期を延期できるようにすべきだというのだ。聖職者は基本的には終身制だが、それを任期制限し信者たちの信任に委ねるべきだというのだ。かなり過激な内容だ。オーストリア国営放送電子版が報じた。
　「カトリック活動」のベルト・ブランドシュテッター会長は「神父は１０年毎に信者の信任を受け、再任命されるべきだ」という。実例はある。カトリック教修道院院長だ。修道院院長は定期的に修道僧たちによって信任を受け、再選される仕組みとなっている。
　会長によれば、聖職者の任期制は教区の信者たちだけではなく、聖職者にとっても都合がいい、と説明する。教区の信者たちは相性の合わない神父を切ることができる一方、神父も教区の雰囲気が合わなければ面子を失うことなく他の教区に移動できるからだ。
　「カトリック活動」は神父だけではなく、司教任命に対しても発言権を求めている。ただし、司教任命権はローマ法王が有している。教区の信者たちの発言権はない。
　会長は「教会も民主化されないと、多くの信者たちが今後、教会から離れていくだろう」と警告するが、聖職者にとって、聖職は「神の召命」に基づくものであって、決して信者たちの要請によるものではない。それを今後、教区の信者たちの信任に委ねた場合、聖職者の「神の召命感」は希薄化していくだろう。神の召命感がない聖職者は単なる教会労働者に過ぎなくなる。換言すれば、神父も全く政治家と同じような立場になるわけだ。そして政治家が当選するためには有権者に多くの公約をしなければならないように、神父たちも信任されるためには教区の信者たちの支持（人気取り）が重要となっていく。
　同国では過去、教区の信者たちの意向に反して神父が解任されたり、司教と対立した神父が人事されるといった事態が発生してきた。それらの不協和音を解決するために、神父の任期制導入はひとつの案だが、果たして教会人事を政治家と同じように民主化できるだろうか。
　民主主義は独裁者を排除できるという利点はあるが、有能な政治家を生む出すことが難しい面もある。同じことが聖職者にもいえるかもしれない。

2012年03月15日06:00

カテゴリ: オーストリア; 北朝鮮

ウィーンの「平壌レストラン」の話

　韓国連合ニュースは先月、「欧州初となる北朝鮮レストランが、オランダの首都アムステルダムにオープンした。同国のホテル事業家と北朝鮮が共同運営するレストランだ」と報じた。
　ところで、この記事には事実の誤認がある。１９８０年代に音楽の都ウィーンに北直営の「平壌レストラン」が存在し、ウィーンを訪問した韓国旅行者が密かに食べにくるほどの“噂のレストラン”だった。また、ハンガリーの首都ブタペストにはドナウ河に北とハンガリー企業の合弁「船上レストラン」があった。
　連合ニュースの記者が２０年前のことを記憶していなかったことは致し方がないが、「欧州初」という点は明らかに間違いだ。厳密に言えば、「北朝鮮はオランダで再び平壌レストランを開業した」と報じるべきだろう。
　さて、ついでに突然、閉鎖したウィーンの「平壌レストラン」について、当方が記録している範囲で紹介したい。
　欧州の南北３８度線と呼ばれたウィーンで、冷戦時代、北朝鮮は「平壌レストラン」と呼ぶレストランを経営していた。場所はウィーン市７区で、２００４年６月に閉鎖した欧州唯一の北朝鮮直営銀行「金星銀行」があった建物の一角だった。
　タイのパタヤで開店された「平壌大成館」のように数百人収容可能な大レストランではなかったが、昼間はメニューを、夜はスペシャル料理を出してくれた。当方も数回、食べに行ったことがある。「オーストリア・北朝鮮友好協会」の総会も時たま、レストラン内で開かれていた。
　同レストランには「李」という年配の情報工作員がウェイターとして勤務していたことはこの欄で一度、紹介した事がある。
　アムステルダムの「平壌レストラン」が繁盛することを願うが、北朝鮮は欧州で定期的にレストランを開業してきたが、残念ながら成功した例がない。現地の市民も開業時には好奇心もあって食べにくるが、その後が問題だ。客を呼ぶためには味だけではなく、アイデアと工夫が常に不可欠だ。
　ウィーンの「平壌レストラン」が閉鎖に追い込まれた背景には。同レストランが北工作員の拠点として利用されていたこともある。だから、純粋なレストラン経営からはもともとほど遠かったのだ。

2012年03月14日06:00

カテゴリ: 国連記者室

大震災追悼集会が国連内で開催

　ウィーンの国連機関で１２日午後（現地時間）、東日本大震災１年目を追悼する集会が開催された。ウィーン国連事務所（ＵＮＯＶ）と在ウィーン国際機関日本政府代表部が共催した。

▲ウィーン国連で開催された東日本大震災の追悼集会　２０１２年３月１２日、撮影

　集会にはＵＮＯＶのフェドトフ事務局長、小澤俊朗特命全権大使のほか、国際原子力機関（（ＩＡＥＡ)の天野之弥事務局長、包括的核実験禁止条約（ＣＴＢＴ)機関のトート事務局長らが参加。それに国連工業開発機関（ＵＮＩＤＯ)のユムケラー事務局長がビデオを通じて挨拶した。集会のMビル一階には昼休み中の国連職員の姿も見られた。
　最初に挨拶した小澤大使は東日本大震災の現状を報告しながら、日本国民が復旧に頑張っていると報告。その後、ロシア人のフェドトフ事務局長は「大地震、津波、そして原発事故と日本の国民は３重の災害に遭遇したが、相互援助と連帯でその危機を克服してきている。その勇気と努力に世界は感動した」と述べた。
　天野事務局長は、「大震災後、日本を訪問したが、国難に立ち向かう同胞の姿に心が打たれた」と語る一方、「福島第１原発の危機に立ち向かう原発関係者の血と汗の奮闘は忘れることができない。ＩＡＥＡは原発の回復のためにいつでも援助する用意がある」と強調した。
　一方、ハンガリー人のトート事務局長は東日本大震災の犠牲を慰労すると共に、「日本頑張れ」と書いた紙を出して聴衆の前で日本語で「日本頑張れ」と応援すると、聴衆から暖かい拍手が沸いた。

【短信】オーストリアから１１人が４月、訪朝予定

　オーストリア・北朝鮮友好協会の１１人のメンバーが４月１５日（太陽節）の北朝鮮の故金日成主席生誕１００年目の祝賀会に参加するため訪朝する。協会関係者が明らかにした。滞在期間は８日間から１０日間の予定。なお、北朝鮮は太陽節を盛大に祝するために海外からも３００人以上の要人を招待している。

2012年03月13日06:00

カテゴリ: ドイツ; キリスト教

独でプロテスタント時代に突入

　ドイツで今月１８日、ニーダーザクセン州首相時代（２００３－１０年）の汚職・賄賂容疑で辞任したクリスチャン・ウルフ前大統領の後任に、キリスト教民主同盟（ＣＤＵ)、自由民主党、社会民主党、「緑の党」の統一候補者、旧東独の人権活動家でルター派教会元牧師のヨアヒム・ガウク氏（７２）が選出される。この結果、ドイツでは連邦大統領と首相のポストがいずれもプロテスタント教会出身の政治家によって占められることになる。
　ドイツではローマ・カトリック教徒とプロテスタント信者数はほぼ均衡しているが、政界では後者がここにきて伸びる一方、前者の後退が顕著だ。その背景について、ドイツ社会の世俗化に対する新・旧教会の対応の相違がある、と指摘する声がある。
　すなわち、ローマ・カトリック教出身の政治家は常に教会の教えに縛られ、バチカン法王庁、ローマ法王の教えが強い影響を与える一方、プロテスタント教出身政治家は聖書を唯一の拠点とするため、個人的な信仰姿勢が強い。
　例えば、ＣＤＵは過去、受精卵を崩して作るヒト胚性幹細胞（ＥＳ細胞）問題、同性愛者の問題、堕胎問題でカトリック教会と常に緊迫な関係を続けてきた。プロテスタント教出身の政治家では教会の教えと対立するというケースは少ない。自身の良心が判断基準となるからだ。
　もちろん、プロテスタント教会もカトリック教会と同様、信者の教会離れ、日曜日礼拝参加数の減少など難問を抱えているが、政界ではバチカンの教えに縛られたカトリック教徒の政治家より、個人的信仰を重視するプロテスタント教系政治家のほうが世俗化社会では適応能力があるのかもしれない。
　次期大統領のガウク氏は「自由と民主主義の重要性」を常に説く。結婚して４人の子供の父親であるガウク氏は２０００年以来、付き合っている女性（５２）がいるが、正式に結婚していない。本妻とは１９９１年以降、別居状態だが、離婚していない。だから「ガウク氏は大統領職を開始する前に正式に離婚し、再婚するなど身辺を整理すべきだ」という声がキリスト教社会同盟（ＣＳＵ）家庭問題担当のノルベルト・ガイス議員（カトリック教徒）から飛び出したわけだ。
　カトリック教徒のウルフ前大統領が辞任したことで、独政界からカトリック系政治家が一人減った。独週刊誌シュピーゲルによると、カトリック教出身で政界の最前線で活躍している政治家は、ノルベルト・ラマート連邦議会議長、バイエルン州のホルスト・ゼーホファー首相、そしアネッテ・シャヴァーン教育・研究相ぐらいだという。
　当方はこの欄で「独ＣＤＵから『Ｃ』が消える日」（２００８年７月２日）を書いたが、この「Ｃ」は今日、キリスト教の中でもカトリック教系政治家に当てはまることだ。
　独の宗教改革者マルティン・ルター（１４８３年ー１５４６年）が有名な「９５ヶ条の論題」（１５１７年）を掲げてまもなく５００年目を迎えるが、それに先立ち、ドイツではプロテスタント系政治家が台頭してきたのだ。

2012年03月12日06:00

カテゴリ: スイス

人はどれだけの休暇が必要か

　アルプスの小国スイスで１１日、法的に規定されている労働者の年次最低有給休暇を従来の４週間から２週間増やして６週間とする案について、その是非を問う住民投票が実施される（大方の予想によると、スイス国民は休暇拡大に反対）。
　通常、労働者は職種に関係なく、一日でも多くの有給休暇を願うものだが、スイス国民はどうやら例外だ。同国で２月末に実施された世論調査によると、約６３％の国民が６週間の休暇拡大案を拒否している。以下は、オーストリア日刊紙クリア３月１０日付の記事を紹介する。

　スイスの労組関係者は「経済のグローバル化に伴い、世界の競争力は激しい。それに伴い、労働者の上には多くのストレスが強まり、労働者はバーンアウト症状になったり、健康を害する。国家は年間８３億ユーロを医療費として投入せざるを得なくなる」と説明、「労働者にはこれまで以上の休日が必要だ」と主張している。
　具体的には、従来の法的最低休暇を４週間から即５週間に増やし、２０１３年から１８年の間で年間１日づつ増やし、最終的に休日数を６週間とするという案だ。
　労組の提案に対して、社会民主党や緑の党は支持しているが、保守派政党、政府や議会、雇用主側は反対。その反論によると、①休暇日数を６週間に拡大すれば、年間５０億ユーロの追加支出が必要、②生産コストを高め、③商品の競争力を弱体化させることだ。そのため、「多くの休日=少ない仕事」というスローガンを掲げているほどだ。
　スイスの失業率は現在、約３・４％と欧州諸国の中でも非常に低いが、国民は仕事を失うのではないかという懸念を常に持っている。法的最低休暇拡大反対派はその労働者の弱みをついている。労組側が「労働者の潜在的不安を刺激するキャンペーンだ」と強く反発するのは当然だろう。ちなみに、通貨スイス・フラン（CHF)）が強いこともあって、同国の輸出産業では生産拠点を国外に移動する企業が増えてきた、そのため、実際、解雇を受ける労働者が出てきている。
　興味深いことは、同国では過去、法的休暇拡大案（１９８８年）、２回の労働時間の短縮案がいずれも拒否されていることだ。その背景について、「労働は神によって与えられたもの」という考えが強く、規律を重視するカルヴァン（Jean Calvin)主義の影響が国民の中に残っているからだという説がある。
　ちなみに、労働者の法的最低休暇日数ではフィランド、フランス、ロシアが年間４０日間でトップ、オーストリア３８日、ギリシャ３７日と続いている。下位の国を見ると、ルーマニアとドイツが３０日間、スイスとアイルランド２９日、オランダが２８日で最下位だ。