ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2012年02月

22人の新枢機卿と「次期法王」

 ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁で18日午前、枢機卿会議が開催され、22人の新枢機卿が正式に任命された。べネディクト16世が任命した22人の新枢機卿のうち、16人は欧州出身(7人イタリア人、2人ドイツ人)、2人はアジア出身、4人米国人だ。今回はアフリカ出身者はいない。新枢機卿のうち10人はバチカン高官として職務についている聖職者だ。例えば、法王庁福音宣教省長官のフェルナンド・フィロー二大司教や奉献・使徒的生活会省長官のジョアン・ブラス・ジ・アヴィス大司教だ。
 これで枢機卿会議に所属する枢機卿総数は213人。そのうち、法王選出会(コンクラーベ)参加資格のある80歳以下の枢機卿は125人となり、コンクラーベ招集の条件(最高限度120人)をオーバーした。
 ちなみに、次期法王を選出する有資格者125人の枢機卿の出身地をみると、67人が欧州出身でコンクラーベの過半数を占めている、そのうち30人がバチカンの地元のイタリア人。次に南米の22人、北米15人、アフリカ11人、アジア出身9人、そして1人がオーストラリア出身だ。
 枢機卿という立場は11世紀ごろ創設され、16世紀に入って現代のような枢機卿会議が確立していく。基本的には、ペテロの後継者ローマ法王の助言者という立場だ。べネディクト16世は枢機卿会議で「枢機卿は愛の奉仕者でなけれならない」と強調している。枢機卿の法衣は赤色だが、それは「神、イエス、教会、兄弟姉妹への奉仕」を象徴しているという。
 なお、バチカンでは17日、133人の枢機卿が結集し、べネディクト16世と共に緊急会合を開いている。非公開の同会合のテーマは新福音化だ。バチカン放送電子版によると、べネディクト16世は18日の新しい枢機卿任命式前にこれまでの枢機卿たちに祈祷と内省を呼びかけたという。
 会合では枢機卿会議議長のソダノ枢機卿、今回枢機卿に任命されたドラン大司教(米国教会)らが基調演説をした。その中でドラン大司教は「世俗化は信仰の脅威とはならない。それは外部からだ。問題は内部の信仰だ」と述べ、枢機卿たちの信仰の活性化を強調している。
 欧米教会では2010年、聖職者の未成年者への性的虐待問題が次々と発覚し、ローマ・カトリック教会への信頼が大きく揺れ動いた。ここにきて、バチカン内部文書がメデイアにリークされ、教会内部の恥部が外部に流れるケースが急増してきた。その一方、教会内の改革派の動きも活発化してきている。その上、ドイツ出身のベネディクト16世は4月に85歳を迎える。高齢法王の健康問題が表面化してくる可能性がある。ローマ・カトリック教会は今日、内外共に大きな課題を抱えている。

多発する「バチカン発」リーク情報

 国際原子力機関(IAEA)の核関連情報が頻繁に外部に不法流出していることはこのコラム欄でも何度か紹介したが、世界最大のキリスト教会、ローマ・カトリック教会の総本山バチカン法王庁も内部情報の流出に頭を悩ましている。
 ロンマルディ報道官は14日、バチカン放送に対して「バチカンの機密文書が最近、外部に流れるケースが増えている」と指摘し、それを“Vatileaks”(ヴァチ・リークス)と呼んだほどだ。
 報道官は「バチカン内部文書が不忠実な者によって外部にリークされ、メディアによってセンセーショナルに報道されている。その結果、大きな混乱が生じる」という。
 最近のヴァチ・リークスの例として、当方がこのコラム欄でも紹介した「法王殺人の陰謀説」が挙げられている。バチカン側がこの情報にかなり動揺していることが伺える。
 例えば、ヴァルター・カスパー枢機卿はイタリア日刊紙コリエレ・デラ・セラ紙とのインタビューの中で「法王殺人陰謀」情報に言及し、「内部書簡を流した者は教会の威信を損っている。バチカンと教会への忠誠心のない者の仕業だ」と糾弾しているほとだ。
 また、バチカン銀行と呼ばれるIOR(宗教事業協会)は2010年、2300万ユーロを送金先を明確にせず送金しようとしたところを、イタリア司法当局がマネーロンダリングの疑いがあるとして口座を凍結されるという不祥事が生じた。それだけではない。IORのゴティテデスキ総裁とパウロ・チプリアニ事務局長が捜査対象となったことが判明すると、バチカン側は大きなショックを受けたことはまだ記憶に新しい。これもバチカン内部情報が外部に流れた結果、判明した事件だ(イタリア司法当局は昨年6月1日、一昨年9月に不法資金洗浄の疑いで凍結したIORの2300万ユーロをの解除を決定している)。
 バチカン法王庁が絡んだ不祥事の多くは内部情報のリークから生じていることから、バチカン側がここにきて神経質となっているわけだ。特に、「法王殺人陰謀」情報は次期ローマ法王選出問題にも影響を及ぼしかねない内容であり、バチカン内部関係者の関与がなくては考えられないものだ。バチカン報道官が内部情報のリーク問題に強い警戒を表明したのも理解できる、というものだ。
 当方は当コラム欄で「バチカンは『秘密の宝庫』」(2010年3月26日)というタイトルの話を紹介したが、その隠された“宝庫”を発見するために多くの手が伸びてきたのだ。

パキスタンは「イランのモデル国」

 イスラム教のアラーは核兵器のような大量破壊兵器の製造、保有を「非人道的」として厳禁している。欧米諸国から核兵器製造の容疑を掛けられているイラン側の弁明だ。“ホメイ二師の遺訓”ともいわれる(イランはイスラム教シーア派の国家だ)。
 しかし、イランの核計画の現状をみると、「テヘランは核兵器製造を画策している」という疑いが日増しに濃厚となってくる。
 アラーやホメイニ師が厳禁した核兵器をテヘランが製造できるか考える必要があるだろう。なぜならば、“金日成主席の遺訓”として朝鮮半島の非核化を国是として主張してきた北朝鮮が核兵器を製造し、2度の核実験をこれまで実施したからだ。しかし、北側は金日成主席の遺訓を放棄したとは表明していないのだ。
 「政治家の遺訓」より「宗教指導者の遺訓」のほうが本来、権威があるはずだ。その宗教指導者の遺訓を破ってイランが核兵器を製造した場合、論理的に言えば、イランはイスラム教の信仰を蹂躙したことになる。少なくとも、ホメイニ師の教えを捨てたといわざるを得なくなる。
 しかし、ここで北朝鮮の場合を想起すべきだ。遺訓を放棄することなく、核兵器を製造したのだ。イランの場合、ホメイニ師の遺訓を信じているが、核兵器を製造せざるを得なかった、という論理の確立が課題となるわけだ。
 イランの課題を援助してくれる国がある。同じイスラム教国でありながら、核兵器を製造した国だ。すなわち、パキスタンだ。
 イラン指導者たちは核兵器を製造した後、国際社会に向けて「イランもパキスタンの道を行かざるを得なかった」と弁明できるのだ。
 パキスタンの場合、宿敵インドが核兵器を先駆けて製造したため、敵国から自国を防備するために「やむなく同様に核兵器を製造せざるを得なくなった」という説明だ。それによって、核兵器製造を厳禁するイスラム教の教えとの矛盾を少しは緩和できたわけだ(同国のイスラム教はスン二派が主流)。
 イランは「宿敵イスラエルが核兵器を保持している(西側情報機関によれば、イスラエルは200基の核兵器を保有している)。自国をイスラエルの核の脅威から守る為に核兵器が必要となった」という理屈だ。これで核兵器とイスラム教の教えの矛盾を最小限度に抑えるわけだ。
 総括すれば、イランはイスラム教の教えを守る一方、核兵器を製造できる道として、「パキスタンをモデル」としている可能性が考えられるのだ。

忘れられる独裁者・金総書記

 健在だったら今頃、北朝鮮国内外で盛大な70歳誕生の祝賀会が挙行されただろうが、昨年末、急死したこともあってその祝賀会も縮小気味という。

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▲駐オーストリアの北大使館写真掲示板から「昨年8月、軍視察中の故金総書記」 2012年2月14日撮影

 今年は4月15日の故金日成主席生誕100年祭が控えている。北には両者の祝賀会を大々的に開催する財力がない。「どちらを盛大に祝うか」と考えた場合、大多数の北国民は2月16日の光明節より4月15日の太陽節のほうを選ぶだろう。
 14日午後5時(現地時間)、駐オーストリアの北大使館(金光燮大使=Kwang Sop KIM=金総書記の義弟)でも故金正日総書記の生誕70年祝賀会が開催された。
 オーストリアでも「墺太利・北朝鮮友好協会」の古いメンバーは「故金主席時代は良かった」というのが口癖だ。そして「息子(故金総書記)の時代に入って全てが悪くなった」と考えている。
 その息子金総書記が死去し、さらにその息子金正恩氏が政権を相続した今日、「故金主席の孫は大丈夫だろうか」と懸念顔で呟くメンバーが少なくない。
 金主席の死後、金総書記は17年間余り長期政権を維持してきたが、その割には、その存在感は父親の故金主席よりかなり見劣りする。
 2代目の宿命かもしれないが、創始者と3代目の挾間にあって、2代目は影が薄い。国民から忘れられるのも早い。金総書記が亡くなってまだ2カ月しか経過していないが、数年前に亡くなったような錯覚すら覚えるほどだ。
 北大使館の故金総書記生誕70年祝賀会に招かれたゲストたちの関心事も若き指導者・金正恩氏の動向に集中している。オーストリア内務省関係者が祝賀会に出席するのも後継者に関する情報収集のためだ。
 金総書記のことを考えている者はいない。北全土で故金総書記の銅像が建立され、「大元帥」の称号が与えられたとしても、同総書記への記憶は時間のテンポを凌ぐ速さで忘れられていく。歴史が「国民の為には何もしなかった独裁者」として記憶するだけだろう。
 ちなみに、同大使館前の写真掲示板には、故金総書記の功績が称賛されていた。そこでは「先軍政治」が強調され、同総書記の遺産としては「人工衛星」と「核兵器」の2点が挙げられていた。両者とも飢餓に苦しむ北の国民にとって価値なきものだ(「金正恩氏が相続した“2大遺産”」2012年1月1日参照)。
 北国内で推進されている故金総書記の神格化、偶像化は「忘却」に対する勝算なき挑戦に過ぎない。

もはや静観している時ではない

 中国四川省のチベット人居住自治州で8日、19歳のチベット仏教僧が中国当局の弾圧に抗議して焼身自殺した。昨年3月以来、これまでに明らかになっている件数だけでも20人の仏教僧たちが「チベット仏教の自由」を訴えて生命を投げ出している。
 もはや静観している時ではない。国際社会は中国当局にチベット仏教の自由を保証するように強く要求する一方、チベット人居住区の現状を調査する国際チームを派遣すべきだ。
 中国当局の反発を恐れて沈黙すべきではない。若い仏教僧がその生命を犠牲にしてでも訴えようとした内容に耳を傾けるべきだ。
 中国の習近平国家副主席が現在、訪米中だ。オバマ米大統領は中国の将来の国家主席に誤解を与えるような曖昧な表現ではなく、「宗教の自由」は基本的人権であり、それを侵害することは絶対に受け入れられないことをはっきりと伝達すべきだ。
 「宗教の自由」を弾圧した国家が滅亡していった事は世界の歴史が実証してきたことだ。最近では、旧ソ連・東欧共産政権の崩壊はそのことを追認させてくれている。
 「宗教はアヘン」と誹謗した共産主義思想は「宗教の自由」を求める民主化運動の前に屈服せざるを得なかったことを当方も目撃してきた一人だ。
 24年前の1988年3月、ブラチスラバの民族劇場広場で「信仰の自由」を求めたキリスト者たちのデモ集会が開催された。チェコ共産政権は当日、警察部隊を動員し、デモ集会参加者に向け放水で対応。多くの若いキリスト信徒たちが拘束され、中央警察署に護送された。国際記者証を所持していたが、当方も拘束されて7時間余り、中央警察署で尋問を受けた。警察官に頭を壁に強く殴打されていた青年もいた。
 その出来事から1年後、チェコ共産政権は急速に崩壊していったことは周知の事実だ。
 チベット仏教僧の焼身自殺を聞く度に胸が痛くなる。自殺という方法は決して認められないが、チベット人たちはそれ以外の方法がないという状況下に置かれているのだろう。
 ちなみに、中国当局は、今月22日のチベット歴新年をひかえ、チベット人居住区の監視を強化しているという。
 国際社会は一体化して中国共産党政権に「宗教の自由」を尊重すべきだと訴えるべきだ。若い仏教僧の尊い命がこれ以上失われないためにも。

「イラン核報告書」は新しくない

 国際原子力機関(IAEA)担当のイランのソルタニエ大使は昨年11月、天野之弥事務局長が理事国35カ国に提示した「イラン核報告書」について、「これまで報告された情報の寄せ集めに過ぎない。新しい情報はない」と主張し、「イランの核計画が軍事転用の疑い有り」と明記したIAEA報告書を「政治的動機に基づいて作成されたもの」と一蹴したことはまだ記憶に新しい。
 ところで、11月の報告書を「既報の情報の集合に過ぎない」というイラン大使の発言をIAEAの専門家が漏らしたならばどうだろうか。それも天野事務局長の最高ブレインの一人であり、核関連兵器専門家の人物が発言したらどうだろうか。
 IAEAハイレベル代表団の一員として今年1月末、イランを訪問したフランス人のジャック・ボット氏(Jack Baute)は先日、IAEAの元査察官に対し、「君も知っているだろうが、11月のイラン核報告書の内容は新しいものではない。既に知られてきた情報だ」と呟いたのだ。当方は後日、元査察官から直接、聞いた。同氏はソルタニエ大使の主張が間違いでないことを認めたのだ。
 天野事務局長は11月の理事会で「イラン関連情報は独自に入手した他、加盟国の情報機関から入手したものが含まれている」と指摘し、「10カ国の加盟国」から情報を入手したと説明してきた。
 しかし、それらの情報の多くは「2005年までに知られていた内容だ。IAEAが入手する核関連情報は米国とフランスの両国情報機関からが最も多い」という。
 天野事務局長は昨年11月、「過去の情報の寄せ集め」のイラン報告書をまとめて理事会に提出し、イランの核軍事転用容疑を国際社会にアピールしたが、「何故、この時期にイランの核軍事転用容疑を提示し、国際社会にイランの核問題を警告したのか」という点は明らかではない。ひょっとしたら、IAEAの「11月報告書」は何らかの政治的計算に基づいて公表されたのかもしれない。
 もちろん、イラン側は核計画の全容を開示し、その平和的目的を国際社会に実証すべき義務があることはいうまでもない。
 なお、IAEAは3月5日から5日間の日程で定例理事会を開催する。焦点はイランの核問題だ。それに先立ち、IAEAとイラン当局は今月20日、テヘランで核協議する。

枢機卿の「法王殺人の陰謀説」

 世界に約12億人の信者を有するローマ・カトリック教会の最高指導者、ローマ法王べネディクト16世が12カ月以内(今年11月まで)に殺される、というバチカンの機密書簡の内容がイタリアの一部のメディアで報じられた。その直後、バチカン法王庁のロムバルディ報道官が「全くの作り話だ。真剣に受け取るような事ではない。コメントする価値すらない話だ」と一蹴し、騒ぎは一応、収まった。

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▲バチカン法王庁のサン・ピエトロ広場でのイースター礼拝  2011年4月24日、撮影

 発端となった書簡内容はイタリアのパレルモ教区パオロ・ロメオ枢機卿が中国訪問中に語った、ということになっている。詳細に記述されているが、誰が法王を暗殺するのか、その背後は何があるか、等の肝心な点には全く触れられていない。書簡の発行人は匿名で12月31日の日付だ。
 どのような経由か不明だが、この書簡は南米コロンビアのダリオ・カストリロン・ホヨス枢機卿が今年初め、ローマ法王に「殺人陰謀の情報」として報告したことからバチカンに伝わった経緯がある。もちろん、バチカン側は書簡内容を慎重に検証したことはいうまでもない。
 ロメオ枢機卿自身は10日、メディアの質問に答え「バカげた話だ。現実離れしている。真剣に考えるべきではない」と書簡内容を完全否定している。ただし、同枢機卿は昨年11月、5日間、中国をプライベートで訪問したことは認めている。ロメオ枢機卿が正しいとすれば、誰かがロメオ枢機卿の話として「法王殺人陰謀説」を流したことになる。
 「法王殺人陰謀」情報を報じたイタリアのイル・ファット・クオティディアノ紙記者は「ホヨス枢機卿が署名した書簡は今年1月、ローマ法王に届けられた。書簡は独語で記述されていた。イタリア人のバチカン関係者が理解できないようにといった配慮が働いていたのではないか」と説明し、同枢機卿の書簡にはバチカンの特別な印が押されていたという。それが事実ならば、「法王殺人陰謀説」を報告したホヨス枢機卿の書簡は少なくとも偽造でないわけだ。
 ちなみに、ロメオ枢機卿は「法王殺人陰謀説」と共に、「べネディクト16世は既に自身の後継者を決めている。ミラノ教区のアンジェロ・スコラ枢機卿だ。そして法王は自身、スコラ、ロメオのトロイカ体制を構築し、重要な教会問題を決定する意向だ。べネディクト16世は国務長官のタルチジオ・バルトーネ枢機卿を嫌い、解任を考えている」と語ったといういうのだ。
 バチカン専門家はこの発言内容を「法王が自身、次期法王を決定することは考えられない。トロイカ体制も同じだ」と指摘し、ロメオ枢機卿の発言といわれる内容を懐疑的に受け止めている。同時に、「次期法王選出を視野に入れたバチカン内部の権力争い」といった覚めた見方も聞かれる。
 「法王殺人陰謀」報道は、その真偽は別として、今年4月に85歳を迎える高齢法王を抱えているローマ・カトリック教会にとって「次期法王選出問題」は決して遠い将来のことではないことを改めて示唆したわけだ。

北の3代指導者に仕える大使

 一人の外交官が駐在国に長く勤務していたら、それだけ駐在国の事情、政治も言語も一層理解できるようになる。もちろん、それは外交官だけではない。商社員もジャーナリストも同じだ。しかし、駐在期間が10年を超え、19年目を終え、来年はいよいよ駐在20年という大台に入る場合、どうだろうか。具体的には、駐オーストリアの北朝鮮大使、金光燮大使の場合だ。

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▲ウィーン郊外の金大使の私邸

 金大使は1993年3月18日、信任状を当時のオーストリアのトーマス・クレスティル大統領に手渡した日から数えてまもなく19年を終える。もちろん、金大使は駐在オーストリアの外交官の中では最長駐在大使だ。毎年大統領府で開催される新年会では最上座を確保できる有資格者だ。
 駐在ウィーンの北外交官に聞くと、「金大使はオーストリアが大好きだ」という。だから可能な限り、駐在したいというのだ。欧州連合(EU)駐在初代北大使というオファーも聞くが、「そんな話はまったくない」と一蹴する。
 北朝鮮大使の中でも金大使は全く例外的だという。金大使より同じ任地で長く駐在した北大使は駐スイス大使を務めた李徹氏だけだ。同大使も2010年3月末、帰国した。
 金大使の特異な立場は、敬淑夫人が故金日成主席と金聖愛夫人との間に生まれた長女だ、という事実に起因することはもはや説明が要らないだろう(金大使と敬淑夫人の間には2人の息子、忠民と東民がいる)。故金総書記の異母の姉妹だったこともあって、結婚した直後から金大使は外様大名のような立場を甘受せざるを得なかったわけだ。
 1994年に金主席が死亡すると、その後継者、金正日総書記の前で絶対忠誠を誓った外交官だ。その後17年間余り、金総書記とは義兄弟の関係だった。そして現在、大使は自分の息子のような年齢の金正恩氏に仕える外交官となった。
 オーストリア駐在直後は「大使が金ファミリーのメンバー」といわれることを極力、回避してきた。そのように見られるのを嫌悪すらしてきた。当方は過去、数回、大使と会見したが、その返答は国営朝鮮中央通信社(KCNA)の内容を繰り返すものがほとんどだった。その意味で「あまり面白みのない会見パートナー」だ。当方は金大使から金正男氏(故金総書記の長男)のような爆弾発言を期待していないが、大使の本音を一度は聞きたいと思っている。  

IAEAと「戦争と平和」

 ウィーンの国連入口のゲート1で朝、国際原子力機関(IAEA)査察局アジア担当のマルコ・マルゾ部長と偶然出会った。「おはようございます」というと、「君はイランに取材に行っていないのか」と聞き、「IAEAはイラク戦争直前の状況に再び対面している」と紅潮した顔でいう。

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▲IAEAのウィーン本部 2011年9月、撮影

 イラクの大量破壊兵器問題でIAEAのエルバラダイ事務局長(当時)査察報告が欧米のイラク戦争勃発の直接の契機となったように、「IAEAは現在、戦争か平和かを決定する重要な役割を担っている」というのだ。
 IAEAは核関連の専門機関だ。政治的決定はニューヨークの国連安保理が握っている。そんなことは分っているが、IAEAの報告内容次第では戦争を誘発する危険性は十分考えられる。
 IAEAは来月5日から5日間の日程で今年最初の定例理事会を開催する。それに先立ち、今月24日前後には天野之弥事務局長が最新のイラン報告書を35カ国の理事国に提示するはずだ。
 同事務局長は昨年11月8日、最新「イラン報告書」を理事国に提出したが、そこでイランの核軍事容疑を初めて明示した。核弾頭製造容疑、核兵器の部品試験、外国人専門家から起爆装置関連技術の獲得などを明記し、イランの核計画に疑問を呈したのだ。
 IAEAは過去8年間、イランの核関連施設を検証し、「同国の核計画が平和利用かどうか検証できない」という立場をキープしてきたが、11月報告書はそれを「軍事転用の疑い有り」に修正したのだ。
 イラン側の反発は当然、大きかった。駐IAEA担当のイランのソルタニエ大使は「IAEAの情報の中には新しいものは何もない。過去の情報を繰り返しただけだ」と指摘し、政治的動機に基づいた報告書をまとめた日本人の天野事務局長を激しく個人攻撃したことはまだ記憶に新しい。
 マルゾ部長は「今月20日のIAEAとイラン当局間の協議は重要だ。イランがIAEAの査察要求などを受け入れない場合、状況は厳しくなる」という。すなわち、20日から2日間開催されるテヘラン協議が「戦争と平和」と決定する正念場だ、というわけだ。部長の緊張した表情は理解できるわけだ。
 例えば、天野事務局長が3月理事会用に提出するイラン報告書の内容次第ではイスラエル側の軍事攻撃が考えられる。米紙によると、パネッタ米国防長官は、今春、イスラエルのイラン核施設への攻撃を予想しているほどだ。
 イランへの軍事攻勢は世界経済に大きなダメージを与えることは必至だろう。原油価格は急騰する一方、紛争が中東全域に拡大する危険性が予想されるからだ。欧米側、イスラエル側、イラン側もその点は理解しているはずだ。
 問題は、紛争に駆り立てるモメンタムが、当事者の意向に反して戦争を誘発させてしまう危険性が完全には排除できないことだ。「間違った情報」「間違った発言」が紛争を勃発させることがあるからだ。

亡命チベット人たちの「叫び」

 ウィーン市3区の中国大使館前で8日午後、中国共産党政権のチベット人弾圧に抗議するデモが行われた。デモ隊はその後、市内1区のシュテファン大寺院前広場に移動し集会を開き、市民に中国当局の圧政を訴えた。

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▲零下のウィーン市内で抗議デモする亡命チベット人たち=2012年2月8日、撮影

 市内の気温は零下6度。仕事帰りの市民たちや若者たちは足を止めて、亡命チベット人が配布する抗議書を受け取って、読む姿がみれれた。

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▲中国共産党政権の圧制に抗議して焼身自殺したチベット仏教僧たち、=2012年、ウィーン市内にて撮影

 抗議書には「われわれ海外居住チベット人は中国当局の無法な弾圧を受け苦しむ同胞に連帯を表明する。罪なき同胞を殴打し、殺害する中国当局の圧制は絶対に受け入れられない」と表明。そして「旧正月の1月23日、24日、チベット人たちが基本的人権を求める平和集会を開いたが、中国警察部隊が乱入。6人のチベット人が殺され、約60人が負傷した」という
 抗議の幕には中国当局の弾圧に抗議して焼身自殺したチベット仏教僧たちの一部が紹介されていた。亡命チベット人によると、「19人のチベット仏教僧が既に自殺した」という。
 中国共産党政権はチベット人地区に侵入すると、「社会主義国のパラダイスを建設する」と主張したが、実際はチベット固有の文化・言語を抹殺するなど、同化政策を強行していったことは周知の事実だ。外国旅行者のチベット入りは制限され、チベット自治区は文字通り、外部から孤立している。
 抗議書は「中国当局はチベット人や焼身自殺した仏教僧らの叫びを聞くべきだ。平和は暴力と弾圧では達成できないことを知るべきだ」と述べている。



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