ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2011年12月

北、金総書記の“殉教死”を演出

 「『強盛国家建設』のための強行軍の中で溜まった精神的・肉体的過労で急性心筋梗塞を引き起こし、ひどい心臓ショックを併発した」
 上の記事を読む限りでは、金総書記は国の将来を心配し、疲れ切て、最後は心臓発作で亡くなったといった印象を与える。換言すれば、記事は金総書記の殉教死を演出している。
 これは朝鮮国営放送の金正日労働党総書記の死去の第1報だ。朝鮮中央通信社(KCNA)の記事に親しんできた当方などは、「これは異常な報道だ」と直ぐに感じた。指導者の死去報道としては「余りにも詳細であり、細部まで伝えている」からだ。
 当方は「北のニセ情報を見破る『原則』」(2009年6月18日)というコラムの中で、「西側情報機関の知人が『北情報では詳しく書いてある記事を先ず、疑え』と教えてくれた」と書いた。当方は当時、その典型的な実例として、朝日新聞が一面トップで報じた金正恩氏の「極秘訪中記事」を紹介し、「記事内容は非常に詳細だ。情報の発信者は、“相手を信じさせるために”詳細に説明せざるを得なかったからだ。これがニセ情報の宿命だ」と指摘した。
 この「原則」から判断すると、北メデイアの金総書記死去報道も「総書記が国民の生活を心配し、自身の健康を無視して現地視察を繰り返していた末、疲れきって亡くなった」ということを内外に伝えるために詳細に書かざるを得なかったわけだ。
 ちなみに、当方は金総書記が官邸や避暑先の寝室のベットで亡くなったと考えている。しかし、これでは飢餓に苦しむ国民の心を掴むことは難しい。張成沢氏(党行政部長)らの“入れ知恵”もあってあのような稀に文学的な報道記事となったのではないか。
 逆にいえば、金総書記死去、政権を引き継ぐ金正恩氏は民心離反にかなり神経を費やしていること、要は不安を持っていることを示しているわけだ。
 さて、北朝鮮の運命は28歳の青年指導者・金正恩氏の動向に移ってきたが、われわれはその青年の年齢、性質、思考世界をほとんど知らない。
 北当局は党創建65周年の昨年10月10日、「不世出の領導者を迎えたわが民族の幸運」と題した「放送正論」を住民に聴取させたが、それによると、正恩氏は経済・文化だけではなく、歴史と軍事にも精通し、2年間のスイス留学で英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語をマスターし、現在、中国語、日本語、ロシア語を学習中という。また、その天才ぶりは農業分野にも及び、正恩氏が作成した標準肥料表に従った結果、翌年の収穫が「1町歩当たり最高で15トンの稲が収穫された」というのだ。
 しかし、それらの「称賛と美化」が空虚な言葉に過ぎないことは誰もが知っている。1200以上の呼称を受けた金総書記もその一人だった。金総書記は自分を「称賛と美化」する幹部たちを本心では信じていなかったといわれる。
 若い金正恩氏に父親のような“醒めた洞察力”を期待することは無理だろう。その意味で、若い指導者を取り囲む幹部たちの意向が今後、大きな影響力を持ってくることは必至だ。

半旗を掲げるウィーンの北大使館

 部屋から明かりが漏れてこない。3人の婦人たちが中庭を竹箒で掃除する音が微かに外に響いてくるだけだ。

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▲半旗を掲げる北大使館=2011年12月19日、撮影

 金正日労働党総書記が17日、特別列車で現地視察のため移動中、心臓発作で亡くなった。駐オーストリアの北朝鮮大使館(金光燮大使、金正日労働党総書記の義弟)は国家指導者の死去を受け、半旗を掲げていた。雨がいつ降り出してもおかしくない曇り空の中、風がないので半旗は力なく俯いていた。
 海外の北公館でも弔問客を迎える準備があるはずだが、ウィーン14区の大使館の正面玄関はまだ閉ざされていた。
 当地のテレビ局でも19日早朝から「金総書記の死去」をトップで報道していた。金総書記後の後継者・金正恩氏を紹介する一方、日韓が国家安全保障会議を招集し、韓国軍が非常体制を敷いている、といったニュースを繰り返し流していた。
 大使館前の写真掲示板には金総書記の過去視察の様子を伝える写真20枚が貼ってあった。「国民の生活向上のため」というタイトルのもと、金総書記が国民の生活水準の向上にのため努力している、という説明文がそれに付いていた。
 金総書記は2008年、脳卒中で倒れたが、最近は現地視察を後継者の正恩氏を連れて積極的にこなしていた矢先だ。
 69歳の死は“父王”金日成主席より13歳も若い年齢だ。同国国営放送によると、金総書記は「『強盛国家建設』のための強行軍の中でたまった精神的・肉体的過労で急性心筋梗塞を引き起こし、ひどい心臓ショックを併発した」という。金総書記は疲れ切って、最後は心臓発作で亡くなったわけだ。
 ちなみに、金総書記の「死」から「死去報道」まで1日半の時間があったことから、北指導部には緊急会議を招集し、今後の対策を少しは検討する時間があったはずだ。
 主人を失った北大使館は不気味なほど静かだった。嵐の前の静けさか、それとも、当惑と絶望で無気力感に覆われているからだろうか。
 金総書記後の北の動向を予測するためには、「喪明け」まで待たなければならないだろう。

衝撃的な「聖職者の性犯罪報告書」

 オランダのローマ・カトリック教会聖職者による未成年者への性的虐待を調査してきた同国の独立調査委員会は16日、1795件の性的虐待報告を検証し、その最終報告書をデン・ハーグで発表した。
 1945年から2010年の間で1万人から2万人の未成年者、孤児たちが聖職者の性犯罪の犠牲となった。性犯罪を犯した聖職者の数は約800人、そのうち105人はまだ存命している。
 調査委員会は、「教会関係者は聖職者の性犯罪に気づいていたが、それに対応し、処罰することなく黙認してきた」と指摘、教会指導部が聖職者の未成年者への性犯罪を隠蔽してきたと明確に記述している。
 オランダ司教会議の要請で発足した調査委員会は6人構成で、昨年8月から調査を開始した。委員長はデン・ハーグ市元市長、ヴィム・デートマン氏(Wim Deetmann)だ。
 同氏は、「教会指導部は1990年代に入ってようやく聖職者の未成年者への性的虐待問題に動き出し、犠牲者の声を聞くようになったが、その前はまったく犠牲者の声を無視していた」と述べ、「教会や修道院では身内保護と沈黙文化が支配している」と厳しく批判した。ちなみに、犠牲者への補償は2000年に入ってからようやく行われだしたという。
 特に、報告書は、「ロッテルダム教区のロナルド・フィッリッピ・ベア司教(83-93年)時代、聖職者の職務に不適任な人を多数聖職者にした。その何人かはその後、性犯罪を犯している」と強調し、「司教はその職務遂行に無能だった」と述べている。同司教は93年、突然辞任し、現在ベルギーの修道院で隠遁生活を送っている。
 なお、調査委員会は「聖職者の独身制」にも言及し、「独身制が聖職者の性犯罪の主因とはいえないが、“危険要因”となっていることは間違いない」と指摘している。

クリスマスツリーの話

 今年もクリスマスのシーズンが到来した。というより、クリスマス・シーズンは既に終盤を迎えている。ウィーン市内では到る所でクリスマスツリーが飾られている。否応なしに、市民はクリスマスのプレゼント買いに追われる。

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▲国連職員合唱隊、クリスマス・ソングを歌う

 ウィーンの国連内でもCビルの中央にクリスマスツリーが飾られている。15日には国連職員の合唱隊が昼休みにクリスマスソングを披露してくれたばかりだ。

 ところで、世の中には、人々の心を高揚させるクリスマスツリーに敵意を感じ、「ツリーを撤去しないと不足な事態が生じる」と警告する声も聞かれる。「クリスマス廃止運動」ではない。あの北朝鮮だ。
 北朝鮮政府は韓国側に国境近くにクリスマスツリーを飾るのを止めるように警告を発したという。高さは30メートルに及ぶクリスマスツリーが点灯されると北朝鮮の開城市からも見えるという。だから北朝鮮は不快感を表明し、韓国側に警告したというのだ。
 北国営ウェブサイト「わが民族同士」はクリスマスツリーを「卑劣な心理戦だ」と敵意を丸出しにした。南の同胞たちがクリスマス・シーズンに酔い、楽しく生きている状況を飢餓に苦しむ国民に教えたくないからだ。毎年のことといえばそれまでだが、クリスマスツリーにすら軍事的警告を発する異常な国だ。

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▲ウィーン市内のクリスマス風景

 北から音楽の都ウィーンのクリスマスツリーに話を戻す。当方の住む16区の地下鉄オッタクリング駅前ではクリスマスツリーを売る業者が忙しく動き回っている。さまざまな大きさのモミの木が並んでいる。市民は大きさや枝振りなどをみて買う。いいツリーは100ユーロを越す。
 ただし、24日に近付けばそれだけツリーの値段は下がる。だから、24日朝、ツリーを買う節約家もいる。大多数の家庭では子供たちの願いに応じて早々とツリーを家の中に飾る。ツリーがなければ、クリスマス・シーズンの雰囲気が出てこないからやむを得ない。子供たちはツリーの下にあるプレゼントが目当てだ。大人たちはツリーを飾る事で「ああ、一年も終わろうとしているな」といった感慨をもつ。
 最後に、クリスマスについて簡単に紹介しておく。世界では約22億人が24日、25日のクリスマスを祝う。ただし、ロシア正教徒、セルビア正教徒など正教会は来年6日に祝う。
 クリスマスツリーやクリッペ(キリスト降誕の模型)を飾る風習は13世紀初め頃から始まった。ただし、ツリーがクリスマスのシンボルと定着した始めたのは19世紀に入ってからだ。
 米国のブルース・シンガー、チャールズ・ブラウンのヒット曲 Please come home for christmas をご存知だろう。クリスマスには、家から遠く離れていた人も故郷に戻り、家族の絆を改めて確認する時だ。ちょっと早いが、メリー・クリスマス!


プーチン政治には「公平」が欠如

 ロシアで10日、10万人の国民が4日実施された下院選の不正投票に抗議するデモ集会に参加した。極東から最西端の飛び地カリーニングラードまで全土で多数の国民がプーチン氏の退陣を要求する集会に集ったのだ。プーチン氏の12年間の政権下では見られなかった現象だ。それだけに、クレムリンも少なからず動揺しているという。
 メドベージェフ大統領は11日、国民の怒りを鎮静するため選挙の不正行為を厳しく調査することを約束するなど、譲歩の姿勢を示している。
 ロシア消息筋は「国民のデモ集会でクレムリンが転覆することは考えられない」と指摘、“アラブの春”に倣って“ロシアの冬”の到来を予測する一部の西側ジャーナリストたちの見解を一蹴する。
 同消息筋は「今後の政情は来年3月の大統領選に焦点が移った。プーチン氏の再選はもはや確実ではなくなった。明確な点はプーチン氏が第一回投票で当選確実の過半数を獲得することは難しくなった」と指摘する。
 そのような中で12日、実業家ミハイル・プロホロフ氏(46)が大統領選に出馬表明した。2mを超える長身の同氏はプレイボーイの呼称をもつロシア第3の資産家(米フォーブス誌によると資産総額は推定130億ユーロ)だ。その資金と知名度を使って大統領選に乗り出せば、ある一定の支持を得るのは確実だろう。しかし、プーチン氏を脅かすまで支持を集めるかどうかは不確かだ。
 独週刊誌シュピーゲル電子版(13日)は、プロホロフ氏を「プーチン氏の替え玉」と予測、同氏が反プーチン票を集めることで、有力な野党対抗候補者の躍進を阻止する狙いがあるというのだ。
 そして最終的には、プーチン氏が大統領に返り咲き、プロホロフ氏が首相に就任。首相にカムバック予定だったメドベージェフ氏は権限の少ない下院議長に納まる、というシナリオを紹介している。
 プロホロフ氏は過去、プーチン氏を直接批判する発言をしていない。むしろ称賛する言葉を発してきた。興味深い点は、同氏の大統領選出馬表明を親クレムリン派日刊紙「コムソモリスカヤ・プラウダ」が一面で報道したことだ。通常では有り得ない。そのように考えると、独週刊誌の予測は非常に現実味を帯びてくる。

 最後に、当方の知人のロシア人教授に下院選挙後のロシア政情を聞いた。教授は「プーチン氏の政治で決定的に欠如している点はフェアネス(公平)だ。国益外交はいいが、国民間の貧富の格差は拡大してきた。都市と地方間の格差も深刻だ。富の分配でプーチン氏は失敗している」という。
 民主主義については「民主主義という概念は古代ギリシャの『人民』から由来する。人間が物事を決定するから、時代や地域、国によってその内容は変化してきた。米国の民主主義は米国型民主主義であり、ロシアにはロシア型民主主義があっても不思議ではない。一方、フェアネスは民主主義とは異なり、神によってもたらされる」と説明した。換言すれば、一世紀余り、唯物主義の無神論世界観で生きてきたロシア社会でフェアネスが定着するには民主主義の導入以上に時間を要し、難しい課題だというのだ。
 


【短信】「北朝鮮救済論」への南北の反応

 当方はこのコラム欄で韓国軍事専門家・池萬元博士の北朝鮮救済論(「興味深い北朝鮮救済論」2011年12月9日)を紹介したが、それに対して南北両国の外交官から反応があったのでここで簡単に紹介する。関係者の立場も配慮しなければならないので、ここでは匿名で記述する。

 韓国「同博士は韓国社会でも知られている人物だが、その論評はいつも強烈で一方的な傾向があることでも知られている。博士の救済論はとても興味深いが、多くの点で非現実的だ。なぜならば、北朝鮮では天上の太陽は故金日成主席唯一で、第2の太陽は存在しない、と教えられてきているからだ」

 北朝鮮「全く新しい内容だ。面白いが、非現実的な印象も受ける。それ以上のことはいえない」

人類最初のプロテスター(抗議者)

 米タイム誌は14日、恒例の「今年の人」に、中東から全世界に広がった抗議運動を推進した「プロテスター(抗議者)」を選んだ。特定の人物ではなく、独裁政権の打倒に立ち上がったアラブの人々、米ニューヨークの金融街で始まった「反ウォール街デモ」を展開する人々を総称して「抗議する人」とし、「今年の人」に選出したわけだ。
 話は飛ぶが、人類最初のプロテスターは誰であったかご存知だろうか。アダム・エバ家庭の長男カインだ。旧約聖書の創世記を読むと、神は次男アベルの供え物は受け取ったが、カインのものは拒まれたと記されている。
 カインは神に訪ねたはずだ。「神よ、どうしてあなたは弟の供え物を受け取り、私の供え物を拒絶されるのですか」と。これは人類最初の「抗議」の産声だった。カインが特別、批判的な性格だったからではない。彼は理解できなかったのだ。
聖書を読むと、神はカインのその質問に分りやすい返答を与えた、とは記述されていない。
 「カインの立場」になって考えて頂きたい。彼は納得しただろうか。残念ながら、彼は神から愛されている弟アベルを妬ましく思い、殺害したのだ。人類最初の「抗議者」が人類最初の「殺人者」となった瞬間だ。
 神は云う。「カインよ、カインよ。お前は何をしたのか」カインはそれに応えることができず、「エデンの園」から出て行ったのだ。
 私たちは人類最初の「抗議者」であり、「殺人者」となった「カインの末裔」といえるわけだ。だから、自分より「愛されている人々」や「物質的に恵まれている人々」に対して自然と「抗議」する思いが湧いてくる。「抗議者」にとっては、カインがそうであったように、その抗議は常に正しい。なぜならば、「自分は不当に扱われている」という思いがあるからだ。
 そのカインの抗議を吸収し、それを思想化したのがあの「共産主義」だ。共産主義思想の根底には「恵まれている人々」「愛されている人々」への恨みがある。それがあの階級闘争として展開されたわけだ。共産主義の歴史が粛清の歴史となったのも決して偶然のことではない。
 次に問題となるのは、「抗議者」がカインのようにアベル殺害を犯さず、その不当な扱いを改善できる方策はないだろうかだ。
 長い試行錯誤の末、生まれてきたのが「民主主義」だ。しかし、その民主主義も今日、米国の民主主義のように利益誘導型民主主義となっているのが現状だろう。だから「反ウォール街デモ」が生まれてきたのだ。彼らは「わたしたちは99%」と主張する。すなわち、1%が99%を支配し、利益を独占しているという宣言だ。
 「抗議する人」が殺人者カインとならないために誕生したはずの民主主義の社会内で新たな「抗議者」が生まれてきたのだ。
 このように歴史は「抗議する人」を絶えず生み出してきた。「アラブの春」や「反ウォール街デモ」はその意味で決して新しい社会現象ではない。
 すなわち、カインとその末裔には今尚、未解決の課題が横たわっているのだ。「神が愛する弟アベルをどうして愛することができなかったか」という自問を含め、「なぜ神はアベルの供え物を受け取り、カインのそれを拒んだか」という謎を解かなければならないのだ。
 もちろん、アベルにも課題があったはずだ。「神から供え物を受け取られなかった兄カインの心情を理解する」という課題だった。「神から受け入れられた人々の責任」問題である。

内閣府の「幸福度指標」適用すると

 音楽の都ウィーン市は3年連続、「生活の質」で世界第1の都市に選出されたばかりだ。ウィーン市にお世話になっている当方は嬉しい半面、その結果に少し首を振ってしまうのだ。
 米コンサルタント会社マーサーによれば、世界221都市を対象に政治、経済、治安、交通機関など39項目を調査した結果、ウィーン市が総合トップ、それを追って、チューリッヒ市、オークランド市、ミュンヘン市が続いている(ちなみに、ウィーン市は「治安」項目では第5位、「生活費」では36位、「環境」問題では44番目だった)。
 ところで、日本の内閣府が先日、「幸福度指標」の試案を発表、日本人の幸福度測定で3項目の指標、「経済社会状況」「心身の健康」「(家族や社会との)関係性」を挙げたが、それをウィーン市に適用すると、「生活の質」トップのウィーン市の第1位の地位は俄然怪しくなってくるのだ。
 ウィーン市が「生活の質」トップに選出された理由としては、住居、公共交通機関など、主に内閣府の第1指標に属する内容だ。
 「経済社会状況」の指針からみると、オーストリアも他の欧州と同様、財政赤字に悩まされているが、米格付け会社のランキングはまだAAAとトリプルA。しかし、毎年積み重なる債務は既に危険点まで達している。そこでファイマン政権は債務制限を憲法で明記しようと提案中だ。一方、欧州経済の不安定をよそに、ウィーン市のクリスマス商戦は上々、昨年の総売上高を上回る勢いだ。失業率(昨年7・4%)はで欧州都市では下位だ。日本内閣府の指標1を総合的に判断すれば、「生活の質」トップのウィーン市は合格点間違いないところだ。
 第2の指針、「心身の健康」では、同国の健康システムは欧州でも最高水準を行く。ウィーン市には欧州最大総合病院もある。ただし、ストレスやさまざまな悩みから心身障害者が増えてきている。バーンアウト(燃え尽き症候群)という用語がメディアで頻繁に登場する(ウィーン市は昔、世界最高の自殺国であった)。日本人の幸福度指針から判断すれば、ウィーン市はそれでもいい線にいっている。
 問題は第3の指標「家族、社会との関係性」だ。音楽の都ウィーンは3組に2組の夫婦が離婚する世界的な離婚都市だ。両親のもとで成人まで成長できる青少年は少数派だ。その一方、極右政党自由党の躍進にみられるように、外国人排斥傾向は強い。ウィーンっ子は家族を含む対人関係において致命的な弱さを抱えている。

 以上、日本内閣府の「幸福度指標」を「生活の質」トップのウィーン市に適用した。結果としては「欧州都市の中では住みよいほうだが、社会の土台ともいえる家庭が崩壊している。崩壊家庭が溢れている。その意味で、さまざまな犯罪、不祥事、事件が今後勃発する危険性を内包しているといえる。ウィーン市は世界で一番幸福な都市とはいえない」という結論が浮かび上がってくるわけだ。

独与党内の保守派に結集の動き

 独メルケル政権を支えるキリスト教民主同盟(CDU)内の保守派グループが現行の党路線に不満を感じ、保守派議員を中心とした新グループの結成を発表するという。新グループの名称は「ベルリン・サークル」(Berliner Kreises)だ。独ヴェルト日曜日版(12月11日)が報じた。
 CDUは伝統的にキリスト教世界観に基づいた政治信条を基本としてきたが、メルケル政権の発足後、次第にキリスト教(C)色を失い、リベラル化してきたことに対し、党内の保守派は久しく不満を持ってきたが、新派結成の動きは初めてだ。
 ヴェルト日曜版によると、新派結成を主導しているのはヘッセン州議会のCDU院内総務のクリスチャン・ヴァクナー(Christian Wagner)氏、独連邦議会の人権問題担当のエリカ・シュタインバッハ(Erika Steinbach)議員、CDU幹部のヘルマン・グレーエ氏(Hermann Groehe)らの名前が挙がっている。
 当方はこのコラム欄で3年前、「独CDUから『C』が消える日」(2008年7月2日)という記事を書き、CDUの世界観の変遷を指摘したが、当方の懸念は現実味を一層帯びてきている。
 ドイツのローマ・カトリック教会ケルン大司教区のマイスナー枢機卿は、「CDUはもはやカトリック教徒にとって絶対支持しなければならない政党ではなくなりつつある」と主張し、CDUが本来のキリスト教世界観、価値観から離脱してきたことを示唆したことがある。
 具体的には、受精卵を崩して作るヒト胚性幹細胞(ES細胞)問題、同性愛者の問題、堕胎問題などでCDUと教会の間で対立が生じたが、最近では、ギリシャの財政危機に対するメルケル政権の姿勢に対して保守派議員から不満が出てきている。
 メルケル首相の政治ライバル、副党首のヘッセン州のローラント・コッホ州首相(52)が昨年5月、突然、政界から引退し、経済界に入ると表明した。CDU内の保守派の代表格だった同州首相の経済界入り宣言は、保守派が党内で息苦しさを感じていることを象徴的に示した出来事だった。
 ただし、CDUの保守路線からの離脱傾向は党指導部の責任だけではない。独の社会自体が急速に世俗化し、教会離れが顕著な中、CDUが国民の支持を得るためにリベラル化路線を取らざるを得なくなったという事情がある。
 ちなみに、独シェル社が定期的に実施している「青年たちの研究」によると、12歳から25歳のカトリック信者たちの56%が「神への信仰」を重要視せず、「信仰を大切」に考える若者たちは44%に過ぎなかった。ただし、プロテスタント信者では「神への信仰」を重要視する若者の割合は約39%で、旧教徒よりさらに少ない(「『神』を失うドイツの若者たち」2011年8月28日)。
 いずれにしても、CDU内の保守派集団「ベルリン・サークル」が今後、どのような活動を展開させていくか、メルケル政権の行方を占う上でも注目される。

中国版「平和賞」の“幻の受賞者”

 どのような賞であっても、賞を授与する側にとって最も屈辱的なことは受賞者が欠席することではないだろうか。そんな思いを抱いたのは、中国がノーベル平和賞に対抗するために創設した「孔子平和賞」の9日の授賞式ニュースを読んだからだ。
 同平和賞は、中国の作家・劉暁波氏が2010年の「ノーベル平和賞」を受賞したことに対抗するため、中国側(中国郷土文化保護部)が即製した「平和賞」だ(孔子国際平和研究センターが今年11月に事業を継承した)。
 今年の受賞者はロシアのプーチン首相だ。受賞理由は「北大西洋条約機構(NATO)空軍のリビア空爆に反対した政治指導者」ということになっている。
 中国にとってタイミングが悪かったのは、ロシア下院選で選挙操作や不正投票があったとして10万人のロシア国民が「プーチンなきロシアを」と同首相の退陣要求を行っている最中だ。受賞者の「平和」イメージは著しくダメージを受けている。
 そして、肝心のプーチン首相は授賞式には顔を出さず、その代理に北京大学で留学中のロシア人女性が孔子像を受賞したのだ。
 昨年度の初代受賞者は台湾・国民党元副総統の連戦氏だった。受賞理由は、中国と台湾の間の平和の架け橋という。ただし、初代受賞者は受賞を拒否し、孔子像は連戦氏とは全く関係のない少女が受け取った。
 すなわち、中国が即製した「孔子平和賞」は過去、授賞式に受賞者が現れたことがないのだ。これほど主催者側の面子をつぶす不祥事はないだろう。
 もちろん、ノーベル賞でも受賞者が拒否したり、授賞式に欠席したケースはある。例えば、フランスの作家ジャン・ポール・サルトルは文学賞の受賞(1964年)を辞退している。
 しかし、創設年とその翌年の授賞式に受賞者とは全く関係のない代理人が賞を受け取った、ということは考えられないことだ。
 「孔子平和賞」が来年度も存在するかはまったく不透明となってきた感がする。3年連続、受賞者欠席という汚点を残さない為にも、主催者は「孔子平和賞」を廃止するかもしれない。3年連続、“幻の受賞者”と揶揄されないためにも、そのほうが無難かもしれない。

旧態依然の中国「メディア論」

 大紀元時報を読んでいると、「『ジャーナリストの仕事は党の宣伝』 、CCTV新トップが発言 」というタイトルの記事(12月6日付)を掲載していた。CCTVとは中国国営テレビ・中国中央電視台のことだ。そのトップに就任した胡占凡台長が発言をしたのだ。中国のネット社会で大きな反響を呼んでいるという。
 胡台長は、「一部の者は党性や党の喉舌(代弁者)としての役割を強調すると、報道の客観性や報道ルールに影響すると考えている。これは大きな間違いで、非常に偏った認識である」と発言したという。
 胡台長は地方紙・光明日報の編集長時代に、「われわれのメディアは永遠にマルクス主義者によって支配されなければならない。これはいつになっても変えてはいけないことだ」と発言した人物と分っていれば驚かないが、そうではないと時代錯誤なメディア論だ、といった印象を受けざるを得ない。
 日刊紙、週刊誌、テレビの分野こそ違ってもメデイア機関に従事する人間は極力、客観的な報道を目指すのが正道だが、胡台長は中国共産党の路線を擁護、宣伝するメディアが正しいと信じている。根っからのマルクス主義者だ。

 実際の例を挙げてみる、 以下は中国国際放送局日本語(CRI)が報じていた記事だ。

 「中央政府と各省、市の支援を受け、チベット自治区は貧困扶助開発に取り組んできました。その結果、農牧民の1人当たり平均純収入が1300元(約200ドル)を下回る、支援の重点対象となる貧困人口は2001年には148万人でしたが、2010年末には16万8000人まで減少しました。130万人の農牧民が重点貧困扶助ラインを超えたことになり、貧困扶助事業は目覚しい成果を収めました。貧困扶助開発活動の展開に伴い、チベット自治区の農牧民の1人当たりの純収入は3倍に増え、大きな成果を収めています」

 この記事を読んでいる限りでは、北京政権はチベット自治区に暖かい救いの手を施し、同自治区の国民の生活向上に努力している、という印象を受けるが、今年に入り、10人以上のチベット仏教僧が「宗教の自由」を要求、人権弾圧に抗議して焼身自殺している。チベット自治区の現状は中国国際放送局記者が報じている内容とは違う、という疑いを持たざるを得ない。
 実際、チベット関連では、CRIは常に北京政府のプロパガンダしか報じてこなかった。例えば、「中国、チベットの電力不足を解決へ」2011年10月17日、「チベット、農牧民への医療補助基準引き上げ」11年10月13日、といった内容だ。今年に入って多発しているチベット仏教僧の自殺についてはまったく言及していない。同放送記者たちが胡占凡台長の発言の“忠実な生徒”であり、その実践者だということを証明しているわけだ。
 中国国民経済は確かに発展しているが、中共政権のメデイア観は旧態依然、なにも変わっていない。中国共産党のプロパガンダの役割を果たしているだけだ。
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