ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2011年09月

「核テロ」の危険性はあるか

 米国内多発テロ事件(9・11)後、国際テロ・グループの核テロの恐れが現実味を帯びてきたと指摘されたが、幸い、その懸念は今日まで現実とはならなかった。
 欧米テロ専門家たちは「高度の核関連技術と知識が必要な核テロを実施することはテロ・グループにとってもハードルが高すぎる。可能とすれば、ダーティー爆弾が考えられるだけだ」とみている。
 原子力エネルギーの平和利用を標榜する国際原子力機関(IAEA)の重要課題は「原発の安全性」と共に「核の安全問題」だ。
 天野之弥事務局長は19日、第55回年次総会の開幕演説で「核の安全」について「9・11後、IAEAは核や放射性物質の安全を支援するために『核の安全計画』を拡大・強化してきた」と述べている。
 IAEAには、核の不法取引に関するデーター(ITDB)がある。2011年6月現在で113カ国が加盟している。
 ITDBによれば、2010年7月1日から11年6月30日の期間、加盟国から172件の核関連物質の不祥事が報告された。その内、93件はこの期間に発生し、79件は前年度の事件と関連する。
 また、14件は不法な核関連物質の保持、売買、32件が核関連物質の喪失、窃盗事件だ。126件は「犯罪との関連性がなく」、多くは保管状況で問題があった。
 核物質が関与した件数は172件中、16件に過ぎない。高濃縮ウラン(HEU)が関与した件数は5件(前年度3件)だ。
 ちなみに、1個の核兵器製造のためには、90%以上のHEU25キロが必要だ。参考までに、イランが製造している濃縮20%ウラン(LEU)の場合、「潜在的兵器使用可」(IAEA関係者)と分類される。プルトニウムの場合、約8キロだ。
 国の管理する大量の核物質が不法取引される危険性は少ないが、皆無ではない。例えば、北朝鮮が核関連機材や情報以外に、核兵器用プルトニウムや高濃縮ウランを外貨獲得のために他国に売る可能性が考えられるからだ。

“法王訪問効果”を期待する独教会

 ローマ・カトリック教会最高指導者ローマ法王ベネディクト16世は22日から4日間の日程で母国ドイツを訪問(司牧)する。
 ベルリンでは同日、ヴルフ大統領、メルケル首相ら政府首脳と会談した後、連邦議会で演説、オリンピック会場で最初の記念礼拝がそれぞれ予定されている。
 エルフルト教区とフライブルク大教区に移動した後は、イスラム教、プロテスタント教、正教徒など他宗教の代表と話し会う。フライブルクでは、コール元首相との会合が予定されている。ちなみに、通算4回予定されてる記念礼拝で約20万人の信者たちが参加するものとみられる。
 ドイツ人法王を迎えるホスト側の独教会は目下、厳しい状況下にある。独教会では昨年、聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚。その結果、教会は信頼を失うとともに、多くの信者が教会から脱会していった。独司教会議が7月29日、公表した昨年度教会統計によると、18万1193人が教会を脱会した。その数は前年度比約47%増だ(聖職者の性犯罪の犠牲者と法王との会合は目下、予定がない)。
 一方、独与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の著名な8人の政治家が今年1月21日、ベルリンで「カトリック教会の司教たちは既婚聖職者の聖職を認め、聖職者の独身制を廃止すべきだ」と指摘し、司教たちは独身制の廃止をローマに要求すべきだと述べ、教会内外で大きな波紋を呼んだ。同時期、ローマ法王べネディクト16世の出身国の228人のカトリック神学者が聖職者の独身制の再考などをバチカンに呼びかける覚書「教会2011年、必要な出発」に署名している。
 18日実施されたベルリン市議会選挙で得票率8・9%を獲得して初めて15議席を獲得した海賊党は「教会と国家」の完全分離を主張し、過激なアンチ教会主義を標榜しているだけに、ベルリンのカトリック教会は同党の躍進を不安な思いで注視している、といった具合だ。
 また、法王の母国訪問が歓迎一色か、というとそうともいえない。連邦議会ではローマ法王の演説ボイコットを表明している議員もいる。法王滞在中のデモは禁止されたが、デモが行われる可能性も排除できない。
 独司教会議議長のロベルト・ツォリチィ大司教は、「法王の訪問が国民の神への信仰を蘇生させる切っ掛けとなることを願う」と述べ、“法王効果”を期待。メルケル首相も17日、「ドイツはキリスト教の信仰が根付いた社会だ。ローマ法王の訪問がそのことを想起させてくれることを願う」と語っている。
 いずれにしても、独教会内外で教会の刷新を要求する声が高まっている時期だけに、ベネディクト16世の独訪問がどのようなインパクトを与えるか、注目される。

イラン副大統領の総会出席に抗議

 国際原子力機関(IAEA)の第55回年次総会(紙絵国151カ国)は19日午前(現地時間)、5日間の日程で始まった。
 天野之弥事務局長は開会演説で、今年3月の福島第1原発事故に言及し、「原子力エネルギーの平和利用に大きなダメージを与えた」と指摘し、原発事故解明の透明性と失った信頼回復とのために「原発の安全性強化が急務だ」と強調、9月の定例理事会で採択された12項目から成る「行動計画」の履行を加盟国に強く要請した。

Demo Anti Iran VIC
▲ダバニ長官の総会参加の抗議(アブダラ・シェリフ氏提供、2011年9月19日)

 ところで、ウィーン国連前には同日、朝早くからデモ集会が開かれ、パンフレットを国連職員や外交官に配っていた。
 総会開催期間は毎年、反原発運動グループのデモが行われてきたが、今回はイランのフェレイドン・アッバシ・ダバニ(Fereydoon Abbasi Davani )原子力庁長官(副大統領)の総会参加に抗議するデモ集会だった。パンフレットには「イラン爆弾の父、アッバシ・ダバニをストップ」と書いてあった。
 ダバニ長官は今年2月、アハマディネジャド大統領に任命されたばかりだ。同長官はイランの核・ミサイル開発に直接関与した人物として国連安保理制裁リストばかりか、欧州連合(EU)制裁リストにも掲載されている人物だ。しかし、IAEA総会参加を認めるため、渡航禁止制裁が暫定的に解除されてウィーン入りを果たしている。
 同長官のウィーン入りは今年で既に2回目。前回の訪問時には、「わが国はウラン濃縮能力を3倍化する」と表明したばかりだ。同長官の発言はウラン濃縮関連活動の即停止を要求した安保理決議への明確な挑戦を意味する。
 同長官は同日正午、予定通りに総会で基調演説をし、天野事務局長がイランの不法核開発計画(ミサイル搭載用核弾頭開発活動継続など)について強い懸念を表明し、「イランの核計画が依然、平和目的であるとは断言できない」と述べ、イラン側に全容解明のため情報開示を要求したことに対し、「根拠のない批判だ。IAEAは大国に従順となるのではなく、中立性を守るべきだ」を声を大にして述べている。

IAEA「北核報告書」の問題点

 国際原子力機関(IAEA)第55回年次総会は19日、ウィーンで5日間の日程で開幕する。今回の総会では、今年3月に発生した福島原発事故によって提示された原発の安全性問題について、日本政府から提出された福島原発事故報告書、6月に開催された閣僚級会合の協議を土台として作成され、9月定例理事会で採択された「行動計画案」について、加盟国151カ国が協議する。また、北朝鮮の核問題や中東の核フリー地帯構想等について話し合われる。

 ここではIAEAが久しぶりに作成した「北朝鮮の核報告書」について、当方の見解を述べたい。
 天野之弥事務局長は北朝鮮の核問題に関する初の包括的報告書をまとめた。そこで北のウラン濃縮関連活動を始めて言及している。同報告書の意義について、IAEA担当の韓国外交官は、「北のウラン濃縮関連活動がIAEAの公式報告書の中で初めて言及されたという事実だ」という(「北ウラン濃縮施設(4号ビル)を行く」2010年11月29日参照)。

 IAEAが北の核関連施設を査察・検証できた期間は1994年5月から2002年12月まで。02年末から07年7月までと、09年4月から今日まで、IAEAは北の核関連施設へのアクセスを失っている。そのため、「北の核問題を検証できない」状況がこれまで続いてきた。にもかかわらず、天野氏は今回、北の核問題を「深刻な懸念」として「理事国の要請」を受けた形で北の包括的核報告書を発表した経緯がある。
 その意気込みは評価されるが、その一方で「査察・検証を経ていない不確かな情報」が明記される結果ともなっている。換言すれば、「理事国から入手したインテリジェンスの情報」が多く、核技術機関のIAEAの核報告書とはちょっと異なる内容となった感がするのだ。
 「昨年11月に訪朝し、寧辺のウラン濃縮施設を訪れたヘッカー米スタンフォード大教授にIAEAが話を聴いたところ、遠心分離機の配置や外枠の大きさと、闇市場から世界に広まった設計との間に共通性があった」という記述は査察・検証されたデーターに基づくものではなく、あくまで米大学教授の評価だ。そして「IAEAが入手した情報は(北朝鮮が)秘密の供給ネットワークを通じてウラン濃縮に必要な技術と情報の一部を得ていた事実を示している」(時事通信)と記述しているが、詳細な説明はない。
 また「リビアは大量破壊兵器の開発を放棄した03年12月、濃縮ウランの原料となる6フッ化ウラン(UF6)が入ったシリンダーを01年に闇市場から入手したと申告。シリンダーはリビア移送前に北朝鮮にあり、UF6は同国で製造された可能性が濃厚」と分析している。これなどは、憶測に過ぎないと反論されても仕方がないだろう。
 また、「イスラエル軍が07年9月に空爆した原子炉とみられるシリアの施設は、北朝鮮の協力で建設中だった疑いがある」と指摘したが、IAEA査察局内でもシリアの核関連施設と北との関連性については意見が分かれていたはずだ。にもかかわらず、報告書では断定している、といった具合だ。
 IAEA査察局アジア担当のマルコ・マルゾ部長は、「報告書内容は上(天野事務局長)が決めたことだ」と述べ、報告書が査察・検証に基づいた報告ではないことを間接的に示唆している。
 昨年12月、内部告発サイト「ウィキリークス」が米外交公電を公表し、そこで、「天野氏はIAEA担当米大使に対し、人事からイラン核問題まで重要事項では米の主張を支持すると伝達した」という。だから、今回の北の包括的報告書も天野事務局長の米従順の証ではないか、といった懸念すら出てくるわけだ。
 天野事務局長は12日の理事会冒頭声明の中で北朝鮮の核問題に言及し、「IAEA査察官が追放された09年4月以来、北の核関連情報は限定されている」と述べている。情報がない状況は苦しいが、データーもなく、検証されていない情報を羅列し、憶測情報を記述することは、核技術機関のIAEAが取るべき道ではないはずだ。特に、北と「核の闇市場」関連情報の多くは欧米メデイアが既に報道済みの内容だ。
 駐IAEAのイランのソルタニエ大使は「IAEAは技術機関から政治機関に変わってきた」と指摘しているが、その懸念が現実化しないことを願う。

“悔い改めた”マリア

 神学者の友人から聖母マリアについて聞く機会があった。友人は「聖母マリアはイエスの生前、イエスの使命を理解できなかった。その点、ペテロや他の弟子たちと同様だ。しかし、イエスが十字架にかかり、復活したイエスと会合することで悔い改めた。その後、ペテロが使徒ペテロとして死を恐れず歩んでいったように、悔い改めたマリアはイエスを証するために歩んでいった」と語った。
 当方には“悔い改めた”マリアという見方は初めて聞く内容だ。伝統的なマリア観はローマ・カトリック教会の聖母マリア観だ。ピウス12世は1950年、「聖母マリアの肉身被昇天」を宣言して以来、聖母マリアの「第2キリスト論」が教会内で囁かれるようになったほどだ。簡単にいえば、キリストの母マリアだ。悔い改めるといった世界から最も遠い存在だ。
 プロテスタント派では、マリアは崇拝対象ではなく、イエスの肉的母親という捉え方が支配的だ。
 友人は、「イエスの復活後のペンテコストでマリアは覚醒し、息子イエスがキリストであったと分る。その結果、イエスの生前の歩みに対する自身の見方を悔い改め、イエスを証す歩みを始めた」というのだ。
 世界には数千件の聖母マリア再臨現象が報じられている。有名な再臨地としてはフランス南部の小村ルルドやポルトガルのファティマの聖母マリア再臨(1917年)だ。最近では、ボスニア・ヘルツェゴビナのメジェゴリエの聖母マリア再臨(1981年6月)がある。いずれも聖母マリアは少女たちを通じて悔い改めを信者たちに求めている。
 ところで、日本では聖母マリアの再臨現象は聞かない。友人は、「日本で聖霊の恩恵が少ない理由は、聖母マリアの実情が理解されていないからではないか」という。ちなみに、日本では人口1%弱のキリスト信者しかいない。
 当方は友人のマリア観を批判することはできないし、100%是認はできないが、“悔い改めた”マリア観が新しいマリア観だろう。
 聖母マリアとして崇拝してきたカトリック教徒には理解できないばかりか、猛批判を受けかねない見方だ。多くのプロテスタント信者からは「聖書に基づかない解釈」と一蹴されるだろう。
 ただし、イエスが母マリアを叱咤したり、無視する個所が新約聖書の中には記述されている。例えば、カナの婚礼では、イエスは母マリアに対し、「婦人よ、私とあなたと何の関わりがあるのですか」と述べている。別の個所では「神の御心を行う人こそ、私の兄弟、姉妹、また母なのだ」と言い切っている。
 上記の聖句に対し、いろいろな解釈が成り立つが、イエスと母マリアとの関係が正常ではなかったことも十分考えられる。
 イエスの生涯を含め、「イエスの家庭」にはこれまで見落とされてきた謎がまだ多くある。


【短信】スイス聖職者の性的虐待件数公表

 スイスではこれまで146人が聖職者から性的虐待を受けたという。同国ローマ・カトリック教会司教会議が15日、ベルンで開かれた記者会見で発表した。司教会議から調査依頼を受けた専門家委員会が昨年から実施してきた調査結果だ。
 同委員会によると、犠牲者の4分の1は性的虐待を受けた時は12歳以下だった。加害者の半数は神父、4分の1は修道僧、4件は修道女、3件は神学者だったという。

欧州の乗っ取りを狙う中国?

 「中国の欧州進出」をテーマとしたドイチェ・ヴェレと中国反体制派メディア「大紀元時報」の記事を紹介する。
 ドイチェ・ヴェレは12日、「中国は欧州で新たな投資を約束」というタイトルの記事を掲載し、「中国の投資の狙いがどこにあるかを慎重に考えなければならない」と警告を発している。
 例えば、英紙フィナンシャル・タイムズによると、中国の国有投資会社「中国投資」の代表が先週、ローマを訪れ、イタリアのトレモンティ経済・財務相と会談を行い、イタリアの国債購入やイタリアの会社への投資について討論したというのだ。
 独メディアが懸念する点は、中国側の投資運営とその規模が不透明ということだ。金融危機下の欧州では、経済的観点だけから中国の投資を歓迎し、投資の背後に隠れている政治的、軍事的目的が見落とされているというのだ。
 中国は世界一の外貨準備高を誇っているが、ドル中心の準備高から最近ではユーロへと移行してきた。既に、外貨準備高の25%がユーロだという情報もある。
 「大紀元時報」は、「今年初め、中国の実業家が英国の古い空母を購入しようとしたが、英国側に断られた。ウクライナの空母が中国人に買い取られた時、賭博場などの娯楽施設に改造すると約束していたが、中国海軍の手に入った。また、中国がギリシャのピレエフスとイタリアのナポリで大型港を建設しているが、不安材料がある。特にナポリにはNATOの海軍基地がある」と述べたアナリストのコメントを紹介している。
 中国国際放送(CRI)によると、中国の大連で14日、「夏季ダボスフォーラム」が開幕された。同フォーラムには世界約90カ国から政界、商工界の代表と学者ら1600人が参加し、金融危機による世界経済への影響とその対応について話し合われた。
 そこで中国の温家宝首相は、「中国の発展は世界の発展と切り離しては有り得ない。世界経済の持続的かつバランスの取れた発展の為に新たな貢献をしていく」と強調し、「欧州や米国に将来、更に投資していく用意がある。欧州経済は必ず復興する。同時に、欧州諸国は外国の投資を保護すべきだ」と要求。特に、欧州に対しては「中国を市場経済国に即公認すべきだ」と述べたという(ドイチェ・ヴェレ14日電子版)。
 「困った時の友こそ真の友」といわれる。その意味からすれば、国家破産寸前の欧州諸国に救いの手を差し伸べる中国は「欧州の友」ということになるが、中国が共産党独裁政権である限り、その「救いの手」に懸念を感じることは当然だろう。欧州諸国は冷戦時代、旧ソ連・東欧共産政権を身近に目撃してきたからだ。
 中国共産党政権は目下、「市場経済国」の認知獲得に腐心しているが、その前に、共産党体制から決別すべきだ。それが「市場経済国」認知への最短距離ではないだろうか。
 
<参考サイド>

 ドイチェ・ヴェレのサイド
 http://www.dw-world.de/dw/article/0,,15386761,00.html

 大紀元時報のサイド
 http://www.epochtimes.jp/jp/2011/09/html/d12552.html

イラン大使から学ぶ「反論の仕方」

ku081101 国際原子力機関(IAEA)定例理事会は14日午後、イランの核問題を協議した。いつものように、欧米理事国とイラン側の激しいやり取りが展開した。
 天野之弥事務局長が理事国(35カ国)に提出したイランの核報告書によれば、イランの低濃縮ウラン(LEU)製造能力は急速に拡大され、最新の遠心分離機を設置して20%に向上させている。イランは先月末現在で4%のLEUを4543キロ、20%を70・8キロ生産した。過去3ヵ月間で4%のLEUは439キロ、20%は14・1キロを、それぞれ増産したことになる。
 すなわち、イランは国連安保理決議やIAEA理事会決議を無視してウラン濃縮関連活動を継続・拡大しているわけだ。
 天野事務局長はイランの不法核開発計画(ミサイル搭載用核弾頭開発活動継続など)について強い懸念を表明し、「イランの核計画が依然、平和目的であるとは断言できない」と述べ、イラン側に全容解明のため情報開示を重ねて要求している。
 ここではイラン側の反論に耳を傾けたい。駐IAEA担当のソルタニエ大使(写真)の声明文を入手したので読者に紹介する。
 大使はIAEAがイランの核問題を8年間あまり理事会議題として扱っている事実にかなり頭にきている。そこで大使が選択した反論の戦略は自国の核計画を擁護するのではなく、他国、とりわけ、欧米諸国の核問題で不十分な点を見つ出し、それを批判する作戦だ。
 批判の矢はまず、理事会初日の12日に発生したフランス南部マルクールの低核廃棄物処理施設の爆発事故に向けられた。
 「仏核施設爆発事故を検証するため、フランス当局とIAEA事務局は可能な限り早急に専門家を派遣し、事故の技術関連情報を提出するよう求める」と語ったのだ。
 爆発事故を早急に忘れたい仏側にとって、イラン側の調査要求はとても甘受できるものではない。大使は「われわれは福島第1原発事故に関する詳細な情報を待っている」と付け加えることも忘れなかった。
 次に、日本がやり玉に挙げられた。
 「今年3月定例理事会開催中、東京都知事は『日本は核兵器を保有すべきだ』と語った。この発言は深刻な内容だ。なぜならば、日本は十分な高濃縮ウラン(HEU)とプルトニウムを保有しているからだ。私は天野事務局長に調査を依頼したが、履行されなかった。もし、開発途上国の知事がそのような発言をすれば、事務局長は即反応し、調査に乗り出したであろうと確信する」と、IAEAのダブル・スタンダードを指摘した。
 大使の反論はそれだけではない。IAEA前事務局長の報告を取り上げて、韓国の過去の核不祥事を想起させたのだ。
 「韓国で2000年、濃縮度70%以上のHEUが抽出されたことがある。前事務局長は『深刻な懸念』を表明した。それに対し、韓国当局は『一部の科学者が当局の許可を得ずに実験した』と弁明しただけだ。多数の原発を保有する国で一部の科学者が政府の許可なく安易に不法な核関連活動ができるという事実は恐ろしい」と皮肉を交えながら述べた。
 そして最後に、「理事会は当時、本来なら即安保理に報告すべき不祥事を無視し、即終止符を打った。一方、原子力エネルギーの平和利用を実施するイランの核問題は、軍事転用の証拠もないのに8年間あまり査察を受け続け、理事会と安保理の議題として扱われているのだ」と主張した。
 
 ソルタニエ大使は核の専門家であり、数カ国語を巧みに操る人物だ。大使と対等に核の専門的内容を話し合える欧米外交官は少ない。テヘランは最高の核専門家を欧米諸国との核論争の場に派遣しているのだ。 


【ソルタニエ大使の略歴】
 1950年、テヘラン生まれ。核物理学者。80年から82年までイラン原子力エネルギー機関(AEOI)核研究センター所長、96年から99年までは外相顧問を歴任した後、2006年4月から現職。


【短信】 駐ポーランドの金平一大使帰任!

 北朝鮮消息筋によると、平壌に帰国していた駐ポーランドの金平一大使は先日、家族と共にワルシャワに戻ってきた。
 同筋によると、駐オーストリアの金光燮大使の帰任は来月初め頃になるという。
 金平一大使が平壌に帰国した直後、韓国の一部メディアで「金平一大使は自宅で軟禁状態だ」という憶測記事が流れたが、「誤報だった」ことが判明した。
 金平一大使は故金日成主席と金聖愛夫人との間の長男で、金正日労働党総書記とは異母兄弟となる。金総書記との権力掌握プロセスで金平一大使は敗北、平壌の中央政界から追放され、これまで海外生活を余儀なくされてきた経緯がある。
 「金大使は北に帰国できない」といった内容の報道がこれまで支配的だったが、同筋は「金大使はほぼ毎年、夏期休暇で帰国していた」という。
 また、今月9日の第63回建国記念日、市内の金日成広場で軍事パレードが行われたと報じられたが、「厳密にいえば、軍事パレードではなく、青年たちの民兵組織を中心としたパレードだった。正規の軍事パレードではなかった」と説明した。
 同パレードには、最高指導者・金正日総書記と後継者で三男の金正恩・朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長が揃ってひな壇から観閲したという。
 

「イラン核物理学者連続殺人」の謎

 国際原子力機関(IAEA)の第55回年次総会は19日から5日間の日程でウィーンで開催されるが、総会2日目の20日、イランはテロで殺害された同国の核専門家の未亡人を招き、その核テロの実態を報告するイベントを計画している。
 イランの駐IAEA担当ソルタニエ大使の声明文によると、「イランはテロの犠牲国だ。多くの国民が殺されてきた。最近では、わが国の核科学者を狙った先例のない醜いテロ事件が多発している」というのだ。
 同国外交官筋が当方に明らかにしたところによると、「過去2年間余りで3人の核専門家が殺害され、1人が重傷を負った」という。
 今回招かれる未亡人はシャハリアリ教授夫人だ。教授はシャヒード・ベンシュティー大学工学部で核物理学の教鞭を取り、イラン原子力庁のプロジェクトにも関っていた。同教授は昨年11月29日、テヘラン北部の爆弾テロ事件で殺された。もう1人の核科学者は負傷している。
 イラン側の説明によると、昨年1月12日には、テヘラン大学の核物理学者マスード・アリモハンマディ教授がオートバイに仕掛けられた高性能爆弾で殺害された。そして今年7月23日には、テヘランの自宅前で同国の物理学者ダリウシュ・レザイネジャド氏が何者かに暗殺されている。
 ちなみに、同国核物理学者のシャラム・アミリ教授はサウジアラビアへ巡礼に行って以来、行方不明となっている。

 ところで、「イラン核物理学者連続殺人事件」について、2通りの全く異なる見方がある。一つは、イランの核開発計画を懸念するイスラエルがモサドを送って暗殺したという「イスラエルの犯罪」説だ(IAEAの天野之弥事務局長はイランの核問題の最新報告書で「不法核開発計画(ミサイル搭載用核弾頭開発活動継続など)の疑い」を重ねて指摘している)。もう一つは、殺害された核物理学者は反体制派活動に近い人物たちだったので、イラン当局がテロに見せかけて粛清した「イラン当局の犯罪」説だ。
 イランのアハマディネジャド大統領は昨年11月29日、「イスラエルと米国が関与している」と批判した。例えば、独週刊誌シュピーゲルは、ダリウシュ・レザイネジャド氏殺害事件を「イスラエルの犯罪」と受け取っている。
 その一方、米紙ニューヨーク・タイムズはアリモハンマディ教授殺人事件では「イラン当局が反体制派の核物理学者を粛清した」という説を支持している、といった具合だ。

 そこで当方はIAEA定例理事会に参加中のグリン・デービス米大使とイラン外交官に意見を聞いてみた。
 米大使は「イランがイスラエルやわが国がイラン人核物理学者を殺害したというなら、証拠を見せなければならない。証拠なく、そのように主張しているのならば、誹謗、中傷だ」と強く反論した。
 イラン外交官は「とにかく、20日のイベントに参加して未亡人の話を聞いてほしい」と強調、「イラン核物理学者連続殺人事件」の背後に、イスラエルと米国両国の関与があったことは疑いがないと語った。

タイミング悪い仏核施設爆発事故

 事故に「タイミングが悪い」云々は本来、あり得ないテーマだが、それにしてもフランス南部マルクールの低核廃棄物処理施設での爆発事故はあまりにもタイミングが良くなかった。
 ウィーンの国際原子力機関(IAEA)本部で12日午前から定例理事会が5日間の日程で開会されたばかりだ。理事会では、福島原発事故の教訓に基づいて作成された「行動計画案」が協議され、採択される予定だった。同時刻頃、マルクールの低核廃棄物処理施設の溶解炉で爆発があり、少なくとも1人の同施設作業員が大やけどで死亡、4人が重軽傷を負うという事故が発生したのだ。
 現地からの情報によると、爆発は溶解炉で発生したが、同施設周辺には使用済み核燃料からMOX燃料を抽出する再処理関連施設などがある(ただし、操業中の原子炉はない)。
 天野之弥事務局長は午前の会議後の記者会見で早速記者団から、「フランスの核施設事故をどのように受け取っているか」の質問を受け、「緊急事態対応センターを設置し、情報収集を始めたところだ」と答えるのにとどめたばかりだ。
 理事国(35カ国)代表たちも理事会初日に降って沸いたような問題に直面し、戸惑い気味だった。「よりによって理事会初日に事故が起きるとは」と呟く声や、「普段でも解決力の乏しいと批判されてきた理事会が一層、混乱するではないか」といった懸念すら聞こえた。
 外交官の中には、フランスの核事故の情報が気になり、理事会の会議場を出たり入ったと落ち着かない者もいたほどだ。
 仏原子力庁は、「放射能漏れの危険性はない」と指摘し、「産業事故に過ぎない」と説明、事故による風評被害を最小限度に抑える努力を見せた。
 原発大国フランスの原発産業の信頼性が揺れれば大変だ。その上、再選を目指すサルコジ大統領にとって、自国の核関連施設事故は大統領選にマイナスの影響を及ぼすことが予想されるからだ。
 一方、原子力エネルギーの平和利用促進を目的とするIAEAにとって、福島原発事故で「安全神話」を失った日本に続いて、フランスの核関連施設で大きな事故が発生すれば、それこそ機関の存続にも多大の影響を及ぼすことは必至だ。
 ちなみに、イタリアで6月12日、13日の両日、原発再開を問う国民投票が実施され、原発反対が約94%を獲得。欧州の主要原発国ドイツでは5月30日、与党キリスト教民主・社会同盟と自由民主党が2022年までに脱原発を決定したばかりだ。

 13日現在、幸い、フランスの事故では放射能漏れはなく、仏当局が主張するように、単なる産業事故だった可能性が高いが、爆発の原因はまだ不明だ。

 在ウィーン国際機関日本政府代表部の中根猛全権大使に聞く

 ――フランスの低核廃棄物処理施設での爆発事故についてどう受け取っているか。

 「放射能漏れは生じていない。事故はフランス側の説明のように、核関連施設の事故ではなく、産業事故だ」

 ――理事会では福島原発事故の教訓に基づいた行動計画案が採択予定だが、フランスの核関連施設の爆発事故の影響はないか。

 「まったくない。フランスの事故は解決済みと受け取っている」

「テロ問題」と宗教指導者の「責任」

 米国内多発テロ事件(9・11)10年目を迎え、多くの米国民は10年前の痛みを改めて思い出したことであろう。
 当方も11日、TVで「9・11」特集番組を観ながらいろいろと考えさせられた。「9・11」は想定外のテロだった。そのため、米当局者だけではなく、全世界の人々が大きなショックを受けた。世界貿易センターの崩壊シーンは観る者に恐怖感すら与える。
 その後、米国はイスラム過激テロの根絶に向かっていったことは周知の事実だ。米国民にとって、それは“正義の戦い”であり、“祖国防衛の戦い”であったわけだ。
 アメリカ・ブルッキングス研究所開発センターのブルス・リドル研究員によると、アルカイダの米国内多発テロ資金は50万ドルであったが、対アフガニスタン、イラク戦争を含む米国のテロ対策の総費用は4兆ドルを上回るという。また、英国人ジャーナリストは、対テロ戦争の死亡者数は20万人から25万人という数字を挙げている(「9・11」の犠牲者数は約3000人)。
 ここで数字を挙げて、米国の対テロの戦いを批判する意図はまったくない。米国は国際テロ組織アルカイダの首謀者ウサマ・ビンラディンを殺害し、アルカイダを確実に弱体化させたことは間違いないからだ。
 しかし、アルカイダが壊滅したわけではない。軍事対策は一定の成果を挙げたが、テロ対策が勝利したわけではなく、今後10年間も対テロ対策は米国の重要なアジェンダに留まり続けるだろう。
 前回のコラム(「『9・11』10年後の“課題”」)でも述べたが、今後はイスラム過激テロの土壌となるさまざまな社会的、政治的課題の解決にもっと目を向けるべきだ(貧困問題、教育問題など)。同時に、アラブ・イスラム教諸国との「対話」を通じて、相互理解を深めていくことが大切だ。
 ただし、「対話」といっても決して容易ではない。キリスト教とイスラム教の対話、イスラム教とユダヤ教の和解などは「9・11」前から久しく進められてきたが、成果は乏しい。
 特に、宗教指導者はテロ問題の解決に責任を感じなければならない。「神の名」で戦争が進められ、「神の名」で自爆テロが行われているのだ。アリバイだけの超教派活動ではもはや意味がない。
 オバマ米大統領は11日、追悼式典で旧約聖書詩篇46章の「神はわれわれの避難所であり、力だ」という個所を引用したが、キリスト教徒、イスラム教徒、そしてユダヤ教徒にとって「神は避難所」だ。その避難所の「神」を戦場の前線に送ってはならない。繰り返すが、「神の名」でテロが行われてはならないのだ。
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