ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2011年09月

「行動」を促す国連トップの事情

 国連の潘基文事務総長は23日、ニューヨークで開催された包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議(通称14条会議)で、「もはや待ち時間は過ぎた。今は行動をする時だ」と強調し、核拡散防止条約(NPT)の要となるCTBTの早期発効を加盟国に促した。具体的には未批准国の9カ国に向けたアピールだ。
 一方、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は9月の定例理事会と第55回年次総会で、福島原発事故の教訓に基づき、原発の安全性強化のために作成された12項目の「行動計画」を提唱し、「採択・承認後は即履行プロセスに入る」と主張、時を失うことなく行動計画を実行していくと表明した。
 国連のトップ潘基文事務総長と原子力エネルギーの平和利用促進機関の核の専門機関IAEAのトップの天野氏は、「今は行動の時だ」と強調し、加盟国の尻を叩いているわけだ。
 193カ国で構成された国連も151カ国の加盟国からなるIAEAも会議の度に、無数の宣言文、声明文を生産し、それらの内容の履行を加盟国に要求する。
 しかし、加盟国が履行しない場合、国連も専門機関もお手上げだ。天野氏の「行動計画」も同様の運命だ。換言すれば、潘基文事務総長や天野事務局長が「行動」を加盟国に促すのは、「加盟国が履行しない可能性が高い」という前提があるからだ。
 考えてみて欲しい。150カ国以上の加盟国を抱えていれば、加盟国の利害は当然、加盟国の数だけ異なるから、そこからコンセンサスをまとめ、宣言文や協定を作成する作業は本当に骨の折れる仕事だ。
 国連側は加盟国間の利害を調節し、可能な限り一致点を模索する。しかし、一致点を模索し過ぎる結果、作成された声明文や協定の内容は本来の目的から遠ざかり、薄められ、実効性の乏しい“外交文書”に陥ってしまうケースが少なくない。
 最近では、天野氏が力を入れている「行動計画」も主要原発国の思惑の違いから、その草案作成段階で3度の修正を余儀なくされている。「行動計画」採択後も、脱原発国を宣言するドイツなどから「内容が脆弱だ」といった批判を受けている、といった有様だ。CTBTの条約発効問題に到っては、署名開始から15年が経過したが、依然、発効できないのだ。
 にもかかわらず、国連機関のトップは加盟国に「行動」を促すためラッパを吹く鳴らし続けなければならないのだ。

欧州「海賊党」、続々と政界進出?

 独週刊誌シュピーゲル(電子版)が28日、フォルザ世論調査の結果を報じたが、それによると、独の海賊党は目下、ドイツ全土で7%の支持を得ている一方、キリスト教民主同盟(CDU)と連立政権を築く自由民主党(FDP)は2%と記録的な低迷に甘んじている。
 ドイツのベルリン市議会選挙で今月18日、海賊党が得票率8・9%を獲得して15議席を得たばかりだ。
 ベルリン市議会選の成果に自信を持った同党のセバスチアン・ネルツ党首(Sebastian Nerz)は「ドイツ全土で党の拡大を目指す」と表明している。それだけではない。欧州の海賊党も活気を帯びてきた。次期選挙に候補者を送る海賊党が出てきた。
 欧州で最初の海賊党は2006年1月1日、スウェーデンで創設され、オーストリアは同年7月、ドイツでは同年9月、結党している。
 欧州の海賊党の最初の勝利はスウェーデン海賊党だ。同党は09年欧州議会選で7・1%の得票率を獲得した。そして今回のドイツ海賊党だ。オーストリア海賊党は06年、総選挙出馬に必要な2500人の支援声明書を集めることができずに、候補者を擁立できなかった経緯がある。
 成文化した海賊党の綱領はなく、肖像権や特許の改革、情報の自由化促進、直接民主主義の導入などを要求している。
 海賊党の躍進の背景には、既成政党への有権者の不信がある。特に、インターネット時代の若い世代では、既成政党への不信から政治への無関心が広がっている。海賊党はその政治不信層の“受け皿”的役割を果たしているのかもしれない。

中国の「知的所有権」違反の例

 オーストリア南部ケルンテン州にある風力発電機メーカー、Windtec社に勤務していた技術者が会社の機密情報を中国の大手風力タービンメーカーのシノベル社(Sinovel)に売り渡した事件を審議する裁判が23日、クラーゲンフルト市で開かれた。裁判所広報官によると、セルビア出身の技術者(38)は既に犯行を認めているという。なお、Windtec社は米国発電タービン・メーカー、「アメリカン・スーパーコンダクター」(AMSC)社の完全な子会社だ。
 技術者は頻繁に中国を訪れ、風力発電機の電圧制御技術を指導してきた。中国のシノベル社は他社から風力発電機を購入できるが、AMSCのソフト(風力タービン制御システム)は米社のハードでなければ機能できないように作られている。それを変更するためには、プログラムのコードが必要だが、それは米社の企業機密だ。ところが、技術者は今年初めにそのコードをコピーし、シノベル社に1万5000ユーロで売ったのだ。
 AMSC社の社員が今年6月、中国でAMSC社のハードの制限を受けず、風力発電機が機能しているのを目撃。AMSCの企業機密が中国側に流れていたことが発覚したわけだ。
 AMSC社のハードを必要としなくなった中国会社は今年4月からAMSC社のハード購入を停止。そのため、AMSC社は経済的に大きなダメージを受けた。
 AMSC社は現在、シノベル社を業務機密の不法入手容疑(知的所有権違反)で告訴し、損害補償を求めている。シノベル社は告訴内容を完全に否定している。

情報管理に甘い日本人外交官

 日本の政治家は情報管理に弱いといわれてきた。「スパイ取締り法」すら施行できない日本に対して、同盟国・米国は「最新の軍事情報は日本政治家に話せない」という。
 政治家だけではない。日本人外交官も情報管理では決してお手本とはならない。
 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長がIAEA就任後、最初に取り組んだ課題の一つは、核関連施設の機密情報を保有するIAEA職員の情報管理の強化だった。対象は現職職員だけではなく、退職職員に対しても同様だ(年金削除などの制裁付き)。
 IAEA広報史の最大の汚点はチェルノブイリ原発事故(1986年)に関する旧ソ連政府調査報告書のリーク事件だ。情報を日本のメディアに流したのが当時IAEA広報部長の日本人職員だった。それ以後、IAEA職員の間に「日本人職員は情報管理できない」という偏見を植え付けてしまったほどだ。
 問題は過去だけではない。この情報管理の悪さは残念ながら継承されている。IAEA担当の日本人外交官と天野事務局長に直接仕える数人の日本人秘書官たちは、さまざまなコンフィデンシャルな情報を日本人記者たちに安易に流している。
 最近の例を挙げてみよう。6月の閣僚級会合の協議を土台としてまとめられた「行動計画案」(理事会で採択される前)はコンフィデンシャルだ。しかし、同案の内容は日本人外交官から日本人メディア関係者にリークされていた。
 また、定例理事会では、午前、午後の会議が終われば、日本人外交官が日本人記者に会期内容を報告する。どの理事国の外交官が自国出身の記者たちを呼び、親が子供に教えるように、詳細に会合内容を報告するだろうか。当方が知っている限り、日本人外交官だけだ。もちろん、日本人記者たちからの要請を受けて、という形を取っているが、コンフィデンシャル情報をメディア関係者に簡単に漏らす日本人外交官の情報管理体質こそ問題だろう。
 天野氏の情報管理への戦いは穴の空いたコップに水を入れようと必死になっているようなものだ。コップは永遠に一杯にはならないように、情報管理は決して実現されないだろう。天野事務局長が情報管理を本当に願うのなら、先ず、身近な日本人外交官の情報管理を徹底的に検証すべきだ。

政治家に贈る法王のメッセージ

 ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王べネディクト16世は25日夜(現地時間)、4日間のドイツ訪問(司牧)の日程を終えて、ローマに戻った。
 21回目の外遊となったドイツでは6年前の訪問のように国を挙げての大歓迎とはいかなかったが、約500年ぶりのドイツ出身法王は依然、多くの国民の関心を惹き付けた。
 特に、法王が記念礼拝や連邦議会で語った内容は示唆に富むものだった。
 「神が臨在する処に未来はある」をモットーに、欧米社会で席巻する相対主義を批判し、国民や為政者たちに神への信仰を訴える高齢法王(84)の姿は、砂漠で「悔い改めよ」と叫んだ洗礼ヨハネの姿を彷彿させるものがあった。
 べネディクト16世は22日、ベルリンのドイツ連邦議会で法王として初めて演説したが、その内容は国の舵取りをする政治家への法王のメッセージだ。
 以下、その内容の一部を紹介する。

 べネディクト16世は、「多数決原理に基づく民主主義の義がいつも正しいわけではない」と語りだす。挑発的なスタートだ。民主主義の基幹ともいうべき多数決原理に疑問を呈したのだ。連邦議会では約80人の議員たちが法王の演説をボイコットしたが、彼らが聞いていたらきっとブーイングをしていただろう。
 法王は旧約聖書「列王紀上3章」から有名な聖句を引用しながら、ソロモン王の話をする。
 「主は夢でソロモンに現れて、『あなたに何を与えようか。求めなさい』と言われた時、ソロモンは長寿を求めず、富を求めず、自分の敵の命をも求めず、ただ訴えをききわける知恵を求めた」。
 すなわち、ソロモン王は、「善悪を区別できる知恵、ききわける心(ein horendes Herz)を求めた」のだ。 そして、「義のない国家は大きな強盗集団と同じだ」といった中世のカトリック神学者アウグスチヌスの言葉を引用し、国の舵取りをする政治家に「義」の重要さを強調した。
 次に、法王は欧州のアイデンティティに言及した。
 「欧州の文化はエルサレム、アテネ、そしてローマとの出会いから生まれてきた。イスラエル人から神への信仰を、哲学的知性をギリシャ人から、そしてローマ人の法的思考を継承して欧州の内的アイデンティティが形成されていった」と説明する。
 そして最後に、「欧州人は神の前に責任を持って全ての人間の尊厳を守らなければならない。ソロモン王のように、神が何かを与えるといった場合、善悪を識別できる能力、ききわける心を求めるべきだ」と述べた。
 22分間あまりの短い演説だったが、学者法王べネディクト16世の面目躍如の名演説だった。

イラン大統領と法王の「空席」

 当方はこのコラム欄で「北朝鮮の故金日成主席とイランの故ホメイ二師」をよく比較した記事を書いてきたが、今回は「イラン大統領とローマ法王」に関するテーマだ。具体的には、イランのアハマディネジャド大統領とローマ・カトリック教会最高指導者ベネディクト16世の共通点についてだ。
 両者とも国家元首だ。それだけではない。両者の言動が国際社会で批判の対象となる事が多い点で似ている。
 イランのアハマディネジャド大統領の「イスラエルを地図上から抹殺すべきだ」といった発言は国際社会を驚かさせた。その内容と表現があまりにも国家元首としての品性に欠けていたからだ。
 一方、ベネディクト16世は法王に就任したばかりの2005年9月、訪問先のドイツのレーゲンスブルク大学の講演で、イスラム教に対し、「モハメットがもたらしたものは邪悪と残酷だけだ」と批判したビザンチン帝国皇帝の言葉を引用したため、世界のイスラム教徒から激しいブーイングを受けたことは記憶に新しい。
 両者の発言は、次元は異なるが大きな波紋を投じたという点で似ている。しかし、ここでは過去の言動をもう一度検証するつもりは全くない。
 ニューヨークの国連総会に出席したイランのアハマディネジャド大統領は22日、一般演説をしたが、多くの席が空席だった。大統領の話を聞きたくない欧米外交官が退席したからだ。その数は決して少なくない。ニュース番組で映し出された国連総会本会場では空席が目立つ。
 一方、21回目の外遊先ドイツでベネディクト16世は22日、ローマ法王として初めてベルリン連邦議会で22分間あまり演説したが、そこでも社会民主党、緑の党、左翼党らの約80人の議員たちが法王の演説をボイコットしたために、空席が目立った。
 説明が長くなったが、イラン大統領とローマ法王の類似点は、演説の時に「空席」が目だった、という点だ。簡単にいえば、それだけだが、説明するとかくのごとく長くなる。
 要するに、イラン大統領もローマ法王も多くの敵(政敵、論敵など)を抱えているわけだ。イラン大統領の場合、欧米諸国の政治家、外交官たちであり、ローマ法王の場合、無神論者、左翼論者たちだ。
 ところで、両者が直面する「空席」をもう少し検証してみる。イラン大統領は「シオニストに身代金を支払う言い訳としてホロコーストを利用している」(CNN放送電子版)と批判するなど、あまり根拠のない対米批判が多い。それに抗議して欧米外交官が席を立ったわけだ。ある意味で当然の反応だ。
 一方、ローマ法王は、「政治では公平と倫理が重要だ。民主主義の多数決原理が常に正しいわけではない」と語っている。内容はかなり哲学的だが、正論だ。それだけに連邦議会の「空席」は残念だった。法王演説をボイコットした政治家たちからは、偏見と傲慢さを感じる。

アンフェタミン型覚醒剤の“脅威”

 エクスタシーやメタフェタミンなどアンフェタミン型覚醒剤(ATS)はカンナビス(大麻)に次いで世界で2番目に乱用されている麻薬だ。ATSは中枢神経を麻痺させる合成麻薬だ。
110924 ウィーンに本部を置く国連薬物犯罪事務所(UNODC)は先日、「2011年グローバルATS評価、アンフェタミネとエクスタシー」(120頁、写真)を公表し、その中で「ATSの拡大は世界至る所で安全と健康を脅かしている」と警告を発している。
 ヘロインやコカインの麻薬消費に社会の関心が集まってきたが、ATSの押収量、不法密造所の発覚件数はここにきて急速に増加してきた。ヘロイン、コカイン、カンナビスの押収量は2005年から09年の間、大きな変化はなかったが、ATSの押収量は同期間、至る所で急増しているという。
 例えば、南東アジア地域で押収されたメタンフェタミンの錠剤数は著しく増加。08年度は3200万個、09年度9300万個、そして10年度は1億3300万個だ。一方、摘発されたATS生産所数は08年の288カ所から09年には458カ所と急増している。
 その背景には、栽培しなければならない麻薬類と異なり、ATSは僅かな資金でどこでも生産できるというメリットがあったからだが、ここにきてATS生産は小規模生産からコカイン・ヘロイン型の大規模な生産体制へと変わってきた。その背後に、大規模な麻薬組織の関与があるという。
 ところで、UNODC報告書によると、日本では結晶型メタンフェタミンの乱用が最も多い。国内でメタンフェタミンが製造されることは希で、多くは海外から密輸入されている。例えば、2人のイラン人が昨年6月、メタンフェタミンの製造容疑で逮捕されている。
 密輸入ルートとしては、中国からがもっと多く、昨年度密輸入件数の17・8%を占めてトップ。それに台湾10・4%、香港6・7%、アラブ首長国連邦8・1%、ナイジェリア7・4%、マレーシア6・7%等なっている。結晶型メタンフェタミンの昨年度押収量は302・3kgだった。

野田首相「沢庵」を忘れないで!

 ニューヨークの国連総会に出席中の野田佳彦首相は21日、NY市内のホテルでカナダのハーバー首相と会談し、そこでカナダが他の欧米諸国に先駆け、日本産食品の輸入規制を解除したことに感謝を表明したという(読売新聞電子版)。
 海外に住む日本人の一人として、当方もカナダ政府の決定を心より感謝する。カナダの解除決定を受け、他の欧米諸国も同じ様に日本産食品輸入規制を解除してくれることを期待する。
 というのは、音楽の都ウィーンに住んでいる日本人にとって、日本食品を入手するのが次第に難しくなってきた。大震災前に輸入した日本産食品の在庫が底をついてきたからだ(欧州連合は日本から到着した旅行者や日本からの食品に対して放射能汚染を厳しく検査している)。
 市内の日本食品店でもここにきてラーメン、カレー粉などの日本食品が姿を消し、中国産や韓国産の商品が並び出したのだ。もちろん、韓国産ラーメンも美味しいが、当方にはやはり日本産ラーメンのほうが口に合う。
 日本レストランでも定食に必ずついてきた沢庵が品切れで消え、ナスの漬物が登場してきたのだ。
 当方はこのコラム欄で「今夏はざるそばが食べられない?」(2011年3月30日参照)という懸念を紹介したが、ざるそばはまだ大丈夫だが、定食の脇役、沢庵が姿を消したのだ。沢庵はあって当然、なくなれば気になる日本食品の代表だろう。
 超多忙の野田首相を煩わして申し訳ないが、今後会談される欧米首脳たちには日本産食品の輸入規制早期撤廃をぜひとも強く要求して頂きたい。
 「ざるそば」の次に「沢庵」のことを書いたが、そこは自らを“ドジョウ”と称されている庶民派の野田首相だ、沢庵の味を良くご存知だろう。どうか、欧州に住む日本人の口にも沢庵の味が届くように、一肌脱いで頂きたい。

カトリック教会の「建前」と「現実」

 既婚聖職者が礼拝の主礼を務め、信者への牧会を担当、離婚・再婚者が聖体拝領を受ける――これはローマ・カトリック教会の「現実」だ。一方、聖職者の独身制に固守し、離婚・再婚者への聖体拝領は認められていない――これが教会の「建前」だ。
 教会の「建前」と「現実」を限りなく一致させようとする運動がオーストリアで現在進行中の教会の刷新運動だ。インスブッルクの信者たちの「われわれは教会」と異なるのは、神父たちの改革運動という点だ。
 ヘルムート・シューラー神父(59)を中心に300人以上の神父たちが聖職者の独身制の廃止、女性聖職者の任命、離婚・再婚者の聖体拝領許可など7項目を要求、教会指導部への不従順を呼びかけている。「不従順への布告、神父たちのイニシャチブ」運動と呼ばれる(「『教会の改革』を叫ぶ神父たち」2011年8月19日参考)。
 しかし、オーストリアのカトリック教会最高指導者シェーンボルン枢機卿はこの運動を「教会を分裂させる危険性が潜んでいる」として、運動の要求を一蹴している。
 「現実」と「建前」の調和を要求していることに、教会指導者は「教会の分裂の危険」を感じているのだ。
 枢機卿が「その『現実』は教会の教えに反している」と主張するのならば、首尾一貫している。具体的には、既婚聖職者の聖職を禁止すればいいのだ。離婚・再婚した信者への聖体拝領を禁止すればいいのだ。
 身近な例を挙げてみよう。ローマ法王ベネディクト16世が22日、ベルリンのベルビュー宮殿で会見するドイツのヴルフ大統領だ。大統領は離婚し、再婚したカトリック信者だ。教会側の「建前」によれば、「大統領、あなたはサクラメントを受けることはできない」といわなければならない(実際、大統領は聖体を受けている)。
 もし「現実」が正しいのならば、教会の「建前」を修正すればいいだけだが、イエスの弟子ペテロの流れを継承する教会は2000年の歴史を誇る。簡単には改革できないのだ。というより、古い伝統が重荷となって、動きが取れない、といったほうが当たっているかもしれない。
 カトリック教会の前には2つの選択肢しかないにもかかわらず、両者の一つを選択することに躊躇している。存在する現行の「現実」を黙認しながら、その「現実」は教会の「建前」に反すると主張するならば、それは明らかに「偽善」だ。
 少々、理屈っぽいコラムとなったが、教会の「建前」と「現実」の乖離が大きくなればなるほど、その組織や団体はその生命力を失っていく。欧米のカトリック教会の現状はその懸念を裏付けている。「平和」と「愛」を説きながら、その組織・団体に「平和」はなく、「愛」がなければ、その組織・団体の崩壊は時間の問題だろう。

誰がイラン核学者を暗殺したか?

 国際原子力機関(IAEA)第55回年次総会のサイド・イベントとして20日午後、駐IAEAのイラン大使館主催で同国核物理学者殺人事件の遺族関係者の報告会が開かれた。
 当コラムで既に紹介したが、過去1年半で3人のイラン核物理学者が暗殺され、1人が負傷している(「『イラン核物理学者連続殺人』の謎」2011年9月15日参照)。

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▲暗殺されたイランの核物理学者シャハリアリ博士

 今回は昨年11月29日、テヘラン北部の爆弾テロで殺害されたシャハリアリ博士(Shahriary)の夫人と2人の子供たちが参加して、事件の報告をした。同夫人はその爆弾テロを直接目撃してきただけに、その報告内容は心痛いものがあった。司会担当の駐IAEA担当ソルタニエ大使も時折、涙を拭いていた。

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▲事件を語るシャハリアリ博士のGhasemi夫人

 博士はシャヒード・ベンシュティー大学工学部で核物理学の教鞭を取り、イラン原子力庁のプロジェクトにも関っていた。
 報告会では爆弾テロ事件を報じた「Iran Today」のドキュメント映画も紹介された。イベントでは、核物理学者連続殺人事件の背後にイスラエルのモサドが暗躍したことを強く示唆していた。
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