オスロで77人が殺害されるというテロ事件(アンネシュ・ブレイビク容疑者)が発生、ノルウェー国民だけではなく、欧州全土に大きな影響を与えている。極右主義者、反イスラム主義者の容疑者の単独犯説が有力だが、32歳の容疑者の犯罪はノルウェーの政情ばかりか、欧州の政界にも様々な波紋を投じている。
 国内的に見れば、容疑者が一時的だが所属していた進歩党(シーヴ・イエンセン党首) の躍進に暗雲が差してきた。同党は2009年の総選挙で第2党に躍進し、今年9月に実施される地方自治体選挙で飛躍が期待されていたが、容疑者が一時、同党に所属していた事が判明すると有権者の間に警戒心が出てきている。
 イェンセン党首は、「容疑者がわが党に所属したということは、党にとって不幸だったが、わが党の移民政策が穏健すぎるといって出て行ったという事実は喜ぶべきだろう」と説明、進歩党の反移民政策が容疑者のそれとは違うと強調している。
 一方、イェンス・ストルテンベルク首相(労働党党首)はその冷静な危機管理と犠牲者への暖かい心遣いが国民の間で好意的に受け入れられている。
 ウトヤ島での銃乱射事件が明らかになった直後、「わが国は今後も自国の価値観を放棄しない、すなわち、今後も民主主義と自由な社会を擁護して行く」と述べ、警察の規制強化などの政策を施行しない意向を表明している。
 教会の死者へのミサでも、決して高揚過ぎることなく、抑えたトーンの中にも亡くなった若者たちへの同情心が聞く者の心を打ったといわれる。2人の子供を持つ首相(52)の真摯な姿勢が、戦後最大の危機に直面している国民を落ち着かせているというのだ。
 次に、国外をみると、容疑者のマニフェストで評価されたオランダの極右政党「自由党」(ウィルダース党首)、オーストリアの自由党は守勢を強いられている。オーストリアの自由党シュトラーヒェ党首は「オスロのテロリストとはまったく関係がない」と強調する一方、ネオナチ発言を繰り返してきた党内の議員を除籍処分するなど、党のイメージ保護のために腐心している、といった具合だ。
 欧州ではスウェーデン、デンマーク、ハンガリー、ベルギー、オーストリアなどで反移民政策を掲げる極右政党が台頭しているが、オスロのテロ事件が契機となって、支持者離れが進むことも十分に予想される。
 オスロのテロ事件の公判開始は来年初めになったが、事件の影響は欧州各国でもさまざまな形で表れ始めているわけだ。