ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2011年08月

墺太利の「極右過激派の動向」

 オーストリア内務省は先日、2011年度「憲法擁護報告書」(117頁)を公表した。そこで昨年度極右過激派の動向を読者に報告する。

 「極右過激派の活動は国の安全や憲法を脅かすほど深刻なものではない。極右活動グループの中でもその思想、活動方針ばかりか、組織の緊密度でも相違がある。その上、極右過激派の世代交代も進み、若い活動家たちは現行の組織に拘束されることが少ない。例えば、極右過激派グループの犯行とされた事件でも組織に所属しない一匹狼の極右過激派の犯行だったこともある」という。

 極右過激派を、(1)戦争世代の活動家たち、(2)ネオナチ、(3)サブ・カルチャー的極右過激派、スキンヘッツ、などに分類。その思想や活動内容はインターネットを通じて拡大されている。
 極右過激派による2010年度の告訴件数は1040件で、前年度(791件)比で31・4%急増した。
 具体的には、ナチ禁止法(Verbotgesetz)違反は522件、扇動罪(刑法283条)79件、その他刑法違反(物件破損、身体損傷、恐喝など)380件、記号・符号法違反(禁止されている組織のシンボル、制服などを公共の場で展示したり、使用する事を禁止)20件、行政訴訟法への導入法違反39件などだ。
 告訴された極右過激派の数は昨年度405人(09年度338人)。その内、女性は22人だった。
 

【短信】ベルリンで自動車放火事件が多発

 警察官の黒人男性射殺事件が契機となってイギリス全土に暴動と略奪事件が発生、多数の死傷者が出たことはまだ記憶に新しいが、ドイツの首都ベルリン市ではここ数年、路上に駐車中の自動車が何者かに放火されるという事件が多発している。
 ベルリン警察当局の報告では、今月16日未明に11台、17日未明には15台の自動車が放火された。今年1月から8月現在まで130台以上の車が放火されている。異常な数だ。
 自動車放火の多発地域はベルリン市内でも中産階級以上の住宅が密集している処で、放火される自動車はベンツ、BMW、アウディなど高級車が多いという。警察関係者は「裕福な市民への報復といった政治的意図が感じられる」として、「政治的動機に基づく犯罪」(PMK)と受け取っている。
 警察当局は「車の放火は時間がかからない。市民から通報があって現場に駆けつけても犯人はいない」と述べ、自動車放火犯人の拘束は非常に難しいという。ちなみに、放火の時間帯は深夜午前0時30分から2時半の間に集中している。 
 ベルリン検察庁は17日、放火犯人に繋がる情報提供者へ5000ユーロの報償を提供すると発表している。
 ベルリン市では9月、市議会選挙が実施されるが、“ヴァンダリズム(Vandalismus)”対策が選挙争点に浮上してきた。

ギリシャ人はドイツ人より幸せ!

 メルケル独首相の表情をテレビで見ていると、「かなり疲れているな」と感じる。当然かもしれない。欧州のユーロ加盟国(17カ国)の財政危機が浮上して以来、欧州の盟主の首脳として連日、首脳会談を開催し、その対策に苦慮しているからだ。そこに米国は債務上限引き上げ問題で飛び込んできた。米国はデフォルト(債務不履行)を回避したが、米ドルはその信頼を大きく失墜した。メルケル首相を含め、欧州の政治家は安眠できない日々を過ごしているわけだ。
 前口上はこれぐらいにして、「ギリシャ国民がドイツ国民より幸せだ」という調査結果が発表された。ギリシャの財政危機を救うために巨額の資金を拠出しているドイツの国民がこの結果を知ったらどう感じるだろうか、とちょっと心配になってくる。しかし、ソクラテスの国ギリシャの国民は経済大国のドイツ人より「幸福感」を感じているという結果が出ているのだ。
 「未来問題に関する公益基金」が欧州13カ国、1万5000人以上の国民(14歳以上)を対象にその幸福感を調査した結果、欧州人の平均68%の国民が「幸福」と感じているという。
 国別をみると、デンマーク国民の96%が「幸せ」を感じてトップ。それを追って、なんとユーロ圏の落第生と嘲笑されてきたギリシャが入り、80%の国民が「幸せ」を感じているというのだ。第3位はこれまた財政危機下にあるイタリアで79%だ。
 ドイツと共にユーロ通貨の救済に腐心するフランスの国民は77%が「幸福」と答えているが、ギリシャ国民より低い。
 問題は、財政危機で最大の支援国ドイツの国民はなんと61%の国民しか「幸せ」と感じていないというのだ。ドイツより「幸福感」が低いのはポーランド人(50%)とロシア人(37%)の2カ国しかない。
 ここで「金があっても人間は幸せではない」といった陳腐な説明を繰り返すつもりはない。10万円の貯金しか持っていない人が1億円を貯金している人より「幸せ」を感じることだってある。「幸せ感」はその人の人生観、世界観、民族気質に深く関っているからだ。
 ドイツ人は世界で最も旅行好きといわれる。当方もウィーン市内を見物するドイツ人旅行者グループを良く見かけるが、笑顔をみせず黙々と歩くドイツ人旅行者の姿からは「旅行を楽しんでいる」といった雰囲気をあまり感じない。どこにいても笑い声が絶えないイタリア人の旅行者グループとは好対照だ。
 ちなみに、どの国でも、女性は男性より「幸せ」を感じ、家庭持ちは独身者より幸福を感じているという。
 男性の一人として、「女性が男性より幸せを感じている」という結果は救われる。妻が自分より幸せではない、としたら夫は辛いものだ。

「教会の改革」を叫ぶ神父たち

 ノルウェーの大量殺人者、アンネシュ・ブレイビク容疑者はそのマニフェストの中でオーストリアの首都ウィーンを北上するイスラム教を防ぐ砦とした「ウィーンの門」について言及しているが、肝心のオーストリアのローマ・カトリック教会は増加するイスラム教徒対策ではなく、教会内の改革問題で目下、頭を悩ましている。

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▲オーストリアのローマ・カトリック教会の精神的支柱、シュテファン大聖堂=ウィーンにて、2011年7月撮影

 ヘルムート・シューラー神父(59)を中心に300人以上の神父たちが女性聖職者の任命、離婚・再婚者の聖体拝領許可など7項目を要求、教会指導部への不従順を呼びかけている(「不従順への布告、神父たちのイニシャチブ」運動と呼ばれる)。
 シューラー神父らイニシアチブ代表は先月、ウィーン大司教区でシェーンボルン枢機卿と会合し、7項目の要求を提出した、それに対し、同枢機卿は、「ローマ(バチカン法王庁)の路線に反するもので受け入れられない」と拒否、要求撤回と教会方針への従順を求めたという。
 当然の反応だろう。バチカン法王庁はこれまで女性聖職者の任命問題でも、「考えられない」と一蹴してきた経緯がある。ローマ法王ベネディクト16世の愛弟子の一人のシェーンボルン枢機卿が容認するはずがないからだ。
 同国ではインスブルック教区で信者たちの改革運動「われわれは教会」が生まれ、大きな改革運動に発展してきたが、今回は教会内の神父たちの改革運動という点で新しい。
 隣国スイスの23州(カントン)の1つ、ルツェルン州のローマ・カトリック教会団体の112メンバーが聖職者の独身制の廃止と女性の聖職者認知などを要求した「ルツェルン宣言」を発表したことがある。
 ローマ法王の出身国ドイツでも独与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の著名な8人の政治家が1月21日、ベルリンで「カトリック教会の司教たちは既婚聖職者の聖職を認め、聖職者の独身制を廃止すべきだ」と公式表明した。同時期、228人の独神学者が聖職者の独身制の再考などをバチカンに呼びかける覚書「教会2011年、必要な出発」に署名している。
 オーストリア、スイス、ドイツなど独語圏を中心に教会刷新運動が広がっているわけだ。聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚して以来、バチカン主導の改革ではなく、信者たちや神父たちの改革意識が高まってきている。彼らに共通している点は、「教会はこのままでは存続できない」といった危機感が強いことだ。
 シェーンボルン枢機卿とシューラー神父らは今秋、再度会合するが、シューラー神父たちは「譲歩する考えがない」と主張している。それだけに、最悪の場合、教会が分裂される事態も予想される。バチカンの対応が注目される。

注・同改革運動のサイト www.pfarrer-initiative.at

「神の不在」に苦悩した人々

 独週刊誌フォークス(Focus)が東日本大震災直後に特集した「日本の悲劇」という小冊子を最近、友人から入手した。大震災では2万人以上の日本人が犠牲となったが、同小冊子は、その「最大級の暴力」というべき天災が発生した時、「神はどこに」をテーマに、過去の哲学者、作家、神学者たちの「人間の苦痛」と「神の不在」へのアプローチを紹介している。
 ギリシャの哲学者エピクア(Epikur)から始まり、カント、ヴォルテール、ゲーテ、スタンダール、ハイネ、ショーペンハウアー、ニーチェ、カール・ラーナー(カトリック教会聖職者)、バルトハウザー(神学者)らの見解を紹介し、最後に、カトリック神学者ハンス・キュンク氏を登場させている。
 ギリシャの哲学者エピクア(紀元前341年〜271年)は、「神は人間の苦しみを救えるか」という命題に対し、「神は人間の苦しみを救いたいのか」「神は救済出来るのか」を問い、「救いたくないのであれば、神は悪意であり、出来ないのでは神は無能だ」と述べ、「神が望み、出来るというならば、そもそも悪はどこから起因するのか」と追求している。紀元前の哲学者が「神の不在と人間の苦痛」をテーマに既に死闘していたことが分る。
 最も辛辣な見解は「赤と黒」や「バルムの僧院」などの小説で日本でも有名な仏作家スタンダール(1783年〜1842年)だ。彼は(神が人間の苦痛を救えない事に対し)、「神の唯一の釈明は『自分は存在しない』ということだ」と述べている。
 独詩人のハインリヒ・ハイネ(1797年〜1856年)は、「苦しんでいる時も神を信じるが、善意の神ではない。動物虐待者の神だ」と酷評。独哲学者二ーチェ(1844年〜1900年)は神から慈愛と知性を剥ぎ取って、「神は力だ」と主張している。
 ポルトガルの首都リスボンで1755年11月1日、マグニチュード8・5から9の巨大地震が発生し、同市だけで3万人から10万人の犠牲者を出し、同国で総数30万人が被災した。文字通り、欧州最大の大震災だった。その結果、欧州全土は経済ばかりか、社会的、文化的にも大きなダメージを受けた(「大震災の文化・思想的挑戦」2011年3月24日参照)。
 仏哲学者ヴォルテール(1694年〜1778年)はリスボン大震災の同時代に生きた人間だ。彼は被災者の状況に心を寄せ、「どうして神は人間を苦しめるのか」を問う。「神の沈黙」への苦悩と嘆きだ。
 「世界のエトス」提唱者ハンス・キュング教授(1928年〜)は「苦しみの意味」を考え、イエスの十字架とその救済を例に挙げ、「苦しみは必ず救済される」という神への無条件の信頼を強調している。

 「マザー・テレサ」と呼ばれ、世界に親しまれていたカトリック教会修道女テレサは貧者の救済に一生を捧げ、ノーベル平和賞(1979年)を受賞、死後は、前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の願いに基づき2003年に列福された。その修道女テレサが生前、書簡の中で、「私はイエスを探すが見出せず、イエスの声を聞きたいが聞けない」「自分の中の神は空だ」「神は自分を望んでいない」といった苦悶を告白し、「孤独で暗闇の中に生きている」と嘆く。
 コルカタ(カラカッタ)で死に行く多くの貧者の姿に接し、テレサには、「なぜ、神は彼らを見捨てるのか」「なぜ、全能な神は苦しむ人々を救わないのか」「どうしてこのように病気、貧困、紛争が絶えないのか」等の問い掛けがあったのだろう(「マザー・テレサの苦悩」2007年8月28日参照)。

アサド政権が崩壊しない理由

 反体制派グループへの無慈悲な武力弾圧を繰り返すシリアのアサド政権に対し、国際社会の批判は日増しに高まってきているが、同政権の崩壊はまだ見えてこない。そこでシリアを取り巻く政治情勢を少し振り返ってみた。
 シリアと国境を対峙するトルコは西欧と東洋の架け橋を自認し、国際政治の舞台で一定の役割を演じることを期待、シリアに対しても積極的な調停工作を展開させている。
 具体的には、シリア軍の攻撃を逃れてトルコ領土に多数のシリア難民が殺到しているために、アサド大統領に民衆への武力攻撃の即停止を要求している。問題は、シリア難民の多くが同国北部に居住するクルド系住民だ。国内にクルド問題を抱えるトルコとしては、シリア難民の殺到阻止が最大の課題となる。そのためには軍の介入も辞さない、といった厳しい選択を差し迫られているわけだ。
 ゴラン高原問題でシリアと対立しているイスラエルはダマスカスとの武力衝突を願っていない。レバノンにはイランの支援を受けるヒズボラ(親イランのシーア派)が控えている。イスラエルにとって、現状維持が最善だ。
 シリアは中東アラブ諸国では唯一、親イランだ。同国はイスラム教スン二派が最大宗派(約70%)だが、権力を支配しているのは少数派のアラウィ派(約11%)だ。同派はシーア派を起源として発展してきたグループだ。アサド政権がシーア派国イランの支援を受ける理由が理解できるわけだ。
 米国は、民主化に武力弾圧を繰り返すアサド政権に対し、批判を控え、静観してきた。しかし、無抵抗の市民たちを虐殺する場面がテレビで放映され、国際社会の怒りが高まってきたことを受け、米国はアサド政権への批判を開始。クリントン米国務長官はその直後、「国際社会の対シリア制裁を強化すべきだ」と要求している。
 ただし、米国はアサド政権崩壊の独自シナリオを持っていない。オバマ政権としてはシリアへの武力介入は最悪のシナリオだ。アサド政権の背後にイランやヒズボラがいる。対シリア武力介入は中東全土を巻き込んだ戦争に発展する危険性が出てくるからだ。
 米オバマ政権の本音はアサド政権が反体制派の改革要求の一部でも受け入れ、民主化へ一歩でも前進してくれればそれで十分なのだ。
 次に、アサド政権の国内状況をみると、反体制派グループは少数派だ。国際社会の支援が途絶えたならば、存続も厳しい。中東問題専門家アミール・ベアティ氏は「反体制派勢力がアサド政権を今月末から来月初めまで退陣できなければ、アサド政権は生き延びるだろう。シリアではバース党が全権を支配し、国民の大多数がその恩恵を受けている。軍・官僚も同様だ」と指摘する。アサド大統領は依然、バース党と国民を掌握している、というのだ。

 以上、アサド政権を取り巻く内外の政情を簡単に振り返った。アサド政権が依然退陣しないのは、(1)イランを含む親シリア派の支援、(2)米国や隣国がアサド政権の退陣を願っていないこと、(3)バース党を中心に国内を依然掌握していること、等の理由が考えられる。

「世界青年の日」祭典が開催

 スペインの首都マドリードで16日から21日まで、若いカトリック信者たちの第26回「世界青年の日」(WYD)祭典が開催される。同祭典には192カ国から数十万人の青年たちが参加予定。
 祭典には800人のローマ・カトリック教会司教、数千人の神父たちも世界から集まる。18日には、ローマ法王ベネディクト16世がマドリード入りし、青年たちと共に歓迎礼拝を挙行する。同16世は21日までマドリードに滞在。
 WYD開催は前法王ヨハネ・パウロ2世のイニシャチブで始まり、3年毎に開催される。2005年の独ケルンでは110万人、豪シドニー大会では40万人が参加した。マドリード大会では開催期間中に総数150万人の信者たちの参加が予想される。
 今大会のテーマは「キリストに根ざして生きる」。会合では、世界の新福音化、生命の保護、家庭の強化などについて参加者たちが自由に討議すると共に、ローマ法王の記念礼拝が行われる。
 欧州のカトリック教国・スペイン(約72%の国民がカトリック信者)は目下、財政危機に陥り、青年層の失業率が欧州最高の40%を越えるなど、経済、社会的に難問を抱えている。
 このような時期に若いカトリック信者たちの集会を開催する事に対し、政府関係者ばかりか国民の間からも、「巨額な費用がかかる。浪費だ」といった批判の声が聞かれる。
 ちなみに、社会労働党政権サバテロ政権が2004年に発足して以来、政府と教会の間で対立が絶えない。政府は中絶の許可や同性愛者の権利認知問題でバチカンと対立を繰り返してきた経緯がある(「スペイン左派政権の危険な試み」2008年5月21日、「スペインの中絶法は社会の自殺だ」10年8月4日参照)。
 スペイン当局はWYD期間中のデモを禁止したが、ベネディクト16世がマドリード入りする前日(17日)、「無視論者・自由思想家団体」ら約140のグループが「われわれの税金をローマ法王訪問のために使うな」というモットーでデモをする予定だ。
 なお、カトリック教会の主催者側は、「経費約5000万ユーロの70%は参加費でカバーし、残りの30%は民間企業などの献金で賄う」と説明、国民の税金は一切使用されないと説明している。



【短信】コルベ神父の死後70年目
 ポーランド人の“アウシュビッツの聖者”マキシミリアノ・コルベ神父(Maximilian Kolbe)の話は読者の方も良くご存知だろう。当方もこのコラム欄で数回、紹介したことがある(「素晴らしき遺伝子」(2010年12月26日参照)。
 神父は1941年、アウシュビッツ収容所で1人のユダヤ人が逃亡した代価として、同収容所長が作成した「10人の死のリスト」に名前が載せられた1人の父親に代わり、自ら死の道を選び、独房で同年8月14日亡くなった。あれから今月14日で70年目を迎えた。アウシュビッツで同日、神父の追悼会が行われた。
 ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁は47年、列福のための調査を開始し、前法王ヨハネ・パウロ2世は1982年に神父を“聖者”とした。


http://blog.livedoor.jp/wien2006/archives/51701135.html

中国への開発支援は停止すべし

 「君は知らないかもしれないが、国連工業開発機関(UNIDO)の開発支援プロジェクト件数では中国が最も多い。UNIDOの開発援助資金を最も巧みに利用している国は中国とイランだ。UNIDOは両国に悪用されている」
 普段は外交的な知人のUNIDO職員もよほど頭にきているのか、吐き捨てるようにこのように語った。
 中国は国内総生産(GDP)で米国に次いで第2の経済大国だ。国民1人当たりにすれば、日本がまだ上位だが、その経済力は既に立証済みだ。拡大する経済力を支えるために、積極的な資源外交を展開させる一方、その豊かな資金は軍事力強化に再投資されている。
 香港時事発の記事によれば、「中国海軍は10日、改修した旧ソ連製空母『ワリャーグ』の試験航行を開始し、史上初めて空母を運用することになった。既に着手したとみられる国産空母の建造を急ぎ、その運用に訓練艦として使うワリャーグの経験を活用する方針だ」という。
 その中国は依然、開発途上国のような国を装い、国際社会、特に、国連専門機関から巨額の開発資金を手に入れているのだ。特に、UNIDOはアフリカ開発支援を標榜している国連の専門機関だ、その貴重な資金が中国に流れているという事実は看過できない。
 知人は、「UNIDOはここ数年、ウィーンのホーフブルク宮殿で国際エネルギー関連のシンポジウムを開催しているが、カンデ・ユムケラー事務局長は開催前に必ず中国を訪問している。中国はアフリカを資源供給地とみなし、UNIDOを巧みに引き込んでいる疑いがある」という。
 ところで、経済大国・中国の開発支援しているのは国連機関だけでない。最大の支援は財政赤字で悩む米国だ。米上院議員たちが上院外交委員会に提出した書簡によると、「米政府は中国に対して昨年だけで6500万ドルを援助し、2001年以来、インターネットサービスや交通運輸のインフラ建設などを含む各種援助項目の合計金額が2兆7500億ドルに達した。中国はこの他、米国が最大の資金提供者となっている国連や世界銀行などから、数十億ドルの援助も受けている」と指摘し、「中国向けの開発援助を停止すべきだ」と要求しているのだ。中国反体制派メディア「大紀元時報」が10日付で、米紙リッチモンド・タイムズ・ディスパッチの記事を引用しながら報じている。
 もちろん、米国だけではない。日本も政府開発援助(ODA)を通じて中国に開発援助を実施してきている。ただし、前原誠司外相(当時)は3月2日、対中ODA削減の意向を決定している。
 UNIDO担当の日本外交官は「日本はUNIDOを通じてアフリカ諸国の開発支援を今後も継続していく」と主張するが、先述したように、多くの援助金がアフリカ諸国ではなく、中国に利用されているのだ。最大分担国である日本はUNIDOの開発援助計画の検証を実施すべきだろう。
 繰り返すが、中国は経済大国だ。開発援助を受けなくても十分自立できる国だ。中国への開発援助は即停止すべきだ。

「イギリスの社会は病んでいる」

 このような表現をすれば、誤解されるかもしれないが、ノルウェーのオスロで77人を殺害したアンネシュ・ブレイビク容疑者のメッセージはある面で明快だった。反移民主義、反イスラム主義だ。しかし、ロンドンで警察官の黒人男性射殺事件が契機となってイギリス全土に拡大した暴動と略奪事件からはメッセージが読めない苛立ちを感じる。
 犯人が単独ではなく、多数だからではない。例えば、イスラエルの30万人デモのメッセージは分りやすい。家賃や社会関連経費の高騰に対する不満だ。問題は数ではない。イギリスの場合、暴徒の誰一人としてその理由を説明していない。
 海外の休暇先から急遽帰国したキャメロン英首相は、「許されない犯罪だ。犯罪は罰しなければならない」と強調し、英下院で11日、「必要ならば軍の動員も考えている」と述べた。
 社会学者や政治家たちは、「暴動の背後に、貧困者のフラストレーション、20%を越える青年層の失業問題がある」と分析する。
 「英国では国民はその主張や要求を表現できる機会がある。しかし、失業者で貧困者の国民にはそのメッセージを発言する機会が乏しい。彼らの蛮行は彼らが取れる唯一の意思表示だ」と、暴徒たちに同情する声もある。
 確かに、英国は民主主義社会で豊かな経済を誇る国だが、その豊かさを共有できず、自身の意見を表現できる機会もない人々が住んでいる、という現実は否定できない。
 しかし、略奪を行う若者たちは失業者と貧困者だけか、というとそうではない。逮捕された若者たちの中には裕福な家庭の少女や教師すら含まれていたという。彼らは異口同音に、「面白いからだ」とその動機を説明している。メッセージのない暴動だから、さまざまな便乗犯が加わるわけだ。
 アフリカ諸国では数百万の国民が満足に食べる事もできないが、彼らは政権に対してデモをしたり、暴動を起こしたとは聞かない。彼らは食糧と水を求めて黙々と難民キャンプに向かって歩く。彼らの国が貧しいからだ。一方、イギリスの暴動の若者たちは難民キャンプに向かって行進しない。眼前の店からラップトップ、電気製品、高級衣服を略奪し、路上の自動車に火をつける。
 民主主義とその経済的富に囲まれた国に生きている彼らは政治的メッセージなど関心はなく、もっぱら欲しい物を略奪する一方、蓄積されてきた不満を爆発させることに喜びを感じている。
 キャメロン首相は、「われわれの社会は腐敗しているだけではなく、病んでいる」という。具体的には、「権利だけを要求し、責任を負わない文化の問題だ。怠慢と非道徳の文化だ。両親は子供たちに何が善で、何が悪かを説明できない。そのような文化の中で育った青少年たちは容易に暴動に走る」と指摘、「貧困が暴動の原因ではない」と強調した。
 暴動は警察力と軍の動員で鎮圧できるが、「病人」には治療が必要と同じように、暴動を引き起こす社会の「病」に対して、冷静に診断し、治療を施す必要があるだろう。

 ロンドン北部トットナム地区の暴動をTVのニュースで観ていた時、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の主人公イワンの「神がいなければ、すべてが許される」という言葉を思い出した。
 英国の社会は今日、失業者、貧困者だけではなく、政治家、実業家たちも次第に神を失い、同国は「神はいない」運動の発祥地となっている。神を失うことは、「すべてが許される」社会に繋がる危険性がある。英国の暴動は、「すべてが許される」社会がどのような状況を生み出すかをチラッと垣間見せてくれた。

イスラエルとアラブの“夏の戦”

 ウィーン国連機関も8月に入れば会議らしい会議はない。国連職員もこの時期に休暇を取る者が多いので、職員食堂は空席が目立つ。まだ働いている職員も話題はバケーションだ、といった具合だ。
 そのような静かな国連に頻繁に出入りし、Mビルの58号室で朝から会議をしている外交官たちがいる。アラブ連盟主催の会議だという。
 「この夏季休暇シーズンに緊急に話さなければならないテーマなどあるのだろうか」――。好奇心が沸いてきたので知人のアラブ外交官にそれとはなく聞いてみた。
 答えは、「国際原子力機関(IAEA)の第55回年次総会(9月19日〜23日)に提出予定の議題『イスラエルの核能力』についてだ」という。
 外交官は、「アラブ諸国が昨年総会で提出した議題『イスラエルの核能力』の決議案は反対51票、賛成46票で否決された。カリブ海の小国が米国の要請を受けて反対に回ったからだ。そこで今年は加盟国を招き、アラブ側の主張を説明しているところだ。昨日は英国代表と、今日はカザフスタン代表と話し合ったばかりだ」という。
 アラブ諸国は今年の年次総会でも、「イスラエルの核能力」についての議題を再び要請する意向を固めている。IAEAの天野之弥事務局長には書簡でその旨を通達済みだという
 アラブ側の“秋のイスラエル攻勢”への外交は水面下でかなり進行していることを伺わせた。
 ちなみに、アラブ諸国が提出予定の決議案では、(1)中東地域の安全と安定にとって核拡散で生じる脅威に懸念を表明、(2)イスラエルの核能力に懸念を表明、同国が核拡散防止条約(NPT)に加盟し、全ての核関連施設をIAEAの包括的核査察協定下に置く事を要求、(3)IAEA事務局長にはこの目的を実現するために懸念国と連携を取ることを要求、等の内容だ。
 そういえば、数日前、IAEA担当のイスラエルのエフド・アゾウライ大使がIAEA担当のグリン・デービス米大使と国連Mビル内でかなり長い時間、ヒソヒソ話をしているところを目撃されている。ひょっとしたら、アラブ側のイスラエル攻勢にどのように対応するかを話し合っていたのかもしれない。
 天野事務局長はアラブ諸国のイスラエル批判に答え、イスラエルにNPT加盟を促すことを公約してきたが、成果は挙がっていない。中東の核フリー地帯実現のためには、イスラエルのNPT加盟が前提だが、同国はこれまでの所、譲歩を見せていない。
 夏季の休暇を楽しんでいる外交官が多い中、アラブ諸国の外交官たちは“9月の決戦”に向かって既に走り出している。

「ベルリンの壁」建設が始まった日

 冷戦時代の旧東独で1961年8月13日、ベルリン市を東西に分断する壁の建設作業が始まった。東ドイツのウルブリヒト政権(当時)の決定に最も驚いたのは、西ベルリン市と分断された東ベルリン市民だったといわれる。
 若い女性は、「私の彼は西ベルリンよ。これから会えなくなったわ」と泣き出したという話をよく聞いた。
 ドイツ社会主義統一党(共産党政権)のウルブリヒト政権が壁の建設を開始した目的は、国民が西独に亡命するのを阻止するためだった。その背景には、西独経済が急発展する一方、東独経済は停滞傾向が見られ、1960年の1年間だけで約20万人の東独国民が西側世界に亡命したからだ。
 もちろん、共産圏の盟主・ソ連フルシチョフ政権から圧力があったことは疑いない。ソ連は当時、西ベルリン駐留の米軍を何とかして追放することを画策していたからだ。
 例えば、フルシチョフ第一書記とケネディ米大統領の米ソ首脳会談(61年6月3、4日)がウィーンで開催されたが、その時の最大の議題はベルリン問題だった。
 「ベルリンの壁」は1975年に完成した。総距離は155キロ。コンクリート製の壁だ。旧東独政権は当時、ベルリンの壁建設を「反ファシスト防壁」と説明していた。同壁はその後、冷戦時代のシンボルとなったことは周知の事実だ。
 その「ベルリンの壁」が1989年11月10日、崩壊した時、冷戦時代を体験してきた当方も驚いてしまったほどだ。永遠に存在すると信じられていた「ベルリンの壁」があっけなく倒れたからだ。
 ちなみに、「ベルリンの壁」建設後、約5000人の東独国民が壁を越えて西側に亡命したが、200人余りの国民が射殺されている。

 「ベルリンの壁」建設開始から今月13日で50年目を迎えたが、旧東独国民の心には今なお、共産政権時代からの様々な残滓が見られる。特に、徹底した無神論教育を受けてきた旧東独国民は、「ベルリンの壁」で自由世界との繋がりを失ったばかりか、神との繋がりも切り離されていったのだ。
 今年5月実施されたDIMPの世論調査結果によると、統一ドイツ全般で「神を信じる」国民は58%、「信じない」が38%だったが、旧東西ドイツ間で結果は大きく異なっていた。旧西独では67%が「神を信じる」と返答したが、旧東独ではその返答は25%に過ぎず、「神を信じない」と答えたは73%にもなった。
 統一ドイツが実現してから20年以上が経過したが、旧東独国民の約4分の3が依然、積極的に「神」を否定している。共産政権下の無神論教育の恐ろしさを痛感する。
 統一ドイツが欧州の盟主として今後も大きな役割を担い続けていくためには、旧東独国民の“神の再発見”が不可欠だろう。
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