ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2011年04月

人は全てを「想定」できるか

 東日本を襲撃した巨大地震と津波は多くの日本人にとって「想定外」の規模だった。地震学者、原発会社関係者にとっても程度の差こそあれ「想定外」であっただろうと思う。
 福島原発の危機問題が表面化して以来、「原発会社の危機管理」「政府のマネージメント」が問題にされる。当方などは「人間は突然発生する自然災害に対して完全に対応できるだろうか」と首を傾げたくなる。
 原発会社にも問題があったことは明らかだ。10mを越える津波が原発を襲うシナリオを考えず、原発をデザインしたこと、M9の巨大地震が発生すると予想して原発を建設しなかったことなどだ。今から振り返れば、多くの問題点があったことになる。
 しかし、原発の建設当初、少なくとも「十分安全だ」という確信があったはずだ。操業当初から「ひょっとしたら津波で原発のオペレーションに支障がきたす」と考えた原発会社関係者がいたとすれば、それこそ問題だ。
 巨大地震が発生した後、人は問題点を考え、追求する。そのうち、「自然災害ではなく、人災だった」と結論をつける人々も出てくる。そして原発会社、政治などを批判し、その責任を追及し出す。
 「天罰」発言をして批判を受けた政治家がいたが、「天罰説」がまかり通れば、人々はもはや考える必要はないから、ある意味で楽だ。「神よ、なぜあなたはわれわれが住んでいた家屋や原発を破壊し、多くの国民を放射能で汚染されるのですか」と、神を呪い、嘆いていればいいからだ。しかし、大多数の国民はそれを(天罰説)良しとしない。
 国連環境計画(UNEP)のシュタイナー事務局長は6日、ウィーンの記者会見で「日本は津波対策、原発建設などあらゆる分野で優れた国だ。必要な全てを想定して準備してきたが、今回の巨大地震、津波はその準備した全てを凌駕した」と説明している。すなわち、「人間の想定を超えた自然災害だった」という認識だ。
 人間の「想定外」の災害だったから、他者を批判することも出来ない。想定外の災害で生じた被害を最小限度に押える努力と今後の対策に力を注ぐべきだ。それを通じて、文明と文化も発展してきた。宿命論に陥り、悲観的になる必要はない。
 繰り返すが、人がいくら想定したとしてもそれを凌駕した自然災害は将来も起きるだろう。人は「全てを想定はできない」という厳粛な現実を受けいれなければならない。われわれはもう一度、自然一般に対して謙虚になって対応すべきだ。人と自然の調和こそ本来、願われていることではないだろうか。

西側企業、北の政情に懸念

 オーストリアの世界的耐火煉瓦メーカー「RHI」(Radex Heraklith Industriebeteilgungs AG)はこれまでスイスのクールに本社を置く鉱山資源輸入専門会社「Quintermina」社に資本参加し、同社を通じて北朝鮮からマグネシウムを輸入してきたが、今年に入って「マグネシウムの長期安全供給」を実現するため、傘下のスイス会社から撤退することを明らかにした。
 マグネシウムは電子機器や自動車産業において必要不可欠で、最軽量の実用金属だ。大韓鉱業振興公社の資料によれば、北には約40億トンのマグネシウム(マグネサイト)が埋蔵されているという。
 RHI(年間総売上約15億ユーロ)は2007年、端川のマグネサイト鉱山に800万ユーロの投資を計画。翌年7月には北のマグネシウム輸入専門会社の「Quintermina」社の株51%を取得して、マグネシウム確保のため着実に手を打ってきた(同社社長は07年末、訪朝)。
 ちなみに、スイス会社は北朝鮮のマグネシウム製造会社と専属契約を締結し、取引きをしてきた。同社は2008年、北から約3万トンのマグネシウムの輸入実績がある。
 しかし、RHIは指導層の人事(10年8月)を契機に、マグネシウムの安全確保のためスイス会社に依存せず独自生産に重点を置くことを決定した。RHIによると、独自生産率を従来の30%から80%に向上させるという。
 ただし、RHIはここ暫くはスイスの会社との契約を維持する。その意味で同社は今後も間接的だが北産のマグネシウムを輸入継続するが、生産地の多様化(例・南米)や国内(例・シュタイアーマルク州)生産を図る一方、資源の有効な活用としてリサイクル生産などを考えているという。
 RHIが傘下のスイス会社の輸入依存を脱皮して独自生産に力を入れだした背景には、(1)中国の地下資源輸出制限の強化、(2)北の政情不安、等が考えられる。
 北は豊富な地下資源を利用して西側企業から外貨を獲得してきたが、RHIの今回の決定は、「北の政情不安が対外経済活動のネック」となることを改めて示した実例だろう。

ワイス委員長の“早まった返答”

 ウィーンに事務局を置く国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)のヴォルフガング・ワイス委員長は6日午後、記者会見で福島原発の事故について「チェルノブイリ原発事故(1986年)と米スリーマイル島原発事故(79年)の中間程度だろう」と答えた。AP通信の女性記者の質問に答えたものだ。
 そこで福島事故は事故の国際評価で「レベル6に当たる」というニュースが流れたわけだ。この記事を読まれた読者ならば、「国連の放射線影響科学委の公式見解」と受け取るだろう。
 しかし、同記者会見に参加した当方には「ワイス委員長は返答を強いられただけで、UNSCEARの公式見解ではない」という印象が強い。その理由を以下、説明する。
 先ず、同記者会見は福島原発事故の放射線影響について、その見解を表明する場ではなかったのだ。チェルノブイリ原発事故の放射線の影響などに関するレポートをブリーフィングするのが目的だった(今月26日はチェルノブイリ原発事故25年目に当たる)。
 次に、福島原発については、「福島原発事故はオン・ゴーイング・クライス(現在進行中の危機)だ。だから、放射線の影響などについて現時点では何も答えられない」(ワイス委員長)という。
 そして「福島原発の事故を分析するために日本政府に情報提供などを期待している」(同委員長)という段階だ。
 上記の3点からみて、UNSCEARが現時点で福島事故について公式見解を表明できる状況ではなかったと判明する。
 しかし、ワイス委員長は記者に質問されて返答を強いられたわけだ。記者としては、「見出し」となる答えが必要だ。一方、UNSCEAR側は多数の記者が集まった会見でその存在をアピールしたい、という思惑が働いても不思議ではない。
 繰り返すが、チェルノブイリ原発事故の放射線の影響に関する「UNSCEAR報告書」が事故の25年後になってようやくまとめられたのだ。「オン・ゴーイング・クライス」の福島原発事故に関する公式見解が現時点で表明できるとは思えない。
 なお、ワイス委員長は「福島原発の事故の場合、多くの放射性物質は海洋に流れるから、欧州大陸に散らばったチェルノブイリ原発事故の時とは明らかに違う」と強調している。
 風評や噂が大きな混乱を生み出す原発事故について、政治家や専門家たちは、たとえ記者たちから質問されたとしても、早まって意見や推測を述べるべきではないだろう。分らない時、「分らない」と答える勇気が必要だ。早まった返答は誤解と混乱を生み出す原因となる。

コーランと聖書の「焼却」問題

 米フロリダ州ゲインズビルのキリスト教会の伝道師テリー・ジョーンズ牧師が先月20日、イスラム教の聖典「コーラン」を焼却したことに抗議してアフガニスタンとパキスタンで抗議デモが行われ、アフガン北部マザリシャリフでは今月1日、デモ参加者が国連事務所を襲撃し、7人の国連職員を含む20人以上を殺害した。
 ジョーンズ牧師は昨年9月、コーラン焼却計画を公表したが、米当局が「駐アフガンの米軍を危険に陥れることになり、海外の米国益がテロ対象となる」と警告。同牧師は結局、コーラン焼却計画を断念したが、今回、計画を実行したわけだ。
 オバマ米大統領は「宗教団体の如何なる聖典をもそれを侮辱する行為は許されない」として、牧師の行為を「極端な非寛容な行為だ」と厳しく批判している。
 ところで、アフガンやパキスタンでコーラン焼却に抗議するデモが起きているが、欧米では目下、イスラム教徒たちの抗議やデモ集会はない。
 中東テロ問題専門家アミール・べアティ氏は「『静かな水はより深い』という言葉があるように、イスラム教徒の怒りは目下静かだが、それだけ深いとみて間違いない。牧師の過激な行動は過激な反撃となって返ってくるはずだ」と警告した。
 同氏によると、世界のイスラム教徒の関心は北アフリカ・中東アラブ諸国の民主化運動の動向に集まっているが、牧師の蛮行を忘れたわけではない。例えば、デンマークの保守系有力新聞ユランズ・ポステンのムハンマド風刺問題が浮上してから具体的なテロが発生するまで一定の時間があった。
 ちなみに、イランでは2月中旬、数百の聖書が公開の場で焼却されたが、欧米メディアが報道しなかったこともあって大きな反響は出ていない。世界のキリスト教会から抗議表明や信者たちのデモ集会も起きていない。
 欧州の人権擁護グループ関係者は「イランやイスラム教世界は『宗教の自由』の擁護問題でダブル・スタンダードだ」と批判している。

カダフィ大佐、ハマスを財政支援

 中東テロ問題専門家アミール・ベアティ氏によると、「リビアのカダフィ大佐はガザ地区のハマス(イスラム原理主義組織)に財政支援を行っている。その一方、リビア内戦の政治空白を利用してイスラム・マグレブ諸国の国際テロ組織アルカイダがリビア東部から武器(対空砲、戦車など)を略奪し、北アフリカ、特に、マリ、アルジェリアなどに送っている。そのため、米国は大きな懸念を有している」という。
 同氏によると、カダフィ大佐の海外資金管理人ムスタファ・ツァルティ氏(Mustafa Zarti)は先月、オーストリア警察当局から尋問を受けたが、それを通じてカダフィ大佐がオーストリアの銀行に12億ユーロを保管し、欧州全土で親リビアの政治家、政党に資金を提供してきたことが判明したばかりだ。
 「カダフィ大佐は当初、イスラム根本主義グループを嫌悪してきたが、ガザ区のハマスがイスラエルと武装闘争を展開した直後、ハマスを財政支援し出した。目的は反西欧、反イスラエル戦略だ」という。
 例えば、シリアのダマスカス事務所のハマス責任者で政治部門のトップ、ハレド・メシャルは昨年、リビアを訪問し、カダフィ大佐と会見したことが判明している。
 ガザ出身のイスラム教の教師イブラヒム師(Adnan Ibrahim)と弟(Naim Ibrahim)はカダフィ大佐の息子セイフ・アル・イスラム氏と共にウィーン市10区の不動産を管理・運営している。
 なお、カダフィ大佐から受け取った資金は欧州全土のハマス系会社に流れているが、その役割を担っている人物はオーストリアのハマス責任者アデル・アブダラ・ドクマン氏だ。同氏の名前は米連邦捜査局(FBI)のテロリストの一覧に掲載されている。



【短信】金正恩氏は既にナンバー2

 東日本大震災が発生し以来、北朝鮮の動向をフォローする時間がなかった。ここ1カ月間ほどウィーン市14区の駐オーストリアの北朝鮮大使館に行かなかった。
 訪問したとしても招かざる客に過ぎないから、あまり期待できないが、同大使館の正面に展示されている平壌から届けられた写真展を見るだけでも同国の現状や動向を感じることができたものだ。
 さて、2週間ぶりに知人の北外交官と会った。相変わらずラップトップを開けて何かを読んでいた。時間は限られているので聞きたい質問をぶっつけた。
 「韓国メディアによると、貴国で幹部層の粛清が行われているという。例えば、金容三前鉄道相が昨年6月、処刑されたことが明らかになる一方、文一峰前財政相も処刑されたという。国内で指導層への監視が強化されている」
 知人はちょっと嫌な顔をしながら小声で、「幹部層の処刑は知らないが、わが国の監視体制は昔から厳しいよ」と皮肉にも受け取れるような発言を返してきた。
 当方はここ数年、海外駐在の北外交官に対する監視が厳しくなってきたことを肌で感じてきた。これまでフランクに話しに応じた外交官は無口となり、当方の姿をみると、直ぐに姿を消す外交官も出てきた。当方と接触して同僚から誤解されては大変、といったわけだろう。
 次に、「金正恩氏が今月7日に開催予定の最高人民会議で国防委員会第1副委員長に選出されて文字通りナンバー2の位置につくといわれているが」と聞いた。知人は「彼は既にナンバー2だよ」と単刀直入に答えた。当方が少しビックリしているのをみて、「彼が昨年9月、党人民代表会で後継者に選出された段階で既にナンバー2だよ」と説明した。

日本の被災者救援にハート型パン

 東日本大震災の被災者救援のために様々な救援活動、募金活動、チャリテー・コンサートが世界の各地で行われている。
 最近ではソフトバンクの孫正義社長が個人として100億円の義援金を寄付すると表明したと聞いてビックリすると共に嬉しくなってきた。
 当方が応援している大リーグのイチロー選手(マリナーズ)が1億円を支援するなど、著名なスポーツ選手、実業家、宗教指導者たちの支援も心強い。
DSCN1981 ところで、当方が住む音楽の都ウィーン市でも国連職員の募金活動や音楽家たちのチャリテイー・コンサートが開催されている。原発の放射能恐怖が強い国民だが、慈善活動には本来、非常に積極的な国民だ。
 今回はハート型パンを製造して日本の被災者を支援しているウィーン市の製パン会社を紹介したい。会社名は「Der Mann」で 今月1日から日本の被災者救援キャンペーンを始めた。具体的には、ハート型の調理パンを売り、そのパン価格2ユーロ80セントのうち、50セントを支援金とするというのだ。
 日本人が日に一食はご飯を食べないと満足できないように、ヨーロッパでは毎朝、パンとコーヒーは欠かせられない。早朝5時半にはウィーン市内のパン屋さんは店を開ける。家で朝食を取らなかった会社員や労働者たちがパン屋で調理パンを買う姿は朝の風景だ。
 大震災の被災者救援の料理パンは「Nippon Weckerl」と名づけられている。サラダに照り焼き風鶏肉が入ったハード型パンだ。
 そこで「Der Mann 」社に電話して今回の慈善キャンペーンについて聞いてみた。
 同社の広報担当員は「わが社はこれまでも慈善活動には積極的に行ってきた。オーストリアは幸い地震や津波はない。被災された日本人には深い同情を感じている。今回の大震災で被災された日本人をどうしたら支援できるかを社内で話し合った。その結果、ハード型パンを製造し、その価格の一部を支援することを決めた。お客さんの反応をみながら、先ず1カ月間、今月末まで実施する」という。
 同社は1860年に開業されたオーストリア製パン会社の老舗だ。社員数は現在780人、店舗数はウィーン市を中心に75店を構えている。
 当方はこのコラムを書いた後、市内のDer Mann で早速そのハート型パンを買って食べたいと思っている。
 それぞれの立場でアイデアを生かして慈善活動を積極的に実施する欧州人の良さを感じさせられた次第だ。

放射性物質検査と「核実験の影響」

 多くの検査官が、多くの場所で測定すれば、それだけより正確なデータが集まる。通常、その通りだろうが、放射能の測定問題ではそうとも思えないのだ。多くの検査官が測定し、その測定値が一致しない場合、混乱とデータへの不審が生まれてくる。
 実際、福島県飯舘村で検出された高濃度の放射性物質について、国際原子力機関(IAEA)と内閣府・原子力安全委員会の間で測量値の評価で対立が生じたばかりだ。
 IAEA検査官は先月30日、飯舘村でIAEAの避難基準を超す高いレベルの放射性物質を検出したと発表した。採取した土壌サンプルに含まれるヨウ素131とセシウム137の量を測定した結果だ。それに対し、日本は「土壌を深さ約5センチまで掘り、採取した土壌1キロ・グラム当たりの放射性物質濃度を調べている。このほか、空気中の放射線量の割合、空気中のほこりや飲食物に含まれる放射性物質濃度なども測定し、人への影響を考慮している。われわれのほうが総合的に判断している」(読売電子版)と指摘し、IAEAの測量値より正しいと反論したという。
 放射能は目にみえない。だから放射能測定器で検査しない限り、その汚染を確認できない。その上、放射性物質の場合、半減期が異なるうえ、汚染場所が数メートル移動しただけでその放射能測量値が異なることもある。だから、多くの機関がそれぞれ独自の測定を実施し、その結果を公表した場合、先述したような測量値の評価で対立が生じるわけだ。実態が明確となるより、混乱を一層深めることにもなる。船頭多くして船山に登る、といった状況が生じることになるわけだ。
 ところで、福島原発周辺で先日、微量のプルトニウムが検証されたという。米エネルギー省は「なぜ、プルトニウムが検出されたかは目下、分からない」と首をかしげた。ヨウ素ではない、プルトニウムだ。
 IAEA関係者から聞いた話だが、福島周辺だけではなく、世界各地の土壌や水源は冷戦時代の核実験の影響を今も受けているというのだ。例えば、核大国が1992年まで1000回を越える大気圏核実験を実施したが、そこから放出されたプルトニウムは数千キロにもなるという。プルトニウムの半減期は2万年以上とすれば、核実験で放出された放射性物質は世界全土に散らばり、土壌や水源を今も汚染しているわけだ。
 例えば、旧ソ連政府は冷戦時代、カザフのセミパラチンスク核実験場で456回の核実験を実施した。具体的には、大気圏実験86回、地上実験30回、地下実験340回。その総爆発力は広島に投下された核爆弾の2500倍という。
 福島原発から放出された放射性物質の測量値の上下に一喜一憂するのはいいが、冷戦時代で行われた数千回の核実験の影響(土壌汚染、水源汚染など)を冷静に検証する必要があるのではないか。これは福島原発の危機が想起させた課題の一つである。

前法王「神を信じて心配するな」

 故ヨハネ・パウロ2世(在位1978年〜2005年)の列福式(福者)が来月1日、ローマで行われる。バチカン放送(独語版)によると、前法王の列福式には世界から50万人を超える巡礼者が参加するものと予想されている。特に、前法王の出身国ポーランドからは多くの信者たちを乗せた巡礼バスがローマ入りする。列福式の当日、バチカンへ通じるローマ市内の道やサンピエトロ広場周辺の交通網は閉鎖されるという。殺到する巡礼者の整理はローマ市当局の大きな課題だ。
 ところで、前法王が死去して今月2日で6年が経過した。死後6年で列福を受ける聖職者はローマ・カトリック教会の歴史でも稀なことだ。現法王ベネディクト16世は2005年5月13日、ヨハネ・パウロ2世の列福調査の準備を指示し、それを受けて翌月28日に調査が開始された。通常、列福調査の開始は死後5年が経過してからとなっているが、故ヨハネ・パウロ2世の場合は特例だったのだ。
 07年4月2日、出身教会のポーランドのクラクフでの調査が終了し、資料がバチカンの列聖省へ送付された。そして列福に不可欠な前法王が直接関与した奇跡の証が提出されたことから、今回の列福の道が開かれたわけだ。列福までの詳細な経過については、当ブログ「前法王の列福式、5月1日に」(2011年1月15日)を参照して頂きたい。
 ちなみに、現法王(ベネディクト16世)が前任法王の列福式を挙行するということは初めてだ。それだけに、ベネディクト16世にとっても特別な経験となるだろうといわれている。
 前法王の列福式を控え、ベネディクト16世は前法王の思い出を述べている。それによると、前法王は教理省長官時代のラッツィンガー枢機卿に「神を信じて心配するな」という言葉を常に語っていたという。シンプルな表現だが、力強い言葉だ。
 今年も3カ月間が過ぎたが、その短期間に北アフリカ・中東アラブで民衆の民主化運動が起き、国民を久しく弾圧してきた独裁者が次々と失墜していったのを目撃してきた。その一方、人間の想定を超えた巨大な地震と津波が東日本を襲い、数万人の命を一瞬に奪っていった。漠然とだが、「歴史が大きな変遷の時を迎えている」と予感する人々が少なくないはずだ。
 同時に、未来に対して不安を抱く人々が増えている。環境汚染やエネルギー問題だけではなく、終末的な絶望感にとらわれる人々すら出てきた。
 それだけに、前法王の「神を信じて心配するな」という力強い言葉は、宗派や民族の壁を越えわれわれに“元気”を与えてくれる。前法王は、われわれに「神を絶対に信頼して未来を切り開いていくように」と諭しているのだ。

リンツ市で“原発ヒステリー”

 オーストリア人が欧州で原発の放射能に対して最も過敏な国民であることはこのコラムで数回、紹介したが、同国オーバーエスタライヒ州の州都リンツ市で先月31日、メガネ製造会社で日本から届いたチタン製針金入りの小包が放射能に汚染されている可能性があるとして、社員の中でパニックが生じた。同会社社長によると、「社員たちが放射能汚染を恐れているので、地元の消防当局に連絡した。わが社には放射能測定器がないからだ」という。
 ガスマスクを着用した消防局検査官が小包を開けて検査し、「放射能は測定されなかった」ことで“放射能騒動”は一件落着したが、同国の国民が日本から輸入された食品、製品に対して「放射能に汚染されている」といった危惧心を抱いていることが一層、明らかになった。同時に、欧州の他国で、このような放射能騒動を聞かないところをみると、オーストリア人の放射能汚染恐怖症は類を見ない現象であることが改めて追認されたわけだ。
 「オーストリア人は福島原発の危機が明らかになると、巨大地震と津波で被災した日本人への関心は薄れ、もっぱら福島原発から放出される放射能が自国まで来ないかどうかに関心を集めていった。国民の一人として少々、恥ずかしい」という声も聞く。
 また、「放射能の危険があるとして、ウィーン少年合唱団は早々と日本ツアーをキャンセルすると発表したが、日本に多くのファンを抱えていることもあって、それでは少々、マズいと分り、慌てて『日本人の被災者へのチャリテーコンサートを開催する』と表明したばかりだ。面子と体面を重視するオーストリア人らしい外交的対応だ」といった辛辣な批判も出ている。
 何もない平和な時、オーストリア人には親日派が多いが、今回のような原発問題が起きると、自国が安全かどうかに全ての関心が集中してしまう。
 一方、旧東欧諸国の原発で問題が起きたら大変だということで、同国の政治家やメディアは国境周辺に立地する全ての原発の操業停止を求め、檄を飛ばしている。もはや、福島原発問題はサブ・テーマに過ぎず、主要テーマは欧州の原発全廃に移っている、といった有様だ。
 残念ながら、当方が住むオーストリアは「日本が復興するまで支援を継続していく」(オバマ米大統領)として、「トモダチ作戦」を展開している米国とは明らかに違うわけだ。
 「困った時の友こそ真の友」という言葉が当方の脳裏に蘇ってきた。

独国民が最も信頼する政治家

 ドイツではメディアが世論調査所に依頼して政治家への国民の信頼度リストを公表するが、同国週刊誌シュテルンが依頼して実施された今回の信頼度リストをみると、トップの常連だったメルケル首相(キリスト教民主同盟=CDU)が第2位に落ち、それに代わって久しぶりに野党社会民主党(SPD)からフランク・ヴァルター・シュタインマイヤー院内総務(前外相)が飛び出した。
 第3位には博士号論文の盗用問題で躓き辞任したカール・テオドル・グッテンベルク氏に代わって内相から国防相に就任したトーマス・デ、デメジェール新国防相(CDU)が入っている。
 久しく国民の間で人気度がトップだったメルケル首相の後退にはそれなりの理由が考えられる。国内の原発問題で政策が大きく揺れたこと、そして対リビア軍事攻撃でフランスや英国に遅れをとるなど、その政治力に陰りが見えてきたからだろう。先月27日に実施されたバーデン・ビュルテンベルク州議会選挙で与党CDUが後退を余儀なくされたことをみてもその事を裏付けている。
 一方、シュタインマイヤー氏は2005年から09年まで外相を務め、07年から09年まで副首相も兼任してきた社民党の幹部だ。
 前外相が国民の政治家信頼度でトップと知って少々驚いたが、「ドイツ国民は政治家を良く観察している」という印象を受けた。
 前外相は昨年夏、「腎臓移植を待つ妻に腎臓を提供するために移植手術を受ける。そのため、数週間、政治職務から遠ざかる」と記者会見で発表した。ドイツ国民は前外相が愛妻家である事を知り、好感をもっているのだろう。
 政治家の中にはシュレーダー元首相(SPD)のように4回も結婚、離婚を繰り返したプレイボーイの政治家が国民の間で人気が高いこともあるが、前外相の場合、シュレーダー首相とはまったく違うタイプだ。弁舌はいいが、浮動票を取れるハンサムな政治家ではない。
 ちなみに、国民の信頼度リストで最下位は独自由民主党(FPD)の党首、ギド・ウェスターウェレ副首相兼外相だ。同外相は自身が同性愛者であると公表し、昨年9月、ボンで長年のボーイフレンド、実業家ミヒャエル・ムロンツさんと正式に結婚している。同外相はムロンツさんを公務の外遊に随伴したことが明らかになり、メディアに叩かれたこともあった(「前・現独外相が発信したニュース」2010年9月21日)。
 メディアはプレイボーイの政治家を愛し、同性愛者の政治家をもてはやすが、今回の世論調査結果をみていると、国民は妻を愛する政治家を「信頼できる」と見ていることが分る。メディアと国民では政治家を見る眼は少し違っているわけだ。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ