ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2011年04月

「核保有国」の責任について

 ウィーンに事務局を置く包括的核実験禁止条約(CTBT)機関が公表した統計によると、米国が1945年、広島に人類初の原爆を降下させから1998年まで、世界で2053回の核実験が行われた。国別にみると、米国が1032回、旧ソ連715回、フランス210回、英国45回、中国45回、インド4回、パキスタン2回だ。その後、北朝鮮が2回(2006年10月、09年5月)実施している(南アフリカとイスラエル両国の核実験が報告されているが、未確認だ)。
 それによって、どれだけの放射性物質が放出されたかは正確なデーターはないが、チェルノブイリ原発事故(1986年)や今年3月の福島原発事故で大気に流出したそれよりも圧倒的に多いことは確実だ。
 そして、ヨウ素のように半減期が8日間とは違い、プルトニウムの場合、その半減期は2万年以上だ。ということは、1945年から98年の間に実施された2053回の核実験で放出された放射性物質は依然、世界の土壌を汚染しているとみて間違いがないわけだ。
 例えば、旧ソ連政府は冷戦時代、カザフのセミパラチンスク核実験場で456回の核実験を実施した。具体的には、大気圏実験86回、地上実験30回、地下実験340回。その総爆発力は広島に投下された核爆弾の2500倍という。
 フランスの場合、核実験はアルジェリアのサハラ砂漠などで実施されてきた。アフリカ大陸での核実験の影響について正確な報告はないが、サハラ地域の土壌は相当量の放射性物質で汚染されているという。
 スーダン北部では最近、放射性物質の影響と考えられるがん患者の急増がみられる。サハラ砂漠地域には核廃棄物の貯蔵地域があるが、その周辺住民にもがん患者が急増しているという報告がある。
 冷戦時代は終焉した。そこで核実験禁止や兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)だけではなく、核保有国の軍事核施設に対し、国際原子力機関(IAEA)の査察履行を認めるべきだ。ちなみに、IAEAは核拡散防止条約(NPT)に基づき核保有国の軍事施設に対しては査察できない。査察は発電用原発に限定されている。
 当コラム欄で紹介したが、旧ソ連のキシュテム(Kyshtym)で実際、核事故(1957年)が起きている。原子炉の発電プロセスではなく、軍用原子炉の使用済み核燃料の再処理施設(軍用プルトニウム生産)で爆発事故が起き、膨大な放射線が広大な地域に飛散した。
 福島原発を襲った大震災が、軍用核関連施設と発電用原子炉を区別し、後者だけをターゲットするとは考えられない。
 原発大国フランスのサルコシ大統領は訪日時、「5月のG8(サミット主要国首脳会議)で原発の安全問題を話す」と発表したが、それだけでは十分でない。軍事、発電の区別を問わず、世界の全ての核関連施設のチェック体制の強化を話し合うべきだ。福島原発事故の教訓は本来、そこにあるのではないだろうか。「核保有国」の責任について考えるべき時だろう。

民主主義の失望が「王室人気」生む

 ロンドンで29日、チャールズ皇太子の長男ウィリアム王子と婚約者ケイト・ミドルトンさんの結婚式が行われる。世界で10億人以上の人々がウェストミンスター寺院で挙行される結婚式を観るという。今年最大の世界的イベントだ。
 そこで今回は「なぜ英国民だけではなく、世界の多くの人々が英王室の結婚式に強い関心を払うのか」について考えてみた。
 オーストリア国営放送で27日深夜、英王室を含む世界の王室について、さまざまな観点から議論する番組が放映された。そこに出席していた欧州王室問題専門家が「世界の人々が英王室の結婚式に関心を払う背景には、民主主義への失望があるだろう。国民を主権者として構築された民主社会が今日、行き詰まってきた。そこで血統と伝統を重視する王室に対して、多くの人々が関心を払い出したわけだ」と分析していた。
 北アフリカ・アラブ諸国で今年に入り、民主化運動が台頭し、チュニジア、エジプトなどでは独裁政権が打倒されるなど一定の成果が挙がっているが、民主主義を久しく享受してきた欧米諸国で、その民主主義への失望感が高まってきていることは残念ながら事実だろう。
 民主社会の要というべき選挙で選出された政治家の汚職、腐敗などで国民の政治への不信感はもはや修復ができないほど深まってきている。
 民主社会の未体験者、アラブ諸国の青年たちは民主主義に大きな期待感を寄せているが、欧米では多くの国民が英王子の挙式に心を踊らせ、かつて存在した君主社会への憧憬すら感じさせている。
 もちろん、「欧州の王室」の内情は外からみるような夢のような世界ではないが、通常の多くの人々にとって、王室の世界はあくまでも夢の対象であって、経験できる世界ではない。だから、王室への憧憬が一挙に消滅する、ということはないわけだ(「急変する欧州の王室」2010年12月28日参照)。

閣僚人事後の知人の憂鬱な日々

 久しぶりに会った知人はいつものようにコーヒーとミネラルウオーターを注文した。新しい背広を着て知人は元気そうにみえた。
 「半年ぶりですね。お仕事は忙しいですか」
 「いつも何かが起きるからね。君も元気そうじゃないか」
 そして20分ぐらい話していると知人の携帯電話が鳴った。深刻な話のようだ。知人は数分間話すと電話を切った。
 「事件でもあったのですか」
 「事件ではない。職場のいざこざだよ。具体的には人事問題だよ」と、好奇心一杯の当方の顔を見ながら短く答えた。
 それとはなく聞き出したところによると、どうやら職場で人事の件で対立が生じているらしい。
 「どこの職場でも同じですよ。上司の受けがいい社員とそうではない社員との対立から、社員の意向を無視した人事異動まで、いがみ合いは尽きないものです」
 「そうだね。事件のほうが楽だよ。職場のいがみ合いは疲れる」
 知人は吐き出すように語った。
 知人がどの職場に勤めているのか、と知りたくなった読者もいるだろう。彼はオーストリア内務省所属の中堅の情報担当員だ。
 同国のファイマン連立政権に参画する国民党のプレル党首が突然政界引退したことを受け、シュビンデルエッガー外相が国民党首に就任(正式には来月開催予定の党大会で選出)した。同時に、政権内で今月、一部閣僚移動があった。これまで内相だったフェクター女史が財務相に抜擢され、後任内相にニーダーエスタライヒ州議会出身のミクル・ライトナー女史が就任したばかりだ。
 トップが替われば、その以下の局長クラス、課長クラスなどが入れ替わることがある。例えば、新内相がニーダーエスタライヒ州出身者となれば、同州出身者が省内で優遇されたり、逆に他州出身者とのバランスから、人事が調整されることもある。多分、知人は省内の人事異動で面白くないことがあったのだろう。
 「事務所に急遽、戻らなければなりませんね」と、知人の立場を考慮して、半年ぶりの会合だったが、早めに終わらそうとすると、
 「いいんだよ。急がなくても」というが、頭の中は職場の同僚から今入った情報について考えているようだ。
 10分ぐらい話した後、近日中にまた再開することを約束して分れた。

 西側の情報機関担当官も普通の人間だ。職場の人間関係や上司との関係で対立したり、不満の一つも飛び出す。そして多くのエネルギーを職場内の調整に費やされ、肝心の外での仕事に集中できない、といった状況が生じる。
 内務省の別の知人は昔、子供の教育問題で悩んでいた。「子供の躾が難しい」といった時の敏腕情報員の顔は子供の行く末に頭を痛める一人の父親の顔だったことを思い出す。
 英情報機関の「007」のように、職場や家庭の束縛はまったくなく、その使命を履行するために全力を投じる、といった西側情報機関員は実際は少ない。情報員も人の子だ。悩みがあり、職場や家庭でいがみ合いを抱えたりしているものだ。

北の高麗航空の隠された“使命”

 北朝鮮国営の高麗航空が6年連続、欧州連合(EU)域内乗り入れ禁止航空会社リストに含まれた。韓国の連合ニュース(日本語版)が26日報じた。
 EU域内運航禁止の理由として、北朝鮮が保有している20機余りの航空機がいずれも旧ソ連製で、老朽化が進んでいるからだという。すなわち、高麗航空機の安全性が疑わしいというわけだが、これがEU域内乗り入れ禁止の全ての理由ではないだろう。
 例えば、スロバキアがEU加盟国ではなかった1990年代、高麗航空は不定期だが、首都ブラチスラバに乗り入れていた。高麗航空機が到着すると、2、3の人物がタラップから降り、欧州駐在の北外交官が用意していたベンツに乗り込むと、そのまま姿を消していったことが何度も目撃されている。時には、身元不明の人物が北外交官に連行されるように航空機の中に入っていったこともあったという。また、スロバキア製の武器や軍需品が高麗航空機内に運び入れられたことも目撃されたという。
 以上の情報は、オーストリア内務省関係者から当時、直接聞いた話だ。同関係者によると、高麗航空機から降りてきた人物は「北の欧州担当工作員だ」といっていた。
 旧東欧諸国が次々とEU加盟国となったことを受け、EUは6年前、北の欧州工作を阻止するという立場から、旧東欧に乗り入れていた高麗航空のEU内運航禁止を決定したというわけだ。



【短信】バチカンは前法王の「列福式」一色


rome01前法王の列福式を宣伝するポスター(2011年4月23日)


 故ヨハネ・パウロ2世(在位1978年〜2005年)の列福式(福者)が来月1日、バチカンで行われる。前法王の列福式には世界から50万人を超える巡礼者が参加すると予想されている。特に、前法王の出身国ポーランドからは多くの信者たちを乗せた巡礼バスがローマ入りする。列福式の当日、バチカンへ通じるローマ市内の道やサンピエトロ広場周辺の交通網は閉鎖されるという。
 故ヨハネ・パウロ2世は生前、「空飛ぶ法王」と呼ばれるほど世界を飛び歩き、カトリック信者だけではなく、多くの人々から愛されてきた。死去6年目という短期日の間に列福を受けたローマ法王はいない。それだけ、異例中の異例の列福というわけだ。
 バチカン法王庁は目下、列福式のために最後の準備に余念がない。ローマ市内には前法王の列福式を伝えるポスターが到る所に貼られている。土産店では前法王の肖像がコピーされたTシャツから絵葉書などが売り出されている。前法王の人気にあやかって――といったところだろう。

オーストリアの「反原発史」

 当方はオーストリア政府の反原発政策を揶揄したり、批判する気は毛頭ないことを先ず確認しておきたい。チェルノブイリ原発事故の影響を受け、その恐ろしさを体験した国だ。それだけではない。国境線に囲まれた旧東欧諸国には依然、旧式原子炉が操業している。チェルノブイリ原発のような大事故がいつ起きても不思議ではない。これがオーストリア政府と国民の偽りのない懸念だろう。だから、欧州諸国の中でも反原発の声が一段と高いのも止む得ないとことだろう。
 問題は、同国の反原発政策がチェルノブイリ原発事故(1986年)が契機となって生まれてきたわけではないという点だ。
 ここでツヴェンテンドルフ原子炉の操業開始を問う国民投票(「30年前の後遺症」(2008年11月7日参照)について再度、紹介しなければならない。オーストリアの二ーダーエスタライヒ州のドナウ河沿いの村、ツヴェンテンドルフで同国初の原子炉(沸騰水型)が建設された、同原子炉の操業開始段階になると、国民の間から反対の声が出てきたため、当時のクライスキー政権は1978年11月5日、国民投票を実施することを決定した。同政権は国民投票を実施しても原子炉の操業支持派が勝つと信じていたが、約3万票の差で反対派(50・47%)が勝利したのだ、その結果、総工費約3億8000万ユーロを投資して完成した原子炉は博物館入りとなったのだ。クライスキー政権にとって、国民投票の結果は文字通り、“青天の霹靂”だったといわれている。
 この結果、“ツヴェンテンドルフの後遺症”と呼ばれる現象が出てきた。すなわち、原発問題をもはや冷静に議論することなく、オーストリアは反原発路線を「国是」としてこれまで突っ走てきたのだ。アルプスの小国は「反原発法」を施行し、欧州の反原発運動の主要拠点となっていった。そして福島原発の事故が明らかになると、同国のベルラコビッチ環境相は3月13日、欧州全域の原子力発電所の耐震性に関する「ストレステスト」を提案するなど、同国はここでも反原発運動の先頭を切ったばかりだ。
 同国はアルプスの山々の豊かな水源を利用できるが、水力や火力ではエネルギー需要を完全にはカバーできないので、他国からエネルギーを輸入している。年々、その輸入量は拡大してきている。にもかかわらず、同国は頑固に反原発国に留まっているのだ。だから、社会学者から“ツヴェンテンドルフの後遺症”と指摘される所以だ。

tkachuk
アナトリー・トカチュク氏の新著「自分はチェルノブイリの石棺の中にいた。副題・生存者の報告」(Ich war im Sarkophag von Tschernobyl, Der Bericht des Ueberlebenden)


 チェルノブイリ原発事故の8カ月後、コンクリート製のシェルターの中に入って検査した一人、アナトリー・トカチュク氏は19日、ウィーンで自著の発表記者会見を開いたが、そこで「自分は代替エネルギーが見つかるまでは、今後も原子力エネルギーの平和利用を促進すべきだと考えている」と述べた。すると、オーストリア人の環境保護活動家が「チェルノブイリ原発事故を体験したあなたからそのような発言を聞くとは考えてもいなかった」と驚きを表していた。
 歴史的出来事から何を教訓として学ぶかは、個々の立場、その民族性や社会的背景などで当然異なってくる。オーストリア国民はツヴェンテンドルフの後遺症から「反原発」を教訓としたが、チェルノブイリ原発事故体験したトカチュク氏は「原子力の安全性の重要性」を教訓として学んでいったわけだ。
 なお、オーストリアは「EURATOM」(欧州原子力共同体)の加盟国であり、ウィーン市には核エネルギーの平和利用促進を目標とする国際原子力機関(IAEA)の本部がある。一見矛盾するようだが、同国の反原発路線は当分、揺れることがないだろう。福島原発事故はオーストリア国民を一層、反原発に駆り立てているからだ。

バチカンの「新情報政策」の狙い

 ローマ法王べネディクト16世は来月4日、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する2人のイタリア人宇宙飛行士に激励などのメッセージを送るという。バチカン日刊紙オッセルパトーレ・ロマーノが23日、報じた。同紙によると、2人の宇宙飛行士は今月29日、米スペースシャトル「エンデバー」に乗り込み、ISSに滞在する。そこで法王と衛星放送を通じて言葉を交わすわけだ。
 それにしても、ドイツ人のべネディクト16世は今月16日に84歳を迎えたが、高齢法王とは思えないほど、その活動範囲を広げてきた。聖金曜日の22日、国営イタリア放送協会(RAI)の番組に出演し、視聴者の質問や疑問に答えたばかりだ。ローマ法王が視聴者から寄せられた7つの質問に直接答えるということで、大きな話題となった。もちろん、初めての試みだった。
 それだけではない。故ヨハネ・パウロ2世(在位1978年〜2005年)の列福式(福者)の翌日(2日)、今度はバチカン内で国際ブロガー(Blogger)会議が開催されるのだ。150人のキリスト教系ブロガーが招待されて、神のメッセンジャーとしてブログの役割などを話し合う予定だ(バチカンがブロガー会議の開催を通達すると、世界から700人以上のブロガーが会議参加を申し込んできた。その反響の大きさにバチカン関係者もビックリしたという)。
 一連のバチカンと法王の動きをみていると、「バチカンは話題作りに腐心しているな」といった印象を払拭できない。肯定的にいえば、「バチカンは情報発信に積極的となってきた」といえるが、それだけであろうか。
 バチカンは2007年頃からIT通信技術を駆使して積極的な宣教活動を進めてきたことは良く知られている。他の宗派でも「バチカンに倣え」という声が出てきている。ベネディクト16世は「インターネットは教会の世界的活動を紹介するために新しい可能性を開く」と指摘、ニュー・メディアへの期待を表明している。
 しかし、法王が期待するニュー・メデイアは教会を崩壊に導く破壊力をも有している。そのことをバチカンの法王も昨年、痛感したはずだ。欧州各地のカトリック教会で昨年、聖職者の未成年者への性的虐待が発覚し、カトリック教会は信頼を喪失し、大量の信者たちは教会から脱会していった。その教会の犯罪に対して批判の先頭を走ったのがニュー・メデイアだったのだ。その結果、聖職者の性犯罪の犠牲者への賠償金支払いのため、破産に追い込まれる教会も出てきた有様だ。
 バチカンがここにきて話題作りに腐心し、情報発信に積極的となってきた背景には、聖職者の性犯罪問題で失われた教会のイメージの回復が目的ではないだろうか。
 宇宙飛行士と会話し、7歳の女の子の質問に答え、ブロガーを集めてリベラルな世界にエールを送る――。この一連の情報発信はバチカンの新しい情報政策とみて間違いないだろう。

「不可視の世界」との付き合い方

 放射線は肉眼では見えない。不可視な存在だ。そのため時には混乱や恐怖、過剰な反応が起きる。
 不可視の存在は放射線だけではない。分子、原子、素粒子といった物理学の世界以外でも多くが不可視だ。われわれが生きている世界では、不可視の存在のほうが可視の存在よりも数倍多いだろう。換言すれば、肉眼で可視できる対象は非常に限られているといえるわけだ。
 例えば、人類歴史は久しく「死後の世界は存在するか」「神は存在するか」などを考え続けてきた。
 当方は「心霊現象と科学者たち」(2007年7月9日)」の中で、米国プラグマティズムの創設者ウィリアム・ジェイムズを中心に、イギリス功利主義哲学パイオニア、ヘンリー・シジウィック、進化論の生みの親・イギリスの博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレス、ノーベル生理学・医学賞受賞者シャルル・リシェら第一線の科学者たちが霊的現象や「死後の世界」の存在について追求していった話を紹介したことがある。
 われわれは周囲に不可視な存在を予感し、それを可視化するため努力してきた。そして原子、分子、素粒子まで、可視化の対象を広げていった。同時に、可視化できる器材や方法が発見されてきた。科学の発展史は、「不可視の世界」を次第に可視できるようにしていったプロセスといってもいいわけだ。
 電子顕微鏡が登場し、素粒子などがその姿を現した。放射線の場合、放射能測定器の登場でその存在をキャッチできるようになった。福島原発の危機以来、多くの人々は放射能測定器を購入するために飛び出した。
 不可視の代表「神」はどうだろうか。神は自身の存在を可視化しないが、認識できると示唆している。新約聖書の「ローマ人への手紙」を読むと、神の性質やそのあり方は創造した自然世界の中に表示されているという。だから、神が創造した世界を詳細に観察すれば「神」の性質などが分るというのだ。聖パウロは「人は神はいないと弁明できない」と釘を刺す。それでも、「神は死んだ」と主張する人々が絶えないどころか、増えてきている。
 いずれにしても、「霊」の存在であろうが、放射線であろうが、「可視の世界」に生きるわれわれは「不可視の世界」との付き合い方を学ばなければならない。見えないがゆえに、理由なき不安や恐怖、偏見などが付きまとうからだ。そして、「不可視」の存在には不可視であるべき理由が必ずあるはずだ、と考えて間違いないだろう。
 考えてみてほしい。放射線が可視できれば大変だ。無数の放射線が周囲を取り巻いていることに気づき、洞窟の穴に逃げていく以外に生きていけなくなる。「神」が見えたどうだろうか。これまた大変だ。神の遍在性は消滅し、神がA君と会っている時、B君は待たなければならなくなる。神が不可視な存在であり、自由に偏在できるがゆえに、A君もB君も同時に神に出会うことができるわけだ。心霊現象と科学者たち

「法王さま、私の質問に答えて」

 「イエスさまは人々の苦しみをどのように感じておられたのだろうか」
 7歳の女の子がローマ法王ベネディクト16世に質問した。日本人のお母さんとイタリア人の父親から生まれた女の子エレナは日本で大震災を体験した。
 国営イタリア放送協会(RAI)は22日の聖金曜日午後、ローマ法王ベネディクト16世が出演し、視聴者の質問や疑問に答える番組「A sua immagine」を放映した。番組は生放送ではなく、前もって視聴者から質問を募集し、イエスが十字架に受難した聖金曜日に法王が質問に答えることになっていた。
 エレナはどうして大地震が襲い、それに伴う津波で2万人以上の人が犠牲となったのか、理解できない。彼女は神を信じている子だろう。「神は愛です」と両親や教会の神父さんからいつも教えてもらったきたはずだ。
 当方の推測だが、「愛の神さまがどうして多数の人々が苦しむのを黙ってみておられるのか」「神さま何を考えておられるのだろうか」等、エレナは多くの大人たちに聞いてきたはずだ。
 両親や神父さんにも尋ねたはずだ。それでも分らなかったから、法王さまに聞いてみようとなったのだろう。エレナの質問は至極当然だ。エレナだけではない。ひょっとしたら、多くの人々が同じ問いを心の中で感じているかもしれない。
 石原慎太郎東京都知事は「我欲を流す為の天罰だ」と語ったが、7歳のエレナは「どうして人は苦しまなければならないのだろうか」と、幼いなりに考えてきたのだろう。
 ベネディクト16世は「エレナ、自分も同じ質問をしたいと感じている」と述べ、「われわれはその答えを知らないが、イエスやイエスの中におられる神は苦しむ人々の側にいつもおられることを知っている」と語った。その上で、「大震災と津波を受けた日本人もある日、どうしてそのような苦難が生じたのかを理解できるようになるだろう。その痛みは価値ある苦難だ」と述べた。法王の答えでエレナの悩みが解決したかどうか、当方には分からない。
 聖金曜日(22日)はイエスが十字架上で亡くなられた日だ。イエスは3日目に復活し、ばらばらになった弟子たちを呼び集めるために出て行く。復活祭はキリスト教最大の祝日だ。今年は西方教会も東方教会も24日に祝う。

北、12年にウラン核実験?

 国際原子力機関(IAEA)の査察官は当方とのインタビューに応じ、「北朝鮮が3回目の核実験を実施するとすれば、ウラン核実験となるはずだ。具体的には、濃縮関連活動開始から十分な濃縮ウランが製造される2012年頃となるだろう」と予想した。
 同査察官によれば、寧辺の核燃料棒は取り外されているから、プルトニウムを新たに製造できない。その上、核燃料棒も一部破損されるなど、劣悪な状況にある。2回の核実験実施で製造済みプルトニウム量は少ない。だから、3回目のプルトニウム核実験は難しいから、次回の核実験はウラン核実験となるという。
 北は昨年、訪朝した米科学者たちに濃縮ウラン活動を視察させたが、あれから2年後の12年には遅くとも核実験に必要な高濃縮ウランが入手できるという計算だ。
 ちなみに、米国の核専門家ジグフリード・ヘッカー博士(スタンフォード大国際安保協力センター所長)は昨年11月訪朝し、北朝鮮でウラン濃縮施設を視察し、「遠心分離機は近代的な制御室を通じて統制されていた」と驚きをもって報告している.
 IAEA査察官によると、「北の核関連施設が集中している同国平安北道寧辺の軽水炉建設敷地から九龍江を超えると核燃料製造工場がある。同工場を通過すると、北のウラン濃縮関連施設が見える。同施設は長さ約130m、幅約25m、高さ約12mの細長い施設だ」という。
 IAEA査察官は一昨年4月まで週1回は査察してきた施設だ。北のウラン濃縮施設は40余りある核関連施設の一つで、「4号ビル」と呼ばれている。ヘッカー博士の説明では建物は2階で、各階に1000基の遠心分離機が設置されるというから合計2000基の遠心分離が設置予定となる」(IAEA査察官)。
 なお、韓国の元世勳(ウォン・セフン)国家情報院長は19日、「北は何時でも核実験できる状況だが、当面は実施しないと予想される」と報告している。
 北朝鮮がパキスタンの原爆の父、カーン博士からウラン濃縮関連技術を入手したことは知られている。北朝鮮のウラン濃縮関連技術を侮ってはならないだろう。
 北朝鮮の核実験の爆発規模は1回目(2006年10月)が1キロトン以下であり、第2回目(09年5月)は最大5キロトンだった。いずれも広島に投下された原爆の爆発規模より小さい。だから、核保有国入りを目指す北は次回、大規模な爆発をもたらす核実験を実施する必要があるわけだ。
 12年は北朝鮮にとって故金日成主席生誕100年目であり、「強盛大国」を実現する歴史的な年だ。同時に、金正日労働党総書記の後継者、金正恩氏が政治の表舞台に出る時期にもなる。第3回目のウラン核実験は金正恩氏の功績と宣伝されるはずだから、失敗は許されない。

「原発事故」の情報公開の前提

 国際原子力機関(IAEA)は加盟国との間で核保障措置協定(セーフガード)を締結し、それに基づき原発の安全性や核査察協定の履行状況をチェックするが、IAEA査察官がどの国でも査察を履行できる、というわけではない。例えば、ロシア出身の査察官は日本の原発の査察を担当しない。というより、日本側がロシア人査察官の査察を歓迎しない。ロシア側に日本の先端の原発情報が流れることを恐れるからだ。日本だけではない。インド出身の査察官はパキスタンの原発の査察には同行しない。別の出身国の査察官が行く。国の政治情勢や機密保持問題が深く関わってくるからだ。規則というより、不文律のルール、といったほうがいいだろう。原発はその国の科学技術の総結集といわれる。だから、敵国や政治的に対立している国の査察官は歓迎されないわけだ。
 東日本大震災の時、米国を含む多数の国が支援を申し出た時、日本側の反応は消極的だったといわれる。菅直人首相は「日本は自国で被害に対応できる」と説明し、外国からの支援を断ったために、後日、批判に晒された。
 首相の発言を擁護するわけではないが、原発の場合、外国の関与を避けようとするのはある意味で当然だろう。管首相が被害状況を過小評価していたこともあるが、支援を断った背景には、「原発の機密」を守るという国としての基本方針があったはずだ。
 古い例だが、旧ソ連のキシュテム(Kyshtym)で核事故(1957年)が起きたことがある。原子炉の発電プロセスではなく、軍用原子炉の使用済み核燃料の再処理施設(軍用プルトニウム生産)で爆発事故が起きたのだ。膨大な放射線(ストロンチウム90やセシウム137)が広大な地域に飛散した。国際原子力事象評価尺度(INES)」の暫定評価によれば、「レベル6」だ。チェルノブイリ原発事故とスリーマイル島原発事故の中間に位置する「深刻な事故」だ。
 旧ソ連政府は当時、軍用原子炉施設の事故を公表せず、久しく隠してきた。IAEAが事故の報告を受けたのは、事故発生32年後の1989年だったという。
 発電用原子炉ではなく、軍用原子炉の場合、機密保護は一層、厳格だ。軍用核施設の事故は米国でも発生している。旧ソ連や米国は当時(冷戦時代)、軍用プルトニウム生産していたから、情報の公開は元々考えられなかったわけだ。
 ところで、チェルノブイリ原発事故8カ月後、コンクリート製のシェルターの中に入って検査した一人、アナトリー・トカチュク氏は19日、ウィーンで自著「自分はチェルノブイリのシェルターの中にいた。副題・生存者の報告」(Ich war im Sarkophag von Tschernobyl, Der Bericht des Ueberlebenden)の発表記者会見を開いた。
 そこで同氏は、米ロ両国が今年2月、新戦略兵器削減条約(新START)を発効させたことで双方が相手国の軍事施設を視察できるようになった点に言及し、「冷戦時代には考えられなかったことだ。相互信頼を回復する重要な一歩だ。原発の情報公開にも相互信頼が前提条件となる」と強調した。
 換言すれば、原発事故の場合も相互信頼関係がなければ情報の公開も難しいわけだ。福島原発事故でも情報の早急な公開を求める声が強いが、「政府と国民」間の信頼関係、「自国と他国」の信頼関係が情報の公開の前提条件となるわけだ。
 なお、トカチュク氏は記者会見の最後に、「自分は世界で最初に宇宙飛行したユーリイ・ガガーリン大佐の娘さんに、大佐が宇宙飛行を終えて家庭に戻った時、最初に何を語ったかを聞いたことがある。すると、娘さんは「父(大佐)は『地球が余りにも小さく、壊れやすい星だ、という印象を受けた』と教えてくれたという。人間は科学技術を発展させたが、同時に、地球の資源や環境を汚染してきた。地球は壊れやすい。原発事故はそのことを端的に示している」と指摘、「われわれ人間の唯一の母国、地球を大切にしてほしい」と語った。
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