ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

2011年01月

北朝鮮にとって「対話」とは何か

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信社(KCNA)の記事(英語版)に目を通すのは当方の日課となっているが、今年に入って「Dialog」(対話)、「Talks」(会談)といった言葉が目に付く。
 北の政情を知らない人がKCNAの記事を初めて読めば、「北朝鮮ってなんと平和を愛する国だろう」というイメージを持つかもしれないが、韓国哨戒艦「天安」爆破事件や韓国・延坪島砲撃が北軍の仕業だと知っている多くの人々は、「北朝鮮の得意な対話攻勢だ」と見破ってしまうのに余り時間はかからないだろう。それにしても、北朝鮮は目下、「対話」を自国の困難を突破する“キーワード”として頻繁に使用している。
 北当局が本当に「対話」信奉者だとすれば、どうして韓国哨戒艦「天安」爆破事件や韓国・延坪島砲撃を行ったのだろうか。そんなことをいっても仕方がないが、北朝鮮の言動は「言行不一致」の典型的な実例だ。それも今始まったことではない。
 ここで注意しなければならない点は、北が使用する「対話」は不利益な状況が生じ、国際社会から一層孤立化した直後に使用する言葉だ、ということだ。すなわち、北にとって「対話」は「事後処理のための手段」であって、決して「紛争解決の手段」ではないということだ。
 換言すれば、「対話」を通じて紛争を解決するのではなく、紛争後生じた困難な状況を緩和し、修正するための手段といえるわけだ。だから、北との対話で問題が解決できると信じる人は遅かれ早かれ失望を余儀なくされる。
 KCNAは8日以降、連日、韓国に北朝鮮の対話提案を受け入れるべきだという趣旨の記事を掲載している。その場合、北当局が対話を要求するという形式だけではなく、海外の北朝鮮友好協会関係者の主張といった形式が多い。
 KCNAの報道は昔から巧妙だ。あたかも、韓国以外の世界の国は北朝鮮の主張を支持している、といった報道姿勢だ(客観報道といった言論倫理はKCNA記者たちには通じない)。
 韓国統一省は6日、北朝鮮が同国との無条件対話を要求したことについて、「プロパガンダだ」と一蹴したが、ここでは北が「対話攻勢」で何を達成したいか、を考えてみたい。
 先述したように、北の対話はあくまでも「事後処理のため」にある。それでは「どのような事後の処置か」だ。明らかなことは、韓国哨戒艦「天安」爆破事件や韓国・延坪島砲撃、その結果生じた南北間の緊迫した関係の「事後処理」だろう。
 次に、「対話」がどうして必要かだ。南北関係の険悪化によって、韓国から食糧支援や物品支援が途絶えたからだ。米国が要求しているような「朝鮮半島の非核化」といった安全問題を協議するために「対話」が飛び出してきたのではない。ましてや、「天安」爆破事件や韓国・延坪島砲撃事件に対する謝罪のためでもない。
 「対話」という言葉が北のメディアで頻繁に使用され出したら、「北当局は窮地に陥っている」と受け取って大きな間違いはないはずだ。

政府主催新年会に参加した北大使

 ウィーンのホフブルク宮殿で19日午前、オーストリア連邦政府主催の新年会が開催された。フィッシャー大統領、ファイマン首相、プレル副首相兼財務相、閣僚たち、国会議員、州議会議員、宗教指導者、外交官、実業家ら約400人が招待された。当方も連邦報道局から招待されたので久しぶりに宮殿に足を運んだ。
 新年会では先ず、プレル副首相(財務相兼任)が挨拶し、次にファイマン首相が挨拶した。両者の挨拶は正味30分余り。両者の話を聞いていると、オーストリアの政情が理解できる。両者とも現在の政治テーマである「教育改革」と「国防改革」に言及していた。ファイマン首相は社会民主党の立場から、プレル副首相は国民党の観点から、それぞれ相手政党の政策をチクッと批判することも忘れなかった。
 興味深い点は、両首脳とも頻繁に「gemeinsam」(連帯して)という言葉を使っていたことだ。「連帯して困難を克服し、わが国の発展のために努力していきたい」という。いずれにしても、「連帯して」という言葉が頻繁に飛び出すということは、社民党と国民党2大政党政権が「連帯していない」という証拠かもしれない(実際、2大政党は政権内で絶えず対立を繰り返している)。
 政府首脳の挨拶が終わると、多くのゲストたちはサンドウィッチやケーキ、飲み物を楽しみながら知人たちと挨拶を交し合っていた。
 ところで、ジャーナリストは現場に足を運ぶことが大切だ。「犬も歩けば棒に当たる」ではないが、当方も新年会の会場で駐オーストリアの金光燮・北朝鮮大使(金正日労働党総書記の義弟)の姿を見つけたのだ。予想もしていなかったことだ。金大使は会場でフィッシャー大統領に金正日労働党総書記からの挨拶を口頭で伝達した後、出口に向かってきた。そこで早速、大使に近づいた。

 以下、金大使とのショート会話の内容だ。

 ――大使、久しぶりです。大使を掴まえるのは難しいですね。申し訳ありませんが、ここで2、3質問していいですか。
 「きみは何を知りたいのかね」
 ――北朝鮮では昨年9月末、後継者が決定し、新しい指導体制がスタートしましたが、新指導体制をどのように評価されますか。
 「きみ、新指導体制というが、指導体制には何も変化はないよ。金総書記のもとでわが国は統治されている」
 ――しかし、金総書記の健康悪化、金正恩氏の後継者公式化など新しい動きが出ていますね。
 「金総書記は健康だ。現場を視察し、わが国を指導している。金総書記の統治に何も変化はないし、わが国の目標にも変化はない」
 ――大使は金総書記が健康だといわれましたが、金正恩氏の後継者公式化は金総書記後の「体制つくり」と受け取っていい訳ですよね。
 「もちろん、新しい世代が将来、わが国の統治を責任もつことは当然だが、現在は何も変っていない」
 ――「3代世襲という批判の声もあります。
 「そのような批判は当たっていない」 
 ――北の内閣が先日、「国家経済開発10カ年計画」を採択したが、2012年の「強盛大国」実現の目標に修正でもあったのですか。
 「わが国の目標に変化はない。『強盛大国』の実現はそのままだ」
 ――ところで、人民軍の台頭が度々伝えられてきます。
 「メディアが報道しているだけだ。軍はわが国では金総書記と党の主管下にある。軍が独り歩きすることは絶対に考えられないことだ。軍のクーデターは有り得ない話だよ」

 金大使は当方とのショート会話を終わると、英雄広場で待機中の車に乗るため、急ぎ足で会場を出て行った。

 当方も金大使の後姿を追いながら、国連の記者室に戻るため、ホフブルク宮殿を後にした。

大統領の高給取りガードマンたち

 カザフスタンは豊富な原油・天然ガスなどの地下資源に恵まれている。旧ソ連邦解体後、その地下資源を背景に経済成長を遂げてきた。同国は中央アジア諸国では最も経済発展してきた国だろう。
 その一方、ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領(70)は1991年12月に大統領に就任して以来、07年には3選禁止を初代大統領に限り、適応しないなどの憲法改正を実施し、長期政権を維持するなど、独裁的政権の様相を深めてきている。同大統領は昨年、「国民の指導者」という称号を得ている。
 同国議会(上下院)は今月14日、大統領の任期を2020年まで延長するかを問う国民投票の実施を可決したばかりだ。ナザルバエフ大統領は終身大統領のポストを密かに狙っているわけだ。
 ナザルバエフ大統領の政治手腕に対して西側からあまり批判の声が挙がらなかったが、ここにきて欧州連合(EU)が「任期延長は民主主義に反する」という声明を発表する一方、米国もカザフの民主化の後退に憂慮を発表している。しかし、その声は決して大きくない。
 カザフ大統領の独裁政権に対する批判の声があまり高まらない背景には、米国を含む西側企業が資源大国の同国に積極的に投資するなど、経済関係を深めているからだろう、と考えられる。
 しかし、どうやそれだけではないようだ。西側諸国の元首相級やEU元委員長クラスがナザルバエフ大統領のアドバイサーとして顧問ポストを占めているのだ。具体的には、ドイツのゲアハルト・シュレーダー元首相、オーストリアのアルフレッド・グーゼンバウアー前首相、ポーランドのアレクサンデル・クワシニエフスキ元大統領、それにEUのロマーノ・プローディ元委員長といった顔ぶれだ(オーストリア日刊紙エストライヒ1月14日)。
 大統領の顧問職の内容は一応、「国際政治への助言」といわれているが、高給な顧問代の割にはその具体的な職務は不明だ。
 カザフ大統領は何の目的で高給を払ってまで著名な西側政治家たちを雇うのだろうか、といった素朴な疑問が湧く。
 「カザフが(独裁政治や人権問題などで)欧米から批判を受けた時、元首相、EU委員長らがその人脈を駆使して助け舟を出し、大統領を擁護するためではないか。その意味で、カザフ大統領は敏腕な弁護士を多数抱えている裕福な実業家と同じだ」という意見もある。
 口の悪い人ならば、大統領の高給取り顧問たちを「金で雇われたガードマンたち」と揶揄するかもしれない。

日本カトリック教会の“悩み”

 バチカン放送(独語電子版)で日本のローマ・カトリック教会の動向が伝えられることはほとんどない。信者数が人口の1%にも満たない日本のカトリック教会の動向などはニュース・バリューがないからだろう。
 当方が記憶する限りでは、バチカン放送が日本教会のことを報じたのは、2008年9月、カトリック教信者、麻生太郎氏が首相に任命された時だ。「日本で初のカトリック教徒の首相が誕生した」と、かなり興奮気味に報じていたことを思い出す。その他、日本のカトリック教会最高指導者、白柳誠一枢機卿が09年12月28日、長い闘病生活後、心筋梗塞で死去した時ぐらいだ。
 あれから、日本の政情の変化を含め、東京発のニュースがバチカン放送で流れたことはなかった。ところが、バチカン放送が14日、日本の教会のことを報じたのだ。
 その記事に目をやると、「日本の教会、『新求道の道』と問題」というタイトルでかなり大きく報じている。日本のカトリック教会の事情を知らない人には「何事が起きたのか」と首を傾げるだろう。
 「新求道の道」(Neo-catechmenate)は1964年、スペインのキコ・アルグエイオ氏が始めた教会刷新運動で、聖書の内容をその通り実践するなど、聖書解釈では原理主義的傾向が強い。洗礼志願者に対しては、受洗するまでの求道期間、初代教会のような共同体の教育を実践する。また、信者は収入の10分の1を献金しなければならない。
 世界には1万を越える「新求道の道」共同体があり、固有の神学校も設立している。“カトリック教会内のセクト”と久しく呼ばれてきた。「新求道の道」は1990年以来、日本にも定着している。
 その「新求道の道」との関係で日本のカトリック教会は悩んでいるというのだ。バチカン放送によると、大阪大司教区の教区長、レオ池永潤大司教はカトリック新聞で「日本のカトリック教会は霊的な共同体、『新求道の道』との間で問題を抱えている。その共同体の霊的な言動が教会に混乱、対立、分裂、カオスを生み出している」というのだ。
 その上、「日本カトリック教会司教会議もその運動によってもたらされる損害を無視することはできなくなった」というからには、状況はかなり深刻なわけだ。換言すれば、「新求道の道」共同体独自の言動や教えが小教区内の統合を脅かしている、というわけだ。
 バチカン放送によると、日本司教会議は昨年12月、ローマ法王べネディクト16世に「新求道の道」の活動を5年間、停止して欲しいと要請したが、同16世は日本教会の懇願を拒否する一方、現場の状況を理解するために視察団を日本に派遣する意向という。ちなみに、バチカンは2005年、「新求道の道」メンバーに対しては「その国の小教区と統合するように」と要請している。
 欧州に居住している当方は日本カトリック教会内の事情を良く知らない。だから、教会側の主張の是非については見解を控えるが、カトリック教会内でさまざまな霊的な刷新運動が生まれてきていること、それに対し、カトリック教会(司教会議)側が対立するケースは欧州教会でも良く見られる現象だ。

北の核実験に備え、観測体制完了

 ジュネーブの軍縮会議で採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)は1996年9月の国連総会で署名を開始して今年9月で15年目を迎える。祝賀会でも開催したいところだが、条約はまだ発効していないのだ。
 ノーベル委員会はオバマ米大統領の「核兵器なき世界の実現」発言に感動し、2009年度平和賞を同大統領に与えたが、同じく同発言に鼓舞されたCTBTの発効の見通しは今年、昨年以上に厳しい雲行きなのだ。
 CTBT署名国数は現在、182カ国だが、条約発効に署名・批准が不可欠の、研究用、発電用の原子炉を保有する国44カ国の内、依然9カ国が署名・批准を終えていない。オバマ大統領の米国を筆頭に、中国、インドネシア、パキスタン、インド、エジプト、イラン、イスラエル、そして北朝鮮の9カ国だ。
 条約14条を堅持する限り、上記の9カ国が署名・批准を完了しないと条約は発効しない。世界情勢に少しでも精通している人なら、「条約発効の見通しは厳しい」という判断に頷かれるだろう。
 オバマ大統領のプラハ演説(09年4月)、核拡散防止条約(NPT)再検討会議の開催(10年5月)などの追い風を受けた昨年、CTBTの早期発効の気運は非常に高まったが、今年はそのようなビック・イベントも期待できず、米国の批准の見通しは一層難しくなると予想されるのだ(米国は96年9月24日、署名完了したが、クリントン政権下の99年10月、米上院本会議が批准を否決した)。
 ここでは、オバマ大統領の議会工作が成功して米国が批准が完了した場合を考えてみる。米国の批准を見守ってきた中国が批准に動くだろう。インドネシアは9カ国の中でも批准に最も近い国だ。最大のイスラム教徒人口を誇るインドネシアの批准を受け、エジプト、イランが批准に傾き、そのプロセスでイスラエルも批准を強いられるかもしれない。インドとパキスタンは既に準オブザーバー国としてCTBT主催の会議には参加してきた。一方が批准すれば他方も批准に応じるだろう。
 上記の8カ国は、「米国の批准」や「敵対国の動向」に密接にリンクしている。例外は、国際社会から孤立している独裁国家・北朝鮮だ。
 人民軍が核実験の道を閉ざすCTBT条約の署名・批准を受け入れるだろうか。金正日労働党総書記の健康悪化、後継者・金正恩氏の経験不足などがあって、人民軍の意向に真っ向から反対できる指導者は平壌には目下、見当たらない。残念ながら、北朝鮮がCTBT条約の発効を人質にする可能性が考えられるのだ。
 ちなみに、ウィーンのCTBT機構報道部によれば、北の3回目の核実験に備え、地震観測網の他、放射性ガス(希ガス)をキャッチするため、26個所の放射性ガス観測施設網が世界に張り巡らされているという。

「クリスチャンフォビア」

 エジプト地中海沿岸の都市アレキサンドリアで今月1日、礼拝中のキリスト教徒(コプト派)を狙ったテロ襲撃事件が発生し、21人が死亡し、イラクでは少数宗派のキリスト教徒がシーア派イスラム教徒らの弾圧を恐れて国外へ逃避するなど、イスラム教を主要宗派とするアラブ・イスラム教圏でキリスト信者への迫害が大きな問題となってきた。
 宗教学者は「キリスト教徒迫害時代の到来」と呼び、キリスト教文化圏の欧州諸国だけではなく、「イスラム教圏でもクリスチャンフォビア(Christianophobia、キリスト教徒嫌悪)が拡大してきた」と警告を発している。
 米国内テロ多発事件(2001年9月)以降、イスラム教徒に対するイスラムフォビア(Islamophobia、イスラム教徒嫌悪)現象が欧州の各地で広がり、デンマークの保守系有力新聞「ユランズ・ポステン」のムハンマド風刺イラストが契機となって、イスラム教徒が反発、各地で衝突が多発したことはまだ記憶に新しい。
 ドイツ、スイス、オーストリアではイスラム寺院やミナレット建設問題が社会問題となる一方、イスラム教移住者の社会統合問題が大きな政治テーマとなっている。
 ここにきて「イスラムフォビア」ではなく、「クリスチャンフォビア」とも呼ばれる社会現象が表面化してきたのだ(社会学者が同用語を学会で初めて使用したのは2004年12月以降だ)。「クリスチャンフォビア」は「イスラムフォビア」と同様、キリスト教徒への非合理的な恐怖感、嫌悪感、偏見、不法な差別などを意味する。
 「世界の到るところでキリスト信者たちが迫害されているが、欧州人はそれを無視している。宗教的理由で殺害される人の80%はキリスト者だ」
 著名なジャーナリストでカトリック信者のポール・シュールマイスター氏はこのように指摘している。
 同氏は「キリスト信者の迫害といえば、欧州人はローマ帝国時代のキリスト者迫害を想起するが、われわれが生きている現代、新たな無神論勢力が力を得、キリスト者たちを弾圧する一方、イスラム教国ではキリスト者が逃避している。イラクだけではなく、パキスタンでも多くのキリスト信者たちが国外に逃げている。サウジアラビア、イラン、アフガニスタンではキリスト教に改宗すれば死刑だ。スーダンでは数万人のキリスト者が奴隷として酷使されている。世俗イスラム教国トルコでもキリスト信者や聖職者への襲撃事件が多発している」というのだ。
 ストラスブールの欧州議会は先日、エジプトとマレーシア両国の「少数宗派キリスト者への迫害」を批判し、その改善を要求したばかりだが、エジプト政府は11日、キリスト教徒の保護を訴えたローマ法王べネディクト16世のメッセージに対し「内政干渉」と批判し、駐バチカン大使を召還するなど、バチカンとの関係は険悪化している。
 「イスラムフォビア」や「クリスチャンフォビア」を克服するためにはどうすればいいのだろうか。両宗派の指導者会談、宗教者会議は過去、何度も開催されてきたが、問題は残されたままだ。
 ところで、ユダヤ教を含みキリスト教、イスラム教の3宗派はいずれも「信仰の祖」アブラハムから発生した宗教だ。すなわち、兄弟宗教だ。兄弟喧嘩を抑えることができるのは兄でも弟でもなく、やはり父母の役割だ。「父母の立場にたつ新しい宗教の出現が求められる」という主張はその意味で非常に論理的な見解だ。

前法王の列福式、5月1日に

 “空飛ぶ法王”と呼ばれ、世界から愛された故ヨハネ・パウロ2世(在位1978年〜2005年)の列福式(福者)が今年5月1日に実施される予定だ。
 それに先立ち、バチカン法王庁内の列聖省関係者は11日、「ヨハネ・パウロ2世の列副にもはや困難はなくなった」と表明している。
 ベネディクト16世は、2005年5月13日にヨハネ・パウロ2世の列福調査の準備を始め、翌月28日に調査を開始した。通常、列福調査の開始は死後5年が経過していなければならない。故ヨハネ・パウロ2世の場合は特例だった。
 07年4月2日、出身教会のポーランドのクラクフでの調査が終了し、資料がバチカンの列聖省へ送付された。列聖省によれば、ヨハネ・パウロ2世はその段階で「神のしもべ」(尊者)の位にある。
 ところで、09年に入ると同2世の列副プロセスが停滞した。列副には「奇跡」の証が必要だ。パーキンソン病に悩まされてきたフランス人修道女が「ヨハネ・パウロ2世のことを思って祈っていたら、病が癒された」という「奇跡」を報告したが、「その証は疑わしい」といった声が飛び出してきた。そこで、関連の医事委員会、神学委員会などが調査に乗り出し、結局は「奇跡の証は事実」と認定されたばかりだ。
 「奇跡」の認定が終わると、新たな困難が昨年、生じてきた。当方は「ヨハネ・パウロ2世の『問題』」(10年4月29日)で「パウロ2世は1970年代、80年、90年代に多発した聖職者の性犯罪に対してその事実を隠蔽してきた疑いがある」との報道を紹介した。
 具体的には、、同2世が04年11月、修道会「キリスト軍団」の創設者であり、未成年者へ性的虐待を繰り返してきた疑いがもたれたメキシコ出身のマルシャル・マシエル・デゴラード神父とローマで会見し、祝福した。同神父の性的虐待問題はバチカン側に既に報告されていたが、ヨハネ・パウロ2世は当時、それを無視したというのだ。
 これが事実とすれば、列副どころではなくなる。バチカン関係者は即対応に乗り出し、結局、「ヨハネ・パウロ2世はデゴラード神父の未成年者への性的虐待問題を知らされていなかった」という説明で同2世の隠蔽容疑を一蹴した。
 これでヨハネ・パウロ2世の福者への道は開かれたわけだ。バチカン法王庁によれば、同2世の列福式は今年5月1日、ローマで挙行される。
 なお、前法王ヨハネ・パウロ2世には、「聖人へのプロセス」(列聖)が待っている。

北の金王朝「崩壊の日」が始まった

 ドイツ週刊誌シュピーゲル(電子版)は11日、「北の国境警備兵、脱北者を射殺」というタイトルの記事を掲載した。情報源は韓国の朝鮮日報の記事だが、この記事を読んだドイツ国民は、東西両ドイツ分断時代、旧東ドイツ政権が「ベルリンの壁」をよじ登って西ベルリンに逃げようとした国民に対し、国境警備兵に射殺命令を出したこと、多くの国民が射殺されたが、東ドイツ政権の崩壊を加速させる契機となったこと、などを直ぐに思い出したことであろう。
 すなわち、ドイツ国民はシュピーゲルの記事を読んで、「北朝鮮の崩壊が始まったな」といった感慨を自身の体験から強く感じただろう、ということだ。
 旧東ドイツ政権は当時、「ベルリンの壁」での射殺は、「威嚇射撃に過ぎず、最終手段だった」と弁解してきたが、旧東ドイツ国境警備隊が「ベルリンの壁」を越えようとする逃亡者に対し射殺命令を受けていたことが旧東ドイツ秘密警察のシュタージの文書などで明らかになっている。公式統計では、約270人の国民が「ベルリンの壁」で射殺されている。
 一方、対中国国境を警備する北朝鮮兵士はこれまで脱北者が中国領土に足を踏み入れたら、それ以上追求しなかったし、中国領土に入った北国民に向かって射殺するということはなかった。それが変ったのだ。
 朝鮮日報の11日電子版(日本語)によれば、「中朝国境で中国側に脱出した北朝鮮住民5人が北朝鮮軍により射殺され、2人が重軽傷を負っていたことが9日、明らかになった」「金正日労働党総書記の後継者となった金正恩氏が射殺命令を出した」という。
 金正恩氏の「射殺命令」が北の国民に伝われば、同氏への国民の恨みは一層高まるだろう。今日ですら「金正恩は父親より残虐だ」といった批判の声が国民の中で流れているというのだ。
 韓国では韓国哨戒艦「天安」爆破事件や北軍の韓国・延坪島砲撃などを受け、金正日総書記を国際司法裁判所に提訴する動きが出ているが、金王朝の「崩壊の日」には金総書記ばかりか、金正恩氏も国際司法の場で起訴されることは必至だ。その罪状は「脱北者への射殺命令」だ。

教会脱会者数、戦後最高を記録

 年が明け、暫くすると前年度の統計が公表される。「犯罪統計」から「経済統計」まで、各省庁で関連の統計データーが発表されるからだ。
 オーストリアのローマ・カトリック教会でも11日、前年度教会脱会者数の公式統計が明らかになった。昨年教会から去った信者数は8万7393人だった。前年度の脱会者数は5万3269人だから、64%増を記録したことになる。脱会者数から増加率まで、新記録だ。
 同国教会最高指導者シェーンボルン枢機卿が昨年末、「教会脱会者数はナチス時代以来の最悪を記録するだろう」と予告していたから余り驚かないが、その数は、同国の第3都市リンツ市のほぼ半数の市民が昨年、教会から一斉に脱会したことと匹敵する。
 ちなみに、教会脱会者数の過去4年間の動向を振り返ると、2007年度は3万6858人、08年4万0596人、09度は5万3269人、そして昨年度8万7393人だった。
 オーストリアのカトリック信者数は昨年度末現在で約545万人だ(前年度は553万人)。同国教区の中で脱会者数が最も多かった教区はウィーン司教区で、2万5314人。前年度比(1万6527人)で53・2%増だった。グルク・クラーゲンフルト教区は前年度比で約94%増を記録している。
 昨年度教会脱会者数が急増した主因について、「聖職者による未成年者への性的虐待事件の発覚」が先ず挙げられている。1件、2件ではなく、千件に迫る件数だ。もちろん、オーストリア教会だけではない。ベルギー、ドイツ、アイルランドなど欧州各教会で多数の聖職者の性犯罪が昨年、発覚した。
 シェーンボルン枢機卿は11日の記者会見で「聖職者の性犯罪問題だけが脱会理由ではないだろう。もっと深いところで多くの信者たちが教会に失望してきた結果ではないか」と見ている。すなわち、教会脱会までに長いプロセスがあった、というわけだ。
 同時に、「教会への帰属意識が変ってきた。これまで教会所属は伝統と受け取られてきたが、これからは自身が決定した教会といった帰属意識が強まってくるだろう」と述べている。幼児洗礼を受けて以来、ただ漠然と所属してきた伝統的教会といった帰属意識ではなく、自分が主体的に所属を決定したキリスト教会といった意識への変化というわけだ。
 なお、教会脱会者の急増は教会財政を直撃している。各信者は年、平均100ユーロを教会税として払ってきた。約9万人の脱会者ということは、教会はそれだけで年間約900万ユーロ(約9億8000万円)を失ったことになる。

スーダンと朝鮮半島の「分断」問題

 アフリカ大陸最大の領土を誇るスーダンで9日、南部スーダンの独立を問う住民投票が始まったが、南部スーダンの独立は確実と予想されている。アフリカ大陸の54番目の国家誕生となる。
 米国はキリスト教住民が多数を占める南部スーダンの独立を支援してきたことは周知の事だ。その背後には、原油資源の利権問題があることも明らかだ。それに対し、イスラム系住民が多数を占めるハルツームの北部は南部独立後は米国の政治圧力をかわすために中国へ一層傾斜することが予想される。すなわち、南北スーダンは今後、民族紛争の再発ではなく、米中の資源外交の紛争舞台となる可能性が考えられるわけだ。
 欧米諸国のメディアでは南部スーダンの独立に理解を示す論調が支配的だ。多数を占めるイスラム教国スーダン当局から久しく弾圧や疎外を受けてきた南部住民の立場を考えれば、「北部スーダンから解放され、南部スーダンの独立を獲得することは住民の悲願だ」という主張は十分、理解できる。
 冷戦後、旧ソ連邦に管理されてきた旧東欧諸国が次々と独立していった時、欧米メディアはその独立に喝采を送ったものだ。
 しかし、誤解を恐れずにいえば、新たな「独立国家」の誕生は本当に祝賀すべきことだろうか。
 旧ユーゴスラビア連邦のモンテネグロ共和国が独立し、国連加盟国となった直後、ウィーンの国連でもその国歌掲揚式が行われた。風に揺れる新たな国旗を仰ぎ見ながら、「また一つ、国旗が増えた」といった現実と、「独立国家が増えたことで世界は一歩でも平和に前進しただろうか」といった思いが込み上げてきたことを今でも鮮明に思い出す。
 欧州連合(EU)が「欧州の再統合」に向け拡大を進めている一方、世界では多数の小国家が誕生している。「再統合」と「分割」が同時進行している。もう少し説明すれば、独立した多くの旧東欧諸国や旧ユーゴ連邦諸国は今日、EU加盟国か、その候補国となっている。独立した国家は、新たな統合に参画する道を模索しているわけだ。
 独立国家の誕生は決して即、世界の平和への“朗報”を意味しない、という現実がある。平和な世界の実現のためには、多様性を内包した統合された世界を建設していかなけれなならないはずだ。南部スーダンの独立は、北部スーダンとの再統合も含め、「アフリカの統合プロセス」への一歩と受け取るべきだろう。
 われわれは朝鮮半島の「分断の悲劇」を目撃してきた。北朝鮮と韓国の再統一問題は東アジア地域の平和実現のためには絶対にクリアしなければならない課題となって横たわっている。
 スーダンの南部住民が「独立」を祈願しているように、分断を味わってきた(朝鮮半島の)南北両国国民は今、「再統一」を願っている。
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